外観検査システムおよび外観検査方法
【課題】良否判定の精度を低下させることなく、層間の位置ずれによって生じる無駄はねを防止することができる外観検査システムおよび外観検査方法を提供する。
【解決手段】位置補正手段は、検査画像における第1層101の代表点Pa1の位置座標から良品画像に対する第1層101の位置ずれ量を求め、第2層102の代表点Pb1の位置座標から良品画像に対する第2層102の位置ずれ量を求める。位置補正手段は、求めた第1層101と第2層102との各位置ずれ量に基づいて、検査画像における検査対象領域111およびマスク領域112の各位置を、それぞれ基準となる良品画像の検査対象領域111およびマスク領域112の各位置から平行移動させるように補正する。領域設定手段は、位置補正手段による補正後の検査対象領域111から同じく補正後のマスク領域112を除いた領域を、検査領域110として検査画像上に設定する。
【解決手段】位置補正手段は、検査画像における第1層101の代表点Pa1の位置座標から良品画像に対する第1層101の位置ずれ量を求め、第2層102の代表点Pb1の位置座標から良品画像に対する第2層102の位置ずれ量を求める。位置補正手段は、求めた第1層101と第2層102との各位置ずれ量に基づいて、検査画像における検査対象領域111およびマスク領域112の各位置を、それぞれ基準となる良品画像の検査対象領域111およびマスク領域112の各位置から平行移動させるように補正する。領域設定手段は、位置補正手段による補正後の検査対象領域111から同じく補正後のマスク領域112を除いた領域を、検査領域110として検査画像上に設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層構造の対象物の外観検査に用いられる外観検査システムおよび外観検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、たとえばMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いた半導体製造プロセスにより作成されるセンサチップ等の構造体においては、目視での判断が難しい微細な欠陥をも検出可能な外観検査を行い、当該外観検査で良品(欠陥なし)と判断されたもののみを出荷することが一般的である。このような外観検査を行う外観検査システムとしては、対象物を撮像手段にて撮像し、得られた検査画像と、予め良品を撮像して得られる良品画像(マスタ画像)とを比較することで、対象物の欠陥の有無を判定するものが提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
MEMS技術を用いて製造される構造体の一例として、図2に示すように、たとえば第1層となる半導体(たとえばシリコン)層の一表面上に、第2層となる電極層を積層した複層構造のものもある。図2の例では、第2層は第1層の一表面(図2(b)の上面)側に接合されるガラス基板における第1層側の面に設けられている。ここで、第2層の外形寸法は第1層に比べて小さく、第2層は第1層の一表面の一部に重ねて配置されることになる。
【0004】
この種の複層構造の対象物の外観検査方法として、実際に第1層の一表面側に第2層を積層した状態で対象物を前記一表面側から撮像することにより第1層と第2層との両方を含む検査画像を撮像し、得られた検査画像から良否判断を行うことが考えられている。すなわち、得られた検査画像を良品画像と比較して、相違する箇所を欠陥候補点として抽出し、抽出された欠陥候補点について、その特徴量(面積、幅、形状など)をもとに良否判定を行うことが可能である。
【0005】
この方法では、第1層における第2層との非重複部位のみが対象物の性質に影響するような場合において、検査画像上で第1層の一表面から第2層に対応するマスク領域を除いた領域のみを検査領域とし、当該検査領域内の欠陥の有無により良否判定を行うことができる。したがって、画像処理の対象となる領域(検査領域)が比較的狭い範囲に限定され、外観検査処理の高速化を図ることができる。
【0006】
ところで、この種の複層構造の構造体では、その構造上、異なる層間で相対的に位置ずれを生じる場合がある。ただし、この種の異なる層間での位置ずれは、各層についた傷ほどの致命的な欠陥ではなく、僅かな位置ずれであれば、対象物としては機能上の問題がなく、良品とできることが少なくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−153804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の外観検査システムにおいては、良品画像と検査画像との比較により欠陥候補点を抽出するため、異なる層間にたとえ僅かでも位置ずれが生じていれば、検査画像と良品画像との間には少なからず差異を生じることになり、対象物が不良品と判定される可能性がある。すなわち、第1層と第2層との間に相対的な位置ずれが生じると、検査領域に第2層の一部が食み出すこととなり、第2層の食み出した部分が欠陥と判断されることがある。そのため、異なる層間に僅かな位置ずれが生じているだけの良品が、誤って不良品と誤って判断されてしまうことで無駄はねが生じ、歩留りの低下につながる。
【0009】
また、上述の無駄はねを防止しようとすると、良品画像と検査画像との相違点について欠陥候補点と判断する判断基準を緩くするか(つまり、多少の相違であれば許容する)、あるいは検査画像のうち層間の位置ずれが影響する部分について良否判定を行わないようにする必要があるので、良否判定の精度が著しく低下する。
【0010】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであって、良否判定の精度を低下させることなく、層間の位置ずれによって生じる無駄はねを防止することができる外観検査システムおよび外観検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、複層構造の構造体からなりいずれかの層である第1層の一表面の一部に重なるように別の層である第2層が配置された対象物を対象とし、対象物を第1層の前記一表面側から撮像して得られる検査画像から第1層の前記一表面上の欠陥を検査する外観検査システムであって、検査画像における第1層の前記一表面上から少なくとも前記第2層に対応するマスク領域を除いた領域に検査領域を設定する領域設定手段と、検査領域内の欠陥の有無により良否判定を行う良否判定手段と、検査画像における第1層と第2層との各位置を個別に求め、求めた第1層および第2層の各位置に基づいて検査領域の範囲を補正する位置補正手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、位置補正手段が、第1層と第2層との各位置を個別に求め、求めた第1層および第2層の各位置に基づいて検査領域の範囲を補正するので、第1層と第2層との間の相対的な位置ずれの影響を受けずに検査領域を設定することができる。すなわち、たとえ第1層と第2層との間に位置ずれが生じていても、実際の第2層の位置に基づいてマスク領域の位置を補正することで、検査領域の範囲を正確に設定することができる。そのため、第1層と第2層との間の位置ずれに起因して検査領域に第2層の一部が食み出すようなことはなく、第2層の食み出した部分が欠陥と判断されることを回避できる。結果的に、良否判定の精度を低下させることなく、異なる層間に僅かな位置ずれが生じているだけの良品が誤って不良品と判断されてしまうことで無駄はねが生じることを防止できるという利点がある。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記領域設定手段が、前記検査画像における前記第1層の前記一表面上に、前記マスク領域全域を包含する範囲で検査対象領域を設定し、当該検査対象領域からマスク領域を除いた領域を前記検査領域としており、前記位置補正手段が、検査画像における第1層の位置に基づき検査対象領域の位置を補正するとともに、検査画像における前記第2層の位置に基づきマスク領域の位置を補正することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、検査対象領域からマスク領域を除いた領域を検査領域としており、検査領域の外周側の範囲についても設定することで、第1層の一表面のうち必要な部分のみ外観検査の対象とすることができ、外観検査処理の高速化が図れる。しかも、検査対象領域の位置は第1層の位置に基づいて補正されるので、検査画像内での第1層の位置にばらつきがあっても、検査対象領域の位置を正確に設定することが可能である。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記対象物が前記第1層の一表面の一部に重なるように、前記第2層を含む複数のマスク層が配置され構造体からなり、前記位置補正手段が、各マスク層の位置を個別に求め、求めた各マスク層の位置に基づいて前記検査領域の範囲を補正することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、第1層の一表面の一部に重なるように複数のマスク層が配置された対象物を対象とする場合には、個別に求めた各マスク層の位置に基づいて検査領域の範囲を補正するので、第1層と各マスク層との間に相対的な位置ずれが生じても、検査領域にいずれかのマスク層の一部が食み出すようなことはなく、マスク層の食み出した部分が欠陥と判断されることを回避できる。
【0017】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかの発明において、前記検査画像内に占める前記第1層と前記第2層とのそれぞれの大きさを個別に求め、求めた第1層および第2層の各大きさに基づいて前記検査領域の範囲を補正するサイズ補正手段が設けられていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、サイズ補正手段が、第1層および第2層の各大きさに基づいて検査領域の範囲を補正するので、製造誤差により各層の大きさにばらつきが生じても、検査領域を正確に設定でき、無駄はねを抑制して精度よく外観検査を行うことができる。
【0019】
請求項5の発明は、複層構造の構造体からなりいずれかの層である第1層の一表面の一部に重なるように別の層である第2層が配置された対象物を対象とし、対象物を第1層の前記一表面側から撮像して得られる検査画像から第1層の前記一表面上の欠陥を検査する外観検査方法であって、検査画像における第1層の前記一表面上から少なくとも前記第2層に対応するマスク領域を除いた領域に検査領域を設定する領域設定過程と、検査領域内の欠陥の有無により良否判定を行う良否判定過程と、検査画像における第1層と第2層との各位置を個別に求め、求めた第1層および第2層の各位置に基づいて検査領域の範囲を補正する位置補正過程とを有することを特徴とする。
【0020】
この発明によれば、位置補正過程において求めた第1層および第2層の各位置に基づいて検査領域の範囲を補正するので、第1層と第2層との間の相対的な位置ずれの影響を受けずに検査領域を設定することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、位置補正手段が、第1層と第2層との各位置を個別に求め、求めた第1層および第2層の各位置に基づいて検査領域の範囲を補正するので、第1層と第2層との間の相対的な位置ずれの影響を受けずに検査領域を設定することができる。したがって、良否判定の精度を低下させることなく、異なる層間に僅かな位置ずれが生じているだけの良品が誤って不良品と判断されてしまうことで無駄はねが生じることを防止できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態1で用いる検査画像の説明図である。
【図2】同上で用いる対象物を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略断面図である。
【図3】同上の概略システム構成図である。
【図4】同上で用いる良品画像の説明図である。
【図5】同上の画像処理装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図6】同上で用いる検査画像の説明図である。
【図7】同上の検査対象領域の補正方法を示す説明図である。
【図8】同上のマスク領域の補正方法を示す説明図である。
【図9】同上の画像処理装置の動作を示すフローチャートである。
【図10】同上のシステムで他の対象物の外観検査を行う場合の検査画像の説明図である。
【図11】本発明の実施形態2で用いる検査画像の説明図である。
【図12】同上で用いる良品画像の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(実施形態1)
本実施形態の外観検査システムは、複層構造の構造体であって、いずれかの層である第1層(ここでは半導体層とする)の一表面の一部に、別の層である第2層(ここでは電極層)を積層した構造体を対象物とし、当該対象物の外観上の異常の有無を検査するものである。
【0024】
ここでは一例として、MEMS技術を用いて製造されるMEMSチップを検査対象とするが、この例に限らず、上述したような複層構造を持つ種々の構造体を検査対象とすることができる。図2に例示する対象物100では、第2層102は第1層101の一表面(図2(b)の上面)側に接合される透明のガラス基板103における第1層101側の一面に蒸着により設けられている。ここで、第1層101とガラス基板103との間には、第1層101の表面外周部に全周に亘って立設されたスペーサ104によって空洞105が形成され、第2層102は当該空洞105内に収まるように第1層101に比べて外形寸法が小さく形成される。
【0025】
この対象物100は、第2層102が平面視において略正方形状であって、対向する一対の各辺(図2(a)の左右の各辺)の略対角線上となる位置に、それぞれ平面視矩形状に切り欠かれた切欠部106を有する形状に形成されている。第1層101においては、外形は第2層102よりも大きい正方形状であって、厚み方向(図2(b)の上下方向)に貫通した溝部107が、図2(a)中の右上角部分を除いて第2層102の外周縁に沿って連続的に形成される。溝部107は第2層102の外周縁よりも一回り大きく形成されている。この構成により、対象物100は第1層101のうち溝部107で囲まれた領域が可動部となり、可動部が厚み方向に可動することで電極層たる第2層102との間の静電容量が変化するセンサを構成する。具体的には、厚み方向への加速度を検出する一軸型の加速度センサを構成する。
【0026】
ここにおいて、本実施形態では、第1層101の一表面側に第2層102を積層した状態で対象物100を前記一表面側から撮像することにより、第1層101と第2層102との両方を含む検査画像を撮像し、得られた検査画像から良否判断を行う。ここで、検査画像のうち良否の判定を行うのは、第1層101における第2層102との非重複部位に設定された検査領域110(図4参照)のみであって、第1層101のうち第2層102との重複部分等、対象物100の性質に影響がない部分については良否判定を行わない。そのため、画像処理の対象となる領域(検査領域110)が比較的狭い範囲に限定され、外観検査処理の高速化を図ることができる。
【0027】
本実施形態の外観検査システムは、図3に示すように、対象物100を第2層102の側(第1層101の一表面側)から撮像するカメラ20と、対象物100に光を照射する照明装置30と、カメラ20で撮像された画像を画像処理する画像処理装置10とを備えている。ここで、照明装置30は、対象物100に対してカメラ20の光軸と同軸方向から光を照射する同軸落射照明用の照明装置からなる。
【0028】
さらに、外観検査システムは、照明装置30に電力供給する照明用電源装置40と、対象物(MEMSチップ)100を載せるステージ50と、カメラ20の視野(撮像範囲)内に対象物100が位置するようにステージ50を移動させる駆動手段60とを備えている。対象物100は、第1層101を上方(カメラ20側)に向けた状態でステージ50上に複数個並べて配置される。なお、これら複数個のMEMSチップはウェハから形成されており、ここでは各MEMSチップをダイシングにより個片化した後で外観検査が行われるものとするが、ウェハの状態で外観検査を行うようにしてもよい。
【0029】
カメラ20は、ステージ50上面に光軸が直交するようにステージ50の直上に配置され、その視野はステージ50上の1個の対象物100に対応するように設定されている。ここでは、ステージ50を移動させることによってステージ50に対するカメラ20の相対的な位置を変化させながら、各対象物100の画像をカメラ20で個別に撮像する。カメラ20は濃淡画像を撮像可能なものであればよい。ここでいう濃淡画像は、反射光の強度が高い部位(白く映る部位)ほど高くなる濃淡値を画素値とする画像である。
【0030】
照明装置30は、カメラ20の光軸と直交する光軸を持つ光源31を具備し、カメラ20とステージ50との間において鏡面をカメラ20の光軸に対して45度傾けて配置されたハーフミラー70を利用して、光源31からの光が対象物(MEMSチップ)100側に反射されるように構成されている。すなわち、ハーフミラー70は、光源31からの光を対象物100に向けて反射するとともに、対象物100での反射光をカメラ20側に透過させる機能を有している。図3では、光源31から対象物100に照射する光を実線矢印で示し、対象物100での反射光を破線矢印で示す。ハーフミラー70とステージ50との間には光学レンズ80が配設されている。
【0031】
以上説明した構成により、カメラ20では、たとえば図4に示すように第1層101と第2層102との両方の画像を含む濃淡画像が検査画像として得られる。すなわち、カメラ20は透明のガラス基板103の側から対象物100を撮像するので、ガラス基板103を通して第1層101および第2層102の画像が撮像されることになる。ここに、図4では良品であって且つ第1層101と第2層102との相対的な位置に僅かなずれもない対象物(以下、「完全良品」という)100を撮像した画像を表している。このような完全良品を撮像した画像では、第1層101に形成された溝部107が第2層102の外周縁より一回り大きく形成されていることから、第2層102の外周縁と第1層101の溝部107との間に所定の隙間が介在することになる。
【0032】
画像処理装置10は、図5に示すように、カメラ20で得られた検査画像を取り込んで保存する画像取込部11と、取り込んだ検査画像について欠陥の有無を判断することにより対象物100の良否を判定する判定処理部12と、判定結果を出力する出力部13とを有している。
【0033】
ここでは、判定処理部12は、検査画像上の第2層102の外周縁と第1層101の溝部107との間の隙間に対応する部分に検査領域110を設定する領域設定手段14と、当該検査領域内の欠陥の有無によって対象物100の良否を判定する良否判定手段15とを有するものとする。具体的には、領域設定手段14では、図4のように検査画像のうち第1層101における溝部107で囲まれた領域(つまり、可動部に対応する領域)を検査対象領域111とするとともに、第2層102の外周縁で囲まれた領域(つまり、第2層102に対応する領域)をマスク領域112とし、検査対象領域111からマスク領域112を除いた領域に検査領域110を設定する。良否判定手段15では、検査領域110内の画像から対象物100の良否を判断する際の評価を表す特徴量(たとえば傷、異物等の欠陥の大きさ)を抽出し、当該特徴量に基づいて対象物100の良否判定を行う。
【0034】
ところで、複層構造の対象物100においては、その構造上、第1層101と第2層102との間に相対的な位置ずれが生じることがある。この種の異なる層101,102間での位置ずれは、各層101,102についた傷ほどの致命的な欠陥ではなく、僅かな位置ずれであれば、対象物100としては機能上の問題がなく、良品とできることが少なくない。ただし、対象物100の検査画像上では、異なる層101,102間で位置ずれが生じると、第2層102の外周縁と第1層101の溝部107との間に設定される検査領域110の形状が変化するので、完全良品を撮像した良品画像と検査画像との間には少なからず差異を生じることになる。そのため、判定処理部12において検査画像と良品画像とを単純に比較して対象物100の良否(欠陥の有無)を判定するものとすると、層101,102間の位置ずれに起因して、良品とできる対象物100に関しても不良品と判定されてしまうことで無駄はねを生じるという問題がある。
【0035】
この問題を解決するため、本実施形態では、第1層101と第2層102との各々に設定した代表点の位置から、第1層101−第2層102間の位置ずれ分を補正する位置補正手段16としての機能を判定処理部12に設けてある。ここでは、図6に示すように、検査画像上の第1層101の一の角部(図6の左上角部)を第1層101の代表点Pa1とし、第2層102の一の角部(図6の左上角部)を第2層102の代表点Pb1とする。検査画像は図6の左右方向をX軸、上下方向をY軸とするX−Y平面の画像であるものとし、当該画像を構成する各画素の位置座標は(x,y)で表されるものとする。
【0036】
判定処理部12には、良品画像における第1層101の代表点(以下、「第1層101の基準点」という)Pa0の位置座標(Xa0,Ya0)と、良品画像における第2層102の代表点(以下、「第2層102の基準点」という)Pb0の位置座標(Xb0,Yb0)とが予め登録されている。さらに、判定処理部12には、良品画像における検査対象領域111の位置および形状と、マスク領域112の位置および形状とが予め登録されている。
【0037】
そのため、位置補正手段16では、検査画像における第1層101の代表点Pa1の位置座標と第1層の基準点Pa0の位置座標(Xa0,Ya0)との差から、良品画像に対する第1層101の位置ずれ量を求めることができる。同様に、位置補正手段16では、検査画像における第2層102の代表点Pb1の位置座標と第2層102の基準点Pb0の位置座標(Xb0,Yb0)との差から、良品画像に対する第2層102の位置ずれ量を求めることができる。このようにして求めた第1層101と第2層102との各位置ずれ量に基づいて、検査画像における検査対象領域111およびマスク領域112の各位置を、それぞれ基準となる良品画像の検査対象領域111およびマスク領域112の各位置から平行移動させるように補正する。これにより、検査対象領域111は、検査画像における良品画像に対する第1層101の位置ずれを考慮して第1層101の溝部107に囲まれた領域に補正されることになり、マスク領域112については、第2層102の位置ずれを考慮して第2層102の外周縁に囲まれた領域に補正されることになる。
【0038】
具体的に説明すると、図7に示すように、検査画像において最も外側に位置するエッジが第1層101の外周縁に相当するので、検査画像から当該エッジの左辺の座標Xa1と上辺の座標Ya1を求め、これらの座標から第1層101の代表点(左上角部)Pa1の位置座標(Xa1,Ya1)が求められる。求まった第1層101の代表点Pa1の位置座標(Xa1,Ya1)から、良品画像に対する第1層101の位置ずれ量(ΔXa,ΔYa)=(Xa1−Xa0,Ya1−Ya0)を求め、当該位置ずれ量(ΔXa,ΔYa)を補正量として用いて検査画像に設定される検査対象領域111の位置を補正する。
【0039】
一方、図8に示すように、検査画像において対象物100の最も内側に位置するエッジが第2層102の外周縁に相当するので、検査画像から当該エッジの左辺の座標Xb1と上辺の座標Yb1を求め、これらの座標から第2層102の代表点(左上角部)Pb1の位置座標(Xb1,Yb1)が求まる。求まった第2層102の代表点Pb1の位置座標(Xb1,Yb1)から、良品画像に対する第2層102の位置ずれ量(ΔXb,ΔYb)=(Xb1−Xb0,Yb1−Yb0)を求め、当該位置ずれ量(ΔXb,ΔYb)を補正量として用いて検査画像に設定されるマスク領域112の位置を補正する。
【0040】
領域設定手段14は、位置補正手段16による補正後の検査対象領域111から同じく補正後のマスク領域112を除いた領域を、検査領域110として検査画像上に設定する。しかして、検査画像上には、第1層101と第2層102との間の相対的な位置ずれに関わらず、第2層102の外周縁と第1層101の溝部107との間となる領域に正確に検査領域110を設定することができる。そのため、検査画像に設定される検査領域110は、図4のような良品画像の検査領域110と常に同一形状になるのではなく、第1層101−第2層102間の位置ずれに応じてその形状が変化する。
【0041】
たとえば図1(a)に示すように第2層102が第1層101の中心に対し図の右方に片寄っている場合、マスク領域112が検査対象領域111内でやや右寄りに設定されることにより、検査領域110の幅はマスク領域112の左側で広く右側で狭くなる。また、図1(b)に示すように第2層102が第1層101の中心に対し図の上方に片寄っている場合、マスク領域112が検査対象領域111内でやや上寄りに設定されることにより、検査領域110の幅はマスク領域112の下側で広く上側で狭くなる。
【0042】
良否判定手段15は、上述のように異なる層101,102間の相対的な位置ずれに関わらず正確に設定された検査領域110について、特徴量の抽出および対象物100の良否判定を行う。そのため、仮に第1層101−第2層102間に僅かな位置ずれが生じていたとしても、良否判定手段15では、当該位置ずれに関わらず、第2層102の外周縁と第1層101の溝部107との間となる領域内の欠陥の有無に基づいて対象物100の良否を判定することができる。
【0043】
以下に、上述した構成の画像処理装置10の動作について図9のフローチャートを参照して説明する。
【0044】
画像取込部11によりカメラ20から検査画像が取り込まれると(S1)、まず、位置補正手段16にて第1層101の代表点Pa1を抽出し(S2)、第1層101の代表点Pa1について基準点Pa0からの位置ずれ量(ΔXa,ΔYa)=(Xa1−Xa0,Ya1−Ya0)を算出する(S4)。さらに、位置補正手段16は、算出した位置ずれ量(ΔXa,ΔYa)を用いて検査対象領域111の位置を補正する(S5:位置補正過程)。
【0045】
次に、位置補正手段16は第2層102の代表点Pb1を抽出し(S6)、第2層102の代表点Pb1について基準点Pb0からの位置ずれ量(ΔXb,ΔYb)=(Xb1−Xb0,Yb1−Yb0)を算出する(S8)。さらに、位置補正手段16は、算出した位置ずれ量(ΔXb,ΔYb)を用いてマスク領域の位置を補正する(S9:位置補正過程)。
【0046】
領域設定手段14は、補正後の検査対象領域111およびマスク領域112に基づいて、検査画像に対して検査領域110を設定する(S10:領域設定過程)。なお、第1層101あるいは第2層102の代表点Pa1,Pb1が抽出されなければ(S3:Yes、またはS4:Yes)、対象物(ワーク)100がないものと判断して(S16)、検査領域110を設定することなく処理を終了する。
【0047】
検査領域110が設定されると、良否判定手段15は、検査画像のうち検査領域110内の画像についてそれぞれ閾値以上の濃淡値を持つ画素を「1」、閾値未満の濃淡値を持つ画素を「0」として2値化する2値化処理を行う(S11)。さらに、良否判定手段15では、2値化後の検査領域110内の画像について、欠陥の候補となる画素群を結合してランドを形成するラベリング処理を行う(S12)。当該ラベリング処理では、画素値「0」の画素同士が隣接している場合に、これらの画素を1つの塊(ランド)としてナンバリングし、各ランドに番号付けをして各々を識別可能とする。良否判定手段15は、ラベリングされた各ランドについて、その大きさ(特徴量)が規定値以下か否かによって対象物100の良否を判断する(S13:良否判定過程)。つまり、ランドの大きさが規定値以下であれば(S13:Yes)良品と判定し(S14)、規定値以下でなければ(S13:No)不良品と判定する(S15)。
【0048】
以上説明した本実施形態の外観検査システムによれば、良否判定手段15が、第1層101−第2層102間の位置ずれに関わらず正確に設定された検査領域110に基づいて、特徴量の抽出および対象物100の良否判定を行うので、層101,102間の位置ずれに起因した無駄はねを防止することができる。すなわち、異なる層101,102間で位置ずれが生じていたとしても、当該位置ずれの影響を受けずに対象物100の欠陥の有無を判断できるから、異なる層101,102間に僅かな位置ずれが生じているだけの良品とできる対象物100が不良品と判定されてしまうことによる無駄はねを回避できる。
【0049】
また、ここでは第1層101における第2層102との非重複部位に設定された検査領域110についての外観検査の説明をしたが、同一の検査画像から、第2層102についての外観検査も行われる。つまり、上記検査領域110の良否判定の後、判定処理部12では、第2層102に対応するマスク領域112内を新たに検査領域とし、当該検査領域内について検査画像について欠陥の有無を判断する。このように、実際には、第1層101、第2層102の各層について順次、外観検査が行われることになる。
【0050】
ところで、本実施形態の外観検査システムを用いることで、第1層101、第2層102のみからなる2層構造の対象物だけでなく、3層以上の多層構造の対象物100について外観検査を行うことも可能である。ここでは、図10(a)に示すように、第1層101の一表面側に第2層102a、第3層102b、第4層102cからなる複数のマスク層が積層された複層構造物を対象物100とする場合を例として説明する。なお、図10では、右上から左下に向けて斜線を引いた部分が検査対象領域を表し、左上から右下に向けて斜線を引いた部分がマスク領域を表す(マスク領域のうち検査対象領域との重複部分は両方の斜線が交差する)。
【0051】
このような対象物100であっても、第1層101上に全てのマスク層を積層した状態で対象物100を前記一表面側から撮像し、得られた検査画像から良否判断を行う。具体的には、まずは最下層となる第1層101について、第2〜4層102a〜102cとの非重複部位の検査を行う。そのため、図10(b)のように第1層101全域に検査対象領域を設定するとともに、第2〜4層102a〜102cの全域にマスク領域を設定し、検査対象領域からマスク領域を除いた領域を検査領域に設定する。このとき、検査対象領域およびマスク領域の位置は、位置補正手段16にて各層の位置ずれ量に基づき補正されるので、正確な検査領域が設定されることになる。
【0052】
第1層101の検査が終わると、次に、図10(c)のように第2層102a全域に検査対象領域を設定するとともに、第3〜4層102b〜102cの全域にマスク領域を設定し、検査対象領域からマスク領域を除いた領域を検査領域に設定する。この状態では第2層102aにおける第3〜4層102b〜102cとの非重複部位の検査が行われる。第2層102aの良否判定が終わると、図10(d)のように第3層102b全域に検査対象領域を設定するとともに、第4層102cの全域にマスク領域を設定し、検査対象領域からマスク領域を除いた領域を検査領域に設定する。この状態で第3層102bにおける第4層102cとの非重複部位の検査が行われる。その後、第4層102cの全域に検査対象領域を設定し当該検査対象領域を検査領域として、最上層たる第4層102cの検査が行われることになる。
【0053】
(実施形態2)
本実施形態の外観検査システムは、検査画像内に占める各層の大きさの変化に対応して、検査領域の補正を行うサイズ補正手段(図示せず)としての機能を画像処理装置に付加した点が実施形態1の外観検査システムと相違する。
【0054】
本実施形態では、第1層101と第2層102との各々にそれぞれ複数点(ここでは2点)ずつ代表点が設定される。ここでは、図11に示すように、検査画像上において第1層101の対角線上の一対の角部(図11の左上角部と右下角部)を第1層101の代表点Pa1,Pa1’とし、第2層102の対角線上の一対の角部(図11の左上角部と右下角部)を第2層102の代表点Pa2,Pa2’とする。判定処理部12には、図12に示すような良品画像における第1層101の基準点Pa0,Pa0’の各位置座標(Xa0,Ya0),(Xa0’,Ya0’)が予め登録され、第2層102の基準点Pb0,Pb0’の各位置座標(Xb0,Yb0),(Xb0’,Yb0’)が予め登録されている。
【0055】
上述のように第1層101、第2層102の各々に2点ずつの代表点を定めることにより、サイズ補正手段では、検査画像内に占める各層101,102の大きさの変化を認識することができる。すなわち、良品画像に関しては第1層101のX軸方向の幅寸法はHxa0=(Xa0’−Xa0)、Y軸方向の幅寸法はHya0=(Ya0’−Ya0)でそれぞれ表される。同様に、良品画像における第2層102のX軸方向の幅寸法はHxb0=(Xb0’−Xb0)、Y軸方向の幅寸法はHyb0=(Yb0’−Yb0)でそれぞれ表される。一方、検査画像に関しては、第1層101のX軸方向の幅寸法はHxa1=(Xa1’−Xa1)、Y軸方向の幅寸法はHya1=(Ya1’−Ya1)でそれぞれ表され、第2層102のX軸方向の幅寸法はHxb1=(Xb1’−Xb1)、Y軸方向の幅寸法はHyb0=(Yb1’−Yb1)でそれぞれ表される。
【0056】
したがって、良品画像と比較した場合の検査画像内に占める第1層101の大きさの比率は、X軸方向に関しては(Hxa1/Hxa0)倍、Y軸方向に関しては(Hya1/Hya0)倍と表される。同様に、良品画像と比較した場合の検査画像内に占める第2層102の大きさの比率は、X軸方向に関しては(Hxb1/Hxb0)倍、Y軸方向に関しては(Hyb1/Hyb0)倍と表される。
【0057】
そこで、本実施形態における画像処理装置10は、位置補正手段16にて、まず第1層101、第2層102の各一方の代表点Pa1,Pb1の基準点Pa0,Pb1からの位置ずれ量(ΔXa,ΔYa)(=(Xa1−Xa0,Ya1−Ya0)),(ΔXb,ΔYb)(=(Xb1−Xb0,Yb1−Yb0))を求める。さらに、求めた位置ずれ量に基づいて、検査対象領域111およびマスク領域112を、良品画像の検査対象領域111およびマスク領域112の各位置から平行移動させるように補正する。その上で、サイズ補正手段にて、上述した第1層101の大きさの比率(Hxa1/Hxa0),(Hya1/Hya0)を用いて、良品画像中の第1層101を拡大・縮小することにより、検査対象領域111の大きさを補正する。さらに、サイズ補正手段は、第2層102の大きさの比率(Hxb1/Hxb0),(Hyb1/Hyb0)を用いて、良品画像中の第2層102を拡大・縮小することにより、マスク領域112の大きさを補正する。
【0058】
以上説明した構成によれば、異なる層101,102間の相対的な位置ずれだけでなく、検査画像内に占める各層101,102の大きさの変化にも対応して、検査対象領域111およびマスク領域112の位置および大きさを補正することができる。これにより、検査対象領域111は、良品画像に対する検査画像の第1層101の位置および大きさのずれを考慮して第1層101の溝部107に囲まれた領域に補正されることになり、マスク領域112は、第2層102の位置および大きさのずれを考慮して第2層102の外周縁に囲まれた領域に補正されることになる。
【0059】
したがって、領域設定手段14では、検査画像上には、第1層101と第2層102との間の相対的な位置ずれや各層101,102の大きさの変化に関わらず、第2層102の外周縁と第1層101の溝部107との間となる領域に正確に検査領域110を設定することができる。その結果、良否判定手段15は、正確に設定された検査領域110に基づいて特徴量の抽出および対象物100の良否判定を行うので、異なる層101,102間の位置ずれだけでなく、各層101,102の大きさの変化に起因した無駄はねをも防止することができる。
【0060】
その他の構成および機能は実施形態1と同様である。
【符号の説明】
【0061】
10 画像処理装置
11 画像取込部
14 領域設定手段
15 良否判定手段
16 位置補正手段
100 対象物
101 第1層
102 第2層
110 検査領域
111 検査対象領域
112 マスク領域
Pa1,Pb1 代表点
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層構造の対象物の外観検査に用いられる外観検査システムおよび外観検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、たとえばMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いた半導体製造プロセスにより作成されるセンサチップ等の構造体においては、目視での判断が難しい微細な欠陥をも検出可能な外観検査を行い、当該外観検査で良品(欠陥なし)と判断されたもののみを出荷することが一般的である。このような外観検査を行う外観検査システムとしては、対象物を撮像手段にて撮像し、得られた検査画像と、予め良品を撮像して得られる良品画像(マスタ画像)とを比較することで、対象物の欠陥の有無を判定するものが提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
MEMS技術を用いて製造される構造体の一例として、図2に示すように、たとえば第1層となる半導体(たとえばシリコン)層の一表面上に、第2層となる電極層を積層した複層構造のものもある。図2の例では、第2層は第1層の一表面(図2(b)の上面)側に接合されるガラス基板における第1層側の面に設けられている。ここで、第2層の外形寸法は第1層に比べて小さく、第2層は第1層の一表面の一部に重ねて配置されることになる。
【0004】
この種の複層構造の対象物の外観検査方法として、実際に第1層の一表面側に第2層を積層した状態で対象物を前記一表面側から撮像することにより第1層と第2層との両方を含む検査画像を撮像し、得られた検査画像から良否判断を行うことが考えられている。すなわち、得られた検査画像を良品画像と比較して、相違する箇所を欠陥候補点として抽出し、抽出された欠陥候補点について、その特徴量(面積、幅、形状など)をもとに良否判定を行うことが可能である。
【0005】
この方法では、第1層における第2層との非重複部位のみが対象物の性質に影響するような場合において、検査画像上で第1層の一表面から第2層に対応するマスク領域を除いた領域のみを検査領域とし、当該検査領域内の欠陥の有無により良否判定を行うことができる。したがって、画像処理の対象となる領域(検査領域)が比較的狭い範囲に限定され、外観検査処理の高速化を図ることができる。
【0006】
ところで、この種の複層構造の構造体では、その構造上、異なる層間で相対的に位置ずれを生じる場合がある。ただし、この種の異なる層間での位置ずれは、各層についた傷ほどの致命的な欠陥ではなく、僅かな位置ずれであれば、対象物としては機能上の問題がなく、良品とできることが少なくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−153804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の外観検査システムにおいては、良品画像と検査画像との比較により欠陥候補点を抽出するため、異なる層間にたとえ僅かでも位置ずれが生じていれば、検査画像と良品画像との間には少なからず差異を生じることになり、対象物が不良品と判定される可能性がある。すなわち、第1層と第2層との間に相対的な位置ずれが生じると、検査領域に第2層の一部が食み出すこととなり、第2層の食み出した部分が欠陥と判断されることがある。そのため、異なる層間に僅かな位置ずれが生じているだけの良品が、誤って不良品と誤って判断されてしまうことで無駄はねが生じ、歩留りの低下につながる。
【0009】
また、上述の無駄はねを防止しようとすると、良品画像と検査画像との相違点について欠陥候補点と判断する判断基準を緩くするか(つまり、多少の相違であれば許容する)、あるいは検査画像のうち層間の位置ずれが影響する部分について良否判定を行わないようにする必要があるので、良否判定の精度が著しく低下する。
【0010】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであって、良否判定の精度を低下させることなく、層間の位置ずれによって生じる無駄はねを防止することができる外観検査システムおよび外観検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、複層構造の構造体からなりいずれかの層である第1層の一表面の一部に重なるように別の層である第2層が配置された対象物を対象とし、対象物を第1層の前記一表面側から撮像して得られる検査画像から第1層の前記一表面上の欠陥を検査する外観検査システムであって、検査画像における第1層の前記一表面上から少なくとも前記第2層に対応するマスク領域を除いた領域に検査領域を設定する領域設定手段と、検査領域内の欠陥の有無により良否判定を行う良否判定手段と、検査画像における第1層と第2層との各位置を個別に求め、求めた第1層および第2層の各位置に基づいて検査領域の範囲を補正する位置補正手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、位置補正手段が、第1層と第2層との各位置を個別に求め、求めた第1層および第2層の各位置に基づいて検査領域の範囲を補正するので、第1層と第2層との間の相対的な位置ずれの影響を受けずに検査領域を設定することができる。すなわち、たとえ第1層と第2層との間に位置ずれが生じていても、実際の第2層の位置に基づいてマスク領域の位置を補正することで、検査領域の範囲を正確に設定することができる。そのため、第1層と第2層との間の位置ずれに起因して検査領域に第2層の一部が食み出すようなことはなく、第2層の食み出した部分が欠陥と判断されることを回避できる。結果的に、良否判定の精度を低下させることなく、異なる層間に僅かな位置ずれが生じているだけの良品が誤って不良品と判断されてしまうことで無駄はねが生じることを防止できるという利点がある。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記領域設定手段が、前記検査画像における前記第1層の前記一表面上に、前記マスク領域全域を包含する範囲で検査対象領域を設定し、当該検査対象領域からマスク領域を除いた領域を前記検査領域としており、前記位置補正手段が、検査画像における第1層の位置に基づき検査対象領域の位置を補正するとともに、検査画像における前記第2層の位置に基づきマスク領域の位置を補正することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、検査対象領域からマスク領域を除いた領域を検査領域としており、検査領域の外周側の範囲についても設定することで、第1層の一表面のうち必要な部分のみ外観検査の対象とすることができ、外観検査処理の高速化が図れる。しかも、検査対象領域の位置は第1層の位置に基づいて補正されるので、検査画像内での第1層の位置にばらつきがあっても、検査対象領域の位置を正確に設定することが可能である。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記対象物が前記第1層の一表面の一部に重なるように、前記第2層を含む複数のマスク層が配置され構造体からなり、前記位置補正手段が、各マスク層の位置を個別に求め、求めた各マスク層の位置に基づいて前記検査領域の範囲を補正することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、第1層の一表面の一部に重なるように複数のマスク層が配置された対象物を対象とする場合には、個別に求めた各マスク層の位置に基づいて検査領域の範囲を補正するので、第1層と各マスク層との間に相対的な位置ずれが生じても、検査領域にいずれかのマスク層の一部が食み出すようなことはなく、マスク層の食み出した部分が欠陥と判断されることを回避できる。
【0017】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかの発明において、前記検査画像内に占める前記第1層と前記第2層とのそれぞれの大きさを個別に求め、求めた第1層および第2層の各大きさに基づいて前記検査領域の範囲を補正するサイズ補正手段が設けられていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、サイズ補正手段が、第1層および第2層の各大きさに基づいて検査領域の範囲を補正するので、製造誤差により各層の大きさにばらつきが生じても、検査領域を正確に設定でき、無駄はねを抑制して精度よく外観検査を行うことができる。
【0019】
請求項5の発明は、複層構造の構造体からなりいずれかの層である第1層の一表面の一部に重なるように別の層である第2層が配置された対象物を対象とし、対象物を第1層の前記一表面側から撮像して得られる検査画像から第1層の前記一表面上の欠陥を検査する外観検査方法であって、検査画像における第1層の前記一表面上から少なくとも前記第2層に対応するマスク領域を除いた領域に検査領域を設定する領域設定過程と、検査領域内の欠陥の有無により良否判定を行う良否判定過程と、検査画像における第1層と第2層との各位置を個別に求め、求めた第1層および第2層の各位置に基づいて検査領域の範囲を補正する位置補正過程とを有することを特徴とする。
【0020】
この発明によれば、位置補正過程において求めた第1層および第2層の各位置に基づいて検査領域の範囲を補正するので、第1層と第2層との間の相対的な位置ずれの影響を受けずに検査領域を設定することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、位置補正手段が、第1層と第2層との各位置を個別に求め、求めた第1層および第2層の各位置に基づいて検査領域の範囲を補正するので、第1層と第2層との間の相対的な位置ずれの影響を受けずに検査領域を設定することができる。したがって、良否判定の精度を低下させることなく、異なる層間に僅かな位置ずれが生じているだけの良品が誤って不良品と判断されてしまうことで無駄はねが生じることを防止できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態1で用いる検査画像の説明図である。
【図2】同上で用いる対象物を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略断面図である。
【図3】同上の概略システム構成図である。
【図4】同上で用いる良品画像の説明図である。
【図5】同上の画像処理装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図6】同上で用いる検査画像の説明図である。
【図7】同上の検査対象領域の補正方法を示す説明図である。
【図8】同上のマスク領域の補正方法を示す説明図である。
【図9】同上の画像処理装置の動作を示すフローチャートである。
【図10】同上のシステムで他の対象物の外観検査を行う場合の検査画像の説明図である。
【図11】本発明の実施形態2で用いる検査画像の説明図である。
【図12】同上で用いる良品画像の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(実施形態1)
本実施形態の外観検査システムは、複層構造の構造体であって、いずれかの層である第1層(ここでは半導体層とする)の一表面の一部に、別の層である第2層(ここでは電極層)を積層した構造体を対象物とし、当該対象物の外観上の異常の有無を検査するものである。
【0024】
ここでは一例として、MEMS技術を用いて製造されるMEMSチップを検査対象とするが、この例に限らず、上述したような複層構造を持つ種々の構造体を検査対象とすることができる。図2に例示する対象物100では、第2層102は第1層101の一表面(図2(b)の上面)側に接合される透明のガラス基板103における第1層101側の一面に蒸着により設けられている。ここで、第1層101とガラス基板103との間には、第1層101の表面外周部に全周に亘って立設されたスペーサ104によって空洞105が形成され、第2層102は当該空洞105内に収まるように第1層101に比べて外形寸法が小さく形成される。
【0025】
この対象物100は、第2層102が平面視において略正方形状であって、対向する一対の各辺(図2(a)の左右の各辺)の略対角線上となる位置に、それぞれ平面視矩形状に切り欠かれた切欠部106を有する形状に形成されている。第1層101においては、外形は第2層102よりも大きい正方形状であって、厚み方向(図2(b)の上下方向)に貫通した溝部107が、図2(a)中の右上角部分を除いて第2層102の外周縁に沿って連続的に形成される。溝部107は第2層102の外周縁よりも一回り大きく形成されている。この構成により、対象物100は第1層101のうち溝部107で囲まれた領域が可動部となり、可動部が厚み方向に可動することで電極層たる第2層102との間の静電容量が変化するセンサを構成する。具体的には、厚み方向への加速度を検出する一軸型の加速度センサを構成する。
【0026】
ここにおいて、本実施形態では、第1層101の一表面側に第2層102を積層した状態で対象物100を前記一表面側から撮像することにより、第1層101と第2層102との両方を含む検査画像を撮像し、得られた検査画像から良否判断を行う。ここで、検査画像のうち良否の判定を行うのは、第1層101における第2層102との非重複部位に設定された検査領域110(図4参照)のみであって、第1層101のうち第2層102との重複部分等、対象物100の性質に影響がない部分については良否判定を行わない。そのため、画像処理の対象となる領域(検査領域110)が比較的狭い範囲に限定され、外観検査処理の高速化を図ることができる。
【0027】
本実施形態の外観検査システムは、図3に示すように、対象物100を第2層102の側(第1層101の一表面側)から撮像するカメラ20と、対象物100に光を照射する照明装置30と、カメラ20で撮像された画像を画像処理する画像処理装置10とを備えている。ここで、照明装置30は、対象物100に対してカメラ20の光軸と同軸方向から光を照射する同軸落射照明用の照明装置からなる。
【0028】
さらに、外観検査システムは、照明装置30に電力供給する照明用電源装置40と、対象物(MEMSチップ)100を載せるステージ50と、カメラ20の視野(撮像範囲)内に対象物100が位置するようにステージ50を移動させる駆動手段60とを備えている。対象物100は、第1層101を上方(カメラ20側)に向けた状態でステージ50上に複数個並べて配置される。なお、これら複数個のMEMSチップはウェハから形成されており、ここでは各MEMSチップをダイシングにより個片化した後で外観検査が行われるものとするが、ウェハの状態で外観検査を行うようにしてもよい。
【0029】
カメラ20は、ステージ50上面に光軸が直交するようにステージ50の直上に配置され、その視野はステージ50上の1個の対象物100に対応するように設定されている。ここでは、ステージ50を移動させることによってステージ50に対するカメラ20の相対的な位置を変化させながら、各対象物100の画像をカメラ20で個別に撮像する。カメラ20は濃淡画像を撮像可能なものであればよい。ここでいう濃淡画像は、反射光の強度が高い部位(白く映る部位)ほど高くなる濃淡値を画素値とする画像である。
【0030】
照明装置30は、カメラ20の光軸と直交する光軸を持つ光源31を具備し、カメラ20とステージ50との間において鏡面をカメラ20の光軸に対して45度傾けて配置されたハーフミラー70を利用して、光源31からの光が対象物(MEMSチップ)100側に反射されるように構成されている。すなわち、ハーフミラー70は、光源31からの光を対象物100に向けて反射するとともに、対象物100での反射光をカメラ20側に透過させる機能を有している。図3では、光源31から対象物100に照射する光を実線矢印で示し、対象物100での反射光を破線矢印で示す。ハーフミラー70とステージ50との間には光学レンズ80が配設されている。
【0031】
以上説明した構成により、カメラ20では、たとえば図4に示すように第1層101と第2層102との両方の画像を含む濃淡画像が検査画像として得られる。すなわち、カメラ20は透明のガラス基板103の側から対象物100を撮像するので、ガラス基板103を通して第1層101および第2層102の画像が撮像されることになる。ここに、図4では良品であって且つ第1層101と第2層102との相対的な位置に僅かなずれもない対象物(以下、「完全良品」という)100を撮像した画像を表している。このような完全良品を撮像した画像では、第1層101に形成された溝部107が第2層102の外周縁より一回り大きく形成されていることから、第2層102の外周縁と第1層101の溝部107との間に所定の隙間が介在することになる。
【0032】
画像処理装置10は、図5に示すように、カメラ20で得られた検査画像を取り込んで保存する画像取込部11と、取り込んだ検査画像について欠陥の有無を判断することにより対象物100の良否を判定する判定処理部12と、判定結果を出力する出力部13とを有している。
【0033】
ここでは、判定処理部12は、検査画像上の第2層102の外周縁と第1層101の溝部107との間の隙間に対応する部分に検査領域110を設定する領域設定手段14と、当該検査領域内の欠陥の有無によって対象物100の良否を判定する良否判定手段15とを有するものとする。具体的には、領域設定手段14では、図4のように検査画像のうち第1層101における溝部107で囲まれた領域(つまり、可動部に対応する領域)を検査対象領域111とするとともに、第2層102の外周縁で囲まれた領域(つまり、第2層102に対応する領域)をマスク領域112とし、検査対象領域111からマスク領域112を除いた領域に検査領域110を設定する。良否判定手段15では、検査領域110内の画像から対象物100の良否を判断する際の評価を表す特徴量(たとえば傷、異物等の欠陥の大きさ)を抽出し、当該特徴量に基づいて対象物100の良否判定を行う。
【0034】
ところで、複層構造の対象物100においては、その構造上、第1層101と第2層102との間に相対的な位置ずれが生じることがある。この種の異なる層101,102間での位置ずれは、各層101,102についた傷ほどの致命的な欠陥ではなく、僅かな位置ずれであれば、対象物100としては機能上の問題がなく、良品とできることが少なくない。ただし、対象物100の検査画像上では、異なる層101,102間で位置ずれが生じると、第2層102の外周縁と第1層101の溝部107との間に設定される検査領域110の形状が変化するので、完全良品を撮像した良品画像と検査画像との間には少なからず差異を生じることになる。そのため、判定処理部12において検査画像と良品画像とを単純に比較して対象物100の良否(欠陥の有無)を判定するものとすると、層101,102間の位置ずれに起因して、良品とできる対象物100に関しても不良品と判定されてしまうことで無駄はねを生じるという問題がある。
【0035】
この問題を解決するため、本実施形態では、第1層101と第2層102との各々に設定した代表点の位置から、第1層101−第2層102間の位置ずれ分を補正する位置補正手段16としての機能を判定処理部12に設けてある。ここでは、図6に示すように、検査画像上の第1層101の一の角部(図6の左上角部)を第1層101の代表点Pa1とし、第2層102の一の角部(図6の左上角部)を第2層102の代表点Pb1とする。検査画像は図6の左右方向をX軸、上下方向をY軸とするX−Y平面の画像であるものとし、当該画像を構成する各画素の位置座標は(x,y)で表されるものとする。
【0036】
判定処理部12には、良品画像における第1層101の代表点(以下、「第1層101の基準点」という)Pa0の位置座標(Xa0,Ya0)と、良品画像における第2層102の代表点(以下、「第2層102の基準点」という)Pb0の位置座標(Xb0,Yb0)とが予め登録されている。さらに、判定処理部12には、良品画像における検査対象領域111の位置および形状と、マスク領域112の位置および形状とが予め登録されている。
【0037】
そのため、位置補正手段16では、検査画像における第1層101の代表点Pa1の位置座標と第1層の基準点Pa0の位置座標(Xa0,Ya0)との差から、良品画像に対する第1層101の位置ずれ量を求めることができる。同様に、位置補正手段16では、検査画像における第2層102の代表点Pb1の位置座標と第2層102の基準点Pb0の位置座標(Xb0,Yb0)との差から、良品画像に対する第2層102の位置ずれ量を求めることができる。このようにして求めた第1層101と第2層102との各位置ずれ量に基づいて、検査画像における検査対象領域111およびマスク領域112の各位置を、それぞれ基準となる良品画像の検査対象領域111およびマスク領域112の各位置から平行移動させるように補正する。これにより、検査対象領域111は、検査画像における良品画像に対する第1層101の位置ずれを考慮して第1層101の溝部107に囲まれた領域に補正されることになり、マスク領域112については、第2層102の位置ずれを考慮して第2層102の外周縁に囲まれた領域に補正されることになる。
【0038】
具体的に説明すると、図7に示すように、検査画像において最も外側に位置するエッジが第1層101の外周縁に相当するので、検査画像から当該エッジの左辺の座標Xa1と上辺の座標Ya1を求め、これらの座標から第1層101の代表点(左上角部)Pa1の位置座標(Xa1,Ya1)が求められる。求まった第1層101の代表点Pa1の位置座標(Xa1,Ya1)から、良品画像に対する第1層101の位置ずれ量(ΔXa,ΔYa)=(Xa1−Xa0,Ya1−Ya0)を求め、当該位置ずれ量(ΔXa,ΔYa)を補正量として用いて検査画像に設定される検査対象領域111の位置を補正する。
【0039】
一方、図8に示すように、検査画像において対象物100の最も内側に位置するエッジが第2層102の外周縁に相当するので、検査画像から当該エッジの左辺の座標Xb1と上辺の座標Yb1を求め、これらの座標から第2層102の代表点(左上角部)Pb1の位置座標(Xb1,Yb1)が求まる。求まった第2層102の代表点Pb1の位置座標(Xb1,Yb1)から、良品画像に対する第2層102の位置ずれ量(ΔXb,ΔYb)=(Xb1−Xb0,Yb1−Yb0)を求め、当該位置ずれ量(ΔXb,ΔYb)を補正量として用いて検査画像に設定されるマスク領域112の位置を補正する。
【0040】
領域設定手段14は、位置補正手段16による補正後の検査対象領域111から同じく補正後のマスク領域112を除いた領域を、検査領域110として検査画像上に設定する。しかして、検査画像上には、第1層101と第2層102との間の相対的な位置ずれに関わらず、第2層102の外周縁と第1層101の溝部107との間となる領域に正確に検査領域110を設定することができる。そのため、検査画像に設定される検査領域110は、図4のような良品画像の検査領域110と常に同一形状になるのではなく、第1層101−第2層102間の位置ずれに応じてその形状が変化する。
【0041】
たとえば図1(a)に示すように第2層102が第1層101の中心に対し図の右方に片寄っている場合、マスク領域112が検査対象領域111内でやや右寄りに設定されることにより、検査領域110の幅はマスク領域112の左側で広く右側で狭くなる。また、図1(b)に示すように第2層102が第1層101の中心に対し図の上方に片寄っている場合、マスク領域112が検査対象領域111内でやや上寄りに設定されることにより、検査領域110の幅はマスク領域112の下側で広く上側で狭くなる。
【0042】
良否判定手段15は、上述のように異なる層101,102間の相対的な位置ずれに関わらず正確に設定された検査領域110について、特徴量の抽出および対象物100の良否判定を行う。そのため、仮に第1層101−第2層102間に僅かな位置ずれが生じていたとしても、良否判定手段15では、当該位置ずれに関わらず、第2層102の外周縁と第1層101の溝部107との間となる領域内の欠陥の有無に基づいて対象物100の良否を判定することができる。
【0043】
以下に、上述した構成の画像処理装置10の動作について図9のフローチャートを参照して説明する。
【0044】
画像取込部11によりカメラ20から検査画像が取り込まれると(S1)、まず、位置補正手段16にて第1層101の代表点Pa1を抽出し(S2)、第1層101の代表点Pa1について基準点Pa0からの位置ずれ量(ΔXa,ΔYa)=(Xa1−Xa0,Ya1−Ya0)を算出する(S4)。さらに、位置補正手段16は、算出した位置ずれ量(ΔXa,ΔYa)を用いて検査対象領域111の位置を補正する(S5:位置補正過程)。
【0045】
次に、位置補正手段16は第2層102の代表点Pb1を抽出し(S6)、第2層102の代表点Pb1について基準点Pb0からの位置ずれ量(ΔXb,ΔYb)=(Xb1−Xb0,Yb1−Yb0)を算出する(S8)。さらに、位置補正手段16は、算出した位置ずれ量(ΔXb,ΔYb)を用いてマスク領域の位置を補正する(S9:位置補正過程)。
【0046】
領域設定手段14は、補正後の検査対象領域111およびマスク領域112に基づいて、検査画像に対して検査領域110を設定する(S10:領域設定過程)。なお、第1層101あるいは第2層102の代表点Pa1,Pb1が抽出されなければ(S3:Yes、またはS4:Yes)、対象物(ワーク)100がないものと判断して(S16)、検査領域110を設定することなく処理を終了する。
【0047】
検査領域110が設定されると、良否判定手段15は、検査画像のうち検査領域110内の画像についてそれぞれ閾値以上の濃淡値を持つ画素を「1」、閾値未満の濃淡値を持つ画素を「0」として2値化する2値化処理を行う(S11)。さらに、良否判定手段15では、2値化後の検査領域110内の画像について、欠陥の候補となる画素群を結合してランドを形成するラベリング処理を行う(S12)。当該ラベリング処理では、画素値「0」の画素同士が隣接している場合に、これらの画素を1つの塊(ランド)としてナンバリングし、各ランドに番号付けをして各々を識別可能とする。良否判定手段15は、ラベリングされた各ランドについて、その大きさ(特徴量)が規定値以下か否かによって対象物100の良否を判断する(S13:良否判定過程)。つまり、ランドの大きさが規定値以下であれば(S13:Yes)良品と判定し(S14)、規定値以下でなければ(S13:No)不良品と判定する(S15)。
【0048】
以上説明した本実施形態の外観検査システムによれば、良否判定手段15が、第1層101−第2層102間の位置ずれに関わらず正確に設定された検査領域110に基づいて、特徴量の抽出および対象物100の良否判定を行うので、層101,102間の位置ずれに起因した無駄はねを防止することができる。すなわち、異なる層101,102間で位置ずれが生じていたとしても、当該位置ずれの影響を受けずに対象物100の欠陥の有無を判断できるから、異なる層101,102間に僅かな位置ずれが生じているだけの良品とできる対象物100が不良品と判定されてしまうことによる無駄はねを回避できる。
【0049】
また、ここでは第1層101における第2層102との非重複部位に設定された検査領域110についての外観検査の説明をしたが、同一の検査画像から、第2層102についての外観検査も行われる。つまり、上記検査領域110の良否判定の後、判定処理部12では、第2層102に対応するマスク領域112内を新たに検査領域とし、当該検査領域内について検査画像について欠陥の有無を判断する。このように、実際には、第1層101、第2層102の各層について順次、外観検査が行われることになる。
【0050】
ところで、本実施形態の外観検査システムを用いることで、第1層101、第2層102のみからなる2層構造の対象物だけでなく、3層以上の多層構造の対象物100について外観検査を行うことも可能である。ここでは、図10(a)に示すように、第1層101の一表面側に第2層102a、第3層102b、第4層102cからなる複数のマスク層が積層された複層構造物を対象物100とする場合を例として説明する。なお、図10では、右上から左下に向けて斜線を引いた部分が検査対象領域を表し、左上から右下に向けて斜線を引いた部分がマスク領域を表す(マスク領域のうち検査対象領域との重複部分は両方の斜線が交差する)。
【0051】
このような対象物100であっても、第1層101上に全てのマスク層を積層した状態で対象物100を前記一表面側から撮像し、得られた検査画像から良否判断を行う。具体的には、まずは最下層となる第1層101について、第2〜4層102a〜102cとの非重複部位の検査を行う。そのため、図10(b)のように第1層101全域に検査対象領域を設定するとともに、第2〜4層102a〜102cの全域にマスク領域を設定し、検査対象領域からマスク領域を除いた領域を検査領域に設定する。このとき、検査対象領域およびマスク領域の位置は、位置補正手段16にて各層の位置ずれ量に基づき補正されるので、正確な検査領域が設定されることになる。
【0052】
第1層101の検査が終わると、次に、図10(c)のように第2層102a全域に検査対象領域を設定するとともに、第3〜4層102b〜102cの全域にマスク領域を設定し、検査対象領域からマスク領域を除いた領域を検査領域に設定する。この状態では第2層102aにおける第3〜4層102b〜102cとの非重複部位の検査が行われる。第2層102aの良否判定が終わると、図10(d)のように第3層102b全域に検査対象領域を設定するとともに、第4層102cの全域にマスク領域を設定し、検査対象領域からマスク領域を除いた領域を検査領域に設定する。この状態で第3層102bにおける第4層102cとの非重複部位の検査が行われる。その後、第4層102cの全域に検査対象領域を設定し当該検査対象領域を検査領域として、最上層たる第4層102cの検査が行われることになる。
【0053】
(実施形態2)
本実施形態の外観検査システムは、検査画像内に占める各層の大きさの変化に対応して、検査領域の補正を行うサイズ補正手段(図示せず)としての機能を画像処理装置に付加した点が実施形態1の外観検査システムと相違する。
【0054】
本実施形態では、第1層101と第2層102との各々にそれぞれ複数点(ここでは2点)ずつ代表点が設定される。ここでは、図11に示すように、検査画像上において第1層101の対角線上の一対の角部(図11の左上角部と右下角部)を第1層101の代表点Pa1,Pa1’とし、第2層102の対角線上の一対の角部(図11の左上角部と右下角部)を第2層102の代表点Pa2,Pa2’とする。判定処理部12には、図12に示すような良品画像における第1層101の基準点Pa0,Pa0’の各位置座標(Xa0,Ya0),(Xa0’,Ya0’)が予め登録され、第2層102の基準点Pb0,Pb0’の各位置座標(Xb0,Yb0),(Xb0’,Yb0’)が予め登録されている。
【0055】
上述のように第1層101、第2層102の各々に2点ずつの代表点を定めることにより、サイズ補正手段では、検査画像内に占める各層101,102の大きさの変化を認識することができる。すなわち、良品画像に関しては第1層101のX軸方向の幅寸法はHxa0=(Xa0’−Xa0)、Y軸方向の幅寸法はHya0=(Ya0’−Ya0)でそれぞれ表される。同様に、良品画像における第2層102のX軸方向の幅寸法はHxb0=(Xb0’−Xb0)、Y軸方向の幅寸法はHyb0=(Yb0’−Yb0)でそれぞれ表される。一方、検査画像に関しては、第1層101のX軸方向の幅寸法はHxa1=(Xa1’−Xa1)、Y軸方向の幅寸法はHya1=(Ya1’−Ya1)でそれぞれ表され、第2層102のX軸方向の幅寸法はHxb1=(Xb1’−Xb1)、Y軸方向の幅寸法はHyb0=(Yb1’−Yb1)でそれぞれ表される。
【0056】
したがって、良品画像と比較した場合の検査画像内に占める第1層101の大きさの比率は、X軸方向に関しては(Hxa1/Hxa0)倍、Y軸方向に関しては(Hya1/Hya0)倍と表される。同様に、良品画像と比較した場合の検査画像内に占める第2層102の大きさの比率は、X軸方向に関しては(Hxb1/Hxb0)倍、Y軸方向に関しては(Hyb1/Hyb0)倍と表される。
【0057】
そこで、本実施形態における画像処理装置10は、位置補正手段16にて、まず第1層101、第2層102の各一方の代表点Pa1,Pb1の基準点Pa0,Pb1からの位置ずれ量(ΔXa,ΔYa)(=(Xa1−Xa0,Ya1−Ya0)),(ΔXb,ΔYb)(=(Xb1−Xb0,Yb1−Yb0))を求める。さらに、求めた位置ずれ量に基づいて、検査対象領域111およびマスク領域112を、良品画像の検査対象領域111およびマスク領域112の各位置から平行移動させるように補正する。その上で、サイズ補正手段にて、上述した第1層101の大きさの比率(Hxa1/Hxa0),(Hya1/Hya0)を用いて、良品画像中の第1層101を拡大・縮小することにより、検査対象領域111の大きさを補正する。さらに、サイズ補正手段は、第2層102の大きさの比率(Hxb1/Hxb0),(Hyb1/Hyb0)を用いて、良品画像中の第2層102を拡大・縮小することにより、マスク領域112の大きさを補正する。
【0058】
以上説明した構成によれば、異なる層101,102間の相対的な位置ずれだけでなく、検査画像内に占める各層101,102の大きさの変化にも対応して、検査対象領域111およびマスク領域112の位置および大きさを補正することができる。これにより、検査対象領域111は、良品画像に対する検査画像の第1層101の位置および大きさのずれを考慮して第1層101の溝部107に囲まれた領域に補正されることになり、マスク領域112は、第2層102の位置および大きさのずれを考慮して第2層102の外周縁に囲まれた領域に補正されることになる。
【0059】
したがって、領域設定手段14では、検査画像上には、第1層101と第2層102との間の相対的な位置ずれや各層101,102の大きさの変化に関わらず、第2層102の外周縁と第1層101の溝部107との間となる領域に正確に検査領域110を設定することができる。その結果、良否判定手段15は、正確に設定された検査領域110に基づいて特徴量の抽出および対象物100の良否判定を行うので、異なる層101,102間の位置ずれだけでなく、各層101,102の大きさの変化に起因した無駄はねをも防止することができる。
【0060】
その他の構成および機能は実施形態1と同様である。
【符号の説明】
【0061】
10 画像処理装置
11 画像取込部
14 領域設定手段
15 良否判定手段
16 位置補正手段
100 対象物
101 第1層
102 第2層
110 検査領域
111 検査対象領域
112 マスク領域
Pa1,Pb1 代表点
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複層構造の構造体からなりいずれかの層である第1層の一表面の一部に重なるように別の層である第2層が配置された対象物を対象とし、対象物を第1層の前記一表面側から撮像して得られる検査画像から第1層の前記一表面上の欠陥を検査する外観検査システムであって、検査画像における第1層の前記一表面上から少なくとも前記第2層に対応するマスク領域を除いた領域に検査領域を設定する領域設定手段と、検査領域内の欠陥の有無により良否判定を行う良否判定手段と、検査画像における第1層と第2層との各位置を個別に求め、求めた第1層および第2層の各位置に基づいて検査領域の範囲を補正する位置補正手段とを備えることを特徴とする外観検査システム。
【請求項2】
前記領域設定手段は、前記検査画像における前記第1層の前記一表面上に、前記マスク領域全域を包含する範囲で検査対象領域を設定し、当該検査対象領域からマスク領域を除いた領域を前記検査領域としており、前記位置補正手段は、検査画像における第1層の位置に基づき検査対象領域の位置を補正するとともに、検査画像における前記第2層の位置に基づきマスク領域の位置を補正することを特徴とする請求項1記載の外観検査システム。
【請求項3】
前記対象物は前記第1層の一表面の一部に重なるように、前記第2層を含む複数のマスク層が配置され構造体からなり、前記位置補正手段は、各マスク層の位置を個別に求め、求めた各マスク層の位置に基づいて前記検査領域の範囲を補正することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の外観検査システム。
【請求項4】
前記検査画像内に占める前記第1層と前記第2層とのそれぞれの大きさを個別に求め、求めた第1層および第2層の各大きさに基づいて前記検査領域の範囲を補正するサイズ補正手段が設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の外観検査システム。
【請求項5】
複層構造の構造体からなりいずれかの層である第1層の一表面の一部に重なるように別の層である第2層が配置された対象物を対象とし、対象物を第1層の前記一表面側から撮像して得られる検査画像から第1層の前記一表面上の欠陥を検査する外観検査方法であって、検査画像における第1層の前記一表面上から少なくとも前記第2層に対応するマスク領域を除いた領域に検査領域を設定する領域設定過程と、検査領域内の欠陥の有無により良否判定を行う良否判定過程と、検査画像における第1層と第2層との各位置を個別に求め、求めた第1層および第2層の各位置に基づいて検査領域の範囲を補正する位置補正過程とを有することを特徴とする外観検査方法。
【請求項1】
複層構造の構造体からなりいずれかの層である第1層の一表面の一部に重なるように別の層である第2層が配置された対象物を対象とし、対象物を第1層の前記一表面側から撮像して得られる検査画像から第1層の前記一表面上の欠陥を検査する外観検査システムであって、検査画像における第1層の前記一表面上から少なくとも前記第2層に対応するマスク領域を除いた領域に検査領域を設定する領域設定手段と、検査領域内の欠陥の有無により良否判定を行う良否判定手段と、検査画像における第1層と第2層との各位置を個別に求め、求めた第1層および第2層の各位置に基づいて検査領域の範囲を補正する位置補正手段とを備えることを特徴とする外観検査システム。
【請求項2】
前記領域設定手段は、前記検査画像における前記第1層の前記一表面上に、前記マスク領域全域を包含する範囲で検査対象領域を設定し、当該検査対象領域からマスク領域を除いた領域を前記検査領域としており、前記位置補正手段は、検査画像における第1層の位置に基づき検査対象領域の位置を補正するとともに、検査画像における前記第2層の位置に基づきマスク領域の位置を補正することを特徴とする請求項1記載の外観検査システム。
【請求項3】
前記対象物は前記第1層の一表面の一部に重なるように、前記第2層を含む複数のマスク層が配置され構造体からなり、前記位置補正手段は、各マスク層の位置を個別に求め、求めた各マスク層の位置に基づいて前記検査領域の範囲を補正することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の外観検査システム。
【請求項4】
前記検査画像内に占める前記第1層と前記第2層とのそれぞれの大きさを個別に求め、求めた第1層および第2層の各大きさに基づいて前記検査領域の範囲を補正するサイズ補正手段が設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の外観検査システム。
【請求項5】
複層構造の構造体からなりいずれかの層である第1層の一表面の一部に重なるように別の層である第2層が配置された対象物を対象とし、対象物を第1層の前記一表面側から撮像して得られる検査画像から第1層の前記一表面上の欠陥を検査する外観検査方法であって、検査画像における第1層の前記一表面上から少なくとも前記第2層に対応するマスク領域を除いた領域に検査領域を設定する領域設定過程と、検査領域内の欠陥の有無により良否判定を行う良否判定過程と、検査画像における第1層と第2層との各位置を個別に求め、求めた第1層および第2層の各位置に基づいて検査領域の範囲を補正する位置補正過程とを有することを特徴とする外観検査方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−95009(P2011−95009A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247038(P2009−247038)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
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