壁体
【課題】継手相互の部材軸方向の『ずれ』を防止でき、かつ少ない工種で、かつ施工が簡単で、さらに短工期で施工可能で、工事費を低減できる壁体を提供すること。
【解決手段】多数の壁体構成部材3における継手20相互を噛み合わせた壁体1において、その壁体1の中立軸の近傍に継手嵌合部2が位置するように配設された継手20を有する多数の壁体構成部材3により構成される壁体1の隣り合う前記壁体構成部材3により構成された継手嵌合部2の側面の所定箇所に、継手嵌合部2を構成する各継手20を貫く貫通孔500が設けられ、前記貫通孔500には継手間連結部材4としてボルトやピンなどの棒状部材510が挿通され固定手段で継手相互が一体的に固定されている壁体とする。
【解決手段】多数の壁体構成部材3における継手20相互を噛み合わせた壁体1において、その壁体1の中立軸の近傍に継手嵌合部2が位置するように配設された継手20を有する多数の壁体構成部材3により構成される壁体1の隣り合う前記壁体構成部材3により構成された継手嵌合部2の側面の所定箇所に、継手嵌合部2を構成する各継手20を貫く貫通孔500が設けられ、前記貫通孔500には継手間連結部材4としてボルトやピンなどの棒状部材510が挿通され固定手段で継手相互が一体的に固定されている壁体とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、護岸、岸壁、防波堤などの水域構造物や擁壁、砂防ダムなどの基礎構造物を構成する壁体に関する。
【背景技術】
【0002】
図18(b)で示すような溝形鋼矢板31からなる壁体構成部材3を用いて構成される壁体1は、土水圧等の水平力が作用した場合、その中立軸C、すなわち継手嵌合部2の位置でせん断応力度が最大となる。このせん断応力によって、継手20は互いに部材軸方向にずれようとするため、断面の一体性が損なわれ、断面剛性が低下する。
【0003】
従来、前記の継手20相互の部材軸方向の『ずれ』を拘束する目的で次の(A)または(B)方法が実施されていた。
【0004】
(A)壁体1における各溝形鋼矢板31の頭部において、法線方向に鉄筋コンクリート製枕梁(通常、笠コンと称する。)7で一体化する。
【0005】
(B)鋼棒を介在させずに、直接継手20同士を溶接する。
【非特許文献1】港湾の施設の技術上の基準・同解説(下巻)P668〜669、社団法人日本港湾協会発行 平成11年5月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記(A)の場合の鉄筋コンクリート製枕梁7の施工は、鉄筋の配置・溶接、支保工・型枠の取り付け・コンクリート打設・養生・型枠の撤去というように複雑で多様な工種から構成される。このため、施工期間が長くなり、工事費も嵩んでいた。
【0007】
前記(B)の場合は、溶け落ち防止の役目等を果たす鋼棒を介在させないため、大量の溶着金属を必要としていた。また、継手嵌合状態のばらつきが大きく、継手の清掃を十分にできないことがあった。このため、溶接品質に問題があった。さらに、施工期間が長くなり、工事費も嵩んでいた。
【0008】
本発明は、継手相互の部材軸方向の『ずれ』を防止でき、かつ少ない工種で、かつ施工が簡単で、さらに短工期で施工可能で、工事費を低減できる壁体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、請求項1の壁体では、多数の壁体構成部材(3)における継手(20)相互を噛み合わせた壁体(1)において、その壁体(1)の中立軸の近傍に継手嵌合部(2)が位置するように配設された継手(20)を有する多数の壁体構成部材(3)により構成される壁体(1)の隣り合う前記壁体構成部材(3)により構成された継手嵌合部(2)の側面の所定箇所に、継手嵌合部(2)を構成する各継手(20)を貫く貫通孔(500)が設けられ、前記貫通孔(500)には継手間連結部材(4)としてボルトやピンなどの棒状部材(510)が挿通され固定手段で継手相互が一体的に固定されていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2では、請求項1に記載の壁体において、壁体構成部材(3)が、溝形鋼矢板であること特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果は次のとおりである。
(1)参考形態のように、継手嵌合部の側面の所定箇所または継手嵌合部を跨ぐように配置された継手間連結部材を隣り合う壁体構成部材に溶接するだけでよいので、工種も少なく、施工が簡単である。このため、施工期間が短くて済み、工事費も低減できる。
(2)参考形態のように、継手嵌合部の隙間の側面に所定長さの鋼棒を配置し、前記鋼棒及び隣り合う前記壁体構成部材の継手同士を溶接するだけでよいので、工種も少なく、施工が簡単である。このため、施工期間が短くて済み、工事費も低減できる。
(3)参考形態のように、継手嵌合部の隙間の側面に所定長さの鋼板を配置し、前記鋼板と隣り合う前記壁体構成部材の継手同士を溶接するだけでよいので、工種も少なく、施工が簡単である。このため、施工期間が短くて済み、工事費も低減できる。
(4)参考形態のように、継手嵌合部の所定箇所の隙間に所定長さの楔部材を圧入配設するだけでよいので、工種も少なく、施工が簡単である。このため、施工期間が短くて済み、工事費も低減できる。
(5)溝形鋼矢板からなる壁体構成部材を用いて構成される壁体は、その中立軸C、すなわち継手嵌合部の位置でせん断応力度が最大となるが、前記のような簡単な手段によって、継手嵌合部の断面の一体性を高めてずれを防止でき、断面剛性が低下することなく高めることができる。
(6)参考形態のように、継手間連結部材が、山形鋼、溝形鋼、円弧状断面鋼などの開放断面部材であると、継手部を跨ぐことができる市販の安価な部材とすることができ、また継手部に溶接熱による材質低下が生じることがない。
(7)また、継手嵌合部の各継手に貫通孔を設けて棒状部材を挿通して、棒状部材を介して継手相互を一体的に固定することでも、継手嵌合部の断面の一体性を高めてずれを防止でき、断面剛性が低下することなく高めることができる。
(8)また、参考形態のように、継手間連結部材として溶接性および靭性のある部材とすると、壁体構成部材との溶接による一体化を確実にできると共に継手連結部の剛性も高めることができる。特に、壁体構成部材をJIS A 5523で規格される溶接用熱間圧延鋼矢板とした場合には、継手間連結部材を、前記溶接用熱間圧延鋼矢板(JIS A 5523)と同材質の溶接用熱間圧延鋼材とすると、溶接による一体化をより確実にできると共に継手連結部の剛性も高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1〜図3は本発明の第1参考形態の壁体1を示すものであって、溝形鋼矢板31からなる多数の壁体構成部材3が直列に、中立軸Cを中心として交互に配置されると共に継手20相互が噛み合わされて地盤(水底地盤を含む)に打設されて、壁体1が構成され、かつ前記壁体1における中立軸Cの近傍に、継手20相互が噛み合わされた継手嵌合部2が位置するようにされ、前記壁体1の前面側(F)または背面側(R)のうち、少なくとも背面側Rにおいて、継手嵌合部2を跨ぐように、所定長さの山形鋼43からなる継手間連結部材4が上下方向に間隔をおいて配置され、前記各山形鋼43における一辺44の先端部縦部分が一方の壁体構成部材3における継手20の近傍部5のウエブ34に溶接Wにより固定され、また、前記各山形鋼43における他辺45の先端部分が他方の壁体構成部材3における継手20の近傍部5のウエブ34に溶接Wにより固定されて、直列に隣り合う壁体構成部材3は一体的に連結されて、隣り合う壁体構成部材3はずれ止めされている。
【0013】
前記のように継手嵌合部2を跨ぐように継手間連結部材4を配置して、各壁体構成部材3の継手20の近傍部5に溶接により固着されていると、継手嵌合部2における継手20に溶接Wによる熱影響が少なくてすむ。
【0014】
前記の継手間連結部材4として後記の実施形態のように、山形鋼、溝形鋼などの市販の開放断面部材、あるいは円弧状断面鋼などの開放断面部材であると、継手嵌合部2を確実に回避することができ、溶接する場合も隅肉溶接等により継手嵌合部2以外の部分で固定することができる。
【0015】
継手間連結部材4は、横方向に直列に隣り合う壁体構成部材3相互の継手嵌合部2の近傍部5に、適宜の長さの継手間連結部材4を上下方向に間隔をおいて配置し、上下方向に連続した溶接により壁体構成部材3に取り付け、横方向に直列に隣り合う壁体構成部材3相互を一体化するように連結する。
【0016】
壁体1の背面側(R)が、裏込土8により充填される陸側である場合には、壁体1の背面土を適宜の深さ排除可能な背面側(R)の陸側において、継手間連結部材4を取り付けることができ作業性がよいが、壁体1の前面側(F)が海側などの水域であっても、前記背面側と同様に、継手間連結部材4を水中溶接あるいは、ドライ状態で溶接により取り付けると、さらに一体性を高めることができる。継手間連結部材4を前面側(F)と背面側(R)で、設置レベルを同じでもよいが、上下に位置をずらして設置することにより前面側(F)と背面側(R)との両方あわせることで上下方向に連続するようにしてもよい。
【0017】
このように継手間連結部材4を継手嵌合部2の近傍部5のウエブ34に取り付けることにより、継手間連結部材4の巾寸法の小さい部材を使用して、隣り合う壁体構成部材3を確実に一体化させることができる。
【0018】
図3に、継手間連結部材4の長さおよび設置位置の一例が示されている。継手間連結部材4の上下方向の長さは、例えば、500mm程度の長さとしておくと作業性がよいが、これ以外の長さのものであってもよい。また、上下方向に間隔をおいて複数設けるようにしてもよい。継手嵌合部2の上端から所定距離を離れた位置(例えば、50mm程度)から継手間連結部材4を設けるようにすると、まわし溶接する場合の作業性がよい。
【0019】
前記の継手間連結部材4は、山形鋼ばかりでなく、図4(a)(b)に示すように、溝形鋼からなる継手間連結部材4における各フランジを一辺44および他辺45とし、それらの先端部を溶接Wにより各壁体構成部材3に固着してもよく、図5(a)(b)に示すように、鋼製半筒状体等の円弧状断面鋼47からなる継手間連結部材4における側端部を溶接Wにより各壁体構成部材3に固着してもよく、このように、継手間連結部材4が、山形鋼43、溝形鋼46、円弧状断面鋼47などの開放断面部材41であると、継手嵌合部2を跨ぐことができる市販の安価な部材とすることができ、また継手部への熱影響が少なくてすむ。図4および図5の構成は、前記実施形態と同様であるので、同様な部分には、同様な符号を付して説明を省略する。
【0020】
図6に示すように、縦長の長方形状の鋼板42からなる継手間連結部材4の両側部を溶接Wにより、各壁体構成部材3に固定するようにしてもよい。この形態のように、鋼板42を使用すると、安価な継手間連結部材4となる。また、継手間連結部材4を継手20またはその近傍部5のウエブ34にわたって設置することができ、作業性を高めることができる。
【0021】
図7〜図9には、本発明の第2参考形態の壁体1が示されている。この形態では、隣り合う壁体構成部材3により構成された継手嵌合部2の外面(背面側側面)の隙間100に、前記隙間100の巾寸法よりも大きい直径の1本または上下方向に間隔をおいて複数本の異形鋼棒(図示の場合)等の鋼棒6配置されて、鋼棒6全体を覆うように継手近傍部5のウエブ34で溶接されて、壁体構成部材3相互における継手20および継手近傍部5が一体的に連結されている。鋼棒6を介して隣り合う壁体構成部材3相互における継手20および継手近傍部5を一体的に連結する場合、図9(b)に示すように、鋼棒6の両側部と各壁体構成部材3とで溶接により固着してもよい。その他の構成は、前記実施形態と同様であるので、同様な部分には、同様な符号を付して説明を省略する。
【0022】
前記各参考形態では、継手間連結部材4を溶接により固定することにより、隣り合う壁体構成部材3における継手20の近傍部5相互または継手20と継手近傍部5とを一体的に連結した形態を示したが、楔部材によっても、隣り合う壁体構成部材3における継手20相互を位置固定して一体的に連結することが可能であるので、この形態について、図10以降を参照して説明する。なお、壁体構成部材3が地盤に打設されている点は同様である。
【0023】
図10には、壁体1における継手嵌合部2における側面側の隙間110に、所定の長さの楔部材60が圧入されて、継手20相互が位置固定されている実施形態が示されている。なお、溝形鋼矢板31からなる壁体構成部材3が地盤に打設(圧入)された状態では、壁体構成部材3は位置が保持されているので、楔部材60によって、壁体構成部材3における継手相互の内面側が面接触状態となってもよく、継手相互の内面側が面接触状態になっていなくてもよい。
【0024】
側面側に楔部材60を圧入する場合では、上下方向に間隔をおいて楔部材60を隙間110に圧入するようにしてもよく、壁体1の背面側(R)あるいは前面側(F)の両面の隙間110に圧入するようにしてもよい。
【0025】
また、楔部材60を継手嵌合部2の隙間110に圧入する場合、図11に示すように、継手嵌合部2の上面側の継手20間(図示の場合は、継手20の溝底部内側と爪部間)における隙間110に圧入して、継手20相互のずれを防止するようにしてもよい。またこれらを組み合わせて、図12に示すように、側面側の隙間(継手20の爪部基端部外側面と継手20の基端部内側面の隙間)110および上面側の隙間(継手20の爪部内面間の隙間)110のそれぞれに、楔部材60を圧入して、継手20のずれを防止し、結果的に継手20相互を一体的に連結するようにしてもよい。
【0026】
このように、継手嵌合部2における所定の側面側の隙間110、または上面側の隙間110の少なくともいずれか一方の隙間110に、所定長さの楔部材(60)が圧入されて、継手相互が一体的に連結されていてもよい。
【0027】
前記各参考形態を含めて本発明を実施する場合、図13に示すように、中立軸Cを中心として前面側Fに開孔する溝部32および背面側Rに開孔する溝部32を仕切りウエブ34で仕切られた点対称の溝32を有する鋼矢板33からなる壁体構成部材3を使用した壁体1に適用してもよい。この形態では、継手間連結部材4として鋼棒6の場合が示されている。この形態では、溝部32および継手20が点対称の位置に配置される鋼矢板33からなる壁体構成部材3を直列に配置すると共に連結して壁体1を構成した場合にも適用することができる。
【0028】
また、図14に示すように、前面側Fの一つの溝部32の両側に仕切りウエブ34を介して背面側Rに間隔をおいて二つの溝部32を有する鋼矢板33に適用してもよく、このような鋼矢板を使用した、図15に示すような壁体1に適用することもできる。
【0029】
前記各参考形態では、継手間連結部材4を溶接により固定したり、楔部材を圧入することにより、隣り合う壁体構成部材3における継手20相互または継手近傍部5相互等を一体的に連結した形態を示したが、継手嵌合部2の継手20相互に貫通孔を設けて、その貫通孔に挿通される棒状部材を介して、隣り合う壁体構成部材3における継手20相互を一体的に連結することも可能であるので、この形態について、図16および図17を参照して説明する。
【0030】
この実施形態でも前記各参考形態と同様に、多数の壁体構成部材3における継手20相互を噛み合わせて地盤に打設されて構築された壁体1において、その壁体1の中立軸Cの近傍に継手嵌合部2が位置するように配設された継手20を有する多数の壁体構成部材3により構成される壁体1である点は共通している。図16は全体図が示され、また図17にはその一部の拡大図が示されている。
【0031】
この実施形態では、溝形鋼矢板からなる隣り合う壁体構成部材3における対向する各継手20における継手溝底板部21とこれに一体の爪部22とに、縦中心軸線を同じくする貫通孔500が上下方向に間隔をおいて設けられている。前記貫通孔500は、各継手嵌合部2において、壁体1の背面側Rから前面側Fに貫通している孔で、すなわち継手嵌合部2の側面に設けられた孔であり、これらの孔は予め工場で穿設したり、現場で穿設することも可能である。
【0032】
そして、上下方向に間隔をおく、前記各継手20の貫通孔500に渡って、継手間連結部材4としてボルト(図示の場合)やピンなどの棒状部材510が挿通され、ボルトからなる頭部付きの棒状部材510に雌ねじ部材がねじ込まれて、継手嵌合部2の継手20相互が一体的に固定されている。
【0033】
前記棒状部材510としては、図示のボルト以外にも、ワンサイドボルトでもよく、あるいは鋼棒等であってもよく、ピンあるいは鋼棒とした場合の固定手段としては、溶接による固定手段でもよい。
【0034】
このように、この実施形態では、壁体1における隣り合う前記壁体構成部材3により構成された継手嵌合部2の側面の所定箇所に、継手嵌合部2を構成する各継手20を貫く貫通孔500が設けられ、前記貫通孔500には、継手間連結部材(4)としてボルトやピンなどの棒状部材(510)が挿通され固定手段で継手相互が一体的に固定されているので、前記各参考形態と同様、継手相互の部材軸方向のずれを防止されている壁体1とされている。また、少ない工種で、簡単に短工期で施工可能な壁体であると共に、一体化の工事費を低減できる壁体とされている。
【0035】
前記実施形態以外にも、本発明は、鋼矢板を使用した壁体全般に適用することができ、例えば、(1)自立式鋼矢板壁、(2)タイロッド式鋼矢板壁、(3)後方斜め支え杭式鋼矢板壁、(4)前方斜め支え杭式鋼矢板壁、(5)二重壁式鋼矢板壁等の鋼矢板壁に適用することができる。
【0036】
また、前記実施形態では、溝形鋼矢板を用いたい壁体の場合を示したが、中立軸付近に継手が位置するようになるその他の鋼矢板を使用した壁体等各種の鋼矢板壁体にも適用することができ、継手断面形状も適宜の鋼矢板でもよい。
【0037】
次に、本発明において使用される継手間連結部材4の材質としては、壁体構成部材3と同様な材質であるのが好ましい。壁体構成部材3としての溝形鋼矢板の材質は、JIS A5523に規格されている溶接用熱間圧延鋼矢板であるのが好ましく、継手間連結部材4の材質の一形態としては、前記溶接用熱間圧延鋼矢板と同じか同様な材質であるのが好ましい。
【0038】
さらに説明すると、継手間連結部材4の好ましい材質としては、例えば、JIS A5523に規格されている質量%で、炭素(C)が0.18%以下、ケイ素(Si)が0.55%以下、マンガン(Mn)が1.50%以下、リン(P)が0.04%以下、硫黄(S)が0.04%以下を含有し、残部がFe及び付加的組成物からなる鋼材であるとよい。
【0039】
また、継手間連結部材4の材質は、質量%で、フリー窒素が0.0060%以下とした前記規格の鋼材であるとよい。
【0040】
また、本発明の壁体において使用する継手間連結部材4の材質としては、圧延鋼材がよく、試験温度0℃におけるVノッチ・圧延方向のシャルピー吸収エネルギーが43J(ジュール)以上を満足する前記規格の鋼材であるとよい。このように規定した理由は、継手間連結部材4の長手方向における溶接性を確保した上で靭性(粘り強さ)のある鋼材とするためである。
【0041】
また、本発明の壁体において使用する継手間連結部材4の材質としては、圧延鋼材がよく、試験温度0℃におけるVノッチ・圧延直角方向のシャルピー吸収エネルギーが43J(ジュール)以上を満足する前記規格の鋼材であるとよい。このように規定した理由は、継手間連結部材4の巾方向における溶接性を確保した上で靭性(粘り強さ)のある鋼材とするためである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】継手間連結部材として、山形鋼を用いた本発明の第1参考形態の壁体を示す平面図である。
【図2】(a)は図1の一部を拡大して示す平面図、(b)は正面図である。
【図3】継手間連結部材の設置位置を説明するための正面図である。
【図4】(a)は継手間連結部材として、溝形鋼を用いて連結した壁体の一部を拡大して示す平面図、(b)は正面図である。
【図5】(a)は継手間連結部材として、鋼板を用いて連結した壁体の一部を拡大して示す平面図、(b)は正面図である。
【図6】(a)は継手間連結部材として、円弧状断面鋼材を用いて連結した壁体の一部を拡大して示す平面図、(b)は正面図である。
【図7】継手間連結部材として、鋼棒を用いた本発明の参考形態の壁体を示す平面図である。
【図8】(a)は図7(a)の一部を拡大して示す平面図、(b)は正面図である。
【図9】(a)は図8(a)の一部を拡大して示す平面図、(b)は鋼棒の溶接箇所の変形形態を示す平面図である。
【図10】(a)は継手嵌合部における側面の隙間に楔部材を用いた形態の壁体の一部を拡大して示す平面図、(b)はその正面図である。
【図11】(a)は継手嵌合部における上面の隙間に楔部材を用いた形態の壁体の一部を拡大して示す平面図、(b)はその正面図である。
【図12】(a)は継手嵌合部における上面および側面の隙間に楔部材を用いた形態の壁体の一部を拡大して示す平面図、(b)はその正面図である。
【図13】第2形態の溝形鋼矢板を用い、継手間連結部材として鋼棒を用いて連結した壁体を示す平面図である。
【図14】第3形態の溝形鋼矢板を示す平面図である。
【図15】図14に示す第3形態の溝形鋼矢板を用い、継手間連結部材として鋼棒を用いて連結した壁体を示す平面図である。
【図16】継手間連結部材として、棒状部材を用いた本発明の実施形態の壁体を示す平面図である。
【図17】(a)は図16の一部を拡大して示す平面図、(b)は正面図である。
【図18】(a)は従来の溝形鋼矢板を用いた壁体のずれ防止のために、鉄筋コンクリート製枕梁で壁体頭部を一体化した形態を示す縦断正面図、(b)はその平面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 壁体
2 継手嵌合部
20 継手
21 継手溝底板部
22 爪部
3 壁体構成部材
31 溝形鋼矢板
32 溝部
33 鋼矢板
34 ウエブ
4 継手間連結部材
41 開放断面部材
42 鋼板
43 山形鋼
44 一辺
45 他辺
46 溝形鋼
47 円弧状断面鋼
5 近傍部
6 鋼棒
7 鉄筋コンクリート製枕梁
8 裏込土
60 楔部材
100 外面の隙間
110 間隙
C 中立軸
W 溶接
【技術分野】
【0001】
本発明は、護岸、岸壁、防波堤などの水域構造物や擁壁、砂防ダムなどの基礎構造物を構成する壁体に関する。
【背景技術】
【0002】
図18(b)で示すような溝形鋼矢板31からなる壁体構成部材3を用いて構成される壁体1は、土水圧等の水平力が作用した場合、その中立軸C、すなわち継手嵌合部2の位置でせん断応力度が最大となる。このせん断応力によって、継手20は互いに部材軸方向にずれようとするため、断面の一体性が損なわれ、断面剛性が低下する。
【0003】
従来、前記の継手20相互の部材軸方向の『ずれ』を拘束する目的で次の(A)または(B)方法が実施されていた。
【0004】
(A)壁体1における各溝形鋼矢板31の頭部において、法線方向に鉄筋コンクリート製枕梁(通常、笠コンと称する。)7で一体化する。
【0005】
(B)鋼棒を介在させずに、直接継手20同士を溶接する。
【非特許文献1】港湾の施設の技術上の基準・同解説(下巻)P668〜669、社団法人日本港湾協会発行 平成11年5月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記(A)の場合の鉄筋コンクリート製枕梁7の施工は、鉄筋の配置・溶接、支保工・型枠の取り付け・コンクリート打設・養生・型枠の撤去というように複雑で多様な工種から構成される。このため、施工期間が長くなり、工事費も嵩んでいた。
【0007】
前記(B)の場合は、溶け落ち防止の役目等を果たす鋼棒を介在させないため、大量の溶着金属を必要としていた。また、継手嵌合状態のばらつきが大きく、継手の清掃を十分にできないことがあった。このため、溶接品質に問題があった。さらに、施工期間が長くなり、工事費も嵩んでいた。
【0008】
本発明は、継手相互の部材軸方向の『ずれ』を防止でき、かつ少ない工種で、かつ施工が簡単で、さらに短工期で施工可能で、工事費を低減できる壁体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、請求項1の壁体では、多数の壁体構成部材(3)における継手(20)相互を噛み合わせた壁体(1)において、その壁体(1)の中立軸の近傍に継手嵌合部(2)が位置するように配設された継手(20)を有する多数の壁体構成部材(3)により構成される壁体(1)の隣り合う前記壁体構成部材(3)により構成された継手嵌合部(2)の側面の所定箇所に、継手嵌合部(2)を構成する各継手(20)を貫く貫通孔(500)が設けられ、前記貫通孔(500)には継手間連結部材(4)としてボルトやピンなどの棒状部材(510)が挿通され固定手段で継手相互が一体的に固定されていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2では、請求項1に記載の壁体において、壁体構成部材(3)が、溝形鋼矢板であること特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果は次のとおりである。
(1)参考形態のように、継手嵌合部の側面の所定箇所または継手嵌合部を跨ぐように配置された継手間連結部材を隣り合う壁体構成部材に溶接するだけでよいので、工種も少なく、施工が簡単である。このため、施工期間が短くて済み、工事費も低減できる。
(2)参考形態のように、継手嵌合部の隙間の側面に所定長さの鋼棒を配置し、前記鋼棒及び隣り合う前記壁体構成部材の継手同士を溶接するだけでよいので、工種も少なく、施工が簡単である。このため、施工期間が短くて済み、工事費も低減できる。
(3)参考形態のように、継手嵌合部の隙間の側面に所定長さの鋼板を配置し、前記鋼板と隣り合う前記壁体構成部材の継手同士を溶接するだけでよいので、工種も少なく、施工が簡単である。このため、施工期間が短くて済み、工事費も低減できる。
(4)参考形態のように、継手嵌合部の所定箇所の隙間に所定長さの楔部材を圧入配設するだけでよいので、工種も少なく、施工が簡単である。このため、施工期間が短くて済み、工事費も低減できる。
(5)溝形鋼矢板からなる壁体構成部材を用いて構成される壁体は、その中立軸C、すなわち継手嵌合部の位置でせん断応力度が最大となるが、前記のような簡単な手段によって、継手嵌合部の断面の一体性を高めてずれを防止でき、断面剛性が低下することなく高めることができる。
(6)参考形態のように、継手間連結部材が、山形鋼、溝形鋼、円弧状断面鋼などの開放断面部材であると、継手部を跨ぐことができる市販の安価な部材とすることができ、また継手部に溶接熱による材質低下が生じることがない。
(7)また、継手嵌合部の各継手に貫通孔を設けて棒状部材を挿通して、棒状部材を介して継手相互を一体的に固定することでも、継手嵌合部の断面の一体性を高めてずれを防止でき、断面剛性が低下することなく高めることができる。
(8)また、参考形態のように、継手間連結部材として溶接性および靭性のある部材とすると、壁体構成部材との溶接による一体化を確実にできると共に継手連結部の剛性も高めることができる。特に、壁体構成部材をJIS A 5523で規格される溶接用熱間圧延鋼矢板とした場合には、継手間連結部材を、前記溶接用熱間圧延鋼矢板(JIS A 5523)と同材質の溶接用熱間圧延鋼材とすると、溶接による一体化をより確実にできると共に継手連結部の剛性も高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1〜図3は本発明の第1参考形態の壁体1を示すものであって、溝形鋼矢板31からなる多数の壁体構成部材3が直列に、中立軸Cを中心として交互に配置されると共に継手20相互が噛み合わされて地盤(水底地盤を含む)に打設されて、壁体1が構成され、かつ前記壁体1における中立軸Cの近傍に、継手20相互が噛み合わされた継手嵌合部2が位置するようにされ、前記壁体1の前面側(F)または背面側(R)のうち、少なくとも背面側Rにおいて、継手嵌合部2を跨ぐように、所定長さの山形鋼43からなる継手間連結部材4が上下方向に間隔をおいて配置され、前記各山形鋼43における一辺44の先端部縦部分が一方の壁体構成部材3における継手20の近傍部5のウエブ34に溶接Wにより固定され、また、前記各山形鋼43における他辺45の先端部分が他方の壁体構成部材3における継手20の近傍部5のウエブ34に溶接Wにより固定されて、直列に隣り合う壁体構成部材3は一体的に連結されて、隣り合う壁体構成部材3はずれ止めされている。
【0013】
前記のように継手嵌合部2を跨ぐように継手間連結部材4を配置して、各壁体構成部材3の継手20の近傍部5に溶接により固着されていると、継手嵌合部2における継手20に溶接Wによる熱影響が少なくてすむ。
【0014】
前記の継手間連結部材4として後記の実施形態のように、山形鋼、溝形鋼などの市販の開放断面部材、あるいは円弧状断面鋼などの開放断面部材であると、継手嵌合部2を確実に回避することができ、溶接する場合も隅肉溶接等により継手嵌合部2以外の部分で固定することができる。
【0015】
継手間連結部材4は、横方向に直列に隣り合う壁体構成部材3相互の継手嵌合部2の近傍部5に、適宜の長さの継手間連結部材4を上下方向に間隔をおいて配置し、上下方向に連続した溶接により壁体構成部材3に取り付け、横方向に直列に隣り合う壁体構成部材3相互を一体化するように連結する。
【0016】
壁体1の背面側(R)が、裏込土8により充填される陸側である場合には、壁体1の背面土を適宜の深さ排除可能な背面側(R)の陸側において、継手間連結部材4を取り付けることができ作業性がよいが、壁体1の前面側(F)が海側などの水域であっても、前記背面側と同様に、継手間連結部材4を水中溶接あるいは、ドライ状態で溶接により取り付けると、さらに一体性を高めることができる。継手間連結部材4を前面側(F)と背面側(R)で、設置レベルを同じでもよいが、上下に位置をずらして設置することにより前面側(F)と背面側(R)との両方あわせることで上下方向に連続するようにしてもよい。
【0017】
このように継手間連結部材4を継手嵌合部2の近傍部5のウエブ34に取り付けることにより、継手間連結部材4の巾寸法の小さい部材を使用して、隣り合う壁体構成部材3を確実に一体化させることができる。
【0018】
図3に、継手間連結部材4の長さおよび設置位置の一例が示されている。継手間連結部材4の上下方向の長さは、例えば、500mm程度の長さとしておくと作業性がよいが、これ以外の長さのものであってもよい。また、上下方向に間隔をおいて複数設けるようにしてもよい。継手嵌合部2の上端から所定距離を離れた位置(例えば、50mm程度)から継手間連結部材4を設けるようにすると、まわし溶接する場合の作業性がよい。
【0019】
前記の継手間連結部材4は、山形鋼ばかりでなく、図4(a)(b)に示すように、溝形鋼からなる継手間連結部材4における各フランジを一辺44および他辺45とし、それらの先端部を溶接Wにより各壁体構成部材3に固着してもよく、図5(a)(b)に示すように、鋼製半筒状体等の円弧状断面鋼47からなる継手間連結部材4における側端部を溶接Wにより各壁体構成部材3に固着してもよく、このように、継手間連結部材4が、山形鋼43、溝形鋼46、円弧状断面鋼47などの開放断面部材41であると、継手嵌合部2を跨ぐことができる市販の安価な部材とすることができ、また継手部への熱影響が少なくてすむ。図4および図5の構成は、前記実施形態と同様であるので、同様な部分には、同様な符号を付して説明を省略する。
【0020】
図6に示すように、縦長の長方形状の鋼板42からなる継手間連結部材4の両側部を溶接Wにより、各壁体構成部材3に固定するようにしてもよい。この形態のように、鋼板42を使用すると、安価な継手間連結部材4となる。また、継手間連結部材4を継手20またはその近傍部5のウエブ34にわたって設置することができ、作業性を高めることができる。
【0021】
図7〜図9には、本発明の第2参考形態の壁体1が示されている。この形態では、隣り合う壁体構成部材3により構成された継手嵌合部2の外面(背面側側面)の隙間100に、前記隙間100の巾寸法よりも大きい直径の1本または上下方向に間隔をおいて複数本の異形鋼棒(図示の場合)等の鋼棒6配置されて、鋼棒6全体を覆うように継手近傍部5のウエブ34で溶接されて、壁体構成部材3相互における継手20および継手近傍部5が一体的に連結されている。鋼棒6を介して隣り合う壁体構成部材3相互における継手20および継手近傍部5を一体的に連結する場合、図9(b)に示すように、鋼棒6の両側部と各壁体構成部材3とで溶接により固着してもよい。その他の構成は、前記実施形態と同様であるので、同様な部分には、同様な符号を付して説明を省略する。
【0022】
前記各参考形態では、継手間連結部材4を溶接により固定することにより、隣り合う壁体構成部材3における継手20の近傍部5相互または継手20と継手近傍部5とを一体的に連結した形態を示したが、楔部材によっても、隣り合う壁体構成部材3における継手20相互を位置固定して一体的に連結することが可能であるので、この形態について、図10以降を参照して説明する。なお、壁体構成部材3が地盤に打設されている点は同様である。
【0023】
図10には、壁体1における継手嵌合部2における側面側の隙間110に、所定の長さの楔部材60が圧入されて、継手20相互が位置固定されている実施形態が示されている。なお、溝形鋼矢板31からなる壁体構成部材3が地盤に打設(圧入)された状態では、壁体構成部材3は位置が保持されているので、楔部材60によって、壁体構成部材3における継手相互の内面側が面接触状態となってもよく、継手相互の内面側が面接触状態になっていなくてもよい。
【0024】
側面側に楔部材60を圧入する場合では、上下方向に間隔をおいて楔部材60を隙間110に圧入するようにしてもよく、壁体1の背面側(R)あるいは前面側(F)の両面の隙間110に圧入するようにしてもよい。
【0025】
また、楔部材60を継手嵌合部2の隙間110に圧入する場合、図11に示すように、継手嵌合部2の上面側の継手20間(図示の場合は、継手20の溝底部内側と爪部間)における隙間110に圧入して、継手20相互のずれを防止するようにしてもよい。またこれらを組み合わせて、図12に示すように、側面側の隙間(継手20の爪部基端部外側面と継手20の基端部内側面の隙間)110および上面側の隙間(継手20の爪部内面間の隙間)110のそれぞれに、楔部材60を圧入して、継手20のずれを防止し、結果的に継手20相互を一体的に連結するようにしてもよい。
【0026】
このように、継手嵌合部2における所定の側面側の隙間110、または上面側の隙間110の少なくともいずれか一方の隙間110に、所定長さの楔部材(60)が圧入されて、継手相互が一体的に連結されていてもよい。
【0027】
前記各参考形態を含めて本発明を実施する場合、図13に示すように、中立軸Cを中心として前面側Fに開孔する溝部32および背面側Rに開孔する溝部32を仕切りウエブ34で仕切られた点対称の溝32を有する鋼矢板33からなる壁体構成部材3を使用した壁体1に適用してもよい。この形態では、継手間連結部材4として鋼棒6の場合が示されている。この形態では、溝部32および継手20が点対称の位置に配置される鋼矢板33からなる壁体構成部材3を直列に配置すると共に連結して壁体1を構成した場合にも適用することができる。
【0028】
また、図14に示すように、前面側Fの一つの溝部32の両側に仕切りウエブ34を介して背面側Rに間隔をおいて二つの溝部32を有する鋼矢板33に適用してもよく、このような鋼矢板を使用した、図15に示すような壁体1に適用することもできる。
【0029】
前記各参考形態では、継手間連結部材4を溶接により固定したり、楔部材を圧入することにより、隣り合う壁体構成部材3における継手20相互または継手近傍部5相互等を一体的に連結した形態を示したが、継手嵌合部2の継手20相互に貫通孔を設けて、その貫通孔に挿通される棒状部材を介して、隣り合う壁体構成部材3における継手20相互を一体的に連結することも可能であるので、この形態について、図16および図17を参照して説明する。
【0030】
この実施形態でも前記各参考形態と同様に、多数の壁体構成部材3における継手20相互を噛み合わせて地盤に打設されて構築された壁体1において、その壁体1の中立軸Cの近傍に継手嵌合部2が位置するように配設された継手20を有する多数の壁体構成部材3により構成される壁体1である点は共通している。図16は全体図が示され、また図17にはその一部の拡大図が示されている。
【0031】
この実施形態では、溝形鋼矢板からなる隣り合う壁体構成部材3における対向する各継手20における継手溝底板部21とこれに一体の爪部22とに、縦中心軸線を同じくする貫通孔500が上下方向に間隔をおいて設けられている。前記貫通孔500は、各継手嵌合部2において、壁体1の背面側Rから前面側Fに貫通している孔で、すなわち継手嵌合部2の側面に設けられた孔であり、これらの孔は予め工場で穿設したり、現場で穿設することも可能である。
【0032】
そして、上下方向に間隔をおく、前記各継手20の貫通孔500に渡って、継手間連結部材4としてボルト(図示の場合)やピンなどの棒状部材510が挿通され、ボルトからなる頭部付きの棒状部材510に雌ねじ部材がねじ込まれて、継手嵌合部2の継手20相互が一体的に固定されている。
【0033】
前記棒状部材510としては、図示のボルト以外にも、ワンサイドボルトでもよく、あるいは鋼棒等であってもよく、ピンあるいは鋼棒とした場合の固定手段としては、溶接による固定手段でもよい。
【0034】
このように、この実施形態では、壁体1における隣り合う前記壁体構成部材3により構成された継手嵌合部2の側面の所定箇所に、継手嵌合部2を構成する各継手20を貫く貫通孔500が設けられ、前記貫通孔500には、継手間連結部材(4)としてボルトやピンなどの棒状部材(510)が挿通され固定手段で継手相互が一体的に固定されているので、前記各参考形態と同様、継手相互の部材軸方向のずれを防止されている壁体1とされている。また、少ない工種で、簡単に短工期で施工可能な壁体であると共に、一体化の工事費を低減できる壁体とされている。
【0035】
前記実施形態以外にも、本発明は、鋼矢板を使用した壁体全般に適用することができ、例えば、(1)自立式鋼矢板壁、(2)タイロッド式鋼矢板壁、(3)後方斜め支え杭式鋼矢板壁、(4)前方斜め支え杭式鋼矢板壁、(5)二重壁式鋼矢板壁等の鋼矢板壁に適用することができる。
【0036】
また、前記実施形態では、溝形鋼矢板を用いたい壁体の場合を示したが、中立軸付近に継手が位置するようになるその他の鋼矢板を使用した壁体等各種の鋼矢板壁体にも適用することができ、継手断面形状も適宜の鋼矢板でもよい。
【0037】
次に、本発明において使用される継手間連結部材4の材質としては、壁体構成部材3と同様な材質であるのが好ましい。壁体構成部材3としての溝形鋼矢板の材質は、JIS A5523に規格されている溶接用熱間圧延鋼矢板であるのが好ましく、継手間連結部材4の材質の一形態としては、前記溶接用熱間圧延鋼矢板と同じか同様な材質であるのが好ましい。
【0038】
さらに説明すると、継手間連結部材4の好ましい材質としては、例えば、JIS A5523に規格されている質量%で、炭素(C)が0.18%以下、ケイ素(Si)が0.55%以下、マンガン(Mn)が1.50%以下、リン(P)が0.04%以下、硫黄(S)が0.04%以下を含有し、残部がFe及び付加的組成物からなる鋼材であるとよい。
【0039】
また、継手間連結部材4の材質は、質量%で、フリー窒素が0.0060%以下とした前記規格の鋼材であるとよい。
【0040】
また、本発明の壁体において使用する継手間連結部材4の材質としては、圧延鋼材がよく、試験温度0℃におけるVノッチ・圧延方向のシャルピー吸収エネルギーが43J(ジュール)以上を満足する前記規格の鋼材であるとよい。このように規定した理由は、継手間連結部材4の長手方向における溶接性を確保した上で靭性(粘り強さ)のある鋼材とするためである。
【0041】
また、本発明の壁体において使用する継手間連結部材4の材質としては、圧延鋼材がよく、試験温度0℃におけるVノッチ・圧延直角方向のシャルピー吸収エネルギーが43J(ジュール)以上を満足する前記規格の鋼材であるとよい。このように規定した理由は、継手間連結部材4の巾方向における溶接性を確保した上で靭性(粘り強さ)のある鋼材とするためである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】継手間連結部材として、山形鋼を用いた本発明の第1参考形態の壁体を示す平面図である。
【図2】(a)は図1の一部を拡大して示す平面図、(b)は正面図である。
【図3】継手間連結部材の設置位置を説明するための正面図である。
【図4】(a)は継手間連結部材として、溝形鋼を用いて連結した壁体の一部を拡大して示す平面図、(b)は正面図である。
【図5】(a)は継手間連結部材として、鋼板を用いて連結した壁体の一部を拡大して示す平面図、(b)は正面図である。
【図6】(a)は継手間連結部材として、円弧状断面鋼材を用いて連結した壁体の一部を拡大して示す平面図、(b)は正面図である。
【図7】継手間連結部材として、鋼棒を用いた本発明の参考形態の壁体を示す平面図である。
【図8】(a)は図7(a)の一部を拡大して示す平面図、(b)は正面図である。
【図9】(a)は図8(a)の一部を拡大して示す平面図、(b)は鋼棒の溶接箇所の変形形態を示す平面図である。
【図10】(a)は継手嵌合部における側面の隙間に楔部材を用いた形態の壁体の一部を拡大して示す平面図、(b)はその正面図である。
【図11】(a)は継手嵌合部における上面の隙間に楔部材を用いた形態の壁体の一部を拡大して示す平面図、(b)はその正面図である。
【図12】(a)は継手嵌合部における上面および側面の隙間に楔部材を用いた形態の壁体の一部を拡大して示す平面図、(b)はその正面図である。
【図13】第2形態の溝形鋼矢板を用い、継手間連結部材として鋼棒を用いて連結した壁体を示す平面図である。
【図14】第3形態の溝形鋼矢板を示す平面図である。
【図15】図14に示す第3形態の溝形鋼矢板を用い、継手間連結部材として鋼棒を用いて連結した壁体を示す平面図である。
【図16】継手間連結部材として、棒状部材を用いた本発明の実施形態の壁体を示す平面図である。
【図17】(a)は図16の一部を拡大して示す平面図、(b)は正面図である。
【図18】(a)は従来の溝形鋼矢板を用いた壁体のずれ防止のために、鉄筋コンクリート製枕梁で壁体頭部を一体化した形態を示す縦断正面図、(b)はその平面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 壁体
2 継手嵌合部
20 継手
21 継手溝底板部
22 爪部
3 壁体構成部材
31 溝形鋼矢板
32 溝部
33 鋼矢板
34 ウエブ
4 継手間連結部材
41 開放断面部材
42 鋼板
43 山形鋼
44 一辺
45 他辺
46 溝形鋼
47 円弧状断面鋼
5 近傍部
6 鋼棒
7 鉄筋コンクリート製枕梁
8 裏込土
60 楔部材
100 外面の隙間
110 間隙
C 中立軸
W 溶接
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の壁体構成部材(3)における継手(20)相互を噛み合わせた壁体(1)において、その壁体(1)の中立軸の近傍に継手嵌合部(2)が位置するように配設された継手(20)を有する多数の壁体構成部材(3)により構成される壁体(1)の隣り合う前記壁体構成部材(3)により構成された継手嵌合部(2)の側面の所定箇所に、継手嵌合部(2)を構成する各継手(20)を貫く貫通孔(500)が設けられ、前記貫通孔(500)には継手間連結部材(4)としてボルトやピンなどの棒状部材(510)が挿通され固定手段で継手相互が一体的に固定されていることを特徴とする壁体。
【請求項2】
壁体構成部材(3)が、溝形鋼矢板であることを特徴とする請求項1に記載の壁体。
【請求項1】
多数の壁体構成部材(3)における継手(20)相互を噛み合わせた壁体(1)において、その壁体(1)の中立軸の近傍に継手嵌合部(2)が位置するように配設された継手(20)を有する多数の壁体構成部材(3)により構成される壁体(1)の隣り合う前記壁体構成部材(3)により構成された継手嵌合部(2)の側面の所定箇所に、継手嵌合部(2)を構成する各継手(20)を貫く貫通孔(500)が設けられ、前記貫通孔(500)には継手間連結部材(4)としてボルトやピンなどの棒状部材(510)が挿通され固定手段で継手相互が一体的に固定されていることを特徴とする壁体。
【請求項2】
壁体構成部材(3)が、溝形鋼矢板であることを特徴とする請求項1に記載の壁体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2008−202400(P2008−202400A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98870(P2008−98870)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【分割の表示】特願2003−377949(P2003−377949)の分割
【原出願日】平成15年11月7日(2003.11.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【分割の表示】特願2003−377949(P2003−377949)の分割
【原出願日】平成15年11月7日(2003.11.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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