説明

多孔質インプラント素材

【課題】人骨に近い強度特性を有し、ストレスシールディング現象の発生を回避しながらも骨との十分な結合性を確保する。
【解決手段】気孔率の異なる複数の金属体4,5が一の方向に平行な接合界面Fを介して接合されるとともに、これら金属体4,5の接合体全体の気孔率が50%〜92%であり、気孔率が高い金属体は、連続した骨格により形成される複数の気孔が連通した三次元網目状構造を有する多孔質金属体4であり、気孔率が低い金属体5は、気孔率が0〜50%で、かつ接合界面に沿う一の方向を軸心方向としたときに、該軸心方向に直交する方向の断面における面積占有率が0.5%〜50%であり、接合界面に沿う方向と平行な方向に圧縮したときの強度は、接合界面に直交する方向と平行な方向に圧縮したときの強度に対して1.4倍〜10倍とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内に埋め込まれるインプラントとして用いられる素材に係り、特に多孔質金属を用いたインプラント素材に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内に埋め込まれて用いられるインプラントとして、特許文献1〜3に記載のものがある。
特許文献1記載のインプラント(椎間スペーサ−)は、椎間板を除去した後の椎体の間に挿入配置して使用されるもので、その挿入を容易にするとともに、抜け難くする等のために、スペーサ−本体の上面及び下面が特殊な形状をしている。
特許文献2記載のインプラント(人工歯根)は、チタン又はチタン合金からなる中実柱状の芯材と、芯材の側面に配置されてチタン又はチタン合金から成り焼結により結合した多数の球状粒子と該球状粒子の間に形成された多数の連通孔とから成る多孔層とから構成されており、その多数の球状粒子はさらに金チタン合金からなる表面層を備え、該表面層により隣接する球状粒子が相互に結合されている。寸法が小さく且つ顎骨との結合強度が高い人工歯根として提案されている。
【0003】
特許文献3記載のインプラントは、多孔質材料からなり、気孔率が高い第一部位と、気孔率が低い第二部位とから構成されている。この場合、例えば、グリーン状態チタン発泡体形状のインプラントの第一部位の穴の中に、チタンインレー形状の完全なる高密度物質で作られるインプラントの第二部位を挿入して焼結することにより、第一部位が収縮して第二部位を固着する。そして、低い気孔率の第二部位がインプラントの操作又は固着を行うようになっており、気孔率が低いために、操作又は固着における粒子の摩耗が回避できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4164315号公報
【特許文献2】特許第4061581号公報
【特許文献3】特表2009−504207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種のインプラントは、生体内で骨の一部として用いられるものであるため、骨に対する優れた結合性と、骨の一部を負担するのに見合う強度とが求められるところ、骨との結合性を追求すると強度不足となり易く、逆に強度を追求すると骨との結合が不充分となるなど、これらを両立させることが難しい。
【0006】
この点、特許文献2及び特許文献3記載のインプラントは、中実の芯材と多孔層、あるいは気孔率が高い第一部位と気孔率が低い第二部位との複合構造となっているため、骨との結合性と、必要な強度との両方の要求に対応することができると考えられるが、一般に金属材料は強度が人骨よりも高いため、インプラントとして用いると、骨にかかる荷重のほとんどをインプラントが受けてしまい、ストレスシールディング現象(インプラントを埋め込んだ部分の周辺部の骨が脆弱化する現象)が生じる。
したがって、これらインプラントを人骨に近い強度とすることが求められるが、人間の骨は、六方晶系の結晶構造を持つ生体アパタイトとコラーゲン繊維の組み合わさった構造で、C軸方向に優先的に配向する強度特性を有している。このため、これら特許文献記載のように単純に複合構造とするだけでは、人骨に近いインプラントとすることは難しい。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、人骨に近い強度特性を有し、ストレスシールディング現象の発生を回避しながらも骨との十分な結合性を確保することができる多孔質インプラント素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の多孔質インプラント素材は、気孔率の異なる複数の金属体が一の方向に平行な接合界面を介して接合されるとともに、これら金属体の接合体全体の気孔率が50%〜92%であり、気孔率が高い金属体は、連続した骨格により形成される複数の気孔が連通した三次元網目状構造を有する多孔質金属体であり、気孔率が低い金属体は、気孔率が0〜50%で、かつ前記接合界面に沿う一の方向を軸心方向としたときに、該軸心方向に直交する方向の断面における面積占有率が0.5%〜50%であり、前記接合界面に沿う方向と平行な方向に圧縮したときの強度は、前記接合界面に直交する方向と平行な方向に圧縮したときの強度に対して1.4倍〜10倍とされていることを特徴とする。
【0009】
この多孔質インプラント素材は、特に、気孔率の高い多孔質金属体内の連通した複数の気孔内に骨が容易に侵入して骨と一体に結合することができる。また、気孔率の低い金属体が接合されているので、接合界面方向の圧縮強度が大きくなっている。したがって、接合体全体としては、その接合界面に沿う方向の圧縮強度とその直交方向の圧縮強度とが異なっており、人骨と同様の異方性を有する強度特性となっているので、人骨の強度の方向性と合わせて体内に埋め込むことにより、ストレスシールディング現象の発生をより有効に防止することができる。
この場合、全体の気孔率が50%未満では骨の侵入速度が遅く、インプラントとして骨との結合機能が不足する。気孔率が92%を超えると、圧縮強度が低く、インプラントとして骨を支持する機能が不足する。
また、気孔率の低い金属体の面積占有率が0.5%未満ではインプラント用素材としては強度不足になり易く、50%を超えると、骨侵入速度が遅く、インプラントが固定化されるまでに時間がかかる傾向にある。
また、複数の金属体を接合していることにより、種々のブロック状のものを容易に作製することができる。
なお、このように構成した素材をインプラントとして用いる場合に、必要に応じて前記一の方向に平行な方向とは異なる方向の接合界面によって接合した多孔質金属体又は金属体を加えてもよい。また、気孔率の低い金属体には、パンチングメタルやエキスパンドメタルのような溶製材に孔や空間部を形成したものも用いることができ、気孔率とは、これら孔や空間部を含む金属体全体の体積に占める孔や空間部の体積の比率とする。気孔率が0%のものは孔等を有しない板状等の溶製材であり、チタン板等の無垢材が用いられる。
【0010】
本発明の多孔質インプラント素材において、少なくとも気孔率が高い多孔質金属体に形成される気孔は、前記接合界面に沿う方向に長く、前記接合界面に直交する方向に短い扁平形状に形成されるとともに、前記接合界面に沿う方向の前記気孔の長さは、前記接合界面に直交する方向の長さに対して1.2倍〜5倍に形成されているとよい。
多孔質金属体と気孔率の低い金属体との接合構造としたことに加えて、気孔を扁平形状としたことにより、強度の方向性を容易に付与することができる。接合界面に沿う方向の気孔の長さと直交方向の長さとの比が1.2倍未満では強度が不足する場合があり、5倍を超えると、気孔が扁平になり過ぎて、骨の侵入速度が遅くなり結合が不充分になるおそれがある。
【0011】
本発明の多孔質インプラント素材において、前記気孔率が高い多孔質金属体は、金属粉末と発泡剤を含有する発泡性スラリーを成形して発泡及び焼結させてなる発泡金属であるとよい。
発泡金属は、連続した骨格と気孔による三次元網目状構造を容易に形成することができるとともに、発泡剤の発泡によって気孔率を広い範囲で調整することができ、用いられる部位に合わせて適切に使用することができる。
また、発泡金属は、表面の開口率を全体の気孔率とは独立に操作できるため、表面の金属密度を上げる(開口率を下げる)ことで、接合界面に沿う方向の強度が向上し、接合構造や気孔の偏平形状による強度特性と相俟って容易に異方性を付与することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多孔質インプラント素材によれば、特に多孔質金属体により骨の侵入を容易にすることができ、また、金属体の接合構造としたことにより、その接合界面に沿う方向の圧縮強度がその直交方向よりも高められるとともに、気孔率の低い金属体が特定の面積占有率で接合されていることにより、人骨に近い異方性を持った強度特性を有しており、このため、骨の方向と合わせて用いることにより、ストレスシールディング現象の発生を有効に回避することができ、かつ連通した気孔により骨の侵入が容易で、骨との十分な結合性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る多孔質インプラント素材の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1の多孔質インプラント素材における多孔質金属体の断面を示す模式図である。
【図3】多孔質金属体を製造するための成形装置を示す概略構成図である。
【図4】多孔質インプラント素材の他の実施形態を模式的に示す平面図である。
【図5】実施例の多孔質インプラント素材の気孔の孔径分布を示すグラフである。
【図6】本発明のさらに他の実施形態を示す平面図である。
【図7】本発明のさらに他の実施形態を示す平面図である。
【図8】本発明のさらに他の実施形態を示す斜視図である。
【図9】多孔質金属体を製造するための他の成形装置を示す要部の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る多孔質インプラント素材の実施形態を図面を参照しながら説明する。
本実施形態の多孔質インプラント素材1は、連続した骨格2により形成される複数の気孔3が連通した三次元網目状構造を有する発泡金属からなる板状の多孔質金属体4と、パンチングメタル、エキスパンドメタル等の溶製材、又は通常の焼結金属、発泡度の低い低気孔率の発泡金属からなる金属体5とを一の方向に平行な接合界面Fを介して複数枚積層して構成されている。図示例では、多孔質金属体4と金属体5とは交互に積層されている。また、各多孔質金属体4等を構成する発泡金属は、後述するように、金属粉末と発泡剤等を含有する発泡性スラリーをシート状に成形して発泡させることにより形成したものであり、気孔3が表裏面及び側面に開口し、また、厚さ方向の中心部に対して表裏面近傍が密に形成されている。
【0015】
この発泡金属の多孔質金属板4と金属体5とを積層してなる多孔質インプラント素材1は、全体の気孔率が50%〜92%であり、図2に模式的に示したように、気孔率が高い多孔質金属体4は、内部の気孔3が、表面に沿う方向(接合界面Fに沿う方向、図2では上下方向)に長く、表面に直交する方向(厚さ方向、図2では左右方向)に短い扁平形状に形成されている。
この場合、多孔質金属体4の表面(接合界面F)に沿う各気孔3の長さ(気孔3の長手方向の長さ)Yは、表面(接合界面F)に直交する方向の長さXに対して1.2倍〜5倍に形成されている。一方、金属体5には、溶製材からなるもの、及び通常の焼結金属からなるものには機械加工等によって複数の孔6が形成され、また、低気孔率の発泡金属からなるものにも多数の気孔(多孔質金属体4の気孔3と区別するため、金属体5の気孔も孔6と称する)が形成されているので、これら孔6を介して多孔質金属体4の気孔3が連通状態となっている。金属体5の孔6は、金属体5全体の体積に対する占有率が0〜50%とされており、本発明においては、この孔6の占有率も気孔率と称している。孔6の占有率が0%というのは、孔6を有しない無垢材を示す。
【0016】
そして、この多孔質インプラント素材1では、接合界面Fに沿う一の方向を生体に埋め込む際の軸心方向Cとされ、金属体5は、この軸心方向Cに直交する方向の断面における面積占有率が、金属体5の全体で、0.5%〜50%となる形状に形成されている。例えば、図1においては、上下方向に沿う方向が軸心方向Cとされ、この軸心方向Cに直交する水平断面における面積占有率(図1では上面における面積占有率)が0.5〜50%とされている。
そして、これら多孔質金属体4及び金属体5の接合体としては、図2の実線矢印で示す軸心方向C(気孔3の長手方向)と平行な方向に圧縮したときの強度が、破線矢印で示す軸心方向に直交する方向と平行な方向に圧縮したときの強度に対して1.4倍〜10倍とされている。
【0017】
次に、この多孔質インプラント素材1を製造する方法について説明する。
この多孔質インプラント1を構成する多孔質金属体4は、金属粉末、発泡剤等を含有する発泡性スラリーをドクターブレード法等によりシート状に成形して乾燥させることによりグリーンシートを形成し、このグリーンシートを脱脂、焼結工程を得て発泡させることにより、製造される。また、その際に、発泡剤の混入量が異なる複数のグリーンシートを作製しておき、これらを複数枚積層して焼結することにより多孔質金属体4,5の積層体とし、これをプレス又は圧延によって積層方向に圧縮することにより、多孔質インプラント1が製造される。
発泡性スラリーは、金属粉末、バインダ、可塑剤、界面活性剤、発泡剤を溶媒の水とともに混練して得られる。
【0018】
金属粉末としては、生体為害性のない金属やその酸化物等の粉末からなり、例えば、純チタン、チタン合金、ステンレス鋼、コバルトクロム合金、タンタル、ニオブ等、が用いられる。このような粉末は、水素化脱水素法、アトマイズ法、化学プロセス法などによって製造することができる。平均粒径は0.5〜50μmが好適であり、スラリー中に、30〜80質量%含有される。
【0019】
バインダ(水溶性樹脂結合剤)としては、メチルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシエチルメチルセルロース,カルボキシメチルセルロースアンモニウム,エチルセルロース,ポリビニルアルコールなどを使用することができる。
【0020】
可塑剤は、スラリーを成形して得られる成形体に可塑性を付与するために添加され、例えばエチレングリコール,ポリエチレングリコール,グリセリンなどの多価アルコール、鰯油,菜種油,オリーブ油などの油脂、石油エーテルなどのエーテル類、フタル酸ジエチル,フタル酸ジNブチル,フタル酸ジエチルヘキシル,フタル酸ジオクチル,ソルビタンモノオレート,ソルビタントリオレート,ソルビタンパルミテート,ソルビタンステアレートなどのエステル等を使用することができる。
【0021】
界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩,α‐オレフィンスルホン酸塩,アルキル流酸エステル塩,アルキルエーテル硫酸エステル塩,アルカンスルホン酸塩等のアニオン界面活性剤,ポリエチレングリコール誘導体,多価アルコール誘導体などの非イオン性界面活性剤および両性界面活性剤などを使用することができる。
【0022】
発泡剤は、ガスを発生してスラリーに気泡を形成できるものであればよく、揮発性有機溶剤、例えば、ペンタン,ネオペンタン,ヘキサン,イソヘキサン,イソペプタン,ベンゼン,オクタン,トルエンなどの炭素数5〜8の非水溶性炭化水素系有機溶剤を使用することができる。この発泡剤の含有量としては、発泡性スラリーに対して0.1〜5重量%とすることが好ましい。
【0023】
このように作成した発泡性スラリーSから、図3に示す成形装置20を用いて、多孔質金属体4,5とするためのグリーンシートを形成する。
この成形装置20は、ドクターブレード法を用いてシートを形成する装置であり、発泡性スラリーSが貯留されるホッパ21、ホッパ21から供給された発泡性スラリーSを移送するキャリヤシート22、キャリヤシート22を支持するローラ23、キャリヤシート22上の発泡性スラリーSを所定厚さに成形するブレード(ドクターブレード)24、発泡性スラリーSを発泡させる恒温・高湿度槽25、および発泡したスラリーを乾燥させる乾燥槽26を備えている。なお、キャリヤシート22の下面は、支持プレート27によって支えられている。
【0024】
〈グリーンシート成形工程〉
成形装置20においては、まず、発泡性スラリーSをホッパ21に投入しておき、このホッパ21から発泡性スラリーSをキャリヤシート22上に供給する。キャリヤシート22は図の右方向へ回転するローラ23および支持プレートPによって支持されており、その上面が図の右方向へと移動している。キャリヤシート22上に供給された発泡性スラリーSは、キャリヤシート22とともに移動しながらブレード24によって板状に成形される。
【0025】
次いで、板状の発泡性スラリーSは、所定条件(例えば温度30℃〜40°、湿度75%〜95%)の恒温・高湿度槽25内を例えば10分〜20分かけて移動しながら発泡する。続いて、この恒温・高湿度槽25内で発泡したスラリーSは、所定条件(例えば温度50℃〜70℃)の乾燥槽26内を例えば10分〜20分かけて移動し、乾燥される。これにより、スポンジ状のグリーンシートGが得られる。
【0026】
〈積層及び焼結工程〉
このようにして得られたグリーンシートGに、別に作製した金属体5を交互に積層した状態で脱脂・焼結することにより、多孔質金属体4と金属体5との積層体を形成する。具体的には、例えば真空中、温度550℃〜650℃、25分〜35分の条件下でグリーンシートG中のバインダ(水溶性樹脂結合剤)を除去(脱脂)した後、さらに真空中、温度700℃〜1300℃、60分〜120分の条件下で焼結する。気孔率の低い金属体5も、多孔質金属多い4と同様、純チタン、チタン合金、ステンレス鋼、コバルトクロム合金、タンタル、ニオブ等、が用いられる。
【0027】
このようにして得られる多孔質金属体4と金属体5との積層体のうち、多孔質金属体4は、連続した骨格2により形成される気孔3が連通した三次元網目状構造を有している。この多孔質金属体4は、キャリヤシート22上で成形したグリーンシートGが発泡、焼結されることにより形成されたものであり、キャリヤシート22に接していた面及びその反対面、つまり表裏面の近傍は厚さ方向の中心部に比べて密に(高い金属密度に)形成される。また、各多孔質金属体4は、その気孔3が表裏面に開口しているため、その積層体においても表裏に連続した気孔3となる。
なお、金属体5を低気孔率の発泡金属から形成する場合は、同様に三次元網目状構造を有する。また、金属体5を溶製材により形成する場合は、多孔質金属体4の焼結時の熱により多孔質金属体4と拡散接合される。
【0028】
〈圧縮工程〉
次いで、多孔質金属体4と金属体5との積層体を所定の圧力でプレス又は圧延することにより厚さ方向(積層方向)に圧縮する。
この圧縮工程により、気孔率が高い多孔質金属体4が優先的に圧縮され、内部の気孔3が押しつぶされることにより、表面に沿う方向(接合界面に沿う方向)に長く、表面に直交する方向(厚さ方向)に短い扁平形状となる。この気孔3が扁平形状となると、多孔質金属体4としては、扁平方向に平行な方向に圧縮したときの強度が、扁平方向に直交する方向に圧縮したときの強度よりも大きくなる。なお、金属体5を溶製材又は通常の焼結金属から形成する場合、金属体5は、この圧縮工程においては圧縮されない。また、金属体5を発泡金属により形成する場合でも、気孔率が低いので、この圧縮工程においてほとんど圧縮されず、気孔はほぼ球状のままであるが、わずかに圧縮されるようにしてもよい。
また、各多孔質金属体4は、前述したように表裏面近傍が密に形成されるため、その積層体は、各接合界面F付近が接合界面F間の中心部に比べて密になっている。
そして、この積層体は、溶製材又は気孔率が低い発泡金属、通常の焼結金属からなる金属体5が接合されていること、気孔率が高い多孔質金属体4の気孔3が押しつぶされて接合界面Fに沿う方向に長い扁平形状に形成されていること、及び接合界面F付近で多孔質金属体4が密となっていることから、接合界面Fと平行な方向(図2の実線矢印で示す方向)に圧縮したときの強度が、接合界面Fに直交する方向と平行な方向(厚さ方向、図2の破線矢印で示す方向)に圧縮したときの強度よりも大きいものとなる。
次に、この多孔質金属体4と金属体5との積層体を所望の外形に切断するのであるが、その際に、接合界面Fに沿う一の方向を軸心方向Cとし、その軸心方向Cに直交する方向の横断面において、金属体5の占有面積が全体の0.5%〜50%となるように切断する。
【0029】
このように製造される多孔質インプラント素材1は、全体としては50%〜92%の気孔率を有する多孔質であるため、インプラントとして用いたときに骨の侵入が容易で、骨との結合性に優れており、また、圧縮強度に異方性を有して、人骨に近い強度特性を有していることから、骨の一部として使用する場合、人骨の強度の方向性に合わせて体内に埋め込むことにより、ストレスシールディング現象の発生を効果的に回避することができる。具体的には、多孔質インプラント素材1の接合界面Fに沿う軸心方向Cを骨のC軸方向に合わせるとよい。
【0030】
また、人骨は中心部の海綿骨とその回りを囲む皮質骨とから構成されているが、この多孔質インプラント素材を海綿骨として用いる場合は、軸心方向Cの圧縮強度は4〜70MPa、その圧縮の弾性率は1〜5GPaが好ましく、皮質骨として用いる場合は、軸心方向Cの圧縮強度は100〜200MPa、その圧縮の弾性率は5〜20GPaが好ましい。いずれの場合も、軸心方向Cの圧縮強度は、軸心方向Cに直交する方向の圧縮強度に対して1.4倍〜10倍の大きさとなるように方向性を有しているのが良い。
【0031】
図4は他の実施形態を示している。前述の実施形態では、多孔質金属体4及び金属体5を板状に形成して積層したが、この実施形態の多孔質インプラント素材11では、柱状に形成した金属体5の周囲に気孔率の高い多孔質金属体4が囲むように配置され、全体として円柱状に形成されている。したがって、接合界面Fは円筒面状に形成される。軸心方向Cは、円柱の長手方向と一致する。
この多孔質インプラント素材11は、前述したようにドクターブレード法によってグリーンシートを形成し、金属体5の回りにグリーンシートを巻き付けるようにして組み合わせ、その組み合わせ状態で焼結することにより円柱状の焼結体(中心部が金属体5、その回りが多孔質金属体4)を形成し、その焼結体を転がしながら径方向に圧縮することにより、製造することができる。転がしながら圧縮することにより、気孔率の高い多孔質金属体4の気孔は、半径方向に押しつぶされ、円柱の長手方向及び周方向に沿う湾曲した扁平形状となる。
したがって、この多孔質インプラント素材11は、径方向の圧縮強度に比べて、円柱の長手方向(軸心方向C)の圧縮強度が高いものとなり、この軸心方向Cを骨の強度特性に合わせて埋め込めばよい。
【実施例】
【0032】
スラリー発泡法を用いてグリーンシートを作製し、そのグリーンシートから多孔質金属体を作製した。原料としては、平均粒径20μmのチタンの金属粉末、バインダとしてポリビニルアルコール、可塑剤としてグリセリン、界面活性剤としてアルキルベンゼンスルホン酸塩、発泡剤としてヘプタンを、溶媒の水とともに混練することにより、スラリーを作製した。そのスラリーを板状に成形し、乾燥させることで、グリーンシートを作製した。この場合、スラリー中の発泡剤の混合比等を変えることにより、発泡後の気孔率が異なるものになる二種類のグリーンシートを作製し、これらグリーンシートを交互に積層して、脱脂、焼結することにより、気孔率の高い多孔質金属体と気孔率の低い金属体との積層体を得た。この積層体を圧延機で圧縮し、気孔率が低い金属体が適宜の面積占有率となるように切断して、各種のインプラント素材を作製した。
図5は、圧縮強度の気孔率等の依存度を示すグラフである。この図5において、[気孔率16%+気孔率85%組み合わせ」は、気孔率が85%の多孔質金属体と、気孔率が16%の金属体とを組み合わせたものであり、金属体の積層枚数を変更することで、気孔率が低い金属体の面積占有率が10%、15%、20%となるように組み合わせることにより、全体の気孔率を調整した。
また、「パンチングメタル+気孔率85%組み合わせ」は、金属体として2mmの直径の孔が20%の開口率(気孔率)で形成されたチタン製のパンチングメタルを用いたものである。この場合も、金属体の積層枚数を変更することで、金属体の面積占有率を10%、20%となるように組み合わせ、全体の気孔率を調整した。
「気孔率16%+気孔率85%組み合わせ+Y:X=3.3:1」は、気孔率が85%の多孔質金属体と、気孔率が16%の金属体とを組み合わせたものを圧縮することにより、多孔質金属体の気孔を扁平にしたものである。圧延機で圧縮した面に平行な方向の気孔の長さYと、その面に直交する方向の長さXとの比率(Y/X;扁平度とする)がY:X=3.3:1の扁平形状とした。気孔の扁平度は、倍率20倍の光学顕微鏡観察写真から、形状の確認し易い気孔を5〜10個選定し、各気孔のYとXの長さを画像から求めて扁平度を算出し、それらの平均値を当該試料の扁平度とした。
また、比較例として、図中「無積層」と表記したもので、気孔率が85%の多孔質金属体のみからなるものも作製した。
圧縮強度は、JIS H 7902(ポーラス金属の圧縮試験方法)に基づき測定した。
【0033】
この図5に示されるように、実施例のものは「無積層」のものに比べて、同じ気孔率でも圧縮強度の高いものが得られており、適切な気孔率に調整することにより、インプラントとして適当と考えられる幅広い圧縮強度のものを作製できることがわかる。
【0034】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、気孔率が高い多孔質金属体と気孔率が低い多孔質金属体との二種類の気孔率の多孔質金属体を接合した例としたが、三種類以上の気孔率の多孔質金属体を接合してもよい。
【0035】
また、複数の多孔質金属体を接合する場合、実施形態のように板状のものを積層する形態以外にも、図6〜図8に示すような種々の形態とすることができる。これらの図において、気孔率の異なる多孔質金属体について、図1と同様の符号を用いることとし、気孔率の高い多孔質金属体を符号4、気孔率の低い金属体を符号5とする。例えば、図6に示す多孔質インプラント素材12は、図4に示すものに対して気孔率の低い柱状の金属体5を複数設けたもの、図7に示す多孔質インプラント素材13は気孔率の低い金属体5と気孔率の高い多孔質金属体4とを同心円の多重円状に配置したもの、図8に示す多孔質インプラント素材14は、十字ブロック状に形成した気孔率の低い金属体5の四隅に直方体ブロック状に形成した気孔率の高い多孔質金属体4を組み合わせたものである。これらの製造においては、特定の金属体に板状の多孔質金属体を巻き付ける、板状の多孔質金属体を丸める、などの方法も採用することができる。気孔の扁平方向は、図8はC方向として図示しており、図6及び図7は紙面に直交する方向である。
【0036】
また、接合方法としては、グリーン体を組み合わせて焼結する方法以外にも、個々に焼結したものを組み合わせて拡散接合する方法も可能である。そして、これらを圧縮する場合、図6及び図7に示す円柱状の外形を有するものは、図4に示す実施形態の場合と同様に、多孔質金属体の接合体を転がしながら径方向に圧縮するようにしてもよい。この圧縮工程も、焼結する前のグリーン体の状態で圧縮してもよいし、焼結した後に圧縮してもよい。
いずれの場合も、これらの接合界面Fは一の方向に平行となっていることが重要であり、扁平な気孔による強度の方向性と相俟って、接合界面Fに平行な方向の圧縮強度を接合界面Fに直交する方向の圧縮強度に対して大きくすることができる。なお、インプラントとして用いる場合に、目的とする強度の方向性を確保できれば、必要に応じて気孔の扁平方向(一の方向)に平行な方向とは異なる方向の接合界面によって接合した多孔質金属体又は気孔率の低い金属体を加えてもよい。
また、スラリーをドクターブレード法によってシート状に成形する場合、図6に示すように、ホッパを複数並べて、発泡剤の混入量の異なる発泡性スラリーを積層状態に供給して、積層状態のグリーンシートを成形するようにしてもよい。
【0037】
さらに、このようなドクターブレード法によって発泡、成形する方法以外にも、減圧発泡による方法としてもよい。具体的には、スラリーから気泡および溶存ガスを一旦除去した後に、そのスラリーに添加ガスを導入しながら攪拌することにより、スラリー中に添加ガスからなる気泡核を分散形成した状態に発泡性スラリーを製造する。そして、この気泡核を含むスラリーを所定圧力に減圧するとともに、その所定圧力におけるスラリーの凝固点を超え沸点未満の予備冷却温度に保持することにより、気泡核を膨張させ、その気泡核の膨張により体積が増大したスラリーを真空凍結乾燥させる。このようにして形成したグリーン体を焼結して多孔質焼結体を形成するという方法である。
【符号の説明】
【0038】
1 多孔質インプラント素材
2 骨格
3,3A,3B 気孔
4 気孔率の高い多孔質金属体
5 気孔率の低い金属体
11 多孔質インプラント素材
12〜14 多孔質インプラント素材
F 接合界面
C 軸心方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気孔率の異なる複数の金属体が一の方向に平行な接合界面を介して接合されるとともに、これら金属体の接合体全体の気孔率が50%〜92%であり、気孔率が高い金属体は、連続した骨格により形成される複数の気孔が連通した三次元網目状構造を有する多孔質金属体であり、気孔率が低い金属体は、気孔率が0〜50%で、かつ前記接合界面に沿う一の方向を軸心方向としたときに、該軸心方向に直交する方向の断面における面積占有率が0.5%〜50%であり、前記接合界面に沿う方向と平行な方向に圧縮したときの強度は、前記接合界面に直交する方向と平行な方向に圧縮したときの強度に対して1.4倍〜10倍とされていることを特徴とする多孔質インプラント素材。
【請求項2】
少なくとも気孔率が高い多孔質金属体に形成される気孔は、前記接合界面に沿う方向に長く、前記接合界面に直交する方向に短い扁平形状に形成されるとともに、前記接合界面に沿う方向の前記気孔の長さは、前記接合界面に直交する方向の長さに対して1.2倍〜5倍に形成されていることを特徴とする請求項1記載の多孔質インプラント素材。
【請求項3】
前記気孔率が高い多孔質金属体は、金属粉末と発泡剤を含有する発泡性スラリーを成形して発泡及び焼結させてなる発泡金属であることを特徴とする請求項1又は2記載の多孔質インプラント素材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−100848(P2012−100848A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251433(P2010−251433)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】