説明

増大したデンプンリン酸化酵素活性を有する植物

本発明は、遺伝的に修飾された植物細胞および植物に関し、ここで遺伝的修飾は、遺伝的に修飾されていない対応する野生型植物細胞または野生型植物と比較して、OK1タンパク質のデンプンリン酸化活性の増大をもたらす。さらに本発明は、そのような植物細胞および植物を作製するための手段および方法に関する。これらの型の植物細胞および植物は、修飾デンプンを合成する。したがって、本発明はまた、本発明による植物細胞および植物から合成されたデンプン、これらのデンプンを作製する方法、およびこれらの修飾デンプンのデンプン誘導体の製造、ならびに本発明によるデンプンを含む穀粉に関する。さらに、本発明はまた、デンプンをリン酸化するOK1タンパク質をコードする核酸、そのような核酸分子を含むベクター、宿主細胞、植物細胞、および植物に関する。さらに本発明は、デンプンリン酸化活性を有するOK1タンパク質に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝的に修飾されていない対応する野生型植物細胞または野生型植物と比較して、デンプンリン酸化OK1タンパク質の活性が増大するように遺伝的に修飾された植物細胞および植物に関する。本発明はまた、そのような植物細胞および植物の作製のための手段および方法に関する。これらの型の植物細胞および植物は、修飾デンプンを合成する。したがって、本発明はまた、本発明による植物細胞および植物から合成されたデンプン、このデンプンの作製のための方法、およびこの修飾デンプンのデンプン誘導体の作製、ならびに本発明によるデンプンを含む穀粉に関する。
【0002】
さらに、本発明は、デンプンリン酸化OK1タンパク質をコードする核酸、そのような核酸分子を含むベクター、宿主細胞、植物細胞、および植物に関する。ここでの追加はまたデンプンリン酸化活性を示すOK1タンパク質を含む。
【0003】
再生可能な原料源としての植物構成成分に現在帰せられて増大している重要性に関連して、バイオテクノロジー研究の課題の1つは、これらの植物原料を加工産業の必要条件に合致するよう適応させる努力をすることである。さらに、できるだけ多くの応用分野で用いられることになる原料の再生を可能にするために、種々様々の材料を実現することが必要である。
【0004】
多糖類デンプンは、化学的に一定の基本成分、グルコース分子から構成されるが、種々の分子形の複雑な混合物を構成する。それらは重合と分岐の程度に関して差異を示し、したがってそれらの物理的・化学的特性において、互いに著しく異なる。
【0005】
α−1,4−グリコシド結合したグルコース単位から構成される本質的に分岐のないポリマーであるアミロースデンプンと、α−1,6−グリコシド結合が加わって分岐が形成される分岐ポリマーであるアミロペクチンデンプンとが区別されている。アミロースとアミロペクチン間のさらに本質的な差は分子量である。デンプンの起源に依存して、アミロースは5×105〜106Daの分子量を有するのに対し、アミロペクチンの分子量は107〜108Daである。2つの巨大分子を、その分子量および種々の物理的・化学的特性によって区別することができ、それらは異なるヨウ素結合特性によって、最も容易に可視化することができる。
【0006】
アミロースは長い間、α−1,4−グリコシド結合したα−D−グルコースモノマーから成る直鎖状ポリマーであると見なされてきた。最近の研究において、しかし、α−1,6−グリコシド分岐点(約0.1%)の存在が示された(Hizukuri and Takagi, Carbohydr. Res.134,(1984),1-10; Takeda et al., Carbohydr.Res. 132,(1984), 83-92)。
【0007】
デンプンの機能的持性、例えば溶解度、劣化挙動、水結合能力、被膜形成特性、粘性、糊化特性、凍結融解安定性、酸安定性、ゲル強度、およびデンプン粒のサイズ、などは、特に、例えば、アミロース/アミロペクチン比率、分子量、側鎖分布のパターン、イオン濃度、脂質およびタンパク質含有量、デンプンの平均粒子サイズ、デンプンの粒子形態、その他による影響を受ける。デンプンの機能的持性はまた、デンプンの非炭素成分であるリン酸含有量からも影響を受ける。ここで、共有結合によりモノエステルの形でデンプンのグルコース分子へ結合しているリン酸(以下にデンプンリン酸と記述する)、とリン脂質の形でデンプンに結合しているリン酸とを区別する。
【0008】
デンプンリン酸含量は、植物種によって変動する。したがって、あるトウモロコシ突然変異体は、例えば、増加したデンプンリン酸含量(モチトウモロコシ0.002%、および高アミローストウモロコシ0.013%)を有するデンプンを合成するが、従来型のトウモロコシは、痕跡量のデンプンリン酸のみを有する。同様に小量のデンプンリン酸がコムギ(0.001%)で見出される。しかし、エンバクとモロコシではデンプンリン酸が検出できなかった。イネの突然変異体では、同様に、イネの従来種中(0.013%)よりも少ないデンプンリン酸が見出された(モチゴメ0.003%)。有意な量のデンプンリン酸が、例えばタピオカ(0.008%)、サツマイモ(0.011%)、クズウコン(0.021%)またはジャガイモ(0.89%)のような、塊茎貯蔵または根茎貯蔵デンプンを合成する植物に検出された。上に引用されたデンプンリン酸含量の百分率による値は、各場合におけるデンプンの乾燥重量当たりを示し、Jane et al.(1996, Cereal Foods World 41(11), 827-832) によって決定された。
【0009】
デンプンリン酸は、重合されたグルコースモノマーのC−2、C−3またはC−6位置にモノエステルの形で存在することができる(Takeda and Hizukuri, 1971, Starch/ Staerke 23, 267-272)。植物によって合成されるデンプン中のデンプンリン酸のリン酸の分布は、一般にリン酸基の約30%から40%がグルコース分子のC−3位置に共有結合により結合されており、リン酸基の約60%から70%がC−6位置に共有結合により結合されているという事実により特徴付けられる(Blennow et al., 2000, Int. J. of Biological Macromolecules 27, 211- 218)。Blennow et al.(2000, Carbohydrate Polymers 41, 163-174) が、様々なデンプンのグルコース分子のC−6位置に結合しているデンプンリン酸含量を決定した。それは例えば、ジャガイモデンプン(デンプンmg当たり7.8〜33.5nmol、型に依存する)、様々なCurcuma種のデンプン(mg当たり1.8〜63nmol)、タピオカデンプン(デンプン mg当たり2.5nmol)、コメデンプン(デンプンmg当たり1.0nmol)、リョクトウデンプン(デンプン mg当たり3.5nmol)およびモロコシデンプン(デンプンmg当たり0.9nmol)などであった。この著者は、オオムギデンプンおよびトウモロコシの種々のモチ突然変異体のデンプン中には、C−6位置に結合されたデンプンリン酸を示すことができなかった。今までに、植物の遺伝子型とデンプンリン酸含量の間の関係を明らかにすることはできなかった(Jane et al., 1996, Cereal Foods World 41(11), 827-832)。したがって、現在、育種によって植物中のデンプンリン酸含量に影響を及ぼすことはできない。
【0010】
これまでに、デンプンのグルコース分子へのリン酸基の共有結合の導入を仲介するタンパク質がただ1つだけ報告された。科学文献中にしばしばR1と称されているこのタンパク質は、ジャガイモ塊茎中の貯蔵デンプンのデンプン粒に結合しており(Lorberth et al., 1998, Nature Biotechnology 16, 473-477)、α−グルカン水ジキナーゼ(E.C.02.07.09.4)酵素活性を有する。R1に触媒される反応において、遊離体α−1,4−グルカン(デンプン)、アデノシン三リン酸(ATP)および水が、生成物であるグルカンリン酸(リン酸化デンプン)、一リン酸およびアデノシン一リン酸に変換される。この場合、ATPのγリン酸残基は水に転移され、ATPのβリン酸残基はグルカン(デンプン)に転移される。R1は、インビトロでATPのβリン酸残基を、α−1,4−グルカンのグルコース分子のC−6およびC−3位置へ転移する。インビトロの反応で得られるC−6リン酸のC−3リン酸に対する比率が、植物から単離されるデンプン中に存在する比率に一致する(Ritte et al., 2002, PNAS 99, 7166-7171)。ジャガイモデンプン中に存在するデンプンリン酸の約70%がC−6位置で、また約30%が、C−3位置でデンプンのグルコースモノマーへ結合しているので、これはR1がグルコース分子のC−6の位置を好んでリン酸化することを意味する。さらに、トウモロコシのアミロペクチンを用いて、特に、R1がまだ共有結合で結合したリン酸を含んでいないα−1,4−グルカンをリン酸化することができることが示された(Ritte et al., 2002, PNAS 99, 7166-7171)、即ち、R1はα−1,4−グルカンへ新規にリン酸を導入することができる。
【0011】
R1タンパク質をコードする核酸配列およびそれに対応するアミノ酸配列が様々な種から記述されている。それらには、例えば、ジャガイモ(WO 97 11188、GenBank Acc.:AY027522、Y09533)、コムギ(WO 00 77229、US 6,462,256、GenBank Acc.:AAN93923、GenBank Acc.:AR236165)、イネ(GenBank Acc.:AAR61445、GenBank Acc.:AR400814)、トウモロコシ(GenBank Acc.:AAR61444、GenBankAcc.:AR400813)、ダイズ(GenBank Acc.:AAR61446、GenBankAcc.:AR400815)、カンキツ類(GenBank Acc.:AY094062)、およびArabidopsis(GenBank Acc.:AF312027)などの種がある。
【0012】
ジャガイモからのR1遺伝子の過剰発現の結果R1タンパク質の高い活性を示すコムギ植物について、WO 02 34923に記述されている。デンプンリン酸を検出することができなかった対応する野生型の植物と比較して、これらの植物は、グルコース分子のC−6位置に有意な量のデンプンリン酸を有するデンプンを合成する。
【0013】
共有結合により結合されたリン酸基をデンプンに導入する反応を触媒する更なるタンパク質は、これまでに報告されていない。デンプンのグルコース分子のC−3位置および/またはC−2位置に好ましくリン酸基を導入する酵素もまた知られていない。したがって、植物中のデンプンリン酸の含量を増加させることを別にして、植物によって合成されたデンプン内のリン酸分布を修飾し、および/またはデンプンリン酸の含量をさらに増加させて、植物中のデンプンのリン酸化に特異的に影響を及ぼすために利用できる方法がない。
【0014】
したがって、高いリン酸含量および/または修飾されたリン酸分布を有する修飾されたデンプンを合成する植物を生成するための方法および手段を提供すること、ならびにそのような修飾されたデンプンを合成する植物細胞および/または植物を提供することが本発明の目的である。
【0015】
この問題は、特許請求の範囲に記述された実施態様によって解決される。
【0016】
したがって本発明は、植物細胞または植物が、遺伝的に修飾されていない対応する野生型植物細胞または野生型植物と比較して少なくとも1つのOK1タンパク質の増大した活性を有していることを特徴とする、遺伝的に修飾された植物細胞および遺伝的に修飾された植物に関する。
【0017】
本発明の第1の局面は、遺伝的に修飾された植物細胞または植物であって、その遺伝的修飾が、遺伝修飾されなかった対応する野生型植物細胞または野生型植物と比較して、少なくとも1つのOK1タンパク質の活性の増大をもたらす、遺伝的に修飾された植物細胞または植物に関する。
【0018】
同時に、遺伝的修飾は、遺伝的に修飾されていない野生型植物細胞または野生型植物と比較して、少なくとも1つのOK1タンパク質の活性の増加をもたらす任意の遺伝的修飾でよい。
【0019】
本発明に関連して、用語「野生型植物細胞」とは、当該植物細胞を本発明による植物細胞作製用の出発物質として用いたことを、すなわちそれらの遺伝子情報が、導入された遺伝的修飾は別にして、本発明による植物細胞の遺伝子情報に一致することを意味する。
【0020】
本発明に関連して、用語「野生型植物」とは、当該植物を本発明による植物作製に出発物質として用いたことをすなわちそれらの遺伝子情報が、導入された遺伝的修飾は別にして、本発明による植物の遺伝子情報に一致することを意味する。
【0021】
本発明に関連して、用語「対応する」とは、いくつかの対象の比較において、互いに比較される当該対象が同じ条件に保たれてきたことを意味する。本発明に関連して、野生型植物細胞または野生型植物に関連して用語「対応する」とは、互いに比較される植物細胞または植物が、同一の栽培条件下で生育され、およびそれらが同じ(栽培)年齢を有すことを意味する。
【0022】
本発明の枠組みの中で、用語「少なくとも1つのOK1タンパク質の増大した活性」とは、この場合、OK1タンパク質をコードする内因性遺伝子の発現の増加、および/または細胞内のOK1タンパク質量の増加、および/または細胞内のOK1タンパク質の酵素活性の増加を意味する。
【0023】
発現の増加を、例えばOK1タンパク質をコードする転写物の量を、例えばノーザンブロット分析またはRT−PCRを用いて測定することにより、決定することができる。増加とは、遺伝的に修飾されていない対応する細胞と比較して、転写物の量の少なくとも50%の、好ましくは少なくとも70%の、より好ましくは少なくとも85%の、および最も好ましくは少なくとも100%の、増加を意味する。OK1タンパク質をコードする転写物の量の増加とはまた、OK1タンパク質をコードする検出可能な量の転写物を示さない植物または植物細胞が、本発明による遺伝的修飾の後に、OK1タンパク質をコードする検出可能な量の転写物を示すことを意味する。
【0024】
当該植物細胞中のOK1タンパク質の活性増加をもたらすOK1タンパク質のタンパク質量の増加を、免疫学的方法、例えば、ウエスタンブロット分析、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)またはRIA(ラジオイムノアッセイ)などにより測定することができる。ここで増加とは、好ましくは、遺伝的に修飾されていない対応する植物細胞と比較した、OK1タンパク質の量の、少なくとも50%の、特に少なくとも70%の、好ましくは少なくとも85%の、および特に好ましくは少なくとも100%の増加を意味する。OK1タンパク質の量の増加とはまた、検出可能なOK1タンパク質活性を有しない植物または植物細胞が、本発明による遺伝的修飾の後に、検出できる量のOK1タンパク質を示すことを意味する。
【0025】
あるタンパク質と特異的に反応する、即ち特異的に前記タンパク質に結合する抗体を製作する方法は、当業者に公知である(例えば、Lottspeich and Zorbas (Eds.), 1998, Bioanalytik, Spektrum akad, Verlag, Heidelberg, Berlin, ISBN 3-8274-0041-4 参照)。いくつかの会社(例えば Eurogentec, Belgium)が、契約サービスとしてそのような抗体の製作を行う。OK1タンパク質と特異的に反応する抗体を作製するための可能な方法の1つについては後述する(実施例10を参照のこと)。
【0026】
本発明の枠組みの中では、用語「OK1タンパク質」とは、ATPのリン酸残基を、既にリン酸化されているデンプン(P−デンプン)に転移させるタンパク質を意味すると理解するべきである。Arabidopsis thaliana sex1-3 突然変異体の葉から単離されたデンプンは、検知可能な量の共有結合で結合したリン酸残基を有せず、OK1タンパク質によってリン酸化されない、すなわち、本発明によるOK1タンパク質は、さらにリン酸残基を転移するために、基質として既にリン酸化されたデンプンを要求する。
【0027】
好ましくは、ATPのβリン酸残基はOK1タンパク質からデンプンに転移され、ATPのγリン酸残基は水に転移される。OK1タンパク質を用いて実施された、P−デンプンのリン酸化反応によって生成されたさらなる反応生成物は、AMP(アデノシン1リン酸)である。したがって、OK1タンパク質は、[リン酸化−α−グルカン]−水−ジキナーゼ([P−グルカン]−水−ジキナーゼ)、または[リン酸化デンプン]−水−ジキナーゼ、と記述される。
【0028】
好ましくは、OK1タンパク質によってリン酸化されるP−デンプンのグルコース分子のC−6位置および/またはC−3位置で、追加のリン酸モノエステル結合が生成される。OK1タンパク質によって触媒されるP−デンプンのリン酸化においては、当該P−デンプンのグルコース分子のC−6位置のリン酸モノエステル結合と比較して、C−3位置でより多くの追加のリン酸モノエステル結合が生成されるならば、特に好ましい。
【0029】
OK1タンパク質をコードするアミノ酸配列は、ホスホヒスチジン領域を含む。ホスホヒスチジン領域は例えば、Tien-Shin Yu et al.(2001, Plant Cell 13, 1907-1918)によって記述されている。アミノ酸をコードするOK1タンパク質のホスホヒスチジン領域は、好ましくは2個のヒスチジンを含む。
【0030】
OK1タンパク質によるP−デンプンリン酸化反応の触媒作用においては、リン酸化OK1タンパク質が中間生成物として生成され、中間生成物中では、ATPのリン酸残基がOK1タンパク質のアミノ酸に共有結合により結合されている。中間生成物はOK1タンパク質の自己リン酸化により生成される、即ちOK1タンパク質それ自身が反応を触媒し、それが中間生成物をもたらす。好ましくは、OK1タンパク質をコードするアミノ酸配列のヒスチジン残基が自己リン酸化過程の結果リン酸化され、それは特に好ましくはホスホヒスチジン領域の一部であるヒスチジン残基である。
【0031】
更に本発明によるOK1タンパク質は、P−デンプンに対して非リン酸化デンプンと比較して増大した結合活性を有する。
【0032】
P−デンプンをさらにリン酸化するために、基質としてP−デンプンを要求する酵素はこれまでに報告されていなかったので、植物中の既にリン酸化されたデンプンのデンプンリン酸含量を、一定量を越えて増加させることはこれまで不可能であった。これがいまや、本発明によるタンパク質または本発明による植物の遺伝的修飾のための核酸分子を利用することにより、可能である。OK1タンパク質の機能の解明、そしてOK1タンパク質を提供することにより、修飾された特性を有するデンプンを合成するように植物を遺伝的に修飾することがいまや可能である、という事実がもたらされる。植物によって合成されたデンプン中のリン酸分布を修飾することは、利用できる手段が欠けていたために、いままでは不可能であった。本発明によるタンパク質および核酸を本発明によって提供することにより、いまやネイティブのデンプン中のリン酸比率も修飾することができる。
【0033】
本発明に関連して、用語「増大した結合活性」とは、タンパク質の、第2の基質と比較して第1の基質に対する増大した親和性を意味すると理解するべきである。すなわち、同じインキュベーション条件下で、第2の基質と比較して第1の基質により大量に結合するタンパク質の量は、第1の基質に対する増大した結合活性を示す。
【0034】
本発明に関連して、用語「デンプンリン酸」とは、デンプンのグルコース分子に共有結合により結合しているリン酸基を意味すると理解するべきである。
【0035】
本発明に関連して、用語「非リン酸化デンプン」とは、検出可能な量のデンプンリン酸を含まないデンプンを意味すると理解するべきである。デンプンリン酸量を決定する様々な方法が報告されている。好ましくは、Ritte et al. (2000, Starch/Starke 52, 179-185) により記述されたデンプンリン酸量の測定法を用いることができる。特に好ましくは、31P−NMRによるデンプンリン酸量の測定を、Kasemusuwan and Jane (1996, Cereal Chemistry 73, 702-707)により記述された方法によって実施する。
【0036】
本発明に関連して、用語「リン酸化デンプン」または「P−デンプン」とは、デンプンリン酸を含むデンプンを意味すると理解するべきである。
【0037】
OK1タンパク質の活性を、例えばβ位置でラベルされたリン酸残基を含むATP(ラベルATP)を用いて、インビトロでOK1タンパク質をインキュベーションすることにより実証することができる。好ましくは、リン酸残基が特異的にβ位置でラベルされたATP、すなわち、β位置のリン塩残基のみが標識を有するATPを用いる。好ましくは放射性ラベルされたATP、特に好ましくはβ位置で特異的にリン酸残基が放射性ラベルされたATP、およびとりわけ好ましくはβ位置のリン酸塩残基が33Pで特異的にラベルされたATPを用いる。OK1タンパク質をラベルATPおよび非リン酸化デンプンとインキュベーションする場合は、OK1によってデンプンにリン酸が転移されない。好ましくは、Arabidopsis thaliana の突然変異体 sex1-3 (Tien-Shin Yu et al., 2001 , Plant Cell 13, 1907-1918)の葉のデンプンを用いる。
【0038】
一方、OK1タンパク質をP−デンプンとラベルATPの存在下でインキュベーションする場合は、その後でP−デンプンに共有結合により結合したラベルされたリン酸を示すことができる。好ましくは、Arabidopsis thaliana の葉からのデンプン、特に好ましくは、R1タンパク質 (Ritte et al., 2002, PNAS 99, 7166-7171) によって酵素的にリン酸化された Arabidopsis thaliana sex1-3 突然変異体からのデンプンを用いる。
【0039】
OK1タンパク質によりP−デンプンに取り込まれたラベルされたリン酸残基を、例えば、反応混合液の残りからラベルされたP−デンプンを分離し(例えばエタノールによる沈澱、濾過、クロマトグラフ法その他、により)、続いてP−デンプン分画のラベルされたリン酸残基を検出することにより、示すことができる。同時に、P−デンプン分画に結合したラベルされたリン酸残基を、例えばP−デンプン分画中に存在する放射活性の量を測定することにより(例えばシンチレーション・カウンターによる)、実証することができる。リン酸化反応用の基質としてP−デンプンを要求するタンパク質を実証する可能な方法について、後に一般的方法項目11および実施例6において記述する。
【0040】
P−デンプン中のグルコースモノマーの炭素原子のどの位置(C−2、C−3またはC−6)がOK1タンパク質によって好んでリン酸化されるかを、Ritte et al.(2002, PNAS 99, 7166-7171) に記述されるように、例えばタンパク質によりリン酸化されたP−デンプンを分析して決定することができる。この目的のために、タンパク質によってリン酸化されたP−デンプンを、酸を用いて加水分解し、続いて陰イオン交換クロマトグラフィーによって分析する。
【0041】
P−デンプン中のグルコースモノマーの炭素原子のどの位置(C−2、C−3またはC−6)がリン酸化されているか決定するために、好ましくは、OK1タンパク質によってリン酸化されたP−デンプンをNMRによって分析する。デンプンのグルコース分子のOK1タンパク質が触媒する反応によってリン酸化されるC−原子位置を同定するための、特に好ましい方法について、後に一般的方法項目13に記述する。
【0042】
OK1タンパク質により促進されるP−デンプンのリン酸化において、中間生成物として生成されるリン酸化されたタンパク質を、例えばR1タンパク質に対してRitte et al.(2002, PNAS 99, 7166-7171) により記述されているようにして実証することができる。
【0043】
自己リン酸化された中間生成物の存在を実証するために、最初にデンプンが存在しない状態で、OK1タンパク質をラベルATPと、好ましくは特異的にβリン酸位置にラベルされたATPと、特に好ましくは33Pにより特異的にβリン酸位置にラベルされたATPとインキュベーションする。これと並行して、ラベルATPの代わりに、対応する量のラベルされていないATPを含む反応調製物2を、それ以外は同じ条件下でインキュベーションする。続いて、過剰のラベルされていないATPを反応混合物1に加え、ラベルされていないATPおよびラベルATPの混合物(反応混合液1中で以前に用いたものと同量のラベルATPおよび反応混合液1に過剰に加えたものと同量のラベルされていないATP)を反応混合液2に加えて、これをさらにインキュベーションし、 その後P−デンプンを反応混合液1の部分A(部分1A)および反応混合液2の部分A(部分2A)に加える。反応混合物の残存部分1Bおよび部分2Bの反応を、タンパク質を変性させることにより止める。反応混合液の部分Bを、当業者に公知のタンパク質の変性をもたらす方法、好ましくはラウリル硫酸ナトリウム(SDS)の添加により止めることができる。反応混合物の部分1Aおよび部分2Aを、少なくともさらに10分間インキュベーションしてから、これらの反応も止める。それぞれの反応混合液の部分Aまたは部分B中に存在するデンプンを反応混合物のそれぞれの残りから分離する。例えば、それぞれのデンプンを遠心によって分離する場合は、遠心の完了時に、反応混合物の部分Aまたは部分Bのそれぞれのデンプンは、沈殿したペレット中に見出され、またそれぞれの反応混合物中のタンパク質はそれぞれの遠心分離の上清で見出される。次に反応混合物の各々部分1Aまたは2A、および各々部分1Bまたは2Bの上清を、例えば変性アクリルアミドゲル電気泳動を行い、続いて得られたアクリルアミドゲルのオートラジオグラフィを行って分析することができる。アクリルアミドゲル電気泳動によって分離された放射性ラベルタンパク質の量を計るために、例えば当業者に公知のいわゆる「ホスホイメーイング」法を用いることができる。もし、反応混合物1の部分Bの遠心上清中のタンパク質のオートラジオグラフィまたは「phosphoimagers」による分析が、反応混合液1の部分Aの遠心過剰に比較して、有意に増大した信号を示すならば、これはデンプンのリン酸化を促進するタンパク質が自己リン酸化された中間生成物として存在することを示す。反応混合物2の部分AおよびBは対照として役立ち、したがって、オートラジオグラフィまたは「phosphoimagers」による分析においては、遠心分離上清に有意に増大した信号を示しさないはずである。
【0044】
さらに、必要ならばそれぞれのデンプンを洗浄した後、使用したラベルATPに対応する標識を有するデンプンリン酸の存在について、それぞれの沈殿したペレット中に残存している反応混合物1および2のそれぞれの部分Aのデンプンを調べることができる。もし反応混合物1の部分Aのデンプンがラベルされたリン酸基を含んでおり、かつ反応混合液1の部分Bの遠心分離上清のオートラジオグラフィが、反応混合物1の部分Aの遠心分離上清のオートラジオグラフィに比較して有意に増大した信号を示す場合は、これはデンプンのリン酸化を促進するタンパク質が自己リン酸化された中間生成物として存在することを示す。反応混合物2の部分AおよびBは対照として役立ち、したがって、α−1,4−グルカンを含む沈殿ペレット中の33Pでラベルされたα−1,4−グルカンの有意に増大した信号は示さないに違いない。リン酸化されたOK1タンパク質中間生成物を実証する可能な方法について、後に一般的方法項目12、および実施例7に述べる。
【0045】
OK1タンパク質が、P−デンプンに対して非リン酸化デンプンと比較して増大した結合活性を有することを、OK1タンパク質を、別々の調製物中でP−デンプンおよび非リン酸化デンプンとインキュベーションすることにより実証することができる。
【0046】
すべての非リン酸化デンプンは、基本的に、OK1タンパク質を非リン酸化デンプンとインキュベーションするために適している。好ましくは非リン酸化植物デンプン、特に好ましくはコムギデンプン、およびとりわけ好ましくは Arabidopsis thaliana 突然変異体 sex1-3 の葉の粒状デンプンを用いる。
【0047】
例えば植物からデンプンを単離する方法は、当業者に公知である。当業者に公知のすべての方法は、適当な植物種から非リン酸化デンプンを単離するために基本的に適する。好ましくは、後に述べる非リン酸化α−1,4−グルカンを分離するための方法を用いる(一般的方法項目2を参照のこと)。
【0048】
デンプンリン酸を含むすべてのデンプンは、OK1タンパク質をP−デンプンとインキュベーションするために基本的に適する。化学的にリン酸化されたデンプンもまたこの目的に用いることができる。好ましくは、P−デンプン、特に好ましくは予め酵素的にリン酸化された植物デンプン、とりわけ好ましくは Arabidopsis thaliana sex-1 突然変異体から分離されて予め酵素的にリン酸化された植物粒状デンプンを、OK1タンパク質とインキュベーションするために用いる。
【0049】
OK1タンパク質の、非リン酸化デンプンと比較してP−デンプンへの増大した結合活性を実証するために、OK1タンパク質を別々の調製物中で、P−デンプン(調製物A)、および非リン酸化デンプン(調製物B)とインキュベーションする。首尾よくインキュベーションした後、調製物AおよびBの適切なデンプンに結合していないタンパク質を、デンプンおよびそれが結合するタンパク質から分離する。続いて調製物A中のタンパク質とP−デンプン間の結合、および調製物B中のタンパク質と非リン酸化デンプン間の結合を除去する、即ちそれぞれのタンパク質を溶解する。次に、調製物Aおよび調製物Bの溶解したタンパク質を、それぞれの調製物中に存在する当該デンプンから分離することができる。これに続いて、単離した調製物AのP−デンプン結合タンパク質、および単離した調製物Bの非リン酸化デンプン結合タンパク質を、当業者に公知の方法、例えばゲルろ過、クロマトグラフ法、電気泳動、SDSアクリルアミドゲル電気泳動など、の助けを借りて、分離することができる。分離された調製物Aのタンパク質の量を、対応する分離された調製物Bのタンパク質の量と比較することにより、タンパク質が、非リン酸化デンプンと比較してP−デンプンについて増大した結合活性を有するかどうかを決定することができる。非リン酸化デンプンと比較してP−デンプンへのタンパク質の優先的結合を実証するために用いることができる方法を、後に一般的方法項目8および実施例1に記述する。
【0050】
配列番号2に示すアミノ酸配列は、Arabidopsis thaliana からのOK1タンパク質をコードし、また配列番号4に示すアミノ酸配列は、Oryza sativa からのOK1タンパク質をコードする。
【0051】
本発明のさらなる実施態様において、OK1タンパク質をコードするアミノ酸配列は配列番号2または配列番号4に指定された配列と、少なくとも60%の、特に少なくとも70%の、好ましくは少なくとも80%の、特に好ましくは少なくとも90%の、およびとりわけ好ましくは少なくとも95%の同一性を有する。
【0052】
本発明のさらなる実施態様において、OK1タンパク質はホスホヒスチジン領域(Tien-Shin Yu et al., 2001, Plant Cell 13, 1907-1918)を示す。OK1タンパク質をコードするアミノ酸配列は、配列番号5に指定された Arabidopsis thaliana および Oryza sativa 由来のOK1タンパク質のホスホヒスチジン領域のアミノ酸配列と、少なくとも50%の、特に少なくとも60%の、好ましくは少なくとも70%の、特に好ましくは少なくとも80%の、および特別に好ましくは少なくとも90%の同一性を示すホスホヒスチジン領域を含む。ホスホヒスチジン領域は、好ましくは2個のヒスチジン残基を含む。
【0053】
本発明のさらなる実施態様は、遺伝的修飾が植物ゲノム中への少なくとも1つの外来性核酸分子の導入である、本発明による遺伝的に修飾された植物細胞または本発明による遺伝的に修飾された植物に関する。
【0054】
この文脈において、用語「遺伝的修飾」とは、植物細胞のゲノムまたは植物のゲノムの中への、相同のおよび/または非相同の外来性核酸分子の導入であって、れらの分子の前記導入がOK1タンパク質の活性の増大をもたらすものを意味する。
【0055】
本発明による植物細胞または本発明による植物は、外来性核酸分子の導入により、それらの遺伝子情報に関して修飾される。外来性核酸分子の存在または発現が、表現型の変化をもたらす。ここで「表現型の」変化とは、好ましくは、1以上の細胞の機能の測定可能な変化を意味する。例えば、本発明による遺伝的に修飾された植物細胞および本発明による遺伝的に修飾された植物は、導入された核酸分子の存在またはその発現により、OK1タンパク質の活性の増大を示す。
【0056】
本発明に関連して、用語「外来性核酸分子」とは、対応する野生型植物細胞には自然には存在しないような、または野生型植物細胞中の実在する空間的配置には自然には存在しないような分子、または植物細胞ゲノム中の、野生型植物細胞においてはそれが自然には存在しない場所に局在している分子、を意味するものと理解する。好ましくは、外来性核酸分子は、種々の要素、植物細胞中に自然には存在しない組合せまたは特異的な空間的配置、から成る組換え分子である。
【0057】
原則として、外来性核酸分子は、植物細胞または植物中のOK1タンパク質の活性の増加をもたらす任意の核酸分子でよい。
【0058】
本発明に関連して、用語「ゲノム」とは、植物細胞中に存在する遺伝物質の全体を意味すると理解するべきである。細胞核に加えて、他のコンパートメント(例えばプラスチド、ミトコンドリア)もまた遺伝物質を含んでいることは当業者に公知である。
【0059】
さらなる実施態様において、本発明による植物細胞および本発明による植物は、外来性核酸分子がOK1タンパク質、好ましくは Arabidopsis thaliana からのOK1タンパク質、または Oryza sativa からのOK1タンパク質をコードすることを特徴とする。
【0060】
さらなる実施態様において、外来性核酸分子は、配列番号2または配列番号4で特定されるアミノ酸配列を有するOK1タンパク質をコードする。
【0061】
多数の技術をDNAの植物宿主細胞中への導入に利用することができる。これらの技術には、形質転換媒体としてAgrobacterium tumefaciens または Agrobacterium rhizogenes を用いたT−DNAによる植物細胞の形質転換、プロトプラストの融合、注入、DNAのエレクトロポレーション、バイオリスティックによるDNAの導入、ならびに他の可能性が含まれる。アグロバクテリウムを介する植物細胞の形質転換の使用は、集中的に研究され、EP 120516、 Hoekema, in: The Binary Plant Vector System Offsetdrukkerij Kanters B.V., Alblasserdam (1985), Chapter V、Fraley et al., Crit. Rev. Plant Sci. 4, 1-46 および An et al. EMBO J. 4, (1985), 277-287 に十分に記述されている。ジャガイモの形質転換については、例えば Rocha-Sosa et al., EMBO J. 8, (1989), 29-33 を参照のこと。
【0062】
Agrobacterium の形質転換に基づいた、ベクターによる単子葉植物の形質転換についてもまた記述されている (Chan et al., Plant Mol. Biol. 22, (1993), 491-506; Hiei et al., Plant J. 6, (1994) 271-282; Deng et al, Science in China 33, (1990), 28-34; Wilmink et al., Plant Cell Reports 11, (1992), 76-80; May et al., Bio/Technology 13, (1995), 486-492; Conner and Domisse, Int. J. Plant Sci. 153 (1992), 550-555; Ritchie et al, Transgenic Res. 2, (1993), 252-265) 153 (1992), 550- 555; Ritchie et al, Transgenic Res. 2,(1993), 252-265)。単子葉植物の形質転換の別のシステムは、バイオリスティックによる形質転換 (Wan and Lemaux, Plant Physiol. 104, (1994), 37-48; Vasil et al., Bio/Technology 11 (1993), 1553-1558; Ritala et al., Plant Mol. Biol. 24, (1994), 317- 325; Spencer et al., Theor. Appl. Genet. 79, (1990), 625-631)、プロトプラスト形質転換、部分的に透過性を与えられた細胞のエレクトロポレーション、およびガラス繊維によるDNAの導入である。特にトウモロコシの形質転換については、文献に幾度も記述された(例えば、W095/06128、EP0513849、EP0465875、EP0292435; Fromm et al., Biotechnology 8, (1990), 833-844; Gordon-Kamm et al., Plant Cell 2, (1990), 603-618; Koziel et al., Biotechnology 11 (1993), 194-200; Moroc et al., Theor. Appl. Genet. 80, (1990), 721-726 参照) 。
【0063】
他の型の穀類の成功した形質転換についても、既に例えばオオムギについて (Wan and Lemaux,上記; Ritala et al.,上記; Krens et al., Nature 296, (1982), 72-74) およびコムギについて (Nehra et al., Plant J. 5, (1994), 285-297; Becker et al., 1994, Plant Journal 5, 299-307) 記述されている。上記の方法はすべて本発明の枠組み内において適当である。
【0064】
とりわけ、OK1タンパク質の導入により遺伝的に修飾された植物細胞および植物を、野生型植物細胞および野生型植物それぞれから、それらが野生型植物細胞または野生型植物に自然には存在しない外来性核酸分子を含むという点で、あるいはそのような分子が、本発明による植物細胞のゲノム中のまたは本発明による植物のゲノム中の、野生型植物細胞または野生型植物中には存在しない場所に、即ち異なるゲノム環境に、組入れられて存在するという点で、区別することができる。さらに、この型の本発明による植物細胞および本発明による植物は、それらがゲノム内に安定して組入れられた外来性核酸分子の少なくとも1つのコピーを、おそらくは野生型植物細胞または野生型植物中で自然に存在するそのような分子のコピーに加えて、含むという点で、野生型植物細胞および野生型植物とそれぞれ異なる。もし本発明による植物細胞または本発明による植物へ導入した外来性核酸分子が、野生型植物細胞または野生型植物にそれぞれ既に自然に存在している分子の付加的なコピーである場合は、本発明による植物細胞および本発明による植物と野生型植物細胞および野生型植物それぞれとを、特にこのまたはこれらの追加のコピーがゲノム中のそれが(あるいは、それらが)野生型植物細胞または野生型植物では生じない場所に局在しているという点で、区別することができる。例えばこれを、サザンブロット分析を用いることにより確認することができる。
【0065】
更に、本発明による植物細胞また本発明による植物を、野生型植物細胞または野生型植物それぞれから、好ましくは次の特徴の少なくとも1つによって区別することができる:導入された外来性核酸分子が、植物細胞または植物に関して非相同の場合は、本発明による植物細胞または本発明による植物は、導入された核酸分子の転写物を有する。これらを例えばノーザンブロット分析、またはRT−PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)によって確認することができる。アンチセンスのおよび/またはRNAiの転写物を発現する本発明による植物細胞および本発明による植物を、例えばタンパク質をコードするRNA(植物細胞に自然に生ずる)に相補的な特異的核酸プローブの助けを借りて、確認することができる。好ましくは本発明による植物細胞および本発明による植物は、導入された核酸分子によってコードされるタンパク質を含む。これを、例えば免疫学的方法、特にウエスタンブロット分析によって実証することができる。
【0066】
もし導入された外来性核酸分子が植物細胞または植物に関して相同である場合は、本発明による植物細胞あるいは本発明による植物を野生型植物細胞または野生型植物それぞれから、例えば導入された外来性核酸分子の追加の発現により、区別することができる。本発明による植物細胞および本発明による植物は、好ましくは外来性核酸分子の転写物を含む。これを、例えばノーザンブロット分析、またはいわゆる定量PCRを用いることにより実証することができる。
【0067】
さらなる実施態様では、本発明による植物細胞および本発明による植物は、それぞれ遺伝子組換え植物細胞または遺伝子組換え植物である。
【0068】
さらなる実施態様において、本発明は、本発明による植物細胞におよび本発明による植物であって、外来性核酸分子が:
a) 配列番号2または配列番号4に与えられたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸分子;
b) プラスミドA.t.−OK1−pGEM中の挿入またはプラスミドpMI50中の挿入によってコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする核酸分子;
c) 配列番号2または配列番号4に与えられるアミノ酸配列と少なくとも60%の同一性がある配列を有するタンパク質をコードする核酸分子;
d) プラスミドA.t.−OK1−pGEM中の挿入のコード領域またはプラスミドpMI50中の挿入のコード領域によってコードされるアミノ酸配列と、少なくとも60%の同一性がある配列を有するタンパク質をコードする核酸分子;
e) 配列番号1または配列番号3に示されたヌクレオチド配列または相補的配列を含む核酸分子;
f) プラスミドA.t.−OK1−pGEMまたはプラスミドpMI50に含まれる挿入ヌクレオチド配列を含む核酸分子;
g) a)、b)、e)またはf)に記述された核酸配列と少なくとも60%の同一性を有する核酸分子;
h) ストリンジェントな条件下で、a)、b)、d)、e)またはf)に記述された核酸分子の少なくとも1つの鎖とハイブリダイズする核酸分子;
i) ヌクレオチド配列が、遺伝子コードの縮退により、a)、b)、e)またはf)で同定された核酸分子の配列と相違している核酸分子;および
j) a)、b)、c)、d)、e)、f)、g)、h)、またはi)で同定された核酸分子の断片、対立遺伝子変異体、および/または誘導体、に相当する核酸分子、
から成る群より選ばれる植物細胞または植物に関する。
【0069】
配列番号2に示されるアミノ酸配列は、Arabidopsis thaliana からのOK1タンパク質をコードし、また配列番号4に示されるアミノ酸配列は、Oryza sativa からのOK1タンパク質をコードする。
【0070】
本発明による様々な種類の核酸分子からコードされるタンパク質は、ある共通の特性を有する。これらには例えば生物活性、分子量、免疫学的反応性、コンフォメーションその他が、ならびに例えばゲル電気泳動における走行性、クロマトグラフィーの挙動、沈降定数、溶解度、分光学的特性、安定性、最適pH、最適温度などの物理的特性が含まれ得る。
【0071】
配列番号2に示されるアミノ酸配列から導かれるArabidopsis thaliana からのOK1タンパク質の分子量はおよそ131kDaであり、また配列番号4に示されるアミノ酸配列から導かれるOryza sativaからのOK1タンパク質の分子量はおよそ132kDaである。したがって、本発明によるタンパク質の導出された分子量は、好ましくは120kDa〜145kDaの範囲、好ましくは120kDa〜140kDa、特に好ましくは125kDa〜140kDa、およびとりわけ好ましくは130kDa〜135kDaの範囲にある。
【0072】
Arabidopsis thaliana および Oryza sativa からのOK1タンパク質をそれぞれコードする配列番号2および配列番号4で示されるアミノ酸配列は、ホスホヒスチジン領域を各々含む。したがって好ましくは本発明によるOK1タンパク質は、配列番号5に示されるホスホヒスチジン領域と、少なくとも50%の、好ましくは少なくとも60%の、特に好ましくは少なくとも80%の、およびとりわけ好ましくは90%の同一性を有するホスホヒスチジン領域を含む。
【0073】
本発明は、本発明によるOK1タンパク質の酵素活性を有するタンパク質をコードする核酸分子であって、コードされるOK1タンパク質が、配列番号2または配列番号4で特定されるアミノ酸配列と、少なくとも70%の、好ましくは少なくとも80%の、特に好ましくは少なくとも90%の、およびとりわけ好ましくは95%の同一性を有する核酸分子に関する。
【0074】
Arabidopsis thaliana からの本発明によるタンパク質(A.t.−OK1)をコードするcDNAを含むプラスミド(A.t.−OK1−pGEM)が、ブダペスト条約によりthe German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH, Mascheroder Weg 1b, 38124 Braunschweig, Germany に、番号DSM16264の下に2004年3月8日に寄託され、Oryza sativaからの本発明によるさらなるタンパク質(O.s.−OK1)をコードするcDNAを含むプラスミド(pM150)が、2004年3月24日に番号DSM16302の下に寄託された。
【0075】
配列番号2に示されるアミノ酸配列はプラスミドA.t.−OK1−pGEMに組み込まれたcDNA配列のコード領域から導出することができ、Arabidopsis thaliana からのOK1タンパク質をコードする。配列番号4に示されるアミノ酸配列は、プラスミドpMI50に組み込まれたcDNA配列のコード領域から導出することができ、Oryza sativa からのOK1タンパク質をコードする。したがって、本発明はまた、プラスミドA.t.−OK1−pGEM中の挿入またはプラスミドpMI50中の挿入によってコードされるアミノ酸配列を含むOK1タンパク質の酵素活性を有するタンパク質をコードする核酸分子であって、コードされるタンパク質は、A.t.−OK1−pGEMまたはpMI50中の挿入から導くことができるアミノ酸配列と、少なくとも70%の、好ましくは少なくとも80%の、特に好ましくは少なくとも90%の、また、特に好ましくは95%の同一性を有する核酸分子に関する。
【0076】
配列番号1に示される核酸配列は、Arabidopsis thaliana からのOK1タンパク質のコード領域を含むcDNA配列であり、また配列番号3に示される核酸配列は、Oryza sativa からのOK1タンパクのコード領域を含むcDNA配列である。
【0077】
したがって、本発明はまた、OK1タンパク質および配列番号1または配列番号3に示されたヌクレオチド配列のコード領域またはそれに相補的な配列をコードする核酸分子、プラスミドA.t.−OK1−pGEMまたはプラスミドpMI50に含まれる挿入のヌクレオチド配列のコード領域を含む核酸分子、および前記核酸分子と少なくとも70%の、好ましくは少なくとも80%の、特に好ましくは少なくとも90%の、およびとりわけ好ましくは少なくとも95%の同一性を有する核酸分子、に関する。
【0078】
当業者にとって、本発明による核酸分子の配列情報を利用して、または本発明による核酸分子を利用して、他の植物種から、好ましくはデンプン貯蔵植物から、好ましくはOryza属の植物種から、特にOryza sativaから、またはArabidopsis thalianaから、相同の配列を単離することが可能である。例えば適当なハイブリダイゼーション試料のcDNAまたはゲノムライブラリーの調査のような従来の方法を利用して、これを実施することができる。当業者は、(縮重した)オリゴヌクレオチドの利用およびPCRに基づいた方法の使用により相同の配列を単離することができることを知っている。
【0079】
例えばEMBL(http:// www.ebi.ac.uk/Tools/index.htm)またはNCBI(National Center for Biotechnology Information, http:// www.ncbi.nlm.nih.gov/)などにより利用可能となるデータベースの調査もまた、OK1タンパク質をコードする相同配列の同定のために用いることができる。この場合、1つ以上の配列をいわゆるクエリーとして指定する。このクエリー配列を、次に、統計的コンピュータープログラムによって選択されたデータベースに含まれる配列と比較する。そのようなデータベースクエリー(例えばblastまたはfasta検索)は当業者に公知であり、様々なプロバイダーによって実施することができる。
【0080】
そのようなデータベースクエリーを、例えばNCBI(National Center for Biotechnology Information, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)で実行する場合は、個別比較調査のために指定される標準設定を用いるべきである。タンパク質配列比較(blastp)に対しては、これらは次の設定である:Limit entrez = not activated; Filter = low complexity activated; Expect value = 10; word size = 3; Matrix = BLOSUM62; Gap costs: Existence = 11, Extension = 1.
【0081】
核酸配列比較(blastn)については、次のパラメーターを設定しなければならない:Limit entrez = not activated; Filter = low complexity activated; Expect value = 10; word size = 11.
【0082】
そのようなデータベース検索で、本発明に記述された配列を、さらなるOK1タンパク質をコードする核酸分子および/またはタンパク質を同定するためのクエリー配列として用いることができる。
【0083】
上記方法を利用して、配列番号1または配列番号3に指定された配列にハイブリダイズし、OK1タンパク質をコードする本発明による核酸分子を同定しおよび/または単離することがさらに可能である。
【0084】
本発明の枠組みの内では、用語「ハイブリダイズすること」とは、従来のハイブリダイゼーション条件下の、好ましくは、例えば Sambrock et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd edition (2001) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY., ISBN: 0879695773, Ausubel et al., Short Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons; 5th edition (2002), ISBN: 0471250929 に記述されているような、ストリンジェントな条件下のハイブリダイゼーションを意味する。特に好ましくは、「ハイブリダイズすること」とは、下記の条件下のハイブリダイゼーションを意味する:
ハイブリダイゼーション緩衝液:
2×SSC;10×Denhardt溶液(フィコール400+PEG+BSA;比率
1:1:1);0.1%SDS;5mMEDTA;50mMNa2HPO4;250μg/mlニ
シン精子DNA;50μg/ml tRNA;または25Mリン酸ナトリウム緩衝液pH7.
2;1mM EDTA;7%SDS
ハイブリダイゼーション温度:T=65〜68℃
洗浄緩衝液:0.1×SSC;0.1%SDS
洗浄温度:T=65〜68℃
【0085】
原則として、本発明による核酸分子とハイブリダイズする核酸分子は、適切なタンパク質をコードする任意の植物種に由来するものでよく、好ましくはデンプン貯蔵植物に、好ましくは(系統上の)Poacea科の種に、特に好ましくはOryza sativaに由来することができる。本発明による分子にハイブリダイズする核酸分子は、例えばゲノムの、またはcDNAのライブラリーから特定することができる。この型の核酸分子の同定および単離を、本発明よる核酸分子またはこれらの分子の部分またはこれらの分子の逆相補体を用いて、例えば標準法によるハイブリダイゼーション(例えば、 Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd edition (2001) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY. ISBN: 0879695773, Ausubel et al., Short Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons; 5th edition (2002), ISBN: 0471250929 を参照のこと)またはPCRを用いる増幅により実施することができる。
【0086】
配列番号1または配列番号3によって指定されるヌクレオチド配列またはこれらの配列の部分のヌクレオチド配列を、正確にまたは本質的に有する核酸分子を、ハイブリダイゼーション試料として用いることができる。ハイブリダイゼーション試料として用いられる断片は、確立した合成技術を用いて製造され、その配列が本発明による核酸分子の配列に本質的に一致する合成断片またはオリゴヌクレオチドでもよい。もし本発明による核酸配列にハイブリダイズする遺伝子を同定および単離した場合は、この配列の決定およびこの配列によってコードされるタンパク質の特性の分析を、OK1タンパク質が含まれているかどうかを確証するために実施するべきである。核酸またはアミノ酸配列のレベルの相同性比較および酵素活性の測定が、この目的に特に適する。OK1タンパク質の活性は、例えば上に述べたように一般的方法項目11に記述されるようにして生起することが可能である。OK1タンパク質の非リン酸化デンプンと比較してP−デンプンへの選択的な結合親和性および自己リン酸化を、既に記述され、また一般的方法項目8および12に記述される方法を用いて実証することができる。
【0087】
本発明による核酸分子にハイブリダイズする分子は特に、植物由来の、好ましくはデンプ貯蔵植物由来の、好ましくは Oryza 属の植物種由来の、特に好ましくは Oryza sativa または Arabidopsis thaliana 由来のOK1タンパク質をコードする本発明による核酸分子の断片、誘導体および対立遺伝子変異体を含む。本発明に関連して用語「誘導体」とは、これらの分子の配列が、上に記述された核酸分子の配列とは1つ以上の位置で異なり、またこれらの配列と高度の同一性を有することを意味する。ここで、上に記述された核酸分子からの偏異は、例えば欠失、付加、置換、挿入または組換えによって起こった可能性がある。
【0088】
本発明に関連して、用語「同一性」とは、コード領域の全長に渡る少なくとも60%の配列同一性、特に少なくとも70%の、好ましくは80%を越える、特に好ましくは90%を越える、およびとりわけ少なくとも95%の同一性を意味する。本発明に関連して、用語「同一性」を、パーセンテージとして表現される、他のタンパク質/核酸と一致するアミノ酸/ヌクレオチドの数(同一性)を意味すると理解するべきである。好ましくは同一性を、アミノ酸に対して配列番号2または配列番号4を、または核酸に対して配列番号1または配列番号3を、他のタンパク質/核酸と、コンピュータープログラムを利用して比較することにより決定する。互いに比較する配列が異なる長さを有する場合は、同一性は、長い配列と共通の短い配列を有するアミノ酸の数が、同一性のパーセンテージ率を決定するようにして、決定することになる。好ましくは同一性を、周知であり公に利用可能であるコンピュータープログラム ClustalW によって決定する(Thompson et al., Nucleic Acids Research 22 (1994), 4673-4680)。ClustalW は、Julie Thompson (Thompson@EMBL-Heidelberg.DE) および Toby Gibson (Gibson@EMBL-Heidelberg.DE), European Molecular Biology Laboratory, Meyerhofstrasse 1, D 69117 Heidelberg, Germany によって公に利用できるようにされている。ClustalW はまた、IGBMC(Institut de Genetique et de Biologie Moleculaire et Cellulaire, BP.163, 67404 Illkirch Cedex, France; ftp://ftp-igbmc.u-strasbg.fr/pub/)およびEBI(ftp://ftp.ebi.ac.uk/pub/software/)、ならびにEBI(European Bioinformatics Institute, Wellcome Trust Genome Campus, Hinxton, Cambridge CB10 1SD, UK)のすべてのミラーインターネットサイトを含む、種々のインターネットサイトからダウンロードすることもできる。
【0089】
好ましくは、ClustalW コンピュータープログラムのバージョン1.8を本発明によるタンパク質と他のタンパク質の間の同一性を決定するために用いる。それを行う際に、次のパラメーターを設定しなければならない:
【表1】

【0090】
好ましくは、ClustalW コンピュータープログラムのバージョン1.8を、本発明による核酸分子のヌクレオチド配列と、例えば他の核酸分子のヌクレオチド配列の間の同一性を決定するために用いる。それを行う際に、次のパラメーターを、加重なしで設定しなければならない:
【表2】

【0091】
さらに、同一性とは、機能的なおよび/または構造的な等価性が、当該核酸分子間あるいはそれらによってコードされるタンパク質間に存在することを意味する。上記の分子に相同であり、これらの分子の誘導体を構成する核酸分子は、一般にこれらの分子の変異体であって一時変異を構成し、同じ生物学的機能を遂行する。同時に、その変異体は自然に存在する可能性が、例えばそれらが他の植物種由来の配列である可能性があり、あるいは、自然に生じたまたは目的を持って突然変異誘発で導入された突然変異体である可能性がある。変異体はまた合成的に作製された配列である可能性がある。対立遺伝子変異体は、自然発生の変異体、および合成的に作製された変異体または組換えDNA技術によって生成された変異体のいずれでもあり得る。遺伝子コードの縮退により本発明による核酸分子と相違する核酸分子は、誘導体の特別な形を構成する。
【0092】
本発明による核酸分子の種々の誘導体によってコードされるタンパク質は、ある共通の特性を有する。これらには、例えば、生物活性、基質特異性、分子量、免疫反応、コンフォメーションなどが、並びに、例えばゲル電気泳動における走行性、クロマトグラフィーの挙動、沈降定数、溶解度、分光学的特性、安定性、最適pH、最適温度などのような物理的特性が含まれ得る。OK1タンパク質の好ましい特性については、既に詳細に上述しており、従ってここでそれを用いる。
【0093】
本発明による核酸分子は任意の核酸分子、特に、例えばcDNA、ゲノムDNA、mRNAなどのDNAまたはRNA分子でよい。それらは、自然発生の分子、または遺伝的方法または化学合成法によって作製された分子でよい。それらは、コード鎖または非コード鎖を含む一本鎖分子、または二重鎖分子であってよい。
【0094】
本発明のさらなる実施態様は、本発明による植物細胞および本発明による植物であって、外来性核酸分子が:
a) 植物ゲノム中への組込みにより少なくとも1つのOK1遺伝子の発現の増加をもたらすT−DNA分子(T−DNA活性化タギング);
b) 植物ゲノム中への組込みによりOK1遺伝子の発現の増加をもたらすトランスポゾンを含むDNA分子(トランスポゾン活性化タギング);
c) OK1タンパク質をコードするDNA分子であって、植物細胞中の転写をもたらし細胞の中でOK1タンパク質活性の増加をもたらす調節配列と連結されているDNA分子;
d) インビボの突然変異誘発によって導入された核酸分子であって、その突然変異誘発は、OK1タンパク質をコードする少なくとも1つの内在性遺伝子中に突然変異または非相同配列の挿入をもたらし、突然変異または挿入はOK1タンパク質をコードする遺伝子の発現の増加をもたらす、核酸分子、
から成る群より選ばれる植物細胞および植物に関する。
【0095】
本発明に関連して、本発明による植物細胞および植物をまた、いわゆる挿入突然変異誘発(概説論文:Thomeycroft et al., 2001, Journal of experimental Botany 52 (361), 1593-1601)の使用によって作製することもできる。挿入突然変異誘発とは、特にトランスポゾンのあるいはいわゆるトランスファーDNA(T−DNA)の、OK1タンパク質をコードする遺伝子へのまたは遺伝子の近くへの挿入であって、その結果当該細胞のOK1タンパク質の活性が増加するものを意味すると理解するべきである。
【0096】
トランスポゾンは、細胞内に自然に存在するもの(内在的トランスポゾン)および、前記細胞に自然には存在しないで、例えば細胞の形質転換などの遺伝子工学的方法によって細胞へ導入されるもの(非相同トランスポゾン)の両方であり得る。トランスポゾンにより遺伝子の発現を変更することは当業者に公知である。植物バイオテクノロジーの道具としての、内在的および非相同トランスポゾンの使用の概説が、Ramachandran and Sundaresan (2001 , Plant Physiology and Biochemistry 39, 234-252) に提示されている。
【0097】
T−DNA挿入突然変異誘発は、アグロバクテリウム由来のTiプラスミドのある切片(T−DNA)が植物細胞ゲノムへ組み込まれることが可能であるという事実に基づく。植物染色体中の組込み場所は一定しておらず、どの位置にでも起こり得る。T−DNAが、遺伝子の機能を構成する染色体の一部へ、または染色体の一部の近くへ組み込まれると、遺伝子発現の増大、そしてまた当該遺伝子によってコードされるタンパク質の活性の変化をもたらすことが可能である。
【0098】
ここで、ゲノムに挿入される配列(特にトランスポゾンまたはT−DNA)は、OK1遺伝子の調節配列の活性化をもたらす配列(「活性化タギング」)を含むという事実により特徴づけられる。
【0099】
本発明による植物細胞および植物は、いわゆる「活性化タギング」法(例えば Walden et al., Plant J. (1991), 281-288; Walden et al., Plant Mol. Biol. 26 (1994), 1521-1528 を参照のこと)によって生成することができる。これらの方法は、カリフラワーモザイクウィルスの35S RNAプロモーターのエンハンサーまたはオクトピン合成酵素エンハンサーなどの「エンハンサー」配列による内在的なプロモーターの活性化に基づく。
【0100】
本発明に関連して、用語「T−DNA活性化タギング」とは、「エンハンサー」配列を含み、植物細胞のゲノムへの組込みによって少なくとも1つのOK1タンパク質の活性の増加をもたらすT−DNA断片を意味すると理解するべきである。
【0101】
本発明に関連して、用語「トランスポゾン活性化タギング」とは、「エンハンサー」配列を含み、植物細胞のゲノムへの組込みによって少なくとも1つのOK1タンパク質の活性の増加をもたらすトランスポゾンを意味すると理解するべきである。
【0102】
別の実施態様において、OK1タンパク質をコードする本発明によるDNA分子を、植物細胞中で転写を開始し(プロモーター)細胞のOK1タンパク質活性の増加をもたらす調節配列と連結させる。この場合、本発明による核酸分子は、調節配列に対して「センス」配向に存在する。
【0103】
OK1タンパク質をコードする本発明による核酸分子を発現させるために、好ましくはこれらを、植物細胞中の転写を保証する調節DNA配列と連結する。特にこれらはプロモーターを含む。一般に、植物細胞中で活性を有する任意のプロモーターは発現に対して適格である。
【0104】
プロモーターを選択することにより、発現が、構成的にまたはある組織のみに、植物発生のある段階でまたは外部の影響によって決定されるある時に、起こるようにすることができる。プロモーターは、植物に関しておよび核酸分子に関して、相同であってもまたは非相同であってもよい。
【0105】
適当なプロモーターは、例えばカリフラワーモザイクウィルスの35SRNAプロモーター、および構成的発現のためのトウモロコシのユビキチンプロモーター、ジャガイモの塊茎の特異的発現のためのパタチンプロモーターB33(Rocha-Sosa et al., EMBO J. 8 (1989), 23-29)、または光合成活性を有する組織における発現のみを保証するプロモーター、例えばST−LS1プロモーター(Stockhaus et al., Proc. Natl. Acad. Sci.USA 84 (1987), 7943-7947; Stockhaus et al., EMBO J. 8 (1989), 2445-2451)、または、胚乳に特異的な発現のためのコムギからのHMGプロモーター、USPプロモーター、ファゼオリンプロモーター、トウモロコシからのゼイン遺伝子のプロモーター(Pedersen et al., Cell 29 (1982),1015-1026; Quatroccio et al., Plant Mol.Biol. 15 (1990), 81-93)、グルテリンプロモーター(Leisy et al., Plant Mol. Biol. 14 (1990), 41-50; Zheng et al., Plant J. 4 (1993), 357-366; Yoshihara et al., FEBS Lett. 383 (1996), 213-218)、あるいはshrunken−1プロモーター(Werr et al., EMBO J. 4 (1985), 1373-1380)である。しかし、外部的影響によって決定された時にのみ活性化されるプロモーターもまた用いることができる(例えばWO9307279を参照のこと)。単純な誘導が可能である熱ショックタンパク質のプロモーターは、ここで特に興味深い。さらに、Vicia fabaおよび他の植物の種子特異的な発現を保証する Vicia faba からのUSPプロモーター(Fiedler et al., Plant Mol. Biol. 22 (1993), 669-679; Baeumlein et al., Mol. Gen. Genet. 225 (1991), 459-467)などの、種子特異的なプロモーターを用いることができる。
【0106】
さらに、転写物にポリAテールを加えるために用いられる終結配列(ポリアデニル化信号)が存在することが可能である。転写物の安定化の機能がポリAテールに帰されている。この型の要素については文献に記載されており(Gielen et al., EMBO J. 8 (1989), 23-29 を参照のこと)、任意に交換することができる。
【0107】
イントロン配列がさらに、プロモーターとコード領域の間に存在することもできる。そのようなイントロン配列は植物中で発現の安定性および発現の増加をもたらすことができる(Callis et al., 1987, Genes Devel. 1, 1183-1200; Luehrsen, and Walbot, 1991, Mol. Gen. Genet. 225, 81-93; Rethmeier, et al., 1997; Plant Journal. 12(4):895-899; Rose and Beliakoff, 2000, Plant Physiol. 122 (2), 535-542; Vasil et al., 1989, Plant Physiol. 91 , 1575-1579; XU et al., 2003, Science in China Series C Vol.46 No.6, 561-569)。適当なイントロン配列は、例えばトウモロコシのsh1遺伝子の第1イントロン、トウモロコシのポリユビキチン遺伝子1の第1イントロン、イネのEPSPS遺伝子の第1イントロン、またはアラビドプシスのPAT1遺伝子の2つの第1イントロンの1つである。
【0108】
さらに、本発明による植物細胞および本発明による植物を、いわゆる「インサイチュー活性化」により作製することができる。この場合、導入された遺伝的修飾が、内在的なOK1遺伝子の調節配列に変化をもたらし、それがOK1遺伝子の増大した発現を引き起こす。好ましくは、OK1遺伝子の活性化が、内在的なOK1遺伝子のプロモーターのまたは「エンハンサー」配列の「インビボの」突然変異誘発によって起こる。そうする際に、例えば、プロモーターまたは「エンハンサー」配列を、生成された突然変異が、野生型植物細胞または野生型植物中のOK1遺伝子の発現と比較して、本発明による植物細胞または本発明による植物中のOK1遺伝子の増大した発現をもたらすように変更することができる。プロモーターまたは「エンハンサー」配列の突然変異はまた、野生型植物細胞または野生型植物中では発現されないであろう時に発現される本発明による植物細胞または本発明による植物中のOK1遺伝子をもたらすことができる。
【0109】
本発明に関連して、用語「OK1遺伝子」とは、OK1タンパク質、好ましくはデンプン貯蔵植物からの、より好ましくは Arabidopsis thaliana からの、および最も好ましくはイネからのOK1タンパク質をコードする核酸分子(cDNA、DNA)を意味すると理解する。
【0110】
いわゆる「インビボ」突然変異誘発中に、ハイブリッドRNA−DNAオリゴヌクレオチド(「キメロプラスト」)が、植物細胞へ形質転換により導入される(Kipp, P.B. et al., Poster Session at the "5th International Congress of Plant Molecular Biology, September 21-27, 1997, Singapore; R. A. Dixon and CJ. Amtzen, Meeting report on "Metabolic Engineering in Transgenic Plants", Keystone Symposia, Copper Mountain, CO, USA, TIBTECH 15, (1997), 441-447; international patent WO 9515972; Kren et al., Hepatology 25, (1997), 1462-1468; Cole-Strauss et al., Science 273, (1996), 1386-1389; Beetham et al., 1999, PNAS 96, 8774-8778)。
【0111】
RNA−DNAオリゴヌクレオチドのDNA成分の一部は、内在的なOK1遺伝子の核酸配列に相同である、しかしそれは、内在的なOK1遺伝子の核酸配列と比較して、相同領域に囲まれた突然変異を有するかまたは非相同部位を含む。
【0112】
RNA−DNAオリゴヌクレオチドの相同領域と内在的な核酸分子との塩基対合、それに続く相同組換えにより、RNA−DNAオリゴヌクレオチドのDNA成分または非相同領域に含まれていた突然変異を、植物細胞のゲノムへ移入することができる。これが1つ以上のOK1タンパク質の活性の増加をもたらす。
【0113】
これらの方法はすべて、外来性核酸分子の植物細胞または植物のゲノム中への導入に基づいており、したがって本発明による植物細胞および本発明による植物の作製に基本的に適している。
【0114】
驚いたことに、本発明による植物細胞および本発明による植物が、遺伝的に修飾されていない対応する野生型植物細胞または野生型植物のデンプンと比較して修飾されたデンプンを合成することが見出された。
【0115】
本発明による植物細胞および本発明による植物は、物理的・化学的特性、特にデンプンリン酸含量またはリン酸の分布が、野生型植物細胞または植物中の合成されたデンプンと比較して変更されている修飾デンプンを合成し、これは特別の応用によく適している。
【0116】
P−デンプンを排他的にリン酸化する酵素は以前には報告されていなかったので、植物中の既にリン酸化されたデンプンのデンプンリン酸含量をあるレベル以上に増加させることもまた以前には不可能であった。これがいまや、植物の遺伝的修飾のための本発明によるタンパク質または本発明による核酸を使用することを通じて、可能である。
【0117】
利用可能な手段の欠如のために、植物から合成されるデンプン中にリン酸を分布させることもまた不可能であった。本発明によるタンパク質および核酸の提供により、いま、ネイティブのデンプン中のリン酸比率を変更することも可能である。
【0118】
したがって、本発明はまた、遺伝的に修飾されていない対応する野生型植物細胞および野生型と比較して修飾されたデンプンを合成する本発明による植物細胞および植物も含む。
【0119】
本発明に関連して、用語「修飾デンプン」とは、対応する野生型植物細胞または野生型植物から得ることができる非修飾デンプンと比較して、デンプンが変化した物理的・化学的特性を示すことを意味すると理解するべきである。
【0120】
本発明の追加の実施態様では、本発明による植物細胞または植物が、対応する野生型植物細胞および野生型から単離したデンプンと比較して、高いデンプンリン酸含量および/または変更されたリン酸分布を含むデンプンを合成する。
【0121】
この発明に関連して、用語「リン酸分布」とは、デンプン中の全デンプンリン酸含量に対して、グルコース分子のC−2位置、C−3位置、またはC−6位置に結合したデンプンリン酸の割合を意味すると理解するべきである。
【0122】
本発明の追加の実施態様では、本発明による植物細胞または植物が、遺伝的に修飾されていない野生型植物からのデンプンと比較して、C−3リン酸のC−6リン酸に対する比率が変更されたデンプンを合成する。ここで好ましいのは、遺伝的に修飾されていない野生型植物細胞および野生型植物からのデンプンと比較して、C−6位置に結合したデンプンリン酸と比較してC−3位置に結合したデンプンリン酸の割合が増加しているデンプンである。
【0123】
本発明に関連して、用語「C−3リン酸のC−6リン酸に対する比率」とは、C−3位置でまたはC−6位置でα−1,4−グルカンに結合したデンプンリン酸がそれぞれ、α−1,4−グルカンにC−3位置でおよびC−6位置で結合したデンプンリン酸の和(C−3位置+C−6位置)に寄与する、デンプンリン酸の量を意味すると理解するべきである。
【0124】
デンプンリン酸量を測定する様々な方法が報告されている。好ましくは、Ritte et al.(2000, Starch/Staerke 52, 179-185)によって記述されたデンプンリンの量を測定する方法を用いることができる。特に好ましくは、Kasemusuwan and Jane (1996, Cereal Chemistry 73, 702-707)に記述された方法に従い、31P−NMRによるデンプンリン酸量の決定が実施される。
【0125】
さらに本発明の目的の1つは、本発明による植物細胞を含む遺伝的に修飾された植物である。これらの型の植物を、本発明による植物細胞から再生により生成することができる。
【0126】
原則として本発明による植物は任意の植物種の植物、即ち単子葉および双子葉植物の両方でよい。好ましくはそれらは有用植物、即ち人々により食用のまたは技術的な目的のために、特に工業的目的のために栽培される植物である。
【0127】
さらなる実施態様では、本発明による植物はデンプン貯蔵植物である。
【0128】
本発明に関連して用語「デンプン貯蔵植物」とは、例えばトウモロコシ、イネ、コムギ、ライムギ、エンバク、オオムギ、キャッサバ、ジャガイモ、サゴ、リョクトウ、エンドウ、またはモロコシなどの、貯蔵デンプンを含む植物部分を有する全ての植物を意味する。
【0129】
本発明に関連して用語「ジャガイモ植物」または「ジャガイモ」とは、Solanum属の植物種、特にSolanum属の塊茎生成種、特にSolanum tuberosumを意味する。
【0130】
本発明に関連して用語「コムギ植物」とは、Triticum属の植物種またはTriticum属の植物との交雑から得られた植物、特に商業目的の農業に用いられる、Triticum属の植物種またはTriticum属の植物とのとの交雑から得られる植物、特に好ましくは Triticum aestivumを意味する。
【0131】
本発明に関連して用語「トウモロコシ植物」とは、Zea属の植物種、特に商業目的の農業に用いられるZea属植物種、特に好ましくはZea maisを意味する。
【0132】
追加の実施態様において、本発明は(系統上)Poaceae科の本発明によるデンプン貯蔵植物に関する。これらは好ましくはトウモロコシまたはコムギの植物である。
【0133】
本発明はまた、本発明による植物細胞を含む本発明による植物の繁殖材料に関する。
【0134】
ここで用語「繁殖材料」は、栄養的または実生的手段により子孫を生成することに適する植物の構成要素を含む。挿し木、カルス培養、根茎または塊茎が例えば栄養繁殖に適する。他の繁殖材料には、例えば、果実、種子、実生、プロトプラスト、細胞培養その他が含まれる。好ましくは繁殖材料は塊茎であり、特に好ましくは胚乳を含む穀粒である。
【0135】
さらなる実施態様において、本発明は果物、貯蔵根、根、花、芽、枝または茎、好ましくは種子、穀粒または塊茎のような本発明による植物の収穫可能な植物部分に関し、その場合、これらの収穫可能な部分は本発明による植物細胞を含む。
【0136】
さらに、本発明はまた、本発明による遺伝的修飾植物の作製のための方法であって:
a) 植物細胞を遺伝的に修飾し、その遺伝的修飾が遺伝的に修飾されていない対応
する野生型植物細胞と比較したOK1タンパク質の活性の増加をもたらし;
b) 工程a)から得られる植物細胞から植物を再生し;および
c) 必要ならば、工程b)によって得られる植物を利用してさらなる植物を生成する、
方法に関する。
【0137】
工程a)により植物細胞へ導入される遺伝的修飾は、基本的に、OK1タンパク質活性の増加をもたらす任意の型の遺伝的修飾であってよい。
【0138】
工程b)による植物の再生を、当業者に公知の方法(例えば、"Plant Cell Culture Protocols", 1999, edt. by R.D. Hall, Humana Press, ISBN 0-89603-549-2 に記載の)を用いて実施することができる。
【0139】
本発明による方法の工程c)によるさらなる植物の生成を、例えば栄養繁殖(例えば挿し木、塊茎を用いるまたはカルス培養および全植物体の再生による)または実生繁殖によって行なうことができる。ここで、実生繁殖は好ましくは制御された条件下で行われる、すなわち、特定の特性を有する選択された植物同士を交雑させ繁殖させる。この場合の選択を、好ましくは工程c)によって得られるさらなる植物が、工程a)で導入された遺伝的修飾を示すように行なう。
【0140】
本発明による方法のさらなる実施態様においては、遺伝的修飾は、本発明による外来性核酸分子の植物細胞のゲノム中への導入であり、前記外来性核酸分子の存在または発現が、細胞の中でOK1タンパク質の活性増大をもたらす。
【0141】
本発明による方法のさらなる実施態様においては、遺伝的修飾は外来性核酸分子の植物細胞のゲノム中への導入であり、外来性核酸分子はOK1タンパク質をコードする。
【0142】
さらなる実施態様では、本発明による方法を、デンプン貯蔵植物を生成するために本発明による遺伝的修飾植物を作製するために用いる。
【0143】
さらなる実施態様では、本発明による方法を、本発明によるトウモロコシまたはコムギ植物を生成するために用いる。
【0144】
本発明による方法のさらなる実施態様において、外来性核酸分子は:
a) 配列番号2または配列番号4に特定されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸分子;
b) プラスミドA.t.−OK1−pGEへの挿入またはプラスミドpMI50への挿入によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする核酸分子;
c) 配列番号2または配列番号4に特定されるアミノ酸配列と少なくとも60%の同一性を有するアミノ酸配列のタンパク質をコードする核酸分子;
d) プラスミドA.t.−OK1−pGEMへの挿入またはプラスミドpMI50への挿入によってコードされるアミノ酸配列と少なくとも60%の同一性を有する配列のタンパク質をコードする核酸分子;
e) 配列番号1または配列番号3に示されるヌクレオチド配列または相補的配列を含む核酸分子;
f) プラスミドA.t.−OK1−pGEMまたはプラスミドpMI50に含まれる挿入のヌクレオチド配列を含む核酸分子;
g) a)、b)、e)またはf)に記述される核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する配列の核酸分子;
h) ストリンジェント条件下でa)、b)、e)またはf)に記述される核酸分子の少なくとも1つの鎖とハイブリダイズする核酸分子;
i) 遺伝子コードの縮退によりa)、b)、e)、またはf)で特定される核酸分子の配列と相違したヌクレオチド配列を有する核酸分子;および

j) a)、b)、c)、d)、e)、f)、g)、h)またはi)で特定される核酸分子の断片、対立遺伝子変異体、および/または誘導体に相当する核酸分子;
からなる群より選ばれる。
【0145】
本発明による方法のさらなる実施態様において、外来性核酸分子は:
a) 植物ゲノムへの組込みによって、OK1遺伝子の発現の増加をもたらすT−DNA分子(T−DNA活性化タギング);
b) 植物ゲノムへの組込みによってOK1遺伝子の発現の増加をもたらすトランスポゾンを含むDNA分子(トランスポゾン活性化タギング);
c) OK1タンパク質をコードし、植物細胞中で転写を保証し(開始し)、それが細胞中でOK1タンパク質の活性の増加をもたらす、調節配列に連結されDNA分子;
d) インビボの突然変異誘発により導入され、少なくとも1つの内在的なOK1遺伝子中に、突然変異または非相同配列の挿入をもたらす核酸分子であって、突然変異または挿入がOK1遺伝子の発現の増大を引き起こす、核酸分子;
からなる群より選ばれる。
【0146】
さらなる実施態様において、本発明は、遺伝的に修飾された植物が遺伝的に修飾されていない野生型植物由来のデンプンと比較して、修飾されたデンプンを合成する本発明による方法に関する。
【0147】
本発明による方法のさらなる実施態様において、本発明による植物は、対応する野生型植物から単離されたデンプンと比較して、より高いデンプンリン酸含量および/または修飾されたリン酸分布を有する修飾デンプンを合成する。
【0148】
本発明による方法のさらなる実施態様において、本発明による植物が、遺伝的に修飾されていない野生型植物からのデンプンと比較して、C−3リン酸のC−6リン酸に対する修飾された比率を有する修飾デンプンを合成する。ここで特に好ましいのは、遺伝的に修飾されていない野生型植物から得られるデンプンと比較して、C−3位置に結合したデンプンリン酸がC−6位置に結合したデンプンリン酸と比較して増大した割合を有するデンプンである。
【0149】
本発明はまた、本発明による方法によって得ることが出来る植物に関する。
【0150】
驚くべきことに、OK1タンパク質の増大した活性を有する本発明による植物細胞および本発明による植物から単離したデンプンが、修飾デンプンを合成することが見出された。
【0151】
特に、本発明によるデンプン中のデンプンリン酸量の増大が、デンプンに驚くべきかつ有利な性質を与える。本発明によるデンプンは、デンプンリン酸の増大した割合のために、ロードされた基の割合が増大しており、それはかなり機能的特性に影響する。ロードされた官能基を含むデンプンは、特に製紙産業において有用であり、紙をコートするためにそれが利用される。ロードされた分子でコートされた紙はまた良好な接着性を示し、例えば染料、印刷インキその他などの色素を吸収するためにも特に適する。
【0152】
本発明はまた、本発明による植物細胞または本発明による植物から、本発明による繁殖材料から、あるいは本発明による収穫可能な植物部分から得ることのできる修飾デンプンに関する。
【0153】
さらなる実施態様において、本発明は、デンプン貯蔵植物からの、好ましくは(系統上の)イネ科デンプン貯蔵植物からの、特に好ましくはトウモロコシまたはコムギの植物からの本発明による修飾デンプンに関する。
【0154】
さらに本発明は、本発明による植物細胞または本発明による植物から、そのような植物の本発明による繁殖殖材料から、および/またはそのような植物の本発明による収穫可能な植物部分から、好ましくはそのような植物の本発明によるデンプン貯蔵部分から、デンプンを抽出する工程を含む、修飾デンプンの作製のための方法に関する。好ましくは、そのような方法はまた、デンプンを抽出する前に栽培された植物または植物部分および/またはこれらの植物の繁殖材料を収穫する工程も含み、さらに特別に好ましくは収穫前に本発明による植物を栽培する工程を含む。
【0155】
植物または植物のデンプン貯蔵部分からデンプンを抽出する方法は当業者に公知である。さらに、種々のデンプン貯蔵植物からデンプンを抽出する方法については、例えば:デンプン:Chemistry and Technology (Publisher: Whistler, BeMiller and Paschall (1994), 2nd Edition, Academic Press Inc. London Ltd; ISBN 0-12-746270-8; 例えば、Chapter XII, Page 412-468:トウモロコシおよびモロコシのデンプン:作製;by Watson; Chapter XIII, Page 469-479: タピオカ、クズウコンおよびサゴデンプン:作製;by Corbishley and Miller; Chapter XIV, Page 479-490: ジャガガイモデンプン:作製および使用;by Mitch; Chapter XV, Page 491 to 506: コムギデンプン:作製、修飾および使用;by Knight and Oson; and Chapter XVI, Page 507 to 528: 米澱粉:作製および使用; by Rohmer and Klem; トウモロコシデンプン:by Eckhoff et al., Cereal Chem. 73 (1996), 54-57;工業規模のトウモロコシデンプンの抽出は、一般にいわゆる「ウェットミリング」により行われる)に記述されている。植物材料からデンプンを抽出するための方法において慣用されている装置は、セパレーター、デカンター、液体サイクロン、噴霧乾燥器および流動床乾燥器である。
【0156】
本発明に関連して、用語「デンプン貯蔵部分」とは、植物の一過性葉デンプンとは対照的に、長期間生存するための備蓄としてデンプンを貯蔵するような部分を意味すると理解するべきである。好ましいデンプン貯蔵植物部分は、例えば塊茎、貯蔵根および穀粒、特に好ましいのは胚乳を含む穀粒、とりわけ好ましいのはトウモロコシまたはコムギの植物の胚乳を含む穀粒である。
【0157】
修飾デンプンを製造するための本発明による方法によって入手することができる修飾デンプンもまた、本発明の目標である。
【0158】
本発明のさらなる実施態様において、本発明による修飾デンプンはネイティブのデンプンである。
【0159】
本発明に関連して、用語「ネイティブのデンプン」とは、本発明による植物、本発明による収穫可能な植物、本発明によるデンプン貯蔵部分、または本発明による植物の繁殖材料から、当業者に公知の方法によってデンプンが単離されることを意味する。
【0160】
さらに、本発明による植物細胞または本発明による植物の、修飾デンプンを作製するための使用が、本発明の課題である。
【0161】
当業者には、デンプンの特性が、例えば熱的、化学的、酵素的な、または機械的な誘導により変更できることは、公知である。誘導デンプンは、食料および/または非食料産業分野における種々の応用に特に適する。本発明によるデンプンは、高いデンプンリン酸含量のため、より高い割合の反応性官能基を示すので、誘導デンプン作製用の出発物質として従来のデンプンよりもよく適している。
【0162】
したがって本発明はまた、本発明による修飾デンプンが前もって導出されている誘導デンプンの作製に関する。
【0163】
本発明に関連して、用語「誘導デンプン」とは、植物細胞からの単離後に、化学的、酵素的、熱的、または機械的方法を利用してその特性が変更された、本発明による修飾デンプンを意味すると理解するべきである。
【0164】
本発明のさらなる実施態様において、本発明による誘導デンプンは熱および/または酸で処理されたデンプンである。
【0165】
さらなる実施態様において、誘導デンプンはデンプンエーテル、特にデンプンアルキルエーテル、O−アリルエーテル、ヒドロキシアルキルエーテル、O−カルボキシルメチルエーテル、窒素含有デンプンエーテル、リン酸含有デンプンエーテル、または硫黄含有デンプンエーテルである。
【0166】
さらなる実施態様において、誘導デンプンは架橋されたデンプンである。
【0167】
さらなる実施態様において、誘導デンプンはデンプングラフトポリマーである。
【0168】
さらなる実施態様において、誘導デンプンは酸化されたデンプンである。
【0169】
さらなる実施態様において、誘導デンプンは、デンプンエステル、特に有機酸を用いてデンプンの中へ導入されたデンプンエステルである。特に好ましくは、これらは、リン酸、硝酸、硫酸、キサントゲン酸、酢酸、またはクエン酸デンプンである。
【0170】
本発明による誘導デンプンは、医薬品工業および食料および/または非食料分野での種々の応用に適する。本発明による誘導デンプンを作製する方法は当業者に公知であり、一般的な文献に十分に記述されている。誘導デンプンの作製についての概説は、例えば、Orthoefer (in Corn, Chemistry and Technology, 1987, eds. Watson und Ramstad, Chapter 16, 479-499)に見出すことができる。
【0171】
誘導デンプンを作製するための本発明による方法により入手可能な誘導デンプンもまた、本発明の課題である。
【0172】
さらに、誘導デンプンを作製するために本発明による修飾デンプンを使用することが、本発明の課題である。
【0173】
植物のデンプン貯蔵部分はしばしば穀粉へ加工される。穀粉が生成される植物部分の例は、例えばジャガイモ植物の塊茎および穀類植物の穀粒である。穀類植物から穀粉を作製するために、これらの植物の胚乳を含む穀粒を挽いて漉す。デンプンは胚乳の主成分である。胚乳を含まず、代わりに塊茎または根のような他のデンプン貯蔵部分を含む他の植物の場合には、しばしば当該貯蔵器官の、例えば細断、乾燥、およびそれに続く磨砕により穀粉を生成する。胚乳の、あるいは植物のデンプン貯蔵部分内に含まれるデンプンは、それぞれ、それらの植物部分から生成される穀粉の基本的部分である。したがって穀粉の特性は、それぞれの穀粉中に存在するデンプンの影響を受ける。本発明よる植物細胞および本発明による植物は、遺伝的に修飾されていない野生型植物細胞および野生型植物と比較して、修飾されたデンプンを合成する。本発明による植物細胞、本発明による植物、本発明による繁殖材料、または本発明による収穫可能部分から生成された穀粉は、したがって、修飾された特性を示す。穀粉の特性は、デンプンを穀粉に混合することにより、または種々の特性を有する穀粉を混合することにより影響を受ける可能性がある。
【0174】
したがって、本発明の追加の課題は、本発明によるデンプンを含む穀粉に関する。
【0175】
本発明のさらなる課題は、本発明による植物細胞から、本発明による植物から、本発明による植物のデンプン貯蔵部分から、本発明による繁殖材料から、または本発明による収穫可能植物部分から生成される穀粉に関する。本発明による植物の好ましいデンプン貯蔵部分は、塊茎、貯蔵根、および胚乳を含む穀粒である。塊茎は、好ましくはジャガイモ植物に由来し、また穀粒は好ましくは(系統上の)Poaceae科植物に由来し、一方穀粒は特に好ましくはトウモロコシまたはコムギの植物由来である。
【0176】
本発明に関連して、用語「穀粉」とは、植物部分を磨砕することにより得られる粉末を意味すると理解するべきである。植物部分を磨砕の前におそらく乾燥させ、細断および/または磨砕の後に漉す。
【0177】
本発明による穀粉は、修飾されたリン酸含量および/または修飾されたリン酸分布を示すデンプンを含むこと、特にそれらの増大した水結合能力によって特徴づけられる。これが、食料産業における多くの応用のために、特に例えば焼き菓子の作製における、穀粉の加工において望ましい。
【0178】
本発明のさらなる課題は、本発明による植物細胞、本発明による植物、本発明による植物の部分、本発明による植物のデンプン貯蔵部分、本発明による繁殖材料、あるいは本発明による収穫可能な材料、を磨砕する工程を含む、穀粉の作製のための方法である。
【0179】
穀粉を、本発明による植物のデンプン貯蔵部分を摩砕することにより生成することができる。穀粉の作製のための方法は当業者に公知である。穀粉の作製のための方法は、摩砕の前に、好ましくは栽培植物または植物部分、および/または繁殖材料、またはこれらの植物のデンプン貯蔵部分を収穫する工程、および特に好ましくは収穫前に本発明による植物を栽培する追加の工程を含む。
【0180】
本発明に関連して、用語「植物の部分」とは、全体として完全な植物を構成する構成要素としての植物のすべての部分を意味すると理解するべきである。植物の部分は、接ぎ穂、葉、根茎、根、こぶ、塊茎、さや、種子または穀粒である。
【0181】
本発明のさらなる実施態様において、穀粉のための方法には、本発明による植物、本発明によるデンプン貯蔵植物、本発明による繁殖材料、または本発明による収穫可能な材料の、摩砕前の加工が含まれる。
【0182】
この場合、加工は、例えば熱処理および/または乾燥であり得る。熱処理およびそれに続く熱処理された材料の乾燥が、例えばジャガイモ塊茎のような貯蔵根または塊茎からの穀粉の作製において、摩砕の前に用いられる。本発明よる植物、本発明による植物のデンプン貯蔵部分、本発明による繁殖材料、または本発明による収穫可能な材料を摩砕前に細断することが、さらに本発明の意味での加工に相当する場合がある。摩砕前の、例えば穀物のもみ殻などの植物組織の除去もまた、本発明の意味での加工に相当する。
【0183】
本発明のさらなる実施態様では、穀粉の作製方法には、摩砕後の摩砕生成物の加工が含まれる。この場合、摩砕生成物を、例えば様々な型の穀粉を生成するために、摩砕後に例えば漉すことができる。
【0184】
本発明のさらなる課題は、遺伝的に修飾された本発明による植物細胞または本発明による植物を、穀粉の作製のために使用することである。
【0185】
本発明による植物細胞および本発明による植物の生成のために、例えばDNA分子などの、遺伝的に修飾されていない修飾野生型植物細胞または野生型植物と比較して、修飾されたデンプンを合成する手段を提供することも本発明の課題である。
【0186】
したがって、本発明はまた、OK1タンパク質の酵素活性を有するタンパク質をコードする核酸分子であって:
a) 配列番号2または配列番号4に特定されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸分子;
b) プラスミドA.t.−OK1−pGEMへの挿入またはプラスミドpMI50への挿入によってコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする核酸分子;
c) 配列番号2または配列番号4に特定されるアミノ酸配列と少なくとも60%の同一性を有するアミノ酸配列のタンパク質をコードする核酸分子;
d) プラスミドA.t.−OK1−pGEMへの挿入またはプラスミドpMI50への挿入によってコードされるアミノ酸配列と少なくとも60%の同一性を有する配列のタンパク質をコードする核酸分子;
e) 配列番号1または配列番号3に示されるヌクレオチド配列または相補的配列を含む核酸分子;
f) プラスミドA.t.−OK1−pGEMまたはプラスミドpMI50に含まれる挿入のヌクレオチド配列を含む核酸分子;
g) a)、b)、e)またはf)に記述された核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する配列の核酸分子;
i) ストリンジェント条件下でa)、b)、e)、またはf)に記述された核酸分子の少なくとも1つの鎖とハイブリダイズする核酸分子;
h) 遺伝子コードの縮退によりa)、b)、e)、またはf)で特定される核酸分子の配列と相違したヌクレオチド配列を有する核酸分子;および
j) a)、b)、c)、d)、e)、f)、g)、h)またはi)で特定される核酸分子の断片、対立遺伝子変異体、および/または誘導体に相当する核酸分子、
からなる群より選ばれる核酸分子に関する。
【0187】
基本的に、本発明による核酸分子は任意の植物起源であってよく、それらは好ましくはデンプン貯蔵植物起源、好ましくはジャガイモ、オオムギ、モロコシ、オオムギ、コムギまたはイネの植物起源、特に好ましくはArabidopsis 植物またはイネ植物起源、およびより特別に好ましくはOryza sativa起源である。
【0188】
さらに本発明は、少なくとも21の、好ましくは50を越える、また特に好ましくは200を越えるヌクレオチド長の、少なくとも1つの本発明による核酸分子に特異的にハイブリダイズする核酸分子に関する。ここで特異的にハイブリダイズするとは、これらの分子が本発明によるタンパク質をコードする核酸分子とハイブリダイズするが、他のタンパク質をコードする核酸分子とはハイブリダイズしないことを意味する。特に本発明は、本発明による核酸分子の転写物とハイブリダイズし、その結果それらの翻訳を妨害することができる核酸分子に関する。本発明による核酸分子と特異的にハイブリダイズするそのような核酸分子は、例えばアンチセンスの構成要素、RNAi、または共抑制コンストラクトであるか、またはリボザイムである可能性があり、あるいはプライマーとしてPCR増幅に用いることができる。
【0189】
さらに本発明は、本発明による核酸分子を含む組換え核酸分子に関する。
【0190】
本発明に関連して、用語「組換え核酸分子」とは、それが本発明による核酸分子に加えて自然には生じない追加の配列を、本発明による組換え核酸中に存在する組合せで含む、核酸分子を意味すると理解するべきである。ここで上の追加の配列は任意の配列であってよく、それらは好ましくは調節配列(プロモーター、終結シグナル、エンハンサー)であり、特に好ましくは植物組織において活性を有する調節配列であり、またとりわけ好ましくは貯蔵デンプンを合成する植物組織において活性を有する調節配列である。本発明による組換え核酸分子生成のための方法は、当業者に公知であり、例えば核酸分子のライゲーションによる結合、遺伝的組換え、または核酸分子の新しい合成などの遺伝学的方法を含む(例えば、Sambrok et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd edition (2001) Cold Spring Harbour Laboratory Press, Cold Spring Harbour, NY. ISBN: 0879695773, Ausubel et al., Short Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons; 5th edition (2002), ISBN: 0471250929 を参照のこと)。
【0191】
本発明の組換え核酸分子のさらなる実施態様は、上に記述した本発明による核酸分子を含むベクター、特にプラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ、および遺伝子技術における他の通例のベクターである。
【0192】
さらなる実施態様では、ベクターに含まれる本発明による核酸分子を、原核生物または真核細胞中で発現を開始する調節配列と連結する。ここで用語「発現」は、転写および翻訳の両方を意味することができる。本発明による核酸分子は、調節配列に関して「センス」配向および/または「アンチセンス」配向をとることができる。
【0193】
原核生物、例えばE. coli中の、および真核生物中の発現用調節配列は、特に Saccharomyces cerevisiae などの酵母中の発現用調節配列は、十分に文献に記載されている。種々の宿主生物中のタンパク質の発現用の様々なシステムの概説が、例えば Methods in Enzymology 153 (1987), 383-516 および Bitter et al.(Methods in Enzymology 153 (1987), 516-544) に見出される。
【0194】
本発明のさらなる課題は、宿主細胞、特に本発明による核酸分子および/または本発明によるベクターにより遺伝的に修飾された原核または真核細胞、ならびにこれらの型の宿主細胞起源であって本発明による遺伝的修飾を含む細胞である。
【0195】
さらなる実施態様において本発明は、宿主細胞、特に本発明による核酸分子または本発明によるベクターによって形質転換された原核または真核細胞、ならびにこれらの型の宿主細胞起源であって本発明による記述された核酸分子またはベクターを含む宿主細胞に関する。
【0196】
宿主細胞は、バクテリア細胞(例えばE. coli、Agrobacterium属のバクテリア、特に Agrobacterium tumefaciensまたはAgrobacterium rhizogenes)または真菌細胞(例えば酵母,特にS. cerevisiae、Agaricus、特にAgaricus bisporus、Aspergillus、Trichoderma)、ならびに植物または動物細胞でよい。ここで用語「形質転換」とは、本発明による細胞が、そのネイティブのゲノムに加えて少なくとも1つの本発明による核酸分子を含むために、本発明による核酸分子によって遺伝的修飾されることを意味する。これは、恐らく自己複製分子として細胞中に自由な形で存在するか、または宿主細胞のゲノムへ安定して組み込まれることができる。
【0197】
微生物の宿主細胞が好ましい。本特許出願の枠組み内では、これは、例えば Schlegel の"General Microbiology " (Georg Thieme Publishing House (1985), 1-2)に定義されているように、すべてのバクテリアおよびすべての原生生物(例えば真菌、特に酵母および藻類)を含んでいると理解する。
【0198】
本発明によるさらなる宿主細胞は植物細胞である。原則として、これらは任意の植物種からの、即ち単子葉植物および双子葉植物の両方からの植物細胞であってよい。これらには、農業上の有用植物からの、即ち栄養上の、技術上の、または特に産業上の目的のために人間により栽培される植物からの植物細胞が好ましい。本発明は、好ましくはデンプン貯蔵植物(トウモロコシ、イネ、コムギ、ライムギ、エンバク、オオムギ、キャッサバ、ジャガイモ、サゴ、リョクトウ、エンドウ、またはモロコシ)からの植物細胞および植物に関し;特に(系統上の)Poacea 科植物からの植物細胞、特に好ましくはトウモロコシまたはコムギの植物からの植物細胞に関する。
【0199】
本発明による核酸分子、本発明による組換え核酸分子、または本発明によるベクターを含む組成物もまた、本発明の課題物質である。本発明による核酸分子、本発明による組換え核酸分子、または本発明によるベクター、および宿主細胞を含む組成物が好ましい。特に好ましくは、宿主細胞は植物細胞であり、より特別に好ましくはトウモロコシまたはコムギの植物からの細胞である。
【0200】
本発明による組成物のさらなる局面は、本発明による宿主細胞を生成するために用いることができる、好ましくは本発明による植物細胞を生成するために用いることができる組成物に関する。好ましくは、これは本発明による核酸分子、本発明による組換え核酸分子または本発明によるベクター、および本発明による核酸分子の宿主細胞中への導入に適しているバイオリスティックの担体を含む組成物である。好ましいバイオリスティックの担体はタングステン、金または合成材料の粒子である。
【0201】
本発明による組成物のさらなる実施態様は、本発明による核酸分子、本発明による組換え核酸分子、または本発明によるベクター、ならびに植物細胞および合成培地を含む組成物に関する。好ましくは、そのような組成物はまた、本発明よる核酸分子、植物細胞、および合成培地に加えて、ポリエチレングリコール(PEG)も含む。これらの組成物の場合には、本発明による組換え核酸分子が植物細胞の外部に存在する、即ちそれが細胞膜に囲まれた植物細胞の細胞内部の外側に位置する。
【0202】
植物細胞の栽培および/または形質転換に適する合成培地は当業者に公知であり、例えば、文献に十分に記載されている。さらに、様々な合成培地が、専門の業者(例えば DUCHEFA Biochemie B.V., Belgium)から購入できる。
【0203】
本発明による組成物のさらなる実施態様は、本発明による核酸の同定に用いる組成物に関する。好ましくは、そのような組成物は、本発明による核酸分子、本発明による組換え核酸分子または本発明によるベクターに加えて、ゲノムDNA、mRNAの形でまたはいわゆるDNAライブラリー中のクローンとして存在する可能性がある追加の核酸分子、特に植物起源の核酸分子、を含む。コスミド、ファージミド、プラスミド、YACまたはBACとして存在するDNAライブラリーが、好ましい。DNAライブラリーは、ゲノムDNAおよびcDNAの両方を含むことができる。本発明による核酸分子、本発明による組換え核酸分子、または本発明によるベクターを、これらの組成物の中で、好ましくはハイブリダイゼーション試料として用いる。
【0204】
本発明のさらなる実施態様は、デンプンリン酸化活性を示し、基質としてリン酸化デンプンを要求するタンパク質に関する。好ましくは、これはリン酸化デンプンをリン酸化する活性を示し、基質としてリン酸化デンプンを要求するタンパク質である。
【0205】
本発明のさらなる実施態様は、基質としてリン酸化デンプンを要求し、ATPのリン酸残基をリン酸化デンプンに転移する本発明によるタンパク質に関する。好ましくは、本発明によるタンパク質は、ATPのβ−リン酸残基をリン酸化デンプンに転移する。特に好ましくは、本発明によるタンパク質は、ATPのβ−リン酸残基をリン酸化デンプンへ、ATPのγ−リン酸残基を水へ転移し、したがって[リン酸化α−1,4−グルカン]−水−ジキナーゼ活性、または[リン酸化デンプン]−水−ジキナーゼ活性を有する。
【0206】
本発明のさらなる実施態様は、リン酸残基をリン酸化デンプンに転移するときにリン酸化中間体生成物として蓄積する本発明によるタンパク質に関する。
【0207】
本発明のさらなる実施態様は、非リン酸化デンプンと比較して、リン酸化デンプンに対して増大した結合活性を示す本発明によるタンパク質に関する。
【0208】
本発明のさらなる実施態様は、リン酸化デンプンのグルコース分子のC−6位置のリン酸モノエステル結合に比較して、C−3位置により多くの追加のリン酸モノエステル結合を導入する本発明によるタンパク質に関する。
【0209】
リン酸化デンプンのグルコース分子のC−6位置リン酸モノエステル結合と比較して、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも120%多くのリン酸化デンプンのグルコース分子のC−3位置のリン酸塩モノエステル結合が導入される。
【0210】
本発明のさらなる課題は、120kDa〜145kDaの、好ましくは120kDa〜140kDaの、特に好ましくは125kDa〜140kDaの、および最も特別に好ましくは130kDa〜135kDaのアミノ酸配列に由来する分子量を示す本発明によるタンパク質に関する。
【0211】
本発明のさらなる実施態様は、ホスホヒスチジン領域を示す本発明によるタンパク質に関する。ホスホヒスチジン領域は、好ましくは2つのヒスチジン残基を含む。
【0212】
本発明のさらなる課題は:
a) 配列番号2または配列番号4に指定されたアミノ配列を含むタンパク質;
b) プラスミドA.t.−OK1−pGEMまたはpMI50に挿入されたDNAのコ
ード領域によってコードされるタンパク質; または
c) a)またはb)に指定されたタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも60%の同一
性を示すタンパク質、
からなる群より選ばれる、本発明によるタンパク質である。
【0213】
さらなる実施態様において、本発明は、リン酸化デンプンリン酸化活性を有するタンパク質であって、コードされたタンパク質は、配列番号2または配列番号4に指定されたアミノ酸配列と、あるいはプラスミドA.t.−OK1−pGEMまたはプラスミドpMI50中の挿入によりコードされるOK1タンパク質のアミノ酸配列と、少なくとも70%の、好ましくは少なくとも80%の、特に好ましくは少なくとも90%の、そしてより特別に好ましくは少なくとも95%の同一性を示すタンパク質に関する。
【0214】
本発明のさらなる実施態様は、タンパク質をコードするアミノ酸配列がホスホヒスチジン領域を示すことを特徴とする本発明によるタンパク質に関する。好ましくは、本発明によるタンパク質は、配列番号5に指定されたアミノ酸配列と、少なくとも50%の、特に少なくとも60%の、好ましくは少なくとも70%の、特に好ましくは少なくとも80%の、およびより特別に好ましくは少なくとも90%の同一性を有するホスホヒスチジン領域を示す。
【0215】
さらなる実施態様では、本発明はタンパク質がArabidopsisまたはイネ植物起源である本発明によるタンパク質に関する。
【0216】
本発明のさらなる実施態様は、非リン酸化デンプンと比較してリン酸化デンプンに対して増大した結合活性を示すタンパク質であって、リン酸化デンプンへの結合活性が少なくとも3倍、好ましくは少なくとも4倍、特に好ましくは少なくとも5倍、およびより特別に好ましくは少なくとも6倍、非リン酸化デンプンへの結合活性と比較して増大しているタンパク質に関する。
【0217】
さらなる実施態様において、本発明はまた、本発明による核酸分子によってコードされるタンパク質に関する。
【0218】
配列の記述
配列番号1: Arabidopsis thaliana のA.t.−OK1タンパク質のコード領域を含む核酸配列。この配列を、ベクターOK1−pGEM−T および OK1−pDEST(商標)17に挿入する。
配列番号2: Arabidopsis thaliana のA.t.−OK1タンパク質をコードするアミノ酸配列。この配列は、配列番号1に示された核酸配列から導出することができる。
配列番号3: Oryza sativa のO.s.−OK1タンパク質のコード領域を含む核酸配列。この配列をベクターMI50に挿入する。
配列番号4: Oryza sativa のO.s.−OK1タンパク質をコードするアミノ酸配列。この配列は、配列番号3に示された核酸配列から導出することができる。
配列番号5: Arabidopsis thaliana、Oryza sativa および Sorghum bicolor のOK1タンパク質のホスホヒスチジン領域をコードするペプチド配列。
【0219】
一般的方法
下記に本発明による方法を実施するために用いることができる方法について記述する。これらの方法は、本発明の特別の実施態様を構成するが、本発明はこれらの方法に制限されない。記述された方法を変更することによりおよび/または方法の個々の部分を方法の別の部分に置換することにより、同じように本発明を実施できることは、当業者に知られている。
【0220】
1. 植物組織からのタンパク質抽出物の作製
【0221】
a) 植物組織からのタンパク質抽出物の作製
葉材料を収穫直後に液体窒素で凍結し、続いて液体窒素下乳鉢中で均質化する。縮小させた葉材料を約3.5倍の体積(用いる葉材料の重量に対して)の冷却した(4℃)結合用緩衝液と混合し、Ultraturraxを用いて、2×10秒間浸軟した(最高速度)。Ultraturraxによる第1の処理の後、第2の処理を実行する前に縮小させた葉材料を氷上で冷却する。その後、処理した葉材料を、100μmのナイロンメッシュを通し、20分間遠心した(50ml遠心管、20,000×g、4℃)。
【0222】
b) タンパク質抽出物に含まれるタンパク質の沈澱
工程a)による遠心分離によって得られた上清を取り出し、その体積を測定した。タンパク質を沈殿させるために、硫酸アンモニウムを上清に、30分間かけて氷上で撹拌しながら、75%(重量/体積)の最終濃度になるまで連続的に加える。上清を続いてもう1時間氷上で撹拌しながらインキュベーションする。上清から沈殿させたタンパク質を、20,000×gおよび4℃10分間でペレット化し、続いてペレットを5mlの結合用緩衝液に吸収させる、すなわちペレット中に存在するタンパク質を溶解させる。
【0223】
c) 沈殿したタンパク質の脱塩
溶解したタンパク質を、セファデックスG25(Amersham Bioscience, Freiburg, Prod. No. columns: 17-0851-01, Prod. No. Sephadex G25-M: 17-0033-01)を詰めたPD10カラムを用いて温度4℃で脱塩する、すなわち工程b)の沈澱に用いられた硫酸アンモニウムを溶解したタンパク質から分離する。工程b)に従って溶解されたタンパク質を加える前に、PD10カラムを結合用緩衝液と平衡にする。この目的のために、各5mlの結合用緩衝液をカラム上に散布する。続いて、工程b)に従って得られたタンパク質溶液の2.5mlを各カラムへ加え、次に3.5mlの結合用緩衝液によりカラムからタンパク質を溶出させる。
【0224】
d) タンパク質濃度の決定
タンパク質濃度を、ブラッドフォード分析(Biorad, Munich, Prod. No.500-0006(Bradford, 1976, Anal. Biochem. 72, 248-254))により決定する。
【0225】
e) 結合用緩衝液の組成
結合用緩衝液: 50mM HEPES/NaOH(またはKOH)、pH7.2
1mM EDTA、
2mM ジチオエリトリトール(DTE)、
2mM ベンズアミジン、
2mM ε−アミノカプロン酸、
0.5mM PMSF、
0.02% トリトンX−100。
【0226】
2. 葉のデンプンの単離
【0227】
a) 植物組織からのデンプン粒の単離
葉材料を収穫直後に液体窒素中で凍結する。葉材料を小分けして乳鉢中で液体窒素下均質化し、全体で約2.5倍の体積(重量/体積)のデンプン緩衝液中に吸収させる。さらにこの懸濁液を、ワーリングブレンダー中最高速度で20秒間再び均質化する。ホモジネートをナイロンメッシュ(メッシュ幅100μm)に通し、5分間1,000×gで遠心する。可溶性タンパク質を含む上清を捨てる。
【0228】
b) 植物組織から単離されたデンプンの精製
デンプンの上にある緑の物質を、デンプン緩衝液で緑の物質をすすぎ落とすことによって除去した後、工程a)から得られたデンプンを含むペレットをデンプン緩衝液に吸収させ、種々のメッシュ幅(60μm、30μm、20μmの順に)のナイロンメッシュに次々と通す。濾液を、10mlのパーコール・クッション(95%(v/v)パーコール(Pharmacia, Uppsala, Sweden)、5%(v/v)0.5M HEPES−KOH pH7.2)(Correxチューブ、15min、2,000×g)を用いて、遠心分離する。この遠心分離後に得られた沈殿物をデンプン緩衝液に一度再懸濁し、再び遠心分離する(5min、1,000×g)。
【0229】
c) デンプンに結合したタンパク質の除去。
工程b)に従って、デンプンに結合したタンパク質を含むデンプン粒を得る。デンプン粒の表面に結合したタンパク質を4回、各回に0.5%SDS(ラウリル硫酸ナトリウム)と10〜15分間室温で攪拌下インキュベーションすることにより、除去する。各洗浄工程の次に、洗浄緩衝液からデンプン粒を分離するために遠心分離(5min、5,000×g)を行う。
【0230】
d) タンパク質を除去されたデンプンの精製
工程c)から得た、表面へ結合したタンパク質を除いたデンプンを、続いて洗浄緩衝液と4回、各場合に室温で攪拌下10〜15分インキュベーションすることにより除く。各洗浄工程に続いて、それぞれの洗浄緩衝液からデンプン粒を分離するために遠心分離(5分、1,000×g)を行う。これらの精製工程は、主として工程c)でインキュベーション中に用いられるSDSを除去する役割を果たす。
【0231】
e) 単離したデンプンの濃度の決定
工程d)で分離されたデンプンの量を光度計で決定する。適当な希釈の後、デンプン懸濁液の光学密度を検量線に対して600nmの波長で測定する。検量線が直線状である範囲は、0〜0.3吸光単位の間に存在する。
【0232】
検量線を生成するために、例えばArabidopsis thaliana sex1-3 突然変異体の葉から分離されたデンプンを真空下で乾燥させ、重さを量り、規定体積の水に吸収させる。このようにして得られた懸濁液を、水の1ml当たり約5μgのデンプン懸濁液を得るまで、数工程で、各工程において水で1対1の比率で希釈する。個々の希釈工程によって得られた懸濁液を光度計により600nmの波長で測定する。各懸濁液について得られた吸収値を、各懸濁液のデンプン濃度に対してプロットする。得られた検量線は、水ml当たり0μgのデンプン〜水ml当たり0.3μgのデンプンの範囲で線形の数学関数に従うはずである。
【0233】
f) 単離したデンプンの貯蔵
デンプンをそれ以上貯蔵しないでさらなるテストに直接用いてもよいし、または1.5mlエッペンドルフ管に分注して−20℃で貯蔵してもよい。冷凍デンプンおよび非貯蔵の新鮮に分離されたデンプンの両方を、もし必要なら、例えばインビトロのリン酸化および/または結合テストに関する本発明に記述された方法に用いることができる。
【0234】
g) 用いられる緩衝液の組成
1×デンプン緩衝液: 20mMHEPES−KOH、pH8.0、
0.2mMEDTA、
0.5% トリトンX−100
洗浄緩衝液: 50mMHEPES/KOH、pH7.2
【0235】
3. 同定されたデンプンリン酸化タンパク質の組換え発現
【0236】
a) デンプンリン酸化タンパク質をコードするcDNAを含むバクテリアの発現ベクターの作製
デンプンリン酸化タンパク質をコードするcDNAを、例えば「鋳型」として植物組織のmRNAまたはポリA−プラス−mRNAを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅することができる。この目的のために、先ず、逆転写酵素を用いてデンプンリン酸化タンパク質をコードするmRNAに相補的なcDNA鎖を作製し、その後当該cDNA鎖をDNAポリメラーゼにより増幅する。PCR反応を実施するための物質、酵素および指示を含むいわゆる「キット」を、購入することができる(例えば、SuperScript(商標) One-Step RT-PCR System, Invitrogen, Prod. No.: 10928-034)。デンプンリン酸化タンパク質をコードする増幅されたcDNAを、その後、バクテリアの発現ベクター、例えばpDEST(商標)17(lnvitrogen)中にクローニングすることができる。pDEST(商標)17は、T7RNAポリメラーゼの転写を開始するために用いられるT7プロモーターを含む。更に、発現ベクターpDEST(商標)17は、T7プロモーターの5’方向にシャイン・ダルガルノ配列を含み、その後に開始コドン(ATG)および、いわゆるHisタグが続く。このHisタグは直接連続する6つのコドンから成り、各々はアミノ酸ヒスチジンをコードし、また前記開始コドンの読枠中に位置する。デンプンリン酸化タンパク質をコードするcDNAのpDEST(商標)17中へのクローニングを、翻訳の融合が、開始コドン、Hisタグ、およびデンプンリン酸化タンパク質をコードするcDNAのコドン間に生じるように行なう。この結果として、T7プロモーター上で開始される転写およびその後の翻訳に続いて、そのN末端にHisタグを含む追加のアミノ酸を含むデンプンリン酸化タンパク質が得られる。
【0237】
しかし、微生物中での発現に適している他のベクターもまた、デンプンリン酸化タンパク質の発現に用いることができる。発現ベクターおよび関連する発現株は当業者に公知であり、また適当な組合せで適当な業者から購入することができる。
【0238】
b) Escherichia coli中の発現クローンの作製
まず第一に、T7RNAポリメラーゼを染色体的にコードする適切な形質転換受容性E.coli 菌株を工程a)で作製された発現プラスミドにより形質転換し、続いて寒天で固めた培地上終夜30℃でインキュベーションする。適切な発現菌株は、例えば、BL21菌株(Invitrogen Prod. No.: C6010-03)であり、これは、IPTG誘導が可能なプロモーター(lacZ)の制御下にあるT7RNAポリメラーゼを染色体的にコードする。
【0239】
形質転換の結果得られたバクテリアコロニーは、当業者に公知の方法により、それらがデンプンリン酸化タンパク質をコードするcDNAを含む必要な発現プラスミドを有しているかどうかを確かめるために調べることができる。同時に、発現クローンが得られる。
【0240】
c) Escherichia coliにおけるデンプンリン酸化タンパク質の発現
まず第一に、予備培養を生成する。このために、工程b)に従って得られた発現クローンを、発現プラスミドの存在を選択するための抗生物質を含む30mlのTerrific Broth培地(TB培地)に播種し、終夜30℃で攪拌下(250rpm)インキュベーションする。
【0241】
デンプンリン酸化タンパク質発現用の本培養を次に生成する。これを行うために、各々30℃に予熱された300mlのTB培地および発現プラスミドの存在を選択するための抗生物質を含む1 L エルレンマイヤーフラスコに、各々10mlの適切な予備培養を播種し、(600nmの波長で測定した)光学密度(OD600)が約0.8になるまで、30℃で攪拌下(250rpm)インキュベーションした。
【0242】
もし、デンプンリン酸化タンパク質の発現のために、デンプンリン酸化タンパク質の発現が誘導可能なシステム(例えばIPTGにより誘導可能なBL21 E.coli 菌株中の発現ベクターpDEST(商標)17)を用いて開始されるような発現プラスミドを用いる場合は、約0.8のOD600に達したときに、当該(例えばIPTG)誘導物質を本培養に加える。誘導物質を加えた後に、本培養液を30℃で攪拌下(250rpm)約1.8のOD600までインキュベーションする。本培養を次に氷上で30分間冷却し、続いて本培養の細胞を遠心分離(10分間4,000×g、4℃)により、培地から分離する。
【0243】
4. デンプンリン酸化タンパク質の精製
【0244】
a) デンプンリン酸化タンパク質を発現している細胞の破砕
一般的方法項目3の工程c)で得た細胞を、溶解緩衝液中に再懸濁する。その際、約4mlの溶解緩衝液を約1gの細胞へ加える。次に再懸濁した細胞を氷上で30分間インキュベーションし、その後、超音波プローブ(Baudelin Sonoplus UW 2070, Baudelin electronic, Berlin、 設定:サイクル6、70%、1分間)を用いて、氷による連続冷却下で破砕する。ここで、細胞懸濁液を超音波処理の間に熱しすぎないことを確実にするように注意しなければならない。超音波処理の結果得られた懸濁液を遠心し(12分20,000×g、4℃)、遠心分離の後に得られた上清を、45μmのポアサイズを有するフィルタを用いて濾過する。
【0245】
b) デンプンリン酸化タンパク質の精製
もし E.coli 細胞中に発現したデンプンリン酸化タンパク質がHisタグとの融合タンパク質である場合は、Hisタグが非常に大きな親和性で結合するニッケルイオンを用いて精製することができる。これを行うために、工程d)で得られた25mlの濾液を1mlのNi−アガローススラリー(Qiagen, Prod. No.: 30210)と混合し、氷上で1時間インキュベーションする。Ni−アガローススラリーと濾液の混合物を、続いてポリスチレンカラム(Pierce, Prod. No.:29920)上で展開する。カラムを通過する生成物を捨てる。次に8mlの溶解緩衝液を加えることによりカラムを洗浄し、カラムを通過する生成物を再び捨てる。デンプンリン酸化タンパク質の溶出は、次に、1mlのE1緩衝液を2回、続いて1mlのE2緩衝液を1回、また続いて1mlE3緩衝液を5回、カラムへ区分けして加えることにより起こる。カラムへ適切な溶出緩衝液(El、E2、E3緩衝液)の個々の分画を加えることにより生成される、カラムを通過する生成物を、別々の分画に集める。これらの分画の小部分を、次に変性SDSアクリルアミドゲル電気泳動とそれに続くクマシーブルー染色により分析する。十分な量および満足すべき純度のデンプンリン酸化タンパク質を含む分画を、加圧濾過を用いて4℃で精製し濃縮する。加圧濾過を、例えばAmiconセル(Amicon Ultrafiltration Cell, Model 8010, Prod. No.: 5121)を用いて、DiafloPM30膜(Millipore, Prod. No.: 13212)を使用して4℃で実施することができる。しかし、当業者に公知の他の方法も濃縮に用いることができる。
【0246】
c) 用いられる緩衝液の組成
溶解緩衝液: 50mM HEPES、
300mM NaCl、
10mM イミダゾール、
pH8.0(NaOHで調節する)、
1mg/mlリゾチーム(緩衝液を用いる直前に加える)
10ml当たり1/4錠の完全EDTAフリープロテアーゼ阻害剤(Roche Product No.:1873580)(緩衝液を用いる直前に加える)。
溶出緩衝液E1: 50mM HEPES、
300mM NaCl、
50mM イミダゾール、
pH8.0(NaOHで調節する)
溶出緩衝液E2: 50mM HEPES、
300mM NaCl、
75mM イミダゾール、
pH8.0(NaOHで調節する)
溶出緩衝液E3: 50mM HEPES、
300mM NaCl、
250mM イミダゾール、
pH8.0(NaOHで調節する)
【0247】
5. R1タンパク質の組換え発現
R1タンパク質の組換え発現については、文献(Ritte et al., 2002, PNAS 99, 7166-7171; Mikkelsen et al., 2004, Biochemical Journal 377, 525-532) に記載されているが、しかしまた、一般的方法項目3の下に上に記述されたデンプンリン酸化タンパク質の組換え発現に関する方法に従って実施することもできる。
【0248】
6. R1タンパク質の精製
R1タンパク質の精製については、文献(Ritte et al., 2002, PNAS 99, 7166-7171; Mikkelsen et al., Mikkelsen et al., 2004, Biochemical Journal 377, 525-532) に記述されているが、しかし、E. coli 細胞のR1の発現によってHisタグを含むR1融合タンパク質が生成される場合は、一般的方法項目4の下に上に記述された、デンプンリン酸化タンパク質の精製に関する方法に従って実施することもできる。
【0249】
7. 非リン酸化デンプンに基づくリン酸化デンプンのインビトロにおける作製
【0250】
a) 非リン酸化デンプンのインビトロにおけるリン酸化
1ml当たり25mgのデンプン含量を生成するために、デンプンリン酸を含まないデンプン(例えば、一般的方法項目2、の下で上に記述された方法を用いて、 Arabidopsis thaliana sex1-3 突然変異体の葉から単離された)を、R1緩衝液および精製されたR1タンパク質(1mgデンプン当たり約0.25μgのR1タンパク質)と混合する。この反応調製物を、終夜(約15h)攪拌下室温でインキュベーションする。反応調製物中に存在するデンプンに結合しているR1を、反応の完了時に4回、各回約800μlの0.5%SDSで洗浄することにより除去する。続いてインビトロでリン酸化されたデンプン中にまだ存在するSDSを5回、各回1mlの洗浄緩衝液で洗うことにより、除去する。すべての洗浄工程を室温で10〜15分間攪拌下行なう。各洗浄工程に続けて、それぞれのSDS緩衝液または洗浄緩衝液からデンプン粒を分離するために、遠心分離(2分間、10,000×g)を行う。
【0251】
b) 用いられる緩衝液の組成
R1緩衝液: 50mM HEPES/KOH、pH7.5、
1mM EDTA、
6mM MgCl
0.5mM ATP
洗浄緩衝液: 50mM HEPES/KOH、pH7.2
【0252】
8. リン酸化デンプンまたは非リン酸化デンプンへのタンパク質の結合
【0253】
a) P−デンプンタンパク質複合体または非リン酸化デンプンタンパク質複合体の単離
約50mgのP−デンプンまたは約50mgの非リン酸化デンプンを、個別の調製物中の各タンパク質抽出物約800μlに再懸濁する。タンパク質抽出物のタンパク質濃度は、各々1ml当たり約4mg〜5mgとするべきである。P−デンプンまたは非リン酸化デンプンとタンパク質抽出物のインキュベーションを攪拌下室温15分間4℃で実施する。インキュベーションの完了時に、反応調製物をパーコールクッション(4ml)を用いて遠心する(15分、3,500rpm、4℃)。遠心分離の後、リン酸化デンプン即ちP−デンプンに結合していないタンパク質は上清で見つかり、パスツールピペットで除去ことができる。上清を捨てる。遠心分離後に得られたP−デンプンおよび非リン酸化デンプンを含み、またそれぞれのデンプンに結合したタンパク質(それぞれ、P−デンプンタンパク質複合体または非リン酸化デンプンタンパク質複合体)を含む沈殿したペレットを2回、各回1mlの洗浄緩衝液で(上記、一般的方法項目7.b)を参照のこと)、3分間4℃攪拌下でインキュベーションすることにより、洗浄した。洗浄工程の次に、洗浄緩衝液からP−デンプンまたは非リン酸化デンプンをそれぞれ分離するために、遠心分離(5分、8000rpm、4℃で卓上遠心機 Hettich EBA 12Rで)を行った。
【0254】
b) P−デンプンタンパク質複合体または非リン酸化デンプンタンパク質複合体それぞれ中の結合したタンパク質の溶解
工程a)で得られたP−デンプンタンパク質複合体または非リン酸化デンプンタンパク質複合体をそれぞれ約150μlSDSテスト緩衝液中に再懸濁し、室温15分間攪拌下でインキュベーションする。続いてP−デンプンまたは非リン酸化デンプンを、それぞれ溶解されたタンパク質から遠心分離により(1分、13,000rpm、室温、Eppendorf 卓上遠心機)、取り除く。P−デンプンまたは非リン酸化デンプンの残りをそれぞれすべて除去するために、遠心分離後に得られた上清を再び遠心し(1分、13,000rpm、室温、Eppendorf 卓上遠心機)、除去する。その結果、P−デンプンまたは非リン酸化デンプンにそれぞれ結合する溶解されたタンパク質が得られる。
【0255】
c) 用いる緩衝液の組成
SDSテスト緩衝液: 187.5mM トリス/HCl、pH6.8、
6% SDS、
30% グリセリン、
〜0.015% ブロモフェノールブルー、
60mM DTE(新たに添加)
パーコール: パーコールを、および25mMHEPES/KOH(pH7.0)から構成される溶液に対して終夜透析する。
【0256】
9. P−デンプンおよび/または非リン酸化デンプンに結合するタンパク質の分離
タンパク質のそれぞれP−デンプンまたは非リン酸化デンプンへの結合に関する一般的方法項目8工程c)で得られた溶解されたタンパク質を、各々5分間95℃でインキュベーションし、続いて変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動法を用いて分離する。その際、P−デンプンに結合することにより得られた溶解されたタンパク質および非リン酸化デンプンに結合することにより得られた溶解されたタンパク質の等しい体積を、各々アクリルアミドゲルに加える。電気泳動の完了時に得られたゲルを少なくとも終夜コロイド状クマシーで染色し(Roth, Karlsruhe, Roti-Blue Rod. No.: A152.1)、続いて30%メタノール、5%酢酸、または25%メタノール中で脱色する。
【0257】
10. P−デンプンおよび/または非リン酸化デンプンに結合するタンパク質の同定および単離
【0258】
a) 非リン酸化デンプンと比較してP−デンプンに対して増加した結合活性を有するタンパク質の同定
アクリルアミドゲル電気泳動による分離およびそれに続く染色による可視化(上記一般的方法項目9を参照のこと)の後に、非リン酸化デンプンに結合した後の対応する信号と比較して、P−デンプンに結合した後に増加した信号を示すタンパク質は、非リン酸化デンプンと比較してP−デンプンに対して増大した結合活性を有する。この手段によって、非リン酸化デンプンと比較してP−デンプンに対して増大した結合活性を有するタンパク質を同定することができる。非リン酸化デンプンと比較してP−デンプンに対して増大した結合活性を有するタンパク質を、アクリルアミドゲルから切り出す。
【0259】
b) 非リン酸化デンプンと比較してP−デンプンに対して増大した結合活性を有するタンパク質の同定
工程a)に従って同定されたタンパク質をトリプシンにより消化し、得られたペプチドをMALDI−TOFによって分析して、得られたペプチドの質量を決定する。トリプシンは配列特異的なプロテアーゼである、即ちトリプシンは、タンパク質があるアミノ酸配列を含んでいる場合に、特異的位置でのみ当該タンパク質を分割する。N末端からスタートして、アミノ酸アルギニンおよびリジンが互いに続く場合トリプシンは常にペプチド結合を分割する。したがって、アミノ酸配列のトリプシン消化後に生成されることになるペプチドをすべて理論的に決定することが可能である。理論的に決定されたペプチドをコードするアミノ酸についての知識から、理論的なトリプシン消化後に得られるペプチドの質量を決定することができる。したがって、理論的なトリプシン消化後のペプチドの質量に関する情報を含むデータベース(例えば、NCBInr http:// prospector. ucsf.edu/ucsfhtml4.0/msfit.htm; Swissprot http://cbrg.inf.ethz.ch/Server/ MassSearch.html)を、MALDI−TOF−MSによって得られた未知のタンパク質のペプチドの実際の質量と比較することができる。理論的および/または現実のトリプシン消化の後に同じペプチド質量を有するアミノ酸配列は、同一であると見なされる。当該データベースは、既にその機能が示されているタンパク質のペプチド質量、および配列決定計画により得られた核酸配列から出発したアミノ酸配列から導出された、今までのところ単に仮説的に存在するタンパク質のペプチド質量の両方を含む。そのような仮説タンパク質の実際の存在および機能が示されたことは希であり、また何らかの機能が存在するとしても、これは通常予測のみに基づいていて、実際の機能の実証には基づいていない。
【0260】
工程a)に従って得られたタンパク質を含むバンドをアクリルアミドゲルから切り出し;切り出されたアクリルアミド片を、約30分間37℃で、約1mlの60%50mMNHHCO40%アセトニトリル中でインキュベーションすることにより、還元して脱色する。続いて脱色溶液を除き、残ったゲルを真空下(例えば Speedvac)で乾燥させる。乾燥後、トリプシン溶液を加えて、当該ゲル片に含まれるタンパク質を消化する。消化は、37℃で終夜行う。消化の後、小量のアセトニトリルを加えて(アクリルアミドゲルが白く染まるまで)、調製物を真空下(例えばSpeedvac)で乾燥させる。乾燥が完了したとき、乾いた内容物を被うためにちょうど十分な5%ギ酸を加え、数分間37℃でインキュベーションする。アセトニトリル処理とそれに続く乾燥をもう一度繰り返す。続いて、乾燥した内容物を0.1%TFA(トリフルオロ酢酸、5μl〜10μl)に吸収させ、担体上に約0.5μlずつ滴下する。等量のマトリックス(ε−シアノ−4−ヒドロキシ−桂皮酸)を担体に加える。マトリックスを結晶化させた後に、MALDI−TOF−MS−MS(例えば Burker Reflex(商標) II, Bruker Daltonic, Bremen )によってペプチドの質量を決定する。得られた質量についてデータベースを探索して、理論的トリプシン消化後に同じ質量を与えるアミノ酸配列を求める。このようにして、好んでリン酸化α−1,4−グルカンに結合する、および/または基質としてP−α−1,4−グルカンを必要とするタンパク質をコードするアミノ酸配列を同定することができる。
【0261】
11. タンパク質のデンプンリン酸化活性を実証する方法
【0262】
a) タンパク質のP−デンプンおよび/または非リン酸化デンプンとのインキュベーション
タンパク質がデンプンリン酸化活性を有するかどうかを実証するために、調べるべきタンパク質をデンプンおよび放射性ラベルされたATPとインキュベーションすることができる。これを行うために、約5mgのP−デンプンまたは約5mgの非リン酸化デンプンを、調べるタンパク質(用いるデンプン1mg当たり0.01μg〜5.0μg)と500μlリン酸化緩衝液中で10分〜30分間室温で攪拌下インキュベーションする。続いて反応を、SDSの2%(重量/体積)濃度までの添加によって止める。それぞれの反応混合物中のデンプン粒を遠心(1分間、13,000×g)し、900μlの2%SDS溶液で1回および各々900μlの2mMATP溶液で4回洗浄する。各洗浄工程を、15分間室温で撹拌下行なう。各洗浄工程の後、デンプン粒をそれぞれの洗浄緩衝液から遠心分離(1分間、13,000×g)により分離する。
【0263】
さらに、タンパク質のデンプンリン酸化活性を実証する実験を実施するときは、タンパク質を含んでいないかまたは不活性化されたタンパク質を含むが、それ以外は記述した反応調製物と同じ方法で処理されるさらなる反応調製物を、いわゆる対照として処理するべきである。
【0264】
b) 酵素活性によりP−デンプンおよび/または非リン酸化デンプンに取り込まれたリン酸残基の量の決定。
工程a)に従って得られたデンプン粒を、放射性ラベルされたリン酸残基の存在について調べることができる。これを行うために、それぞれのデンプンを100μlの水に再懸濁し、それぞれ3mlのシンチレーションカクテル(例えば Ready Safe(商標), BECKMANN Coulter)と混合し、次にシンチレーションカウンター(例えば、 LS 6500 Multi-Purpose Scintillation Counter, BECKMANN COULTER(商標))を用いて分析する。
【0265】
c) 基質としてP−デンプンを好んで用いるタンパク質の同定
もしタンパク質をP−デンプンと共に一度、および非リン酸化デンプンと共に一度、別々の調製物中でa)に記述した方法に従いインキュベーションするならば、工程b)によって得られたデンプンリン酸の存在量を比較することよって、当該タンパク質が非リン酸化デンプンと比較してP−デンプンにより多くのリン酸を取込んだかどうかを決定することができる。したがって、P−デンプンへリン酸を導入することができるが、非リン酸化デンプンへはできないタンパク質を同定することが出来る。即ちさらなるリン酸化反応用基質として既にリン酸化されているデンプンを要求するタンパク質を同定することができる。
【0266】
d) 用いられる緩衝液の組成
リン酸化緩衝液: 50mM HEPES/KOH pH7.5、
1mM EDTA、
6mM MgCl
0.01〜0.5mM ATP、
1ml当たり0.2〜2 pCi の無作為化33P−ATP(あるいは、β位置に特異的にラベルされたリン酸残基を含むATPを用いることもできる)。
【0267】
本発明に関連しては、用語「無作為化ATP」とはγ位置およびβ位置の両方にラベルされたリン酸残基を含むATPを意味すると理解するべきである(Ritte et al. 2002, PNAS 99, 7166-7171)。無作為化ATPはまた科学文献にβ/γATPとして記述されている。無作為化ATPを作製する方法について下記に記述する。
【0268】
i) 無作為化ATPの作製
ここで記述する、酵素触媒反応を用いる無作為化ATPの作製のための方法は、次の反応機構に基づく:
反応工程1
γ33P−ATP+AMP+ミオキナーゼ → β33P−ADP+ADP
(アデノシン−P−P−33P+アデノシン−P →
アデノシン−P−P+アデノシン−P−33P)
反応工程2
33P−ADP+ADP+2 PEP+ピルビン酸キナーゼ →
β33P−ATP+ATP+2 ピルビン酸
(アデノシン−P−P+アデノシン−P−33P+2 PEP →
アデノシン−P−P−P + アデノシン−P−33P−P+2 ピルビン酸)
反応平衡が生成物側に存在するにもかかわらず、この反応は、主としてβ33P−ATPおよびいくらかのγ33P−ATPからなる混合物を生成する。
【0269】
ii) 第1の反応工程の実施
33Pでラベルされたリン酸残基をγ位置に含むATP(Hartmann Analytic,10μCi/μl)(100μCi、3000Ci/mmol)を、2μlミオキナーゼ(ウサギ筋肉のAMPホスホトランスフェラーゼ;SIGMA, Prod. No.: M3003、3.8mg/ml、1,626単位/mg)と90μlの無作為化緩衝液中1時間37℃でインキュベーションする。12分間95℃でインキュベーションすることにより反応を停止し、その後、反応調製物をMicrocon YM10フィルタ(Amicon, Millipore Prod. No. 42407)を用い、14,000×gで少なくとも10分間遠心濾過することにより精製した。
【0270】
iii) 第2の反応工程の実施
2μlのピルビン酸キナーゼ(適切な溶液を作製する方法については下を参照)および3μlの50mMPEP(ホスホエノールピルビン酸)を工程ii)で得られた濾液に加える。この反応混合物を45分間30℃でインキュベーションしてから、95℃で12分間インキュベーションすることにより反応を止める。続いて反応混合物を遠心する(Eppendorf卓上遠心機で2分間、12,000rpm)。遠心分離後に得られた無作為化ATPを含む上清を取り出して、小分けにし、−20℃で貯蔵することができる。
【0271】
ピルビン酸キナーゼ溶液の作製
15μlピルビン酸キナーゼ(ウサギ筋肉、Roche, Prod. No.12815,10mg/ml, 200単位/mg,25℃で) を遠心し、上清を捨て、またペレットを27μlピルビン酸キナーゼ緩衝液に吸収した。
【0272】
iv) 用いられる緩衝液
ピルビン酸キナーゼ緩衝液: 50mM HEPES/KOH、pH7.5、
1mM EDTA
無作為化緩衝液: 100mM HEPES/KOH pH7.5、
1mM EDTA、
10% グリセリン、
5mM MgCl
5mM KCl、
0.1mM ATP、
0.3mM AMP
【0273】
12. タンパク質の自己リン酸化の実証
タンパク質が自己リン酸化活性を有するかどうかを実証するために、調べたいタンパク質を放射性ラベルされたATPとインキュベーションすることができる。これを行うために、調べたいタンパク質(50μg〜100μg)を、220μlリン酸化緩衝液(上記の一般的方法、項目12d)を参照のこと)の中で30分〜90分間室温で撹拌下インキュベーションする。その後、反応を最終濃度0.11MまでのEDTAを加えることによって止める。その後、約2μg〜4μgのタンパク質を、変性ポリアクリルアミド電気泳動(7.5%アクリルアミドゲル)を用いて分離する。ポリアクリルアミドゲル電気泳動法後に得られたゲルをオートラジオグラフィに付す。オートラジオグラフィで信号を示すタンパク質は放射性リン酸残基を保持している。
【0274】
13. デンプンリン酸化タンパク質によりリン酸残基を導入されるα−1,4−グルカンのグルコース分子のC−原子位置の同定
α−1,4−グルカンのグルコース分子のどのC−原子位置がタンパク質によりリン酸化されるかを、制御された様式で、適切なタンパク質を用いて得られたリン酸化グルカンのインビトロの加水分解、それに続く加水分解後に得られたグルコースモノマーの分離、およびそれに続く、適切なタンパク質によりグルコース分子の一定の分画に組み入れられたリン酸の測定、により実証することができる
【0275】
a) α−1,4−グルカンの全加水分解
α−1,4−グルカンを含む水懸濁物を遠心し、続いて沈殿したペレットを0.7MのHCl(Baker、解析用)に再懸濁して、撹拌下2時間95℃でインキュベーションする。インキュベーションの完了後、試料を短時間冷却し、遠心する(例えば2分間、10,000×g)。得られた上清を新しい反応容器に移し、2M NaOH(Baker、解析用)を添加して中和する。ペレットが残っている場合は、それを100μlの水に再懸濁し、そこに存在するラベルされたリン酸の量を対照として測定する。
【0276】
続いて中和した上清を10kDaフィルタに載せて遠心する。得られた濾液の小分画を、例えば、シンチレーションカウンターを用いて測定して、濾液中のラベルされたリン酸の量を決定する。
【0277】
b) 加水分解生成物の分別およびリン酸化されたC−原子位置の決定
工程a)によって得られた加水分解生成物の中和された濾液を、例えば高圧陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAE)を用いて、分離することができる(約3000cpmの放射性ラベルATPを用いる場合)。HPAEに必要な体積を得るために中和された濾液をH0で薄めることができる。さらに、グルコース−6−リン酸(約0.15mM)およびグルコース−3−リン酸(約0.3mM)を、適切な濾液に各々内部対照として加える。HPAEによる分離を例えば、CarboPac PA 100カラム(適切なプレカラムを備えた)およびパルスアンペロメトリック検出器(ED 50)を用いるDionex DX 600 BioLcシステムを用いて、行なうことができる。そうする際に、試料を注入する前に、カラムをまず10分間99%溶出液Cおよび1%溶出液Dで濯ぐ。その後、60μlの試料体積を注入する。試料の溶出は下記条件下で起こる:
流量:1ml/分
勾配:0分〜30分まで直線的に増加する
溶出液C 溶出液D
0分 99% 1%
30分 0% 100%
35分 0% 100%
溶出終了。
【0278】
カラムから溶出した加水分解生成物を、各々1mlの分画毎に集める。毎回非ラベルグルコース−3−リン酸(Ritte et al. 2002, PNAS 99, 7166-7171)および非ラベルグルコース−6−リン酸(Sigma, Prod. No.: G7879)を、注入された加水分解生成物の試料に内部基準として加えておくので、グルコース−3−リン酸またはグルコース−6−リン酸のいずれかを含む分画を、パルスアンペロメトリック検出により決定することができる。個々の分画中のラベルされたリン酸の量を測定し、続いてグルコース−3−リン酸またはグルコース−6−リン酸を含む分画と比較することにより、これをラベルされたグルコース−6−リン酸またはラベルされたグルコース−3−リン酸を含む分画を決定するために用いることができる。当該分画中のラベルされたリン酸の量を決定する。個々の加水分解生成物中でラベルされたリン酸について測定されたグルコース−3−リン酸のグルコース−6−リン酸に対する量比から、α−1,4−グルカンリン酸化酵素がどのC−原子位置を好んでリン酸化するかをここで決定することができる。
【0279】
c) 用いる緩衝液
溶出液C:100 mM NaOH
溶出液D:100 mM NaOH、
500 mM 酢酸ナトリウム
【0280】
14. イネ植物の形質転換
イネ植物を、Hiei et al.(1994, Plant Journal 6(2), 271-282)によって記述された方法に従って形質転換した。
【0281】
15. ジャガイモ植物の形質転換
ジャガイモ植物を、アグロバクテリウムを用いて、Rocha-Sosa et al.(EMBO J. 8,(1989), 23-29)によって記述されているように形質転換した。
【0282】
16. コムギ植物の形質転換
コムギ植物を Becker et al.(1994, Plant Journal 5, 299-307)により記述された方法に従って形質転換した。
【0283】
17. トウモロコシ植物の形質転換
系統A188のトウモロコシ植物の未成熟胚をlshida et al. (1996, Nature Biotechnology 14, 745-750)により記述された方法に従って形質転換した。
【0284】
18. デンプンリン酸含量の決定
【0285】
C−6リン酸含有量の決定
デンプンにおいては、グルコース単位のC2、C3およびC6位置がリン酸化される可能性がある。デンプンのC6−P含量を決定するために、50mgのデンプンを、500μlの0.7M HCl中4時間95℃で加水分解した。その後、調製物を15,500gで10分間遠心し、上清を取り出した。上清7μlを193μlのイミダゾール緩衝液(100mM イミダゾール、pH7.4;5mM MgCl2、1mM EDTAおよび0.4mM NAD)と混合した。光度計を用いて340nmで測定を行った。基礎吸収を確定した後、2単位のグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(Leuconostoc mesenteroidesの, Boehringer Mannheim)を加えることにより、酵素反応を開始した。吸収の変化は、デンプン中のG−6−P含量の濃度に正比例する。
【0286】
b) 全リン酸含量の決定
全リン酸含量の決定をエームズ法(Methods in Enzymology VIII, (1966), 115-118)を用いて行う。
【0287】
約50mgのデンプンを30μlのエタノール硝酸マグネシウム溶液と混合し、マッフル炉中3時間500℃で灰化する。残渣を300μlの0.5M塩酸と混合し、30分間60℃でインキュベーションする。次に、一部分を0.5M塩酸で300μlまで増加させ、100μlの10%アスコルビン酸および600μlの2M硫酸中の0.42%モリブデン酸アンモニウムの混合物に加えて、20分間45℃でインキュベーションする。
【0288】
c) C−6リン酸およびC−3リン酸の含量の決定
α−1,4−グルカンのグルコース分子のC−6位置およびC−3位置に結合したリン酸の含量を決定するために、一般的方法項目13に記載されたHPAE法による全加水分解を用いて各グルカンを分離することができる。グルコース−6−リン酸およびグルコース−3−リン酸の量を、HPEA分離の後に得られる個々のピーク面積の積分により決定することができる。未知の試料で得られたグルコース−6−リン酸に対するピーク面積を、既知量のグルコース−6−リン酸およびグルコース−3−リン酸を有するHPAE分離後のピーク面積と比較することにより、調査する試料中のグルコース−6−リン酸およびグルコース−3−リン酸の量を決定することができる。
【実施例1】
【0289】
Arabidopsis thaliana からの非リン酸化デンプンと比較してP−デンプンに対して増加した結合活性を有するタンパク質の単離
【0290】
a) Arabidopsis thaliana からのタンパク質抽出物の作製
タンパク質抽出物を、Arabidopsis thaliana(Oekotyp Columbia, Col-O)の約7gの葉(生体重)から、一般的方法項目1に記述された方法に従って作製した。
【0291】
b) Arabidopsis thaliana sex1-3 突然変異体の葉からのデンプン粒の単離
デンプン粒を、Arabidopsis thaliana sex1-3突然変異体の約20gの葉(生体重量)から、一般的方法項目2に記述された方法に従って単離した。
【0292】
c) Arabidopsis thaliana sex1-3突然変異体から単離されたデンプンの、精製されたR1タンパク質によるインビトロのリン酸化
Arabidopsis thaliana sexl-3突然変異体から単離された約30mgの非リン酸化デンプンを、一般的方法項目7に記述された方法に従って、E. coli 中で組換え発現され精製されたR1タンパク質によってリン酸化した。Ritte et al.(2002, PNAS 99, 7166- 7171)に記述された方法を、E. coli 中のR1タンパク質の発現、およびそれに続く精製に用いた。
【0293】
d) P−デンプンおよび/または非リン酸化デンプンに結合するタンパク質の単離
工程a)に従って得られた Arabidopsis thaliana のタンパク質抽出物を、50mgの工程c)に従って作製されたインビトロでリン酸化されたデンプンと、一般的方法項目8a)に記述された方法を用いて、調製物A中でインキュベーションし洗浄した。
【0294】
第2の調製物B中で、工程a)に従って得られた Arabidopsis thaliana のタンパク質抽出物を、工程b)に従って作製された50 mgの非リン酸化デンプンと、一般的方法項目8a)に記述された方法を用い、インキュベーションし洗浄した。
【0295】
続いて、調製物AのP−デンプンに、および調製物Bの非リン酸化デンプンに結合したタンパク質を、一般的方法項目8b)に記述された方法に従って溶解した。
【0296】
第3の調製物C中で、工程c)に従って作製された50mgのインビトロでリン酸化されたデンプンを、一般的方法項目8a)に記述された方法を用いて、インキュベーションし洗浄した。しかし、調製物Cはタンパク質抽出物を含まなかった。
【0297】
e) 工程d)に従って得られたタンパク質のアクリルアミドゲル電気泳動による分離
工程d)中で得られた調製物A、B、およびCのタンパク質を、一般的方法項目9に記述された方法を用いて、変性条件(SDS)下の9%アクリルアミドゲルによって分離し、続いてクマシーブルーで染色した。染色されたゲルを図1に示す。変性アクリルアミドゲル中で、タンパク質標準マーカー(トレースM)と照合して約130kDa の分子量を有するタンパク質が、非リン酸化デンプン(K)と比較して好んでリン酸化デンプン(トレースP)に結合することを、はっきり見ることができる。
【0298】
f) 非リン酸化デンプンと比較してP−デンプンに好んで結合するタンパク質の同定
工程e)で同定された約130kDa の分子量を有するタンパク質のバンドをゲルから切り出した。一般的方法10b)に記述したように、続いてタンパク質をアクリルアミドから放出させ、トリプシンで消化し、得られたペプチドの質量をMALD−TOF−MSによって決定した。MALDI−TOF−MSによって得られたいわゆる「フィンガープリント」を、データベース(Mascot: http://www.matrixscience. com/search form_select.html; ProFound: http://129.85.19.192/profound_bin/ WebProFound.exe; PepSea: http://195.41.108.38/PepSeaIntro.html)中の理論的に消化されたアミノ酸分子のフィンガープリントと比較した。このようなフィンガープリントはタンパク質に非常に特異的であるため、アミノ酸分子を同定することができた。このアミノ酸分子の配列を用いて、OK1タンパク質をコードする核酸配列を、Arabidopsis thaliana から特定することができた。この方法を用いて同定したタンパク質をA.t.−OK1と名付けた。Arabidopsis thaliana からのアミノ酸配列を分析した後に、これがデータベース中に存在する配列(NP 198009、NCBI)と相違することが判明した。配列番号2に示されるアミノ酸配列が、A.t.−OK1タンパク質をコードする。配列番号2には、データベース中の配列(Acc.:NP 198009.1,NCBI)と比較すると、差異が含まれる。配列番号2に含まれるアミノ酸519〜523(WRLCE)および762〜766(VRARQ)は、データベースに存在する配列(ACC.: NP 198009.1).NP 198009.1)中にはない。データベース配列のバージョン2(Acc.:NP 198009.2)と比較して、配列番号2中に示されるアミノ酸配列は追加のアミノ酸519〜523(WRLCE)を含む。
【実施例2】
【0299】
同定されたOK1タンパク質をコードするcDNAのクローニング
A.t.−OK1cDNAを、 Arabidopsis thaliana の葉から単離したmRNAを用い、逆PCR法を使用して単離した。これを行うために、逆転写酵素(SuperScript(商標) First-Strand Synthesis System for RT PCR, Invitrogen Prod. No.: 11904-018)によってcDNA鎖を合成し、その後DNAポリメラーゼ(Expand High Fidelity PCR Systems, Roche Prod. No.: 1732641)を用いてこれを増幅した。このPCR反応から得られて増幅された生成物を、ベクターpGEM(登録商標)−T(Invitrogen Prod.No.: A3600)へクローニングした。得られたプラスミドをA.t.−OK1−pGEM(登録商標)−Tと名付け、A.t.−OK1タンパク質をコードするcDNA配列を決定し、配列番号1(登録商標)に示す。
【0300】
配列番号1に示された配列は、データベースに含まれている配列と同じではない。これは既に、A.t.−OK1タンパク質をコードするアミノ酸配列に対して議論した。
【0301】
A.t.−OK1タンパク質をコードするcDNAの増幅に用いた条件
【0302】
第1鎖の合成:
メーカーによって指定された条件および緩衝液を用いた。さらに、第1鎖合成用の反応調製物は次の物質を含んでいた:
3μg 全RNA、
5μM 3’−プライマー(OK1逆方向1:5’−GACTCAACCACATAACACACAAAGATC)
0.83μM dNTP混合物。
反応調製物を5分間75℃でインキュベーションし、続いて室温に冷却した。その後第1鎖緩衝液、RNase阻害剤およびDTTを加えて2分間42℃でインキュベーションし、その後1μlの SuperScript RT DNAポリメラーゼを加え、反応調製物を50分間42℃でインキュベーションした。
【0303】
第1鎖のPCRによる増幅の条件:
1μl 第1鎖合成の反応調製物
【表3】

【0304】
反応条件:
工程1 95℃ 2分間
工程2 94℃ 20秒間
工程3 62℃ 30秒間(サイクル当たりの温度−0.67℃)(30s)、68℃
工程4 68℃ 4分間
工程5 94℃ 20秒間
工程6 56℃ 30秒間
工程7 68℃ 4分間
工程8 68℃ 10分間
まず反応を工程1〜4に従って行なった。工程4と工程2の間で10回の繰返し(サイクル)を実施し、工程3の温度を各サイクルの後に0.67℃だけ低下させた。次に、これに続けて工程5〜8で指定された条件に従う反応を行った。工程7と工程5の間で25回の繰返し(サイクル)を実施し、工程7の時間を各サイクルで5秒ずつ増加させた。反応完了後すぐに、反応物を4℃に冷却した。
【実施例3】
【0305】
OK1タンパク質のcDNAの組換え発現のためのベクターの作製
鋳型としてプラスミドA.t.−OK1−pGEM(登録商標)を用い、ゲートウェイ技術(Invitrogen)を用いるPCRによる増幅に続いて、Arabidopsis thaliana のOK1タンパク質をコードする配列を先ずベクターpDONOR(商標)201(Invitrogen Prod. No.: 11798-014)へクローニングした。続いて、得られたベクターのOK1タンパク質のコード領域を、配列特異的組換えによって発現ベクターpDEST(商標)17(Invitrogen Prod. No.: 11803-014)中へクローニングした。得られた発現ベクターをA.t.−OK1−pDEST(商標)1と名付ける。クローニングは、その結果として、A.t.−OK1タンパク質をコードするcDNAの、発現ベクターpDEST(商標)17中に存在するヌクレオチドとの翻訳的融合を引き起こした。ベクターpDEST17(商標)17起源のヌクレオチドはA.t.−OK1タンパク質をコードするcDNAと翻訳的に融合され、21個のアミノ酸をコードする。これらの21個のアミノ酸は、とりわけ、開始コドン(ATG)およびいわゆるHisタグ(直接連続する6個のヒスチジン残基)を含む。翻訳的に融合した配列の翻訳の後、これは、N末端にベクター起源のヌクレオチドによりコードされる追加の21個のアミノ酸を有するA,t.−OK1タンパク質をもたらす。したがって、このベクターに起因する組換えA.t.−OK1タンパク質は、そのN末端にベクターpDEST(商標)17起源の21個の追加のアミノ酸を含む。
【実施例4】
【0306】
E. coli 中のOK1タンパク質の非相同発現
実施例3に従って得た発現ベクターA.t.−OK1−pDEST(商標)17を、E.coli 菌株BL21 Star(商標)(DE3)(Invitrogen, Prod. No. C6010-03)中に形質転換した。この発現系の記述は既に上に与えた(一般的方法項目3を参照)。形質転換の結果得られたベクターA.t.−OK1−pDEST(商標)17を含むバクテリアのクローンを、まず予備培養の作製に使用し、それを、続いて本培養(一般的方法項目3c)を参照のこと)へ接種するために用いた。予備培養および本培養を各々30℃で撹拌下(250rpm)インキュベーションした。本培養が約0.8のOD600に達した時、組換えA.t.−OK1タンパク質の発現を、IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を最終濃度1mMに達するまで加えることにより誘導した。IPTGの添加後、本培養を30℃撹拌下(250rpm)でOD600 が約1.8に達するまでインキュベーションした。本培養をその後30分間氷上で冷却し、次に本培養の細胞を遠心分離(10分間4,000×g、4℃)により培地から分離した。
【実施例5】
【0307】
組換え発現されたOK1タンパク質の精製
実施例4に従って得られた細胞のA.t.−OK1タンパク質の精製および濃縮を、一般的方法項目4に記述された方法を用いて実施した。
【実施例6】
【0308】
OK1タンパク質のデンプンリン酸化活性の実証
A.t.−OK1タンパク質のデンプンリン酸化活性を、一般的方法項目11に記述された方法に従って実証した。その際に、実施例5に従って作製された精製A.t.−OK1タンパク質5μgを各々調製物Aでは実施例1b)に従って Arabidopsis thaliana sex1-3突然変異体から単離された5mgのデンプンと、および調製物Bでは実施例1c)に従って酵素的リン酸化によって得られた5 mgのデンプンと、それぞれ0.05mM放射性(33P)ラベル無作為化ATP(全体で1,130,00cpm、約0.55μCi)を含むリン酸化緩衝液500μl中で、30分間室温で撹拌下インキュベーションした。調製物Bに対応し、OK1タンパク質を含んでいないがそれ以外は標品AおよびBと同じ方法で処理された調製物Cを、対照として用いた。すべての調製物(A、B、C)について、各々互いに独立に2つのテストを行なった。
【0309】
シンチレーションカウンターを用い、調製物A、BおよびCから得られたデンプンを、放射性ラベルされたリン酸の存在について調べた(一般的方法項目11b)を参照)。結果を表1および図3に示す。
【0310】
【表4】

【0311】
OK1タンパク質により非リン酸化デンプンに転移されたリン酸基の分量(cpmで測定した)は、調製物C(対照)における放射性ラベルリン酸基の分量を超えないので、得られた結果から、基質として非リン酸化デンプンが与えられた場合は、OK1タンパク質はATPからデンプンにリン酸基を転移しないことが分かる。他方で、基質としてP−デンプンが与えられた場合は、ATPからP−デンプンへ転移される放射性リン酸基の分量(cpmで測定した)が、有意に高い。このことから、OK1タンパク質は基質としてP−デンプンを要求すること、またOK1タンパク質は非リン酸化デンプンを基質として受け入れないことがわかる。
【0312】
もし上記のテストが、33Pによりγ位置に特異的にラベルされたATPを用いて行われた場合は、放射性ラベルされたリン酸のデンプン中への取り込みは、まったく確立することができない。これにより、ATPのβリン酸残基がOK1タンパク質からデンプンへ転移されることがわかる。そのようなテストの結果を図6に示す。
【実施例7】
【0313】
自己リン酸化の実証
A.t.−OK1タンパク質の自己リン酸化が上記の方法により実証された(一般的方法項目12を参照のこと)。ここで、50μgの精製されたA.t.−OK1タンパク質を放射性ラベルされた無作為化ATPと、220μlのリン酸化緩衝液(上記一般的方法項目12d)を参照のこと)中で、室温60分撹拌下でインキュベーションした。続いて、インキュベーション調製物から各々100μlを取り出し、4つの新鮮な反応容器に移した。反応容器1では、40μlの0.11M EDTAの添加により反応を停止した。反応容器2を95℃で5分間インキュベートした。反応容器3にHClを最終濃度0.5M まで加え、反応容器4にNaOHを最終濃度0.5M まで加えた。反応容器3および4を各々25分間30℃でインキュベーションした。続いて、反応容器1、2、3および4から各々50μlを取り出し、SDSテスト緩衝液と混合して、SDSアクリルアミドゲル電気泳動(7.5%アクリルアミドゲル)によって分離した。この目的のために、反応容器からの試料を各々2つの同一のアクリルアミドゲルのそれぞれに添加した。電気泳動を完了して得られたゲルのうちの1つをオートラジオグラフィに付し、もう1つのゲルをクマシーブルーで染色した。
【0314】
クマシーブルーで染色したゲル中で(図2Aを参照のこと)、0.5M のNaOHによる処理がOK1タンパク質の分解をもたらすことがはっきり分かる。したがって、OK1タンパク質はNaOHに対して不安定であると言わなければならない。30℃、95℃および0.5M HClでのインキュベーションは、OK1タンパク質が述べたインキュベーション条件下で比較的安定していることを示す。これを、これらのインキュベーション条件下では、いずれもクマシーブルー染色後の当該ゲル中でほぼ同じ量のOK1タンパク質を実証することができるという事実から結論することができる。
【0315】
オートラジオグラフィ(図2Bを参照)において、30℃でインキュベーションしたリン酸化OK1タンパク質と比較してリン酸化OK1タンパク質の95℃でのインキュベーションが、OK1タンパク質に結合したリン酸の有意な減少をもたらすことがわかる。したがって、リン酸残基とOK1タンパク質のアミノ酸の間の結合は熱に不安定であると言わなければならない。更に、OK1タンパク質に結合したリン酸のわずかな減少が、0.5M HClおよび0.5M NaOHとのインキュベーションについて、30℃でインキュベーションしたリン酸化OK1タンパク質と比較して見られる。OK1タンパク質のNaOHに対する不安定性のために、オートラジオグラフィ中の、0.5M NaOH処理後のOK1タンパク質の量が、熱と酸で処理された試料より有意に少ないという事実を考慮に入れるならば、リン酸残基とOK1タンパク質のアミノ酸の間の結合は、塩基に関しては比較的安定しているだろうと結論付けることができる。酸で処理された試料が、30℃および95℃でインキュベーションした試料とほぼ同じ量のタンパク質を含んでおり、しかし30℃で処理された試料よりオートラジオグラフィ中で有意に低い信号を有するので、酸とのインキュベーション条件は、リン酸残基とOK1タンパク質のアミノ酸の間の結合もある程度切断すると考えなければならない。したがって、リン酸残基とOK1タンパク質のアミノ酸の間の結合の不安定性を、行なわれたテストにより確立することができた。同時に、酸に関する不安定性は熱に関する不安定性より有意に小さいと分類される。
【0316】
アミノ酸のヒスチジンおよびリン酸間の結合は、熱に不安定であり、酸に不安定であるが、しかし塩基に安定である(Rosenberg, 1996, Protein Analysis and Purification, Birkhaeuser, Boston, 242-244)。上述の結果は、したがってホスホヒスチジンがOK1タンパク質の自己リン酸化によって生成されることを示す。
【0317】
組換え発現されたOK1タンパク質を、上述のようにγ位置を33Pで特異的ラベルされたATPとインキュベーションする場合は、自己リン酸化を立証することはできない。図5A)は、適切なインキュベーション工程の後にウエスタンブロット解析によりそれぞれの反応調製物中で検出されるタンパク質の量を示す。図5B)は、個々の反応調製物からのタンパク質のオートラジオグラフィを示す。γ位置で特異的にラベルされたATPを用いる場合OK1タンパク質の自己リン酸化を実証することができないが、しかし無作為化されたATPを用いる場合、自己リン酸化を実証することができる。これは、OK1タンパク質が自己リン酸化される場合、ATPのβ位置のリン酸残基が共有結合でOK1タンパク質のアミノ酸へ結合することを意味する。
【実施例8】
【0318】
OK1タンパク質によってリン酸化されるデンプンのグルコース分子のC−原子位置の実証
【0319】
a) リン酸化されたデンプンの作製
リン酸化デンプンを一般的方法項目7に従って作製した。これを行うために、Arabidopsis thaliana sex1-3 突然変異体の葉から単離された5mgの非リン酸化デンプンを、調製物A中で25μgの精製されたA.t.−OK1タンパク質と共に用い、また別の調製物B中で、元はArabidopsis thaliana sex1-3突然変異体の葉から分離され、インビトロでリン酸化されたデンプン5mgを5μgの精製されたR1タンパク質と共に用いた。各反応を、33PラベルATP(約2.5×106cpm)を各々含む500μlのリン酸化緩衝液中で、室温で1時間撹拌下インキュベーションすることにより、行なった。さらに、Arabidopsis thaliana sex1-3の突然変異体の葉から単離された5mgのデンプンおよび前記リン酸化緩衝液を含み、しかしタンパク質を含まない対照調製物を用いた。対照調製物を正確に調製物AおよびBと同じ方法で処理した。個々の反応を、各々125μlの10%SDSを加えることにより止め、2%SDSで1回、2mMATPで5回、およびHOで2回、各回に900μlを用いて、洗浄を実施した。各洗浄工程の後に遠心分離(各回2分間Eppendorf 卓上遠心機で13,000rpm)を実施した。各調製物について、得られたデンプンペレットを1ml のHOに再懸濁し、100μlの各調製物を3mlのシンチレーションカクテル(Ready Safer(商標), BECKMANN)を加えた後に混合し、続いて、シンチレーションカウンター(LS 6500 Multi-Purpose Scintillation Counter, BECKMANN COULTER(商標))を用いて測定した。
【0320】
測定は次の結果を与えた:
対照: 63cpm/100μl 630cpm/1000μl
調製物A(OK1): 1351cpm/100μl 13512cpm/1000μl
調製物B(R1): 3853cpm/100μl 38526cpm/1000μl
【0321】
b) P−デンプンの全加水分解
工程a)に従って得られた調製物A、B、およびCの懸濁液を再び遠心(5分間Eppendorf 卓上遠心機で13,000rpm)して、得られたペレットを90μlの0.7M HCl(Baker、解析用)に再懸濁し、続いて2時間95℃でインキュベーションした。調製物A、B、およびCを再び遠心(5分間Eppendorf 卓上遠心機で13,000rpm)して、上清を新しい反応容器に移した。調製物の沈殿残渣を各々100mlのHO中に再懸濁し、3mlのシンチレーションカクテル(Ready Safe(商標), BECKMANN)を加えた後にシンチレーションカウンター(LS 6500 Multi-Purpose Scintillation Counter, BECKMANN COULTER(商標))を用いて測定した。残渣の何れにも有意な量の放射活性は証明できなかったが、これは放射性リン酸でラベルされた加水分解生成物はすべて上清に存在することを意味する。
【0322】
これに続いて、加水分解生成物を含む個々の上清に、各々30μlの2M NaOHを加えて中和した(中和に必要なNaOHの量を予めブランクの試料でテストしておいた)。中和した加水分解生成物を、前もって2回、各回に200μlのHOで濯いでおいた10kDa Microconフィルタ上に置き、Eppendorf卓上遠心機で12,000rpm 約25分間遠心した。得られた濾液(各約120μl)から10μlを採取し、3mlのシンチレーションカクテル(Ready Safer(商標), BECKMANN)を加えた後にシンチレーションカウンター(LS 6500 Multi-Purpose Scintillation Counter, BECKMANN COULTER(商標))を用いて測定した。個々の調製物中に存在する活性を決定して次の結果を得た:
調製物A(OK1): 934cpm/10μl 11,208cpm/120μl、
93cpm/μl
調製物B(R1): 2518cpm/10μl 30,216cpm/120μl、
252cpm/μl
【0323】
c) 加水分解生成物の分離
工程b)に従って得られた加水分解生成物を、上述の条件下で(一般的方法項目13c)を参照のこと)Dionexシステムを用いてHPAEにより、分離した。工程b)に従って得られた調製物AおよびBのろ過された上清を分離するための試料は以下の構成であった:
調製物A(OK1):工程b)に従って得られた43μlの調製物Aの上清(約4,000cpmに等価)、32μlのH0、2.5μlの2.5mMグルコース−6−リン酸および2.5μlの5mMグルコース−3−リン酸(合計体積=80μl)。
調製物B(R1):工程b)に従って得られた調製物Bの上清16μl(約4,000cpm に等価)、59μlのH0、2.5μlの2.5mMグルコース−6−リン酸および2.5μlの5mMグルコース−3−リン酸(合計体積=80μl)。
【0324】
それぞれの場合に、60μlの約3,000cpmを含む対応する試料を、HPAEを用いて分離するために注入した。ポイント23c)に指定された条件に従ってHPAEを実施した。HPAEカラムを通した後、各々1mlの分画に溶出緩衝液を集めた。試料を注入して10分後に分画の収集を開始した。用いたPAD検出器から受取った信号に基づいて、グルコース−6−リン酸の溶出を分画15へ、およびグルコース−3−リン酸の溶出を分画17へ割当てた。各々、個々の分画の500μlを3mlのシンチレーションカクテル(Ready Safer(商標), BECKMANN)と混合し、続いてシンチレーションカウンター(LS 6500 Multi-Purpose Scintillation Counter, BECKMANN COULTER(商標))を用いて測定した。個々の分画について次の測定が得られた:
【0325】
【表5】


表4:OK1タンパク質またはR1タンパク質によってリン酸化されたデンプンの加水分解によって得られた加水分解生成物の、個々の分画中の測定された放射活性量[cpm]。
結果を図5にグラフでも示す。
【0326】
R1タンパク質により触媒されたデンプンのリン酸化後、デンプンを加水分解した後に、分析した分画中の全測定放射性リン酸のうち約66%の放射性ラベルされたリン酸が、標準としてグルコース−6−リン酸を含む分画と共に、また約27%が標準としてグルコース−3−リン酸を含む分画と共に、溶出した。OK1タンパク質により触媒されたデンプンのリン酸化後、デンプンを加水分解した後に、分析した分画中の全測定放射性ラベルリン酸のうち、約67%の放射性ラベルされたリン酸が標準としてグルコース−3−リン酸を含む分画と共に、また約8%が標準としてグルコース−6−リン酸を含む分画と共に、溶出された。これから、R1タンパク質のデンプンのグルコース分子は、C−6位置で好んでリン酸化され、一方OK1タンパク質からのデンプンのグルコース分子は、C−3位置で好んでリン酸化されると結論付けることができる。
【実施例9】
【0327】
イネの中のOK1タンパク質の同定
一般的方法項目1〜13に記述された方法を用いて、Oryza sativa(品種M202)から、ATPからP−デンプンへリン酸残基を転移するタンパク質を同定することができた。そのタンパク質をO.s.−OK1と名付けた。非リン酸化デンプンは、基質としてO.s.−OK1タンパク質に使用されない、即ちO.s.−OK1タンパク質もまたP−デンプンを基質として必要とする。同定されたO.s.−OK1タンパク質を規定する核酸配列を配列番号3に示し、O.s.−OK1タンパク質をコードするアミノ酸配列を配列番号4に示す。配列番号4に示すO.s.−OK1タンパク質をコードするアミノ酸配列は、配列番号2に示すA.t.−OK1タンパク質をコードするアミノ酸配列と57%の同一性を有する。配列番号3に示すO.s.−OK1タンパク質をコードする核酸配列は、配列番号1に示すA.t.−OK1タンパク質をコードする核酸配列と61%の同一性を有する。
【0328】
Oryza sativa のOK1タンパク質をコードする核酸配列を含むプラスミドpMI50の作製
ベクターpMI50はイネの品種M202の完全なOK1タンパク質をコードするDNA断片を含む。イネからのDNAの増幅を、5つの副工程により実施した。配列番号3に指定された配列の位置 −11から位置288までの読取枠の部分を、合成オリゴヌクレオチド
【表6】


を、未熟な種もみのRNA上のプライマーとして用いる逆転写酵素およびポリメラーゼ連鎖反応を使用して、増幅した。増幅されたDNA断片をベクターpCR2.1(Invitrogen catalogue number K2020-20)へクローニングした。得られたプラスミドをpML123と名付けた。
【0329】
配列番号3に指定された配列の位置250から位置949までの読取枠の部分を、合成オリゴヌクレオチド
【表7】


を、未熟な種もみのRNA上のプライマーとして用いる、逆転写酵素およびポリメラーゼ連鎖反応を使用して増幅した。増幅されたDNA断片をベクターpCR2.1(Invitrogen catalogue number K2020-20)へクローニングした。得られたプラスミドをpML120と名付けた。
【0330】
配列番号3に指定された配列の位置839から位置1761までの読取枠の部分を、合成オリゴヌクレオチド
【表8】


を、未熟な種もみのRNA上のプライマーとして用いる、逆転写酵素およびポリメラーゼ連鎖反応を使用して増幅した。増幅されたDNA断片をベクターpCR2.1(Invitrogen catalogue number K2020-20)へクローニングした。得られたプラスミドをpML121と名付けた。
【0331】
配列番号3に指定された配列の位置1571から位置3241までの読取枠の部分を、合成オリゴヌクレオチド
【表9】


を、未熟な種もみのRNA上のプライマーとして用いる、逆転写酵素およびポリメラーゼ連鎖反応を使用して増幅した。増幅されたDNA断片をベクターpCR2.1(Invitrogen catalogue number K2020-20)へクローニングした。得られたプラスミドをpML119と名付けた。
【0332】
位置2777から位置3621までの読取枠の部分を、合成オリゴヌクレオチド
【表10】


をイネのゲノムDNA上のプライマーとして用いる、ポリメラーゼ連鎖反応を使用して増幅した。増幅されたDNA断片をベクターpCR2.1(Invitrogen catalogue number K2020-20)へクローニングした。得られたプラスミドをpML122と名付けた。
【0333】
OK1の読取枠のサブパーツを一緒にクローニングすることを次のようにして実施した。OK1の読取枠の一部を含むpML120の700塩基対の長さのApaI断片をpML121のApaI部位にクローニングした。得られたプラスミドをpMI47と名付けた。
【0334】
pML120およびpML123由来のベクターのOK1をコードする領域を含む960塩基対の長さの断片を、ポリメラーゼ連鎖反応により増幅した。それを行うために、各々50nM の濃度のプライマーOs_ok1−F4(上記参照)およびプライマーOs_ok1−R9(上記参照)、ならびに各々500nMの濃度のOs_ok1−F6およびOs_okl−R6を用いた。増幅されたDNA断片を、ベクターpCR2.1(Invitrogen catalogue number K2020-20)へクローニングした。得られたプラスミドをpMI44と名付けた。
【0335】
停止コドンの後にXhoI部位を導入するために、845塩基対の長さのpML122の断片を、プライマーOs_ok1−F3(上を参照)および
【表11】


によって再増幅し、ベクターpCR2.1(Invitrogen catalogue number K2020-20)へクローニングした。得られたプラスミドをpMI45と名付けた。
【0336】
OK1の読取枠の一部を含む1671塩基対の長さの断片を、pML119から制限酵素SpeIおよびPstIで消化することにより得た。断片をpBluescript II SK+(Genbank Acc.: X52328)へクローニングした。得られたプラスミドをpMI46と名付けた。
【0337】
OK1の読取枠の一部を含む1706塩基対の長さの断片を制限酵素SpeIおよびXhoIによりpMI46から切り出し、同じ制限酵素で切っておいたベクターpMI45へクローンニングした。得られたプラスミドをpMI47と名付けた。
【0338】
OK1の読取枠の一部を含む146塩基対の長さの断片を制限酵素AflII/NotIによりpMI43から切り出し、同じ制限酵素で切っておいたベクターpMI44へクローンニングした。得られたプラスミドをpMI49と名付けた。
【0339】
OK1の読取枠の一部を含む1657塩基対の長さの断片を制限酵素NotIおよびNarIによりベクターpMI49から切り出し、同じ制限酵素で切っておいたベクターpMI47へクローンニングした。得られたプラスミドはpMI50と名付けられ、またイネで同定されたOK1タンパク質の全コード領域を含む。
【実施例10】
【0340】
特異的にOK1タンパク質を認識する抗体の作製
抗原として、約100μgの精製されたA.t.−OK1タンパク質をSDSゲル電気泳動によって分離し、A.t.−OK1タンパク質を含むタンパク質バンドを切り取って、EUROGENTEC S.A.社(ベルギー)へ送り、同社が請負により抗体の作製を行なった。第1に、ウサギの未免疫血清を検査して、組換えOK1で免疫化する前に既にA.t.全抽出物から得たタンパク質を認識するかどうかを確かめた。2匹のウサギの未免疫血清が、100〜150 kDa の範囲のタンパク質を認識しなかったので、免疫化のために選択した。各ウサギにタンパク質の100μgを4回(0、14、28、56日目)注射した。各ウサギから4つの血液サンプルを採取した:(38日、66日、87日目、および最後の採血)。第1の採血後に得られた血漿は、既に特異的な反応をOK1抗原に対してウエスタンブロットで示した。しかしながら、それ以上のすべてのテストでは、ウサギの最終採血を用いた。
【実施例11】
【0341】
上昇または低下したOK1タンパク質の活性を有する遺伝子組換えイネ植物の作製
【0342】
a) プラスミドpGlo−A.t.−OK1の作製
イネの品種M202のゲノムDNAに対してプライマー
【表12】


ならびに高忠実度Taqポリメラーゼ(Invitrogen, catalogue number 11304-011)によるポリメラーゼ連鎖反応(30 × 20秒94℃、20秒62℃、1分68℃、4mMMgSO)を用いて、イネ由来のグロブリン遺伝子プロモーターを増幅し、それをpCR2.1(Invitrogen catalogue number K2020-20)中へクローニングすることにより、プラスミドpIR94を得た。2つのオリゴヌクレオチド
【表13】


から成る合成DNA片を、SdaIおよびMunIで切ったベクターpGSV71へクローニングすることにより、プラスミドpIR115を得た。
【0343】
得られたプラスミドpIR115をSdaIで切り、突出している3’末端をT4DNAポリメラーゼで平滑化し、そしてT4DNAポリメラーゼにより平滑化されまた Agrobacterium tumefaciens のオクトピン合成酵素遺伝子の終結シグナルを含むpBinARの197塩基対のHindIII/SphI断片(Hoefgen and Willmitzer, 1990, Plant Science 66, 221-230)を挿入した。得られたプラスミドをpIR96と名付けた。
【0344】
イネ由来のグロブリン遺伝子のプロモーターを含むpIR94からの986塩基対の長さのDNA断片を、プラスミドpIR96へクローンニングすることにより、プラスミドpIR103を得た。
【0345】
pGSV71は、介在するベクターpGSV1に由来するプラスミドpGSV7の誘導体である。pGSV1は、 コンストラクションについて Cornelissen および Vanderwiele(Nucleic Acid Research 17,(1989),19-25) によって記述されたpGSC1700の誘導体である。pGSV1はpGSC1700から、カルベニシリン抵抗性遺伝子の欠失、ならびにプラスミドpTiB6S3のTL−DNA領域のT−DNA塩基配列の欠失により、得られた。
【0346】
pGSV7は、プラスミドpBR322の複製開始点(Bolivar et al., Gene 2,(1977), 95-113)、ならびに Pseudomonas プラスミドpVS1の複製開始点(Itoh et al., Plasmid 11,(1984), 206)を含む。pGSV7は、さらに Klebsiella pneumoniae のトランスポゾンTn1331から由来する選択可能なマーカー遺伝子aadAを含み、それが抗生物質スペクチノマイシンおよびストレプトマイシンに対する抵抗性を与える(Tolmasky, Plasmid 24(3),(1990), 218-226; Tolmasky and Crosa, Plasmid 29(1),(1993), 31-40)。
【0347】
プラスミドpGSV71を、pGSV7の境界領域間にキメラのbar遺伝子をクローニングすることにより得た。キメラのbar遺伝子は、カリフラワーモザイクウィルスの転写開始用プロモーター配列(Odell et al., Nature 313,(1985), 180)、Streptomyces hygroscopicus のbar遺伝子(Thompson et al., Embo J. 6,(1987), 2519-2523)およびpTiT37のT−DNAのノパリン合成酵素遺伝子の、転写終了およびポリアデニル化用の3’−非翻訳領域を含む。bar遺伝子は、除草剤グルホシネートアンモニウムに対する耐性を与える。
【0348】
Arabidopsis のOK1タンパク質の完全な読取枠を含むDNA断片を、ベクターA.t.−ok1−pGEM−Tから切り出し、ベクターpIR103へクローニングした。この目的のために、プラスミドA.t.−OK1−pGEM−Tを制限酵素Bsp1201によって切断し、末端をT4DNAポリメラーゼで平滑化し、続いてSalIで切り取った。Arabidopsis thalianaのOK1タンパク質をコードするDNA断片を、Ecl136IIおよびXhoIで切開したベクターpIR103へクローニングした。得られたプラスミドをpGlo−A.t.−OK1と名付けた。
【0349】
b) イネ植物の形質転換
イネ植物(品種M202)を、Agrobacterium(プラスミドpGlo−A.t.−OK1を含む)を用い、Hiei et al.(1994, Plant Journal 6(2), 271-282)により記述された方法を使用して形質転換した。
【0350】
c) 遺伝子組換えイネ植物およびこれらの植物によって合成されたデンプンの分析
RT PCR分析により、A.t.−OK1タンパク質をコードするmRNAの発現を示す植物を同定することができた。
【0351】
対応する野生型植物と比較して、A.t.−OK1タンパク質をコードする検出可能な量のmRNAを発現する植物を温室で栽培した。これらの植物の穀粒を収穫した。これらの成熟した穀粒から単離したデンプンは、対応する野生型植物の穀粒から単離したデンプンと比較して、それぞれのデンプンに共有結合により結合したリン酸含量の増加を示した。
【実施例12】
【0352】
増大したOK1タンパク質活性を示す遺伝子組換えジャガイモ植物の作製
【0353】
a) プラスミドpBinB33−Hygの作製
プラスミドpBinB33から出発して、B33プロモーターを含むEcoRI−HindIII断片、ポリリンカーの一部、およびocsターミネーターを切り出し、対応して切断されたベクターpBIB−Hyg(Becker, 1990, Nucl. Acids Res. 18, 203)へ挿入した。Solanum tuberosum からのパタチン遺伝子B33のプロモーター(Rocha-Sosa et al., 1989)をDraI断片(ヌクレオチド-1512−+14)として、SstIで切断しT4DNAポリメラーゼを用いて端部を平滑化しておいたベクターpUC19へ挿入することにより、プラスミドpBinB33を得た。これによりプラスミドpUC19−B33を得た。B33プロモーターをEcoRIおよびSmaIによりこのプラスミドから切り出し、対応して切断されたベクターpBinAR(Hoefgen and Willmitzer, 1990, Plant Science 66, 221-230)へ挿入した。これにより植物発現ベクターpBinB33が得られた。
【0354】
b) ベクターA.t.−OK1−pBinB33−Hygの作製
A.t.−OK1タンパク質のコード配列を、制限酵素Bsp120IおよびSalIでプラスミドOK1−pGEMから切り出し、SmaIおよびSalIで切断したベクターpBinB33−Hygに挿入した。得られたプラスミドをA.t.−OK1−pBinB33−Hygと名付けた。
【0355】
c) ジャガイモ植物の形質転換
Agrobacterium tumefaciens (菌株 GV2260)をプラスミドA.t.−OK1−pBinB33−Hygにより形質転換した。次にDesiree品種のジャガイモ植物を、プラスミドA.t.−OK1−pBinB33−Hygを含む Agrobacterium を用い、Rocha-Sosa et al.(EMBO J. 8, (1989), 23-29) に記述された方法で形質転換し、植物を再生させた。この形質転換イベントから得られた植物を385JHと名付けた。
【0356】
d) 遺伝子組換えジャガイモ植物およびこれらによって合成されたデンプンの分析
ノーザンブロット分析により、A.t.−OK1タンパク質をコードするmRNAの発現を示す形質転換イベント385JHの植物を同定することができた。
【0357】
実施例10に記述された抗体を用いて行なわれたウエスタンブロット分析により、非相同的に発現されたOK1タンパク質のmRNAが検出された形質転換イベント385JHの植物はまた、形質転換されなかった野生型植物に比較してOK1タンパク質量の増大を示すことが確認された。図7は、形質転換イベント385JHから得られた単一の植物中のA.t.−OK1タンパク質の、ウエスタンブロット分析による検出を典型的に示す。葉組織中におけるB33プロモーターの誘導のために、形質転換イベント385JHの単一の系統を、100mM ショ糖を含む固形化されたMusharige Skoog 培地上で組織培養で2日間培養した。収穫後、タンパク質抽出物をこれらの植物の葉組織から、一般的方法項目1a)に記述された方法により生成した。変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動によるタンパク質の分離の後、各系統の40μg のタンパク質抽出物を、実施例項目10に記述した抗体を用いて、ウエスタンブロット分析により分析した。対照試料として、アラビドプシス植物およびジャガイモ野生型植物(cv Desiree)からのタンパク質抽出物もまた分析した。OK1タンパク質量の増大およびA.t.−OK1タンパク質をコードするmRNAの検出可能な量を示した植物を温室で栽培した。これらの植物の 塊茎から分離されたデンプンは、対応するデンプンに共有結合で結合しているリン酸の増大した含量を示した。
【実施例13】
【0358】
OK1タンパク質の増大した活性を示す遺伝子組換えトウモロコシ植物の生成
【0359】
a) プラスミドpUbi−A.t.−OK1の作製
最初にプラスミドpIR96を製造した。2つのオリゴヌクレオチド
【表14】


から成る合成DNA片を、SdaIおよびMunIで切断されたベクターpGSV71へクローニングすることにより、プラスミドpIR96を得た。得られたプラスミドをSdaIで切断し、突き出ている3’−端をT4DNAポリメラーゼにより平滑化した。得られたプラスミドをSdaIで切断し、突き出ている3’−端をT4DNAポリメラーゼにより平滑化し、197塩基対の大きさの pBinARから得たHindIII、/Sphl断片(Hoefgen und Willmitzer, 1990, Plant Science 66, 221-230)(T4DNAポリメラーゼで平滑化され、Agrobacterium tumefaciens からのオクトピン合成酵素遺伝子の終結シグナル終止コドンを含む)を挿入した。得られたプラスミドをpIR96と名付けた。
【0360】
pGSV71は、中間ベクターpGSVlに由来するプラスミドpGSV7の誘導体である。pGSV1は、pGSC1700の誘導体を構成し、そのコンストラクションについては Cornelissen and Vanderwiele (Nucleic Acid Research 17, (1989),19-25) により記述されている。pGSV1は、pGSC1700からカルベニシリン抵抗性遺伝子の欠失およびプラスミドpTiB6S3のTL−DNA領域のT−DNA配列の欠失により得られた。
【0361】
pGSV7は、プラスミドpBR322(Bolivar et al., Gene 2, (1977), 95-113)の複製起点、ならびにPseudomonas のプラスミドpVS1(Itoh et al., Plasmid 11, (1984), 206)の複製起点を含む。pGSV7はまた、Klebsiella pneumoniae 由来のトランスポゾンTn1331から得られた選択可能なマーカー遺伝子aadAを含み、それが、抗生物質スペクチノマイシンおよびストレプトマイシンに対する抵抗性を与える(Tolmasky, Plasmid 24 (3), (1990),218-226; Tolmasky and Crosa, Plasmid 29(1),(1993), 31-40)。プラスミドpGSV71は、pGSV7の境界領域の間にキメラのbar遺伝子をクローニングすることにより得られた。キメラのBar遺伝子は、転写を開始するためのカリフラワーモザイクウィルスのプロモーター配列(Odell et al., Nature 313, (1985), 180)、Streptomyces hygroscopicus のBar遺伝子(Thompson et al., Embo J. 6, (1987), 2519-2523)、および転写終了およびポリアデニル化のためのpTiT37のT−DNAのノパリン合成遺伝子の3’−非翻訳領域を含む。Bar遺伝子は、除草剤グルホシネートアンモニウムに対する耐性を与える。
【0362】
トウモロコシ遺伝子(Gens aus Mais)からのポリユビキチン遺伝子のプロモーターを含む1986塩基対の長さの断片(EMBL Ace.: 94464, Christensen et al., 1992, Plant Mol. Biol. 18: 675-689)を、PstI断片としてpBluescript II SK+中へクローニングした。得られたプラスミドをpSK−ubqと名付けた。
【0363】
プラスミドA.t.−OK1−pGEMを制限酵素Bsp120Iで切断し、末端をT4−DNAポリメラーゼで平滑化し、SacIでそれを再切断した。Arabidopsis thaliana 由来のOK1タンパク質をコードするDNA断片を、SmaIおよびSacIにより切断したプラスミドpSK−ubqへクローニングした。得られたプラスミドをpSK−ubq−ok1と名付けた。
【0364】
プラスミドpSK−ubq−ok1から、トウモロコシからのユビキチンプロモーター、および Arabidopsis thaliana からのA.t.−OK1タンパク質の全読取枠を含む断片を単離した。この目的のために、プラスミドを制限酵素Asp7181で切断し、末端をT4DNAポリメラーゼで充填し、それをSdaIで再切断した。得られた5799塩基対の大きさの断片を、EcoRVおよびPstIによって切断されたプラスミドpIR96中へクローニングした。このクローニングによって得られたプラスミドを、pUbi−A.t.−OK1と名付けた。
【0365】
b) トウモロコシ植物の形質転換
トウモロコシ植物を、一般的方法項目17に記述された方法を用いて、プラスミドpUbi−A.t.−OK1で形質転換した。
【0366】
c) 遺伝子組換えトウモロコシ植物およびこれから合成されたデンプンの分析
ノーザンブロット分析を用いて、A.t.−OK1タンパク質をコードするmRNAの発現を示す植物を同定することができた。
【0367】
対応する野生型植物と比較して検知可能な量のA.t.−OK1タンパク質をコードするmRNAを示すトウモロコシ植物を、温室で生育した。これらの植物の単一の穀粒を収穫した。これらの穀粒から単離したデンプンは、対応する野生型植物の穀粒から単離したデンプンと比較して、それぞれのデンプンに共有結合で結合したリン酸含量の増加を示した。
【実施例14】
【0368】
OK1タンパク質の増大した活性を示す遺伝子組換えコムギ植物の生成
【0369】
a) コムギ植物の形質転換用のプラスミドの作製
pMCS5(Mobitec, www.mobitec.de)をBgIIIおよびBamHIで消化し、再挿入した。含まれるプラスミドをpML4と名付けた。
【0370】
Agrobacterium tumefaciens からのnos終止コドン(Depicker et al.,1982, Journal of Molecular and Applied Genetics 1: 561-573)をプライマー
【表15】


によって増幅し(25サイクル、30秒94℃、30秒58℃、30秒72℃)、HindIIIおよびPstIで消化して、同じ酵素で切断されたプラスミドpML4へクローニングした。含まれるプラスミドをpML4−nosと名付けた。トウモロコシからのポリユビキチン遺伝子(Genbank Ace: 94464, Christensen et al., 1992, Plant Mol. Biol.18: 675-689)のプロモーター、およびClaIによる消化および再挿入を通じて短縮された同じ遺伝子の第1イントロンを含む1986塩基対の長さの断片を、このベクターへクローニングした。含まれるプラスミドをpML8と名付けた。
【0371】
Arabidopsis thaliana からのOK1の全読取枠を、プラスミドpML8へクローニングした。このために、Bsp120/NotIを有する対応する断片をA.t.−OK1−pGEMから切り出し、pML8のNotI部位へ“センス”配向で挿入した。
【0372】
コムギ植物の形質転換のための断片(トウモロコシからのポリユビキチン遺伝子のプロモーター、Arabidopsis thalianaからのOK1の全読取枠、およびAgrobacterium tumefaciensからのnos終止コドンを含む)を、得られたベクターpML8−A.t.−OK1から、制限酵素AvrIIおよびSwaIによって切り出すことができる。
【0373】
b) コムギ植物の形質転換
Florida品種のコムギ植物を、制限酵素AvrIIおよびSwaIでプラスミドpML8−A.t.−OK1から切り出され、トウモロコシからのポリユビキチン遺伝子のプロモーター、Agrobacterium tumefaciens からのOK1の全読取枠および Agrobacterium tumefaciensからのnos終止コドンを含み、アガロースゲルによって精製された断片、ならびにプラスミドpGSV71によって、バイオリスティック法を用いBecker et al.(1994, Plant Journal 5, 299-307) により記述された方法に従って形質転換した。
【0374】
c) 遺伝子組換えコムギ植物およびこれから合成されたデンプンの分析
形質転換により得られたT0植物の成熟穀粒からデンプンを単離し、デンプンに共有結合で結合したリン酸含量を決定した。個々の穀粒から単離したデンプンのリン酸含量は、対応する野生型植物の穀粒から単離したデンプンの場合よりも、明らかに高かった。
【図面の簡単な説明】
【0375】
【図1】Arabidopsis thaliana 由来の、リン酸化デンプンと比較して非リン酸化デンプンに好んで結合するタンパク質を同定するための変性アクリルアミドゲル。標準タンパク質分子量マーカーを、トレース「M」に示す。実施例1d)からの対照調製物Cのインキュベーション後に得られたタンパク質を、トレース「−」に示す。Arabidopsis thaliana sex1-3 突然変異体(実施例1d)の調製物B)の葉から単離された非リン酸化デンプンとのインキュベーション後に得られた、 Arabidopsis thaliana のタンパク質抽出物を、トレース「K」に示す。予めインビトロでR1タンパク質によりリン酸化されていたArabidopsis thaliana sex1-3 の葉から分離されたデンプンとインキュベーションした後に得られたArabidopsis thaliana のタンパク質抽出物(実施例1d)の調製物A)を、トレース「P」に示す。電気泳動の完了後、アクリルアミドゲルをクマシーブルーで染色した。
【図2】OK1タンパク質の自己リン酸化活性の実証。図2A)は電気泳動完了後にクマシーブルーで染色した変性(SDS)アクリルアミドゲルを示す。図2B)は、変性(SDS)アクリルアミドゲルのオートラジオグラフィを示す。同じ量の同じ試料を2つの各ゲルに加えた。M:標準タンパク質分子量マーカー;R1:実施例7による反応容器1からの試料(OK1タンパク質をATPとインキュベーションした後);R2:実施例7による反応容器2からの試料(OK1タンパク質をATPとインキュベーションした後に、タンパク質を95℃に熱した);R3:実施例7による反応容器3からの試料(OK1タンパク質をATPとインキュベーションした後に、タンパク質を0.5 M HCl中でインキュベーションした);R4:実施例7による反応容器4からの試料(OK1タンパク質をATPとインキュベーションした後に、タンパク質を0.5 M のNaOH中でインキュベーションした)。
【図3】OK1タンパク質のデンプンリン酸化活性の実証(実施例6を参照のこと)。OK1タンパク質を、Arabidopsis thaliana sex1-3突然変異体の葉から単離された非リン酸化デンプン(調製物A)、および予めインビトロでR1タンパク質によりリン酸化されていた、Arabidopsis thaliana sex1-3突然変異体の葉から分離されたデンプン(調製物B)とインキュベーションした。調製物Cは、OK1タンパク質なしでこの調製物Cをインキュベーションした以外は、調製物Bと同じである。2つの独立したテストを各調製物(A、B、C)について行なった(テスト1およびテスト2)。それぞれの量を、非リン酸化デンプン(調製物A)およびリン酸化デンプン(調製物B)へ導入した33Pラベルリン酸のcpm(カウント/分)で測定して示す。
【図4】R1タンパク質およびOK1タンパク質によりそれぞれリン酸化されたデンプンのグルコース分子のC−原子位置の比較(実施例9を参照のこと)。OK1タンパク質(調製物A)を 33PラベルATP存在下でArabidopsis thaliana sex1-3 突然変異体の葉から単離された、予めR1タンパク質によりインビトロでリン酸化されていたデンプンとインキュベーションした。R1タンパク質(調製物B)を、 Arabidopsis thaliana sex1-3 突然変異体の葉から分離されたデンプンと、33PラベルATP存在下で インキュベーションした。インキュベーションが完了した後、デンプンの全加水分解を実行し、得られた加水分解生成物を、HPAEクロマトグラフィーを用いて分離した。標準として、加水分解生成物にグルコース−6−リン酸およびグルコース−3−リン酸を分離の前に加えた。HPAEクロマトグラフィーによって分離された加水分解生成物を個々の分画に集めた。加えたグルコース−6−リン酸が分画15に、また加えたグルコース−3−リン酸が分画17に溶出された。得られた分画を、続いて放射性ラベルされたリン酸の存在について調べた。個々の分画で測定されたcpm(カウント/分)で測った33Pラベルリン酸(それはOK1タンパク質またはR1タンパク質によってリン酸化デンプンの加水分解生成物へ導入されたリン酸である)の量をグラフに示す。
【図5】OK1タンパク質の自己リン酸化の実証。図5A)は、ウエスタンブロットを示す。図5B)は、変性(SDS)アクリルアミドゲルのオートラジオグラフィを示す。同じ量の同じ試料を2つのゲル各々に添加した。OK1タンパク質を、無作為化放射性ラベルATPと、または特異的にγ位置に放射性ラベルされたATPとインキュベーションした。インキュベーションの完了後、タンパク質を30℃または95℃に熱するか、または0.5 M のNaOHまたは0.5 M のHCl中でそれぞれインキュベーションした。
【図6】OK1タンパク質によって触媒された反応における、ATPのβリン酸残基のデンプンへの転移の実証。特異的に33Pでγ位置をラベルされたATPまたは無作為33P−ATPのいずれかを用いて、インビトロでR1タンパク質によりリン酸化されていた、Arabidopsis thaliana sex1-3突然変異体の葉から分離されたデンプンを、OK1タンパク質によってリン酸化した。「対照」として指定された実験のいずれにもOK1タンパク質を加えなかった。調製物をそれぞれ2回、互いに独立にテストした。両方のテストの結果を示す。
【図7】Arabidopsis thaliana のOK1タンパク質に対する抗体を用いた、植物からのタンパク質抽出物のウエスタンブロット解析。次の植物の葉からのタンパク質抽出物を示す。Ara:Arabidopsis thaliana;51、54、55、67、72、73、79、62、63、64、65、69、66、68は、形質転換385JHの独立な系統である。 D:野生型 Solanum tuberosum cv Desiree。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝的に修飾されていない対応する野生型植物細胞と比較して、少なくとも1つのOK1タンパク質の活性増大を示すことを特徴とする、遺伝的に修飾された植物細胞。
【請求項2】
遺伝的修飾が少なくとも1つの外来性核酸分子の植物ゲノム中への導入から成る、請求項1記載の遺伝的に修飾された植物細胞。
【請求項3】
外来性核酸分子がOK1タンパク質をコードする、請求項2記載の遺伝的に修飾された植物細胞。
【請求項4】
遺伝的に修飾されていない対応する野生型植物細胞と比較して、修飾されたデンプンを合成する、請求項1〜3のいずれか1項記載の植物細胞。
【請求項5】
修飾デンプンが、増大したデンプンリン酸含量および/または修飾されたリン酸分布を有することを特徴とする、請求項4記載の遺伝的に修飾された植物細胞。
【請求項6】
修飾デンプンが、C−3リン酸のC−6リン酸に対する修飾された比率を有することを特徴とする、請求項5記載の遺伝的に修飾された植物細胞。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の遺伝的に修飾された植物細胞を含む植物。
【請求項8】
デンプン貯蔵植物である、請求項7記載の植物。
【請求項9】
トウモロコシ植物またはコムギ植物である、請求項8記載の植物。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項記載の植物細胞を含む、請求項7、8、または9のいずれか1項記載の植物から得られる繁殖材料。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか1項記載の植物細胞を含む、請求項7、8、または9のいずれか1項記載の植物の収穫可能な植物部分。
【請求項12】
遺伝的に修飾された植物の作製のための方法であって、
a) 植物細胞を遺伝的に修飾して、遺伝的修飾により、遺伝的に修飾されていない対応する野生型植物細胞と比較してOK1タンパク質の(酵素)活性の増大をもたらし;
b) 工程a)による植物細胞から植物を再生し;そして
c) 必要であれば、工程b)による植物の助けを借りて追加の植物を生成する、
方法。
【請求項13】
請求項7、8、または9のいずれか1項記載の遺伝的に修飾された植物から、請求項10記載の繁殖材料から、または請求項11記載の収穫可能な植物部分から得ることができる修飾デンプン。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれか1項記載の植物細胞からデンプンを抽出する工程を含む、修飾デンプンの製造のための方法。
【請求項15】
請求項7、8、または9のいずれか1項記載の植物からデンプンを抽出する工程を含む、修飾デンプンの作製のための方法。
【請求項16】
請求項11記載の収穫可能な植物部分からデンプンを抽出する工程を含む、修飾デンプンの作製のための方法。
【請求項17】
請求項13記載の、あるいは請求項14、15、または16のいずれか1項記載の方法により得ることができる修飾されたデンプンが導出されている、誘導デンプンの製造のための方法。
【請求項18】
請求項7、8、または9のいずれか1項記載の遺伝的に修飾された植物の、修飾デンプンの製造のための使用。
【請求項19】
請求項17記載の方法に基づいて入手可能な誘導デンプン。
【請求項20】
請求項13記載の修飾デンプンの、あるいは請求項14、15、または16のいずれか1項記載の方法により得ることができる修飾デンプンの、誘導デンプン製造のための使用。
【請求項21】
請求項13記載の修飾デンプンを含む穀粉。
【請求項22】
請求項1〜6記載の植物細胞から、請求項10記載の繁殖材料から、または請求項11記載の収穫可能な植物部分から得ることができる穀粉。
【請求項23】
請求項7、8、または9記載の植物の部分、または請求項10記載の繁殖材料の部分、または請求項11記載の収穫可能な材料、を摩砕する工程を含む、穀粉の作製のための方法。
【請求項24】
請求項1〜6のいずれか1項記載の遺伝的に修飾された植物細胞の、または請求項7、8、または9のいずれか1項記載の植物の、穀粉の作製のための使用。
【請求項25】
OK1タンパク質の酵素活性を有するタンパク質をコードする核酸分子であって:
a) 配列番号2または配列番号4に示されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸分子;
b) 配列番号2または配列番号4に示されたアミノ酸配列と、少なくとも60%の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸分子;
c) 配列番号1または配列番号3に示されたヌクレオチド配列を含む、あるいはこれらの配列と相補的な配列を含む核酸分子;
d) a)またはc)に記述された核酸配列と少なくとも60%の同一性を有する核酸分子;
e) ストリンジェントな条件下で、a)またはc)に記述された核酸分子の少なくとも1つの鎖とハイブリダイズする核酸分子;
f) 遺伝子コードの縮退により、a)またはc)に述べた核酸分子の配列と相違したヌクレオチド配列を有する核酸分子;および
g) a)、b)、c)、d)、e)、またはf)に列挙した核酸分子の断片、対立遺伝子変異体および/または誘導体に相当する核酸分子、
からなる群より選ばれる核酸分子。
【請求項26】
OK1タンパク質がアラビドプシスからコードするかまたはOK1タンパク質がイネからコードすることを特徴とする、請求項25記載の核酸分子。
【請求項27】
請求項25または26のいずれか1項記載の核酸分子を含む、組換え核酸分子。
【請求項28】
請求項25、26、または27のいずれか1項記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項29】
核酸分子が、原核生物または真核生物細胞中で転写を開始する調節配列と連結されている、請求項28記載のベクター。
【請求項30】
請求項25または26のいずれか1項記載の核酸分子により、請求項27記載の組換え核酸分子により、または請求項28または29記載のベクターにより、遺伝的に修飾された宿主細胞。
【請求項31】
請求項25または26のいずれか1項記載の核酸分子、請求項27記載の組換え核酸分子、あるいは請求項28または29のいずれか1項記載のベクターを含む組成物。
【請求項32】
遺伝的に修飾されていない野生型植物細胞と比較して増大したOK1タンパク質の活性を有する植物細胞を同定するための、請求項31記載の組成物の使用。
【請求項33】
デンプンリン酸化活性を示し、基質としてリン酸化デンプンを必要とするタンパク質。
【請求項34】
基質としてリン酸化デンプンを必要とし、ATPのリン酸残基をリン酸化デンプンに転移するタンパク質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−525985(P2007−525985A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−501243(P2007−501243)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【国際出願番号】PCT/EP2005/002449
【国際公開番号】WO2005/095617
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(500137954)バイエル クロップサイエンス ゲーエムベーハー (31)
【Fターム(参考)】