説明

変速機のオイル供給装置

【課題】
組立工数や部品点数の増加を招くことなく、オイルによる撹拌抵抗を低減できるとともに、回転部材を確実に潤滑できる変速機のオイル供給装置を提供する。
【解決手段】
入力軸5,出力軸6の上方に、貯留部A及び該貯留部Aに掻き揚げオイルを誘導すると開口部B1とを有するオイルキャッチタンク(貯留部材)11を配置し、前記開口部B1に前記掻き揚げオイルを誘導するガイドプレート12を配置する。前記オイルキャッチタンク11に、貯留されたオイルを、前記入力軸5の軸芯に形成されたオイル通路5aに供給するオイル供給通路11fを接続するとともに、前記入力軸,出力軸の変速ギヤ列7aやシンクロ機構7bの噛合部に滴下させるオイル滴下孔11g,11hを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リングギヤの掻き揚げオイルにより変速機の回転部材を潤滑するようにした変速機のオイル供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リングギヤによる掻き揚げオイルにより変速機の回転部材を潤滑するようにしたオイル供給装置として、例えば特許文献1〜3に開示されたものがある。
【0003】
特許文献1では、前記掻き揚げオイルを、低速用・高速用の各々のオイルガーターで受け止めて各ギヤに供給するようにしている。
【0004】
特許文献2では、前記掻き揚げオイルを、低速用・高速用供給路によりオイル受け部に導くようにしている。
【0005】
特許文献3では、オイルキャッチタンク内に、走行時に貯留油が偏るのを防止複数する仕切板を設けて、タンク内へのオイルの充填率を高め、もって撹拌抵抗の増大を防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−190418号公報
【特許文献2】特開2003−336729号公報
【特許文献3】特開平2009−197918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に記載のものは、掻き揚げオイルを貯留する機能を備えていないため、オイルレベルを低下させることによりオイルの撹拌抵抗を低下させる効果が得られない。また低速用・高速用の別々の部材を必要とし、組立工数,部品点数が増加する問題がある。
【0008】
特許文献2に記載のものでは、オイル貯留機能を備えているものの、そのためにオイル供給路を、低速用・高速用の別部材を追加して構成しており、組立工数,部品点数が増加する問題がある。
【0009】
特許文献3では、タンク内へのオイルの充填率を高めて撹拌抵抗を低減できるものの、タンクに貯留されたオイルにより変速機のギヤやシンクロ機構部分を潤滑する点に関する開示はない。
【0010】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、組立工数や部品点数の増加を招くことなく、オイルによる撹拌抵抗を低減できるとともに、回転部材を確実に潤滑できる変速機のオイル供給装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、デファレンシャル機構のリングギヤによる掻き揚げオイルを変速機の回転部材に供給するオイル供給装置であって、前記回転部材の上方に該回転部材を覆うように配置され、前記リングギヤの回転軸方向に延びる開口部を有するとともに、前記掻き揚げオイルを前記開口部を通して貯留する貯留部を有する貯留部材を備え、該貯留部材には、前記貯留部に貯留されたオイルを、前記回転部材の軸芯に形成されたオイル通路に供給するオイル供給通路が接続されるとともに、前記回転部材に滴下させるオイル滴下孔が形成されていることを特徴としている。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載の変速機のオイル供給装置において、前記貯留部材には、前記貯留部を、前記オイル供給通路が接続された第1貯留部と前記オイル滴下孔が設けられた第2貯留部とに分離する第1分離壁と、前記開口部を、前記第1貯留部に連通する第1開口部と前記第2貯留部に連通する第2開口部とに分離する第2分離壁とが形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明に係るオイル供給装置によれば、入力軸,出力軸及び変速ギヤ列等の回転部材の上方を覆うとともに、掻き揚げオイルの貯留部と、リングギヤの軸方向に延びる開口部とを有する貯留部材を配置した。そのため、1つの簡素な構造の貯留部材により、低速走行時から高速走行時に渡って掻き揚げオイルを貯留でき、組立工数や部品点数の増加を招くことなく、オイルレベルを低下させてオイル攪拌抵抗を低減でき、ロス馬力を削減できる。
【0014】
また、前記貯留部材に、貯留されたオイルを、前記回転部材の軸芯に形成されたオイル通路に供給するオイル供給通路を接続するとともに、前記回転部材に滴下させるオイル滴下孔を形成したので、前記回転部材の軸受部及び変速ギヤ列やシンクロ機構の噛合部を確実に潤滑できる。
【0015】
請求項2の発明では、前記貯留部を、前記オイル通路へのオイル供給通路が接続された第1貯留部と前記オイル滴下孔が設けられた第2貯留部とに分離するとともに、前記開口部を、前記第1貯留部に連通する第1開口部と前記第2貯留部に連通する第2開口部とに分離した。そのため、第1開口部と第2開口部の大きさを適宜設定することにより、回転部材の軸芯ひいては軸受部へのオイル量と、変速ギヤ列やシンクロ機構の噛合部へのオイル量を調整可能であり、目標とする潤滑を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1による自動車用変速機の模式図である。
【図2】前記変速機のオイル供給装置の概略平面図である。
【図3】前記オイル供給装置の側面図である。
【図4】前記オイル供給装置のオイルキャッチタンク(貯留部材)の平面図である。
【図5】前記オイルキャッチタンクの側面図である。
【図6】前記オイルキャッチタンクの断面側面図(図4のVI-VI線断面図)である。
【図7】前記オイルキャッチタンクの断面正面図(図4のVII-VII線断面図)である。
【図8】前記オイルキャッチタンクの断面正面図(図4のVIII-VIII線断面図)である。
【図9】本発明の実施例2による変速機のオイル供給装置の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0018】
図1ないし図8は、本発明の実施例1による自動車用変速機のオイル供給装置を説明するための図である。
【0019】
図において、1は手動式の変速機であり、この変速機1は、エンジンEに接続されたクラッチケース2と、該クラッチケース2に接続された変速機ケース3と、該変速機ケース3に接続されたデフケース4とを備えている。
【0020】
前記クラッチケース2内には、クラッチ機構2aが内蔵され、変速機ケース3内には入力軸5,出力軸6及び複数の変速ギヤ列7a,7a・・を有する変速機構7が内蔵されている。
【0021】
また前記デフケース4内には、デファレンシャル機構8が内蔵されている。該デファレンシャル機構8のリングギヤ8aに前記出力軸6の出力側端部に固定されたドライブギヤ6aが噛合している。前記デファレンシャル機構8の出力軸8b,8bに車軸8c,8cを介して車輪9,9が接続されている。
【0022】
そして本実施例の変速機1は、前記デファレンシャル機構8のリングギヤ8aによる掻き揚げオイルを変速機1の回転部材、例えば入力軸5の軸芯に形成されたオイル通路5a、各変速ギヤ列7aの噛合部あるいはシンクロ機構7b等に供給するオイル供給装置10を備えている。
【0023】
前記オイル供給装置10は、前記入力軸5,出力軸6の上方に、これらの軸及び変速ギヤ列7a等を覆うように配置されたオイルキャッチタンク(貯留部材)11と、前記掻き揚げオイルを前記オイルキャッチタンク11内に誘導するガイドプレート(ガイド部材)12とを備えている。
【0024】
前記オイルキャッチタンク11は、例えば樹脂製であり、底壁11aの周縁に側壁11bを立設したものであり、大略皿状をなしている。
【0025】
前記オイルキャッチタンク11は、前記リングギヤ8aにより掻き揚げられたオイルを貯留する貯留部Aと、前記掻き揚げられたオイルを前記貯留部Aに誘導する誘導部Bとを有する。この誘導部Bには、前記側壁11bの、平面視で前記リングギヤ8aに重なる部分を切り欠くことにより開口部B1が形成されている。
【0026】
前記貯留部Aのうち、前記開口部B1ひいてはリングギヤ8aから遠い部位A1は、近い部位A2より深くなっている。換言すれば、前記底壁11aの、前記深い部位A1は浅い部位A2より下方に大きく膨出している。なお、側壁11bの前記深い部位A1に対応する部分と浅い部位A2に対応する部分は大略同じ高さに設定されている。
【0027】
また前記底壁11aには、前記貯留部Aを2つの領域に仕切る仕切壁11cが立設されている。この仕切壁11cは、リブ状をなし、前記貯留部Aを、前記浅い部位A2の前記開口部B1近傍部分から深い部位A1まで斜めに横切るように延びている。またこの仕切壁11cの、前記開口部B1側に位置する後部c1は、中央部c2より低く形成され、また前部c3は徐々に低くなるように形成されている。また仕切壁11cの先端部11c′と前記側壁11bとの間に通路となる間隔aが形成されている。
【0028】
さらにまた前記貯留部Aの浅い部位A2には、仕切壁11dが前記仕切壁11cと平行に延びるように立設されている。
【0029】
そして前記オイルキャッチタンク11の貯留部Aの深い部位A1の側壁にはオイル供給部材11eが大略水平をなすように接続されている。このオイル供給部材11eは横断面略U字形で、かつ仕切壁11iを有する樋状をなしており、前記入力軸5の先端部まで延びている。そして前記オイル供給部材11eの先端部にはオイル供給通路11fが接続されており、該オイル供給通路11fは前記貯留部A内のオイルを前記入力軸5の軸芯に形成されたオイル通路5a内に導くように構成されている。
【0030】
さらにまた前記オイルキャッチタンク11の底壁11aにはオイル滴下孔11g,11hが下方に貫通するように形成されている。前記オイル滴下孔11gは概ね入力軸5の上方に位置し、オイル滴下孔11hは概ね出力軸6の上方に位置している。これにより前記オイルキャッチタンク11内のオイルの一部が前記入力軸5,出力軸6,各変速ギヤ列7a,及びシンクロ機構7bに滴下することとなる。
【0031】
また、前記ガイドプレート12は平板状のもので、平面視で前記リングギヤ8aに重なるように、かつリングギヤ8aの大略接線方向に向けて配置されている。詳細には、前記ガイドプレート12は、その下端部12aが前記リングギヤ8aの外周面に近接し、上端部12bがオイルキャッチタンク11の前記開口部B1に近接するように配置されている。
【0032】
本実施例1では、デフケース4,変速機ケース3の底部に貯留されているオイルbが、走行時にはデファレンシャル機構8のリングギヤ8aの回転に伴って掻き揚げられ、その一部はガイドプレート12に案内されて、開口部B1から誘導部Bを通って貯留部Aに貯留される。この貯留部Aへのオイルの貯留に伴って、オイルbのオイルレベルdが低下し、リングギヤ8a等によるオイルの撹拌抵抗が小さくなり、それだけロス馬力を削減できる。
【0033】
前記リングギヤ8aからの掻き揚げオイルは、低速走行時には主に前記貯留部Aの前記仕切壁11cより手前側の部位に貯留され、走行速度が高くなるにつれて前記仕切壁11cを超えて前記貯留部Aの仕切壁11cの向こう側にも貯留される。
【0034】
そして前記貯留部Aに貯留されたオイルの一部は、前記オイル供給部材11eからオイル供給通路11fを介して入力軸5のオイル通路5a内に供給され、ここから軸受部に供給され、これを潤滑する。また前記貯留されたオイルの一部は前記オイル滴下孔11g,11hから前記入力軸5,出力軸6,各変速ギヤ列7a,及びシンクロ機構7bに滴下し、これらを潤滑する。
【0035】
このように本実施例では、オイルキャッチタンク11を、入力軸5,出力軸6の上方を覆う皿状に形成したので、1つの簡素な構造の部品により、組立工数,部品点数を削減しつつ低速走行時から高速走行時に渡ってオイルを貯留でき、撹拌抵抗を低減できる。
【0036】
またオイルキャッチタンク11に貯留されたオイルを入力軸5のオイル通路5a及び変速ギヤ列7aやシンクロ機構7bに供給することができ、潤滑性能を向上できる。特に、高速走行時には、貯留部Aの仕切壁11cの向こう側に貯留されたオイルを間隔aを通してオイル供給部材11eから前記オイル通路5aに確実に供給でき、高速走行時の潤滑性能を確保できる。
【実施例2】
【0037】
図9は本発明の実施例2に係る変速機のオイル供給装置を説明するための図であり、図中図2と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0038】
本実施例のオイルキャッチタンク11には、前記貯留部Aを、前記入力軸5のオイル通路5aにオイルを供給する第1貯留部D1と、前記変速ギヤ列7a等にオイルを供給するための第2貯留部D2に分離する分離壁11jが立設されている。
【0039】
そして前記第1貯留部D1には、前記オイル供給部材11eが連通接続されており、また前記第2貯留部D2には、前記オイル滴下孔11hが形成されている。
【0040】
さらにまた、前記誘導部B及び開口部B1を、前記第1貯留部D1に連通する第1誘導部E1と、前記第2貯留部D2に連通する第2誘導部E2に分離する分離壁11kが立設され、前記分離壁11jに接続されている。
【0041】
ここで前記開口部B1の幅寸法は、前記分離壁11kによりF1とF2に分割されている。本実施例2では、前記幅寸法F1,F2の設定により、前記入力軸5のオイル通路5aへのオイル供給量と、前記変速ギヤ列7aやシンクロ機構7bへのオイル供給量を調整可能となっている。
【0042】
このように本実施例2では、走行中には、オイルbの一部をオイルキャッチタンク11に貯留することによりオイルレベルdを低下させ、もって撹拌抵抗を低減できるとともに、前記貯留されたオイルにより入力軸5や変速ギヤ列7a等潤滑できる。さらに、前記幅寸法F1,F2の設定により、前記入力軸5のオイル通路5aひいては軸受部へのオイル供給量と変速ギヤ列7a等へのオイル供給量を最適値に調整可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 変速機
5,6 入力軸,出力軸(回転部材)
5a オイル通路
8 デファレンシャル機構
8a リングギヤ
10 オイル供給装置
11 オイルキャッチタンク(貯留部材)
11f オイル供給管(オイル供給通路)
11g,11h オイル滴下孔
11j 分離壁
A 貯留部
B1 開口部
D1 第1貯留部
D2 第2貯留部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デファレンシャル機構のリングギヤによる掻き揚げオイルを変速機の回転部材に供給するオイル供給装置であって、
前記回転部材の上方に該回転部材を覆うように配置され、前記リングギヤの回転軸方向に延びる開口部を有するとともに、前記掻き揚げオイルを前記開口部を通して貯留する貯留部を有する貯留部材を備え、
該貯留部材には、前記貯留部に貯留されたオイルを、前記回転部材の軸芯に形成されたオイル通路に供給するオイル供給通路が接続されるとともに、前記回転部材に滴下させるオイル滴下孔が形成されている
ことを特徴とする変速機のオイル供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変速機のオイル供給装置において、
前記貯留部材には、前記貯留部を、前記オイル供給通路が接続された第1貯留部と前記オイル滴下孔が設けられた第2貯留部とに分離する第1分離壁と、前記開口部を、前記第1貯留部に連通する第1開口部と前記第2貯留部に連通する第2開口部とに分離する第2分離壁とが形成されている
ことを特徴とする変速機のオイル供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−185332(P2011−185332A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49598(P2010−49598)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】