説明

変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法

【課題】 本発明の課題は、低温から高温まで幅広い範囲の焼き付け条件において良好な密着性能を有し、且つ耐水性や耐薬品性に優れた変性ポリオレフィン水性樹脂分散体を得ることが出来る変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法を提供することにある。
【解決手段】重量平均分子量が10,000〜100,000であり、なお且つDSC融解ピークが35〜130℃であるポリオレフィン(A)と重量平均分子量が150,000〜500,000であり、なお且つDSC融解ピークが35〜105℃であるポリオレフィン(B)を混合したポリオレフィン混合物に対して、不飽和カルボン酸類(C)を付加重合させ、そのグラフト率が2〜20%である変性ポリオレフィン樹脂を水に分散することを特徴とする変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン重合体やプロピレン−α−オレフィン共重合体などのプロピレン系重合体は安価であり、しかも、機械的物性、耐熱性、耐薬品性、耐水性などに優れていることから、広い分野で使用されている。しかしながら、こうしたプロピレン系重合体は、分子中に極性基を持たないため一般に低極性であり、塗装や接着が困難であり改善が望まれていた。このため、プロピレン系重合体の成形体の表面を薬剤などの化学的な処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理などの手法で成形体表面を酸化処理するといった種々の手法が試みられてきている。しかるにこれらの方法では、特殊な装置が必要であるばかりでなく、塗装性や接着性の改良効果が必ずしも十分ではなかった。
【0003】
そこで比較的簡便な方法でプロピレン系重合体に良好な塗装性や接着性を付与するための工夫として、いわゆる塩素化ポリプロピレンや酸変性プロピレン−α−オレフィン共重合体、さらに酸変性塩素化ポリプロピレンが開発されてきた。このような変性プロピレン系重合体を、ポリプロピレン等の成形体表面に表面処理剤、接着剤或いは塗料等として塗布するのである。変性プロピレン系重合体は通常、有機溶媒の溶液、又は水への分散体などの形態で塗布されるが、特に近年は安全衛生及び環境汚染の面から水分散体が好ましく用いられるようになっている。
【0004】
例えば、酸変性塩素化ポリプロピレンを界面活性剤と塩基性物質を使用して水性化した水性樹脂(特許文献1)または酸変性ポリオレフィンを界面活性剤と塩基性物質を使用して水性化した水性樹脂(特許文献2、3)等がある。しかしこれらの方法では分散粒子径を細かくするには界面活性剤を大量に添加する必要があり、結果として、このような水性分散体を用いた塗料は耐水性や耐薬品性に乏しいという課題があった。また塗布後に界面活性剤が塗装表面へブリードアウトして外観不良が起こる場合もあり、さらなる改善が望まれていた。
【0005】
また、近年、環境への負荷やエネルギー問題等から、塗膜の乾燥温度、焼付け温度の低温化が望まれている。有機溶剤系のコーティング剤においては、ポリオレフィン系樹脂基材に対して60〜80℃程度の低温焼付けを行った場合でも高い密着性が得られるよう、高結晶性と低結晶性のポリオレフィン変性体を特定の比率で含有させたコーティング剤が提案されている(特許文献4、5)。
【0006】
しかし水系のコーティング剤においては、水性樹脂を用いるため有機溶剤系コーティング剤に比べて乾燥性が悪いという課題があり、またプロピレン系重合体は一般に融点が高いため低温焼付けでの成膜性が十分でないという課題もあり、低温焼付けで高い密着性を出すことが困難であった。このため、有機溶剤系コーティング剤並みの低温乾燥、焼付け条件でポリオレフィン基材に高い密着性を示す水性樹脂分散体が望まれていた。
【0007】
これらを改良すべく、特定の2種類のプロピレン系重合体が不飽和有機酸誘導体により変性されてなる変性プロピレン系重合体が、水に分散されてなることを特徴とする、水性樹脂分散体(特許文献6)が提案されているが、未だ満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−182534号公報
【特許文献2】特開平6−256592号公報
【特許文献3】特開2004−002842号公報
【特許文献4】特開平7−331159号公報
【特許文献5】特開2006−104430号公報
【特許文献6】特開2008−031360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、低温から高温まで幅広い範囲の焼き付け条件において良好な密着性能を有する変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、低温から高温まで幅広い範囲の焼き付け条件において良好な密着性能を有する変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法を見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)重量平均分子量が10,000〜100,000であり、なお且つDSC融解ピークが35〜130℃であるポリオレフィン(A)と重量平均分子量が150,000〜500,000であり、なお且つDSC融解ピークが35〜105℃であるポリオレフィン(B)を混合したポリオレフィン混合物に対して、不飽和カルボン酸類(C)を付加重合させ、そのグラフト率が2〜20%である変性ポリオレフィン樹脂を水に分散することを特徴とする変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法、
(2)変性ポリオレフィン樹脂が、ポリオレフィン(A)とポリオレフィン(B)を質量比でポリオレフィン(A)/ポリオレフィン(B)=10/90〜90/10となるように混合したポリオレフィン混合物に対して、不飽和カルボン酸類(C)を付加重合させたものである前記(1)の変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法、
(3)変性ポリオレフィン樹脂が、ポリオレフィン(A)とポリオレフィン(B)を混合したポリオレフィン混合物に、アルキルアルキレート、アルキレングリコールアルキルエーテルアルキレート、ジアルキレングリコールアルキルエーテルアルキレートから選ばれる少なくとも1種であり、かつ、その沸点が250℃以下である有機溶剤(D)との存在下、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(E)と不飽和カルボン酸類(C)を、有機過酸化物(F)を用いて付加させることにより得られる前記(1)又は(2)の変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法、
(4)ポリオレフィン(A)とポリオレフィン(B)を混合したポリオレフィン混合物100質量部に対して、有機溶剤(D)5質量部以上50質量部以下の存在下、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(E)3質量部以上30質量部以下と不飽和カルボン酸類(C)2質量部以上20質量部以下を、有機過酸化物(F)0.1質量部以上5質量部以下を用いて付加させることにより得られる前記(1)〜(3)のいずれかの変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法、
(5)ポリオレフィン(A)の融解ピークよりもポリオレフィン(B)の融解ピークが高温である前記(1)〜(4)のいずれかの変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法、
(6)変性ポリオレフィン樹脂を水に乳化剤を用いて分散する前記(1)〜(5)のいずれかの変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により低温から高温まで幅広い範囲の焼き付け条件において良好な密着性能を有する変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、重量平均分子量が10,000〜100,000であり、なお且つDSC融解ピークが35〜130℃であるポリオレフィン(A)と重量平均分子量が150,000〜500,000であり、なお且つDSC融解ピークが35〜105℃であるポリオレフィン(B)を混合したポリオレフィン混合物に対して、不飽和カルボン酸類(C)を付加重合させ、そのグラフト率が2〜20%である変性ポリオレフィン樹脂を水に分散することを特徴とする変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法である。
【0014】
本発明で使用されるポリオレフィン(A)は、重量平均分子量が10,000〜100,000であり、なお且つDSC融解ピークが35〜130℃であるポリオレフィンであればよく、好ましくは、重量平均分子量が15,000〜90,000であり、DSC融解ピークが35〜100℃で、さらに好ましくは50〜90℃である。
ポリオレフィン(B)は、重量平均分子量が150,000〜500,000であり、なお且つDSC融解ピークが35〜105℃であるポリオレフィンであればよく、好ましくは、重量平均分子量が150,000〜500,000であり、DSC融解ピークが50〜90℃であり、ポリオレフィン(A)のDSC融解ピークより高いことが好ましい。
【0015】
ここで、ポリオレフィン(A)及び(B)のポリオレフィンは、少なくともエチレン及びプロピレンを含む、α−オレフィンの共重合体であり、α−オレフィンとしてはエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−ドデカデセン、4−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。共重合体としてはランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、及びこれらの混合物が挙げられる。特に、エチレン−プロピレン、プロピレン−1−ブテン、エチレン−プロピレン−1−ブテン共重合体が、ポリオレフィンを主体とする樹脂、基材との相溶性、接着性が良好となり、樹脂自体に柔軟性があるために好ましい。
【0016】
なお、本発明における重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定したポリスチレン換算値であり、本発明におけるDSC融解ピークは、示差走査熱量計(DSC)(セイコーインスツル株式会社製:DSC22)を用いて、昇温プログラム中に検知される主吸熱ピーク温度がDSC融解ピークの値である。
【0017】
本発明における変性ポリオレフィン樹脂のグラフト率は、変性ポリオレフィン樹脂5gをキシレン100gに加熱溶解後、アセトン500gに投入し、析出物を濾過、乾燥して変性ポリオレフィンの精製物を得て、変性ポリオレフィン樹脂の精製物のH−NMR(Varian Inova社製400MHz)測定を行い、不飽和カルボン酸のグラフト量を求め、変性前のポリオレフィン100gあたりのグラフト重量(g)をグラフト率とした。本発明の変性ポリオレフィンはグラフト率が2〜20%である必要がある。
【0018】
本発明のポリオレフィン(A)とポリオレフィン(B)を混合したポリオレフィン混合物のポリオレフィン(A)とポリオレフィン(B)の使用量は、ポリオレフィン(A)とポリオレフィン(B)を含有していればよく、好ましくは質量比でポリオレフィン(A)/ポリオレフィン(B)=1/99〜99/1であり、さらに好ましくは10/90〜90/10であり、最も好ましくは、50/50〜10/90である。また、ポリオレフィン(A)とポリオレフィン(B)以外のポリオレフィンを含有していてもよいが、ポリオレフィン(A)とポリオレフィン(B)以外のポリオレフィンは、ポリオレフィン(A)とポリオレフィン(B)100質量部に対して5質量以下であることが好ましく、他のポリオレフィンを用いないことがより好ましい。
【0019】
本発明で用いる不飽和カルボン酸類(C)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(E)を除く不飽和基を有するカルボン酸、又はそのエステル化物、無水物等誘導体の総称である。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸等の不飽和一塩基酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸等の不飽和二塩基酸、及び不飽和二塩基酸とメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、シクロヘキサノール、2−エチルヘキサノール、n−オクタノール、n−ドデシルアルコール、n−オクタデシルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−i−プロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等とのモノエステルの群及びメチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、n−オクチルアミン、n−ドデシルアミン、n−オクタデシルアミン、アニリン、ベンジルアミン等とのアミド及びイミドの群から選ばれる少なくとも1種以上の化合物を挙げることができる。無水マレイン酸および/またはその誘導体が単独重合性に乏しく、グラフト化反応が進行しやすいため、特に好ましい。なお、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸とメタクリル酸の総称である(以下、同様に略することがある)。
特に不飽和カルボン酸類を反応させる際に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(E)と他の不飽和カルボン酸類を併用すると、グラフト化反応を進行させやすく、未反応物やグラフト化していないオリゴマーの生成量が抑制しやすくなるため好ましい。
【0020】
本発明で用いる不飽和カルボン酸類(C)は、ポリオレフィン(A)とポリオレフィン(B)を混合したポリオレフィン混合物100質量部に対して、2質量部以上20質量部であることが本発明の効果が十分に得られるため好ましい。
【0021】
本発明で用いることが好ましい(メタ)アクリル酸アルキルエステル(E)は、アクリル酸アルキルエステル及びメタクリル酸アルキルエステルであり、好ましくは、炭素数1以上18以下の直鎖、分岐、環状のアルキル基とのエステルであるアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、アクリル酸2−ブチル、メタクリル酸2−ブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、メタクリル酸n−オクチル、アクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸n−ドデシル、アクリル酸n−オクタデシル、メタクリル酸n−オクタデシル等から選ばれる少なくとも1種以上の化合物であり、高温下で反応を行うため、沸点が150℃以上であり炭素数4以上である直鎖、分岐、環状のアルキル基を有するアルコールとアクリル酸またはメタクリル酸のエステルであるアクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、アクリル酸2−ブチル、メタクリル酸2−ブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、メタクリル酸n−オクチル、アクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸n−ドデシル、アクリル酸n−オクタデシル、メタクリル酸n−オクタデシル等がポリオレフィンに付加させる反応が進行しやすくより好ましい。これらは、一種単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(E)は、ポリオレフィン(A)とポリオレフィン(B)を混合したポリオレフィン混合物100質量部に対して、3質量部以上30質量部以下を用いることが好ましい。
【0023】
本発明で用いる不飽和カルボン酸類(C)と(メタ)アクリル酸アルキルエステル(E)以外にも用いることができる付加重合できるモノマーとしては、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィン、ブタジエン、イソプレン等のアルカジエン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル、イソブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテルのようなビニルエーテル等を挙げることができる。これらは、本願発明の効果を阻害しない範囲で単独で用いても良いし、2種以上を併用することもできる。
【0024】
ポリオレフィン(A)とポリオレフィン(B)を混合したポリオレフィン混合物に対して、不飽和カルボン酸類(C)を付加重合させるには、例えば、ラジカル重合開始剤の存在下、予め混合した、ポリオレフィン(A)とポリオレフィン(B)に、不飽和カルボン酸類(C)を付加重合して得ることができる。
【0025】
本発明で使用できる有機過酸化物(F)は、炭素原子を化合物の骨格に有する過酸化物であればよく、水素引き抜き効果を持つラジカルを発生できる過酸化物が好ましく、具体的には、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、アルキルパーオキシカーボネートが挙げられ、具体的には、ジイソブチリルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ヘキシルパーオキシネオデカネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ(3,3,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジ−n−オクタノイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジステアロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、ジコハク酸パーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、ジベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサネート、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサネート、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ジ(4,4−ジ−(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン)プロパン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサネート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(3−メチルベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル4,4−ジ−(t−ブチルパーオキシ)バレラート、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、p−メンタンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド等が挙げられる。これらは、一種単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
また、有機過酸化物(F)は水酸基および芳香環を含まない構造であることが好ましく、水酸基および芳香環を含む有機過酸化物に比べ、含まない構造の有機過酸化物を用いた場合、得られる変性ポリオレフィンの着色が少なくなり好ましい。ポリオレフィン(A)と(B)の混合物に不飽和カルボン酸類(C)と(メタ)アクリル酸アルキルエステル(E)を付加させる反応は、不飽和カルボン酸類(C)と(メタ)アクリル酸アルキルエステル(E)と有機過酸化物(F)とをポリオレフィンに相溶させるためにも、ポリオレフィンの軟化、溶融する軟化点以上の高い温度で行う必要があり、一方で該付加反応を行うにあたり、有機過酸化物によるポリオレフィンの減成は出来るだけ抑制することが好ましいため、できるだけ低温の温度領域が好ましい。このため、有機過酸化物の1時間半減期分解温度が110〜160℃の範囲であることが好ましい。特にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどは1時間半減期分解温度が110〜160℃の範囲にあるため好ましい。
【0027】
有機過酸化物(F)の使用量はポリオレフィン100重量部に対して0.1重量部以上10重量部以下となることが好ましく、特に0.1重量部以上5重量部以下となることがより好ましい。0.1重量部よりも含有量が少ない場合に比べ、0.1重量部以上10重量部以下である場合には、不飽和カルボン酸類または不飽和カルボン酸類と(メタ)アクリル酸アルキルエステルを付加させる反応の効率が向上するため好ましく、0.2重量部以上5重量部以下である場合には、さらに反応の効率が向上するため好ましい。また、10重量部よりも多い場合に比べ、0.1重量部以上10重量部以下である場合には、有機過酸化物により発生するラジカルによるポリオレフィン鎖の切断が抑制されるため、低分子量成分が少なくなり、相溶性、接着性が良好となるため好ましく、0.1重量部以上5重量部以下である場合には、さらに低分子量成分の発生が抑制されるため好ましい。
【0028】
変性ポリオレフィン樹脂の製法については、本発明の要件を満たす重合体を製造できれば特に限定されず、いかなる製法であってもよい。例えば、溶液法(溶液中で加熱攪拌して反応する方法)、溶融法(無溶媒で溶融加熱攪拌して反応する方法、又は、押し出し機で加熱混練して反応する方法)等が挙げられ、溶液法を用いることが好ましい。
【0029】
溶液法で変性ポリオレフィン樹脂を調製する場合は、有機溶剤(D)としては、たとえば、ヘキサン、へプタン、オクタン等の飽和脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロへプタン、メチルシクロヘプタン等の飽和脂環式炭化水素類、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等のエチレン性の二重結合を含まない芳香族炭化水素類、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのアルキレングリコールアルキルエーテルアルキレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのジアルキレングリコールアルキルエーテルアルキレート、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル等のアルキルアルキレート、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のエチレン性の二重結合を含まないケトン類、n−ブチルエーテル、イソブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジオキサン等のエチレン性の二重結合を含まないエーテル類などが挙げられる。これらの中でもアルキルアルキレート、アルキレングリコールアルキルエーテルアルキレート、ジアルキレングリコールアルキルエーテルアルキレートを用いることが、不飽和カルボン酸類(C)と溶融状態のオレフィンの溶解性に優れ、不飽和カルボン酸類(C)を効率的に反応することが出来るため好ましく、沸点が250℃以下であることが蒸留による除去が容易なため好ましい。これら有機溶剤は単独で用いてもよいし、混合して使用してもよい。
【0030】
有機溶剤(D)の使用量はポリオレフィン100質量部に対して5質量部以上50質量部以下となることが好ましく、特に10質量部以上30質量部以下となることがより好ましい。5質量部よりも含有量が少ない場合に比べ、5質量部以上である場合には、有機溶剤によるポリオレフィンの粘性を抑えることができるため、不飽和カルボン酸類と(メタ)アクリル酸アルキルエステルと有機過酸化物の均一な分散が行いやすくなる。また、有機溶剤が還流することで、反応槽の天井や壁面等に結露した(メタ)アクリル酸アルキルエステル、不飽和カルボン酸類、有機過酸化物を洗浄し、速やかに変性中のポリオレフィンに戻すことができる。これらの効果により不飽和カルボン酸類や(メタ)アクリル酸アルキルエステルが単独重合することで発生する副生成物の発生を抑制できるため、ポリオレフィンを主体とする樹脂、基材での相溶性、接着性、塗装性、印刷性、分散性が良好となるため好ましく、10質量部以上である場合には、さらに均一な分散が行いやすく、洗浄も容易に行え、副生成物の発生を抑制できるため好ましい。また、50質量部よりも多い場合に比べ、50質量部以下である場合には、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸類と(メタ)アクリル酸アルキルエステルと有機過酸化物の濃度が高くなるため、グラフト化反応が進行しやすくなるため好ましく、30質量部以下である場合には、さらに反応中の濃度が高く出来るため好ましい。
【0031】
ポリオレフィンを変性する反応温度に特に制限はないが、100〜200℃が好ましい。不飽和カルボン酸類や有機過酸化物が均一に分散できる様に、ポリオレフィンが溶融もしくは有機溶剤に溶解する温度以上であることが好ましく、具体的には100℃以上で行うことが好ましい。また、有機過酸化物によるポリオレフィンの分子量低下を抑制させるため高温になり過ぎないことが好ましく、具体的には200℃以下で行うことが好ましい。
【0032】
上記のようにして得られる変性ポリオレフィン樹脂は、使用する目的に応じて製造の際に、安定性を調整するための安定剤を添加することができる。安定剤としてはソルビトール、ソルビトールアルキレート、ヒドロキノン、ベンゾキノン、ニトロソフェニルヒドロキシ化合物、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等のフォスファイト化合物類、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等のペンタエリスリトールエステル類等の化合物が挙げられる。これらは、一種単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
上記のようにして得られる変性ポリオレフィン樹脂を水に分散させることにより変性ポリオレフィン樹脂水性分散体を製造することができる。
変性ポリオレフィン樹脂の固形分濃度は特に制限は無いが、取り扱いの容易さから固形分濃度が1重量部〜50重量部程度にすることが望ましい。
【0034】
変性ポリオレフィン樹脂を水に分散させるにあっては、分散剤や乳化剤などを用いることができる。これら乳化剤や保護コロイドは1種もしくは2種以上を用いることができる。
【0035】
分散剤としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、澱粉、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
【0036】
乳化剤としてはポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレートなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン性界面活性剤や、ラウリル硫酸及びラウリル硫酸塩(以下、ラウリル硫酸(塩)のように略する場合がある)、ドデシルベンゼンスルホン酸(塩)、ジアルキルスルホコハク酸(塩)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸(塩)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸(塩)、脂肪酸(塩)、アルケニルコハク酸(塩)等のアニオン性界面活性剤、またカチオン性や両性の界面活性剤が挙げられる。ここで塩はナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩並びにトリエチルアミン塩などのアミン塩を示す。
【0037】
乳化方法としては、変性ポリオレフィン樹脂を油溶性の溶剤に溶かした溶液と乳化剤や保護コロイド及び水を混合し、ホモジナイザー処理した後、溶剤を留去し、水中油型エマルションを製造するいわゆる溶剤法、高温下で溶融ポリオレフィン樹脂と乳化剤や保護コロイド及び水を混合し、ホモジナイザーを通して水中油型エマルションを製造するいわゆるメカニカル法、高温下で溶融ポリオレフィン樹脂と乳化剤や保護コロイド及び一部の水を混合し、油中水型エマルションを形成し、その後、反転水を添加し水中油型エマルションに相転移させるいわゆる転相法が用いられる。また、高剪断型回転式乳化分散機を用いて水中油型エマルションを形成するメカニカル法も用いることが出来る。
【0038】
変性ポリオレフィン樹脂は水に分散する際に不飽和カルボン酸類(E)に由来するカルボキシル基を塩基性物質により中和することもできる。塩基性物質としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属、アンモニウム、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エタノールアミン、イソプロピルアミン、プロパノールアミン、2−メチル−2−アミノプロパノール、ジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等の有機アミン化合物が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を用いることができる。
【0039】
水性分散液のpHは特に制限されるものではないが、好ましくは6〜11、さらに好ましくは7〜9である。水性分散液のpHが6〜11の方が、変性ポリオレフィン中のカルボキシル基が中和され、イオン化して水への分散を良好にするため水性分散液の貯蔵安定性が良好であり好ましく、pHが7〜9である場合には、変性ポリオレフィン中のカルボキシル基の中和が進み、水性分散液の貯蔵安定性が良好となるためさらに好ましい。他方、水性分散液のpHが6〜11であると、水分散液中に遊離の塩基性物質が過剰に存在しないため、塗膜の付着性、耐水性が良好となるため好ましく、pHが7〜9の場合には、水分散液中に遊離の塩基性物質がさらに減少し、塗膜の付着性、耐水性が良好となるためより好ましい。また有機アミンを使用した場合には遊離の塩基を抑えることでアミン臭も抑えられ、水性塗料組成物等の塗料やインキ等の用途での使用の際、臭気による制限が少なくなるため好ましい。
【0040】
本発明の水性分散液はその他の成分として、有機溶剤を含有させることもできる。有機溶剤を含有させると、作業性が向上し、顔料等、上記その他の成分の分散性が高くなる。しかし、有機溶剤を含有させない方がエマルションの貯蔵安定性が高く、最近のVOC規制にも適合し好ましい。有機溶剤としては、ヘキサン、へプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロへプタン等の脂環式炭化水素類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミン等のエステル類、n−ブチルエーテル、イソブチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、n−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のセロソルブ類、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のカービトール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、ジオキサン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジアセトンアルコール等のその他の溶剤類等を挙げることができる。
【0041】
変性ポリオレフィン樹脂水性分散体組成物は、安定剤、添加剤、顔料、充填剤、有機溶剤等を含有していてもよく、この場合、安定剤、添加剤、顔料、充填剤、有機溶剤等が水に溶解していても分散していてもよい。
【0042】
上記のようにして得られる変性ポリオレフィン樹脂水性分散体は、例えば、塗料バインダー、インキ用バインダー、プライマーとして使用でき、特にポリオレフィン系の樹脂や複合材料に対する塗装の際に、密着性、塗装性などが優れる。また、ヒートシール剤や接着剤および接着剤の改質剤として使用でき、特にポリオレフィン系の樹脂や複合材料と他の樹脂や金属、ガラス等との接着において接着性が優れる。他にもフィルム、シート、構造材料、建築材料、自動車部品、電気・電子製品、包装材料等のポリオレフィン系の樹脂や複合材料を作製する際に、ポリオレフィン系樹脂と他の樹脂との相溶化剤や、複合化する材料をポリオレフィンへ分散させ易くする分散剤等の改質剤やガラス繊維のサイジング剤としても使用できる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を提示して本発明をさらに具体的に説明するが、これら実施例は本発明を限定するものではない。なお、製造例、実施例及び比較例で示す「部」及び「%」は、質量部及び質量%を意味する。
【0044】
(製造例1)実施例用の変性ポリオレフィン樹脂(G−1)の製造
攪拌機、温度計、還流冷却器及び窒素ガス導入管を備えた3000mlセパラフラスコに、ポリオレフィン(A−1)500g、ポリオレフィン(B−1)500g、を仕込み、窒素雰囲気下、200℃に保たれたオイルバス中で溶融を行い、攪拌を行いながら系内が180℃になるようにオイルバスの温度を調整した。系内が溶融した後、攪拌を行い均一な状態としながら、無水マレイン酸60gとジーt−ブチル パーオキサイド20gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート200gに溶解させた混合液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、180℃で2時間熟成反応を行った後、アスピレーターでフラスコ内を10mmHgに減圧しながら、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、未反応の無水マレイン酸、ジーt−ブチル パーオキサイドおよびジーt−ブチルパーオキサイドの分解化合物の除去を2時間行った後、反応物を取り出し、冷却することで、黄色の変性ポリオレフィン樹脂(G−1)を得た。得られた変性ポリオレフィン樹脂(G−1)の重量平均分子量は130,000、無水マレイン酸のグラフト率は5.5%であった。
【0045】
(製造例2)実施例用の変性ポリオレフィン樹脂(G−2)の製造
攪拌機、温度計、還流冷却器及び窒素ガス導入管を備えた3000mlセパラフラスコに、ポリオレフィン(A−1)500g、ポリオレフィン(B−1)500g、を仕込み、窒素雰囲気下、200℃に保たれたオイルバス中で溶融を行い、攪拌を行いながら系内が180℃になるようにオイルバスの温度を調整した。系内が溶融した後、攪拌を行い均一な状態としながら、無水マレイン酸60gとアクリル酸ノルマルブチル150g、ジーt−ブチル パーオキサイド10gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート200gに溶解させた混合液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、180℃で2時間熟成反応を行った後、アスピレーターでフラスコ内を10mmHgに減圧しながら、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、未反応の無水マレイン酸、アクリル酸ノルマルブチル、ジーt−ブチル パーオキサイドおよびジーt−ブチルパーオキサイドの分解化合物の除去を2時間行った後、反応物を取り出し、冷却することで、淡黄色の変性ポリオレフィン樹脂(G−2)を得た。得られた変性ポリオレフィン樹脂(G−2)の重量平均分子量は100,000、無水マレイン酸のグラフト率は5.8%であった。
【0046】
(製造例3〜15) 実施例用の変性ポリオレフィン樹脂(G−3〜G−15)の製造
使用するポリオレフィン(A)、ポリオレフィン(B)の種類と混合比率、無水マレイン酸、有機溶剤(D)、(メタ)アクリル酸エステル(E)、有機過酸化物(F)の種類、使用量を表6のように変更する以外は製造例2と同様にして製造し、G−3〜G−15を得た。得られた変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量及び無水マレイン酸グラフト率の測定値を表6に示す。
【0047】
(製造例16) 実施例用の変性ポリオレフィン樹脂(G−16)の製造
攪拌機、温度計、還流冷却器及び窒素ガス導入管を備えた3000mlセパラフラスコに、ポリオレフィン(A−5)500g、ポリオレフィン(B−2)500gを仕込み、窒素雰囲気下、170℃に保たれた油浴中で溶融を行い、攪拌を行いながら系内が160℃になるように油浴の温度を調整した。系内が溶融した後、キシレン300gを添加し、攪拌を行った。系内が均一になったところへ、無水マレイン酸を12g、アクリル酸2−エチルヘキシルを40g、ジーt−ブチルパーオキサイド2gを添加した。その30分後、再び無水マレイン酸を12g、アクリル酸2−エチルヘキシルを40g、ジーt−ブチルパーオキサイド2g添加した。上記添加作業を30分毎に、合計5回繰り返し、無水マレイン酸の合計添加量が60g、アクリル酸2−エチルヘキシルの合計添加量が200g、ジーt−ブチルパーオキサイドの合計添加量が10gとなるようにした。
添加終了後、系内を160℃に保ったまま3時間反応を行った後、オイルバスの温度を180℃まで上昇し、アスピレーターでフラスコ内を10mmHgに減圧しながら、キシレンと未反応の無水マレイン酸、アクリル酸2−エチルヘキシル、ジーt−ブチルパーオキサイドおよびジーt−ブチルパーオキサイドの分解化合物の除去を1時間行った後、反応物を取り出し、冷却することで、黄色の変性ポリオレフィン樹脂(G−16)を得た。得られた変性ポリオレフィン樹脂(G−16)の重量平均分子量100000、無水マレイン酸のグラフト率は5.4%であった。
【0048】
(製造例17〜23 製造例25、製造例26) 比較例用の変性ポリオレフィン樹脂(G−17〜G−23 G−25 G−26)の製造
使用するポリオレフィン(A)、ポリオレフィン(B)の種類、混合比率、無水マレイン酸、有機溶剤(D)、(メタ)アクリル酸エステル(E)、有機過酸化物(F)の種類、使用量を表6のように変更する以外は製造例2と同様にして製造しG−17〜G−23、G−25及びG−26を得た。得られた変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量及び無水マレイン酸グラフト率の測定値を表6に示す。
【0049】
(製造例24) 比較例用の変性ポリオレフィン樹脂(G−24)の製造
攪拌機、温度計、還流冷却器及び窒素ガス導入管を備えた3000mlセパラフラスコに、ポリオレフィン(A−4)500g、ポリオレフィン(B−1)500g、を仕込み、窒素雰囲気下、200℃に保たれたオイルバス中で溶融を行い、攪拌を行いながら系内が180℃になるようにオイルバスの温度を調整した。系内が溶融した後、攪拌を行い均一な状態としながら、無水マレイン酸300g、メタクリル酸ラウリル400gとt−ブチルパーオキシベンゾエート50gを酢酸ブチル600gに溶解させた混合液を3時間かけて滴下した。この時、滴下と同時に系内の温度が降下し、滴下終了時には系内温度は145℃であった。滴下終了後、145℃で2時間反応を行った後、アスピレーターでフラスコ内を10mmHgに減圧しながら、酢酸ブチル、未反応の無水マレイン酸、メタクリル酸ラウリル、t−ブチルパーオキシベンゾエートおよびt−ブチルパーオキシベンゾエートの分解化合物の除去を2時間行った。この際、フラスコ上部に未反応無水マレイン酸と思われる結晶が大量に析出した。その後、反応物を取り出し、冷却することで、濃褐色の変性ポリオレフィン樹脂(G−24)を得た。得られた変性ポリオレフィン樹脂(G−24)の重量平均分子量は130,000、無水マレイン酸のグラフト率は22.1%であった。
【0050】
なお、製造例ではポリオレフィン(A)、ポリオレフィン(B)、有機溶剤(D)、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(E)、有機過酸化物(F)として、表1〜5に記載の略号に該当するものを使用し、不飽和カルボン酸類(C)としては無水マレイン酸を用いた。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
<ポリオレフィン(A)及びポリオレフィン(B)の分子量>
表1及び表2中のポリオレフィン(A)及びポリオレフィン(B)の分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー株式会社製:HLC−8120GPC、展開溶媒THF、標準物質ポリスチレン)を用いて測定し、重量平均分子量(Mw)を分子量とした。
但し、表2中の「※1」はゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定したポリスチレン換算値(メーカー公称値)である。
【0054】
<ポリオレフィン(A)及びポリオレフィン(B)の融解ピーク温度>
表1及び表2中のポリオレフィン(A)及びポリオレフィン(B)の融解ピーク温度は、示差走査熱量計(DSC)(セイコーインスツル株式会社製:DSC22)を用いて、昇温プログラム中に検知される主吸熱ピーク温度をDSC融解ピーク温度とした。
【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
【表6】

【0059】
<変性ポリオレフィン樹脂の分子量>
表6中の変性ポリオレフィン樹脂の分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー株式会社製:HLC−8120GPC、展開溶媒THF、標準物質ポリスチレン)を用いて測定し、重量平均分子量(Mw)を分子量とした。
但し、表6中の「※2」は、THF可溶分のみの測定した結果である。
【0060】
<変性ポリオレフィン樹脂のグラフト率>
表6中のグラフト率は、製造例の変性ポリオレフィン樹脂5gをキシレン100gに加熱溶解後、アセトン500gに投入し、析出物を濾過、乾燥して変性ポリオレフィンの精製物を得る。変性ポリオレフィン樹脂の精製物のH−NMR(Varian Inova社製 400MHz)測定を行い、無水マレイン酸のグラフト量を求め、原料ポリオレフィン100gあたりのグラフト重量(g)をグラフト率とした。
【0061】
(実施例1) 実施例用変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E−1)の製造
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた1000mlセパラフラスコに、製造例1で得られた変性ポリオレフィン樹脂(G−1)100gを仕込み、オイルバスにて系内が130℃になるように昇温し、内容物を熱溶融した。そこへ乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル15gを加え、攪拌を行い混合した。溶融混合後、2−メチル−2−アミノプロパノール90%水溶液6g、イソプロパノール20gを添加した後、強く攪拌しながら、80℃のイオン交換水を少量ずつ加えた。粘度は上昇したが、そのまま水を加え続けると粘度は低下した。水を250g加えたところで内容物を取り出し、乳白色の変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E−1)を得た。
得られた変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E−1)は固形分27%であり、その粒子径(50%粒子径)350nmであった。またエマルションを40℃で1週間保管し、経時安定性を確認したところ、特に変化は見られず、安定な水性分散体であった。
【0062】
(実施例2〜16) 実施例用変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E−2〜E−16)の製造
使用する変性ポリオレフィン樹脂の種類、乳化剤の使用量、有機アミンの使用量を表7のように変更する以外は、実施例1と同様にして、変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−2〜E−16を得た。得られた変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の樹脂固形分濃度、50%粒子径、安定性を表7に示す。
【0063】
(実施例17) 実施例用変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E−17)の製造
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた1000mlセパラフラスコに、製造例10で得られた変性ポリオレフィン樹脂(G−8)100gを仕込み、オイルバスにて系内が130℃になるように昇温し、内容物を熱溶融した。そこへトルエン50gを仕込み、加熱攪拌を行い系内が110℃になるようオイルバスの温度を調整した。そこへ乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル15gを加え、攪拌を行い混合した。溶融混合後、2−メチル−2−アミノプロパノール90%水溶液6g、イソプロパノール20gを添加し、強く攪拌しながら、80℃のイオン交換水を少量ずつ加えた。水を300g加えたところで、オイルバスの温度を100℃に設定し、アスピレーターでフラスコ内を減圧しながら、トルエン及びイソプロパノールを系外へ留去した。留去物が180gとなったところで、減圧を止め、内容物を冷却し、乳白色の変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E−17)を得た。得られた変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E−17)は固形分32%であり、その粒子径(50%粒子径)は370nmであった。
【0064】
(比較例1、3、4、9、10) 比較例用変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E−18、E−20、E−21、E−26、E−27)の製造
使用する変性ポリオレフィン樹脂の種類、乳化剤の使用量、有機アミンの使用量を表7のように変更する以外は、実施例1と同様にして、変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−18、E−20、E−21、E−26、E−27を得た。得られた変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の樹脂固形分濃度、50%粒子径を表7に示す。
【0065】
(比較例2) 変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E−19)の製造
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた1000mlセパラフラスコに、製造例18で得られた変性ポリオレフィン樹脂(G−18)100gを仕込み、オイルバスにて系内が130℃になるように昇温し、内容物を熱溶融した。そこへ乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル25gを加え、攪拌を行い混合した。溶融混合後、2−メチル−2−アミノプロパノール90%水溶液6g、イソプロパノール20gを添加した後、強く攪拌しながら、80℃のイオン交換水を少量ずつ加えた。すると樹脂の粘度が上昇し、攪拌羽に絡みついた。その後、所定の量まで水を加えてもそのまま粘度が下がらず、変性ポリオレフィン樹脂(G−18)は、水性分散体とはならなかった。
【0066】
(比較例5) 変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E−22)の製造
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた1000mlセパラフラスコに、製造例21で得られた変性ポリオレフィン樹脂(G−21)100gを仕込み、オイルバスにて系内が150℃になるように昇温し、内容物を熱溶融した。そこへ乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル25gを加え、攪拌を行い混合した。溶融混合後、2−メチル−2−アミノプロパノール90%水溶液6g、イソプロパノール20gを添加した後、強く攪拌しながら、80℃のイオン交換水を少量ずつ加えた。すると樹脂の粘度が上昇し、攪拌羽に絡みついた。その後、所定の量まで水を加えてもそのまま粘度が下がらず、変性ポリオレフィン樹脂(G−21)は、水性分散体とはならなかった。
【0067】
(比較例6) 変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E−23)の製造
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた1000mlセパラフラスコに、製造例22で得られた変性ポリオレフィン樹脂(G−22)100gを仕込み、オイルバスにて系内が150℃になるように昇温し、内容物を熱溶融した。そこへ乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル20gを加え、攪拌を行い混合した。溶融混合後、2−メチル−2−アミノプロパノール90%水溶液6g、イソプロパノール20gを添加した後、強く攪拌しながら、80℃のイオン交換水を少量ずつ加えた。粘度は上昇したが、そのまま水を加え続けると粘度は低下した。水を250g加えたところで内容物を取り出し、乳白色の変性ポリオレフィン樹脂水性分散体組成物(E−23)を得た。
得られた変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E−23)は固形分25%であり、その粒子径は複数のピークトップが確認されるものだった。また、水性分散体を40℃で1週間保管し、経時安定性を確認したところ、2層分離現象を起こしていた。
【0068】
(比較例7) 変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E−24)の製造
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた1000mlセパラフラスコに、製造例23で得られた変性ポリオレフィン樹脂(G−23)100gを仕込み、オイルバスにて系内が150℃になるように昇温し、内容物を熱溶融した。そこへ乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル30gを加え、攪拌を行い混合した。溶融混合後、2−メチル−2−アミノプロパノール90%水溶液1.2g、イソプロパノール20gを添加した後、強く攪拌しながら、80℃のイオン交換水を少量ずつ加えた。粘度は上昇したが、そのまま水を加え続けると粘度は低下した。水を300g加えたところで内容物を取り出し、乳白色の変性ポリオレフィン樹脂水性分散体組成物(E−24)を得た。この時、取り出しに使用した150メッシュの濾布にメッシュを通過出来なかった乳化不良物が大量に残った。
得られた変性ポリオレフィン樹脂水性分散体組成物(E−24)は固形分19%であり、その粒子径は複数のピークトップが確認されるものだった。また、水性分散体を40℃で1週間保管し、経時安定性を確認したところ、粘度上昇が起こり、サンプル瓶を逆さにしても内容物が落ちてこない高粘度体となっていた。
【0069】
(比較例8) 変性ポリオレフィン樹脂水性分散体組成物(E−25)の製造
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた1000mlセパラフラスコに、製造例24で得られた変性ポリオレフィン樹脂(G−24)100gを仕込み、オイルバスにて系内が150℃になるように昇温し、内容物を熱溶融した。そこへ乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル5gを加え、攪拌を行い混合した。溶融混合後、2−メチル−2−アミノプロパノール90%水溶液20g、イソプロパノール20gを添加した後、強く攪拌しながら、80℃のイオン交換水を少量ずつ加えた。粘度は上昇したが、そのまま水を加え続けると粘度は低下した。水を300g加えたところで内容物を取り出し、乳白色の変性ポリオレフィン樹脂水性分散体組成物(E−25)を得た。
得られた変性ポリオレフィン樹脂水性分散体組成物(E−25)は固形分23%であり、その粒子径は複数のピークトップが確認されるものだった。また、水性分散体を40℃で1週間保管し、経時安定性を確認したところ、二次凝集がおこり、大量の夾雑物が発生していた。
【0070】
【表7】

【0071】
<変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の粒子径>
表7中の50%粒子径は、動的光散乱法/レーザードップラー法による粒度分布測定装置(日機装株式会社製:マイクロトラック UPA150)により測定し、D50の値を50%粒子径とした。
【0072】
<変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の保存安定性>
表7中の安定性は、変性ポリオレフィン樹脂水性分散体200gをサンプル瓶に入れ、40℃1週間後の状態を「粘度、外観」を確認することで保存安定性を判断した。
○ : いずれの項目においても変化なし 粘度上昇が10%以下
△ : 外観変化なし、粘度上昇が10〜50%
× : 夾雑物の発生、または分離現象、または粒子径の変化(二次凝集)、または著しい増粘(粘度の上昇率が50%以上)が観測される。
【0073】
(低温焼き付け用バインダーとしての評価)
実施例1〜5、9、10、13、比較例1、3、4、9、10において低温焼き付け用バインダーとして評価を行った。結果を表8に示す。実施例は、密着性、耐水性試験の結果が良好だったのに対して、ポリオレフィン(A)が非常に低分子量である比較例1、ポリオレフィン(A)を含まない比較例9及びポリオレフィン(B)を含まない比較例10は密着性が劣り、耐水性試験において大きなブリスターが発生した。またポリオレフィン(B)の分子量が低い比較例3、4は、耐水性試験において小さなブリスターが発生した。
【0074】
【表8】

【0075】
表8の中の低温焼き付け用バインダーとしての碁盤目試験及び耐水試験を評価するために、表8の変性ポリオレフィン樹脂水性分散体とスチレン・アクリル水性分散体VE−4071(Tg=80℃)星光PMC株式会社製)を固形分比50:50で混合し、固形分濃度を20%となるように調整し、レベリング剤としてブチルセロソルブを対固形分比5%添加し、バーコーター20番にて、ポリプロピレン板に塗工し、70℃で30分焼き付け、24時間以上経過後のものを試験サンプルとして調製した。
【0076】
<碁盤目試験>
表8の中の碁盤目試験は、前記調製した試験サンプルの塗膜に、JIS K5400に記載されている碁盤目試験に準じて25マス(5×5)の碁盤目を作成し、粘着テープ(「セロテープ」(登録商標))を用いた剥離試験を行った。剥離試験は同じ場所で5回繰り返し、25マスのうち剥離しなかった碁盤目の数で評価した。
【0077】
<耐水性試験>
表8の中の耐水性試験は、前記試験サンプル(7cm×7cm)を金属バットに張った水に浸漬させ、40℃で10日間経過後の外観を確認する。
○ : 変化なし
△ : 小さな(1mm)ブリスターが発生。
× : 大きな(1mm〜5mm)ブリスターが発生。
【0078】
(高温焼き付けでのバインダーとしての評価)
実施例6〜8、11、12、14〜17、比較例1、3、4、9、10において高温焼き付け用バインダーとして評価を行った。結果を表9に示す。実施例では、密着性が良好で、乳化剤のブリードアウトも見られず、耐ガソホール性試験も良好な結果を得た。これに対して、いずれの比較例も密着性が明らかに劣り、特にポリオレフィン(A)が非常に低分子量である比較例1、ポリオレフィン(B)の分子量が低い比較例3、4は、耐ガソホール性試験において塗膜が完全に剥離する結果となった。また、ポリオレフィン(A)を含まない比較例9及び大量に乳化剤を使用している比較例10は、乳化剤のブリードアウトが確認され、耐ガソホール試験においても剥離が見られる結果となった。
【0079】
【表9】

【0080】
<高温焼き付けでのバインダー用途評価サンプルの作成>
変性ポリオレフィン樹脂水性分散体とスチレン・アクリル水性分散体VE−4071(Tg=80℃)星光PMC株式会社製)を固形分比50:50で混合し、濃度調整を行い固形分濃度を20%とした。そこへレベリング剤としてブチルセロソルブを対固形分比5%添加し、評価用サンプルとした。
【0081】
評価用サンプルをバーコーター20番にて、ポリプロピレン板に塗工した。塗工したサンプルを80℃で5分プレ乾燥し、その上に2液硬化型のウレタン塗料を塗工し、120℃で30分焼き付けた。焼き付け後、24時間以上経過後、塗膜に10mm幅で切れ目を入れ、剥離速度100mm/分で180°剥離試験を行い、ピール強度を測定した。
【0082】
<乳化剤のブリードアウト>
高温焼き付け用サンプルと同様に作成した焼き付けた試験片を50℃で3日間放置し、塗膜の表面外観目視と塗膜表面へのセロテープ(登録商標)の接着性により評価した。
○ : 塗膜表面に変化なし。セロテープ(登録商標)がしっかり接着する。
△ : 塗膜表面に乳化剤がわずかにブリードアウトしている。セロテープ(登録商標)の接着力が、やや弱い。
× : 塗膜表面に乳化剤が多くブリードアウトしており、セロテープ(登録商標)が全く接着しない。
【0083】
<耐ガソホール性>
高温焼き付け用サンプルと同様に作成した焼き付けた試験片を20℃に保たれたガソリンとメタノールの混合液(レギュラーガソリン/メタノール=90/10)に浸漬し、30分後の塗膜の状態を確認した。
○ : 塗膜の剥離なし。
△ : 塗膜の一部が剥離する。
× : 塗膜が全体的に剥離する。
【産業上の利用可能性】
【0084】
上記結果から明らかなように本発明の変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法により、低温から高温まで幅広い範囲の焼き付け条件において良好な密着性能を有し、且つ耐水性や耐薬品性に優れた変性ポリオレフィン水性樹脂分散体を得ることが出来る。このため、例えば、ヒートシール剤や接着剤として使用でき、特にポリオレフィン系の樹脂や複合材料と他の樹脂や金属等との接着において接着性が優れると考えられる。またフィルム、シート、構造材料、建築材料、自動車部品、電気・電子製品、包装材料等、塗料、インキ用バインダー、塗料用バインダー、プライマーなどにも使用でき、特にポリオレフィン系の樹脂や複合材料に対する塗装の際に、密着性、塗装性などが優れると考えられる。また接着剤、ヒートシール剤、ガラス繊維のサイジング剤などにも使用できる。以上のような汎用のポリオレフィン系樹脂が使用される広範な範囲において様々な用途に使用することができると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が10,000〜100,000であり、なお且つDSC融解ピークが35〜130℃であるポリオレフィン(A)と重量平均分子量が150,000〜500,000であり、なお且つDSC融解ピークが35〜105℃であるポリオレフィン(B)を混合したポリオレフィン混合物に対して、不飽和カルボン酸類(C)を付加重合させ、そのグラフト率が2〜20%である変性ポリオレフィン樹脂を水に分散することを特徴とする変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項2】
変性ポリオレフィン樹脂が、ポリオレフィン(A)とポリオレフィン(B)を質量比でポリオレフィン(A)/ポリオレフィン(B)=10/90〜90/10となるように混合したポリオレフィン混合物に対して、不飽和カルボン酸類(C)を付加重合させたものである請求項1に記載の変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項3】
変性ポリオレフィン樹脂が、ポリオレフィン(A)とポリオレフィン(B)を混合したポリオレフィン混合物に、アルキルアルキレート、アルキレングリコールアルキルエーテルアルキレート、ジアルキレングリコールアルキルエーテルアルキレートから選ばれる少なくとも1種であり、かつ、その沸点が250℃以下である有機溶剤(D)との存在下、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(E)と不飽和カルボン酸類(C)を、有機過酸化物(F)を用いて付加させることにより得られることを特徴とする請求項1又は2に記載の変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項4】
ポリオレフィン(A)とポリオレフィン(B)を混合したポリオレフィン混合物100質量部に対して、有機溶剤(D)5質量部以上50質量部以下の存在下、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(E)3質量部以上30質量部以下と不飽和カルボン酸類(C)2質量部以上20質量部以下を、有機過酸化物(F)0.1質量部以上5質量部以下を用いて付加させることにより得られることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項5】
ポリオレフィン(A)の融解ピークよりもポリオレフィン(B)の融解ピークが高温であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項6】
変性ポリオレフィン樹脂を水に乳化剤を用いて分散することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法。

【公開番号】特開2011−148871(P2011−148871A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9623(P2010−9623)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000109635)星光PMC株式会社 (102)
【Fターム(参考)】