説明

変速比制御装置

【課題】車両が停車しているときのフリクションを最小化できる変速比制御装置を提供すること。
【解決手段】車両が走行するための動力を発生する動力源と、動力源からの動力を車両の駆動輪に伝達する変速機と、変速機と駆動輪の間に配置され、動力源からの動力のみを駆動輪側に伝達可能なワンウェイクラッチと、を有した、動力源から駆動輪への動力を伝達する変速機構と、を備えた駆動システムにおいて、変速機構の変速比を制御する変速比制御装置は、車両が停車しているとき、車両のドライバによる車両のアクセル操作は行われておらず、制動操作が行われていれば、変速比を無限大に設定するよう変速機構を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機構の変速比を制御する変速比制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの出力軸の回転運動を揺動運動に変換し、更に揺動運動を回転運動に変換して変速機の出力軸から出力する方式のIVT(Infinity Variable Transmission)と呼ばれる無段変速機が知られている。当該方式の変速機では、クラッチを使用せずに変速比を無段階に変更できると共に、変速比の最大値を無限大に設定することができる。なお、当該変速機において、変速比が無限大に設定されたときの出力回転数はゼロである。
【0003】
図3は、IVTと呼ばれる無段変速機の一部の構成を軸線方向から見た側断面図である。図3に示す無段変速機は、内燃機関等の動力源からの回転動力を受けることで入力中心軸線O1の周りを回転する入力軸101と、入力軸101と一体回転する偏心ディスク104と、入力側と出力側を結ぶ連結部材130と、出力側に設けられたワンウェイクラッチ120とを備える。
【0004】
偏心ディスク104は、第1支点O3を中心とした円形形状に形成されている。第1支点O3は、入力中心軸線O1に対して変更可能な偏心量r1を保ちつつ、入力中心軸線O1の周りに入力軸101と共に回転するように設定されている。したがって、偏心ディスク104は、偏心量r1を保った状態で、入力中心軸線O1の周りを入力軸101が回転するに伴って偏心回転するように設けられている。
【0005】
偏心ディスク104は、図3に示すように、外周側円板105と、入力軸101に一体形成された内周側円板108とで構成されている。内周側円板108は、入力軸101の中心軸線である入力中心軸線O1に対して一定の偏心距離だけ中心を偏倚させた肉厚円板として形成されている。外周側円板105は、第1支点O3を中心にした肉厚円板として形成されており、その中心(第1支点O3)を外れた位置に中心を持つ第1円形孔106を有している。そして、この第1円形孔106の内周に回転可能に内周側円板108の外周が嵌っている。
【0006】
また、内周側円板108には、入力中心軸線O1を中心とすると共に周方向の一部が内周側円板108の外周に開口した第2円形孔109が設けられており、その第2円形孔109の内部にピニオン110が回転自在に収容されている。ピニオン110の歯は、第2円形孔109の外周の開口を通して、外周側円板105の第1円形孔106の内周に形成した内歯歯車107に噛み合っている。
【0007】
このピニオン110は、入力軸101の中心軸線である入力中心軸線O1と同軸に回転するように設けられている。即ち、ピニオン110の回転中心と入力軸101の中心軸線である入力中心軸線O1とが一致している。ピニオン110は、アクチュエータにより、第2円形孔109の内部で回転させられる。通常時は、入力軸101の回転と同期させてピニオン110を回転させ、同期する回転数を基準として、ピニオン110に入力軸101の回転数を上回るか下回るかする回転数を与えることにより、ピニオン110を入力軸101に対して相対回転させる。例えば、ピニオン110およびアクチュエータ180の出力軸が互いに連結されるように配置し、アクチュエータ180の回転が入力軸101の回転に対して回転差が生じる場合には、その回転差に減速比をかけた分だけ入力軸101とピニオン110の相対角度が変化する減速機構(例えば遊星歯車)を用いることで実現できる。この際、アクチュエータ180と入力軸101の回転差がなく同期している場合には偏心量r1は変化しない。
【0008】
従って、ピニオン110を回すことにより、ピニオン110の歯が噛合している内歯歯車107つまり外周側円板105が内周側円板108に対して相対回転し、それにより、ピニオン110の中心(入力中心軸線O1)と外周側円板105の中心(第1支点O3)との間の距離(つまり偏心ディスク104の偏心量r1)が変化する。
【0009】
この場合、ピニオン110の回転によって、ピニオン110の中心(入力中心軸線O1)に外周側円板105の中心(第1支点O3)を一致させることができるように設定されており、両中心を一致させることにより、偏心ディスク104の偏心量r1を「ゼロ」に設定できる。
【0010】
また、ワンウェイクラッチ120は、入力中心軸線O1から離れた出力中心軸線O2の周りを回転する出力部材(クラッチインナー)121と、外部から回転方向の動力を受けることで出力中心軸線O2の周りを揺動するリング状の入力部材(クラッチアウター)122と、入力部材122および出力部材121を互いにロック状態または非ロック状態にするために入力部材122と出力部材121の間に挿入された複数のローラ(係合部材)123とを有する。なお、ワンウェイクラッチ120には、出力部材121の断面における辺数と同数のローラ123が設けられている。
【0011】
ワンウェイクラッチ120の入力部材122から出力部材121への動力(トルク)の伝達は、入力部材122の正方向(図3中矢印RD1方向)の回転速度が出力部材121の正方向の回転速度を超えた条件でのみ行われる。つまり、ワンウェイクラッチ120では、入力部材122の回転速度が出力部材121の回転速度より高くなったときに初めてローラ123を介しての噛み合い(ロック)が発生し、入力部材122の揺動動力が出力部材121の回転運動に変換される。
【0012】
入力部材122の周方向の1箇所には張り出し部124が設けられており、その張り出し部124に、出力中心軸線O2から離間した第2支点O4が設けられている。そして、入力部材122の第2支点O4上にピン125が配置され、このピン125によって、連結部材130の先端(他端部)132が入力部材122に回転自在に連結されている。
【0013】
連結部材130は、一端側にリング部131を有し、そのリング部131の円形開口133の内周が、ベアリング140を介して、偏心ディスク104の外周に回転自在に嵌合されている。従って、このように連結部材130の一端が偏心ディスク104の外周に回転自在に連結されると共に、連結部材130の他端が、ワンウェイクラッチ120の入力部材122上に設けられた第2支点O4に回動自在に連結されることにより、図4に示すように、入力中心軸線O1、第1支点O3、出力中心軸線O2、第2支点O4の4つの節を回動点とする四節リンク機構が構成される。
【0014】
図4は、四節リンク機構として構成された無段変速機の駆動力伝達原理の説明図である。この四節リンク機構では、入力軸101から偏心ディスク104に与えられる回転運動が、連結部材130を介して、ワンウェイクラッチ120の入力部材122に対して該入力部材122の揺動運動として伝えられ、その入力部材122の揺動運動が出力部材121の回転運動に変換される。偏心ディスク104を回転させる入力軸101が1回転すると、ワンウェイクラッチ120の入力部材122は1往復揺動する。図4に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1の値に関係なく、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動周期は常に一定である。入力部材122の角速度ω2は、偏心ディスク104(入力軸101)の回転角速度ω1と偏心量r1によって決まる。
【0015】
その際、ピニオン110、ピニオン110を収容する第2円形孔109を備えた内周側円板108、内周側円板108を回転可能に収容する第1円形孔106を備えた外周側円板105、アクチュエータ180などにより構成された変速比可変機構112の前記ピニオン110をアクチュエータ180で動かすことにより、偏心ディスク104の偏心量r1を変化させることができる。そして、偏心量r1を変更することで、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を変更することができ、それにより、入力軸101の回転数に対する出力部材121の回転数の比(変速比:レシオi)を変えることができる。即ち、入力中心軸線O1に対する第1支点O3の偏心量r1を調節することで、偏心ディスク104からワンウェイクラッチ120の入力部材122に伝えられる揺動運動の揺動角度θ2を変更し、それにより、入力軸101に入力される回転動力が、偏心ディスク104および連結部材130を介してワンウェイクラッチ120の出力部材121に回転動力として伝達される際の変速比を変更することができる。
【0016】
図5(a)〜(d)及び図6(a)〜(c)は、図3に示した無段変速機における変速比可変機構112による変速原理の説明図である。図5及び図6に示すように、変速比可変機構112のピニオン110を回転させて、内周側円板108に対して外周側円板105を回転させることにより、偏心ディスク104の入力中心軸線O1(ピニオン110の回転中心)に対する偏心量r1を調節することができる。
【0017】
例えば、図5(a)及び図6(a)に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1を「大」にした場合は、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を大きくすることができるので、小さな変速比iを実現することができる。また、図5(b)及び図6(b)に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1を「中」にした場合は、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を「中」にすることができるので、中くらいの変速比iを実現することができる。また、図5(c)及び図6(c)に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1を「小」にした場合は、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を小さくすることができるので、大きな変速比iを実現することができる。また、図5(d)に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1を「ゼロ」又は極小値未満にした場合は、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を「ゼロ」又は「極小値」にすることができるので、変速比iを「無限大(∞)」にすることができる。なお、上記極小値の偏心量r1は、当該無段変速機において、入力軸101に入力された回転動力がワンウェイクラッチ120の出力部材121に伝達される最も低い値の偏心量である。
【0018】
当該無段変速機の変速比可変機構112において偏心量r1がゼロのとき、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2はゼロである。また、偏心量r1がゼロより大きく極小値未満のとき、入力部材122は微小な揺動角度θ2で揺動運動する。但し、このとき揺動運動は、後述するロータ123のトーション特性より吸収されるため、出力部材121に伝達されない。したがって、偏心量r1がゼロのときに限らず、極小値未満のときであっても、変速比iは、結果として、「無限大(∞)」である。
【0019】
図7は、ワンウェイクラッチ120の断面図及びその一部拡大図である。また、図8(a)〜(c)は、ワンウェイクラッチ120の各状態における一部拡大図である。図7及び図8(a)〜(c)に示すように、出力部材121のローラ123と接する面は、入力部材122の揺動運動に応じてその揺動方向にローラ123が移動可能な窪みを有する。但し、当該窪みの深さは、入力部材122が図7に示す空転方向の位置とトルク伝達方向の位置とで異なり、空転方向の位置の深さはトルク伝達方向の位置の深さよりも深い。
【0020】
入力部材122が相対的に出力部材121よりも空転方向に振れると、ローラ123も空転方向に移動する。空転方向の位置における入力部材122から出力部材121までの空間はローラ123の大きさよりも若干広い。このため、当該位置に移動したローラ123は空転する。一方、入力部材122が相対的に出力部材121よりもトルク伝達方向に振れると、ローラ123もトルク伝達方向に移動する。トルク伝達方向の位置における入力部材122から出力部材121までの空間はローラ123の大きさよりも若干狭い。このため、当該位置に移動したローラ123は、図8(a)に示すように、入力部材122と出力部材121とによって挟まれ、それぞれから対向する方向に圧力を受ける。このとき、ローラ123を介した入力部材122と出力部材121の噛み合い(ロック)が発生し、入力部材122の揺動動力が出力部材121の回転運動に変換される。この後、入力部材122の回転速度が出力部材121の回転速度より低下して、入力部材122が相対的に出力部材121よりも空転方向に振れると、ローラ123を介したロックが解除されて、図8(c)に示したように、ワンウェイクラッチ120はフリーな状態(空転状態)に戻る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特表2005−502543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の目的は、車両が停車しているときのフリクションを最小化できる変速比制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、請求項1に記載の発明の変速比制御装置は、車両が走行するための動力を発生する動力源(例えば、実施の形態での内燃機関153)と、前記動力源からの動力を前記車両の駆動輪(例えば、実施の形態での駆動輪169)に伝達する変速機と、前記変速機と前記駆動輪の間に配置され、前記動力源からの動力のみを前記駆動輪側に伝達可能なワンウェイクラッチ(例えば、実施の形態でのワンウェイクラッチ120)と、を有した、前記動力源から前記駆動輪への動力を伝達する変速機構(例えば、実施の形態での無段変速機155)と、を備えた駆動システムにおいて、前記変速機構の変速比を制御する変速比制御装置(例えば、実施の形態でのマネジメントECU163)であって、前記車両が停車しているとき、前記車両のドライバによる前記車両のアクセル操作は行われておらず、制動操作が行われていれば、前記変速比を無限大に設定するよう前記変速機構を制御することを特徴としている。
【0024】
さらに、請求項2に記載の発明の変速比制御装置では、車両が走行するための動力を発生する動力源(例えば、実施の形態での内燃機関153)からの回転動力を受けることで入力中心軸線(例えば、実施の形態での入力中心軸線O1)の周りを回転する入力軸(例えば、実施の形態での入力軸101)と、前記入力中心軸線に対する偏心量(例えば、実施の形態での偏心量r1)を変更可能な第1支点(例えば、実施の形態での第1支点O3)をそれぞれの中心に有して、該偏心量を保ちつつ前記入力中心軸線の周りを前記入力軸と共に回転する偏心ディスク(例えば、実施の形態での偏心ディスク104)と、前記入力中心軸線から離れた出力中心軸線(例えば、実施の形態での出力中心軸線O2)の周りを回転する出力部材(例えば、実施の形態での出力部材121)と、外部から回転方向の動力を受けることで前記出力中心軸線の周りを揺動する入力部材(例えば、実施の形態での入力部材122)と、前記入力部材及び前記出力部材を互いにロック状態又は非ロック状態にする係合部材(例えば、実施の形態でのローラ123)と、を有し、前記入力部材の正方向の回転速度が前記出力部材の正方向の回転速度を上回ったとき、前記入力部材に入力された回転動力を前記出力部材に伝達し、それにより前記入力部材の揺動運動を前記出力部材の回転運動に変換するワンウェイクラッチ(例えば、実施の形態でのワンウェイクラッチ120)と、一端が前記偏心ディスクの外周に前記第1支点を中心に回転自在に連結され、他端が前記ワンウェイクラッチの前記入力部材上の前記出力中心軸線から離間した位置に設けられた第2支点(例えば、実施の形態での第2支点O4)に回動自在に連結されることで、前記入力軸から前記偏心ディスクに与えられる回転運動を、前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に対し当該入力部材の揺動運動として伝える連結部材(例えば、実施の形態での連結部材130)と、前記入力中心軸線に対する前記第1支点の偏心量を調節することで、前記偏心ディスクから前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に伝えられる揺動運動の揺動角度を変更するアクチュエータ(例えば、実施の形態でのアクチュエータ180)を有し、それにより、前記入力軸に入力される回転動力が前記偏心ディスク及び前記連結部材を介して前記ワンウェイクラッチの出力部材に回転動力として伝達される際の変速比を変更すると共に、前記偏心量を前記出力部材に回転動力が伝達されないよう設定することで前記変速比を無限大に設定可能な変速比可変機構(例えば、実施の形態での変速比可変機構112)と、を備えた四節リンク機構式の無段変速機における前記変速比を制御する変速比制御装置(例えば、実施の形態でのマネジメントECU163)であって、前記車両が停車しているとき、前記車両のドライバによる前記車両のアクセル操作は行われておらず、制動操作が行われていれば、前記偏心量を前記出力部材に回転動力が伝達されないよう設定することで前記変速比を無限大に設定するよう前記無段変速機を制御することを特徴としている。
【0025】
さらに、請求項3に記載の発明の変速比制御装置では、前記車両が停車しているとき、前記車両のドライバによって前記車両のアクセル操作及び制動操作の双方が行われていれば、前記変速比を、無限大以下であって、前記入力部材の前記揺動角度が最大トーションアングル以下となる変速比に設定することを特徴としている。
【0026】
さらに、請求項4に記載の発明の変速比制御装置では、前記車両のドライバによって前記車両のアクセル操作及び制動操作のいずれも行われていないとき、アイドル運転している前記動力源からの動力によって前記車両が微速走行するよう、前記変速比を設定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0027】
請求項1〜4に記載の発明の変速比制御装置によれば、車両が停車しているときのフリクションを最小化できる。
請求項3に記載の発明の変速比制御装置によれば、変速機構又は無段変速機の出力側には駆動力が出力されず、制動操作が解除された後のドライバの加速要求にレスポンス良く対応することができる。
請求項4に記載の発明の変速比制御装置によれば、フリクションの最小化と発進時のレスポンスを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】パラレル方式のHEVの内部構成を示すブロック図
【図2】マネジメントECU163による無段変速機155の変速比を制御する際の動作を示すフローチャート
【図3】IVTと呼ばれる無段変速機の一部の構成を軸線方向から見た側断面図
【図4】四節リンク機構として構成された無段変速機の駆動力伝達原理の説明図
【図5】(a)〜(d)は、図3に示した無段変速機における変速比可変機構112による変速原理の説明図
【図6】(a)〜(c)は、図3に示した無段変速機における変速比可変機構112による変速原理の説明図
【図7】ワンウェイクラッチ120の断面図及びその一部拡大図
【図8】(a)〜(c)は、ワンウェイクラッチ120の各状態における一部拡大図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0030】
本実施形態の変速比制御装置は、HEV(Hybrid Electrical Vehicle:ハイブリッド電気自動車)に搭載される。HEVは、電動機及び内燃機関を備え、車両の走行状態に応じて電動機及び/又は内燃機関の駆動力によって走行する。HEVには、大きく分けてシリーズ方式とパラレル方式の2種類がある。シリーズ方式のHEVは、電動機の動力によって走行する。内燃機関は発電のためだけに用いられ、内燃機関の動力によって発電機で発電された電力は蓄電器に充電されるか、電動機に供給される。また、パラレル方式のHEVは、電動機及び内燃機関のいずれか一方又は双方の動力によって走行する。
【0031】
図1は、パラレル方式のHEVの内部構成を示すブロック図である。図1に示すように、パラレル方式のHEV(以下、単に「車両」という)は、電動機(Mot)151と、内燃機関(ENG)153と、四節リンク機構の無段変速機155と、メインクラッチ156と、ディファレンシャルギア157と、クラッチ159と、車速センサ161と、マネジメントECU(MG ECU)163とを備える。なお、図1中の点線の矢印は値データを示し、実線の矢印は指示内容を含む制御信号を示す。
【0032】
電動機151は、車両が走行するための動力を発生する。電動機151の出力は、クラッチ159及びディファレンシャルギア157を介して車軸167に伝達される。内燃機関153は、車両が走行するための動力を発生する。内燃機関153の出力は無段変速機155に入力される。
【0033】
無段変速機155は、図3〜図8を参照して上記説明したIVT(Infinity Variable Transmission)と呼ばれる無段変速機(以下「BD」とも表記する)である。本実施形態では、無段変速機155と内燃機関153の間にクラッチを必要とせず、無段変速機155の入力軸には内燃機関153の出力がそのまま入力される。また、無段変速機155の出力は、メインクラッチ156及びディファレンシャルギア157を介して車軸167に伝達される。
【0034】
無段変速機155は、内燃機関153の出力軸の回転運動を揺動運動に変換し、更に揺動運動を回転運動に変換する。このため、無段変速機155では、偏心量r1を調整することで変速比を無段階に変更できると共に、変速比の最大値を無限大に設定することができる。なお、無段変速機155において、変速比が無限大に設定されたときの出力回転数はゼロである。図3に示すように、無段変速機155は、入力軸が内燃機関153のクランク軸に直結された偏心体駆動装置と、出力側に設けられたワンウェイクラッチ120と、偏心体駆動装置とワンウェイクラッチ120を結ぶ連結部材130とを備える。
【0035】
偏心体駆動装置は、内燃機関153からの回転動力を受けることで入力中心軸線O1の周りを回転する入力軸101と、入力軸101と一体回転する偏心ディスク104とを有する。また、偏心体駆動装置には、入力中心軸線O1と同軸に回転するピニオン110が設けられている。ピニオン110を回すことにより、ピニオン110の中心(入力中心軸線O1)と第1支点O3との間の距離(つまり偏心ディスク104の偏心量r1)が変化する。ピニオン110の回転によって、入力中心軸線O1に第1支点O3を一致させると、偏心ディスク104の偏心量r1は「ゼロ」となり、無段変速機155における変速比は無限大となる。
【0036】
ワンウェイクラッチ120の入力部材122から出力部材121への動力の伝達は、入力部材122の正方向(図3中矢印RD1方向)の回転速度が出力部材121の正方向の回転速度を超えた条件でのみ行われる。つまり、ワンウェイクラッチ120では、入力部材122の回転速度が出力部材121の回転速度より高くなったときに初めてローラ123を介しての噛み合い(ロック)が発生し、入力部材122の揺動動力が出力部材121の回転運動に変換される。したがって、図1に示した車両では、内燃機関153の出力によるワンウェイクラッチ120における入力部材122の正方向の回転速度が出力部材121の正方向の回転速度を超えた条件でのみ、内燃機関153からの動力が無段変速機155を介して駆動輪169に伝達される。なお、当該条件を満たした無段変速機155の状態を「エンゲージ状態」といい、当該条件を満たさない無段変速機155の状態を「ディスエンゲージ状態」という。
【0037】
なお、ワンウェイクラッチ120を構成するローラ123は、一般的には高い剛性を有する金属等の物質によって形成されてはいるが、トーション(ねじれ)特性を有する。このトーション特性は、入力部材122及び出力部材121に対するローラ123の滑りによる特性と、入力部材122及び出力部材121からの圧力による弾性変形による特性とを合わせた特性である。
【0038】
弾性変形による特性は、「最大トーションアングル」と呼ばれる、出力部材121と入力部材122の相対的なねじれ角によって表される。最大トーションアングルとは、無段変速機155がエンゲージ状態のときに、ワンウェイクラッチ120における入力部材122の出力部材121に対する相対角度において、エンゲージ開始時の相対角度を0としたとき、出力部材121と入力部材122の間で相対的なねじれが生じ、ローラ123と入力部材122及び出力部材121との接触面圧が寿命に係る信頼性を保証する上での最大面圧となったときの、出力部材121に対する入力部材122の相対角度を意味する。
【0039】
メインクラッチ156は、無段変速機155からディファレンシャルギア157までの駆動力伝達経路を開閉する。クラッチ159はマネジメントECU163によって制御される。メインクラッチ156はマネジメントECU163によって制御される。ディファレンシャルギア157は、電動機151及び/又は内燃機関153から伝達された駆動力を車両左右の車軸167に分配する。クラッチ159は、電動機151からディファレンシャルギア157までの駆動力伝達経路を開閉する。クラッチ159はマネジメントECU163によって制御される。
【0040】
車速センサ161は、車両の走行速度(車速)を検出する。車速センサ161によって検出された車速VPを示す信号は、マネジメントECU163に送られる。なお、マネジメントECU163には、車速センサ161からの信号の他、ドライバによる操作量を示す信号が入力される。本実施形態では、ドライバによる操作量として、アクセルペダルの開度(AP開度)、ブレーキペダルの踏込量(BRK踏込量)、及びシフトレバー等によって設定されたギアポジションが含まれる。
【0041】
マネジメントECU163は、電動機151、内燃機関153及び無段変速機155等の統括制御を行う。本実施形態では、特に、マネジメントECU163は、車速VP、AP開度、BRK踏込量及びギアポジションに基づいて、無段変速機155における変速比(以下「レシオ」ともいう)を設定する。さらに、マネジメントECU163は、無段変速機155の変速比が当該設定した変速比となるよう、無段変速機155の偏心ディスク104の偏心量r1を制御する。
【0042】
図2は、マネジメントECU163による無段変速機155の変速比を制御する際の動作を示すフローチャートである。図2に示すように、マネジメントECU163は、ギアポジションがDレンジ(ドライブレンジ)であるか否かを判定し、DレンジであればステップS103に進み、DレンジでなければステップS121に進む。なお、マネジメントECU163は、ギアポジションがDレンジであれば、メインクラッチ156を締結する。ステップS121では、マネジメントECU163は、無段変速機155の変速比を無限大(∞)に設定する。
【0043】
ステップS103では、マネジメントECU163は、車速VPが0であるか、すなわち、車両が停車状態であるか否かを判定する。ステップS103での判断の結果、車速VPが0であればステップS105に進み、車速VPが0でなければステップS123に進む。ステップS123では、マネジメントECU163は、走行時における車速VP及びAP開度等に基づく変速比を設定する。ステップS105では、マネジメントECU163は、BRK踏込量からブレーキペダルが踏まれている(ブレーキON)か否かを判断する。ステップS105での判断の結果、ブレーキペダルが踏まれていると判断された場合はステップS107に進み、ブレーキペダルが踏まれていないと判断された場合はステップS109に進む。
【0044】
ステップS107及びステップS109のいずれにおいても、マネジメントECU163は、AP開度からアクセルペダルが踏まれている(アクセルON)か否かを判断する。ステップS107での判断の結果、アクセルペダルが踏まれていると判断された場合はステップS111に進み、アクセルペダルが踏まれていないと判断された場合はステップS113に進む。一方、ステップS109での判断の結果、アクセルペダルが踏まれていると判断された場合はステップS115に進み、アクセルペダルが踏まれていないと判断された場合はステップS117に進む。
【0045】
ステップS111では、マネジメントECU163は、無段変速機155の変速比を、無限大(∞)以下であって、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2が最大トーションアングル以下となる変速比に設定する。ステップS113では、マネジメントECU163は、無段変速機155の変速比を無限大(∞)に設定する。ステップS115では、マネジメントECU163は、発進時における車速VP及びAP開度等に基づく変速比を設定する。ステップS117では、マネジメントECU163は、無段変速機155の変速比を、アイドル運転している内燃機関153から無段変速機155を介して駆動輪169に伝達される動力によって車両が微速走行するよう、無段変速機155の変速比を設定する。なお、微速走行時の車速VPは5km/時以下である。
【0046】
マネジメントECU163は、ステップS111〜S117のいずれかを行った後、無段変速機155の変速比が当該設定した変速比となるよう、無段変速機155の偏心ディスク104の偏心量r1を制御する(ステップS119)。
【0047】
本実施形態では、ギアポジションがDレンジの状態で車両が停車中に、ブレーキペダルが踏まれアクセルペダルが踏まれていないときは、無段変速機155の変速比が無限大(∞)に設定される。無段変速機155の変速比が無限大(∞)のときのフリクションは非常に小さい。したがって、この状態のときの燃費向上が図れる。
【0048】
また、ギアポジションがDレンジの状態で車両が停車中に、ブレーキペダルが踏まれ、かつ、アクセルペダルも踏まれているときは、無段変速機155の変速比が無限大(∞)以下であって、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2が最大トーションアングル以下となる変速比に設定される。このとき、無段変速機155の出力側には駆動力が出力されず、ブレーキペダルが放された後のドライバの加速要求にレスポンス良く対応することができる。
【0049】
さらに、ギアポジションがDレンジの状態でブレーキペダル及びアクセルペダルのいずれも踏まれていないときは、アイドル運転している内燃機関153から無段変速機155を介して駆動輪169に伝達される動力によって車両が微速走行するよう、無段変速機155の変速比が設定される。したがって、フリクションの最小化と発進時のレスポンスを両立できる。
【符号の説明】
【0050】
101 入力軸
104 偏心ディスク
120 ワンウェイクラッチ
121 出力部材
122 入力部材
123 ローラ(係合部材)
130 連結部材
151 電動機(Mot)
153 内燃機関(ENG)
155 無段変速機(BD)
156 メインクラッチ
157 ディファレンシャルギア
159 クラッチ
161 車速センサ
163 マネジメントECU(MG ECU)
167 車軸
169 駆動輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行するための動力を発生する動力源と、
前記動力源からの動力を前記車両の駆動輪に伝達する変速機と、前記変速機と前記駆動輪の間に配置され、前記動力源からの動力のみを前記駆動輪側に伝達可能なワンウェイクラッチと、を有した、前記動力源から前記駆動輪への動力を伝達する変速機構と、
を備えた駆動システムにおいて、前記変速機構の変速比を制御する変速比制御装置であって、
前記車両が停車しているとき、前記車両のドライバによる前記車両のアクセル操作は行われておらず、制動操作が行われていれば、前記変速比を無限大に設定するよう前記変速機構を制御することを特徴とする変速比制御装置。
【請求項2】
車両が走行するための動力を発生する動力源からの回転動力を受けることで入力中心軸線の周りを回転する入力軸と、
前記入力中心軸線に対する偏心量を変更可能な第1支点をそれぞれの中心に有して、該偏心量を保ちつつ前記入力中心軸線の周りを前記入力軸と共に回転する偏心ディスクと、
前記入力中心軸線から離れた出力中心軸線の周りを回転する出力部材と、外部から回転方向の動力を受けることで前記出力中心軸線の周りを揺動する入力部材と、前記入力部材及び前記出力部材を互いにロック状態又は非ロック状態にする係合部材と、を有し、前記入力部材の正方向の回転速度が前記出力部材の正方向の回転速度を上回ったとき、前記入力部材に入力された回転動力を前記出力部材に伝達し、それにより前記入力部材の揺動運動を前記出力部材の回転運動に変換するワンウェイクラッチと、
一端が前記偏心ディスクの外周に前記第1支点を中心に回転自在に連結され、他端が前記ワンウェイクラッチの前記入力部材上の前記出力中心軸線から離間した位置に設けられた第2支点に回動自在に連結されることで、前記入力軸から前記偏心ディスクに与えられる回転運動を、前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に対し当該入力部材の揺動運動として伝える連結部材と、
前記入力中心軸線に対する前記第1支点の偏心量を調節することで、前記偏心ディスクから前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に伝えられる揺動運動の揺動角度を変更するアクチュエータを有し、それにより、前記入力軸に入力される回転動力が前記偏心ディスク及び前記連結部材を介して前記ワンウェイクラッチの出力部材に回転動力として伝達される際の変速比を変更すると共に、前記偏心量を前記出力部材に回転動力が伝達されないよう設定することで前記変速比を無限大に設定可能な変速比可変機構と、
を備えた四節リンク機構式の無段変速機における前記変速比を制御する変速比制御装置であって、
前記車両が停車しているとき、前記車両のドライバによる前記車両のアクセル操作は行われておらず、制動操作が行われていれば、前記偏心量を前記出力部材に回転動力が伝達されないよう設定することで前記変速比を無限大に設定するよう前記無段変速機を制御することを特徴とする変速比制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の変速比制御装置であって、
前記車両が停車しているとき、前記車両のドライバによって前記車両のアクセル操作及び制動操作の双方が行われていれば、前記変速比を、無限大以下であって、前記入力部材の前記揺動角度が最大トーションアングル以下となる変速比に設定することを特徴とする変速比制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の変速比制御装置であって、
前記車両のドライバによって前記車両のアクセル操作及び制動操作のいずれも行われていないとき、アイドル運転している前記動力源からの動力によって前記車両が微速走行するよう、前記変速比を設定することを特徴とする変速比制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−61043(P2013−61043A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201026(P2011−201026)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】