説明

変性疾患用新規薬剤の開発のための治療用標的分子

本願発明は概して、変性疾患、特に神経変性疾患の治療、予防及び診断の分野に属する。本願発明は特には、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節され、そして、変性疾患、特に神経変性疾患の治療、予防及び診断に使用される遺伝子並びに蛋白質に関する。それに加え本願発明は、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して活性化される遺伝子及び/蛋白質の生物学的活性を調整する、予防用及び/または治療用作用物質を同定するための候補物質吟味における、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される遺伝子及び蛋白質の利用に関する。本願発明はさらには、変性疾患、特には神経変性疾患の診断方法、並びに、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して活性化される遺伝子及び/または蛋白質の生物学的活性を調整する、予防用及び/または治療用作用物質の同定方法に関する。さらには、本願発明は、診断方法実施のためのキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は一般に、変性疾患、特に神経変性疾患の治療、予防及び診断の分野に関する。本願発明は特には細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節され、そして、変性疾患、特に神経変性疾患の治療、予防及び診断に使用される遺伝子並びに蛋白質に関する。それに加え本願発明は、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して活性化される遺伝子及び/蛋白質の生物学的活性を調整する、予防用及び/または治療用作用物質を同定するための候補物質吟味における、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される遺伝子及び蛋白質の利用に関する。本願発明はさらには変性疾患、特には神経変性疾患の診断方法、並びに、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して活性化される遺伝子及び/または蛋白質の生物学的活性を調整する、予防用及び/または治療用作用物質の同定方法に関する。さらには、本願発明は診断方法実施のためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
好気性生物は食物からエネルギーを得て、そして代謝産物を自由に使えるようにし、全ての異化代謝、同化代謝等々を保持するために、酸化反応を利用する。それにより細胞中では、過酸化アニオン、水酸化ラジカル、過酸化水素、ペルオキソ亜硝酸及び一酸化窒素のような反応性酸素化合物(=ROS;反応性酸素種)及び反応性窒素化合物(=RNS;反応性窒素種)が継続的に生じる。これらの反応性分子の出現または発生は、細胞中の蛋白質、DNA及び脂質のような生体分子の未制御の酸化またはニトロ化を妨げる為に、非常に正確に調節される必要がある。ROS及び/またはRNSの不均衡により、細胞は、生体分子の未制御且つ望ましくない具合での改変、及びそれによる細胞の死滅(変性)に至り得る酸化ストレスを免れ得ない。神経細胞はその高いエネルギー消費、及び、高い代謝活性のために、酸化ストレスに対して特に抵抗力がない。
【0003】
神経細胞の死滅は、該当するヒトにおいて破壊的且つ不可逆的な効果を有し得る。神経細胞の死滅は例えば、卒中発作、心筋梗塞、外傷性の脳及び脊髄損傷、感染、炎症反応、興奮毒性、虚血、低酸素症、またはその他の脳若しくは脊髄における供給欠乏の結果として起こり得る。その他、アルツハイマー病、パーキンソン病のようなレビー小体病、汎発性レビー小体病、ハンチントン病、筋萎縮側索硬化症(ALS)、プリオン病(PrD)、クロイツフェルト・ヤコブ病、ダウン症候群、フロントテンポラーレ痴呆(FTD)、皮質基底核変性症、多発脳梗塞性痴呆、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症、及びコルサコフ症候群のような神経変性疾患でも神経細胞の死滅は起こる。神経細胞の死滅は、同様に薬剤作用の結果でもあり得る。例えば、精神病症状の治療のための神経弛緩薬のより長い投与により、患者において、対応するニューロン中の遊離ラジカル濃度上昇に引き続くニューロンの変性により惹起される遅発性の慢性ジスキネジーが起こり得る。
【0004】
神経変性疾患によるニューロンの選択的且つ進行性の死滅の原因は、解明されていない。この疾患は、最高で10%が常染色体遺伝性の形で出現し、そして患者を彼等の65歳の誕生日以前に襲う(「早期発症(early onset)」)。アルツハイマー病では、主に過剰リン酸化タウ蛋白質からなる細胞内神経原線維の「もつれ」(NFT)、及び老人性プラーク(SP)中のアミロイドβ(Aβ)40-42の細胞外沈着が特徴的である。コリン作動性ニューロンの選択的喪失へ至る。しかし、プラークなしの型のアルツハイマー病も存在する。遺伝性の型は、Aβ前駆蛋白質(APP)及びプレセニリン(PS1またはPS2)をコードする遺伝子の変異により優勢的に惹起される。この所見に基づくアミロイド仮説では、漸進的なAβ沈着及びAβ凝集へと至る変化したAβ恒常性を、コリン作動性ニューロンの死滅の原因と見なしている。
【0005】
パーキンソン病の総体的症候は、脳の黒質中のニューロンの死滅を理由としたドーパミン欠乏により惹起される。細胞レベルでは、凝集したα-シヌクレインより優勢的に成るが、さらに、ユビキチンC末端ヒドロラーゼのような蛋白質もまた含む、レビー小体の出現が観察される。パーキンソン病の家族性蓄積がこれまで10以上の染色体領域と結び付けられ、α-シヌクレイン(PARK1)、パーキン(PARK2)及びDJ-1(PARK7)をコードする遺伝子中の変異が明らかに病因であった。
【0006】
ALSは、運動ニューロンの進行性の喪失により引き起こされる。家族性型のこの疾病の内の20%が、Cu-Zn-スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)中の90以上の変異と関連付けられる。
【0007】
ハンチントン病は、ハンチントン蛋白質をコードする遺伝子中のCAG-トリヌクレオチド反復配列の致命的な伸長により引き起こされる。この伸長は、細胞内に蓄積し、凝集し、そしてまた線条体ニューロンを形成する、グルタミンに富む異常ハンチントン蛋白質の形成へと導く。
【0008】
しかしながら、圧倒数の神経変性疾患は、各々公知の変異が関与することなく、65年の人生を経た後、散発的な形で出現する(「晩期発症(late onset)」)。それらは、環境の及ぼす影響及び内因性要因による多因性共同作用によって惹起される。主危険要因は年齢である。
【0009】
ROS及びRNSによる細胞に有害な酸化ストレスは、近年一段と、疾病を誘発または促進する要因と見なされている。アルツハイマー病及びパーキンソン病では、脳試料中の蛋白質ニトロ化、蛋白質カルボニル化、グリコシル化及び脂質過酸化物の増加が実証された。抗酸化酵素の代償的上向き制御、及び、RNAまたはDNAの増幅された酸化、並びに、このような損害を修復するには減じられた能力がさらなる証拠である。パーキンソン病では、その他、ミトコンドリアの呼吸系(電子伝達系)複合体I及び細胞内チオールの低下した濃度、並びに、鉄の増加が見られる。パーキンソン病の発症における酸化ストレス仮説は動物モデルによる裏付けられている。慢性的化学殺虫剤曝露と同様に、6-OH-ドーパミンまたは1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン(MPTP)の投与もドーパミン性ニューロンの変性を誘導する。PARK7領域によりコードされるDJ-1蛋白質が、細胞中で抗酸化機能を担っている。α-シヌクレイン凝集が酸化ストレスにより惹起されることも同様に知られている。ALSでは、脊髄中での増加したニトロチロシン、ハンチントン病では線条中での増加した8-ヒドロキシ-デオキシグアノシン及びニトロチロシンが、酸化ストレスマーカーとして観察される。
【0010】
酸化ストレスはそのため、神経変性疾患の病因論において、環境毒のような外因性要因、及び、遺伝的疾病素質のような内因性要因の間を結ぶ決定的なものである。それに加えて、グルタチオン(GSH)システムのようなラジカル解毒システムの効果が年齢により減退することが知られている。このストレスに対して直接細胞性防護機構に干渉し、それにより神経保護的に働く治療が望ましく、そして、そのような治療は将来的な疾病進行を阻止できるかも知れない。
【0011】
神経変性疾患のための効果的な薬剤は現在存在しない。投入された作用物質は症状のみと戦う。しかし、作用物質は疾病の進行を止めることはできない。一部においては、ジスキネジー、錯乱状態等々の重大な副作用が引き起こされる。投薬は、欠けている神経伝達因子の補充、または、症状の開始時には既にその総数が劇的に減少(アルツハイマーでは例えば50%以上まで減少)している、まだ生存しているニューロンの機能を最大とすることを目標とする。
【0012】
アルツハイマー病患者の60〜80%は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤群に反応を示さない。唯一の代替物としては、NMDA受容体アンタゴニストのメマンチンが利用可能なだけである。その他のものに加え、ニコチン性アセチルコリン受容体及びNMDA-受容体の選択的リガンド、β-若しくはγ-セクレターゼ、またはタウ凝集の阻害剤、β-アミロイドに対するワクチン化、非ステロイド抗炎症薬剤、コレステリン濃度を低下させる薬剤(スタチン)、並びに、非特異的抗酸化剤(その他、スピントラップ剤)が臨床開発中である。
【0013】
パーキンソン病においては、レボドパ及びデカルボキシラーゼ阻害剤の組合せは約5年しか助けとならない。その後はドパミンアンタゴニスト、またはモノアミノオキシダーゼ若しくはカテコール-O-メチルトランスフェラーゼの阻害剤が投与される。その他のものに加え、神経生長因子、ニューロイムノフィリン、非特異的抗酸化剤、キナーゼ阻害剤(CEP1347)及び細胞補充療法(その他、スフェラミン(登録商標))が臨床開発中である。
【0014】
ALSでは、NMDA受容体アンタゴニストのリルゾールが対症療法として投入される。それにより、たった2ヶ月の生存期間の延長が観察されるだけで、この疾病により診断から2〜5年以内で死へと至る。
【0015】
このため、神経変性疾患については、より高い有効性、特異性及び許容され易さの新規薬剤が大いに渇望されている。全体としては、抗炎症、抗凝集、抗興奮、抗アポトーシス、抗酸化、神経栄養再生、及び転写/翻訳修飾ストラテジーに着目する、沢山の治療研究法が存在する。変性カスケードの可能な限り多くの箇所に向けられた、広く構想された治療処置が現在、病態生理学的過程の複雑さから考えて最も有望なようである。
【0016】
これまでの神経変性疾患のための抗酸化治療ストラテジーは、非特異的抗酸化剤(ビタミンE、イデベノン等)を用いていたのみである。これらはしかしながら、疾病の総体的症状を改善しなかった。これら全ての研究法には、酸化ストレスの原因または結果の克服において決定的な機能を果たし、それにより神経保護的に作用する細胞特有の遺伝子及び蛋白質に照準を絞った調整が欠けている。これらの遺伝子または蛋白質を同定できる可能性が最も有望なのは、細胞が酸化ストレスと戦っているが、生き残ることができる条件、即ち、細胞が慢性の、そしてとりわけ致死量以下である酸化ストレス条件下にある場合である。
【発明の開示】
【0017】
示された技術の状況を勘案し、本願発明の課題は、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して制御される遺伝子またはその産物を供給することである。また、本願発明の課題は、この遺伝子またはその産物を介し、変性疾患、特には神経変性疾患の治療及び/または予防のための作用物質を同定することである。
【0018】
これらの課題は、特許請求の範囲において定義される事物により解決される。
【0019】
「酸化ストレス」は、細胞または組織中における反応性の酸素種または窒素種の発生と解される。酸素種は、過酸化アニオン、水酸化ラジカル及びH2O2であり得る。窒素種は、ペルオキソ亜硝酸及び一酸化窒素であり得る。これらの種は、例えば、各細胞のミトコンドリア中の呼吸鎖の反応で発生する。細胞損傷のリスクは、例えば、脳において高い代謝活性が優勢の時上昇する。酸素種は通常、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼまたはグルタチオンペルオキシダーゼのような抗酸化酵素を介し排除される。しかし、この排除が正常に行われないと、重篤な細胞障害及び細胞死、そして最終的には、例えば、神経性変性疾患を引き起こす、酸化ラジカルの過酸化ラジカル及び過酸化水素が発生する。
【0020】
本明細書中で用いられる「慢性酸化ストレス」または「致死量以下の慢性酸化ストレス」の概念は、酸化性ストレッサー(単一または複数)の作用によりもたらされる、少なくとも1つの反応性の酸素結合または窒素結合の、細胞中におけるコントロール条件と比較しての増加を意味する(ここで、増加は少なくとも4時間持続し、且つ、35日目またはそれよりも長く続いてから止まる)。
【0021】
本明細書中で用いられる「酸化性ストレッサー」の概念は、細胞中において酸化性ストレスを発生させる分子を意味する。
【0022】
本明細書中で用いられる、核酸の「誘導体」または「バリアント」の概念は、当業者に知られるよう、比較核酸に対し1若しくはそれ以上の欠失、置換、付加、挿入及び/または転位を有する核酸配列を意味する。
【0023】
本明細書中で用いられる、蛋白質の「誘導体」または「バリアント」の概念は、当業者に知られるよう、比較蛋白質に対して1若しくはそれ以上の欠失、置換、付加、挿入、及び/または、天然若しくは人工的な蛋白質改変(例えば、グリコシル化若しくはGPIアンカー)を有するアミノ酸配列を意味する。
【0024】
本明細書中で用いられる「ホモログ配列」または「ホモロジー」の概念は、比較配列またはその断片に対して有意な類似性を有する核酸配列または蛋白質配列を意味し、ここで、このホモログ配列により示される核酸または蛋白質は、比較配列を有する核酸または蛋白質の活性に匹敵する活性または部分活性を持つ。ホモログ配列としては、比較配列またはこの比較配列の断片とストリンジェントまたはややストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列が挙げられる(ストリンジェントまたはややストリンジェントな条件については、Sambrookら、Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory (1989), ISBN 0-87969-309-6参照)。ストリンジェントなハイブリダイズ条件の一例は、4×SSC中、65℃(代わりに、50%ホルムアミド及び4×SSC中、42℃)でのハイブリダイゼーション、続いて0.1×SSC中、65℃における全部で1時間に及ぶ複数回の洗浄段階である。ややストリンジェントなハイブリダイズ条件は、4×SSC中、37℃におけるハイブリダイゼーション、続いて1×SSC中、室温における複数回の洗浄段階である。ホモログ配列としては、比較配列として用いられる核酸配列及びアミノ酸配列と、類似性アルゴリズムBLAST(Basic Local Alignment Search Tool, Altschul et al., Journal of Molecular Biology 215, 403-410 (1990)を利用して比較した場合に有意な類似性を示す核酸配列若しくは蛋白質配列、またはそれらの断片が認められる。ここで用いられるように、有意に類似となるのは、例えば、NCBIのBlastサービスにおける標準パラメーターを使用して比較配列またはその断片と比較された場合に、P<10−5の有意水準(確率)を示す場合である。
【0025】
本明細書中で用いられる「調整剤」の概念は、遺伝子の発現率及び/または蛋白質の生物学的活性を変化させることができる、特には高めるまたは低下させることができる作用物質を意味する。発現率または生物学的活性における変化は、当業者に公知の方法により核酸レベル(例えば、産生mRNA)、及び蛋白質レベル(例えば、ウェスタンブロット、2D-ゲル電気泳動またはFRET)で直接確認することができる。
【0026】
本明細書中で用いられる「神経変性疾患」の概念は、卒中発作及び多発性硬化症のような変性疾患及び神経医学的疾患、並びに、痴呆、アルツハイマー病、パーキンソン病、ALSまたはハンチントン病のような神経細胞の死滅を伴う神経変性疾患を意味する。神経変性疾患の概念にはまた、例えば、晩発性ジスキネジー等の薬物作用により引き起こされた細胞変性のような神経変性の過程が役割を果たす疾患、または統合失調症若しくは鬱病のような精神疾患も該当する。
【0027】
本明細書中で用いられる「治療用標的分子」または「ドラッグターゲット」の概念は、それらに結合する分子若しくは物質を介した、それらの発現率若しくは生物学的活性への狙い通りの干渉により、疾患の治療、診断、治癒、遅延、及び/若しくは予防に使用される遺伝子または蛋白質を意味する。
【0028】
本願発明は、致死量以下の慢性酸化ストレス条件の間調節され、そして、細胞の細胞保護的蓄え(アーセナル)に属する遺伝子または蛋白質に関する。本願発明は、これらの遺伝子若しくは蛋白質、または、それらから誘導された誘導体、バリアント、ホモログ若しくは断片、またはこれらに対する抗体を、変性疾患、特には神経変性疾患の治療、予防及び診断方法、並びにこれらの遺伝子及び/または蛋白質の生物学的活性を調整する、予防用及び/または治療用作用物質の同定方法に使用することを目標とする。さらに、本願発明は診断用キット、並びに、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される遺伝子及び蛋白質を提供する。キット、遺伝子及び蛋白質は、変性疾患、そして特に神経変性疾患を早期に適切な処置により阻止、治療、若しくは診断するため、または、この診断によりこのような疾患のリスクを低下させるために使用される。
【0029】
第一の態様において本願発明は、真核細胞中で慢性酸化ストレスと関連して調節される遺伝子である核酸を提供する。本願発明はさらには、この遺伝子によりコードされる蛋白質を提供する。さらに本願発明は、慢性酸化ストレスと関連して調節されるが、該調節が核酸レベルでは起こらない蛋白質をも提供する。本願発明は特には、核酸のホモログ、誘導体、バリアント及び断片、並びにこれらの核酸によりコードされる蛋白質に関する。
【0030】
好ましくは遺伝子は、真核細胞、好ましくはヒト細胞中で、慢性酸化ストレスと関連して調節されるMAC30(髄膜腫関連蛋白質)、BRI3(同義:I3、pRGR2)、G1P3、LOC222171、CUEドメイン含有1(CUEDC1)、C2型ニーマン-ピック病(NPC2)、ステアリル-CoAデサチュラーゼ(SCD;デルタ-9-デサチュラーゼ)及びイソペンテニル二リン酸デルタイソメラーゼ1蛋白質(IDI1;=イソペンテニル二リン酸ジメチルアリール二リン酸イソメラーゼ1)をコードする。さらに本願発明は各遺伝子の転写バリアントに関する。
【0031】
MAC30の核酸配列は、好ましくはNCBI GenBank/EMBLアクセッション番号NM_014573、BC045655、BC091504、CR613993、CR590967、CR612870、L19183、BC017362に相当するcDNA配列に当たる(実施例1参照)。
【0032】
BRI3の核酸配列は、好ましくはNCBI GenBank/EMBLアクセッション番号BC018737、BC071992、AF041430、AB055977、NM_015379、BC062370、AF106966に相当するcDNA配列に当たる(実施例2参照)。
【0033】
G1P3の核酸配列は、好ましくはNCBI GenBank/EMBLアクセッション番号NM_022872、NM_022873、NM_002038、X02492、AK024814、BN000257、BC011601、BC015603及びBT006850に相当するcDNA配列に当たる(実施例3参照)。
【0034】
LOC222171の核酸配列は、好ましくはNCBI GenBank/EMBLアクセッション番号BC029131、NM_175887、CR619478、CR608739、CR610203、BC018144、CR604389 に相当するcDNA配列に当たる(実施例4参照)。
【0035】
CUEDC1の核酸配列は、好ましくはNCBI GenBank/EMBLアクセッション番号NM_017949、AK000746、BC056882、AK000977に相当するcDNA配列に当たる(実施例5参照)。
【0036】
C2型ニーマン-ピック病(NPC2)の核酸配列は、好ましくはNCBI GenBank/EMBLアクセッション番号NM_006432、BC002532、CR609490、CR608935、CR605546、CR622486、AK222474、CR624497、CR601885、X67698、CR595914に相当するcDNA配列に当たる(実施例6参照)。
【0037】
ステアリル-CoAデサチュラーゼ(SCD;デルタ-9-デサチュラーゼ)の核酸配列は、好ましくはNCBI GenBank/EMBLアクセッション番号S70284、Y13647、NM_005063、BC005807、AK222862、AB208982、BC062303、AF097514、AB032261に相当するcDNA配列に当たる(実施例7参照)。
【0038】
IDI1(イソペンテニル二リン酸ジメチルアリール二リン酸イソメラーゼ1)の核酸配列は、好ましくはNCBI GenBank/EMBLアクセッション番号NM_004508、BC057827、BC019227、BC022418、BC025375、BC006999、BC005247、AF271720に相当するcDNA配列に当たる(実施例8参照)。
【0039】
真核細胞、好ましくはヒト細胞中で慢性酸化ストレスと関連して調節される蛋白質は、好ましくは、前述した遺伝子及びその転写バリアントの発現産物である。
【0040】
蛋白質MAC30のアミノ酸配列は、好ましくはアクセッション番号NP_055388、AAH91504、AAH45655、AAA16188に当たる。
【0041】
蛋白質の脳蛋白質i3(BRI3)のアミノ酸配列は、好ましくはアクセッション番号AAH18737、AAH71992、AAD05167、BAB32785、NP_056194、AAH62370、AAF18565、O95415に当たる。蛋白質の脳蛋白質i3は、同じBRI3と表記されるが、この発明の蛋白質と類似性のないアクセッション番号Q9NQX7の蛋白質と間違えられてはならない。
【0042】
蛋白質インタフェーロン誘導6-16蛋白質のアミノ酸配列は、好ましくはアクセッション番号NP_075010、NP_075011、NP_002029、AAH15603、CAE12275、AAH11601、AAP35496、CAA26322に当たる。
【0043】
蛋白質LOC222171のアミノ酸配列は、好ましくはアクセッション番号AAH29131、NP_787083、EAL24204に当たる。
【0044】
CUEドメイン含有1蛋白質のアミノ酸配列は、好ましくはアクセッション番号NP_060419、BAA91357、AAH56882、BAA91452、Q9NWM3に当たる。
【0045】
NPC2蛋白質のアミノ酸配列は、好ましくはアクセッション番号NP_006423、AAH02532、BAD96194、CAA47928、P61916に当たる。
【0046】
ヒトSCD蛋白質のアミノ酸配列は、好ましくはアクセッション番号BAA93510、BAD92219、AAH62303、AAD29870、NP_005054、AAH05807、O00767、BAD96582、AAB30631、CAA73998に当たる。
【0047】
ヒトイソペンテニル二リン酸デルタイソメラーゼ1蛋白質(IDI1;イソペンテニル二リン酸ジメチルアリール二リン酸イソメラーゼ1)のアミノ酸配列は、好ましくはアクセッション番号Q13907、NP_004499、AAH19227、AAK49435、AAK49434、AAK29357、AAH06999に当たる。
【0048】
好ましくは、本発明の核酸は配列番号:1から63に示す配列を持つものに関し、また、蛋白質は、配列番号:64から113に示す配列を持つもの、並びに、そのホモログ、誘導体、バリアント及び断片に関する。本願発明の核酸のホモログに関しては、ホモログは、配列番号:1〜63に示す配列を持つ核酸に対し、少なくとも80%のホモロジー、好ましくは約85%、90%、95%または99%のホモロジーを示す。本願発明の蛋白質のホモログに関しては、ホモログは、配列番号:64から113に示す配列を持つ蛋白質に対し、少なくとも70%、好ましくは75%、85%、90%、95%または99%の同一性を示す。さらには、本発明の蛋白質は修飾されていてもよい。例示的な修飾は、天然においては存在しない(人工的な)アミノ酸のような化学修飾されたアミノ酸;アミノ酸配列における欠失、変異及び付加;蛋白質の異種ポリペプチドとの融合(融合蛋白質);並びに、グリコシル化、GPI-アンカー及び/または脂質修飾のような、天然に存在する及び存在しない構造によるアミノ酸の化学的及び生物学的修飾である。
【0049】
本願発明の核酸分子は、天然のまたは天然に存在しないゲノムDNA、RNA、cDNA、ミクロRNA、siRNA、並びに、それらのホモログ、誘導体、断片及びバリアント、特には選択的スプライスバリアントであり得、または修飾された、特には転写的若しくは化学的に修飾された核酸若しくはペプチド核酸(PNAs)等々である。
【0050】
さらなる態様において本願発明は、本願発明の核酸にプローブまたはプライマーとしてハイブリダイズし、生物学的試料中のこれらの核酸分子の検出及び/または増幅に使用できるオリゴヌクレオチドに関する。オリゴヌクレオチドはDNA、RNAまたはPNAsであり得る。DNAまたはRNAの場合、オリゴヌクレオチドは少なくとも6、好ましくは6〜50、10〜45、12〜40、15〜35、15〜30、20〜45、25〜40個の連続したヌクレオチドからなるか、または本願発明の核酸に対する相補的アンチセンスヌクレオチド配列を持ち得る。オリゴヌクレオチドは修飾されていてもよい。例えば、色素性、蛍光性若しくは発光性の基質と反応する酵素と連結されていても、または色素分子、蛍光分子、発光分子若しくは放射性分子、及び/若しくは質量分析において有効な結合物(アイソトープタグ)と結び付けられていてもよい。オリゴヌクレオチドの修飾はまた、個々のヌクレオチド間の結合の1つまたはそれ以上の修飾であってもよく、例えば、ホスホロチオエートまたはメチルホスホネートである。本願発明のオリゴヌクレオチドは、核酸バイオチップ、特には電気的バイオチップと共に本願発明の方法において使用され得る。
【0051】
さらなる態様において本願発明は、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸、または、これらの核酸によりコードされる蛋白質の医療研究、例えば、神経変性疾患の研究における使用に関する。本願発明は特には、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸、または、これらの核酸によりコードされる蛋白質の、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される遺伝子及び/若しくは蛋白質の生物学的活性を調整する作用物質の同定のための標的分子(ドラッグターゲット)としての使用に関する。本願発明は特には、配列番号:1から63に示す配列を持つ核酸並びにそのホモログ、誘導体、バリアント及び断片、並びに、配列番号:64から113に示す配列を持つ蛋白質並びにそのホモログ、誘導体、バリアント及び断片の使用に関する。使用される核酸及び蛋白質は、本明細書中に定義されているように、修飾されていてもよい。
【0052】
本発明の使用は、酸化ストレスと関連して成立する疾病及び/または(慢性の)疾病様状態、特には癌、心循環疾患、動脈硬化、真性糖尿病、免疫系における炎症性疾患、慢性関節リウマチ、炎症性腸疾患、早すぎる老化過程、卒中発作及び多発性硬化症のような変性及び神経性疾患、並びに、痴呆、アルツハイマー病、パーキンソン病、ALS若しくはハンチントン病のような神経細胞の死滅を伴う神経変性疾患に対して投入できるか、または、これらの疾患及び/または(慢性の)疾病様状態を妨げる治療用及び/または予防用作用物質の同定を可能にする。
【0053】
さらなる態様において本願発明は、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸または蛋白質の、細胞の酸化ストレスにより引き起こされる疾患及び疾患様状態を同定、監視、疾病分類学的分類(疾病段階のカテゴリー化)、取り扱い、診断及び/または予防的評価のための使用に関する。特に本願発明は、配列番号:1から63に示す配列を持つ核酸並びにそのホモログ、誘導体、バリアント及び断片、並びに、配列番号:64から113に示す配列を持つ蛋白質並びにそのホモログ、誘導体、バリアント及び断片の使用に関する。
【0054】
一実施形態において本願発明は、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸の検出及び/または分析のための診断方法に関する。
【0055】
この方法は次の工程を含む:
a)試料から核酸を分離する工程;
b)リニア増幅のために、cDNAを作成、または場合によりそれに先立つcRNAを合成する工程;
c)慢性酸化ストレスと関連して調節される遺伝子に対し向けられたオリゴヌクレオチドを添加し、さらにそれに続いて工程b)のcDNAを増幅する工程;
d)工程c)の増幅産物を分析する工程。
【0056】
分析のためにシグナル増幅が必要とされる場合、工程c)の増幅産物を、化学的に修飾されたオリゴヌクレオチドまたは相補的核酸配列とバイオチップ上でハイブリダイズさせてもよい。
【0057】
一実施形態において本願発明はさらに、次の工程を含む、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸を検出及び/または分析するための診断方法に関する:
a)RNAが場合により直接標識される、試料から核酸を分離する工程;
b)慢性酸化ストレスと関連して調節される遺伝子に対して向けられたオリゴヌクレオチドを添加し、そしてそれに続いて工程a)の核酸を増幅する工程;
c)ハイブリダイズシグナルを分析する工程。
【0058】
分離された試料は生物学的試料、例えば、脳由来のもののような組織試料、または、血液、唾液、血清若しくは脳脊髄液(CSF)のような体液であり得る。試料はまた、予め生物学的材料より得られたDNAまたはRNAでもあり得る。
【0059】
検出される核酸は、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節されるDNAまたはRNAであり得、DNAが好ましい。ここで検出される核酸として特に好ましいのは、配列番号:1から63に示す配列を持つ1またはそれ以上の核酸、並びに、そのホモログ、誘導体、バリアント及び断片である。核酸がRNAの場合、核酸増幅は、RNAのcDNAへの逆転写により実現される。核酸がRNAの場合、逆転写及び核酸増幅は好ましくはRT-PCRにより実現される。
【0060】
好ましくは本願発明の方法と共に、細胞中の慢性酸化ストレスに関連して調節される1つまたはそれ以上の核酸の発現率の高さの決定が行われる。そのためには好ましくは試料より総RNAまたはmRNAが分離され、そのRNAがcDNAに逆転写される。リニア増幅のためには、第1cDNA合成後に、DNA依存性RNAポリメラーゼを用いたインヴィトロ転写が実施され、生じたcRNAを用いて次のcDNA合成が行われる。直接的な標識のため、例えば、アルカリホスファターゼがRNAに連結され、そして続いて酵素活性が検出される。それに加えcDNAは好ましくは、当技術水準において知られるように定量的PCRを行う本願発明の方法を用いて増幅される。さらに、細胞中の慢性酸化ストレスに関連して調節される核酸の発現率を、ハイブリダイズするオリゴヌクレオチドにより検出できる。その際、発現を定量する核酸は、配列番号:1から63に示す配列を持つ1またはそれ以上の核酸(群)、または、そのホモログ、誘導体、バリアント若しくは断片である。
【0061】
核酸の発現率の決定は、例えば、試験された試料を得た細胞、または試験された試料を得るのに使用した細胞中で酸化ストレスがあったかの診断を可能にし、この診断は続いて、細胞の酸化ストレスにより引き起こされる疾患並びに疾患様状態の同定、監視、疫病分類学的分類、診断、及び/または予後判定についての表出を可能にする。本願発明の方法は、酸化ストレスと関連する疾患及び/または(慢性)疾患様状態、特には癌、心循環疾患、動脈硬化、真性糖尿病、免疫系における炎症性疾患、慢性関節リウマチ、炎症性腸疾患、早すぎる老化過程、卒中発作及び多発性硬化症のような変性及び神経性疾患、並びに、痴呆、アルツハイマー病、パーキンソン病、ALS若しくはハンチントン病のような神経細胞の死滅を伴う神経変性疾患の診断を可能にする。本願発明の方法によりまた、対応する薬剤により引き起こされる、酸化ストレスに続いて出現する薬剤副作用の同定、判定及び/または監視が実現される。
【0062】
本願発明のさらなる態様は、本願発明の分析方法及び検出方法を実施するためのキットであり、当該キットは、本願発明の方法に適合した核酸増幅の実施するための少なくとも1つのプライマー対を包含する。ここで、対応するプライマー対のプライマーは各々、細胞中の慢性酸化ストレスに関連して調節される核酸にハイブリダイズするDNA配列を包含する。好ましくは、これらのプライマーは各々、配列番号:1から63に示す配列を持つ1またはそれ以上の核酸(群)、またはそのホモログ、誘導体、バリアント若しくは断片にハイブリダイズするDNA配列を包含する。本願発明のキットはさらに、核酸増幅のために実施すべき方法に応じて、緩衝液、ヌクレオチド、及び、例えばDNAポリメラーゼのような酵素等の適した試薬、並びに、少なくとも1つの適した対照核酸(群)を包含し得る。
【0063】
さらなる態様において本願発明は、細胞中の慢性酸化ストレスとの関連で調節される蛋白質の、細胞の酸化ストレスにより引き起こされる疾患及び疾患様状態の同定、監視、疫病分類学的分類、処置、診断、及び/または予後判定における使用に関する。本願発明はその点で特に、配列番号:64から113に示す配列を持つ蛋白質、並びにそのホモログ、誘導体、バリアント及び断片の使用に関する。
【0064】
一実施形態において本願発明は、細胞中の慢性酸化ストレスとの関連で調節される蛋白質の量の分析及び/または診断方法に関する。ここで、本方法は以下の工程:
a)好ましくは脳、CSF、血液、唾液のような生物学的材料より分離された試料についての、細胞中の慢性酸化ストレスとの関連で調節される、少なくとも1つの蛋白質の定量を実施する工程、
b)細胞中の慢性酸化ストレスとの関連で調節される、少なくとも1つの蛋白質の対照試料について決定された量と比較する工程であって、当該対照試料が変性疾患を患わない対象由来である工程
を含み、ここで、対応する蛋白質の対照試料中の量と比較しての、工程a)で試験された試料中の少なくとも1つの蛋白質の増量は、変性疾患の存在、または、変性疾患を患うリスクを示す。
【0065】
好ましくは、配列番号:64から113に示す配列を持つ蛋白質、並びにそのホモログ、誘導体、バリアント、及び断片のグループより選択される、少なくとも1つの蛋白質の定量が行われる。
【0066】
定量は、好ましくは免疫学的に、例えば、ELISA分析、ウェスタンブロット、RIA、免疫組織化学、または免疫細胞学を介して実施される。本願発明の蛋白質定量は好ましくは、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される蛋白質に特異的に結合するか、または、配列番号:64から113に示す配列を持つ蛋白質、並びにそのホモログ、誘導体、バリアント及び断片のグループから選択される蛋白質に特異的に結合する、モノクローナル若しくはポリクローナル抗体、またはその他の分子を使用して免疫学的に実施される。これらの分子は後述される治療用または予防用結合剤と同一であってもよく、そして、後述される発現または生物学的活性の調整剤のためのもののような、生体分子または化学物質、特には小さな化学的分子であり得る。定量はまた好ましくは免疫学的ではなく、NMRまたはPETプローブにより行われ得る。同様に好ましいのは質量分析法を介しての定量である。決定される蛋白質は上記で定義したような修飾物でもよい。
【0067】
好ましい実施形態において試料は、抗体または結合剤と接触され、そして、生じた抗体及び蛋白質または結合剤及び蛋白質の複合体の量が上述した方法を介して決定される。抗体または結合剤は化学的に修飾されていてもよい。抗体または結合剤は例えば、(発色性)基質と反応する酵素と共有結合されていてもよく、その反応、ひいては生じた抗体及び蛋白質または結合剤及び蛋白質の複合体は合成される蛍光、発光または燐光を介して視覚化及び実証され得る。抗体または結合剤はさらに、生じた抗体及び蛋白質または結合剤及び蛋白質の複合体が、間に切換の酵素的反応工程なしで直接視覚化され得るように、色素分子、蛍光分子、発光分子若しくは放射性分子と結び付けられていてもよく、または、質量分析に有効なアイソトープを含んでもよい。
【0068】
別の好ましい実施形態においては、血液、血清、CSF、脳、唾液のような患者材料中の、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される蛋白質に対する抗体の検出のために、蛋白質チップが使用される。
【0069】
別の好ましい実施形態において蛋白質チップは、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される本願発明の蛋白質の、血液、血清、CSF、脳、唾液のような患者材料中での検出のために抗体または結合剤を含む。
【0070】
細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される蛋白質の蛋白質量の決定は、細胞の酸化ストレスにより引き起こされる疾患及び疾患様状態の同定、監視、疫病分類学的分類、診断、及び/または予後判定を可能にする。本願発明の方法は、酸化ストレスと関連して成立する疾患及び/または(慢性)疾患様状態、特に、癌、心循環疾患、動脈硬化、真性糖尿病、免疫系における炎症性疾患、慢性関節リウマチ、炎症性腸疾患、早すぎる老化過程、卒中発作及び多発性硬化症のような変性及び神経性疾患、並びに、痴呆、アルツハイマー病、パーキンソン病、ALS若しくはハンチントン病のような神経細胞の死滅を伴う神経変性疾患の診断を可能にする。本願発明の方法により、対応する薬剤により引き起こされる、酸化ストレスに続いて現れる薬剤の副作用の監視が実現される。
【0071】
本願発明のさらなる態様は、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される少なくとも1つの蛋白質を定量する本願発明の方法を実施のためのキットである。キットは、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される蛋白質に特異的であり、そして好ましくは、配列番号:64から113に示す配列を持つ蛋白質、並びにそのホモログ、誘導体、バリアント及び断片の群から選択される蛋白質に特異的である、少なくとも1つのモノクローナル抗体若しくはポリクローナル抗体、またはその他の結合剤を包含する。さらに、本願発明のキットは、実施すべき蛋白質定量の方法に応じ、緩衝液等の適した試薬、並びに適した対照蛋白質(単数または複数)を包含し得る。本願発明のキットはさらにNMRタグ、PETプローブ、質量分析のためのアイソトープタグ及び/または装置を含み得る。
【0072】
さらなる態様において本願発明は、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸の発現、若しくは、これらの核酸によりコードされる蛋白質の生物学的活性を調整する治療用及び/または予防用作用物質の同定における、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸の使用に関する。ここで、本願発明は特に、配列番号:1から63に示す配列を持つ核酸、並びに、配列番号:64から113に示す配列を持つ蛋白質、並びにそれらのホモログ、誘導体、バリアント及び断片の使用に関する。
【0073】
一実施形態において本願発明は、以下の工程:
a)細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸を発現する細胞を準備する工程、
b)該細胞を候補物質と接触させる工程、及び
c)細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸の発現を、候補物質が添加されなかった場合の、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸の発現と比較する工程
を包含する、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸の発現を調節する治療用及び/または予防用作用物質を同定する方法に関し、
ここで、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸の発現における変化は、候補物質が、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸の調整剤であることを示す。
【0074】
さらなる実施形態において本願発明は、以下の工程:
a)細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される蛋白質を含む細胞を準備する、または、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される少なくとも1つの蛋白質を担体上に固定する工程、
b)該細胞または担体上の蛋白質を候補物質と接触させる工程、及び
c)細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される蛋白質に結合した候補物質の量を、表面プラズモン共鳴、FRET、定量的HPLC、バイオアッセイ及び質量分析のような生物物理的方法を介して検出する工程
を包含する、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される蛋白質の生物学的活性を調整する治療用及び/または予防用作用物質の同定方法に関し、
ここで、結合は、潜在的な調整剤であることを示す。
【0075】
本願発明によると、核酸発現または該核酸より発現された蛋白質量をRNA分析、特にはノーザンブロット、場合によってシグナル強化を行う若しくはRT-PCRによるRNA/cDNAハイブリダイゼーション、または、蛋白質分析法、特にはウェスタンブロット分析若しくはELISAにより決定することができる。
【0076】
好ましくは本願発明の方法は、治療用及び/または予防用作用物質の同定のため、遺伝子バンク、発現バンク、天然物バンク、小型化学分子のバンク、組換え化学的に作製されたリード構造等々を使用して行われる。
【0077】
本願発明において用いられる候補物質は生体分子または化学物質、特には下記に定義されるような小型化学分子であり得る。
【0078】
発現または生物学的活性の調整剤として機能し得る生体分子の例は、ポリ及びオリゴヌクレオチドのような核酸、プリン、ピリミジン、ポリペプチド、抗体、オリゴ糖、多糖、脂質、脂肪酸、ステロイド若しくは構造的アナログ、それらの断片若しくは誘導体、並びに/またはそれらの組合せである。
【0079】
発現の調整剤の例は、例えば、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸の転写及び/または翻訳の転写活性剤若しくは阻害剤であるか、または転写活性剤若しくは阻害剤特異的効果を有する、マイクロRNA、siRNA、若しくはその他の当業者に知られるRNA干渉(RNAi)の分子、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、アンチセンス核酸、PNA、アパトマー、またはリボザイムである。発現の調整剤は修飾されていてもよい。
【0080】
生物学的活性の調整剤の例は、例として天然に存在する若しくは非天然アミノ酸を含み、そして個々のアミノ酸鎖として若しくはマルチマー分子として存在する、任意の長さのアミノ酸のポリマー形(例えば、ポリペプチド、蛋白質);アミノ酸アナログ、修飾された若しくは誘導体化されたアミノ酸を包含するポリペプチド;環状若しくは二員環状ペプチドバックボーンのポリペプチド;融合蛋白質、デプシペプチド、PNA、または偽ペプチドである。生物学的活性の調整剤は修飾されていてもよい。
【0081】
生物学的活性の調整剤はまた蛋白質の結合特性に対し作用を有するものでもよい。
【0082】
生物学的活性の好ましい調整剤は、細胞中の酸化ストレスと関連して調節され、そして抗体と結合する蛋白質の生物学的活性にアゴニスティック、アンタゴニスティックまたは中和的に作用する、例えばポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のような抗体である。好ましくは、抗体はヒト由来であるかまたはヒト化されている。好ましくは、本願発明の調整剤として作用する抗体は次のドメインの少なくとも1つを包含する:免疫グロブリンの可変領域、免疫グロブリンの定常領域、免疫グロブリンの重鎖、免疫グロブリンの軽鎖、及び免疫グロブリンの抗原結合領域。
【0083】
生物学的活性の調整剤はさらに、細胞中の酸化ストレスと関連して調節される蛋白質の抗原またはエピトープに特異的に結合する抗体の活性断片を含む。活性断片は、Fab断片、Fc断片、重鎖または軽鎖の可変領域の断片であり得る。
【0084】
生物学的活性の調整剤はさらにまた、細胞中の酸化ストレスと関連して調節される蛋白質のリガンドに特異的に結合し、それによりリガンドの活性を調整する抗体またはその活性断片を包含する。
【0085】
細胞中の酸化ストレスと関連して調節される蛋白質の生物学的活性の調整剤は、治療用及び/または予防用作用物質と結合されていてもよい。この結合は共有結合であり得る。好適な作用物質は例えば、放射性アイソトープ、非特異的抗酸化剤、凝集阻害剤、及び神経生長因子である。
【0086】
細胞中の酸化ストレスと関連して調節される核酸の発現の調整剤、またはこれらの核酸によりコードされる蛋白質の生物学的活性の調整剤である化学物質の例は、全ての化学的分類の化学物質;合成、半合成若しくは天然、非生物的若しくは生物的分子;小分子若しくは巨大分子複合体;または、リチウムのような金属因子;または気体である。上述の小型化学分子の例は、少なくとも約30ダルトンで、約5000ダルトンよりも少ない分子量の小型の有機結合物である。
【0087】
核酸または蛋白質との相互作用、特には水素架橋結合による相互作用のため、調整剤として作用する化学物質及び小型化学分子は以下の官能基の少なくとも1つを持つことがきる:水酸基、アミノ基、イミン基、カルボキシル基、またはカルボニル基。調整剤として作用する化学物質及び小型化学分子はさらに、少なくとも1個の上述した官能基により置換されている、単環状若しくは多環状炭素構造またはヘテロ環構造であるか、それらの構造を持っていてもよく、且つ/または、芳香族若しくは多芳香族構造であるかそれらの構造を持っていてもよい。
【0088】
好ましい実施形態においては、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される蛋白質の生物学的活性を調整する作用物質は、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される蛋白質と結合するものである(所謂「結合剤」)。このような結合剤を同定するためには、好ましくは、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される蛋白質、特には配列番号:64から113に示す配列を持つ蛋白質、またはそれらの誘導体、バリアント、ホモログ若しくは断片を包含する蛋白質チップが使用される。
【0089】
本願発明のさらなる態様は、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸の発現、またはこれらの核酸によりコードされる蛋白質の生物学的活性を調整する治療用及び/または予防用作用物質を同定する本願発明の方法を実施するためのキットであり、当該キットは、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸を発現する、少なくとも1個の細胞を包含する。好ましくは細胞は、配列番号:1から63に示す配列を持つ核酸、並びに、そのホモログ、誘導体、バリアント及び断片の内の1つまたはそれ以上を包含する。
【0090】
本願発明の方法において用いられる、好ましくは配列番号:1から63の配列を持つかまたはそのホモログ、誘導体、バリアント若しくは断片である、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸、または、酸化ストレスと関連して調節される蛋白質をコードする核酸は、効果的な発現、即ち宿主細胞並びに/または宿主生物において転写及び/若しくは翻訳を可能ならしめる調節的な制御因子と機能的に結合されていてもよい。調節的な制御因子は、技術水準として当業者に知られているように、例えば構成的プロモーター、誘導プロモーター、細胞または組織特異的プロモーターである。その他の調節的な制御因子はターミネーター配列及びポリアデニル化シグナル配列である。調節的な制御配列と機能的に結合された核酸は、例えば、プラスミド、コスミド、ファージミド、ウイロイド、ウイルス、好ましくはアデノウイルス及びバキュロウイルスのようなベクターに存在し得る。さらに、調節的な制御配列と機能的に結合された核酸は、宿主細胞及び/または宿主生物中でマーカーと共に存在してもよく、マーカーは、調節的な制御配列と機能的に結合された核酸と一緒の1つのベクター上に存在しても、またはこのベクターとは区別される2つ目のベクター上に存在していてもよい。後者の場合、マーカーの存在するベクターは、調節的な制御配列と機能的に結合された核酸の存在するベクターと共に、宿主細胞または宿主生物に導入される。
【0091】
本願発明はさらに、好ましくは配列番号:1から63の配列を持つかまたはそのホモログ、誘導体、バリアント若しくは断片である細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸、または、酸化ストレスと関連して調節される蛋白質をコードする核酸の、遺伝子導入細胞及び非ヒト生物、好ましくは遺伝子導入非ヒト哺乳動物を作製における使用に関する。
【0092】
本願発明のさらなる態様は、好ましくは配列番号:1から63の配列を持つかまたはそのホモログ、誘導体、バリアント若しくは断片である細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される少なくとも1つの組換え核酸、または、酸化ストレスと関連して調節される蛋白質をコードする少なくとも1つの組換え核酸を包含する細胞であり、組換え核酸は調節的な制御因子と機能的に結合されている。
【0093】
本願発明のさらなる態様は、好ましくは配列番号:1から63の配列を持つかまたはそのホモログ、誘導体、バリアント若しくは断片である細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される少なくとも1つの組換え核酸、または、酸化ストレスと関連して調節される蛋白質をコードする少なくとも1つの組換え核酸を包含する非ヒト生物、好ましくは哺乳動物であり、組換え核酸は調節的な制御因子と機能的に結合されている。
【0094】
さらなる態様は、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸及び蛋白質の、薬剤における治療的な使用である。好ましくは、配列番号:1から113に示す配列を持つ核酸及び蛋白質、並びにそれらのホモログ、誘導体、バリアント、及び断片が使用される。
【0095】
実施例
実施例1:
NT2-N神経細胞(Andrews P.W., Dev. Biol., 103, pp 285-293, 1984; Pleasure S.J., Page C., Lee V.M.-Y., J. Neurosci., 12, pp 1802-1815, 1992)中でのMAC30-mRNAの増加は、無血清条件下、致死量以下の濃度の酸化ストレス剤ハロペリドール(Sigma社;カタログ番号H-1512)を細胞に慢性的に処置した後の、蛍光標識したcDNAを使用したマイクロアレイ分析により証明された。細胞の至適生存率に適した条件は、生存/死-生存能力/細胞毒性試験(Molecular Probes社)により、生産者の手引書に従って突き止めた。1.0〜25μMの濃度範囲の酸化ストレス剤の場合、二次元ゲル電気泳動またはDNAマイクロアレイによる発現プロファイリング実験のための試料採取時から3日目以降、75%以上の神経細胞が生存していた。細胞に対する影響をさらに特徴付けるため、ROS及びRNS量、並びに細胞の酸化還元状態を突き止めた。総細胞-ROS算定のため、2’,7’-ジクロロジヒトロフルオレセイン二酢酸(Sigma社、カタログ番号D6883)を投入した。10cmシャーレの細胞がPBS中で掻き取られ、5μM DCFDAアリコットで置換し、37℃において1時間インキュベートした。続いて、細胞を超音波によりホモジェナイズし、遠心し(20分間、4℃、20,000×g)、そして上清の蛍光を測定した。標準としてDCFを使用した。全てのデータは蛋白質濃度により標準化した。ROSの相対的な増加は、コントロールと比べて計算した。さらに、ジヒドロエチジウム(DHE;Sigma社、カタログ番号D7008)の助けによりROSを決定した。削り取った細胞のアリコットを5μM DHEにより置換し、1時間、37℃でインキュベートし、DCFDA工程と同様に処理し、そして上清の蛍光を決定した。蛋白質により換算したミトコンドリアのROSの変化を未処理コントロールとの比較で計算した。
【0096】
種々の実験において投入したハロペリドール濃度は1.0〜25μMの間であった。ストレス剤濃度はしかしながら示された範囲より高くても低くてもよい。
【0097】
MAC30-mRNAの増加は、SYBR-グリーン1による蛍光標識を用いた定量リアルタイムRT-PCR(qRTRTPCR)分析により定量することができる。8日間の処理により細胞は50%またはそれ以上の増加に達し得、そしてより長い処理により200%またはそれ以上に到達し得る。qRTRTPCRによるMAC30 mRNAの分析では、

及び

のPCRプライマー対が投入された。このプライマー対により、69個のアミノ酸長のポリペプチドをコードする配列を持つcDNA断片が増幅された(アクセッション番号NP_055388及びAAH45655)。このプライマー対によりまた、176個のアミノ酸長のポリペプチドをコードする配列を持つcDNA断片も増幅された(アクセッション番号AAH91504)。それに加え、このプライマー対により、189個のアミノ酸長のポリペプチドをコードする配列を持つcDNA断片が増幅された(アクセッション番号AAA16188)。これらの断片は、最後の1個のアミノ酸置換についてまでも同一である同じ蛋白質からの異なる長さの一部分である。異なる長さは、NP_055388及びAAH45655 では配列変異により後に生じた最初のATG開始コドンの異なる位置に起因する。AAA16188の場合では、オープンリーディングフレーム(ORF)はATGを持たない配列の最初のコドンで始まる。対照的にAAH91504では、この配列の最初のATGが使用されている。このプライマー対により、さらに異なる長さのMAC30蛋白質をコードし、そして少なくとも50%の類似性を示すその他のmRNAが実証され得る。
【0098】
実施例2:
NT2-N神経細胞中のBRI3-mRNAの増加は、蛍光標識されたcDNAを使用して、マイクロアレイ分析により、ハロペリドール処理後に実証された(実施例1に記載されたように)。この増加は、SYBR-グリーン1による蛍光標識を用いた定量的リアルタイムRT-PCR(qRTRTPCR)により定量され得る。処理3日後に増加を確認できる。8日間の細胞処理では、既に40%またはそれ以上の増加に達し、そして、さらに長い処理では200%またはそれ以上に到達し得る。qRTRTPCRによるBRI3 mRNAの分析には、

及び

のPCRプライマー対が適する。このプライマー対により、125個のアミノ酸長のポリペプチドのためのコード領域を持つcDNA-BRI3断片が増幅された。
【0099】
実施例3:
NT2-N神経細胞中のG1P3-mRNAの増加は、蛍光標識されたcDNAを用いたマイクロアレイ分析により、ハロペリドール処理後に実証され得る(実施例1に記載されたように)。この増加は、SYBR-グリーン1による蛍光標識を用いた定量的リアルタイムRT-PCR(qRTRTPCR)により定量された。3日後に既に明らかな増加が、8日間の処理では50%またはそれ以上、そしてより長い処理では400%までに達し得る増加が検出できる。qRTRTPCRによるG1P3 mRNAの分析には、

及び

のPCRプライマー対が適する。このプライマー対により、134個のアミノ酸長のポリペプチドのためのコード領域を持つcDNA断片が増幅され得る。このプライマー対によってまた、138個のアミノ酸長のポリペプチドのためのコード領域を持つcDNA断片が増幅された。さらにこのプライマー対によってはまた、130個のアミノ酸長のポリペプチドのためのコード領域を持つcDNA断片が増幅された。この違いは、コード領域中の転写長におけるわずかなバリエーションにより説明され得る。
【0100】
実施例4:
NT2-N神経細胞中のLOC222171-mRNAの増加は、蛍光標識されたcDNAを用いたマイクロアレイ分析により、ハロペリドール処理後に実証され得る(実施例1に記載されたように)。この増加は、SYBR-グリーン1による蛍光標識を用いた定量的リアルタイムRT-PCR(qRTRTPCR)により定量された。15日間のハロペリドール処理後には、50%またはそれ以上に達し、そしてより長い処理によりさらに増大し得る、明らかな増加が検出される。qRTRTPCRによるLOC222171 mRNAの分析には、

及び

のPCRプライマー対が適する。このプライマー対により、129個のアミノ酸長のポリペプチドのためのコード領域を持つcDNA断片が増幅され得る。
【0101】
実施例5:
NT2-N神経細胞中のCUEDC1-mRNAの増加は、蛍光標識されたcDNAを用いたマイクロアレイ分析により、ハロペリドール処理後に実証され得る(実施例1に記載されたように)。この増加は、SYBR-グリーン1による蛍光標識を用いた定量的リアルタイムRT-PCR(qRTRTPCR)により詳しく定量された。15日間の慢性酸化ストレス後には、30%よりも多く、そしてより長い処理によりさらに増大し得る増加が検出される。qRTRTPCRによるCUEDC1 mRNAの分析には、

及び

のPCRプライマー対が適する。このプライマー対により、386個のアミノ酸長のポリペプチドのためのコード領域を持つcDNA断片が増幅され得る。このプライマー対によってはまた、358個のアミノ酸長のポリペプチドのためのコード領域を持つcDNA断片が増幅され得る。2つのポリペプチドが検出できる能力は、AK000977がコード領域中に欠失を持ち、それにより、それ以外の点では他方の一次構造から47番目のアミノ酸における保存的アミノ酸置換によってしか区別されない、28アミノ酸短いポリペプチドを生成することによる。
【0102】
実施例6:
NT2-N神経細胞中のNPC2-mRNAの増加は、蛍光標識されたcDNAを用いたマイクロアレイ分析により、ハロペリドール処理後に実証された(実施例1に記載されたように)。この増加は、SYBR-グリーン1による蛍光標識を用いた定量的リアルタイムRT-PCR(qRTRTPCR)により定量された。未処理の神経細胞と比べて、3日間の処理後には既に明らかなNPC2-mRNAの増加が検出される。15日間の致死量以下の慢性酸化ストレス後には、増加は50%またはそれ以上となり、そしてより長い処理によりさらに増大し得る。qRTRTPCRによるNPC2-mRNAの分析には、

及び

のPCRプライマー対が適する。このプライマー対により、151個のアミノ酸長のポリペプチドのためのコード領域を持つcDNA断片が増幅された。このプライマー対によってまた、最初に述べたポリペプチドとは2個の保存的アミノ酸置換により区別される、151個のアミノ酸長のポリペプチドのためのコード領域を持つcDNA断片が増幅された。
【0103】
実施例7:
ハロペリドールによりNT2-N神経細胞を(実施例1に記載されたように)処理した後のSCD-mRNAの増加は、蛍光標識されたcDNAを用いたマイクロアレイ分析により実証された。この増加は、SYBR-グリーン1による蛍光標識を用いた定量的リアルタイムRT-PCR(qRTRTPCR)により定量された。15日間の処理後には、未処理の神経細胞と比べて、50%またはそれ以上のSCD-mRNAの増加が検出される。qRTRTPCRによるSCD-mRNAの分析には、

及び

のPCRプライマー対が適する。このプライマー対により、359個のアミノ酸長のポリペプチドのためのコード領域を持つcDNA断片が増幅された。このプライマー対によってまた、366個のアミノ酸長のポリペプチドのためのコード領域を持つcDNA断片が増幅された。このプライマー対によってさらにまた、355個のアミノ酸長のポリペプチドのためのコード領域を持つcDNA断片が増幅された。このプライマー対によってさらに、237個のアミノ酸長のポリペプチドのためのコード領域を持つcDNA断片が増幅された。
【0104】
実施例8:
ハロペリドールによりNT2-N神経細胞を(実施例1に記載されたように)処理した後のIDI1蛋白質(IDI1=イソペンテニル二リン酸デルタイソメラーゼ1;=イソペンテニル二リン酸ジメチルアリール二リン酸イソメラーゼ1)の増加は、2次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動、及び続いての蛋白質スポットの質量分析同定により実証された。ハロペリドールによる15日間の処理の間、IDI1蛋白質の量は、30%またはそれ以上増加する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性疾患の処置及び/若しくは予防、または変性疾患の同定、監視、疫病分類学的分類、診断、予後判定及び治療のための治療用及び予防用作用物質の同定における、核酸または該核酸によりコードされる蛋白質の使用であって、該核酸及び/または蛋白質が、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節されるものである、使用。
【請求項2】
核酸及び蛋白質がそれぞれ、配列番号:1〜63及び配列番号:64〜113に示す配列を持つか、またはそのホモログ、誘導体、バリアント若しくは断片である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記変性疾患が神経変性疾患である、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
前記神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病のようなレビー小体病、汎発性レビー小体病、ハンチントン病、筋萎縮側索硬化症(ALS)、プリオン病(PrD)、クロイツフェルト・ヤコブ病、ダウン症候群、フロントテンポラーレ痴呆(FTD)、皮質基底核変性症、多発脳梗塞性痴呆、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症、及びコルサコフ症候群である、請求項3記載の使用。
【請求項5】
a)細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸を発現する細胞を調製する工程;
b)該細胞を候補物質と接触させる工程;及び
c)細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸の発現を、候補物質が添加されなかった場合の、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸の発現と比較する工程
を包含する、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸及び/または蛋白質の発現を調整する、治療用及び/または予防用作用物質の同定方法であって、
細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸の発現の変化が、候補物質が、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸の調整剤であることを示す、方法。
【請求項6】
a)細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される蛋白質を含む細胞を調製するか、または、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される少なくとも1つの蛋白質を担体材料上に固定する工程;
b)該細胞または担体材料上の蛋白質を候補物質と接触させる工程;及び
c)細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される蛋白質へ結合した候補物質の量を、表面プラズモン共鳴、FRET、定量HPLC、バイオアッセイ及び質量分析のような生物物理学的方法により検出する工程
を包含する、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される蛋白質の生物学的活性を調整する、治療用及び/または予防用作用物質の同定方法であって、
結合が、潜在的モジュレーターであることを示す、方法。
【請求項7】
細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸の発現、またはこれらの核酸によりコードされる蛋白質の生物学的活性を調整する、治療用及び/または予防用作用物質を同定する請求項5または6記載の方法を行うためのキットであって、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸を発現する、少なくとも1個の細胞を包含する、キット。
【請求項8】
a)試料より核酸を分離する工程;
b)リニア増幅のために、cDNAを製造、または場合によりcRNAを事前合成する工程;
c)細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される遺伝子に対して向けられたオリゴヌクレオチドを加え、そして続いて工程b)のcDNAを増幅する工程、及び
d)工程c)の増幅産物を分析する工程
を包含する、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸を検出及び/または分析する方法。
【請求項9】
分析が、化学的に修飾されたオリゴヌクレオチドまたは相補的核酸配列のバイオチップ上のハイブリダイゼーションを介して実施される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
a)試料より核酸を分離する工程であって、場合によってRNAが直接標識される工程;
b)細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される遺伝子に対して向けられたオリゴヌクレオチドを加え、そして続いて工程a)の分離された核酸とハイブリダイズさせる工程、及び
c)ハイブリダイズシグナルを分析する工程
を包含する、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸を検出及び/または分析する方法。
【請求項11】
a)分離された試料中で、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される少なくとも1つの蛋白質の定量を実施する工程;及び
b)細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される少なくとも1つの蛋白質の対照試料において決定された量と比較する工程であって、該対照試料が変性疾患を患う患者由来のものでない工程
を包含する、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される蛋白質の量を決定するための分析及び/または診断方法であって、
工程a)において試験された試料中の少なくとも1つの蛋白質の、対照試料中の対応する蛋白質量と比較しての増量が、変性疾患の存在または変性疾患を患うリスクを示す、方法。
【請求項12】
試料が、例えば、脳由来のもののような組織試料、または血液、唾液、血清若しくは脳脊髄液(CSF)のような体液などの生物学的試料である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
配列番号:1〜63に示す配列を持つ核酸、並びにそのホモログ、誘導体、バリアント及び断片からなる群より核酸が選択され、且つ/または、配列番号:64〜113に示す配列を持つ蛋白質、並びにそのホモログ、誘導体、バリアント及び断片からなる群より蛋白質が選択される、請求項6及び8〜12記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つのプライマー対を包含する、請求項8〜10及び13記載の方法を実施するためのキットであって、少なくとも1つのプライマー対のプライマーが、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される核酸にハイブリダイズする、キット。
【請求項15】
請求項11〜13記載の方法を実施するためのキットであって、細胞中の慢性酸化ストレスと関連して調節される蛋白質に対して特異的な、少なくとも1つのモノクローナル若しくはポリクローナル抗体、または結合剤、そして場合により、適当な対照蛋白質、並びにさらに、NMRタグ、PETプローブ、質量分析用アイソトープタグ及び/またはアプタマーを包含する、キット。
【請求項16】
配列番号:1〜63を持つ少なくとも1つの組換え核酸、またはそのホモログ、誘導体、バリアント若しくは断片を包含する細胞であって、該組換え核酸が調節的な制御因子と機能的に結合されている、細胞。
【請求項17】
配列番号:1〜63を持つ少なくとも1つの組換え核酸、またはそのホモログ、誘導体、バリアント若しくは断片を包含する非ヒトトランスジェニック生物であって、該組換え核酸が調節的な制御因子と機能的に結合されている、生物。

【公表番号】特表2009−538121(P2009−538121A)
【公表日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−505719(P2009−505719)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際出願番号】PCT/DE2007/000697
【国際公開番号】WO2007/121721
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(508312049)ニューロプロファイル ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】