説明

塩漬け用キトサン粉末、これを用いた塩漬け物、およびこれを用いて製造したキムチ

【課題】脱アセチル化度および粘度の差異によって規格化された塩漬け用キトサン粉末、これを用いた塩漬け物、およびこれを用いて製造したキムチの提供。
【解決手段】50〜90%の脱アセチル化度および1〜10cPの粘度を持つ水溶性キトサン、60〜100%の脱アセチル化度および8〜80cPの粘度を持つ不溶性キトサン、並びにその食品学的に許容される塩よりなる群から選ばれたいずれか一つまたは一つ以上の組み合わせである、抗菌、抗酸化、抗突然変異および抗癌活性に優れた塩漬け用キトサン粉末を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩漬け用キトサン粉末、これを用いた塩漬け物、およびこれを用いて製造したキムチに関する。
【背景技術】
【0002】
キトサンは、カニ、ザリガニ、甲イカおよび海老の殻に入っているキチンを脱アセチル化して得た物質であって、(+)電荷を持つ動物性食餌繊維である。キトサンの構造は、脱アセチル化度によってN−アセチル−グルコサミン(キチンの単分子)とグルコサミン(キトサンの単分子)との共重合体からなっている。キトサンは、老廃した細胞を活性化させて老化を抑制し、免疫力を強化させて疾病を予防し、生体の自然的な治癒能力を活性化させるうえ、生体リズムを調節するものと知られているが、そのメカニズムは、未だ完全には解明されていない。キトサンの効能としては、抗癌作用、抗菌作用、免疫強化作用、肝機能強化、コレステロール抑制、腸内有効菌増加、有害菌抑制、血圧調節効果、重金属および有害成分吸着排出、血糖値抑制、細胞活性化などが知られている。ところが、キトサンは、様々な生理活性を持つにも拘らず、その分子量が非常に大きく、われわれの身にはこれを分解する酵素が存在しないため、その応用幅が制限され、そのまま摂取した場合には大部分が体に吸収されず体外に排出されるという問題点がある。
【0003】
一般に、甲殻類であるズワイガニ/ベニズワイガニ類は、慶尚北道の清浄海域で生産される代表的な特産物であって、韓国の全国生産量の30%を専有している。キチンおよびキトサンは、生産基準年産1千億トンに達する資源であって、植物が生産するセルロースに匹敵する量である。よって、キトサンは、主に凝集剤として廃水処理に、または土壌改良剤として農業分野に用いられてきたが、近年では、生理的合成洗剤、医薬品、化粧品および食品などに応用されることにより、その適用範囲が拡大されている。ところが、高分子キトサンは、中性pH条件では水に対して不溶性であり、低濃度有機酸溶液に対しては可溶性であるが、渋い味と苦い味が強いので、食品に適用するには多少難しさがあった。また、キトサン製品は、輸入は年間10%ずつ毎年増えているが、国内生産は2003年以後退潮している実情である。
【0004】
一方、キムチは、韓民族固有の伝統発酵食品であって、各種無機質とビタミンの供給源であり、摂取後には腸内の有効細菌の増殖を助ける健康食品として広く知られている。キムチは、大根、白菜および胡瓜などを塩漬けにして唐辛子、大蒜、ねぎ、生姜、塩辛などの薬味を混ぜ合わせた後、乳酸の生成によって熟成されて低温で発酵された製品であって、韓国人の食卓で欠かせないおかずである。キムチを漬けるのは蔬菜を長期間貯蔵するための手段であって、従来ではキムチを長期間貯蔵するために土の中にキムチ壷を埋めてキムチの保存期間を延長してきた。ところが、最近、住居環境の変化によってキムチ壷を土の中に埋められない場合が多く発生し、また、キムチを土の中に貯蔵するとしても、長期間経過すると、熟成したキムチの特有な匂いがする。したがって、キムチの固有な味を維持しながら長期間保存するための研究が盛んに行われている。このような研究の一環として、最近、キムチの天然添加剤としてキトサンを添加する方法が知られている。キトサンは弱酸に溶け、分子内に(+)電荷を持っており、特に抗菌性が高いものと知られているため、天然保存剤として一般食品に多く使われている。
【0005】
キトサンを用いてキムチの保存性を向上させるための先行技術としては、特許文献1および特許文献2の「酸敗遅延改良キムチの製造方法」、特許文献3の「保存性が延長されるキムチの製造方法」、特許文献4の「キトサンおよび鉱物質を含有したキムチの製造方法」、特許文献5の「キトサン含有黄土水性抽出液剤を用いたキムチの製造方法」、および特許文献6の「新鮮草を主材料としたキムチの製造方法」などがある。また、キムチの薬味にキトサンを適用した技術としては、特許文献7の「即席キムチの天然薬味組成物およびその製造方法」、特許文献8の「キチンキトサンキムチ」などがあり、製造したキムチ自体にキトサンを適用した技術としては、特許文献9の「キムチの熟成遅延方法」、特許文献10の「酸敗遅延キムチ製造法」および特許文献11の「キムチ新鮮度維持方法」などがある。
【0006】
前述したようにキムチの保存性を向上させるための研究と、キムチの薬味およびキムチ自体にキトサンを適用した技術などが多様に開発されているが、最適の条件を使用するためにキトサンを規格化し、これをキムチに適用した技術に関する研究および開発は未だ全くない状態である。
【0007】
したがって、規格化したキトサンを用いて特定の食品に対する誂え型キトサンが生産されると、食品保存期間を向上させて食品廃棄物を減少させ、食中毒などを予防して国民健康に寄与することができ、キトサンを添加した機能性キムチを生産して巨大なキムチ市場で競争力を確保することができるものと考えられる。
【特許文献1】韓国特許出願第1999−23848号明細書
【特許文献2】韓国特許出願第1999−23849号明細書
【特許文献3】韓国特許出願第1998−20451号明細書
【特許文献4】韓国特許出願第1999−25417号明細書
【特許文献5】韓国特許出願第2003−26731号明細書
【特許文献6】韓国特許出願第2001−42866号明細書
【特許文献7】韓国特許出願第1994−34463号明細書
【特許文献8】韓国特許出願第1997−24877号明細書
【特許文献9】韓国特許出願第1997−81996号明細書
【特許文献10】韓国特許出願第1996−33362号明細書
【特許文献11】韓国特許出願第1997−66558号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、いろいろの生理活性を持つキトサンを規格化してこれをキムチに適用する研究を行う中で、脱アセチル化度および粘度の差異によるキトサンを規格化し、規格化されたキトサンを用いて製造したキムチがキトサン自体よりさらに優れた抗菌活性、抗酸化活性、抗突然変異効果および抗癌活性を有し、優れた貯蔵安定性および組織感を有することを確認し、本発明を完成した。
【0009】
そこで、本発明は、脱アセチル化度および粘度の差異によって規格化された塩漬け用キトサン粉末、これを用いた塩漬け物、およびこれを用いて製造したキムチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のある観点によれば、50〜90%の脱アセチル化度および1〜10cPの粘度を持つ水溶性キトサン、60〜100%の脱アセチル化度および8〜80cPの粘度を持つ不溶性キトサン、並びにその食品学的に許容される塩よりなる群から選ばれたいずれか一つまたは一つ以上の組み合わせである、抗菌、抗酸化、抗突然変異および抗癌活性に優れた塩漬け用キトサン粉末を提供する。
【0011】
前記水溶性キトサンまたは前記不溶性キトサンは、食品学的に許容される塩の形で使用することができ、塩としては食品学的に許容される遊離酸(free acid)によって形成された酸付加塩が有用である。遊離酸としては無機酸と有機酸を使用することができ、無機酸としては塩酸が好ましく、有機酸としては酢酸、クエン酸および乳酸などが好ましい。
【0012】
前記塩漬け用キトサン粉末は、脱アセチル化度および粘度の異なる12種の水溶性キトサン(S-1〜S-12)と11種の不溶性キトサン(NS-1〜NS-11)に対して抗菌活性、抗酸化活性、抗突然変異効果および抗癌活性に優れた水溶性/不溶性キトサンを選別し、脱アセチル化度と粘度によって規格化したことを特徴とする。前記キトサンの中でも、5種の水溶性キトサン(S-2、S-9、S-10、S-11、S-12)と6種の不溶性キトサン(NS-2、NS-5、NS-8、NS-9、NS-10、NS-11)は食品群別公示菌株に対して優れた抗菌活性を示し、S-7、S-10およびNS-8は優れた抗酸化活性および抗突然変異効果を示し、S-10およびNS-8は優れた抗癌効果を示す。したがって、本発明に係るキトサンは、50〜90%の脱アセチル化度および1〜10cPの粘度を持つ水溶性キトサンと60〜100%の脱アセチル化度および8〜80cPの粘度を持つ不溶性キトサンを選別し、脱アセチル化度と粘度によって規格化する。これらの中でも90%の脱アセチル化度および3cPの粘度を持つ水溶性キトサン(S-10)と、95%の脱アセチル化度および22cPの粘度を持つ不溶性キトサン(NS-8)が、最も優れた抗菌活性、抗酸化活性、抗突然変異効果および抗癌活性を示す。
【0013】
また、本発明は、脱アセチル化度および粘度の差異によって規格化された塩漬け用キトサン粉末を含む塩漬け液を提供する。
【0014】
前記塩漬け液は、キトサン粉末を塩漬け液の総重量に対して0.2〜1.0重量%で含むことが好ましい。もしキトサン粉末が0.2重量%未満であれば、キトサン粉末の含量があまり少なくて塩漬け物の貯蔵性および組織感を改善することが難しく、もしキトサン粉末が1.0重量%超過であれば、塩漬け物の貯蔵性および組織感がそれ以上向上しない。
【0015】
また、本発明は、前記塩漬け液に蔬菜類を漬け込んで製造した塩漬け物を提供する。前記塩漬け物は、蔬菜類のみならず、果物、肉類および魚介類などを塩漬け液に漬け込んで製造した物質を総称し、蔬菜類としては、白菜、若大根、大根、胡瓜、玉葱、大蒜、唐辛子などを含む。前記塩漬け物は、塩漬け物の総重量に対して0.05〜0.25重量%のキトサンが含浸されたことが好ましい。
【0016】
また、本発明は、前記塩漬け物を用いて製造したキムチを提供する。
【0017】
また、本発明は、前記塩漬け用キトサン粉末をキムチの総重量に対して0.01〜1.5重量%含むキムチを提供する。
【0018】
本発明に係るキトサン粉末を含むキムチは、標準化キムチレシピを用いて製造することができる。
【0019】
標準化方法によって製造されたキトサン含有キムチは、キトサン自体よりさらに優れた抗菌活性、抗酸化活性、抗突然変異効果および抗癌活性を示し、キトサンが、キムチの発酵がゆっくりなされるようにして適熟期への到達期間を長くすることにより、優れた貯蔵安全性を示す。また、キトサン含有キムチは、ロイコノストック属(Leuconostoc sp.)およびラクトバチルス属(Lactobacillus sp.)乳酸菌の成長速度を抑制させて優れた貯蔵性および保存性を示す。また、植物性セルロースは陰(−)電荷の食餌繊維であるが、キトサンは陽(+)電荷の食餌繊維であるため、キトサンが塩漬け物に適量含浸混入されると、陽性食餌繊維になってキムチの植物性セルロースの構造が緻密になるので、キムチの組織感を改善させ且つ食餌繊維自体の機能性を補完する。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る塩漬け用キトサン粉末は、抗菌活性、抗酸化活性、抗突然変異効果および抗癌活性に優れた水溶性/不溶性キトサンを選別して脱アセチル化度と粘度によって規格化した。これにより、これを用いて製造したキトサン含有キムチは、キトサン自体よりさらに優れた抗菌活性、抗酸化活性、抗突然変異効果および抗癌活性を示す。また、本発明のキトサン含有キムチは、キトサンが、キムチの発酵がゆっくりなされるようにして適熟期への到達期間を長くすることにより、優れた貯蔵安定性を示し、ロイコノストック属(Leuconostoc sp.)およびラクトバチルス属(Lactobacillus sp.)乳酸菌の成長速度を抑制させて優れた貯蔵性および保存性を示し、キトサンが塩漬け物に適量含浸混入されると、陽性食餌繊維になってキムチの植物性セルロースの構造が緻密になるので、キムチの組織感を改善させ且つ食餌繊維自体の機能性を補完するという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例を提示する。ところが、下記の実施例は本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、本発明の内容を限定するものではない。
【0022】
実施例1:キトサンの製造
1−1.キトサンの製造
韓国東海で得たベニズワイガニの蟹殻を乾燥させた後、これを5%NaOH水溶液に入れ、100℃で5時間抽出して脱タンパク蟹殻を得た。前記脱タンパク蟹殻を5%HCl水溶液に入れ、常温で5時間抽出して脱カルシウム化させてキチンを得た。その後、反応槽に45%NaOH水溶液を満たし、ここに、前記で得られたキチンを浸漬させた後、温度(80℃、90℃、100℃、110℃)と時間(5、10、15、20、25、30、35、40、50時間)を変化させながら脱アセチル化反応によってキトサンを製造した。前記製造されたキトサンの脱アセチル化度と粘度を測定して表1に示した。脱アセチル化度はコロイド滴定法(pvsk titration method)を用いて測定し、粘度はキトサンを酢酸に溶かして0.5%のキトサン含有酢酸溶液を作り、20℃の恒温槽で2時間保管した後、恒温の下で測定した。
【0023】
【表1】

【0024】
表1に示すように、45%NaOH水溶液の温度と時間によってキトサンの脱アセチル化度と粘度が異なる。高温で長時間反応させると、脱アセチル化度が高くなるが、粘度は低くなり、反応時間を短くすると、粘度が高くなるが、脱アセチル化度は低くなる。また、低温で反応させると、脱アセチル化の時間が長くかかるが、粘度はゆっくり低下することが分かった。したがって、キトサンの規格は脱アセチル化度と粘度で表示する。
【0025】
1−2.規格化されたキトサンの製造
前記1−1で製造したキトサンを規格化するために、脱アセチル化度と粘度の異なる12種の水溶性キトサン(S-1〜S-12)と11種の不溶性キトサン(NS-1〜NS-11)を準備し、これらを下記表2に示した。全てのキトサンは、プラスチック容器に入れて室温で保管しながら使用し、水溶性/不溶性キトサンの抗菌活性、抗酸化活性、抗突然変異効果および抗癌活性を下記実験例1〜4の方法で測定した。前記23種の水溶性/不溶性キトサンのうち抗菌活性、抗酸化活性、抗突然変異効果および抗癌活性に優れたキトサンを選別して規格化した。
【0026】
【表2】

【0027】
水溶性/不溶性キトサンの抗菌活性、抗酸化活性、抗突然変異効果および抗癌活性を測定した結果、5種の水溶性キトサン(S-2、S-9、S-10、S-11、S-12)と6種の不溶性キトサン(NS-2、NS-5、NS-8、NS-9、NS-10、NS-11)は食品群別公示菌株に対して優れた抗菌活性を示し、S-7、S-10およびNS-8は優れた抗酸化活性および抗突然変異効果を示し、S-10およびNS-8は優れた抗癌効果を示すことが分かった。したがって、本発明に係るキトサンは、50〜90%の脱アセチル化度および1〜10cPの粘度を持つ水溶性キトサンと、60〜100%の脱アセチル化度および8〜80cPの粘度を持つ不溶性キトサンを選別し、脱アセチル化度と粘度によって規格化した。
【0028】
実施例2:キトサン含有キムチの製造
2−1.キトサン材料
水溶性/不溶性キトサンのうち、抗菌活性、抗酸化活性、抗突然変異効果および抗癌活性に最も優れた水溶性キトサンS-10(脱アセチル化度90%、粘度3cP)と不溶性キトサンNS-8(脱アセチル化度95%、粘度22cP)を4℃で保管しながら使用した。
【0029】
2−2.キムチ材料
白菜は韓国の釜山フジョン市場、塩辛は清浄ひしこ液塩辛((株)大商)、赤唐辛子粉はヨンヤン農協清潔赤唐辛子粉加工工場からそれぞれ購入して使用した。大根、ねぎ、大蒜および生姜は釜山フジョン市場からそれぞれ購入した。砂糖は白砂糖、塩は天日塩((株)ゴセン)を使用した。
【0030】
2−3.キムチの製造
キムチは、塩漬けにした白菜100重量部に対して赤唐辛子粉3.5重量部、大蒜1.4重量部、生姜0.6重量部、塩辛2.2重量部、ねぎ2.0重量部、大根13.0重量部、砂糖1.0重量部の割合で混合して標準化キムチのレシピを用いて製造した。
【0031】
すなわち、天日塩で10%塩漬け液を製造した後、ここに白菜を10時間漬け込んだ。こうして塩漬けにした白菜を水道水で3回洗浄し、3時間水気を切った。副材料として水溶性キトサン(S-10)粉末と不溶性キトサン(NS-8)粉末を、塩漬けにした白菜100重量部に対して1重量部、0.5重量部の量で用いて薬味に混ぜ合わせた。大根とねぎを千切りにし、この千切り大根に、水に溶かした赤唐辛子粉を入れて混ぜ合わせた後、さらにひしこ液塩辛、大蒜および生姜をよく混ぜ合わせ、塩度はそれぞれの塩で調節してキムチを製造した。
【0032】
実施例3:キトサン含有塩漬け液で漬けた白菜を用いたキムチの製造
不溶性キトサンNS-8を酢酸に溶かして2%のキトサン溶液を製造した。前記キトサン溶液を用いてキトサン含量が塩漬け液の総重量に対して0.05、0.15、0.3、0.5%となるように添加した水に天日塩を加えて10%の塩漬け液を製造した。前記キトサン含有塩漬け液に白菜を10時間漬け込んだ。こうして塩漬けにした白菜を水道水で3回洗浄し、3時間水気を切った。その後、大根とねぎを千切りにし、この千切り大根に、水に溶かした赤唐辛子粉を入れて混ぜ合わせた後、さらにひしこ液塩辛、大蒜および生姜をよく混ぜ合わせ、塩度はそれぞれの塩で調節してキムチを製造した。
【0033】
実施例4:塩漬けにした白菜をキトサン含有濯ぎ液で濯いでから使用したキムチの製造
不溶性キトサンNS-8を酢酸に溶かして2%のキトサン溶液を製造した。前記キトサン溶液を用いてキトサン含量が濯ぎ液の総重量に対して0.1、0.2、0.3、0.5%となるように水を添加してキトサン含有濯ぎ液を製造した。天日塩で10%塩漬け液を製造した後、この塩漬け液に白菜を10時間漬け込んだ。こうして塩漬けにした白菜を水道水で2回洗浄し、最終濯ぎ過程で前記キトサン含有濯ぎ液によって3分間濯いだ後、3時間水気を切った。その後、大根とねぎを千切りにし、この千切り大根に、水に溶かした赤唐辛子粉を入れて混ぜ合わせた後、さらにひしこ液塩辛、大蒜および生姜を混ぜ合わせ、塩度はそれぞれの塩で調節してキムチを製造した。
【0034】
実施例5:キトサン含有薬味を用いたキムチの製造
天日塩で10%塩漬け液を製造した後、この塩漬け液に白菜を10時間漬け込んだ。こうして塩漬けにした白菜を水道水で3回洗浄し、3時間水気を切った。水溶性キトサン(S-10)粉末と不溶性キトサン(NS-8)粉末を1:1の重量比で混ぜた後、塩漬けにした白菜100重量部に対して0.1.0.25、0.5、1.5重量部のキトサンを副材料として用いて薬味に混ぜ合わせた。大根とねぎを千切りにし、この千切り大根に、水に溶かした赤唐辛子粉を入れて混ぜ合わせた後、さらにひしこ液塩辛、大蒜および生姜をよく混ぜ合わせ、塩度はそれぞれの塩で調節してキムチを製造した。
【0035】
実験例1:抗菌活性の測定
水溶性/不溶性キトサンの抗菌活性を確認するために、下記の実験を行った。
【0036】
1−1.菌株および培地
抗菌活性を検索するための病原性微生物および腐敗微生物としては、9種のグラム陰性菌と6種のグラム陽性菌を使用し、それらを下記表3に示した。
【0037】
Listeria monocytogenes ATCC 19115、Staphylococcus aureus ATCC 29737、Bacillus subtilis ATCC 6633、Bacillus cereus ATCC 21366、Aeromonas hydrophila subsp. hydrophila ATCC 7966、Pseudomonas fluorecens ATCC 21541、Proteus vulgaris ATCC 6059、Erwinia carotovora subsp. carotovora ATCC 15390、Lactobacillus curvatus ATCC 25601、Lactobacillus plantrarum ATCC 8014、Serratia marcescens ATCC 990、Escherichia coli ATCC 8739、Vibrio parahaemolyticus ATCC 17802、およびVibrio vulnificus ATCC 27562は韓国微生物保存センター、Salmonella typhimurium ATCC 13311は遺伝子銀行から分譲を受けて使用した。
【0038】
培養培地としてはトリプシン大豆ブロス(tryptic soy broth)(TSB、Difco、USA)、ブレインハート注入液(Brain Heart Infusion)(BHI、Difco、USA)、MRS培養液(Difco、USA)を使用し、キトサンの抗菌活性を検索するための培地としてはミュラーヒントン培養液(Muller Hinton broth)(MHB、Merck、ドイツ)を使用した。
【0039】
【表3】

【0040】
1−2.キトサンの種類による抗菌活性
本実験に使用するために、水溶性キトサンは蒸留水に、不溶性キトサンは1%(v/v)酢酸に完全に溶かして1%(w/v)濃度でキトサン貯蔵溶液を製造した。
【0041】
キトサンの抗菌活性の検索はペーパーディスク法(paper disc method)によって公示菌株に対する生育阻止環(clear zone)の形成の有無を調べて測定し、使用培地はMHAに最終濃度が0.1%となるようにキトサン貯蔵溶液を添加して製造した。この際、不溶性キトサンのうちNS-1、NS-3およびNS-4キトサンは溶けないため、本実験に使用しなかった。本実験に使用したキトサン添加培地のpHは全て1N HClと1N NaOHを用いてpH5.9に補正した。公示菌株に対する0.1%水溶性キトサンの抗菌活性は表4に示し、公示菌株に対する0.1%不溶性キトサンの抗菌活性は表5に示した。
【0042】
【表4】

【0043】
【表5】

【0044】
表4に示すように、0.1%水溶性キトサンの抗菌活性は、菌株によって様々であったが、S-12が15種の公示菌株のうち13種の菌株に対して抗菌活性を示して15種のキトサンの中でも抗菌スペクトルが最も広く、S-10とS-11も9種の菌株に対して抗菌活性を示した。また、S-2とS-9が8菌株に対して抗菌活性を示し、S-3およびS-4が7菌株に対して、S-1およびS-7が6菌株に対して、S-8が5菌株に対して、S-5およびS-6が4菌株に対してそれぞれ抗菌活性を示した。すなわち、キトサンの種類によってその抗菌活性の程度が様々であった。Proteus vulgarisは、全ての水溶性キトサンで成長が抑制され、Aeromonas hydrophila、Salmonella typhimurium、Erwinia carotovoraも大部分の水溶性キトサンで成長が抑制された。Bacillus cereusもS-8以外の全てのキトサンで成長が抑制された。
【0045】
また、表5に示すように、0.1%不溶性キトサンは全ての公示菌株に対して抗菌活性を示した。また、同一の濃度で、キトサンの抗菌活性は水溶性キトサンより不溶性キトサンが著しく高かった。
【0046】
1−3.病原性微生物および腐敗微生物に対するキトサンの成長抑制活性
高い抗菌活性を示す水溶性キトサンS-2、S-9、S-10、S-11、S-12と、高い抗菌活性を示す不溶性キトサンNS-2、NS-5、NS-8、NS-9、NS-10、NS-11を選別し、公示菌株15種に対する成長抑制活性を調べた。
【0047】
選別されたキトサンの抗菌力を調べるために、1%(w/v)キトサン貯蔵溶液をMHBに添加し、最終濃度が水溶性キトサンは0.1%、不溶性キトサンは0.1%と0.05%となるように調節した後で使用した。病原性微生物はTSBで、乳酸菌はMRS培養液でそれぞれ2回継代培養させた公示菌株をキトサン添加培地に0.05mL接種した後、37℃で24時間振とう培養し、しかる後に、ペプトン水を用いて適正希釈して生菌数(log No.CFU/mL)を測定した。乳酸菌はMRS寒天、Erwinia carotovora subsp. CarotovoraはBHI寒天、その他の腐敗微生物と病原性微生物はTSAを用いて混釈平板法(pour plate method)によって生菌数を測定した。公示菌株に対する0.1%水溶性キトサンの成長抑制活性は表6に示し、公示菌株に対する0.1%不溶性キトサンの成長抑制活性は表7に示し、公示菌株に対する0.05%不溶性キトサンの成長抑制活性は表8に示した。
【0048】
【表6】

【0049】
【表7】

【0050】
【表8】

【0051】
表6に示すように、A. hydrophilaはS-11とS-12キトサン添加区で成長が観察されておらず、その他の3種のキトサンは対照区に比べて約4〜5ログサイクル程度成長が抑制された。選別したキトサンはE. carotovoraに対して強い抗菌活性を示したが、特にS-2、S-10およびS-11で成長が観察されておらず、S-9およびS-12では約10CFU/mLを示して対照区に比べて約7ログサイクル程度成長が抑制された。P.fluorecens、V. parahaemolyticusおよびV. vulnificusは、対照区で10CFU/mLの菌株を示し、選別されたキトサンでは10CFU/mLの菌株を示して対照区に比べて約1ログサイクル程度低い菌株を示し、キトサンによる生育抑制効果は非常に低かった。B.subtilisはS-9以外の残りのキトサンで菌成長が観察されておらず、S-9でも10CFU/mL以下の菌数を示した。また、B.cereusはS-9、S-10、S-12で10CFU/mL以下の菌株を示し、S-2およびS-11では菌成長が観察されていない。乳酸菌株であるL.curvatusは選別されたキトサンの全てで成長が観察されておらず、L. plantarumはS-11以外の全てのキトサンで成長が観察されていないため、選別されたキトサンの乳酸菌株に対して強い成長抑制活性を示した。L.monocytogenesおよびS. aureusの場合、S-12で菌成長が観察されておらず、残りのキトサンでは10〜10CFU/mLを示して対照区と類似の菌成長を示し、6種のグラム陽性菌のうちキトサンに対して最も低い成長抑制率を示した。上述したように、水溶性キトサンの抗菌活性はグラム陰性菌よりグラム陽性菌に対して高く、水溶性キトサンのうちS-12キトサンが公示菌株に対して広い抗菌活性を示した。
【0052】
また、表7に示すように、A.hydrophilaの場合、対照区は10CFU/mLを示し、NS-11は10CFU/mL、NS-2は10CFU/mLを示して対照区に比べて4〜5ログサイクル程度成長が抑制され、残りのキトサンでも約10〜10CFU/mLの菌数を示して5〜6ログサイクル程度の菌成長が抑制された。P.vulgarisとE.carotovoraは培養24時間後にNS-10で10CFU/mLの菌成長を示し、NS-10キトサン以外の残りのキトサンでは菌成長が観察されていない。V.vulificusはNS-5で10CFU/mLの菌成長を示し、他のキトサンでは菌成長が観察されていない。L. monocytogenes、S. aureus、P. fluorecens、S. marcescens、E. coli、V. parahaemolyticus、B. subtilis、B. cereus、L. curvatus およびL. plantarumは、培養24時間目に全てのキトサンで菌成長が観察されていない。上述したように、不溶性キトサンはグラム陽性菌とグラム陰性菌の全てで強い抗菌活性を示し、グラム陽性菌に対してさらに高い抗菌活性を示した。
【0053】
A.hydrophilaの場合、水溶性キトサンであるS-11、S-12で菌成長が観察されておらず不溶性キトサンより優れた抗菌活性を示したが、本実験結果、全般的に同一の濃度で不溶性キトサンが水溶性キトサンに比べて広い抗菌スペクトルを示したうえ、高い菌成長抑制を示した。
【0054】
不溶性キトサンの場合、0.1%濃度で高い抗菌活性を示したが、キトサンの種類による抗菌活性の差異が観察されておらず、公示菌株全てが6種のキトサンに対して成長抑制され、キトサンによる微生物の選別的抗菌活性差が観察されていない。
【0055】
また、表8に示すように、S.typhymuriumの場合、NS-2、NS-5、NS-8で培養24時間目に10CFU/mLを示して対照区と類似の菌株を示し、NS-11では10CFU/mLの菌成長を示し、残りのキトサンでは菌成長が観察されていない。S.marcescensは、培養24時間目に全てのキトサンで10〜10CFU/mLの菌数を示して対照区に比べて約6〜7ログサイクル程度成長が抑制されたが、キトサンの種類による成長抑制度の差は観察されていない。A.hydrophilaも、S.marcescensと同様に、キトサンの種類による成長抑制度の差は観察されていないが、対照区に比べて約4ログサイクル程度の菌数が減少して、キトサンの種類に関係なく高い成長抑制度を示した。グラム陽性菌の中でも、L.monocytogenesとS.aureusはN-2で、B.cereusはN-9とN-10のキトサンで10CFU/mL以下の菌成長を示しただけであり、他のキトサンでは菌成長が観察されていない。L.curvatusは10CFU/mL以下または10CFU/mL程度の菌成長を示し、L.plantarumはNS-11以外の残りのキトサンで10〜10CFU/mLの菌成長を示して、対照区に比べて菌成長が著しく抑制されたが、乳酸菌株の場合、他のグラム陽性菌に比べてキトサンの成長抑制効果は多少低い傾向を示した。公示菌株に対する0.5%不溶性キトサンの成長抑制効果はNS-11が最も高く、次はNS-9が多少低い効果を示した。不溶性キトサンの公示菌株に対する成長抑制効果はグラム陰性菌よりグラム陽性菌で高く、グラム陽性菌ではキトサンの種類による成長抑制効果の差がなかったが、グラム陰性菌の場合にはキトサンの脱アセチル化度が高いほど成長抑制効果が高かった。
【0056】
1−4.病原性微生物および腐敗微生物に対する最小成長阻害濃度(Minimum inhibitor concentration;MIC)
高い抗菌活性を示す水溶性キトサンS-2、S-9、S-10、S-11、S-12と、高い抗菌活性を示す不溶性キトサンNS-2、NS-5、NS-8、NS-9、NS-10、NS-11を選別し、これらの15種の公示菌株に対する最小成長阻害濃度を測定した。
【0057】
水溶性キトサンと不溶性キトサンの公示菌株に対する最小成長阻害濃度を測定するために、寒天拡散法(agar diffusion method)を用い、公示菌株それぞれの成長適温で72時間培養した後、最小成長阻害濃度を測定した。
【0058】
水溶性キトサンのMIC測定結果は表9に示し、不溶性キトサンのMIC測定結果は表10に示した。また、食品群別高抗菌活性度キトサン規格群は表11に示した。
【0059】
【表9】

【0060】
【表10】

【0061】
【表11】

【0062】
表9に示すように、公示菌株に対する水溶性キトサンのMIC範囲は0.05〜0.8%、>0.8%を示したが、乳酸菌株の場合、他の試験菌株に比べて低いMICを示した。L.curvatusの場合、S-2とS-11で0.05%のMICを示し、残りのキトサンでは0.08%のMICを示した。L.plantarumはS-10で最も高い0.1%のMICを示し、S-12が0.08%、S-2、S-9およびS-11が0.05%のMICを示した。B.cereusおよびB.subtilisのMICは0.1〜0.3%であって、キトサンの種類によって異なったが、B.subtilisのMICがB.cereusのMICより多少低かった。E.carotovoraの場合、S-11とS-12のMICは0.08%であって、他のキトサンに比べて非常に低いMICを示し、E.carotovoraはグラム陰性菌の中で最も低いMICを示した。
【0063】
また、表10に示すように、公示菌株に対する不溶性キトサンのMIC範囲は、A.hydrophilaではNS-2、NS-5、P.vulgarisではNS-2、E.coliではNS-5、Sal.typhimuriumではNS-2、NS-5、NS-9、NS-11が、>0.1%のMICをそれぞれ示し、残りのキトサンのMIC範囲は0.03〜0.1%であって、水溶性キトサンに比べて非常に低いMIC値を示した。グラム陽性菌のMIC範囲は0.03〜0.08%であって、公示菌株に対する不溶性キトサンのMICが大部分0.05%を示した。これに対し、グラム陰性菌のMIC範囲は0.05〜1%または>1%であって、グラム陽性群に比べて広いMIC値を示し、グラム陰性菌に対する不溶性キトサンのMICは大部分0.08%を示して、不溶性キトサンのMICもグラム陽性菌がグラム陰性菌より低かった。
【0064】
また、表11に示すように、5種の水溶性キトサン(S-2、S-9、S-10、S-11、S-12)と6種の不溶性キトサン(NS-2、NS-5、NS-8、NS-9、NS-10、NS-11)は、食品群別公示菌株に対して優れた抗菌活性を示すので、食品保存期間を向上させて魚介類、肉類、蔬菜類に起因した腐敗および食中毒の予防に効果的である。
【0065】
前記結果によれば、公示菌株に対するキトサンの抗菌活性に関連し、水溶性キトサンの場合には脱アセチル化度が60%以上、不溶性キトサンの場合には脱アセチル化度が89%以上のとき、非常に優れた抗菌活性を示した。また、選別されたキトサンの公示菌株に対する成長抑制活性および最小成長阻害濃度が水溶性キトサンより不溶性キトサンで高く、グラム陰性群よりはグラム陽性群に対してさらに高い効果を示した。
【0066】
実験例2:抗酸化活性の測定
水溶性/不溶性キトサンの抗酸化活性を確認するために、下記の実験を行った。
【0067】
2−1.DPPH(1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル)消去効果
水溶性/不溶性キトサンのDPPHに対する電子供与能(electron donating ability)をBlois等による方法によって測定した。メタノールで希釈した水溶性/不溶性キトサン(1mg/mL、0.5mg/mL)10μLを96ウェルプレートに入れた後、60μmのDPPH試液100μLを加え、室温で30分間静置した後、540nmで吸光度を測定した。
【0068】
DPPH自由ラジカルに対する水溶性キトサンの抗酸化効果は図1に示し、DPPH自由ラジカルに対する不溶性キトサンの抗酸化効果は図2に示した。
【0069】
図1および図2に示すように、水溶性キトサンS-9とS-10は、1mg/mLの濃度でそれぞれ79%と74%のラジカル消去能を示し、0.5mg/mLの低濃度でもそれぞれ77%と72%の高い抗酸化活性を示した。これらの2サンプル間の抗酸化活性が濃度によって大きくは異ならないことが分かった。ところが、S-4のサンプルは1mg/mLの濃度では83%の活性を示したが、0.5mg/mLの濃度では48%の活性を示した。このような結果より、水溶性キトサンは抗酸化活性の変化が濃度に大きく影響されることが分かる。これに対し、不溶性キトサンは抗酸化活性の変化が濃度に大きく影響されず、40〜50%の抗酸化活性を示した。
【0070】
2−2.セルラーシステムにおける抗酸化実験
1)細胞種類および試薬
LLC−PK(porcine renal epithelial cell)は、ATCC(Solon、ohio、USA)で、培養のためのDMEM(Dulbecco's modified Eagal medium)とFBS(fetal bovine serum)はInvitogen CO.(Grand Island、NY)から購入して使用した。酸化的ストレスを誘導するために使用したSNPは、Wako(東京、日本)社の製品を、SIN−1(3-morpholinosydnonimine)、AAPH[2,2'-Azobis(2-aminopropane)dihydrochloride]、ピロガロール(pyrogallol)、MTT[3-(4,5-dimethyl-2-thiazolyl)-2,5-diphenyl-2H tetrazolium bromide]は、Sigma Chemical Co.(USA)社の製品を使用した。
【0071】
2)細胞培養
LLC−PK細胞は、100units/mLのフェニシリン−ストレプトマイシンと5%のFBSが含有されたDMEMを用いて37℃、5%CO培養器で培養した。培養された細胞は1週に2〜3回再給与し、培養6〜7日頃リン酸塩緩衝溶液(phosphate buffered saline;PBS)で1次洗浄した後、0.05%トリプシン−0.02%EDTAで付着細胞を剥がして遠心分離した後、集積された細胞を培地に入れてピペットで細胞が均一に分散するようによく混合し、6〜7日毎に継代培養しながら実験に使用した。継代培養の際に、それぞれの通過回数(passage number)を記録し、通過回数が10回以上のときは新しい細胞を培養して実験を行った。
【0072】
3)細胞生存
細胞が集合(confluence)状態になると、96ウェルプレートにウェル当たり1×10cells/mLで植栽して2時間培養した後、酸化的ストレスを誘発するために、ペルオキシルラジカル(LOO)、ONOO、NO、Oの供与体であるAAPH(10mM)、SIN−1(1mM)、SNP(1.2mM)およびピロガロール(1.2mM)を添加して24時間培養した。酸化的ストレスを誘発した後、S-10およびNS-8を濃度別(50、100、500、1000μg/mL)で処理して24時間培養した後、1mg/mLのMTT溶液を各ウェルに注入して37℃で4時間再培養した後、生成されたホルマザン結晶をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶かして540nmで吸光度を測定した(Mosmann、1983)。
【0073】
AAPHを処理したLLC−PK細胞に対する水溶性キトサン(S-10)と不溶性キトサン(NS-8)の抗酸化活性を濃度別に示した結果は表12のとおりであり、SIN-1を処理したLLC−PK細胞に対する水溶性キトサン(S-10)と不溶性キトサン(NS-8)の抗酸化活性を濃度別に示した結果は表13のとおりである。
【0074】
【表12】

【0075】
【表13】

【0076】
表12に示すように、AAPHを処理したLLC−PK細胞に対するスクリーニング過程を介して選択された、PBSに溶かした水溶性キトサン(S-10)と1%酢酸に溶かした不溶性キトサン(NS-8)の抗酸化活性を濃度別に考察した結果、AAPHのみを処理した対照区の細胞生存率は23.6%であったが、S-10とNS-8をそれぞれ濃度別に処理した後の細胞生存率は濃度依存的に上昇し、水溶性キトサンの場合、1000μg/mLで67.1%の細胞生存率を示し、対照区に比べて増加した。したがって、水溶性/不溶性キトサンはAAPHによるLLC−PK細胞の酸化的ストレスに対して優れた改善効果を示し、特に水溶性キトサンが不溶性キトサンよりさらに優れた抗酸化活性を示した。
【0077】
また、表13に示すように、SIN-1のみを処理した対照区は酸化的ストレスによる細胞損傷によって細胞生存率が20.4%に減少したが、これに対し、S-10およびNS-8キトサンを濃度別に処理した後の細胞生存率は濃度依存的に増加して1000μg/mL処理の際にそれぞれ72.9%と64.2%であった。これはONOOに対する直接的な消去能を介して酸化的ストレスに対して改善効果を示したものと思われる。
【0078】
実験例3:抗突然変異効果の測定
水溶性/不溶性キトサンおよびキトサン含有キムチの抗突然変異効果を確認するために、下記の実験を行った。
【0079】
1−1.試薬および菌株
D−ビオチン、L−ヒスチジン・HCl(一水和物)、D−グルコース−6−ホスフェイト(モノナトリウム塩)、およびNADP(ナトリウム塩)は、Sigma Chemical Co.(USA)から購入し、バクト栄養培養液(脱水した)とビテック寒天(Bitek agar)はDifco Laboratories(USA)から購入した。また、突然変異誘発源としては、直接突然変異源であるMNNG(4-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine)をAldrich Chemical Co.(USA)から購入して滅菌蒸留水に溶かして実験に使用し、間接突然変異源であるAFB(アフラトキシンB)をSigma Cemical Co.(St.Lous、MO、USA)から購入してDMSOに溶かして使用した。
【0080】
実験に使用した菌株は、Salmonella typhimurium TA100であって、米国カリフォルニア大学のAmes,B.N.博士から提供を受けて使用した。そして、これらの菌株は、実験直前にヒスチジン要求性、ディープラフ(deep rough)(rfa)突然変異、uvrB突然変異、R−因子などの遺伝形質を確認して使用した。
【0081】
キムチ試料は、実施例2で製造したキトサン含有キムチの初期キムチと適熟期キムチ(pH4.3)を搾汁器(ミキサー)(NUC、韓国)で搾汁して製造した汁液試料と2種のメタノール抽出物を使用した。汁液試料は、汁液の形で集めた後、4℃、9000rpmで15分間遠心分離して採取した上澄み液をミリポアフィルター(Millipore filter)(0.20μm)で濾過して除菌した後、試料として使用した。メタノール抽出物は、初期およびpH4.3の適熟期まで発酵させたそれぞれのキトサンキムチを採取して凍結乾燥させた後、試料を磨砕して粉末に調製し、粉末試料に20倍(w/v)のメタノールを添加して12時間攪拌を2回繰り返し行って濾過した後、回転式真空濃縮器で濃縮して得た。抽出物はDMSOで希釈して実験に使用した。
【0082】
1−2.直接突然変異源(MNNG)に対する抗突然変異効果
0.5mLのリン酸緩衝液(直接突然変異源)に一晩培養した菌株(1〜2×10cells/mL)0.1mL、希釈試料50μLおよび突然変異誘発物質50μLを氷浴中のキャップチューブ(cap tube)に添加して軽くボルテキシング(vortexing)し、37℃で30分間予備培養した。ここに45℃のトップアガー(ヒスチジン/ビオチン溶液)2μLを予備培養した各チューブに注ぎ、3秒間ボルテキシングして最小平板培地(minimal glucose agar plate)に塗抹し、37℃で48時間培養した後、復帰突然変異体(revertant)の数を計数した。突然変異抑制率(inhibition rate)は数式1によって計算した。Salmonella typhimurium TA100で直接突然変異源MNNG(0.4μg/plate)によって誘発された突然変異に対する水溶性キトサンおよび不溶性キトサンの抗突然変異効果はそれぞれ表14および表15に示し、キトサン含有キムチのメタノール抽出物の抗突然変異効果は表16および図3に示した。
【0083】
抑制率(%)=[(a−b)/(a−c)]×10 ・・・(数式1)
a:突然変異源によって誘導された復帰突然変異数、
b:試料を処理したときの復帰突然変異数、
c:突然変異源と試料がない場合の自然復帰突然変異の数。
【0084】
【表14】

【0085】
【表15】

【0086】
【表16】

【0087】
表14および表15に示すように、水溶性キトサンは1.25mg/plateの低濃度より2.5mg/plateの高濃度で抗突然変異効果が高かった。水溶性キトサンを2.5mg/plateの濃度で処理したとき、S-7は55%の抗突然変異効果を示したが、これに対し、S-10は添加濃度によって濃度依存的にさらに高い抗突然変異効果を示した。水溶性キトサンの中ではS-7とS-10の抗突然変異効果が55%と非常に高く、不溶性キトサンの中ではNS-8が抑制率70%であって抗突然変異効果が最も高かった。大部分の水溶性/不溶性キトサンは、濃度が増加するにつれて抗突然変異効果も有意に増加した。また、水溶性/不溶性キトサンは、脱アセチル化度が大きいほど、粘度が小さくなるほど抗突然変異効果が増加した。この実験は23種のキトサンをスクリーニングする重要な根拠資料を提供している。
【0088】
また、表16および図3に示すように、不溶性キトサンNS-8を1%添加したキムチを1.25mg/plateの濃度で処理したとき、64%の抗突然変異効果を示した。これは標準化キムチの抗突然変異効果(41%)より高かった。また、キトサン含有キムチを2.5mg/plateの濃度で処理したとき、水溶性キトサンS-10を1%添加したキムチと不溶性キトサンNS-8を1%添加したキムチは77%の最も高い抗突然変異効果を示した。これも標準化キムチの抗突然変異効果(58%)より高かった。よって、水溶性/不溶性キトサン添加キムチは標準化キムチより高い抗突然変異効果を示すことが分かった。また、水溶性キトサンS-10を添加したキムチに比べて不溶性キトサンNS-8を添加したキムチが高い抗突然変異効果を示し、0.5%のキトサンを添加したキムチより1%のキトサンを添加したキムチが高い抗突然変異効果を示した。
【0089】
1−3.間接突然変異源(MNNG)に対する抗突然変異効果
間接突然変異源を活性化させるために、MaronとAmesの方法によって、肝のミクロソーム酵素混合物(microsomal enzyme mixture)であるS9混合物を調製した。約200gの雄性SD(Sprague-Dawley)ラットの肝酵素誘発のために、ポリ塩化ビフェニル(PCB)混合物であるAroclor1254をトウモロコシ油1mL当たり200mgの濃度で希釈して1回腹腔注射し(500mg/kg)、5日後に肝を摘出した。4℃の無菌状態で摘出した肝を0.15M KClで数回洗浄し、肝の重量の3倍量に相当する0.15M KCl溶液を加えて均質化器(Potter-Elvehjem apparatus、USA)で均質化した。これを9000×gで10分間遠心分離して上澄み液としてのS9分画を得た。その後、クリオチューブ(cryo tube)に1〜2mLずつ分注してドライアイスで急速凍結した後、−180℃の液体窒素タンクに保管しながら実験に使用した。前記S9分画(10%)をMgCl−KCl塩(2%)、1Mグルコース−6−ホスフェイト(0.5%)、1M NADP(4%)、0.2Mリン酸塩緩衝液(pH7.4)および滅菌数と混合してS9混合物を調製した。
【0090】
リン酸緩衝液(直接突然変異源)の代わりにS9混合物(間接突然変異源)を使用した以外は、前記1−2の方法と同様にして実験した。Salmonella typhimurium TA100で間接突然変異源AFB(0.5μg/plate)によって誘発された突然変異に対するキトサン含有キムチのメタノール抽出物の抗突然変異効果は表17および図4に示した。
【0091】
【表17】

【0092】
表17および図4に示すように、1.25mg/plateの低濃度で不溶性キトサンNS-8を0.5%添加したキムチは67%の抑制率を示して抗突然変異効果が最も高かった。水溶性キトサンS-10を1%添加したキムチは63%の抑制率を示した。これは標準化キムチの抗突然変異効果(53%)よりも高かった。キトサン添加キムチを2.5mg/plateの濃度で処理したとき、水溶性キトサンS-10を0.5%添加したキムチは92%の抑制率を示して抗突然変異効果が非常に大きかった。水溶性キトサンS-10を1%添加したキムチは87%の抑制率を示した。これは標準化キムチの抗突然変異効果(77%)より高い。よって、水溶性/不溶性キトサンを添加したキムチは、間接突然変異源であるAFBに対する抗突然変異効果においても、MNNGにおける抗突然変異効果と類似な傾向を示した。
【0093】
実験例4:抗体活性の測定
水溶性/不溶性キトサンおよびキトサン含有キムチの抗癌活性を確認するために、下記の実験を行った。
【0094】
4−1.細胞培養
細胞培養のためにRPMI1640、FBS、0.05%のトリプシン−0.02%EDTAおよび100units/mLのフェニシリン−ストレプトマイシンは、GIBCO社(USA)から購入して使用した。細胞培養には5%CO培養器(Forma、model MC096、日本)を使用した。AGSヒト胃癌細胞(AGS human gastric adenocarcinoma cell)、HT−29ヒト結腸癌細胞(HT-29 human colon adenocarcinoma cell)は韓国細胞株銀行(ソウル医大)から分譲を受けて培養しながら実験に使用した。
【0095】
AGSヒト胃癌細胞およびHT−29ヒト結腸癌細胞は、100units/mLのフェニシリン−ストレプトマイシンと10%のFBSが含有されたRPMI1640を用いて5%CO培養器で培養した。培養されたそれぞれの癌細胞は、1週に2〜3回再給与し、6〜7日目にPBSで洗浄した後、0.05%トリプシン−0.02%EDTAで付着細胞を剥がして遠心分離した後、集積された癌細胞を培地に入れてピペットで癌細胞が均一に分散するようによく混合し、75mL細胞培養フラスコに10mLずつ一定の数を分割して注入し、6〜7日毎に継代培養しながら実験に使用した。継代培養の際にそれぞれの通過回数を記録し、通過回数が10回以上のときは新しい癌細胞を液体窒素タンクから取り出して再び培養して実験した。
【0096】
4−2.MTTアッセイ
前記培養された癌細胞を96ウェルプレートにウェル当たり1×10cells/mLとなるように180μLずつ分注し、試料を濃度別に20μLずつ添加した後、37℃、5%培養器で72時間培養した。ここに、リン酸生理食塩水に5mg/mLの濃度で製造したMTT(Sigma、USA)溶液20μLを添加し、同一の培養条件で4時間さらに培養した。10分間2000rpmで遠心分離した後、上澄み液を捨て、DMSO150μLを加えた後、30分間プレートを振とうした。この際、生成されたホルマザン結晶をDMSOに溶かしてELISAリーダーによって540nmで吸光度を測定した。細胞毒性率(%)は数式2で計算した。
【0097】
細胞毒性率(%)=[(対照区の吸光度−試料処理区の吸光度)/対照区の吸光度]×100 ・・・(数式2)
【0098】
水溶性キトサンのAGSヒト胃癌細胞に対する成長抑制効果は表18に示し、水溶性キトサンのHT−29ヒト結腸癌細胞に対する成長抑制効果は表19に示し、不溶性キトサンのHT−29ヒト結腸癌細胞に対する成長抑制効果は表20に示した。また、キトサン含有キムチのメタノール抽出物のAGSヒト胃癌細胞に対する成長抑制効果は表21に示し、キトサン含有キムチのメタノール抽出物のHT−29ヒト結腸癌細胞に対する成長抑制効果は表22に示した。
【0099】
【表18】

【0100】
【表19】

【0101】
【表20】

【0102】
【表21】

【0103】
【表22】

【0104】
表18に示すように、水溶性/不溶性キトサンのAGSヒト胃癌細胞に対する抗癌効果は、5mg/mLの高濃度でS-10が最も高い抗癌効果を示し、濃度が増加するにつれて、抗癌効果も8〜88%と急速に増加した。
【0105】
また、表19および表20に示すように、HT-29ヒト結腸癌細胞においてもAGSヒト胃癌細胞と同様の傾向を示して、1mg/mLの低濃度のキトサンより5mg/mLの高濃度のキトサンで高い抗癌効果を示した。水溶性キトサンS-7、S-8は43〜44%の最も高い抗癌効果を示し、不溶性キトサンNS-8とNS-9は83%の非常に高い抗癌活性を示した。
【0106】
また、表21に示すように、キトサン含有キムチのメタノール抽出物のAGSヒト胃癌細胞に対する癌細胞成長抑制効果は、高濃度(200μg/mL)で1%S-10含有キムチと1%NS-8含有キムチの場合にそれぞれ66%と89%であって、標準化キムチ(38%)より高い癌細胞成長抑制効果を示した。また、表22に示すように、キトサン含有キムチのメタノール抽出物のHT-29ヒト結腸癌細胞に対する癌細胞成長抑制効果は、高濃度(200μg/mL)で1%S-10含有キムチと1%NS-8含有キムチの場合にそれぞれ47%と63%であって、標準化キムチ(32%)より高い癌細胞成長抑制効果を示した。前述したように、不溶性キトサンを添加したキムチが水溶性キトサンを添加したキムチよりさらに優れた抗癌効果を示すことが分かる。
【0107】
実験例5:キトサン含有キムチの貯蔵安定性検証
本発明に係るキトサン含有キムチの貯蔵安定性を確認するために、キムチを4〜15℃で発酵させながら5日毎に発酵特性を観察した。
【0108】
5−1.キムチ発酵中のpHおよび酸度の変化測定
試料は、実施例2〜5で製造したキトサン含有キムチを搾汁器(NUC、韓国)で搾汁し、その汁液を使用した。pHはpHメーター(Corning220、USA)によって室温で測定した。酸度は試料20mLを蒸留水で20倍に希釈した後、ここから10mLを取ってAOAC方法によって測定した。この際、0.1%フェノールフタレインを指示薬として1mL添加し、0.1N NaOHを滴定して、ピンク色を帯びる点を終末点とした。滴定値は数式3を用いて乳酸に換算し、含量%で表示した。
【0109】
乳酸(%)={(0.1N NaOHのmL×NaOHの規定濃度)/試料の重量(g)}×9・・・(数式3)
【0110】
15℃で発酵された水溶性/不溶性キトサン含有キムチ(実施例2)のpHおよび酸度の変化は表23に示し、4℃で発酵されたキトサン含有塩漬け液で漬けた白菜を用いて製造したキムチ(実施例3)のpHおよび酸度の変化は表24に示し、4℃で発酵された塩で漬けた白菜をキトサン含有濯ぎ液で濯いでから製造したキムチ(実施例4)のpHおよび酸度の変化は表25に示し、4℃で発酵されたキトサン含有薬味を用いて製造したキムチ(実施例5)のpHおよび酸度の変化は表26に示した。
【0111】
【表23】

【0112】
【表24】

【0113】
【表25】

【0114】
【表26】

【0115】
表23に示すように、キムチを作った直後のpH変化を考察すると、不溶性キトサンを添加したキムチが著しく高いpHを維持した。発酵が進むにつれて、標準化キムチの発酵速度よりキトサンを添加したキムチの発酵速度が遅く、7日目のpHを比較すると、1%S-10を添加したキムチのpHが3.91であるが、標準化キムチのpHは3.71と低かった。また、濃度が低いほどpHが低く、0.5%NS-8を添加したキムチのpHは3.73であって標準化キムチとほぼ類似であった。4日目の適熟期を経て、キトサンを添加したキムチはさらに速く発酵が進み、発酵7日目になると、pHは類似の値を示した。また、酸度の変化においても、最初は不溶性キトサン含有キムチの酸度が水溶性キトサン含有キムチの酸度より著しく低かったが、発酵が進むにつれて、酸度変化は類似であった。前述したように、発酵の初期にキトサンの添加によってキムチの発酵速度が遅くなるが、これはキトサンが初期発酵を抑制する効果のためであると思われる。
【0116】
また、表24に示すように、白菜を漬け込む塩水におけるキトサン濃度が0.05%、0.15%、0.3%、0.5%に増加するにつれて、pHの減少がゆっくりなされた。0.3%のキトサン含有塩漬け液で漬けた白菜を用いて製造したキムチの場合、発酵15〜25日目までpH4.2〜4.4、酸度0.6〜0.7%を維持し、0.5%のキトサン含有塩漬け液で漬けた白菜を用いて製造したキムチの場合、35日目になって初めて適熟期に到達し、35日目になってもpHは4.0以下に減少しなかった。これは標準化キムチの発酵様相と比較するときに貯蔵性が増加し、可食期間が長くなることが分かる。これに対し、0.05%および0.15%のキトサン含有塩漬け液で漬けた白菜を用いて製造したキムチの場合は、標準化キムチと類似の時期に適熟期に到達した。
【0117】
また、表25に示すように、塩で漬けた白菜をキトサン含有濯ぎ液で濯いでから製造したキムチも、15日に適熟期に到達したことからみて、標準化キムチより貯蔵性が増加することが分かる。ところが、キトサン添加濃度間には差異を示していない。
【0118】
また、表26に示すように、水溶性/不溶性キトサン含有(0.1、0.25、1.5%)薬味を用いて製造したキムチは、15日に適熟期に到達し、0.5%の水溶性/不溶性キトサンを含有した薬味を用いて製造したキムチは、標準化キムチと同様に10日目に適熟期(pH4.34)に到達したことを確認した。酸度もpHと類似の傾向を示し、水溶性/不溶性キトサン含有薬味を用いて製造したキムチが標準化キムチより増加した貯蔵性を示すことが分かる。ところが、キトサン添加濃度間には差異を示していない。
【0119】
前記pHと酸度の変化を観察した結果、キトサン含有塩漬け液で漬けた白菜を用いて製造したキムチが、塩漬けにした白菜をキトサン含有濯ぎ液で濯いでから製造したキムチと水溶性/不溶性キトサン含有薬味を用いて製造したキムチと比較して最も優れた貯蔵性および保存性を示した。
【0120】
前述したように、キトサン含有キムチは、キトサンがキムチをゆっくり発酵させて、その貯蔵性および保存性を増加させる役割を果たすことにより、標準化キムチに比べて適熟期への到達期間が長くて発酵がゆっくり起るようにして、これにより貯蔵安定性に優れたことが分かる。
【0121】
5−2.キムチ発酵中の乳酸菌数の測定
実施例2〜5で製造したキトサン含有キムチがキムチ乳酸菌、すなわちロイコノストック属(Leuconostoc sp.)およびラクトバチルス属(Lactobacillus sp.)の成長に及ぼす影響を観察した。
【0122】
キムチは、発酵初期にロイコノストック属(Leuconostoc sp.)乳酸菌が生成されながらキムチの味と風味を良くするうえ、雑菌である好気性細菌の繁殖を抑制させ、さっぱりした味を出すが、発酵が進むにつれて、酸っぱい味を出すラクトバチルス属(Lactobacillus sp.)乳酸菌が増加し、pHは減少し、酸度は増加する。
【0123】
キムチ発酵中の乳酸菌数は、平板計数法(plate count technique)を用いて測定した。キムチ発酵熟成中の微生物菌数の変化は、混合液1mLを滅菌した蒸留水で段階的に10〜10まで希釈し、各希釈液中の0.1mLずつを予め加熱融解して43〜45℃に冷却したMRS培地10mLに仕込んで混合した後、ペトリー皿に平板を作り、37℃の培養器で48時間培養して、現れたコロニー数を数えて乳酸菌数として測定した。培地は乳酸菌の分離に主に使われるMRS寒天培地を使用した。MRS寒天培地の組成は表27に示した。ラクトバチルス(Lactobacillus)培地は、ラクトバチルス選択培地(LBS培地)にペディオコッカス(Pediococcus)の生育を抑制するために酢酸と酢酸ナトリウムを添加した改質LBS寒天培地(m−LBS培地、表28)を用いて30℃で3日間平板培養した。ロイコノストック(Leuconostoc)選択培地として、フェニルエチルアルコールとスクロースを添加したフェニルエチルアルコールスクロース寒天培地(PES培地、表29)を用いて20℃で3日間平板培養した。
【0124】
キトサン含有キムチ(実施例2)の15℃における発酵中のロイコノストック属(Leuconostoc sp.)およびラクトバチルス属(Lactobacillus sp.)の数変化は図5に示し、キトサン含有塩漬け液で漬けた白菜を用いて製造したキムチ(実施例3)の4℃における発酵中のロイコノストック属(Leuconostoc sp.)およびラクトバチルス属(Lactobacillus sp.)の数変化は図6に示し、塩漬けにした白菜をキトサン含有濯ぎ液で濯いでから製造したキムチ(実施例4)の4℃における発酵中のロイコノストック属(Leuconostoc sp.)およびラクトバチルス属(Lactobacillus sp.)の数変化は図7に示し、キトサン含有薬味を用いて製造したキムチ(実施例5)の4℃における発酵中のロイコノストック属(Leuconostoc sp.)およびラクトバチルス属(Lactobacillus sp.)の数変化は図8に示した。
【0125】
【表27】

【0126】
【表28】

【0127】
【表29】

【0128】
図5〜図8に示すように、本発明に係るキトサン含有キムチは、ロイコノストック属(Leuconostoc sp.)およびラクトバチルス属(Lactobacillus sp.)乳酸菌の成長速度を抑制させて優れた貯蔵性および保存性を示すことが分かる。
【0129】
実験例6:キトサン含有キムチの組織感の測定
本発明に係るキトサン含有キムチの貯蔵期間中の組織感を確認するために、下記の実験を行った。
【0130】
3週および4週発酵した、実施例3で製造したキムチ(0.3%および0.5%キトサン含有塩漬け液を使用)を10cmずつ切って試片として準備し、この試片の切断強度を測定して組織感を判断した。その結果は表30に示した。
【0131】
【表30】

【0132】
表30に示すように、本発明に係るキトサン含有キムチは標準化キムチより非常に優れた組織感を持つことが分かる。
【0133】
実験例7:キトサン含有塩漬け液で漬けた塩漬け白菜、およびこれを用いて製造したキムチのキトサン含量の測定
本発明に係るキトサン含有塩漬け液で漬けた塩漬け白菜、およびこれを用いて製造したキムチのキトサン含量を確認するために、下記の実験を行った。
【0134】
実施例3で0.3%および0.5%キトサン含有塩漬け液で漬けた塩漬け白菜、および前記塩漬け白菜を用いて製造したキムチのキトサン含量を測定した。その結果は表31に示した。
【0135】
【表31】

【0136】
表31に示すように、キトサン含有塩漬け液で漬けた塩漬け白菜およびこれを用いて製造したキムチは、塩漬け濃度によってキトサンが塩漬け白菜に含浸され、これによりキムチの組織感を改善させ、食餌繊維自体の機能性を補完する。すなわち、植物性セルロースは陰(−)電荷の食餌繊維であるが、キトサンは陽(+)電荷の食餌繊維であるため、キトサンが塩漬け物に適量含浸混入されると、陽性食餌繊維になってキムチの植物性セルロースの構造が緻密になるので、キムチの組織感を改善させ且つ食餌繊維自体の機能性を補完するものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】DPPH自由ラジカルに対する水溶性キトサンの抗酸化効果を示す図である。
【図2】DPPH自由ラジカルに対する不溶性キトサンの抗酸化効果を示す図である。
【図3】Salmonella typhimurium TA100で直接突然変異源としてのMNNG(0.4μg/plate)によって誘発された突然変異に対するキトサン含有キムチのメタノール抽出物の抗突然変異効果を示す図である。
【図4】Salmonella typhimurium TA100で間接突然変異源としてのAFB(0.5μg/plate)によって誘発された突然変異に対するキトサン含有キムチのメタノール抽出物の抗突然変異効果を示す図である。
【図5】キトサン含有キムチ(実施例2)の15℃での発酵中におけるロイコノストック属(Leuconostoc sp.)およびラクトバチルス属(Lactobacillus sp.)の数の変化を示す図である。
【図6】キトサン含有塩漬け液で漬けた白菜を用いて製造したキムチ(実施例3)の4℃における発酵中のロイコノストック属(Leuconostoc sp.)およびラクトバチルス属(Lactobacillus sp.)の数変化を示す図である。
【図7】塩漬けにしたキムチをキトサン含有濯ぎ液で濯いでから製造したキムチ(実施例4)の4℃における発酵中のロイコノストック属(Leuconostoc sp.)およびラクトバチルス属(Lactobacillus sp.)の数変化を示す図である。
【図8】キトサン含有薬味を用いて製造したキムチ(実施例5)の4℃における発酵中のロイコノストック属(Leuconostoc sp.)およびラクトバチルス属(Lactobacillus sp.)の数変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50〜90%の脱アセチル化度および1〜10cPの粘度を持つ水溶性キトサン、60〜100%の脱アセチル化度および8〜80cPの粘度を持つ不溶性キトサン、並びにその食品学的に許容される塩よりなる群から選ばれたいずれか一つまたは一つ以上の組み合わせである、抗菌、抗酸化、抗突然変異および抗癌活性に優れた塩漬け用キトサン粉末。
【請求項2】
前記食品学的に許容される塩は塩酸塩、酢酸塩、クエン酸塩および乳酸塩よりなる群から選ばれたいずれか1種であることを特徴とする、請求項1に記載の塩漬け用キトサン粉末。
【請求項3】
請求項1または2に記載の塩漬け用キトサン粉末を塩漬け液の総重量に対して0.2〜1.0重量%含む塩漬け液。
【請求項4】
請求項3に記載の塩漬け液に蔬菜類を漬け込んで製造した塩漬け物。
【請求項5】
前記蔬菜類は白菜、若大根、大根、胡瓜、玉葱、大蒜および唐辛子よりなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、請求項4に記載の塩漬け物。
【請求項6】
前記塩漬け物は塩漬け物の総重量に対して0.05〜0.25重量%のキトサンが含浸されたことを特徴とする、請求項4に記載の塩漬け物。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の塩漬け物を用いて製造したキムチ。
【請求項8】
請求項1または2に記載の塩漬け用キトサン粉末をキムチの総重量に対して0.01〜1.5重量%含むキムチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−278964(P2009−278964A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239594(P2008−239594)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(508281664)クムホ ケミカル プロダクツ カンパニー、リミテッド (1)
【Fターム(参考)】