説明

多孔質マトリックスおよび金属または金属酸化物ナノ粒子からなる複合材料

本発明は、微孔性またはメソ細孔性マトリックスおよび金属または金属酸化物ナノ粒子からなる複合材料に関する。該材料は、マトリックス材料が、不規則的、または規則的であり、任意に配向しており、ならびに、ナノ粒子が、i)マトリックス材料が、規則的であり、任意に配向している場合、サイズにおいて単分散であり、ii)または前記マトリックス材料が、不規則的である場合、サイズにおいて単分散であるか、またはマトリックス材料の空隙率のサイズと同一のサイズであることを特徴とする。該材料を調製するための方法は、微孔性またはメソ細孔性固体材料にナノ粒子前駆体溶液を含浸させ、次いでマトリックスを形成する材料内で前駆体を還元する工程を含む。含浸は、飽和蒸気圧下および前駆体溶液の還流下で行い、還元は、放射線分解法によって行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質マトリックスおよび金属または金属酸化物ナノ粒子によって構成された複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
その中に単分散金属ナノ粒子が均一にかつ高濃度で分散している微孔性またはメソ細孔性鉱物マトリックスによって構成された複合材料は、光学、磁気抵抗、熱電気、触媒作用などの多様な分野において非常に重要である。こうした材料を調製する場合、問題点は、粒子のサイズおよび分布、ならびにまた固体内の粒子間の距離を制御することにある。
【0003】
従来技術において、こうした複合材料を調製するための多様な物理化学的方法が提案されている。そうした方法は、一般に、多孔質固体マトリックスに金属粒子の前駆体溶液を含浸し、次いで、固体マトリックス内の前駆体を化学的、または熱的、または放射線分解的、または光化学的、または電解のいずれかで還元する工程を含む。例えば、Kuei-Jung Chao ら[「Preparation and characterization of highly dispersed gold nanoparticles within channels of mesoporous silica」、Catalysis Today (2004)、97巻、1号、49〜53頁]には、多孔質シリカにHAuCl4の酸溶液またはNaCuA14溶液を含浸し、次いで水素雰囲気下で加熱によって還元する工程を含む方法が記載されている。
【0004】
溶液を含浸させる方法には、多数の欠点が存在する。前駆体溶液によって含浸される度合は小さく、固体マトリックス内で不均一である。その結果として、第1に、マトリックス内における還元した後のナノ粒子含有量は、比較的小さいまま、一般に30容量%未満であり、第2に、ナノ粒子は、基本的に多孔質マトリックスの表面近く、すなわち、厚さ約20ナノメートル(nm)にわたって濃縮されている。加えて、粒径の分布が広い。
【0005】
多孔質固体マトリックスの含浸の含有量および均一性を改良するために、多様な試験が行われている。従って、一方で媒体が超音波または穏やかな加熱を受けながら含浸工程の継続期間を増加させる(最高数週間まで)提案がなされている。しかしながら、こうした処理では、少ししか改良されず、多孔質固体を劣化させるリスクが伴う。複数の含浸および還元サイクルを行うことによって、多孔質固体マトリックスに反復含浸させる提案もなされている。これによって、含浸の含有量の増加が可能になった。しかしながら、該方法は、長時間であり、固体中に不均一なサイズの粒子を生成する恐れがある。というのは、所与のサイクル中に、初期のサイクル中に形成した金属粒子上で金属前駆体を還元することが可能であるためである。
【0006】
金属ナノ粒子を生成させ、次いで固体多孔質マトリックス内に分散させ得るだろうということも予想された。例えば、欧州特許第1187230号には、標的材料をレーザービームで照射し、粒子を真空中で回収する工程と、真空中で回収した粒子を基材上に堆積させる第2工程とを含む熱電気材料を調製する方法が記載されている。該方法の主たる欠点は、マトリックス内に均一に分散したナノ粒子を得ることができないことであり、その表面帯にナノ粒子が最も多量に存在する。
【0007】
米国特許第6670539号には、細孔の平均サイズが5nm〜15nmである多孔質マトリックスと、ビスマスまたはビスマス合金のナノ細線とから構成された複合材料を調製する方法が記載されている。該方法は、ビスマス蒸気をマトリックス細孔内を通過させる工程を含む。次いで、多孔質マトリックスを冷却することによってビスマス蒸気を蒸気入口と蒸気出口の間の細孔内に徐々に凝縮させ、ビスマスナノ細線を細孔内に徐々に形成する。しかしながら、マトリックス内にビスマス蒸気を徐々に凝縮させることは、メソ細孔のサイズによって制限され、かつ均一ではない。凝縮が均一でないために、核生成反応およびナノ細線の成長を制御することが困難になる。このために、ナノ細線が不連続になり、フォノンの発生を増進して電子の伝播を妨害する粒結合点がもたらされる。さらに、該文献では、利点となる改良点は、2次元のみでなく3次元の閉じ込めに隋伴したものであると述べられている。米国特許第6670530号では、所望のナノ粒子用の前駆体溶液の蒸気中に多孔質固体マトリックスを置くことによって複合材料を調製する提案もなされている。しかしながら、該方法では、蒸気を固体多孔質マトリックス中に押し込んで通過させる必要があり、これには複雑な装置が必要になる。加えて、マトリックス中を蒸気を強制的に通過させるために、多孔性故に脆さのあるマトリックスが破壊する恐れがあることが知られている。加えて、該方法の熱的な制限(T?590℃)は、融点がこの温度より低いメソ細孔性材料の使用と相容れない。
【特許文献1】欧州特許第1187230号
【特許文献2】米国特許第6670539号
【特許文献3】米国特許第6670530号
【非特許文献1】Kuei-Jung Chaoら[「Preparation and characterization of highly dispersed gold nanoparticles within channels of mesoporous silica」、 Catalysis Today (2004)、97巻、1号、49〜53頁]
【非特許文献2】Dongyuan Zhao、Qisheng Huo、Jianglin Feng、Bradley F. Chmelka、およびGalen D. Stucky [J. Am. Chem. Soc. 1998、120、6024〜6036頁]
【非特許文献3】Polartzら[Chemical communication (2002)、2593〜2604頁]
【非特許文献4】Goltnerら[Advanced materials (1991)、9巻5号]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、金属または金属酸化物ナノ粒子が均一かつ高濃度で細孔内に分布した微孔性またはメソ細孔性固体マトリックスによって構成された複合材料を生成する効果的な方法を提供することである。これが、本発明が複合材料を調製する方法、およびまた生成した複合材料を提供する理由である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による複合材料を調製する方法は、微孔性またはメソ細孔性固体材料に金属ナノ粒子または金属酸化物ナノ粒子の1つまたは複数の前駆体溶液を含浸させる工程と、次いで前記マトリックス形成材料内の前駆体を還元する工程とを含む。該方法は、含浸が、飽和蒸気圧下および前駆体溶液の還流下で行われ、還元が、放射線分解によって行われることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
前駆体溶液は、酸化ラジカルを遮断するための遮断剤も含んでよい。該遮断剤は、照射中に溶液内で形成される酸化ラジカルを遮断し、それによって、生成したコロイド粒子の酸化が防止される。酸化ラジカル遮断剤は、第1級アルコール、第2級アルコールおよびギ酸塩から好ましくは選択される。例として、イソプロパノールおよびアルカリ金属ギ酸塩を挙げ得る。酸化ラジカル遮断剤は、2つの機能を果たす、すなわち、放射中に発生する酸化ラジカルを捕捉するのみでなく、それ自体が酸化ラジカルと反応して生成する新規な還元ラジカルも提供する。これは、金属の還元収率を増加させるのに役立つ。前駆体溶液が、遮断剤を量的に十分含有する場合、生成したナノ粒子は、金属によって構成される。反応媒体が、酸化条件にある場合(例えば、酸化ラジカル遮断剤の含有量が、ゼロまたは少ない場合、または痕跡量の酸素が存在する場合、または媒体のpHが酸性の場合)、還元後に形成されるナノ粒子は、前駆体化合物の金属の酸化物粒子である。ラジカル遮断剤の濃度は、還元対象の金属の量および性質の関数、ならびに所望粒子の性質の関数として求められる。従って、「遮断剤」/「前駆体金属塩」の濃度比が、約10-2〜10-1の値以下である場合、ナノ粒子は、一般に酸化物ナノ粒子である。「遮断剤」/「前駆体金属塩」の濃度比が、約103〜104の値以上である場合、ナノ粒子は、一般に金属ナノ粒子である。金属ナノ粒子または金属酸化物ナノ粒子いずれかを形成するためのそれぞれの金属のタイプに適合した濃度範囲を非常に正確に決定することは、当業者の力量次第である。
【0011】
複合材料マトリックスを形成するための微孔性またはメソ細孔性材料は、シリカ、アルミナ、ゼオライト;ジルコニア、酸化チタンなどの金属酸化物;およびメソ細孔性を示すポリマー[例えば、ポリスチレン、およびジビニルベンゼン(DVB)とエチレングリコールジメタクリレート(EDMA)のコポリマーなど]から選択され得る。
【0012】
「微孔性」という用語は、平均寸法が1ナノメートル未満である細孔を表すのに用いる。「メソ細孔性」という用語は、平均寸法が1nm〜100nmの範囲である細孔を表すのに用いる。
【0013】
本発明の複合材料のマトリックスを形成するための微孔性またはメソ細孔性材料では、ナノメートル級の細孔の分布は不規則的でも規則的でもよい。不規則的分布は、不規則に分布した開放空洞によって一般に構成される。細孔の規則的分布は、配向でも非配向でもよい。細孔の非配向規則的分布は、トンネルによって相互連絡した空洞によって構成されていてもよい。規則的であり、配向もしている分布は、例えば、殆ど欠陥のない正六方晶系において分布したチャンネルによって構成されていてもよい。以下の明細書本文では、「不規則的材料」という用語は、細孔分布が不規則的である材料の意味で使用され、「任意に配向した規則的材料」という用語は、細孔分布が規則的であり、任意に配向している材料の意味で使用される。
【0014】
前駆体は、以下の金属、すなわち、Bi、Au、Ag、Ti、Mg、Al、Be、Mn、Zn、Cr、Cd、Co、Ni、Mo、Sn、Pbの化合物から選択される。化合物は、無機塩(例えば、硫酸塩や過塩素酸塩など)でも、ギ酸塩やネオデカン酸塩などの有機塩でもよい。ネオデカン酸塩の一例として、ネオデカン酸ビスマスを挙げることができる。ネオデカン酸塩によって非水媒体中で還元することが可能になる。前駆体は、有機金属化合物から選択することもできる。例として、ジフェニルマグネシウム、ジフェニルベリリウム、トリイソブチルアルミニウム、ビスシクロペンタジエニルクロム、ビスシクロペンタジエニルチタン、ビスシクロペンタジエニルマンガン、テトラカルボニルコバルト、テトラカルボニルニッケル、ヘキサカルボニルモリブデン、ジプロピルカドミウム、テトラアリル亜鉛およびテトラプロピル鉛を挙げることができる。前駆体溶液の溶媒は、当該の前駆体塩の機能性物質として選択する。例として、水、有機アルコール、アンモニアおよびアセトニトリルを挙げることができる。
【0015】
放射線分解還元は、γ線源、X線源または加速電子源を用いて行い得る。
【0016】
本発明の方法によって得られる複合材料は、細孔の平均サイズが1ナノメートル未満である微孔性固体材料、または細孔の平均サイズが1nm〜100nmの範囲であるメソ細孔性固体材料から構成されているマトリックスと、金属または金属酸化物のナノ粒子とから構成されている。該複合材料は、マトリックス材料が不規則的であるかまたは規則的であるかのいずれかであり、任意に配向しており、
・前記マトリックス材料が、規則的であり、任意に配向している場合、ナノ粒子は、サイズが単分散性であり、マトリックス材料の全細孔容量の50%〜67%を占め、
・前記マトリックス材料が不規則的である場合、ナノ粒子は、サイズが単分散性であるかまたはマトリックス材料の細孔のサイズと同一のサイズであり、マトリックス材料の最初の細孔容量の少なくとも50%を占めることを特徴とする。
【0017】
本発明の対象素材を構成する材料の単分散特性は、比<d>/dmaxが10%未満であることを特徴とし、式中、dは、ナノ粒子の直径である。
【0018】
マトリックス材料が不規則的である複合材料では、ナノ粒子のサイズは、具体的には、照射量が送達される速度、前駆体の初期濃度、および細孔のサイズで決まる。照射速度が大きいと、多数の核発生中心の生成が促進される。例えば、照射量効果や前駆体濃度効果によって成長が制限されない場合、サイズが細孔よりも小さい限り、ナノ粒子のサイズは、単分散のままである。図1aおよび1bは、マトリックス材料中の細孔の分布が不規則的である複合材料の、それぞれ含浸前後の線図である。
【0019】
図2aおよび2bは、マトリックス材料中の細孔の分布が規則的で、配向している複合材料の、それぞれ含浸前後の線図である。微小細孔は、円筒型チャンネルの形状である。ナノ粒子が相互に接触する場合、ナノ粒子間の隙間空間に対応する残留空隙率は33%である。この実施形態を図3において図示する。
【0020】
固体マトリックスは、シリカ、アルミナ、ゼオライト;ジルコニア、酸化チタンなどの金属酸化物;ポリスチレンなどのポリマーおよびメソ細孔性を示すコポリマーから選択される材料によって構成される。マトリックス材料の多孔性が規則的であり、任意にチャンネル形状において配向している場合、ナノ粒子は、マトリックスの容量全体にわたり均一に分布している。
【0021】
ナノ粒子は、Bi、Au、Ag、Ti、Mg、Al、Be、Mn、Zn、Cr、Cd、Co、Ni、Mo、SnおよびPbから選択される金属、またはそうした金属のうちの1つの酸化物によって作製される。
【0022】
本発明の材料の例として、
・ビスマス、金または銀のナノ粒子を含む開放細孔で不規則的なメソ細孔性シリカマトリックスを含む材料、
・ビスマスナノ粒子を含む規則チャンネル形状の細孔を有する、任意に配向した規則的なメソ細孔性シリカマトリックスを含む材料、および
・ビスマス、金または銀のナノ粒子を含む開放細孔のメソ細孔性アルミナマトリックスを含む材料を挙げることができる。
【0023】
本発明の方法は、図4に示す装置において実施し得る。前記装置は、含浸室と、ポンプ系とを備える。該含浸室は、照射セル1、液体窒素トラップ2、前駆体溶液タンク3、加熱器手段4および照射手段(示さず)を備える。バルブ5を備える管は、照射セル1をタンク3に連結する。バルブ6を備える管は、照射セル1を液体窒素トラップ2に連結する。該ポンプ系は、1次ポンプ7;2次ポンプ8;バルブ9、10および11を備える管;ならびに真空測定装置12を備える。該ポンプ系によって、その値が10-7mbarである2次真空の限界値の真空を得ることが可能になる。
【0024】
本発明の材料は、多様な技術分野において使用し得る。具体的には、メソ細孔性マトリックスとビスマスナノ粒子とを含む材料が、熱電気および磁気抵抗において特に有用である。
【0025】
熱電気材料の分野では、ビスマスの良好な熱電気特性は、周知であり、具体的には、2Dおよび1D量子閉じ込めは周知である。こうしたタイプの閉じ込めでは、効果数は、2未満のままである。こうした制限は、基本的にフォノン伝播のためである。本発明の材料では、メソ細孔性マトリックスとビスマスナノ粒子とが含まれているので、フォノン伝播が低減される。
【0026】
これが、本発明が、熱電気材料、具体的には低温発電機、または逆に電圧発生機としての、メソ細孔性マトリックスとビスマスナノ粒子とを含む本発明の材料の使用も提供する理由である。低温発電機として、ビスマスナノ粒子を含む複合材料は、例えば、冷蔵庫、自動車用の空調シート、自動車用の空調機、アイスボックス、恒温筺体または電子回路用ラジエータの設計において使用し得る。電圧発生器として、ビスマスナノ粒子を含む複合材料は、例えば、エネルギーの直接供給源、または蓄電池の構成要素として使用し得る。
【0027】
ビスマスナノ粒子を含む本発明の複合材料を磁気抵抗の分野において使用する場合、サイズ効果によって磁気抵抗の特性が著しく増加するので、磁気抵抗は、「大である」といわれる。通常の磁気抵抗材料の値と比較して、相対的に50%増加した場合、磁気抵抗値が「大である」といわれる。こうした増加は、下記の式:
(R-R(H))/R>50%
を用いて定義され、
式中、Rは、磁場なしの材料抵抗を表し、R(H)は、磁場をかけた材料抵抗を表す。例として、こうした増加では、温度300Kおよび磁場32テスラ(T)においてビスマスの場合50%に達する。こうした特性を所望する場合、本発明の複合材料は、磁気センサーとして、例えば、磁場検出器または読取ヘッドの作製において使用し得る。
【0028】
本発明を、複合材料を調製する実施例によって以下で例示するが、本発明はそれに限定されるものではない。
【0029】
(実施例)
(実施例1)
配向し、規則的であるシリカマトリックスと、一緒にビスマスナノ粒子とを含む複合材料の調製
上記と類似の装置において調製を実施した。照射セルを水浴によって80℃で最初加温することによってセルの表面から脱気および汚染物除去を行い、壁上に粒子が形成されるのを防止した。
【0030】
前駆体溶液(濃度0.6モル/リットル(mol/L)の過塩素酸ビスマス水溶液)、および酸化ラジカル遮断剤溶液(7mol/Lのイソプロパノール水溶液)の両方を調製した。
【0031】
Dongyuan Zhao、Qisheng Huo、Jianglin Feng、Bradley F. Chmelka、およびGalen D. Stucky[J. Am. Chem. Soc. 1998、120、6024〜6036頁]に記載された方法を用いて、メソ細孔性シリカ試料を調製した。Brij96(登録商標)界面活性剤4.0グラム(g)を、攪拌しながら、水20gおよび2M HCl80g中に溶解した。次いで、生成した均一溶液に、周囲温度でテトラエトキシシラン8.80gを加え、攪拌を20時間継続した。固体生成物を回収し、洗浄し、周囲温度で乾燥した。このようにして得られた材料を8時間にわたり周囲温度から最高500℃まで加熱した。その後、該材料を周囲温度まで冷却する前に6時間の間隔をとった。
【0032】
試料の寸法は、数ミリメートルであった。細孔のサイズは、6nmであり、試料の全空隙率は、全容量の80%であった。そのBET表面積は、342平方メートル/グラム(m2/g)であった。
【0033】
装置のバルブ5および6を閉じて、前駆体溶液をタンク3中に導入し、シリカ試料を照射セル1内に導入した。
【0034】
第1工程では、バルブ6を開放し、加熱器手段4を用いて温度80℃まで加熱しながら10-6mbarの真空下でシリカ試料を処理することによって、表面に存在する不純物および水のすべてを脱着させた。こうした操作の最後でバルブ6を閉じ、それにより該セルを静的真空下においた。その後、バルブ5を開放することによって前駆体溶液を照射セル内に導入した。シリカと接触すると、前駆体溶液は直ちに蒸発した。前駆体溶液を導入した後、バルブ5を再び閉じ、バルブ6を部分的に開放することによって、溶解ガスがすべてポンプ排出されるまで1次ポンプ系を用いて照射セルを真空にした。これは照射セル1が冷えることを特徴とする。その瞬間、バルブ5を閉じることによって照射セル1を隔離し、該セルを部分真空下で前駆体溶液の飽和蒸気圧まで加熱した。セル1内で還流現象が見られた。加熱を2時間継続した。この継続時間は、試料を形成する単一物体のサイズおよび空隙率両方の関数である。
【0035】
その後、タンク3によって、イソプロパノール溶液をバルブ5を開放することによってセル1内に導入した。イソプロパノールを導入した後、バルブ5を再び閉じた。バルブ6を開放することによって照射セル1が冷却するまで照射セル1を再び真空にした。イソプロパノール溶液は、前駆体溶液内に急速に拡散した。次いで、該混合物を1時間再還流し、次いで真空下で封じた。該混合物を還流する工程の最後で真空下で封じることは、セル1内の試料を大気圧下で隔離し、アルゴンで30分間セルを掃引することによって代替することもできよう。
【0036】
その後、出力1.8キログレイ/時間(kGy.h-1)のセシウム137γ線源を用いてシリカの含浸片を1時間照射した。次いで、該含浸片を、セル1内で1次真空下、次いで2次真空下で直接乾燥した。得られた試料を、透過型電子顕微鏡(TEM)、BETおよびX線によって特性決定した。
【0037】
プロセスの最後での試料のBET表面積は、60m2/gであったが、これは、初期の値に比較して87%減少したことを表す。
【0038】
図5は、その中でビスマスナノ粒子が形成されたシリカ系メソ細孔性マトリックスのTEM暗視野顕微鏡写真である。該顕微鏡写真では、メソ細孔性マトリックス全体にわたって結晶化ナノ粒子が存在していることが明らかに示されている。該ナノ粒子の外観は、白色であり、サイズは6.0nm±0.5nmである。透過型電子顕微鏡の電子ビーム下でナノ粒子は回転させられる。従って、粒子の配向の関数として、粒子は、回折するかしないかのいずれかである。これが、この種の顕微鏡写真がシリカ格子中に存在する全ナノ粒子の一部分しか示さない理由である。図5は、規則的なメソ細孔性シリカ内で高濃度かつ狭い間隔において安定な結晶化ナノ粒子を生成させることが可能であることを示す。
【0039】
その中でマトリックスの微小細孔が円筒チャンネル形状において規則的でかつ配向しているタイプであるシリカ/ビスマス試料の構造も、上記の図3において示されている。図3では、上部は、チャンネル中の金属ビスマスナノ粒子の整列を示す材料の試料の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。それは、図5に示す試料の拡大図である。下部は、チャンネル部分の線図である。それは、含浸が如何に変化するか、およびビスマスの球状ナノ粒子間の周期的な距離aの関数としての含浸百分率に対する限界値を示す。ビスマスナノ粒子が相互に接触すると、ナノ粒子間の隙間空間に対応する残留空隙率は33%である。
【0040】
X線回折図を図6に示すが、該図は、JCPDS05-0519カードによる線の強度も示す。強度Iを縦座標に沿ってプロットし、角度θを横座標に沿ってプロットする。曲線は、本発明による材料の本実施例に対応する。I=100、I=40などと記入した線は、JCPDS05-0519カードの線に対応する。メソ細孔性シリカに由来する連続したバックグランド上に金属ビスマスの4つの回折ピークを見ることができる。連続したバックグランドと比較してこうした線の強度は小さいが、これは、ビスマスの高い吸収力と関係しており、ビスマスの質量吸収係数は、1.6キロワット(kW)および40キロ電子ボルト(KeV)におけるCu-K-α X線源に対して15平方センチメートル/グラム(cm2/g)である。該スペクトルをJCPDFデータベースの05-0519カードのデータと比較すると、形成されたナノ粒子は金属ビスマスであり、酸化ビスマスではなかったことが確認される。
【0041】
(実施例2)
開放細孔を有し、不規則的であるメソ細孔性シリカマトリックスを含み、ビスマスナノ粒子を含む材料の調製
実施例1と同じ操作を行ったが、以下の工程を改良した。
【0042】
不規則的シリカマトリックスは、Polartzら[Chemical communication (2002)、2593〜2604頁]、およびGoltnerら[Advanced materials (1991)、9巻5号]によって記載された方法で得られた。ブロックコポリマー(ポリスチレン-b-ポリ(エチレンオキサイド))3gをトリメトキシシラン(TMOS)6gに溶解し、次いで塩酸HCl3gを加えた。TMOS中の溶媒の形態として存在するメタノールを真空蒸発によって除去し、生成ゲルを24時間60℃で加温した。次いで、酸素流下で750℃まで12時間加熱することによってコポリマーを除去した。試料の寸法は、数ミリメートルであった。細孔のサイズは、2mm〜4mmの範囲であり、試料の全空隙率は、全容量の70%であった。BET表面積は、580m2/gであった。
【0043】
照射は、出力1.8kGy.h-1のセシウム137γ線源を用いて2時間行った。図7は、生成材料のTEM顕微鏡写真を示す。像の分析によって、BETによって測定した初期の空隙率が80%であった材料において含浸率が70%を超えることが確認される。照射速度が高いために、粒子のサイズおよび形状は、細孔のサイズおよび形状に合致している。
【0044】
(実施例3)
銀ナノ粒子を含む不規則的シリカマトリックスを含む複合材料の調製
いずれの光化学分解も防止するために光に対する保護をした硫酸銀Ag2SO410ミリモル(mM)の前駆体溶液、および酸化ラジカル遮断剤溶液(7mol/Lのイソプロパノール水溶液)の両方を調製した。
【0045】
実施例2で述べた方法を用いて不規則的シリカの一片を調製した。銀塩を含浸させる方法は、実施例1と同一であった。セル1および3をアルミニウムシートで被覆することによって前駆体を光線から保護した。その後、含浸シリカの一片を、出力1.8kGy.h-1のセシウム137γ線源を用いて1時間照射した。次いで、該片を、セル1内で1次真空、次いで2次真空下で直接乾燥した。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1a】図1aは、マトリックス材料中の細孔の分布が不規則的である複合材料の、それぞれ含浸前後の線図である。
【図1b】図1bは、マトリックス材料中の細孔の分布が不規則的である複合材料の、それぞれ含浸前後の線図である。
【図2a】図2aは、マトリックス材料中の細孔の分布が規則的で、配向している複合材料の、それぞれ含浸前後の線図である。
【図2b】図2bは、マトリックス材料中の細孔の分布が規則的で、配向している複合材料の、それぞれ含浸前後の線図である。
【図3】図3は、ナノ粒子が相互に接触する場合の、ナノ粒子間の隙間空間に対応する残留空隙率が33%となる実施形態の図示である。
【図4】図4は、本発明の方法を実施し得る、含浸室とポンプ系とを備えた装置の図示である。
【図5】図5は、その中でビスマスナノ粒子が形成されたシリカ系メソ細孔性マトリックスのTEM暗視野顕微鏡写真である。
【図6】図6は、X線回折図を示す。
【図7】図7は、生成材料のTEM顕微鏡写真を示す。
【符号の説明】
【0047】
1 照射セル
2 液体窒素トラップ
3 前駆体溶液タンク
4 加熱器手段
5 バルブ
6 バルブ
7 1次ポンプ
8 2次ポンプ
9 バルブ
10 バルブ
11 バルブ
12 真空測定装置
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
微孔性またはメソ細孔性固体材料に金属ナノ粒子または金属酸化物ナノ粒子の1つまたは複数の前駆体溶液を含浸させる工程と、次いで前記マトリックス形成材料内の前駆体を還元する工程とを含む複合材料を調製する方法であって、含浸が、飽和蒸気圧下および前駆体溶液の還流下で行われ、還元が、放射線分解によって行われることを特徴とする方法。
【請求項2】
前駆体溶液が、酸化ラジカル遮断剤も含有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
「遮断剤」/「前駆体金属塩」の濃度比が、約103から104の値以上であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
「遮断剤」/「前駆体金属塩」の濃度比が、約10-2から10-1の値以下であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
微孔性またはメソ細孔性材料が、シリカ、アルミナ、ゼオライト;ジルコニア、酸化チタンなどの金属酸化物;およびメソ細孔性を示すポリマーから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
微孔性またはメソ細孔性材料中のナノメートル級の細孔の分布が不規則的であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
微孔性またはメソ細孔性材料中のナノメートル級の細孔の分布が規則的であり、任意に配向していることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ナノ粒子前駆体が、Bi、Au、Ag、Ti、Mg、Al、Be、Mn、Zn、Cr、Cd、Co、Ni、Mo、SnおよびPbの化合物から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ナノ粒子前駆体化合物が、無機塩、有機塩または有機金属化合物であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
無機塩が、硫酸塩または過塩素酸塩であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
有機塩が、ギ酸塩またはネオデカン酸塩であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前駆体が、ネオデカン酸ビスマスであることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前駆体化合物が、ジフェニルマグネシウム、ジフェニルベリリウム、トリイソブチルアルミニウム、ビスシクロペンタジエニルクロム、ビスシクロペンタジエニルチタン、ビスシクロペンタジエニルマンガン、テトラカルボニルコバルト、テトラカルボニルニッケル、ヘキサカルボニルモリブデン、ジプロピルカドミウム、テトラアリル亜鉛およびテトラプロピル鉛から選択される有機金属化合物であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
酸化ラジカル遮断剤が、第1級アルコール、第2級アルコールまたはアルカリ金属ギ酸塩であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項15】
放射線分解還元が、γ線源、X線源または加速電子源を用いて行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
細孔の平均サイズが1ナノメートル未満である微孔性固体材料、または細孔の平均サイズが1nmから100nmの範囲であるメソ細孔性固体材料から構成されているマトリックスと、金属または金属酸化物のナノ粒子とから構成されている複合材料であって、マトリックスの材料は、不規則的であるかまたは規則的であるかのいずれかであり、任意に配向しており、
・前記マトリックス材料が、規則的であり、任意に配向している場合、ナノ粒子は、サイズが単分散性であり、マトリックス材料の全細孔容量の50%〜67%を占め、
・前記マトリックス材料が不規則的である場合、ナノ粒子は、サイズが単分散性であるかまたはマトリックス材料の細孔のサイズと同一のサイズであり、マトリックス材料の最初の細孔容量の少なくとも50%を占めることを特徴とする複合材料。
【請求項17】
固体マトリックスが、シリカ、アルミナ、ゼオライト、金属酸化物、およびメソ空隙率を示すポリマーから選択される材料によって構成されていることを特徴とする、請求項16に記載の複合材料。
【請求項18】
ナノ粒子が、Bi、Au、Ag、Ti、Mg、Al、Be、Mn、Zn、Cr、Cd、Co、Ni、Mo、SnおよびPbから選択される金属、または前記金属のうちの1つの酸化物によって構成されていることを特徴とする、請求項16に記載の複合材料。
【請求項19】
マトリックス材料がメソ細孔性であり、ナノ粒子がビスマスによって構成されていることを特徴とする、請求項16に記載の複合材料。
【請求項20】
マトリックスの微孔性が、規則的且つ配向したタイプであり、円筒型チャネル形状であり、ナノ粒子は、相互に接触し、ナノ粒子間の隙間空間に対応する残留空隙率が33%であることを特徴とする、請求項16に記載の複合材料。
【請求項21】
熱電気材料としての、請求項19に記載の複合材料の使用。
【請求項22】
活性材料として請求項19に記載の材料を含む低温発電機。
【請求項23】
活性材料として請求項19に記載の材料を含む電圧発生器。
【請求項24】
大きな磁気抵抗を示す磁気抵抗材料としての、請求項19に記載の複合材料の使用。
【請求項25】
請求項19に記載の材料を活性材料として含むことを特徴とする磁気センサー。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−531447(P2008−531447A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−556629(P2007−556629)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際出願番号】PCT/FR2006/000357
【国際公開番号】WO2006/090046
【国際公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(500531141)セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク (84)
【出願人】(507284514)ユニベルシテ・ドルレアン (1)
【Fターム(参考)】