説明

壁パネルの取付構造及び取付方法

【課題】壁パネルの表側、裏側のどちら側にも壁パネル取付用の金物類を露出させることなく、壁パネルを容易に確実、かつ精度良く、しかも高耐剪断力で、建物の躯体側のコンクリートに取り付けることができる取付構造及び取付方法を提供すること。
【解決手段】建物への壁パネル下部の取付構造であって、壁パネル1の小口から壁パネル1の面内方向に向かって設けられた長孔部2に棒状部材4が挿入され、棒状部材4の壁パネル1に挿入されていない側の端部が、長軸の向きが互いにねじれ位置の関係にある複数の長孔を有する台座部材6を介してスラブコンクリート床3と固定されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は主にRC造、SRC造の建物の梁、柱、スラブ、壁等、躯体側のコンクリート部分への壁パネルの取付構造及び取付方法に関する。本発明はPC板、ALC板、押出成形板等、コンクリート系の壁パネルに好適に適用できる。
【背景技術】
【0002】
スラブコンクリート床上部に例えばALC壁パネルを取付ける一般的な例を図2の(a)、(b)で説明する。図2は、従来例に係る壁パネルの下部と躯体との接続部を示す図であり、(a)が断面図で(b)が内観図である。本例では、壁パネルとしてALCの壁パネルを用いた例を説明する。図2に示すようにスラブコンクリート床18の上部にはコンクリートの立ち上がり部19があり、同部には下地アングル21を取付けるための埋込アングル20が設けられている。下地アングル21は埋込アングル20に溶接されることによりコンクリートの立ち上がり部19に固定されている。壁パネル17は、ボルト22、アンカー鋼棒23、イナズマ金物24より構成される取付ファスナーにより、下地アングル21に取付固定される。尚、25はライナー、26はシーリング材である。
【0003】
上記の技術と同様の技術は、非特許文献1にも掲載されている。また、躯体コンクリートに壁パネルを取り付ける際に高さを調整できる技術がある(例えば、特許文献1を参照)。また、風圧力が作用しない間仕切壁パネルを躯体コンクリートに取付金物を露出させずに取り付ける技術もある(例えば、特許文献2を参照)。
【0004】
【非特許文献1】日本建築学会、「建築工事標準仕様書・同解説 JASS21 ALCパネル工事2005」42頁「解説図3.3 鉄筋コンクリート造におけるロッキング構法の取付け例」
【特許文献1】特開平11−124937
【特許文献2】特開2005−48492
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
建物のスラブコンクリート床上部に壁パネルを取り付ける場合、一般的には図2や非特許文献1のように壁パネルを取り付けるための下地アングル、取付ファスナー等の金物類がパネルの表側、あるいは裏側のどちらかに露出する。
【0006】
このため、金物類が仕上げ工事の障害となる場合があり、仕上げ表面からなお金物類が突出して見栄えが悪い場合もある。また、前記壁パネルから金物類が突出していると、身体の一部を引っかけて怪我をする恐れがあるため、さらなる安全性の向上も求められている。
【0007】
本発明の第1の目的は、壁パネルの表側、裏側のどちら側にも壁パネル取付用の金物類を露出させないことである。
【0008】
次に、特許文献1の技術は高さの調整寸法の単位が板スペーサー(丸座金)の厚さに依存する。このため、高さの微調整がしづらいという問題があった。また、特許文献2の技術はスラブコンクリート床側にコンクリート釘で固定した金物とパネル側に取り付けた金物とを咬み合わせて取付け固定する技術であるが、咬み合わせ部にはパネル位置の施工誤差を吸収できる機構が無い。このため、壁パネルの位置の調整(面外方向、面内水平方向、高さ方向)が殆どできないという問題があった。
【0009】
本発明の第2の目的は、壁パネルの高さ(スラブコンクリート床からの離れ寸法)を容易に精度良く調整することである。
【0010】
さらに、特許文献2では、コンクリート釘を打ち込んだ際、コンクリート部にクラック、欠け等の欠陥が発生しやすいためコンクリート釘の長手方向に直交する方向の力に対する信頼性が低い。また、コンクリート釘に繰り返し剪断荷重がかかった場合の金属疲労破壊に対する信頼性が不明である。更に、コンクリート釘自体の剪断耐力が小さい等の理由により、このままでは風圧力が作用する外壁パネルには使用し難いという問題があった。
【0011】
本発明の第3の目的は、外壁のように風圧力等の大きな水平力が作用する部位にも使用可能な高耐剪断力の取付構造を提供することである。
【0012】
つまり、本発明の目的は、壁パネルの表側、裏側のどちら側にも壁パネル取付用の金物類を露出させることなく、壁パネルを容易に確実、かつ精度良く、しかも高耐剪断力で、建物の躯体側のコンクリートに取り付けることができる取付構造及び取付方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するための手段として、本発明は次の構成及び方法を有する。
【0014】
(1)
建物への壁パネル下部の取付構造であって、
前記壁パネルの小口から前記壁パネルの面内方向に向かって設けられた長孔部に棒状部材が挿入され、
前記棒状部材の前記壁パネルに挿入されていない側の端部が、長軸の向きが互いにねじれ位置の関係にある複数の長孔を有する台座部材を介してスラブコンクリート床と固定されることを特徴とする、壁パネルの取付構造。
【0015】
(2)
前記壁パネルと前記スラブコンクリート床との間で前記棒状部材に溶接固定されるパネル支持部材によって、前記壁パネルの前記スラブコンクリート床側への動きが拘束されることを特徴とする、(1)に記載の壁パネル取付構造。
【0016】
(3)
前記壁パネルと前記スラブコンクリート床との間で前記棒状部材と螺合するパネル支持部材によって、前記壁パネルの前記スラブコンクリート床側への動きが拘束されることを特徴とする、(1)に記載の壁パネル取付構造。
【0017】
(4)
前記壁パネルと前記スラブコンクリート床との間にモルタル層、コンクリート層の少なくとも一層を有することを特徴とする、(1)乃至(3)のいずれかに記載の壁パネルの取付構造。
【0018】
(5)
建物への壁パネル下部の取付方法であって、前記壁パネルの小口から前記壁パネルの面内方向に向かって設けられた長孔部に棒状部材が挿入される段階と、前記棒状部材の前記壁パネルに挿入されていない側の端部が、長軸の向きが互いにねじれ位置の関係にある複数の長孔を有する台座部材を介してスラブコンクリート床に固定される段階と、前記棒状部材が螺合しまたは溶接固定されるパネル支持部材によって前記壁パネルがスラブコンクリート床から任意の離れ位置に設置される段階とを有することを特徴とする、壁パネルの取付方法。
【発明の効果】
【0019】
上記構成および方法により、壁パネルの表側、裏側のどちら側にも壁パネル取付用の金物類を露出させない。このため、外観及び内観においていずれも、壁パネルの意匠性を向上させることができる。また、壁パネルの高さ(躯体コンクリートからの離れ寸法)を自在に容易に精度良く調整することができる。更に、外壁のように風圧力等の大きな水平力が作用する部位にも好適である。したがって、壁パネルの表側、裏側のどちら側にも壁パネル取付用の金物類を露出させることなく、壁パネルを容易に確実、かつ精度良く、しかも高耐剪断力で建物の躯体側のコンクリートに取り付けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図を用いて本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、壁パネルの取付部の構造として、以下の説明においては壁パネルの下部構造のみを例示して説明する。図示しないが、壁パネルの側部や上部のうちの1箇所以上に、壁パネルの面外方向の力に対する何らかの拘束手段を設けることとする。また、本実施形態の取付構造を壁パネルの側面に適用した場合には、もう一方の側部、上部、下部のうちの1箇所以上に、壁パネルの面外方向の力に対する何らかの拘束手段を設けることとする。
【0021】
図を用いて本発明の一実施形態を具体的に説明する。図1はスラブコンクリート床(躯体コンクリート)への壁パネル取付構造を示す断面図である。具体的には、図1(a)はスラブコンクリート床への壁パネル取付部の内観図、図1(b)は図1(a)のX−X平断面図、図1(c)は図1(a)のY−Y立断面図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の壁パネル1下部に設けられた長孔部2には、プレート状部材5及びナット(パネル支持部材)12、14を挿通螺合させた雄螺子を有する棒状部材4が挿入される。尚、プレート状部材5は単独のナットでも良いし、あるいは、図1(a)のように座金のような平板部5aとナット5bを組み合わせたもの、あるいは平板部5aの挿通穴自体に雌螺子加工されたものでも良い。
【0023】
尚、本実施形態でば、パネル支持部材としてナットを用いる。ここで、ナットからパネルに大きな応力がかかることが予想される場合には、パネルとナットの間に板状部材を設けることが好ましい。上部の面積がナットよりも大きな面積をもつ板状部材を設けると、板状部材がナットからパネルにかかる応力を分散させるため、より耐久力のある構造とすることができる。
【0024】
スラブコンクリート床3の上部にはリブ6aの両端に平行なフランジ部6b、6dを有する台座部材6の一方のフランジ部6dが載置される。スラブコンクリート床3上に載置されるフランジ部6dにはボルトを挿通するための長孔6e(ルーズ穴)があいており、長孔6eはスラブコンクリート床3に埋設された後施工アンカー7にボルトあるいはナット8で螺合固定される。尚、9は座金である。また、長孔6eはボルト径よりも大きめの穴(バカ穴)でもよい。
【0025】
スラブコンクリート床3に載置固定されるフランジ部6dとは異なる側のフランジ部6bには、棒状部材4を挿通するための長孔6c(ルーズ穴)があいており、長孔6cには壁パネル1下部に雌螺子を有する平板を有するプレート状部材5が当接する状態で取付けられた棒状部材4の壁パネル1に挿入されていない側(スラブコンクリート床3側)の一端が挿通される。尚、長孔6cは、棒状部材径よりも大きめの長孔(バカ穴)でもよい。
【0026】
棒状部材4のスラブコンクリート床3側の一端がフランジ6d上に載置された状態で、棒状部材4に螺合する長孔6cの両側のナット12、14でフランジ部6bを挟み込む。これにより、棒状部材4は壁パネル1に挿入されていない側に取り付けられる。さらに、壁パネル1下部とスラブコンクリート床3との間に、スラブコンクリート床3に当接固着するモルタルあるいはコンクリートの立ち上がり部16を形成する。ここで、長孔6cと長孔6eとは、長軸の向きが互いにねじれ位置の関係にある。
【0027】
以上のような構成により、本実施形態の構成によれば、壁パネルの表側、裏側のどちら側にも壁パネル取付用の金物類を露出させない。このため、外観及び内観においていずれも、壁パネルの意匠性を向上させることができる。
【0028】
また、パネル1の面内方向及び面外方向の位置調整において、長孔6cと長孔6eとは、長軸の向きが互いにねじれ位置の関係にあるが、長孔6cと長孔6eとを直交させれば、面内方向及び面外方向の位置調整を容易に実施することができる。尚、長孔6cあるいは長孔6eの少なくともどちらか一方を、挿通するボルト径よりも大きなバカ穴にしてもよい。
【0029】
また、雌螺子を有するプレート状部材5あるいは雄螺子を有する棒状部材4を回転させることで、螺子に沿ってプレート状部材5と棒状部材4との相対位置が変化し、壁パネル1の高さ調整を容易に行うことができる。
【0030】
更に、壁パネル1とスラブコンクリート床3との間にスラブコンクリート床3に当接固着するモルタルあるいはコンクリートの立ち上がり部16を形成することで、棒状部材4の支持力を高め、ぐらつきを防止することができる。この結果、外壁のように風圧力等の大きな水平力が作用する部位にも耐えることができる。
【0031】
以上のように、本実施形態によれば、壁パネルの表側、裏側のどちら側にも壁パネル取付用の金物類を露出させることなく、壁パネルを容易に確実、かつ精度良く、しかも高耐剪断力で建物の躯体側のコンクリートに取り付けることができる。
【0032】
また、壁パネル1が風圧力、地震力等、大きな水平荷重に対して耐えうる性能を要求される場合は、取付構造の数を増やすことで、壁パネル表面の見栄えを変えずに大きな水平荷重に対しても耐えることが可能となる。
【0033】
次に、壁パネルの取り付けについて説明する。
【0034】
図1に示すように、壁パネル1下部に設けられた長孔部2には、プレート状部材5およびナット12、14を挿通螺合させた雄螺子を有する棒状部材4が挿入される。
【0035】
また、スラブコンクリート床3の上部には、台座部材6のリブ6aの両端に平行なフランジ部6b、6dのうちの一方のフランジ部6dが載置される。スラブコンクリート床3上に載置されるフランジ部6dには、ボルトを挿通するための長孔6eが面内方向にあいており、長孔6eはスラブコンクリート床3に埋設された後施工アンカー7に座金9を介してボルトあるいはナット8で螺合固定される。
【0036】
また、スラブコンクリート床3に載置固定されるフランジ部6dとは異なる側のフランジ部6bには、棒状部材4を挿通するための長孔6cが面外方向にあいている。そして、長孔6cには壁パネル1下部に雌螺子を有するプレート状部材5が当接する状態で取付けられた棒状部材4の壁パネル1に挿入されていない側の一端が挿通される。
【0037】
次に、棒状部材4の壁パネル1に挿入されていない側の一端がフランジ部6d上に載置された状態で、棒状部材4に螺合する長孔6eの両側のナット12、14で座金13、15を介してフランジ部6bを挟み込む。これにより、棒状部材4は壁パネル1に挿入されていない側に取り付けられる。
【0038】
尚、長孔6cと長孔6eを直交させることで、面内方向、及び面外方向の位置調整を容易に実施することが可能である。また、雌螺子を有するプレート状部材5あるいは雄螺子を有する棒状部材4を回転させることで、パネル1の高さ方向の位置調整が容易に実施できる。
【0039】
さらに、壁パネル1とスラブコンクリート床3との間にスラブコンクリート床3に当接固着するモルタルまたはコンクリートの立ち上がり部16を形成することで、棒状部材4の支持力を高め、ぐらつきを防止することができる。尚、立ち上がり部16は、モルタル層及びコンクリート層の双方から形成してもよい。
【0040】
以上のように、本発明によれば、壁パネル1の表側、裏側のどちら側にも壁パネルの取付用の金物類を一切露出させることなく、壁パネルを容易に確実、かつ精度良く、しかも高耐力で建物の躯体側のコンクリートに取り付けることが可能となり、見栄えの良い、すっきりとした納まりにすることができる。
【0041】
また、壁パネル1が風圧力、地震力等、大きな荷重に対して耐えうる性能を要求される場合は、取付部の数を増やすことで、大きな荷重に対しても耐えうることが可能となる。
【0042】
なお、地震時の層間変形等で壁パネル1がスラブコンクリート床3に対して、棒状部材4がスラブコンクリート床3と当接する側の端部を中心に回転する動きが想定される場合には、壁パネル1とコンクリート躯体3との間の空間に、変形に対して追従性の高い材料、例えばシーリング材を充填すればよい。また、壁パネル1の上部がスライドできるなど、壁パネル1が殆ど回転しないことが想定される場合には、壁パネル1とコンクリート躯体3との間に隙間無くモルタル、又はコンクリートを充填してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明はRC造、SRC造以外のコンクリート躯体、例えばS造の建物のスラブコンクリート部分にも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】スラブコンクリート床への壁パネル取付構造を示す断面図。
【図2】従来例に係る壁パネルの下部と躯体との接続部を示す図。
【符号の説明】
【0045】
1…壁パネル、2…長孔部、3…スラブコンクリート床、4…雄螺子を有する棒状部材、5…プレート状部材、5a…平板部、5b…ナット、6…台座部材、6a…リブ、6b…フランジ部、6c…長孔、6d…フランジ部、6e…長孔、7…後施工アンカー、8…ナット、12…ナット、13…座金、14…ナット、15…座金、16…立ち上がり部、17…壁パネル、18…スラブコンクリート床、19…立ち上がり部、20…埋込アングル、21…下地アングル、22…ボルト、23…アンカー鋼棒、24…イナズマ金物、25…ライナー、26…シーリング材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物への壁パネル下部の取付構造であって、
前記壁パネルの小口から前記壁パネルの面内方向に向かって設けられた長孔部に棒状部材が挿入され、
前記棒状部材の前記壁パネルに挿入されていない側の端部が、長軸の向きが互いにねじれ位置の関係にある複数の長孔を有する台座部材を介してスラブコンクリート床と固定されることを特徴とする、壁パネルの取付構造。
【請求項2】
前記壁パネルと前記スラブコンクリート床との間で前記棒状部材に溶接固定されるパネル支持部材によって、前記壁パネルの前記スラブコンクリート床側への動きが拘束されることを特徴とする、請求項1に記載の壁パネル取付構造。
【請求項3】
前記壁パネルと前記スラブコンクリート床との間で前記棒状部材と螺合するパネル支持部材によって、前記壁パネルの前記スラブコンクリート床側への動きが拘束されることを特徴とする、請求項1に記載の壁パネル取付構造。
【請求項4】
前記壁パネルと前記スラブコンクリート床との間にモルタル層、コンクリート層の少なくとも一層を有することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の壁パネルの取付構造。
【請求項5】
建物への壁パネル下部の取付方法であって、
前記壁パネルの小口から前記壁パネルの面内方向に向かって設けられた長孔部に棒状部材が挿入される段階と、
前記棒状部材の前記壁パネルに挿入されていない側の端部が、長軸の向きが互いにねじれ位置の関係にある複数の長孔を有する台座部材を介してスラブコンクリート床に固定される段階と、
前記棒状部材が螺合しまたは溶接固定されるパネル支持部材によって前記壁パネルがスラブコンクリート床から任意の離れ位置に設置される段階とを有することを特徴とする、壁パネルの取付方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−196201(P2008−196201A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32188(P2007−32188)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【Fターム(参考)】