説明

多孔質インプラント

【課題】インプラントの操作および/または固着における摩耗粒子生成物を回避するとともに、多孔質インプラントに安定的な機械的固定手段を提供する。
【解決手段】成形された本体を有するインプラント(1)において、グリーン状態チタン発泡体(8)の平均気孔率Pは前記インプラント(1)の平均気孔率Pよりも大きく、かつ強化層(9)の平均気孔率Pより大きく、第一部位(2)の前記平均気孔率Pの範囲は30−90%であり、前記平均気孔率P、P及びPのうち少なくともいずれか一つは勾配を有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前段に基づくインプラントに関する発明である。
【0002】
このようなインプラントは特に、脊椎インプラントまたは顎顔面インプラントのような外傷外科分野に使用される。
【背景技術】
【0003】
このようなインプラントを操作するとともにこれらを骨に固着するために、インプラントの焼結本体内の穴に皿頭をネジ込む方法が使用される。しかしながら、本体の高い表面粗度のせいで、道具の操作と固着ネジのような固着手段の導入はインプラントからの摩耗粒子をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、インプラントの操作および/または固着における前記の摩耗粒子生成物を回避するとともに、多孔質インプラントに安定的な機械的固定手段を提供するのを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は請求項1の特徴を示すインプラントをもって設定問題を解決する。
【0006】
前記インプラントの第一部位より低い平均気孔率を有するインプラントの第二部位のおかげで、インプラントの操作および固着における焼結材料の摩耗粒子が回避される。
【0007】
冶金技術とセラミック技術において、相互連結する穴を有する形成体を製造する多数の方法が開示されている。焼結成形体の基本的な製造方法は公開されている。
【0008】
チタン発泡体:たとえば、独国特許出願公開第19638927号A明細書、国際公開第03/101647号A2パンフレットおよび国際公開第01/19556号パンフレット。これらの内容が本願に組み込まれている。
多孔的ニチノール:米国特許第5,986,169号明細書。
多孔的タンタラム:米国特許第5,282,861、欧州特許第0560279号明細書。
インプラントの多孔性金属および金属コーティング:国際公開第02/066693号パンフレット。
【0009】
例えば、骨ネジによる固着、または道具によるインプラントの操作に適する表面構造を達成するために、完全な高密度物質からなるインレー、たとえばチタンインレーがインプラント内の対応する開口に埋め込まれる。チタンインレーは、たとえば穴のような手段を備え、前記インプラントを操作するための道具との連携を可能とし、または前記インプラントを骨に固着する固着手段の収納を可能とし、それによってこれらの手段は道具または固着手段の完全な咬合に対して高い幾何学的耐性を可能にし、操作または固着においてチタン摩耗粒子をもたらさない。焼結プロセスが達成される前に、インレーおよび「グリーン」状態のチタン発泡体は結合される。そこで、インレーはグリーン本体内の穴に挿入され、それにより、インレーは穴の内に隙間を有するかまたはグリーン体に緩く付着される。焼結工程におけるチタンの縮みによってインプラントの焼結後の状態においてインレーは固く固定される。
【0010】
焼結工程において、インレーは穴の中でその正しい位置を保つが、それは、隙間のある穴に挿入された場合の重力、または、グリーン体内の孔壁12に連結するインレーの外壁における小突子の緩いシートにより達成される。
【0011】
あるいは、チタンのような堅くて延性がある素材により、インプラントの第一部位の泡構造の孔壁は伝統機械加工(例えば回転、圧延(milling)など)の間に、「スミアリング(smeared)」される。スミアリングの効果は固着接触面における平滑表面の取得に使われるが、たとえば、その手段は前記インプラントを操作するための道具との連携を可能にし、または前記インプラントの骨への固着における固着手段の収容を可能にする。前記の手段は雌ネジに構成されるのが好ましい。しかしながら、焼結工程の後に機械加工された多孔構造を有するインプラントを掃除するのは非常に難しい。汚染及びスミアリング効果は機械加工のため、ワイヤーEDM(放電加工)または水ジェット切断のような代替工程により回避可能である。二つの工程は表層面における開放気孔を保持させる。
【0012】
好ましい実施形態において、本体の第一部位は第二部位と同じ素材で構成される。本体にある気孔の勾配により、インプラントの操作または固着における粒子の摩耗を回避できるように第二部位を製造可能である。
【0013】
別の実施形態において、本体の第一部位は第二部位と比べて別の素材で構成される。それをもって、本体の第二部位に低い気孔率を素材が選択されて粒子の摩耗なしにインプラントの操作および固着が可能になる利点が達成される。
【0014】
さらに別の実施例において、少なくとも一つの平均気孔率P<Pは勾配を有する。
【0015】
さらに別の実施例において、本体の第一部位の平均気孔率Pの範囲は30−90%であり、50−70%が好ましい。平均気孔率が前記の範囲内にあるのは機械的性質の最適な組み合わせであり、骨成長に最適な気孔率である。
【0016】
本体の第二部位の平均気孔率Pは10%以下であり、2%以下が好ましい。利点は、どんな摩耗粒子も生成しない滑面の取得を可能にする。
【0017】
別の実施形態において、第二部位は、焼結工程の前に第一部位と結合可能であるインレーの形状をする。焼結工程の後にインレーは、焼結後の第一部位の収縮により固く固定される。
【0018】
別の実施形態において、前記第二部位は、前記インプラントを操作するための道具との連携を可能にし、または前記インプラントを骨に固着する固着手段の収容を可能にする手段を備える。
【0019】
別の実施形態において、本体の第一部位は無機素材、好ましくは金属またはセラミック素材から構成される。前記の無機素材は生体適合素材または燒結セラミック、好ましくは、生体適合鋼鉄、チタンおよびチタン合金、タンタラムおよびタンタラム合金、生体適合性NiTi合金、マグネシウムおよびマグネシウム合金のグループから選択可能である。
【0020】
別の実施形態において、第一部位は相互連結した気孔を有するオープンポーラス金属発泡体から構成される。前記の金属発泡体は粉末冶金法またはコーティング工程、または燃焼合成またはその他の周知の発泡体製造工程により製造される。
【0021】
さらに別の実施形態において本体の第一部位は粉末冶金で得られる素材で構成され、スペースホルダー技術を使ってグリーン成形体および後の多孔焼結体を生産する。
【0022】
別の実施形態において、本体の第二部位は生体適合素材または金属合金、好ましくはチタン、鋼、タンタル、生体適合性NiTi合金から構成される。
【0023】
別の実施形態において、本体の第二部位は第一部位に比べてより小さい表層粗度を有する。
【0024】
さらに別の実施形態において、本体の第二部位は第一部位に比べてより高い密度を有する。
【0025】
発明に基づくインプラントの第一製造方法は、ネットシェイプインプラントである前記インプラントの焼結前に、前記の平均気孔率Pを有する素材で構成されるインレーが前記平均気孔率Pを有する素材で構成されるグリーン成形体の開口に入れられるステップを含む。
【0026】
方法の好ましい実施形態において、インレーは前記のグリーン成形体の開口に緩やかに入れられ、前記のインレーはグリーン本体の表面に立っている。
【0027】
方法の別の実施形態において、インレーはグリーン成形体の前記の開口内に入れられ、成形体の一部の壁に触れるとともにインレーは主に摩擦により引き留められる。
【0028】
発明に基づくインプラントの次の製造方法は、圧力または熱膨張格差による前記の第一部位の焼結後に、前記の平均気孔率Pを有する素材で構成されるインレーが前記インプラントの前記第一部位の開口に入れられるステップを含む。
【0029】
発明および発明の更なる構成は幾つかの実施形態の部分的略図において詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】発明に基づく成形インプラント実施形態の斜視図を示す。
【図2】グリーン状態にある図1で示される成形インプラント実施形態の平面図を示す。
【図3】焼結後の最終状態にある図1と2で示される成形インプラント実施形態の平面図を示す。
【図4】グリーン状態にある発明に基づく成形インプラントの別の実施形態の断面図を示す。
【図5】最終工程における図4に示される成形インプラント実施形態と固着ネジの断面図を示す。
【図6】図4と図5で示す実施形態に基づくインレーの正面図を示す。
【0031】
下記の実施例をもって、発明に基づくインプラントとその製品についてさらに説明する。
【0032】
実施例1:(ネットシェイプ焼結により得られるインレーを有するインプラント)
グリーン状態チタン発泡体8形状のインプラントの第一部位2と、チタンインレー形状の完全なる高密度物質で作られるインプラントの第二部位3は焼結工程(図2)の前に結合される。図2で示される通り、インレー形状の第二部位3はグリーン状態チタン発泡体8の皿穴7に緩やかに入れられる。
【0033】
第二部位3すなわちインレーは手段4(図1)を含み、インプラント1を操作するための道具との連携を可能にし、またはインプラント1を骨に固着する固着手段の収容を可能にする。インプラント1の操作および/または固着における摩耗粒子の生成物を回避するために、第二部位すなわちインレーの素材の平均気孔率Pは、グリーン体の周囲の素材(例えば、30から90%の間)に比べてより低い(例えば、10%以下)。インレー状の第二部位3と第一部位2との機械的安定した方法による固着は、第一部位2と結合された第二部位3すなわちインレーを焼結することにより達成する。焼結工程におけるグリーン状態のチタン発泡体形状の第一部位2の縮みにより、第二部位3すなわちインレーは焼結された第一部位2(図3)に固く固着される。
【0034】
実施例2:(焼結後処理により得られるインレーを有するインプラント)
高密度の固着インレー状の第二部位3は焼結された第一部位2の発泡構造に挿入されるが、それは圧力(機械的)または第二部位3すなわちインレー上での第一部位2の焼結により達成される。第一部位2の焼結の後に、第二部位3すなわちインレーは第二部位3の皿穴7(図2)に、圧入または二つの部位2、3の間の熱膨張差を用いて機械的に挿入される(すなわち、外部の第一部位2を加熱および/または第二部位3すなわちインレーの冷却による縮小)。粒子の摩耗を回避するために、第一部位2の周囲素材が30%から90%までの気孔率を有する場合に、第二部位3の素材の気孔率は10%以下が好ましい。
【0035】
実施例3:(グリーン状態においてインレーが重力により位置を保つインプラント)
図1から3までは、第二部位3すなわちインレーが雌ネジ15(図1)を備えるとともに、チタン合金(TAN)からなり、チタン発泡体の第一部位2の強化層9の内部に位置することを示し、強化層9は10−20%の気孔率を有する。第二部位3すなわちインレーをインプラントホルダー(示されてない)と適合させる目的は、インプラント1内の雌ネジ15にネジ込むためである。
【0036】
焼結の前に、ネジ込まれた第二部位3すなわちインレーは、グリーン状態のチタン発泡体8(図2)の直立した第一部位2の皿穴7に入れられる。図2と3に基づく実施形態において、第二部位3すなわちインレーと皿穴7の壁との間に間隔「S」を有する。焼結工程の間、第二部位3すなわちインレーは、重力によりその位置を保つ。焼結において、強化層9(10−20%の気孔率)は大体10%縮み、第二部位3すなわちインレー(10%以下の気孔率)に固定される。
【0037】
実施例4(グリーン状態における摩擦により固定されるインレーを有するインプラント)
図4から6までの実施形態の場合において、第二部位3すなわちインレーの外壁11は、二つの六角形リング形状である突起部を備え、第二部位3すなわちインレーの中央軸6に同軸に設置される。穴5の直径dは、六角形リングのエッジ14の横断幅より若干小さいかまたは同じであり、それによって焼結工程の前において、第二部位3すなわちインレーがグリーン状態発泡体に緩やかに付着される。さらに六角形リングは、焼結工程の後に第二部位3すなわちインレーと第一部位2の間に一つの軸と回転的ポジティブフィットを可能にする。一つの骨ネジ10を第二部位3すなわちインレーの穴5の雌ネジ15にねじ込むことが可能である。骨ネジ10により、外科手術においてインプラント1が骨に堅固に固定され易い。
【0038】
ネジ込まれた第二部位3すなわちインレーは、10%以下の気孔率を有する市販のチタンから構成されるのが好ましい。焼結の間、約60%の気孔率を有するグリーン状態のチタン発泡体8(図4)は両方向に約15%縮み、第二部位3すなわちインレーを固体リンク内に取り込む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプラント(1)であって、前記インプラント(1)は、
平均気孔率Pであって、
外壁(11)と、
前記インプラント(1)を操作するための道具との連携を可能にし、または前記インプラント(1)を骨に固着する固着手段の収容を可能にする手段(4)と
を備えるインレー(3)と;
平均気孔率Pであるグリーン状態チタン発泡体(8)と、
平均気孔率Pである強化層(9)と
を有する第一部位(2)と
を備え、
前記強化層(9)は前記グリーン状態チタン発泡体(8)と隣接しており、また前記外壁(11)の周囲にそして前記外壁(11)と接触して配置された孔壁(12)を有してなるインプラント(1)において、
前記平均気孔率Pは前記平均気孔率Pよりも大きく、かつ前記平均気孔率Pより大きく、前記第一部位(2)の前記平均気孔率Pの範囲は30−90%であり、前記平均気孔率P、P及びPのうち少なくともいずれか一つは勾配を有してなるインプラント(1)。
【請求項2】
前記インレー(3)は、前記外壁(11)の周囲に配置された一または複数の突起部(13)を備える請求項1に記載のインプラント(1)。
【請求項3】
前記一または複数の突起部(13)は六角形リング形状である請求項2に記載のインプラント(1)。
【請求項4】
前記第一部位(2)が、前記第二部位(3)と同じ素材からなることを特徴とする請求項1乃至3に記載のインプラント(1)。
【請求項5】
前記第一部位(2)が、前記第二部位(3)と異なる素材からなることを特徴とする請求項1乃至3に記載のインプラント(1)。
【請求項6】
前記平均気孔率P<Pの少なくとも一つが勾配を有することを特徴とする請求項1から5までのいずれか一項に記載のインプラント(1)。
【請求項7】
前記気孔率Pの範囲が30−90%で、好ましくは50−70%であることを特徴とする請求項1から6までのいずれか一項に記載のインプラント(1)。
【請求項8】
前記気孔率Pが10%以下で、好ましくは2%以下であることを特徴とする請求項1から7までのいずれか一項に記載のインプラント(1)。
【請求項9】
前記第二部位(3)がインレーの形状であることを特徴とする請求項1から8までのいずれか一項に記載のインプラント(1)。
【請求項10】
前記第二部位(3)は、前記インプラント(1)を操作するための道具との連携を可能にし、または前記インプラント(1)を骨に固着する固着手段を収容することを可能にする手段(4)を備えることを特徴とする請求項1から9までのいずれか一項に記載のインプラント(1)。
【請求項11】
前記第一部位(2)が無機材料、好ましくは金属またはセラミック材料からなることを特徴とする請求項1から10までのいずれか一項に記載のインプラント(1)。
【請求項12】
前記無機材料が、生体適合性材料または焼結セラミック、好ましくは生体適合性鋼、チタンおよびチタン合金、タンタラムおよびタンタラム合金、生物適合性NiTi合金、マグネシウムおよびマグネシウム合金のグループから選択されることを特徴とする請求項11に記載のインプラント(1)。
【請求項13】
前記第一部位(2)が、相互連結した気孔を有するオープンポーラス金属発泡体からなることを特徴とする請求項1から12までのいずれか一項に記載のインプラント(1)。
【請求項14】
前記金属発泡体が、粉末冶金法またはコーティング工程、または燃焼合成またはその他の周知発泡体製造工程により製造されることを特徴とする請求項13に記載のインプラント(1)。
【請求項15】
前記第一部位(2)が粉末冶金で得られる素材で構成され、スペースホルダー技術を使用してグリーン成形体とその後の多孔焼結体を生産することを特徴とする請求項1から14までのいずれか一項に記載のインプラント(1)。
【請求項16】
前記第二部位(3)が生体適合性金属または金属合金、好ましくはチタン、鋼、タンタル、生体適合性NiTi合金からなることを特徴とする請求項1から15までのいずれか一項に記載のインプラント(1)。
【請求項17】
前記第二部位(3)が前記第一部位(2)に比べてより小さい表層粗度を有することを特徴とする請求項1から16までのいずれか一項に記載のインプラント(1)。
【請求項18】
前記第二部位(3)が前記第一部位(2)に比べてより高い密度を有することを特徴とする請求項1から17までのいずれか一項に記載のインプラント(1)。
【請求項19】
前記平均気孔率Pである素材で構成されるインレーが、ネットシェイプである前記インプラントの焼結前に、前記平均気孔率Pである素材で構成されるグリーン成形体の開口に入れられることを特徴とする請求項1から18までのいずれか一項に記載のインプラント(1)の製造方法。
【請求項20】
前記インレーが前記グリーン成形体の開口に緩く入れられ、前記インレーが前記グリーン体の表層に立っていることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記インレーがグリーン成形体の前記開口の中に入れられ、成形体の一部の壁に接触し、そこでインレーが主に摩擦により引き留められることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記平均気孔率Pである素材で構成されるインレーが、圧力または熱膨張差の使用による前記第一部位(2)の焼結の後に、前記インプラントの前記部位(2)の開口の中に入れられることを特徴とする請求項1から18までのいずれか一項に記載のインプラント(1)の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−125604(P2012−125604A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−62878(P2012−62878)
【出願日】平成24年3月19日(2012.3.19)
【分割の表示】特願2008−525356(P2008−525356)の分割
【原出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(507215725)シンセス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (53)
【氏名又は名称原語表記】SYNTHES GMBH
【Fターム(参考)】