説明

外傷治療

本発明は、外傷後に身体に、(i)カリウムチャネルオープナーまたはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストと、(ii)局所麻酔薬とを含む組成物を投与することによって、外傷後の身体の細胞、組織または臓器の傷害を低減する方法を提供する。また、(i)および(ii)を含む、外傷後の身体の細胞、組織または臓器の傷害を低減する組成物を提供する。組成物は、二価マグネシウムカチオンを含んでもよいし、かつ/または高張性であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、外傷後の身体の細胞、組織または臓器の傷害、例えば、ショック、卒中、心臓状態に起因する細胞、組織または臓器の傷害または外傷の結果として生じ得るその他の傷害を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
西欧諸国では、多数の死が突然に、予想外に、特に、外傷の結果として起こる。医学的に、「外傷」とは、蘇生治療を必要とする場合もある、重篤なまたは決定的な肉体的傷害、創傷またはショックを指す。外傷は、病院で(例えば、病院の救急治療室で)、緊急輸送環境で(例えば、救急車で)または外傷が生じた病院外環境、例えば、家庭内もしくは産業事故、輸送事故、戦場およびテロリストの攻撃で施される外傷薬と関連することが多い。
【0003】
外傷は、子供および年齢34歳までのすべての個体の間の第1位の死因であり、高齢の集団では主な死亡原因であり、生産性生存年数の喪失をもたらし、相当な社会的費用を伴う。これは、火傷、心臓発作、脳卒中およびその他の心血管イベントに起因する死亡を含む。死亡はまた、ショックまたは外傷の結果として起こり得るその他の合併症に起因する場合もある。
【0004】
これらの意識不明の外傷患者の3%未満しか、許容される結果に進まない。多数の生存者は、3ヶ月後に施設でのケアを必要とし、かなりの集団が回復不能な障害が残ったままとなる。戦場で損傷を受けた兵士の約20%が死亡し、死亡の90%は、緊急輸送の間のショックのために病院に到達する前に起こる。より最近の統計値は、治療可能である可能性のある戦闘傷害での死亡の50%は、急性失血によるものであり、このために戦場での第1位の死因となるということを示唆する。
【0005】
ショックは、組織酸素化の減少および酸素負債の蓄積を引き起こす循環機能不全であり、未治療のままである場合、最終的に、多臓器システム不全をもたらし得る。小児および成人外傷患者の両方におけるショックの最も一般的な形は、出血性または血液量減少性ショック(十分でない血液容量)である。心原性ショック(心臓による十分でない血液の拍出量、以下参照)も、ショックの一般的な形である。失血の結果としてのショックは、外傷のよくある合併症である。外傷死の約半数が、心肺および脳機能の著しい不全からの傷害後、最初の1時間の間に起こる。ショックの徴候や症状として、低血圧(低血圧症)、過呼吸(過換気)、弱い速い脈拍、寒冷な灰白色の−青みを帯びた(チアノーゼ)皮膚、尿流量の減少(乏尿)および精神的変化(大きな不安および嫌な予感、錯乱および時には、闘争的なことという感覚)が挙げられる。血液が失われると、最大のすぐに必要なことは、失われた容量を、血液または血液容積増量剤で補充することである。血液容積が、容積増量剤によって維持される場合には、外傷患者は、極めて低い血液ヘモグロビンレベル、健常な人の1/3未満を安全に許容し得る。
【0006】
外傷の際、重要な臓器および組織の電気特性は維持されることができない。静止細胞電圧の降下が、外傷の間に起こり、多臓器不全および死亡につながり得る、心臓における高度に有害な不整脈および全身炎症の活性化、凝固性およびフリーラジカル生成プロセスの誘発につながり得る。激しい出血の際、患者は、平均動脈灌流圧が、約40mmHgに低下し、脈拍が大動脈で、もはや触知できないと、意識不明となる。呼吸が停止すると、脈拍はもはや触知できず、心停止が考えられる。大量の失血から脈欠損となり、救急診療部開胸術を受ける外傷患者の死亡率は、約97%である。
【0007】
ショックの1つの形は、「心原性ショック」と呼ばれる。これは、例えば、心臓筋肉の損傷(大きな心筋梗塞(心臓発作)に起因し得るような、心臓筋肉の障害(破裂を含む)、電気的緊張−弛緩(または伝導)システムの乱れおよびタンポナーデによる心臓が効率的にポンピングすることの不全によって引き起こされ得る。心原性ショックはまた、不整脈(例えば、心室性頻脈および心室細動)、心筋症、心臓弁の問題、心室流出障害などによって引き起こされ得る。心原性ショックは、患者の生命を救うため即時の治療を必要とする医学的な緊急事態である。
【0008】
心原性ショックの1つの原因は、いわゆる「心臓発作」である。この用語は、心筋の壊死につながる、心臓虚血(通常、冠動脈の閉塞によって引き起こされる)につながるいくつかの異なる状態を指すよう用いられる。この筋肉の壊死は、胸痛および心筋組織の電気的不安定性を引き起こす。この電気的不安定性は、「心室性頻拍」および「心室細動」として現れ得る。心室性頻拍は、心室性異所性焦点に起因するタキージスリズミア(tachydysrhythmia)であり、通常、1分あたり120拍動を超える速度を特徴とし、心室細動に急速に悪化し得るので、発病または死亡を避けるために迅速に治療されなければならない。心室細動は、心室の無秩序な電気的撹乱があり、その結果、もはや規則的に拍動せず、血液を効率よく送り出すことがなく、単に振動している状態である。心室細動の間、心筋は、酸素の供給不足によって、または特定の心臓病によって影響を受け、心室は、混乱した方法で、心房と無関係に収縮し、心室のいくつかの領域が収縮する一方で、他は弛緩している。心室細動は、広範囲の虚血につながる。直ちに治療されない限り、心室細動は、死亡を引き起こし、心臓に問題のある人における突然死の75%〜85%を占める。USA単独で、年に約450,000の突然死があり、英国では、年に約70,000〜90,000の突然死がある。したがって、心室性頻拍および心室細動は、医学的な緊急事態であるが、これは、それらが数秒を超えて持続する場合、血液循環が停止し、脈拍、血圧、呼吸がなくなり、死亡が生じる。通常、この時点で薬剤および処置は、心臓のリズムを安定化することに向けられ、測定可能な脈拍のない意識不明の被験体の場合には、心臓を再開することによって被験体を蘇生し、気道を広げ、自発呼吸を回復させる。アミオダロンを用いて命にかかわる心臓不整脈を治療できるが、この薬物は、心律動異常および心停止自体を引き起こすことをはじめとする、重篤な副作用を有し得る。アミオダロンのその他の副作用として、肺浸潤、神経障害、振戦、甲状腺障害、悪心、低血圧および肝臓損傷が挙げられる。したがって、これらの緊急事態において、心臓を安定化するためまたは心臓を再開させるためおよび自発的循環を回復させるために有効な薬剤は、極めて限定されるか、または存在しない。ノルアドレナリンまたはアドレナリン(バソプレシンを伴うか伴わない)は、心肺蘇生とともに使用できるが、エピネフリンは、心臓収縮を増悪させ、心室細動の間の心筋酸素消費を増大することによって、ならびに微小血管障害を誘発することによって心臓機能不全を促進する場合がある。心室性頻拍または心室細動後に心臓を安定化することにおいて治療が成功する場合には、酸素(呼吸を助けるため利用可能である場合には)、β−遮断薬(心臓を弛緩させるのに役立つ)、血管拡張薬(心臓により多くの血液を送達するのに役立つ)、血液剤(抗凝固剤、抗血小板剤、血栓溶解剤など)および鎮痛剤など、いくつかの薬剤を投与する。心臓並びにその他の組織および臓器を治療する2、3の薬物は別として、薬剤は、特異的に心臓組織を治療するためには向けられない。不全の心筋自体のための有効な薬剤治療はなく、よく起こる心室細動のためのものもない。治療される場合には、通常、電気ショック(電気的除細動)によって治療される。
【0009】
心臓の損傷はまた、再灌流時に引き起こされ得る。再潅流損傷の一例は、心臓が「機能不全に」なる場合である。この状態では、血流は回復されるが、心臓は異常に機能しており、治療されない場合には、さらなる心臓発作(例えば、心室細動)をもたらし得る。心臓蘇生は、心臓の再潅流を必然的に含み、結果として起こる、特に、心筋への再灌流傷害と関連している危険を伴う。筋肉細胞が壊死する場所は、梗塞と考えられる。約15〜20分という短期間のうちに細胞への血流が回復されている場合は、細胞は再潅流に反応し、生存することができる(したがって、梗塞を形成しない)が、再灌流の間、正常に機能せず、その通常の機能を実施しないという意味で「機能不全」であり得る。
【0010】
蘇生を乗り切り、最初のイベントがあまり外傷性でない可能性がある患者では、依然として、全身および局所炎症および免疫活性化とそれに続く多臓器機能不全および不全の相当な危険性がある。多臓器不全は、過剰の自己破壊性全身炎症および免疫学的機能の結果であると考えられており、これでは、低酸素血症、組織低酸素症/生育不能組織、微生物/毒素および抗原/抗体複合体が関与している可能性がある。特に、いくつかの液性系(例えば、補体、凝固)および細胞系(内皮活性化、好中球、血小板、マクロファージ)の活性化が、関与していると考えられている。好中球は、肺、心臓、腎臓、肝臓および消化管の傷害において重要な役割を果たしており、大外傷後に見られることが多い。結果として、多数の媒介物質(毒性酸素種、タンパク質分解酵素、接着分子、サイトカイン)の合成、発現および放出があり、これが、身体における全身性炎症および組織損傷を引き起こし得る。
【0011】
重篤な中核体温もまた、これらの外傷後続発性合併症の多くを増悪させ得る。34℃を下回ると、死亡率が大幅に高まる。これにもかかわらず、何人もの研究者が、計画的な低体温の有益な効果を示唆しているが、これは、これが、低酸素性臓器機能不全および炎症反応の開始を防ぐことによって外傷犠牲者の「ゴールデンアワー」を延長し得るからである。臓器不全はまた、大手術後の術後期における死因の第1位である。大手術後の過剰炎症反応と、それに続く、細胞性免疫の劇的な低下は、その後の敗血症に対する感受性の増大の原因であると思われる。
【0012】
蘇生治療は、通常、突然の命にかかわる疾病または外傷性傷害、例えば、心停止、呼吸不全、出血性失血、神経損傷および軟部組織および身体骨格の外傷性損傷に由来するものの状態の管理を改善する任意の処置と考えられる。通常、蘇生治療は、全身体酸素欠乏の治療を扱う。そのようなものとして、現在の蘇生戦略は、組織供給および需要比率を最適化することおよび出血、肺の浮腫および脳傷害後の頭蓋内高血圧症を悪化させる、過度に攻撃的な量補充の合併症を避けることを目的としている。
【0013】
蘇生治療は、限局された「大きな心臓発作」または限局された「大きな卒中」の治療とは極めて異なっている。あまり理解されていない作用による、複数の臓器−組織反応間の複雑な相互作用を含み、このために、この科学は、特定の臓器または組織を保存するための治療とは分かれている。蘇生は、多くの相互作用を伴う複雑な生物系を含むと知られている。これらは、個々の構成要素の研究からは予測できない。傷害を受けた臓器は、その他の臓器に対する続発性効果を有し、これが全身に影響を及ぼし、衰弱性傷害および死亡につながり得る。
【0014】
現在の治療は、晶液またはコロイドのいずれかであり得る補液又は量補充を含む。晶液は、蘇生治療によく用いられるが、これはそれらが安全であり、凝固の負の副作用を伴うものの役立つと思われるからである。晶液は、凝固を増大させることがわかり、効果は、用いた晶液の種類とは無関係であると思われる。晶液導入性過凝固状態は、天然に存在する抗凝固薬と、活性化された凝血原との間の不均衡によると思われる。量補充に用いられる晶液は、3つの主要な種類があり得る:1)低張性(例えば、水中デキストロース)、2)等張性(通常の生理食塩水または乳酸塩もしくは酢酸塩を含むリンガー溶液)あるいは3)高張性(例えば、7.5%生理食塩水)。晶液は、血管膜を自由に透過できるので、約25%のみが血液コンパートメント中に残り、残りは身体の間質性コンパートメントおよび/または細胞内コンパートメント中にあり、組織浮腫を引き起こす。したがって、晶液蘇生は、コロイドベースの量補充戦略と比較して、微小循環性血流の適当な回復を達成する可能性が低い。
【0015】
コロイド補充治療は、この目的には、人工コロイドとして、デキストラン−70、デキストラン−40、ヒドロキシエチルデンプン、ペンタスターチ、ラクトビオン酸、スクロース、マンニトールおよび修正ゼラチン(modified fluid gelatine)などのコロイドを用いる。量補充のために最も適当な溶液については、多くの議論がある。
【0016】
現在、戦場での兵士における、または自然災害現場での一般人またはテロリストの攻撃から傷害を受けた一般人における、重篤な出血性ショックを治療するための最適な液体組成物または液体蘇生計画はない。実際、承認された蘇生液の大部分は、内因性の組織保護はなく、蘇生結果に負に影響を及ぼす、命にかかわる炎症および過凝固性不均衡を誘発し得る。特に、軍隊のための新規製剤および蘇生治療の設計におけるさらなる挑戦は、その安全性および長期の避難後の負傷兵の生存時間を増大するための臨床有効性を保証するにもかかわらず、戦闘条件自体によって課せられる兵站学的考慮、例えば、重量および輸送の実行可能性、配置の容易さ、低光量環境での投与および野外での薬物の安定性によって阻まれている。
【0017】
戦争では、銃弾および爆発する軍需品からの貫通性のある破片が命にかかわる出血を引き起こすことが多い。急性出血が、戦場傷害の死因の第1位であり、治療可能である可能性がある戦闘による負傷者における死亡の50%を占める。戦場での1つの主要な満たされていない医学的必要性は、出血の制御が可能である前の重篤な出血の間の心臓の不安定化および停止をどのように防ぐかである。ショックの前に心臓および循環不足を安定化することは、最も重要である。心停止の治療の成功には、電気的に安定な、機械的に生存可能な心臓が再確立されることが必要である。現在、出血性ショックの前に細動および停止から心臓を安定化および保護する臨床上有効な方法はない。実際、心臓を洞調律に変えるために用いられる多数の薬理学的介入は、残念ながら、さらなる傷害を与え、心臓の蘇生可能性を危険にさらし得る。
【0018】
心臓が不安定化されておらず、停止している、重篤な外傷性出血性症例では、血液量、血圧および臓器灌流の喪失が、重篤な臓器虚血および最終的には、多臓器機能不全および不全(MOF)および死亡につながり得る。MOFは、ショック(出血性/外傷性)および蘇生に続発する死因の第1位であり、肺、腎臓、腸管、膵臓、肝臓、脳および心臓に関与する。MOFが、エンドポイント自体ではないが、圧倒的な自己破壊性の、局所および全身性炎症反応および免疫学的機能にかかわるプロセスであることは重要である。数十年の研究にもかかわらず、蘇生液は、組織灌流を回復させるが、特異的抗炎症性免疫抑制を有さず、生存促進特性も有さない。ショック導入性炎症反応の活性化は、ショック自体の間、初期晶液またはコロイドベースの蘇生治療の間、および血液補充を含む最終蘇生努力の間に起こることが重要である。
【0019】
外傷に由来する傷害からの保護が、人工冬眠の形によって誘発され得るかどうかはわかっていない。生まれながらの冬眠動物は、数日から数ヶ月間その代謝エネルギー需要を低下する能力を有する。冬眠は、睡眠同様、休止状態の一形態であり、動物の代謝供給および需要の比率を適度なバランスに保つのに役立つ。これらの長期の「虚血」状態の間に損傷が起こらず、心臓のリズムが心室細動へと悪化しないことは際立っている。しかし、実質的に命を救う、または傷害を最小限にする可能性にもかかわらず、ヒト、特に、外傷患者において、同様の反応を刺激する既知法はない。
【0020】
特許文献1、特許文献2および特許文献3には、医療処置に先立つ臨床設定において投与することによって、細胞、組織または臓器の損傷を限定するのに有用な組成物が記載されている。これらの組成物はまた、通常、患者の診断後に、直接、細胞、組織または臓器に投与される。しかし、患者が病院に到着する、および/または病院にいる、例えば、実質的な医学的配慮が利用可能である、または状態が診断され得る前に、細胞、組織または臓器に多くの損傷または傷害が生じる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】国際公開第00/56145号パンフレット
【特許文献2】国際公開第04/056180号パンフレット
【特許文献3】国際公開第04/056181号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、先行技術の1以上の困難および欠陥を克服すること、または少なくとも多少とも解決することを対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
一態様では、本発明は、外傷後に身体に、(i)カリウムチャネルオープナーまたはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストと、(ii)局所麻酔薬とを含む組成物を投与することによって、外傷後の身体の細胞、組織または臓器の傷害を低減する方法を対象とする。
【0024】
この態様によれば、成分(i)および(ii)を含むさらなる組成物を、組成物の投与後に身体に投与してもよい。
【0025】
どちらの組成物も、マグネシウムカチオン(二価)を含んでもよいし、および/または高張性であってもよい。
【0026】
もう1つの態様では、本発明は、(i)カリウムチャネルオープナーまたはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストと、(ii)局所麻酔薬とを含む、外傷後の身体の細胞、組織または臓器の傷害を低減するための組成物を対象とする。この態様の一実施形態では、組成物は、二価マグネシウムカチオンを含んでもよいし、かつ/または高張性であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1A】(A)出血性ショックの前、(B)ショックの間および(C)ラットの心臓への直接の0.5mlのアデノシン/リグノカイン溶液のボーラス投与後のECGトレースを示す図である。
【図1B】(A)出血性ショックの前、(B)ショックの間および(C)ラットの心臓への直接の0.5mlのアデノシン/リグノカイン溶液のボーラス投与後のECGトレースを示す図である。
【図1C】(A)出血性ショックの前、(B)ショックの間および(C)ラットの心臓への直接の0.5mlのアデノシン/リグノカイン溶液のボーラス投与後のECGトレースを示す図である。
【図2A】(A)出血性ショックの間およびラットの心臓へ直接アデノシン/リグノカイン溶液を注射した後の、および(B)注射後10秒の、図1からのラット心臓のECGトレースより詳細に示す図である。溶液の注射時間は、矢印(I)によって示されている。矢印(II)は、さらなる治療が必要であり得ると提案される時点を表す。
【図2B】(A)出血性ショックの間およびラットの心臓へ直接アデノシン/リグノカイン溶液を注射した後の、および(B)注射後10秒の、図1からのラット心臓のECGトレースより詳細に示す図である。溶液の注射時間は、矢印(I)によって示されている。矢印(II)は、さらなる治療が必要であり得ると提案される時点を表す。
【図3】出血性ショックの開始に先立つ正常ラット心臓のECGトレースを示す図である。
【図4】「ショック期間」の開始に先立つ出血期間の最後でのラットのECGトレースを示す図である。
【図5】60分のショック期間の最後でのラット心臓のECGトレースを示す図である。
【図6】120分のショック期間の最後でのラット心臓のECGトレースを示す図である。
【図7】3時間のショック期間の最後でのラット心臓のECGトレースを示す図である。
【図8】ALM(アデノシン;リグノカイン;マグネシウム)のボーラス投与の10分後のラット心臓のECGトレースを示す図である。
【図9】ALMのボーラス投与の30分後のラット心臓のECGトレースを示す図である。
【図10】ALMのボーラス投与の60分後のラット心臓のECGトレースを示す図である
【図11】ALMのボーラス投与の90分後のラット心臓のECGトレースを示す図である。
【図12A】(A)出血性ショックの前の(45%失血);(B)出血性ショックおよびアデノシン/リグノカイン蘇生液の静脈内投与の60分後(C)出血性ショックおよびアデノシン/リグノカイン蘇生液の静脈内投与の180分後のラット心臓のECGトレースを示す図である。
【図12B】(A)出血性ショックの前の(45%失血);(B)出血性ショックおよびアデノシン/リグノカイン蘇生液の静脈内投与の60分後(C)出血性ショックおよびアデノシン/リグノカイン蘇生液の静脈内投与の180分後のラット心臓のECGトレースを示す図である。
【図12C】(A)出血性ショックの前の(45%失血);(B)出血性ショックおよびアデノシン/リグノカイン蘇生液の静脈内投与の60分後(C)出血性ショックおよびアデノシン/リグノカイン蘇生液の静脈内投与の180分後のラット心臓のECGトレースを示す図である。
【図13A】出血性ショック後(A)0.5mlの7.5%生理食塩水の投与後(B)0.5mlのアデノシン/リグノカイン蘇生液の投与後の図12からのラット心臓のECGモニタリングをより詳細に示す図である。
【図13B】出血性ショック後(A)0.5mlの7.5%生理食塩水の投与後(B)0.5mlのアデノシン/リグノカイン蘇生液の投与後の図12からのラット心臓のECGモニタリングをより詳細に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、病院、緊急輸送および病院外環境における外傷犠牲者のための改善された蘇生治療を対象とする。特に、本発明は、火傷、ショック、卒中、心臓発作またはその他の身体的事象に起因して、細胞、組織または臓器に傷害を受けている人の命にかかわる合併症、例えば、手術または臨床的介入に起因する、外傷の結果としての合併症を最小限にするために適用される。戦場での負傷兵または自然災害現場での一般人またはテロリストの攻撃から傷害を受けた一般人は、このような治療が有用であり得る状況である。
【0029】
本発明は、心臓および脳などの重要な臓器、その他の神経組織および細胞、腎組織、肺組織、筋肉組織、肝臓および身体のその他の組織の保護、保存または安定化のために適用される。
【0030】
一形態では、本発明は、外傷後に身体に、(i)カリウムチャネルオープナーまたはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストと、(ii)局所麻酔薬とを含む組成物を投与することによって、外傷後の身体の細胞、組織または臓器の傷害を低減する方法を提供する。
【0031】
本発明のもう1つの形態では、本発明は、頻脈および/または細動の治療を対象とする。一形態では、本発明は、心房または心室起源の心臓不整脈、とりわけ、心室細動を治療する。心室細動および不整脈を含む頻脈および/または細動の治療は、(i)カリウムチャネルオープナーまたはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストと、(ii)局所麻酔薬とを含む組成物を、心臓を停止するのに有効な量で投与することを含む。一実施形態では、投与される量は、心臓を一瞬のみ停止するのに有効である。これは、正常なリズムへの心臓カルディオコンバーティング(cardioconverting)を促進するのに十分であることが多い。1つの代替実施形態では、投与される量は、数回の拍動の期間、心臓の拍動を実質的にダウンレギュレートし、その後、心臓がその通常のリズムを回復するのを可能にするのに有効である。したがって、本発明はまた、頻脈および/または細動を治療する方法に及ぶ。組成物は、ボーラスとして投与されることが好ましい。組成物の投与は、頻脈および/または細動を鎮め、心臓が正常な望ましい洞調律に心変換するのを可能にすると考えられている。
【0032】
好ましい実施形態では、本発明は、続いて、(i)カリウムチャネルオープナーまたはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストと、(ii)局所麻酔薬とを含む第2の組成物を、心臓を停止するのに有効な量未満で投与するさらなるステップを含む。第2の組成物の目的は、心臓およびその他の組織、例えば、脳、肝臓、肺および腎臓を保護することまたはそうするよう補助することである。特に、この実施形態は、再潅流傷害またはスタンニングを低減することを対象とする。上記で概説されるように、再潅流傷害は、頻脈性/細動性心臓を正常な、望ましい洞調律に上手く変換する際のよくある有害な出来事である。好ましい実施形態では、第2の組成物は、別の非停止性ボーラス注射として投与されるか、または点滴によって、もしくは別の送達装置もしくは経路によって連続的に送達される。
【0033】
いずれかの理論または作用様式に拘束されるものではないが、本発明者は、本発明の組成物を用いて、身体を、事実上、生まれながらの冬眠動物のような停止した活気の状態に向けておくことまたは診断の前にもしくは外傷犠牲者に適した医学的な配慮が提供され得るまで身体を安定化することができるということを見い出した。本発明の治療によって提供される全般的な保護は、膜興奮性の調節から多数の細胞内シグナル伝達経路、例えば、熱ショックおよび生存促進キナーゼ経路まで重層的な系を含むと考えられる。主要な焦点は、脳、心臓および肺への損傷を低減することであるが、これはこのことが、回復および臨床転帰の改善と関連があるためである。それにもかかわらず、身体中の損傷を、非特異的方法で低減する広く作用するアプローチが望ましい。本発明の組成物の提案される機序は、(i)ストレスが与えられた場合に細胞の電圧を守るのに役立ち得る、細胞におけるイオン不均衡、特に、ナトリウムおよびカルシウムイオン負荷の低減;(ii)自身において保護的であり、傷害を低減し、ならびにラジカル生成などの続発性効果を低減する、傷害に対する局所および全身炎症反応の減弱;(iii)過凝固状態へ入ることからの保護、すなわち、抗凝固または抗血栓溶解活性を含む。さらに、心臓に関しては、本発明は同時に、ギャップ結合による伝達の調節を含み得る、代謝要求への電気伝導の心房性および心室性整合の改善を、脳に関しては脳機能の改善を提供すると考えられている。本組成物は身体の酸素の要求を、種々の程度に低減し、したがって、身体の細胞、組織または臓器の損傷を低減し得るとも考えられている。別の形態では、本発明は、(i)カリウムチャネルオープナーまたはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストと、(ii)局所麻酔薬とを含む、外傷後の身体の細胞、組織または臓器の傷害を低減するための組成物を提供する。本組成物は、以下の同定されるその他の成分をさらに含み得る。いくつかの実施形態では、カリウムチャネルオープナーまたはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストが、カルシウムチャネル遮断薬などの別の成分と置き換えられる。本組成物は、傷害を低減するための単回用量のために、有効量の(i)および(ii)を含むことが好ましい。
【0034】
さらに驚くべきことに、心室細動を起こしている被験体への停止濃度または停止濃度付近の成分(i)および(ii)を含む組成物の投与は、心臓が、電気ショック治療を必要とせず、正常な洞調律を回復するのを補助することが観察された。
【0035】
また、本発明を用いて、血管造影図検査または運動試験の間、またはそれらに先立って、心室細動を含む不整脈を治療または阻害できる。同様に、負傷患者の緊急輸送の間に、また現場緊急治療のために(すなわち、空港、競技場、病院、戦場または災害現場などの傷害または心臓発作の現場で)適用される。また、血管形成術、心臓カテーテル処置またはペースメーカーもしくはリードもしくは装置の挿入などの冠動脈インターベンションの前、最中、および/または後に、あるいは小児もしくは成人心臓手術、股関節手術、膝の手術、血管の手術もしくは脳の手術、大動脈解離、頚動脈内膜剥離術または一般外科手術を含む手術のためにも使用できる。
【0036】
上記および下記の本発明の実施形態では、組成物の成分(i)は、アデノシン受容体アゴニストであり得る。これは明らかに、アデノシン自体を含みながら、「アデノシン受容体アゴニスト」は内因性アデノシンレベルを高める効果を有する化合物によって置換されてもよいし、または補充されてもよい。これは、化合物が、体内の局所環境において内因性アデノシンレベルを上げる場合には、特に望ましい。内因性アデノシンを上げる効果は、アデノシンの細胞輸送を阻害し、ひいては、循環から除去するか、そうでなければ、その代謝を遅延し、その半減期を効率的に延長する化合物(例えば、ジピリダモール)および/または内因性アデノシン産生を刺激する化合物、例えば、プリンヌクレオシド類似体アカデシン(商標)またはAICA−リボシド(5−アミノ−4−イミダゾールカルボキサミドリボヌクレオシド)によって達成され得る。アカデシンはまた、アデノシンデアミナーゼの競合阻害剤でもある(ウシ腸管粘膜において、Ki=362マイクロモル)。アカデシン(商標)は、約50マイクロM(μM)の血漿濃度を生じるよう投与されることが望ましいが、1マイクロM〜1mMの範囲であり得、20〜200μMがより好ましい。アカデシン(商標)は、10、25、50および100mg/体重1kgの用量で、経口的に投与される用量および/または静脈内投与からヒトにおいて安全であることがわかっている。
【0037】
本発明の一形態では、組成物、および場合により第2の組成物はまた、二価のマグネシウムカチオンを含む。一実施形態では、マグネシウムの濃度は、最大約2.5mMであり、もう1つの実施形態では、マグネシウムはより高い濃度、例えば、最大約20mMで存在する。マグネシウムは、生理学上および製薬上許容される塩、例えば、塩化マグネシウムおよび硫酸マグネシウムなどとして存在する。
【0038】
もう1つの形態では、本発明の組成物は高張性である。本組成物は、7.5%のNaClを含むことが好ましい。本発明者は、ほんの小容量のこの高張性組成物をそれを必要とする被験体に投与すればよいということを見い出した。これは、本発明の組成物が、緊急の際に、または緊急輸送のために適用される場合に特に有利である。この態様によれば、医療器具一式または救急車において、ほんの少量の本発明の組成物が入手できることが必要である。したがって、本組成物は、保存および/または輸送することがより容易である。この「低容量」組成物は、補液の独特の特徴および特定の抗炎症特性、免疫抑制生存促進特性を有する。本発明のこの態様の組成物は、薬理学的に、戦場での負傷兵または都市の「災害激甚地」中の一般人のために時間を「稼ぎ」、これによって安全な避難、トリアージおよび支持療法の開始が可能となる。細胞の内部水分量を変更することによって、細胞の形または緊張度を変更する溶液の能力は、張力(tonicity)と呼ばれる(tono=張力)。高張液は、身体の細胞において見られるものよりも高濃度の電解質と、したがって、身体の細胞の内側よりも相対的に少ない水をこのコンパートメントに含む。このような高張性環境では、浸透圧が、水を細胞から高張性環境へ流出させる。したがって、高張液は、高浸透圧環境を作製し、この環境における高浸透圧が、組織中の周囲の細胞と関連して、液体を、細胞からこのような系へ流れさせる。この方法であまりにも多量の水が除去されると、細胞は機能するのが困難となり得る。
【0039】
本明細書に記載される本発明は、大部分は治療方法およびこれらの成分(i)および(ii)を含有すると記載されている組成物を含む治療のための医薬の製造方法に関する。便宜上、この組成物は、本明細書において「本発明の組成物」とよばれるが、本発明の組成物である、本発明を実施する成分のいくつかの組み合わせがある。さらに、特に、WO00/56145において説明されるように、成分(i)および(ii)は、心臓を停止するか、停止しない濃度で存在し得る。これらの2種の組成物は、本明細書に記載される本発明において異なる方法で用いられ、それぞれ、「停止」濃度の組成物および「非停止」濃度の組成物と呼ばれる。一形態では、停止性組成物は、各々0.1mMを超える(好ましくは、20mMを下回る)、アデノシンおよびリグノカインを含む。停止性組成物は、状況次第では、「心筋保護液」と呼ばれる。非停止性組成物の一形態では、アデノシンおよびリグノカインは、両方とも0.1mMを下回り、好ましくは、50nM〜95μM、より好ましくは、1μM〜90μMである。
【0040】
さらなる一形態では、本発明は、外傷後の身体の細胞、組織または臓器の傷害を低減するための医薬の調製のための(i)カリウムチャネルオープナーまたはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストおよび(ii)局所麻酔薬の使用を提供する。使用は、医薬を、本明細書中、別の場所に示される1以上の方法で投与することを含むことが好ましい。
【0041】
もう1つの形態では、本発明は、外傷後、身体を、事実上、停止した活気の、冬眠様状態に、または冬眠様状態に向けておく方法を提供する。これは、上記の組成物を投与することによって達成される。
【0042】
用語「外傷」は、本明細書において、広い意味で用いられ、身体への重篤なまたは決定的な傷害、創傷またはショックを指す。外傷は、例えば、輸送事故または産業事故、誕生、手術、心臓発作、卒中、火傷、手術またはその他の医学的介入による合併症などの結果としての身体への予期しない肉体的損傷(または傷害)によって引き起こされ得る。外傷は、病院中または病院外両方での、身体の傷害に起因し得る。外傷は、病院で(例えば、病院の救急治療室で)、緊急輸送の間にまたは外傷が生じた病院外環境、例えば、家庭内もしくは産業事故、輸送事故、戦場およびテロリストの攻撃で施される外傷薬と関連していることが多い。多くの場合、外傷療法は、蘇生療法を含み得る。
【0043】
本明細書において、用語「組織」とは、その広い意味で、特定の機能を発揮している身体の任意の部分、例えば、臓器および細胞またはその一部、例えば、細胞株またはオルガネラ調製物を指す。その他の例として、心臓、血管および脈管構造などの循環器、肺などの呼吸器、腎臓または膀胱などの泌尿器、胃、肝臓、膵臓または脾臓などの消化器、精巣、卵巣または子宮などの生殖器、脳などの神経学的臓器、精子または卵子などの生殖細胞および皮膚細胞、心臓細胞、すなわち、筋細胞、神経細胞、脳細胞または腎臓細胞などの体細胞が挙げられる。組織は、ヒトまたは動物ドナーに由来するものであり得る。ドナー臓器はまた、異種移植に適したものであり得る。
【0044】
本明細書において、用語「臓器」とは、その広い意味で、組織および細胞またはその一部、例えば、内皮、上皮、血液脳関門、細胞株またはオルガネラ調製物を含む、特定の機能を発揮する身体の任意の一部を指す。その他の例として、血管、心臓などの循環器、肺などの呼吸器、腎臓または膀胱などの泌尿器、胃、肝臓、膵臓または脾臓などの消化器、陰嚢、精巣、卵巣または子宮などの生殖器、脳などの神経学的臓器、精子または卵子などの生殖細胞および皮膚細胞、心臓細胞、すなわち、筋細胞、神経細胞、脳細胞または腎臓細胞などの体細胞が挙げられる。
【0045】
本明細書において用いられる、用語「含む(comprises)」(またはその文法上の変形)は、用語「含む(includes)」と同等であり、その他の要素または特徴の存在を排除すると受け取られてはならないということも理解されよう。
【0046】
カリウムチャネルオープナーは、カリウムチャネルに対して、ゲートの開閉機構によってそれらを開けるよう作用する薬剤である。これは、通常、細胞の内側から外側である電気化学的勾配に沿った、膜を越えるカリウムの流出をもたらす。したがって、カリウムチャネルは、伝達物質、ホルモンまたは細胞機能を調節する薬物の作用の標的である。当然のことではあるが、カリウムチャネルオープナーは、同様にカリウムチャネルの活性を刺激し、同様の結果を伴うカリウムチャネルアゴニストを含む。また、当然のことながら、種々のカリウムチャネルを開けるまたは調節する多様なクラスの化合物があり、例えば、いくつかのチャネルは電位依存性であり、いくつかの整流性カリウムチャネルは、ATP枯渇、アデノシンおよびオピオイドに対して感受性であり、その他のものは、脂肪酸によって活性化され、その他のチャネルは、ナトリウムおよびカルシウムなどのイオンによって調節される(すなわち、細胞ナトリウムおよびカルシウムの変化に応答するチャネル)。より最近は、2つのポアカリウムチャネルが発見され、静止膜電位の調節に関与するバックグラウンドチャネルとして機能すると考えられている。
【0047】
カリウムチャネルオープナーは、ニコランジル、ジアゾキシド、ミノキシジル、ピナシジル、アプリカリム(aprikalim)、クロモクリム(cromokulim)および誘導体U−89232、P−1075(選択的細胞膜KATPチャネルオープナー)、エマカリム(emakalim)、YM−934、(+)−7,8−ジヒドロ−6,6−ジメチル−7−ヒドロキシ−8−(2−オキソ−1−ピペリジニル)−6H−ピラノ[2,3−f]ベンザ−2,1,3−オキサジアゾール(NIP−121)、RO316930、RWJ29009、SDZPCO400、リマカリム(rimakalim)、シマカリム(symakalim)、YM099、2−(7,8−ジヒドロ−6,6−ジメチル−6H−[1,4]オキサジノ[2,3−f][2,1,3]ベンゾキサジアゾール−8−イル)ピリジン N−オキシド、9−(3−シアノフェニル)−3,4,6,7,9,10−ヘキサヒドロ−1,8−(2H,5H)−アクリジンジオン(ZM244085)、[(9R)−9−(4−フルオロ−3−125ヨードフェニル)−2,3,5,9−テトラヒドロ−4H−ピラノ[3,4−b]チエノ[2,3−e]ピリジン−8(7H)−オン−1,1−ジオキシド]([125I]A−312110)、(−)−N−(2−エトキシフェニル)−N’−(1,2,3−トリメチルプロピル)−2−ニトロエテン−1,1−ジアミン(Bay X9228)、N−(4−ベンゾイルフェニル)−3,3,3−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオンアミン(ZD6169)、ZD6169(KATPオープナー)およびZD0947(KATPオープナー)、WAY−133537および新規ジヒドロピリジンカリウムチャネルオープナー、A−278637からなる群から選択され得る。さらに、カリウムチャネルオープナーは、BK活性化剤(BK−オープナーまたはBK(Ca)タイプカリウムチャネルオープナーまたは大コンダクタンスカルシウム依存性カリウムチャネルオープナーとも呼ばれる)、例えば、ベンズイミダゾロン誘導体NS004(5−トリフルオロメチル−1−(5−クロロ−2−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジヒドロ−2H−ベンズイミダゾール−2−オン)、NS1619(1,3−ジヒドロ−1−[2−ヒドロキシ−5−(トリフルオロメチル)フェニル]−5−(トリフルオロメチル)−2H−ベンズイミダゾール−2−オン)、NS1608(N−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−N’−(2−ヒドロキシ−5−クロロフェニル)尿素)、BMS−204352、レチガビン(GABAアゴニストでもある)から選択できる。また中間体(例えば、ベンゾキサゾール、クロルゾキサゾンおよびゾキサゾラミン)および小コンダクタンスカルシウム依存性カリウムチャネルオープナーもある。KATPチャネルを開けると考えられているその他の化合物として、レボシメンダンおよび硫化水素ガス(HS)またはHS供与体(例えば、硫酸化ナトリウム、NaHS)が挙げられる。
【0048】
さらに、カリウムチャネルオープナーは、間接的カルシウムアンタゴニストとして作用し得る、すなわち、それらは、第3相再分極を加速することによって心臓活動電位期間を短縮し、ひいては、プラトー相を短縮することによって細胞へのカルシウム流入を低減するよう作用する。カルシウム流入の減少は、L型カルシウムチャネルが関与すると考えられているが、その他のカルシウムチャネルも関与している可能性がある。
【0049】
カリウムチャネルオープナーとしては、アデノシン(6−アミノ−9−β−D−リボフラノシル−9H−プリン)が特に好ましい。アデノシンは、カリウムチャネルを開け、細胞を過分極させ、代謝機能を抑制し、おそらくは内皮細胞を保護し、組織のプレコンディショニングを増強し、虚血または損傷から保護することができる。アデノシンはまた、間接的カルシウムアンタゴニスト、血管拡張薬、抗不整脈薬、抗アドレナリン薬、フリーラジカルスカベンジャー、停止薬、抗炎症薬(好中球活性化を減弱する)、代謝製剤および可能性ある一酸化窒素供与体でもある。より最近、アデノシンは、いくつかのステップを阻害し、これが血液凝固過程の遅延をもたらし得ることがわかった。さらに、脳中のアデノシンレベルの上昇は、睡眠を引き起こすことがわかっており、種々の形の休止状態に関与している可能性がある。アデノシン類似体、2−クロロ−アデノシンも使用できる。
【0050】
適したアデノシン受容体アゴニストは、以下から選択できる:N−シクロペンチルアデノシン(CPA)、N−エチルカルボキサミドアデノシン(NECA)、2−[p−(2−カルボキシエチル)フェネチル−アミノ−5’−N−エチルカルボキサミドアデノシン(CGS−21680)、2−クロロアデノシン、N6−[2−(3,5−デメトキシフェニル)−2−(2−メトキシフェニル]エチルアデノシン、2−クロロ−N6−シクロペンチルアデノシン(CCPA)、N−(4−アミノベンジル)−9−[5−(メチルカルボニル)−β−D−ロボフラノシル]−アデニン(AB−MECA)、([IS−[1a,2b,3b,4a(S)]]−4−[7−[[2−(3−クロロ−2−チエニル)−1−メチル−プロピル]アミノ]−3H−イミダゾール[4,5−b]ピリジル−3−イル]シクロペンタンカルボキサミド(AMP579)、N−(R)−フェニルイソプロピルアデノシン(R−PLA)、アミノフェニルエチルアデノシン(APNEA)およびシクロヘキシルアデノシン(CHA)。CCPAは、特に好ましい。その他のものとして、全アデノシンA1受容体アゴニスト、例えば、N−[3−(R)−テトラヒドロフラニル]−6− アミノプリンリボシド(CVT−510)または部分アゴニスト、例えばCVT−2759およびアロステリックエンハンサー、例えば、PD81723が挙げられる。その他のアゴニストとして、N−シクロペンチル−2−(3−フェニルアミノカルボニルトリアゼン−1−イル)アデノシン(TCPA)、ヒトアデノシンA1受容体に対して高親和性を有する極めて選択的なアゴニストが挙げられ、A1アデノシン受容体のアロステリックエンハンサーとして、2−アミノ−3−ナフトイルチオフェン(napthoylthiophene)が挙げられる。
【0051】
一態様では、本発明の組成物は、A1アデノシン受容体アゴニストと局所麻酔薬とを含む。CCPAは、特に好ましいA1アデノシン受容体アゴニストである。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態は、直接カルシウムアンタゴニストを利用し、その主な作用は細胞へのカルシウム流入を減少させることである。これらは、以下により詳細に説明される、少なくとも5つの主要なクラスのカルシウムチャネル遮断薬から選択される。当然のことではあるが、これらのカルシウムアンタゴニストは、細胞へのカルシウム流入を阻害することによる、一部の効果をカリウムチャネルオープナー、特に、ATP感受性カリウムチャネルオープナーと共有する。
【0053】
カルシウムチャネル遮断薬はまた、カルシウムアンタゴニストまたはカルシウム遮断薬とも呼ばれる。それらは臨床上、心拍数および収縮性を低減させ、血管を弛緩するために用いられることが多い。それらを用いて高血圧、狭心症または虚血によって引き起こされる不快感 および一部の不整脈を治療でき、それらは多数の効果をβ−遮断薬と共有し、これらもまたカルシウムを減少させるために試用できる。β−遮断薬(またはβ−アドレナリン作動性遮断薬)として、アテノロール(テノーミン(商標))、塩酸プロプラノロール(例えば、インデラル(商標))、塩酸エスモロール(ブレビブロック(商標))、コハク酸メトプロロール(例えば、ロプレソール(商標)またはトプロールXL(商標))、塩酸アセブトロール(セクトラール(商標))、カルテオロール(例えば、カルトロール(Cartrol)(商標))、硫酸ペンブトロール(レバトール(Levatol)(商標))およびピンドロール(ビスケン(Visken)(商標))が挙げられる。
【0054】
5つの主要なクラスのカルシウムチャネル遮断薬が、多様な化学構造とともに知られている:1.ベンゾチアゼピン:例えば、ジルチアゼム、2.ジヒドロピリジン:例えば、ニフェジピン、ニカルジピン、ニモジピンおよび多数のその他のもの、3.フェニルアルキルアミン:例えば、ベラパミル、4.ジアリールアミノプロピルアミンエーテル:例えば、ベプリジル、5.ベンズイミダゾール置換テトラリン:例えば、ミベフラジル。
【0055】
従来のカルシウムチャネル遮断薬は、L型カルシウムチャネル(「スローチャネル」)と結合し、これらのチャネルは、心筋および平滑筋において豊富であり、このことは、これらの薬物が、何故、心血管系に対して選択的効果を有するかを説明するのに役立つ。種々のクラスのL型カルシウムチャネル遮断薬が、α1−サブユニット、主要チャネル形成サブユニット上の異なる部位と結合する(α2、β、γ、δサブユニットも存在する)。異なるサブクラスのL型チャネルが存在し、これが組織選択性の一因であり得る。より最近、異なる特異性を有する新規カルシウムチャネル遮断薬も開発された。例えば、ベプリジルは、L型カルシウムチャネル遮断活性に加え、Na+およびK+チャネル遮断活性を有する薬物である。もう1つの例として、ミベフラジルがあり、これは、T型カルシウムチャネル遮断活性ならびにL型カルシウムチャネル遮断活性を有する。
【0056】
3種の一般的なカルシウムチャネル遮断薬として、ジルチアゼム(カルディゼム)、ベラパミル(カラン)およびニフェジピン(プロカジア)がある。ニフェジピンおよび関連ジヒドロピリジンは、正常用量では、房室伝導系または洞房結節に対して大きな直接的な効果はなく、したがって、伝導または自動性に対して直接的な効果はない。それに対して、その他のカルシウムチャネル遮断薬は、負の変時性/変伝導性効果(ペースメーカー活性/伝導速度)を有する。例えば、ベラパミル(およびより小さな程度ではあるが、ジルチアゼム)は、AV伝導系およびSA結節におけるスローチャネルの回復速度を低下させ、したがって、SA結節ペースメーカー活性およびスロー伝導を抑制するよう直接的に作用する。これらの2種の薬物は、頻度依存性および電圧依存性であり、それによって、迅速に脱分極している細胞においてより有効となる。また、ベラパミルは房室ブロックまたは心室機能の大きな抑制の可能性のために、β−遮断薬との組み合わせでは禁忌である。さらに、ミベフラジルは、負の変時性および変伝導性効果を有する。カルシウムチャネル遮断薬(特に、ベラパミル)はまた、血管攣縮を含む機序が根底にある場合、不安定狭心症の治療において特に有効であり得る。
【0057】
ΩコノトキシンMVIIA(SNX−111)は、N型カルシウムチャネル遮断薬であり、鎮痛剤としてモルヒネよりも100〜1000倍強力であるが、常習性はないと報告されている。このコノトキシンは、難治性疼痛を治療するために調査されている。SNX−482、肉食性クモ毒の毒液に由来するさらなる毒素は、R型カルシウムチャネルを遮断する。この化合物は、アフリカンタランチュラ(African tarantula)、ヒステロクラテス・ギガス(Hysterocrates gigas)の毒液から単離され、記載された最初のR型カルシウムチャネル遮断薬である。R型カルシウムチャネルは、身体の自然な情報伝達ネットワークにおいて役割を果たすと考えられており、これでは、脳機能の調節の一因である。動物界から得られたその他のカルシウムチャネル遮断薬として、南アフリカ産サソリ由来のクルトキシン(Kurtoxin)、アフリカ産タランチュラ(African Tarantula)由来のSNX−482、オーストラリア産タイパンスネーク(Australian Taipan snake)由来のタイカトキシン(Taicatoxin)、ジョウゴグモ(Funnel Web Spider)由来のアガトキシン 、ブルーマウンテンジョウゴグモ(Blue Mountains Funnel Web Spider)由来のアトラコトキシン(Atracotoxin)、ウミカタツムリ(Marine Snail)由来のコノトキシン、チャイニーズバードスパイダー(Chinese bird spider)由来のHWTX−I、サウスアメリカンローズタランチュラ(South American Rose Tarantula)由来のグラモトキシン(Grammotoxin)SIAが挙げられる。この羅列はまた、カルシウムアンタゴニスト効果を有するこれらの毒素の誘導体を含む。
【0058】
直接ATP感受性カリウムチャネルオープナー(例えば、ニコランジル、アプリカレム(aprikalem))または間接的ATP感受性カリウムチャネルオープナー(例えば、アデノシン、オピオイド)はまた、間接的カルシウムアンタゴニストであり、組織へのカルシウム流入を減少させる。カルシウムアンタゴニストとしても作用するATP感受性カリウムチャネルオープナーについて考えられる1つの機構は、第3相再分極を加速することによって心臓活動電位期間を短縮し、ひいては、プラトー相を短縮することすることである。プラトー相の間、カルシウムの正味の流入は、カリウムチャネルによるカリウムの流出によって釣り合いが取られ得る。第3相再分極の増強は、L型カルシウムチャネルを遮断または阻害することによって細胞へのカルシウム流入を阻害し、組織細胞におけるカルシウム(およびナトリウム)過負荷を防ぐことができる。
【0059】
カルシウムチャネル遮断薬は、ニフェジピン、ニカルジピン、ニモピジピン(nimopidipine)、ニソルジピン、レルカニジピン、テロジピン(telodipine)、アンジゼム(angizem)、アルチアゼム(altiazem)、ベプリジル、アムロピジン(amlopidine)、フェロジピン、イスラジピンおよびカベロ(cavero)およびその他のラセミ化号物バリエーションから選択できる。
【0060】
好ましい一形態では、カリウムチャネルオープナーまたはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストは、1分未満の、好ましくは、20秒未満の血液半減期を有する。
【0061】
いくつかの実施形態では、本組成物は、さらなるカリウムチャネルオープナーまたはアゴニスト、例えば、ジアゾキシドまたはニコランジルを含み得る。
【0062】
本発明者はまた、ジアゾキシドの、カリウムチャネルオープナーまたはアデノシン受容体アゴニストと、局所麻酔薬との含有物は、傷害を低減することを見い出した。したがって、もう1つの態様では、本発明の組成物は、さらにジアゾキシドを含む。
【0063】
ジアゾキシドは、カリウムチャネルオープナーであり、本発明では、イオンおよび容量調節、酸化的リン酸化およびミトコンドリア膜完全性を保つと考えられている(濃度依存性と思われる)。より最近、ジアゾキシドは、再酸素負荷でのミトコンドリアの酸化ストレスを減少することによって心保護を提供することがわかった。目下のところ、カリウムチャネルオープナーの保護効果が、ミトコンドリアにおける反応性酸素種生成の調節と関連しているかどうかはわかっていない。ジアゾキシドの濃度は、約1〜200μMの間であることが好ましい。通常、これがジアゾキシドの有効量としてである。ジアゾキシドの濃度は、約10μMであることがより好ましい。
【0064】
本発明者らはまた、ニコランジルの、カリウムチャネルオープナーまたはアデノシン受容体アゴニストと、局所麻酔薬との含有物は、傷害を低減することを見い出した。したがって、もう1つの態様では、本発明の組成物は、さらにニコランジルを含む。
【0065】
ニコランジルは、カリウムチャネルオープナーであり、組織および内皮を含む微小血管完全性を、虚血および再潅流損傷から保護し得る一酸化窒素供与体である。したがって、 KATPチャネルを開くことおよび硝酸様効果の二重の作用によって利益を与え得る。ニコランジルはまた、血管を拡張させ、これによって、前負荷および後負荷の両方を低減することによって、心臓がより容易に働くことが可能となることによって高血圧を低下させ得る。また、抗炎症特性および抗増殖特性を有し、これが虚血/再灌流傷害をさらに減弱し得ると考えられている。
【0066】
本発明の組成物はまた、局所麻酔を導入する、そうでなければ局所麻酔薬として知られている化合物を含む。局所麻酔薬は、メキシレチン、ジフェニルヒダントイン、プリロカイン、プロカイン、メピボカイン(mepivocaine)、キニジン、ジソピラミドおよびクラス1B抗不整脈薬、例えば、リグノカインまたはその誘導体、例えば、QX−314から選択され得る。
【0067】
局所麻酔薬は、リグノカインであることが好ましい。この明細書では、用語「リドカイン」および「リグノカイン」は、同義的に用いられ、リグノカインは、おそらくは、ナトリウムファストチャネルを遮断し、代謝機能を抑制し、遊離細胞質カルシウムを低下させ、細胞からの酸素放出から保護し、おそらくは内皮細胞を保護し、筋フィラメント損傷から保護することによって局所麻酔薬として作用することができるので好ましい。リグノカインは、低い治療濃度では、通常、心房性組織に対してほとんど効果がなく、したがって、心房細動、心房粗動および上室性頻脈の治療において無効である。リグノカインはまた、フリーラジカルスカベンジャー、抗不整脈薬であり、抗炎症特性および抗過凝固特性を有する。リグノカインのような局所麻酔薬は、非麻酔性治療濃度で電圧依存性ナトリウムファストチャネルを完全には遮断しないが、チャネル活性をダウンレギュレートし、ナトリウム流入を減少させるということも理解されなければならない。リグノカインは、抗不整脈薬として、通常、第2相の活動電位を通じて継続し、結果として、活動電位および不応期を短縮する、小さなナトリウム電流を標的とすると考えられている。
【0068】
リグノカインは、主に、ナトリウムファストチャネルを遮断することによって作用するので、当然のことではあるが、本発明の方法および組成物において、その他のナトリウムチャネル遮断薬を代わりに用いてもよいし、または局所麻酔薬と組み合わせて用いてもよい。また、当然のことながら、ナトリウムチャネル遮断薬は、ナトリウムチャネルを実質的に遮断するよう、またはナトリウムチャネルを少なくともダウンレギュレートするよう作用する化合物を含む。適したナトリウムチャネル遮断薬の例として、テトロドトキシンなどの毒液および薬物プリマキン、QX、HNS−32(CAS Registry 186086−10−2番)、NS−7、κ−オピオイド受容体アゴニストU50 488、クロベネチン(crobenetine)、ピルシカイニド、フェニトイン、トカイニド、メキシレチン、NW−1029(ベンジルアミノプロパンアミド誘導体)、RS100642、リルゾール、カルバマゼピン、フレカイニド、プロパフェノン、アミオダロン、ソタロール、ブレチリウム、イミプラミンおよびモリシジンまたはそれらの誘導体のいずれかが挙げられる。その他の適したナトリウムチャネル遮断薬として、ビンポセチン(エチルアポビンカミネート(ethyl apovincaminate)およびβ−カルボリン誘導体、向知性β−カルボリン(アンボカーブ(ambocarb)、AMB)が挙げられる。
【0069】
一態様では、本発明の組成物は、本質的に、(i)カリウムチャネルオープナーまたはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストと、(ii)局所麻酔薬とからなる。
【0070】
もう1つの態様では、本発明の組成物は、オピオイドをさらに含み得る。オピオイドのさらなる追加は、改善されていない場合には、傷害の低減に対して同様の効果を有し得る。
【0071】
オピオイドは、オピオイドアゴニストとしても知られ、または呼ばれ、アヘン(Grアヘン、ケシジュース)またはモルヒネ様特性を阻害し、通常、臨床上、特に、手術に際して、手術後の両方で疼痛を管理するために、中程度から強い鎮痛薬として用いられる一群の薬物である。オピオイドのその他の薬理作用として、眠気、呼吸抑制、気分の変化および意識の喪失を伴わない意識混濁が挙げられる。
【0072】
オピオイドはまた、冬眠、正常な代謝速度および正常な中核体温の低下を特徴とする休止状態の1つの形の過程における「誘因」の一部として関与すると考えられている。この冬眠状態では、組織は、そうでなければ、酸素または代謝燃料供給の減少によって引き起こされ得る損傷からより保存され、虚血再潅流傷害からも保護される。
【0073】
3種のオピオイドペプチド:エンケファリン、エンドルフィンおよびダイノルフィンがある。オピオイドは、心臓、脳およびその他の組織において立体特異的、飽和性結合部位と相互作用してアゴニストとして作用する。3種の主要なオピオイド受容体、すなわち、μ、κおよびδ受容体が同定およびクローニングされている。3種の受容体すべてが、結果として、G−タンパク質共役受容体ファミリー(このクラスは、アデノシンおよびブラジキニン受容体を含む)に分類されている。オピオイド受容体は、さらにサブタイプに分けられており、例えば、δ受容体には2種のサブタイプ、δ−1およびδ−2がある。
【0074】
オピオイドの心血管効果は、中枢的に(すなわち、視床下部および脳幹の心血管および呼吸器中枢で)および末梢的に(すなわち、心筋細胞および脈管構造に対する直接および間接的両方の効果)の両方で損傷していない身体内に向けられる。例えば、オピオイドは、血管拡張に関与していることがわかっている。心臓および心血管系に対するオピオイドの一部の作用は、直接オピオイド受容体媒介性作用またはオピオイド、例えば、アリールアセトアミド薬の抗不整脈作用で観察されている、間接的、用量依存性非オピオイド受容体媒介性作用、例えば、イオンチャンネル遮断を含み得る。心臓は、3種のオピオイドペプチド、すなわち、エンケファリン、エンドルフィンおよびダイノルフィンを合成または産生できるということも知られている。しかし、δおよびκオピオイド受容体のみが、心室性筋細胞で同定されている。
【0075】
いずれかの作用様式に拘束されるものではないが、オピオイドは、虚血性損傷を制限することおよび高レベルの損傷物質または虚血の際に自然に放出される化合物に対抗するよう生じる、不整脈の発生頻度を低下することによって、心保護的効果を提供すると考えられている。これは、筋線維膜における、およびミトコンドリア膜におけるATP感受性カリウムチャネルの活性化によって媒介され得、カリウムチャネルを開けることに関与している。さらに、オピオイドの心保護的効果は、筋線維膜における、およびミトコンドリア膜におけるATP感受性カリウムチャネルの活性化によって媒介されるということも考えられている。したがって、カリウムチャネルオープナーまたはアデノシン受容体アゴニストもカリウムチャネルを開けることに間接的に関与しているので、オピオイドは、カリウムチャネルオープナーまたはアデノシン受容体アゴニストの代わりに、またはそれらと組み合わせて使用できるということも考えられる。
【0076】
当然のことではあるが、オピオイドは、オピオイド受容体に対して直接的に、および間接的に作用する化合物(天然または合成)を含む。オピオイドはまた、間接的用量依存性、非オピオイド受容体媒介性作用、例えば、オピオイドの抗不整脈作用で観察されているイオンチャンネル遮断を含む。
【0077】
したがって、オピオイドは、エンケファリン、エンドルフィンおよびダイノルフィンから選択され得る。オピオイドは、δ、κおよび/またはμ受容体を標的とするエンケファリンであることが好ましい。オピオイドは、δオピオイド受容体アゴニストであることがより好ましい。オピオイドは、δ−1−オピオイド受容体アゴニストおよびδ−2−オピオイド受容体アゴニストから選択されることがさらにより好ましい。[D−Pen 2,5]エンケファリン(DPDPE)は、特に好ましいδ−1−オピオイド受容体アゴニストである。
【0078】
もう1つの態様では、本発明の組成物は、本質的に、(i)カリウムチャネルオープナーまたはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストと、(ii)局所麻酔薬と、(iii)δ−1−オピオイドとからなる。DPDPEは、特に好ましいδ−1−オピオイド受容体アゴニストである。
【0079】
本発明者は、組織中の細胞による水の取り込みを最小限にするか、減少させる化合物の、カリウムチャネルオープナーまたはアデノシン受容体アゴニストと、局所麻酔薬との含有物、例えば、スクロースと、アデノシンと、リグノカインとを含む組成物は、身体の傷害を低減するのを補助することを見い出した。
【0080】
したがって、さらなる態様では、本発明の組成物は、細胞、組織または臓器中の細胞による水の取り込みを最小限にするか、減少させるための少なくとも1種の化合物をさらに含み得る。
【0081】
組織中の細胞による水の取り込みを最小限にするか、減少させる化合物は、水分の移動、すなわち、細胞外および細胞内環境間の水の移動を制御する傾向がある。したがって、これらの化合物は、浸透性の制御または調節に関与している。1つの結果は、組織中の細胞による水の取り込みを最小化するか、減少させる化合物は、浮腫、例えば、虚血性傷害の際に起こり得る浮腫と関連している細胞膨潤を低減するということである。
【0082】
組織中の細胞による水の取り込みを最小限にするか、減少させる化合物は、通常、不透過物または受容体アンタゴニストもしくはアゴニストである。本発明の不透過物は、スクロース、ペンタスターチ、ヒドロキシエチルデンプン、ラフィノース、マンニトール、グルコン酸、ラクトビオン酸およびコロイドからなる群のうち1種以上から選択され得る。コロイドとして、アルブミン、ヘタスターチ、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン40およびデキストラン60が挙げられる。浸透圧目的で選択され得るその他の化合物として、動物界において見られる浸透圧調整物質の主要なクラスに由来するもの、例えば、多価アルコール(ポリオール)および糖類、その他のアミノ酸およびアミノ酸誘導体およびメチル化アンモニウムおよびスルホニウム化合物が挙げられる。
【0083】
細胞膨潤はまた、臓器回復、保存および手術による移植の際、重要であり得る炎症反応に起因し得る。サブスタンスP、重要な炎症性ニューロペプチドは、細胞浮腫をもたらすことがわかっており、したがって、サブスタンスPのアンタゴニストは細胞膨潤を低減し得る。実際、サブスタンスPのアンタゴニスト、(特異的ニューロキニン−1)受容体(NK−1)は、炎症性肝臓損傷、すなわち、浮腫形成、好中球浸潤、肝細胞アポトーシスおよび壊死を低減することがわかっている。2種のこのようなNK−1アンタゴニストとして、CP−96,345すなわち[(2S,3S)−シス−2−(ジフェニルメチル)−N−((2−メトキシフェニル)−メチル)−1−アザビシクロ(2.2.2.)−オクタン−3−アミン(CP−96,345)]およびL−733,060すなわち[(2S,3S)3−([3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]メトキシ)−2− フェニルピペリジン]が挙げられる。R116301すなわち[(2R−トランス)−4−[1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾイル]−2−(フェニルメチル)−4−ピペリジニル]−N−(2,6−ジメチルフェニル)−1−アセトアミド(S)−ヒドロキシブタンジオエート]は、もう1つの特異的活性ニューロキニン−1(NK(I))受容体アンタゴニストであり、ヒトNK(1)受容体(K(i):0.45nM)に対してナノモル以下の親和性を有し、NK(2)およびNK(3)受容体に関しては200倍を上回る選択性を有する。同様に細胞膨潤を低減し得るニューロキン受容体2(NK−2)のアンタゴニストとして、SR48968が挙げられ、NK−3として、SR142801およびSB−222200が挙げられる。シクロスポリンAを用いる、ミトコンドリア透過性移行の遮断およびミトコンドリア内膜電位の膜電位の低減はまた、単離された脳切片において、虚血導入性細胞膨潤を減少させることがわかった。さらに、グルタミン酸受容体アンタゴニスト(AP5/CNQX)および反応性酸素種スカベンジャー(アスコルビン酸、トロロクス(R)、ジメチルチオ尿素、テンポール(R))もまた、細胞膨潤の減少を示した。したがって、組織中の細胞による水の取り込みを最小限にするか、減少させる化合物はまた、これらの化合物のうち任意の1種から選択され得る。
【0084】
また、当然のことではあるが、以下のエネルギー基質もまた、不透過物として作用し得る。適したエネルギー基質は、グルコースおよびその他の糖類、ピルビン酸、乳酸、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アルギニン、エクトイン、タウリン、N−アセチル−β−リシン、アラニン、プロリン、β−ヒドロキシ酪酸およびその他のアミノ酸およびアミノ酸誘導体、トレハロース、フロリドシド、グリセロールおよびその他の多価アルコール(ポリオール)、ソルビトール、ミオイノシトール、ピニトール、インスリン、α−ケトグルタル酸、リンゴ酸、コハク酸、トリグリセリドおよび誘導体、脂肪酸およびカルニチンおよび誘導体からなる群に由来する1種以上から選択され得る。一実施形態では、組織中の細胞による水の取り込みを最小限にするか、減少させるための少なくとも1種の化合物は、エネルギー基質である。エネルギー基質は、代謝を回復するのに役立つ。エネルギー基質は、グルコースおよびその他の糖類、ピルビン酸、乳酸、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アルギニン、エクトイン、タウリン、N−アセチル−β−リシン、アラニン、プロリンおよびその他のアミノ酸およびアミノ酸誘導体、トレハロース、フロリドシド、グリセロールおよびその他の多価アルコール(ポリオール)、ソルビトール、ミオイノシトール、ピニトール、インスリン、α−ケトグルタル酸、リンゴ酸、コハク酸、トリグリセリドおよび誘導体、脂肪酸およびカルニチンおよび誘導体からなる群に由来する1種以上から選択され得る。エネルギー基質が、身体の細胞、組織または臓器におけるエネルギー変換およびATPの生成のための還元当量の供給源であることを考えると、当然のことではあるが、エネルギー還元当量の直接供給は、エネルギー生成の基質として使用できる。例えば、1種以上または種々の割合のいずれかの還元型および酸化型のニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチド(例えば、NADもしくはNADPおよびNADHもしくはNADPH)またはフラビンアデニンジヌクレオチド(FADHもしくはFAD)の供給は、ストレス時のATP生成を維持するための結合エネルギーを供給するために直接的に使用できる。外傷の治療または傷害を低減するための本発明の組成物に、β−ヒドロキシ酪酸が加えられることが好ましい。
【0085】
全身、臓器、組織または細胞にエネルギー基質を提供することに加え、硫化水素(HS)またはHS供与体(例えば、NaHS)の存在下で、これらの基質の代謝における改善が起こり得る。硫化水素(HS)またはHS供与体(例えば、NaHS)の存在は、虚血、再灌流および外傷のような代謝不均衡の期間の間、全身、臓器、組織または細胞を停止、保護および保存する際にエネルギー需要を低下させることによって、これらのエネルギー基質を代謝するのに役立ち得る。1μM(10−6M)濃度を越える硫化水素の濃度は、ミトコンドリア呼吸鎖の一部であり、エネルギー基質由来の高エネルギー還元当量の代謝を、エネルギー(ATP)生成および酸素消費と共役する、呼吸複合体IVでの呼吸を阻害する代謝毒であり得る。しかし、硫化水素は、10−6Mを下回る低濃度(例えば、10−10〜10−9M)で、全身、臓器、組織または細胞のエネルギー需要を減少させることができ、これが、停止、保護および保存をもたらし得ることが観察された。つまり、極めて低レベルの硫化物は、ミトコンドリアをダウンレギュレートし、O消費を減少させ、「呼吸制御」を実質的に増大させ、それによって、ミトコンドリアは、ミトコンドリア内膜をまたぐ電気化学的勾配を崩壊させず、少ないOしか消費しない。したがって、少量の硫化物は、直接的または間接的にのいずれかで、水素イオン漏出チャネルを閉じ、ミトコンドリア呼吸をATP生成とより緊密に良好に共役することができ、この効果によって、エネルギー基質に由来する高エネルギー還元当量の代謝が改善され得るという知見がある。また、硫黄濃度が低い場合には、ヒトを含む哺乳類では、細胞サイトゾルとミトコンドリアの間に硫黄循環が存在する可能性がある。極僅かの硫黄循環の存在は、ミトコンドリアの進化的起源および硫化物産生性宿主細胞と硫化物酸化性共生細菌の間の共生関係からの真核生物細胞におけるそれらの出現に関する現在の考えと一致する。したがって、硫化水素(HS)またはHS供与体(例えば、NaHS)は、その他のエネルギー基質の代謝の改善に加え、それ自体エネルギー基質であり得る。したがって、一形態では、本発明は、硫化水素または硫化水素供与体をさらに含む上記の組成物を提供する。
【0086】
一実施形態では、組織中の細胞による水の取り込みを最小限にするか、減少させるための少なくとも1種の化合物は、スクロースである。スクロースは、不透過物として水の移動を減少させる。スクロース、ラクトビオン酸およびラフィノースなどの不透過剤は、大きすぎて細胞に入ることができず、したがって、組織内の細胞外間隙中に留まり、特に、組織の保存の間に起こる、そうでなければ、組織に損傷を与える細胞膨潤を防ぐ浸透力をもたらす。
【0087】
もう1つの実施形態では、組織中の細胞による水の取り込みを最小限にするか、減少させるための少なくとも1種の化合物は、コロイドである。適したコロイドとして、それだけには限らないが、デキストラン−70、40、50および60、ヒドロキシエチルデンプンおよび修正ゼラチン(modified fluid gelatine)が挙げられる。コロイドは、液体に固体が懸濁している連続液相を有する組成物である。コロイドは、臨床上、重篤な傷害後の身体における細胞内、細胞外および血液コンパートメント間の水およびイオン分布のバランスの回復の助けとなるよう使用できる。コロイドはまた、臓器保存用溶液においても使用できる。晶液の投与はまた、身体の水およびイオンバランスを回復することができるが、それらは液体に懸濁された固体を有さないので、通常、より多くの容量の投与が必要である。したがって、容積増量剤は、コロイドベースまたは晶液ベースであり得る。
【0088】
組織中の細胞による水の取り込みを最小限にするか、減少させる化合物の濃度は、約5〜500mMの間であることが好ましい。通常、組織中の細胞による水の取り込みを減少させるための有効量である。組織中の細胞による水の取り込みを最小限にするか、減少させる化合物の濃度は、約20〜100mMの間であることがより好ましい。組織中の細胞による水の取り込みを最小限にするか、減少させる化合物の濃度は、約70mMであることがさらにより好ましくい。
【0089】
さらなる実施形態では、本発明の組成物は、組織中の細胞による水の取り込みを最小限にするか、減少させるための、2種以上の化合物を含み得る。例えば、不透過物(ラフィノース、スクロースおよびペンタスターチ)の組み合わせが、組成物に含まれてもよく、さらに、コロイドおよび燃料基質の組み合わせが組成物に含まれてもよい。
【0090】
本発明の組成物は、低浸透圧性、等浸透圧性または高浸透圧性であってもよい。
【0091】
本発明者はまた、組織中の細胞の原形質膜を越えるナトリウムおよび水素イオンの輸送を阻害する化合物の、カリウムチャネルオープナーまたはアデノシン受容体アゴニストと、局所麻酔薬との含有物が傷害の低減を補助することを見い出した。
【0092】
したがって、もう1つの態様では、本発明の組成物は、組織中の細胞の原形質膜を越えるナトリウムおよび水素イオンの輸送を阻害する化合物をさらに含む。
【0093】
組織中の細胞の膜を超えるナトリウムおよび水素の輸送を阻害する化合物はまた、Na+/H+交換輸送阻害剤とも呼ばれる。Na+/H+交換輸送阻害剤は、ナトリウムおよびカルシウムが細胞に入るのを低減する。
【0094】
組織中の細胞の膜を越えるナトリウムおよび水素の輸送を阻害する化合物は、アミロライド、EIPA(5−(N−エンチル−N−イソプロピル)−アミロリド)、カリポリド(HOE−642)、エニポリド(eniporide)、トリアムテレン(2,4,7−トリアミノ−6−フェニルテリド)、EMD84021、EMD94309、EMD96785、EMD85131、HOE694からなる群のうち1種以上から選択され得ることが好ましい。B11B−513およびT−162559は、Na+/H+交換輸送のアイソフォーム1のその他の阻害剤である。
【0095】
Na+/H+交換輸送阻害剤は、アミロライド(N−アミジノ−3,5−ジアミノ−6−クロロピリジン−2−カルボキシミドヒドロクロリドジヒドレート)であることが好ましい。アミロライドは、Na+/H+交換輸送体(Na+/H+交換輸送体はNHE−1と略されることも多い)を阻害し、カルシウムが細胞に入るのを低減する。虚血の間、過剰の細胞プロトン(または水素イオン)は、Na+/H+交換輸送体によってナトリウムに交換されると考えられている。
【0096】
組織中の細胞の膜を超えるナトリウムおよび水素の輸送を阻害する化合物の濃度は、約1.0nM〜1.0mMの間であることが好ましい。組織中の細胞の膜を超えるナトリウムおよび水素の輸送を阻害する化合物の濃度は、約20μMであることがより好ましい。
【0097】
本発明者はまた、抗酸化剤の、カリウムチャネルオープナーまたはアデノシン受容体アゴニストと、局所麻酔薬との含有物を見い出した。したがって、もう1つの態様では、本発明の組成物は、抗酸化剤をさらに含み得る。
【0098】
抗酸化剤は、通常、組織において酸化の損傷作用に対抗することができる酵素またはその他の有機物質である。本発明の組成物の抗酸化剤成分は、アロプリノール、カモシン(camosine)、ヒスチジン、補酵素Q10、n−アセチル−システイン、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、グルタチオンレダクターゼ(GR)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GP)モジュレーターおよびレギュレーター、カタラーゼおよびその他の 金属結合酵素、NADPHおよびAND(P)Hオキシダーゼ阻害剤、グルタチオン、U−74006F、ビタミンE、トロロクス(ビタミンEの可溶性型)、その他のトコフェロール(γおよびα、β、δ)、トコトリエノール、アスコルビン酸、ビタミンC、β−カロテン(ビタミンAの植物型)、セレン、γリノール酸(GLA)、α−リポ酸、尿酸(尿酸塩)、クルクミン、ビリルビン、プロアントシアニジン、エピガロカテキンガレート、ルテイン、リコペン、ビオフラボノイド、ポリフェノール、トロロクス(R)、ジメチルチオ尿素、テンポール(R)、カロテノイド、補酵素Q、メラトニン、フラボノイド、ポリフェノール、アミノインドール、プロブコールおよびニテカポン、21−アミノステロイドまたはラザロイド、スルフィドリル含有化合物(チアゾリジン、エブセレン、ジチオールチオン)およびN−アセチルシステインからなる群のうち1種以上から選択され得る。その他の抗酸化剤として、心筋梗塞の患者で.動脈性高血圧症および心不全の治療のために用いられるACE阻害剤(カプトプリル、エナラプリル、リシノプリル)が挙げられる。ACE阻害剤は、反応性酸素種を除去することによって再酸素負荷された心筋に対してその有益な効果を発揮する。また、使用できるその他の抗酸化剤として、β−メルカプトプロピオニルグリシン、O−フェナントロリン、ジチオカルバメート、セレギリゼ(selegilize)およびデスフェリオキサミン(デスフェラール)が挙げられ、鉄キレート剤は、実験梗塞モデルにおいて使用でき、これでは、ある程度のレベルの抗酸化剤保護を発揮した。スピントラップ剤、例えば、5’−5−ジメチル−1−ピロリオン−N−オキシド(DMPO)および(a−4−ピリジル−1−オキシド)−N−t−ブチルニトロン(POBN)はまた、抗酸化剤としても作用する。その他の抗酸化剤として、ニトロンラジカルスカベンジャーα−フェニル−t−N−ブチルニトロン(PBN)および誘導体PBN(二硫黄誘導体を含む);N−2−メルカプトプロピオニルグリシン(MPG) OHフリーラジカルの特異的スカベンジャー;リポオキシゲナーゼ阻害剤 ノルジヒドログアレチン酸(nordihydroguaretic acid)(NDGA);αリポ酸;コンドロイチン硫酸;L−システイン;オキシプリノールおよび亜鉛が挙げられる。
【0099】
抗酸化剤は、アロプリノール(1H−ピラゾロ[3,4−a]ピリミジン−4−オール)であることが好ましい。アロプリノールは、反応性酸素種生成酵素キサンチンオキシダーゼの競合阻害剤である。アロプリノールの抗酸化特性は、酸化ストレス、ミトコンドリア損傷、アポトーシスおよび細胞死を低減することによって、心筋および内皮機能を保存するのに役立ち得る。抗酸化剤の濃度は、約1nM〜100μMであることが好ましい。
【0100】
本発明者はまた、特定の量のカルシウムおよびマグネシウムイオンの、カリウムチャネルオープナーまたはアデノシン受容体アゴニストと、局所麻酔薬との含有物は、傷害を低減することを見い出した。特定の量のカルシウムおよびマグネシウムイオンの効果は、細胞内環境内のイオンの量を制御することである。カルシウムイオンは、細胞内環境から枯渇される、輸送される、またはそうでなければ除去される傾向があり、マグネシウムイオンは増大される、またはそうでなければ生存する、機能する細胞において通常見られるレベルに回復される傾向がある。
【0101】
したがって、もう1つの態様では、本発明の組成物は、身体組織中の細胞中のマグネシウムの量を増大させる量のマグネシウムの供給源をさらに含む。マグネシウムは、0.5mM〜20mMの間の濃度で存在することが好ましく、約2.5mMがより好ましい。当然のことではあるが、これらの濃度は、組織、臓器または細胞と接触する組成物中のマグネシウムの有効濃度を指す。
【0102】
さらに、その中の本発明の組成物が投与される、通常のバッファーまたは担体(以下でより詳細に論じられている)は、カルシウムの完全欠損は、細胞、組織または臓器にとって有害であることがわかっているので、通常、約1mMの濃度のカルシウムを含む。一形態では、本発明はまた、身体組織中の細胞内カルシウムの量を減少させるために、低カルシウム(例えば、0.5mM未満など)を含む担体を用いることを含み、身体組織中の細胞内カルシウムの量は、そうでなければ、傷害/外傷/スタンニングの際に増加し得る。本発明に記載のとおり、高マグネシウムおよび低カルシウムは、臓器の虚血および再酸素負荷の際の保護と関連している。この作用は、カルシウム負荷の減少によると考えられている。存在するカルシウムは、0.1mM〜0.8mMの間の濃度であることが好ましく、約0.3mMがより好ましい。
【0103】
一実施形態では、本組成物は、高い二価のマグネシウムイオンを含む。硫酸マグネシウムおよび塩化マグネシウムが適した供給源である。
【0104】
治療を必要とするヒト被験体の場合には、限定するものではないが、以下の、対応する濃度のアデノシン(Ado)、リグノカイン(Lido)および硫酸マグネシウムを含む代替組成物が提供される。
【0105】
【化1】

これらの組成物中のそれぞれの有効成分各々の濃度は、投与前の組成物中の濃度を指す。当然のことではあるが、濃度は、体液または本組成物とともに投与され得るその他の液体によって希釈され得る。通常、本組成物は、組織でのこれらの成分の濃度が、前記表中の濃度よりも約100倍低いよう、投与される。例えば、このような組成物の容器(例えば、バイアル)は、投与のために、1対100部の血液、血漿、晶液または血液代用品に希釈され得る。
【0106】
一実施形態では、本発明の組成物は、アデノシンおよびリグノカインを含む。通常、組成物中のアデノシンおよびリドカインの濃度は、約1mM〜100mMの間である。投与さると、これらの成分の最終濃度は、約0.1mM〜10mMの間であり得る。
【0107】
もう1つの実施形態では、本組成物は、細胞輸送酵素阻害剤、例えば、ジピリダモールを含み、組成物中の成分の代謝または分解を防ぐ。
【0108】
さらなる態様では、本発明は、局所麻酔薬と以下のうち1種以上を含む組成物を提供する:
カリウムチャネルオープナー;
アデノシンアゴニスト;
オピオイド;
水の取り込みを減少させる、少なくとも1種の化合物;
Na+/H+交換輸送阻害剤;
抗酸化剤;および
身体組織中の細胞中のマグネシウムの量を増大させる量のマグネシウムの供給源。
【0109】
この組成物は、上記のうち2、3または4種を有することが好ましい。これらの成分にとって好ましい化合物は、上記で列挙されている。
【0110】
もう1つの実施形態では、本発明は、カリウムチャネルオープナーおよび/またはアデノシンアゴニストと、以下のうち1種以上とを含む組成物を提供する:
局所麻酔薬;
オピオイド;
水の取り込みを減少させる、少なくとも1種の化合物;
Na+/H+交換輸送阻害剤;
抗酸化剤;および
身体組織中の細胞中のマグネシウムの量を増大させる量のマグネシウムの供給源。
【0111】
この組成物は、上記のうち2、3または4種を有することが好ましい。これらの成分にとって好ましい化合物は、上記で列挙されている。
【0112】
炎症および血栓症のプロセスは、共通の機序によってつながっている。したがって、炎症のプロセスを理解することは、急性および慢性虚血性症状の治療を含む、血栓性障害の良好な管理に役立つと考えられる。臨床および種々の状況では、虚血から損傷を受けた臓器または組織への迅速な反応および初期の介入は、抗炎症療法および抗凝固療法の両方を含み得る。炎症反応を減弱するプロテアーゼ阻害剤に加え、さらなる抗炎症療法は、アスピリン、標準ヘパリン、低分子量ヘパリン(LMWH)、非ステロイド系抗炎症薬、抗血小板剤および糖タンパク質(GP)IIb/IIIa受容体阻害剤、スタチン、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンジオテンシン遮断薬およびサブスタンスPのアンタゴニストの投与を含んでいた。プロテアーゼ阻害剤の例として、インジナビル、ネルフィナビル、リトナビル、ロピナビル、アンプレナビルまたは広域スペクトルプロテアーゼ阻害剤アプロチニンが挙げられ、低分子量ヘパリン(LMWH)として、エノキサパリンがあり、非ステロイド系抗炎症薬として、インドメタシン、イブプロフェン、ロフェコキシブ、ナプロキセンまたはフルオキセチンがあり、抗血小板剤として、クロピドグレルまたはアスピリンがあり、糖タンパク質(GP)IIb/IIIa受容体阻害剤として、アブシキマブがあり、スタチンとして、プラバスタチンがあり、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤として、カプトプリルがあり、アンジオテンシン遮断薬として、バルサルチン(valsartin)がある。
【0113】
したがって、本発明のもう1つの実施形態では、これらの薬剤の選択は、炎症および凝固の改善された管理を送達するよう本発明の組成物に加えられる。あるいは、本発明の組成物は、これらの薬剤のうち任意の1種以上とともに投与してもよい。
【0114】
特に、プロテアーゼ阻害剤は、心肺バイパスを用いて心臓手術を受けている患者およびAIDSなどの炎症反応が高められているその他の患者において、または慢性腱傷害の治療において全身炎症反応を減弱する。一部の広域スペクトルプロテアーゼ阻害剤、例えば、アプロチニンはまた、冠動脈バイパスなどの外科手術における失血および輸血の必要性を減少させる
ヌクレオシド輸送阻害剤、例えば、ジピリダモールなどの、血液中のアデノシンの分解を実質的に防ぐ化合物を、本発明の組成物において添加剤として使用できる。血液中のアデノシンの半減期は、約10秒であり、そのため、その分解を実質的に防ぐための薬剤の存在によって、本発明の組成物の効果が最大となる。
【0115】
本発明の組成物はまた、約0.01μM〜約10mMの濃度で含まれることが有利であり、0.05〜100μMが好ましいジピリダモールを場合により含んでもよい。ジピリダモールは、心保護に関して主要な利点を有する。ジピリダモールは、アデノシン輸送および分解を阻害し、ストレス時の身体の細胞、組織および臓器の保護の増大をもたらすことによって、アデノシンの作用を補完し得る。ジピリダモールはまた、別個に、例えば、約0.4μgまたは0.8μM濃度の血漿レベルを生じる400mgの毎日の錠剤を投与してよい。
【0116】
本発明の組成物は、約10℃で高度に有益であるが、最大約37℃の広い温度範囲にわたっても、傷害を防ぐために使用できる。本発明の組成物は、以下から選択される温度範囲で使用してよい:0〜5℃、5℃〜20℃、20℃〜32℃および32℃〜38℃。
【0117】
本組成物は、静脈内に投与してもよいし、または静脈内および腹膜内の両方で投与してもよく、特定の状況では、大量失血から脈がない患者では、大腿動脈または大動脈などの主幹動脈に直接接続して投与してもよい。一実施形態では、本発明の組成物は、静脈内および会陰内に同時に投与してもよく、会陰は、事実上、血流のための組成物のリザーバーとして作用し、同時に、接触する近くの臓器に対して作用する。これは、外傷犠牲者、例えば、ショックを起こしているものに特に適している。
【0118】
本明細書に記載されるように、本発明の特定の実施形態では、本発明の組成物は、心臓発作、脳卒中などといった外傷後に身体の組織を保護し、保存し、再潅流後の身体組織の機能または生存力の良好〜優れた回復をもたらす。
【0119】
特に、組織がショックを受けた後に、保存の間の組織の生存力および身体組織の回復に影響を及ぼし、その結果、影響を受けた組織がそれらの過程の間、生存可能であるか、生存していること、およびその機能に戻ることができることは、重大である。
【0120】
身体の傷害を低減することは、影響を受けた組織を生存可能状態で維持し、その結果、組織が、外傷後にその機能を回復することができることと関連していることが好ましい。組織を生存可能状態で維持することまたは安定化することは、組織細胞の膜電位を静止レベルに、または静止レベル付近に維持し、虚血および再灌流の際の傷害の原因である、細胞のナトリウムまたはカリウム負荷を減少させることを含む。保存は、組織を保存する、または傷害、破壊または崩壊を防ぐ作用またはプロセスとして知られている。この適用では、本発明の組成物は、外傷によって引き起こされ得る、身体の組織のあらゆる可能性ある傷害、破壊または崩壊を最小にするよう作用する。
【0121】
傷害は、可逆性および不可逆性細胞傷害として、広く特徴付けることができる。例えば、可逆性細胞傷害は、通常、不整脈および/またはスタンニングから生じる心臓機能不全につながり得る。スタンニングは、通常、虚血期間後の血流回復時の左側ポンプ機能の喪失として特徴付けられる。通常、不整脈から生じ、心臓細胞自体は最初は壊死していないにもかかわらず、重篤な場合には、心臓の壊死につながる場合もある。定義による不可逆性傷害は、実際の細胞死に起因し、傷害の程度によっては、致命的であり得る。細胞死の量は、梗塞の大きさとして測定できる。心筋保護下の停止からの回復の際、条件が適当であれば、心臓は、再潅流によって、実質的に組織の正常な機能に回復され得る。心臓の機能の回復を評価するための最も一般的な方法は、心臓が発生させ得る圧力:
心臓ポンプフロー;および
心臓の電気的活性
を測定することによるものである。次いで、このデータを、停止前状態から測定されたデータと比較する。
【0122】
本発明の組成物は、心臓移植および新生児/乳児心臓を含めた心臓手術(直視下またはロボット心臓手術)の間の心臓組織の傷害を低減するのに特に有用である。その他の適用として、心臓発作、血管形成術または血管造影を含み得る心血管インターベンションの前、その間、その後の心臓損傷を低減することが挙げられる。例えば、本組成物は、心臓発作を起こしたことがあるか、進行中である被験体に投与でき、血液血栓溶解薬、例えば、ストレプトキナーゼの投与時に使用できる。血栓が溶解されるので、組成物の存在は心臓を、再灌流傷害などのさらなる傷害から保護し得る。本組成物は、正常な流れ、栄養物および/または酸素が種々の期間の間、欠乏している心臓の部分において、心臓保護薬として特に有効であり得る。例えば、薬剤組成物はまた、既存のまたは心血管インターベンションによって誘導され得る心臓虚血を治療するために使用できる。その他の適用として、トレッドミルで運動しながらの被験体の健康の評価などの診断手順を補助すること、または被験体がトレッドミルで運動できない場合には、部分的にまたは完全に遮断された血管または損傷を受けた心臓細胞を有し得る心臓などの身体の領域を可視化することを補助することが挙げられる。さらに、本発明は、被験体の身体または身体内の、または身体から単離された臓器および組織の、X線(慣例の、コンピュータ化された断層撮影法)または磁気共鳴画像法(MRI)など種々の可視化手順の間に使用できる。本発明は、傷害または損傷の可能性ある領域の、より良好な可視化を提供することに加え、被験体の心拍数を一時的に低下させ、それによって運動を減少させる(すなわち、心臓弛緩を増大することによって)ために使用でき、身体の血管、組織または臓器中の、特に、心臓の、可能性ある傷害の診断評価の間のより速いスキャン時間が可能となる。心拍数を低下させることおよびより迅速なスキャンを可能にすることはまた、傷害または損傷の可能性ある領域を可視化するのに必要とされる放射線の用量を低下させ得る。
【0123】
したがって、本発明のもう1つの実施形態では、身体の血管、組織または臓器、例えば、心臓に影響を及ぼす、医学的介入の前、その間またはその後に、上記の組成物を投与することを含む、身体の血管、組織または臓器、例えば、心臓を保存する方法が提供される。本発明のこの実施形態に用いられる組成物は、その中に停止性濃度または非停止性濃度の有効成分を有し得る。一形態では、本方法は、非停止性濃度の組成物を投与することを含み、もう1つの形態では、停止性濃度の組成物(好ましくは、ボーラスとして)と、それに続いて、非停止性濃度の組成物を有する。
【0124】
もう1つの実施形態では、本発明は、失血に由来する低酸素性損傷および虚血性損傷を低減するのに役立つことによって身体の酸素輸送能および生存を改善するために、血液または血液製剤または人工血液または酸素結合分子または溶液とともに投与してもよく、または含んでもよい。酸素含有分子、化合物または溶液は、天然または人工生産物から選択され得る。例えば、人工血液ベースの製剤は、ペルフルオロカーボンベースであるか、またはその他のヘモグロビンベースの代替物である。ヒト血液の酸素輸送能を模倣するために、ヘモピュア(Hemopure)(商標)、ゲレンポール(Gelenpol)(商標)、オキシジェント(Oxygent)(商標)およびポリヘム(PolyHeme)(商標)のようないくつかの成分を加えてもよい。ヘモポアは、化学的に安定化されたウシヘモグロビンに基づいている。ゲレンポール(Gelenpol)は、合成水溶性ポリマーと修飾ヘムタンパク質を含む重合されたヘモグロビンである。オキシジェント(Oxygent)は、手術の間、一時的に赤血球細胞の代わりとなる静脈内酸素担体として使用するためのパーフルブロンエマルジョンである。ポリヘム(PolyHeme)は、命にかかわる失血の治療のためのヒトヘモグロビンベースの溶液である。
【0125】
それだけには限らないが、酸素ガス混合物、血液、血液製剤または人工血液または酸素結合溶液をはじめとする種々の方法からの身体の酸素化が、ミトコンドリア酸化を維持し、これが 筋細胞および臓器の内皮を保存するのに役立つと考えられる。特定の様式または理論に拘束されようとは思わないが、本発明者は、95%O/5%COを用いて穏やかにバブリングすることが、ミトコンドリア酸化を維持し、これが筋細胞および冠動脈脈管構造を保存するのに役立つことを見い出した。
【0126】
全身または身体の外側の臓器に関する本発明のこの態様の1つの好ましい実施形態では、使用前および/または使用の間、組成物に空気を含ませる。酸素の供給源は、酸素が主要成分である、酸素ガス混合物であり得る。酸素は、例えば、COと混合されていてもよい。酸素ガス混合物は、95%Oおよび5%COであることが好ましい。
【0127】
本発明のもう1つの態様では、
適した容器中の、本発明の組成物を提供することと、
血液、血液製剤、人工血液および酸素の供給源からなる群から選択される1種以上の栄養分子を提供することと、
場合により、酸素を用いて組成物に空気を含ませること(例えば、単離された臓器の場合)または栄養分子を、組成物と組み合わせること、またはその両方と、
組織を、傷害を低減するのに適した条件下で、組み合わせた組成物と接触させておくことと
を含む、傷害を低減する方法が提供される。酸素供給源は酸素ガス混合物であることが好ましい。酸素が主要成分であることが好ましい。酸素は、例えば、COと混合されていてもよい。酸素ガス混合物は、95%Oおよび5%COであることが、さらに好ましい。組織と接触する前および/または接触する間、組成物に空気を含ませることが好ましい。
【0128】
本発明のこの態様に従う組成物は、液体の形であり得る。薬剤組成物の液体製剤は、例えば、溶液、シロップまたは懸濁液の形をとることができ、水またはその他の適したビヒクルで構成するための乾燥製剤として保存できる。このような液体製剤は、製薬上許容される添加剤、例えば、懸濁剤、乳化剤、非液体ビヒクル、保存料およびエネルギー供給源を用いて従来の手段によって調製できる。もう1つの形態では、本発明は、錠剤の形の組成物を含み、もう1つの形態では、本発明は、経口、皮膚または経鼻経路によって投与できるエアゾールを含む。
【0129】
本発明のもう1つの態様では、心臓組織を、虚血イベント後の再灌流の間に、例えば、術後期間または長期の回復において起こることが多い、再潅流傷害、例えば、炎症および血液凝固および血液凝固効果から保護する方法が提供される。この方法は、場合により、停止形のボーラスに続いて、非停止形の本発明の組成物を含む溶液を投与することを含む。
【0130】
本発明はまた、同溶液の投与を含む、虚血および/または再潅流の間、心臓組織において梗塞の大きさを減少させる方法ならびに/または炎症および血液凝固反応を低減する方法を提供する。
【0131】
身体は、ヒトまたは動物、例えば、家畜動物(例えば、ヒツジ、ウシまたはウマ)、実験試験動物(例えば、マウス、ウサギまたはモルモット)またはコンパニオンアニマル(例えば、イヌまたはネコ)、特に、経済的に重要な動物であり得る。身体はヒトであることが好ましい。
【0132】
本発明はまた、有効量の上記の本発明の組成物を投与することを含む、疼痛、例えば、神経因性疼痛を管理する方法を提供する。
【0133】
本発明は、例えば、心筋梗塞または心臓発作という状況における心臓の治療における、または外科手術の際の、例えば、直視下心臓手術の際の身体の傷害の低減において特に有利である。
【0134】
本発明の方法は、組織を本発明の組成物と、組織がプレコンディショニング、停止、保護および/または保存されるのに十分な条件下で一定時間接触させることを含む。組成物は、直視下心臓手術(オンポンプおよびオフポンプ)、血管形成術(バルーンおよびステントまたはその他の血管装置を用いた)など、およびクロットバスター(抗凝固性薬物または薬剤)を用いるような心臓インターベンションの間の保護のための前処理として、静脈内、結腸内ボーラスまたは任意のその他の適した送達経路として注入または投与され得る。
【0135】
本組成物は、低酸素症または虚血から脳を保護するために、静脈内に投与してよいし、または静脈内および腹腔内の両方で投与してもよく、または大量失血から脈がない患者における特定の状況では、または大腿動脈または大動脈などの主幹動脈に直接接続して投与してもよく、または大動脈解離の際は頚動脈または別の動脈に投与してもよい。一実施形態では、本発明の組成物は、静脈内および会陰内に同時に投与してもよく、会陰は、事実上、血流のための組成物のリザーバーとして作用し、同時に、接触する近くの臓器に対して作用する。これは、外傷犠牲者、例えば、ショックを起こしているものに特に適している。さらに、組成物が2種以上の成分を含む場合には、これらを別個ではあるが同時に投与してもよい。標的部位への成分の実質的に同時の送達が望ましい。これは、投与のための成分を組成物として予め混合することによって達成され得るが、必須ではない。本発明は、本発明の組成物の成分(例えば、第1の成分が、(i)カリウムチャネルオープナーまたはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストおよび(ii)局所麻酔薬である)の局所濃度(例えば、心臓などの臓器)の同時増加を対象とする。組成物の1つの好ましい形は、アデノシンとリグノカインの組み合わせである。
【0136】
本発明は、カテーテルによって直接的に最終的に調整可能なポンプによって最小量の有効物が漸増される「ミニプレジア(miniplegia)」または「マイクロプレジア(microplegia)」として知られる処置と関連していることが多い、灌流ポンプを用いて化合物を投与することによって実施できる。本発明では、プロトコールは、上記のミニプレジア(miniplegia)を利用し、これでは、患者自身の酸素化血液を用いて、心臓へ微量が直接漸増される。「設定」とは、心臓などの臓器へ直接到達されている物質の量の、シリンジポンプなどのポンプでの量をいう。
【0137】
組成物はまた、直視下心臓手術(オンポンプおよびオフポンプ)、血管形成術(バルーンおよびステントまたはその他の血管装置を用いた)など、およびクロットバスターを用いるような心臓インターベンションの間の保護のために、静脈内、結腸内ボーラスまたは任意のその他の適した送達経路としてボーラス注入または投与され、細胞を傷害から保護および保存し得る。
【0138】
本組成物はまた、直視下心臓手術(オンポンプおよびオフポンプ)、血管形成術(バルーンおよびステントまたはその他の血管装置を用いた)など、およびクロットバスターを用いるような心臓インターベンション後の保護のために、静脈内、結腸内ボーラスまたは任意のその他の適した送達経路としてボーラス注入または投与され、細胞を傷害から保護および保存し得る。
【0139】
したがって、組織に本発明の組成物を静脈内によって送達することによって組織を接触させることができる。これは、組織へ送達するためのビヒクルとして血液を用いることを含む。特に、本発明の組成物は、血液心筋保護のために使用できる。あるいは、本組成物は、組織または臓器への血流が制限される場合には特に有用な組織または臓器へ直接的に穿刺によって(例えば、シリンジによって)ボーラスとして直接投与してもよい。組織を停止、保護および保存するための組成物はまた、経皮または経鼻経路によって、エアゾール、粉末、溶液またはペーストとして投与してもよい。
【0140】
あるいは、本組成物は、傷害を低減するために、組織、臓器または細胞に、または身体内の露出部に直接投与してもよい。特に、本発明の組成物は、晶液性心筋保護のために使用できる。
【0141】
本発明の組成物は、以下の送達プロトコールのうち1種または組み合わせに従って送達してもよい:間欠的、連続およびワンショット。
【0142】
したがって、本発明のもう1つの態様では、組成物、主要なカリウムチャネルオープナーまたはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストと、局所麻酔薬とを含む組成物の単回用量を投与すると、身体の組織を停止、保護および保存する組成物が提供される。本発明はまた、その組成物の有効量を単回用量として投与することを含む、組織を停止および保護する方法を提供する。
【0143】
本発明のもう1つの態様では、組成物、主要なカリウムチャネルオープナーまたはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストと、局所麻酔薬の有効量を含む組成物の間欠的投与によって組織を停止および保護する組成物が提供される。適した投与スケジュールは、停止期間を通じて20分毎に2分の導入量である。実時間は、組成物を投与する当業者による観察および選択された動物/ヒトモデルに基づいて調整すればよい。本発明はまた、組織を停止、保護および保存する組成物を間欠的に投与する方法を提供する。
【0144】
本組成物はまた、正常および傷害を受けている両方の組織または臓器、例えば、心臓組織での連続注入においてももちろん使用できる。連続注入はまた、組織が本発明の組成物中に保存される組織の静置保存を含み、例えば、ドナー組織をドナーからレシピエントへ輸送するために、組織を適した容器中に入れ、本発明の溶液に浸漬してもよい。
【0145】
各送達プロトコールの用量および時間間隔は、適宜設計できる。例えば、本発明の組成物は、組織の最初の停止のために、ワンショットとして組織に送達してよい。次いで、組織を停止された状態に維持するために、さらなる本発明の組成物を連続的に投与してよい。さらに、組織を再灌流するか、正常機能を回復するために、本発明のさらなる組成物を連続的に投与してもよい。
【0146】
これまでに記載されたように、本発明の組成物を、以下から選択される温度範囲で用いる、または組織と接触させてもよい:約0℃〜約5℃、約5℃〜約20℃、約20℃〜約32℃および約32℃〜約38℃。約0℃〜約5℃の温度の組織を表すために「超低体温」が用いられることは理解される。「中等度低体温」は、約5℃〜約20℃の温度の組織を表すために用いられる。「軽度の低体温」は、約20℃〜約32℃の温度の組織を表すために用いられる。正常な体温は約37〜約38℃であるが、「正常体温」は、約32℃〜約38℃の温度の組織を表すために用いられる。
【0147】
組成物の各成分について、組織と単独で接触させることが可能であるが、薬剤組成物の成分が、1種以上の製薬上許容される担体、希釈剤、アジュバントおよび/または賦形剤とともに提供されることが好ましい。各担体、希釈剤、アジュバントおよび/または賦形剤は、薬剤組成物の成分と適合するよう製薬上許容されなければならず、また被験体にとって有害であってはならない。薬剤組成物は、液体担体、希釈剤、アジュバントおよび/または賦形剤とともに調製されることが好ましい。
【0148】
本発明の組成物は、液体の形、たとえば、溶液、シロップまたは懸濁液の、組織への投与に適したものであり得る、あるいは、使用前に水またはその他の適したビヒクルで構成するための乾燥製剤として投与してもよい。このような液体製剤は、従来手段によって調製できる。
【0149】
本発明の組成物は、組織への局所投与に適したものであり得る。このような製剤は、従来手段によって、クリーム、軟膏、ゼリー、溶液または懸濁液の形に調製できる。
【0150】
本組成物はまた、デポー製剤として製剤できる。このような長時間作用型製剤は、移植(例えば、皮下にまたは筋肉内に)によって、または筋肉内注射によって投与してもよい。したがって、例えば、本発明の組成物は、適したポリマー材料または疎水性材料を用いて製剤できる(例えば、許容されるオイル中のエマルジョンまたはイオン交換樹脂のような、または難溶性誘導体のような、例えば、難溶性塩のような)。
【0151】
したがって、本発明のこの態様は、傷害を低減する方法を提供し、これは、組成物を、製薬上許容される担体、希釈剤、アジュバントおよび/または賦形剤とともに提供することを含む。好ましい製薬上許容される担体として、約6〜約9、好ましくは、約7、より好ましくは、約7.4のpHおよび/または低濃度のカリウムを有するバッファーがある。例えば、組成物は、最大約10mM、より好ましくは、約2〜約8mM、最も好ましくは、約4〜約6mMの総カリウム濃度を有する。適したバッファーとして、10mMグルコース、117mM NaCl、5.9mM KCl、25mM NaHCO、1.2mM NaHPO、1.12mM CaCl(遊離Ca2+=1.07mM)および0.512mM MgCl(遊離Mg2+=0.5mM)を含むクレブス−ヘンゼライト(Krebs−Henseleit)、通常、10mMグルコース、126mM NaCl、5.4mM KCl、1mM CaCl、1mM MgCl、0.33mM NaHPOおよび10mM HEPES(N−[2−ヒドロキシエチル]ピペラジン−N’−[2−エタンスルホン酸]を含むタイロード液、フレメス(Fremes)溶液、通常、129NaCl、5 mM KCl、2mM CaClおよび29mM乳酸を含む、ハートマン(Hartmanns)溶液およびリンガー乳酸が挙げられる。その他の、適したイオン環境において使用できる筋肉中に存在する天然に存在する緩衝化合物として、カルノシン、ヒスチジン、アンセリン、オフィジンおよびバレネン(balenene)またはそれらの誘導体がある。低カリウムを用いることの1つの利点は、本組成物を、被験体、特に、小児の被験体、例えば、新生児/乳児にとってあまり傷害性ではなくすることである。高カリウムは、回復の間の不規則な心拍動、心臓損傷および細胞浸潤と関連している可能性があるカルシウムの蓄積と結び付けられている。新生児/乳児は、心停止の間の高カリウム損傷に対して成体よりもより感受性がある。手術後、新生児/乳児の心臓は、何日も正常に戻らない場合があり、集中治療または生命維持を必要とする場合もある。
【0152】
低濃度のマグネシウム、たとえば、最大約2.5mMなどを有する担体を使用することもまた有利であるが、当然のことではあるが、高濃度のマグネシウム、例えば、最大約20mMを、必要に応じて、本組成物の活性に実質的に影響を及ぼすことなく使用できる。
【0153】
本発明のもう1つの実施形態では、傷害を低減するための、本発明の組成物の使用が提供される。
【0154】
本組成物は、投与または組織との接触の前および/またはその間に空気を含ませることが好ましい。
【実施例】
【0155】
以下は、本発明を例示する目的で、本発明の適した組成物の限定されない例として提供される。
【0156】
動物および試薬:
James Cook University Breeding Colonyから得た雄のスプラーグドーリーラット(300〜350g)に、自由に摂食させ、12時間明/暗周期で収容する。実験当日に、ラットに、ネンブタール(チオペントンナトリウム(Thiobarb);100mg/kg)の腹膜内注射で麻酔をかけ、プロトコールを通じて、必要に応じて麻酔薬を投与した。動物を、1996年改訂、米国国立衛生研究所(NIH)出版第85−23号、動物実験に関する指針(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)に従って処置した。
【0157】
塩酸リグノカインは、local Pharmaceutical Suppliers(Lyppard, Queensland)から2%溶液(腸骨)として供給されるものである。アデノシン(A9251>99%純度)を含めたすべてのその他の化学薬品は、Sigma Aldrich(Castle Hill,NSW)から供給されるものである。
【0158】
手術プロトコール:
麻酔をかけたヘパリンで治療されていない動物を、特別に設計されたプレキシガラスクレードル中に入れる。気管切開を実施し、Harvard Small Animal Ventilator(Harvard Apparatus,Mass.,USA)を用い、加湿した大気で1分当たり75〜80ストロークで動物に人工呼吸して、血液pO、pCOおよびpHを正常な生理学的範囲に維持する(Ciba−Corning 865 血液ガス分析器)。
【0159】
体温を、37℃に維持する(Homeothermic Blanket Control Unit,Harvard Apparatus,Mass.,USA)。直腸プローブを用いて、中核体温を測定する。薬物の中止および注入のために左大腿静脈をPE−50チューブを用いてカニューレ処理し、一方で、右大腿動脈は、血液採取および血圧モニタリングのためにカニューレ処理する(MacLabと接続しているUFI 1050BP)。すべてのカニューレは、ヘパリン化生理食塩水(100U/ml 生理食塩水)を含む。心電図(ECG)リードを、リードII ECG配置に皮下に埋め込む。ラットを、15〜20分間安定化させ、次いで、血液を回収する。リズム障害および/または80mmHgを下回る平均動脈圧の持続的な低下を有していた動物はいずれも研究から廃棄された。
【0160】
出血性ショック:
以下の実施例は、出血性ショックを対象としている。出血性ショックは、3ml/ラット100gの速度で10分かけて、大腿静脈または動脈から採血し、30〜35mmHgまで平均動脈血圧(MAP)を下げることによって誘導する。300gのラットについて、総血液量は、0.06×300+0.77=18.77mlであると推定される。10分間かけて9mlを取り出すこと(0.9ml/分)は、約50%の血液量喪失をもたらす。
【0161】
60%失血に関する実験には、20分間かけて11.2mlを取り出す(0.56ml/分)。次いで、取り出した血液を、0.02mlのヘパリン(1000U/ml)を用いて予めすすいでおいたガラスシリンジ中に維持する。MAPは、必要に応じて採血または再注入によって、晶液性蘇生に先立つ3回のショック期間中(1時間または2時間または3時間、各ショック期間n=6)、30〜35mmHGの間で維持する。
【0162】
出血性ショック期間の最後に、ラットに、以下の実験の各々において概説される蘇生溶液を与えて、80〜90mmHgのMAPを達成する(いくつかの実験では、MAPは、アデノシンおよびリグノカインの降圧効果から約40〜60mmHgに低く維持され、身体のエネルギー供給とエネルギー需要指数を良好にバランスをとる)。
【0163】
生存は、血行動態(MAP、心拍)および蘇生後のECGから評価し、これは最大6時間モニターされる。死亡は、MAP、HRの消失および洞調律の喪失から認識され、心臓の検査によって確認される。
【0164】
(実施例1)
アデノシン/リグノカイン蘇生溶液の静脈内投与
ラットを、4群(群あたり10匹のラット、n=10)にランダムに割り当て、準備し、上記のように出血性ショックに付した。60分のショックの後、ラットを以下のとおり蘇生させた:
1.1多量の輸液:遅い静脈内輸液増加
群1:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインを含む0.9%NaClの9ml/100g(脱血液容量の3倍)の10分注入。
【0165】
群2:0.9%NaClの9ml/100gの10分注入
1.2少量の輸液:急激な静脈内輸液増加(内)流動量増強
群3:7.5%NaCl/6%アデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)およびリドカインリグノカインを含むデキストラン−70の0.4ml/100g(300gのラットに対し1.2ml)のボーラス
群4:7.5%NaCl/6%デキストラン−70の0.4ml/100g(300gのラットに対し1.2ml)のボーラス
(実施例2)
静脈内輸液増加の腹膜内支援
ラットを、各群に10ラット(n=10)で、上記の実施例1においてと同数の群にランダムに割り当てた。ラットを準備し、上記のように出血性ショックに付した。60分のショック後、ラットを上記実施例1に記載されたものに、5mlの、0.2mMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および0.5mMリグノカインの腹膜内ボーラスを加えて蘇生させる。
【0166】
(実施例3)
アデノシン/リグノカインおよびさらなる成分を含む蘇生溶液の、遅い静脈内投与
ラットを、各群に10匹(n=10)で18群にランダムに割り当てた。ラットを準備し、上記のように出血性ショックに付した。60分のショックの後、ラットを、下記の溶液の9ml(脱血容量の3倍)の10分注入を用いて蘇生させる。
【0167】
群1:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μuMリグノカインおよび50μMジアゾキシド
群2:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μuMリグノカインおよび1μMジピリダモール(MW504.6)、
群3:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび1μM[D−Pen2,5]エンケファリン(DPDPE)
群4:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび高硫酸マグネシウム(5mM)、
群5:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび低硫酸マグネシウム(0.5mM)
群6:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび基質/燃料(10mMグルコース,1mMピルビン酸)
群7:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび抗酸化剤(1mMアロプリノール)
群8:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび10uMアミロライド
群9:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび50〜100mMラフィノース。
【0168】
群10:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび50〜100mMスクロース。
【0169】
群11:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび50〜100mMペンタスターチ。
【0170】
群12:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび生理的pHのデキストラン−30。
【0171】
群13:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび生理的pHのデキストラン−40。
【0172】
群14:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび生理的pHのデキストラン−50。
【0173】
群15:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび生理的pHのデキストラン−60。
【0174】
群16:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび生理的pHのヒドロキシエチルデンプン。
【0175】
群17:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび生理的pHの修正ゼラチン。
【0176】
群18:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび50uMジアゾキシド、1μMジピリダモール(MW504.6)、1μM[D−Pen2,5]エンケファリン(DPDPE)、高および低硫酸マグネシウム(5および0.5mM)、基質/燃料(10mMグルコース、1mM ピルビン酸)、抗酸化剤(1mMアロプリノール)、NaH阻害剤(10μMアミロライド)、50〜100mMスクロースおよび生理的pHのデキストラン−40。
【0177】
(実施例4)
アデノシン/リグノカインおよびさらなる成分を含む蘇生溶液の迅速な静脈内投与
ラットを、16群(n=10)にランダムに割り当て、準備し、上記のように出血性ショックに付す。60分のショック後、ラットを、以下の溶液の0.4ml/100g(300gのラットに対し1.2ml)のボーラスを用いて蘇生させる。
【0178】
群1:0.2mMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および0.5mMリグノカインおよび50μMニコランジルを含む7.5%Nal/6%デキストラン−70。
【0179】
群2:0.2mMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および0.5mMリグノカインおよび1μMジピリダモール(MW504.6)を含む7.5%NaCl/6%デキストラン−70。
【0180】
群3:0.2mMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および0.5mMリグノカインおよび1μM[D−Pen2,5]エンケファリン(DPDPE)を含む7.5%NaCl/6%デキストラン−70。
【0181】
群4:0.2mMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および0.5mMリグノカインおよび高硫酸マグネシウム(5mM)を含む7.5%NaCl/6%デキストラン−70。
【0182】
群5:0.2mMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および0.5mMリグノカインおよび低硫酸マグネシウム(0.5mM)を含む7.5%NaCl/6%デキストラン−70。
【0183】
群6:0.2mMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および0.5mMリグノカインおよび基質/燃料(10mMグルコース、1mMピルビン酸)を含むNaCI/6%デキストラン−70。
【0184】
群7:0.2mMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および0.5mMリグノカインおよび1mMアロプリノールを含むNaCl/6%デキストラン−70。
【0185】
群8:0.2mMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および0.5mMリグノカインおよび10μMアミロライドを含むNaCl/6%デキストラン−70。
【0186】
群9:0.2mMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および0.5mMリグノカインおよび不透過物(50〜100mMラフィノース、スクロース、ペンタスターチ)を含むNaCl/6%デキストラン−70。
【0187】
群10:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30uMリグノカインおよび50〜100mMスクロース。
【0188】
群11:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび50〜100mMペンタスターチ。
【0189】
群12:0.2mMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および0.5mMリグノカインおよび生理的pHのコロイド(デキストラン−30、40、50および60ヒドロキシエチルデンプンおよび修正ゼラチン)を含むNaCl/6%デキストラン−70。
【0190】
群13:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび生理的pHのデキストラン−40。
【0191】
群14:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび生理的pHのデキストラン−50。
【0192】
群15:10μMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび生理的pHのデキストラン−60。
【0193】
群16:10uMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および30μMリグノカインおよび50uMジアゾキシド、1uMジピリダモール(MW504.6)、1uM[D−Pen2,5]エンケファリン(DPDPE)、高および低硫酸マグネシウム(5および0.5mM)、基質/燃料(10mMグルコース、1mMピルビン酸塩)、抗酸化剤(1mMアロプリノール)、NaH阻害薬(10uMアミロライド)、不透過物(50〜100mM生理的pHのスクロースおよびデキストラン−40。
【0194】
(実施例5)
遅い静脈内輸液増大の腹膜内支援
ラットを準備し、出血性ショックに付し、5mlの、0.2mMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および0.5mMリグノカインの腹膜内ボーラスとともに、実施例3に記載の通り蘇生させる。
【0195】
(実施例6)
迅速な静脈内輸液増大の腹膜内支援
ラットを準備し、出血性ショックに付し、5mlの、0.2mMアデノシン(またはアデノシン類似体またはアゴニスト)および0.5mMリグノカインの腹膜内ボーラスとともに、実施例4に記載の通り蘇生させる。
【0196】
(実施例7)
異なる蘇生戦略における体温低下の効果
上記の実施例(実施例1から6)を35、33、20、および4℃で繰り返し行った。存在するペルフルオロカーボンベースの、またはヘモグロビンベースの代用品または血液、血液製剤または人工血液を含む製剤は、空気で平衡化されるか、予備試験で有効であるとわかった場合には、酸素を通気させるか、有してよいヒトの血液の酸素輸送能を模倣するために、ヘモピュア(商標)、ゲレンポール(Gelenpol)(商標)、オキシジェント(Oxygent)(商標)、ポリヘム(PolyHeme)(商標)などの成分を加えてもよい。
【0197】
(実施例8)
心臓手術(オンポンプ)中のVF治療
本発明の異なる利用法を、患者のA〜Eに表示された5群で示す。
【0198】
群A:標準的な地域の病院で低体温(心筋保護送達温度10℃)高カリウム心筋保護およびカリウム「ホットショット」(停止用量)を投与されている患者
群B::標準的な地域の病院で加温(心筋保護送達温度33℃)高カリウム心筋保護およびカリウム「ホットショット」(停止用量)を投与されている患者
群C:低体温でアデノシンおよびリグノカイン(心筋保護送達温度10℃)心筋保護(通常のカリウム5mM)および心臓を蘇生するためHiberStart(非停止用量)を投与されている患者
群D:加温アデノシンおよびリグノカイン(心臓保護送達温度33℃)心臓保護(通常カリウム5mM)および、心臓を蘇生するためのアデノシンおよびリグノカインの非停止用量を投与されてきる患者。停止の前に心臓を前処理する効果を調べるための群BおよびD中のLまたはALM。
【0199】
群E:マグネシウム(1.0〜20mM)を含むか含まないアデノシンおよびリグノカインの溶液を用いて、心臓を前処理/プレコンディショニングし、次いで、群Dにおいて停止させ、蘇生させる。また、心臓を、停止または非停止用量の、マグネシウム(1.0〜20mM)を含むか含まないアデノシンおよびリグノカイン溶液と組み合わせて灌流後ポストコンディショイングしてもよい。
【0200】
群A〜Eにおける、ヒト患者のための心筋保護組成物およびプロトコールは以下のとおりである。
【0201】
1)群A&Bの高カリウム心筋保護液の組成:
心筋保護の導入20mM K+溶液(最終):BAXTER(コードAHK5524)。各500mlが以下を含む:塩化ナトリウムBP 4.5g、塩化カリウムBP 3g、塩化マグネシウムBP 2.6g、リグノカインHCl BP 250mg。使用前に、炭酸水素ナトリウム(25mmol/500ml)およびアスパラギン酸一ナトリウム(14mmol/500ml)を加え、pH約3.7およびオスモル濃度約547mOsm。
【0202】
心筋保護の維持9mM K+溶液(最終):BAXTER(コードAHK5525)。各500mlが以下を含む:塩化ナトリウムBP 4.5g、塩化カリウムBP 1g、塩化マグネシウムBP 2.6g。使用前に、炭酸水素ナトリウム(25mmol/500ml)およびアスパラギン酸一ナトリウム(14mmol/500ml)を加え、pH約3.7およびオスモル濃度約547mOsm。
【0203】
蘇生の間、停止溶液は、K+維持と同一であるが、導入、維持および最終ショットの間の心筋心臓温度は、32〜38℃である。心臓は、この時点で停止したままである。
【0204】
2)群C、DおよびEの、アデノシンおよびリグノカイン(「AL」)心筋保護液の組成:
ALの最適濃度は、用量応答曲線から見い出される。Aは、約0.2〜2mMであり、Lは、約0.2〜4mMである。これらの濃度は、ヒトにおいて安全であることがわかっている。マグネシウムは、1.0〜20mMであり得る。停止導入は、高レベルのAおよびLにおいてであり、維持用量はより低いもの、例えば、停止を導入する濃度の半分であり得る。心臓に注入される最終K+およそ最終3〜6mM(通常およそ5mM)。導入および維持容量の温度プロフィールは、群A&Bについて記載される温度プロトコールと同様である。
【0205】
蘇生の間、アデノシンおよびリグノカイン溶液は、心臓を停止しないが、蘇生の間、心臓を保護および保存する。クロスクランプの開放に先立って拍動する場合もある。ALおよびMの濃度は、A:10〜40マイクロモル、L:30〜50マイクロモルおよび10〜20mMの硫酸マグネシウムおよび温度32〜38℃である。
【0206】
3)群Eの心筋保護液組成:上記の群Dと同様であるが、再灌流またはコンディショニング後の間の硫酸マグネシウムを伴うか伴わない、アデノシンおよびリグノカイン濃度の前処理/プレコンディショニング用量+硫酸マグネシウムを伴うか伴わない、アデノシンおよびリグノカイン濃度を含む。
【0207】
マイクロプレジア(microplegia)(血液の1部および9部)を用いるMPS Quest心筋保護灌流ポンプシステムが利用可能である場合には、以下の、マグネシウムを伴うか伴わないアデノシンおよびリグノカイン濃度を用いて、研究に用いられる停止および維持用量を試験できる。
【0208】
停止の導入:50mlカセット中、54mg A+132mg L(心臓に達する血液において、0.5mMおよび1.0mM最終濃度)。Mentzerらによる研究により、2mM adoは、ヒトにおける心筋保護において安全であると示されている。
【0209】
維持:50mlカセット中、26mg A+66mg L(0.2mM adoおよび0.5mM lido)。
【0210】
蘇生:10μM A、30μM Lおよび16mM MgSO4カセットで用いられる、ALおよびMg++(「ALM」とも呼ばれる)。
【0211】
命にかかわる不整脈(心室性頻拍および/または細動)を突然起こした、研究に登録された患者の治療:患者が、病院において手術の前または後に、突然の心イベント、例えば、心臓発作および心臓の拍動リズムの突然の変化(例えば、心室性頻拍または心室細動へ変換する)を起こしている場合には、心臓を蘇生するために、マグネシウムを伴うか伴わないアデノシンおよびリグノカインのボーラス用量を静脈内に(または心臓内に)投与し、その後、除細動器を用いる(除細動器が必要である場合には)。患者が、手術室または集中治療室中にいる間に、命にかかわる重篤な不整脈(心室細動または心室性頻拍)を起こしている場合には、心臓を蘇生するために、マグネシウムを伴うか伴わないアデノシンおよびリグノカインのボーラス用量を静脈内に(または心臓内に)投与し、その後、除細動器を用いる(除細動器が必要である場合には)。
【0212】
(実施例9)
ヒトにおけるオフポンプ心臓手術の間および後の、心臓不整脈からの保護およびVFの治療
前臨床研究によって、in vivoラットおよびイヌモデルにおいて、マグネシウムを伴うか伴わない静脈内注入アデノシンおよびリグノカインは、心筋虚血の間の心臓にとって高度に保護的であるということが示された。3方面からの攻撃が想定される:1)虚血時間の間、静止細胞の膜電位または電圧を維持し、2)代謝をダウンレギュレートし、3)炎症および過凝固反応を鈍らせる。静止分極状態近くに膜電位を防御することによって、イオンおよび代謝の不均衡が減少し;細胞の代謝をダウンレギュレートすることによって需要が減少し、炎症および血液凝固反応を減弱することによって、再潅流の間のさらなる損傷が低減される。3つすべてを標的にすることによって、命にかかわる不整脈および心筋および冠動脈脈管構造両方のその他の虚血関連損傷からの、より大きな保護が提供される(Canyon,SおよびDobson,GP2004「Protection against ventricular arrhythmias and cardiac death using adenosine and lignocaine during regional ischemia in the in vivo rat」、American Journal of Physiology、287:H1286〜H1295頁)。
【0213】
低リグノカイン用量を用いるアデノシンおよびリグノカインの静脈内注入は高度に心保護的であった。低リグノカイン濃度を用いるアデノシンおよびリグノカインは、急性虚血のラットモデルにおいて、死亡という結果にならず、重篤な不整脈を事実上なくし、梗塞の大きさを減少させた。
【0214】
心拍動下手術を受けている患者に投与される本発明の組成物は、中心静脈ライン上の専用ポートを介する静脈内経路によるものとなる。本組成物は、305μg/kg/分のアデノシンおよび60μg/kg/分のリグノカインを含み、各冠動脈吻合の各5分前およびその間、静脈内に投与される。単回のリグノカインボーラス(1mg/kg)が、AL溶液の最初の投与の直前に3分間注射される。
【0215】
例えば、70kgの患者には:1分あたり0.305×70=21.35mgのアデノシンおよび1分あたり0.06×75=4.2mgのリグノカインが投与される。アデノシンおよびリグノカイン溶液に先立って、70mgのリグノカイン−HCLがボーラスとして投与される。
【0216】
注入の制限:1時間の間、絶え間なく注入される場合には、60分間絶え間なく投与される場合に投与されるアデノシンおよびリグノカインの総量は、60×21.35=1281mgのアデノシンおよび60×4.2mg=252mgのリグノカイン(+70mgのボーラス=322mg)に等しい。アデノシンの半減期は、ヒト血液において4〜10秒である。本発明者らは、3つの吻合を完了するために30分の総アデノシンおよびリグノカイン注入時間、平均時間各10分を想定する。もう1つの実施例は、70kgの被験体において0.3mg/kg/分の注入速度であり、本発明者は21mg/分を注入する必要がある。注入混合物が、540ml中、300mg(すなわち、0.56mg/ml)である場合には、本発明者らは、この被験体のために、37.5ml/分すなわち2.250l/時間で実施する必要がある。
【0217】
前臨床研究:ラット研究では、10mlの生理食塩水への0.0567gのアデノシンおよび0.565mlのリグノカイン−HCl(20mg/ml)を、300gのラットに1ml/時間でIV注入した。そのため、35分の前処理および虚血期間の間、本発明者らは、本発明者らが作製した10mlの溶液のうち35/60×1ml=0.58mlしか用いない。
【0218】
lido−HClの1mg/kgのボーラスと、それに続くアデノシンおよびリグノカイン溶液の注入で開始する。アデノシン注入速度は、0.311mg/kg/分(すなわち、1ml/時間の注入速度または1分あたり1/60mlまたは1/60×5.6mg/ml(本発明者らが作製した10ml中)×1000/300(300gのラットにつき)=0.311 mg/kg/分)に変換する。リグノカイン注入速度は、0.0627mg/kg/分(すなわち、1/60×1.13mg/ml(本発明者らが作製した10ml)×1000/300=0.0627mg/kg/分)に変換する。
【0219】
ヒト研究:
70kgのヒトの研究のために、0.0567×70/0.3=13.23gのアデノシンおよび0.565×70/0.3=132mlのリグノカイン−HCl(20mg/ml)を含む500ml(50回)バッグを作製し、この溶液を、1時間あたり50mlのIV速度で送達する。これは、単位質量あたり同量の薬物を送達する。5つの吻合および各々の前5分間の前処理には、各吻合に20分(最大)かかるとすれば、5×(20+5)分=125分(最大)である。
【0220】
したがって、50ml/時間で、125分間の全吻合時間、患者あたり約50/60×125=104mlを注入する。IV注入プロトコールの例:300ml(500mlではない)を作製するには、3/5×13.23gのAdoおよび3/5×132mlのリグノカインHClとなり、1時間あたり50mlでiv注入する。70kgのヒトには、アデノシン注入速度:0.311mg/kg/分または21.77mg/ヒト患者/分およびリグノカイン−HCl注入速度:0.0627mg/kg/分または4.39mg/ヒト患者/分。
【0221】
最初の吻合の6分前に、リグノカインのボーラス(1mg/kg)、続いて、AL溶液を5分間注射する。各吻合後に停止注入を完了した。外科医が、次の吻合の準備ができた時点で、前5分のIV注入を始める。同じことを各吻合について反復する。
【0222】
投与のタイミング:手術前5分、局所虚血の間、連続して、吻合の完了後に停止する。
【0223】
(実施例10)
「オンポンプ」心臓手術の間のVFの治療およびマグネシウムを伴うか伴わないアデノシンおよびリグノカインの使用
現在、すべての手術用心筋保護液の99%を越えるものが、高カリウム(15〜20mM)を含み、これが、膜電位を83mVから約−50mVに脱分極することによって心臓を不自然に停止する。これらの脱分極電位でナトリウムは、Na「ウィンドウ」電流によって細胞の内側に増大し得、次いで、これが、Na/Ca2+交換体の逆転によって細胞内Ca2+の上昇をもたらす。損傷をもたらす可能性のあるCa2+の蓄積が、心筋保護期間(導入および維持相)の間および/または停止後の蘇生−再潅流相の間に起こり得る。高カリウムと関係しているCa2+負荷は、再潅流期間の間の心筋スタンニング、心室性不整脈、虚血性傷害、微小血管傷害、組織浮腫、フリーラジカル生成および機能喪失と関係している。カリウムを脱分極することはまた、強力な冠動脈血管収縮薬であり、これはさらに心筋保護下の停止、維持および回復の間の傷害に対する心臓の任意の先行受攻性を構成し得る。
【0224】
(実施例11)
命にかかわる心室性頻拍および/または細動の治療:
多数の突然死が、急性心室性頻脈性不整脈(心室性頻拍および/または細動)によって引き起こされ、多くは、心疾患に関連して急性冠動脈イベントによって、または既知心疾患のない人において誘発される。致命的不整脈の出現における最も一般的な病態生理学カスケードは、心室性頻拍が悪化して心室細動、後に、心静止または心停止および死亡となる。患者が、病院において手術の前または後に、突然の心イベント、例えば、心臓発作および心臓の拍動リズムの突然の変化(例えば、心室性頻拍または心室細動へ変換する)を起こしている場合には、心臓を蘇生するために、マグネシウムを伴うか伴わないアデノシンおよびリグノカインのボーラス用量を静脈内に(または心臓内に)投与し、その後、除細動器を用いる(除細動器が必要である場合には)。患者が、手術室または集中治療室中にいる間に、命にかかわる重篤な不整脈(心室細動または心室性頻拍)を起こしている場合には、心臓を蘇生するために、マグネシウムを伴うか伴わないアデノシンおよびリグノカインのボーラス用量を静脈内に(または心臓内に)投与し、その後、除細動器を用いる(除細動器が必要である場合には)。
【0225】
マグネシウムを伴うか伴わないアデノシンおよびリグノカインを用いて、不規則性不整脈、例えば、急性心室性頻脈性不整脈につながる予期せぬ心イベントを患っているヒト被験体を治療し、心臓を正常な拍動または洞調律に薬理学的に変換する方法は、以下のとおりである。
【0226】
心臓を、高カリウム性心筋保護導入、維持および蘇生のマイクロプレジア(microplegia)法を用いて停止する。マイクロプレジア(microplegia)は、心筋に、血液と心筋保護の標準的な4:1混合物を注入して心臓を停止する代替法である。マイクロプレジア(microplegia)は、カリウム(停止)およびマグネシウム(追加)溶液の微量滴定と合わせた、持続的な酸素の豊富な血液の送達による、心臓の有酸素性停止を導入および維持することを目指している。有酸素性停止は、標準的な4:1心筋保護投与計画のものを上回る優れた心筋保護および血糖値のより厳格な制御を提供する。追加的混合物にアデノシンおよびリグノカインを添加すると、さらに高レベルの心筋保護が、患者に長時間持続する周術期利益をもたらすと期待されることがより重要である。アデノシンおよびリグノカインの組成物は、心臓手術を患者にとって安全なものに、外科医にとって、より予測可能なものにする。
【0227】
この実施例は、カリウム停止導入および維持心筋保護と、マグネシウムを伴うか伴わないアデノシンおよびリグノカインを用いる非停止性蘇生溶液とを比較する。維持溶液もまた、アデノシンおよびリグノカインを含み得るが、これらの群における主な停止様式は高カリウムである。もう1つの別の群では、アデノシンおよびリグノカインが、心筋保護を導入および維持するための主な停止、保護および保存様式であり、蘇生を、カリウム停止、維持および蘇生群と比較する。心臓が、蘇生後に適切な機能に戻らない場合には、マグネシウムを伴うか伴わないアデノシンおよびリグノカインのボーラスを、灌流ライン中(心臓内)に投与して心臓を蘇生し、その後、除細動器を用いる(除細動器が必要とされる場合)。
【0228】
マイクロプレジア(microplegia)送達プロトコール:オンポンプ冠動脈バイパス手術、弁手術または組み合わせた手順;またはこれらの再手術に予定されている患者。患者に麻酔および心臓手術を、通常の実施のとおり施す。変力物質、血管収縮薬の使用は「プロトコール主導」であり、手術/麻酔チームによって取り決められた使用のための判定基準に基づく。以下は、例えば、Quest MPS(登録商標)Microplegia Systemにおける心臓の停止、維持および蘇生のために設計されたカセット処方である。
【0229】
停止カセット:
1.80mEqの非希釈カリウム=40mL
2.高設定:25mEq/L
3.低設定:10mEq/L
追加カセット
1.12mgアデノシン=4mL
2.25mgリグノカイン=1mL
3.5gm硫酸マグネシウム=10mL
4.30mL晶液プライム(例えば、プラズマライト(Plasmalyte))
5.追加カセット中の総容量:45mL
6.追加設定:10mL/L
ヘパリン処置時には、アイスリザーバーを氷で頂部まで満たす。必要に応じてリザーバーを補充する。送達温度約8〜12℃。加温導入のための温度設定は、37℃である。
【0230】
1.心停止は、正常温度高カリウム性血液マイクロプレジア(microplegia)で導入する。患者に、高カリウム性血液マイクロプレジア(microplegia)を施す。1)前処理投与計画としての追加カセット中のアデノシンおよびリグノカインおよびマグネシウム、2)維持心筋保護の送達の間の低アデノシンおよびリグノカイン、マグネシウムおよびカリウムレベルならびに3)加温再潅流用量としての、カリウムを含まないアデノシンおよびリグノカインおよびマグネシウム。
【0231】
2.導入期のクロスクランプの適用時には、順行性の流量を、500mL/分に迅速に増大し、次いで、320〜350mL/分に直ちに戻す。これによって大動脈弁の閉鎖を確実にする。高(25mEq)カリウムを含む合計700〜1000mLの加温血液心筋保護を、順行法で送達する。静止状態に達した時点で、逆行性加温に切り替え、さらなる700mLを送達する。
【0232】
3.温浴を冷却(4℃;送達温度は、8〜12℃の間である)に切り替える。追加設定(生理食塩水またはアデノカイン(adenocaine))を2mL/Lに下げる。可能ならいつでも、症例を通じてマイクロプレジア(microplegia)投与を続ける。
【0233】
4.クロスクランプの最後の10分に近づいた時点で、調製物を作製し、温浴を切り替えて37〜38℃に加温することによって加温再灌流用量を送達する。
【0234】
5.加温再灌流用量:逆行法で、アデノシン及びリグノカインを含むか含まない加温血液の送達を開始または継続する。加温逆行性マイクロプレジア(microplegia)をグラフトが完了するまで投与し、順行性送達モードに切り替える。これによって、グラフトの脱気が容易になり、心臓の右側が灌流されるのが可能となる。順行性送達様式によって、マイクロプレジア(microplegia)が、適切に送達され、心筋に分配されることが確実となる(すべてのグラフトが完了した時点で)。順行モードで3〜5分後、脱気が完了した時点で、追加カセット中の残存容量(通常、500〜1000cc)が投与されるまで加温順行を継続する。
【0235】
いくつかのエンドポイントおよび測定可能な結果を、比較のために評価する:
1.年齢、性別、併存症(すなわち、糖尿病、高コレステロール血症、高血圧症、喫煙、COPD、腎不全)を含めた患者個体群統計学および病歴。
【0236】
2.診断、BSAおよび検査値(BUN/クレアチニン、INR、PT/PTT、INR、PLTカウント、ヘパリン後グルコースおよびHCT)、意図されるグラフトの数を含めた手術前データ
3.1)バイパスされる血管の数
2)バイパスの長さ(離脱開始時)
3)クロスクランプ時間
4)血糖値、インスリン投与
5)症例の間のHCT
6)送達されるマイクロプレジア(microplegia)の総容量、投与される添加剤およびカリウムの量
7)加温再灌流用量の期間、ホットショットの容量
8)ブレイクスルーイベント(心筋の蘇生)の数および再停止するのに必要とされるカリウムレベル
9)CPB前および後駆出分画
10)クロスクランプ除去前の洞調律への回復(はい/いいえ);心室細動の発生率
11)心房細動の発生率
12)カルディオバージョンの必要性(ショックの数、各々のエネルギーレベル)
13)任意の再停止プロトコールの必要性[追加のまたは延長されるホットショット(外科医の要請で)、ホットショットの時点でアデノカインへ変換する必要性]
14)手術室から手術後最初の24時間までの尿排出量
15)手術室から退院までの血液製剤使用量(FFP、血小板、RBCおよび晶液)
16)血糖値およびインスリン投与(手術後最初の24時間)
17)手術後6、12、24時間での血漿トロポニンレベル
18)急性心筋梗塞の臨床的証拠(Q波、不整脈)
をはじめとする手術中データ。
【0237】
4.人工呼吸器の時間(抜管までの時間)
5.ICU滞在の長さおよび病院滞在の長さ(退院までの時間)
6.手術後心房細動の治療、カウンターショック(数およびジュール)および以下のスケジュールに従って測定されるペースメーカーの使用:
1)Xクランプ除去から手術室退出まで
2)手術後TICUでの最初の24時間
3)TICU退出から退院まで
7.以下のスケジュールに従って駆動され、測定される変力物質および血管収縮薬プロトコールの使用:
1)手術室を出る際の各々の比率
2)手術後最初の24時間後TICUでの各々の比率。
【0238】
場合によっては、手術後心臓の蘇生の間、心臓は反応せず、細動する。心臓を蘇生するために、マグネシウムを伴うか伴わないアデノシンおよびリグノカインのボーラス用量を、灌流ラインまたは心臓の筋肉(または心臓内)への適したエントリーポイント中に投与し、その後、除細動器を用いる(除細動器が必要とされる場合)。集中治療室において患者が命にかかわる重篤な不整脈を起こしている場合には、心臓を蘇生するために、マグネシウムを伴うか伴わないアデノシンおよびリグノカインのボーラス用量を静脈内に(または心臓内に)投与し、その後、除細動器を用いる(除細動器が必要である場合には)。
【0239】
(実施例12)
手術の間の治療
本発明の組成物および方法はまた、損傷を低減するために代謝活性の低下している期間の間、例えば、細胞静止状態(医学的に誘導されたまたはそうでない)に使用できる。心臓手術は一例である。この実施例では、既知高カリウム性心臓保護が用いられ、手術の間の組織損傷を低減するために本発明の組成物が投与される。
【0240】
このプロトコールは、微量の本発明の組成物を、種々の割合で患者自身の酸素化された血液と混合し、種々の設定で心臓に灌流する上記のミニプレジア(miniplegia)を用いる。「設定」とは、血液中に混合され、臓器、この実施例では、心臓へ直接送達される物質の量の、ポンプ、例えば、シリンジポンプでの量をいう。
【0241】
2種のカセットは以下のとおり調製した。
【0242】
(1)停止カセット:
1.40mlの、80mEqを有する非希釈カリウム−したがって、2mEq/ml
2.高設定:リットルあたり25mEq
3.低設定:リットルあたり10mEq
上記の項目1中のカリウムは主に心停止剤である。高カリウムは、その既知不利点および有害な副作用にもかかわらず、最もよく知られており、用いられている心停止である。代替心停止剤は、カリウムチャネルオープナー/アゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニスト(例えば、アデノシン)を、局所麻酔薬(例えば、リグノカイン)とともに、mM量で含むWO00/56145(GP Dobson)に開示されている。この明細書の開示内容は、参照により全文が本明細書に組み込まれる。本明細書では例示されていないが、上記の項目1の高カリウム心停止剤は、このような心停止剤によって置換され得る。
【0243】
(2)追加カセット:
1.12mgを有する4mlのアデノシン、従って、3mg/ml
2.10mlの硫酸マグネシウム=5g(または5gに相当するMgSOのバイアル)
3.30ml−晶液プライムはいずれも(例えば、L/R、プラズマライト(Plasmalyte)商標)、ノルモソール(Normosol)(商標))ポンプで使用できる。
【0244】
4.追加カセット中の総容量:44ml
5.追加設定:1リットルあたり10ml
このカセットは、50mlカセットを支持する機械に適している。
【0245】
以下の記載されるように、このカセットにリグノカインを添加し、改善された結果を送達する。リグノカインは、アデノシンのものの0.1〜10倍、好ましくは、0.5〜2倍の濃度で添加される。
【0246】
以下のデータは、クロスクランプ除去の直前の回復期まで、このカセットにリグノカインを添加していない実験から得たものである。しかし、本発明のもう1つの実施形態では、アデノシンとリグノカインの組み合わせが、手順の維持または静止期の間に投与されるよう、その最初の使用からこのカセットにリグノカインを添加する。これは、心臓回復の見込みをさらに改善し、かつ/または術後合併症を低減するということがわかる。
【0247】
この実施例において組成物を投与するために用いた手順は、以下のとおりであり、虚血性停止ではなく、有酸素性停止を引き起こすことを全体的な目的とする。
【0248】
1.ヘパリン処置時には、アイスリザーバーを氷で頂部まで満たす。リザーバーは、x−クランプ時間が3時間を超えるまで補充される必要はない。送達温度は約12℃とする。最後の3回目のx−クランプ期間に向けて、酸素の豊富な血液のある程度の代謝が起こるはずである。
【0249】
2.加温導入のための温度設定は、加温(37℃)。
【0250】
3.停止のための高設定:25mEq/1リットルの高カリウム性停止カセットが迅速な停止を導入する。
【0251】
4.追加のための設定:クロスクランプの前に10ml/リットル。
【0252】
クロスクランプの適用時:
1.順行性のフローを500mlに迅速に増大し、次いで、320〜350mL/分に直ちに戻して、大動脈弁の閉鎖を確実にする。
【0253】
2.700mlの加温順行性を投与する。静止状態に達すれば、300mlをさらに投与し、次いで、低K+設定(すなわち、10ml/リットル)に切り替える。
【0254】
3.700mlの加温逆行性を投与する。
【0255】
4.水温を冷却に切り替える。冷逆行性を可能な限り投与する。経験的に停止設定を低くするほど、より長いフローが継続する。
【0256】
5.低追加設定を2ml/リットルとする。心臓のほとんどの準備が生じる。
【0257】
6.CABGを行う場合には、末梢をまず実施し、最初のグラフトの後に、マルチカテーテルラインによってグラフトをポンプとつなぐ。次いで、フローを、150トールの圧力を達成するよう極めてゆっくりと増大し、外科医にとって有用な情報であるフローに注意する。このことは、以下のいくつかのことに達する:
・圧力対フロー比の究極の判断基準を用いてグラフトの開存性を調べるための制御された機械装置;
・外科医は、吻合部の止血を調べる手段を有する;
・標的部位に順行性に、必要に応じて同時に、逆行性に送達する能力。
【0258】
7.処置が、弁および冠動脈での作業を含む場合には、冠動脈をまず実施する。このように病気の心臓に栄養分が提供され、それは弁が作動している間必要である。
【0259】
8.通常のSOPに従ってK+をモニターし、カリウム濃度を所望のレベルを満たすよう調整する。
【0260】
x−クランプの最後の10分に近づいた時点で、加温ショットのための調製物を作製する。これらは以下を含む:
1.水設定:加温(37℃)
2.停止設定:0−K+およびその他の代謝物を洗い流すため
3.25mgのリグノカインを追加バッグ(記載されているこの実施形態では、事前には添加されていない)に注入して、予防的抗不整脈薬組成物の標的送達を達成する−通常、処置時間の長さに応じて、この時点で、追加バッグ中に約18〜35ml残っており、これによって約1mg/mlのリグノカイン濃度が提供される。
【0261】
4.追加設定:15〜18−目標は、クロスクランプの除去の前に追加バッグを空にすること。
【0262】
加温ショットのために:通常、x−クランプ除去の5〜10分前に開始した
1.逆行性加温を開始する、カリウムゼロ、追加設定15。逆行性圧が最高レベル(35〜40トール)で維持されることを確認する。
【0263】
2.電気的活動が始まる場合には、もう1分逆行性を継続する。
【0264】
3.2〜3分間、順行性に切り替える(外科医の構想を不明瞭にしない場合)。これによってグラフトを脱気することが容易になり、心臓の右側が灌流されるのが可能となり、通常、安定な心拍を達成される。
【0265】
4.x−クランプの間、逆向性に切り替えて戻す。
【0266】
5.追加設定を使い果たした場合には、x−クランプ除去によって純粋な加温血液を用いて継続する。
【0267】
マイクロプレジック(microplegic)技術を用いれば、投与する容量が多いほど、有酸素性停止であるので、心臓はより好む。多くの場合、適切に投与されると、酸素供給/需要比率は逆転される。1リットルを越え、最大6リットルの投与は、術後細動の最大の減少を伴う。
【0268】
加温血液心筋保護を用いて得られた臨床結果は、低体温によるいくつかの細胞機能の障害に関する初期の知見が、これまでに考えられていたよりも関連している可能性があるということを示唆している。これらとして、以下の低下が挙げられる:
1.膜安定性
2.グルコースおよび脂肪酸利用能
3.細胞膜機能の低下につながる、アデノシン三リン酸のミトコンドリア生成
4.細胞量調節の障害につながる、アデノシン三リン酸系の活性
5.筋小胞体のカルシウムと結合する能力の低下
6.ミトコンドリア状態呼吸およびクエン酸合成酵素の活性
7.細胞内pHの制御
8.カルシウム取り込みに関する筋小胞体の活性
加温導入を、冷却維持およびクロスクランプの終了に向けた加温ショットと合わせることは、優れた結果を提供する。特に、アデノシン(その他の機能の中でも、極めて強力な血管拡張薬)を加えた加温導入は、すべての側枝を広げ、停止するのに必要な導管ならびに筋細胞および内皮に到達する添加剤を提供する。冷却導入を用いると、収縮ならびに心筋保護を筋細胞および内皮にまで全体的に分配できないこと現れる。
【0269】
冷却維持は、代謝取り込みの減少を提供し、氷融解によるクロスクランプの自然の成り行きの間に生じる温度のゆっくりとした上昇を伴う。平均温度は約12〜14℃に推移する。最後での加温ショットは、心筋保護の最も重要な局面である。心臓に、可能な限り長く加温血液(32〜37℃)を経験させることによって、変力物質および電気的支持を必要とする弛緩した、命のない心臓とは対照的に、心臓の機能的回復のほとんどを取り戻すことにおいて相違が生じることとなり得る。また、冷たい、弛緩した、拍動していない心臓を、例えば、クロスクランプが除去されるときに経験されるような、大流量の加温血液の外傷に付すことによって、心臓を確実に再灌流傷害を起こす状態にするという証拠がある。
【0270】
過去30年の間に、外科医および灌流技師はその外科的技術に磨きをかけ、それによって、各患者の個々の必要性および要求にアプローチする方法を「カスタマイズ」することが可能となった。本質的に「型にはまった」アプローチが残っている唯一の領域は、心筋保護であり、本質的に「フリーサイズ」である。いずれか特定の理論または作用様式に拘束されるものではないが、この好ましい実施形態の方法は、患者を過剰に血液希釈せず、ひいては、結果の改善をもたらすことに対してより慎重に扱うべきであると考えられる。
【0271】
一実施形態では、心筋保護を用いて心臓手術を受けている2688人の患者を、異なる外科医および異なる技術を用いて6つの異なる病院で評価し、このデリケートな環境において変動性を評価した。すべての患者を標準的な高カリウム性心筋保護液を用いて処理して停止を導入した。患者のうち、1279人は、通常の標準的な晶液心筋保護プロトコール(「標準」)に付される群とした。1409人は、同様の高カリウム性心筋保護および上記の、すなわち、本発明の組成物を有する加温ALM追加カセットを用いる、マイクロプレジア(microplegia)プロトコール(すなわち、心臓に直接投与される最小量の心筋保護を用いるもの)に付された。本発明は、この形の心筋保護に特異的ではなく、それに限定されることもなく、本発明の方法の適用を形成し、評価するために本明細書で議論され、本発明の効果を例示する。
【0272】
追加カセットは上記のように用いられ、その結果、回復期の間、アデノシン、リグノカインおよびマグネシウムを含んでいた(従って表示「ALM」)。本発明の方法は、単に便宜な略語として「ALM」と呼ばれる。ALMは、上記のプロトコールに従ってクロスクランプ除去で投与された。
【0273】
表1は、2688人の患者の特徴を示し、表2は、測定された種々の術後合併症の出現を示す。
【0274】
【表1A】

【0275】
【表1B】

表2では、表1において同定された患者の臨床結果が表にされている。第3の列は、各結果の標準心臓保護患者の割合(すなわち、第1の列のパーセンテージとしての第2の列)のパーセンテージとしての患者のALM割合を表す。左の列の結果のすべては、負の結果であり、従って、最小化が望ましい。
【0276】
【表2】

上記のプロトコール後に合併症が、特に、術後心房性細胞および術中変力物質の必要性において実質的に減少されていることがわかる。特に、これらの負の結果の減少は、術中変力物質の86%減少、術中ぺーシングにおいては64%の減少、術中輸血においては44%の減少、術後在院日数の長さの21%の減少および術後心房性細胞における91%の減少である。
【0277】
(実施例13)
ショック後アデノシン/リグノカイン溶液の投与
この実施例では、以下のアデノシン/リグノカイン(AL)溶液(複数の溶液)を用いた:AL溶液=クレブス−ヘンゼライト(Krebs−Henseleit)溶液中、200μMアデノシン、500μMリグノカイン
ラットを、上記のように出血性ショックに2時間および10分付した。
【0278】
図1は、この実験の間のラット心臓のECGモニタリングを示す。図1Aは、ラット心臓を、出血性ショックの前の正常として示す(心拍数(HR)=375bpmおよびMAP114 mmHg)。ショック後、HRは、35bpm BP<10mmHgに低下した(図1B)。0.5mLのAL溶液のボーラスを、心臓に直接投与した。図1Cは、HRが、溶液の投与の1.5秒後に207bpmに増大したことを示す。
【0279】
図2Aは、この実験の間のラット心臓のカルディオバージョンをより詳細に示す。特に、溶液の投与の1.5秒後、ラット心拍は35bpmから207に増大した。溶液の投与点は、(I)として表されている。図2Bは、このラットの心拍が、溶液の投与の10秒後に再度ゆっくりになることを示す。
【0280】
いずれか特定の作用様式または理論に拘束されるものではないが、これらの結果は、動物が極めて少容量の血液しか有さないので、AL溶液のボーラスが心拍を最初の期間戻すことができるということを示す。図2B中、(II)に示されるさらなるインターベンション、例えば、胸部圧迫および/またはAL溶液のさらなるショットが、被験体を生存させるのに必要とされ、同様に血液量補充を用いることが好ましい。
【0281】
この実施例は、蘇生の間、身体全体の酸素供給−需要比率を良好にバランスをとり、脳、心臓、肺および腸などの重要な臓器への損傷を低減することに特に重点をおいて、外傷性出血性ショックおよび蘇生と関連する炎症および過凝固不均衡を積極的に減弱するために、薬理学的に低代謝の「冬眠様」状態を誘導することを目的としている。肺の炎症状態および浮腫性、いわゆる「湿性肺」、「ショック肺」、「ダナン肺」または「急性呼吸窮迫症候群」は、激しく外傷を受けた患者の最大50%で起こり得る。
【0282】
(実施例14)
出血性ショック後の、アデノシン/リグノカイン蘇生液を用いた静脈内治療
この実施例では、以下のアデノシン/リグノカイン溶液(複数の溶液)を用いた。
【0283】
ALM(蘇生溶液)=7.5%NaCl溶液中、10μMアデノシン、30μMリグノカインおよび2.5mM MgSO
【0284】
図3は、正常期の間のラットのECGトレースを示す。この時間に測定されたMAPおよびHRは以下の表3に示されている。
【0285】
ラットを、MAPが約30〜35mmHgに低下するまで、上記のような約45%の失血を含む出血性ショックに付した。取り出された最大血液は、ショック期間の過程にわたって8.6mlであった。
【0286】
総血液容量は、0.06×304+0.77=19.01mlであると推定された。したがって、失われた血液容量%=8.6/19.01×100=約45%。
【0287】
図4は、「ショック期」の開始の前の出血期間の最後のラット心臓のECGモニタリングを示す。この時間に測定されたMAPおよびHRは、以下の表3に示されている。
【0288】
動物はショックで180分間維持し、次いで、ALMまたは7.5%生理食塩水のいずれかを、ivボーラスによって投与した。HRおよびMAPは、各60分のショック期、すなわち、0〜60分、(ii)60〜120分、(iii)120〜180分の間測定し、以下の表3に示されている。ECGモニタリングは継続した(図5、図6および図7)。
【0289】
3時間のショック期の最後に、1.0mlのボーラスALM(7.5%NaCl、2.5mM MgSO4、10μM アデノシン、30μM リドカイン)を、大腿静脈にゆっくりと注入した。
【0290】
注入10分後ECGトレースが、図8に示されている。この時間にとられたHRおよびMAP測定値は、以下の表3に示されている。
【0291】
注入30分後のECGトレースが、図9に示されている。この時点でとられたHRおよびMAP測定値は、以下の表3に示されている。
【0292】
注入60分後のECGトレースが、図10に示されている。この時点でとられたHRおよびMAP測定値は、以下の表3に示されている。
【0293】
注入90分後のECGトレースが、図11に示されている。この時点でとられたHRおよびMAP測定値は、以下の表3に示されている。
【0294】
【表3A】

【0295】
【表3B】

(実施例15)
アデノシン/リグノカイン蘇生液および7.5%生理食塩水を用いる静脈内治療の競合実施例
この実施例では、以下のアデノシン/リグノカイン溶液(複数の溶液)を用いた:
ALM(蘇生溶液)=7.5%NaCl溶液中、10μMアデノシン、30μMリグノカインおよび2.5mM MgSO
【0296】
ラットを、MAPが約30〜35mmHgに低下するまで、先の実施例に記載されるような約45%の失血を含む出血性ショックに付した。
【0297】
図12は、この実験の間のラットのECGトレースを示す。図12Aは、出血性ショックの前の正常としてのラット心臓を示す(HR約350bpm;MAP100mmHg)。図12Bは、ショックの60分後のECGモニタリングを示す。MAPおよびHRは、この時点で測定した(MAP44mmHg;HR増大した約280bpm)(図12B)。ECGモニタリングは、さらに120分間継続した。図12Cは、MAPがショックの180分後に40mmHgで比較的安定した状態を保つことを示す(HR約239bpm)。
【0298】
図13Aは、ショックの180分後、0.5mLの7.5%生理食塩水の投与後のラットのECGトレースを示す。HRは、約39bpmに低下した(MAP30mmHg)。これは、7.5%の生理食塩水溶液の投与後、約10分間維持された。次いで、心拍数が270bpmに増大した。
【0299】
図13Bは、ショックの180分後、ALMの0.5mlボーラスの投与後のラットのECGトレースを示すHRは、直ちに261bpmに増大した(MAP35mmHg)。
【0300】
これ(および先の実施例)は、出血性ショックを起こした被験体へのALMの定期的なボーラス投与によって心臓機能が維持され得ることを示す。いずれか特定の理論または作用様式に拘束されるものではないが、この低容量溶液は、十分な医学的支援が遅れている状況で使用できる。例えば、溶液は、病院への患者の困難なまたは延長された避難または輸送の間の腹膜内支援を提供するために、事故現場で、または戦場において現場の医師によって定期的な間隔で投与できる。この実施例は、この溶液の静脈内(iv)ボーラスは、心臓を安定化し、虚血性脱分極および不整脈から保護するため、および蘇生の前に身体の主要な臓器を薬理学的にダウンレギュレートするために、重度の失血の直後に配備することができるということを実証する。これによって、衛生兵または戦闘ライフセーバーが、外傷/傷害の現場近くで負傷兵を支援できることを想定する戦場シナリオが可能となる。
【0301】
本明細書において開示され、定義される本発明は、この文書または図面から記載されるか、または明らかな個々の特徴のうち2種以上のすべての代替組み合わせに及ぶことは理解される。これらの種々の組み合わせのすべてが本発明の種々の代替態様を構成する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外傷後に身体に、以下:
(i)カリウムチャネルオープナーまたはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストと、
(ii)局所麻酔薬と
を含む組成物を投与することによる、外傷後の身体の細胞、組織または臓器の損傷を低減する方法。
【請求項2】
前記組成物の投与後に、(i)および(ii)を含むさらなる組成物を投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組成物が、二価のマグネシウムカチオンをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
マグネシウムの濃度が最大約2.5mMである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物が高張性である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(i)カリウムチャネルオープナーまたはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストと、
(ii)局所麻酔薬と
を含む、外傷後の身体の細胞、組織または臓器の損傷を低減するための組成物。
【請求項7】
二価のマグネシウムカチオンをさらに含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項8】
高張性である、請求項7または8のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
(i)カリウムチャネルオープナーまたはアゴニストおよび/またはアデノシン受容体アゴニストと、
(ii)局所麻酔薬と
を含む組成物を投与することによって外傷犠牲者を治療する方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図13A】
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【図13B】
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【公表番号】特表2009−544628(P2009−544628A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521065(P2009−521065)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【国際出願番号】PCT/AU2007/001029
【国際公開番号】WO2008/011670
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(508354876)ハイバーネイション セラピューティクス リミテッド (3)
【Fターム(参考)】