増幅装置、送信装置
【課題】出力信号の歪みを抑えつつ効率を向上することのできる増幅装置、送信装置を提供する。
【解決手段】実施形態に係る増幅装置は、飽和出力電力が互いに異なる複数の増幅回路を具備している。実施形態に係る増幅装置は、入力端子に入力された入力信号の包絡線信号を検出する検波器と、前記検波器が検出した包絡線信号の信号電圧を、それぞれ異なる参照電圧と比較する複数の比較器と、前記複数の比較器の比較結果に基づいて前記複数の増幅回路のいずれか一つを選択する切替制御部とを具備している。そして、実施形態に係る増幅装置は、前記入力端子を前記切替制御部が選択した増幅回路の入力に接続するとともに、前記切替制御部が選択した増幅回路の出力を出力端子に接続する切替部とを具備することを特徴としている。
【解決手段】実施形態に係る増幅装置は、飽和出力電力が互いに異なる複数の増幅回路を具備している。実施形態に係る増幅装置は、入力端子に入力された入力信号の包絡線信号を検出する検波器と、前記検波器が検出した包絡線信号の信号電圧を、それぞれ異なる参照電圧と比較する複数の比較器と、前記複数の比較器の比較結果に基づいて前記複数の増幅回路のいずれか一つを選択する切替制御部とを具備している。そして、実施形態に係る増幅装置は、前記入力端子を前記切替制御部が選択した増幅回路の入力に接続するとともに、前記切替制御部が選択した増幅回路の出力を出力端子に接続する切替部とを具備することを特徴としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、増幅器と送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
増幅器、特に電力増幅を行う電力増幅器は、出力電力が大きいほど増幅器全体としての電力効率が高くなり、出力電力が小さいほど効率が低くなる傾向にある。従って、飽和出力電力で増幅器を動作させると、増幅器全体として高い電力効率を得ることができる。
【0003】
しかしながら、近年の無線通信においては高速かつ大容量化が求められているため、利用する変調方式や多重化方式によっては無線信号のPAPR(Peak to Average Power Ratio:ピーク電力と平均電力の比)が大きくなる傾向である。係る場合に、増幅器を飽和出力電力付近で動作させると無線信号が大きく歪んでしまう。一方、当該無線信号のPAPRに応じてバックオフ量を確保すれば無線信号の歪みは低減されるが、逆に電力効率が低下してしまう。すなわち、歪みの低減と効率の向上を両立させることが難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−124947公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来の増幅装置、送信装置では、出力信号の歪みの低減と電力効率の向上を両立させることが難しいという問題がある。本発明は係る課題を解決するためになされたもので、出力信号の歪みを抑えつつ効率を向上することのできる増幅装置、送信装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、実施形態に係る増幅装置は、飽和出力電力が互いに異なる複数の増幅回路を具備している。実施形態に係る増幅装置は、入力端子に入力された入力信号の包絡線信号を検出する検波器と、前記検波器が検出した包絡線信号の信号電圧を、それぞれ異なる参照電圧と比較する複数の比較器と、前記複数の比較器の比較結果に基づいて前記複数の増幅回路のいずれか一つを選択する切替制御部とを具備している。そして、実施形態に係る増幅装置は、前記入力端子を前記切替制御部が選択した増幅回路の入力に接続するとともに、前記切替制御部が選択した増幅回路の出力を出力端子に接続する切替部とを具備することを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】増幅器の基本構成を説明する図である。
【図2】増幅器の出力電力と電力効率の関係を説明する図である。
【図3】増幅器の出力における振幅の変化について説明する図である。
【図4】実施形態に係る増幅装置の回路構成を示す図である。
【図5A】実施形態に係る増幅装置の無停波切替部の具体例を説明する図である。
【図5B】実施形態に係る増幅装置の無停波切替部の具体例を説明する図である。
【図6】比較例の増幅器の回路構成例を示す図である。
【図7】比較例の増幅器の動作を説明する図である。
【図8】実施形態に係る増幅装置の具体例を示す図である。
【図9】図8に示す増幅装置の具体例を示す図である。
【図10】実施形態に係る送信装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(増幅器の出力と効率の関係)
図1ないし図3を参照して、電力増幅器を例に増幅器の出力電力と効率の関係について説明する。図1に示すように、一般に電力増幅器は、増幅素子Q、入力整合部10および出力整合部20を有している。増幅素子Qは、例えばMOSFETなどのトランジスタである。入力整合部10は、入力端子INに接続される前段増幅部などとインピーダンス整合を行うマッチング機能を有する。同様に、出力整合部20は、出力端子OUTに接続される後段のフィルタやアンテナなどとインピーダンス整合を行うマッチング機能を有する。
【0009】
増幅素子QがFETなどの場合、図示しない電源から出力整合部20を介してバイアス電圧が供給されている。増幅素子Qがバイポーラトランジスタなどの場合、図示しない電源から入力整合部10を介してバイアス電流(FETの場合は電圧)が供給される。以下の説明においては、増幅素子QがFETであるものとして説明する。
【0010】
図1に示すような回路構成の電力増幅器は、図2に示すような出力−効率特性を有することが多い。すなわち、出力電力が飽和出力電力Psatに近づくほど、増幅器全体の効率が向上する。増幅する信号がFM信号のように振幅の変化がない場合は、出力電力が飽和出力となるよう増幅素子Qのバイアス電圧を設定しておけば、最大限の効率で増幅器を動作させることができる。
【0011】
一方で、増幅する信号がAM信号のように振幅の変化がある場合は、出力電力を常に飽和出力とすることができない。特に、高速かつ大容量化が進められている近年の無線通信では、変調方式や多重化方式により、PAPRが高くなる傾向である。図3は、PAPRの高い信号の振幅の時間変化の一例を示している。例えば、地上デジタル放送用の無線信号のPAPRはおよそ10[dB]となる。このような信号を増幅する場合、増幅器を飽和出力電力付近で動作させると、信号が大きく歪んでしまう。
【0012】
出力電力を飽和出力電力よりも十分に小さい動作点で増幅器を動作させると、信号の歪みを低減することが可能である。しかし、PAPRの高い信号を増幅する場合は、バックオフ量を大きくして飽和出力に対して余裕を持った動作点で増幅器を動作させなければならないから、増幅器全体の効率が著しく悪化してしまう。また、増幅器の設計段階でも余裕を持たせる必要があるから、増幅器の規模も大きくしなければならない。
【0013】
そこで、実施形態の増幅装置では、増幅信号の振幅に応じた増幅素子を用いて信号の歪みと効率のバランスを最適化した複数の増幅回路を備えている。
【0014】
(実施形態の増幅装置)
以下、図4および図5を参照して、実施形態の増幅装置について詳細に説明する。図4に示すように、実施形態の増幅装置は、n個の増幅回路AMP1〜AMPn、無停波切替部130・140、切替制御部150を有している。
【0015】
増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnは、図1に示すような構成の電力増幅回路であり、それぞれ増幅素子Q1,Q2,…Qnと、入力整合部110,120,…114と、出力整合部120,122,…124とを備えている。増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnは、それぞれ異なる入力−出力特性・飽和出力特性を有しており、例えば増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnの順で飽和出力電力が小さくなる関係にある。すなわち、増幅回路AMP1は、増幅装置1全体の定格送信電力に対応する飽和出力電力を有し、増幅回路AMP2は、増幅回路AMP1よりも小さい飽和出力電力を有している。そして、増幅回路AMPnは、増幅装置1がもつ増幅回路AMPの中で最も小さい飽和出力電力を有している。言い換えれば、増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnは、増幅回路全体の効率が最大となる動作点の出力電力が、順に小さくなるような関係を有している。
【0016】
増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnそれぞれの飽和出力電力は、種々の要素により決定される。例えば、増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnの回路構成(あるいは増幅回路それぞれが有する増幅素子Q1,Q2,…Qnの特性)を同一とし、増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnそれぞれに供給するバイアス電圧を異なるようにする(順に小さくなるようにする)ことができる。あるいは、増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnそれぞれの増幅素子Q1,Q2,…Qnの飽和出力特性を互いに異なるものとすることで、増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnそれぞれの飽和出力電力が異なるように構成してもよい。
【0017】
増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnの入力整合部110,112,114は、共通の構成かつ共通の電気的特性を有していてもよいし、増幅素子Q1,Q2,…Qnの電気的特性に対応して異なる電気的特性を有するものとしてもよい。出力整合部120,122,124についても同様であり、共通の構成かつ共通の電気的特性を有していてもよいし、増幅素子Q1,Q2,…Qnの電気的特性に対応して異なる電気的特性を有するものとしてもよい。
【0018】
無停波切替部130は、入力端子INが接続された線路を、増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnのいずれかに接続するスイッチの機能を有する。すなわち、無停波切替部130は、入力端子INに入力された信号を、増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnのいずれかの入力に送る。無停波切替部130は、機械的接点によりリレーなどとは異なり、線路を切断することなく接続関係を切替える機能を有している。
【0019】
無停波切替部140は、増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnの出力のいずれかを出力端子OUTに接続するスイッチの機能を有する。すなわち、無停波切替部140は、増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnのいずれかの出力信号を、出力端子OUTに送る。無停波切替部140は、無停波切替部130と同様に、機械的接点によりリレーなどとは異なり、線路を切断することなく接続関係を切替える機能を有している。
【0020】
切替制御部150は、入力端子INに入力された信号の振幅に応じて、無停波切替部130および無停波切替部140を制御する機能を有する。切替制御部150は、入力端子INに入力された信号の包絡線信号を検出するカプラ152と検波器Dを有している。また、切替制御部150は、検波器Dから出力される包絡線信号の信号電圧と参照電圧源V1〜Vnの電圧とを比較する比較器IC1〜ICnと、比較器IC1〜ICnの出力に応じて無停波切替部130および140を制御する入力制御部154および出力制御部156を有している。すなわち、切替制御部150は、入力端子INに入力された信号の振幅の大きさに応じて、入力端子INに入力された信号を、増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnのいずれかに送ると共に、対応する出力信号を出力端子OUTに送る作用をする。
【0021】
(実施形態の無停波切替部)
ここで、図5Aおよび図5Bを参照して、実施形態の増幅装置における無停波切替部130・140について詳細に説明する。以下の説明では、増幅装置1が2つの増幅回路AMP1・AMP2を有するものとして説明する。図5Aに示すように、実施形態の増幅装置の無停波切替部130は、3dBカプラ132,134,136と、移相器LC31・LC32と、終端抵抗138を有している。
【0022】
3dBカプラ132の入力側端子aには入力端子INが接続され、同じく入力側端子bには終端抵抗138が接続されている。3dBカプラ132の出力側端子cには、3dBカプラ136の入力側端子iが接続され、同じく出力側端子dには、3dBカプラ134の入力側端子eが接続されている。3dBカプラ134の入力側端子fには、3dBカプラ136の入力側端子jが接続される。3dBカプラ134の出力側端子hおよびgは、それぞれ増幅回路AMP1およびAMP2の入力端子に接続されている。3dBカプラ136の出力側端子kおよびlには、一端が接地された移相器LC31・LC32の他端が接続されている。
【0023】
3dBカプラ132,134,136は、一方の入力側端子に入力された信号を、π/2波長の位相差を有した二つの信号に分配して二つの出力側端子に出力するカプラである。このとき、一方の入力側端子aに入力された信号は、他方の入力側端子bには出力されない。また、3dBカプラ132,134,136は、二つの入力側端子に入力された信号を合成して、一方の出力側端子にのみ出力する性質をも併せ持っている。
【0024】
移相器LC31・LC32は、インダクタとキャパシタを並列接続させ信号周波数において並列共振モードで動作する共振回路の構成を有している。キャパシタは、外部からの制御(入力制御部154による制御)により可変容量として動作するよう構成されている。すなわち、移相器LC31・LC32は、キャパシタの容量を変化させることで、3dBカプラ136から入力された信号の位相を制御することができる。
【0025】
入力端子INから3dBカプラ132の入力側端子aに入力された信号は、出力側端子cおよびdから出力される。出力側端子dから出力された信号は、そのまま3dBカプラ134の入力側端子eに入力される。一方、出力側端子cから出力された信号は、3dBカプラ136を介して移相器LC31・LC32に入力される。入力された信号が全反射され、再度カプラ136を介して端子jに出力され3dBカプラ134の入力側端子fに入力される。移相器LC31・LC32のキャパシタの静電容量に応じてカプラ136の端子jに出力される信号の位相量を可変される。
【0026】
ここで、移相器LC31・LC32による信号の移相量を調整すると、3dBカプラ134の入力側端子fに入力される信号の位相を制御することができる。すなわち、出力側端子dおよび入力側端子eを経由して出力側端子gに現れる信号を相殺するように、出力側端子c・3dBカプラ136・入力側端子fを経由して出力側端子gに現れる信号の位相を制御すれば、入力端子INに入力された信号を全て出力側端子hから出力させることができる。同様に、出力側端子dおよび入力側端子eを経由して出力側端子hに現れる信号を相殺するように、出力側端子c・3dBカプラ136・入力側端子fを経由して出力側端子hに現れる信号の位相を制御すれば、入力端子INに入力された信号を全て出力側端子gから出力させることができる。
【0027】
このように、実施形態の無停波切替器130によれば、移相器LC31・LC32のキャパシタの容量を制御することで、入力端子INに入力された信号を出力側端子gまたはhに出力させることができる。なお、図5Aに示す例では、入力された信号を二つに分配しているが、無停波切替器の回路を組み合わせることで任意の数に分配することができる。
【0028】
図5Bは、図5Aに示す無停波切替部130の入出力関係を逆向きとした構成を持つ無停波切替部140の例を示している。図5Bに示すように、実施形態の増幅装置の無停波切替部140は、無停波切替部130の3dBカプラ132,134,136に対応する3dBカプラ142,144,146と、移相器LC31・LC32に対応する移相器LC41・LC42と、終端抵抗138に対応する終端抵抗148を有している。実施形態の無停波切替器140によれば、移相器LC41・LC42のキャパシタを制御することで、入力側端子aおよびbに入力された信号のいずれか一方を、選択的に出力側端子hに出力させることができる。
【0029】
無停波切替部130・140は、機械的接点を有さないから、増幅回路AMP1およびAMP2を連続的に切替えることができる。すなわち、増幅回路の動作を停止させることなく、増幅回路への接続線路を切替えることができる。
【0030】
(実施形態の増幅装置の動作)
初期状態では、切替制御部150は、無停波切替部130・140が飽和出力電力の最も大きいデフォルトの増幅回路(例えば増幅回路AMP1)を選択するようにしておく。飽和出力電力の最も大きい増幅回路をデフォルトとするのは、振幅の大きな信号が入力されたとしても歪みの発生を抑えることができるからである。
【0031】
無停波切替部130は、入力端子INに入力された信号を、飽和出力電力の最も大きい増幅回路AMP1に送る。無停波切替部130から送られた信号は、増幅回路AMP1の入力整合部110を経て増幅素子Q1により増幅される。増幅素子Q1は、増幅した信号を出力整合部120を介して無停波切替部140に送る。無停波切替部140は、増幅回路AMP1から送られた信号を出力端子OUTに送る。
【0032】
一方、切替制御部150のカプラ152は、入力端子INに入力された信号を検出して、検波器Dに送る。検波器Dは、入力された信号を包絡線検波して比較器IC1〜ICnそれぞれの一方の入力に送る。比較器IC1〜ICnは、入力された包絡線信号それぞれの電圧と参照電圧源V1〜Vnの電圧とを比較する。このとき、参照電圧源V1〜Vnの電圧をV1>V2>V3>…>Vnとしておくと、比較器IC1〜ICnは、カプラ152が検出した入力信号の包絡線電圧に応じて「1」または「0」を出力することになる。例えば、IC1の出力(および他のICの出力)が「1」であれば、入力信号の包絡線電圧は大きく、ICnの出力のみが「1」であれば、入力信号の包絡線電圧は小さいということになる。
【0033】
入力制御部154(および出力制御部156)は、入力信号の包絡線電圧と当該包絡線電圧において歪み特性と効率が最良となる関係の増幅回路とを対応付けた定義テーブルを有しており、比較器IC1〜ICnが出力する「1」や「0」に基づいて歪み特性と効率が最良となる増幅回路を選択する。すなわち、入力制御部154は、比較器IC1〜ICnの出力に基づき、入力端子INが接続された線路を、入力信号の包絡線電圧に応じた飽和出力特性をもつ増幅回路への線路と接続し、出力制御部156は、当該増幅回路の出力からの線路を、出力端子OUTへの線路と接続する。
【0034】
このように、実施形態の増幅装置によれば、飽和出力特性の異なる増幅回路を複数備えて、入力信号の包絡線電圧に応じて歪み特性が良好かつ効率が最大となる増幅回路を選択するので、増幅信号の歪みを抑えつつ増幅装置全体の効率を向上することができる。また、実施形態の増幅装置によれば、入力信号の包絡線電圧を検出し、当該包絡線電圧に応じた増幅回路を選択するので、増幅動作以外の制御系における消費電流を抑えることができる。さらに、実施形態の増幅装置によれば、増幅回路の切替に無停波切替器を用いるので、増幅動作を停止せずに最適な増幅回路を選択することができる。これは、特に放送用送信機など増幅動作を停止させることのできない装置に適用する場合に好適である。
【0035】
(比較例)
ここで、図6および図7を参照して、エンベロープトラッキング技術を用いた比較例に係る増幅装置について説明する。図6に示すように、エンベロープトラッキング技術を用いた増幅装置1aは、実施形態に係る増幅装置と同様に、入力整合部12、増幅素子Q0および出力整合部22を有している。すなわち、増幅回路としては、実施形態と同様の構成を有している。一方、比較例に係る増幅装置は、増幅回路が1つだけである点、および、切替制御部ではなくエンベロープ電源部50を備える点において、実施形態に係る増幅装置と相違している。
【0036】
エンベロープ電源部50は、カプラ52、整流器D0、アンプIC0を有している。カプラ52は、入力端子INに入力された信号を検出する。整流器D0は、カプラ52が検出した信号を包絡線検波する(図6中(I))。アンプIC0は、整流器D0が検波した包絡線信号を増幅し、ドレイン電圧(バイアス)として増幅素子Q0に供給する(同(II))。入力端子INに入力された信号(同(III))は、入力整合部12を経て、増幅素子Q0により増幅される。このとき、増幅素子Q0は、エンベロープ電源部50のIC0から入力信号の包絡線電圧に応じたバイアスの供給を受けているから、増幅信号の歪みを抑えることができる。増幅素子Q0は、出力整合部22を介して増幅信号を出力端子OUTへ出力する(同(IV))。
【0037】
図7は、図6の増幅装置においてドレイン電圧(バイアス)を変えたときの出力電力および効率の関係を示している。図7に示すように、ドレイン電圧Vdsを大きくしていくと、飽和出力電力を大きくすることができるが、一方で、出力電力が小さい領域において効率が悪化することがわかる。エンベロープ電源部50は、入力信号の包絡線電圧に応じたドレイン電圧を生成するので、増幅素子Q0は常に効率のよい動作点(飽和出力付近)で動作することができる。
【0038】
図6に示す比較例の増幅装置では、アンプIC0がドレイン電圧を常に生成するため、エンベロープ電源部50において消費電力が発生する。すなわち、増幅装置全体としての効率を向上させる場合に、エンベロープ電源部50がネックとなる。実施形態の増幅装置は、エンベロープ電源部50のような能動素子を用いた電源部を必要としないので、増幅装置全体としての効率をより高めることができる。また、実施形態の増幅装置では、動作点に応じて適した増幅素子を用いた増幅回路を選択するので、歪みをより低減しつつ効率を向上することができる。
【0039】
(実施形態の増幅装置の具体例)
次に、図8および図9を参照して、実施形態の増幅装置の具体例を説明する。図8および図9に示す増幅装置は、図4および図5に示す実施形態の増幅装置において増幅回路AMPを二つ備えたものである。そこで、図4および図5に示す増幅装置と共通する構成については共通の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
【0040】
図8および図9に示す例では、増幅装置2は、ガラスエポキシなどの誘電体基板200上にマイクロストリップラインにより回路が実装されている。図9に示すように、二つの増幅素子Q1・Q2のうち飽和出力特性の大きい増幅素子Q1は、マイクロストリップラインにより形成された入力整合部210および出力整合部220とともに増幅回路AMP1を構成している。同様に、二つの増幅素子Q1・Q2のうち飽和出力特性の小さい増幅素子Q2は、マイクロストリップラインにより形成された入力整合部212および出力整合部222とともに増幅回路AMP2を構成している。増幅素子Q1は、増幅素子Q2よりも熱損失が大きいため、増幅回路AMP1は、増幅回路AMP2よりも大きな回路面積を占め放熱を容易にしている。また、図8および図9に示すように、増幅装置2は、入力制御部および出力制御部の各機能を入出力制御部254により実現している。3dBカプラ132,134,136,142,144,146や、カプラ152、移相器LC31・LC32・LC41・LC42は、マイクロストリップラインにより基板200上に実装されている。
【0041】
このように、実施形態の増幅装置は、基板実装が可能な無停波切替器により複数の増幅回路を切り替えるので、増幅装置のサイズを小さくすることができる。
【0042】
(実施形態の送信装置)
次に、図10を参照して実施形態に係る送信装置3について説明する。図10に示すように、実施形態の送信装置3は、入力端子INに入力された信号を変調する変調部310と、変調部310の変調信号を周波数変換する周波数変換部320と、周波数変換部に周波数変換用のローカル信号を供給する局部発振部330と、図4や図8に示す実施形態に係る増幅装置1(2)と、増幅装置1(2)が増幅した信号を電波として空間に放射するアンテナ340とを備えている。
【0043】
実施形態に係る送信装置は、飽和出力特性の異なる増幅回路を複数備えて、周波数変換された変調信号の包絡線電圧に応じて歪み特性が良好かつ効率が最大となる増幅回路を選択するので、増幅信号の歪みを抑えつつ送信装置全体の効率を向上することができる。また、実施形態の送信装置によれば、周波数変換された変調信号の包絡線電圧を検出し、当該包絡線電圧に応じた増幅回路を選択するので、電力増幅動作以外の制御系における消費電流を抑えることができる。さらに、実施形態の送信装置によれば、増幅回路の切替に無停波切替器を用いるので、増幅動作を停止せずに最適な増幅回路を選択することができる。すなわち、送信動作を停止させることなく増幅回路を切り替えることができ、効率の低下を抑えることができる。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが,これらの実施形態は,例として提示したものであり,発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は,その他の様々な形態で実施されることが可能であり,発明の要旨を逸脱しない範囲で,種々の省略,置き換え,変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は,発明の範囲や要旨に含まれるとともに,特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
1…増幅装置、110,112,114…入力整合部、Q1〜Qn…増幅素子、120,122,124…出力整合部、130,140…無停波切替部、132,134,136,142,144,146…3dBカプラ、LC31,LC32,LC41,LC42…移相器、150…切替制御部、152…カプラ、D…検波器、IC1〜ICn…比較器、154…入力制御部、156…出力制御部。
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、増幅器と送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
増幅器、特に電力増幅を行う電力増幅器は、出力電力が大きいほど増幅器全体としての電力効率が高くなり、出力電力が小さいほど効率が低くなる傾向にある。従って、飽和出力電力で増幅器を動作させると、増幅器全体として高い電力効率を得ることができる。
【0003】
しかしながら、近年の無線通信においては高速かつ大容量化が求められているため、利用する変調方式や多重化方式によっては無線信号のPAPR(Peak to Average Power Ratio:ピーク電力と平均電力の比)が大きくなる傾向である。係る場合に、増幅器を飽和出力電力付近で動作させると無線信号が大きく歪んでしまう。一方、当該無線信号のPAPRに応じてバックオフ量を確保すれば無線信号の歪みは低減されるが、逆に電力効率が低下してしまう。すなわち、歪みの低減と効率の向上を両立させることが難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−124947公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来の増幅装置、送信装置では、出力信号の歪みの低減と電力効率の向上を両立させることが難しいという問題がある。本発明は係る課題を解決するためになされたもので、出力信号の歪みを抑えつつ効率を向上することのできる増幅装置、送信装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、実施形態に係る増幅装置は、飽和出力電力が互いに異なる複数の増幅回路を具備している。実施形態に係る増幅装置は、入力端子に入力された入力信号の包絡線信号を検出する検波器と、前記検波器が検出した包絡線信号の信号電圧を、それぞれ異なる参照電圧と比較する複数の比較器と、前記複数の比較器の比較結果に基づいて前記複数の増幅回路のいずれか一つを選択する切替制御部とを具備している。そして、実施形態に係る増幅装置は、前記入力端子を前記切替制御部が選択した増幅回路の入力に接続するとともに、前記切替制御部が選択した増幅回路の出力を出力端子に接続する切替部とを具備することを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】増幅器の基本構成を説明する図である。
【図2】増幅器の出力電力と電力効率の関係を説明する図である。
【図3】増幅器の出力における振幅の変化について説明する図である。
【図4】実施形態に係る増幅装置の回路構成を示す図である。
【図5A】実施形態に係る増幅装置の無停波切替部の具体例を説明する図である。
【図5B】実施形態に係る増幅装置の無停波切替部の具体例を説明する図である。
【図6】比較例の増幅器の回路構成例を示す図である。
【図7】比較例の増幅器の動作を説明する図である。
【図8】実施形態に係る増幅装置の具体例を示す図である。
【図9】図8に示す増幅装置の具体例を示す図である。
【図10】実施形態に係る送信装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(増幅器の出力と効率の関係)
図1ないし図3を参照して、電力増幅器を例に増幅器の出力電力と効率の関係について説明する。図1に示すように、一般に電力増幅器は、増幅素子Q、入力整合部10および出力整合部20を有している。増幅素子Qは、例えばMOSFETなどのトランジスタである。入力整合部10は、入力端子INに接続される前段増幅部などとインピーダンス整合を行うマッチング機能を有する。同様に、出力整合部20は、出力端子OUTに接続される後段のフィルタやアンテナなどとインピーダンス整合を行うマッチング機能を有する。
【0009】
増幅素子QがFETなどの場合、図示しない電源から出力整合部20を介してバイアス電圧が供給されている。増幅素子Qがバイポーラトランジスタなどの場合、図示しない電源から入力整合部10を介してバイアス電流(FETの場合は電圧)が供給される。以下の説明においては、増幅素子QがFETであるものとして説明する。
【0010】
図1に示すような回路構成の電力増幅器は、図2に示すような出力−効率特性を有することが多い。すなわち、出力電力が飽和出力電力Psatに近づくほど、増幅器全体の効率が向上する。増幅する信号がFM信号のように振幅の変化がない場合は、出力電力が飽和出力となるよう増幅素子Qのバイアス電圧を設定しておけば、最大限の効率で増幅器を動作させることができる。
【0011】
一方で、増幅する信号がAM信号のように振幅の変化がある場合は、出力電力を常に飽和出力とすることができない。特に、高速かつ大容量化が進められている近年の無線通信では、変調方式や多重化方式により、PAPRが高くなる傾向である。図3は、PAPRの高い信号の振幅の時間変化の一例を示している。例えば、地上デジタル放送用の無線信号のPAPRはおよそ10[dB]となる。このような信号を増幅する場合、増幅器を飽和出力電力付近で動作させると、信号が大きく歪んでしまう。
【0012】
出力電力を飽和出力電力よりも十分に小さい動作点で増幅器を動作させると、信号の歪みを低減することが可能である。しかし、PAPRの高い信号を増幅する場合は、バックオフ量を大きくして飽和出力に対して余裕を持った動作点で増幅器を動作させなければならないから、増幅器全体の効率が著しく悪化してしまう。また、増幅器の設計段階でも余裕を持たせる必要があるから、増幅器の規模も大きくしなければならない。
【0013】
そこで、実施形態の増幅装置では、増幅信号の振幅に応じた増幅素子を用いて信号の歪みと効率のバランスを最適化した複数の増幅回路を備えている。
【0014】
(実施形態の増幅装置)
以下、図4および図5を参照して、実施形態の増幅装置について詳細に説明する。図4に示すように、実施形態の増幅装置は、n個の増幅回路AMP1〜AMPn、無停波切替部130・140、切替制御部150を有している。
【0015】
増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnは、図1に示すような構成の電力増幅回路であり、それぞれ増幅素子Q1,Q2,…Qnと、入力整合部110,120,…114と、出力整合部120,122,…124とを備えている。増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnは、それぞれ異なる入力−出力特性・飽和出力特性を有しており、例えば増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnの順で飽和出力電力が小さくなる関係にある。すなわち、増幅回路AMP1は、増幅装置1全体の定格送信電力に対応する飽和出力電力を有し、増幅回路AMP2は、増幅回路AMP1よりも小さい飽和出力電力を有している。そして、増幅回路AMPnは、増幅装置1がもつ増幅回路AMPの中で最も小さい飽和出力電力を有している。言い換えれば、増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnは、増幅回路全体の効率が最大となる動作点の出力電力が、順に小さくなるような関係を有している。
【0016】
増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnそれぞれの飽和出力電力は、種々の要素により決定される。例えば、増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnの回路構成(あるいは増幅回路それぞれが有する増幅素子Q1,Q2,…Qnの特性)を同一とし、増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnそれぞれに供給するバイアス電圧を異なるようにする(順に小さくなるようにする)ことができる。あるいは、増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnそれぞれの増幅素子Q1,Q2,…Qnの飽和出力特性を互いに異なるものとすることで、増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnそれぞれの飽和出力電力が異なるように構成してもよい。
【0017】
増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnの入力整合部110,112,114は、共通の構成かつ共通の電気的特性を有していてもよいし、増幅素子Q1,Q2,…Qnの電気的特性に対応して異なる電気的特性を有するものとしてもよい。出力整合部120,122,124についても同様であり、共通の構成かつ共通の電気的特性を有していてもよいし、増幅素子Q1,Q2,…Qnの電気的特性に対応して異なる電気的特性を有するものとしてもよい。
【0018】
無停波切替部130は、入力端子INが接続された線路を、増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnのいずれかに接続するスイッチの機能を有する。すなわち、無停波切替部130は、入力端子INに入力された信号を、増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnのいずれかの入力に送る。無停波切替部130は、機械的接点によりリレーなどとは異なり、線路を切断することなく接続関係を切替える機能を有している。
【0019】
無停波切替部140は、増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnの出力のいずれかを出力端子OUTに接続するスイッチの機能を有する。すなわち、無停波切替部140は、増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnのいずれかの出力信号を、出力端子OUTに送る。無停波切替部140は、無停波切替部130と同様に、機械的接点によりリレーなどとは異なり、線路を切断することなく接続関係を切替える機能を有している。
【0020】
切替制御部150は、入力端子INに入力された信号の振幅に応じて、無停波切替部130および無停波切替部140を制御する機能を有する。切替制御部150は、入力端子INに入力された信号の包絡線信号を検出するカプラ152と検波器Dを有している。また、切替制御部150は、検波器Dから出力される包絡線信号の信号電圧と参照電圧源V1〜Vnの電圧とを比較する比較器IC1〜ICnと、比較器IC1〜ICnの出力に応じて無停波切替部130および140を制御する入力制御部154および出力制御部156を有している。すなわち、切替制御部150は、入力端子INに入力された信号の振幅の大きさに応じて、入力端子INに入力された信号を、増幅回路AMP1,AMP2,…AMPnのいずれかに送ると共に、対応する出力信号を出力端子OUTに送る作用をする。
【0021】
(実施形態の無停波切替部)
ここで、図5Aおよび図5Bを参照して、実施形態の増幅装置における無停波切替部130・140について詳細に説明する。以下の説明では、増幅装置1が2つの増幅回路AMP1・AMP2を有するものとして説明する。図5Aに示すように、実施形態の増幅装置の無停波切替部130は、3dBカプラ132,134,136と、移相器LC31・LC32と、終端抵抗138を有している。
【0022】
3dBカプラ132の入力側端子aには入力端子INが接続され、同じく入力側端子bには終端抵抗138が接続されている。3dBカプラ132の出力側端子cには、3dBカプラ136の入力側端子iが接続され、同じく出力側端子dには、3dBカプラ134の入力側端子eが接続されている。3dBカプラ134の入力側端子fには、3dBカプラ136の入力側端子jが接続される。3dBカプラ134の出力側端子hおよびgは、それぞれ増幅回路AMP1およびAMP2の入力端子に接続されている。3dBカプラ136の出力側端子kおよびlには、一端が接地された移相器LC31・LC32の他端が接続されている。
【0023】
3dBカプラ132,134,136は、一方の入力側端子に入力された信号を、π/2波長の位相差を有した二つの信号に分配して二つの出力側端子に出力するカプラである。このとき、一方の入力側端子aに入力された信号は、他方の入力側端子bには出力されない。また、3dBカプラ132,134,136は、二つの入力側端子に入力された信号を合成して、一方の出力側端子にのみ出力する性質をも併せ持っている。
【0024】
移相器LC31・LC32は、インダクタとキャパシタを並列接続させ信号周波数において並列共振モードで動作する共振回路の構成を有している。キャパシタは、外部からの制御(入力制御部154による制御)により可変容量として動作するよう構成されている。すなわち、移相器LC31・LC32は、キャパシタの容量を変化させることで、3dBカプラ136から入力された信号の位相を制御することができる。
【0025】
入力端子INから3dBカプラ132の入力側端子aに入力された信号は、出力側端子cおよびdから出力される。出力側端子dから出力された信号は、そのまま3dBカプラ134の入力側端子eに入力される。一方、出力側端子cから出力された信号は、3dBカプラ136を介して移相器LC31・LC32に入力される。入力された信号が全反射され、再度カプラ136を介して端子jに出力され3dBカプラ134の入力側端子fに入力される。移相器LC31・LC32のキャパシタの静電容量に応じてカプラ136の端子jに出力される信号の位相量を可変される。
【0026】
ここで、移相器LC31・LC32による信号の移相量を調整すると、3dBカプラ134の入力側端子fに入力される信号の位相を制御することができる。すなわち、出力側端子dおよび入力側端子eを経由して出力側端子gに現れる信号を相殺するように、出力側端子c・3dBカプラ136・入力側端子fを経由して出力側端子gに現れる信号の位相を制御すれば、入力端子INに入力された信号を全て出力側端子hから出力させることができる。同様に、出力側端子dおよび入力側端子eを経由して出力側端子hに現れる信号を相殺するように、出力側端子c・3dBカプラ136・入力側端子fを経由して出力側端子hに現れる信号の位相を制御すれば、入力端子INに入力された信号を全て出力側端子gから出力させることができる。
【0027】
このように、実施形態の無停波切替器130によれば、移相器LC31・LC32のキャパシタの容量を制御することで、入力端子INに入力された信号を出力側端子gまたはhに出力させることができる。なお、図5Aに示す例では、入力された信号を二つに分配しているが、無停波切替器の回路を組み合わせることで任意の数に分配することができる。
【0028】
図5Bは、図5Aに示す無停波切替部130の入出力関係を逆向きとした構成を持つ無停波切替部140の例を示している。図5Bに示すように、実施形態の増幅装置の無停波切替部140は、無停波切替部130の3dBカプラ132,134,136に対応する3dBカプラ142,144,146と、移相器LC31・LC32に対応する移相器LC41・LC42と、終端抵抗138に対応する終端抵抗148を有している。実施形態の無停波切替器140によれば、移相器LC41・LC42のキャパシタを制御することで、入力側端子aおよびbに入力された信号のいずれか一方を、選択的に出力側端子hに出力させることができる。
【0029】
無停波切替部130・140は、機械的接点を有さないから、増幅回路AMP1およびAMP2を連続的に切替えることができる。すなわち、増幅回路の動作を停止させることなく、増幅回路への接続線路を切替えることができる。
【0030】
(実施形態の増幅装置の動作)
初期状態では、切替制御部150は、無停波切替部130・140が飽和出力電力の最も大きいデフォルトの増幅回路(例えば増幅回路AMP1)を選択するようにしておく。飽和出力電力の最も大きい増幅回路をデフォルトとするのは、振幅の大きな信号が入力されたとしても歪みの発生を抑えることができるからである。
【0031】
無停波切替部130は、入力端子INに入力された信号を、飽和出力電力の最も大きい増幅回路AMP1に送る。無停波切替部130から送られた信号は、増幅回路AMP1の入力整合部110を経て増幅素子Q1により増幅される。増幅素子Q1は、増幅した信号を出力整合部120を介して無停波切替部140に送る。無停波切替部140は、増幅回路AMP1から送られた信号を出力端子OUTに送る。
【0032】
一方、切替制御部150のカプラ152は、入力端子INに入力された信号を検出して、検波器Dに送る。検波器Dは、入力された信号を包絡線検波して比較器IC1〜ICnそれぞれの一方の入力に送る。比較器IC1〜ICnは、入力された包絡線信号それぞれの電圧と参照電圧源V1〜Vnの電圧とを比較する。このとき、参照電圧源V1〜Vnの電圧をV1>V2>V3>…>Vnとしておくと、比較器IC1〜ICnは、カプラ152が検出した入力信号の包絡線電圧に応じて「1」または「0」を出力することになる。例えば、IC1の出力(および他のICの出力)が「1」であれば、入力信号の包絡線電圧は大きく、ICnの出力のみが「1」であれば、入力信号の包絡線電圧は小さいということになる。
【0033】
入力制御部154(および出力制御部156)は、入力信号の包絡線電圧と当該包絡線電圧において歪み特性と効率が最良となる関係の増幅回路とを対応付けた定義テーブルを有しており、比較器IC1〜ICnが出力する「1」や「0」に基づいて歪み特性と効率が最良となる増幅回路を選択する。すなわち、入力制御部154は、比較器IC1〜ICnの出力に基づき、入力端子INが接続された線路を、入力信号の包絡線電圧に応じた飽和出力特性をもつ増幅回路への線路と接続し、出力制御部156は、当該増幅回路の出力からの線路を、出力端子OUTへの線路と接続する。
【0034】
このように、実施形態の増幅装置によれば、飽和出力特性の異なる増幅回路を複数備えて、入力信号の包絡線電圧に応じて歪み特性が良好かつ効率が最大となる増幅回路を選択するので、増幅信号の歪みを抑えつつ増幅装置全体の効率を向上することができる。また、実施形態の増幅装置によれば、入力信号の包絡線電圧を検出し、当該包絡線電圧に応じた増幅回路を選択するので、増幅動作以外の制御系における消費電流を抑えることができる。さらに、実施形態の増幅装置によれば、増幅回路の切替に無停波切替器を用いるので、増幅動作を停止せずに最適な増幅回路を選択することができる。これは、特に放送用送信機など増幅動作を停止させることのできない装置に適用する場合に好適である。
【0035】
(比較例)
ここで、図6および図7を参照して、エンベロープトラッキング技術を用いた比較例に係る増幅装置について説明する。図6に示すように、エンベロープトラッキング技術を用いた増幅装置1aは、実施形態に係る増幅装置と同様に、入力整合部12、増幅素子Q0および出力整合部22を有している。すなわち、増幅回路としては、実施形態と同様の構成を有している。一方、比較例に係る増幅装置は、増幅回路が1つだけである点、および、切替制御部ではなくエンベロープ電源部50を備える点において、実施形態に係る増幅装置と相違している。
【0036】
エンベロープ電源部50は、カプラ52、整流器D0、アンプIC0を有している。カプラ52は、入力端子INに入力された信号を検出する。整流器D0は、カプラ52が検出した信号を包絡線検波する(図6中(I))。アンプIC0は、整流器D0が検波した包絡線信号を増幅し、ドレイン電圧(バイアス)として増幅素子Q0に供給する(同(II))。入力端子INに入力された信号(同(III))は、入力整合部12を経て、増幅素子Q0により増幅される。このとき、増幅素子Q0は、エンベロープ電源部50のIC0から入力信号の包絡線電圧に応じたバイアスの供給を受けているから、増幅信号の歪みを抑えることができる。増幅素子Q0は、出力整合部22を介して増幅信号を出力端子OUTへ出力する(同(IV))。
【0037】
図7は、図6の増幅装置においてドレイン電圧(バイアス)を変えたときの出力電力および効率の関係を示している。図7に示すように、ドレイン電圧Vdsを大きくしていくと、飽和出力電力を大きくすることができるが、一方で、出力電力が小さい領域において効率が悪化することがわかる。エンベロープ電源部50は、入力信号の包絡線電圧に応じたドレイン電圧を生成するので、増幅素子Q0は常に効率のよい動作点(飽和出力付近)で動作することができる。
【0038】
図6に示す比較例の増幅装置では、アンプIC0がドレイン電圧を常に生成するため、エンベロープ電源部50において消費電力が発生する。すなわち、増幅装置全体としての効率を向上させる場合に、エンベロープ電源部50がネックとなる。実施形態の増幅装置は、エンベロープ電源部50のような能動素子を用いた電源部を必要としないので、増幅装置全体としての効率をより高めることができる。また、実施形態の増幅装置では、動作点に応じて適した増幅素子を用いた増幅回路を選択するので、歪みをより低減しつつ効率を向上することができる。
【0039】
(実施形態の増幅装置の具体例)
次に、図8および図9を参照して、実施形態の増幅装置の具体例を説明する。図8および図9に示す増幅装置は、図4および図5に示す実施形態の増幅装置において増幅回路AMPを二つ備えたものである。そこで、図4および図5に示す増幅装置と共通する構成については共通の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
【0040】
図8および図9に示す例では、増幅装置2は、ガラスエポキシなどの誘電体基板200上にマイクロストリップラインにより回路が実装されている。図9に示すように、二つの増幅素子Q1・Q2のうち飽和出力特性の大きい増幅素子Q1は、マイクロストリップラインにより形成された入力整合部210および出力整合部220とともに増幅回路AMP1を構成している。同様に、二つの増幅素子Q1・Q2のうち飽和出力特性の小さい増幅素子Q2は、マイクロストリップラインにより形成された入力整合部212および出力整合部222とともに増幅回路AMP2を構成している。増幅素子Q1は、増幅素子Q2よりも熱損失が大きいため、増幅回路AMP1は、増幅回路AMP2よりも大きな回路面積を占め放熱を容易にしている。また、図8および図9に示すように、増幅装置2は、入力制御部および出力制御部の各機能を入出力制御部254により実現している。3dBカプラ132,134,136,142,144,146や、カプラ152、移相器LC31・LC32・LC41・LC42は、マイクロストリップラインにより基板200上に実装されている。
【0041】
このように、実施形態の増幅装置は、基板実装が可能な無停波切替器により複数の増幅回路を切り替えるので、増幅装置のサイズを小さくすることができる。
【0042】
(実施形態の送信装置)
次に、図10を参照して実施形態に係る送信装置3について説明する。図10に示すように、実施形態の送信装置3は、入力端子INに入力された信号を変調する変調部310と、変調部310の変調信号を周波数変換する周波数変換部320と、周波数変換部に周波数変換用のローカル信号を供給する局部発振部330と、図4や図8に示す実施形態に係る増幅装置1(2)と、増幅装置1(2)が増幅した信号を電波として空間に放射するアンテナ340とを備えている。
【0043】
実施形態に係る送信装置は、飽和出力特性の異なる増幅回路を複数備えて、周波数変換された変調信号の包絡線電圧に応じて歪み特性が良好かつ効率が最大となる増幅回路を選択するので、増幅信号の歪みを抑えつつ送信装置全体の効率を向上することができる。また、実施形態の送信装置によれば、周波数変換された変調信号の包絡線電圧を検出し、当該包絡線電圧に応じた増幅回路を選択するので、電力増幅動作以外の制御系における消費電流を抑えることができる。さらに、実施形態の送信装置によれば、増幅回路の切替に無停波切替器を用いるので、増幅動作を停止せずに最適な増幅回路を選択することができる。すなわち、送信動作を停止させることなく増幅回路を切り替えることができ、効率の低下を抑えることができる。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが,これらの実施形態は,例として提示したものであり,発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は,その他の様々な形態で実施されることが可能であり,発明の要旨を逸脱しない範囲で,種々の省略,置き換え,変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は,発明の範囲や要旨に含まれるとともに,特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
1…増幅装置、110,112,114…入力整合部、Q1〜Qn…増幅素子、120,122,124…出力整合部、130,140…無停波切替部、132,134,136,142,144,146…3dBカプラ、LC31,LC32,LC41,LC42…移相器、150…切替制御部、152…カプラ、D…検波器、IC1〜ICn…比較器、154…入力制御部、156…出力制御部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和出力電力が互いに異なる複数の増幅回路と、
入力端子に入力された入力信号の包絡線信号を検出する検波器と、
前記検波器が検出した包絡線信号の信号電圧を、それぞれ異なる参照電圧と比較する複数の比較器と、
前記複数の比較器の比較結果に基づいて前記複数の増幅回路のいずれか一つを選択する切替制御部と、
前記入力端子を前記切替制御部が選択した増幅回路の入力に接続するとともに、前記切替制御部が選択した増幅回路の出力を出力端子に接続する切替部と
を具備することを特徴とする増幅装置。
【請求項2】
前記切替部は、3dBカプラと、移相量を可変とした移相器とを有することを特徴とする請求項1記載の増幅装置。
【請求項3】
前記複数の増幅回路は、それぞれの飽和出力電力に応じた互いに異なるバイアス電圧またはバイアス電流が供給されることを特徴とする請求項1記載の増幅装置。
【請求項4】
前記複数の増幅回路は、それぞれの飽和出力電力に応じた互いに異なる増幅素子を有することを特徴とする請求項1記載の増幅装置。
【請求項5】
誘電体基板を備え、
前記複数の増幅回路、前記検波器、前記複数の比較器、前記切替制御部および前記切替部は、前記誘電体基板上に配設され、前記誘電体基板上に形成されたマイクロストリップラインにより相互に接続されたこと
を特徴とする請求項1記載の増幅装置。
【請求項6】
入力信号を変調する変調部と、
前記変調部により変調された変調信号を周波数変換する周波数変換部と、
請求項1記載の増幅装置と
を具備したことを特徴とする送信装置。
【請求項1】
飽和出力電力が互いに異なる複数の増幅回路と、
入力端子に入力された入力信号の包絡線信号を検出する検波器と、
前記検波器が検出した包絡線信号の信号電圧を、それぞれ異なる参照電圧と比較する複数の比較器と、
前記複数の比較器の比較結果に基づいて前記複数の増幅回路のいずれか一つを選択する切替制御部と、
前記入力端子を前記切替制御部が選択した増幅回路の入力に接続するとともに、前記切替制御部が選択した増幅回路の出力を出力端子に接続する切替部と
を具備することを特徴とする増幅装置。
【請求項2】
前記切替部は、3dBカプラと、移相量を可変とした移相器とを有することを特徴とする請求項1記載の増幅装置。
【請求項3】
前記複数の増幅回路は、それぞれの飽和出力電力に応じた互いに異なるバイアス電圧またはバイアス電流が供給されることを特徴とする請求項1記載の増幅装置。
【請求項4】
前記複数の増幅回路は、それぞれの飽和出力電力に応じた互いに異なる増幅素子を有することを特徴とする請求項1記載の増幅装置。
【請求項5】
誘電体基板を備え、
前記複数の増幅回路、前記検波器、前記複数の比較器、前記切替制御部および前記切替部は、前記誘電体基板上に配設され、前記誘電体基板上に形成されたマイクロストリップラインにより相互に接続されたこと
を特徴とする請求項1記載の増幅装置。
【請求項6】
入力信号を変調する変調部と、
前記変調部により変調された変調信号を周波数変換する周波数変換部と、
請求項1記載の増幅装置と
を具備したことを特徴とする送信装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−26941(P2013−26941A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161555(P2011−161555)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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