説明

多光子レーザ顕微鏡法

【課題】共焦点レーザ走査顕微鏡によりもたらされるものに匹敵する視野分解能の深度を与え、更に、光漂白及び光の有毒性を減少させる。
【解決手段】レーザ走査顕微鏡は、3つ又はそれ以上の光子の同時吸収により、目的物における分子励起を生じさせて、内在的な3次元分解能をもたらす。短い波長領域における単一光子の吸収を有する蛍光体は、比較的長い波長領域のレーザ光による、強く結像されたサブピコ秒のパルスのビームにより励起させられる。蛍光体は、生きた細胞及び他の極微的な対象物の蛍光画像を作成するために、レーザ波長の約3分の1,4分の1又はそれより小さい分数でさえも吸収する。蛍光体からの蛍光放射は、励起強度とともに、3次的に,4次的に又はそれより大きな冪乗の法則で増大し、その結果、レーザ光を結像させることにより、光漂白のみならず、蛍光が焦点面の近傍に限定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3つ又はそれ以上の光子の同時吸収により、目的物における分子の励起をもたらすレーザ顕微鏡検査技術に関する。本発明は、デンク(Denk)等により米国特許第5,034,613号(以下、’613号特許という)に開示された2光子レーザ顕微鏡における改良であり、また、この特許は、引用することにより、ここに組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
上記’613号特許は、内在的な3次元分解能をもたらすべく、2光子の同時吸収により目的物における分子の励起を生じさせるレーザ走査顕微鏡を開示している。短い(紫外線の又は可視の)波長帯域における単一光子吸収を有する蛍光体(fluorophores)は、強く結像されたサブピコ秒の比較的長い(赤色の又は赤外線の)波長帯域のレーザ光の流れにより励起させられる。上記蛍光体は、生きた細胞及び他の極微的な対象物の蛍光像をつくるために、約2分の1のレーザ波長を吸収する。上記蛍光体からの蛍光放射は、レーザ光を結像させることにより、蛍光及び光漂白が焦点面近傍に限定されるように、励起強度とともに2次的に増える。この特徴は、共焦点のレーザ走査顕微鏡により生じさせられたものに匹敵する視野分解能の深度を与え、その上、光漂白を減少させるものである。レーザ走査顕微鏡によるレーザビームの走査は、レーザビームを結像させることにより、また、そのビームをパルス時間で圧縮することにより得られる非常に高い励起強度についての必要条件を満たしながら、走査された対象物における各ポイントからの2光子の励起による蛍光を集めることにより、像の形成を可能とする。結像されたパルスは、また、かご閉じ込めエフェクタ分子(caged effector molecules)の光分解の放出(photolytic release)において特に有用である、3次元空間的に解像される光化学をもたらす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記’613号特許に開示された2光子レーザ顕微鏡検査技術についての欠点は、その適用が、有用なレーザ技術に限定されることである。特に、2光子技術は、その適用に従って、2光子のエネルギーレベルの合計が所望の蛍光放射を生じるのに必要とされる特定のエネルギーレベルをもたらすように、特定の波長におけるレーザの利用を要する。あいにく、幾らかのレーザ顕微鏡の適用は、現時点では技術的に実現不可能である波長を有するレーザの利用を要するであろう。例えば、アミノ酸及び核酸のような、非常に短い波長の吸収を有する発色団(chromophores)の励起は、上記2光子技術を用いて、540nmの波長を有するレーザを要することとなるが、現時点では、かかるレーザは存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、レーザ走査蛍光顕微鏡検査に、また、マイクロ薬理学(micropharmacology)についてのかご閉じ込め試薬の活性化、及び、光学的な3次元情報保存についてのポリマー架橋のような空間的に解像される光化学的な処理に、3つ又はそれ以上の光子の励起を適用することにより、前述した問題に対する解決法をもたらすことができる。
【0005】
3光子に誘導される蛍光が、励起強度に対する三次的な依存性に従う一方、4光子による励起が、四次的な依存性に従うため、両方はレーザ走査顕微鏡において内在的な3次元分解能をもたらす。たとえ、かかる3次元分解能が、上記’613号特許に開示された2光子レーザ顕微鏡に基づく非線形の顕微鏡検査技術により既に実現されるものでも、3つの光子の励起が、通常では紫外帯域(230〜350nm)において励起可能である分子を近赤外光(700〜1100nm)で励起させることは稀である。アミノ酸トリプトファン(tryptophan)及びチロシン(tyrosine)、神経伝達物質であるセロトニン(serotonin)及び核酸のような興味あるバイオ分子は、約260〜280nmにおける1光子吸収ピークを有しており、これらのバイオ分子では、3つ及び4つの光子の励起により、蛍光が励起され得る。赤外光に近い長波長を用いる利点は、生きた細胞への光によるダメージがおそらく少ないことや深い紫外線吸収体について好都合に適用し得る固体状態のフェムト秒のレーザ源である。実際には、3光子レーザ走査顕微鏡の構成は、既存する2光子システムと同様である。しかしながら、3光子及び2光子の吸収スペクトルは、全体として、まったく異なるので、2光子及び3光子が励起される蛍光顕微鏡検査法の組み合わせは、2光子顕微鏡において一般に採用されているレーザシステムの有効範囲を拡張する。
【0006】
3つ若しくはそれ以上の光子の励起の特に有効な適用は、200nm程度の波長の吸収を要するある適用について、エキシマレーザを取り替えることである。よりずっと長い波長(つまり550〜900nm)を発するレーザによる3つ及び4つの光子の励起は、同様のエネルギー吸収をもたらし、その上、3次元空間分解能をもたらすものである。エキシマレーザは、極めて高価であり、ユーザに身近なものでないため、幾つかの光子の励起が、非常に望ましいかも知れない。
【0007】
提案される3光子顕微鏡検査の実用性は、種々の蛍光体及びバイオ分子(biomolecule)の3光子の蛍光励起断面積に極めて重大に依存する。しかしながら、3光子の吸収断面積が報告されたことはほとんどない。摂動論に基づく簡単な計算は、3光子の励起が、匹敵する励起のレベルを実現するために、典型的には、2光子励起技術で一般に用いられるピーク強度の<10倍を要することをあらわしている。この必要とされる強度レベルが、モードロック式のTi:サファイアレーザのようなフェムト秒のレーザ源により容易に手に入れることができる。モデロック式のTi:サファイアレーザを用いて、トリプトファン(tryptophan)及びセロトニン(serotonin)の3光子に導かれる蛍光は、約800と900nmとの間にある励起波長において観察される。測定される蛍光は、期待された励起強度に対する3次的な法則の依存性に従う。カルシウム指示薬(indcator)の蛍光パワーの測定法は、期待された3光子励起の最適条件よりもかなり下の励起波長(約911nm)でのフラ−2(Fura−II)を着色し、満足な蛍光画像が、最適な励起波長(約730nm)でのフラ−2の2光子励起に必要とされるレーザパワーのわずか〜5倍で取得し得るべきであることが示されている。これらの予備結果から概算される3光子蛍光励起断面積は、3光子レーザ走査顕微鏡検査法が、適度なレベルの励起パワーを用いて行われることを示している。このアプローチがどれほど広く適用可能であるかは、決定されなければならない。4光子励起は、約1000nmより上の水(water)による強い1光子吸収のオンセット(onset)によって制限され得る。
【0008】
3つ又はそれ以上の光子のプロセスによる蛍光の分子励起の研究は、その励起断面積が相当小さいものであると予期されるので、稀である。その結果、励起の有効なレートは、通常、非常に高い瞬間照明強度を要する。多光子断面積の簡単な補外(extrapolation)としては、放射電磁界による分子励起に関した双極子遷移確率の量子力学の摂動論の解における、マトリックス素子のパターンの積が考えられる。基本的には、多光子プロセスは、分子と相互作用するために、(分子の断面領域、A〜10−16cmの範囲内で、また同時に、中間状態の寿命により決定される時間間隔、δτ〜10−16sの範囲内で)3つ又はそれ以上の光子を要する。この短い一致時間は、摂動論のエネルギー分母から導出される大きなエネルギーの不確定性により制限される。
【0009】
幾つかの光子による蛍光励起は、(与えられた蛍光体についての)長い方の励起波長が、1光子ポイント拡張関数を複数の光子のプロセスに関するパワーnに引き上げることにより増大させられるのと同じ程度で、分解能を減少させるので、レーザ顕微鏡検査法の分解能を著しく増大させることはない。それは、波長の因子に関するものでなく、3光子励起の分解能における増大は、本質的には、2光子顕微鏡に対して理想的な共焦点空間フィルタを付加することにより招来されるものと同様のものであろう。
【0010】
意外にも大きな3光子の断面積についての近年のリポートは、(過度に明るい閃光から人間の視界を保護するための調節可能な遮光物を付与することを目的とした)光学的に制限のある吸収を向上させるための研究のうちに見い出される。最近では、約10−75cmの光子吸収断面積が、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)における2,5−ベンゾチアゾ(benzothiazo)3,4−ジデシロキシ(didecyloxy)の吸収及び蛍光に関して報告されている。近年のまた別の実験は、共役有機ポリマーからの蛍光の3光子励起を示している。しかしながら、このプロセスは、ほとんどの蛍光励起とは異なった2つの励起状態を含むようにみえる。これらの実験の条件は、レーザ走査蛍光顕微鏡検査に若しくは大抵のマイクロ光化学にまったく適さないが、大きな断面積は約束される。しかしながら、かかる大きな断面積は、3つ又はそれ以上の光子の顕微鏡検査に不可欠ではないことに注意すべきである。
【0011】
蛍光顕微鏡検査及びフォトマイクロ薬理学における生きた細胞への光によるダメージのレートの励起波長の依存性は、広くには知られておらず、異なる適用については大きく変化し得る。経験では、2光子励起が、匹敵する蛍光画像の認識についての1光子励起よりもはるかに少ないダメージを導くことが分かっている。励起に関して3つ又は4つの光子に増加することによって、改良が更に為され得るかどうかは明らかでない。このような知識及び非線形吸収スペクトルの知識の助けによって、将来、最良の励起モードが、個々のシステムについて決定され、利用されることが可能である。特に魅力のある可能性は、3光子励起及びそれに伴う蛍光信号の2光子励起による光化学を導き出すために、1つのレーザ波長を用いることである。3光子励起は、それを元に戻しそうにないことを除いて、まったく好ましいことに、既存の2光子励起技術を有効に向上させるように思われる。
【0012】
代わりとして、極微的な光化学の活性,光切除及び光学的な手術(optical surgery)に関し、光の励起は、アミノ酸及び核酸のような非常に短い波長吸収体を有する内在的な発色団、若しくは同等の付加された発色団の多光子励起により、好適に実現され得る。多光子励起は、長波長でのサブピコ秒のパルスをもたらすより有用なレーザの選択、及び、光の励起が望まれる極微的な焦点体積への長波長光の伝達を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
さて、本発明の好適な実施の形態の詳細な説明については、図1は、3通りの検出方式を有する従来の走査顕微鏡を模式的に示している。サブピコ秒のパルス化されたレーザ源12は、可動式ステージ又は他の適切な支持部材15上に置かれた試料又は目的物の必然的な励起をもたらすものである。上記レーザ12は、例えば、約80MHzの繰り返し率で、100fsecより短い持続期間を有するパルスとともに、約630nmの、スペクトルの赤領域における波長を有する光のパルスを生じ得る、コライディング・パルス(colliding pulse)の、モード・ロック式の色素レーザ若しくは固体レーザであってよい。他の明るいパルスレーザもまた、例えば、その合計が試料における蛍光に必要とされる適切な吸収エネルギー帯域に匹敵するであろう必然的な励起の光子エネルギーを生じるように、赤外線の、若しくは赤色の領域における比較的長い異なる波長の光をもたらすために使用されてもよい。単一光子励起技術において、これらは3つ又は4つの光子励起について、それぞれ、入射光の波長の約3分の1、若しくは4分の1の波長を有するスペクトル領域における単一光子の吸収により励起されることになる。その結果、例えば、945nmでの可視の赤色領域における3つの光子が、通常315nmでの紫外線領域における光を吸収する蛍光を励起させるように協力する一方、1070nmでの3つの光子が、可視光領域において、357nmで吸収する分子を励起させることになる。
【0014】
本発明の改良された態様では、単一波長レーザ12が、入射光ビームが、高い瞬間パワーの、また、異なる波長の、2つ又はそれ以上の重ね合わせパルス光ビームからなるように、2つ又はそれ以上の異なる長波長のレーザ源に交換され得る。入射ビームの波長は、
1/λabs=1/λ1+1/λ2+1/λ3
と表記され得る短い波長で吸収性のある蛍光を励起させるように選択される。ここで、λabsは吸収体の短い波長であり、λ1,λ2及びλ3は、3つの波長のケースに場合についての、レーザの入射ビームの波長である。
【0015】
上記レーザ12は、1組みの発振ミラーを有するX−Yスキャナ18により走査され、その後、接眼レンズ20及び22並びに対物レンズ24により、焦点つまり焦点体積19で試料14上に結像される、パルス化された出力ビーム16を生じる。対物レンズの背面口径(back aperture)は、走査されるビームについてのピボットポイントであり、その結果、収差を無視し、ラスターパターンにおける全ての点は、同等の画像形成条件を経験する。上記スキャナ18は、試料14を通じて、焦点つまり焦点体積19の走査を行い、それによって、焦点つまり焦点体積19での若しくはその近傍における試料14の蛍光励起をもたらす。
【0016】
上記出力ビーム16は、上記X−Yスキャナ18に指向させられる前に、分散補正及びパルス診断器の両方にかけられる。フェムト秒のパルス化された照明の問題の1つは分散である。短いパルスは、光学材料を通過する場合に、パルス化された帯域幅の互いに異なる周波数成分が、材料内で異なる速さで進むため、広がる傾向にある。光学材料についての分散補正は、約120fsecよりも大きいパルスにとって不可欠でない。なぜなら、これらのパルスが小さな周波数帯域幅(約4nm)を有し、その結果、広がりがほとんどないからである。しかしながら、700nmで、70fsecのパルスは、良好な対物レンズにより約1.5倍に、ビーム変調及びシャッタに用いられ得る標準的な音響光学変調器によりそれ以上に広げられることが分かっている。パルスの広がりは、観察される蛍光の均整を減少させる。顕微鏡10では、光学材料についての分散補正が、より高い(全体としてより遅い)周波数がより少ないガラスを通過して、その結果、固有の位相遅れに戻されるように、光を指向させる一対のガラスプリズム26及び28を二重に通過することにより達せられる。上記プリズム26及び28を通過してリターンさせるためには、全反射ミラー30が用いられる。
【0017】
量的な測定のために、励起ビームの波長及びパルス持続時間を知る必要があり、そのため、パルス化された出力ビーム16を分析すべく、種々の態様のパルス診断器32が提供される。波長及び持続時間の両方の大まかなモニタのためには、波長の測定値をもたらす、標準的な形態にある単一のモノクロメータが十分である。もし、出力のスリットが取り除かれ、その結果得られるスペクトルが、スクリーン又は1次元検出器へ送られれば、パルス波長帯域がモニタされ得る。より正確なパルス分析のために、上記パルス診断器32は、直接的で詳細なパルス幅の測定及びその位相干渉の輪郭の指示を可能とする自己相関器(autocorrelator)を有してもよい。
【0018】
レーザ顕微鏡10は、また、3つの検出方式の各々について、蛍光通路を分離するために用いられる、第1,第2及び第3のダイクロックミラー34,36及び38を有している。これらの方式の第1のものは、分離スキャンされた(descanned)共焦点検出方式として知られている。共焦点検出では、蛍光ビームが、共焦点光電子増倍管(PMT)42の前に配置されたピンホール絞り40で静止画像面を形成するように、分離スキャンされる。走査におけるすべての位置で、標本において照射されるポイントは、検出器の面における開口部に対して結像する、若しくは共焦である。上記ピンホール絞り40と第1のダイクロックミラー34との間には、検出された信号から望ましくない周波数を除去するために、帯域放射フィルタ44が配置されている。
【0019】
第2の検出技術は、対物レンズの背面口径が、分離スキャンなしに、レンズ46及び帯域放射フィルタ48を介して、フーリエPMT50上に結像されるフーリエ面検出方式として知られている。上記背面口径が走査においてピボットポイントであるため、蛍光のパターンは、光電陰極において定常である。
【0020】
最後に、第3の検出技術は、試料14における完全な焦点面が、上記帯域放射フィルタ52及び結像レンズ54を通じて、その認識速度がフレームの走査時間に同調させられるCCDカメラのような画像形成検出器56上に結像される、走査された画像形成検出方式として知られている。
【0021】
検出方法の最初の選択は、既存の顕微鏡の構成により、若しくは設計された特定の実験に必要な顕微鏡検査方法により決められる。各検出方式の概要は、それ自身特有の長所及び短所を呈している。これら全ての検出方式の概要では、集光された蛍光が、適切に被覆されたダイクロックミラーにより抽出される。典型的には、励起波長と放射波長との間の差がストークスシフト(Stokes shift)よりもずっと大きいため、2色性の被覆が、反射透過帯域間の通常のシャープなカットオン(cut−on)を有する必要はない。放射フィルタ44,48及び52は、多光子励起波長での特有の阻止のために点検される必要があるが、通常、標準的である。蛍光パワーに対する平均励起パワーの比は、線形顕微鏡検査における場合よりも多光子レーザ顕微鏡検査における場合の方が高いため、より高い阻止の比が得られる。それ故、赤色に鈍感な光電子エミッタについての光電子増倍管の選択は、有益である。
【0022】
2光子より多い多光子の励起について、例えば、N個の光子では、1蛍光体につき1パルス当たりに吸収される光子の数は、一般に、
【0023】
【数1】

【0024】
と表記される。ここで、前に肩付けされた文字Nは、前述したN=2である2光子励起の場合の類推(analogy)において同時に吸収される光子の数をあらわしている。多光子吸収プロセスに関した連続的な比である比(N−1)は、
【0025】
【数2】

【0026】
の形の有用な比較パラメータを提供する。
予期される吸収断面積の好適な値を下の表に記す。
【0027】
【表1】

【0028】
これら上記2光子励起について記述された多光子断面積及び計器パラメータの典型的な値を用いた場合、約3Wレーザーパワーで、吸収の比は1(unity)である。しかしながら、この等しい放射パワーは、特に、波長に依存する断面積に従うものである。より高い比Nδ/N−1δは、既知の好適な蛍光体について存在し、それ以上のものは、この発明、また、他の多光子吸収の適用がきっかけとなる研究において見い出されるかもしれない。生物の細胞及び組織に対して適用する場合、より高いオーダの多光子励起プロセスの選択及び励起波長の最適化は、閉じ込められた化合物の蛍光顕微鏡検査及び極微的な活性化の間における、生物の光によるダメージを最小限に抑制するのに適した状態を選択するための手段を提供する。多光子レーザーパワー顕微鏡法又は光化学に関して、より高いオーダの多光子プロセスは、有効なレーザー波長の選択を調節する。
【0029】
N>2である多光子励起を用いれば、分解能を規定する顕微鏡のポイント拡張関数が、それ自身で、パワーNに増えるため、画像形成分解能は、2光子の励起に相対して改良される。その結果、3光子励起に関して、分解能は、波長が増大するにつれて分解能を小さくする波長の因子を無視して、極微の共焦点アパーチャの挿入(insertion)とほぼ同じ因子により更に改良される。
【0030】
図2及び3は、それぞれ、1.0μmでのFura−2及び1.0μmでのCaを備えたIndo−1の3光子励起に関する入射光子の光束密度の関数としての蛍光強度を示している。両方の場合において、試料における3光子の励起が明らかにあらわされ、蛍光強度は、入射光子の光束密度の3乗に比例して増大する。
【0031】
3つ又はそれ以上の光子による多光子励起の他の長所は、焦点励起外の依存性が、増大する光子オーダNの値とともに、強度のパワーNが連続的に高くなるにつれて小さくなるので、2光子励起の好適な特性が、より高いオーダのプロセスにおいて、更に高められることである。
【0032】
本発明による3つ又はそれ以上の光子の励起は、可視又は赤外光による、単一紫外線光子の励起に対応する励起エネルギーへのアクセスをもたらすので、全く新しいクラスの蛍光体及び蛍光指示薬が、3次元的に解像されるレーザ走査顕微鏡検査に受入れ可能となる。たとえ3つ又はそれ以上の光子の断面積は、多くの化合物について未だ知られておらず、また、3つ又はそれ以上の光子の吸収には、異なる選択則が適用されるが、分子の非対称性は、しばしば、同じ励起状態への奇数及び偶数の光子の遷移の両方を可能とする。励起状態の対称性の効果が、奇数の光子及び偶数の光子の断面積ピークの相対値をシフトするようにあらわれることが分かっている。その結果、2光子吸収についての吸収ピークは、時折、1光子プロセスについての優勢な吸収ピークの2倍よりも著しく短い波長であらわれ、そして、3光子吸収の波長依存性は、1光子の場合の3倍に近い波長依存性にたよることができる。多光子励起は、非干渉性の複数のステップの励起のケースにおいて特に強力であるかも知れない。この場合には、(例えば2光子の吸収による)あるエネルギーの吸収が、それに伴う付加的な光子が蛍光又は光化学的な活性が生じ得る状態に達するためのエネルギーをもたらす中間状態に到達する。
【0033】
さて、前述した蛍光体の全てが、2光子の励起で、生きた細胞において蛍光性のラベル(label)分布をイメージ化するために、決まって用いられる。匹敵する蛍光強度の3光子の励起は、Indo−1,FURA−2,DAPI及びダルニル(darnyl)とともに得られるものである。3光子の吸収断面積は、約δ〜2×10−82cm(s/光子)である。セロトニン(serotonin),ノレピネフェリン(norepinepherine)及びトリプトファン(tryptophan)における蛍光性のアミノ酸の3つ及び4つの光子の励起は、300nm以下で生じる1光子の吸収を用いた赤色光の励起で測定される。有用なレーザによる3つ及び4つの光子の使用は、稀な神経伝達物質及びホルモンを極微的に検出しイメージ化する上で都合が良い。
【0034】
本発明の他の適用は、組織又は組織の小器官の微視的な局部除去を、それらの破壊若しくは外科的な切除のために行う方法としてのものである。これは、内在的な発色団により、あるいは、外部から与えられた発色団により、3つ又はそれ以上の光子の吸収の利用を通じて達せられる。上記発色団は、組織を分類し、サブピコ秒のレーザ光のパルス吸収のための第1の特性エネルギーをもたらすもので、そのレーザ光のパルスが、例えば3分の1,4分の1等のほぼ整数分数である、若しくは第1の特性エネルギーよりも小さい第2の特性エネルギーをもたらすことになる。代わりとして、必要な蛍光をもたらす分子が、内在的な組織蛍光体であってもよい。
【0035】
本発明は、好適な実施の形態に関して開示されているが、以下の請求の範囲に規定される発明の要旨を逸脱することなく、様々な改良や変更が可能であることは理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の好適な実施態様に従って、レーザ走査顕微鏡の模式的な図解である。
【図2】Fura−2の3光子励起を用いて得られ適用されたピークレーザ光束密度に対する平均的な蛍光強度のグラフである。
【図3】Indo−1の3光子励起を用いて得られ適用されたピークレーザ光束密度に対する平均的な蛍光強度のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特性エネルギーの光子により励起可能な分子を含む目的物の3つ又はそれ以上の光子の励起技術による顕微鏡検査法であって、
nが上記目的物により吸収されるべき光子の数に等しく、3より大きい若しくはそれに等しい場合に、上記目的物に、上記特性エネルギーの約1/nのエネルギーの光子を有するレーザ光の強いサブピコ秒のパルスのビームを照射し、
少なくとも3つの入射光子の同時吸収により分子励起を生じさせるべく、十分に高い照射強度をもたらすように、上記目的物の範囲内に照射光を結像させるステップを有する方法。
【請求項2】
上記目的物が、かご閉じ込めの生物学的に活性な分子を含み、上記照射強度が、n個の入射光子の同時吸収により、かご閉じ込めされた生物学的に活性な化合物を解放するのに十分であり、各エネルギーが、上記特性エネルギーの約1/nに等しい請求項1の方法。
【請求項3】
上記目的物が、蛍光性の分子を含み、上記照射強度が、n個の入射光子7の同時吸収により、上記目的物の蛍光を生じさせるのに十分であり、各エネルギーが、上記特性エネルギーの約1/nに等しい請求項1の方法。
【請求項4】
上記照射光を結像させるステップが、上記n個の入射光子の同時吸収により分子励起を生じさせるべく、上記目的物の範囲内における小さな焦点体積へ照射光を結像させ、該焦点体積においてのみ十分に高い照射強度をもたらすことを有している請求項3の方法。
【請求項5】
上記目的物を通じて、上記焦点体積を走査すべく、上記ビームを走査し、上記目的物により生じさせられた蛍光を検出するステップを更に含む請求項4の方法。
【請求項6】
上記目的物が組織であり、また、上記分子励起が、内在的な発色団,外部から与えられた発色団、若しくは上記組織内の内在的な蛍光体による少なくとも3つの照射光子の同時吸収により発生する請求項1の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−106004(P2006−106004A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322027(P2005−322027)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【分割の表示】特願2001−229511(P2001−229511)の分割
【原出願日】平成8年9月18日(1996.9.18)
【出願人】(592035453)コーネル・リサーチ・ファンデーション・インコーポレイテッド (39)
【氏名又は名称原語表記】CORNELL RESEARCH FOUNDATION, INCORPORATED
【Fターム(参考)】