説明

変位検出装置、制御装置、工作機械装置、照射装置および変位検出方法

【課題】エンコーダ等の変位検出手段により検出される変位の誤差を低減する。
【解決手段】アクチュエータ17の出力としての変位を検出する変位検出手段10を含む変位検出装置であって、振動する駆動指令Tmがアクチュエータ17に供給されて変位検出手段10により検出された変位の振幅と駆動指令Tmの振幅との比を変位の予め定められた範囲にわたって複数得、得られた複数の比に基づいて、変位検出手段10により検出された変位を補正する補正手段18を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変位検出方法及びモータ制御装置に係り、特に、検出角度の補正を行う変位検出方法及び検出角度の補正を行うことにより検出精度を向上させたモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ穴あけ加工機、レーザトリマ装置、レーザリペア装置などの工作機械装置には、ガルバノモータと呼ばれる小出力電気モータが用いられる。ガルバノモータには高精度な角度検出器を備えることが要求され、インクリメンタルエンコーダが採用されている。
【0003】
インクリメンタルエンコーダとしては、光学式のロータリエンコーダやリニアエンコーダが知られている。このようなエンコーダは、位相が90°異なる2つの信号(正弦波信号と余弦波信号)を利用することにより、被検出物の変位量や変位方向などの変位情報を検出している。
【0004】
従来から、多くのエンコーダでは、検出精度を高めるため、出力信号の振幅、オフセット、位相を補正することが行われている。
【0005】
例えば、特開平8−145719号公報(特許文献1)には、エンコーダの出力信号の最大値と最小値や2相の出力信号の交点の情報に基づいて、振幅補正、オフセット補正、及び、位相補正を行うことが記載されている。また、特開平10−254549号公報(特許文献2)には、エンコーダの出力信号の最大値の平均値と最小値の平均値に基づいて、振幅補正及びオフセット補正を行うことが記載されている。
【特許文献1】特開平8−145719号公報
【特許文献2】特開平10−254549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の補正手段は、エンコーダの出力信号が理想的な正弦波信号であるとして補正を行っていた。ところが実際には、エンコーダの出力信号は、高調波成分や非線形成分を含んでいるため、理想的な正弦波信号ではない。このため、従来の補正手段にてエンコーダの出力信号を補正した場合でも、エンコーダの出力信号は理想的な正弦波信号にはならない。
【0007】
多くのエンコーダは、正弦波信号と余弦波信号から分割単位に相当する位相差を有する複数の分割パルスを生成し、被検出物の変位情報の検出分解能を高めている。このような手法を電気分割というが、エンコーダの出力信号が理想的な正弦波信号でないことは、電気分割の際における誤差の原因となっていた。
【0008】
また、エンコーダは、そのスケールピッチが等間隔になるように加工されているが、実際には加工誤差を有している。
【0009】
そこで、本発明は、エンコーダ等の変位検出手段により検出される変位の誤差を低減する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のうちの代表的な一つは、アクチュエータの出力としての変位を検出する変位検出手段を含む変位検出装置であって、振動する駆動指令が前記アクチュエータに供給されて前記変位検出手段により検出された前記変位の振幅と前記駆動指令の振幅との比を前記変位の予め定められた範囲にわたって複数得、得られた複数の比に基づいて、前記変位検出手段により検出された前記変位を補正する補正手段を有することを特徴とする変位検出装置である。
【0011】
また、本発明のうちの代表的な一つは、アクチュエータの出力としての変位を検出する変位検出手段を用いた変位検出方法であって、振動する駆動指令が前記アクチュエータに供給されて前記変位検出手段により検出された前記変位の振幅と前記駆動指令の振幅との比を前記変位の予め定められた範囲にわたって複数得、得られた複数の比に基づいて、前記変位検出手段により検出された前記変位を補正することを特徴とする変位検出方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エンコーダ等の変位検出手段により検出される変位の誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1におけるモータ制御装置の制御ブロック図である。
【図2】実施例1におけるモータの回転角度θmとエンコーダによる検出角度θm’との関係を示す図である。
【図3】実施例1におけるモータの回転角度θmと検出誤差θm’−θmとの関係を示す図である。
【図4】実施例1におけるモータの駆動トルクTmの振幅スペクトルを示す図である。
【図5】実施例1におけるモータの検出角度θm’の角度応答θm’pの振幅スペクトルを示す図である。
【図6】実施例1における補正データを示す図である。
【図7】実施例1において補正前の検出誤差θm’−θと補正後の検出誤差θm’’−θを示す図である。
【図8】実施例2におけるモータの回転角度θmとエンコーダによる検出角度θm’との関係を示す図である。
【図9】実施例2におけるモータの回転角度θmと検出誤差θm’−θmとの関係を示す図である。
【図10】実施例2における補正データを示す図である。
【図11】実施例2において補正前の検出誤差θm’−θと補正後の検出誤差θm’’−θを示す図である。
【図12】実施例1における補正手順を示すフローチャートである。
【図13】レーザ加工機の一例を示す概略図である。
【図14】モータ制御装置の一例を示す概略図である。
【図15】ロータリエンコーダのスケールの一例を示す平面図である。
【図16】エンコーダ出力のA相信号とB相信号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
まず、工作機械装置の一例として、レーザ加工機の構成を説明する。図13にレーザ加工機100の概略図を示す。レーザ加工機100は、基板の切断や穴あけ、金属間の溶接など、幅広い用途に利用される。
【0016】
本実施例のレーザ加工機100は、回転モータ101、102を備える。回転モータ101、102は、ミラー103、104をそれぞれ回転駆動するために設けられている。ミラー103、104は、回転モータ101、102により回転駆動され、その向きが変化する。
【0017】
このように、回転モータ101、102を用いてミラー103、104の向きを変化させることにより、レーザ光Lの進行方向を変えることができる。なお、後述のように、回転モータ101、102にはモータの回転変位量を検知するためのエンコーダが設けられている。モータの回転変位量を正確に検知することにより、レーザ光Lの進行方向を正確に制御することができる。
【0018】
レーザ発振器105から射出されたレーザ光Lは、ミラー103、104を経由して、レーザ加工面106に照射される。加工の対象となるレーザ加工面106としては、金属やガラス、プラスチックなど広範の材料が選択できる。
【0019】
上記のとおり、レーザ加工機100においては、ミラー103、104が回転することによりレーザ光Lの進行方向を正確に制御することができる。このため、レーザ加工面106が平坦でない場合でも、レーザ加工面106を高精度に加工することが可能である。
【0020】
次に、レーザ加工機100に用いられるモータ制御装置の構成を説明する。図14にモータ制御装置の概略図を示す。また、図15にエンコーダのスケール201の概略平面図を示す。
【0021】
本実施例のモータ制御装置200は、回転モータ101の回転変位量を検出するための光学式のエンコーダを有する。エンコーダは、回転スリット円板及び固定スリット円板を有するスケール201と、発光素子(発光ダイオード)と受光素子(フォトダイオード)を有するセンサ部202とからなる。回転スリット円板は回転モータ101の回転とともに回転し、固定スリット円板は固定されている。エンコーダは、発光素子と受光素子の間に回転スリット円板と固定スリット円板を配置した構成となっている。
【0022】
回転スリット円板と固定スリット円板には、多数のスリットが設けられている。発光素子の光は、回転スリット円板が回転することにより、透過又は遮断する。また、固定スリット円板は、エンコーダの出力信号を複数相にするため、固定スリットは複数に分かれている。このため、発光素子と受光素子も複数個設けられている。
【0023】
図15に示すように、エンコーダのスケール201は、A相パターン205とB相パターン206のスリットが設けられている。スケール201は、回転軸204を中心に回転する。回転中に、発光素子からの光がA相パターン及びB相パターンそれぞれのスリットを透過すると、2つの受光素子それぞれが発光素子の光を検知する。この結果、図16に示すように、互いに位相が90°異なるA相信号とB相信号が生成される。なお、図16のA相信号及びB相信号は、正弦波状のエンコーダ出力を波形整形回路により波形整形した矩形波信号である。
【0024】
モータコントローラ203は、回転モータ101の回転駆動を制御する。モータコントローラ203は、目標値であるモータ回転角度と実測値であるモータ検出角度とを比較して、実測値が目標値に等しくなるように、フィードバック制御する。この結果、ミラー103の向きを目標値どおりの角度に変更することができる。
【0025】
なお、エンコーダの検出原理は光学式に限られず、磁気式など他の方式を採用することも可能である。
【実施例1】
【0026】
次に、本発明の実施例1における変位検出方法及びモータ制御装置を説明する。図1は、モータ制御装置のコントローラが実行する制御ブロック図である。
【0027】
図1の制御ブロックは、モータの回転角度θmを検出するための角度検出器としてロータリエンコーダを用いた位置決め制御系である。本図では、トルク指令に対する位置応答が1/sとなる簡易なモータモデルと、位置及び速度フィードバックを行う比例制御の位置決め制御系を示している。
【0028】
1は目標角度指令である。目標角度指令1は、モータ17から出力される回転角度θmの目標値を指令する。2は第1の加算器である。第1の加算器2は、補正手段18から出力される補正角度19をフィードバックして、目標角度指令1による目標値と補正角度19を加算する。3は第2の加算器である。第2の加算器3は、第1の加算器2の出力信号と微分器12から出力された速度フィードバック信号とを加算する。
【0029】
4はトルク指令である。トルク指令4は、目標角度指令1を第1の加算器2及び第2の加算器3を介することにより計算される。5は第3の加算器である。第3の加算器5は、信号生成手段13により生成された正弦波信号をトルク指令4に重畳する。6は駆動トルクである。駆動トルク6は、第3の加算器5から出力され、モータ17に供給される。このように、第3の加算器は、駆動トルク6をモータに供給する駆動手段として機能する。
【0030】
17はモータである。モータ17は積分器7,8を備え、これらの積分器を介して、モータの回転角度9(θm)を出力する。本実施例のモータ17が2つの積分器7,8を有するのは、トルク指令4に対する位置応答が1/sとなるモータモデルを考えているからである。
【0031】
ここで、モータの変位量である回転角度9(θm)はモータの実際の回転角度を示している。すなわち、回転角度9(θm)はモータの実際の変位量である。このため、エンコーダで検出した検出角度(実測値)とは異なる。
【0032】
10はエンコーダである。エンコーダ10は、モータ17の実際の回転角度9(θm)を検出する変位検出手段である。11は検出角度θm’である。検出角度11(θm’)は、変位検出手段であるエンコーダ10により検出された変位量(角度)である。エンコーダ10は、モータ17の実際の回転角度9(θm)を検出して、モータ17の検出角度11(θm’)を算出する。なお、エンコーダ10から出力される正弦波信号には、高調波成分が含まれている。また、エンコーダ10のスケールには加工誤差がある可能性もある。このため、厳密には、エンコーダ10により求められたモータの検出角度11(θm’)は、モータ17の実際の回転角度9(θm)とは異なる。すなわち、モータ17の実際の回転角度9(θm)とエンコーダ10により検出されたモータ17の検出角度(θm’)の間には誤差がある。
【0033】
12は微分器である。微分器12は、補正手段18により補正された補正角度19(θ’’)を時間で微分することにより、モータの回転速度を求める。微分器12で求められた回転速度は、速度フィードバック信号として第2の加算器3に入力される。
【0034】
13は信号生成手段である。本実施例の信号生成手段13は、所定の振幅及び周波数を有する正弦波信号を生成して、この正弦波信号を駆動手段である第3の加算器に供給する。なお、本実施例の信号生成手段13は正弦波信号を生成するが、これに代えて、ガウシアンノイズや三角波など他の信号を生成して第3の加算器に供給するものであってもよい。
【0035】
14は第1のフーリエ変換器である。第1のフーリエ変換器14は、第3の加算器5から出力された駆動トルク6を入力し、駆動トルク6のフーリエ変換を行う。第1のフーリエ変換器14からは、駆動トルク6のフーリエ変換を行った結果として、第1の振幅スペクトルが出力される。
【0036】
15は第2のフーリエ変換器である。第2のフーリエ変換器15は、エンコーダの出力信号に基づいて求められたモータの検出角度11(θm’)を入力し、検出角度11のフーリエ変換を行う。第2のフーリエ変換器15からは、検出角度11のフーリエ変換を行った結果として、第2の振幅スペクトルが出力される。
【0037】
16は補正データ生成手段である。補正データ生成手段16は、第1の振幅スペクトルと第2の振幅スペクトルの振幅スペクトル比を求める。また、補正データ生成手段16は、振幅スペクトル比から補正データW〔n〕を生成する。すなわち補正データ生成手段16は、所定の正弦波信号が第3の加算器5に供給されたときの駆動トルク6及びエンコーダ10により検出された検出角度θm’から補正データを生成する。
【0038】
18は補正手段である。補正手段18は、補正データ生成手段16にて生成された補正データW〔n〕を用いてエンコーダで検出されたモータの検出角度11(θm’)を補正する。補正手段18は、変位検出手段であるエンコーダによる検出角度11(θm’)を、実際のモータの回転角度9(θm)に等しくなるように補正を行う。このため、補正手段18にて補正された補正角度19は、実際のモータの回転角度(θm)に極めて近い値となる。補正角度19は、第1の加算器2及び第2の加算器3へフィードバックされる。
【0039】
次に、図1の制御ブロックにて生じる検出角度の誤差及びその補正方法について、以下、詳細に説明する。
【0040】
まず、高調波成分を含むエンコーダ信号がモータの検出角度θm’に与える誤差について説明する。なお、本実施例では、回転型のモータにおける角度検出器として、ロータリエンコーダが用いられている。エンコーダは、モータの変位検出手段として機能する。
エンコーダは、モータの1回転当たり、正弦波状の2相信号を各々140000周期で出力する。モータの回転角度をθm〔rad〕とすると、エンコーダの位相角度θeは、
【0041】
【数1】

【0042】
で表され、理想的な正弦波を出力するエンコーダの2相信号Asig、Bsigは、
【0043】
【数2】

【0044】
【数3】

【0045】
となる。また、ここでは、下記のような3次及び5次の高調波を含むエンコーダ信号について考える。
【0046】
【数4】

【0047】
【数5】

【0048】
ここで、高調波を含むエンコーダ信号を理想的な正弦波信号であるとして、tan−1(アークタンジェント)により電気分割した場合の誤差を考える。高調波を含むエンコーダ信号よりエンコーダの位相角度θe’ を求めると、
【0049】
【数6】

【0050】
となる。また、モータの検出角度をθm’〔rad〕は、エンコーダの位相角度θe’より、
【0051】
【数7】

【0052】
で表わされる。ここで、エンコーダは周期関数であるため、エンコーダの位相角度θeを−π≦θe≦πの範囲で考える。
【0053】
このときのモータの検出角度θm’とモータの回転角度θmとの関係を図2に示す。図2において、横軸はモータの回転角度θm、縦軸は電気分割により求めたモータの検出角度θm’を示している。検出誤差がゼロの理想的な場合には、図2に示されるグラフは直線状になる。しかし、実際には誤差が生じているため、図2に示されるグラフは歪んだ直線になっている。
【0054】
また、エンコーダによる検出誤差θm’−θmとモータの回転角度θmとの関係を図3に示す。図3において、横軸はモータの回転角度θm、縦軸はモータの回転角度θmと電気分割により求めたモータの検出角度θm’との検出誤差θm’−θmを示している。検出誤差がゼロの理想的な場合、縦軸の検出誤差θm’−θmは横軸の回転角度θmに依存せず常にゼロを示す。しかし、実際には誤差が生じているため、図3に示されるグラフは正弦波状に変化する。
【0055】
以上のとおり、モータの実際の回転角度θmとエンコーダにより検出された検出角度θm’の間には、エンコーダ出力の高調波成分による検出誤差が生じている。
【0056】
次に、エンコーダにより検出された検出角度θm’の補正方法について、図12に示す補正手順のフローチャートを参照しながら説明する。なお、本実施例の補正方法は、エンコーダをモータに組み込んだ状態にて行われる。
【0057】
また、本実施例のモータ制御装置は、エンコーダの検出角度を補正するための補正モードと、実際のモータ制御を行う制御モードとを有する。モータ制御装置は、補正モードにて検出角度を補正してから、制御モードに移行して通常のモータ制御を行う。
【0058】
図1に示される制御系において、エンコーダによりモータの検出角度θm’を検出して、モータの位置決め制御を行う。ここでは、
【0059】
【数8】

【0060】
で表される360点での補正係数を求める。
【0061】
最初に、数式(8)おいて、θm’〔0〕=−π/140000(n=0の場合)を満たす位置(角度)を検出する(ステップS1)。そして、モータをこの位置に位置決め制御する(ステップS2)。次に、位置決め制御した状態で、信号生成手段13にて生成された100Hzの正弦波信号をトルク指令4に重畳する(ステップS3)。なお、正弦波の周波数は100Hzに限定されるものではなく、他の周波数を用いることもできる。
【0062】
この結果に基づいて、第3の加算器5から出力された駆動トルク6をモータ17に供給し、駆動トルク6及び検出角度θm’の角度応答を測定する(ステップS4)。このときの駆動トルクをTm〔0〕、また、モータの検出角度θm’の角度応答をθm’p〔0〕とする。
【0063】
ここで、nの値が360より小さいか否かを判定する(ステップS5)。nの値が360より小さい場合には、nに1を加えて(ステップS6)、ステップS2乃至ステップS4の動作を繰り返す。すなわち、n=1、2、…、358、359(n<360)の場合について、n=0の場合と同様に、モータの駆動トルクTm〔n〕、及び、検出角度θm’の角度応答θm’p〔n〕を求める(ステップS4)。
【0064】
nの値が360に達した場合には、モータの駆動トルクTm及び角度応答θm’pを各々フーリエ変換し、各々の振幅スペクトルを求める(ステップS7)。モータの駆動トルクTmの振幅スペクトルを図4に示す。また、角度応答θm’pの振幅スペクトルを図5に示す。なお、図4及び図5に示される振幅スペクトルは、正弦波信号の重畳周波数100Hzの項のみを表している。
【0065】
ここで、エンコーダによる検出誤差がない場合、駆動トルクTmに対して、モータ17の検出角度θm’の角度応答θm’pは一定である。換言すると、駆動トルクTmの振幅スペクトルに対する角度応答の振幅スペクトル(振幅スペクトル比)は一定となる。
【0066】
しかしながら、実際にはエンコーダによる検出誤差が生じている。このため、図4及び図5に示されるように、検出角度θm’を用いた場合、振幅スペクトル比は一定にならない。
【0067】
そこで、検出誤差が生じている場合に、振幅スペクトル比を一定にするための補正データW〔n〕を作成する(ステップS8)。補正データW〔n〕は、検出角度θm’がθm’〔n〕 ≦θm’< θm’〔n+1〕のときの重みデータであり、下記の数式(9)及び数式(10)を満足するように求める。
【0068】
【数9】

【0069】
【数10】

【0070】
ここで、数式(9)におけるKは任意の定数である。DFT(θm’p)は、検出角度θmの角度応答θm’pをフーリエ変換して求めた振幅スペクトル(100Hzの項)である。また、DFT(Tm)は、駆動トルクTmをフーリエ変換して求めた振幅スペクトル(100Hzの項)である。図6に、補正データWと検出角度θm’との関係を示す。このような補正データWを用いて補正を行うことにより、駆動トルクTmと角度応答θm’pの振幅スペクトル比は一定となる。なお、振幅スペクトルの測定及び振幅スペクトル比の測定は、駆動トルクTm〔n〕と角度応答θm’p〔n〕の測定(図12のステップS4)の直後に行うこともできる。
【0071】
検出角度θm’に補正を施した補正角度θm’’は、補正データW〔n〕を用いることにより求められる(ステップS9)。補正角度θm’’は、検出角度θm’が(2π/360)×(n−180)/140000≦θm’<(2π/360)×((n+1)−180))/140000を満たすとき、
【0072】
【数11】

【0073】
で表される。
【0074】
図7に、モータの回転角度θに対する補正後の検出誤差θm’’−θm及び補正前の検出誤差θm’−θmを示す。図7において、横軸はモータの回転角度θm、縦軸は検出誤差である。また、モータの回転角度θmと補正前の検出角度θm’との検出誤差θm’−θmを破線で示し、
モータの回転角度θmと補正後の検出角度θm’’との検出誤差θm’’−θmを実線で示している。
【0075】
図7に示されるように、補正前の検出誤差θm’−θmは大きい。しかし、補正後の検出誤差θm’’−θmは極めて小さくなっている。すなわち、補正データWを用いて算出された補正角度θm’’は、実際のモータの回転角度θmに極めて近い値になっている。
【0076】
上記のとおり、本実施例の変位検出方法では、モータの検出角度θm’のうち補正すべき範囲内の複数の検出角度にて、順次振幅スペクトルの測定を行う。そして、任意の駆動トルクに対する検出角度θm’の位置応答が駆動トルクの応答と同じになるように、検出角度θm’の補正を行う。
【0077】
モータ制御装置は、補正モードにおいて補正角度θm’’が算出されると、通常のモータ制御を行う制御モードに移行する。制御モードにおいて、モータ制御装置の駆動手段である第3の加算器5は、補正モードにおいて算出された補正角度θm’’を利用してモータ17を駆動制御する。
【0078】
以上のとおり、本実施例によれば、振幅スペクトル比を一定にするための補正データWを用いることにより、高調波信号を含むエンコーダの出力信号に対する検出誤差を効果的に低減することができる。この結果、エンコーダの出力信号に含まれる高調波成分による誤差を低減する変位検出方法を提供することができる。また、エンコーダの検出誤差が小さくなるようにエンコーダの検出角度を補正するため、高精度なモータ制御装置を提供することができる。
【実施例2】
【0079】
本実施例では、エンコーダのスケールピッチに加工誤差を有する場合を考える。実施例1と同様に回転型モータに角度検出器としてロータリエンコーダを用いている。
【0080】
実施例1と同様に、本実施例のエンコーダは、モータの1回転当たり、正弦波状の2相信号を各々140000周期で出力する。実際のモータの回転角度をθm〔rad〕とすると、エンコーダの位相角度θeは、数式(1)と同様に、
【0081】
【数12】

【0082】
で表される。また、エンコーダの2相の正弦波信号Asig、Bsigは、数式(2)、数式(3)と同様に、下記のようになる。
【0083】
【数13】

【0084】
【数14】

【0085】
しかしながら、スケールピッチに加工誤差を有している場合には、数式(12)の関係が満たされず、正確な位置を検出することができない。本実施例では、上記のようにスケールピッチの加工誤差がある場合のモータの検出角度θm’を補正する手順について説明する。
【0086】
まず、スケールピッチに加工誤差を有するエンコーダの出力信号が、モータの検出角度に与える誤差を説明する。
【0087】
モータの回転角度θmに対して、数式(15)、数式(16)を満たすスケールについて考える。モータの回転角度範囲が(−π/140000)×1.2≦θm<0のとき、エンコーダの位相角度θe’は、
【0088】
【数15】

【0089】
で表される。また、モータの回転角度範囲が0≦θm<(π/140000)×0.8のとき、エンコーダの位相角度θe’は、
【0090】
【数16】

【0091】
で表される。このとき、本実施例のエンコーダのスケールには、数式(15)、数式(16)の関係を満たす加工誤差が生じている。なお、上記以外の範囲では、スケールの加工誤差はないとする。エンコーダの出力信号が高調波を含まない理想的なものであるとすると、モータの検出角度θm’は、
【0092】
【数17】

【0093】
となる。
【0094】
このときのモータの検出角度θm’とモータの回転角度θmとの関係を図8に示す。図8において、横軸はモータの回転角度θm、縦軸はスケール加工誤差を有するエンコーダで検出したモータの検出角度θm’を示している。加工誤差がゼロの理想的な場合には、図8に示されるグラフは直線状になる。しかし、本実施例のスケールには数式(15)、数式(16)を満たす加工誤差が生じているため、図2に示されるグラフは歪んだ直線になっている。
【0095】
また、スケール加工誤差を有するエンコーダによる検出誤差θm’−θmとモータの回転角度θmとの関係を図9に示す。図9において、横軸はモータの回転角度θm、縦軸はモータの回転角度θmとスケール加工誤差を有するエンコーダで検出したモータの検出角度θm’との検出誤差θm’−θmを示している。加工誤差がゼロの理想的な場合、縦軸の検出誤差θm’−θmは横軸の回転角度θmに依存せず常にゼロを示す。しかし、実際には加工誤差が生じているため、図3に示されるように変化する。
【0096】
次に、スケールの加工誤差に伴う検出誤差θm’−θmの補正方法を説明する。補正方法は実施例1における補正方法と同様である。まず、位置決め制御した状態で、モータへのトルク指令に100Hzの正弦波信号を重畳する。正弦波信号が重畳された駆動トルクをモータに印加し、駆動トルクTm及びモータの角度応答θm’pを測定する。その後は、数式(8)〜数式(10)を用いて、補正データを作成する。
【0097】
本実施例において作成された補正データWを図10に示す。縦軸は補正データW、横軸は検出角度θm’を示している。本実施例のスケールの加工誤差は、数式(15)、数式(16)を満たすものであるから、補正データWは、検出角度θm’が0より小さいところで1.2を示している。また、補正データWは、検出角度θm’が0以上のところで0.8を示している。
【0098】
次に、補正データWを用いて検出角度θm’を補正した補正角度θm’’を説明する。
【0099】
図11に、モータの回転角度θに対する補正後の検出誤差θm’’−θm及び補正前の検出誤差θm’−θmを示す。図11において、横軸はモータの回転角度θm、縦軸は検出誤差である。なお、モータの回転角度θmと補正前の検出角度θm’との検出誤差θm’−θmを破線で示し、モータの回転角度θmと補正後の検出角度θm’’との検出誤差θm’’−θmを実線で示している。
【0100】
図11に示されるように、補正前の検出誤差θm’−θmは大きい。しかし、補正後の検出誤差θm’’−θmは極めて小さくなっている。すなわち、補正データWを用いて算出された補正角度θm’’は、実際のモータの回転角度θmに極めて近い値になっている。
【0101】
モータ制御装置は、補正モードにおいて補正角度θm’’が算出されると、通常のモータ制御を行う制御モードに移行する。制御モードにおいて、モータ制御装置の駆動手段である第3の加算器5は、補正モードにおいて算出された補正角度θm’’を利用してモータ17を駆動制御する。
【0102】
以上のとおり、本実施例によれば、振幅スペクトル比を一定にするための補正データWを用いることにより、エンコーダのスケール加工誤差による検出誤差を効果的に低減することができる。この結果、スケール加工誤差による検出誤差を低減する変位検出方法を提供することができる。また、スケール加工誤差に基づくエンコーダの検出角度を補正することにより、高精度なモータ制御装置を提供することができる。
【0103】
以上、本発明を実施例に基づいて具体的に説明した。ただし、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲で適宜変更が可能である。
【0104】
例えば、実施例1及び2では、可動機構として回転機構が用いられているが、これに代えて、直動機構を用いることもできる。したがって、本発明は、ロータリエンコーダ及びリニアエンコーダのいずれにも適用できる。また、可動機構としてモータが用いられているが、これに代えて、ピエゾなどのアクチュエータを用いることもできる。
【0105】
また、変位検出手段としてエンコーダが用いられているが、これに代えて、静電容量センサやPSD(光位置センサ:Position Sensitive Detector)を用いることもできる。静電容量センサやPSDを用いれば、変位検出のリニアリティ補正を行うことが可能である。
【0106】
また、駆動力に対して変位量を一定の関係となるように、駆動力又は変位量の1階以上の微分値もしくはその積分値を用いてもよい。
【0107】
また、実施例2において、エンコーダのスケールピッチが不均質としても、不均質を含む角度もしくは位置範囲を設定して、補正重み係数を求めることで変位補正を行うことができる。
【0108】
また、上記実施例の補正方法を用いたガルバノモータの位置決め装置、又は、これを用いたレーザ加工機、工作機械によれば、エンコーダの検出精度が容易に改善し、位置決め精度を向上させることができる。このことにより機械の性能を向上させ、加工物、工作物の品質を向上させることが可能になる。
【符号の説明】
【0109】
1 目標角度指令
2 第1の加算器
3 第2の加算器
4 トルク指令
5 第3の加算器
6 駆動トルク
7、8 積分器
9 回転角度
10 エンコーダ
11 検出角度
12 微分器
13 信号生成手段
14 第1のフーリエ変換器
15 第2のフーリエ変換器
16 補正データ生成手段
17 モータ
18 補正手段
19 補正角度
100 レーザ加工機
101、102 回転モータ
103、104 ミラー
105 レーザ発信器
106 レーザ加工面
200 モータ制御装置
201 スケール
202 センサ部
203 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータの出力としての変位を検出する変位検出手段を含む変位検出装置であって、
振動する駆動指令が前記アクチュエータに供給されて前記変位検出手段により検出された前記変位の振幅と前記駆動指令の振幅との比を前記変位の予め定められた範囲にわたって複数得、得られた複数の比に基づいて、前記変位検出手段により検出された前記変位を補正する補正手段を有することを特徴とする変位検出装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記範囲にわたって前記比が一定となるように補正データを生成し、該補正データを用いて、前記変位検出手段により検出された前記変位を補正することを特徴とする請求項1に記載の変位検出装置。
【請求項3】
前記駆動指令は、正弦波信号であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の変位検出装置。
【請求項4】
前記補正手段は、前記変位検出手段により検出された前記変位の振幅スペクトルと前記駆動指令の振幅スペクトルとを求めて前記比を得ることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の変位検出装置。
【請求項5】
前記変位検出手段はエンコーダであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の変位検出装置。
【請求項6】
前記アクチュエータはモータであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の変位検出装置。
【請求項7】
アクチュエータと、
前記アクチュエータの出力としての変位を検出する請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の変位検出装置と、
前記変位検出装置により検出された前記変位に基づいて前記アクチュエータを制御する制御手段と、を有することを特徴とする制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の制御装置を有する、ことを特徴とする工作機械装置。
【請求項9】
請求項7に記載の制御装置と、
前記アクチュエータにより駆動されるミラーと、を有し、
前記ミラーを介して光を対象に照射することを特徴とする照射装置。
【請求項10】
アクチュエータの出力としての変位を検出する変位検出手段を用いた変位検出方法であって、
振動する駆動指令が前記アクチュエータに供給されて前記変位検出手段により検出された前記変位の振幅と前記駆動指令の振幅との比を前記変位の予め定められた範囲にわたって複数得、得られた複数の比に基づいて、前記変位検出手段により検出された前記変位を補正することを特徴とする変位検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−40955(P2013−40955A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−225574(P2012−225574)
【出願日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【分割の表示】特願2007−238695(P2007−238695)の分割
【原出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】