説明

多孔質ナノ材料分散体及びその製造方法

【課題】ナノ材料の有する特性及び機能性を維持したナノ材料含有バルク体、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】まず。ナノ材料を分散剤によって液体中に分散させ、ナノ材料分散液を調製する(分散工程)。その後、前記ナノ材料分散液を凍結乾燥し、多孔質バルク体とする(凍結乾燥工程)。こうして得られる本発明の多孔質ナノ材料分散体は、分散剤の多孔質バルク体中に、特性及び機能性を維持した状態でナノ材料が保持させており、安価かつ容易に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ等のナノ材料を、分散剤の多孔質バルク体中に含有させた多孔質ナノ材料分散体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブをはじめとするナノ材料は、様々な特性及び機能性が明らかとなってきており、それらの製造方法についても多くの研究がなされている。しかし、実際的な利用技術(ハンドリング技術)の確立が、実用化に向けての大きな課題の一つとなっている。
【0003】
特に、カーボンナノチューブは、水素吸蔵や半導体デバイス等への応用が期待され、多くの研究がなされてはいるが、その発見から十数年経過しても、未だ産業的に応用された例は極めて少ない。
【0004】
従来、カーボンナノチューブ等のナノ材料を含有するバルク状材料の作製例は少ないが、カーボンナノチューブを構造化して配置することを特徴とするカーボンナノチューブ構造体及びその製造方法が、特許文献1に開示されている。また、カーボンナノチューブ相互間に電気的及び/又は磁気的な接続状態を含むネットワークを形成させることを特徴とするカーボンナノチューブ構造体、及びその製造方法が、特許文献2に開示されている。
【0005】
また、均質な特性を備えたカーボンナノチューブ構造体及びその製造方法が、特許文献3に開示されている。また、官能基が結合した複数のカーボンナノチューブの該官能基間を化学結合させて相互に架橋した網目構造を構成する第1のカーボンナノチューブ構造体と、官能基が結合した複数のカーボンナノチューブの該官能基間を化学結合させて相互に架橋した網目構造を構成するとともに、前記第1のカーボンナノチューブ構造体の該網目構造と複合してなる第2のカーボンナノチューブ構造体とを備えることを特徴とするカーボンナノチューブ複合構造体及びその製造方法が、特許文献4に開示されている。
【0006】
また、遠心分離を行うことなく、分散した単層カーボンナノチューブを含み近赤外域に蛍光を発するカーボンナノチューブ含有物質の作成方法が、特許文献5に開示されている。
【特許文献1】特開2002−264097号公報
【特許文献2】特開2002−346996号公報
【特許文献3】特開2005−41835号公報
【特許文献4】特開2005−96055号公報
【特許文献5】特開2007−320828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1〜5においては、カーボンナノチューブ構造体等のバルク体が、元のカーボンナノチューブ等のナノ材料の特性及び機能性を反映することを示すデータは開示されていない。
【0008】
本発明は、ナノ材料の有する特性及び機能性を維持したナノ材料含有バルク体、及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の分散剤を用いてカーボンナノチューブ等のナノ材料を溶液中に分散させてナノ材料分散液とし、その後、凍結乾燥させれば、分散剤の多孔質バルク体中に、特性及び機能性を維持した状態でナノ材料を保持させることを見出し、本発明を完成させるに至った。なお、本発明でいうCMCには、CMCの誘導体も含まれ、後述するペルフルオロスルホン酸(PFS)には、PFSの誘導体も含まれる。
【0010】
具体的に、本発明は、
ナノ材料を分散剤によって液体中に分散させ、ナノ材料分散液を調製する分散工程と、
前記ナノ材料分散液を凍結乾燥し、多孔質バルク体とする凍結乾燥工程と、
を有する多孔質ナノ材料分散体の製造方法に関する。
【0011】
また、本発明は、
ナノ材料を分散剤によって溶液中に分散させたナノ材料分散液を、凍結乾燥させることによって得られ、
分散剤の多孔質バルク体均質にナノ材料が分散していることを特徴とする多孔質ナノ材料分散体に関する。
【0012】
分散剤を含む溶液中にナノ材料を分散させ、凍結乾燥によって溶液を除去することにより、分散剤の多孔質バルク体が得られる。本発明の多孔質ナノ材料分散体は、分散剤の多孔質バルク体中にナノ材料が保持されているため、ナノ材料の有する特性及び機能性が損なわれることがなく、かつ、通常は微粉末であるナノ材料をバルクとして取り扱うことが可能であり、取り扱いが非常に容易である。また、本発明の多孔質ナノ材料分散体は、ハサミやカッター等で切断する、又は凍結乾燥時にナノ材料分散液を分注する容器の形態を調整することにより、その大きさや形態を自由に調整することも可能である。
【0013】
前記分散剤は、CMC、キトサン、又はPFS/ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)共重合体であることが好ましい。
【0014】
本発明の製造方法の分散工程においては、前記ナノ材料分散液における前記ナノ材料含有量は、液体(分散媒体である溶媒)に対して0.5重量%以上9.0重量%以下であり、前記ナノ材料分散液における前記分散剤含有量は、液体(分散媒体である溶媒)に対して0.5重量%以上5.0重量%以下であることが好ましい。
【0015】
前記ナノ材料分散液における前記ナノ材料含有量が、分散媒体である液体に対して0.5重量%未満では、多孔質ナノ材料分散体が原料であるナノ材料の特性及び機能性を発揮することが困難であり、9.0重量%超では多孔質ナノ材料分散体の特性及び機能性の向上が少ない反面、ナノ材料のコストが嵩み実用的でなくなるためである。一方、前記分散剤含有量が、分散媒体である液体に対して0.5重量%未満では、凍結乾燥後の多孔質バルク体の物理的強度が不足し、5.0重量%超ではナノ材料の特性及び機能性が発現しなくなるためである。
【0016】
同様に、本発明の多孔質ナノ材料分散体における前記ナノ材料含有量は、30重量%以上75重量%以下であることが好ましい。本発明の多孔質ナノ材料分散体は、分散剤及びナノ材料から構成されているが、ナノ材料含有量30重量%未満では原料であるナノ材料の特性及び機能性を発揮することが困難であり、一方、75重量%超では多孔質ナノ材料分散体の物理的強度が不足して脆くなり、特性及び機能性の向上が少ない反面、ナノ材料のコストが嵩み実用的でなくなるためである。
【0017】
前記ナノ材料は、あるナノ物質に他の物質を担持させたものであってもよい。なお、ナノ材料は、2種類以上のナノ物質の複合体又は混合物であってもよい。
【0018】
前記凍結乾燥工程の後に、前記多孔質バルク体が不溶性を示す溶媒に溶解させた金属化合物を添加し、金属化合物を担持させる担持工程をさらに有してもよい。本発明の多孔質ナノ材料分散体の製造方法では、多孔質ナノ材料分散体とした後、さらに金属化合物をバルク体に担持させることも可能である。得られたナノ材料分散体は、金属化合物の有する触媒作用等の作用と、ナノ材料の有する作用とを組み合わせて利用することが可能である。
【0019】
なお、ここでいう金属化合物とは、金属の塩、酸化物、硫化物、ハロゲン化物をいう。
【0020】
前記凍結乾燥工程の後に、前記多孔質バルク体に金属を蒸着させる蒸着工程をさらに有してもよい。本発明の多孔質ナノ材料分散体の製造方法では、多孔質ナノ材料分散体とした後、さらに金属をバルク体に蒸着させることも可能である。金属を蒸着させたナノ材料分散体は、金属そのものが有する触媒作用と、ナノ材料の有する特性及び機能性とを、組み合わせて利用することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の多孔質ナノ材料分散体は、簡易な製造方法によって製造可能であり、原料として含有しているナノ材料の特性及び機能性が損なわれない。また、用途に応じて大きな又は形態等を容易に調整することも可能であり、再現性も高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、以下に限定されない。
【0023】
まず、本発明の多孔質ナノ材料分散体の製造方法では、ナノ材料を分散剤によって液体中に分散させ、ナノ材料分散液を調製する(分散工程)。ナノ材料は、特に限定されるものではないが、例えば、カーボン系であればカーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノワイヤー、カーボンナノホーンを使用しうる。それ以外にも、二ホウ化マグネシウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化タンタル、酸化バナジウム、酸化ニオブ、炭酸マグネシウム等のナノチューブ等も使用しうる。
【0024】
ナノ材料を分散させる液体としては、-10℃から室温程度の凝固点を持ち、分散剤を溶解させ、凍結乾燥によって除去しうる液体であれば足りる。具体的には、水、酢酸(氷酢酸)、酢酸水溶液、tert-ブタノール等を使用しうる。
【0025】
分散剤としては、ナノ材料を水等の液体中に分散させる効果を有するものあって、バルク体として取り扱うことが可能な程度の物理的強度を有する多孔質体を、凍結乾燥後に形成できるものであれば足りるが、CMC、キトサン、又はPFS/PTFE共重合体が好ましく、特に、CMC又はキトサンが好ましい。
【0026】
液体に分散剤及びナノ材料を添加し、ナノ材料分散液とする。このとき、ナノ材料を均質に分散させるために、超音波ホモジナイザー等を用いて、数分間攪拌することが好ましい。また、上述したように、ナノ材料分散液におけるナノ材料含有量を、分散媒体である液体に対して0.5重量%以上9.0重量%以下、分散剤含有量を分散媒体である液体に対して0.5重量%以上5.0重量%以下に、それぞれ調整することが好ましい。
【0027】
次に、ナノ材料分散液を多孔質バルク体とするために、凍結乾燥を行う(凍結乾燥工程)。ナノ材料分散液は、凍結乾燥用の容器(熱伝導の良い金属製や、薄肉のガラス容器等が好ましい)に分注された後、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥される。このとき、底面積が大きい平坦な容器に充填すれば、多孔質バルク体をシート状に形成することも可能である。
【0028】
分散剤としてCMCを使用する場合、分散媒体には水を使用することが好ましい。分散剤としてキトサンを使用する場合、分散媒体にはpH 3~5程度の酸性水溶液(揮発性があれば、酸の種類は問わない)を使用することが好ましい。分散剤としてPFS/PTFE共重合体又はフェノール樹脂を使用する場合、分散媒体には第三級ブタノール等の有機溶媒を使用することが好ましい。
【0029】
凍結乾燥工程においては、まず、凝固点以上の任意の温度で一定時間、恒温に保った後、0〜20℃/minの冷却速度でナノ材料分散液を凍結させる。このとき、初期温度(恒温に保つ温度)及び冷却速度によって、分散媒体の氷晶成長速度及び試料内温度分布が変化し、テンプレートとなる氷晶の形状が変わる。その結果、多孔質ナノ材料分散体の平均細孔径を調整することも可能である。
【0030】
凍結させたナノ材料分散液は、その後、溶質相の共晶点(ガラス転移点)以下の温度(棚温度)で、圧力10〜30Pa程度に減圧し、一次乾燥させる。一次乾燥後、常温まで昇温させて、さらに数時間、二次乾燥を行う。
【0031】
ナノ材料分散液を凍結乾燥させると、分散剤の多孔質バルク体が得られる。この多孔質バルク体にはナノ材料が均質に分散しているため、ナノ材料と外部との接触面積が非常に大きく。その結果、ナノ材料の有する特性及び機能性がバルク体とすることによっても損なわれない。これは、本発明の多孔質ナノ材料分散体の特徴である。
【0032】
[実施例1]
水に対して、ナノ材料であるCNT(型番又は商品名、製造元、物性等)及び分散剤であるCMCを、それぞれ1重量%となるように添加し、超音波ホモジナイザー等を用いて数分間攪拌してナノ材料分散液を調製した。そして、アクリル樹脂製の直径8mm、高さ5mmの円筒状容器にこのナノ材料分散液0.25mLを分注し、凍結乾燥機(型番、製造元等)内に入れた。
【0033】
次に、初期温度5℃で15分間保持した後、-0.5℃/minの冷却速度で棚温度を-20℃まで下げ、容器内のナノ材料分散液を凍結させた。凍結後、10Paに減圧して72時間、ナノ材料分散液を一次乾燥させた。一次乾燥後、室温でさらに3時間、二次乾燥させた。こうして得られたナノ材料分散体を、実施例1の多孔質ナノ材料分散体とした。
【0034】
実施例1の多孔質ナノ材料分散体の外観写真を、図1に示す。図1(a)の左側にある直方体状のバルク体は、カッター又はハサミ等で切断することにより、右側にある小さなバルク体へと容易に加工することができた。加工されたバルク体は、図1(b)に示すように、直接手で触れることが可能であり、CNTが手に付着することもない。
【0035】
実施例1の多孔質ナノ材料分散体は、スポンジのように非常に弾力性に富んでおり、変形させてもバルク体の崩壊や亀裂の発生はなかった。ここで、球状に加工した実施例1の多孔質ナノ材料分散体の変形状態を、図2に基づいて説明する。まず、円柱状のナノ材料分散体をピンセットに取る(図2(a))。次に、ピンセットを閉じると、ピンセットの先端部分に挟まれた部分が凹む(図2(b))。そして、ピンセットを開くと、凹んでいた部分が元の状態へと戻った(図2(c))。このように、実施例1の多孔質ナノ材料分散体は、取り扱いの自由度が高く、弾力性に富み、変形も容易で可逆的であった。
【0036】
実施例1の多孔質ナノ材料分散体の電子顕微鏡写真を、図3に示す。図3(a)から明らかなように、ナノ材料分散体の表面には細孔が多数存在しており、その平均細孔径は70μmであった。また、細孔をさらに高倍率で観察したところ、図3(b)に示されているように、細孔内の外表面に原料であるCNTが認められた。
【0037】
<実験1>
アクリル樹脂上にプローブ(スズメッキ線)を2本設置(1.5mm間隔)し、プローブ先端の4mm程度が突き刺さるようにして、実施例1の多孔質ナノ材料分散体(底面の直径約8mm、高さ約5mmの円柱状)を突き刺した。そして、真空チャンバー内に安置して真空ポンプにてチャンバー内を減圧して、プローブ間の抵抗値をデジタルマルチメータによって測定し、圧力と電気抵抗値との関係を測定した。その結果を、図4に示す。
【0038】
減圧前(1.0気圧)の抵抗値は約4.8kΩ/mであったが、チャンバー内を減圧することにより抵抗値は徐々に低下し、4.2kΩ/m付近となった。復圧すると抵抗値は徐々に増加し、再び4.8kΩ/m付近となった。このように、実施例1の多孔質ナノ材料分散体は、CNTの有する特性を損なわず、圧力変化に応じて電気抵抗値が可逆的に変化した。
【0039】
(平均細孔径の変化)
実施例1とCMC含有量を同一とし、同様の製造方法おいて冷却速度を変えて多孔質ナノ材料分散体を製造した。CNT含有量、冷却速度、空隙率及び平均細孔径は、表1に示すとおりである。なお、空隙率は、多孔質ナノ材料分散体の見かけ密度、並びにナノ材料及び分散剤の真密度から算出した。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例1の多孔質ナノ材料分散体は、平均細孔径70μmであったが、冷却速度を-0.5℃/min→-0.1℃/minと変えただけで、平均細孔径は30μmとなった。また、CNT含有量を1.5重量%に増やした場合においても、冷却速度が小さいほど、平均細孔径が小さくなる傾向を認めた。
【0042】
(電気抵抗率の変化)
実施例1と同様の製造方法において、CNT含有量を変えた多孔質ナノ材料分散体を製造した。等間隔に固定した電極をあらかじめ作製しておき、この電極を多孔質ナノ材料分散体に接触させ、テスターにて抵抗値を測定することにより、抵抗率を測定した。CNT含有量、冷却速度、空隙率及び平均細孔径は、表2に示すとおりである。なお、冷却速度は、-3℃/minとした。
【0043】
【表2】

【0044】
表2より、CNT含有量が多いほど、抵抗率が低いことが確認された。このように、本発明の多孔質ナノ材料分散体は、CNTのような導電性ナノ材料の含有量を調整することにより、抵抗率を調整することが可能であり、用途に応じた抵抗値を有する多孔質ナノ材料分散体の製造が容易である。
【0045】
[実施例2]
0.3重量%酢酸水溶液に対して、実施例1と同じCNTを5重量%、キトサンを1重量%となるように添加し、超音波ホモジナイザー等を用いて数分間攪拌してナノ材料分散液を調製した。そして、実施例1と同様に凍結乾燥させ、実施例2の多孔質ナノ材料分散体を得た。なお、凍結乾燥時には、初期温度5℃で15分間保持した後、-0.5℃/minの冷却速度で棚温度を-20℃まで下げた。
【0046】
実施例2の多孔質ナノ材料分散体は、実施例1の多孔質ナノ材料分散体と同様に弾力性に富んでおり、変形させてもバルク体の崩壊や亀裂の発生はなかった。また、手で触れても、CNTが付着することはなかった。
【0047】
実施例2の多孔質ナノ材料分散体の電子顕微鏡写真を、図5に示す。図5から明らかなように、実施例2のナノ材料分散体の表面にも多数の細孔が存在しており、その平均細孔径は約60μmであった。また、細孔をさらに高倍率で観察したところ、実施例1の多孔質ナノ材料分散体と同様に、細孔内の外表面に原料であるCNTが認められた。
【0048】
<実験2>
真空チャンバー内に電極をセットした実施例2の多孔質ナノ材料分散体(底面の直径約8mm、高さ約5mmの円柱状)を設置し、実験1と同様にして、圧力と電気抵抗値との関係を測定した。その結果、図4と同様のグラフが得られ、減圧状態では電気抵抗値が減少し、復圧すれば電気抵抗値が元のレベルにまで上昇した。
【0049】
[実施例3]
(複合ナノ材料の調製)
実施例1と同じCNTを濃硝酸中に分散させ、還流下140℃で1時間酸化処理した。水で濃硝酸をよく洗浄した後、精製水中に750ppm(500〜1000ppmとすることが好ましい)の濃度となるように撹拌及び分散させた。さらに、Ti2(SO4)3を800ppm(100〜1000ppmとすることが好ましい)の濃度となるように加え、室温にて24時間撹拌し、複合材料を得た。その後、複合材料を濾過及び乾燥させ、窒素雰囲気下、500℃で6時間加熱処理を施すことにより、CNT表面に複合化されたTiO2を、光触媒能を持つアナターゼ形へと転移させ、TiO2を担持させたCNT(TiO2-CNT複合ナノ材料)を得た。
【0050】
このTiO2-CNT複合ナノ材料の電子顕微鏡写真を、図6に示す。CNTの表面にTiO2の結晶が担持されていることが確認された。
【0051】
(多孔質複合ナノ材料分散体の製造)
0.3重量%酢酸水溶液に対して、TiO2-CNT複合ナノ材料を5重量%、キトサンを1重量%となるように添加し、超音波ホモジナイザー等を用いて数分間攪拌して複合ナノ材料分散液を調製した。そして、実施例1と同様に凍結乾燥させ、実施例3の多孔質ナノ材料分散体を得た。なお、凍結乾燥時には、初期温度5℃で15分間保持した後、-3.0℃/minの冷却速度で棚温度を-20℃まで下げた。
【0052】
実施例3の多孔質ナノ材料分散体(多孔質複合ナノ材料複合体)は、実施例2の多孔質ナノ材料分散体と同様に弾力性に富んでおり、変形させてもバルク体の崩壊や亀裂の発生はなかった。また、手で触れても、Ti-CNT複合ナノ材料が付着することはなかった。
【0053】
<実験3>
実施例3の多孔質ナノ材料分散体0.75mLを、石英チューブ(内径8mm、長さ15mm)内に充填し、カラムを作成した。この石英チューブ (内容積0.75mL) をガスラインに組み込み、その部分に紫外線(波長352 nm、強度700μW/cm2)を照射する様にした。ライン内に400ppmのアセトアルデヒド(キャリアー;窒素ガス)を15mL/minで流通させ、出口ガスのアセトアルデヒド濃度をガスクロマトグラフにて測定した。その結果を、図7に示す。
【0054】
まず、紫外線照射直後から、アセトアルデヒド由来のピークが小さくなり、未照射時の400ppmから1/4である100ppmにまで濃度が減少した。さらに、紫外線照射40分後には、未照射時の1/10である40ppmにまで濃度が減少した。これは、紫外線を照射した結果、CNTに担持させたTiO2の光触媒作用によってアセトアルデヒドが分解された結果である。このように、実施例3の多孔質ナノ材料分散体は、Ti-CNT複合ナノ材料のTiO2が有する光触媒作用が維持されていることが確認された。
【0055】
[実施例4]
実施例2の多孔質ナノ材料分散体0.1cm3に、アンモニア水中に飽和させたCuCl(塩化第一銅)溶液を滴下し、乾燥させ、CuClを担持させた多孔質ナノ材料分散体を得た。これを実施例4の多孔質ナノ材料分散体とした。
【0056】
<実験4>
実施例4の多孔質ナノ材料分散体(底面の直径約8mm、高さ約5mmの円柱状、容積0.25mL)に電極を取り付け、直径約8mm、高さ約5mmの円柱状のアクリル樹脂製容器内にセットした。この容器は、上下方向に穴が貫通しており、フランジで挟み込むことでガスライン中に接続することができる。そして、この容器へと窒素ガスを1L/minで流通させ、抵抗値が定常になるまで約50秒待った後、ガスタイトシリンジを用いて1cm3の一酸化炭素をガスライン中に注入した。このときの経過時間と電気抵抗値との関係を、図8に示す。
【0057】
一酸化炭素を注入直後から、電気抵抗値が急激に増大した。このように、実施例4の多孔質ナノ材料分散体は、一酸化炭素センサとして機能しうることが確認された。
【0058】
[実施例5]
(薄膜状の多孔質ナノ材料分散体の製造)
実施例3と同じ複合ナノ材料分散液を調製した。それを1.5cm×1.5cm、深さ1〜2mmのアルミニウム製鋳型に分注し、実施例3と同様の条件で凍結乾燥を行った。その結果、厚み1mm程度の薄膜状の多孔質ナノ材料分散体が得られた。
【0059】
(金属蒸着)
次に、この薄膜状の多孔質ナノ材料分散体に、イオンコーターを用いて白金を蒸着させた(蒸着白金量は0.1~0.5mg/cm2)。これを実施例5の多孔質ナノ材料分散体とした。
【0060】
<実験5>
実施例5の多孔質ナノ材料分散体を固体高分子膜燃料電池における電極(燃料極及び空気極)として用いた。なお、高分子膜には市販ナフィオン膜を用いた。作製した固体高分子膜燃料電池は、0.6〜0.7Vの起電力を持続的に示すことを確認した(24時間程度まで確認)。また、市販燃料電池と比較して少ない白金担持量でも良好な起電力を示すことを確認した(市販固体高分子膜形燃料電池の白金担持量は、一般に1〜2mg/cm2程度である)。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の多孔質ナノ材料分散体及びその製造方法は、ナノ材料のハンドリング性を格段に向上させることができるため、様々な技術分野において応用展開が可能である。例えば、非常に安価かつ簡便なガスセンサや圧力センサ等である。これ以外にも、光触媒、電気化学等の幅広い技術分野においても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1のナノ材料分散体の外観写真である。
【図2】球状に加工した実施例1のナノ材料分散体の変形状態を示す写真である。
【図3】実施例1のナノ材料分散体の電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例1のナノ材料分散体について、圧力と電気抵抗値との関係を測定した結果を表すグラフである。
【図5】実施例2の多孔質ナノ材料分散体の電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例で使用したTiO2-CNT複合ナノ材料の電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例3の多孔質複合ナノ材料分散体によるアセトアルデヒドの分解効果を表すグラフである。
【図8】実施例4の多孔質ナノ材料分散体について、一酸化炭素と接触させたときに電気抵抗値の変化を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ材料を分散剤によって液体中に分散させ、ナノ材料分散液を調製する分散工程と、
前記ナノ材料分散液を凍結乾燥し、多孔質バルク体とする凍結乾燥工程と、
を有する多孔質ナノ材料分散体の製造方法。
【請求項2】
前記分散剤が、カルボキシメチルセルロース、キトサン、又はペルフルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレン共重合体である請求項1に記載の多孔質ナノ材料分散体の製造方法。
【請求項3】
前記ナノ材料分散液における前記ナノ材料含有量が、液体に対して0.5重量%以上9.0重量%以下であり、前記ナノ材料分散液における前記分散剤含有量が、液体に対して0.5重量%以上5.0重量%以下である請求項1又は2に記載の多孔質ナノ材料分散体の製造方法。
【請求項4】
前記ナノ材料が、あるナノ物質に他の物質を担持させたものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多孔質ナノ材料分散体の製造方法。
【請求項5】
前記凍結乾燥工程の後に、前記多孔質バルク体が不溶性を示す溶媒に溶解させた金属化合物を添加し、金属化合物を担持させる担持工程をさらに有する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の多孔質ナノ材料分散体の製造方法。
【請求項6】
前記凍結乾燥工程の後に、前記多孔質バルク体に金属を蒸着させる蒸着工程をさらに有する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の多孔質ナノ材料分散体の製造方法。
【請求項7】
ナノ材料を分散剤によって溶液中に分散させたナノ材料分散液を、凍結乾燥させることによって得られ、
分散剤の多孔質バルク体均質にナノ材料が分散していることを特徴とする多孔質ナノ材料分散体。
【請求項8】
前記分散剤が、カルボキシメチルセルロース又はキトサンである請求項7に記載の多孔質ナノ材料分散体。
【請求項9】
前記多孔質ナノ材料分散体における前記ナノ材料含有量が30重量%以上75重量%以下である請求項7又は8に記載の多孔質ナノ材料分散体。
【請求項10】
前記ナノ材料が、2種類以上のナノ物質の複合体である請求項7乃至9のいずれか1項に記載の多孔質ナノ材料分散体。
【請求項11】
前記多孔質バルク体が不溶性を示す溶媒に溶解させた金属化合物を添加し、金属化合物を担持させることによって得られる請求項7乃至10のいずれか1項に記載の多孔質ナノ材料分散体。
【請求項12】
前記多孔質バルク体に金属を蒸着させることによって得られる請求項7乃至10のいずれか1項に記載の多孔質ナノ材料分散体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−13568(P2010−13568A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175440(P2008−175440)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(800000057)財団法人新産業創造研究機構 (99)
【Fターム(参考)】