説明

多孔質インプラント粒または細粒

【課題】抗炎症効果および/または抗菌効果が高くなるよう改変された粒または細粒を提供する。
【解決手段】本発明は、抗炎症または抗菌効果またはその両方を有する、人体または動物の体に注入することを想定したインプラントであって、少なくとも1つの多孔質細粒または粒を含み、少なくとも1つの多孔質細粒または粒が、チタン、1種または複数種の酸化チタンまたはチタン合金を含み、表面に酸化チタン層を有し、一方の側から幾何学的中心を通って反対側までの平均長が最大5mmであり、平均比表面積がBET法で少なくとも0.15m/gである、インプラントに関する。さらに、人体または動物の体に存在する炎症または/および感染を含む症状を本発明によるインプラントで治療するための方法も開示される。本発明によるインプラントを製造するための方法も記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、抗炎症効果または抗菌効果あるいはその両方を有する、少なくとも1つの粒または細粒の形でのインプラントであって、人体または動物の体に注入することを想定したインプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
手術を受けたり体に創傷があったりすると、炎症および/または感染が生じやすいことは周知であり、注入に関連する場合、特に股関節や歯などの骨組織での適用に関連する場合も同じである。
【0003】
チタンが空気または水に触れると、自然に酸化膜が形成される。この自然に形成される酸化膜は厚さ4〜10nmであり、主にTiO、Ti(IV)からなり、酸化物中に存在する少量のTi(III)およびTi(II)も含む(参考文献1、3、4を参照のこと(se))。
【0004】
チタンの抗炎症効果および抗菌効果を担うのがその表面でのTiOの化学的な特性であり、これらの効果は何とおりかの形で発揮され、いずれも露出した表面積と関連している。従来すでに示されている(参考文献2)ように、TiOにはROS(活性酸素種)を直接捕捉する機能がある。考えられるひとつの機序として、二酸化チタン表面での過酸化水素、スーパーオキシドおよびペルオキシ亜硝酸塩の分解で示唆される一連の触媒的酸化還元反応によるものがある(参考文献2および5)。
2TiO+2O+2H→Ti+2O+HO(1a)
2TiO+H→Ti+O+HO(1b)
Ti+OONO→2TiO+NO(2a)
Ti+H→2TiO+HO(2b)
【0005】
チタンの抗菌効果に関して特に興味深いのは、TiOがHと直接反応し、酸化物表面にTiペルオキシゲル(peroxy gel)すなわちTiOOH(HO)を形成できる可能性があることである。また、Tiペルオキシゲル中にスーパーオキシドラジカルが存在することがESR(電子スピン共鳴)測定によっても明らかになっており、ゲル中でのスーパーオキシドのトラッピングか、Tiペルオキシゲル中でのスーパーオキシドとTi(IV)との直接的な反応も示される(参考文献5〜7)。Tiペルオキシゲルと類似の複合体がTiOとペルオキシ亜硝酸塩との間で形成されることもある。最近になって、ペルオキシ亜硝酸すなわち、ペルオキシ亜硝酸塩のプロトン化形態(pK=6.8)が、酸性条件下でTiペルオキシゲルに似たTi(IV)との複合体を形成することが明らかになっている(参考文献8)。さらに、チタンインプラント周囲の組織中に時折見られる青みから、Ti(IV)がROSと反応して安定したTi(III)錯体を形成していると思われる(参考文献9を参照のこと)。また、in vivoではインプラント表面の酸化チタン層の厚さが時間の経過とともに増す(参考文献10)ことから、Ti金属が酸素種のシンクとして作用するのではないかと思われる点も示されている。これらの反応はいずれも、TiO表面で生じるROSの直接分解と、これに関連した抗炎症効果に関与している可能性がある。
【0006】
(酸化チタンの表面層を有するチタン金属である)チタンが炎症を抑え(Overgaard, Danielsen et al. 1998)、他の材料よりも感染しにくい(Johansson, Lindgren et al. 1999)ことが報告されている。また、活性酸素種(ROS)との化学的な相互作用による、チタンの持つ独特の特性について説明した報告もある。チタンの触媒特性については、酸化チタンのみで構成された表面に表面の酸化チタンが存在することと関連していることが示されている(Sahlin 2006 et al)。このような触媒特性は、たとえば、Bjurstenらに付与された米国特許出願第2005074602号ならびに、抗炎症特性(Larsson, Persson et al. 2004)および殺菌特性(Tengvall, Hornsten et al. 1990)を有する過酸化チタン化合物の生成(Tengvall, Elwing et al. 1989;Tengvall, Lundstrom et al. 1989)に記載されている。よって、チタンが持つ上記の有益な特性は、生体組織環境での(with)その化学的な相互作用と関連しているように見える。
【0007】
チタンを使用できるインプラントの参考として、米国特許第5,015,256号(Bruceら)には、大腿義足のステムなどの細長いプロテーゼを、このプロテーゼ全体が収まる空洞を画定する生体組織に、空洞との境界に隙間をあけて固定するための手段および方法が開示されている。基本的には、この隙間全体に生体適合性材料からなるバラバラの粒子を互いに係合するようにして詰め込む。粒材料の一例としてチタンがあげられており、その粒は不規則で本質的に非弾性であり、好ましくは多孔質であると述べられている。後者の特性は、骨壁から成長している骨組織の成長を助長すると言われている。この粒の係合については、前記空洞に収容されて最後にはステムに押し付けられる粒の層に、ステムを振動させながら入れることによって実現されている。
【0008】
国際公開第00/64504号パンフレット(Bruceら)には、生体適合性のプラスチックまたは本質的に非弾性かつ多孔質の物体(多孔率が連続している)と、骨組織の場合であれば幅が約50μmよりも広い、空洞の開口および開口同士を結ぶ通路とが開示されている。「連続」という用語は、骨組織が多孔体全体に成長できる多孔率を意味すると言われる。多孔体は、チタン製のものであってもよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
米国特許第5,015,256号および国際公開第00/64504号パンフレットに記載の発明のひとつの欠点に、これらの発明による粒が、抗炎症効果および/または抗菌効果に合わせて最適化されていないことがある。実際、米国特許第5,015,256号および国際公開第00/64504号パンフレットには、考え得る抗炎症効果および/または抗菌効果については何ら開示されていない。
【0010】
本発明は、抗炎症効果および/または抗菌効果が高くなるよう改変された粒または細粒を提供することで、この問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の概要
よって、本発明の一目的は、比表面積が極めて大きいため最新技術によるチタンの粒および粒体に関連した抗菌効果や抗炎症効果が高められた粒または細粒などのインプラントを提供することにある。
【0012】
この目的は、抗炎症効果または抗菌効果あるいはその両方を有する、人体または動物の体に注入することを想定したインプラントによって達成され、このインプラントは少なくとも1つの多孔質粒または細粒を含み、少なくとも1つの多孔質粒または細粒が、
−チタン、1種または複数種の酸化チタンまたはチタン合金を含み、表面に酸化チタン層を有し、
−一方の側から幾何学的中心を通って反対側までの平均長が最大5mmであり、
−平均比表面積がBET法で少なくとも0.15m/gである。
【0013】
以下、BET法についてさらに詳細に説明するが、もっと単純に比表面積を計算するための別の方法(この方法は実験でも用いられていた)を先に説明する。
【0014】
平均細孔容積、平均細孔径および比表面積の評価に用いられる方法
水銀圧入ポロシメトリー
水銀(Hg)などの非ぬれ性の液体は、試料の細孔を自然に埋めることがない。これは、試料/非ぬれ性の液体界面の自由エネルギーが、試料/気体界面の自由エネルギーよりも大きいためである。しかしながら、圧力を印加すれば非ぬれ性の液体を試料の細孔に入れることができ、非ぬれ性の液体を細孔に入れるのに必要な差圧は以下のとおりである。
P=−4γcosθ/D
式中、
P=差圧
γ=非ぬれ性の液体の表面張力
θ=非ぬれ性の液体の試料に対する接触角
D=細孔径
充填済みのペネトロメーターの圧力が増すにつれて、直径が最大の細孔から開始して水銀が試料の細孔に侵入する。これには、水銀が細管部のステムからカップに移動して、この時点で短くなっている(ステム内の)水銀柱とステムの外面にある金属クラッドとのあいだの容積が小さくなることが必要である。
【0015】
ペネトロメーターは、固体標本用と粉末標本用のどちらも入手可能である。カップとステムの容積についても広範囲にわたる選択肢がある。このように、分析によって得られる出力を最適化することが可能である。
【0016】
本発明によれば、本発明による異なる粒で細孔容積と細孔の大きさの分布を測定した(実施例1および表1および2を参照のこと)。水銀ポロシメーター(Micromeritics AutoPore III 9410)を用いて150μm≧細孔径≧0.003μm(30Å)の範囲で実施される場合の測定。水銀の表面張力を485mN/mに設定し、接触角θを130°に設定した。この方法を、上記発明の開示ならびに以下の説明ではHg法と呼ぶ。
【0017】
気体吸着による表面積
気体吸着による表面積は、材料の露出面の尺度のひとつであり、単位は平方メートル/グラムである。この最も一般的な表面積評価モデルは、BET(Brunauer, Emmet and Teller)表面積または単にBET数と呼ばれる。信頼性が高く再現性のある表面積の結果を得るための鍵は、試料を適切に調製することにある。熱、真空および/または流動する気体を何らかの形で組み合わせて、試料を調製または脱気する。このようにすることで、表面や細孔に吸着されてしまっていた汚染物質が除去される。これらの成分を効果的に除去できないと、データに誤りが生じる可能性がある。次に、試料を低温まで冷却し、吸着性の気体(一般にN)を制御しながら段階的に試料管に入れる。投与するごとに、圧力を平衡状態にして吸着された気体の量を計算する。それぞれの圧力で吸着される気体の容積が吸着等温線となる。固体表面に単分子層を形成するのに必要な気体の量を等温線から求める。外表面積またはBET表面積については、吸着された各気体分子で覆われる既知の面積と既知の単分子層容量から求めることができる。
【0018】
第1に、試料表面の独立した部位が気体分子を吸着しはじめる。第2に、気体の圧力が高まるにつれ、気体分子の被覆率が増して単分子層が形成される。BET式を使用して、この第2段階での表面積を求める。第3に、気体の圧力を高めると、多分子層で被覆される。小さな細孔ほど先に充填される。さらに圧力を高めると、試料が完全に被覆され、すべての細孔が充填される。表面計算用のBJH(Barrett, Joyner, Halenda)法を用いて、細孔径、細孔容積および細孔分布を計算することが可能である。
【0019】
多点設備では、第2段階ならびに最終段階の両方を使用して細孔サイズ分布を求める。
【0020】
Geminiの原理と器具
Geminiでは、速度適応型(adaptive rate)の静的容量法での操作を使用する。これは最初の気体吸着法であり、平衡になるよう気体を供給する所望のレートに適合する。Geminiには2つの気体リザーバがあり、これに同容量の所望の吸着媒(通常は窒素)が充填されている。
【0021】
リザーバから、気体を試料管とバランス管に投入する。試料側のトランスデューサで標的圧力を監視する。試料が気体を吸着すると、試料管内の圧力が低下しやすく、第1のトランスデューサによって高速応答サーボ弁が圧力を一定に維持するというわけではない。試料管とバランス管との間にある第2のトランスデューサが2本の管の圧力差を検出し、別のサーボ弁で両方の管の圧力をバランスさせる。第3の圧力トランスデューサで2つのリザーバの圧力を監視し、試料に吸着された気体の量を求める。このような投入と気体取り込み容積を計算する方法によって、Geminiでは極めて正確かつ極めて再現性の高い結果を最小限の時間で生成することができる。
【0022】
本発明によれば、多点判定(Micromeritics Gemini 2360)を用いてBET法に従って本発明による異なる粒の比表面積を測定する(例1および表1および2を参照のこと)。
【0023】
この方法による比表面積の判定については、上記にて概説し、BET法での判定として以下でも説明する。
【0024】
異なる比表面積判定方法を両方とも使用した理由は、比較理由によるものである。これらの2つの方法は、互いにまったく相関していないが、比表面積の絶対値に関してはBET法のほうが高精度であると考えるべきであろう。これらの方法の違いの理由については実施例1で後述する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図面の簡単な説明
【図1】図A1は、本発明による粒試料Aの累積圧入vs.細孔径を示し、累積細孔容積(cm/g)と平均細孔径(オングストローム(Å))との関係を示すグラフであり、図A2は、本発明による粒試料Aの差分圧入vs.細孔径を示し、差分細孔容積(cm/g)と平均細孔径(オングストローム(Å))との関係を示すグラフである。
【図2】図B1は、本発明による粒試料Bの累積圧入vs.細孔径を示し、累積細孔容積(cm/g)と平均細孔径(オングストローム(Å))との関係を示すグラフであり、図B2は、本発明による粒試料Bの差分圧入vs.細孔径を示し、差分細孔容積(cm/g)と平均細孔径(オングストローム(Å))との関係を示すグラフである。
【図3】図C1は、本発明による粒試料Cの累積圧入vs.細孔径を示すグラフであり、図C2は、本発明による粒試料Cの差分圧入vs.細孔径を示すグラフである。
【図4】図D1は、本発明による粒試料Dの累積圧入vs.細孔径を示すグラフであり、図D2は、本発明による粒試料Dの差分圧入vs.細孔径を示すグラフである。
【図5】図E1は、本発明による粒試料Eの累積圧入vs.細孔径を示すグラフであり、図E2は、本発明による粒試料Eの差分圧入vs.細孔径を示すグラフである。
【図6】図F1は、本発明による粒試料Fの累積圧入vs.細孔径を示すグラフであり、図F2は、本発明による粒試料Fの差分圧入vs.細孔径を示すグラフである。
【図7】図F3は、本発明による粒試料Fのインクリメンタル圧入vs.細孔径を示し、インクリメンタル細孔容積(cm/g)と平均細孔径(オングストローム(Å))との関係を示すグラフである。
【図8】図G1は、市販品で以下開始材料2と呼ぶ粒試料Gの累積圧入vs.細孔径を示すグラフであり、図G2は、市販品で以下開始材料2と呼ぶ粒試料Gの差分圧入vs.細孔径を示すグラフである。
【図9】図H1は、本発明による粒試料Hの累積圧入vs.細孔径を示すグラフであり、図H2は、本発明による粒試料Hの差分圧入vs.細孔径を示すグラフである。
【図10】図I1は、本発明による粒試料Iの累積圧入vs.細孔径を示すグラフであり、図I2は、本発明による粒試料Iの差分圧入vs.細孔径を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明の詳細な説明
上述したように、炎症を抑えるという観点でチタンに有益な特性があることは周知である。しかしながら、抗炎症効果および/または抗菌効果を高めた粒または細粒をどのようにして提供するかについては知られていない。
【0027】
抗炎症効果および/または抗菌効果を高めた粒または細粒を実現するには2つの重要な要因がある。これらの要因またはパラメータのうちの1つは、粒または細粒の比表面積が大きいことである。第1に、比表面積には粒または細粒の大きさまたは直径が影響し、この場合、完全な球であれば直径が大きくなるにつれて比表面積が比例的に小さくなる。すなわち、元の直径を10倍にすると、比表面積はもとの比表面積の1/10になる。これは、粒または細粒が小さければ小さいほど、大きな粒または細粒より表面積が大きいことを意味する。しかしながら、比表面積を大きくする場合は多孔度が極めて重要であり、本当に小さな粒すなわち粒子は多孔質にはなり得ない。細粒またはスポンジにできるだけ多くの空洞または細孔を持たせることで、比表面積を可能な限り最大にすることができる。大きさが同じ2つの粒で、一方には小さな細孔がたくさんあるとすると、それは細孔が大きい他方よりも比表面積は大きいが全体としての細孔容積は小さくなる。
【0028】
第3に、凹凸が重要である。不規則な物体は滑らかな物体よりも比表面積が大きい。それ自体、2つの最も対極に位置する例では、完全に滑らかな球としての重量が同じ不規則なフレークのほうが、球よりも比表面積が大きい。よって、本発明による粒または細粒は、好ましくは、粒または細粒の表面と、これらの粒または細粒の細孔の表面の両方の観点で不規則である。
【0029】
上述したように、粒または細粒の表面に焦点があてられるが、これは多くの化学反応が表面の特性に左右されるためである。
【0030】
少なくとも1つの粒または細粒としての本発明によるインプラントについて述べる場合、本発明によるインプラントと最新技術による「全体インプラント」との差について理解することが重要である。これらの「全体インプラント」は、たとえばチタン製のねじまたは歯であり、粒または細粒ではまったくなく、これらの「全体インプラント」すべてにおいて一般的なのは、少なくとも1つの締付要素または固定要素を有する点である。これは、本発明の粒または細粒には当てはまらない。
【0031】
チタンの有益な特性をできるだけ生かし、なおかつ表面積が極めて大きい粒または細粒を生成することを目的として、本願発明者らは、多孔度などに関して異なる供給業者から得たスポンジ状の粗チタンを調査した。これらの調査から、周知のHunterプロセスまたはKrollプロセスで生成した粗チタンスポンジは、このような意図した特性すなわち、生体組織内に配置すると組織の成長および内方成長(骨;骨再生)を可能にする特性ならびに、殺菌効果および抗炎症効果を持たせる特性を有するインプラント体(粒または細粒)を形成するための粗材料として、潜在的に良好な候補であることが示された。
【0032】
スポンジまたはブロックとしての粗チタン/チタン合金材料を生成する場合に使用するのに適した他の既存の技法に、たとえば、ゲルキャスティングなどの直接発泡法あるいは、複製法および高速プロトタイピング法などの他の湿式処理法がある。
【0033】
本発明による酸化チタン、チタンまたはチタン合金の粒または細粒の比表面積の値は、チタンまたはチタン合金の粒または細粒が持つ抗炎症または抗菌効果を示す直接的な尺度であることが明らかになっている。
【0034】
本願発明者らは、チタンスポンジからなる物体が、抗菌効果および抗炎症効果の点で非多孔質チタンからなる物体よりもかなり優れていることを見いだし、このことからチタン体の効果的な表面積が、チタンインプラントの良好な抗菌効果および抗炎症効果の極めて重要な決定要因であることを理解した。
【0035】
本発明によるスポンジおよび小さな粒子はいずれも、抗菌効果および抗炎症効果を持ち得るものである。このことから、多孔度がこれらの効果を決める唯一の決定要因ではなく、大きさならびに凹凸も重要であることが分かる。上述したように、これらの3つのパラメータはいずれも、本発明によるインプラントの抗菌効果および抗炎症効果と直接的に相関している尺度である比表面積に影響する。言葉を変えると、この尺度は、本発明によるインプラントを特徴づける非常に重要な特徴のひとつである。
【0036】
しかしながら、チタンインプラントを崩壊(破砕)によって小さな断片にすることで表面積を大きくしても、一貫して抗菌効果/抗炎症効果が改善されるわけではないことも明らかになった。
【0037】
さらに、本願発明者らは驚くべきことに、チタンまたはチタン合金体の大きさおよび比表面積が抗菌効果および抗炎症効果を左右するだけでなく、以下に列挙する他の要因および条件も大きな関心の的であることも見いだした。たとえば、特定の特性を有する他の物質を本発明によるインプラントに結合または付加することで、これらの効果を増すことができる。
【0038】
まとめると、本発明によるインプラントは、大きさ、凹凸および多孔度(いずれもインプラントの比表面積の値を左右する)の点でその具体的な特徴と関連した抗菌効果および抗炎症効果が高められている。
【0039】
こうした有益な効果を実現するために、本発明によれば、抗炎症または抗菌効果あるいはその両方を有する、人体または動物の体に注入することを想定したインプラントが得られ、このインプラントは少なくとも1つの多孔質粒または細粒を含み、少なくとも1つの多孔質粒または細粒が、
−チタン、1種または複数種の酸化チタンまたはチタン合金を含み、表面に酸化チタン層を有し、
−一方の側から幾何学的中心を通って反対側までの平均長が最大5mmであり、
−平均比表面積がBET法で少なくとも0.15m/gである。
【0040】
本出願において、「インプラント」という表現は、単一の切片体の形を有し、1つの粒または細粒あるいは、粒子および/または粒の凝集体(互いに結合していてもしていなくてもよい)を含む。その記載を通して、インプラントに対して異なる表現を使用している。同じものを意味する例は、表現「細粒」および「粒」である。
【0041】
本願発明者らは、効果的な抗菌効果および抗炎症効果を実現するには、インプラントの一方の側から幾何学的中心を通って反対側までの平均長(場合によっては直径と呼ぶこともある)が最大5mmまで、好ましくは200μm以上2mm以下でなければならないことを見いだした。よって、本発明の好ましい一実施形態によれば、インプラントの少なくとも1つの多孔質粒または細粒の平均「直径」が少なくとも200μm以上2mm以下である。これは、2つ以上の粒または細粒からなる凝集体(この場合、粒は互いに結合していてもしていなくてもよい)の場合も同じである。
【0042】
しかしながら、本発明のインプラントは不規則な形状であり、直径とはインプラント断面上の2つの対点の最も長い軸の長さを意味する。粒または細粒が必ずしも球状でなくてもよいことを理解することが重要である。実際、インプラントの凹凸も重要な特徴のひとつであり、一層不規則な形状、たとえば、フレーク状、くぎ状、チップ状または同様の形あるいはこれらの組み合わせの形も好ましい。
【0043】
本願発明者らは、抗炎症/抗菌効果を高めるのはインプラントの直径が5μm未満よりも低い点ではなく、この直径未満になると、チタンインプラントがマクロファージによって貪食される、すなわち、「食べられて」しまうため、チタンインプラントの抗炎症/抗菌効果が破壊されることを見いだした。さらに、5mmを超えるインプラントは、本発明による用途すなわち、歯科用途などの人体/動物の体での注入用としては非現実的である。これも少なくとも200μmで最大2mmの大きさまたは直径のインプラントが最も適用しやすい理由である。
【0044】
凹凸、多孔度および比表面積の増大の観点から細粒の所望の構造を高める上で、可能な方法がある。これは、エッチングまたは粗化によって実現できるが、これらの2つの方法が併用されることもある。このインプラントを区別する特徴のひとつは、上述したように不規則な形状であり、よって粗化がこのインプラントの不規則な形状を形成または助長する上での助けとなり得る。
【0045】
エッチングに使用可能な異なるタイプの化学物質がある。その中には、抗炎症効果および/または抗菌効果を高める上で別に有益な効果を持つものもある。一例が過酸化物であり、たとえば過酸化水素溶液である。
【0046】
過酸化水素と金属チタンとの反応生成物すなわち、過酸化チタンラジカルゲルが、抗炎症酸化剤として国際特許公開である国際公開第89/06548号パンフレット(Bjurstenら)に開示されている。国際公開第89/06548号パンフレットには、チタン製またはチタンコーティングの施されたインプラントに対するコーティングとしての反応ゲル生成物が開示されているが、これらのインプラントは、本発明によるインプラントとは何ら似ていない。しかしながら、国際公開第89/06548号パンフレットに記載のインプラントは、本発明の場合のような粒または細粒ではなく、たとえばチタンねじなどの特定の機能向けの固体インプラントである。言葉を変えると、国際公開第89/06548号パンフレットに記載のインプラントは、「全体プロテーゼ」に分類できるものであろう。
【0047】
上述したように、インプラントを注入する前に、本発明によるインプラントの細孔表面を含む表面を過酸化物に曝露し、これによってインプラントの抗菌効果を高めるようにしてもよい。
【0048】
同様の目的すなわち、エッチングおよび抗炎症効果および/または抗菌効果の増大という点で使用可能な他の化学物質がある。
【0049】
したがって、本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つの多孔質粒または細粒が、少なくとも1種のフッ素化合物、塩酸、硫酸、亜リン酸、過酸化水素(H)および有機過酸化物からなる群から選択される過酸化物化合物またはシュウ酸またはこれらの組み合わせで処理されるか、フッ素化ガスまたは塩素化ガスでのドライエッチングによって処理された、インプラントが得られる。この処理は、少なくとも1つの多孔質粒または細粒の比表面積を増やすおよび/または少なくとも1つの多孔質粒または細粒を酸化させるためになされるものである。
【0050】
本発明の特定の一実施形態によれば、治療に用いられるフッ素化合物は、どのようなタイプのフッ酸、フッ化水素酸(硝酸との組み合わせ)、フッ化アンモニウム、重フッ化アンモニウム(同じく硝酸との組み合わせ)またはフッ化水素(HF)であってもよい。
【0051】
処理条件は、濃度、時間、温度の点で、使用する具体的な化学物質ごとに変わり、使用可能な多くの異なる組み合わせがある。以下の実施例1に具体例をあげておくが、これは単なる例にすぎず、本発明の範囲を限定するものとは解釈されるべきではない。
【0052】
特定の一実施形態によれば、上記の治療に用いる化学物質の濃度は、フッ化物酸(fluoride acid)であれば0.05から1.0%、過酸化水素であれば0.5から30.0%、シュウ酸であれば0.2から20.0%である。一具体例によれば、濃度はフッ化物酸(fluoride acid)で約0.2%、過酸化水素で約30%、シュウ酸で約10%である。
【0053】
粒の化学を変化させるのに、酸化も効果的な方法のひとつである。酸化は、粒の比表面積を増やす、酸化チタンの量を増やすことで可能な抗菌効果および/または抗炎症効果を高める、あるいは、粒の見た目を変化させるまたはこれらの組み合わせなどの別の目的でも使用できる。
【0054】
本発明の一実施形態によれば、酸化雰囲気中にて20から1000℃の温度での熱処理および/または電気化学的手法で、少なくとも1つの多孔質粒または細粒を酸化させる。
【0055】
別の特定の実施形態によれば、少なくとも1つの多孔質粒または細粒を、放電加工で陽極酸化させて表面積を大きくしてある。
【0056】
本発明のさらに別の実施形態によれば、可撓性のネットまたは多孔質スポンジ状構造を使用して少なくとも1つの多孔質粒または細粒を陽極と接触させる放電加工の手法で少なくとも1つの多孔質粒または細粒を生成してある。
【0057】
チタンまたはチタン合金インプラントの陽極スパーク堆積が、たとえば、R. Chiesaら著、Journal of Applied Biomaterials & Biomechanics 2003; 1: 91-107、「Osteointegration of titanium and its alloys by anodic spark deposition and other electrochemical techniques: A review」に記載されている。上記の文献に記載の堆積方法は、電位が−1500〜−1300mV(vs.SCE)の範囲にあるカソードの定電位分極によって実現された。この文献に記載のインプラントは、表面がスパーク堆積で修飾された均質なインプラントであるため、本発明による粒または細粒とは基本的に異なる。
【0058】
本発明の特定の一実施形態によれば、酸化チタンのナノチューブを有する少なくとも1つの多孔質粒または細粒が、その表面に対する陽極酸化を伴う前処理によって得られる。この陽極酸化を含む前処理は、たとえば、Cai, Pauloseら著、「The effect of electrolyte composition on the fabrication of self-organized titanium oxide nanotube arrays by anodic oxidation」、J Mater Res 2005 20; 1:230-6またはMacak, Tsuchiyaら著、「Smooth Anodic TiO2 Nanotubes」、Angewandte Chemie: a journal of the Gesellschaft Deutscher Chemiker, Int. ed. 44; 2005; 7463-65(いずれも全体を本明細書に援用する)に準じて実施可能なものである。
【0059】
本発明による少なくとも1つの多孔質粒または細粒の表面に酸化チタンのナノチューブを提供することは、極めて高い比表面積を実現し、よって骨誘導性の高い表面を実現する上で、重要な場合がある。さらに、固体の粒または細粒で本発明による多孔質粒または細粒を実現できるようにする目的で、チタン、1種または複数種の酸化チタンまたはチタン合金を含み、平均比表面積がBET法で少なくとも0.15m/gである酸化チタンのナノチューブを応用することが可能である。このような大きな比表面積は、上述したような過酸化水素などでの表面処置または表面にナノチューブを付加することによる表面処理(どちらの方法もその表面で粒または細粒を多孔質にしている)によって、固体粒または細粒で実現できる。これは、本発明による多孔度が連続すなわち細孔が粒または細粒全体に延在していなくてもよく、代わりに細孔を本発明による粒または細粒の表面だけに付加すればよいことを示唆している。
【0060】
上記の参考文献に記載されているように、これらの参考文献に開示された特定の条件で長さが7μmまでのナノチューブを生成することが可能である。したがって、いくつかの改変例を用いることで、個々の長さが約10μmまでのナノチューブを生成することも可能なはずである。いずれの場合も、長さ1〜5μmのナノチューブは、特定の最適化をせずに実現可能であり、このため本発明による粒または細粒の表面を陽極酸化によって提供可能である。長さ最大で約1μmのナノチューブは機械特性が良好であるため、本発明のこの実施形態に関してはこの長さで十分である。
【0061】
陽極酸化は、一種の電解質の中で実施される。フッ化水素酸(HF)は、電解質に含まれることが多い成分である。しかしながら、生成されたナノチューブの長さが非常に重要である場合、たとえばフッ化カリウム、フッ化ナトリウム、グリセロール、(NHSOまたは(NH)Fを含む電解質溶液を適宜利用して、酸化チタンのさらに長いナノチューブを製造してもよい。したがって、本発明の特定の一実施形態によれば、陽極酸化を伴う前処理によって、フッ化水素酸(HF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化ナトリウム(NaF)、グリセロール、(NHSOまたは(NH)Fまたはこれらの組み合わせを含む電解質溶液中で、少なくとも1つの多孔質粒または細粒に酸化チタンのナノチューブが付加される。電解質溶液は、もちろん他の化学物質を含有してもよく、これらを別の理由で加えてもよい。たとえば、特に硫酸、水酸化ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、クエン酸などを加えることで、電解質溶液のpH調節を実施してもよい。
【0062】
上述したように、本発明によれば、酸化によって本発明による粒または細粒の見た目を変えることが可能である。本発明の特定の一実施形態によれば、少なくとも1つの多孔質粒または細粒を、不活性雰囲気または真空中で、500℃またはこれよりも高いが、チタン、1種または複数種の酸化チタンまたはチタン合金の融点よりは低い温度で熱処理する。この粒の平常時の色は灰色がかっているが、場合によっては、歯科用途など、この色を変えてもっと黄色がかった色および/または白っぽい色の見た目を実現するほうが都合のよいこともある。よって、酸化によってこれを実現する。この場合、形成される酸化チタン層の厚さが非常に重要である。この厚さは実質的に少なくとも500nmとすべきであり、これは光の波長を用いて得られるもので、可視光であれば400〜700nmの波長である。本発明の特定の一実施形態によれば、少なくとも1つの黄色がかった色および/または白っぽい色の多孔質粒または細粒のこうしたインプラントに対し、少なくとも部分的に、厚さが30〜500nmの範囲のチタンまたはチタン合金の外層が付加される。インプラントに対するチタンまたはチタン合金の化学的な特性を得るには後者が好ましいことがあるが、黄色がかった色および/または白っぽい色の見た目は残ったままである。CVD(化学蒸着)を用いることで、細孔が充填されて多孔度が落ちる危険性を伴わずに、このような薄い外側の金属層を得ることが可能である。
【0063】
上記のこの特許出願に記載された触媒反応では、チタンの抗炎症特性および殺菌特性のもとになるソースとして、酸化チタンの結晶性アイソフォーム、アナターゼおよびルチルのほうが非晶質酸化チタンよりも効率がよいことが、すでに見いだされている。よって、定量的な光子計数顕微鏡を使用して、本願発明者らは、PMA(ホルボール12−ミリステート13−アセテート)で刺激したJ774A.1マウスマクロファージからのスーパーオキシドの生成によって誘導したMCLA(2−メチル−6−[p−メトキシフェニル]−3,7−ジヒドロイミダゾ[1,2−a]ピラジン−3−オン)からの化学発光シグナルを測定することができ、結晶相の有意な減少を見いだした。
【0064】
多孔質チタン細粒の効率を高めるために、これを不活性雰囲気または真空中で熱処理によって結晶性アイソフォームに変換してもよい。このような変換は900℃を超えるがチタンの融点(1668℃)よりもかなり低い温度、場合によっては500℃と低い温度で起こることが周知である(参考文献11)。
【0065】
したがって、本発明の一実施形態によれば、不活性雰囲気または真空で500℃またはこれよりも高いが、チタン、1種または複数種の酸化チタンまたはチタン合金の融点よりも低い温度で少なくとも1つの多孔質粒または細粒を熱処理する。
【0066】
上述したように、本発明による粒の比表面積の値は、抗炎症効果および/または抗菌効果を得る上で非常に重要であり、これらの効果の大きさを示す直接的な指標とみなすことができる。しかしながら、上述したように、これらの効果には他の重要な要因もある。以下の実施例で開示するように、本発明による粒または細粒を違う形で処理することで、異なるレベルの比表面積が得られる。
【0067】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つの多孔質粒または細粒が、HFまたはHで処理され、その平均比表面積はBET法で少なくとも0.25m/gである。
【0068】
本発明の別の特定の実施形態によれば、少なくとも1つの多孔質粒または細粒が、HFで処理され、その平均比表面積はBET法で少なくとも0.40m/gである。
【0069】
本発明のさらに別の特定の実施形態によれば、少なくとも1つの多孔質粒または細粒が酸化され、その平均比表面積はBET法で少なくとも0.40m/gである。
【0070】
本発明のもうひとつの目的は、本発明によるインプラントを場合によっては有益な他の物質で処理することでインプラントの抗菌効果および抗炎症効果を高め、その特性をさらに改善することにある。
【0071】
生物環境に影響を与える物質を加えると、別の好都合な効果が得られることがある。これは、多孔体すなわち本発明による粒にこのような物質またはこれらの組み合わせを充填するか取り込む、あるいは、粒または粒の外面または細孔の表面を修飾することで実現可能である。これは、たとえば、少なくとも1種の物質を粒の表面または粒の細孔の表面または内側に結合または付加することによって実現できる。生物学的に活性な物質の結合を含む他の修飾によって、インプラントが組織の治癒、再モデル化または内方成長を増強できることがある。
【0072】
したがって、本発明の一実施形態によれば、生物学的に活性な少なくとも1種の物質を少なくとも1つの多孔質粒または細粒の細孔に充填および/または少なくとも1つの多孔質粒または細粒の表面に結合する。
【0073】
これらの別の物質は、たとえば、組織の成長または再生を促進する因子であってもよいし、抗生物質であってもよい。よって、本発明の一実施形態によれば、抗生物質、組織の成長または再生を促進する因子、抗炎症酸化剤またはこれらの組み合わせからなる群から少なくとも1種の物質を選択する。このような物質または因子の例には、骨形態形成因子、アレンドロネート(andronate)、αケトグルタル酸、シンバスタチン、Emdogain(登録商標)(下記参照)、ゲンタマイシンおよび合成コラーゲンI型(PepGen P-15として)があげられる。もうひとつの例は、すでに述べた過酸化物、たとえば、過酸化水素溶液である。
【0074】
内容全体を本明細書に援用する米国特許出願公開第2005/0214231 A1号に開示されているように、エナメルマトリクス、エナメルマトリクス誘導体またはエナメルマトリクスタンパク質(以下、まとめて「活性エナメル物質」と呼ぶ)は、歯髄で象牙質の形成を誘導することができる。これらの活性エナメル物質またはその製剤組成物のいくつかは、本発明によるインプラントへの充填、付加、結合に適した物質および組成物でもある。これは、いくつかの歯科用途で抗炎症効果および/または抗菌効果を高め、インプラント自体とエナメル物質またはその組成物自体との良好な特性の相乗効果を実現する目的で実施される。いくつかの例では、たとえば、チタンねじなどの固定対象となる空洞周囲の人間または動物の組織で、そのチタンねじを一層強く一層安定して固定できるなど、インプラントと活性エナメル物質またはその製剤組成物との組み合わせによって実現される他の好ましい効果もある。これは、言い方を変えれば、本発明によるこれらの「活性エナメル物質充填」粒インプラントを空洞に充填する歯科用途で有益である。
【0075】
エナメルマトリクスはエナメルの前駆物質であり、関連する天然ソースすなわち、歯が生えてきている哺乳動物であればどのようなものからでも得られる。好適なソースに、子牛、豚、子羊などの食肉処理した動物の生えかけている歯がある。もうひとつのソースは、たとえば魚の皮膚である。
【0076】
本明細書の文脈では、エナメルマトリクス誘導体は、選択的スプライシングまたはプロセシングによって天然に生成されたか、自然長タンパク質の酵素的または化学的な切断またはin vitroまたはin vivoでのポリペプチドの合成(組換えDNA法または二倍体細胞の培養)のいずれかで生成された、1つまたは複数のエナメルマトリクスタンパク質またはこのようなタンパク質の一部を含むエナメルマトリクスの誘導体である。エナメルマトリクスタンパク質誘導体は、エナメルマトリクス関連ポリペプチドまたはタンパク質も含む。ポリペプチドまたはタンパク質は、ポリアミノ酸または多糖あるいはこれらの組み合わせなどの好適な生分解性キャリア分子に結合できる。さらに、エナメルマトリクス誘導体という用語は合成の類似物質も包含する。
【0077】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つの多孔質粒または細粒の細孔に充填されるおよび/または少なくとも1つの多孔質粒または細粒の表面に結合される少なくとも1種の物質が、少なくとも1種の活性エナメル物質であり、この活性エナメル物質は、エナメルマトリクス、エナメルマトリクス誘導体またはエナメルマトリクスタンパク質またはこれらの組み合わせである。
【0078】
エナメルマトリクスタンパク質は、通常はエナメルマトリクスすなわちエナメルの前駆物質に存在するタンパク質(Ten Gate: Oral Histology, 1994; Robinson: Eur. J. Oral Science, January 1998, 106 Suppl. 1:282-91)またはこのようなタンパク質切断によって得られるタンパク質である。通常、このようなタンパク質は、分子量が120000ダルトン未満であり、アメロゲニン、非アメロゲニン、高プロリン非アメロゲニン、アメリン(アメロブラスチン、シースリン、タフテリン、象牙質シアロタンパク質(DSP)または象牙質シアロホスホタンパク質(DSPP)を含む。タンパク質の例には、アメロゲニン、高プロリン非アメロゲニン、タフテリン、房タンパク質、血清タンパク質、唾液タンパク質、アメリン、アメロブラスチン、シースリン、これらの誘導体およびこれらの混合物がある。本発明によって使用するための活性エナメル物質を含む調製物も、上述したタンパク質状物質のうちの少なくとも2つを含むものであってもよい。
【0079】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも1種の活性エナメル物質は、エナメリング、アメロゲニン,非アメロゲニン、高プロリン非アメロゲニン、アメリン(アメロブラスチン、シースリン)、タフテリン、房タンパク質、唾液タンパク質、DSP、DSPPおよびこれらの誘導体ならびにこれらの組み合わせおよび混合物からなる群から選択される。
【0080】
上述したEmdogain(登録商標)は、アメロゲニンを含む量産物である。Emdogain(登録商標)は、Biora ABによって販売され、約30mg/mlの活性エナメル物質をアルギン酸プロピレングリコール(PGA)中に含む。これは、本発明によるインプラントへの取り込み、充填、付加または結合するための考えられる製剤組成物で好ましい量である。
【0081】
したがって、本発明の一実施形態によれば、少なくとも1種の物質は、アルギン酸プロピレングリコール(PGA)と混合されるひとつの活性エナメル物質である。
【0082】
本発明による粒または細粒を含むインプラントを、場合によっては、流体ビヒクルと混合する。よって、本発明の一実施形態によれば、インプラントをさらに、少なくとも1種の流体ビヒクルと混合し、この流体ビヒクルは、たとえば、NaCl(水溶液)、ヒアルロン酸、PEG、アルギン酸プロピレングリコール(PGA)、過酸化チタンゲル、メチルセルロース、カルボメチルセルロース、デキストラン、高粘性ポリマーゲルまたはタンパク質溶液またはこれらの組み合わせである。
【0083】
本発明の別の実施形態によれば、少なくとも1種の流体ビヒクルは、溶融温度が周囲温度より高く37℃(体温)未満のゲルに含まれており、このゲルが任意に、NaCl(水溶液)、ヒアルロン酸、PEG、アルギン酸プロピレングリコール(PGA)、過酸化チタンゲル、メチルセルロース、カルボメチルセルロース、デキストラン、高粘性ポリマーゲルまたはタンパク質溶液のうちの少なくとも1つを含む。このゲルは、ゲルとそれに含まれる粒または細粒および場合によりさらに小さい粒子が、人体または動物の体にたとえば注射しやすくなるという事実において特に有用な場合があり、そのときゲルは周囲温度でゲル固体状態であるが、同時にゲルが通常の体温で液体になって容易かつ迅速に再吸収可能となる。その範囲の溶融温度を有するこのようなゲルの例としては、たとえば、人体または動物の体に注射されたときにゲルが溶解する正しい濃度のヒアルロン酸があげられる。
【0084】
本発明による粒に物質を結合または本発明による粒を修飾するには、異なる方法がある。物理的および化学的な表面修飾方法を、非共有結合コーティング、共有結合的に付加するコーティング、もとの表面の修飾という3種類のタイプに分類することが可能である。
【0085】
非共有結合コーティングに用いられる方法は、好ましくは、溶媒コーティング、界面活性添加剤または炭素および金属の蒸着であり、後者では若干の共有結合反応が起こることもある。
【0086】
共有結合的に付加するコーティングの好ましい方法は、この場合は低圧電離気体環境で一般に周囲温度前後でなされるRFGDプラズマ蒸着、他のプラズマガスプロセス、化学蒸着(CVD)などの気相蒸着、化学グラフトおよび生物学的修飾(生体分子の固定化)などである。
【0087】
もとの表面を修飾するための方法は、好ましくは非特異的酸化などの化学反応によるイオン交換および化成処理である。
【0088】
本発明によるインプラントは、場合によっては複数の粒または細粒を含む(互いに結合されていてもよいし、されていなくてもよい)ことに注意されたい。したがって、本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つの多孔質粒または細粒が、同様の粒または細粒の集合における個体である。
【0089】
細粒同士および細粒と周囲組織との初期付着性を高める因子の添加を加えてもよい。これらは、好ましくは再吸収可能であるとよく、この一例がフィブリンである。他の可能性に、シアノアクリレートのような合成接着剤を用いることがある。
【0090】
また、本発明によるインプラントのごく一部が、同種骨、セラミック、ポリマー、接着剤など、チタン、1種または複数種の酸化チタンまたはチタン合金以外の材料であってもよい点に注意されたい。
【0091】
本発明の目的は、人体または動物の体に存在する炎症または/および感染を含む症状を治療するための方法を提供することでもある。
【0092】
本発明の一実施形態によれば、本発明によるインプラントを人体または動物の体の炎症部位/感染部位に接触させる、人体または動物の体に存在する炎症または/および感染を含む症状を治療するための方法が得られる。考えられる異なる症状として、たとえば、歯周炎、インプラント周囲炎、骨炎がある。本発明によるインプラントは、様々な理由による人体または動物の体の非炎症部位および/または非感染部位への(たとえば人体または動物の体の特定の部分または臓器へのin vivoまたはin vitroでの)注射または挿入にとって興味深いものでありうる。このような部分または臓器は、腸、肝臓、脾臓、膵臓またはたとえば腎臓などであってもよい。粒または細粒の用途の一例に、人体または動物の体の特定部分への薬剤のキャリアとしての用途があり、この場合、粒または細粒は単にキャリアとして作用するだけであるか、他の薬剤との組み合わせで接触対象となる部位にて活性薬剤として作用するかのいずれかである。
【0093】
本発明のもうひとつの実施形態によれば、波長λが200〜500nmのUV光線で、in vivoにて本発明によるインプラントをさらに処理する、上記の症状を治療するための方法が得られる。これは、UV光線がラジカルを生成するため抗炎症効果および/または抗菌効果を高めることが可能だという点で、ときに望ましいことがある。UV光線の好適な波長範囲の一具体例は250〜350nmである。
【0094】
本発明によるインプラントを人体または動物の体の炎症部位/感染部位に接触させる、上記のような症状の治療方法にとって興味深い他の要因が存在することがある。このような要因のひとつが、場合によっては、虫歯などの特定の空洞で、この空洞の感染を治療する場合に、空洞内でのインプラントの固定度や安定度の重要性であり得る。治療対象となる感染および炎症性プロセスは、自然に形成された空洞または疾患プロセスの結果として形成された空洞の中にある場合が多い。この空洞は、炎症組織/感染組織の一部を摘出することで形成されることもある。これらの例では、インプラントを上述の空洞に固定することが重要な場合がある。これは、空洞に密着して膨らませるよう設計された一片の単体としてインプラントを設計するか、接着剤を使用して、非感染性および非細菌性、好ましくは抗炎症および抗菌物質などの異なる方法で実現可能である。
【0095】
しかしながら、体内には、空洞を作らなくてもインプラントを供給できる感染部分があり得る。一例として、腸に感染または炎症がある場合がある。この場合、もちろん、腸などの感染部位にインプラントを接触させることが重要である。
【0096】
本発明によれば、薬剤として使用される本発明によるインプラントも得られる。この薬剤は、人体または動物の体に存在する炎症または/および感染を含む症状の治療に用いると効果的である。この薬剤は、さらに、本発明によれば、インプラント自体の少なくとも1つの粒または細粒、いくつかの粒または細粒からなる凝集体、あるいはこの粒、粒または凝集体のキットならびに、上述したものによる物質を含むものであってもよい。このようなキットに含まれる、考えられる他の物質として、NaCl(水溶液)、細胞栄養塩、成長因子または他のタンパク質、ペプチドまたは塩などの滅菌溶液があげられる。
【0097】
本発明によるインプラントは、キットなどの薬剤の製造、人体または動物の体に存在する炎症または/および感染を含む症状の治療に使用できる(may also used)。症状の一例が、たとえば、歯周炎、インプラント周囲炎または骨炎である。
【0098】
最後に、本発明では、粗チタンまたはチタン合金スポンジの切片から本発明によるインプラントを製造するための方法であって、
−粗チタンまたはチタン合金スポンジの切片の多孔質周囲部分であるが最も外側ではない部分を選択して取り出すステップと、
−その部分を、不純物となり得る化学組成に関して分析するステップと、
−純粋であればその部分を破砕するステップと、
−最後に、篩にかけてバッチ分析することでインプラントを選択するステップと、を含み、バッチ分析が、走査型電子顕微鏡法(SEM)または窒素での気体吸収、Hg法および/またはBET法によって実施される、方法が得られる。
【0099】
本発明によれば、「粗」チタンまたはチタン合金という用語は、たとえば、HunterプロセスまたはKrollプロセスで生成される開始材料を意味し、この開始材料すなわち粗材料から、本発明によるインプラントが生成される。本発明によるインプラントを作製するのに適した粗チタンスポンジは、「Alfa Aesar」(Johnson Matthey)、USA、製造番号042459として販売されている。
【実施例】
【0100】
実施例および図面の詳細な説明
実施例1.本発明によるインプラント粒または細粒の比表面積の判定
本願発明者らは、本発明によるインプラントの比表面積と、本発明によるインプラントを処理した場合に考えられる比表面積の増加とを測定し、結果を開始材料および市販の粒の比表面積と比較した。
【0101】
使用した測定方法は、上記「平均細孔容積、平均細孔径および比表面積の評価に用いられる方法」の章で上記にて開示したHg法およびBET法である。比較理由がゆえに、両方の方法を使用した。
【0102】
使用した粒または細粒の直径は0.7〜1.4mmの範囲であった。
【0103】
水銀ポロシメーター(Micromeritics Auto- Pore III 9410)を用いて、150μm≧細孔径≧0.003μm(30Å)の範囲で、粒試料A〜Iの細孔容積および細孔サイズ(直径)分布を求めた。水銀の表面張力を485mN/mに設定し、接触角θを130°に設定した。サンプルホルダパーツの高圧での圧縮を補正した(図面1〜図面10のブランク補正を参照のこと)。粒試料HおよびIでは、高圧で圧縮されないサンプルホルダで分析をしたため、補正をおこなわなかった。
【0104】
粒試料A、D〜Iの比表面積を、BET法、多点判定(Micromeritics Gemini 2360)で測定した。しかしながら、試料BとCではそのようにしなかったが、試料Dには試料BおよびCと同様にエッチング処理がなされていたため、試料DがBET法での試料BとCの比表面積の予想値の指標となる。
【0105】
Hg法でも比表面積の計算値が得られる。本発明によるすべての粒試料について、これらの値を表1および表2にあげておく。表1および表2から明らかなように、BET法での比表面積の測定値とHg法での計算値との間には差がある。これらの差は、以下の事実によって生じることがある。
−Hg法での計算が円筒状で大きさが均等な細孔に基づくものである。
−表1および表2に示す結果が、異なる試料では細孔の形態も異なる場合があることを示している。
−補正に用いられる基本データが各サンプルホルダで別途実施したHg分析の結果であり、圧縮が試験ごとに若干変わることがある。
−Hg法では細孔の開口部の大きさを記録する。
−直径1mmの非多孔質球状チタン粒子の比表面積の計算で0.001m/gという値が出るように、粒子の外側部分が値におよぼす影響が最低限である。
【0106】
2つの異なる粒開始材料を使用した。すなわち、ひとつは、たとえば、HunterプロセスまたはKrollで生成された粗チタンスポンジであり、もうひとつは市販の多孔質粒である。以下、この粗チタンスポンジを開始材料1、市販の多孔質粒を開始材料2と呼ぶ。
【0107】
本発明による第1の多孔質インプラント粒を得るために、開始材料1すなわち粗チタンスポンジの切片の多孔質周囲部分であるが最も外側ではない部分を選択し、取り出し、不純物となり得る化学組成を分析した。次に、この部分を破砕し、最後に、篩にかけてバッチ分析することで本発明による第1の多孔質インプラントを選択したが、この分析については、窒素での気体吸収によって実施した。走査型電子顕微鏡法(SEM)も利用し、分析について他の値の情報を得る。
【0108】
開始材料1から得られた、本発明によるこの第1の粒を、以下の表1では試料Aと呼ぶ。
【0109】
次に、上記のようにして生成された粒すなわち試料Aのような粒を、本発明による異なる方法で処理した。以下の事項を実施した。
試料B:3%Hでのエッチングを10分間
試料C:30%Hでのエッチングを10分間
試料D:30%Hでのエッチングを1時間
試料E:0.2%HFでのエッチングを5分間
試料F:空気中にて900℃での酸化を2時間
【0110】
結果を以下の表1にまとめ、グラフを図面1〜図面7に示す。
【0111】
【表1】

【0112】
たとえば、累積細孔容積の最終値すなわち0.32cm/gとして、試料Aの平均細孔容積を図A1で確認することができる。もちろん、試料B〜Fにも同じことが当てはまる。
【0113】
異なる試料についてx軸から得た平均細孔容積が、原理上は、試料A〜Fの図2のグラフの差分細孔容積の最上値に対応する。図A2、試料Aのグラフの差分細孔容積の最上値は、約150,000オングストロームすなわち、表1に示されるように15μmに対応する。もちろん、試料B〜Fのグラフにも同じことが当てはまる。
【0114】
さらに、試料A〜Fの図2におけるグラフの下の部分は、比表面積の測定値である。表1を参照して、これらの値を互いに比較することができた。
【0115】
これらの結果から明らかなように、粒の比表面積増加という観点ではHでのエッチングはHFほど効果的ではない。HFをエッチングに用いると、比表面積が0.17から0.42m/gまで増加した。同様に、30%Hを1時間使用すると、比表面積も試料Aより大きくなった(試料AおよびDの実測BET値を比較)。さらに、HFでのエッチングによって、平均細孔径に2つの異なる値が得られた(表1参照)が、これは粒の大きめの細孔(15μm)の画分だけでなく小さ目の細孔(0.15μm)の新たな画分が実質的に形成された結果であると解釈すべきである。
【0116】
空気中にて900℃で2時間の酸化によって比表面積が大幅に増加し、平均細孔容積が若干小さくなった。これは、その時点で、さらに小さいが数の多い細孔からなる別の分布が存在することによるものである。これは、相対的に比表面積の増加につながる。この場合、HFでのエッチング同様、実現された平均細孔径の値が2種類あった。インクリメンタル圧入vs.平均細孔径の図面10、図F3に、この事実が極めてはっきりと示されており、そこにはインクリメンタル細孔容積の最上値が2種類ある。すなわちこれは、一方が約700,000オングストローム(70μm)、他方が約5,000オングストローム(0.5μm)の二峰性分布である。
【0117】
開始材料2は、市販の粒からなるものであった。以下、この粒を試料Gと呼ぶ。この粒は、もちろん本発明の範囲の一部ではない。そのことは、Hg法およびBET法で測定すれば、この粒の異なる値からも分かる。市販の粒である試料Gは、平均細孔容積が0.06cm/g、平均細孔径が10μm、Hg法での比表面積が0.02m/g、BET法では0.12m/gであった。市販の粒の比表面積の値は、言葉を変えると、BET法での比表面積の値に関して本発明の範囲のかなり外である。Hg法で比較をしても同じことがいえる。
【0118】
次に、試料Gである市販の粒を本発明に従って処理すると比表面積が増え、結果として抗炎症効果および/または抗菌効果が高まった。試料Gのような市販の粒で以下の事項を実施した。
試料H:0.2%HFでのエッチングを5分間
試料I:空気中にて900℃での酸化を2時間
【0119】
結果を以下の表2にあげておく。
【0120】
【表2】

【0121】
本発明による粒である試料HおよびIの平均細孔容積と、開始材料2である試料Gの平均細孔容積を、他の試料と同様にして図面8〜10で確認することができる。試料G〜Iのx軸から得た平均細孔容積についても同じことが当てはまる。
【0122】
さらに、試料G〜Iの図2におけるグラフの下の部分は、は、比表面積の測定値である。表2を参照して、これらの値を互いに比較することができた。
【0123】
これらの結果から分かるように、HFでのエッチングおよび空気中にて900℃で2時間の酸化によって、比表面積が試料Gの0.02m/gから粒試料Hでは0.05m/g、粒試料Iでは0.44m/gにそれぞれ増加した。試料HおよびIの比表面積の値は、BET法で十分に本発明の範囲内である。これは、もちろん市販の粒である試料G(開始材料2)には当てはまらない事実である。
【0124】
粒試料HをHFで処理すると、これに匹敵する粒試料EおよびFの場合と同様に、平均細孔径の値が2種類になり、酸化させた粒試料Iは二峰性である。
【0125】
開始材料2(粒試料G)は、本発明による未処理の粒(粒試料A)と比較して、完全に異なる粒である。これは、たとえば、粒試料GとAとで平均細孔容積の値を比較することで分かる。この場合、試料Gの該当する値は0.06cm/gであるのに対し、試料Aでは0.32cm/gである。試料Gの値が小さいのは、本発明による処理済みの粒試料HおよびIのほうが本発明による粒試料A〜Fよりも平均細孔容積が小さいことの理由でもある。しかしながら、本発明の真に重要な値すなわち比表面積は、試料Gと比較して、本発明による粒試料A〜Fならびに試料HおよびIのすべてにおいて大きい。
【0126】
実施例2.本発明による未処理の粒の抗炎症効果および/または抗菌効果を判断するための比較試験
ウサギでのパイロット実験において、本発明による未処理の多孔質チタン細粒の局所的な殺菌効果を、脱塩骨マトリクスベースの市販の代用骨の場合と比較した。麻酔下で脚を剃毛し、脛骨の両側を小さく切開した。脛骨と前脛骨筋との間を手ばやく切開し、小さなポケットを形成した。2つの被験材料に、Staphylococcus aureusの希釈懸濁液を含浸させ、各々0.2mlをそれぞれのウサギに導入した。2週間後、ウサギを安楽死させ、局所的な感染を臨床評価した。7例のうち2例で、本発明による多孔質チタン細粒を導入した部分に(were)臨床感染が認められたのに対し、脱塩骨マトリクスのある7部位のうち6部位が感染したことから、2つの材料間の潜在的な殺菌力すなわち、抗炎症効果および抗菌効果に明らかな差が示された(p=0.05、Fisherの直接確率検定)。
【0127】
実施例3.本発明によるH処理した粒の抗炎症効果および/または抗菌効果を判断するための比較試験
5匹のウサギでのパイロット実験において、本発明による処理済みの多孔質チタン細粒の局所的な殺菌効果を、本発明による未処理の多孔質チタン細粒での効果と比較した。麻酔下で、ウサギの脚を剃毛し、脛骨の両側を小さく切開した。脛骨と前脛骨筋との間を手ばやく切開し、小さなポケットを形成した。Staphylococcus aureusの希釈懸濁液を含浸させ、各々0.2mlをそれぞれのウサギに導入した。本発明による未処理の細粒をウサギの右脚に入れ、Hを左足に入れた。8日後、ウサギを安楽死させ、局所的な感染を臨床評価した。臨床結果を以下の表3にあげておく。
【0128】
【表3】

【0129】
結果から明らかなように、本発明による未処理細粒の場合と比較して、本発明によるH処理細粒の抗炎症効果および抗菌効果が高くなった。
【0130】
チタンの抗菌効果は酸素ラジカルの有無に左右される。体内では、このようなラジカルは白血球、特にいわゆる多形核好中球によって生成される。これらの細胞は、細菌に対する応答として一連の異なるラジカルを生成し、これが宿主による殺菌の原理機序である。本願発明者らは、上述したように、細粒を制御した少量のStaphylococcus Aureuesと一緒にウサギの組織に導入して、さまざまなチタン細粒の抗菌効果について調査した。1週間後、細粒を周囲の組織と一緒に収集し、崩壊させて寒天板の上に置いた。試料のコロニー形成単位(CFU)を評価した。これは、試料中の細菌数を示す尺度である。本願発明者らは、本発明による過酸化水素で処理した多孔質チタン細粒で、CFUが処理していない細粒と比較して10〜10から最大で100まで一貫して減少することを見いだした。よって、この実験は、表面積が大きければ大きいほど、これに関連してラジカル捕捉特性も高くなることを裏付けるものである。
【0131】
実施例4.発光を用いる実験システムでのラジカル捕捉の評価
発光は、高温だけでは生成されない光である。これは、通常は低温で生じるため、冷体(cold body)放射線の一形態であるという点で白熱とは異なる。また、たとえば化学反応、電気エネルギー、素粒子の動きまたは結晶への応力によっても発生することがある。さらに、活性酸素ラジカルの存在を検出するための極めて感受性の高い方法となる。具体的には、ペルオキシダーゼなどの酵素の存在下で過酸化水素と反応すると内腔が光を放射する。正しい設定では、放出される光は過酸化水素濃度に比例する。過酸化水素溶液を、修飾されたさまざまな生物材料表面の試料と一緒に予備インキュベーションすることで、ラジカル捕捉特性を測定することが可能である。このように、同じ直径の機械加工したチタン表面と比べて、サンドブラスト処理した表面と5%過酸化物の前処理表面(これも本発明による)との予備インキュベーションによって、放出される光は約20%まで減少した。
【0132】
結論
本願発明者らが非常に驚いたことに、本発明によるチタン、1種または複数種の酸化チタンまたはチタン合金の粒または細粒をインプラントとして使用すると、炎症/感染を発症する危険性が実質的に低減されるだけでなく、これらのインプラント自体は、すでに炎症/感染が生じている部位に注入されると、このような部位の炎症や感染をなくす機能がある(実施例2および3を参照)ことを見いだした。言葉を変えると、本発明によるチタン、1種または複数種の酸化チタンまたはチタン合金のインプラントを、たとえば、他のチタンインプラントの隣で炎症部位に適用し、炎症および感染の治癒および細菌による攻撃の回避を実現できる。本発明によるインプラントは、たとえば、リウマチ関節症、歯周炎の制御あるいは、たとえば骨感染(骨髄炎)に対する整形外科処置にも使用できるものである。
【0133】
また、本発明によるインプラントを、感染を根絶し、並外れてわずかな炎症反応で、歯槽充填および歯根尖周囲肉芽腫にうまく使用することが可能である。さらに、本発明によるインプラントは、広義には人体または動物の体における局所的な炎症および感染の治療、しかしながら、特に骨感染の治療にも適用できるものである。本発明によるインプラントは、感染または炎症の潜在的な可能性のある人体または動物の体の部位への導入用として適用できるものである。一例として、他の医療機器、たとえば、カテーテルおよび他の皮膚または粘膜貫通インプラントが導入されている体の部位がある。治療対象となる考えられる症状の具体例は、上述したように、歯周炎、インプラント周囲炎および骨炎である。
【0134】
結果から明らかなように、少なくとも1つの粒または細粒を含む本発明によるインプラントは、抗炎症および抗菌効果の観点で効果的である。これは、別のインプラント材料と比較した場合に本発明の未処理の粒または細粒でも有効である(実施例2参照)であるが、粒または細粒を本発明に従って処理すると効果が高まる(実施例3を参照のこと)。
【0135】
References
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11. Guang Pu Xue Yu Guang Pu Fen Xi. 2002 Oct;22(5):783-6. Study on nanophase anatase-rutile transition with Raman spectrum.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗炎症効果または抗菌効果あるいはその両方を有する、人体または動物の体に注入することを想定したインプラントであって、少なくとも1つの多孔質粒または細粒を含み、少なくとも1つの多孔質粒または細粒が、
−チタン、1種または複数種の酸化チタンまたはチタン合金を含み、表面に酸化チタン層を有し、
−一方の側から幾何学的中心を通って反対側までの平均長が最大5mmであり、
−平均比表面積がBET法で少なくとも0.15m/gである、
インプラント。
【請求項2】
少なくとも1つの多孔質粒または細粒の一方の側から幾何学的中心を通って反対側までの平均長が、少なくとも200μmおよび最大2mmである、
請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
少なくとも1つの多孔質粒または細粒が、少なくとも1つのフッ素化合物、塩酸、硫酸、亜リン酸、過酸化水素(H)および有機過酸化物からなる群から選択される過酸化物化合物またはシュウ酸またはこれらの組み合わせで処理されるか、フッ素化ガスまたは塩素化ガスでドライエッチング処理された、
請求項1または2に記載のインプラント。
【請求項4】
フッ素化合物が、どのようなタイプのフッ酸、フッ化水素酸(硝酸との組み合わせ)、フッ化アンモニウム、重フッ化アンモニウム(同じく硝酸との組み合わせ)またはフッ化水素(HF)であってもよい、
請求項3に記載のインプラント。
【請求項5】
濃度が、フッ化物酸(fluoride acid)であれば0.05から1.0%、過酸化水素であれば0.5から30.0%、シュウ酸であれば0.2から20.0%である、
請求項3または4に記載のインプラント。
【請求項6】
濃度が、フッ化物酸(fluoride acid)であれば約0.2%、過酸化水素であれば約30%、シュウ酸であれば約10%である、
請求項5に記載のインプラント。
【請求項7】
少なくとも1つの多孔質粒または細粒が、酸化雰囲気中にて20から1000℃の温度での熱処理および/または電気化学的手法で酸化される、
請求項1〜6のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項8】
少なくとも1つの多孔質粒または細粒が、表面積を大きくするために放電加工で陽極酸化されている、
請求項1〜7のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項9】
少なくとも1つの多孔質粒または細粒が放電加工の手法で生成され、この手法では、少なくとも1つの多孔質粒または細粒を、可撓性のネットまたは多孔質スポンジ状構造を使用して陽極と接触させる、
請求項1〜8のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項10】
陽極酸化を伴う表面の前処理によって、少なくとも1つの多孔質粒または細粒に酸化チタンのナノチューブが付加される、
請求項1〜9のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項11】
フッ化水素酸(HF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化ナトリウム(NaF)、グリセロール、(NHSOまたは(NH)Fまたはこれらの組み合わせを含む電解質溶液中での陽極酸化を伴う表面の前処理によって、少なくとも1つの多孔質粒または細粒に酸化チタンのナノチューブが付加される、
請求項1〜10のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項12】
少なくとも1つの多孔質粒または細粒が、不活性雰囲気または真空中で、500℃またはこれよりも高いが、チタン、1種または複数種の酸化チタンまたはチタン合金の融点よりは低い温度で熱処理されている、
請求項1〜11のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項13】
少なくとも1つの多孔質粒または細粒がHFまたはHで処理され、その平均比表面積がBET法で少なくとも0.25m/gである、
請求項1〜12のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項14】
少なくとも1つの多孔質粒または細粒がHFで処理され、その平均比表面積がBET法で少なくとも0.40m/gである、
請求項1〜13のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項15】
少なくとも1つの多孔質粒または細粒が酸化され、少なくとも500nmのかなりの厚さの酸化チタン層を表面に有し、そして黄色がかっているおよび/または白っぽい、
請求項1〜14のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項16】
少なくとも1つの多孔質粒または細粒の少なくとも一部に、厚さが30〜500nmの範囲のチタンまたはチタン合金の外層が付加される、
請求項15に記載のインプラント。
【請求項17】
少なくとも1つの多孔質粒または細粒が酸化され、その平均比表面積がBET法で少なくとも0.40m/gである、
請求項1〜16のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項18】
生物学的に活性な少なくとも1種の物質が、少なくとも1つの多孔質粒または細粒の細孔に充填されるおよび/または少なくとも1つの多孔質粒または細粒の表面に結合される、
請求項1〜17のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項19】
少なくとも1種の物質が、抗生物質、組織の成長または再生を促進する因子あるいはこれらの組み合わせを含む、
請求項18に記載のインプラント。
【請求項20】
少なくとも1種の物質が、骨形態形成因子、アレンドロネート(andronate)、αケトグルタル酸、シンバスタチン、ゲンタマイシンまたは合成コラーゲンI型またはこれらの組み合わせである、
請求項19に記載のインプラント。
【請求項21】
少なくとも1種の物質が、少なくとも1種の活性エナメル物質であり、活性エナメル物質が、エナメルマトリクス、エナメルマトリクス誘導体またはエナメルマトリクスタンパク質またはこれらの組み合わせである、
請求項19に記載のインプラント。
【請求項22】
少なくとも1種の活性エナメル物質が、エナメリング、アメロゲニン、非アメロゲニン、高プロリン非アメロゲニン、アメリン(アメロブラスチン、シースリン)、タフテリン、房タンパク質、唾液タンパク質、DSP、DSPP、これらの誘導体およびこれらの組み合わせならびに混合物からなる群から選択される、
請求項21に記載のインプラント。
【請求項23】
少なくとも1種の活性エナメル物質がアルギン酸プロピレングリコール(PGA)と混合される、請求項21または22に記載のインプラント。
【請求項24】
インプラントがさらに少なくとも1種の流体ビヒクルと混合される、
請求項1〜23のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項25】
少なくとも1種の流体ビヒクルが、NaCl(水溶液)、ヒアルロン酸、PEG、アルギン酸プロピレングリコール(PGA)、過酸化チタンゲル、メチルセルロース、カルボメチルセルロース、デキストラン、高粘性ポリマーゲル、タンパク質溶液またはこれらの組み合わせからなる群から選択される、
請求項24に記載のインプラント。
【請求項26】
少なくとも1種の流体ビヒクルが、溶融温度が周囲温度より高く37℃(体温)未満のゲルに含まれ、このゲルが任意に、NaCl(水溶液)、ヒアルロン酸、PEG、アルギン酸プロピレングリコール(PGA)、過酸化チタンゲル、メチルセルロース、カルボメチルセルロース、デキストラン、高粘性ポリマーゲル、タンパク質溶液のうちの少なくとも1つを含む、請求項24または25に記載のインプラント。
【請求項27】
請求項1〜26のいずれか一項に記載のインプラントを、人体または動物の体の炎症部位/感染部位と接触させる、人体または動物の体に存在する炎症または/および感染を含む症状を治療するための方法。
【請求項28】
歯周炎、インプラント周囲炎、骨炎からなる群から選択される症状を治療するための方法であって、請求項1〜26のいずれか一項に記載のインプラントを、治療される前記症状に典型的である部位と接触させる方法。
【請求項29】
波長λが200〜500nmのUV光線で、in vivoにてインプラントをさらに処理する、
請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
UV光線の波長λが250〜350nmである、
請求項29に記載の方法。
【請求項31】
薬剤として使用される、
請求項1〜26のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項32】
人体または動物の体に存在する炎症または/および感染を含む症状を治療するための薬剤の製造に用いる、
請求項1〜26のいずれか一項に記載のインプラントの使用法。
【請求項33】
歯周炎、インプラント周囲炎または骨炎からなる群からの症状を治療するための薬剤の製造に用いる、
請求項1〜26のいずれか一項に記載のインプラントの使用法。
【請求項34】
粗チタンまたはチタン合金スポンジの切片から請求項1に記載のインプラントを製造するための方法であって、
−粗チタンまたはチタン合金スポンジの切片の多孔質周囲部分であるが最も外側ではない部分を選択して取り出すステップと、
−その部分を、不純物となり得る化学組成に関して分析するステップと、
−純粋であればその部分を破砕するステップと、
−最後に、篩にかけてバッチ分析することでインプラントを選択するステップと、を含み、バッチ分析が、走査型電子顕微鏡法(SEM)または窒素での気体吸収、Hg法および/またはBET法によって実施される、
方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−518961(P2010−518961A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550829(P2009−550829)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【国際出願番号】PCT/SE2007/000984
【国際公開番号】WO2008/103081
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(509230355)ティグラン テクノロジーズ アーベー(パブル) (2)
【Fターム(参考)】