説明

変位検出装置、傾斜計および加速度計

【課題】
検出感度が高く、測定レンジの広い傾斜計を得ることを目的とする。
【解決手段】
傾斜計2は、ハウジング部10から吊り下げられた内側振子部24を備えている。内側振子部24には、内側磁石32が固定されており、ハウジング部10には外側磁石30が設置されている。また、内側振子部24には、発磁体36が固定され、ハウジング部10にはコイル部38が固定され、内側振子部24が初期位置から変位した場合は、発磁体36とコイル部38の間に吸引力が発生される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位検出装置、傾斜計、加速度計に関するものであり、特に、振子の変位を検出し、地中の岩盤の傾斜を検出するのに好適な傾斜計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地中の岩盤の傾斜度合いを測定する手法として、地中深くボアホールと呼ばれる孔を堀削し、ボアホールの壁に傾斜計を固定し、傾斜度合いを検出する手法が用いられている。傾斜計の構造には様々なものがあるが、代表的なものに、鉛直振子型の傾斜計が知られている。このタイプの傾斜計は、傾斜計内部に振子を備え、岩盤が傾斜した場合の振子の位置を検出し、岩盤が傾斜する前の振子の位置からの変位量に応じて、岩盤の傾斜度合いを検出するものである。本出願の発明者らは、振子型の傾斜計の開発を行い、以下に示す特許出願を行なっている。この傾斜計は、一枚の板状体から打ち抜かれて、振子部と、ボアホール側に固定されるベース部が形成されるものであり、振子部とベース部の間は連結部により連結されている。
【特許文献1】特願2005−189549号
【0003】
上記特許文献1の振子型傾斜計は、岩盤の傾斜により、振子部がベース部に対して変位することにより岩盤の傾斜を検出するものである。ベース部と振子部の間の連結部は、厚さの薄い板状とされており、小さく岩盤が傾いた場合でも、ベース部に対して振子部を変位させるものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本出願の発明者らは、特許文献1の傾斜計の開発を続け、より高感度の傾斜計の開発を行なっていた。その開発過程において、振子型の傾斜計の感度を上げるためには、ベース部と振子部を連結する連結部の剛性が感度に影響を与えるという知見を得た。特許文献1の振子型傾斜計においても、連結部は板状で、振子の移動方向の剛性は比較的低いが、非常に小さな岩盤の傾きを測定するためには、連結部の振子移動方向への剛性を小さくする必要があった。また、このように、連結部の振子移動方向への剛性を小さくすると、傾斜計の感度は向上するが、傾斜計の測定レンジが小さくなるという問題もあり、傾斜計の高感度化と測定レンジの調整には工夫が必要であった。
【0005】
そこで、本発明は、振子部の初期位置への復元力を減少したり増加したりすることのできる機構を付加して、高感度で、かつ測定レンジの広い変位検出装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、測定対象物側に設置されるハウジング部と、前記ハウジング部から吊り下げられ、所定の復元力をもって初期位置に保持され、力が及ぼされた場合に前記初期位置から変位する振子部とを備え、前記振子部の初期位置からの変位量を検出する変位検出装置であって、前記振子の初期位置への復元力を減少する方向に、前記振子部に力を及ぼす第1の付勢手段と、前記振子の初期位置への復元力を増加する方向に、前記振子部に力を及ぼす第2の付勢手段とを備え、前記振子部の初期位置からの変位量が所定量以下の場合は、前記第1の付勢手段の力の大きさが前記第2の付勢手段の力の大きさよりも大きく、前記振子の変位量が所定値よりも大きい場合は、前記第1の付勢手段の力の大きさが前記第2の付勢手段の力の大きさよりも小さいことを特徴とする変位検出装置によって構成される。この構成によれば、振子部が初期位置から所定値まで変位する場合は、振子部に作用するバネによる初期位置への復元力が減少する方向に、第1の付勢手段による力が加わるため、測定対象物のわずかな変位(傾斜変化)であっても、その傾斜に伴う重力の作用で振子部が大きく変位する。したがって、変位検出手段の感度を向上させることができる。また、振子部の変位量が所定値を超えた場合は、振子部に作用するバネによる初期位置への復元力が大きくなる方向に、第2の付勢手段による力が加わるため、測定対象物の大きな傾斜変化であっても、その傾斜に伴う重力の作用による振子部の変位量は小さくされる。したがって、変位検出手段の測定レンジを広くすることができる。
【0007】
なお、測定対象物とは、地面の変位や傾斜を測定する場合は地面であり、移動体の変位を検出する場合は移動体自身である。また、測定対象物側に設置されるとは、ハウジング部が測定対象物に直接固定される場合や、ハウジング部が別の部分を介して測定対象物に固定される場合をも含むものである。また、振子部の初期位置とは、測定対象物が変位する前の状態における振子部の位置である。また、所定の復元力とは、振子部が変位する前および振子部が変位した後に、振子部を初期位置に保持あるいは戻そうとする力をいう。したがって、振子部がハウジング部にヒンジにより吊り下げられている場合は、当該ヒンジ部で発生する力であり、ヒンジ部をできるかぎり薄く形成しても、振子部を初期位置に保持しようとする力が発生する。本発明では、振子部を初期位置に保持しようとする力(復元力)を減少させる力(第1の付勢手段)により、わずかな変位(傾斜変化)であっても、復元力が減少されているために、振子部が変位することができ、高感度に変位を検出することができるのである。
【0008】
また、本発明は、前記第1の付勢手段は、一方をハウジング部に設置され、他方を振子部に設置され、互いに吸引力を発生させる少なくとも2つの磁性体であることを特徴とする変位検出装置によっても構成することができる。この構成によれば、バネによる初期位置への復元力が小さくなる方向に、磁性体間の吸引力を発生させることができ、傾斜に伴う振子部の変位が大きくなり、変位検出装置の感度を向上させることができる。なお、ハウジング部および振子部に設置される磁性体の数は、2つ以上であれば良く、例えば8つの磁性体より構成することもできる。また、互いに吸引力を発生させる磁性体であればよく、一方が鉄で、他方を永久磁石としても良いし、両方を永久磁石の異なる磁極の組み合わせとしても良い。また、ハウジング部および振子部に設置される磁性体は、磁性体がハウジング部および振子部に固定されても良いし、磁性体の位置を変更することができるように支持されても良い。位置を変更することができるようにすると、磁性体の吸引力の調整を精度良く行なうことができる。
【0009】
また、本発明は、前記第2の付勢手段は、一方をハウジング部に設置され、他方を振子部に設置され、互いに反発力を発生させる少なくとも2つの磁性体と、前記振子部を前記ハウジング部から吊り下げる部分であって、前記振子部を変位位置から初期位置に戻す力を発生させる部分であることを特徴とする変位検出装置によっても構成することができる。この構成によれば、バネによる初期位置への復元力が大きくなる方向に、磁性体間の反発力を発生させることができ、傾斜に伴う振子部の変位が小さくなり、変位検出装置の測定レンジを広くすることができる。なお、ハウジング部および振子部に設置される磁性体の数は、2つ以上であればよく、例えば4つの磁性体より構成することもできる。また、互いに反発力を発生させる磁性体であれば、N極どおしの組み合わせ、S極どおしの組み合わせでも良い。また、ハウジング部および振子部に設置される磁性体は、磁性体がハウジング部および振子部に固定されても良いし、磁性体の位置を変更することができるように支持されても良い。位置を変更することができるようにすると、磁性体の反発力の調整を精度良く行なうことができる。
【0010】
また、本発明は、前記第1の付勢手段の磁性体は、前記ハウジング部に固定されたコイル部の鉄心と、前記振子部に固定された永久磁石より構成されるものであり、前記永久磁石から前記コイル部に及ぼされる磁界に応じて、前記ハウジング部に対する前記振子部の変位量を検出する変位測定手段を兼ねることを特徴とする変位検出装置によっても構成することができる。この構成によれば、鉄心と永久磁石により吸引力が働き、コイル部に及ぼされる磁界により振子部を変位量が検出されるため、変位量を検出するセンサを別に設ける必要が無く、装置の構成が簡略化されるとともに、装置を小型化することができる。
【0011】
また、本発明は、前記第2の付勢手段の磁性体は、前記振子部に固定された振子部永久磁石と、前記ハウジング部に設置されたハウジング部永久磁石より構成されるものであり、前記ハウジング部永久磁石は前記振子部永久磁石との間の間隔を変更可能な状態でハウジング部に設置されていることを特徴とする変位検出装置によっても構成することができる。この構成によれば、ハウジング部に設置された永久磁石が振子部の永久磁石との間隔を変更可能とされているため、変位検出装置の感度を精度良く調節することができる。なお、「間隔を変更可能な状態でハウジング部に設置される」とは、間隔を変更する際には、ハウジング部永久磁石はハウジング部から移動することができ、間隔を変更した後には、ハウジング部永久磁石はハウジング部に固定されることを意味する。また、ハウジング部永久磁石と振子部永久磁石の間隔は、変位検出装置の組立時に組立者により調整されても良いし、変位検出装置を組み立てた後に、永久磁石やモーター等を用いて間隔を調整して感度を調節しても良い。
【0012】
また、本発明は、上記の変位検出装置を用いて前記振子部の変位量を検出し、前記振子部の変位量に基づき、測定対象物の傾斜角の変化を検出することを特徴とする傾斜計によって構成することもできる。この構成によれば、振子部の変位量を精度良く検出することができるため、感度の高い傾斜計を構成することができる。また、本発明は、上記の変位検出装置を用いて前記振子部の変位量を検出し、前記振子部の変位量に基づき、測定対象物の加速度の変化を検出することを特徴とする加速度計によって構成することもできる。この構成によれば、振子部の変位量を精度良く検出することができるため、感度の高い加速度計を実現することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、振子部に力を及ぼす第1の付勢手段を設けたため、感度の良い変位検出装置を得ることができる。また、振子部に力を及ぼす第2の付勢手段を設けたため、測定レンジの広い変位検出装置を構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の第1の実施形態について詳細に説明する。第1の実施形態は、本発明の変位検出装置を傾斜計2として具体化したものである。図1は傾斜計2の全体構成を示す正面図であり、傾斜計2を分かり易く説明するために、傾斜計2の一部は断面図として示している。傾斜計2は、一枚の板状の弾性部材から形成される傾斜計本体部4と、傾斜計本体部4を傾斜計ベース部6に固定するボルト8より構成されている。傾斜計本体部4は、板状の弾性体で構成されるブロック体を、ワイヤー放電加工、レーザー加工、打ち抜き加工等の手法によりカットされて形成される。傾斜計ベース部6は、地中深く掘られたボアホールに傾斜計本体部4を固定するためのものである。なお、図示は省略するが、傾斜計ベース部6は、ボアホールの鉛直方向からの傾きを補正する機能を備えており、この機能により、傾斜計本体部4の方向を所定の方向に合わせることができる。傾斜計本体部4は、傾斜計本体部4の左右に一体的に設けられたボルト孔を用いてボルト8により、傾斜計ベース部6に固定される。
【0015】
傾斜計本体部4は、外周部分を比較的剛性の高い部分で形成され、この部分が傾斜計本体部4のハウジング部10として機能する。傾斜計本体部4のハウジング部10の上辺からは、ハウジング部10内を上下に伸びる外側腕部12が左右対称に形成されている。ハウジング部10の上辺と外側腕部12との連結部である外側腕部ヒンジ部14は、外側腕部12の図中左右方向の厚さよりも薄く形成されている。なお、本実施形態の傾斜計本体部4は、板状の弾性体より構成されるものであるが、傾斜計本体部4は図1の紙面に垂直な方向へ撓むことがない程度の板圧とされており、これにより、外側腕部ヒンジ部14は、ハウジング部10に対して、外側腕部12を図1の左右方向に変位させることができる。
【0016】
また、左右の外側腕部12の内側には、外側振子部16が形成されている。外側振子部16と外側腕部12との間は、外側振子部ヒンジ部18で連結されている。外側振子部16は、ハウジング部10内を上下に延びる部分が左右2つ形成され、この左右の部分をハウジング部10の下辺の内側で接続する部分が一体となって構成されるものである。また、外側振子部ヒンジ部18は、外側腕部12の図中左右方向厚さよりも薄く形成される。したがって、外側振子部ヒンジ部18は、外側振子部16を外側腕部12に対して、図1の左右方向に変位させることができる。
【0017】
外側振子部16の内側には、ハウジング部10内を上下に延びる内側腕部20が左右に一対形成されている。内側腕部20は、内側腕部ヒンジ部22を介して、外側振子部16に連結されている。内側腕部ヒンジ部22は、内側腕部20の図中左右方向厚さよりも薄く形成されているため、内側腕部20を外側振子部16に対して、左右方向に変位させることができる。
【0018】
内側腕部20の内側には、ハウジング部10内を上下に延びる内側振子部24が形成されている。内側振子部24は、ハウジング10の内部の左右方向中心位置に形成され、内側振子部ヒンジ部26を介して、内側腕部20に連結されている。内側振子部ヒンジ部26は、内側腕部の図中左右方向厚さよりも薄く形成されているため、内側振子部24を内側腕部20に対して、左右方向に変位させることができる。
【0019】
また、ハウジング部10には、外側磁石固定部材28がボルト留めにより固定されている。外側磁石固定部材28は、外側磁石30をハウジング部10に固定するための部材である。外側磁石固定部材28は、図中の左右方向の幅がハウジング部10の幅と略同じ幅であり、内側に空間を有し、空間の周囲4辺からなる部材である。外側磁石固定部材28は、四隅にボルト孔を有し、ボルト孔を貫通するボルトによりハウジング部10に固定される。また、外側磁石固定部材28は、外側磁石30の一部を収容するための空間を備え、該空間に外側磁石30の一部が収容され、ボルトで外側磁石固定部材28がハウジング部10に固定されることで、外側磁石30はハウジング部10に左右方向位置を固定される。
【0020】
外側磁石30は、後述する内側磁石32と対向する位置のハウジング部10上に固定されるものである。なお、外側磁石30は、外側磁石固定部材28のボルトが緩められた状態では、ハウジング部10に対して図中左右方向に移動することができる。これにより、外側磁石30と内側磁石32の対向する距離を変化させることができる。
【0021】
内側磁石32は、内側磁石固定部材34を用いて、内側振子部24にボルトで固定されるものである。内側磁石32は、外側に向かって磁極を有する永久磁石であり、図1のように、左側の内側磁石32はS極、右側の内側磁石32はN極とされている。これにより、右側の外側磁石30はN極、左側の外側磁石はS極とされているが、互いに対向する外側磁石30と内側磁石32の対向する部分の磁極が同一の磁極であれば上記の磁極の組み合わせに限られない。また、本実施形態では、内側磁石32は、内側磁石固定部材34により左右方向の位置を固定されており、内側磁石32の図中左右方向への移動はできない構成となっているが、内側磁石32を左右方向位置を移動させて、外側磁石30との対向距離を変化させる構成としてもよい。なお、内側磁石32と外側磁石30は、内側振子24に対し、初期位置へ戻そうとする復元力を付与する。この力を第2の付勢手段と呼ぶことができる。また、内側振子部24を連結する内側振子部ヒンジ部26が内側振子部24を初期位置に戻そうとする力を発生する部分を、傾斜計2の復元力と呼ぶことができる。
【0022】
次に、図1および図2を参照して、傾斜計2の発磁体36およびコイル部38について説明する。図2は、傾斜計2を図1の左右方向から見た全体図であり、傾斜計2の説明をより分かり易くするために、一部の部分については断面図を示している。図1および図2において、発磁体36は、発磁体固定部材40を用いて内側振子部24の上端部にボルトで固定されており、図2に示すように、発磁体36がコイル部38を両側から挟む位置に配置されるように、発磁体固定部材40が用いられている。また、コイル部38は、ハウジング部10の上辺中央部から下方に突出した部分にコイル部固定部材42を用いて固定されている。
【0023】
発磁体36とコイル部38の構成について、図3を用いて、さらに詳細に説明する。図3(a)は、発磁体36とコイル部38の相互の配置関係を説明するための図であり、傾斜計2を図1の下方から見た図である。図3においては、傾斜計2の一部を断面図で示している。また、図3(b)は、図3(a)の(b)部の拡大図であり、発磁体36とコイル部38の配置関係が明確となるよう、構成を概念図化して説明するものである。なお、発磁体36とコイル部38により、内側振子部24のハウジング部10に対する初期状態からの図1の左右方向への変位量を測定することができるため、発磁体36とコイル部38を変位検出手段と呼ぶことができる。また、発磁体36とコイル部38が、図3に示すような位置関係にあることにより、内側振子部24の変位に伴い、初期状態から発磁体36が図中左右方向に変位した場合、発磁体36が右に変位すれば内側振子部24を右方向に、発磁体36が左側に変位すれば内側振子部24を左方向に変位し易くする吸磁力が、発磁体36とコイル部38の間で発生し、内側振子部24を初期位置から左右方向への変位を助長する力を付与する。したがって、このような力を発生する発磁体36およびコイル部38を、傾斜計2の第1の付勢手段と呼ぶこともできる。
【0024】
図3(b)に示すように、発磁体36は、発磁体固定部材40に合計4つ設けられている。また、中心のコア44と巻線部46より構成されている2つのコイル部38が、コイル固定部材42に設けられている。傾斜計2が、地面の傾斜を感知していない状態(初期状態)では、図3(b)に示すように、コイル部38のコア44は、それぞれの発磁体36のS極およびN極から等距離に位置している。したがって、コイル部38は、発磁体36より図3(b)の左右方向へ磁力による力を受けていないことになる。一方、図3(b)に示す状態から、例えば、傾斜の変化により、内側振子部24が図1の右方に変位した場合、図3(b)において発磁体36はコイル部38に対して右方に変位するが、磁性体であるコア44と右上の発磁体36のN極、左上の発磁体のS極、右下の発磁体36のS極および左下の発磁体36のN極がそれぞれ吸引力を発生し、さらに発磁体36を図3中右方に変位させるのである。また、内側振子部24が図1の左方に変位した場合も同様に、図3の発磁体36をコイル部38に対して、吸引力により左方に変位させることになる。したがって、図3を用いて説明したように、本実施形態の発磁体36とコイル部38は、相互の吸引力により、内側振子部24の微小な変位を拡大することができるのである。なお、本実施形態の傾斜計2では、上記第1の付勢手段と第2の付勢手段の力の関係は、内側振子部24の初期位置からの変位量が所定量以下の場合は、第1の付勢手段の力の大きさが第2の付勢手段の力の大きさよりも大きくされ、内側振子部24の変位量が所定量よりも大きい場合は、前記第1の付勢手段の力の大きさが第2の付勢手段の力の大きさよりも小さくなるように、吸引力および反発力等が調節されている。
【0025】
また、図3の発磁体36とコイル部38は、内側振子部24の変位の大きさを検出する変位検出手段としても作用するが、この原理について説明する。なお、発磁体36、コイル部38および図4に示す回路図より、変位検出手段は構成されるのである。図4は、変位検出手段の原理を説明するための回路図である。図4において、パルス発振器48はICを用いたパルス発振回路であり、検出ヘッドであるコイル部38を駆動するパルス電圧を発生する。パルス電圧は、コイル部38に供給され、コイル部38は十分に飽和させられる。抵抗50は、コイル部38の巻線部46の負荷抵抗である。抵抗50は、コイル部38のインピーダンス変化に相当したパルス電圧が発生する。ダイオード52、コンデンサ54および抵抗56は検波回路を構成する。抵抗58とコンデンサ60は、フィルタ回路を構成しており、検波回路のリップル電圧を平滑するものである。
【0026】
次に、図4の回路を用いて、発磁体36とコイル部38から構成される変位検出手段の検出原理について説明する。図5の上側のグラフは、発磁体36からコイル部38に及ぼされる磁界をHexとした場合の、巻線部46が作る磁界H1に対するコア44の磁束密度Bの変化(B−H曲線)を示す図である。また、図5の下側のグラフは、パルス発振器48が発生するパルス電圧Vpに対して、動作点P(磁束密度が飽和する点)の位置を説明するグラフである。内側振子部24が傾斜により、初期状態から変位した場合、発磁体36からコイル部38に外部磁界Hexが及ぼされる。外部磁界Hexが及ぼされた状態でパルス電圧が巻線部46に及ぼされると、磁束密度BはHexによる磁束密度に加え、パルス電圧による磁界H1が巻線部46に及ぼされるため、動作点PはHexの大きさにより移動することになる。これにより、抵抗50の両端に発生するパルス電圧が変化することになり、抵抗50の両端の電圧を検波回路で包絡線検波し、検波出力電圧をフィルタ回路を通すことにより、外部磁界Hexの変化を検出するのである。したがって、外部磁界Hexの変化を検出することで、発磁体36がコイル部38に対する変位を検出することができ、内側振子部24の変位を検出することができるのである。
【0027】
次に、本発明の第1の実施形態の作用について説明する。図1に示す傾斜計2は、まず、傾斜計2の測定する傾斜の感度の調整が行なわれる。傾斜計2の外側磁石固定部28を固定するボルトが外され、外側磁石30は図1の左右方向に自由に移動することができる状態となる。この状態において、内側磁石32と外側磁石30の間隔を調整することにより、傾斜計2の測定感度を調節することができるのである。例えば、内側磁石32と外側磁石30の間隔を大きくした場合は、内側磁石32と外側磁石30の間の反発力が小さくなり、内側振子部24は比較的自由に動くことができるようになるため、傾斜計2の感度は高くなる。このように、傾斜計2の感度が高くなるのは、内側振子部24が中立状態(傾斜が無い場合の鉛直方向)から移動した場合、発磁体36とコイル部38の間に吸引力が働くためであり、感度の高さを内側磁石32と外側磁石30の間隔の大きさを変更することにより、調節するのである。また、内側磁石32と外側磁石30の間隔が小さくされた場合は、内側磁石32と外側磁石30の反発力が大きくなり、内側振子24は傾斜に対して変位しにくくなるため、傾斜計2の感度は低くなるのである。したがって、本実施形態では、発磁体36とコイル部38で傾斜計2の感度を高くし、内側磁石32と外側磁石30の間隔を変更することで、感度を調整していることになる。なお、外側磁石30と内側磁石32の間隔は、上述したように、第1の付勢手段の力と第2の付勢手段の力関係が上述の関係となるように調整される。
【0028】
傾斜計2の感度の調節が終了すると、傾斜計2は地中に深く掘られたボアホールの底部に傾斜計ベース部6を用いて設置される。ボアホールに傾斜計2を設置した状態で、傾斜計2の内側振子部24の位置がハウジング10に対する初期位置を向くように、傾斜計ベース部6の図示しない角度調節部が作動する。その後、地面の傾斜の測定が行なわれる。測定対象物である地面の傾斜がゼロの場合は、内側振子部24の初期位置からの変位はゼロである。地面がわずかに傾いた場合、内側振子部24は初期位置からわずかに変位するが、例えば、内側振子部24が図1の右側に変位した場合は、図3(b)の発磁体36が図3(b)の右側に変位することになり、コア44と図3(b)の左上の発磁体のS極、右上のN極、左下のN極、右下のS極がぞれぞれ吸引力を発生し、内側振子部24をより大きく右側に変位させる。これにより、内側振子部24は、わずかな地面の傾斜によっても、発磁体36とコイル部38の吸引力により、初期位置より変位することができる。
【0029】
また、さらに地面が傾斜し、内側振子部24が大きく変位すると、内側磁石32と外側磁石30の間隔が小さくなり、内側磁石32と外側磁石30の間で発生する反発力が大きくなる。これにより、内側振子部24は、地面の比較的大きな傾斜に対しても、内側振子部24の一部が外側振子部16等に当接して測定不能になることが低減できる。地面の傾斜の変化により発生した内側振子部24の変位量は、図4の回路により外部磁界Hexの変化量として測定することができ、内側振子部24の変位量に基づき、傾斜計2が測定する傾斜の大きさが演算される。
【0030】
したがって、本発明の第1の実施形態の傾斜計2は、発磁体36とコイル部38の吸引力により内側振子部24の変位量を大きくしたため、地面のわずかな傾斜を精度良く測定することができる。図1に示すように、内側振子部24は内側振子ヒンジ部26、内側腕部ヒンジ部22、外側振子部ヒンジ部18および外側腕部ヒンジ部14によりハウジング部10から吊り下げられているが、各ヒンジ部は地面のわずかな傾斜に対して、内側振子部24が変位しない方向へ力を付勢しており、この付勢力により傾斜計2の感度が低下させられるのである。本実施形態では、内側振子部24のわずかな変位により、各ヒンジ部の付勢力を小さくするような力を、発磁体36とコイル部38により発生させて、傾斜計2の感度を向上させるものである。
【0031】
また、本実施形態の内側磁石32と外側磁石30は、内側振子部24の変位量が大きくなるに従い、反発力が大きくなるため、傾斜計2の傾斜の測定レンジ(ダイナミックレンジ)を大きくすることができる。これは、地面の大きな傾斜に対しても、内側振子部24が他の部分に当接せず、内側振子部24の変位を傾斜による変位として測定することができるためである。また、本実施形態では、磁気の力のバランスによって、傾斜計2の感度を調節しているため、各ヒンジ部の特性変化等による感度変化があっても傾斜計2の性能への影響が少なく、長期に渡って安定した動作を確保することができる。
【0032】
また、本実施形態は、外側磁石30と外側磁石固定部28を用いてハウジング部10に固定する構成であるため、容易に傾斜計2の感度調整を行なうことができる。通常、傾斜計の感度を調整するためには、振子の長さを変更して振子の周期を変更することが必要であるが、本実施形態では、振子の長さを変更することなく、傾斜計2の感度を調整することができるのである。また、傾斜計2の各ヒンジ部の経時劣化等により、傾斜計2の感度が変化した場合でも、外側磁石30と内側磁石32の間隔を変更することで、傾斜計2の感度変化を抑制することができる。また、本実施形態は、内側振子部24の軸方向長さを長くすることなく、傾斜計2の感度を向上させることができるため、小型、軽量で高感度の傾斜計2を構成することができる。これにより、傾斜計2を孔径の小さいボアホールに設置することができる。
【0033】
また、本実施形態の傾斜計2は、傾斜計2の感度を向上するための発磁体36およびコイル部38を、内側振子部24の変位検出手段として用いることができるため、傾斜計2の構成を簡略化することができるとともに、傾斜計2を小型化することができる。
【0034】
次に、本発明に基づく傾斜計2を作製し、傾斜の変化を測定した結果を以下に示す。なお、測定に用いた傾斜計は、ハウジング部10の材質はりんせい銅、内側磁石32および外側磁石30の対向する面の面積は2mm、残留磁束密度Brは1.08T、保磁力bHcは626.3KA/m、エネルギー積は219.1KJ/mとした。また、発磁体36の残留磁束密度Brは1.08T、保磁力bHcは626.3KA/m、エネルギー積は219.1KJ/mとし、各磁石の材質は、SmCo(サマリウムコバルト)とした。また、変位検出装置2の内側振子部24の変位を測定するために用いた変位センサは、約50mV/μmの感度のものと用いた。なお、内側磁石32と外側磁石30の間隔を変更したものを図6から図8にそれぞれ示す。
【0035】
図6は、内側磁石32と外側磁石30の間隔を約4.2mmとしたものである。図6のグラフの横軸は傾斜計2に与えた傾斜角(μRad)であり、縦軸は与えられた傾斜角による図4の端子出力である。図6によれば、与えられた傾斜角がゼロから増加するときは、傾斜角が300μRad付近に比較して、グラフの傾きが急峻になっており、内側振子部24が発磁体36とコイル部38の吸引力により、変位量を拡大され、出力電圧が大きくなったと考えられる。また、傾斜角が300μRad付近では、グラフの傾きが緩やかになっており、内側磁石32と外側磁石30の反発力により、内側振子部24の変位量が小さくされ、出力電圧の上昇が抑えられたと考えられる。傾斜計2は、出力電圧より傾斜の値を検出するため、傾斜角がゼロ付近では、わずかな傾斜も精度良く検出できる。
【0036】
図7は、内側磁石32と外側磁石の間隔を約5.1mmとしたものである。図7においても図6と同様に、傾斜角ゼロ付近で出力電圧が大きく変化し、傾斜角が100μRad付近で出力電圧の上昇が抑えられている。図7では、1μRadあたり、140mVで測定することができ、図6よりも検出感度が高いことが確認された。
【0037】
図8は、内側磁石32と外側磁石30の間隔を約4.4mmとしたものである。図8においても、図6および図7を同様に、傾斜角ゼロ付近で出力電圧が大きく変化している。なお、図8の1μRadあたり45mVで測定可能であった。
【0038】
なお、本発明の実施形態は、内側振子部24の軸方向を鉛直方向に向けたものについて説明したが、これに限られず、鉛直方向から内側振子部24の軸方向を鉛直方向から水平方向に傾けた構成にすれば、傾斜計2の感度を向上させることができる。また、傾斜計2にバネ等を用いて力を発生させ、内側振子部24に作用する重力とバランスを取り、内側振子部24を振動の中心に位置させれば、傾斜計2を上下動成分の長周期地震計として利用することができる。なお、長周期地震計の上下成分を測定する場合は、バネ等が経年変化し、内側振子部24が振動の中心からずれることにより、地震観測ができなくなる場合がある。このような場合でも、傾斜計2の向きを180°回転させ、バネ等に加わる重力の向きを反転させれば、クリープによるばね定数の経年変化を避けることができ、地震計として長期間使用できる。
【0039】
なお、本実施形態では、ボアホール内に固定された傾斜計2に本発明が適用された例について説明したが、これに限らず、傾斜計2が固定される部分と、これに対して変位する変位量を用いて測定されるすべての変位検出装置に本発明を適用することができる。例えば、速度型地震計、加速度計に本発明を適用して良いことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る第一実施形態の傾斜計2の全体構成を示す正面図である。
【図2】本発明に係る第一実施形態の傾斜計2の全体構成を示す側面図である。
【図3】本発明に係る第一実施形態の傾斜計2の要部拡大図である。
【図4】本発明に係る第一実施形態の傾斜計2の変位検出手段を説明する回路図である。
【図5】本発明に係る第一実施形態の傾斜計2の変位検出手段の作動を説明するためのグラフである。
【図6】本発明に係る第一実施形態の傾斜計2の測定結果を示す図である。
【図7】本発明に係る第一実施形態の傾斜計2の測定結果を示す図である。
【図8】本発明に係る第一実施形態の傾斜計2の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
2 傾斜計
10 ハウジング部
24 内側振子部
28 外側磁石固定部
30 外側磁石
32 内側磁石
36 発磁体
38 コイル部
44 コア
46 巻線部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物側に設置されるハウジング部と、
前記ハウジング部から吊り下げられ、所定の復元力をもって初期位置に保持され、力が及ぼされた場合に前記初期位置から変位する振子部とを備え、
前記振子部の初期位置からの変位量を検出する変位検出装置であって、
前記振子の初期位置への復元力を減少する方向に、前記振子部に力を及ぼす第1の付勢手段と、
前記振子の初期位置への復元力を増加する方向に、前記振子部に力を及ぼす第2の付勢手段とを備え、
前記振子部の初期位置からの変位量が所定量以下の場合は、前記第1の付勢手段の力の大きさが前記第2の付勢手段の力の大きさよりも大きく、前記振子の変位量が所定値よりも大きい場合は、前記第1の付勢手段の力の大きさが前記第2の付勢手段の力の大きさよりも小さいことを特徴とする変位検出装置。
【請求項2】
前記第1の付勢手段は、一方をハウジング部に設置され、他方を振子部に設置され、互いに吸引力を発生させる少なくとも2つの磁性体であることを特徴とする請求項1に記載の変位検出装置。
【請求項3】
前記第2の付勢手段は、一方をハウジング部に設置され、他方を振子部に設置され、互いに反発力を発生させる少なくとも2つの磁性体と、前記振子部を前記ハウジング部から吊り下げる部分であって、前記振子部を変位位置から初期位置に戻す力を発生させる部分から構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の変位検出装置。
【請求項4】
前記第1の付勢手段の磁性体は、前記ハウジング部に固定されたコイル部の鉄心と、前記振子部に固定された永久磁石より構成されるものであり、前記永久磁石から前記コイル部に及ぼされる磁界に応じて、前記ハウジング部に対する前記振子部の変位量を検出する変位測定手段を兼ねることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の変位検出装置。
【請求項5】
前記第2の付勢手段の磁性体は、前記振子部に固定された振子部永久磁石と、前記ハウジング部に設置されたハウジング部永久磁石より構成されるものであり、前記ハウジング部永久磁石は前記振子部永久磁石との間の間隔を変更可能な状態でハウジング部に設置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の変位検出装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の変位検出装置を用いて前記振子部の変位量を検出し、前記振子部の変位量に基づき、測定対象物の傾斜角の変化を検出することを特徴とする傾斜計。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の変位検出装置を用いて前記振子部の変位量を検出し、前記振子部の変位量に基づき、測定対象物の加速度の変化を検出することを特徴とする加速度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−170152(P2008−170152A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348780(P2006−348780)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000137340)株式会社マコメ研究所 (20)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】