説明

多孔体の製造方法および多孔体

【課題】亜臨界または超臨界流体を利用する際の課題であった表面のスキン層をなくして厚さ方向に連通性を持たせることができる多孔体を製造する。
【解決手段】中間層を少なくとも1層含み、中間層の両側に水系溶媒可溶性物質を含む両側外層を積層させた少なくとも3層構造の積層体を作製する工程と、得られた積層体に超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させた後に、該超臨界状態または亜臨界状態から解放して前記流体を気化させることにより前記積層体に微小孔を形成して多孔化する工程と、前記両側外層から水系溶媒可溶性物質を水系溶媒により抽出することにより前記両側外層に微小孔を形成して多孔化し該微小孔を前記中間層の微小孔とを連通させる工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔体の製造方法および該製造方法により得られる多孔体に関し、該多孔体は包装用品、衛生用品、畜産用品、農業用品、建築用品、医療用品、分離膜、光拡散板、反射シートまたは電池用セパレーターとして利用でき、特に各種電子機器等の電源として利用されるリチウムイオン二次電池等の非水電解質電池用セパレーターとして好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
多数の微細連通孔を有する高分子からなる多孔体は、超純水の製造、薬液の精製、水処理などに使用する分離膜、衣類・衛生材料などに使用する防水透湿性フィルム、あるいは電池などに使用する電池セパレーターなど各種の分野で利用されている。
【0003】
この種の高分子に微細な連通孔を多数作る技術としては下記に記載するような種々の技術が提案されている。
例えば、特開平5−25305号公報(特許文献1)では超高分子量ポリエチレンと溶媒を混練・シート化し、延伸処理したのち溶媒を抽出することにより多孔膜が得られることが提案されている。
しかしながら、当該方法では、段落番号0045等で記載されているように、多孔膜全体に含まれている溶媒を洗浄用の有機溶媒で洗浄することにより除去しているため、有機溶媒が大量に必要となり、環境上の観点から好ましくない。
【0004】
特許3166279号(特許文献2)では、ポリオレフィン樹脂と充填剤等を含む樹脂組成物をインフレーション成形し、得られたフィルム又はシートをその引き取り方向に一軸延伸することにより連通性をもつ多孔性フィルム又はシートが得られることが提案されている。
同じく、特開2004−95550号公報(特許文献3)でもリチウム二次電池用セパレーターとして用いる多孔性フィルムを、熱可塑性樹脂と充填剤とを含む樹脂組成物から成形したシートを少なくとも一軸方向に延伸することにより得ている。
しかしながら、これらの方法により得られる多孔性フィルム又はシートでは全層に充填剤が存在していることにより単位面積あたりの質量(坪量)が大きくなるため、軽量化に向けた改善を行う余地がある。
【0005】
特開平10−50286号公報(特許文献4)では、高融点ポリオレフィンのフィルムと低融点ポリオレフィンのフィルムとを、それぞれ熱処理して複屈折および弾性回復率を調整した後、熱圧着して三層以上の積層フィルムを得、該積層フィルムを2段で延伸して多孔化した後熱固定することにより、電池用セパレーターとして用いる多孔性フィルムを製造することが提案されている。
一般的に単一ポリマーによる開孔延伸法と呼ばれている当該方法においては、製造工程において有機溶媒を必要とせず、かつ充填剤が存在していないので単位面積あたりの質量(坪量)も大きくはならない。しかしながら、該方法は結晶制御が非常に難しく、延伸温度や延伸倍率、多段延伸等の延伸条件において好ましい多孔構造を得ることができる条件が非常に狭いため(0025欄〜0028欄等)、工業的規模で生産する際の工程管理を考えると好ましくない。
【0006】
このように前述の特許文献1〜4に記載の多孔性フィルムはそれぞれ特徴を持つものの、特にその製造方法に関して環境面と軽量性、生産性という点では十分なものはなかった。
【0007】
その他、亜臨界または超臨界流体を使用する発泡技術も知られている。具体的には、ポリマーに亜臨界または超臨界流体を含浸させ飽和状態にし、その後、急激な圧力の低下等で過飽和状態を作り出し、過飽和の気体が発泡するのを利用するものである。
当該方法は細かくて均質な発泡が得られ、また二酸化炭素や窒素等の不活性ガスの亜臨界または超臨界流体を用いれば環境への負荷が極めて少ないという利点がある。
しかしながら、表面付近では急激な圧力の低下等が起きたときに過飽和状態とならず、直ちに拡散・蒸発により表面から気体が放出されるため、発泡を生じない領域、所謂、スキン層が必ず存在する。このために、厚さ方向に連通性を有する微小孔をもつ多孔体を作ることはできなかった。
【0008】
【特許文献1】特開平5−25305号公報
【特許文献2】特許3166279号
【特許文献3】特開2004−95550号公報
【特許文献4】特開平10−50286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたもので、亜臨界または超臨界流体を利用する際の課題であった表面のスキン層をなくして厚さ方向に連通性を持たせることができ、かつ、亜臨界または超臨界流体を利用することにより、有機溶媒を使用する必要をなくして環境に対する負荷を大幅に軽減し、製造条件の幅が広くて生産性に優れた多孔体の製造方法を提供することを課題としている。
さらに、本発明は全体に均等な連通孔を有し、かつ単位面積あたりの質量が小さい積層体からなる多孔体を提供することを課題としている。
特に、電池用セパレーターとして使用した場合、電池重量を大きく増加させることなく、電解液の保持が良好であり、安全性が高い非水電解質2次電池を提供することができるセパレーターおよび電池を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、第一の発明として、厚さ方向に連通性を有する微小孔が多数存在する多孔体の製造方法であって、
ハードセグメントとソフトセグメントを有する熱可塑性樹脂組成物からなる中間層を少なくとも1層含み、中間層の両側に少なくとも熱可塑性樹脂と水系溶媒可溶性物質とを含む熱可塑性樹脂組成物からなる両側外層を積層させた少なくとも3層構造の積層体を作製する工程と、
得られた積層体に超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させた後に、該超臨界状態または亜臨界状態から解放して前記流体を気化させることにより前記両側外層の最表面に無孔のスキン層を残存させて前記積層体に微小孔を形成する工程と、
前記微小孔を形成した後に、前記両側外層を構成する熱可塑性樹脂組成物から水系溶媒可溶性物質を水系溶媒により抽出することにより前記スキン層に微小孔を形成して前記工程で形成した微小孔と連通させる工程を、備えることを特徴とする多孔体の製造方法を提供している。
【0011】
前記水系溶媒可溶性物質を溶媒により抽出する工程の前または後に、少なくとも一軸方向に延伸させて前工程で形成された微小孔を連通させる延伸工程を含むことが好ましい。
【0012】
本発明は発明者らが鋭意研究および実験を繰り返して知見した結果に基づいてなされたものである。
即ち、本発明者らは、まず、亜臨界または超臨界流体を利用して多孔化する研究・実験を行い種々の検討を加えたが、前記した表面にスキン層が生じるという問題は回避できなかった。
そこで、本発明者らは、亜臨界または超臨界流体を利用して多孔化する層の表面に無孔のスキン層を設けて、所謂、蓋をすることにより、中間層と両側外層に連通する微小孔を有する多孔体を得ることができることを知見した。すなわち、積層体に亜臨界または超臨界流体を含浸させ、次いで急激な圧力の低下等を発生させた時に、両側外側の最表面に無孔のスキン層を設けて蓋をしているため、気体が蒸散することなく、過飽和状態を作り出すことができ、その結果、積層体に微小孔を作製することに成功した。
その後、蓋となる無孔のスキン層を構成する樹脂組成物から少なくとも1成分を取り除くことにより前記無孔のスキン層に微小孔を設けて多孔化すると、前工程で形成した微小孔と厚さ方向に連通性を有する微小孔を有する多孔体を得ることができた。そして、この無孔のスキン層を多孔化する際に水系溶媒を用いて少なくとも1成分を除去すれば、有機溶媒を使用する必要がなくなり、環境に対する負担がさらに軽減されることを知見した。
【0013】
本発明の製造方法では、まず、最初の第1工程において、ハードセグメントとソフトセグメントを有する熱可塑性樹脂からなる中間層を少なくとも1層含み、中間層の両側に少なくとも熱可塑性樹脂と水系溶媒可溶性物質とを含む熱可塑性樹脂組成物からなる両側外層を積層させた少なくとも3層構造の積層体を作製している。
【0014】
中間層を構成する熱可塑性樹脂としては、ハードセグメントとソフトセグメントを有すれば公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。
ハードセグメントは層の強度を保つ役割をし、ソフトセグメントは亜臨界または超臨界流体を含浸させる役割を有する。ぞれぞれのセグメントが前記役割を確実に果たすためには、ハードセグメントの比率が5〜95質量%であり、ソフトセグメントの比率が95〜5質量%であることが好ましい。ハードセグメントの比率が5質量%未満であると、中間層が柔らかすぎて強度が保てず、また亜臨界または超臨界流体が中間層にとどまることができず脱気してしまい、中間層が多孔化できないおそれがある。一方、ソフトセグメントの比率が5質量%未満であると、亜臨界または超臨界流体の含浸量が少なくなり、十分な連通性を得ることが困難となる。
前記ソフトセグメントは、好ましくは90〜10質量%、特に、70〜20質量%が好ましい。
【0015】
中間層を構成する熱可塑性樹脂はフィラーを含んでもよいが、フィラーを含めない場合には単位面積あたりの質量が小さい多孔体を提供することができる。
【0016】
前記中間層を構成する熱可塑性樹脂のソフトセグメントとしては、例えば、ポリイソプレン、ポリブタジエン、水素添加ポリブタジエン、水素添加ポリイソプレン、アモルファスポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエーテル、エチレン−プロピレンゴム、イソブテン−イソプレンゴム、フッ素ゴムまたはシリコーンゴム等が挙げられる。ハードセグメントとしては、例えばポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレートまたはフッ素樹脂等が挙げられる。
【0017】
より具体的に、中間層を構成する熱可塑性樹脂としては、スチレン系熱可塑性樹脂、ポリエステル系熱可塑性樹脂、ポリアミド系熱可塑性樹脂またはオレフィン系熱可塑性樹脂が挙げられる。
前記スチレン系熱可塑性樹脂としては、ハードセグメントとして、スチレンもしくはメチルスチレンなどのスチレン誘導体、インデンまたはビニルナフタレン等、好ましくはポリスチレンを用い、ソフトセグメントとしてポリブタジエンもしくはポリイソプレンなどの共役ジエン系ポリマー、またはエチレン/ブチレン共重合体、エチレン/プロピレン共重合体もしくはポリイソブテンなどのポリオレフィン系エラストマーを用いたスチレン系熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0018】
前記ポリエステル系熱可塑性樹脂としては、ハードセグメントとして芳香族ポリエステル、脂環族ポリエステルあるいはそれらの誘導体あるいはそれらの混合物などを用い、ソフトセグメントとしては、ポリテトラメチレングリコールやポリ(エチレン/プロピレン)ブロックポリグリコールなどのポリアルキレングリコールなどを用いたポリエステル系熱可塑性樹脂が挙げられる。
前記ポリアミド系熱可塑性樹脂としては、ハードセグメントとして、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12等のポリアミドまたはこれらの共重合体を用い、ソフトセグメントとしてポリテトラメチレングリコールやポリ(エチレン/プロピレン)ブロックポリグリコールなどのポリアルキレングリコールなどを用いたポリアミド系熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0019】
オレフィン系熱可塑性樹脂を構成するハードセグメントとしては、
・エチレンの単独重合体樹脂、エチレンを主成分とし炭素数3以上のα−オレフィンを副成分とする共重合体樹脂;
・プロピレンの単独重合体樹脂、プロピレンを主成分としこれとエチレンもしくは炭素数4以上のα−オレフィンとの共重合体樹脂;
・1−ブテンの単独重合体樹脂、1−ブテンを主成分としこれとエチレン、プロピレンもしくは炭素数5以上のα−オレフィンとの共重合体樹脂;
・4−メチル−1−ペンテンの単独重合体樹脂、4−メチル−1−ペンテンを主成分とし、これとエチレン、プロピレン、1−ブテンもしくは炭素数6以上のα−オレフィンとの共重合体樹脂;
・上記樹脂の変性物
が挙げられる。これら2種類以上が混合されていても良い。
【0020】
オレフィン系熱可塑性樹脂を構成するソフトセグメントとしては、例えばジエン系ゴム、水素添加ジエン系ゴム、オレフィンエラストマー等が挙げられる。
ジエン系ゴムとしては、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、プロピレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム等が挙げられる。
水素添加ジエン系ゴムは、ジエン系ゴム分子の二重結合の少なくとも一部分に水素原子を付加させてなるものである。
オレフィンエラストマーは、2種類または3種類以上のオレフィンと共重合しうるポリエンを少なくとも1種加えた弾性共重合体であり、オレフィンとしてはエチレンもしくはプロピレン等のα−オレフィン等が使用され、ポリエンとしては1,4−ヘキサジエン、環状ジエン、ノルボルネン等が使用される。好ましいオレフィンエラストマーとしては、例えばエチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、エチレン−ブタジエン共重合体ゴム等が挙げられる。
【0021】
本発明において中間層を構成する熱可塑性樹脂としてはオレフィン系熱可塑性樹脂が好ましい。なかでも、ハードセグメントとしてポリエチレンまたはポリプロピレンを用い、ソフトセグメントとしてエチレン−プロピレンゴムまたはエチレン−プロピレン−ジエンゴム、水素添加ポリブタジエンまたは水素添加ポリイソプレンを用いたオレフィン系熱可塑性樹脂が好ましい。
【0022】
特に、ハードセグメントとしてプロピレン系樹脂を有し、ソフトセグメントとしてエチレン−プロピレンゴムを5〜95質量%の割合で有するオレフィン系熱可塑性樹脂が好ましい。
ハードセグメントとしてのプロピレン系樹脂にはホモポリマーとコポリマーがあり、更にコポリマーにはランダムコポリマーとブロックコポリマーがある。ホモポリマーはプロピレン単独重合体であり、アイソタクティックないしはシンジオタクティックおよび種々の程度の立体規則性を示すポリプロピレンである。一方、コポリマーとしては、プロピレンを主成分とし、これとエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテンもしくは1−デセン等のα−オレフィンとの共重合体が使用される。この共重合体は、2元系でも3元系でも4元系でもよく、またランダム共重合体でもブロック共重合体であってもよい。
プロピレン系樹脂には、プロピレン系単独重合体よりも融点が低い樹脂を混合することもできる。そのような融点が低い樹脂として、高密度あるいは低密度ポリエチレン等を例示することができ。その配合量は2〜50質量%であることが好ましい。
【0023】
ソフトセグメントとしてのエチレン−プロピレンゴムには、エチレンとプロピレンの二元共重合体と、さらに第3成分としての非共役ジエンモノマーを少量含む三元重合体とがあるが、本発明においてはいずれを用いてもよい。前記非共役ジエンモノマーとしては、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネンまたはヘキサジエンなどが挙げられる。 エチレン−プロピレンゴムとしては、ゴム全体に対するエチレン含有率が7〜80質量%であるエチレン−プロピレンゴムが好ましく、10〜60質量%であるエチレン−プロピレンゴムがより好ましい。
エチレン−プロピレンゴムの含有量またはエチレン−プロピレンゴム中のエチレン含有率を調整することにより中間層を構成する樹脂組成物全体に対するエチレン含有率を5〜95質量%とすることが好ましい。
【0024】
上記中間層を構成する熱可塑性樹脂の製造方法による種類分けとしては、ハードセグメントを構成するプロピレン系樹脂にソフトセグメントを構成するエチレン−プロピレンゴム等の軟質成分を二軸押出機のような混練機を用いてブレンドするコンパウンド型ポリマーと、エチレン等とプロピレンを直接重合させる重合型ポリマーが存在する。
ソフトセグメントを構成するエチレン−プロピレンゴム等の軟質成分の分散性の観点から、重合型ポリマーを用いる方が好ましい。
【0025】
更にソフトセグメントの含有率を上げる方法として、市販のプロピレンコポリマーにエチレンプロピレンゴム等の軟質成分をブレンドする方法もある。この場合は、二軸押出機等の混練機を使うと簡単にソフトセグメントの含有率を上げることができる。
同様にプロピレンホモポリマーにエチレンプロピレンゴムやポリエチレン等を二軸押出機等の混練機を使ってブレンドすることにより、好ましいソフトセグメントの含有率をもつオレフィン系熱可塑性樹脂を得ることができる。
【0026】
さらに、本発明の目的や中間層の特性を損なわない程度の範囲であれば、中間層を構成する熱可塑性樹脂に一般に樹脂組成物に配合される添加剤、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、スリップ剤または着色剤等を配合してもよい。
【0027】
上述した中間層を挟んで両側の最外面に位置させる両側外層は、孔のない無孔の樹脂組成物からなる層としている。ここで、本発明において「無孔」とは、中間層の表面にスキン層を生じさせないよう蓋の役割を果たすことが可能な程度に孔が開いていないことをいう。すなわち、亜臨界または超臨界流体を含浸させたのち急激な圧力の低下等を起こしたときに、中間層の表面で過飽和状態とならず、直ちに拡散・蒸発により中間層の表面から気体が放出されて発泡を生じない領域が形成されない程度に孔が開いていないことを指す。
【0028】
前記両側外層は、少なくとも熱可塑性樹脂と後工程において当該両側外層を多孔化するために取り除くことが可能な水系溶媒可溶性物質とを含む。この両側外層の多孔化の際に水系溶媒を用いて前記水系溶媒可溶性物質を抽出することから両側外層を構成する熱可塑性樹脂としては該溶媒と反応が少ないものを選定することが好ましい。
【0029】
前記水系溶媒可溶性物質としては、後工程において水系溶媒を用いて除去可能であり、取り除くことにより微小孔を形成でき、さらに両側外層を構成する熱可塑性樹脂と混合した際に当該樹脂の融点以上において均一溶液を形成することができ、溶融混練や成形時に蒸発しないような、例えば、側外層を構成する熱可塑性樹脂の溶融温度より高い沸点を有するものであれば公知の種々のものが使用できる。
【0030】
水系溶媒可溶性物質は、両側外層を構成する熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよいが、具体的には、多価アルコール、グリコール類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ポリエーテル、糖類、ポリアクリル酸またはその塩、ポリアクリルアミド、尿素、有機アルカリ金属塩、有機アルカリ土類金属塩、無機アルカリ金属塩、無機アルカリ土類金属塩などが挙げられる。
前記多価アルコールとしては、ペンタエリスリトール、L−エリスリトール、D−エリスリトール、meso−エリスリトール、ピナコール、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
前記グリコール類としては、ポリエチレングリコール、エステルグリコール、ネオペンチルグリコールなど等が挙げられる。なかでも、分子量が35,000以下、特に200〜25,000のポリエチレングリコールが好ましい。
【0031】
前記水溶性有機アルカリ金属塩としては、安息香酸ナトリウム(融点 430℃)、酢酸ナトリウムまたはセバシン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウムなどが挙げられる。融点が高く、多種の樹脂に対応でき、かつ水溶性が高いという理由から、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウムまたはセバシン酸ナトリウムが好ましい。
前記水溶性無機アルカリ金属塩としては、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸ナトリウム、三リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどが挙げられる。
なかでも、水系溶媒可溶性物質としては分子量が200〜10,000のポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0032】
前記水系溶媒可溶性物質は単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてよい。水系溶媒可溶性物質を2種以上を併用する場合は、これらの融点の違いを利用してその一部のみが溶融する組み合わせとすることも可能であり、このようにすると微小孔の孔径のコントロールを行うことができる。
【0033】
両側外層において使用する熱可塑性樹脂と水系溶媒可溶性物質の混合比率については、均一な溶融混練が可能な比率であり、シート状の積層体を形成しうるのに充分な比率であり、かつ生産性を損なわない程度であれば良い。
具体的には、熱可塑性樹脂と水系溶媒可溶性物質を含む樹脂組成物中に占める熱可塑性樹脂の質量分率が10〜97質量%であり、10〜70質量%であることが好ましく、20〜60質量%であることが更に好ましい。熱可塑性樹脂の質量分率が10質量%より小さいと、溶融成形時のメルトテンションが不足しやすく成形性が低下する傾向がある。また延伸時にかかる延伸応力が小さくなり均一延伸が不十分となる場合がある。一方、熱可塑性樹脂の質量分率が97質量%を越える場合は、連通性を持った孔を得ることが難しい。
【0034】
両側外層において熱可塑性樹脂と水系溶媒可溶性物質を溶融混練する方法は、特に限定されるものではなくドライブレンド、溶融混練など樹脂の混合に一般に使用する混練法が適用できる。
【0035】
例えば、熱可塑性樹脂を押出機、ニーダー等の樹脂混練装置に投入し、樹脂を加熱溶融させながら任意の比率で水系溶媒可溶性物質を導入し、更に樹脂と水系溶媒可溶性物質よりなる組成物を混練することにより、均一溶液を得る方法が好ましい。また、予め樹脂と水系溶媒可溶性物質を混練したものを投入しても良い。投入する樹脂の形態は、粉末状、顆粒状、ペレット状の何れでも良く、特に限定されるものではない。投入する水系溶媒可溶性物質の形態・性状も、特に限定されるものではない。
【0036】
両側外層を構成する熱可塑性樹脂は前記中間層を構成する熱可塑性樹脂と相溶性を有することがより好ましい。
これは、両側外層を構成する熱可塑性樹脂と中間層を構成する熱可塑性樹脂とが相溶性を示さないと、亜臨界または超臨界流体を含浸させ、その後、急激な圧力の低下等を発生させても、両側外層と中間層の界面では過飽和状態になりにくく、界面から気体が拡散・蒸発により放出されるため、外層と中間層に連通する孔を形成できなくなる可能性があるからである。
【0037】
前記両側外層を構成する熱可塑性樹脂としては具体的にはポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、アセタール樹脂、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
前記熱可塑性樹脂としてはポリオレフィン樹脂を用いることが好ましい。電池用セパレーターとして使用する場合は、電解液との安定性の観点から特にポリオレフィン樹脂を用いることが好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、通常の押出、射出、インフレーションおよびブロー成形に使用する公知のポリオレフィン樹脂を用いてよい。
【0038】
より具体的に、ポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−へキセン、1−オクテンもしくは1−デセン等のホモ重合体もしくは共重合体、またはエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンもしくは1−デセンと酢酸ビニル等の他のモノマーとの共重合体等を主成分とするものが挙げられる。
なかでも、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、ポリブテン、プロピレンエチレンブロック共重合体、プロピレンエチレンランダム共重合体、エチレンプロピレンゴム等が好ましい。
【0039】
前記熱可塑性樹脂のうち、ポリエチレン樹脂を用いることがさらに好ましい。すなわち、前記両外層の少なくとも片側の層がポリエチレン樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物からなることが好ましい。
ポリエチレン樹脂はポリエチレンホモポリマーまたはポリエチレンコポリマーのいずれであっても良いが、ポリエチレンホモポリマーであることが好ましい。前記ポリエチレンコポリマーとしてはα−オレフィンコモノマー含量が2モル%以下のポリエチレンコポリマーが好ましい。なお、前記α−オレフィンコモノマーの種類には特に制限はない。
【0040】
前記両側外層は、上述したポリエチレン樹脂を単独で用いることが好ましいが、一般的な熱可塑性樹脂をポリエチレン樹脂に混合しても良い。
ポリエチレンに混合できる熱可塑性樹脂として、具体的にはポリエチレン以外のポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、ポリスチレン、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、アセタール樹脂またはポリカーボネート等の熱可塑性樹脂が挙げられる。好ましくはポリプロピレン、ポリブテン、プロピレンエチレンブロック共重合体、プロピレンエチレンランダム共重合体等が挙げられる。ポリエチレンに混合できる熱可塑性樹脂は融点が140℃以上であることが好ましい。
このように、ポリエチレンに他の熱可塑性樹脂を混合する場合は、当該他の熱可塑性樹脂の配合量はポリエチレン100質量部に対して、1〜100質量部、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは1〜25質量部、更に好ましくは1〜10質量部としている。
【0041】
更にシャットダウン特性を付与したい場合、両側外層を構成する熱可塑性樹脂としては、低融点樹脂であり、かつ高強度の要求性能から、特に高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂を使用することが特に好ましい。
【0042】
本発明において両側外層を構成するポリエチレン樹脂は、密度が0.92g/cm以上であることが好ましい。密度を0.92g/cm以上としているのは、層の厚さを5〜40μm程度の薄肉としても容易に裂けない所要の強度および剛性を付与するためである。ポリエチレンの密度はより好ましくは0.93g/cm以上であり、上限は特に限定されないが0.97g/cm程度のものが好適である。
【0043】
さらに、両側外層を構成する熱可塑性樹脂は、その粘度平均分子量が5万以上1200万未満が好ましく、さらに好ましくは10万以上400万未満、最も好ましくは20万以上200万未満である。粘度平均分子量が5万より小さいと、溶融成形の際のメルトテンションが小さくなり成形性が低下しやすい上に、十分な絡み合いを付与し難く低強度となりやすい。粘度平均分子量が1200万を越えると、均一な溶融混練を得難い傾向があり、成形性、特に厚み安定性に劣る傾向がある。
【0044】
なお、両側外層を構成する樹脂組成物には、本発明の利点を損なわない範囲で必要に応じて、フェノール系やリン系やイオウ系等の酸化防止剤、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等の公知の添加剤を混合して使用できる。
これら添加剤の配合量は、両側外層を構成する熱可塑性樹脂100質量部に対し1〜30質量部程度であることが好ましい。
【0045】
中間層および両側外層を構成する熱可塑性樹脂組成物はフィラーを含有しても良いが、中間層はフィラーを含まない方が単位面積あたりの質量が小さい多孔体を提供することができる。
フィラーを含める場合には、無機フィラーおよび有機フィラーの何れのフィラーも使用でき、1種または2種以上を組み合わせて使用できる。
無機フィラーとしては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩;塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどの塩化物;酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカなどの酸化物;タルク、クレー、マイカなどのケイ酸塩等が挙げられる。これらの中でも、炭酸カルシウムまたは硫酸バリウムが好ましい。
無機フィラーは樹脂中の分散性向上のため、表面処理剤で無機フィラーの表面を被覆して疎水化してもよい。この表面処理剤としては、例えばステアリン酸またはラウリル酸等の高級脂肪酸またはそれらの金属塩を挙げることができる。
【0046】
有機フィラーとしては、延伸処理等の加熱を伴う処理の温度条件においてフィラーが溶融しないように、両側外層を構成する熱可塑性樹脂の融点よりも高い融点を有する樹脂粒子が好ましく、ゲル分が4〜10%程度の架橋した樹脂粒子がさらに好ましい。
【0047】
該有機フィラーとしては、超高分子量ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、メラミン、ベンゾグアナミンなどの熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂が挙げられる。これらの中でも、特に架橋させたポリスチレンなどが好ましい。
【0048】
前記フィラーの平均粒径としては0.01〜25μm程度、好ましくは0.05〜7μmであり、更に好ましくは0.1〜5μmである。平均粒径が0.01μm未満の場合には、フィラー同士の凝集により分散性が低下する。また、平均粒径が25μmを超えても、均一に混合しにくい。
【0049】
本発明の最初の第1工程において作製される積層体は、上述した中間層と当該中間層を挟んで両側の最外面に位置する2つの無孔の両側外層の少なくとも3層からなれば、特にその構造は限定されない。
例えば、中間層が組成の異なる複数層から構成されていてもよいし、両側外層の一方または両方が組成の異なる複数層から構成されていてもよい。また、中間層の間に両側外層と同じ組成を有する無孔層が挟まれている5層構造としていてもよい。
さらに、2つの両側外層のそれぞれの層の組成または構造は同一であってもよいし、異なっていても良い。例えば、2つの両側外層のそれぞれが異なる物質と接触する場合は、それぞれの特性に合わせた熱可塑性樹脂の選定が必要となる。例えば、一方の層が水と接触し他方の層が有機溶媒と接触する場合は、水と接触する外層を構成する熱可塑性樹脂を耐水性のあるポリスチレンとし、有機溶媒と接触する外層を構成する熱可塑性樹脂を耐有機溶媒性の高いポリプロピレンとすることができる。
【0050】
前記積層体の全層の厚みtに対する両側外層の厚みの合計toの割合tr(=to/t)が0.05〜0.95、好ましくは0.10〜0.90、さらに好ましくは0.15〜0.80となるように調整している。
trが0.05より小さければ、両側外層の実質的な厚みが極端に薄くなってしまい、結果的に両側外層表面の多孔構造が極端に不均一になりやすい。また、両側外層の厚みが極端に薄いと蓋の役割を果たさない。すなわち、超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させ、次いで超臨界状態または亜臨界状態から逸脱させたときに、中間層の表面から気体が薄い両側外層を通り抜けて拡散・蒸発により放出されるため、中間層に発泡を生じない領域、いわゆるスキン層が生じるおそれがあるので好ましくない。
一方、trが0.95より大きければ、中間層が極端に薄くなってしまい、厚さ方向における連通性が悪くなるおそれがある。
なお、本発明においていずれかの工程で延伸処理を行う場合には、全層の厚みtに対する両側外層の厚みの合計toの割合tr(=to/t)は延伸処理後における測定値から算出されるものである。
【0051】
前記両側外層と中間層の少なくとも3層からなる積層体の作製方法としては公知の技術を用いてよい。例えば以下の方法で作成することができる。
まず、各層を構成する成分をヘンシェルミキサー等の粉体混合機や、一軸あるいは二軸混練機もしくはニーダー等の混練機を用いて混合し、一旦造粒してもよい。
両側外層を構成する樹脂組成物または造粒物と、中間層を構成する樹脂組成物または造粒物とを用いて前記積層体を作製する。
積層体の作製方法としては、熱接着法、押出しラミネーション法、ドライラミネーション法、共押出法等が挙げられる。なかでも、Tダイ成形法またはインフレーション成形法による共押出法が特に好適に用いられる。これは、中間層および両側外層を別々に製膜してから熱ロールなどで融着させる方法は均一な接着強度で接着させにくく、皺などの欠陥も発生しやすいからである。特にフィルムなどの厚さが薄い場合はこの傾向が顕著であるため、通常は共押出法を用いる。
【0052】
前記工程で得られた積層体に、超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させ、次いで該超臨界状態または亜臨界状態から解放させて、前記流体を気化させることにより最表面に残存する無孔のスキン層以外の積層体には微小孔が形成される。
【0053】
亜臨界または超臨界流体として使用できる気体は、以下のものに限定されるものではないが、例えば二酸化炭素、窒素、亜酸化窒素、エチレン、エタン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロエタン、テトラフルオロメタン、トリフルオロメタン、1,1−ジフルオロエチレン、トリフルオロアミドオキシド、シス−ジフルオロジアジン、トランス−ジフルオロジアジン、塩化二フッ化窒素、3重水素化リン、四フッ化二窒素、オゾン、ホスフィン、ニトロシルフルオライド、三フッ化窒素、塩化重水素、塩化水素、キセノン、六フッ化硫黄、フルオロメタン、パーフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、テトラフルオロメタン、トリフルオロメタン、1,1−ジフルオロエテン、エチン、ジボラン、水、テトラフルオロヒドラジン、シラン、四フッ化ケイ素、四水素化ゲルマニウム、三フッ化ホウ素、フッ化カルボニル、クロロトリフルオロメタン、ブロモトリフルオロメタンおよびフッ化ビニル等が挙げられる。
なかでも好ましい気体としては、二酸化炭素、窒素、亜酸化窒素、エチレン、エタン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロエタン、テトラフルオロメタン、トリフルオロメタンおよび1,1−ジフルオロエチレンが挙げられる。このうち不活性ガスである二酸化炭素と窒素は非可燃性であり非毒性であり、かなりの安価であり、さらに、ほとんどのポリマーに対して非反応性であるという点で特に好ましい。
【0054】
前記「超臨界状態」とは気体と液体が共存できる限界の温度(臨界温度)および圧力(臨界圧力)を超えた状態をいう。「亜臨界状態」とは、圧力または温度が臨界圧力または臨界温度の近傍にある状態を意味する。好ましくは、臨界温度をTc、臨界圧力をPcとすると、温度が0.5Tc以上または/および圧力が0.5Pc以上である状態(但し、温度がTc以上および圧力がPc以上の場合を除く。)である。特に圧力または温度のいずれか一方が臨界圧力または臨界温度を越えていることがより好ましい。
【0055】
超臨界状態または亜臨界状態の流体は通常の気体や液体とは異なる性質を示す特殊な流体であり、非常に含浸性が高い。従って、前記第1工程で得られた積層体に超臨界状態または亜臨界状態の流体を接触させれば、前記積層体に前記流体が含浸される。
積層体に超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させる具体的な方法は公知の方法に従って良い。
例えば、積層体をオートクレーブ等の耐圧容器に入れ、上に例示したような流体にして積層体に含浸させる気体状または液体状の物質を封入する。ついで、耐圧容器内の温度または/および圧力を上げて超臨界状態または亜臨界状態をつくる。すなわち、耐圧容器内の温度を0.5Tc以上、好ましくは臨界温度以上に上げるか、または/および、耐圧容器内の圧力を0.5Pc以上、好ましくは臨界圧力以上に上げる。特に、耐圧容器内の温度を臨界温度以上に上げるとともに圧力を臨界圧力以上に上げることがより好ましい。
【0056】
具体的には、例えば二酸化炭素を使用した場合、二酸化炭素の臨界温度が304.3K.1℃、臨界圧力が7.38MPaであるから、温度は常温のまま圧力を7MPa以上とすることが好ましい。
窒素を使用した場合、窒素の臨界温度が126.2K、臨界圧力が3.40MPaであるから、温度は常温のまま圧力を3MPa以上とすることが好ましい。
亜酸化窒素を使用した場合、亜酸化窒素の臨界温度が309.6K、臨界圧力が7.24MPaであるから、温度は常温のまま圧力を7MPa以上とすることが好ましい。
エチレンを使用した場合、エチレンの臨界温度が282.4K、臨界圧力が5.04MPaであるから、温度を283.0K以上とし、圧力を5MPa以上とすることが好ましい。
エタンを使用した場合、エタンの臨界温度が305.2K、臨界圧力が4.88MPaであるから、温度は常温のまま圧力を4.5MPa以上とすることが好ましい。
【0057】
超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させる時間は、中間層を構成する樹脂の組成、目的とする透気度や空孔率などにより異なるので一概にはいえないが、1分以上であることが好ましい。1分未満であると前記流体を中間層に十分含浸させることができないからである。上限値は生産効率の観点から10時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは2時間以下である。
【0058】
ついで、超臨界状態または亜臨界状態から解放(逸脱)させて流体を気化させることにより、前記したように積層体に微小孔を形成している。
このとき温度または圧力は急激に常温または常圧まで戻しても良いし、徐々に下げていっても良い。また、常温以下の温度または常圧以下の圧力にまで一端下げてから、常温または常圧まで戻しても良い。
本発明においては、第2工程で厳密に中間層のみを多孔化することに限定しているわけでなく、中間層に接している層において中間層と接している面およびその近傍で多孔化が起っていても全く問題はない。
【0059】
前記微小孔を形成した後に、両側外層を構成する熱可塑性樹脂組成物から水系溶媒可溶性物質を水系溶媒により抽出することにより前記両側外層の最表面に残存する無孔のスキン層を含めて、両側外層全体に微小孔を形成する。このとき、除去後の多孔体中の水系溶媒可溶性物質残存量は1質量%未満にすることが好ましい。
【0060】
本工程において、水系溶媒可溶性物質を水系溶媒により抽出する方法としては水系溶媒可溶性物質の種類に応じて公知の方法の中から適宜選択すればよい。
例えば水系溶媒に第2工程で得られた多孔体を浸漬し、その後充分に乾燥させることにより、水系溶媒可溶性物を多孔体から実質的に除去することができる。水系溶媒可溶性物を抽出する方法はバッチ式、連続式のいずれでもよい。多孔体の収縮を抑えるために、浸漬、乾燥の一連の工程中にその端部を拘束することが好ましい。
【0061】
前記水系溶媒としては、両側外層を構成する熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂に対して貧溶媒であり、かつ水系溶媒可溶性物に対して良溶媒であり、沸点が両側外層を構成する熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の融点より低いことが望ましい。具体的に、前記水系溶媒としては、水、水と相溶しうる溶媒であるアルコール系、エステル系もしくはケトン系溶媒を含有させた水、界面活性剤を含有する水などが挙げられる。
本工程は、60〜100℃、好ましくは70〜90℃に加熱した水系溶媒を用いて行うことが好ましい。
【0062】
前述した特開平5−25305号公報(特許文献1)に記載されているような可塑剤を抽出する工程を有する多孔体の製造方法は、大量の有機溶媒を使用するため環境的な側面から好ましくない。この特許文献1において有機溶媒を大量に使用するのは、最も難しいとされる多孔体の中心部に存在する可塑剤の抽出を確実に成し遂げ、可塑剤残量を小さくする必要があるからである。
これに対して、本発明の場合、有機溶媒を使うのではなく水系溶媒を使うため環境的な負荷が大幅に軽減される。
【0063】
本発明の多孔体の製造方法においては、前記水系溶媒を用いて抽出する工程の前または後に延伸処理を行うことが特に好ましい。この延伸処理により前工程で形成された微小孔を連通させることができる。該延伸処理工程は前記抽出工程の前に行うことが好ましい。
【0064】
前記延伸処理は、一軸延伸または二軸延伸どちらでも構わないが、好ましくはその等方性の点から二軸延伸の方が好ましい。二軸延伸は同時二軸延伸でも、縦方向(長手方向)に延伸してから横方向に延伸する逐次二軸延伸でもよい。延伸手法としては、ロール延伸機やテンター延伸機等の一般的な装置を用いる手法で構わない。延伸倍率としては、面積倍率で少なくとも2倍、好ましくは4倍以上、さらに好ましくは4〜16倍である。
延伸温度は特に限定されるものではないが、両側外層を構成する熱可塑性樹脂の融点よりも低い温度、好ましくは融点より30℃以下で延伸することが好ましい。延伸温度が融点に近づきすぎると、両外層の部分で連通性の発現が困難となる。
【0065】
また、必要に応じて延伸後に融点近傍で熱固定を行ったり、弛緩を行ったりして、熱収縮や寸法安定性等の対策をとってもよい。
これらの処理は公知方法で行うことができる。例えば前記熱処理は、加熱ロールによる接触加熱、オーブン中での空気中加熱等、公知の任意の方法で行うことができる。また、前述の延伸装置を転用することも可能である。熱処理温度は、中間層および両側外層を構成する熱可塑性樹脂の融点未満の任意の温度で行うことができるが、好ましくは100℃以上で前記樹脂の融点未満、より好ましくは110℃以上130℃以下としている。
【0066】
第二の発明として、前記方法で製造された積層体からなる多孔体を提供している。
本発明の多孔体の物性は、両外層および中間層を構成する樹脂の種類、水系溶媒可溶性物の種類や量、亜臨界または超臨界流体を含浸する条件、延伸条件(延伸倍率、延伸温度等)等によって自由に調整することができる。
【0067】
前記本発明の多孔体は、連通性の指標である透気度を1〜10,000秒/100mlの範囲としていることが好ましい。これは透気度が10,000秒/100mlより大きければ、測定上透気度の数値は出るものの、連通性のかなり乏しい構造であることを意味しているので、実質的には連通性がないことに等しいとしてもよい。透気度は1〜5,000秒/100mlであることが好ましく、より好ましくは50〜4,000秒/100mlであることがより好ましく、100〜2,000秒/100mlであることが特に好ましい。なお、透気度はJIS P 8117に準拠して測定している。
【0068】
本発明の多孔体において、空孔率も多孔構造を限定する為には重要なファクターである。空孔率の測定方法は後述するが、本発明の多孔体の空孔率は5〜80%の範囲とすることが好ましい。これは空孔率が5%未満であれば実質的に連通性を得ることは困難である。また、空孔率が80%よりも大きければ、強度的な点からハンドリングが難しくなってしまうので好ましくない。空孔率は20〜70%であることがより好ましく、特に40〜60%であることが好ましい。
【0069】
前記透気度や空孔率は用途によって要求される範囲が異なるので、用途に合わせて透気度や空孔率を適宜調整している。
例えば、おむつや生理用品などの衛生用品に使用する場合、透気度は1〜2,000秒/100mlであることが好ましい。
また、電池用セパレーターとして用いる場合、透気度は1〜500秒/100mlであることが好ましい。
【0070】
透気度や空孔率は、例えば、中間層を構成する熱可塑性樹脂におけるソフトセグメントの含有量、超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させる時間、超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させる際の温度または圧力を調整することにより制御することができる。
中間層を構成する熱可塑性樹脂におけるソフトセグメントの含有量が多くなれば、超臨界状態または亜臨界状態の流体が含浸しやすくなるから、透過性や空孔率は大きくなる。また、超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させる時間を長くしても、透過性や空孔率を大きくすることができる。
【0071】
本発明の多孔体は、25μmあたりの厚みに換算したときの単位面積あたりの質量(秤量という)が10〜30g/mであることが好ましく、10〜25g/mであることがより好ましい。秤量を小さくすることにより、本発明の多孔体を搭載する装置の軽量化を図ることができる。前記一定範囲の秤量を示すためには、中間層および両側外層ともにフィラーを配合しないか、フィラーを配合する場合でも本発明の多孔体の全質量に対するフィラーの質量の割合、つまりフィラーの含有率を40質量%以下、より好ましくは30質量%以下に抑える。
【0072】
本発明の多孔体において、中間層がポリプロピレン樹脂組成物から構成されていると、従来のポリエチレン樹脂のみからなる多孔性フィルムより高い耐熱性を発揮することができる。つまり、高温に曝されてもその形状が保持できる。
耐熱性の指標として 本発明の多孔体は、その熱収縮率が25%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることが特に好ましい。熱収縮率が25%よりも大きいと、本発明の多孔体を電池用セパレーターとして用いた場合、多孔体の端部にて正極と負極が接触し、短絡してしまうことが懸念される。
【0073】
本発明の多孔体については、厚さまたは形状等は特に限定されない。例えば本発明の多孔体は、平均厚さが1μm以上250μm未満のフィルム状、厚さが250μm以上数mm未満のシート状、厚さが数mm以上の成形体のいずれであってもよく、用途に応じて適宜選択できる。
なかでも、本発明の多孔体はフィルム状を呈することが好ましい。即ち、多孔体の平均厚みは1〜250μmで、好ましくは10〜200μmであり、より好ましくは10〜150μmである。
なお、平均厚みは、1/1000mmのダイアルゲージにて面内を不特定に5箇所測定し、その平均を算出して得られる値である。
【0074】
前記特性を有する本発明の多孔体は、透気性が要求される種々の用途に応用することができる。電池用セパレーター;使い捨て紙オムツ、生理用品等の体液吸収用パットもしくはベッドシーツ等の衛生材料;手術衣もしくは温湿布用基材等の医療用材料;ジャンパー、スポーツウエアもしくは雨着等の衣料用材料;壁紙、屋根防水材、断熱材、吸音材等の建築用材料;乾燥剤;防湿剤;脱酸素剤;使い捨てカイロ;鮮度保持包装もしくは食品包装等の包装材料等の資材として極めて好適に使用できる。
なかでも、本発明の多孔体は各種電子機器等の電源として利用されるリチウムイオン二次電池等の非水電解液電池用セパレーターとして好適に用いられる。
【発明の効果】
【0075】
本発明の多孔体の製造方法は、亜臨界または超臨界流体を利用する際の課題であった表面のスキン層をなくして厚さ方向の連通性を確保できる。多孔化のために亜臨界または超臨界流体を用い、有機溶媒を使用したりしないので、環境に対する負荷を軽減できる。特に亜臨界または超臨界流体として二酸化炭素や窒素などの無毒な不活性ガスを用いれば環境に対する負荷をさらに軽減できる。
さらに、本発明の多孔体の製造方法は、製造条件の幅が広く、工程管理が行いやすいという利点がある。
【0076】
上記製造方法により得られる本発明の積層体からなる多孔体は全体に均等な連通孔を有し、かつ単位面積あたりの質量が小さいという特徴を有する。そのため、本発明の多孔体は特に電池用セパレーターとして好適に使用でき、その場合電池重量を大きく増加させることなく、電解液の保持が良好であり、安全性が高い非水電解質2次電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0077】
以下、本発明の実施形態について説明する。
まず、図1および図2は、それぞれ、後述する本発明の製造方法により製造されたフィルム状の多孔体の第1および第2実施形態を示す。該第1および第2実施形態の多孔体は、積層枚数を相違させた多孔体1(1−1、1−2)からなるが、いずれも後述する同一の製造方法で製造している。
【0078】
図1(A)(B)に示す第1実施形態の多孔体1(1−1)は3層構造とし、中間層2と、その両側外面に位置する一対の両側外層3、4を厚さ方向に積層一体化している。中間層2と両側外層3、4にはそれぞれ微小孔2a、3a、4aが多数存在し、これら微小孔2a、3a、4aは厚さ方向に連通されている。両側外層3、4は同一の樹脂組成物からなり、中間層2は両側外層3、4とは異なる樹脂組成物からなる。なお、両側外層3、4の樹脂組成物は相違させてもよい。
【0079】
図2に示す第2実施形態の多孔体1(1−2)は4層構造とし、2層の中間層2(2A、2B)と、これら2層の中間層2の両側外面に両側外層3、4を備え、第1実施形態と同様に、これら各層に微小孔2a〜4aを有し、これらは厚さ方向に連通されている。
【0080】
前記第1および第2の実施形態の多孔体1は、いずれの態様においても、中間層2はフィラーを含まないハードセグメントとソフトセグメントを有する熱可塑性樹脂からなり、両側外層3、4はフィラーを含まず少なくとも熱可塑性樹脂と水系溶媒可溶性物とを含む熱可塑性樹脂からなる。中間層2および両側外層3、4に存在する微小孔2a、3a、4aは超臨界または亜臨界流体の含浸によって形成され、かつ、両側外層3、4の最表面に存在する微小孔は超臨界または亜臨界流体の含浸および水系溶媒可溶性物の抽出除去によって形成される。
【0081】
以下に、3層構造の第1実施形態の多孔体1の製造方法について説明する。
なお、前記したように、第2実施形態の多孔体の製造方法は第1実施形態と同様な下記の工程からなる。
【0082】
前記多孔体1の製造方法は、ポリプロピレン樹脂組成物からなる中間層2と、中間層2の両側に少なくともポリエチレン樹脂と水系溶媒可溶性物質を含む熱可塑性樹脂組成物からなる両側外層3,4を積層させた3層構造の積層体を作製する第1工程と、
得られた積層体に超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させた後に、該超臨界状態または亜臨界状態から解放して前記流体を気化させることにより前記中間層2、両側外層3、4の最表面の無孔のスキン層3b、4bの除く部分に前記微小孔を形成する第2工程と、
第2工程で得られた積層体に対し延伸処理を行う第2’工程と
前記両側外層を構成する熱可塑性樹脂組成物から水系溶媒可溶性物質を水系溶媒により抽出することにより前記両側外層3,4の最表面に残存する無孔のスキン層3b、4bを含めて両側外層3、4の全体に微小孔を形成し、前記工程で形成された微小孔と連通させる第3工程からなる。
【0083】
中間層2を構成するポリプロピレン樹脂組成物としては、ポリプロピレンホモポリマーにエチレン−プロピレンゴムが配合されている樹脂組成物を用いている。
エチレン−プロピレンゴムの含有量は5〜95質量%であることが好ましく、15〜75質量%であることがより好ましく、30〜60質量%であることがさらに好ましい。
エチレン−プロピレンゴムとしては、ゴム全体に対するエチレン含有率が30〜55質量%であるエチレン−プロピレンゴムが特に好ましい。
エチレン−プロピレンゴムの含有量およびエチレン−プロピレンゴム中のエチレン含有率を調整することにより、中間層を構成するポリプロピレン樹脂組成物全体に対するエチレン含有率が5〜70質量%となることが好ましく、5〜50質量%となることがより好ましく、10〜30質量%となることが特に好ましい。
このように中間層2にポリプロピレン樹脂を用いることにより、従来のポリエチレン樹脂のみからなる多孔性フィルムより高い耐熱性を発揮することができるという利点がある。つまり、高温に曝されてもその形状が保持できる。
【0084】
前記両側外層3、4を構成するポリエチレン樹脂としては、密度が0.94g/cm以上、好ましくは0.95〜0.97g/cmの高密度ポリエチレンが好適であり、かつ、そのメルトフローレートが1g/10分以下であることが好ましい。
前記ポリエチレン樹脂に配合されている水系溶媒可溶性物質としては、グリコール類を用いることが好ましく、ポリエチレングリコールを用いることがより好ましい。ポリエチレングリコールはその分子量が200〜6,000であることが特に好ましい。
【0085】
前記水系溶媒可溶性物質の含有量は水系溶媒可溶性物質の種類に応じて適宜選択することができるが、水系溶媒可溶性物質がグリコール類の場合は前記両側外層3、4を構成する熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して30〜90質量部であることが好ましく、50〜80質量部であることがより好ましい。
【0086】
前記中間層2と、中間層2を挟むように配置する両側外層3、4の3層からなる積層体を作製する方法として、下記方法を用いている。
まず、両側外層3、4に関しては、熱可塑性樹脂および水系溶媒可溶性物質をヘンシェルミキサー等の粉体混合機で混合し、一軸あるいは二軸混練機、ニーダー等で加熱混練し、ペレットを予め形成しておく。なお、水系溶媒可溶性物質の分散状態を考えると、二軸混練機を使用することが更に好ましい。
前記ペレットの水分率は1000ppm以下、好ましくは700ppm以下に制御している。これは、ペレットの水分が1000ppmより大きいとゲル、ピンボールが極度に発生して好ましくないためである。
【0087】
前述のように調製した両側外層用のペレットと中間層用のポリプロピレン樹脂組成物とを共押出で3層状に積層したフィルムを押出成形する。より具体的には、多層成形用のインフレーションダイまたはTダイを用いて、150〜250℃、好ましくは190〜220℃の温度条件下で積層する。
こうして得られる積層体においては、全層の厚みtに対する両側外層の厚みの合計toの割合tr(=to/t)が0.4〜0.80、好ましくは0.5〜0.7となるように調整している。
【0088】
前記第1工程で得られた積層体を耐圧容器に入れ、該耐圧容器に二酸化炭素ガスまたは窒素ガスを封入する。耐圧容器内の圧力を上げ、二酸化炭素ガスまたは窒素ガスを超臨界状態または亜臨界状態とする。
より具体的には、二酸化炭素を使用する場合は圧力を7Mpa以上、好ましくは15Mpa以上に上げている。窒素を使用する場合は圧力を3Mpa以上、好ましくは10Mpa以上に上げている。耐圧容器内の温度は常温でよいが、加熱することもできる。
【0089】
耐圧容器内の圧力および温度を保つことにより、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素または窒素が積層体に含浸される。含浸時間は10分〜2時間、好ましくは30分〜1.5時間である。
その後、耐圧容器内の圧力または温度を常圧または常温に戻すことにより、含浸された二酸化炭素または窒素を気化させる。耐圧容器内の圧力または温度は漸減させてもよいし、一気に常圧または常温に戻してもよい。
【0090】
第2工程で得られた積層体を第2’工程で延伸処理する。この延伸処理工程は必須工程ではないが、延伸処理することにより亜臨界または超臨界流体により生じた微小孔を広げることができ、厚さ方向の連通性を確実なものとすることができる。
第2’工程の延伸方法は、縦方向(長手方向)に延伸してから横方向に延伸する逐次二軸延伸が好ましい。延伸倍率としては、面積倍率で4〜16倍、好ましくは4〜12倍とする。延伸温度は30〜80℃であることが好ましい。
【0091】
さらに、第2’工程の後、必要に応じて得られた多孔体に対し熱寸法安定性を付与するため熱処理を行ってもよい。熱処理は、加熱ロールによる接触加熱、オーブン中での空気中加熱等、公知の任意の方法で行うことができる。熱処理温度は、中間層2および両側外層3、4を構成する熱可塑性樹脂の融点未満の任意の温度で行うことができるが、好ましくは100℃以上前記樹脂の融点未満、より好ましくは110℃以上130℃以下としている。
【0092】
ついで、第3工程において前記両側外層を構成する熱可塑性樹脂組成物から水系溶媒可溶性物質を水系溶媒により抽出する。より具体的には、水系溶媒に第2’工程で得られた多孔体を浸漬し、その後充分に乾燥させることにより、水系溶媒可溶性物質を多孔体から実質的に除去することができる。このとき、水系溶媒を70〜90℃に加熱し手おくことが好ましい。本工程で使用する水系溶媒としては、環境に対する付加が最も少ない水を用いることが好ましい。
このように水系溶媒可溶性物質を水系溶媒により抽出することにより前記両側外層3,4に微小孔が形成され、該微小孔が前記中間層の微小孔と連通され、厚さ方向に連通性を有する微小孔が多数存在する多孔体が得られる。
【0093】
前記のように製造された多孔体1は、連通性の指標である透気度が100〜5,000秒/100mlとしており、好ましくは100〜2,000秒/100mlとしている。空孔率は30〜70%とし、好ましくは35〜60%としている。
前記多孔体1は、中間層2および両側外層3,4にはともにフィラーを含有しないことから、25μmあたりの厚みに換算したときの単位面積あたりの質量(秤量という)を10〜30g/m、好ましくは10〜20g/m、より好ましくは10〜15g/m、として、多孔体1を軽量化している。
【0094】
前記多孔体1はフィルム状を呈し、平均厚みを1〜250μm、好ましくは10〜200μm、より好ましくは10〜100μmとし、該多孔体の用途に応じて調製している。
【0095】
前記した多孔体1は透気性が要求される種々の用途に用いることができるが、なかでも電池用セパレーターとして使用することが好ましい。
本発明の多孔体1を電池用セパレーターとして使用する場合は、透気度を50〜500秒/100mlとしている。これは、透気度を50秒/100ml未満にすると、電解液保持性が低下して二次電池の容量が低くなったり、サイクル性が低下したりするおそれがある。一方、透気度が500秒/100mlを超えると、イオン伝導性が低くなり十分な電池特性を得ることができないことによる。好ましくは100〜300秒/100mlである。
また、空孔率は30〜70%としている。これは、空孔率が30%未満ではイオン透過性が低く十分な電池性能を得ることが困難である一方、空孔率が70%を越えると電池の安全性の観点から好ましくないことによる。より好ましくは35〜65%である。
【0096】
電池用セパレーターとしてはシャットダウン特性の必要性からポリエチレン樹脂を主成分とした多孔性フィルムが用いられるが、中間層にポリプロピレン樹脂組成物を用いることによりシャットダウン以降の寸法安定性を向上させ、電池として不安定な状態に陥りにくくすることができる。
【0097】
次に、本発明の前記多孔体1を電池用セパレーター10として収容している非水電解液電池について、図3に参照して説明する。
正極板21、負極板22の両極をセパレーター10を介して互いに重なるようにして渦巻き状に捲回し、巻き止めテープで外側を止めて捲回体としている。この渦巻き状に巻回する際、セパレーター10は厚さが5〜40μmであることが好ましく、5〜30μmであることがより好ましい。厚みが5μm未満であるとセパレーターが破れやすくなり、40μmを越えると電池用セパレーターとして所定の電池缶に捲回して収納する際、電池面積が小さくなり、ひいては電池容量が小さくなるからである。
【0098】
前記正極板21、セパレーター10および負極板22を一体的に巻き付けた捲回体を有底円筒状の電池ケース内に収容し、正極および負極のリード体24、25と溶接する。ついで、上記電解質を電池缶内に注入し、セパレーター10などに十分に電解質が浸透した後、電池缶の開口周縁にガスケット26を介して正極蓋27を封口し、予備充電、エージングを行い、筒型の非水電解液電池を作製している。
【0099】
電解液としては、リチウム塩を電解液とし、これを有機溶媒に溶解した電解液が用いられる。有機溶媒としては特に限定されるものではないが、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ジメチルカーボネート、プロピオン酸メチルもしくは酢酸ブチルなどのエステル類、アセトニトリル等のニトリル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジメトキシメタン、ジメトキシプロパン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランもしくは4−メチル−1,3−ジオキソランなどのエーテル類、またはスルホランなどが挙げられ、これらを単独でまたは二種類以上を混合して用いることができる。
なかでも、エチレンカーボネート1質量部に対してメチルエチルカーボネートを2質量部混合した溶媒中に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1.4mol/Lの割合で溶解した電解質が好ましい。
【0100】
負極としてはアルカリ金属またはアルカリ金属を含む化合物をステンレス鋼製網などの集電材料と一体化させたものが用いられる。前記アルカリ金属としては、例えばリチウム、ナトリウムまたはカリウムなどが挙げられる。前記アルカリ金属を含む化合物としては、例えばアルカリ金属とアルミニウム、鉛、インジウム、カリウム、カドミウム、スズもしくはマグネシウムなどとの合金、さらにはアルカリ金属と炭素材料との化合物、低電位のアルカリ金属と金属酸化物もしくは硫化物との化合物などが挙げられる。
負極に炭素材料を用いる場合、炭素材料としてはリチウムイオンをドープ、脱ドープできるものであればよく、例えば黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭などを用いることができる。
【0101】
本実施形態では、負極として、フッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液に平均粒径10μmの炭素材料を混合してスラリーとし、この負極合剤スラリーを70メッシュの網を通過させて大きな粒子を取り除いた後、厚さ18μmの帯状の銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗布して乾燥させ、その後、ロールプレス機により圧縮成形した後、切断し、帯状の負極板としたものを用いている。
【0102】
正極としては、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、二酸化マンガン、五酸化バナジウムもしくはクロム酸化物などの金属酸化物、二硫化モリブデンなどの金属硫化物などが活物質として用いられ、これらの正極活物質に導電助剤やポリテトラフルオロエチレンなどの結着剤などを適宜添加した合剤を、ステンレス鋼製網などの集電材料を芯材として成形体に仕上げたものが用いられる。
【0103】
本実施形態では、正極としては、下記のようにして作製される帯状の正極板を用いている。即ち、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)に導電助剤としてリン状黒鉛を質量比90:5で加えて混合し、この混合物と、ポリフッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液とを混合してスラリーにした。この正極合剤スラリーを70メッシュの網を通過させて大きな粒子を取り除いた後、厚さ20μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に均一に塗布して乾燥し、その後、ロールプレス機により圧縮成形した後、切断し、帯状の正極板としている。
【0104】
以下、本発明を多孔体の実施例を説明する。
【0105】
(実施例1)
両側外層を構成する樹脂組成物の準備として、高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製「ノバテックHY430P」、密度:0.955g/cm、メルトフローレート:0.8g/10分)40質量部とポリエチレングリコール(昭和化学(株)製「PEG600」)60質量部を混合し、二軸押出機でペレット化した。次に、該熱可塑性樹脂組成物を両外層とし、中間層を構成する熱可塑性樹脂組成物としてポリプロピレンホモポリマーにエチレン−プロピレンゴムを含有されている重合型のポリプロピレン樹脂組成物(三菱化学株式会社製「Zelas5013」、密度0.88g/cm、メルトフローレート0.8g/10分)を使用し、層比が外層/中間層/外層=40/20/40となるように調整しながら、多層成型用のTダイを用いて200℃の温度下で成形し、2種3層の積層体を得た。
得られた積層体を圧力容器に仕込み、常温下で圧力容器内に不活性ガスである二酸化炭素を封入した。ついで圧力を18MPaまで上げて二酸化炭素を亜臨界状態または超臨界状態とし、この状態を1時間保持して積層体に亜臨界状態または超臨界状態の二酸化炭素を含浸させた。その後、圧力容器のバルブを全開放して容器内の圧力を解放した。
二酸化炭素を含浸させた積層体をストレッチャーにて延伸温度30℃で、縦方向(長手方向)に3倍、横方向に3倍の延伸倍率で逐次延伸を行い、その後123℃で熱固定を行った。
その後、80℃の水を用いてポリエチレングリコールを抽出し、膜厚方向に連通性をもつ実施例1の多孔体を得た。
【0106】
(実施例2〜3)
層比、延伸条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして本発明の多孔体を得た。
【0107】
【表1】

【0108】
(比較例1)
比較例1は前記特許文献1の特開平5−25305号公報の実施例1に記載の方法で多孔膜を作製した。
即ち、重量平均分子量が2.0×106の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)20質量%と、重量平均分子量が3.9×105の高密度ポリエチレン(HDPE)66.7質量%と、メルトインデックス(190℃、2.16kg荷重)2.0g/10分の低密度ポリエチレン(LDPE)13.3質量%とを混合した原料樹脂15質量部と、流動パラフィン(64cst/40℃)85質量部とを混合し、ポリエチレン組成物の溶液を調製した。 次に、このポリエチレン組成物の溶液100質量部に、2,5−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(「BHT」、住友化学工業(株)製)0.125質量部と、テトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシルフェニル)−プロピオネート〕メタン(「イルガノックス1010」、チバガイギー製)0.25質量部とを酸化防止剤として加えた。この混合液を撹拌機付のオートクレーブに充填し、200℃で90分間撹拌して均一な溶液を得た。
この溶液を直径45mmの押出機により、Tダイから押出し、冷却ロールで引取りながらゲル状シートを成形した。
得られたシートを二軸延伸機にセットして、温度115℃、延伸速度0.5m/分で5
×5倍に同時二軸延伸を行った。得られた延伸膜を塩化メチレンで洗浄して残留する流動パラフィンを抽出除去した後、100℃で30秒熱セットすることによってポリエチレン微多孔膜を得た。
【0109】
(比較例2)
比較例2は前記特許文献3の特開2004−95550号公報の実施例1に記載の方法で多孔性フィルムを作製した。
高密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー製「HI−ZEX7000FP」、密度;0.956g/cm、メルトフローレート;0.04g/10分)100質量部、軟質ポリプロピレン(出光石油化学社製「PER R110E」)15.6質量部、硬化ひまし油(豊国製油株式会社製「HY−CASTOR OIL」、分子量938)9.4質量部、硫酸バリウム(堺化学社製「B−55」)187.5質量部をブレンドしてコンパウンドを行った。 次に、得られたコンパウンドを用いて温度210℃でインフレーション成形を行い、原反シートを得た。
次に得られた原反シートを70℃でシートの長手方向(MD)に1.23倍、次いでll5℃で横方向(TD)に2.86倍の逐次延伸を行い、多孔性フィルムを得た。
【0110】
実施例1〜5および比較例1,2で得られた多孔体について下記物性を測定した。
(測定1;厚み)
1/1000mmのダイアルゲージにて、面内を不特定に5箇所測定しその平均を厚みとした。
(測定2;透気度(ガーレ値))
JIS P 8117に準拠して透気度(秒/100ml)を測定した。
(測定3;空孔率)
空孔率は多孔体中の空間部分の割合を示す数値である。空孔率の算出方法は、多孔体の実質量W1を測定し、樹脂組成物の密度と厚みから空孔率0%の場合の質量W0を計算し、多孔体の実質量との差から下記式に基づき空孔率を算出する。
空孔率Pv(%)={(W0−W1)/W0}×100
(測定4;坪量)
坪量は単位面積あたりの質量を表す数値である。その測定方法は、多孔体を10cm角に切り出し、その質量を測定する。厚みによる依存性が大きいので、今回は25μmあたりの厚みに換算し、この操作を3回繰り返し、その平均を坪量とした。
【0111】
上記測定の結果を下記表に示す。
【表2】

【0112】
実施例1〜3から、亜臨界または超臨界流体を用いて、比較例1に代表される従来の多孔質フィルムと遜色のない物性を有する多孔質フィルムを製造でき、そのうえ本発明の製造方法は比較例1に記載の発明のように製造工程において塩化メチレン等の有機溶媒を必要とせず水を用いて水系溶媒可溶性物質を除去するため、環境に対する負荷を大幅に軽減できることがわかった。
比較例2の多孔性フィルムでは全層に充填剤が存在しているため坪量が33g/mと重たくなってしまうが、実施例1〜3の多孔性フィルムでは坪量が11〜13g/mと小さく、軽量化が可能であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の多孔体は、電池用セパレーターの他、おむつ等の衛生用品、包装材料、農業・畜産用品、建築用品、医療用品、分離膜、光拡散板、反射シート等として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】(A)(B)は第一実施形態の多孔体の概略断面図である。
【図2】第二実施形態の多孔体の概略断面図である。
【図3】本発明の多孔体を非水電解質電池セパレーターとして収容している非水電解液電池の一部破断斜視図である。
【符号の説明】
【0115】
1 多孔体
2 中間層
3、4 両側外層
2a、3a、4a 微小孔
3b、4b スキン層
10 セパレーター
20 非水電解質電池
21 正極板
22 負極板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に連通性を有する微小孔が多数存在する多孔体の製造方法であって、
ハードセグメントとソフトセグメントを有する熱可塑性樹脂組成物からなる中間層を少なくとも1層含み、中間層の両側に少なくとも熱可塑性樹脂と水系溶媒可溶性物質とを含む熱可塑性樹脂組成物からなる両側外層を積層させた少なくとも3層構造の積層体を作製する工程と、
得られた積層体に超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させた後に、該超臨界状態または亜臨界状態から解放して前記流体を気化させることにより前記両側外層の最表面に無孔のスキン層を残存させて前記積層体に微小孔を形成する工程と、
前記微小孔を形成した後に、前記両側外層を構成する熱可塑性樹脂組成物から水系溶媒可溶性物質を水系溶媒により抽出することにより前記スキン層に微小孔を形成して前工程で形成した微小孔と連通させる工程を、
備えることを特徴とする多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記水系溶媒可溶性物質を溶媒により抽出する工程の前または後に、少なくとも一軸方向に延伸させて前工程で形成された微小孔を連通させる延伸工程を含む請求項1に記載の多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記超臨界状態または亜臨界状態で含浸させる流体が、二酸化炭素または窒素である請求項1または請求項2に記載の多孔体の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の方法により製造された多孔体。
【請求項5】
前記両外層の少なくとも片側の層が、ポリエチレン樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物からなる請求項4に記載の多孔体。
【請求項6】
前記中間層を構成する熱可塑性樹脂組成物が、少なくともポリプロピレンを含む請求項4または請求項5に記載の多孔体。
【請求項7】
透気度が1〜10,000秒/100mlである請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載の多孔体。
【請求項8】
請求項4乃至請求項7のいずれか1項に記載の多孔体からなる電池用セパレーター。
【請求項9】
請求項8記載の電池用セパレーターを備えた電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−160693(P2007−160693A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359583(P2005−359583)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】