説明

壁構造、及び建物

【課題】制震装置を備えた施工性に優れた壁構造を得る。
【解決手段】天井大梁16と床大梁20との間に制震装置32を配置し、壁内部の横桟54Cに対して横スライド部材64をスライド自在に係合し、内壁パネルを固定するための木レンガ66を横スライド部材64に取り付ける。予め木レンガ66を横スライド部材64に取り付けた外壁パネル58を先に梁側面に取り付け、その後に制震装置32を取り付けようとしたときに、制震装置32が木レンガ66に干渉する場合が想定されるが、横スライド部材64(木レンガ66)を制震装置32の配置位置からずらせば、木レンガ66を取り付けた後からでも制震装置32を天井大梁16及び床大梁20に容易に取り付けることができる。また、制震装置32を取り付けた後からでも、横スライド部材64の位置をずらせば、制震装置32に対して木レンガ66が干渉しないように木レンガ66の取り付けを行うことが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の揺れを低減させる制震装置を備えた壁構造、及び建物に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の地震等による揺れを抑えるための制震装置を内部に備えた壁構造が、例えば、特許文献1に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−219835公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の壁構造では、建築用の壁パネルに開口部が形成されており、この開口部内に制振装置が取り付けられるが、壁パネルを取り付けるための木製の下地材(取付部材)が金属製の制振装置に両面接着テープにて固定され、石膏ボードは、壁パネルの表面を覆うように下地材に固定されている。
【0005】
石膏ボード等の内装材の取り付けを施工現場にて行う場合、内装材のサイズや配置に応じて下地材の位置を決める必要があるが、特許文献1の壁構造では、制震装置を取り付けた後でしか下地材を固定することができないため、制震装置を後から配置しようとする場合に、非常に施工性が悪いものとなっている。即ち、施工現場にて下地材の位置を決めてから制震装置を取り付けることが困難な構造となっている。
【0006】
また、制震装置と下地材とが干渉しないように、予め設計段階で制震装置と下地材との間に一定のクリアランスを設けようとして下地材の位置を決定したとしても、部材の加工精度、部材の組み付け精度の影響により、設計通りのクリアランスが得られない場合があるが、そのような場合、下地材の位置を調整することができないと、内装材の取り付けに支障をきたす虞がある。
【0007】
本発明は上記事実を考慮し、制震装置を備えた施工性に優れた壁構造、及び建物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の壁構造は、建物の外側に配置される外壁パネルと、前記建物の内側に配置される内壁パネルと、前記外壁パネルと前記内壁パネルとの間に配置され、前記建物の揺れを抑制する減衰手段と、前記外壁パネルの内壁パネル側に配置され、前記内壁パネルを固定するための取付部材と、前記取付部材の配置位置を変更可能とする調整手段と、を有する。
【0009】
次に、請求項1に記載の壁構造の作用を説明する。
請求項1に記載の壁構造では、減衰手段によって、地震等による建物の揺れを抑制することができる。
建物の内側に配置される内壁パネルは、外壁パネルの内壁パネル側に配置された取付部材に固定され支持される。
【0010】
内壁パネルを固定する取付部は、調整手段により、その位置を変更することができる。例えば、先に取付部材を外壁パネルの内壁パネル側に配置し、その後に減衰手段を取り付けようとした場合、減衰手段と干渉しないように調整手段でもって取付部材の配置位置を調整することができる。また、先に減衰手段を配置し、その後に取付部材を配置しようとした場合、減衰手段と干渉しないように調整手段でもって取付部材の配置位置を調整することができる。
したがって、減衰手段の取付作業を取付部材の取付作業よりも前に行う場合、減衰手段の取付作業を取付部材の取付作用よりも後で行う場合の何れの場合であっても、取付部材の施工性は優れたものとなっている。
なお、内装パネルは、取付部材の配置位置を調整してから、位置調整後の取付部材に対して取り付けられる。
【0011】
したがって、請求項1に記載の壁構造によれば、従来技術のように、取付部材(下地材)を先に取り付けると、その後に制震装置を取り付け難くなる、または取り付けられない、といった問題を生じることは無く、制震装置を備える壁構造として、施工性に優れたものとなっている。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の壁構造において、前記外壁パネルと前記内壁パネルとの間に横桟を備え、前記調整手段は、前記取付部材を固定可能とし、前記横桟の長手方向に沿ってスライド可能に係合する第1のスライド部材を有する。
【0013】
次に、請求項2に記載の壁構造の作用を説明する。
請求項2に記載の壁構造では、第1のスライド部材に取付部材を固定することができる。そして、第1のスライド部材は、横桟の長手方向に沿ってスライド可能に係合しているため、取付部材は横桟の長手方向、即ち水平方向に位置調整を行うことができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の壁構造において、前記取付部材は、前記第1のスライド部材に変位可能に支持されている。
【0015】
次に、請求項3に記載の壁構造の作用を説明する。
請求項3に記載の壁構造では、取付部材が、第1のスライド部材に対して変位可能に支持されているため、地震時等で万が一、制震装置が取付部材に干渉した際には、取付部材は変位して制震装置との干渉による衝撃を吸収することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項2または請求項3に記載の壁構造において、前記外壁パネルと前記内壁パネルとの間に縦桟を備え、前記調整手段は、前記縦桟の長手方向に沿ってスライド可能に係合する第2のスライド部材を有し、前記横桟が前記第2のスライド部材に支持されている。
【0017】
次に、請求項4に記載の壁構造の作用を説明する。
請求項4に記載の壁構造では、第2のスライド部材が縦桟の長手方向に沿ってスライド可能に係合しており、横桟が第2のスライド部材に支持されている。したがって、横桟を縦桟の長手方向、即ち上下方向に移動することができ、横桟に設けられた取付部材は上下方向に位置調整を行うことができる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の壁構造において、前記取付部材を複数備え、前記減衰手段と前記減衰手段に対する制震方向の相対変位が大きい方の前記取付部材との間隔をA、前記減衰手段と前記減衰手段に対する制震方向の相対変位が小さい方の前記取付部材との間隔をBとすると、A>Bである。
【0019】
次に、請求項5に記載の壁構造の作用を説明する。
地震等で建物が揺れると、揺れに応じて取付部材も変位する。複数の取付部材が異なる位置に設けられている場合には、減衰手段に対する取付部材の変位量が、取付部材の配置位置によって異なる場合がある。
【0020】
このため、減衰手段と取付部材との間隔を一律に同じ寸法に設定してしまうと、変位量の小さい取付部材は減衰手段に干渉しないが、変位量の大きい取付部材が減衰手段に干渉する場合が想定される。
【0021】
減衰手段と減衰手段に対する制震方向の相対変位が大きい方の取付部材との間隔をA、減衰手段と減衰手段に対する制震方向の相対変位が小さい方の取付部材との間隔をBとしたときに、A>Bとすれば、変位量の小さい取付部材は減衰手段に干渉しないが、変位量の大きい取付部材が減衰手段に干渉する、という問題を回避可能となる。
【0022】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の壁構造において、前記内壁パネルには、前記外壁パネルと前記内壁パネルの間の隙間に配置される断熱材が取り付けられている。
【0023】
次に、請求項6に記載の壁構造の作用を説明する。
請求項6に記載の壁構造では、外壁パネルと前記内壁パネルの間の隙間に、断熱材が配置されているため、建物の断熱効果を高めることができる。
また、内壁パネルに断熱材が取り付けられているため、内壁パネルの取り付け作業によって、断熱材の配置と、内壁パネルの取り付けとを同時に行うことができる。
【0024】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の壁構造において、前記断熱材には、前記取付部材との干渉を避けるための逃し穴が形成されている。
【0025】
次に、請求項7に記載の壁構造の作用を説明する。
断熱材に、取付部材との干渉を避けるための逃し穴が形成されているため、取付部材を逃し穴の内部に配置することで、取付部材と内壁パネルとを直接的に連結することができる。
【0026】
請求項8に記載の建物は、請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の壁構造を備えている。
【0027】
次に、請求項8に記載の建物の作用を説明する。
請求項8に記載の建物は、請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の壁構造を備えているため、建物として、請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の壁構造の作用が得られる
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、請求項1に記載の壁構造は上記の構成としたので、優れた施工性を有する。
【0029】
請求項2に記載の壁構造は上記の構成としたので、簡単な構成で取付部材の水平方向の位置調整が可能となる。
【0030】
請求項3に記載の発明は上記の構成としたので、建物が揺れた際の取付部材、及び内壁パネルの固定部分における損傷を防止できる。
【0031】
請求項4に記載の発明は上記の構成としたので、簡単な構成で取付部材の上下方向の位置調整が可能となる。
【0032】
請求項5に記載の発明は上記の構成としたので、変位量の大きい取付部材が減衰手段に干渉する、という問題を回避可能となる。
【0033】
請求項6に記載の発明は上記の構成としたので、建物の断熱効果を高めることができ、また、内壁パネルの取り付け作業によって、断熱材の配置と、内壁パネルの取り付けとを同時に行うことができる。
【0034】
請求項7に記載の発明は上記の構成としたので、取付部材と内壁パネルとを直接的に連結することができる。
【0035】
請求項8に記載の建物は上記の構成としたので、壁の施工性が優れたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
[第1の実施形態]
【0037】
以下、図1〜図5を用いて、本発明の建物の第1の実施形態について説明する。なお、図中、矢印INは室内方向、矢印OUTは室外(屋外)方向を示している。
(ユニット建物の全体構成)
図1に示すように、本実施形態のユニット建物10は、複数個(本実施形態では8個)の建物ユニット12から構成されている。
なお、説明の便宜上、建物ユニット12の各部材に名称付けをしておく。建物ユニット12は、4本の柱14と、互いに平行に配置された長短二組の天井大梁16、18と、これらの天井大梁16、18に対して上下に平行に配置された長短二組の床大梁20、22とを備えており、梁の端部を天井と床の仕口に溶接することによりラーメン構造として構成されている。但し、ユニット構成は上記に限られることなく、他の箱形の架構構造としてもよい。本実施形態では、天井大梁16、18、及び床大梁20、22に、断面コ字形状のチャンネル鋼(溝形鋼)が用いられている。
【0038】
建物ユニット12は、矩形枠状に組まれた天井フレーム24と床フレーム26とを備えており、これらの間に4本の柱14が立設される構成となっている。天井フレーム24は四隅に天井仕口部(柱)28を備えており、この天井仕口部28に長さが異なる天井大梁16、18の長手方向の端部が溶接されている。
同様に、床フレーム26は四隅に床仕口部(柱)30を備えており、この床仕口部30に長さが異なる床大梁20、22の長手方向の端部が溶接されている。
そして、上下に対向して配置された天井仕口部28と床仕口部30との間に、柱14の上下端部が溶接により剛接合されて及びボルトにより仮固定されて建物ユニット12が構成される。
【0039】
(制震構造)
次に、ユニット建物10に設けられている制震構造の要部について詳細に説明する。
図1、及び図2に示すように、本実施形態の建物ユニット12には、天井大梁16と床大梁20との間、及び天井大梁18と床大梁22との間に制震装置32が取り付けられている。
【0040】
なお、以下に、代表して天井大梁16と床大梁20との間に設置される制震装置32を説明する。本実施形態の制震装置32は、以下に説明する、固定フレーム34、ダンパ36、第1のダンパ取付部材38A、第2のダンパ取付部材38B等から構成されている。
【0041】
図2に示すように、床大梁20の上面には、制震装置32を構成する固定フレーム34が設置されている。
固定フレーム34は、鉛直方向に延びる鋼製の第1の柱部材34A、及び第1の柱部材36Aに対して傾斜する第2の柱部材36B備えている。第2の柱部材36Bの上端は、第1の柱部材36Aの側面上側に溶接されている。なお、固定フレーム34の形状は他の形状であっても良い。
【0042】
第1の柱部材36Aの下端には、床大梁20に取り付けるためのフランジ板40が溶接されている。なお、第2の柱部材36Bの下端にも同様のフランジ板40が溶接されている。
床大梁20の内部には、鋼板で形成された枠形のブラケット42が挿入されており、ブラケット42の上面は床大梁20の上側板部分20A、ブラケット42の下面は床大梁20の下側板部分20Bに密着して床大梁20を補強している。
【0043】
フランジ板40、床大梁20の上側板部分20A、及びブラケット42の上部は、図示しないボルトで互いに連結されており、床大梁20の下側板部分20B、及びブラケット42の下部は、基礎44に固定されたアンカーボルト46で固定されている。
【0044】
第1の柱部材36Aの上端付近の側面には、第2のダンパ取付部材38Bが固定されており、天井大梁16の下面には、第1のダンパ取付部材38Aが固定されている。
【0045】
なお、天井大梁16の内部には、鋼製のブラケット48が挿入されており、ブラケット48の上面は天井大梁16の上側板部分16A、ブラケット48の下面は天井大梁16の下側板部分16Bに密着して天井大梁16を補強している。なお、ブラケット48の上部と天井大梁16の上側板部分16Aとは図示しないボルトで固定され、ブラケット48の下部と天井大梁16の下側板部分16Bと第1のダンパ取付部材38Aとは図示しないボルトで互いに固定されている。
【0046】
第1のダンパ取付部材38Aと第2のダンパ取付部材38Bとの間にはダンパ36が水平に配置されており、ダンパ36は、一端がピン50を介して第1のダンパ取付部材38Aに連結され、他端がピン52を介して第2のダンパ取付部材38Bに連結されている。
【0047】
ダンパ36は、第1のダンパ取付部材38Aと第2のダンパ取付部材38Bとの相対変位(床大梁20の軸方向、及び天井大梁16の軸方向の相対変位であって、図2の矢印A方向の相対変位。)時に減衰力を発生するものであれば、オイルダンパ、粘弾性ダンパ等の周知のダンパを用いることができる。
なお、天井大梁16の下側板部分16Bには、固定フレーム34の壁面外方向(図2の紙面裏表方向)へ倒れ込みを防止するように、固定フレーム34の上端部分を図2の紙面裏表方向から挟み込むように配置される1対のガイド板53が取り付けられている。
【0048】
(壁面構造)
図2〜5に示すように、天井大梁16、及び床大梁20の室外側には、枠状の外壁フレーム54、及び外装材56を含んで構成された外壁パネル58が配置されている。
外壁フレーム54は、天井大梁16、及び床大梁20の室外側の側面に取り付けられており、天井大梁16と床大梁20とを掛け渡すように上下方向に延びる複数本の縦桟54Aと、縦桟54Aの端部同士を掛け渡すように水平方向に延びて縦桟54Aに連結される横桟54B、縦桟54Aの中間部同士を掛け渡すように水平方向に延びる横桟54Cとを含んで枠状に構成されている。外装材56は、少なくとも縦桟54A、及び横桟54Bに固定されている。
本実施形態では、外壁フレーム54の縦桟54A、及び横桟54Bが、図示しないボルト等によって天井大梁16、及び床大梁20の側面に固定されている。
図3に示すように、外壁フレーム54の横桟54Cは、制震装置32の固定フレーム34と接触しないように離間している。
【0049】
図4に示すように、本実施形態の縦桟54A、及び横桟54Cは断面C字状の型鋼で形成されており、横桟54Bは断面コ字状の型鋼で形成されている。
制震装置32を挟んで一方側の縦桟54A、及び他方側の縦桟54Aは、C字の開口側が互いに向かい合う向きに設けられている。また、横桟54Cは、C字の開口を室内側(内壁パネル側)に向くように配置されている。
【0050】
縦桟54Aには、ブロック状の縦スライド部材60がスライド自在に係合している。縦スライド部材60は、縦桟54Aの内部にスライド可能に配置され側面視が台形状の挿入部60Aと、縦桟54Aの外部にC字の開口を介して突出し側面視が矩形の取付部60Bとを有している。
【0051】
縦スライド部材60は、木材、合成樹脂、金属等で形成することができる。
挿入部60Aの幅(台形の底辺の幅)は、縦桟54AのC字の開口幅よりも大きく設定されており、C字の開口側には抜けないようになっている。したがって、挿入部60Aが縦桟54Aに挿入された縦スライド部材60は、縦桟54Aから外れることなく、縦桟54Aの長手方向に沿ってのみ移動自在となっている。なお、挿入部60Aの側面視形状は、矩形等、台形以外の形状であっても良い。
【0052】
縦桟54Aの下端側には、略半分の幅に渡って切り欠かれた切欠部55が形成されているので、縦スライド部材60の挿入部60Aは、この切欠部55を介して縦桟54Aの内部に挿入することができる。
【0053】
取付部60Bは、横桟54Cの端部に挿入され、横桟54Cと取付部60Bとは、釘62等で互いに固定されている。
【0054】
したがって、縦スライド部材60を端部に有する横桟54Cは、縦スライド部材60を縦桟54に固定する前の状態において、縦桟54に沿ってスライド自在、即ち上下方向にスライド自在となっている。
【0055】
この横桟54Cには、縦スライド部材60と略同形状の、ブロック状の横スライド部材64がスライド自在に係合している。横スライド部材64は、横桟54Cの内部にスライド可能に配置され側面視が台形状の挿入部64Aと、横桟54Cの外部にC字の開口を介して突出し側面視が矩形の取付部64Bとを有している。
【0056】
挿入部64Aの幅(台形の底辺の幅)は、横桟54CのC字の開口幅よりも大きく設定されており、C字の開口側には抜けないようになっている。したがって、挿入部64Aが横桟54Cに挿入された横スライド部材64は、横桟54Cから外れることなく、横桟54Cの長手方向に沿ってのみ移動自在となっている。
【0057】
なお、本実施形態の縦スライド部材60、及び横スライド部材64は、釘を用いて横桟54Cに固定するため、釘の打ち込みが可能なように合成樹脂で形成されているが、木材、金属等の合成樹脂以外の材料で形成することも出来る。
【0058】
図3、4に示すように、横スライド部材64には、取付部64Bの端面に、木材からなるブロック状の木レンガ66が取り付けられている。
図5に示すように、本実施形態では、木レンガ66が3本の釘68にて横スライド部材64に取り付けられており、中央の釘68は、木レンガ66を貫通して横スライド部材64に打ち込まれており、その上下方向両側の釘68は、木レンガ66、及び横桟54Cを貫通して横スライド部材64に打ち込まれている。
【0059】
図3に示すように、天井大梁16、及び床大梁20の室外側(矢印OUT向側)には、木フレーム、合板、石膏ボード等からなる内壁パネル70が配置されており、内壁パネル70は図示しない釘等によって木レンガ66に固定されている。
【0060】
(作用)
次に、本実施形態の建物ユニット12の作用を説明する。
地震、風圧等により建物ユニット12に揺れが生じると、基礎側の床大梁20に対して天井大梁16が梁軸方向に変位するが、天井大梁16と床大梁20との間に配置された制震装置32が該変位を抑制し、建物ユニット12の揺れを低減する。
【0061】
ここで、固定フレーム34は床大梁20に固定されているので、建物ユニット12に揺れが生じても、固定フレーム34は床大梁20に対して相対移動しない。
基礎側の床大梁20に対して天井大梁16が梁軸方向に変位すると、外壁フレーム54は平行四辺形に変形する。
床大梁20を基準にして考えると、外壁フレーム54の変位量(水平方向)は、床大梁20から上方の天井大梁16に向かうに従って、床大梁20からの距離に比例して大きくなる。
【0062】
したがって、建物ユニット12に揺れが生じている際、各横桟54Cも天井大梁16と同方向に変位するが、床大梁20に近い側の横桟54Cの変位量よりも、天井大梁16に近い側の横桟54Cの変位量の方が大きくなる。
【0063】
横桟54Cには、木レンガ66が室内側に向けて取り付けられているため、横桟54Cが変位すると、当然ながら木レンガ66も同様に変位することになる。
このため、固定フレーム34に対して木レンガ66が近接して配置されていると、揺れの大きさによっては、固定フレーム34に対して木レンガ66が干渉する場合が考えられる。
【0064】
また、内壁パネル70を横方向に複数枚設ける場合、内壁パネル70の継ぎ目、施工性等を考慮すると、内壁パネル70を固定するための木レンガ66の位置は、施工現場にて決定することが好ましい。
【0065】
本実施形態の建物ユニット12は、外壁パネル58と制震装置32を先に天井大梁16及び床大梁20に取り付け、その後に内壁パネル70の取り付けを行う。なお、外壁パネル58及び制震装置32は、天井大梁16及び床大梁20に対して何れを先に取り付けても良い。
【0066】
外壁パネル58においては、木レンガ66を予め横スライド部材64のみに固定しておく(図5の中央の1本の釘68のみで固定し、横桟54Cには固定しない。)。こうすることで、木レンガ66は水平方向の移動が自在な状態となる。
【0067】
そして、例えば、内壁パネル70を施工現場にて取り付ける際には、継ぎ目の位置、横桟54Cの変位量に関係する床大梁20から横桟54Cまでの距離等に応じて、木レンガ66が制震装置32に干渉しないように木レンガ66をスライドして位置調整を行い、位置調整が終了した後に2本の釘68で木レンガ66を横桟54C及び横スライド部材64に固定する。
【0068】
より具体的には、前述した様に、床大梁20に近い側の横桟54Cの変位量よりも、天井大梁16に近い側の横桟54Cの変位量の方が大きくなるため、天井大梁16に近い側の横桟54Cに取り付けられた木レンガ66から固定フレーム34までの距離Aを、床大梁20に近い側の横桟54Cに取り付けられた木レンガ66から固定フレーム34までの距離Bよりも大きく設定し、建物ユニット12が揺れた際に、木レンガ66が制震装置32の固定フレーム34に干渉しないようにする。
【0069】
また、本実施形態では、木レンガ66の水平方向の位置調整のみならず、上下方向の位置調整も行える。本実施形態では、横桟54Cの端部に取り付けられた縦スライド部材60が、縦桟54Aに対して上下方向に移動可能に係合しているので、予め縦スライド部材60を縦桟54Aに固定せず、内壁パネル70を施工現場で取り付ける際に横桟54Cを上下に動かして木レンガ66の上下方向の位置を調整した後に縦スライド部材60を釘等で縦桟54Aに固定し、最後に内壁パネル70を釘等で木レンガ66に固定すれば良い。
【0070】
また、木レンガ66を取り付けた横スライド部材64は、上述した様に、上下方向、及び水平方向に位置調整を可能としているため、天井大梁16及び床大梁20に制震装置32を取り付ける前に、木レンガ66を横スライド部材64に取り付けておくことができる。
【0071】
したがって、予め木レンガ66を横スライド部材64に取り付けた外壁パネル58を先に梁側面に取り付け、その後に制震装置32を取り付けようとしたときに、制震装置32が木レンガ66に干渉する場合が想定されるが、このような場合には、横スライド部材64(木レンガ66)を制震装置32の配置位置からずらせば、木レンガ66を取り付けた後からでも制震装置32を天井大梁16及び床大梁20に容易に取り付けることができる。
【0072】
勿論、制震装置32を取り付けた後からでも、横スライド部材64の位置をずらせば、制震装置32に対して木レンガ66が干渉しないように木レンガ66の取り付けを行うことが出来る。
【0073】
また、従来技術の様に、木レンガ66を固定してしまうと、部材の加工精度、部材の組み付け精度の影響により、制震装置32との間に設計通りのクリアランスが得られない場合があるが、そのような場合、木レンガ66の位置を調整できないと、内壁パネル70の取り付けに支障をきたす虞がある。一方、本実施形態では、内壁パネル70を取り付ける前に木レンガ66の位置を自由に調整可能であるため、従来技術の様に内壁パネル70の取り付けに支障をきたす虞は無い。
【0074】
[第2の実施形態]
次に、図6にしたがって、第2の実施形態を説明する。なお、第1の実施形態と同一構成には同一符号を付し、その説明は省略する。ここでは、外壁パネル58と内壁パネル70との間に断熱材を配する場合の一例を説明する。
【0075】
本実施形態では、図6に示すように、内壁パネル70の裏面側(外壁パネル58と対向する側)に断熱材72を貼り付けてから、内壁パネル70の固定をおこなう。
本実施形態で用いる断熱材72としては、ロックウール、グラスウール等の柔軟性のある従来公知のものを用いることができる。
【0076】
外壁パネル58と内壁パネル70との間の隙間部分を埋めるように配置されるが、内壁パネル70は木レンガ66に直接取り付けるため、断熱材72には木レンガ66を逃すための逃げ穴74が形成されている。
【0077】
第1の実施形態で説明した様に、施工現場にて木レンガ66の位置を調整するため、逃げ穴74は、木レンガ66の位置を調整した後、木レンガ66の位置に対応して形成することになる。木レンガ66の位置を調整した後、木レンガ66の位置に対応して逃げ穴74を形成するため、最小限の大きさで形成することができ、断熱材72を削る量は最小限で済み、高い断熱性能が得られる。
【0078】
なお、本実施形態では、断熱材72を貼り付けた内壁パネル70を木レンガ66に固定したが、断熱材72を梁の間に配置してから、内壁パネル70を木レンガ66に固定しても良い。
【0079】
[第3の実施形態]
次に、図7にしたがって、第3の実施形態を説明する。なお、前述した実施形態と同一構成には同一符号を付し、その説明は省略する。
図7に示すように、本実施形態の横スライド部材64は、横桟54Cと接触する面に、横スライド部材64よりも摩擦係数の大きな材料からなる滑り止め76が設けられている。
【0080】
滑り止め76としては、例えば、ゴムシート、合成樹脂シート、合成樹脂を溶媒で溶かしたもの(例えば、接着剤)を塗布してから乾燥させたコーティング膜状のもの等を上げることができるが、少なくとも横スライド部材64単体よりも滑り難くなれば良く、これら以外の形態のものであっても良い。
【0081】
本実施形態の場合、予め釘等で木レンガ66を固定した横スライド部材64を作製しておき、これを横桟54Cの端部から挿入する。
滑り止め76を横桟54Cの内面に接するように設けることで、横スライド部材64を動き難くすることができ、木レンガ66の位置を調整してから木レンガ66を釘等で横桟54Cせずに、内壁パネル70を木レンガ66に固定することが出来る。なお、横スライド部材64に滑り止め76が無い場合には、内壁パネル70を位置決めする際等において、壁の中で木レンガ66がずれてしまう場合があり、内壁パネル70を釘で木レンガ66に固定できなくなる懸念がある。
【0082】
本実施形態では、横スライド部材64を釘等で横桟54Cに固定していないので、建物ユニット12が揺れて、万が一、固定フレーム34が木レンガ66に干渉した際には、木レンガ66が動いて、固定フレーム34と干渉することによる衝撃を吸収することができる。
本実施形態では、横スライド部材64に滑り止め76を設けたが、場合によっては、縦スライド部材60に滑り止め76を設けても良い。
【0083】
[第4の実施形態]
次に、第4の実施形態を説明する。
図示はしないが、本実施形態では、横スライド部材64が弾性材料で形成されている。弾性材料としては、ゴム、柔軟な合成樹脂等を用いることができる。
【0084】
横スライド部材64を弾性材料で形成する利点は、例えば、建物ユニット12が揺れて、万が一、変位した木レンガ66が固定フレーム34に干渉した際に、木レンガ66を支持している横スライド部材64が弾性変形するので、少なくともこの変形分は木レンガ66と内壁パネル70との固定部分が移動することとなるので、木レンガ66と内壁パネル70との固定部分への応力集中が抑えられ、固定部分の損傷を抑えることができる。
【0085】
また、縦スライド部材60、及び横スライド部材64をゴム等の弾性材料で形成することで、部材そのものが滑り止めとなり、第3の実施形態で説明した滑り止め76を不要にすることも出来る。
なお、縦スライド部材60を弾性材料で形成しても良い。
【0086】
[その他の実施形態]
上記実施形態では、木レンガ66が横スライド部材64を介して横桟54Cに取り付けられていたが、木レンガ66は縦桟54Aに取り付けられていても良く、縦桟54Aに取り付けられた木レンガ66に対して内壁パネル70の固定を行うようにしても良い。
上記実施形態では、縦桟54A、及び横桟54Cに、断面C字状の型鋼を用いたが、縦桟54A、及び横桟54Cに用いる材料の断面形状は、C字状以外の形状であっても良い。縦桟54A、及び横桟54Cの断面形状を変更した場合には、縦スライド部材60、及び横スライド部材64の形状も、縦桟54A、及び横桟54Cに対してスライド可能な様に、その縦桟54A、及び横桟54Cの断面形状に合わせて変更するのは勿論である。
上記実施形態では、制震装置32の固定フレーム34を床大梁20に取り付けたが、制震装置32を上下逆に配置して、固定フレーム34を天井大梁16に取り付けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】第1の実施形態に係るユニット建物の斜視図である。
【図2】制震装置の正面図である。
【図3】(A)は内外壁の縦断面図であり、(B)及び(C)は、内外壁の拡大断面図である。
【図4】木レンガ取り付け部分の斜視図である。
【図5】第2の実施形態に係るユニット建物の、木レンガ取り付け部分の断面図である。
【図6】断熱材を貼り付けた内壁パネルの斜視図である。
【図7】第3の実施形態に係るユニット建物の、木レンガ取り付け部分の断面図である。
【符号の説明】
【0088】
10 ユニット建物(建物)
32 制震装置(減衰手段)
54 縦桟
54C 横桟
58 外壁パネル
60 縦スライド部材(調整手段、第2のスライド部材)
64 横スライド部材(調整手段、第1のスライド部材)
66 木レンガ(取付部材)
70 内壁パネル
72 断熱材
74 逃し穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外側に配置される外壁パネルと、
前記建物の内側に配置される内壁パネルと、
前記外壁パネルと前記内壁パネルとの間に配置され、前記建物の揺れを抑制する減衰手段と、
前記外壁パネルの内壁パネル側に配置され、前記内壁パネルを固定するための取付部材と、
前記取付部材の配置位置を変更可能とする調整手段と、
を有する壁構造。
【請求項2】
前記外壁パネルと前記内壁パネルとの間に横桟を備え、
前記調整手段は、前記取付部材を固定可能とし、前記横桟の長手方向に沿ってスライド可能に係合する第1のスライド部材を有する、請求項1に記載の壁構造。
【請求項3】
前記取付部材は、前記第1のスライド部材に変位可能に支持されている、請求項2に記載の壁構造。
【請求項4】
前記外壁パネルと前記内壁パネルとの間に縦桟を備え、
前記調整手段は、前記縦桟の長手方向に沿ってスライド可能に係合する第2のスライド部材を有し、
前記横桟が前記第2のスライド部材に支持されている、請求項2または請求項3に記載の壁構造。
【請求項5】
前記取付部材を複数備え、
前記減衰手段と前記減衰手段に対する制震方向の相対変位が大きい方の前記取付部材との間隔をA、前記減衰手段と前記減衰手段に対する制震方向の相対変位が小さい方の前記取付部材との間隔をBとすると、A>Bである、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の壁構造。
【請求項6】
前記内壁パネルには、前記外壁パネルと前記内壁パネルの間の隙間に配置される断熱材が取り付けられている、請求項5に記載の壁構造。
【請求項7】
前記断熱材には、前記取付部材との干渉を避けるための逃し穴が形成されている、請求項6に記載の壁構造。
【請求項8】
請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の壁構造を備えた建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−285781(P2010−285781A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139376(P2009−139376)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(504093467)トヨタホーム株式会社 (391)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】