説明

変形可能な顆粒の製造

イットリアを含有するナノジルコニア粉末などのナノ粉末の懸濁液を形成することを含む顆粒の形成方法。この粉末は懸濁液から形成され、そしてこの懸濁液に添加剤としてフレオンを直接添加する。続いて、この懸濁液を噴霧凍結乾燥によって顆粒化し、その後フレオンを熱処理によって除去する。除去されたフレオンにより残った空隙により、顆粒内にメソ、ミクロ及びマクロの割れ目又は構造的欠陥が生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粉末、特に(ただし限定されない)セラミックナノ粉末から顆粒を形成する方法に関するものであり、また、所定の部品の製造方法に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
いくつかのナノ材料が様々な用途に好適な所望の特性をもたらすことが示されている。例えば、ナノ粒径のアルミナは、その普通ではない透明な形態で作られている。ナノジルコニアは、従来のジルコニアセラミックよりも水熱安定性及び破壊靱性が高いことが示されている。しかし、依然としてナノセラミック部品の大量生産は大きな課題である。
【0003】
ダイプレス法が好ましい部品製造手段である。凝集していないセラミックナノ粉末は凝集性であると考えられており、しかも流動性に乏しいため、ダイ充填特性に乏しい。この問題を克服する一つの方法は、それらを顆粒化することである。しかし、ナノ粉末は、顆粒形成中に硬質の凝集体を形成する傾向があるところ、これは、望ましくない材料特性を有し得るナノ部品をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
顆粒の密度が大きくなると、一次粒子(ナノ粉末)が顆粒の内部にぎっしりと詰め込まれる。粒子間距離が減少するので、このように形成された凝集体は非常に硬い。すなわち、該凝集体は、圧力を加えたときに変形に耐え、しかも、焼成工程中に度を超えた粒成長が生じ、それによって良好なナノ構造が失われる。密度の低い顆粒は、通常は軟質であるため、粉砕して微粒子になり、固まらせたときに均質なナノ構造となる。しかし、後者の場合には、流量特性及び充填特性に乏しいという不利益がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様によれば、ナノ粉末の懸濁液を形成し、該懸濁液に添加剤を添加し、該懸濁液を乾燥させて顆粒を形成させ、そして、該顆粒から該添加物の少なくとも本質的部分を除去することを含む顆粒の形成方法を提供する。
【0006】
ナノ粒子の濃縮懸濁液を製造することができ、そして、この濃縮懸濁液は、本出願人の特許出願であるPCT/GB06/002081に従う方法によって製造できる。
【0007】
添加剤は、発泡剤又は細孔形成剤であることができる。該添加剤は、100℃よりも低い沸点又は昇華温度を有することができる。該添加剤は流体又は固体であることができる。
【0008】
該添加剤は、フレオン、米国アトランタのNational Diagnostics社から入手できるTriton Xなどのオクチルフェノキシポリエトキシエタノール、カナダ国オンタリオのStepan Canada社から入手できるAlpha発泡剤のようなアンモニウムC6〜10アルコールエトキシスルフェート、又はカンフェンのいずれかであることができる。
【0009】
添加剤は懸濁液に直接添加してもよいし、又は溶液の状態で添加してもよい。
【0010】
懸濁液は、略球状の顆粒を形成するように乾燥でき、また噴射装置を使用して乾燥できる。該懸濁液は、噴霧凍結乾燥又は噴霧乾燥を使用して乾燥可能である。
【0011】
別の方法として、顆粒は、流動化によって又はせん断造粒器によって形成できる。
【0012】
添加剤の除去は、顆粒の加熱及び/又は顆粒に減圧を加えることを含むことができる。この加熱はマイクロ波加熱を含むことができる。
【0013】
添加剤の少なくともいくらかは、添加剤の除去によって顆粒に割れ目を設けるような制御された態様で除去できる。
【0014】
添加剤の少なくともいくらかは、顆粒に亀裂その他の構造を形成して欠陥を与えるように迅速に除去できる。
【0015】
追加の添加剤を懸濁液に添加することができるところ、この添加剤は、結合剤、可塑剤又は潤滑剤として作用することができる。
【0016】
該ナノ粉末は、セラミック粉末であることができ、ジルコニア粉末であることができ、また、10モル%までのイットリアを含むイットリア安定化ジルコニアであることができる。ナノ粉末は、実質的に20nmの粒度を有することができる。
【0017】
懸濁液は、水性又は非水性であることができる。
【0018】
本発明の第2の態様によれば、前記段落のいずれかに従う方法によって顆粒を形成し、該顆粒をダイプレス内に置き、そしてプレス中に該顆粒が粉末にまで分解するように該顆粒をプレスして未加工圧粉体を形成させることを含む、部品の製造方法を提供する。
【0019】
その後、この未加工圧粉体を焼成することができる。
【0020】
ここで、本発明の実施形態を、単なる例示として添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明によらないダイプレスされた圧粉体の破断面の顕微鏡画像である。
【図2】図2は、図1と同様の図であるが、ただし本発明によるダイプレスされた圧粉体によるものである。
【図3】図3は、本発明により製造された、図2と同様のダイプラスされた圧粉体の細孔径に対する細孔容積の水銀圧入図である。
【図4】図4は、Hall流量計で試験で試験される、本発明により作製された顆粒やその他の顆粒についてのオリフィス直径に対する質量流量のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
粒度が実質的に20nmの3モル%イットリアを含有するイットリア安定化ナノジルコニア粉末を、本出願人の特許出願であるPCT/GB06/002081号に従う方法によって60重量%固形分の濃縮懸濁液とした。この懸濁液にフレオンを添加剤として直接添加し、そしてその中に完全に混合させた。
【0023】
この懸濁液を、該懸濁液を寒剤にスプレーし、続いて液体を真空下において低温で除去することを伴う噴霧凍結乾燥によって顆粒化させた。続いて、フレオンを1時間にわたる70℃の熱処理によって除去した。除去されたフレオンによって残った空隙により、顆粒中にメソ、ミクロ及びマクロの裂け目又は構造欠陥が生じる。
【0024】
次いで、これらの顆粒をダイプレスに設置し、そしてプレスして未加工圧粉体を形成させた。顆粒のプレスにより、顆粒が崩れ、それらが砕けて一次粒子になる。その後、この未加工圧粉体を焼成することができる。
【0025】
このようにして製造された顆粒は、図4のグラフに示されるように、ダイヤモンド形プロットによって示される上記顆粒化ナノ粉末と、三角形のプロットで示される、同様の顆粒であるがただしフレオン添加剤を有しないものと、四角形のプロットで示される、東ソー株式会社が供給する市販のサブミクロンジルコニア粉末(この場合には基準として使用される)と比較して、Hall流量計を使用して測定されるときに優れた流動性を有する。
【0026】
上記方法によって作られた顆粒は、フレオン添加剤なしの場合よりも脆弱であり、また、この方法によって作られたプレスされた未加工圧粉体の図2に示されるような破断面は均一な微細構造を示し、そのためこれは緻密なナノ粒状セラミックに焼結できる。これは、添加剤を全く使用しておらず、しかも粉砕していない硬質の凝集体である図1とは対照をなす。また、本発明による顆粒から作られた圧粉体に関する水銀圧入データからは、大きな細孔のない微細構造が得られたことが確認される(図3)。これは、顆粒がプレスにより破砕したことを示している。
【0027】
このように、本発明は、優れた流動性だけでなく、高い粉砕性も有する軟質の変形可能なナノ顆粒の形成方法を提供する。これは、顆粒をプレス中にそれらの一次粒子に破壊して、上で概説したナノ粒子によって提供される利点を与えることができることを意味する。
【0028】
本発明の範囲から逸脱することなく、上記例に関して幅広い変更をなし得ることを了解すべきである。例えば、様々な添加剤を使用することができ、この場合見込まれる例としては、米国アトランタのNational Diagnostics社から入手できるTriton Xなどのオクチルフェノキシポリエトキシエタノール、カナダ国オンタリオのStepan Canada社から入手できるAlpha発泡剤のようなアンモニウムC6〜10アルコールエトキシスルフェート、又はカンフェンが挙げられる。添加剤は、一般に発泡剤又は細孔形成剤であり、これはこの添加剤が100℃よりも低い沸点を有する場合又は100℃の温度で昇華する昇華可能な固形物である場合に有益である。この添加剤は懸濁液に直接添加でき、或いは溶液の一部として添加できる。
【0029】
顆粒は、噴霧乾燥によって、流動化によって又はせん断造粒器を使用することによって形成できるであろう。添加剤は、加熱を使用して及び/又は減圧をかけて除去できる。加熱は、マイクロ波加熱を含むことができる。添加剤は、添加剤が位置していたところに空隙をもたらすように、ゆっくりと、かつ、調節しながら除去することができる。その空隙は、顆粒中に欠陥をもたらす。別法として、添加剤は、欠陥をもたらすために、亀裂その他の構成を生じさせるように迅速に除去できる。
【0030】
追加の添加剤は、結合剤、可塑剤又は潤滑剤として作用するように懸濁液に添加できる。様々なナノ粉末を使用できるところ、これは、様々なジルコニアその他のセラミック、又は例えば薬剤を含めて他の材料であることができる。懸濁液は水性又は非水性であることができる。
【0031】
特に重要だと思われる本発明の特徴に注目するよう本明細書において努力してきたが、出願人は、先に参照し及び/又は図面で示したあらゆる特許性のある特徴又は特徴の組合せについて、そこに特に重点を置いているかどうかを問わず、保護を請求するものと解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粉末の懸濁液を形成し、該懸濁液に添加剤を添加し、該懸濁液を乾燥させて顆粒を形成させ、そして、該顆粒から該添加物の少なくとも本質的部分を除去して該顆粒に欠陥を形成させることを含む顆粒の形成方法。
【請求項2】
ナノ粒子の濃縮懸濁液を製造する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記濃縮懸濁液を、本出願人の特許出願PCT/GB06/002081号に従う方法で製造する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記添加剤が発泡剤又は細孔形成剤である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記添加剤が100℃よりも低い沸点又は昇華温度を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記添加剤が流体又は固体である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記添加剤が、フレオン、米国アトランタのNational Diagnostics社から入手できるTriton Xなどのオクチルフェノキシポリエトキシエタノール、カナダ国オンタリオのStepan Canada社から入手できるAlpha発泡剤のようなアンモニウムC6〜10アルコールエトキシスルフェート、又はカンフェンのいずれかである、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記添加剤を前記懸濁液に直接添加する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記添加剤を前記懸濁液に溶液の状態で添加する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記懸濁液を略球状の顆粒とするように乾燥させる、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記懸濁液を噴射装置を使用して乾燥させる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記懸濁液を、噴霧凍結乾燥を使用して乾燥させる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記懸濁液を、噴霧乾燥を使用して乾燥させる、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記顆粒を流動化によって又はせん断造粒器を使用することによって形成させる、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記添加剤の除去が顆粒の加熱及び/又は顆粒に減圧を加えることを含む、1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記加熱がマイクロ波加熱を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記添加剤の少なくともいくらかを、添加剤の除去によって顆粒内に欠陥がもたらされるように制御して除去する、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記添加剤の少なくともいくらかを、顆粒に亀裂その他の構造を形成して欠陥を与えるように迅速に除去する、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記懸濁液に追加の添加剤を添加し、該添加剤は、結合剤、可塑剤又は潤滑剤として作用することができる、1〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記ナノ粉末がセラミック粉末である、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記ナノ粉末がジルコニア粉末である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ナノ粉末が10モル%までのイットリアを含むイットリア安定化ジルコニアである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ナノ粉末が実質的に20nmの粒度を有する、請求項1〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記懸濁液が水性である、請求項1〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記懸濁液が非水性である、請求項1〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
請求項1〜25のいずれかに記載の方法によって顆粒を形成し、該顆粒をダイプレス内に設置し、そして該顆粒を該顆粒がプレス中に破壊するようにプレスして未加工圧粉体を形成させることを含む部品の製造方法。
【請求項27】
前記未加工圧粉体をその後焼成する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
本明細書において添付図面に関連して実質的に記載されたとおりの顆粒の形成方法。
【請求項29】
本明細書において添付図面に関連して実質的に記載されたとおりの部品の製造方法。
【請求項30】
請求項1〜29のいずれかと同一の発明の範囲内又はそれに関連するかどうかを問わず、本明細書に開示された新規な要旨を含めて新規な事項又は組合せ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−505818(P2012−505818A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531552(P2011−531552)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【国際出願番号】PCT/GB2009/002463
【国際公開番号】WO2010/043864
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(511094587)ラフバラ・ユニバーシティ (3)
【氏名又は名称原語表記】LOUGHBOROUGH UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】Loughborough Leicestershire LE11 3TU GB
【Fターム(参考)】