説明

変速機のパーキング装置

【課題】 変速機のパーキング装置の構造の簡素化と、組付け性、操作性及び耐久性の向上等を図る。
【解決手段】 シフトレバーのPレンジへの操作に連動して、パーキングロッド61の先端のカム部材62をパーキングポール71とサポート部材91との間に進入させ、該パーキングポール71を揺動させることにより、該パーキングポール71の爪部71bをパーキングギヤ81に係合させる構成において、変速機ケース2に前記サポート部材91を保持する嵌合部92を形成し、該サポート部材91の前記カム部材62との当接部91bと反対側の外周面91aと、前記嵌合部92の内周面92aとを第1半径R1の円筒面とし、その中心点Oを中心としてサポート部材91を所定範囲で回動可能とすると共に、前記当接部91bを、前記中心点Oを中心とし、前記第1半径R1より小さな第2半径R2の円筒面とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載される変速機のパーキング装置に関し、自動車用変速機の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車用の変速機には、例えば坂道での停車中の自重による移動を防止するため、パーキング装置が備えられることがある。このパーキング装置は、変速機の出力側の回転部材に設けられたパーキングギヤと、揺動することにより爪部が前記パーキングギヤに係合して該ギヤをロックするパーキングポールと、運転者によるシフトレバーのパーキングレンジへの操作に連動して移動することにより、先端のカム部が前記パーキングポールをパーキングギヤに係合するように押圧するパーキングロッドとを有する。
【0003】
そして、前記パーキングロッドのカム部がパーキングポールを押圧するときの反力を受け、該パーキングポールを確実にパーキングギヤに係合させると共に、その状態を保持するために、パーキングロッド先端のカム部を挟んだパーキングポールの反対側にサポート部材が設けられる。
【0004】
その場合に、特許文献1に記載されたパーキング装置では、図9に示すように、サポート部材AによってパーキングポールBがパーキングギヤCに係合するときの反力を確実に受け止めるため、該サポート部材Aは、ボルトD、Dによって変速機ケースに固定されるようになっている。
【0005】
また、このサポート部材Aの変速機ケースへの取り付け位置は、パーキングロッドEのカム部がパーキングポールBに当接して押圧する際の該ポールBの揺動位置、即ち該ポールBの爪部とパーキングギヤCとの係合状態に影響するため、サポート部材を変速機ケースに取り付ける際に、位置決めピンによって取り付け位置を規制した上で、ボルトで固定する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−326438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のように、サポート部材を変速機ケースに支持させる際、複数のボルトで固定したり、或いはボルトと位置決めピンとを併用したりすると、該サポート部材を支持するための構造が複雑化し、部品点数が増加すると共に、該サポート部材をケースに取り付けるための作業が面倒となる。
【0008】
また、上記の従来構造では、パーキングポールをパーキングギヤに係合するように押圧する際の反力が、サポート部材を支持するボルトや位置決めピンに対してせん断力や曲げ力として作用するため、該サポート部材の支持剛性が不十分となりやすく、これを解消しようとすると、部品が大型化するなどの不具合がある。
【0009】
そこで、本発明は、変速機のパーキング装置におけるサポート機構の構造に改良を加えることにより、部品点数が少なく、組付け作業性に優れ、しかも、パーキングロッドのカム部がパーキングポールに当接して押圧するときの状態を一定に維持することができて常に良好な操作性が得られると共に、サポート部材が上記反力に対して強固に支持されて、良好な操作性と高い耐久性とが得られる構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は次のように構成したことを特徴とする。
【0011】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、変速機ケース内において、車軸に連動する回転軸に設けられたパーキングギヤと、前記変速機ケースに揺動自在に支持され、爪部が前記パーキングギヤに係合することにより該ギヤをロックするパーキングポールと、カム部を有すると共に、シフトレバーの操作に連動して移動することにより、前記カム部が前記パーキングポールをパーキングギヤに係合させるように押圧するパーキングロッドと、該パーキングロッドのカム部を挟んだパーキングポールの反対側でケースに保持され、前記カム部がパーキングポールを押圧するときの反力を受け止めるサポート部材とを有する変速機のパーキング装置であって、前記変速機ケースに、前記サポート部材を保持する嵌合部が形成されていると共に、前記サポート部材におけるカム部との当接部と反対側の外周面と、該外周面を支持する前記嵌合部の内周面とが第1半径の円筒面とされ、サポート部材がこれらの円筒面の中心点を中心として所定範囲で回動が許容された状態で保持されており、かつ、前記サポート部材におけるカム部との当接部は、前記第1半径の中心点と同一位置に中心点を有し、該第1半径より小さな第2半径の円筒面とされていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の変速機のパーキング装置において、前記変速機ケースに、前記パーキングロッドのカム部の移動をガイドするガイド部材が固着されていると共に、該ガイド部材は、前記サポート部材の変速機ケース内方側の端面を押えて、該サポート部材の嵌合部からの脱落を阻止するように構成されていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項2に記載の変速機のパーキング装置において、前記サポート部材の端面に、所定範囲の回動を許容する状態で前記ガイド部材が係合する段付部が形成されていることを特徴とする。
【0014】
さらに、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の変速機のパーキング装置において、シフトレバーの操作に連動して前記パーキングロッドを移動させるディテントプレートが備えられ、前記ガイド部材に、該ディテントプレートと協働してシフトレバーの位置決め機構を構成するディテントスプリングが取り付けられていることを特徴とする。
【0015】
そして、請求項5に記載の発明は、前記請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の変速機のパーキング装置において、前記パーキングロッドのカム部は、パーキングポールのほぼ揺動面内で移動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
次に、前記各請求項に記載の発明の効果を説明する。
【0017】
まず、請求項1に記載の発明によれば、サポート部材は、変速機ケースに設けられた嵌合部に嵌合されて保持されるが、該サポート部材におけるカム部との当接部の反対側の外周面と、該外周面を支持する前記嵌合部の内周面とは、半径がいずれも第1半径の円筒面とされているので、これらの円筒面が対接した状態でサポート部材が嵌合部に保持されることになる。
【0018】
そして、この状態でサポート部材は嵌合部内で所定範囲で回動が許容されているので、該サポート部材の変速機ケースへの組付け時、単に嵌合部へ嵌め込むだけでよく、所定位置に正しく保持して組み付ける場合に比較して組付けが容易となり、また、位置決めピンによる位置決めや、ボルトによる固定等も不要となり、さらに組付け作業が容易化されると共に、部品点数が削減されることになる。
【0019】
また、サポート部材におけるカム部との当接部は、前記第1半径の中心点を中心とする第2半径の円筒面とされているので、カム部材がパーキングポールを押圧するときにサポート部材が前記範囲内で回動しても、該サポート部材におけるカム部との当接位置は、変速機ケースを基準として常に一定の位置に維持されることになる。
【0020】
したがって、カム部がパーキングポールを押圧する際、カム部は常に所定の位置でサポート部材に反力を受け止められることになり、その結果、カム部材がパーキングポールを押圧する位置、タイミング、押圧荷重の大きさや方向などが安定し、常に良好な操作性が確保されることになる。
【0021】
さらに、該カム部からサポート部材に入力される反力は直接該サポート部材の外周面に伝達され、該外周面に対接する嵌合部の大きな第1半径の内周面により、広い範囲で受け止められることになる。したがって、サポート部材が強固に支持されることになる。これにより、パーキングポールをパーキングギヤに係合させる際の良好な操作性や、これらの優れた耐久性が得られることになる。
【0022】
また、請求項2に記載の発明によれば、サポート部材の変速機ケース内方側の端面を押えて、該サポート部材の嵌合部からの脱落を阻止する部材が、パーキングロッドのカム部をガイドするガイド部材を兼用して構成されるので、部品点数の増加を招くことなく、サポート部材の確実な保持が図られることになる。
【0023】
その場合に、請求項3に記載の発明によれば、前記サポート部材の端面に設けられた段付部に前記ガイド部材が係合することにより、サポート部材が保持されることになるが、その際、前記段付部とガイド部材との係合部の寸法関係を適切に設定することにより、サポート部材の回動を許容する範囲を容易に設定することが可能となり、回動許容範囲の設定のための構造を別途設ける必要がなく、構成の複雑化が抑制される。
【0024】
さらに、請求項4に記載の発明によれば、前記ガイド部材にシフトレバーの位置決め機構を構成するディテントスプリングが取り付けられるので、このディテントスプリングを取り付けるための部材を別途備える必要がなく、これによっても構成の複雑化が抑制されることになる。
【0025】
そして、請求項5に記載の発明によれば、パーキングロッドのカム部がパーキングポールの揺動面にほぼ沿って移動するので、該カム部がパーキングポールを押圧するときに、押圧力の方向がパーキングポールの揺動面にほぼ沿うことになり、該パーキングポールに揺動方向の力以外の分力が作用することが抑制されて、該パーキングポールが円滑に動作することになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態に係る変速機の要部縦断面図である。
【図2】図1のA矢視による位置決め機構及びパーキング機構の平面図である。
【図3】図2のB矢視による位置決め機構及びパーキング機構の正面図である。
【図4】カム部材の構成を示す拡大断面図である。
【図5】サポート部材の拡大図である。
【図6】図5のC−C線に沿う断面図である。
【図7】パーキング機構の作動初期の状態の説明図である。
【図8】同、作動完了後の状態の説明図である。
【図9】パーキング装置の従来例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0028】
図1は、フロントエンジン・フロントドライブ車用の変速機の概略の断面構造を示すもので、この変速機1は、エンジンの出力軸(図示せず)と同軸上に配置されたプライマリシャフト10と、該シャフト10の後方斜め上方に配置されたセカンダリシャフト20と、該シャフト30の後方斜め下方に軸線が配置された差動装置30とを有する。
【0029】
そして、エンジンの出力が、プライマリシャフト10上の変速機構11により運転状態に応じて変速された上で、出力ギヤ12からセカンダリシャフト20上の第1ギヤ21に伝達され、さらに該シャフト20上の第2ギヤ22から前記差動装置30のリングギヤ31に伝達され、該差動装置30を介して左右の車軸32、32(一方のみ図示)に伝達されるようになっている。
【0030】
また、この変速機1には、運転者のシフトレバー(図示せず)の操作に連動するマニュアル操作機構40が備えられている。
【0031】
このマニュアル操作機構40は、変速機ケース2に回動自在に支持されたマニュアルシャフト41を有し、該シャフト41の上端のブラケット42にシフトレバー(図示せず)から導かれたケーブル43が連結されている。そして、シフトレバーの操作により、ケーブル43およびブラケット42を介してマニュアルシャフト41が回動し、下端部に設けられたバルブ操作部材44が、変速機ケース2の下部に配置された油圧コントロールユニット3におけるマニュアルバルブ(図示せず)を操作することにより、シフトレバーによって選択されたレンジに応じた油圧制御が実行される。
【0032】
また、該マニュアル操作機構40には、シフトレバーないしマニュアルシャフト41を各レンジ位置で位置決めするための位置決め機構50が備えられている。この位置決め機構50は、図2、図3に示すように、マニュアルシャフト41に取り付けられて該シャフト41と一体的に回動するディテントプレート51と、変速機ケース2にボルト52、53を用いて取り付けられ、後述するパーキング機構60におけるカム部材62のガイド部材を兼ねるブラケット54と、該ブラケット54に基端部が固着され、先端部にローラ55が取り付けられたディテントスプリング56とで構成されている。
【0033】
そして、シフトレバーないしマニュアルシャフト41の各レンジ位置で、前記ローラ55がディテントプレート51の各レンジに対応する凹部51a、51b…のいずれかに弾力的に係合することにより、シフトレバーないしマニュアルシャフト41が当該レンジ位置で位置決めされるようになっている。なお、図2はパーキングレンジの位置に位置決めされている状態を示す。
【0034】
さらに、このマニュアル操作機構40には、シフトレバーがパーキングレンジに操作されたときに前記差動装置30を介して車軸32、32を固定するパーキング機構60が設けられている。
【0035】
このパーキング機構60は、図2、図3に示すように、主たる構成要素として、パーキングロッド61と、パーキングポール71と、パーキングギヤ81とを有し、このうち、パーキングロッド61は、後端部61aが前記位置決め機構50のディテントプレート51に係止され、図2に鎖線で示す位置から、シフトレバーの操作による該ディテントプレート51のパーキングレンジ位置への回動により、矢印a方向に移動するようになっている。
【0036】
また、このパーキングロッド61の先端部には、カム部材62が設けられている。このカム部材62は、図4に示すように、中央部の円錐部62aと、これに続く後端側の円筒部62bとを有し、前記パーキングロッド61の先端部に摺動可能に嵌合されていると共に、該ロッド61の先端に固着されたストッパ63に当接する位置まで、スプリング64により前方へ付勢されている。そして、パーキングロッド61がa方向に移動するときに、前記ガイド部材(ブラケット)54がカム部材62を前方へガイドするようになっている。
【0037】
一方、前記パーキングポール71は、図2、図3に示すように、後端部が支軸72を介して変速機ケース2に揺動自在に連結され、前記パーキングロッド61の先端部のカム部材62側に延びて、先端部71aが該カム部材62の直下方に位置するように設けられている。
【0038】
また、図3に示すように、このパーキングポール71は、中央部をピン73に支持され、一端が前記ガイド部材54を変速機ケース2に固定するボルト53に係止され、他端が該パーキングポール71に係止されたスプリング74により、先端部71aがb方向に付勢され、前記カム部材62の下面に当接するようになっている。
【0039】
また、このパーキングポール71の中間部には下方に突出する爪部71bが設けられ、図1に示すセカンダリシャフト20の第1、第2ギヤ21、22の間に固着されたパーキングギヤ81の上部歯面を臨んでいる。そして、図示のように、反b方向に揺動したときに、該爪部71bがパーキングギヤ81のいずれかの歯と歯の間の谷部81aに係合し、該ギヤ81の回転を阻止するようになっている。
【0040】
さらに、このパーキング機構60には、上記カム部材62を挟んでパーキングポール先端部71aの反対側、即ちカム部材62の上方にサポート部材91が備えられ、図5、図6に示すように、変速機ケース2の内面の肉盛部2aに設けられた嵌合部92内に嵌合保持されている。
【0041】
このサポート部材91の上部外周面91aは大きな半径R1の円筒面とされていると共に、前記嵌合部92の上部内周面92aも同一半径R1の円筒面とされ、該サポート部材91が嵌合部92内で、前記半径R1の中心点Oを中心として回動可能に保持されている。
【0042】
また、該サポート部材91の下部には、前記カム部材62と当接する角状の当接部91bが設けられており、この当接部91bの外周面は、前記半径R1の中心点Oに中心を有する小さな半径R2の円筒面とされている。
【0043】
そして、このサポート部材91の変速機ケース2内を臨む端面の前方を、前記ガイド部材54が横切っており、これにより、該サポート部材91の前記嵌合部92からの脱落が阻止されている。
【0044】
その場合に、前記サポート部材91の端面には、上部を下部より変速機ケース内方へ突出させる段付面91cが設けられており、該段付面91cと前記ガイド部材54の上端面54aとが対向するように配置されていると共に、ガイド部材54を変速機ケース2に固着した状態で、前記段付面91cと上端面54aとの間に隙間xが生じるように、寸法関係が設定されており、その隙間xの範囲で、サポート部材91が嵌合部92内で回動を許容されるようになっている。
【0045】
次に、この実施形態の作用を説明する。
【0046】
シフトレバーがパーキングレンジに操作されると、マニュアルシャフト41および該シャフト41に固着されたディテントプレート51が所定位置へ回動し、ディテントスプリング56の先端に備えられたローラ55がディテントプレート51に設けられたパーキングレンジ用凹部51aに係合することにより、マニュアルシャフト41およびディテントプレート51が所定位置に位置決めされる。
【0047】
このとき、後端部61aがディテントプレート51に係止されたパーキングロッド61が図2、図3に示すa方向に移動し、これに伴って該ロッド61の先端に設けられたカム部材62もa方向に移動する。そして、図7に示すように、まず該カム部材62の中央部の円錐部62aが、下方に位置するパーキングポール71の先端部71aに当接すると共に、上方に位置するサポート部材91の下部の当接部91bに当接する。
【0048】
そして、この状態から、パーキングロッド61のa方向の移動に伴い、カム部材62もさらに同方向に移動すると、該カム部材62は、円錐部62aの上面がサポート部材91の当接部91bに摺接しながら前進することにより、該カム部材62の円錐部62aの下面が前記パーキングポール71の先端部71aを下方に押圧し、該パーキングポール71をスプリング74の付勢力に抗して下方(b’方向)に揺動させる。
【0049】
このとき、図8に示すように、該パーキングポールの爪部71bが、下方に位置するパーキングギヤ81のいずれかの歯と歯の間の谷部81aに係合すると共に、カム部材62の後部の円筒部62bが、パーキングポール71の先端部71aとサポート部材91の当接部91bとの間に入り込み、パーキングポール71を爪部71bがパーキングギヤ81の谷部81aに係合した状態に保持する。
【0050】
これにより、該パーキングギヤ81の回転が阻止されると共に、これに伴い、図1に示すセカンダリシャフト20、および該シャフトの第2ギヤ22にリングギヤが噛み合っている差動装置30、並びに左右の車軸32,32がいずれも回転を阻止されることになり、当該自動車が停車状態にロックされる。
【0051】
ここで、上記パーキングポール71が下方に揺動したとき、爪部71bの直下方にパーキングギヤ81の歯が位置すると、該爪部71bが谷部81aに係合できないことになり、カム部材62の円錐部62aは、下方への揺動が阻止されたパーキングポール71の先端部71bと、サポート部材91の当接部91bとの間に食い込み、前進不能状態となる。このとき、図7に鎖線で示すように、カム部材62を前方に付勢しているスプリング64が縮んで、パーキングロッド61のみが前進することにより、シフトレバーの操作ないしマニュアルシャフト41の回動が妨げられることはない。
【0052】
そして、自動車が移動し始めたときに、パーキングギヤ81が回動して、該ギヤ81の歯とパーキングポール71の爪部71bの位置がずれたときに該爪部71bが谷部81aに係合し、その時点でパーキングギヤ81の回動、即ち自動車の移動が阻止されることになる。
【0053】
ところで、以上のように、パーキングロッド61の先端のカム部材62が、スプリング74の付勢力に抗してパーキングポール71の先端部71aを下方に押圧するとき、その反力を該カム部材62の上方に位置するサポート部材91が支えることになるが、このサポート部材91は、端面の段付面91cとガイド部材54の上端面54aとの間に設けられた隙間x該分だけ、嵌合部92内で中心点Oを中心として回動可能とされているので、当接部91bに作用するカム部材62との摺動摩擦により、多少回動することになる(図8の矢印c参照)。
【0054】
このとき、前記当接部91bは、該サポート部材91の回動中心となる前記中心点Oを中心とする半径R2の円筒面とされているので、該サポート部材91が嵌合部92内で回動しても、当接部91bにおけるカム部材62との当接位置は、変速機ケース2を基準として常に一定の位置に維持されることになる。
【0055】
したがって、サポート部材91とパーキングポール71との間に進入するカム部材62が、該サポート部材91によって常に所定の位置で反力を受け止められ、これに伴い、該カム部材62がパーキングポール71を押圧する位置、タイミング、押圧荷重の大きさ方向などが安定することになり、常に良好なパーキング機構の操作性が確保されることになる。
【0056】
また、カム部材62からサポート部材91に入力される反力は直接該サポート部材91の外周面91aに伝達され、該外周面91aに対接する嵌合部92の内周面92aに受け止められることになるが、この外周面91aと内周面92aは大きな半径R1の円筒面とされているから、前記反力が広い範囲で受け止められ、したがって、サポート部材91が嵌合部92ないし変速機ケース2に強固に支持されることになる。これにより、パーキング機構60の良好な操作性と耐久性とが得られることになる。
【0057】
そして、サポート部材91が嵌合部92から脱落するのを阻止する部材は、パーキングロッド61の移動時に先端のカム部材62をガイドするガイド部材54によって構成されるので、部品点数の増加を招くことなく、サポート部材91の保持が図られることになり、また、このガイド部材54を利用して、位置決め機構50のディテントスプリング56が支持されているので、これによっても部品点数の増大が抑制されている。
【0058】
また、前記サポート部材91の端面に設けられた段付面91cと前記ガイド部材54の上端面54aとの間に隙間xが生じるように、これらの寸法関係が設定されて、これによりサポート部材91の回動が所定範囲で許容されるようになっているから、その許容範囲が、専用の手段を用いることなく、容易に設定されることになる。
【0059】
さらに、サポート部材91を変速機ケース2の嵌合部92に嵌め込んだ状態で、ボルト52、53によりガイド部材54を変速機ケース2に取り付けるときに、前記隙間xの存在により、該サポート部材91の位置を所定位置に精度よく保持する必要がなく、組み付け作業が容易化されると共に、この隙間xにより、ガイド部材54の寸法誤差や、変速機ケース2におけるボルト52,53のねじ穴の位置の誤差などが吸収されることにより、これらの部品の寸法精度に余裕が生じ、高い精度が要求される場合に比べて製造が容易化される。
【0060】
なお、以上の実施形態では、パーキングロッド61の移動方向、即ちカム部材が62がパーキングポール71とサポート部材91との間に進入する際の方向が、該パーキングポール71の揺動面にほぼ沿っているので、カム部材62がパーキングポール71を押圧する押圧力の方向が該パーキングポール71の揺動面にほぼ沿うことになり、したがって、パーキングポール71に揺動方向以外の方向の分力が作用することが抑制され、該パーキングポール71が円滑に動作することになる。
【0061】
一方、このような構成とは別に、パーキングロッドの移動方向、即ちパーキングポールとサポート部材との間へのカム部材の進入方向を、該パーキングポールの揺動面と交差する方向に設定してもよく、この場合、サポート部材は、カム部材の進入方向にほぼ沿った面で回動するように構成される。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上のように、本発明によれば、変速機のパーキング装置の構造、組立が簡素化される共に、良好な操作性や耐久性が得られることになり、この種の変速機を搭載する自動車の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0063】
50 位置決め機構
51 ディテントプレート
54 ガイド部材
56 ディテントスプリング
60 パーキング機構
61 パーキングロッド
62 カム部材
71 パーキングポール
81 パーキングギヤ
91 サポート部材
91a 外周面
91b 当接部
92 嵌合部
92a 内周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機ケース内において、車軸に連動する回転軸に設けられたパーキングギヤと、前記変速機ケースに揺動自在に支持され、爪部が前記パーキングギヤに係合することにより該ギヤをロックするパーキングポールと、カム部を有すると共に、シフトレバーの操作に連動して移動することにより、前記カム部が前記パーキングポールをパーキングギヤに係合させるように押圧するパーキングロッドと、該パーキングロッドのカム部を挟んだパーキングポールの反対側でケースに保持され、前記カム部がパーキングポールを押圧するときの反力を受け止めるサポート部材とを有する変速機のパーキング装置であって、前記変速機ケースに、前記サポート部材を保持する嵌合部が形成されていると共に、前記サポート部材におけるカム部との当接部と反対側の外周面と、該外周面を支持する前記嵌合部の内周面とが第1半径の円筒面とされ、サポート部材がこれらの円筒面の中心点を中心として所定範囲で回動が許容された状態で保持されており、かつ、前記サポート部材におけるカム部との当接部は、前記第1半径の中心点と同一位置に中心点を有し、該第1半径より小さな第2半径の円筒面とされていることを特徴とする変速機のパーキング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変速機のパーキング装置において、前記変速機ケースに、前記パーキングロッドのカム部の移動をガイドするガイド部材が固着されていると共に、該ガイド部材は、前記サポート部材の変速機ケース内方側の端面を押えて、該サポート部材の嵌合部からの脱落を阻止するように構成されていることを特徴とする変速機のパーキング装置。
【請求項3】
請求項2に記載の変速機のパーキング装置において、前記サポート部材の端面に、所定範囲の回動を許容する状態で前記ガイド部材が係合する段付部が形成されていることを特徴とする変速機のパーキング装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の変速機のパーキング装置において、シフトレバーの操作に連動して前記パーキングロッドを移動させるディテントプレートが備えられ、前記ガイド部材に、該ディテントプレートと協働してシフトレバーの位置決め機構を構成するディテントスプリングが取り付けられていることを特徴とする変速機のパーキング装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の変速機のパーキング装置において、前記パーキングロッドのカム部は、パーキングポールのほぼ揺動面内で移動することを特徴とする変速機のパーキング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−20469(P2011−20469A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164636(P2009−164636)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】