説明

塩素濃度測定方法

【課題】樹脂中の塩素濃度を蛍光X線分析で正確に測定することが可能な塩素濃度測定方法を提供する。
【解決手段】本発明の塩素濃度測定方法は、真空中での蛍光X線分析により樹脂中の塩素濃度を測定する方法であって、対陰極としてロジウムを用いて発生させたX線を、クロム測定用フィルタ23を通して測定試料Sに照射し、測定試料Sとの比重差が0.15以内の標準試料を用いて作成した検量線に基づき、照射により測定試料Sから発生した蛍光X線の強度から塩素濃度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂そのものや樹脂を基材として接着剤を貼り合わせたフィルムなどの塩素濃度を測定する塩素濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂や、樹脂を基材として接着剤を貼り合わせた二層以上から構成されたフィルムは、その含有塩素濃度が一定値(例えば900ppm)より低く製造することが求められる。
従来はイオンクロマトグラフィーによりこの塩素濃度を測定していたが、前処理を要するため、測定に時間がかかっていた。
そこで、近年では、蛍光X線分析装置を用いて短時間で樹脂中の塩素濃度を測定する試みがなされている。
【0003】
特許文献1には、PVC(ポリ塩化ビニル)等のプラスチック中に含まれる塩素の濃度を二次X線の検出により測定する技術が記載されている。この技術では、塩素を含む所定のプラスチックと含まない所定のプラスチックとから作成した検量線を使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−83762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術をはじめ従来の技術では、測定物に照射する一次X線の対陰極(ターゲット)として、ロジウムを使用した場合、X線の発生源であるロジウム由来のロジウムも検出されるため、ロジウムのピークが異常に大きくなる。そして、その影響でロジウムのピークの周辺にピークを有する元素である塩素については正確に定量できず、結果として、イオンクロマトグラフィーでは非検出だった塩素が蛍光X線分析では多量に誤検出されてしまうことになる。
【0006】
本発明は、上述のような実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、樹脂中の塩素濃度を蛍光X線分析で正確に測定することが可能な塩素濃度測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の塩素濃度測定方法は、真空中での蛍光X線分析により樹脂中の塩素濃度を測定する方法であって、対陰極としてロジウムを用いて発生させたX線を、クロム測定用フィルタを通して測定試料に照射し、測定試料との比重差が0.15以内の標準試料を用いて作成した検量線に基づき、照射により測定試料から発生した蛍光X線の強度から塩素濃度を算出することを特徴とする。
また、上記の樹脂が基材と接着剤とを貼り合わせた2層以上の構成のフィルムであり、片面が接着剤の層である場合、接着剤側からX線を照射するようにするとよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、対陰極としてロジウムを用いたX線管から発生させたX線に対してクロム測定用フィルタを用い、且つ測定試料との比重差が0.15以内の標準試料を用いて作成した検量線を用いることで、樹脂中の塩素濃度を蛍光X線分析で正確に測定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の塩素濃度測定方法で測定を行うための蛍光X線分析装置の一構成例を示す図である。
【図2】対陰極としてロジウム(Rh)を用い且つフィルタ無しでX線を樹脂に照射した場合の、塩素(Cl)の検出結果を示す図である。
【図3】対陰極としてロジウム(Rh)を用い且つカドミウム測定用フィルタを介してX線を樹脂に照射した場合の、塩素(Cl)の検出結果を示す図である。
【図4】対陰極としてロジウム(Rh)を用い且つ鉛測定用フィルタを介してX線を樹脂に照射した場合の、塩素(Cl)の検出結果を示す図である。
【図5】対陰極としてロジウム(Rh)を用い且つクロム測定用フィルタを介してX線を樹脂に照射した場合の、塩素(Cl)の検出結果を示す図で、本発明の塩素濃度測定方法による検出結果を示す図である。
【図6】本発明の塩素濃度測定方法で測定した試験例と従来の塩素濃度測定方法で測定した比較例とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の塩素濃度測定方法は、真空中での蛍光X線分析により樹脂中の塩素濃度を測定する方法である。この測定には、次に説明する蛍光X線分析装置が用いられる。
図1の蛍光X線分析装置は、X線発生器20と蛍光X線検出器30とを備える。X線発生器20は、X線管球21、シャッタ22、及びクロム測定用フィルタ23が設けられると共に、クロム測定用フィルタ23を透過した一次X線を平行ビームにして試料に照射する一次コリメータ24も設けられている。
【0011】
X線管球21では、対陰極(ターゲット)としてロジウムを用いるものとする。クロム測定用フィルタ23としては、例えば、V(バナジウム)〜Zn(亜鉛)の分析にて、バックグラウンドを下げるチタン製フィルタ等が挙げられる。シャッタ22は、X線が外部に漏洩しないように人体の安全を確保するために取り付けられている。
例示した以外のX線発生器20を用いてもよいが、ターゲットとしてはロジウムを用い、クロム測定用フィルタ23を透過させたX線を一次X線として、試料に照射させるものとする。
【0012】
一方、蛍光X線検出器30は、一次X線が照射された試料から余計なX線が入射してこないようにする二次コリメータ32と、その出力を受けて蛍光X線のエネルギー及び強度を検出する検出器31とを有する。また、検出器31は、検出結果を出力するための表示部又は外部の表示装置(図示せず)などに接続されている。コリメータ24,32は設置しなくてもよいが、正確な検出のためには設置することが望ましい。
【0013】
また、この蛍光X線分析装置の筐体は、主に下筐部11と上筐部13でなる。下筐部11は、底面部11a,11b,11f,11gと、X線発生器20が取り付けられた傾斜部11cと、蛍光X線検出器30が取り付けられた傾斜部11eと、傾斜部11cと傾斜部11eとの間を結ぶ底面部11dとを有する。上筐部13は、上面部と側面部とでなり、下筐部11の底面部11b,11fを覆うように設けられている。
【0014】
さらに、この蛍光X線分析装置は、底面部11fにおいて円盤状のターンテーブル16の回転軸15が設置されており、主にこのターンテーブル16と底面部11b及び上筐部13とにより試料室の空間が形成されている。また、試料室には、底面部11bの端側の位置に排気口12も設けられている。なお、排気口12は、上筐部13に設けられていてもよい。
【0015】
ターンテーブル16は、連続測定を可能にするための円盤状のテーブルであり、少なくとも2つの試料設置用の照射穴17,18が設けられている。測定試料Sを測定する場合には、回転軸15を中心としてターンテーブル16を回転させ、測定試料Sがセットされた照射穴17が一次コリメータ24の光軸に合うように移動させる。一方で、標準試料Rを測定する場合には、ターンテーブル16を回転させることで、別の照射穴18にセットされた標準試料Rを一次コリメータ24の光軸に合うように(つまり図1において照射穴17の位置に)移動させる。ここで、照射穴18に標準試料Rではなく測定試料Sをセットすることで、測定試料Sを連続測定することも可能である。
【0016】
本発明では、このような蛍光X線分析装置を用い、測定試料Sとしての樹脂についてその樹脂中の塩素濃度を測定する。このような樹脂としては、PET(ポリエチレンテレフタラート)、ナイロン、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、LCP(液晶ポリマー)等が挙げられる。
【0017】
この測定では、上述のようにターゲットとしてロジウムを用いてX線管球21から発生させたX線を、クロム測定用フィルタ23を通して測定試料Sに照射する。そして、検出器31が、照射により測定試料Sから発生した蛍光X線(固有X線、二次X線とも言う)の強度から、検量線に基づき塩素濃度を算出する。蛍光X線は元素毎に固有のエネルギーを持っているため定性分析ができ、また、蛍光X線の強度から定量分析ができる。
【0018】
ここで、本発明で用いる検量線は、測定試料Sとの比重差が0.15以内の標準試料Rを用いて作成したものとする。標準試料Rは一つからでも検量線を作成することが可能であるが、予め異なる濃度の既知試料を複数用意しておき、照射穴18に載置する標準試料Rを入れ換えながらデータを取得していき、検量線を作成すればよい。このような標準試料Rを使用することで、より精度の高い塩素濃度の測定ができる。
【0019】
図2〜図5を参照しながら、本発明の効果について説明する。
図2は、対陰極としてロジウムを用い且つフィルタ無しでX線を樹脂に照射した場合の、塩素の検出結果を示す図である。また、図3、図4、図5はそれぞれ、対陰極としてロジウムを用い且つカドミウム測定用フィルタ、鉛測定用フィルタ、クロム測定用フィルタを介してX線を樹脂に照射した場合の、塩素の検出結果を示す図である。図5は、本発明の塩素濃度測定方法による検出結果を示す図に該当する。
【0020】
図2〜図5では、蛍光X線分析装置として、JEOL(日本電子株式会社)のJSX−3202EVを用い、いずれもPEをベースとした810ppmの塩素を含む既知の試料を測定試料Sとして分析した結果を示している。JSX−3202EVにはカドミウム、鉛、クロムを測定する際に使用するフィルタが取り付けられており、図3〜図5では個々のフィルタを使い分けて分析を行っている。図2ではフィルタを外した状態での分析結果を示している。なお、カドミウム、鉛、クロム測定用フィルタを全て具備してそれらの切り換えを可能に構成した蛍光X線分析装置を用いているが、本発明で用いる蛍光X線分析装置では、少なくともクロム測定用フィルタ(元素の周期表のバナジウム(原子番号23)から亜鉛(原子番号30)までの元素の分析にてバックグランドを下げるチタン製フィルタ等)が具備されていればよい。
【0021】
一次X線のターゲットとしてロジウムを使用しているため、測定試料Sに一次X線を照射して発生する二次X線を測定すると、ロジウムのピークの影響を受ける。
従って、フィルタ無しの場合には、図2に示すようにロジウムのピークが出現する波長領域に塩素のピークが出現する波長領域が重なってしまう。測定試料Sが塩素を微量に含む樹脂である場合には、ロジウムのピークに塩素のピークが隠れるため塩素のピークが確認できず、検出結果としては、塩素がロジウム分も含め多量に誤検出される。
また、カドミウム測定用フィルタを用いた場合、図3に示すようにロジウムのピークが除去されるが塩素のピークも除去されてしまう。鉛測定用フィルタを用いた場合には、図4に示すようにロジウムのピークが除去されるが塩素のピークも軽減されてしまう。
【0022】
これに対し、本発明のようにクロム測定用フィルタ23を用いた場合、図5に示すようにロジウムのピークが除去されて塩素のピークのみ検出でき、誤検出を防ぐことができる。なお、図2〜図5は、上述のようにPEをベースとした810ppmの塩素を含む既知の試料の分析結果であるが、塩素を含む他の試料でも同様の傾向が見られる。
【0023】
次に、測定試料Sが基材と接着剤を貼り合わせた2層以上から構成されるフィルムである場合の塩素濃度測定方法について説明する。このような基材としては、上述したようにPET、ナイロン、PP、PE、LCP等が挙げられ、この他にカード状のフレキシブルフラットケーブルも挙げられる。
【0024】
上述のようなフィルムの場合には、接着剤を塗布していない方、つまり基材側から一次X線を当てると、ターゲットとして用いるロジウムのピークの影響で正しく測定できない。しかしながら、接着剤を塗布している方からX線を当てることにより、ロジウムのピークが除去され、塩素の含有の有無を確認することができる。
このように、測定試料Sとしての樹脂が上述のようなフィルムであり、片面が接着剤の層である場合、接着剤側から一次X線を照射して、フィルムから発生する二次X線を検出することが好ましい。
【実施例】
【0025】
図6は、本発明の塩素濃度測定方法で測定した試験例と従来の塩素濃度測定方法で測定した比較例とを示す図である。ここでは、蛍光X線分析装置としてJSX−3202EVを用い、且つ真空中でクロム測定用フィルタを使用して測定した結果を、XRF分析によるCl分析値として示すと共に、実際のCl含有量としてイオンクロマトグラフィーでの測定結果も示している。
【0026】
試験例1は、比重1.5のハロゲンフリーペレットを測定試料Sとし、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂)にPVCをグラフト重合させて水酸化マグネシウムを添加したもの(以下、EVA/水マグ/PVCと言う)を標準試料Rとして試験したものである。この標準試料Rは、測定試料Sの比重と同じものを用いた。その結果、本発明による分析が実際のCl含有量と大差ない分析値が出た。
【0027】
試験例2は、比重0.98のオレンジ色カラーマスターバッチを測定試料Sとし、比重差が0.15以内である比重0.92のPEを標準試料Rとして試験したものである。その結果、この試験例2でも、本発明による蛍光X線分析が実際のCl含有量と大差ない分析値がでた。これに対し、比較例1は、試験例2において標準試料Rの比重を比重差が0.15より大きくした例である。比較例1では、実際のCl含有量とかけ離れた分析値が出て、多量の誤差が生じた。
【0028】
試験例3、比較例2は、基材としてのPETにハロゲンフリーの接着剤を貼り合わせた比重1.65のフィルムを測定試料Sとし、比重差が0.15以内である比重1.5のEVA/水マグ/PVCを標準試料Rとして試験したものである。このフィルムには接着剤に塩素が含まれている。試験例3では、接着剤側に一次X線を照射して測定を行ったのに対し、比較例2ではPET側に一次X線を照射して測定を行った。その結果、比較例では実際のCl含有量と大幅に異なる分析結果が出たが、試験例3では実際のCl含有量と大差ない分析結果が出た。
【0029】
試験例3と比較例2から、上述のようなフィルムを測定する場合には接着剤側から一次X線を照射すると良い分析結果が出ることが確認できた。また、加えて試験例1、試験例2と比較例1も併せて考察すると、標準試料Rは測定試料Sとの比重差が小さいと良い分析結果が得られることも確認できた。試験例3では標準試料と測定試料の比重差が0.15以下が良いと分かる。
【0030】
以上、本発明の塩素濃度測定方法を実施するに際し、図1の構成例のようにエネルギー分散型の蛍光X線分析装置を使用する例を挙げたが、波長分散型であってもよく、その場合、測定試料Sからの蛍光X線を分光するX線分光器を、蛍光X線検出器30の前段に設けておけばよい。
【符号の説明】
【0031】
11…下筐部、11a,11b,11d,11f,11g…底面部、11c,11e…傾斜部、12…排気口、13…上筐部、15…回転軸、16…ターンテーブル、17,18…照射穴、20…X線発生器、21…X線管球、22…シャッタ、23…クロム測定用フィルタ、24…一次コリメータ、30…蛍光X線検出器、31…検出器、32…二次コリメータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空中での蛍光X線分析により樹脂中の塩素濃度を測定する塩素濃度測定方法であって、
対陰極としてロジウムを用いて発生させたX線を、クロム測定用フィルタを通して測定試料に照射し、
前記測定試料との比重差が0.15以内の標準試料を用いて作成した検量線に基づき、照射により前記測定試料から発生した蛍光X線の強度から塩素濃度を算出することを特徴とする塩素濃度測定方法。
【請求項2】
前記樹脂が基材と接着剤とを貼り合わせた2層以上の構成のフィルムであり、片面が接着剤の層である場合、前記接着剤側から前記X線を照射することを特徴とする請求項1に記載の塩素濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−40867(P2013−40867A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178703(P2011−178703)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】