説明

外科手術に向けた患者の準備に使用するための方法および組成物

殺生物剤(例えば、クロルヘキシジン、ハロゲン化フェノール、四級アンモニウム化合物;ポビドンヨード;ピリジンチオン亜鉛(zinc pyridinethione);アルコールなど)または殺生物剤の組み合わせと、殺生物剤を表皮下の「常在性」微生物まで移送するのに有効な少なくとも1つの経皮媒質(例えば、アルキルメチルスルホキシド、アルキルピロリドン、グリコール、グリコールエーテル、およびグリコールエステル)とを含む、皮膚への適用のための組成物。さらにまた、「一過性」および「常在性」の両微生物を93%を超えて死滅させるのに有効な組成物によって、患者の、外科的切開が意図される部位およびその近傍周囲の皮膚の領域を処置する段階を含む、外科手術に向けて患者を準備するための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、外科手術に向けて患者を準備するための改善された方法に関する。より具体的には、本発明は、患者が外科手術手法を受けたことに起因して罹る感染のリスクを(現在使用されている方法と比較して)低減させることに関する。本発明はまた、本方法での使用に適した組成物にも関する。
【0002】
本方法は、外科手術に向けたヒト患者の準備に関連して本明細書に記載されるが、本方法が他の動物に対して同等に適用可能であることは理解されると思われる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
外科手術に向けて患者を準備する場合、ヨウ素またはクロルヘキシジンなどの殺生物剤を皮膚表面に適用することによって、切開が意図される部位の周囲領域を処置することは通常のことである。これは通常、手術直前に適用される。処置後、その領域は無菌シートまたは無菌布で開口部を残して覆われ、外科医は、その開口部を通して切開を行い、外科手術を遂行することができる。この手法の目的は、患者の皮膚に存在し外科手術の部位に到達しうる、外科手術創傷に感染をもたらす微生物のいかなるコロニーをも死滅させることにある。この手法は術後感染の発生を低減させるのに大いに有効であるが、感染が起こる事例は、高い割合が自己感染によるものである。そのような感染は、もし起これば、重篤なまたは致命的な結果さえ有しうる。
【0004】
いくつかの病院では追加の予防策として、患者に、外科手術前に1または2日間にわたって1日1回殺菌石鹸で自分自身を洗浄するよう、または少なくとも外科手術が意図される領域を洗浄するよう要求することを実践している。この洗浄は通常シャワーの下で行われ、患者の皮膚における細菌負荷を低減させ、かつ手術室での手術前の実用的な洗浄に比べてより広範な皮膚領域から微生物が除去されると考えられる。
【0005】
上記の処置は、「一過性」微生物に対してのみ有効であるという共通点を有する。「一過性」微生物は皮膚の表面に存在する微生物である。一過性微生物に対するそのような処置の効力は、Paulson, D.S.(American Journal of Infection Control (1993), 21, 205-209)(非特許文献1)が4%グルコン酸クロルヘキシジンのシャワー浴について、およびByrne D.J.ら(J. Hospital Infection (1990), 15, 183-187)(非特許文献2)が4%クロルヘキシジンの洗剤について考察している。Garibaldi, R.A.(J. Hospital Infection (1988), 11, Sup B 5-9)(非特許文献3)は、皮膚表面のコロニー形成を処置するには、4%グルコン酸クロルヘキシジンがポビドンヨードまたはトリクロカルバン薬用石鹸よりもさらに有効であることを示した。それにもかかわらず、手術中(intra-operative)の創傷培養物(wound culture)の頻度は良くても4%であり、すなわち、表面培養物は、100例の手術中に4例の患者で見いだされた。
【0006】
本明細書における先行技術のいかなる考察も、そのような先行技術が当技術分野で広く知られているとの、または共通の一般知識の一部を形成するとの承認であると決して見なされるべきではない。
【0007】
患者の皮膚が「一過性」微生物群に対して有効な殺生物剤によって術前に処置される一方で、外科医は「手をこすり洗う(scrub up)」義務があり、この「外科手術用こすり洗い(surgical scrubbing)」が、複雑な規定のプロトコルに従った、数分間にわたり流水下での、殺生物剤および界面活性剤による徹底的なこすり洗いの処置を伴うという点に、本発明者は注目している。これらのこすり洗いプロトコルは、「一過性」生物を外科医の手の表面から除去することを意図しているだけでなく、皮膚の孔に存在しうる「常在性」微生物を死滅させることも意図している。皮膚の外層である表皮は5つの層からなり、なかでも角質層が最も外側である。いくつかの微生物は角質下、詳細にはそれだけでなく汗腺、毛包、および皮下腺に存在しうる。そのような「常在性」微生物は、こすり洗いでさえ死滅させるのは困難であり、外科手術用こすり洗いではその除去は部分的にしか達成されないと示す研究がある。外科手術前に同程度にまで流水下で患者をこすり洗いすることは実行不可能であると思われ、実行しても部分的にしか有効ではないと思われる。
【0008】
一般に使用される術前の組成物は、「一過性」微生物に対して、皮膚の乾燥領域では約2 logの低減、皮膚の湿潤領域では3 logの低減をもたらし(「グローブジュース法」を用いて手および手首をインビボで測定した場合および「ヨーロッパ法」を用いて指先を測定した場合)、皮膚の「常在性」微生物群に対しては実質的に効果がない。「常在性」微生物の発生は人によって大きく異なり、代表的な群試料では、最大10倍の常在性微生物数の変化を見いだすことができる。標準的な術前の処置が「一過性」微生物に対して比較的有効であるため、このことは、「常在性」微生物が自己感染の一因となりうることを意味している。
【0009】
Neilsenら(J. Clinical Pat., (1975), 28, 793-797)(非特許文献4)は、62%エチルアルコール中の0.5%クロルヘキシジンについて、表在性「一過性」および「常在性」の両方の叢に対する効果を試験した。彼らは、洗剤による前処置を含む2段階プロセスが「常在性」叢を処置するのに必須であると結論づけた。試験した14人のボランティアについては、それぞれ処置前には角質下好気性微生物が見いだされ、かつ好ましい処置以降の少なくとも1つの事例で存続していた−すなわち、失敗率7%。この処置は、嫌気性および好気性の手術創傷細菌源としての患者の皮膚を「高度に排除する」と言われるものに違いないとしか、この著者は結論づけできていない。
【0010】
PCT/US98/06779(特許文献1)では、ゲル中のヨウ素およびエチルアルコールが関与する術前の皮膚準備のための方法が記載されている。この明細書では、微生物が「一過性」または「常在性」でありうると言及されているが、常在性微生物についての効力に関するデータも請求項も含まれていない。ヨウ素に基づく組成物を主に対象としているが、この開示された方法(26頁)は、約30秒間のこすり洗いとともに手術直前にゲルを外科手術部位へ適用することを伴う。組成物および方法の両方とも、本明細書に開示する組成物および方法とは異なる。
【0011】
引用した例において、主な殺生物剤がクロルヘキシジンまたはヨウ素であり、それらの殺生物剤は、殺生物活性と全身のタンパク質との間の強い相互作用のため、皮下浸透が可能であったとしてもわずかである点に留意することも非常に重要である。この相互作用が原因で、クロルヘキシジンの場合、殺生物剤がタンパク質と(実質的に)付着するようになり、ヨウ素の場合、殺生物剤がタンパク質によって非活性化される。したがって、いかなる皮下作用も、そこに含まれるエタノールに左右される。
【0012】
この浸透エタノールは身体内で直ちに消散し、したがって角質下に残存殺生物活性が数分間を上回って存在することはない。この領域のコロニー再形成はアルコール消散直後に始まる。ほとんどの外科手術手法は15分間から6時間かかる。
【0013】
現在、術後に感染(自己感染を含む)のリスクが認められるため、外科医は今日、慣例的に予防措置として抗生物質を術前に処方している。この実践は、抗生物質に対する微生物の抵抗性が増大するリスクを負い、医療および社会の重大な問題である。
【0014】
本発明の目的は、先行技術の欠点の少なくとも1つを克服および改良することにある。本発明の好ましい態様の目的は、外科手術に向けて患者を準備する改善された方法およびその方法に使用するための組成物を提供することにあり、非常に好ましい態様では、本方法は、1つまたは複数の先行技術の方法よりも術後の感染を低減させる点でさらに有効である。
【0015】
【特許文献1】PCT/US98/06779
【非特許文献1】Paulson, D.S.(American Journal of Infection Control (1993), 21, 205-209)
【非特許文献2】Byrne D.J.ら(J. Hospital Infection (1990), 15, 183-187)
【非特許文献3】Garibaldi, R.A.(J. Hospital Infection (1988), 11, Sup B 5-9)
【非特許文献4】Neilsenら(J. Clinical Pat., (1975), 28, 793-797)
【発明の開示】
【0016】
発明の簡単な説明
本発明者は、1つまたは複数の殺生物剤と、殺生物剤を運ぶのに有効な、真皮バリアを通過する溶液としての経皮媒質とを含む調製物が、手術前の数日間にわたって1日数回繰り返して適用された場合に、特に「常在性」微生物を死滅させるのに有効であるということを見いだした。望ましくは組成物は、ゲルまたはクリームとして適用され、皮膚の関連領域に塗布される。外科医の指示の下、患者が自分で組成物を適用してもよく、通常、組成物は、次の適用までその場に放置されるものと思われる。
【0017】
第1の局面によると、本発明は、少なくとも1つの殺生物剤と、殺生物剤を「常在性」微生物まで移送するのに有効な少なくとも1つの経皮媒質とを含む、皮膚への適用のための組成物を提供する。好ましくは、経皮媒質は、適切なアルキルスルホキシド、アルキルピロリドン、グリコール、グリコールエーテル、およびグリコールエステルからなる群より選択される。
【0018】
「常在性」微生物は表皮下のものであってよい。
【0019】
媒質についての「経皮」とは、媒質が、少なくとも皮下組織まで浸透する、および望ましくは皮下組織を通過して浸透することを意味する。皮膚はヒトの最も大きな器官であり、表皮、真皮、および皮下組織の3つの機能的な層からなる。皮膚は生体を水分喪失、ならびに機械的、化学的、微生物的、および物理的な浸透から保護するように設計されており、これらの任務を達成するよう特別に構造化されている。当業者は、エタノールおよび類似のアルキルアルコールが、経皮および皮下組織までの浸透ではないが、角質に浸透する若干の能力を有することを認識すると思われる。経皮媒質は、皮膚バリアを越える全身性薬剤の輸送用に開発されてきたが、かつて皮膚への殺生物剤の輸送に使用されたことはない。
【0020】
殺生物剤との組み合わせが本発明での使用に好ましく、特に好ましい組み合わせはトリクロサンとフェノキシエタノールである。使用濃度において殺生物剤が全身性の副作用を有さないことに注意を払う必要がある。
【0021】
第2の局面によると、本発明は、「一過性」および「常在性」の両微生物を93%を超えて死滅させるのに有効な組成物によって、患者の、外科的切開が意図される部位およびその近傍周囲の皮膚の領域を処置する段階を含む、外科手術に向けて患者を準備するための方法を提供する。好ましい態様では、第1の局面による組成物が使用され、事実上、「常在性」微生物も「一過性」微生物も生存させない。
【0022】
「含む(comprising)」という用語は、包含的な意味、つまり「含む(including)」または「含む(containing)」の意味で本明細書において使用される。この用語は、排他的な意味(「からなる(consisting of)」または「から構成される(composed of)」)には意図されない。
【0023】
好ましい態様では、組成物は、少なくとも1つの殺生物剤、好ましくは殺生物剤の組み合わせを含み、皮下の「常在性」微生物に到達できるよう製剤化される。本発明の好ましい態様では、本方法は、抗菌石鹸を用いてシャワーを浴びることと、手術台で皮膚の手術準備措置(prep)を施すこととを含む先行技術の準備方法と併せて使用される。皮膚の手術準備措置の代用として本方法を使用することは意図されていない。
【0024】
第3の局面によると、本発明は、手術前の24時間の間に前記段階が少なくとも1回繰り返される、第1の局面による方法を提供する。
【0025】
本発明の方法の好ましい態様において、第2の局面による手法は、手術前に数日間にわたって少なくとも1日1回繰り返される。
【0026】
本発明による組成物での使用に適した殺生物剤には、クロルヘキシジンおよびその塩;ジクロロフェン、他のクロロフェノール誘導体、例えばp-クロロ-m-キシレノール、クロロフェン、およびo-フェニルフェノール、2,4,4,-トリクロロ-2-ヒドロキシ-ジフェニルエーテル(トリクロサン);オクテニジンジヒドロクロリド(CH3-(CH2)7-NHON-(CH2)10-NO-NH(CH2)7-CH2)または他の任意のそれらの塩、四級アンモニウム化合物、ポビドンヨード、ならびにピリジンチオン亜鉛(zinc pyridinethione)、ならびにフェノキシエタノールが含まれるが、これらに限定されない。
【0027】
クロルヘキシジンの適切な塩には、グルコネート、イセチオネート、ホルメート、アセテート、グルタメート、スクシンアメート(succinamate)、モノジグリコレート、ジメタンスルホネート、ラクテート、ジイソブチレート、またはグルコヘプトネートの塩が含まれる。
【0028】
他の適切な殺生物剤には、エチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、およびフェニルアルコールなどの選択されたアルコールが含まれる。
【0029】
抗微生物剤は周囲温度で少なくとも0.001%w/vの水溶性を有することが好ましい。
【0030】
抗微生物剤がジグルコン酸クロルヘキシジンである場合、好ましくは4.5%w/vを超えない量で使用される。抗微生物剤が2,4,4,-トリクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエーテル(トリクロサン)である場合、好ましくは3%w/vを超えない量で使用される。2つ以上の殺生物剤を組み合わせて使用するのが好ましい。ヨウ素化合物およびクロルヘキシジン化合物などの殺生物剤はタンパク質と反応し、皮膚のタンパク質によって非活性化されると思われるため、真皮浸透に適さないが、「一過性」微生物に対して有効である。トリクロサンとフェノキシエタノールの組み合わせは、本発明での使用に予想外に有効であることが見いだされており、望ましい相乗効果を示す。
【0031】
本発明による組成物は、液体、ローション、クリーム、ゲル、または他の局所用媒質中に製剤化されてもよく、または噴霧剤として製剤化されてもよい。組成物は水性であってもよく、またはエタノール、n-プロパノール、もしくはイソプロパノールを利用してアルコール性としてもよい。
【0032】
1つまたは複数の殺生物剤に加えて、製剤は、殺生物剤が可溶でかつ殺生物剤の経皮性輸送に有効な少なくとも1つの媒質を含む。媒質は、適切なアルキルスルホキシド、アルキルピロリドン、グリコール、グリコールエーテル、および適切なエステルからなる群より選択される。そのような媒質の例には、適切なアルキルスルホキシドの例としてジメチルスルホキシド;適切なアルキルピロリドンの例としてN-メチル-2-ピロリドン;適切なグリコールの例としてプロピレングリコール、適切なエステルの例としてミリスチン酸イソプロピル、および適切なグリコールエーテルの例としてジエチレングリコールモノエチルエーテルが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの管轄では、スルホキシドの使用には医療処方箋が必要とされうる。
【0033】
発明の好ましい態様
これより、本発明の好ましい態様を例示のみを目的として記載する。
【0034】
実施例1:本発明による方法での使用に適したゲル

実施例1において、エタノールは、一過性生物に対する殺生物剤、皮膚浸透剤、溶媒、および乾燥助剤として働く。水は、溶媒として、および殺生物剤であるエタノールの活性化剤として作用する。ヒドロキシプロピルセルロースはゲル化剤として作用する。フェノキシエタノールは、保存剤として、ならびに一過性微生物および皮下の微生物に対する第2の殺生物剤として作用する。トリクロサンは、一過性微生物および皮下の微生物を死滅させるための第1の殺生物剤として作用する。ジメチルスルホキシドは経皮媒質である。プロピレングリコールも経皮媒質として作用する。ミリスチン酸イソプロピルも経皮媒質として、および皮膚軟化剤として作用する。染料は、所要の皮膚領域が適宜処置されていることの指標として、添加される。
【0035】
本発明による適切な方法の例は、患者がその患者の外科医の指示により実施例1のゲルを皮膚領域に塗布し、切開が意図される部位を中心として全方向に少なくとも約5cmの幅をもって皮膚表面を1平方cmあたり約0.03〜0.1gの割合で覆うことを伴う。ゲルは、手術日前に3日間にわたり、1日2回、8時間の間隔をおいて皮膚にすり込むべきであり、一度適用したら、その場に放置すべきで、望ましくは洗い落とすべきではない。
【0036】
実施例2:
本発明によるクリームおよび本発明による方法での使用に適したクリームの態様は以下の組成を有する。各構成要素の主要な機能を表に示す。

【0037】
使用においては、患者は、その患者の外科医の指示により実施例2のクリームを皮膚領域に塗布し、切開が意図される部位を中心として全方向に少なくとも約5cmの幅をもって皮膚表面を1平方cmあたり約0.03〜0.1gの割合で覆う。クリームは、手術日前に3日間にわたり、少なくとも1日2回(好ましくは8時間間隔で)皮膚にすり込むべきであり、一度適用したら、その場に放置すべきである。
【0038】
実施例3:
本発明によるクリームおよび本発明による方法での使用に適したクリームの第2の態様は以下の組成を有する。各構成要素の主要な機能を示す。

【0039】
実施例3のクリームは、実施例1または2に関する上記の記載と類似の様式で適用する。
【0040】
実施例4:
本発明によるクリームおよび本発明による方法での使用に適したクリームの第3の態様は以下の組成を有する。各構成要素の主要な機能を以下の表に示す。

【0041】
実施例4のクリームは、実施例1、2、または3に関する上記の記載と類似の様式で適用する。
【0042】
前記の各実施例においては、記載した処置に加えて、手術日および手術前に消毒用石鹸を用いてシャワーを浴びるかまたは全身洗浄を行うことが患者にとって好ましい。
【0043】
実施例5:相対効力
活性成分の経皮浸透および比較放出について、R. Danids (Skin Care Forum, Issue 37, August 2004, Cognis);S. Jung (The University of California Irvine Undergraduate Research Journal, p.25-26, Vol V, 2002, University of California Irvine);Guideline for Industry Non-sterile Semisolid Dosage Forms (SUPAC-SS CMC7), May 1997, U.S. Department of Health and Human Services FDA CDERに記載されているように、水平のガラス製フランツ型(Franz-type)拡散セルを用いて比較した。MWカットオフ値が6-8000の標準的なセロハン透析膜を拡散検討に使用した。フランツセルの受容溶液(receiving solution)は50%v/vメタノール/水から構成された。フランツセルにセロハン膜を水平に取り付けた。各試験に対して試料0.5gを用いた。セルの受容部は連続して磁気的に撹拌し、35+/-2℃に維持した。指定の時間で、150マイクロリットルのアリコートをフランツセルの受容器から採取した。20マイクロリットルをHLPCに注入した。残りはフランツセルに戻し、セルにさらなる受容溶液を補充した。
【0044】
実施例2、3、および4による組成物の試料0.5gについて、2、4、および7時間にわたり、62%エチルアルコール中の5%クロルヘキシジンを含む先行技術の組成物と比較した。実施例2〜4と比較する目的で、活性成分を0.5%から5%にまで増加させた。各試験は2回ずつ行った。HLPC分析は、C18カラム、移動相に75%メタノール、流速1.5mL/分を用いて行った。検出器−UV270nm。2回の試験の平均結果を以下の表にする。Aの列は組成物の実施例番号を示し、Bの列は時間を時間単位で示す。C、D、およびEの列は、各々の製剤における活性要素の結果を、mgおよび試験した試料量に対する%の両方で提示する。

【0045】
フェノキシエタノールが、他のいずれの殺生物剤よりも非常に速い速度で、かなりの程度浸透するのを見ることができる。2時間後、トリクロサンが0.24%およびクロルヘキシジンがさらに少ないことと比較して、13%を超える量が浸透した。7時間後、違いはより実質的である。殺生物剤の浸透は、先行技術の場合よりもはるかに優れていた。
【0046】
実施例6:トリクロサンとフェノキシエタノールとの間の相乗作用
水性ハンドウォッシュ製剤は、3種の異なる活性要素により調製した。配合1はトリクロサン1%を単独で含み、配合2はフェノキシエタノール2%を単独で含み、配合3はトリクロサン1%をフェノキシエタノール2%と組み合わせて含む。3種の製剤は、トリクロサン単独が比較的無効であることが知られている緑膿菌の接種物について試験した。結果は以下の通りであった。

【0047】
このデータは、トリクロサンとフェノキシエタノールとの間の相乗的な相互作用を実証している。このことは、実施例5のデータで、トリクロサン単独またはクロルヘキシジン単独が浸透すると思われる速度の約40倍の速度でフェノキシエタノールが浸透することが示されているため、当事例において特に有利である。繰り返しの処置および長期間にわたる処置が明らかに好ましいと思われるが、データを考慮すると、真皮下の微生物は、2時間にわたる処置を生き残ることはないであろうと予想できる。
【0048】
実施例7:活性要素としてCHG/フェノキシエタノールを用いたクリーム
当事例において、CHGは一過性微生物に対してのみ有効であり、クリームは、常在性微生物に対してフェノキシエタノールに依拠する。

【0049】
実施例8:活性要素としてヨウ素/フェノキシエタノールを用いたクリーム

当事例において、ポビドンヨードは一過性微生物に対してのみ有効であり、クリームは、常在性微生物に対してフェノキシエタノールに依拠する。トリクロサンは一過性微生物に対して持続的に有効であり(高残存活性)、かつ皮下に輸送された場合も持続性で、常在性微生物に対してフェノキシエタノールと共に相乗的に作用するため、トリクロサンとフェノキシエタノールの組み合わせが好ましい。
【0050】
適用するゲルの量は、言うまでもなく製剤および処置される領域の合計に従って変化すると思われる。同様に、適用の頻度、および手術前の適用すべき日数、ならびに適用の的確な領域は、製剤や皮膚の種類などによって変化すると思われ、それらは、本発明による製剤それぞれに関して、外科医により、「最良の実施」方針に応じて決定される必要があると思われる。そのようなプロトコルの決定には、患者の多くの試料に基づいた慣例の検査が重要となる。
【0051】
本発明による組成物は、術後感染の発生を予防または低減させる目的で手術に向けた患者の準備のために開発されているが、本明細書の教示から当業者には、本発明による組成物が、座瘡および他の真皮下または皮下感染の処置に対する用途を有することは明らかであると思われる。
【0052】
本方法は、本明細書において、手術に向けたヒト患者の準備に関連して記載しているが、本方法が他の動物に対して同等に適用可能であることは理解されると思われる。本明細書の教示から当業者には、本発明が、本明細書に記載の発明概念から逸脱することなく他の手段で、および異なる製剤を用いて実施されうることは明らかであると思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの殺生物剤と、殺生物剤を「常在性」微生物まで移送するのに有効な少なくとも1つの経皮媒質とを含む、皮膚への適用のための組成物。
【請求項2】
少なくとも1つの皮下媒質が、アルキルメチルスルホキシド、アルキルピロリドン、グリコール、グリコールエーテル、およびグリコールエステルからなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
少なくとも1つの媒質が、アルキルピロリドン、グリコール、またはそれらの混合物を含む、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
少なくとも1つの媒質がジメチルスルホキシドを含む、請求項1または2記載の組成物。
【請求項5】
少なくとも1つの殺生物剤が、クロルヘキシジンおよびその塩;ハロゲン化フェノールおよびその塩;四級アンモニウム化合物;ポビドンヨード;ピリジンチオン亜鉛(zinc pyridinethione);ならびにアルコールからなる群より選択される殺生物剤の組み合わせである、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項6】
ハロゲン化フェノールが、ジクロロフェン、p-クロロ-m-キシレノール、クロロフェン、およびo-フェニルフェノール、2,4,4,-トリクロロ-2-ヒドロキシ-ジフェニルエーテル(トリクロサン);ならびにオクテニジンジヒドロクロリド(CH3-(CH2)7-NHON-(CH2)10-NO-NH(CH2)7-CH2)、ならびに上記のいずれかの塩からなる群より選択される、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも1つの殺生物剤がトリクロサンを含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項8】
少なくとも1つの殺生物剤がフェノキシエタノールを含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項9】
少なくとも1つの殺生物剤がフェノキシエタノールをトリクロサンとの組み合わせで含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項10】
少なくとも1つの殺生物剤がクロルヘキシジン、ならびにグルコネート、イセチオネート、ホルメート、アセテート、グルタメート、スクシンアメート(succinamate)、モノジグリコレート、ジメタンスルホネート、ラクテート、ジイソブチレート、およびグルコヘプトネートの塩からなる群より選択されるクロルヘキシジンの塩を含む、請求項5記載の組成物。
【請求項11】
フェノキシエタノールを含む、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
経皮性促進剤(transdermal enhancer)、キレート剤、安定剤、皮膚軟化剤、保湿剤、または感覚増強剤(feel enhancer)等として働く1つまたは複数の構成要素をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項13】
「一過性」および「常在性」の両微生物を93%を超えて死滅させるのに有効な組成物によって、患者の、外科的切開が意図される部位およびその近傍周囲の皮膚の領域を処置する段階を含む、外科手術に向けて患者を準備するための方法。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか一項記載の組成物によって、患者の、外科的切開が意図される部位およびその近傍周囲の皮膚の領域を処置する段階を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
手術前の24時間の間に、前記段階が少なくとも1回繰り返される、請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
手術前に1日間より長い間、前記段階が少なくとも1日1回繰り返される、請求項13または14記載の方法。
【請求項17】
手術前に3日間より長い間、前記段階が少なくとも1日1回繰り返される、請求項13または14記載の方法。
【請求項18】
手術前の24時間の間に、前記段階が少なくとも2回繰り返される、請求項13または14記載の方法。
【請求項19】
手術前の48時間の間に、前記段階が少なくとも4回繰り返される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
手術前の72時間の間に、前記段階が少なくとも6回繰り返される、請求項18記載の方法。
【請求項21】
前記段階が、殺生物性の石鹸または洗剤を用いて洗浄するかまたはシャワーを浴びることと組み合わせて行われる、請求項13〜19のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
実施例のいずれか1つに関連して実質的に本明細書に記載される組成物。
【請求項23】
実施例のいずれか1つに関連して実質的に本明細書に記載される方法。

【公表番号】特表2008−540581(P2008−540581A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511501(P2008−511501)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【国際出願番号】PCT/AU2006/000553
【国際公開番号】WO2006/122345
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(507377713)ノヴァファーム リサーチ (オーストラリア) ピーティーワイ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】