説明

増幅装置及び増幅装置の故障監視方法

【課題】増幅器の故障を確実に検出できる増幅装置及び増幅装置の故障監視方法を提供すること。
【解決手段】本発明の実施態様に係る増幅装置は、入力信号を分割する分配手段と、分配手段により分割された入力信号の一方を増幅するキャリア増幅器と、分配手段により分割された入力信号の他方を増幅するピーク増幅器と、キャリア増幅器からの出力信号とピーク増幅器からの出力信号を合成する合成器と、を有するドハティ増幅回路と、ピーク増幅器のゲートバイアス電圧を参照電圧と比較し、該比較結果に応じて信号を出力する第1の比較器と、第1の比較器から信号が出力されると、ピーク増幅器のドレインへの電力供給を遮断する第1のスイッチと、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、ドハティ増幅回路を備えた増幅装置及びこの増幅装置の故障監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力増幅器の電力効率向上を実現するための手段としてドハティ増幅回路が知られている。ドハティ増幅回路は、キャリア増幅器とピーク増幅器の2つの増幅器から構成される。キャリア増幅器は、例えば、A級増幅器又はAB級増幅器として動作するようにバイアスされ、瞬時入力信号が小さい場合でも増幅動作を行って出力信号を出力する。
【0003】
ピーク増幅器は、例えば、B級増幅器又はC級増幅器として動作するようにバイアスされ、瞬時入力信号が小さい場合、オフ状態のまま即ち増幅動作を行わず出力しない。一方、瞬時入力信号が大きい場合、ピーク増幅器がオン状態となり、ピーク増幅器の入力信号を増幅して出力信号を発生する。
【0004】
上述のようにドハティ増幅は、キャリア増幅器の出力電力とピーク増幅器の出力電力とを合成して出力する構成とすることで、より大きな飽和電力を有する効率の高い増幅器を実現している。
【0005】
ドハティ増幅回路では、運用状態にて故障を検出するために増幅器の動作電流を監視して故障検出を行っていることが多い。この手法では、増幅器が故障した場合は、動作電流が変化するため故障を検出することができる。しかしながら、出力電力が定格出力以下の場合、ピーク増幅器はオフ状態又はそれに近い状態であり、動作電流の変化がほとんどないためピーク増幅器の故障を検出することが困難である。
【0006】
また、増幅素子として、GaN−HEMT(窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ)を用いた場合、電流コラプス現象(動作時にドレイン電流が低下する現象)により、信号出力を停止した直後は、増幅素子のバイアス電流が低下するため故障を検出することが困難である。
【0007】
一方、増幅素子が破損した場合、ゲート−ソース間が短絡状態になることがほとんどである。この場合、ゲート−ソース間の直流抵抗値が低下するためゲートバイアス電圧が低下する。そこで、ピーク増幅器のゲートバイアス電圧を所定の閾値と比較してピーク増幅器の故障の有無を検出することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−300528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように増幅素子が破損した場合、ゲート−ソース間の直流抵抗値が低下する。この直流抵抗値の低下によりドレイン−ソース間に過大な電流が流れてしまい増幅素子が焼き切れてしまう場合がある。その場合、素子の各端子が開放となる為、ゲートバイアス電圧が正常値に戻り、以後、増幅器の故障を検出することができなくなってしまう。
本発明が解決しようとする課題は、増幅器の故障を確実に検出できる増幅装置及び増幅装置の故障監視方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態に係る増幅装置は、入力信号を分割する分配手段と、分配手段により分割された入力信号の一方を増幅するキャリア増幅器と、分配手段により分割された入力信号の他方を増幅するピーク増幅器と、キャリア増幅器からの出力信号とピーク増幅器からの出力信号を合成する合成器と、を有するドハティ増幅回路と、ピーク増幅器のゲートバイアス電圧を参照電圧と比較し、該比較結果に応じて信号を出力する第1の比較器と、第1の比較器から信号が出力されると、ピーク増幅器のドレインへの電力供給を遮断する第1のスイッチと、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態に係る増幅装置の構成図である。
【図2】増幅器、故障検出回路及びスイッチの詳細構成図である。
【図3】瞬時入力電力が小さい場合の増幅装置の動作図である。
【図4】瞬時入力電力が大きい場合の増幅装置の動作図である。
【図5】第2の実施形態に係る増幅装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る増幅装置1の構成図である。
第1の実施形態に係る増幅装置1は、整合回路A〜D、線路E〜G、キャリア増幅器101、ピーク増幅器102、故障検出回路103A及びスイッチSW1を具備する。
【0014】
整合回路A〜Dは、インピーダンス整合を行う整合回路で50Ωに変換する。線路E,Fは、線路長が入力信号搬送波の波長λの1/4、特性インピーダンスが50Ωの1/4波長インピーダンス変換線路である。また、線路Gは、線路長が入力信号搬送波の波長λの1/4、特性インピーダンスが35Ωの1/4波長インピーダンス変換線路である。
【0015】
キャリア増幅器101は、バイアス設定がAB級又はB級となっている。ピーク増幅器102は、バイアス設定がB級又はC級となっている。キャリア増幅器101及びピーク増幅器102はドハティ増幅回路を構成する。キャリア増幅器101及びピーク増幅器102は、GaN−HEMT(窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ)であり、窒化ガリウム(GaN)をチャネルとして使用するため、既存のシリコン(Si)トランジスタやガリウムヒ素(GaAs)トランジスタに比べて大電流化、高周波化、高耐圧化及びそれにより高効率化が可能である。
【0016】
故障検出回路103Aは、ピーク増幅器102の故障を検出し、該検出結果に応じてスイッチSW1をON/OFFする。
【0017】
図2は、ピーク増幅器102、故障検出回路103A、スイッチSW1の詳細構成図である。ピーク増幅器102は、GaN−HEMT(窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ)であり、該トランジスタのゲートは、抵抗R1,R2を介してゲート電源Sgに接続されている。また、該トランジスタのドレインは、スイッチSW1及びインダクタLを介してドレイン電源Sdに接続されている。さらに、該トランジスタのソースは、グランドGNDに接続されている。
【0018】
故障検出回路103Aは、図2に示したゲート電圧監視点P1の電圧Vgを基準電圧Vrと比較する比較器である。故障検出回路103Aの入力端In1及び入力端In2は、夫々ゲート電圧監視点P1及び基準電圧Vrと接続されており、故障検出回路103Aは、入力端In1から入力されるゲート電圧監視点P1の電圧Vgが、入力端In2から入力される基準電圧Vr以下になると出力端Outからアラーム信号(電圧)が出力される。該アラーム信号が出力されると図示しない外部装置によりユーザへ増幅器の故障が伝達される。
【0019】
上述したように、増幅素子が故障した場合、ゲート−ソース間の短絡することがほとんどである。この場合、ゲート−ソース間の直流抵抗値が低下するためゲートバイアス電圧が低下する。そこで、この第1の実施形態に係る増幅装置1では、図2に示すようにゲート電圧監視点P1の電圧Vgを比較電圧Vrと比較することによりピーク増幅器102の故障を検出している。
【0020】
スイッチSW1は、ドレイン電源Sdとピーク増幅器102のドレインとの間に配置される。スイッチSW1は、故障検出回路103Aの出力端Outからアラーム信号(電圧)が出力されると接点が開いてドレイン電源Sdからピーク増幅器102のドレインへ供給される電圧を遮断する。
【0021】
ピーク増幅器102の故障が検出された場合、ピーク増幅器102のドレインへ供給される電圧を遮断することでドレイン−ソース間に過大な電流が流れてしまいピーク増幅器102が焼き切れてしまうことを防止している。結果、ゲートバイアス電圧が正常値に戻ってしまい、ピーク増幅器102の故障が検出できなくなることを防止できる。
【0022】
(増幅装置1の動作)
次に、第1の実施形態に係る増幅装置1の動作について図3,図4を参照して説明する。
初めに、図3を参照して、瞬時入力電力が小さい場合について説明する。
入力端から入力されたRF(以下、RF信号と称する)は、2つに分割された後、一方はキャリア増幅器101へ入力され、他方は、線路Eにより90°位相差をつけてピーク増幅器102へ入力される。
【0023】
キャリア増幅器101は、RF信号の電力レベルに係わらずオン(ON)状態、すなわち増幅を行う。一方、RF信号の電力レベルが小さい場合、ピーク増幅器102は、オフ(OFF)状態、すなわち増幅を行わない。また、ピーク増幅器102がオフ(OFF)状態となることから整合回路Dの出力端インピーダンスが開放となり、キャリア増幅器101の負荷インピーダンスは100Ωとなり、ドレイン効率が高い状態で動作する。
【0024】
次に、図4を参照して、瞬時入力電力が大きい場合について説明する。
入力端から入力されたRF信号は、2つに分割された後、一方はキャリア増幅器101へ入力され、他方は、線路Eにより90°位相差をつけてピーク増幅器102へ入力される。
【0025】
キャリア増幅器101は、RF信号の電力レベルに係わらずRF信号を増幅する。一方、ピーク増幅器102は、RF信号の電力レベルが大きい場合、RF信号を増幅する。そして、キャリア増幅器101で増幅されたRF信号は、キャリア増幅器101の出力側に設けられた線路Fにより90°位相差がつけられた後、ピーク増幅器102で増幅されたRF信号と合成されて出力される。キャリア増幅器101の負荷インピーダンスは、ピーク増幅器102がオン(ON)状態となることから整合回路Dの出力端インピーダンスが50Ωとなり、キャリア増幅器101の負荷インピーダンスも50Ωとなり、ドレインは低下するものの飽和電力が高くなる。
【0026】
すなわち、ドハティ増幅回路は、高出力時には、キャリア増幅器101及びピーク増幅器102を同時に動作させるが、低出力時には、ピーク増幅器102の動作を休止させ、キャリア増幅器101だけを動作させることで消費電力を低減できる。この動作により、ドハティ増幅回路は、出力電力が飽和出力よりも低い時でも高効率での動作が可能である。
【0027】
また、ピーク増幅器102の故障によりゲート−ソース間の直流抵抗値が低下した場合、故障検出回路103Aからアラーム信号(電圧)が出力されて、スイッチSW1によりピーク増幅器102のドレインへ供給される電圧を遮断する。
【0028】
以上のように、この第1の実施形態に係る増幅装置1は、ピーク増幅器102の故障を検出してアラーム信号(電圧)を出力する故障検出回路103Aと、故障検出回路103Aからアラーム信号(電圧)が出力されると接点が開いてピーク増幅器102のドレインへの電流供給を遮断するスイッチSW1とを備えている。
【0029】
このため、ピーク増幅器102の故障が検出された場合に、ピーク増幅器102のドレインへの電流供給を遮断することでピーク増幅器102のドレイン−ソース間に過大な電流が流れてしまいピーク増幅器102が焼き切れてしまうことを防止できる。その結果、ゲートバイアス電圧が正常値に戻ってしまいピーク増幅器102の故障が検出できなくなることを防止できる。
【0030】
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態に係る増幅装置2の構成図である。
以下、図5を参照して第2の実施形態に係る増幅装置2の構成について説明する。なお、図1を参照して説明した構成と同一の構成には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0031】
第2の実施形態に係る増幅装置2では、キャリア増幅器101にもピーク増幅器102と同様に、故障検出回路103B及びスイッチSW2を設けたことを特徴とする。故障検出回路103B及びスイッチSW2は、夫々故障検出回路103A及びスイッチSW1に対応する。
【0032】
すなわち、故障検出回路103Bは、キャリア増幅器101のゲートバイアス電圧Vgを基準電圧Vrと比較し、キャリア増幅器101のゲートバイアス電圧Vgが基準電圧Vr以下になるとアラーム信号(電圧)を出力する。スイッチSW2は、故障検出回路103Bからアラーム信号(電圧)が出力されると接点が開いてピーク増幅器102のドレインへの電流供給を遮断する。
【0033】
以上のように、この第2の実施形態に係る増幅装置2は、キャリア増幅器101の故障を検出してアラーム信号(電圧)を出力する故障検出回路103Bと、故障検出回路103Bからアラーム信号(電圧)が出力されると接点が開いてキャリア増幅器101のドレインへの電流供給を遮断するスイッチSW2とを備えている。
【0034】
このため、キャリア増幅器101の故障が検出された場合に、キャリア増幅器101のドレインへの電流供給を遮断することでキャリア増幅器101のドレイン−ソース間に過大な電流が流れてしまいキャリア増幅器101が焼き切れてしまうことを防止できる。その結果、ゲートバイアス電圧が正常値に戻ってしまいピーク増幅器102の故障が検出できなくなることを防止できる。その他の効果は、図1を参照して説明した第1の実施形態に係る増幅装置1の効果と同じである。
【0035】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、上記実施形態は、例示であり、本発明を上記実施形態に限定することを意図するものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0036】
1,2…増幅装置、101…キャリア増幅器、102…ピーク増幅器、103A,103B…故障検出回路、SW1,SW2…スイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を分割する分配手段と、前記分配手段により分割された入力信号の一方を増幅するキャリア増幅器と、前記分配手段により分割された入力信号の他方を増幅するピーク増幅器と、前記キャリア増幅器からの出力信号と前記ピーク増幅器からの出力信号を合成する合成器と、を有するドハティ増幅回路と、
前記ピーク増幅器のゲートバイアス電圧を参照電圧と比較し、該比較結果に応じて信号を出力する第1の比較器と、
前記第1の比較器から信号が出力されると、前記ピーク増幅器のドレインへの電力供給を遮断する第1のスイッチと、
を具備することを特徴する増幅装置。
【請求項2】
前記キャリア増幅器のゲートバイアス電圧を参照電圧と比較し、該比較結果に応じて信号を出力する第2の比較器と、
前記第2の比較器から信号が出力されると、前記キャリア増幅器のドレインへの電力供給を遮断する第2のスイッチと、
をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の増幅装置。
【請求項3】
前記キャリア増幅器又は前記ピーク増幅器の少なくとも一方は、GaN−HEMT(窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ)であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の増幅装置。
【請求項4】
入力信号を分割する分配手段と、前記分配手段により分割された入力信号の一方を増幅するキャリア増幅器と、前記分配手段により分割された入力信号の他方を増幅するピーク増幅器と、前記キャリア増幅器からの出力信号と前記ピーク増幅器からの出力信号を合成する合成器と、を有する増幅装置の故障監視方法であって、
前記ピーク増幅器のゲートバイアス電圧を参照電圧と比較し、該比較結果に応じて信号を出力する工程と、
前記信号が出力されると、前記ピーク増幅器のドレインへの電力供給を遮断する工程と、
を有することを特徴する増幅装置の故障監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−178675(P2012−178675A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39955(P2011−39955)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】