説明

多孔質体焼結用敷板及び多孔質焼成体の製造方法

【課題】金属粉末及びバインダーにより表面に開口する多数の開口孔を三次元網目骨格から形成された連続気孔に連通させるように構成され、表面における開口孔の平均開口径が30μm以上1000μm以下、かつ、全体の気孔率が50%以上である多孔質成形体を焼成してなる多孔質焼成体に、ひび割れや歪みが生じるのを防止する。
【解決手段】多孔質成形体Gの焼結に際してこれを載置する多孔質体焼結用敷板1であって、多孔質成形体Gを載置する載置面1aが、炭素材料からなる基材3の表面3aに形成されたイットリア又はジルコニアを主成分とする溶射層5からなり、前記載置面1aの平均粗さRaを1μm以上10μm以下とする。また、載置面1aの最大高さRyを50μm以上100μm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、三次元網目構造を有する多孔質成形体を焼成して多孔質焼成体を製造する多孔質焼成体の製造方法、及び、焼成に際して多孔質成形体を載置する多孔質体焼結用敷板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルタ、ガス拡散部材、放熱部材、吸水部材などに使用される多孔質焼成体は、金属粉末及びバインダーにより表面に開口する多数の開口孔を三次元網目骨格から形成された連続気孔に連通させるように構成された多孔質成形体を焼成することで得られる。
通常、金属粉末及びバインダーからなる成形体の焼成は、焼結用の敷板に成形体を載置した状態で行われる。
【0003】
従来、この焼結用敷板としては、例えば特許文献1のように、炭素材料からなる板状の基材を20%以下のジルコニアを含有するイットリアで被覆したトレーがある。このトレーは、超硬合金やサーメットの焼成に好適に使用されている。
また、焼結用敷板としては、例えば特許文献2のように、炭素材料からなる板状の基材をTiよりも標準生成自由エネルギーの大きな酸化物で被覆した台板もある。この台板は、Tiの圧粉成形体の焼成に好適に使用されている。なお、この台板の使用に際しては表面を切削または研磨するようになっている。
【特許文献1】特表2000−509102号公報
【特許文献2】特許第3707507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、多孔質成形体は圧粉成形して得られるものではなく、また、連続気孔や開口孔による空洞部分の割合が高いことから、空洞部分を有さない通常の成形体と比較して金属粉末同士の結合力が弱くなり、また、焼成による多孔質成形体の収縮率が通常の成形体と比較して大きくなる。このため、多孔質成形体の焼成に際して上記従来の焼結用敷板を使用しても、金属粉末の焼結中にひび割れが生じたり、多孔質成形体の部分的な収縮率の差によって多孔質焼成体に歪みが生じる等の問題がある。
【0005】
この現象は、表面における開口孔の平均開口径が30〜1000μmで、気孔率が50%以上の多孔質成形体において特に顕著となる。また、歩留まり向上を図るために多孔質成形体を大型化すると、多孔質成形体と焼結用敷板との接触面積が大きくなってしまい(例えば100cm以上)、上述したひび割れの問題を避けることができない。
【0006】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであって、多孔質成形体を焼成してなる多孔質焼成体にひび割れや歪みが生じるのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0008】
本発明の多孔質体焼結用敷板は、金属粉末及びバインダーにより表面に開口する多数の開口孔を三次元網目骨格から形成された連続気孔に連通させるように構成され、前記表面における前記開口孔の平均開口径が30μm以上1000μm以下、かつ、全体の気孔率が50%以上である多孔質成形体の焼成に際して、該多孔質成形体を載置する多孔質体焼結用敷板であって、前記多孔質成形体を載置する載置面が、炭素材料からなる基材の表面に形成されたイットリア又はジルコニアを主成分とする溶射層からなり、前記載置面の平均粗さRaが1μm以上10μm以下であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の多孔質焼成体の製造方法は、前記多孔質体焼結用敷板の載置面に前記多孔質成形体を載置した状態で、前記多孔質成形体を焼成して多孔質焼成体を製造することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、上記のように載置面の表面粗さRaを設定することで、多孔質成形体の焼成に際して、ひび割れが生じることを防止できると共に、多孔質成形体の全体にわたって収縮率の差が生じることを防いで、多孔質焼成体に歪みが発生することを防止できる。
【0011】
すなわち、載置面の平均粗さRaが1μm未満の場合には、載置面に対する多孔質成形体の接触面積が大きくなってこれらの間の摩擦が過度に増加する。そして、この摩擦は多孔質成形体が焼成によって収縮する際の抵抗として作用するため、収縮率の大きい多孔質成形体の収縮を阻害して、多孔質焼成体にひび割れや歪みが生じやすくなる。
また、載置面の平均粗さRaが10μmよりも大きい場合には、焼成によって収縮する多孔質成形体の開口孔が溶射層に引っ掛かり、多孔質成形体の収縮が局所的に阻害されるため、多孔質成形体に部分的な収縮率の差が発生し、多孔質焼成体にひび割れや歪みが生じやすくなる。
【0012】
なお、本発明の多孔質体焼結用敷板においては、前記載置面の最大高さRyが50μm以上100μm以下とすることがより好ましい。
このように、載置面の最大高さRyを50μm以上とすることで、載置面と多孔質成形体との間の摩擦が過度に増加することをさらに良好に防止できる。さらに、載置面の最大高さRyを100μm以下とすることで、開口孔が溶射層に引っ掛かることをさらに良好に防止できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、多孔質成形体の焼成に際して、ひび割れが生じることを防止できると共に、多孔質成形体の全体にわたって収縮率の差が生じることを防いで、多孔質焼成体に歪みが発生することを防止できる。すなわち、ひび割れや歪み等の欠陥がない多孔質焼成体を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図1から図3を参照し、本発明の実施形態に係る多孔質体焼結用敷板及び多孔質焼成体の製造方法について説明する。
図1に示すように、この実施形態に係る多孔質体焼結用敷板1は、金属粉末(例えばニッケル、銅、鉄、SUS、クロム、コバルト、金、銀、チタン)及びバインダー(例えばメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)により表面に開口する多数の開口孔を三次元網目骨格から形成された連続気孔に連通させるように構成された多孔質グリーンシート(多孔質成形体)Gを焼成する際に載置するものである。
【0015】
多孔質体焼結用敷板1は、炭素材料からなる基材3の表面にイットリア又はジルコニアを主成分とする溶射層5を形成して構成されており、この溶射層5が多孔質グリーンシートGを載置する載置面1aをなしている。
ここで、溶射層5は、基材3の表面3aにイットリア又はジルコニアを主成分とする原料粉末を溶射して形成されており、載置面1aの平均粗さRaは1μm以上10μm以下の範囲に設定されている。上記範囲の平均粗さRaは、例えば原料粉末の粒度を細かく(例えば平均粒径5〜30μm)することで得られる。また、載置面1aの最大高さRyは50μm以上100μm以下の範囲に設定されている。
【0016】
次に、以上のように構成された多孔質体焼結用敷板1を用いて多孔質焼成体を製造する方法について説明する。この製造方法では、はじめに、例えば図2に示すグリーンシート製造装置11を用いて多孔質グリーンシートGを製造する。
すなわち、グリーンシート製造装置11においては、まず、前述した金属粉末及びバインダーに加えて、発泡剤(例えば、炭化数5〜8の非水溶性炭化水素系有機溶剤(例えばネオペンタン、ヘキサン、ヘプタン))、溶媒(水)等を混合したスラリーSをホッパー13に貯蔵しておく。なお、このスラリーSとしては、例えば特許第3282497号公報に開示されているものがより好ましい。
【0017】
次いで、ホッパー13からキャリアシート15上にスラリーSが供給される。キャリアシート15はローラ17によって搬送されており、キャリアシート15上のスラリーSは、移動するキャリアシート15とドクターブレード19との間で延ばされ、シート状に成形される。シート状のスラリーSは、さらにキャリアシート15によって搬送され、加熱処理を行う発泡槽21および加熱炉23を順次通過する。
【0018】
発泡槽21では高湿度雰囲気下で加熱処理を行うので、スラリーSにひび割れを生じさせずに発泡剤を発泡させることができる。この発泡では、シート状のスラリーSの内部に相互に連通された多数の気泡(連続気孔)が形成されると共に、スラリーSの表面に開口する多数の開口気泡(開口孔)が形成されることになる。ここで、多数の気泡及び開口気泡は相互に連通しており、これによって三次元網目構造を有した多孔質状のスラリーSが形成されることになる。
そして、多孔質状のスラリーSが加熱炉23において乾燥されると、金属粉末がバインダーによって接合された状態で三次元網目構造をなす長尺状の多孔質グリーンシートGが製造されることになる。
【0019】
このように製造される多孔質グリーンシートGにおいては、その表面に開口する開口気泡の平均開口径が30μm以上1000μm以下となり、また、多孔質グリーンシートG全体の気孔率が50%以上となる。
ここで、平均開口径は、例えば光学顕微鏡を用いて多孔質グリーンシートGの表面を撮像すると共にこの撮像画像を2値化処理し、多孔質グリーンシートGの表面における個々の開口気泡の面積を円相当径として求めたものである。また、気孔率は、多孔質グリーンシートGに形成された気泡及び開口気泡の合計容積によって定められるものである。なお、平均開口径や気孔率の数値は、上述したスラリーSの調整方法、発泡方法、乾燥方法における条件を種々変更することで上述した範囲内で調節することができる。
【0020】
その後、長尺状の多孔質グリーンシートGを所定長さに切断し、切断された各多孔質グリーンシートGをキャリアシート15から剥がした状態で多孔質体焼結用敷板1の載置面1aに載置する。この際、載置面1aにはキャリアシート15に接触していた多孔質グリーンシートGの下面を接触させることがより好ましいが、多孔質グリーンシートGの上面を接触させるとしても構わない。
【0021】
最後に、多孔質体焼結用敷板1の載置面1aに載置された多孔質グリーンシートGを脱脂・焼成することで、シート状の多孔質焼成体の製造が完了する。
ここでは、例えば図3に示すように、一方向に搬送されるベルトコンベア31上に多孔質体焼結用敷板1を載せた状態で焼成炉33内を通過させることで、多孔質グリーンシートGを焼成して多孔質焼成体Bが製造されるとしてもよい。また、例えば多孔質体焼結用敷板1を図示しない真空炉内に収納した状態で多孔質グリーンシートGを焼成することで多孔質焼成体Bが製造されるとしても構わない。なお、多孔質グリーンシートGの焼成は、800℃〜1400℃程度の温度で60〜180分間行うことが好ましい。
【0022】
この多孔質グリーンシートGの焼成に際しては、多孔質体焼結用敷板1の載置面1aの平均粗さRaが1μm以上10μmに設定されているため、多孔質グリーンシートGにひび割れが生じることを防止できる多と共に、多孔質グリーンシートGの全体にわたって収縮率の差が生じることを防いで、多孔質焼成体Bに歪みが発生することを防止できる。
【0023】
すなわち、載置面1aの平均粗さRaが1μm未満の場合には、載置面1aに対する多孔質グリーンシートGの接触面積が大きくなってこれらの間の摩擦が過度に増加する。そして、この摩擦は多孔質グリーンシートGが焼成によって収縮する際の抵抗として作用するため、収縮率の大きい多孔質グリーンシートGの収縮を阻害して、多孔質焼成体Bにひび割れや歪みが生じやすくなる。
また、載置面1aの平均粗さRaが10μmよりも大きい場合には、焼成によって収縮する多孔質グリーンシートGの開口気泡が溶射層5に引っ掛かり、多孔質グリーンシートGの収縮が局所的に阻害されるため、多孔質グリーンシートGに部分的な収縮率の差が発生し、多孔質グリーンシートGにひび割れや歪みが生じやすくなる。
【0024】
さらに、本実施形態においては、載置面1aの最大高さRyを50μm以上としているため、載置面1aに対する多孔質グリーンシートGの接触面積が大きくなってこれらの間の摩擦が過度に増加することをさらに良好に防止している。また、載置面1aの最大高さRyを100μm以下としているため、焼成によって多孔質グリーンシートGが収縮する際に開口気泡が溶射層5に引っ掛かることをさらに良好に防止できる。
【0025】
以上説明したように、本実施形態による多孔質体焼結用敷板1及び多孔質焼成体Bの製造方法によれば、多孔質グリーンシートGの焼成に際して、ひび割れが生じることを防止できると共に、多孔質グリーンシートGの全体にわたって収縮率の差が生じることを防いで、多孔質焼成体Bに歪みが発生することを防止できる。すなわち、ひび割れや歪み等の欠陥がない多孔質焼成体Bを提供することが可能となる。
【0026】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
すなわち、焼成の対象となる多孔質グリーンシートGの平均開口径は、多孔質グリーンシートGの表面に開口する開口気泡のみを考慮したものに限らず、多孔質グリーンシートGの表面に開口する金属粉末間の空隙(開口孔)を含めて考慮しても良い。また、気孔率についても、多孔質グリーンシートGに形成された気泡及び開口気泡の合計容積だけではなく、金属粉末間の空隙の合計容積も含めて設定されるとしても良い。
また、多孔質体焼結用敷板1の載置面1aには、シート状以外の所定形状に形成された多孔質成形体を載置してもよく、この場合でも焼成に際して同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る多孔質体焼結用敷板を示す概略断面図である。
【図2】図1の多孔質体焼結用敷板に載置する多孔質グリーンシートを製造するグリーンシート製造装置の一例を示す概略断面図である。
【図3】図1の多孔質体焼結用敷板に載置された多孔質グリーンシートを焼成する方法の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 多孔質体焼結用敷板
3 基材
3a 表面
5 溶射層
B 多孔質焼成体
G 多孔質グリーンシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末及びバインダーにより表面に開口する多数の開口孔を三次元網目骨格から形成された連続気孔に連通させるように構成され、前記表面における前記開口孔の平均開口径が30μm以上1000μm以下、かつ、全体の気孔率が50%以上である多孔質成形体の焼成に際して、該多孔質成形体を載置する多孔質体焼結用敷板であって、
前記多孔質成形体を載置する載置面が、炭素材料からなる基材の表面に形成されたイットリア又はジルコニアを主成分とする溶射層からなり、
前記載置面の平均粗さRaが1μm以上10μm以下であることを特徴とする多孔質体焼結用敷板。
【請求項2】
前記載置面の最大高さRyが50μm以上100μm以下あることを特徴とする請求項1に記載の多孔質体焼結用敷板。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の多孔質体焼結用敷板の載置面に前記多孔質成形体を載置した状態で、前記多孔質成形体を焼成して多孔質焼成体を製造することを特徴とする多孔質焼成体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−106299(P2008−106299A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288710(P2006−288710)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】