説明

変性されたバイオマテリアル、その使用および変性方法

本発明は、バイオマス技術の分野に関し、より正確には、製品を食品および化粧品用にパッケージング、およびコーティングする用途に関する。本発明は、高分子多糖類マトリックスを変性する方法および製品に新しい特性を与えるために製品をコーティングする方法に関する。本発明はさらに、変性された高分子多糖類マトリックス、変性された高分子多糖類マトリックスでコーティングされている製品およびその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス技術の分野に関し、より正確には、製品を食品および化粧品用にパッケージング、およびコーティングする用途に関する。本発明は、高分子多糖類マトリックスを変性する方法および製品に新しい特性を与えるために製品をコーティングする方法に関する。本発明はさらに、変性された高分子多糖類マトリックス、変性された高分子多糖類マトリックスでコーティングされている製品およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
製品の消費の増加および発展的な組合せにより、特殊なパッケージング材の必要性が、ここ数十年の間に高まってきている。パックされる物品が途切れることなく開発され、パッケージング材の必要性は絶えず変化しており、パッケージング業界に挑戦している。
【0003】
多くの食品は、保存期間中にそれらの新鮮さおよび全体的な品質を維持するための特殊な状態を必要とする。したがって、我々の食品は、問題の食品の最適な品質、安全性および機能を保証する、方法および材料を使用することによってパックされている。保存期間中に食品の、例えば、新鮮さ、物理的品質および微生物的安全性を保証するために、パッケージング材は特定のバリア性を有する必要がある。
【0004】
食品のパッケージング用の高バリアフィルムを作製する従来のアプローチは、多層の異なるフィルム、またはパッケージング材上の合成の、プラスチックもしくは金属のコーティングを使用するものである。しかし、環境負荷を減らすために、環境に配慮した解決法の必要性がパッケージング業界において増大している。さらに、例えば食品業界の副産物のような再利用の材料によるなどの、生産コストの削減が求められ得る。
【0005】
合成の、プラスチックまたは金属のパッケージング材に代わるものは、天然高分子である。天然高分子の例は、多糖類、例えばペクチン、ヘミセルロース、セルロースおよびデンプンなど、ならびにタンパク質、例えばカゼイン、小麦およびトウモロコシからのグルテン、乳清、コラーゲン、ケラチンおよび大豆などである。
【0006】
多糖類の群から、ヘミセルロースおよびペクチンは、例えば、酸素、芳香、油、および香味化合物の、移動を制御する可能性を示しているので、フィルムおよびコーティングの分野において注目されている。
【0007】
ペクチンは、一群のヘミセルロース、すなわち、非セルロース非デンプン性の植物多糖類に属する。ペクチンは、陸上植物の一次細胞壁中に含まれる酸性の構造的ヘテロ多糖である。これは、植物細胞間の中層にも存在し、細胞を互いに結合するのに役に立つ。産業目的の場合、ペクチンは、主に、リンゴの絞りかす、柑橘類果実および甜菜の小片から抽出され、ゲル化剤、安定剤または食物繊維源として食品または医薬品中で使用される。
【0008】
ペクチンは、複合構造を有する。ペクチンは、高等植物から抽出されたときには、平滑(直鎖状)領域および毛状分枝状領域を含有している。直鎖状平滑領域は、α−(1−4)−連結D−ガラクツロン酸残基からなり、そのうちのいくつかは、C−6位でメチルエステル化されており、かつC−2またはC−3位でアセチル化されていてもよい。毛状領域は、反復した二糖類(→4)−α−D−GalpA−(→2)−α−L−Rhap−(→)の主鎖を含有している。このRhap残基は、C−4において、主にアラビノースおよびガラクトースならびにペクチン源によってはさらにフコースおよびグルクロン酸からなる中性および酸性のオリゴ糖側鎖で置換される。この中性糖側鎖中のこれらのアラビノースおよびガラクトース残基は、場合によっては、(例えば、甜菜ペクチンにおいて)C−2(アラビノース)またはC−6(ガラクトース)位で連結されるフェルラ酸残基によって置換される。植物細胞壁において、ペクチンは、置換されたガラクツロナン(ラムノガラクツロナンII、RG−II)も含有する。RG−IIの主鎖は、少なくとも7個の1,4−連結α−D−GalpA残基からなり、ここに、構造的に異なるオリゴ糖側鎖が結合される。RG−IIは、使用される抽出および精製の手順のために、市販のペクチン中ではかなり減少しているかまたは存在しない。
【0009】
エステル化の程度は、ペクチンの溶解性と、そのゲル化特性およびフィルム形成特性と、かつしたがって、その産業上の利用可能性の大部分を決定する。メチルエステル化の程度は植物源の由来および加工状態、例えば、保存、抽出、単離および精製によって異なる。市販のペクチンは、低(D.E.<50%)メトキシルペクチンと高(D.E.>50%)メトキシルペクチンとに等級分けされる。特別に必要な場合、ペクチンは、酵素的な手段でさらに変性することができ、例えば、ポリガラクツロナーゼによってモル質量を減少させることができ、ペクチンメチルエステラーゼによってD.E.を調整することができる。
【0010】
ペクチンの化学式は、以下に示すとおりである。
【化1】

【0011】
キシランは、ヘミセルロースの最も重要な成分である。キシランは、単子葉植物の一次細胞壁中の主成分であり、双子葉植物の一次壁中により少ない量で見出される。キシランは、β−1,4−連結キシロース残基の主鎖を有する。アラビノキシランにおいてこの主鎖は、キシロシル残基のO−2またはO−3に結合されたアラビノフラノシル残基によって置換される。このキシラン主鎖は、キシロシル残基のO−2上のα−連結4−O−メチル−β−D−グルコピラノシルウロン酸およびO−2またはO−3上のアセチルエステルによって置換される。鎖置換の程度は、問題のキシランの溶解性の程度を決定する。イネ科単子葉植物の一次細胞壁は、フェルラ酸およびp−クマル酸によってエステル化されたアラビノキシランを含有する。フェルロイル化およびp−クマレイル化は、キシランのアラビノフラノシル側鎖のO−5で生じる。
【0012】
多糖類の親水性の性質のために、その気体バリア性は湿度条件にきわめて大きく依存する。多糖類材料の気体透過性は、湿度が上昇するときに、マニホールドを高め得る(Natanya Hansen&David Plackett.2008.Sustainable Films and Coatings from Hemicelluloses:A Review.Biomacromolecules 9:1493〜1505)。湿気の存在下で、巨大分子鎖はより移動性になり、その結果として酸素透過性におけるかなりの増大を導く。一般に、非イオン性多糖類フィルムは、タンパク質フィルムよりも高い酸素透過性を有するようである。これは、これらのより極性でない性質およびより直鎖状でない構造に関連し、より低い凝集エネルギー密度およびより大きい自由容積をもたらし得る(Khwaldia,K.、Perez,C.、Banon,S.、Desobry,S.&Hardy,J. Milk proteins for edible films and coatings.Critical Reviews in Food Science and Nutrition、第44巻(2004)4,239251頁)。
【0013】
多糖類コーティングのバリア性における大きな欠点は、多糖類を、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)およびポリ乳酸(PLA)のような、他のバイオベースの物質とブレンドまたは積層することによって克服されている。多糖類の特性を変性する他の方法は、化学修飾によってである。
【0014】
耐グリース性は、脂肪または油を含有する製品と共に使用されるパッケージング材の重要な特性である。一般に、多糖類フィルムは、そのかなりの親水性のために、高度に耐グリース性であると予想される(Innovations in Food Packaging. Jung H.Han(編)Food Science and Technology、International Series、Elsevier Ltd、London、2005)。しかし、多糖類の耐グリース性特性は、例えば化学修飾によっても変性され得る。
【0015】
天然高分子フィルムの機能的特性および機械的特性を拡張する現在のアプローチとしては、(i)疎水性化合物の組み込み、例えば、フィルム形成溶液中の脂質など;(ii)高分子間の相互作用の最適化(タンパク質−タンパク質相互作用、タンパク質と多糖類との間の電荷−電荷静電気的複合体)および(iii)物理的、化学的、もしくは酵素的な処理または照射を通しての架橋の形成(Ouattara B.ら2002、Radiation Physics and Chemistry、第63巻(3〜6)、821〜825)などが挙げられる。
【0016】
例えば、多糖類は、タンパク質と組み合わせて複合フィルムを形成する。例としては、メチルセルロースとゼイン、アルギン酸プロピレングリコールと大豆タンパク質単離物、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとPistacia terebinthusのタンパク質単離物、アルギン酸塩またはペクチンと乳清タンパク質またはカゼイン塩、デンプンとゼイン、ならびにデンプンとカゼイン酸ナトリウムからのフィルムなどが挙げられる(Yada R.Y.、Proteins in Food Processing. Woodhead Publishing、http://www.knovel.com/knovel2/Toc.jsp?BookID=1221&VerticalID=)。
【0017】
さらに、刊行物WO98/22513A1には、ペクチン架橋によるゲルの作製が記載されており、刊行物WO9603546A1には、フェノール基の酸化を触媒することができる酵素でリグノセルロース材料およびフェノール性多糖類(phenolic polysaccharide)を処理することによるリグノセルロースをベースとした製品の製造のためのプロセスが記載されている。JP05117591Aには、天然の漆と同様の特徴を有し、ペクチンおよび酸化酵素のような、植物性粘液物質を備える組成物が記載されている。
【0018】
しかし、本発明は、高分子多糖類マトリックスを変性するための、かつさらに、高分子多糖類マトリックスのバリア性および/または機械的特性を改良するための新規な方法を提供する。本発明の高分子多糖類マトリックスは、例えば、食品および化粧品のパッケージングにおいて有用である。
【発明の概要】
【0019】
本発明は、架橋を官能基化と組み合わせることによって、すなわち、架橋された高分子多糖類への官能基の付加または官能基化された高分子多糖類を架橋することによって、高分子多糖類マトリックスの特性が都合よく変性され得るという驚くべき発見にある。該官能基は、例えば、疎水基であってもよく、それによって優れたバリア性が得られる。
【化2】

【0020】
本発明は、高分子多糖類マトリックスを変性する方法に関し、前記方法は、
該マトリックス中の高分子多糖類を架橋することと、
該高分子多糖類のフェルラ酸を酸化することによって該高分子多糖類を官能基化することと、酸化された該高分子多糖類を、酸化された該フェルラ酸と反応性である、少なくとも1つの第1の部位と、該高分子多糖類マトリックスに所望の特性を与える、少なくとも1つの第2の部位とを含有する疎水性改質剤と接触させることと
を備え、
それにより、変性された高分子多糖類マトリックスが得られる。
【0021】
本発明は、製品をコーティングする方法にも関し、前記方法は、
高分子多糖類マトリックスを提供することと、
該マトリックス中の高分子多糖類を架橋することと、
該高分子多糖類のフェルラ酸を酸化することによって該高分子多糖類を官能基化することと、酸化された該高分子多糖類を、酸化された該フェルラ酸と反応性である、少なくとも1つの第1の部位と、該高分子多糖類マトリックスに所望の特性を与える、少なくとも1つの第2の部位とを含有する疎水性改質剤と接触させて、変性された高分子多糖類マトリックスを得ることと、
変性された該高分子多糖類マトリックスで製品をコーティングすることと
を備える。
【0022】
さらに、本発明は、高分子多糖類マトリックスまたは製品のバリア性または機械的特性を改良する方法に関し、前記方法は、
該マトリックス中の高分子多糖類を架橋することと、
該高分子多糖類のフェルラ酸を酸化することによって該高分子多糖類を官能基化することと、酸化された該高分子多糖類を、酸化された該フェルラ酸と反応性である、少なくとも1つの第1の部位と、該高分子多糖類マトリックスに所望の特性を与える、少なくとも1つの第2の部位とを含有する疎水性改質剤と接触させることと、
場合によっては、変性された高分子多糖類マトリックスで製品をコーティングすることと
を備える。
【0023】
さらに、本発明は、該高分子多糖類の酸化されたフェルラ酸に結合される、少なくとも1つの第1の部位と、該高分子多糖類マトリックスに所望の特性を与える、少なくとも1つの第2の部位とを含有する疎水性改質剤を有する架橋された高分子多糖類を備える変性された高分子多糖類マトリックスに関する。
【0024】
さらに、本発明は、該高分子多糖類の酸化されたフェルラ酸に結合される、第1の部位と、該高分子多糖類マトリックスに所望の特性を与える、第2の部位とを含有する疎水性改質剤を有する架橋された高分子多糖類を備える変性された高分子多糖類マトリックスでコーティングされている製品に関する。
【0025】
本発明はさらに、増粘剤、ヒドロゲル、フィルム、食用コーティングまたはパッケージング材のコーティングにおける、本発明の変性された高分子多糖類マトリックスの使用、および食品、動物用飼料、化粧品または電子部品のパッケージを製造するための本発明の製品の使用に関する。
【0026】
本出願の利点は、食品および化粧品業界に適用可能なバイオマテリアルを含有する新規な高分子多糖類を提供することである。本発明の変性された高分子多糖類マトリックスを用いた、例えば紙または厚紙のような、バイオマテリアルのコーティングは、新しいパッケージングバイオマテリアルを提供する。バイオベースのフィルムおよびコーティングを使用する目的は、食品の保存期限を延長すること、食品または化粧品の品質および有用性を改良すること、ならびに合成のパッケージング材の量を減少させることである。
【0027】
本発明は、従来の多層の異なるフィルムの代わりにフィルムを含有する単一高分子多糖類のみの使用も可能にする。さらに、持続可能な開発の天然溶液が提供される。
【0028】
本発明の方法および手段は、油、気体、水および水蒸気のバリアなどのバリア能力を含む、バイオマテリアルの新しい特徴を達成し、かつしたがって、こうしたバイオマテリアルの有用性を改良する。
【0029】
以下において添付の図面を参照しながら好ましい実施形態によって本発明をより詳細に説明していくことにする。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】架橋されたペクチンフィルムの水中への溶解試験の結果を示す図。1〜5ナノカタール/g(7%ペクチン、60℃)のラッカーゼ適用量で架橋されたフィルムは、水中に浸漬したときに不溶性であったのに対して、参照(酵素なし、すなわち、未処理の参照試料)および低いラッカーゼ適用量(0.5nkat/g)で処理したフィルムは溶解した。
【図2】変性されたペクチンでコーティングされた厚紙の背面上での耐グリース性試験の後に撮られた画像を示す図。全ての試料は、7%のペクチンと、2%の細菌微結晶性セルロース(BMCC)と、3%のImerolと35%のグリセロールとを含有した。
【0031】
a)参照。b)Trametes hirsuta−ラッカーゼ(ThL)で架橋された。c)参照+DOGA。天然ペクチンは、グリースの優れたバリアであるが、湿気のある状態においてそのグリースバリアを緩める。さらに、湿潤剤(Imerol)およびDOGAも、ラッカーゼ処理なしで適用したときにグリースバリアを破壊した。d)ThLによってDOGAで架橋および官能基化された。ラッカーゼでの架橋は、疎水性成分(DOGA)での官能基化後かつ/または湿潤剤の存在下での耐グリース性を維持するために必要であった。
【図3】ラッカーゼで誘導される架橋およびDOGAまたはPROGAでの官能基化によって得られたペクチンコーティングの酸素透過率(OTR)(cc/m2/日)を示す図。測定は、RH80%で行った。比較のために、ポリエチレンでコーティングされた厚紙(StoraEnso、Cupforma Classic)のOTRは、RH80%で約4700cc/m2/日であった。
【図4】ラッカーゼおよびDOGAで架橋および官能基化されたペクチンフィルムの引張り強さ(a)及びひずみ度(b)を示す図。Gly35%およびTG35%は、それぞれ35%(w/wペクチン)のグリセロールおよびグリセロールエーテル10を指す。可塑剤の選択は、ペクチンフィルムの強度特性に大きく影響した。TG10でのグリセロールの置換は、結果としてきわめて強いフィルムを生じた。TG10で可塑化された架橋およびDOGA変性されたフィルムは、グリセロールで可塑化した対応するフィルムと比較して50%高い引張り強さを有した。
【図5】細菌微結晶性セルロース(BMCC)および甜菜(ナノ)セルロース(Danicell)で補強されたペクチンフィルムの強度特性(a.引張り強さ、b.ひずみ度)を示す図。CMCとは、カルボキシメチルセルロースを指す。ペクチンフィルムの強度特性は、(ナノ)セルロースを補うことによって改良された。セルロース装入の機能としての引張り強さの増加傾向は、架橋されたフィルムと架橋+官能基化されたフィルムの両方で検出された。最も高い値は、Danicellの2.5%の装入で記録された。ペクチンフィルムの柔軟性は、DanicellとBMCCの両方の添加によって明らかに増大された(5b)。
【図6】水中でのペクチンフィルムの溶解を示す図。APSで架橋されたペクチンは、水に不溶性であった。
【図7】架橋および官能基化されたペクチンフィルムの溶解性を示す図。1.甜菜ペクチン、2.甜菜ペクチン+APS、3.甜菜ペクチン+APS+20mg/g HexVanおよび4.甜菜ペクチン+APS+HexVan 60mg/g。
【発明を実施するための形態】
【0032】
変性のための高分子多糖類
天然高分子、特に高分子多糖類である、バイオマテリアルを変性するための新規な方法が見出されている。「高分子多糖類」とは、植物バイオマス、セルロースの回収もしくは収穫の残留物、(例えば糖製造からの)産業上の副産物または廃棄物から抽出される物質を指す。本発明において変性される高分子多糖類としては、天然源からの任意の高分子多糖類などが挙げられる。本発明において使用される単離された高分子多糖類は、合成の手段によってさらに変性されてもよい。本発明の好ましい一実施形態において、該高分子多糖類は、ペクチンまたはキシランである。
【0033】
好ましいペクチンとしては、甜菜のペクチン、リンゴの絞りかす、柑橘類果実、ジャガイモ、トマトおよび西洋梨などが挙げられるが、これらに限定されない。甜菜ペクチンは、本発明に好ましいバリア材である。
【0034】
好ましいキシランとしては、単子葉植物のイネ科キシランなどが挙げられるが、これに限定されない。アラビノキシランは、本発明に好ましいバリア材である。
【0035】
本発明において、該高分子多糖類マトリックスは、その部分または断片がフェルラ酸(FA)を備えるのであれば、多糖類のあらゆる部分または断片を備える。実際に、本発明の高分子多糖類(例えば、ペクチンおよび/またはキシラン)は、化学修飾のための部位として作用する、フェルラ酸残基によって特徴付けられる。該高分子多糖類が天然にはFA基を有していない場合、またはその数を増やす必要がある場合、合成の手段によって該多糖類にこれらの基をグラフトすることが可能である。フェルラ酸の化学式は、以下に示すとおりである。「フェルラ酸」とは、(E)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシ−フェニル)プロパ−2−エン酸およびその誘導体を指す。
【化3】

【0036】
本発明の好ましい一実施形態において、該高分子多糖類マトリックスは、ペクチンの平滑領域と毛状領域の両方と、ペクチンの毛状領域と、フェルラ酸残基を有するアラビノキシランと、これらの任意の誘導体とのうちの少なくとも1つを備える。
【0037】
高分子多糖類の修飾
高分子多糖類は、再生可能な原材料中の重要な成分である。高分子多糖類の修飾およびこれらの材料におけるこれらの技術的特性のために、酵素または化学物質を使用することができる。高分子多糖類マトリックスは、照射および熱硬化などの、物理的変性によっても変性することができる。
【0038】
架橋
共有結合性架橋は、三次元の多糖類網の強度およびひずみ度を高め、かつ水性媒体においてより大きい物理的完全性を提供するのに有用な機構である。該高分子のセグメント運動性における架橋の拘束は、拡散過程をより遅くさせ、結果として水性溶媒に対する該高分子多糖類マトリックスの透過性および溶解性における低下を導く。
【0039】
架橋された高分子多糖類マトリックスは、水を欠いた溶媒中でもより大きい物理的完全性を有し得る。例えば、これらの溶媒としては、メタノール、エタノールおよびアセトンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
本明細書中で使用される場合、「架橋」という表現は、高分子の鎖間の分子間結合の形成である。架橋は、高分子多糖類の酸化されたフェルラ酸構成要素の間で生じる。
【0041】
酵素によって
高分子多糖類の酵素的処理は、高分子多糖類において分子間および分子内の架橋を形成するために、かつしたがって、フィルム特性を改良するために利用することができる。フェノール基の酸化を触媒することができるあらゆる型の酵素を本発明において使用することができる。
【0042】
電子アクセプターとして酸素を使用するフェノールオキシダーゼは、費用のかかる再生を必要とする、すなわち、反応においてNAD(P)H/NAD(P)が必要とされる、別の補因子がないので、特に酵素プロセスに好適である。これらのフェノールオキシダーゼとしては、例えば、ラッカーゼおよびチロシナーゼなどが挙げられる。これらは、いずれも銅タンパク質であり、多様なフェノール化合物を酸化することができる。ラッカーゼおよびチロシナーゼの基質特異性は、部分的に重複している。
【0043】
チロシナーゼは、モノフェノールおよび芳香族アミンのo−ヒドロキシル化と、o−キノンへのo−ジフェノールの酸化またはo−キノンイミンへのo−アミノ−フェノールの酸化との両方を触媒する(H.Sigel(編)、Metal ions biological systems(143〜186頁).New York、Marcel Dekker中にある、Lerch K.、1981.Copper monooxygenases:Tyrosinase and dopamine γ−hydroxylase.)。伝統的にチロシナーゼは、基質特異性および阻害剤に対する感受性に基づいてラッカーゼから区別され得る。しかし、その区別は、現今では構造的特徴に基づいている。構造的に、チロシナーゼとラッカーゼとの間の主な相違は、チロシナーゼは、その活性部位に2個のタイプIII銅を有する二核性の銅部位を有する一方、ラッカーゼは、活性部位に全部で4個の銅原子(タイプI銅およびタイプII銅、ならびに1対のタイプIII銅)を有することである。
【0044】
ラッカーゼは、高分子多糖類およびさらに可能性のある他の基質(例えば、フェノール成分または小分子)に対するラジカルを形成する。したがって、該プロセスは、チロシナーゼによって触媒されるキノン誘導性非ラジカル反応よりも制御するのがより困難である。ラッカーゼ調製の特性および適用量ならびに、例えば、温度、pH、O2濃度、混合時間および処理時間などの、処理条件は、形成されるラジカルの量および有効期間、かつしたがって、高分子多糖類の架橋および/または官能基化に影響する。
【0045】
ホースラディッシュペルオキシダーゼのような、ペルオキシダーゼ処理は、高分子多糖類フィルム形成溶液にも使用され得る。ペルオキシダーゼが酵素反応において使用される場合には、過酸化水素が酸化剤として存在しなければならない。
【0046】
本発明の好ましい一実施形態では、架橋は、酵素触媒反応によって行われる。
【0047】
本発明の方法の好ましい一実施形態において、架橋のための酵素は、ラッカーゼ(EC1.10.3.2)、カテコールオキシダーゼ(EC1.10.3.1)、チロシナーゼ(EC1.14.18.1)、ビリルビンオキシダーゼ(EC1.3.3.5)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(EC1.11.1.7)、マンガナーゼペルオキシダーゼ(EC1.11.1.13)、リグニンペルオキシダーゼ(EC1.11.1.14)、ヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5)、ガラクトースオキシダーゼ(EC1.1.3.9)およびリポキシゲナーゼ(EC1.13.11.12)からなる群から選択される。最も好ましくは、該酵素は、ラッカーゼまたはチロシナーゼ、好ましくはラッカーゼである。ラッカーゼまたはチロシナーゼは、植物、哺乳類、および昆虫からまたはAgaricus bisporus、Neurospora、Streptomyces、Bacillus、Myrothecium、Mucor、Miriococcum、Aspergillus、Chaetotomastia、Ascovaginospora、TrametesまたはTrichodermaのような微生物源から得ることができるラッカーゼまたはチロシナーゼから選択され得る。
【0048】
生物から得ることができることに加えて、本発明において使用される酵素は、例えば、合成または組換え生成によって作製することができる。好適な酵素の作製のために、当技術分野において知られている任意の方法を使用することができる。
【0049】
化学物質によって
食品以外の適用の意図される高分子多糖類は、広範多様な化学薬剤によって架橋され得る。ケラチン、小麦グルテン、およびゼインから作製されるフィルムの機能的特性を改良するために、ジイソシアナートおよびカルボジイミドのような、二機能性および多機能性試薬が使用されてきた。ジイソシアナートは、リシンを標的とする架橋剤として作用し、カルボジイミドは、選択的にカルボン酸とフェノール基とを連結する。ホルムアルデヒドは、最も広範な反応特異性を有し、高分子多糖類のフェルラ酸を架橋することができ、したがって、分子内および分子間の共有結合の形成を促進する。ジアルデヒド、グルタルアルデヒドまたはグリオキサールも、高分子多糖類における架橋剤として使用され得る。アルデヒドの他に、エピクロロヒドリンまたはドデシル硫酸ナトリウムのような、他の化学薬剤が、高分子多糖類フィルム特性を変性するために使用され得る。
【0050】
物理的処理によって
高分子多糖類において、フェノール基は、紫外線を吸収し、再結合して共有結合性架橋を形成することができる。
【0051】
γ−照射は、立体配置的変化、フェノール基の酸化、共有結合の断裂、およびフリーラジカルの形成を引き起こすことによって高分子多糖類に影響を及ぼす。γ−照射によって引き起こされる、高分子多糖類における化学変化としては、架橋だけでなく、断片化、凝集および酸化なども挙げられる。γ−照射における効果を説明するために、以下の2つの仮説が述べられている:(i)異なる物理化学的特性を有する高分子の分子間相互作用におけるより多くの分子残基の関与ならびに(ii)フィルム形成溶液中での分子間および/または分子内の共有結合性架橋の形成(Ouattara,B.ら 2002、Radiation Physics and Chemistry、第63巻(3〜6)、821〜825頁)。
【0052】
放射線に加えて、高分子多糖類の熱処理は、分子内および分子間の架橋の形成を促進し得る。
【0053】
官能基化
高分子多糖類の官能基化は、1)酸化された材料を提供するためにフェルラ酸を酸化する工程と、2)酸化された材料を改質剤と接触させる工程とを備える。したがって、官能基化、すなわち、高分子多糖類に改質剤を添加することは、天然の高分子多糖類に対して外来のバイオマテリアルの変性された特性に結びつく。達成される特性は、使用する改質剤に依存する。
【0054】
本明細書中で使用される場合、「酸化」という表現は、反応性キノンまたはラジカル中間体の形成を触媒する酸化還元酵素、化学物質または放射線を指す。これらの型の反応の典型的な例については、15頁に示している。
【0055】
本官能基化プロセスの第1の段階において、該高分子多糖類マトリックスは、フェノールまたは例えばフェルラ酸などの同様の構造群の酸化を触媒することができる物質と反応して、酸化された高分子多糖類マトリックスを提供する。典型的には、該物質は酵素であり、該酵素反応は、該高分子多糖類マトリックスを、該酵素の存在下でフェルラ酸を酸化させて酸化された該マトリックスを提供することのできる酸化剤と接触させることによって行われる。
【0056】
酵素の代わりに、該高分子多糖類マトリックスを、フェルラ酸の酸化を触媒して酸化された高分子多糖類マトリックスを提供することのできる化学酸化剤と反応させることもできる。
【0057】
酸化剤は、酸素および例えば空気のような酸素含有気体ならびに過酸化水素であってもよい。酸素は、例えば効率的な混合、発泡、酸素を濃縮した空気または例えば該溶液に過酸化物を添加するなどの酵素的もしくは化学的な手段によって供給される酸素のように、多様な手段によって供給され得る。
【0058】
該化学酸化剤は、フェントン試薬、有機ペルオキシダーゼ、過マンガン酸カリウム、オゾンおよび二酸化塩素などの、典型的なフリーラジカル形成物質であってもよい。好適な塩の例は、無機遷移金属塩、特に、硫酸、硝酸および塩酸の塩である。例えばアルカリ金属および過硫酸アンモニウムならびに有機および無機の過酸化物のような、強い化学オキシダントは、本プロセスの第1の段階において酸化剤として使用され得る。
【0059】
フェノール基の酸化ができる化学オキシダントは、ラジカルな機構によって反応する化合物であり得る。該酸化剤は、任意の酸化開始剤、すなわち、酸化を開始する作用剤であってもよい。
【0060】
酸化された該高分子多糖類マトリックスを提供するために、該高分子多糖類マトリックスは、フェルラ酸の酸化を触媒することができるラジカル形成放射線と反応させることもできる。ラジカル形成放射線は、ガンマ線照射、電子ビーム放射線または高分子多糖類マトリックス中でラジカルを形成することができる任意の高エネルギー放射線を備える。
【0061】
本発明の好ましい一実施形態において、酸化は、化学的処理と生化学的処理との組合せから生じる。
【0062】
一般に、該プロセスの第1の工程は、用いられる酸化する物質に応じて、約0.1分から24時間、典型的には約1分から約10時間続く。処理時間は、酵素の場合には、例えば、約5から240分間であってもよい。
【0063】
該方法の好ましい一実施形態において、官能基化は、酵素触媒反応に関与する。
【0064】
該方法の好ましい一実施形態において、官能基化のための該酵素は、チロシナーゼ(EC1.14.18.1)、ラッカーゼ(EC1.10.3.2)、カテコールオキシダーゼ(EC1.10.3.1)、ビリルビンオキシダーゼ(EC1.3.3.5)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(EC1.11.1.7)、マンガナーゼペルオキシダーゼ(EC1.11.1.13)、リグニンペルオキシダーゼ(EC1.11.1.14)、ヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5)、ガラクトースオキシダーゼ(EC1.1.3.9)およびリポキシゲナーゼ(EC1.13.11.12)からなる群から選択される。最も好ましくは、該酵素は、チロシナーゼおよびラッカーゼからなる群から選択される。ラッカーゼは、官能基化に最も好ましい酵素である。ラッカーゼは、Melanocarpusから(EC1.10.3.2)、Trametesから(EC1.10.3.2)、Pycnoporusから(EC1.10.3.2)、Rhizoctoniaから(EC1.10.3.2)、Coprinusから(EC1.10.3.2)、Myceliophtoraから(EC1.10.3.2)、Pleurotusから(EC1.10.3.2)、Rhusから(EC1.10.3.2)、Agaricusから(EC1.10.3.2)、Aspergillusから(EC1.10.3.2)、Cerrenaから(EC1.10.3.2)、Curvulariaから(EC1.10.3.2)、Fusariumから(EC1.10.3.2)、Lentiniusから(EC1.10.3.2)、Monocilliumから(EC1.10.3.2)、Myceliophtoraから(EC1.10.3.2)、Neurosporaから(EC1.10.3.2)、Penicilliumから(EC1.10.3.2)、Phanerochaeteから(EC1.10.3.2)、Phlebiaから(EC1.10.3.2)、Podosporaから(EC1.10.3.2)、Schizophyllumから(EC1.10.3.2)、Sporotrichumから(EC1.10.3.2)、Stagonosporaから(EC1.10.3.2)Chaetomiumから(EC1.10.3.2)、Bacillusから(EC1.10.3.2)、Azospirillumから(EC1.10.3.2)およびTrichodermaから(EC1.10.3.2)得ることができるラッカーゼから選択され得る。生物から得ることができることに加えて、該酵素は、例えば、合成または組換え生成によって作製することができる。好適な酵素の作製のために、当技術分野において知られている任意の方法を使用することができる。
【0065】
典型的なラッカーゼおよびチロシナーゼの基質の特定の構造の例を以下に示す。
【化4】

【0066】
さらに、ラッカーゼおよびチロシナーゼの反応の例を以下に示す。
【化5】

【0067】
官能基化プロセスの第2の工程において、改質剤は、該マトリックスの酸化されたフェルラ酸に結合される。こうした改質剤は、典型的には、以下でさらに詳細に説明するように、該高分子多糖類マトリックスと適合可能である少なくとも1つの第1の部位と、場合によっては、少なくとも1つの第2の部位とを示す。
【0068】
本プロセスの第2の段階において、該改質剤は、酸化された該材料と反応することができる。
【0069】
本明細書中で使用される場合、該改質剤の「第1の部位」という表現は、該高分子多糖類の酸化された基と反応性である、部位を指す。該改質剤は、複数の第1の官能部位を有し得る(WO2005/061790を参照されたい)。典型的には、1〜3つの第1の官能基があるが、該高分子多糖類マトリックスに対する該改質剤の結合は、そのときに主に1つの官能基を通して生じるように見えるであろう。1つの官能部位または官能要素が、該高分子多糖類マトリックスにいくつかの特性を与えることもある。
【0070】
該改質剤は、結合された作用剤およびそれが結合されている該高分子多糖類基質に、第2の官能性から直接導き出せる特定の特性を与える官能性、または官能性作用剤を結合させるのに好適な官能性のいずれかを備える、1つまたは複数の第2の官能部位をさらに有していてもよい。本明細書中で使用される場合、該改質剤の「第2の部位」という表現は、所望の特性を該高分子多糖類マトリックスに付与する、部位を指す。
【0071】
該改質剤の官能部位または官能基は、同一であっても異なっていてもよい。該官能基は、例えば、典型的な化学反応基、いくつかの例を述べると、(フェノールヒドロキシ基を含む)ヒドロキシル、カルボキシ、無水物、アルデヒド、ケトン、アミノ、アミン、アミド、イミン、イミジンならびにこれらの誘導体および塩など、のうちのいずれであってもよい。さらに、二重結合、オキソ架橋またはアゾ架橋のような、電気的に陰性な結合は、酸化された残基に対する結合形成を可能にし得る。官能部位に対する結合を達成することができるあらゆる基が含まれる。該結合は、イオン性もしくは共有結合性の結合または水素結合に基づき得る。本発明の好ましい一実施形態によれば、該改質剤および高分子多糖類は、共有結合を形成する。
【0072】
任意の特性を運ぶことができる、または任意の特性を運ぶように修飾され得る該改質剤の基は、負もしくは正の電荷、抗菌性、抗真菌性もしくは抗微生物性の効果、耐熱、難燃性もしくはUV耐性、色、またはあらゆる酸素/気体バリア性特性などの特性を提供し得る。
【0073】
該改質剤において、1つまたは複数の官能部位が結合される、炭化水素残基は、直鎖状または分枝状の脂肪族、脂環式、ヘテロ脂肪族、芳香族またはヘテロ芳香族であり得る。該炭化水素残基は、飽和または不飽和であり得る。
【0074】
本発明において、該改質剤は疎水性である。好ましい改質剤の例は、疎水性炭化水素尾部を備える、化合物である。こうした化合物は、少数の例を挙げると、メトキシフェノールおよびジメトキシフェノール、例えば、オイゲノール、イソオイゲノール、バニリン酸、フェルラ酸およびこれらのアルキル誘導体、ならびにフェノール型またはアニリン型の化合物の誘導体、例えば、没食子酸塩/没食子酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、コーヒー酸、バニリルアミン、チラミン、L−ドーパおよびチロシンによって例示される。
【0075】
本発明のさらに好ましい一実施形態において、該改質剤は、炭化水素尾部を有し、これは、最低2個、好ましくは少なくとも3個の炭素原子、かつ最高30個までの炭素原子、特に24個までの炭素原子を含む。こうした鎖は、該改質剤のコアに結合される脂肪酸の残基であり得る。
【0076】
本発明の好ましい一実施形態によれば、該改質剤は、フェノール、メトキシフェノール、アニリン誘導体、第一級アミン、チオール、没食子酸塩/没食子酸のアルキル誘導体、例えば、没食子酸ドデシル(DOGA)、没食子酸オクチル(OGA)および没食子酸プロピル(PROGA)など、ならびにこれらの誘導体または構造類似体からなる群から選択される。これらの作用剤は、バイオマトリックスの疎水性特性を増大させることができる。
【0077】
該方法の好ましい一実施形態において、該改質剤は、DOGA、OGAまたはPROGA、最も好ましくはDOGAである。DOGAは、食品および化粧品中の許容される添加物である小分子である、ドデカノールおよび没食子酸のエステルである。DOGAおよびPROGAの構造を以下に示す。
【化6】

【0078】
本発明の一実施形態において、官能基化工程の改質剤は、酸化剤で活性化される。
【0079】
官能基化の第1および第2の工程は、逐次的にまたは同時に行うことができる。特に好ましい一実施形態によれば、官能基化プロセスの第1および第2の段階は、酸化工程後に該高分子多糖類マトリックスを分離することなく、同様の反応媒体中で行われる。しかし、この実施形態においても、その条件(コンシステンシー、温度、pH、圧力)は、多様な処理段階の間で異なり得る。
【0080】
架橋と官能基化との組合せ
高分子多糖類の架橋と官能基化の両方は、フェルラ酸を通して生じる。
【0081】
高分子多糖類の架橋および官能基化は、逐次または同時の反応である。該方法工程は、高分子多糖類の最初の架橋および次の官能基化またはバイオマテリアルの高分子多糖類の最初の官能基化および次の架橋によって逐次的に行われ得る。事象の順序は、1種または複数の酵素ならびに使用される反応条件に依存する。
【0082】
本発明の好ましい一実施形態において、高分子多糖類は、最初に官能基化され、次に架橋される。本発明の他の好ましい一実施形態において、高分子多糖類は、最初に架橋され、次に官能基化される。
【0083】
本発明の好ましい一実施形態において、架橋および官能基化は同時に行われる。本発明の特定の一実施形態において、1種のみの酵素が架橋および官能基化に使用される。これらの反応に好ましい酵素は、ラッカーゼである。
【0084】
架橋と官能基化とを備える本発明の方法は、酵素的、化学的、または物理的処理によって行うことができる。本発明の一実施形態において、架橋および/または官能基化することは、酵素触媒反応である。特定の一実施形態によれば、ラッカーゼのように、少なくとも1種の酵素、または、1)ラッカーゼおよび2)チロシナーゼのように、少なくとも2種の異なる酵素が、それぞれ架橋および官能基化において使用される。本発明の一実施形態によれば、少なくとも1種の酵素または少なくとも2種の異なる酵素が、架橋または官能基化に使用される。
【0085】
この条件(例えば、コンシステンシー、温度、pH、圧力)は、多様な処理工程の間で異なり得る。本発明の好ましい一実施形態において、酵素適用量は、0.1から100 000nkat/g乾燥物まで、好ましくは1〜1000nkat/g乾燥物である。他の好ましい一実施形態では、酵素適用量は、0.0001から10mg酵素タンパク質/g乾燥物までの量で用いられる。
【0086】
本発明の一実施形態において、高分子多糖類の架橋および/または官能基化は、化学的触媒反応として行われる。本発明の一実施形態において、該方法は、化学的にまたは少なくとも部分的に放射線によって行われる。
【0087】
該方法の両方の反応は、材料を含有する高分子多糖類の1から95重量%のコンシステンシーの水相または固相で行うことができる。代替的に、該反応のうちの一方を水相で行い、もう一方を固相で行うことができる。
【0088】
本発明の好ましい一実施形態において、該反応は、温度2〜100℃、より好ましくは温度20〜70℃で行われる。
【0089】
本発明の好ましい一実施形態において、本発明の方法により、変性された高分子多糖類マトリックスを得ることができる。さらに、本発明の好ましい一実施形態において、変性された高分子多糖類マトリックスでコーティングされている製品は、本発明の方法によって得ることができる。
【0090】
本明細書中で使用される場合、「変性された高分子多糖類マトリックスでコーティングされている製品」という表現は、コーティングされているあらゆる製品を指す。例えば、該製品は、合成プラスチック、材料または製品を備える繊維、任意の未変性のバイオベースの高分子材料、家庭用薬品、美容製品または食用製品からなる群から選択され得る。
【0091】
本発明の好ましい一実施形態において、変性された高分子多糖類マトリックスまたは変性された高分子多糖類マトリックスでコーティングされている製品は、それぞれ未変性の高分子多糖類マトリックスまたは該製品と比較して、気体、水蒸気、芳香化合物およびグリースからなる群から選択される1種または複数の物質に対する改良されたバリア性を有する。本発明の他の好ましい一実施形態において、変性された高分子多糖類マトリックスまたは変性された高分子多糖類マトリックスでコーティングされている製品は、高い相対湿度における酸素バリア性の維持が改良されている。本発明の好ましい一実施形態において、変性された高分子多糖類マトリックスまたは変性された高分子多糖類マトリックスでコーティングされている製品は、水蒸気を通さない。本発明の好ましい一実施形態において、変性された高分子多糖類マトリックスまたは変性された高分子多糖類マトリックスでコーティングされている製品は、それぞれ未変性の高分子多糖類マトリックスまたは該製品と比較して、弾性、強度およびひずみ度からなる群から選択される機械的特性が改良されている。材料または製品のバリア性または機械的特性を測定または試験する際に、あらゆる既知の方法を使用することができる。そのうちいくつかの方法を、本出願の実施例に記載している。
【0092】
バイオパッケージングのためのプロセス
バイオパッケージング形成のための2つの一般的なプロセスは、湿式プロセスと乾式プロセスに区別することができる。湿式プロセスは、バイオポリマーのフィルム形成(水)分散液、バイオポリマーの(水)分散液のスプレーまたはバイオポリマーの(水)分散液の押出成形に基づき得る。乾式プロセスは、少ない水含有条件下でそのガラス転移温度を超えて加熱されたバイオポリマーの熱可塑性特性に基づく。
【0093】
コーティングおよびフィルムを形成するために、浸漬、スプレー、発泡成形、流動化、エンロービング、流延成形および押出成形などの、多くの処理手順が使用されてきた。これらの全てを、高分子多糖類フィルムに用いることができる。本発明の好ましい一実施形態において、連続した単位操作として適用可能な、リールからリールへの製造プロセスである、コーティング方法が好ましい。これらの方法としては、スプレー、カーテンコーティング、分散液コーティング、印刷(例えば、インクジェット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷)およびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0094】
本発明の好ましい一実施形態において、高分子多糖類の架橋は、高分子多糖類をコーティングした厚紙上に酵素をスプレーすることによってまたは分散液コーティングによって行われる。
【0095】
高分子多糖類マトリックスまたは製品の特性を改良する、可塑剤のような、任意の添加物を、本発明の処理、変性またはコーティングの手順の間に添加することもできる。本発明の好ましい一実施形態において、グリセロールエーテル(例えば、TG−10)、グリセロールおよびソルビトールからなる群から選択される1種または複数の可塑剤が、本発明の方法において使用される。
【0096】
有用性
本発明のバイオマテリアルは、食品と非食品の両方の適用において有用である。本発明の方法は、高分子多糖類を含む、バイオポリマーを処理するのに使用することができる。
【0097】
本発明のバイオマテリアル製品は、酸素、水蒸気および油の効率的なバリアとして機能するので、多くの異なる食品のパッケージングに有用な特性を有する。本発明の変性された高分子多糖類は、紙または厚紙のコーティングのような、コーティングプロセスに使用することができる。この新規なバイオポリマーは、あらゆる乾燥製品、動物性食品またはファーストフード、例えば、穀類、ハンバーガーまたはクッキーなど、ならびに医薬品または化粧品のパッケージングに精巧に調和する。
【0098】
本発明の製品は、異なるフィルム、増粘剤またはヒドロゲルとしてさらに利用することができる。
【0099】
以下の実施例は、本発明のさらなる例示のために示すものである。
【0100】
技術が進歩するにつれて、本発明の概念が多様な方法で実施され得ることは、当業者には明らかであろう。本発明およびその実施形態は、以下に記載の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内で変化し得る。
【0101】
実施例1
酵素の作製および精製
ラッカーゼ
Trametes hirsuta−ラッカーゼ(ThL)を、以下のように精製した。T.hirsuta株VTT D−443からの培養物濾液を、限外濾過(PCI、25kDaカットオフ)によって濃縮した。ゲル濾過(Sephadex G25;h=57cm、V=18l)によって、濃縮物から塩を除去して、緩衝液を15mM酢酸緩衝液pH5.0に交換した。活性な画分をプールして、その溶液を再び限外濾過(PCI、25kDaカットオフ)によって濃縮した。この試料を、15mM酢酸ナトリウムpH5.0で平衡させた、DEAE Sepharose Fast Flow陰イオン交換カラム(h=29cm、V=9l)で処理した。このタンパク質を、直線状の0〜200mMのNaCl勾配で溶出させた。ラッカーゼは、120〜150mMのNaCl濃度で溶出した。陽性の画分をプールして、Na2SO4をこの試料に1Mの最終濃度まで添加した。この試料を、1Mを含有する20mMクエン酸緩衝液pH5.0で平衡させた、Phenyl Sepharose Fast Folw疎水性相互作用カラム(h=20cm、V=400ml)で処理した。このタンパク質を、直線状に減少していくNa2SO4勾配(1000〜0mM)のNa2SO4で溶出させた。ラッカーゼは、20mMのNa2SO4の塩濃度で溶出した。最も純粋な画分をプールして、濃縮した(Millipore;PM10メンブレン)。全てのクロマトグラフィー樹脂は、Pharmaciaによって供給された。
【0102】
チロシナーゼ
糸状菌Trichoderma reeseiからのチロシナーゼを、その天然の宿主において強いcbh1プロモーター下で過剰発現させた。T.reeseiのチロシナーゼ遺伝子tyr2は、シグナル配列を有するタンパク質をコードし、このタンパク質は、検査室規模のバッチ発酵(20L)において培養液上清に高滴定量で分泌されるのが認められた。T.reeseiチロシナーゼを、ゲル濾過クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィーおよびゲル濾過クロマトグラフィーによる脱塩からなる3工程の精製手順で精製した。精製したチロシナーゼタンパク質は、43.2kDaの分子量を有した。T.reeseiチロシナーゼは、中性およびアルカリ性のpH範囲内で最も高い活性および安定性を示し、pH9に最適条件を有した。T.reeseiチロシナーゼは、20〜30℃でその活性を十分に維持したが、より高い温度では、この酵素は、相対的に速くその活性を失い始めた。T.reeseiチロシナーゼのpIは、約9.5であった。T.reeseiチロシナーゼは、L−チロシンとL−ドーパの両方に対して有効であり、広範な基質特異性を示した。
【0103】
実施例2
甜菜ペクチンの酵素架橋
甜菜ペクチンは、Danisco Sugar A/Sから得た。甜菜ペクチンのいくつかの特性を表1に示している。
【表1】

【0104】
自立(stand alone)フィルムまたはコーティング用のペクチン溶液(7%w/w)を、以下のように調製した:ペクチンを、磁気撹拌機での混合下で脱イオン水中に分散させ、グリセロール(33.5%)を添加した。グリセロールを可塑剤として使用した。このペクチン溶液をわずかに加熱して、1MのNaOHでpHを4.5に調整した。気泡およびピンホールを避けるために、厚紙上の自立フィルムまたはコーティングの調製に使用する前に超音波槽でこのペクチン溶液の脱気を行った。
【0105】
ペクチンの架橋は、ラッカーゼによって触媒された。ペクチン溶液(7%w/w、pH約4.5)のTrametes hirsutaラッカーゼでの処理を60℃で行った。ラッカーゼの適用量は、0.5と5nkat/gペクチンとの間で変化した。ラッカーゼの添加後、このペクチン溶液を完全に混合して、ペトリ皿上に注入して自立フィルムを得た。このペトリ皿を室温(20℃、RH50%)で2日間自然乾燥させた。
【0106】
ラッカーゼによるペクチンの架橋の程度および速度は、酵素電荷および温度に依存した。標準化された手順(7%ペクチン、60°)において、1〜3ナノカタール/gペクチンのラッカーゼ適用量は、架橋されかつさらに自立フィルムを有するのに十分であった(図1)。この架橋フィルムは、水中に浸漬したときに、水に不溶性であった。これは、図1および表2において認められ得るように、未処理の参照試料(酵素なし)では、そうならなかった。
【0107】
ラッカーゼ(適用量1〜5ナノカタール/g)によって架橋したペクチンフィルムは完全なまま残ったのに対して、参照(酵素なし)および低いラッカーゼ適用量(0.5nkat/g)で処理したフィルムは溶解したと結論づけられた(図1および表2)。
【表2】

【0108】
実施例3
甜菜ペクチンの架橋および官能基化
ペクチン溶液を、実施例2に記載のように調製した。甜菜ペクチンの同時の架橋および官能基化の動機は、1つの工程処理において親水性がより少ない性質を有する不溶性のペクチンマトリックスを得ることであった。没食子酸ドデシル(DOGA、Merck)、没食子酸オクチル(OGA、Lancaster)の水分散液、または没食子酸プロピル(PROGA、Acros)の水溶液を、疎水性作用剤として使用した。DOGA、OGA、またはPROGAは、10または20mg/gのペクチンの濃度で反応混合物に添加した。
【0109】
DOGAおよびOGAの水分散液を以下のように調製した:0.821gのDOGA(ドデシル3,4,5−トリヒドロキシベンゾアート、Merck)またはOGA(3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸オクチルエステル)、0.08 フェノディスポ(fennodispo)A41、20mlのアセトンおよび20mlの蒸留水をビーカー中で混合し、アセトンが蒸発するまで加熱した。その後、約40mlの水(60℃)に0.04gのレシチン(卵黄からのL−α−P−、Fluka)を含有する混合物を添加し、最終容積を100mlに調整した。PROGAの水溶液は、蒸留水中に直接溶解することによって得られた。
【0110】
ペトリ皿(自立フィルム)および厚紙(コーティング実験)上でのペクチンの分散を改良するために、市販の湿潤剤Imerol(Clariant)を使用した(最終濃度3%)。以下の順序で、異なる反応物を混合した(60℃):それぞれの添加の間に短い混合時間(1〜2分間)を有して、ペクチン+Imerol+DOGA(またはOGAもしくはPROGA)+ラッカーゼ。ラッカーゼの適用量は、1と10ナノカタール/gペクチンとの間で変化した。自立フィルムの場合には、該ペクチン溶液を、混合後にペトリ皿に注入し、放置して乾燥させる(20℃、相対湿度(RH)50%)のに対して、手でコーティングする場合には、反応時間は20分間であり、その後、コーティングされた厚紙を80℃で20分間乾燥させた。
【0111】
コーティングは、K Hand Coater(RK Print Coat Instruments LtDを使用して行った。湿性のペクチン層の厚さは、100μmであった。コーティング試験のための基礎基質としてCupforma Classic厚紙(Stora Enso)を使用した。
【0112】
接触角度計CAM200デバイスを使用して、厚紙上で接触角測定を行った。接触角は、室温およびRH50%での適用後2秒後に記録された。これらの結果を表3に示している。
【表3】

【0113】
湿潤剤(Imerol)のない場合とある場合の天然ペクチン(処理なし)の接触角は、それぞれ74.1および44.1度であった。DOGAまたはPROGAの添加は接触角を増大させたが、両方の疎水性作用剤での最大接触角の値は、ラッカーゼが処理に含まれたときに得られた。90.6度の最大接触角が、ラッカーゼ処理と合わせたDOGAで記録された。これらの結果より、親水性のより少ないペクチンコーティングは、ラッカーゼが触媒するDOGAまたはPROGAでの架橋および官能基化によって得ることができることが証明された。ラッカーゼでの架橋後、固体化されたフィルムマトリックスからアセトンによってDOGAを抽出することはできず、ペクチンとDOGAとの間の化学結合、またはペクチンマトリックス内部でのDOGAの物理的包括が示唆された。参照試料(ラッカーゼなし)から、DOGAは、アセトンで量的に抽出することができた。
【0114】
実施例4
ペクチンコーティングの耐グリース性
変性されたペクチンフィルムの耐油性/耐グリース性を、変更を加えた(ASTM F119と同様の)Tappi T507手順で試験した。簡単に説明すると、着色したオリブ油をしみ込ませた、試料よりも小さい濾紙を、ボードのコーティングする側の上に置き、白色ブロッティングペーパーをこの試料の下に置いた。この試料パッケージをアルミニウム箔の間に置き、最高10個までの試料パッケージを平滑な金属プレートの間に積み上げた。1kgのおもりを、この積み上げたものの上に置いた。このパッケージを、次いで、オーブン(T=60℃、t=4時間)に入れた。試験試料の表面および裏面を試験後に撮影した。コーティングを通した着色した油の浸透を、ボードの背面から視覚的に調べた。
【0115】
実施例3に記載のような、変性後、該ペクチン溶液を、湿式の厚さ200μmを使用して厚紙(StoraEnso、Cupforma Classic)上に手でコーティングした(17〜18g/m2)。DOGAを変性する成分として使用したときには、厚紙上でのペクチンの適切な広がりを促進するために、湿潤剤(Imerol)を該ペクチン溶液に添加した。ラッカーゼ適用量は、反応混合物の組成および反応時間に応じて、1と10nkat/gとの間で変化した。DOGAおよびPROGAの装入は、それぞれ10および20mg/gペクチンであった。乾燥後、この厚紙は、耐グリース性試験のための準備ができた。この試験の結果を、視覚的に評価し、厚紙の背面からデジタルカメラによって画像化した。これらの結果を図2(a〜d)および表4に示している。
【0116】
変性されたペクチンでコーティングした厚紙の背面における耐グリース性試験の後に撮られた画像を図2(a〜d)に示している。全ての試料は、7%のペクチンと、2%の細菌微結晶性セルロース(BMCC)と、3%のImerolと35%のグリセロールとを含有した。a)参照、b)Trametes hirsuta−ラッカーゼ(ThL)で架橋された、c)参照+DOGAならびにd)ThLによってDOGAで架橋および官能基化された。
【0117】
天然ペクチンは、グリースの優れたバリアであるが、湿気のある状態においてそのグリースバリアを緩める。さらに、湿潤剤(Imerol)およびDOGAも、ラッカーゼ処理なしで適用したときにグリースバリアを破壊した。ラッカーゼでの架橋は、疎水性成分(DOGA)での官能基化後かつ/または湿潤剤の存在下での耐グリース性を維持するために必要であった。
【表4】

【0118】
実施例5
架橋および官能基化ペクチンフィルムの酸素バリア性
甜菜ペクチンの架橋および官能基化ならびに厚紙のコーティングを実施例4に記載のように行った。200μmの厚さの湿性層が、典型的には、厚紙上に適用され、1平方メートルにつき17〜18gのペクチンの配合に相当した。変性する化合物として、DOGAとPROGAの両方を使用した。DOGAを使用したときには、湿潤剤(Imerol)が該ペクチン溶液に含まれた。OTR値を、RH80%で通常通りに記録した。
【0119】
ペクチンでコーティングした厚紙の酸素バリア性(OTR)を、標準ASTM D3985およびF1927に記載の方法を使用して、異なる相対湿度(RH)で、Model 8001 Oxygen Permeation Analyser(Systech Instruments Ltd.、UK)またはOx−tran 2/20 Oxygen Transmission Rate System(Mocon、Modern Controls Inc.、USA)で分析した。該試料の表面積は、5cm2であった。
【0120】
他のバイオポリマーと同様に、ペクチンの気体透過性は、相対湿度の上昇と共に増大された。天然ペクチンと比較して、ラッカーゼでの架橋は、この傾向を減少させ、(RH80%での)ペクチンのO2バリア性を改良した(図3)。酸素の透過性は、PROGAでの官能基化によってさらに低減されたが、DOGAではそれほどではなかった。PROGAの適用量を大きくすることは、OTRに対する正の効果を有したことが検出された。20mg/gのPROGA適用量において、RH80%での酸素透過性は、天然ペクチンと比較して、>40%低減された。
【0121】
実施例6
ペクチンフィルムの強度特性
多糖類をベースとしたフィルムは、その柔軟性を高めるために、一般的には、例えばグリセロールまたはソルビトールなどの、ポリオールで可塑化される。可塑剤としてのグリセロールおよびグリセロールエーテル10(TG−10)の性能を、ペクチンマトリックスにおいて35%(w/wペクチン)の可塑剤適用量で比較した。自立フィルムを、架橋された(ThL)+官能基化されたペクチン(ThL+DOGA)から、実施例2に記載のように調製した。ラッカーゼおよびDOGAの装入は、それぞれ1nkat/gおよび10mg/gであった。乾燥したフィルムを、引張り強さおよびひずみ度について分析した。
【0122】
該ペクチンフィルムの機械的特性(引張り強さ、ひずみ度)を、Texture Analyzer(Stable Micro Systems、UK)で分析した。該試料(1cm×6cm×約50〜100μm)をキャスト自立フィルムから切断した。試料の厚さを、マイクロメータねじで測定した。該試料は、管理された条件(23℃、50%RH)で、測定前に少なくとも24時間空調された。各試料について2種から5種の平行測定を行った。引張り試験において使用した速度は、1mm/sであった。これらの結果を図4(aおよびb)に示している。
【0123】
可塑剤の選択は、ペクチンフィルムの強度およびひずみ度の特性に大きく影響した。TG10でのグリセロールの置換は、結果としてきわめて強いフィルムを生じた。TG10で可塑化された架橋およびDOGA変性されたフィルムは、グリセロールで可塑化した対応するフィルムと比較して50%高い引張り強さを有した。代わりに、TG10で可塑化されたペクチンフィルムは低いひずみ度の値を有した。
【0124】
実施例7
添加物でのペクチンマトリックスの変性
ペクチンは、吸湿性高分子である。酵素により補助されたペクチンの官能基化は、実施例3で結論づけたように、ペクチンフィルムの親水性を低減させた。ペクチンの強度および吸水性の特性に影響を及ぼす他の方法は、添加物で架橋した後にペクチンマトリックスを変性することである。細菌微結晶性セルロース(BMCC)および甜菜(ナノ)セルロース(Danicell)を、ペクチンを変性するのに好適な有機成分の例として使用した。Danicell調製は、水中へのその再分散を改良するために、カルボキシメチルセルロース(CMC)(30%w/w)で補われた。
【0125】
ペクチン溶液の調製中に、BMCCおよびDanicellを、BMCCは2および5%の装入でDanicellは2.5%の装入で添加した。自立フィルムを、架橋後ならびに架橋+DOGAでの官能基化後に、実施例4に記載のように調製した。このフィルムを、実施例6に記載のように、強度特性について解析した。これらの結果を図5(aおよびb)にまとめている。
【0126】
該ペクチンフィルムの強度特性は、(ナノ)セルロースを補うことによって改良された。セルロース装入の機能としての引張り強さの増加傾向は、架橋されたフィルムと架橋+官能基化されたフィルムの両方で検出された。最も高い値は、Danicellの2.5%の装入で記録されており、これは、ペクチンマトリックス内で増強された接着および適合性を引き起こすCMCによるものであり得る。驚いたことに、ペクチンフィルムの柔軟性は、DanicellとBMCCの両方の添加によって明らかに増大された(図5b)。これらの結果より、ペクチンフィルムの脆性は、セルロースナノ構造の付加によって低減され得ることが示された。
【0127】
実施例8
甜菜ペクチンの化学架橋
過硫酸アンモニウム、APS (NH4228、(Degussa)を、甜菜ペクチンの化学架橋のために使用した。過硫酸アンモニウムの40%溶液を、蒸留水中に調製した。ペクチン溶液を、実施例2に記載のように調製した。ペクチンを架橋するために、260μlの40%(NH4228を、0.735gのペクチンを含有する10.5gのペクチン溶液に添加した。この混合物を完全に撹拌して、反応を開始させた。この混合物を室温(20℃)で15分間維持し、その後、この混合物をペトリ皿に注入して自立フィルムを得た。参照フィルムは、対応するように調製したが、APSは除いた。ペトリ皿を室温(20℃、RH30%)で2日間維持した。
【0128】
ペクチンの架橋は、蒸留水中にペクチンフィルムの小片を浸漬することによって確認された。APSを除いた参照フィルムは、5分間のうちに水中に溶解されたのに対して、APSで架橋されたフィルムは、不溶性のままで残った(図6)。
【0129】
実施例9
甜菜ペクチンの化学架橋および官能基化
甜菜ペクチンの架橋および官能基化は、変性する成分としてバニリン酸ヘキシルを使用して、APSによって行われた。バニリン酸ヘキシルを以下のように合成した:
バニリン酸ヘキシルエステルの合成は、US56 86 406に記載の方法を適用することによって行った。40gの乾燥バニリン酸(0.24モル)および34gの無水n−ヘキサノール(0.40)モルを、Dean−Starkコンデンサーを備えた反応器中の125mlのトルエンに添加した。5%(3.5g)のp−トルエンスルホン酸を、酸性触媒として添加した。この混合物を24時間還流した。水の排出は、12時間の期間中に認められた。認められた4mlの収量の水は、理論量の4.3mlの水と十分に等しい。
【0130】
室温まで冷却した後に、有機相を、pHが中性になるまで、飽和炭酸水素ナトリウム溶液で洗浄した。次いで、有機相を水で洗浄し、その後、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させた。トルエンおよび一部のn−ヘキサノールを、減圧下で蒸発させた:130〜160℃/0.3bar。この粗製エステルを、0.05barの減圧下、170〜190℃で蒸留して、97%の純度(NMR)を有する28gのn−バニリン酸ヘキシルを46%の全収率で得た。
【0131】
標的基質の化学式:ヘキシル−4−ヒドロキシ−3−メトキシ−ベンゾアート[CAS84375−71−3]:
【化7】

【0132】
APSでの架橋は、実施例8に記載のように行った。該ペクチン溶液にAPS(0.735gのペクチンに260μlの40%(NH4228)を添加した後、この混合物にバニリン酸ヘキシルを20および60mg/g(ペクチン)の適用量で添加した。この混合物を完全に混合し、室温(20℃)で15分間放置して反応させ、ペトリ皿上に注いだ。このペトリ皿を、開いたまま室温で維持し(20℃、RH30%、2日間)、その後、ペクチンフィルムを、水における溶解性について試験した。
【0133】
これらの結果を図7に示している。APSで架橋された甜菜ペクチンは、わずかに膨張したフレークのように見える一方、バニリン酸ヘキシル(HexVan)をさらに含有する試料は、その元のフィルム構造および完全性を維持した。APSで架橋されていないペクチンフィルムは、水に直ちに溶解した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子多糖類マトリックスを変性する方法であって、
前記マトリックス中の高分子多糖類を架橋すること、及び
前記高分子多糖類のフェルラ酸を酸化することによって前記高分子多糖類を官能基化し、酸化された前記高分子多糖類を、酸化された前記フェルラ酸と反応性である、少なくとも1つの第1の部位と、前記高分子多糖類マトリックスに所望の特性を与える、少なくとも1つの第2の部位とを含む疎水性改質剤と接触させること
を具備し、
それにより、変性された高分子多糖類マトリックスが得られる方法。
【請求項2】
製品をコーティングする方法であって、
高分子多糖類マトリックスを提供すること、
前記マトリックス中の高分子多糖類を架橋すること、
前記高分子多糖類のフェルラ酸を酸化することによって前記高分子多糖類を官能基化し、酸化された前記高分子多糖類を、酸化された前記フェルラ酸と反応性である、少なくとも1つの第1の部位と、前記高分子多糖類マトリックスに所望の特性を与える、少なくとも1つの第2の部位とを含有する疎水性改質剤と接触させて、変性された高分子多糖類マトリックスを得ること、及び
変性された前記高分子多糖類マトリックスで前記製品をコーティングすること
を具備する方法。
【請求項3】
前記高分子多糖類マトリックスが、ペクチンの平滑領域と毛状領域の両方と、ペクチンの毛状領域と、フェルラ酸残基を有するアラビノキシランと、これらの任意の誘導体とのうちの少なくとも1つを具備することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記架橋が酵素触媒反応によって行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
架橋のための酵素が、ラッカーゼ(EC1.10.3.2)、カテコールオキシダーゼ(EC1.10.3.1)、チロシナーゼ(EC1.14.18.1)、ビリルビンオキシダーゼ(EC1.3.3.5)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(EC1.11.1.7)、マンガナーゼペルオキシダーゼ(EC1.11.1.13)、リグニンペルオキシダーゼ(EC1.11.1.14)、ヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5)、ガラクトースオキシダーゼ(EC1.1.3.9)およびリポキシゲナーゼ(EC1.13.11.12)からなる群から選択されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記官能基化が酵素触媒反応によって行われることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
官能基化のための酵素が、チロシナーゼ(EC1.14.18.1)、ラッカーゼ(EC1.10.3.2)、カテコールオキシダーゼ(EC1.10.3.1)、ビリルビンオキシダーゼ(EC1.3.3.5)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(EC1.11.1.7)、マンガナーゼペルオキシダーゼ(EC1.11.1.13)、リグニンペルオキシダーゼ(EC1.11.1.14)、ヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5)、ガラクトースオキシダーゼ(EC1.1.3.9)およびリポキシゲナーゼ(EC1.13.11.12)からなる群から選択されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
高分子多糖類の架橋および官能基化が、逐次または同時の反応として行われることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
高分子多糖類の架橋および/または官能基化が、化学的触媒反応として行われることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
化学的と生化学的の両方の触媒反応が使用されることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
高分子多糖類の架橋が、高分子多糖類でコーティングされた厚紙上に前記酵素をスプレーすることによって、または分散液コーティングによって行われることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記改質剤が、最低2個、好ましくは少なくとも3個の炭素原子、かつ最高30個までの炭素原子、特に24個までの炭素原子を含む炭化水素尾部を有することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記改質剤が、フェノール、メトキシフェノール、アニリン誘導体、第一級アミン、チオール、没食子酸塩/没食子酸のアルキル誘導体、例えば、没食子酸ドデシル(DOGA)、没食子酸オデシル(odecyl)(OGA)および没食子酸プロピル(PROGA)など、ならびにこれらの誘導体または構造類似体からなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
それぞれ未変性の高分子多糖類マトリックスまたは製品と比較して、気体、水蒸気、芳香化合物およびグリースからなる群から選択される1種または複数の物質に対する改良されたバリア性を有する、変性された前記高分子多糖類マトリックスまたは変性された高分子多糖類マトリックスでコーティングされている前記製品を調製することを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
高い相対湿度における酸素バリア性の維持が改良されている、変性された前記高分子多糖類マトリックスまたは変性された高分子多糖類マトリックスでコーティングされている前記製品を調製することを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
変性された前記高分子多糖類マトリックスまたは変性された高分子多糖類マトリックスでコーティングされている前記製品が、未変性の高分子多糖類または製品と比較して、弾性、強度およびひずみ度からなる群から選択される機械的特性が改良されていることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
変性された前記高分子多糖類マトリックスまたは変性された高分子多糖類マトリックスでコーティングされている前記製品が、水蒸気を通さないことを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
グリセロールエーテル、グリセロールおよびソルビトールからなる群から選択される1種または複数の可塑剤が、前記方法において使用されることを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
高分子多糖類の酸化されたフェルラ酸に結合される、少なくとも1つの第1の部位と、高分子多糖類マトリックスに所望の特性を与える、少なくとも1つの第2の部位とを含む改質剤を有する架橋された高分子多糖類を具備する変性された高分子多糖類マトリックス。
【請求項20】
請求項1または請求項3〜18のいずれかに記載の方法によって得ることができることを特徴とする請求項19に記載の変性された高分子多糖類マトリックス。
【請求項21】
高分子多糖類の酸化されたフェルラ酸に結合される、第1の部位と、高分子多糖類マトリックスに所望の特性を与える、第2の部位とを含む改質剤を有する架橋された高分子多糖類を備える変性された高分子多糖類マトリックスでコーティングされている製品。
【請求項22】
請求項2〜18のいずれかに記載の方法によって得ることができることを特徴とする請求項21に記載の製品。
【請求項23】
増粘剤、ヒドロゲル、フィルム、食用コーティングまたはパッケージング材のコーティングにおける請求項19または20に記載の変性された高分子多糖類マトリックスの使用。
【請求項24】
食品、動物用飼料、化粧品または電子部品のパッケージを製造するための請求項21または22に記載の製品の使用。
【請求項25】
高分子多糖類がペクチンまたはキシランであることを特徴とする、請求項1〜24のいずれかに記載の、方法、変性された高分子多糖類マトリックス、変性された高分子多糖類マトリックスでコーティングされている製品または使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−513395(P2013−513395A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543858(P2012−543858)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【国際出願番号】PCT/FI2010/051037
【国際公開番号】WO2011/073522
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(501374390)テクノロジアン・トゥトキムスケスクス・ブイティティー (16)
【Fターム(参考)】