変倍結像光学系及びそれを有する撮像装置
【課題】 収差を抑えながらこの変倍比を上げることが可能な変倍結像光学系及びそれを有する撮像装置を提供する。
【解決手段】 少なくとも2つ以上の回転非対称面を有する複数の光学素子から成る光学群を少なくとも2つ有し、該光学群内の光学素子が互いに光軸と異なる方向に移動することでパワーを変化させることが可能な変倍結像光学系において、光軸方向に光学素子を動かすことなく主点位置が光軸方向に動き、前記第1及び第2の群の少なくとも1つの主点位置を該群の外側にすることが可能な形状を有することを特徴とする変倍結像光学系を提供する。
【解決手段】 少なくとも2つ以上の回転非対称面を有する複数の光学素子から成る光学群を少なくとも2つ有し、該光学群内の光学素子が互いに光軸と異なる方向に移動することでパワーを変化させることが可能な変倍結像光学系において、光軸方向に光学素子を動かすことなく主点位置が光軸方向に動き、前記第1及び第2の群の少なくとも1つの主点位置を該群の外側にすることが可能な形状を有することを特徴とする変倍結像光学系を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に撮像装置、投射装置、露光装置、読み取り装置等の全ての変倍結像光学系に関するものであり、特に小型の撮像装置に有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラやカメラ付き携帯電話の普及により、小型カメラの活躍する場が急速に広がっている。小型カメラは更なる小型化に向い、撮像素子の小型化の要求はとどまるところを知らない。それに加え、ズーム化や広角化、高精細化などの付加価値を高める要求も増大している。小型化と高付加価値化、これら両者を達成する難しさをズーム化の点から述べると、ズームは通常、受光面(CCD等)に対してレンズを光軸上に移動させることで行われ、物体方向に移動させると光学全長が長くなる。これが小型化の足かせとなっているのが現状である。
【0003】
従来技術としては特許文献1乃至3がある。特許文献1は、3次関数で表される曲面をレンズに与え、そのレンズ2枚を光軸方向とは異なる方向にずらしてパワーを変化させ、小型化を図っている。このレンズはいわゆるアルバレツレンズと呼ばれ光軸方向に繰り出さないので、ズームレンズに適用すれば全長を短くできる可能性がある。特許文献2は、3次だけではなく高次の項、特に5次の項を曲面に与えることで収差を除去することを提案している。特許文献3は、このレンズを最低2つ配置し、像点を一定にしながらパワーを変化させることを提案している。
【0004】
回転非対称レンズが含まれる場合には、通常の共軸レンズと異なり共通の軸を持たない。こうした非共軸光学系は、オフアキシャル(Off−Axial)光学系と呼ばれる。オフアキシャル(Off−Axial)光学系は、像中心と瞳中心を通る光線が辿る経路を基準軸としたときに、構成面の基準軸との交点における面法線が基準軸上にない曲面(Off−Axial曲面)を含む光学系として定義される。この場合、基準軸は折れ曲がった形状となるため、近軸量の算出も共軸系の近軸理論ではなく、Off−Axial理論を元にした近軸理論を使わなければならない。特許文献4は、焦点距離、前側主点位置、後側主点位置の各近軸値を各面の曲率と各面間隔を元に4×4行列式を計算することで導出及び定義する。
【特許文献1】米国特許第3305294号明細書
【特許文献2】米国特許第3583790号明細書
【特許文献3】特開平01−35964号公報
【特許文献4】特開平09−5650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
変倍結像光学系を設計するにあたり、特許文献1と特許文献2は、1組の回転非対称レンズを用いてパワーを変化させる方法及び収差補正についての言及にとどまるため、像面を一定にすることはできないという問題がある。また、特許文献3では像点を一定にしながらパワーを変化させる原理を述べてはいるものの、収差の補正を行い実際に変倍結像光学系の設計をするまでには至っていない。特許文献3を基に実際に変倍結像光学系の設計を行った。設計例を示す前に実施形態における構成諸元の表し方及び各実施形態に共通する事項について説明する。
【0006】
Off−Axial光学系において、基準軸は図2のように折れ曲がった形状となる。そこで、第1面の中心を原点とする絶対座標系として、原点と瞳中心を通る光線が辿る経路を基準軸とする。また、像中心と第1面の中心である絶対座標系の原点を結ぶ直線をZ軸と定め、向きは第1面から像中心に向かう方向を正とする。このZ軸を光軸と呼ぶこととする。さらに、Y軸は原点を通り右手座標系の定義に従ってZ軸に対して反時計回り方向に90゜をなす直線とし、X軸は原点を通りZ、Yの各軸に垂直な直線とする。本出願では、近軸値はOff−Axialの近軸追跡を行った結果である。特に断らない限り、Off−Axialの近軸追跡を行い、近軸値を算出した結果とする。また、光学系は、回転非対称な非球面を2面以上有し、その形状は以下の式で表す。
【0007】
【数1】
【0008】
数式1はxに関して偶数次の項のみであるため、数式1により規定される曲面はyz面を対称面とする面対称な形状である。
【0009】
また、以下の条件が満たされる場合はxz面に対して対称な形状を表す。
【0010】
【数2】
【0011】
更に、以下の条件が満たされる場合は回転対称な形状を表す。
【0012】
【数3】
【0013】
【数4】
【0014】
【数5】
【0015】
以上の条件を満たさない場合は回転非対称な形状である。
【0016】
以下、特許文献3を基に実際に変倍結像光学系の設計を示す。変倍結像光学系は2枚の回転非対称レンズ群2つから成り、それらを物体側から1群、2群とする。まずこれらの群を1つの薄肉レンズで近似し近軸計算を行う。次に各薄肉レンズのパワーを1群、2群それぞれφ1、φ2とし、主点間隔とバックフォーカスをそれぞれe、Skとする。また、全系のパワーをφ、焦点距離をfとすると、
次式が成立する。
【0017】
【数6】
【0018】
また、バックフォーカスSkは近軸計算から次式が成り立つ。
【0019】
【数7】
【0020】
ここで主点間隔eおよびバックフォーカスSkを定めると、数式6及び7からφ1及びφ2は全系のパワーφの関数として表される。即ち、全系のパワー変化における1群及び2群のパワー変化の軌跡を表すことができる。そこで、主点間隔e=3とし、バックフォーカスSk=15とするとφ1、φ2は以下となる。
【0021】
【数8】
【0022】
【数9】
【0023】
全系のパワーφに対するφ1、φ2の関係をグラフで表すと図3のようになる。これを見ると、全系のパワーが増加するに従って1群は正から負に、2群は逆に負から正に変化していることが分かる。ここで、回転非対称曲面は数式10で表され、またその係数aとパワーとの関係は数式11となる。
【0024】
【数10】
【0025】
【数11】
【0026】
x,y,zは上記に示した軸である。δは2枚の回転非対称レンズのZ軸からのY軸方向へのずれ量、nはレンズの屈折率である。
回転非対称レンズの係数a,nを表1に示し、併せてZ軸からのずれ量δを望遠端(テレ端)・中間(ミドル)・広角端(ワイド端)の順に示す。また、表2は、各面の面のタイプ及び面間隔を示す。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
更に、それらの値に基づいてズームレンズを設計した。それを図4に示す。基準面S0に入射した光線はまず群G1に入射する。群G1はE1、E2の2つのレンズから構成され、面の番号はS1からS4とする。E1とE2のレンズはY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによってG1のパワーを図2に示すように正から負に変化させている。G1を射出した光線は次に絞りS5を通過し、G2に入射する。G2はG1と同様にE3、E4の2つのレンズから構成され、面の番号はS6からS9とする。E3とE4のレンズはY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによってG2のパワーを図2に示すように負から正に変化させている。
【0030】
G1を射出した光線は次に絞りS5を通過し、G2に入射する。G2はG1と同様にE3、E4の2つのレンズから構成され、面の番号はS6からS9とする。E3とE4のレンズはY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによってG2のパワーを図2に示すように負から正に変化させている。これらのレンズを通過した光線は像面を変化させることなく結像している。しかしながらこの実施例では、全系の焦点距離が変化する範囲が約14mmから21mmと変倍比が1.5倍ほどにしかならない。
【0031】
この変倍比を大きくするためにずれ量を大きくすると、軸上光線における上線・下線のずれが顕著になるばかりか、各群のパワーが大きくなり収差を抑えることが困難となる。
【0032】
そこで、本発明は、収差を抑えながらこの変倍比を上げることが可能な変倍結像光学系及びそれを有する撮像装置を提供することを例示的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明の一側面としての変倍結像光学系は、それぞれが回転非対称面を有する複数の光学素子で構成される光学群を複数有し、複数の光学群の各群内の光学素子が互いに光軸と異なる方向に移動することで光学的パワーを変化させる変倍結像光学系において、光軸方向に光学素子を動かすことなく主点位置が光軸方向に動き、前記複数の光学群のうちの少なくとも群の1つの主点位置を該群の外側にすることが可能な形状を有することを特徴とする。また、かかる変倍結像光学系を有する撮像装置も本発明の別の側面を構成する。
【0034】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施例によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、収差を抑えながらこの変倍比を上げることが可能な変倍結像光学系及びそれを有する撮像装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
従来の設計例は、数式6乃至9を求め、図3のように焦点距離に対する各群のパワー変化を求めることによって行った。各群のパワーを大きくすると収差が発生するため、各群のパワーを大きくすることなく変倍比を上げるには、図3に示す全系のパワーに対する各群のパワー変化の傾きを小さくすればよい。そのようにすることで各群のパワー変化の範囲を一定にしながらも、全系のパワーが変化できる範囲を広げることができる。それを実現するために薄肉近似をした近軸配置に戻って考える。数式6及び7をSk及び主点間隔eを変数のままにすると、以下の式が導かれる。但し、焦点距離、前側主点位置、後側主点位置の各近軸値は特許文献4にて導かれる値として定義する。それらの値の導出は、各面の曲率と各面間隔を元に4×4行列式を計算することで行われる。
【0037】
【数12】
【0038】
【数13】
【0039】
これから両者の傾きはeとSkで定まることが分かる。そこで、両者をφで微分すると以下の式が導かれる。
【0040】
【数14】
【0041】
【数15】
【0042】
φ1は直線で変化するため傾きは一定である。それに対して、φ2の傾きは全系のパワーφによって変化する。また、主点間隔eが大きくなれば、φ1,φ2ともに傾きは小さくなり高倍率化となるが、Skが大きくなればφ1では大きくなるのに対してφ2は小さくなり、高倍率化に対するSkの変化の方向を定めることはできない。
【0043】
ここで、全系のパワーφの変化に対するφ1,φ2の傾きを比較する。φ2=0となる数式16を満足する点で数式17が成立する。
【0044】
【数16】
【0045】
【数17】
【0046】
また、数式18を満足する範囲では数式19が成立する。数式20を満足する範囲では数式21が成立する。
【0047】
【数18】
【0048】
【数19】
【0049】
【数20】
【0050】
【数21】
【0051】
これらを比較した表を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
以上から、広範囲にわたって数式19が成立することが分かる。従って、広範囲にわたって傾きが大きいφ2の傾きを小さくすることができれば高倍化を達成することができる。そこで、(8)式中のφ2傾きdφ2/dφに着目すると、主点間隔eとバックフォーカスSkを共に大きくすれば、傾きを小さくすることができることが分かる。またここでは、主点間隔とバックフォーカスの和である第1群の主点位置から像面までの距離(薄肉近似での全長)が一定であるので、e=Skのときにφ2の傾きは最小になる。以上のようにしたとき変倍比が最大となる。また薄肉での近似から厚肉化に伴って、主点間隔eがH1’とH2の距離に置き換わり、薄肉の主点間隔とずれることを考えると次式のようにすればよい。
【0054】
【数22】
【0055】
但し、e’は、物点とH1の距離をeo、H1’とH2の距離をe、H2’と像点との距離をeiとした時のeoとeiを比較して小さい方の距離である。数式22はeとe’とが実質的に同一であることを意味しており、0.3程度の誤差を許容する趣旨である。
【0056】
また、バックフォーカスSkが一定であり主点を動かすことが可能ならば、φ1、φ2ともに主点間隔eを大きくすることで傾きを小さくでき高倍化となる。そのため、群を構成する光学素子の面の形状によって主点間隔を広げるようなレンズを回転非対称レンズとして用いれば、面間隔をそのままにしながら主点間隔を広げ、さらに高倍率化を達成することができる。
【0057】
上記に示すような片面のみ数式10で記述するような曲面を用いると、図5に示すように前側・後側主点とも同面上で移動するだけである。この光学素子を用いただけでは主点位置を大きく動かすことができない。そのため変倍比も大きくすることができない。この主点をレンズの前、もしくは後に動かし主点間隔を大きくすることができれば、面間隔を大きくすることを行わないで高倍率化を達成することができる。
【0058】
ここで、共軸レンズとして両凸レンズ、両凹レンズ、メニスカスレンズの3つの主点位置について考察する。すると両凸・両凹レンズとも主点はレンズの内部にあり、上記のように主点をレンズの外に大きく動かすことを望めない。それに対してメニスカスレンズは両凸レンズや両凹レンズとは異なり、主点がレンズの外側にすることもできるレンズである。そのため回転非対称レンズにもこの形状を採用することにより主点をレンズの外側に大きく変動させることができる。これを本光学系のような回転非対称レンズに採用すれば、主点間隔を大きくし高倍率化が望める。
【0059】
さらに、主点間隔は望遠側では小さく広角側で大きくした方が高倍率となる。それは数式6から理解できる。広角側での全系のパワーをφwとし、そのときの1群、2群のパワーをそれぞれφ1w、φ2w、その主点間隔ewとし、同じように望遠側での全系のパワーをφt、1群、2群のパワーをそれぞれφ1t、φ2t、その主点間隔etとする。すると数式6は以下のようになる。
【0060】
【数23】
【0061】
【数24】
【0062】
但し、φw>φtである。ここで、φ1とφ2は異符号であるため、次式のように規定する。
【0063】
【数25】
【0064】
【数26】
【0065】
また、数式27のように規定すると、φwとφtの差が大きくなり、高倍化となることが分かる。
【0066】
【数27】
【0067】
以上をまとめると以下の3点が高倍率化のために必要となる。
1)主点間隔eは全長の半分程度とする
2)非回転対称レンズをメニスカス形状にし、主点間隔を広げる
3)望遠端の主点間隔と広角端の主点間隔は後者の方を大きくする。
【実施例1】
【0068】
まず本発明の実施形態の仕様について説明する。撮像面はCCDを仮定し、その大きさを1/4inch(縦2.7mm×横3.6mm)サイズとする。また入射瞳径を0.8とした。
【0069】
実施形態1の光路図を図6に示す。レンズは全部で4枚から構成され、物体側からE1,E2,E3,E4が回転非対称レンズであり、これらのレンズはY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっているがこれに限定するものではない。また、E1,E2のレンズで第1群を構成し、これをG1とする。同様にE3,E4のレンズで第2群を構成し、これをG2とする。面番号については絶対座標系の原点である基準面をS0と定め、E1の第1面をS1とし順にS2,S3,S4となり、S4の後(E2の後)に絞りがあるのでそれをS5とする。E3の第1面をS6とし順に番号を付け、像面がS10となる。さらに、Y軸方向に連続偏心する回転非対称レンズ部分(E1からE4)を偏心可動ブロックと呼ぶこととする。
【0070】
レンズデータを表4に示す。各レンズのZ軸からのずれ量は表5のようになり(1)式で表される多項式面の各係数の値を表6に示す。そのときの光路図を望遠端、ミドル、広角端の順に図7に示す。E1とE2のレンズはY軸方向に偏心し、その量は表5に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによってG1のパワーを正から負に変化させている。G1を射出した光線は絞りを通過し、E3とE4に入射する。E3とE4のレンズもまたY軸方向に偏心し、その量は表5に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによってG2のパワーを負から正に変化させている。
【0071】
【表4】
【0072】
【表5】
【0073】
【表6】
【0074】
次に、望遠端(全系の光学的パワーが最小となる位置)、中間、広角端(全系の光学的パワーが最大となる位置)の収差図をそれぞれ図8A乃至図8Cに示す。横軸は光線の瞳上で位置を表し、縦軸が像面での主光線からのずれを表す。縦軸の範囲は±20μmである。図8A乃至図8C中の番号は画角番号であり、像面上では図9に示すようになっている。x軸については対称であるので、x方向正の場合のみを考えればよい。画角0°の光線を見ると望遠端から広角端に至るまで良好にコマ収差を除去していることが分かる。また、図10にディストーション格子を示す。格子の縦横は1/4inch(縦2.7mm×横3.6mm)サイズとなっている。これを見ると、ディストーションも良好に抑えられていることが分かる。
【0075】
本実施形態は焦点距離が5mmから20mmの4倍の変倍比を達成することができた。従来例では1.5倍だったことと比較すると、G1とG2の主点間隔eをG1と像面との距離の約半分とすることにより、4倍という高倍率化を達成することができる。このときのそれぞれの群の主点位置は、望遠端から広角端に至るまでほぼそれぞれの群の中心に位置する。G1とG2の位置をそのままにしながら主点間隔を大きくするためには、回転非対称レンズの形状をメニスカス形状にすることが挙げられる。そうすることでさらに高倍化にできる。次に、その実施例を示す。
【実施例2】
【0076】
仕様は実施例1と同様である。但し、望遠端と中間と広角端でのFnoがそれぞれ8、5.6、4となるように、入射瞳径はそれぞれ1.88、1.40、0.75とした。その光路図を図11に示す。レンズは全部で7枚から構成され、物体側からE1,E2,E5,E6が回転非対称レンズであり、これらのレンズはY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。E3,E4及びE7が回転対称球面レンズであるが、光軸に非対称な収差が残存している場合にはこれを除去するために回転非対称レンズを配置してもよい。また、E1,E2のレンズで第1群を構成し、これをG1とする。同様にE3,E4のレンズをG2とし、E5、E6をG3とする。面番号については絶対座標系の原点である基準面をS0と定め、E1の第1面をS1とし順にS2,S3,S4となり、S6の後(E3の後)に絞りがあるのでそれをS7とする。E4の第1面をS8とし順に番号を付け、像面がS16となる。更に、Y軸方向に連続偏心する回転非対称レンズ部分(G1とG3)、回転対称レンズ部分(G2とE7)をそれぞれ偏心可動ブロック、補助ブロックと呼ぶこととする。偏心可動ブロックのみではパワーが強くなり収差補正が困難になるため、補助ブロックを配置した。
【0077】
レンズデータを表7に示す。各レンズのZ軸からのずれ量は表8のようになり、数式1で表される多項式面の各係数の値を表9に示す。
【0078】
【表7】
【0079】
【表8】
【0080】
【表9】
【0081】
そのときの光路図を望遠端、中間、広角端の順に図12に示す。E1とE2のレンズはY軸方向に偏心し、その量は表8に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによってG1のパワーを正から負に変化させている。G1を射出した光線はE3、絞りS7、E4を通過し、E5とE6に入射する。E5とE6のレンズはY軸方向に偏心し、その量は表8に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによってG2のパワーを負から正に変化させている。これらの偏心可動ブロックを通過した光線は次の補助ブロックに入射する。補助ブロックは偏心可動ブロックの足りないパワーを補っている。これらのレンズを通過した光線は像面を変化させることなく結像している。
【0082】
次に、望遠端、中間、広角端の収差図をそれぞれ図13A乃至図13Cに示す。横軸は光線の瞳上で位置を表し、縦軸が像面での主光線からのずれを表す。縦軸の範囲は±20μmである。図13A乃至図13C中の番号は画角番号であり、像面上では図9に示すようになっている。x軸については対称であるので、x方向正の場合のみを考えればよい。画角0°の光線を見ると望遠端から広角端に至るまで良好にコマ収差を除去していることが分かる。また、図14にディストーション格子を示す。格子の縦横は1/4inch(縦2.7mm×横3.6mm)サイズとなっている。これを見ると、ディストーションも良好に抑えられていることが分かる。
【0083】
実施例2は焦点距離が3mmから15mmと倍率が約5倍となっている。次に、図1に主点位置の変化をG1とG3について示す。G1をメニスカスレンズで構成したため、主点位置は大きく移動している。実施形態1と比較すると面間隔を大きくした上、この主点位置の移動によって5倍の高倍率化を達成している。またその変化を見ると、G1のパワーが正の範囲では全系のパワーが大きくなるにつれて物点方向に移動し、H1とH2の間隔を広げている。また、G1のパワーが負の範囲ではやはり全系のパワーが大きくなるにつれて物点方向に移動し、H1とH2の間隔を広げていることが分かる。また、G1の前側主点位置と後側主点位置をそれぞれH1、H1’とし、G2の前側主点位置と後側主点位置をそれぞれH2、H2’とし、物点とH1の距離をeo、H1’とH2の距離をe、H2’と像点との距離をeiとし、eoとeiを比較して小さい方をe’としたとき、eとe’、およびe/e’の関係を表10に示す。
【0084】
【表10】
【0085】
これを見ると望遠端においてe/e’は1.32であり0.7以上1.4以下となっていることが分かる。さらに、G1の後側主点位置をH1’とし、G2の前側主点位置をH2とし、G1のパワーが正の範囲で全系のパワーが最も小さいときのH1’とH2の距離をet1、最も大きいときのH1’とH2の距離をew1とし、G1のパワーが負の範囲で全系のパワーが最も小さいときのH1’とH2の距離をet2、最も大きいときのH1’とH2の距離をew2とする。その関係を表11に示す。
【0086】
【表11】
【0087】
これを見るとet1<ew1、かつ、et2<ew2を満たしていることが分かる。 以上から(実施例1)では主点の移動がほとんど0であるため、全長が12mmであるにもかかわらず変倍比は4倍であったのに対し、(実施例2)では主点を移動させたので全長が10mmであるにもかかわらず5倍の変倍比が達成することができた。
【実施例3】
【0088】
次に、実施例1及び2で示したようなズームレンズを撮影光学系として用いたデジタルスチルカメラの実施例を、図15を参照して説明する。20は、カメラ本体、21は図1を参照して説明したズームレンズによって構成された撮像光学系である。22はカメラ本体に内蔵され、撮像光学系によって形成された被写体像を受光するCCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)である。23は固体撮像素子22によって光電変換された被写体像に対応する情報を記録するメモリ、24は液晶ディスプレイパネルなどによって構成され、固体撮像素子22上に形成された被写体像を観察するためのファインダである。
【0089】
このように本発明のズームレンズをデジタルスチルカメラなどの撮像装置に適用することにより、小型で高い光学性能を有する撮像装置を実現することができる。
【0090】
以上説明したように、本発明によれば回転非対称なレンズを光軸とは異なる方向に動かし、従来の技術と比較すると良好に収差を除去しながら高倍率ズームを行い、且つコンパクトなものとすることができる。
【0091】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施例1の変倍結像光学系における主点の移動を示す図である。
【図2】従来のOff−Axial光学系を説明する図である。
【図3】従来例に基づいて設計したレンズのパワー配置を示す図である。
【図4】従来例に基づいて設計したレンズの断面図である。
【図5】図1に示す実施例の主点の移動を示す図である。
【図6】図1に示す実施例のレンズの断面図である。
【図7】図1に示す実施例の望遠端、中間、広角端のレンズの断面図である。
【図8A】図1に示す実施例の収差図である。
【図8B】図1に示す実施例の収差図である。
【図8C】図1に示す実施例の収差図である。
【図9】図1に示す実施例の像面での光線の番号を示す図である。
【図10】図1に示す実施例の望遠端、中間、広角端のディストーション格子を示す図である。
【図11】本発明の実施例2のレンズ断面図である。
【図12】図11に示す実施例の望遠端、中間、広角端のレンズの断面図である。
【図13A】図11に示す実施例の収差図である。
【図13B】図11に示す実施例の収差図である。
【図13C】図11に示す実施例の収差図である。
【図14】図11に示す実施例の望遠端、中間、広角端のディストーション格子を示す図である。
【図15】図1又は図11に示す光学系を適用したデジタルスチルカメラの外観斜視図である。
【符号の説明】
【0093】
G1 第1群の非回転対称光学素子
G2 第2群の非回転対称光学素子
20 デジタルスチルカメラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に撮像装置、投射装置、露光装置、読み取り装置等の全ての変倍結像光学系に関するものであり、特に小型の撮像装置に有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラやカメラ付き携帯電話の普及により、小型カメラの活躍する場が急速に広がっている。小型カメラは更なる小型化に向い、撮像素子の小型化の要求はとどまるところを知らない。それに加え、ズーム化や広角化、高精細化などの付加価値を高める要求も増大している。小型化と高付加価値化、これら両者を達成する難しさをズーム化の点から述べると、ズームは通常、受光面(CCD等)に対してレンズを光軸上に移動させることで行われ、物体方向に移動させると光学全長が長くなる。これが小型化の足かせとなっているのが現状である。
【0003】
従来技術としては特許文献1乃至3がある。特許文献1は、3次関数で表される曲面をレンズに与え、そのレンズ2枚を光軸方向とは異なる方向にずらしてパワーを変化させ、小型化を図っている。このレンズはいわゆるアルバレツレンズと呼ばれ光軸方向に繰り出さないので、ズームレンズに適用すれば全長を短くできる可能性がある。特許文献2は、3次だけではなく高次の項、特に5次の項を曲面に与えることで収差を除去することを提案している。特許文献3は、このレンズを最低2つ配置し、像点を一定にしながらパワーを変化させることを提案している。
【0004】
回転非対称レンズが含まれる場合には、通常の共軸レンズと異なり共通の軸を持たない。こうした非共軸光学系は、オフアキシャル(Off−Axial)光学系と呼ばれる。オフアキシャル(Off−Axial)光学系は、像中心と瞳中心を通る光線が辿る経路を基準軸としたときに、構成面の基準軸との交点における面法線が基準軸上にない曲面(Off−Axial曲面)を含む光学系として定義される。この場合、基準軸は折れ曲がった形状となるため、近軸量の算出も共軸系の近軸理論ではなく、Off−Axial理論を元にした近軸理論を使わなければならない。特許文献4は、焦点距離、前側主点位置、後側主点位置の各近軸値を各面の曲率と各面間隔を元に4×4行列式を計算することで導出及び定義する。
【特許文献1】米国特許第3305294号明細書
【特許文献2】米国特許第3583790号明細書
【特許文献3】特開平01−35964号公報
【特許文献4】特開平09−5650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
変倍結像光学系を設計するにあたり、特許文献1と特許文献2は、1組の回転非対称レンズを用いてパワーを変化させる方法及び収差補正についての言及にとどまるため、像面を一定にすることはできないという問題がある。また、特許文献3では像点を一定にしながらパワーを変化させる原理を述べてはいるものの、収差の補正を行い実際に変倍結像光学系の設計をするまでには至っていない。特許文献3を基に実際に変倍結像光学系の設計を行った。設計例を示す前に実施形態における構成諸元の表し方及び各実施形態に共通する事項について説明する。
【0006】
Off−Axial光学系において、基準軸は図2のように折れ曲がった形状となる。そこで、第1面の中心を原点とする絶対座標系として、原点と瞳中心を通る光線が辿る経路を基準軸とする。また、像中心と第1面の中心である絶対座標系の原点を結ぶ直線をZ軸と定め、向きは第1面から像中心に向かう方向を正とする。このZ軸を光軸と呼ぶこととする。さらに、Y軸は原点を通り右手座標系の定義に従ってZ軸に対して反時計回り方向に90゜をなす直線とし、X軸は原点を通りZ、Yの各軸に垂直な直線とする。本出願では、近軸値はOff−Axialの近軸追跡を行った結果である。特に断らない限り、Off−Axialの近軸追跡を行い、近軸値を算出した結果とする。また、光学系は、回転非対称な非球面を2面以上有し、その形状は以下の式で表す。
【0007】
【数1】
【0008】
数式1はxに関して偶数次の項のみであるため、数式1により規定される曲面はyz面を対称面とする面対称な形状である。
【0009】
また、以下の条件が満たされる場合はxz面に対して対称な形状を表す。
【0010】
【数2】
【0011】
更に、以下の条件が満たされる場合は回転対称な形状を表す。
【0012】
【数3】
【0013】
【数4】
【0014】
【数5】
【0015】
以上の条件を満たさない場合は回転非対称な形状である。
【0016】
以下、特許文献3を基に実際に変倍結像光学系の設計を示す。変倍結像光学系は2枚の回転非対称レンズ群2つから成り、それらを物体側から1群、2群とする。まずこれらの群を1つの薄肉レンズで近似し近軸計算を行う。次に各薄肉レンズのパワーを1群、2群それぞれφ1、φ2とし、主点間隔とバックフォーカスをそれぞれe、Skとする。また、全系のパワーをφ、焦点距離をfとすると、
次式が成立する。
【0017】
【数6】
【0018】
また、バックフォーカスSkは近軸計算から次式が成り立つ。
【0019】
【数7】
【0020】
ここで主点間隔eおよびバックフォーカスSkを定めると、数式6及び7からφ1及びφ2は全系のパワーφの関数として表される。即ち、全系のパワー変化における1群及び2群のパワー変化の軌跡を表すことができる。そこで、主点間隔e=3とし、バックフォーカスSk=15とするとφ1、φ2は以下となる。
【0021】
【数8】
【0022】
【数9】
【0023】
全系のパワーφに対するφ1、φ2の関係をグラフで表すと図3のようになる。これを見ると、全系のパワーが増加するに従って1群は正から負に、2群は逆に負から正に変化していることが分かる。ここで、回転非対称曲面は数式10で表され、またその係数aとパワーとの関係は数式11となる。
【0024】
【数10】
【0025】
【数11】
【0026】
x,y,zは上記に示した軸である。δは2枚の回転非対称レンズのZ軸からのY軸方向へのずれ量、nはレンズの屈折率である。
回転非対称レンズの係数a,nを表1に示し、併せてZ軸からのずれ量δを望遠端(テレ端)・中間(ミドル)・広角端(ワイド端)の順に示す。また、表2は、各面の面のタイプ及び面間隔を示す。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
更に、それらの値に基づいてズームレンズを設計した。それを図4に示す。基準面S0に入射した光線はまず群G1に入射する。群G1はE1、E2の2つのレンズから構成され、面の番号はS1からS4とする。E1とE2のレンズはY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによってG1のパワーを図2に示すように正から負に変化させている。G1を射出した光線は次に絞りS5を通過し、G2に入射する。G2はG1と同様にE3、E4の2つのレンズから構成され、面の番号はS6からS9とする。E3とE4のレンズはY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによってG2のパワーを図2に示すように負から正に変化させている。
【0030】
G1を射出した光線は次に絞りS5を通過し、G2に入射する。G2はG1と同様にE3、E4の2つのレンズから構成され、面の番号はS6からS9とする。E3とE4のレンズはY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによってG2のパワーを図2に示すように負から正に変化させている。これらのレンズを通過した光線は像面を変化させることなく結像している。しかしながらこの実施例では、全系の焦点距離が変化する範囲が約14mmから21mmと変倍比が1.5倍ほどにしかならない。
【0031】
この変倍比を大きくするためにずれ量を大きくすると、軸上光線における上線・下線のずれが顕著になるばかりか、各群のパワーが大きくなり収差を抑えることが困難となる。
【0032】
そこで、本発明は、収差を抑えながらこの変倍比を上げることが可能な変倍結像光学系及びそれを有する撮像装置を提供することを例示的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明の一側面としての変倍結像光学系は、それぞれが回転非対称面を有する複数の光学素子で構成される光学群を複数有し、複数の光学群の各群内の光学素子が互いに光軸と異なる方向に移動することで光学的パワーを変化させる変倍結像光学系において、光軸方向に光学素子を動かすことなく主点位置が光軸方向に動き、前記複数の光学群のうちの少なくとも群の1つの主点位置を該群の外側にすることが可能な形状を有することを特徴とする。また、かかる変倍結像光学系を有する撮像装置も本発明の別の側面を構成する。
【0034】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施例によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、収差を抑えながらこの変倍比を上げることが可能な変倍結像光学系及びそれを有する撮像装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
従来の設計例は、数式6乃至9を求め、図3のように焦点距離に対する各群のパワー変化を求めることによって行った。各群のパワーを大きくすると収差が発生するため、各群のパワーを大きくすることなく変倍比を上げるには、図3に示す全系のパワーに対する各群のパワー変化の傾きを小さくすればよい。そのようにすることで各群のパワー変化の範囲を一定にしながらも、全系のパワーが変化できる範囲を広げることができる。それを実現するために薄肉近似をした近軸配置に戻って考える。数式6及び7をSk及び主点間隔eを変数のままにすると、以下の式が導かれる。但し、焦点距離、前側主点位置、後側主点位置の各近軸値は特許文献4にて導かれる値として定義する。それらの値の導出は、各面の曲率と各面間隔を元に4×4行列式を計算することで行われる。
【0037】
【数12】
【0038】
【数13】
【0039】
これから両者の傾きはeとSkで定まることが分かる。そこで、両者をφで微分すると以下の式が導かれる。
【0040】
【数14】
【0041】
【数15】
【0042】
φ1は直線で変化するため傾きは一定である。それに対して、φ2の傾きは全系のパワーφによって変化する。また、主点間隔eが大きくなれば、φ1,φ2ともに傾きは小さくなり高倍率化となるが、Skが大きくなればφ1では大きくなるのに対してφ2は小さくなり、高倍率化に対するSkの変化の方向を定めることはできない。
【0043】
ここで、全系のパワーφの変化に対するφ1,φ2の傾きを比較する。φ2=0となる数式16を満足する点で数式17が成立する。
【0044】
【数16】
【0045】
【数17】
【0046】
また、数式18を満足する範囲では数式19が成立する。数式20を満足する範囲では数式21が成立する。
【0047】
【数18】
【0048】
【数19】
【0049】
【数20】
【0050】
【数21】
【0051】
これらを比較した表を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
以上から、広範囲にわたって数式19が成立することが分かる。従って、広範囲にわたって傾きが大きいφ2の傾きを小さくすることができれば高倍化を達成することができる。そこで、(8)式中のφ2傾きdφ2/dφに着目すると、主点間隔eとバックフォーカスSkを共に大きくすれば、傾きを小さくすることができることが分かる。またここでは、主点間隔とバックフォーカスの和である第1群の主点位置から像面までの距離(薄肉近似での全長)が一定であるので、e=Skのときにφ2の傾きは最小になる。以上のようにしたとき変倍比が最大となる。また薄肉での近似から厚肉化に伴って、主点間隔eがH1’とH2の距離に置き換わり、薄肉の主点間隔とずれることを考えると次式のようにすればよい。
【0054】
【数22】
【0055】
但し、e’は、物点とH1の距離をeo、H1’とH2の距離をe、H2’と像点との距離をeiとした時のeoとeiを比較して小さい方の距離である。数式22はeとe’とが実質的に同一であることを意味しており、0.3程度の誤差を許容する趣旨である。
【0056】
また、バックフォーカスSkが一定であり主点を動かすことが可能ならば、φ1、φ2ともに主点間隔eを大きくすることで傾きを小さくでき高倍化となる。そのため、群を構成する光学素子の面の形状によって主点間隔を広げるようなレンズを回転非対称レンズとして用いれば、面間隔をそのままにしながら主点間隔を広げ、さらに高倍率化を達成することができる。
【0057】
上記に示すような片面のみ数式10で記述するような曲面を用いると、図5に示すように前側・後側主点とも同面上で移動するだけである。この光学素子を用いただけでは主点位置を大きく動かすことができない。そのため変倍比も大きくすることができない。この主点をレンズの前、もしくは後に動かし主点間隔を大きくすることができれば、面間隔を大きくすることを行わないで高倍率化を達成することができる。
【0058】
ここで、共軸レンズとして両凸レンズ、両凹レンズ、メニスカスレンズの3つの主点位置について考察する。すると両凸・両凹レンズとも主点はレンズの内部にあり、上記のように主点をレンズの外に大きく動かすことを望めない。それに対してメニスカスレンズは両凸レンズや両凹レンズとは異なり、主点がレンズの外側にすることもできるレンズである。そのため回転非対称レンズにもこの形状を採用することにより主点をレンズの外側に大きく変動させることができる。これを本光学系のような回転非対称レンズに採用すれば、主点間隔を大きくし高倍率化が望める。
【0059】
さらに、主点間隔は望遠側では小さく広角側で大きくした方が高倍率となる。それは数式6から理解できる。広角側での全系のパワーをφwとし、そのときの1群、2群のパワーをそれぞれφ1w、φ2w、その主点間隔ewとし、同じように望遠側での全系のパワーをφt、1群、2群のパワーをそれぞれφ1t、φ2t、その主点間隔etとする。すると数式6は以下のようになる。
【0060】
【数23】
【0061】
【数24】
【0062】
但し、φw>φtである。ここで、φ1とφ2は異符号であるため、次式のように規定する。
【0063】
【数25】
【0064】
【数26】
【0065】
また、数式27のように規定すると、φwとφtの差が大きくなり、高倍化となることが分かる。
【0066】
【数27】
【0067】
以上をまとめると以下の3点が高倍率化のために必要となる。
1)主点間隔eは全長の半分程度とする
2)非回転対称レンズをメニスカス形状にし、主点間隔を広げる
3)望遠端の主点間隔と広角端の主点間隔は後者の方を大きくする。
【実施例1】
【0068】
まず本発明の実施形態の仕様について説明する。撮像面はCCDを仮定し、その大きさを1/4inch(縦2.7mm×横3.6mm)サイズとする。また入射瞳径を0.8とした。
【0069】
実施形態1の光路図を図6に示す。レンズは全部で4枚から構成され、物体側からE1,E2,E3,E4が回転非対称レンズであり、これらのレンズはY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっているがこれに限定するものではない。また、E1,E2のレンズで第1群を構成し、これをG1とする。同様にE3,E4のレンズで第2群を構成し、これをG2とする。面番号については絶対座標系の原点である基準面をS0と定め、E1の第1面をS1とし順にS2,S3,S4となり、S4の後(E2の後)に絞りがあるのでそれをS5とする。E3の第1面をS6とし順に番号を付け、像面がS10となる。さらに、Y軸方向に連続偏心する回転非対称レンズ部分(E1からE4)を偏心可動ブロックと呼ぶこととする。
【0070】
レンズデータを表4に示す。各レンズのZ軸からのずれ量は表5のようになり(1)式で表される多項式面の各係数の値を表6に示す。そのときの光路図を望遠端、ミドル、広角端の順に図7に示す。E1とE2のレンズはY軸方向に偏心し、その量は表5に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによってG1のパワーを正から負に変化させている。G1を射出した光線は絞りを通過し、E3とE4に入射する。E3とE4のレンズもまたY軸方向に偏心し、その量は表5に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによってG2のパワーを負から正に変化させている。
【0071】
【表4】
【0072】
【表5】
【0073】
【表6】
【0074】
次に、望遠端(全系の光学的パワーが最小となる位置)、中間、広角端(全系の光学的パワーが最大となる位置)の収差図をそれぞれ図8A乃至図8Cに示す。横軸は光線の瞳上で位置を表し、縦軸が像面での主光線からのずれを表す。縦軸の範囲は±20μmである。図8A乃至図8C中の番号は画角番号であり、像面上では図9に示すようになっている。x軸については対称であるので、x方向正の場合のみを考えればよい。画角0°の光線を見ると望遠端から広角端に至るまで良好にコマ収差を除去していることが分かる。また、図10にディストーション格子を示す。格子の縦横は1/4inch(縦2.7mm×横3.6mm)サイズとなっている。これを見ると、ディストーションも良好に抑えられていることが分かる。
【0075】
本実施形態は焦点距離が5mmから20mmの4倍の変倍比を達成することができた。従来例では1.5倍だったことと比較すると、G1とG2の主点間隔eをG1と像面との距離の約半分とすることにより、4倍という高倍率化を達成することができる。このときのそれぞれの群の主点位置は、望遠端から広角端に至るまでほぼそれぞれの群の中心に位置する。G1とG2の位置をそのままにしながら主点間隔を大きくするためには、回転非対称レンズの形状をメニスカス形状にすることが挙げられる。そうすることでさらに高倍化にできる。次に、その実施例を示す。
【実施例2】
【0076】
仕様は実施例1と同様である。但し、望遠端と中間と広角端でのFnoがそれぞれ8、5.6、4となるように、入射瞳径はそれぞれ1.88、1.40、0.75とした。その光路図を図11に示す。レンズは全部で7枚から構成され、物体側からE1,E2,E5,E6が回転非対称レンズであり、これらのレンズはY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。E3,E4及びE7が回転対称球面レンズであるが、光軸に非対称な収差が残存している場合にはこれを除去するために回転非対称レンズを配置してもよい。また、E1,E2のレンズで第1群を構成し、これをG1とする。同様にE3,E4のレンズをG2とし、E5、E6をG3とする。面番号については絶対座標系の原点である基準面をS0と定め、E1の第1面をS1とし順にS2,S3,S4となり、S6の後(E3の後)に絞りがあるのでそれをS7とする。E4の第1面をS8とし順に番号を付け、像面がS16となる。更に、Y軸方向に連続偏心する回転非対称レンズ部分(G1とG3)、回転対称レンズ部分(G2とE7)をそれぞれ偏心可動ブロック、補助ブロックと呼ぶこととする。偏心可動ブロックのみではパワーが強くなり収差補正が困難になるため、補助ブロックを配置した。
【0077】
レンズデータを表7に示す。各レンズのZ軸からのずれ量は表8のようになり、数式1で表される多項式面の各係数の値を表9に示す。
【0078】
【表7】
【0079】
【表8】
【0080】
【表9】
【0081】
そのときの光路図を望遠端、中間、広角端の順に図12に示す。E1とE2のレンズはY軸方向に偏心し、その量は表8に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによってG1のパワーを正から負に変化させている。G1を射出した光線はE3、絞りS7、E4を通過し、E5とE6に入射する。E5とE6のレンズはY軸方向に偏心し、その量は表8に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによってG2のパワーを負から正に変化させている。これらの偏心可動ブロックを通過した光線は次の補助ブロックに入射する。補助ブロックは偏心可動ブロックの足りないパワーを補っている。これらのレンズを通過した光線は像面を変化させることなく結像している。
【0082】
次に、望遠端、中間、広角端の収差図をそれぞれ図13A乃至図13Cに示す。横軸は光線の瞳上で位置を表し、縦軸が像面での主光線からのずれを表す。縦軸の範囲は±20μmである。図13A乃至図13C中の番号は画角番号であり、像面上では図9に示すようになっている。x軸については対称であるので、x方向正の場合のみを考えればよい。画角0°の光線を見ると望遠端から広角端に至るまで良好にコマ収差を除去していることが分かる。また、図14にディストーション格子を示す。格子の縦横は1/4inch(縦2.7mm×横3.6mm)サイズとなっている。これを見ると、ディストーションも良好に抑えられていることが分かる。
【0083】
実施例2は焦点距離が3mmから15mmと倍率が約5倍となっている。次に、図1に主点位置の変化をG1とG3について示す。G1をメニスカスレンズで構成したため、主点位置は大きく移動している。実施形態1と比較すると面間隔を大きくした上、この主点位置の移動によって5倍の高倍率化を達成している。またその変化を見ると、G1のパワーが正の範囲では全系のパワーが大きくなるにつれて物点方向に移動し、H1とH2の間隔を広げている。また、G1のパワーが負の範囲ではやはり全系のパワーが大きくなるにつれて物点方向に移動し、H1とH2の間隔を広げていることが分かる。また、G1の前側主点位置と後側主点位置をそれぞれH1、H1’とし、G2の前側主点位置と後側主点位置をそれぞれH2、H2’とし、物点とH1の距離をeo、H1’とH2の距離をe、H2’と像点との距離をeiとし、eoとeiを比較して小さい方をe’としたとき、eとe’、およびe/e’の関係を表10に示す。
【0084】
【表10】
【0085】
これを見ると望遠端においてe/e’は1.32であり0.7以上1.4以下となっていることが分かる。さらに、G1の後側主点位置をH1’とし、G2の前側主点位置をH2とし、G1のパワーが正の範囲で全系のパワーが最も小さいときのH1’とH2の距離をet1、最も大きいときのH1’とH2の距離をew1とし、G1のパワーが負の範囲で全系のパワーが最も小さいときのH1’とH2の距離をet2、最も大きいときのH1’とH2の距離をew2とする。その関係を表11に示す。
【0086】
【表11】
【0087】
これを見るとet1<ew1、かつ、et2<ew2を満たしていることが分かる。 以上から(実施例1)では主点の移動がほとんど0であるため、全長が12mmであるにもかかわらず変倍比は4倍であったのに対し、(実施例2)では主点を移動させたので全長が10mmであるにもかかわらず5倍の変倍比が達成することができた。
【実施例3】
【0088】
次に、実施例1及び2で示したようなズームレンズを撮影光学系として用いたデジタルスチルカメラの実施例を、図15を参照して説明する。20は、カメラ本体、21は図1を参照して説明したズームレンズによって構成された撮像光学系である。22はカメラ本体に内蔵され、撮像光学系によって形成された被写体像を受光するCCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)である。23は固体撮像素子22によって光電変換された被写体像に対応する情報を記録するメモリ、24は液晶ディスプレイパネルなどによって構成され、固体撮像素子22上に形成された被写体像を観察するためのファインダである。
【0089】
このように本発明のズームレンズをデジタルスチルカメラなどの撮像装置に適用することにより、小型で高い光学性能を有する撮像装置を実現することができる。
【0090】
以上説明したように、本発明によれば回転非対称なレンズを光軸とは異なる方向に動かし、従来の技術と比較すると良好に収差を除去しながら高倍率ズームを行い、且つコンパクトなものとすることができる。
【0091】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施例1の変倍結像光学系における主点の移動を示す図である。
【図2】従来のOff−Axial光学系を説明する図である。
【図3】従来例に基づいて設計したレンズのパワー配置を示す図である。
【図4】従来例に基づいて設計したレンズの断面図である。
【図5】図1に示す実施例の主点の移動を示す図である。
【図6】図1に示す実施例のレンズの断面図である。
【図7】図1に示す実施例の望遠端、中間、広角端のレンズの断面図である。
【図8A】図1に示す実施例の収差図である。
【図8B】図1に示す実施例の収差図である。
【図8C】図1に示す実施例の収差図である。
【図9】図1に示す実施例の像面での光線の番号を示す図である。
【図10】図1に示す実施例の望遠端、中間、広角端のディストーション格子を示す図である。
【図11】本発明の実施例2のレンズ断面図である。
【図12】図11に示す実施例の望遠端、中間、広角端のレンズの断面図である。
【図13A】図11に示す実施例の収差図である。
【図13B】図11に示す実施例の収差図である。
【図13C】図11に示す実施例の収差図である。
【図14】図11に示す実施例の望遠端、中間、広角端のディストーション格子を示す図である。
【図15】図1又は図11に示す光学系を適用したデジタルスチルカメラの外観斜視図である。
【符号の説明】
【0093】
G1 第1群の非回転対称光学素子
G2 第2群の非回転対称光学素子
20 デジタルスチルカメラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが回転非対称面を有する複数の光学素子で構成される光学群を複数有し、複数の光学群の各群内の光学素子が互いに光軸と異なる方向に移動することで光学的パワーを変化させる変倍結像光学系において、
光軸方向に光学素子を動かすことなく主点位置が光軸方向に動き、前記複数の光学群のうちの少なくとも群の1つの主点位置を該群の外側にすることが可能な形状を有することを特徴とする変倍結像光学系。
【請求項2】
前記複数の光学群のうちの第1の群の前側主点位置と後側主点位置をそれぞれH1、H1’とし、前記複数の光学群のうちの第2の群の前側主点位置と後側主点位置をそれぞれH2、H2’とし、物点とH1の距離をeo、H1’とH2の距離をe、H2’と像点との距離をeiとし、eoとeiを比較して小さい方をe’としたとき、広角端から望遠端の間の少なくとも一つの焦点距離においてeとe’は実質的に同一であることを特徴とする請求項1記載の変倍結像光学系。
【請求項3】
e/e’は0.7以上1.4以下であることを特徴とする請求項2記載の変倍結像光学系。
【請求項4】
前記第1群の後側主点位置をH1’とし、前記第2群の前側主点位置をH2とし、前記第1群のパワーが正の範囲で全系のパワーが最も小さいときのH1’とH2の距離をet1、最も大きいときのH1’とH2の距離をew1とし、前記第1群のパワーが負の範囲で全系のパワーが最も小さいときのH1’とH2の距離をet2、最も大きいときのH1’とH2の距離をew2とすると、et1<ew1、かつ、et2<ew2を満足することを特徴とする請求項1記載の変倍結像光学系。
【請求項5】
光電変換素子上に像を形成することを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項記載の変倍結像光学系。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちいずれか一項記載の変倍結像光学系と、
該変倍結像光学系によって形成される像を受光する光電変換素子とを備えることを特徴とする撮像装置。
【請求項1】
それぞれが回転非対称面を有する複数の光学素子で構成される光学群を複数有し、複数の光学群の各群内の光学素子が互いに光軸と異なる方向に移動することで光学的パワーを変化させる変倍結像光学系において、
光軸方向に光学素子を動かすことなく主点位置が光軸方向に動き、前記複数の光学群のうちの少なくとも群の1つの主点位置を該群の外側にすることが可能な形状を有することを特徴とする変倍結像光学系。
【請求項2】
前記複数の光学群のうちの第1の群の前側主点位置と後側主点位置をそれぞれH1、H1’とし、前記複数の光学群のうちの第2の群の前側主点位置と後側主点位置をそれぞれH2、H2’とし、物点とH1の距離をeo、H1’とH2の距離をe、H2’と像点との距離をeiとし、eoとeiを比較して小さい方をe’としたとき、広角端から望遠端の間の少なくとも一つの焦点距離においてeとe’は実質的に同一であることを特徴とする請求項1記載の変倍結像光学系。
【請求項3】
e/e’は0.7以上1.4以下であることを特徴とする請求項2記載の変倍結像光学系。
【請求項4】
前記第1群の後側主点位置をH1’とし、前記第2群の前側主点位置をH2とし、前記第1群のパワーが正の範囲で全系のパワーが最も小さいときのH1’とH2の距離をet1、最も大きいときのH1’とH2の距離をew1とし、前記第1群のパワーが負の範囲で全系のパワーが最も小さいときのH1’とH2の距離をet2、最も大きいときのH1’とH2の距離をew2とすると、et1<ew1、かつ、et2<ew2を満足することを特徴とする請求項1記載の変倍結像光学系。
【請求項5】
光電変換素子上に像を形成することを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項記載の変倍結像光学系。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちいずれか一項記載の変倍結像光学系と、
該変倍結像光学系によって形成される像を受光する光電変換素子とを備えることを特徴とする撮像装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−65307(P2006−65307A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210377(P2005−210377)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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