説明

塩酸アンブロキソール含有内服用固形製剤

【課題】 塩酸アンブロキソールの経時的分解が顕著に抑制され、製品価値の高い内服用固形製剤及びその製造方法を提供することにある。より詳細には、去痰剤である塩酸アンブロキソールとかぜの諸症状に効果のあるビタミンB1類およびアスコルビン酸またはその塩からなる群より選択される1種以上を含有する、塩酸アンブロキソールの安定化された内服用固形製剤を提供する。
【解決手段】(A)塩酸アンブロキソール及び(B)ビタミンB1類およびアスコルビン酸またはその塩からなる群より選択される1種以上を含有し、(A)と(B)の少なくとも一方が造粒物であることを特徴とする内服用固形製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化された塩酸アンブロキソール含有内服用固形製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般用医薬品(OTC)の分野においては、如何に効果的に風邪の諸症状を除去等するかが薬剤開発において重要である。風邪症候群のうち、特に痰の喀出(去痰)を図ることは、患者の負担が軽減されるため大変重要である。
【0003】
塩酸アンブロキソールは、気道粘膜潤滑作用及び粘液溶解作用を有し、優れた去痰作用を有する化合物として広く知られている薬物である。従来、塩酸アンブロキソールの去痰作用を増強させるとして、粘液分泌促進作用を有する生薬と組み合わせて痰の喀出(去痰)を容易にすることが知られている(特許文献1)。また、塩酸アンブロキソールにシャゼンソウとノスカピンを配合すると、それぞれ単独または2種類の成分の場合と比較して去痰効果が向上することが知られている(特許文献2)。また、ビタミンC類と組み合わせることで、塩酸アンブロキソールの粘液溶解効果を高め、去痰効果が増強されることが知られている(特許文献3)
【特許文献1】特開平08-337532
【特許文献2】特開平10-072359
【特許文献3】特開2001-181206
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かぜ薬に汎用される解熱鎮痛剤、抗ヒスタミン剤、鎮咳剤、中枢興奮剤およびビタミン剤などとともに、去痰剤として塩酸アンブロキソールを配合し、さらに内服用固形製剤に汎用される添加剤を配合して製剤を製造したところ、塩酸アンブロキソールの含量が経時的に低下するという驚くべき知見を得た。さらに研究を進めた結果、意外にも塩酸アンブロキソールは、ビタミンB1類およびアスコルビン酸またはその塩からなる群より選択される1種以上の薬剤と配合禁忌であることを見出した。
【0005】
本発明の目的は、塩酸アンブロキソールの経時的分解が顕著に抑制され、製品価値の高い内服用固形製剤及びその製造方法を提供することにある。本発明のさらに他の目的は、塩酸アンブロキソールとビタミンB1類およびアスコルビン酸またはその塩からなる群より選択される1種以上を配合するにも拘わらず、塩酸アンブロキソールが安定化された内服用固形製剤およびその製造方法を提供することにある。本発明のさらに他の目的は、塩酸アンブロキソールとビタミンB1類およびアスコルビン酸またはその塩からなる群より選択される1種以上の薬剤とを効率よく安定化できる安定化方法を提供することにある。本発明のさらに他の目的は、塩酸アンブロキソールの配合された総合感冒薬などのかぜ薬製剤として、有用な内服用固形製剤およびその製造方法を提供することにある。
【0006】
今までに塩酸アンブロキソールとビタミンB1類及びアスコルビン酸またはその塩からなる群より選択される1種以上を配合した内服用固形製剤において、充分実用性のある安定化された製剤について報告された例はない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために塩酸アンブロキソールを配合した内服用固形製剤の安定化を図るべく安定化手段を種々試み検討を行ったところ、(A)塩酸アンブロキソールと(B)ビタミンB1類およびアスコルビン酸またはその塩からなる群より選択される1種以上の少なくとも一方を造粒物とすると、塩酸アンブロキソールの安定化が著しく図れ、安定性の高い製剤が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は(1)(A)塩酸アンブロキソール及び(B)ビタミンB1類およびアスコルビン酸またはその塩からなる群より選択される1種以上を含有し、(A)と(B)の少なくとも一方が造粒物であることを特徴とする内服用固形製剤、(2)(A)塩酸アンブロキソール及び(B)ビタミンB1類およびアスコルビン酸またはその塩からなる群より選択される1種以上を含有し、塩酸アンブロキソールを安定化する方法、(3)(A)塩酸アンブロキソールと、(B)ビタミンB1類およびアスコルビン酸またはその塩からなる群より選択される1種以上を含有し、塩酸アンブロキソールを安定化させるために(A)と(B)の少なくとも一方を造粒して製造することを特徴とする、内服用固形製剤の製造方法を提供するものである。
【0009】
本発明の製剤中における塩酸アンブロキソールの効果は、ビタミンB1類およびアスコルビン酸またはその塩からなる群より選択される1種以上の成分と直接接触しないという理由、またこれら成分の分解物などにより影響を受けることがないために生じると推定される。このような知見は今までに報告された例はない。
【0010】
本発明は、塩酸アンブロキソールは、ビタミンB1類およびアスコルビン酸またはその塩からなる群と直接接触しない限り、塩酸アンブロキソールを安定化できる。特に、(A)と(B)の少なくとも一方を造粒物とすることで、両者の直接的な接触を効果的に防ぐことができる。すなわち、塩酸アンブロキソールと、ビタミンB1類およびアスコルビン酸またはその塩からなる群より選択される1種以上の少なくとも一方を造粒して製造することで、塩酸アンブロキソールを安定化する。
【0011】
本発明の内服用固形製剤中における塩酸アンブロキソールの配合量は、その薬効を示す量であれば特に限定されるものではないが、通常0.5〜10重量%、好ましくは1.0〜3.0重量%配合するのが好ましい。
【0012】
また(A)には、塩酸アンブロキソールの他に、アセトアミノフェン、イブプロフェン等の解熱鎮痛剤、リン酸ジヒドロコデイン等の鎮咳剤、マレイン酸クロルフェニラミン、マレイン酸カルビノキサミン等の抗ヒスタミン剤、dl-塩酸メチルエフェドリン等の気管支拡張剤、無水カフェイン等の中枢興奮剤などの有効成分、賦形剤、崩壊剤、結合剤を配合しうる。これらは、通常内服用固形製剤に用いられる有効量を配合すればよい。
【0013】
本発明で用いるビタミンB1類としてはチアミン、塩酸チアミン、硝酸チアミン、ビスイブチアミンなどのビタミンB1誘導体などが挙げられるが、硝酸チアミン、ビスイブチアミンが好ましい。本発明の内服用固形製剤中におけるビタミンB1類の配合量は、通常0.5〜2.0重量%、特に0.6〜0.9重量%配合するのが好ましい。また、塩酸アンブロキソールとビタミンB1類の配合比(重量比)は、1:0.01〜30、特に1:1.2〜3.0の配合比が、塩酸アンブロキソールの安定性の面で好ましい。
【0014】
また、本発明で用いるアスコルビン酸またはその塩としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸マグネシウム等が挙げられるが、特にアスコルビン酸とアスコルビン酸カルシウムが好ましい。本発明の内服用固形製剤のアスコルビン酸またはその塩の配合量は、通常5.0〜40重量、特に13〜17重量%配合するのがよい。また、塩酸アンブロキソールとアスコルビン酸またはその塩の配合比は、1:0.1〜30、特に1:0.3〜1.0の配合比が、塩酸アンブロキソールの安定性の面で好ましい。
【0015】
また(B)には、ビタミンB1類およびアスコルビン酸またはその塩からなる群より選択される1種以上の成分の他に、アセトアミノフェン、イブプロフェン等の解熱鎮痛剤、リン酸ジヒドロコデイン、ノスカピン等の鎮咳剤、マレイン酸クロルフェニラミン、マレイン酸カルビノキサミン等の抗ヒスタミン剤、dl-塩酸メチルエフェドリン等の気管支拡張剤、無水カフェイン等の中枢興奮剤などの有効成分、賦形剤、崩壊剤、結合剤を配合しうる。これらは、通常内服用固形製剤に用いられる有効量を配合すればよい。
【0016】
ここで、(A)または(B)を造粒物とする方法であればその造粒方法は限定されず、その剤形に応じて、任意の慣用の方法、例えば攪拌造粒、流動層造粒、押し出し造粒、転動流動造粒、乾式造粒などの方法を採用すればよい。これらは一般的な製剤機器を用いて製剤化を行うことができる。具体的には、例えば(A)及び(B)をそれぞれ別々に混合・粉砕し造粒を行った後、(A)と(B)を混合して製造する。また、(A)のみ造粒する場合は、(A)を混合・粉砕し、造粒を行った後、(B)を添加して製造する。また(B)のみ造粒する場合は、(B)を混合・粉砕し、造粒を行った後、(A)を添加して製造する。
【0017】
上記のように造粒した後、造粒物を被覆しても良い。また、その造粒物に適宜有効成分や賦形剤などの慣用の製剤添加剤を配合し、混合物を打錠すれば錠剤を得ることができる。造粒物を用いて市販の積層錠剤機により2層の錠剤としてもよい。製剤の剤形は、これらに限定されず、散剤、細粒剤、顆粒剤、丸剤、錠剤(フィルムコーティング錠、積層錠を含む)、カプセル剤等の剤形を包含する。それぞれ必要に応じて有効成分、賦形剤、結合剤、崩壊剤、フィルムコーティング剤、滑沢剤、抗酸化剤、香料、および着色剤等の慣用の製剤添加剤を適当量配合しても良い。
【0018】
本発明の内服用固形製剤は、その剤形に応じて、通常の内服用固形製剤と同様に投与することができる。その投与量は、製剤の用途等によって異なるが、例えばかぜ薬製剤の場合、1日3回の投与で、一般的に成人(体重50kgとして)においては、一日につき塩酸アンブロキソールの投与量が約10mg〜50mg、好ましくは約30〜50mgとなることを基準とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、塩酸アンブロキソールの経時的分解が顕著に抑制され、製品価値の高い内服用固形製剤が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に比較例及び実施例を挙げ、本発明をより詳しく説明する。
【0021】
<試験例1>
表1に示す各成分および分量を秤量、混合し得られた物理混合物を蓋付ガラス瓶に入れて65℃で2週間保存後、塩酸アンブロキソールの安定性をHPLC法により評価した。結果を表2に示す。サンプル1、2、3および4は塩酸アンブロキソール含量に3%以上の低下が認められた。特に2、3、4は、塩酸アンブロキソール含量に10%以上の低下が認められた。特に3、4で顕著であり、その中でも4は約30%もの著しい低下が認められた。この結果から、アンブロキソールはビタミンB1類、アスコルビン酸またはその塩と配合禁忌であることが分かった。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【実施例】
【0024】
以下に、実施例、比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等により限定されるものではない。
実施例1
(処方)
(A)
塩酸アンブロキソール 45g
リン酸ジヒドロコデイン 10g
dl-塩酸メチルエフェドリン 60g
無水カフェイン 75g
マレイン酸クロルフェニラミン 7.5g
リボフラビン 4g
アスパルテーム 90g
ヒドロキシプロピルセルロース 144g
マンニトール 745g
結晶セルロース 150g
軽質無水ケイ酸 12g
(B)
リン酸ジヒドロコデイン 14g
アセトアミノフェン 900g
ノスカピン 48g
硝酸チアミン 24g
リボフラビン 5g
バレイショデンプン 300g
ヒドロキシプロピルセルロース 174g
マンニトール 106.5g
結晶セルロース 141g
軽質無水ケイ酸 9g
(A)、(B)の各成分および分量を秤量し均一に混合した後、得られた各々の混合粉末を湿式攪拌造粒法により造粒し、造粒物Aおよび造粒物Bを得た。得られた2種の造粒物とアスコルビン酸500g、リボフラビン3g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム30gおよび香料3gを混合した。この混合物を分包して1包重量1200mgの散剤を得た。
【0025】
実施例2
(処方)
(A)
塩酸アンブロキソール 45g
リン酸ジヒドロコデイン 7g
dl-塩酸メチルエフェドリン 60g
マレイン酸クロルフェニラミン 7.5g
リボフラビン 12g
ヒドロキシプロピルセルロース 40g
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 120g
結晶セルロース 250g
軽質無水ケイ酸 5g
(B)
リン酸ジヒドロコデイン 17g
アセトアミノフェン 900g
ノスカピン 48g
硝酸チアミン 24g
ヒドロキシプロピルセルロース 110g
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 170g
結晶セルロース 302.5g
軽質無水ケイ酸 10g
(A)、(B)の各成分および分量を秤量し均一に混合した後、得られた各々の混合粉末を湿式攪拌造粒法により造粒し、造粒物Aおよび造粒物Bを得た。得られた2種の造粒物と無水カフェイン75g、直打用アスコルビン酸515g、クロスカルメロースナトリウム90g、軽質無水ケイ酸27g、ステアリン酸マグネシウム適量および硬化油適量を混合した。この混合物を打錠して1錠重量320mgの錠剤を得た。
【0026】
実施例3
実施例1においてアスコルビン酸をアスコルビン酸カルシウムに置き換えた処方で、実施例1に準拠し、1包重量1200mgの散剤を得た。
【0027】
比較例2
実施例1において、AおよびBの成分を混合・造粒して1顆粒とし、実施例1に準拠し、1包重量1200mgの散剤を得た。
【0028】
比較例3
実施例3において、AおよびBの成分を混合・造粒して1顆粒とし、実施例1に準拠し、1包重量1200mgの散剤を得た。
【0029】
試験例2
実施例1、2および比較例2で製造した製剤を全て瓶に充填、密栓し、65℃で1週間保存後、塩酸アンブロキソールの安定性をHPLC法により評価した。
【0030】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0031】
去痰剤の配合された総合感冒薬などのかぜ薬製剤として、有用な内服用固形製剤およびその製造方法を提供することにある。より詳細には、去痰剤である塩酸アンブロキソールとかぜの諸症状に効果のあるビタミンB1類およびアスコルビン酸またはその塩からなる群より選択される1種以上を含有する、塩酸アンブロキソールの安定化された内服用固形製剤を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)塩酸アンブロキソール及び
(B)ビタミンB1類およびアスコルビン酸またはその塩からなる群より選択される1種以上を含有し、(A)と(B)の少なくとも一方が造粒物であることを特徴とする内服用固形製剤。
【請求項2】
ビタミンB1類が、硝酸チアミンまたはビスイブチアミンである請求項1記載の内服用固形製剤。
【請求項3】
アスコルビン酸またはその塩が、アスコルビン酸またはアスコルビン酸カルシウムである請求項1記載の内服用固形製剤。
【請求項4】
製剤中の塩酸アンブロキソールの配合量が1.0〜3.0質量%である請求項1記載の内服固形製剤。
【請求項5】
(A)塩酸アンブロキソール及び
(B)ビタミンB1類およびアスコルビン酸またはその塩からなる群より選択される1種以上を含有し、塩酸アンブロキソールを安定化する方法。
【請求項6】
(A)塩酸アンブロキソールと、(B)ビタミンB1類およびアスコルビン酸またはその塩からなる群より選択される1種以上を含有し、塩酸アンブロキソールを安定化させるために、(A)と(B)の少なくとも一方を造粒して製造することを特徴とする、内服用固形製剤の製造方法。

【公開番号】特開2006−117544(P2006−117544A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304212(P2004−304212)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】