説明

多孔質樹脂ビーズおよびそれを用いる核酸の製造方法

【課題】核酸合成の固相合成用担体として有用な多孔質樹脂ビーズを提供すること。
【解決手段】第一の芳香族モノビニル化合物−ジビニル化合物−(メタ)アクリロニトリル−第二の芳香族モノビニル化合物系共重合体からなる多孔質樹脂ビーズであって、第二の芳香族モノビニル化合物が、脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合し得る基を含有し、かつ膨潤体積が3〜6mL/gであることを特徴とする、多孔質樹脂ビーズ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質樹脂ビーズに関する。より詳しくは、第一の芳香族モノビニル化合物−ジビニル化合物−(メタ)アクリロニトリル−第二の芳香族モノビニル化合物系共重合体からなる多孔質樹脂ビーズに関する。この多孔質樹脂ビーズは、特に核酸合成に有用である。
【背景技術】
【0002】
DNAオリゴヌクレオチドやRNAといった核酸の化学合成に、ホスホロアミダイト法を用いた固相合成法が広く用いられている。この方法は、例えば、先ず合成する核酸の3’末端になるヌクレオシドを、スクシニル基などの開裂性リンカーを介して固相合成用担体にあらかじめ担持させ、この担体を反応カラムに入れ、核酸自動合成装置にセットする。以降は核酸自動合成装置の合成プログラムにしたがって、例えば以下のように反応カラム中に合成用試薬が流される。(1)トリクロロ酢酸/ジクロロメタン溶液またはジクロロ酢酸/トルエン溶液等による、ヌクレオシド5’−OH基の脱保護、(2)ヌクレオシドホスホロアミダイト(核酸モノマー)/アセトニトリル溶液および活性化剤(テトラゾール等)/アセトニトリル溶液による5’−OH基ヘのアミダイトのカップリング反応、(3)無水酢酸/ピリジン/メチルイミダゾール/THF等による未反応の5’−OH基のキャッピング、(4)ヨウ素/水/ピリジン等によるホスファイトの酸化。
この合成サイクルを繰り返し、目的の配列を持った核酸が合成される。最終的に合成された核酸は、アンモニアやメチルアミン等により開裂性リンカーを加水分解させることによって、固相合成用担体から切り出される(非特許文献1参照)。
【0003】
核酸の合成に使用される固相合成用担体としては、これまでCPG(Controlled Pore Glass)やシリカゲルのような無機粒子が用いられてきたが、近年、安価に、かつ大量に合成するために、固相合成用担体重量当りの核酸合成量を多くすることができる樹脂ビーズが用いられるようになってきた。このような樹脂ビーズとしては、例えば高架橋・非膨潤性の多孔質ポリスチレンビーズ(特許文献1参照)、低架橋・膨潤性の多孔質ポリスチレンビーズ(特許文献2参照)等が挙げられる。
【0004】
しかしながら、固相合成用担体重量当りの核酸合成量をさらに増やすために、合成の起点となるヌクレオシドリンカーの担持量を多くし過ぎると、アミダイトのカップリング効率が悪くなり、得られる核酸の純度が著しく低下するという問題がある。例えば20塩基配列のDNAオリゴヌクレオチドを高純度で合成することができる、市販の固相合成用担体のヌクレオシドリンカー担持量の上限はこれまでのところ約200μmol/g程度である。
【0005】
アクリロニトリルを使用して種々の有機溶媒中における多孔質樹脂ビーズの膨潤率の変動を抑えることで、核酸の合成能を改善することが試みられている(特許文献3参照)。しかし、この文献における多孔質樹脂ビーズは、種々の有機溶媒中における多孔質樹脂ビーズの膨潤率の変動は小さいものの、核酸の合成能についてはさらなる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−68593号公報
【特許文献2】特開2005−325272号公報
【特許文献3】特開2008−74979号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry(2000),UNIT3.6 Synthesis of Unmodified Oligonucleotides
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高合成量かつ高純度で核酸を合成するための多孔質樹脂ビーズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、第一の芳香族モノビニル化合物−ジビニル化合物−(メタ)アクリロニトリル−第二の芳香族モノビニル化合物からなる多孔質樹脂ビーズのうち、
(1)第二の芳香族モノビニル化合物が、脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合し得る基を含有し、かつ
(2)アセトニトリル中での膨潤体積が3〜6mL/gである
ことを特徴とする多孔質樹脂ビーズを、固相合成用担体として核酸合成に用いた場合、驚くべきことに得られる核酸の合成量が増大し、かつその純度が向上することを初めて見いだした。
本発明者らはこれらの知見に基づいてさらに鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明は、
[1] 第一の芳香族モノビニル化合物−ジビニル化合物−(メタ)アクリロニトリル−第二の芳香族モノビニル化合物系共重合体からなる多孔質樹脂ビーズであって、第二の芳香族モノビニル化合物が、脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合し得る基を含有し、かつアセトニトリル中での膨潤体積が3〜6mL/gであることを特徴とする、多孔質樹脂ビーズ;
[2] 脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合し得る基が、アミノ基、アミノアルキル基、ヒドロキシル基、およびヒドロキシアルキル基から選択される基である、[1]に記載の多孔質樹脂ビーズ;
[3] (メタ)アクリロニトリル構造単位の量が1〜6mmol/gであることを特徴とする、[1]または[2]に記載の多孔質樹脂ビーズ;
[4] 単量体合計量に対するジビニル化合物の仕込み量が、2〜10mol%であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれか一に記載の多孔質樹脂ビーズ;
[5] ジビニル化合物がジビニルベンゼンである、[1]〜[4]のいずれか一に記載の多孔質樹脂ビーズ;
[6] [1]〜[5]のいずれか一に記載の多孔質樹脂ビーズに対して開裂性のリンカーを介しヌクレオシドまたはヌクレオチドを順次結合させてオリゴヌクレオチドを得ることを特徴とする、核酸の製造方法;
などに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の多孔質樹脂ビーズは核酸の合成量および核酸の合成純度が高いので、この多孔質樹脂ビーズを使用することで、従来の多孔質樹脂ビーズを用いた場合よりも核酸合成を効率的に行うことが可能となる。
【0012】
本発明の多孔質樹脂ビーズは、第一の芳香族モノビニル化合物−ジビニル化合物−(メタ)アクリロニトリル−第二の芳香族モノビニル化合物系共重合体からなる。
【0013】
本発明の多孔質樹脂ビーズの構造単位(即ち、第一の芳香族モノビニル化合物−ジビニル化合物−(メタ)アクリロニトリル−第二の芳香族モノビニル化合物系共重合体における構造単位)の一つである「第一の芳香族モノビニル化合物」とは、スチレンまたはその置換体を意味する。スチレンの置換体としては、例えば、スチレンの1つ以上の水素原子が、炭素数1〜5のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−アミル基、イソアミル基、sec−アミル基、tert−アミル基)、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン酸基、シアノ基、炭素数1〜5のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基)、ニトロ基、アシルオキシ基(例えば、アセトキシ基、ベンゾキシ基)等で置換された化合物が挙げられる。
【0014】
このような第一の芳香族モノビニル化合物としては、具体的には、例えばスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、トリメチルスチレン、p−t−ブチルスチレン等の、ベンゼン環部分が置換されたスチレンである「核アルキル置換スチレン」;α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、フルオロスチレン、ペンタフルオロスチレン、ブロモスチレン等の、ベンゼン環部分がハロゲン化されたスチレンである「核ハロゲン化スチレン」;クロロメチルスチレン、フルオロメチルスチレン等のハロゲン化アルキルスチレン、ヒドロキシスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、安息香酸ビニル、スチレンスルホン酸ナトリウム、シアノスチレン、メトキシスチレン、エトキシスチレン、ブトキシスチレン、ニトロスチレンおよびアセトキシスチレン、ベンゾキシスチレン等の「アシルオキシスチレン」等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。本発明の第一の芳香族モノビニル化合物として好ましいものは、スチレンである。
【0015】
本発明の多孔質樹脂ビーズの構造単位の一つである「ジビニル化合物」とは、芳香族ジビニル化合物、ジ(メタ)アクリル酸エステルまたはそれらの置換体を意味する。芳香族ジビニル化合物の置換体、ジ(メタ)アクリル酸エステルの置換体としては、例えば、芳香族ジビニル化合物やジ(メタ)アクリル酸エステルの1つ以上の水素原子が、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン酸基、シアノ基、炭素数1〜5のアルコキシ基、ニトロ基等で置換された化合物が挙げられる。
【0016】
このようなジビニル化合物としては、具体的には、例えばジビニルベンゼン、メチルジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン等の芳香族ジビニル化合物、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、それ以上の多価のエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレンエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、それ以上の多価のプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオール(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジメタクリレート等のジ(メタ)アクリレート系化合物等が挙げられる。本発明のジビニル化合物として好ましいものは、ジビニルベンゼンである。ジビニルベンゼンは、o−、m−又はp−ジビニルベンゼンやこれらの混合物が構造単位として用いられる。なかでも特に好ましいものは、m−またはp−ジビニルベンゼンである。ジビニル化合物は、本発明の多孔質樹脂ビーズにおける架橋剤として機能する。架橋剤の量が少ないほうが多孔質樹脂ビーズが膨潤しやすくなり、多い方が膨潤率が低下する傾向にあるため、ジビニル化合物の量は、膨潤率の増大化に貢献し得る。
【0017】
本発明の多孔質樹脂ビーズの構造単位の一つである「(メタ)アクリロニトリル」とは、「アクリロニトリル」もしくは「メタクリロニトリル」、または「アクリロニトリルとメタクリロニトリルの両方」を意味する。すなわち本発明の多孔質樹脂ビーズに含まれる(メタ)アクリロニトリルの構造単位は、アクリロニトリルの構造単位またはメタクリロニトリルの構造単位がそれぞれ単独で含まれていても良いし、両方の単位が含まれていても良い。
【0018】
本発明の多孔質樹脂ビーズの構造単位の一つである「第二の芳香族モノビニル化合物」とは、「脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合し得る官能基」を含有することを特徴とする、スチレンまたはその置換体を意味する。従って目的の核酸を合成する場合、ヌクレオシドを多孔質樹脂ビーズと連結させるが、その際リンカーにカルボキシル基があるとリンカーのカルボキシル基と多孔質樹脂ビーズとを容易に結合させることができるので、核酸合成が効率的に行い得る点で有利である。このような「脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合し得る官能基」としては、アミノ基、アミノアルキル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基などが挙げられる。より好ましくは、一級アミノ基、アミノメチル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシメチル基などが挙げられる。「脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合しうる官能基」はビニル基に対してパラ位に配置することが好ましいが、オルト位またはメタ位であってもよい。
【0019】
このような第二の芳香族モノビニル化合物としては、具体的には、アミノスチレン等のアミノスチレン系単量体またはその置換体、アミノメチルスチレン等のアミノアルキルスチレン系単量体またはその置換体、ヒドロキシスチレン等のヒドロキシスチレン系単量体またはその置換体、ヒドロキシメチルスチレン等のヒドロキシアルキルスチレン系単量体またはその置換体等が挙げられ、好ましくはp−アミノスチレン、p−アミノメチルスチレン、p−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシメチルスチレンである。
ヒドロキシスチレン系単量体またはアミノスチレン系単量体の「置換体」としては、「脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合しうる官能基」以外の1つ以上の水素原子が、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホン酸基、シアノ基、メトキシ基、ニトロ基等で置換された化合物が挙げられる。
【0020】
本発明の多孔質樹脂ビーズは、製造当初から前記「脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合し得る官能基」を含有してなる第二の芳香族モノビニル化合物を直接用いて製造してもよい(製造方法は後述)が、一旦懸濁共重合等によって多孔質樹脂ビーズを合成した後、「脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合し得る官能基」を導入することで製造してもよい。特に、「脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合し得る官能基」としてヒドロキシ基を有する第二の芳香族モノビニル化合物(ヒドロキシスチレン)を本発明の多孔質樹脂ビーズの構造単位として導入する場合、ヒドロキシスチレン自体は非常に重合しやすい不安定な単量体であるため取扱いや保存が容易でないので、本製造方法で製造することが好ましい。
【0021】
このような製造過程において、本発明の「第二の芳香族モノビニル化合物」の基となる芳香族モノビニル化合物としては、例えば、アセトアミノスチレンなどのアシルアミノスチレン、アセトキシスチレン、エタノイルオキシスチレン、ベンゾキシスチレンなどのアシルオキシスチレン、クロロメチルスチレンなどのハロアルキルスチレンが挙げられる。
【0022】
懸濁共重合等によって合成した多孔質樹脂ビーズ中のアシルオキシスチレン、アシルアミノスチレンの構造単位は、アルカリまたは酸による加水分解によって、本発明の多孔質樹脂ビーズの構造単位である「第二の芳香族モノビニル化合物」、具体的にはヒドロキシスチレン、アミノスチレンなどの構造単位に変換することができる。また、ハロアルキルスチレンの構造単位は、フタルイミドおよびヒドラジン、アンモニアまたは水酸化ナトリウムなどとの反応によって、本発明の多孔質樹脂ビーズの構造単位である「第二の芳香族モノビニル化合物」、具体的にはアミノアルキルスチレン、ヒドロキシアルキルスチレンなどの構造単位に変換することができる。変換して「脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合しうる官能基」となるアシルオキシ基、アシルアミノ基、ハロアルキル基などは、ビニル基に対してパラ位に配置することが好ましいが、オルト位またはメタ位であってもよい。
【0023】
あるいは、懸濁共重合等によって合成した、第一の芳香族モノビニル化合物−ジビニル化合物−(メタ)アクリロニトリル化合物系共重合体からなる多孔質樹脂ビーズを後処理して、第一の芳香族モノビニル化合物の構造単位の芳香族環に対してハロアルキル基を導入した後、これらをアミノアルキルスチレンまたはヒドロキシアルキルスチレンの構造単位に変換してもよい。例えば、第一の芳香族モノビニル化合物−ジビニル化合物−(メタ)アクリロニトリル化合物系共重合体からなる多孔質樹脂ビーズの分散液中に、クロロメチルメチルエーテルおよび塩化亜鉛を加えて反応させることによりクロロメチル基を導入する。次にアンモニアと反応させてアミノメチル基を導入することで「第二の芳香族モノビニル化合物」構成単位を導入する。このような製造過程を経ても、本発明の多孔質樹脂ビーズを得ることができる。ハロアルキル基は、ビニル基に対してパラ位に配置することが好ましいが、オルト位またはメタ位であってもよい。
【0024】
本発明の多孔質樹脂ビーズの構造単位の合計重量に対する第一のモノビニル化合物の構造単位の量は、特に限定されないが、多孔質樹脂ビーズ重量当りに占める量として、好ましくは3.0〜8.3mmol/gであり、好ましくは4.5〜8.0mmol/gであり、さらに好ましくは5.0〜7.5mmol/gである。
第一のモノビニル化合物の構造単位の量がこれよりも少ない場合は、多孔質樹脂ビーズの耐溶剤性、熱安定性および多孔度が十分でなく、核酸の固相合成に用いたときに所望の効果を期待し難い。またその量がこれよりも多い場合は、有機溶剤中での膨潤度が低くなるために核酸の固相合成に用いたときに得られる核酸の合成量が少なくなり、さらに核酸の純度も低下してしまう。
【0025】
本発明の多孔質樹脂ビーズの構造単位の合計重量に対するジビニル化合物構造単位の量は、特に限定されないが多孔質樹脂ビーズ重量当りに占める量として、好ましくは0.2〜1.0mmol/gであり、好ましくは0.25〜0.8mmol/gであり、さらに好ましくは0.3〜0.7mmol/gである。
その量がこれよりも少ない場合は、多孔質樹脂ビーズの耐溶剤性、熱安定性および多孔度が十分でなく、核酸の固相合成に用いたときに所望の効果を期待し難い。またその量がこれよりも多い場合は、有機溶剤中での膨潤度が低くなるために、核酸の固相合成に用いたときに得られる核酸の合成量が少なくなり、さらに核酸の純度も低下してしまう。
【0026】
本発明の多孔質樹脂ビーズは、有機溶媒中に浸漬すると膨潤して体積が変わる。有機溶媒としては特に限定されないが、好ましくはアセトニトリル、トルエンであり、より好ましくはアセトニトリルである。
本発明の多孔質樹脂ビーズをアセトニトリル中に浸漬したときの膨潤体積は、好ましくは3〜6mL/gであり、より好ましくは3.2〜5.5mL/gであり、さらに好ましくは3.4〜5.0mL/gである。また本発明の多孔質樹脂ビーズをトルエン中に浸漬したときの膨潤体積は、好ましくは5〜8mL/gであり、より好ましくは5.2〜7.7mL/gであり、さらに好ましくは5.4〜7.4mL/gである。
本発明の多孔質樹脂ビーズは有機溶媒中での膨潤率が大きいので、有機溶媒を用いる核酸合成の反応場を大きくすることができる。そしてこのことによって、核酸合成の反応性を改善することができる。したがって本発明によれば、これまでの核酸合成用多孔質樹脂ビーズと比較して、合成量と合成純度との両方が高い核酸合成を可能にする、固相合成用担体に用いる多孔質樹脂ビーズを得ることができる。
【0027】
そこで、本発明の多孔質樹脂ビーズの有機溶媒中の膨潤体積を上記範囲内とするためには、多孔質樹脂ビーズの構造単位の合計量に対する(メタ)アクリロニトリル構造単位の量を考慮する必要がある。
本発明の多孔質樹脂ビーズ体の構造単位の合計量に対する(メタ)アクリロニトリル構造単位の量は1〜6mmol/gであり、好ましくは1.5〜4mmol/g、さらに好ましくは1.8〜3mmol/gである。(メタ)アクリロニトリル構造単位の量がこれよりも少ない場合は望ましい多孔質樹脂ビーズが得られず、核酸の固相合成に用いたときに所望の効果を期待し難い。またその量が上限値よりも多い場合は多孔質樹脂ビーズそのものが形成し難い。加えて、6mmol/gよりも多いとき、複数溶媒の膨潤率の変動が小さいにもかかわらず、核酸合成量は低下する傾向にある。
本発明の多孔質樹脂ビーズ中における(メタ)アクリロニトリル構造単位の量は、全窒素分析により測定される。具体的には、試料を白金パンに入れ、ミクロ天秤で秤量した後、微量全窒素分析装置TN−110(三菱化学)により窒素量を測定し、(メタ)アクリロニトリル構造単位の分子量から計算して求める。
【0028】
本発明の多孔質樹脂ビーズの構造単位の合計重量に対する第二の芳香族モノビニル化合物の構造単位の量は特に限定されないが、好ましくは0.05〜1.5mmol/gであり、より好ましくは0.1〜1.0mmol/gであり、さらに好ましくは0.2〜0.8mmol/gである。
その量がこれよりも少ない場合は効果が得られないからであり、その量がこれよりも多い場合は多孔質樹脂ビーズそのものを形成し難いからである。
【0029】
本発明の多孔質樹脂ビーズにおける、第二のモノビニル化合物の構造単位が有する「脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合しうる官能基」の量としては、例えばアミノ基、アミノアルキル基、ヒドロキシル基またはヒドロキシアルキル基の場合、多孔質樹脂ビーズ重量当りに占める量として、好ましくは0.05〜1.5mmol/gであり、より好ましくは0.1〜1.0mmol/gであり、さらに好ましくは0.2〜0.8mmol/gである。
「脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合しうる官能基」の量がこれよりも少ない場合は、核酸の固相合成用担体として用いた場合、核酸の合成量が少なくなる傾向にある。またその量がこれよりも多い場合は、核酸の固相合成用担体として用いた場合、核酸の純度が低下する傾向にある。
【0030】
本発明の多孔質樹脂ビーズにおける、第二のモノビニル化合物の構造単位が有する「脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合しうる官能基」については、例えばアミノ基、アミノアルキル基、ヒドロキシル基またはヒドロキシアルキル基の場合、はJIS K0070に基づく滴定により測定される。具体的には、測定対象の固相合成用担体のヒドロキシル基を既知量のアセチル化試薬(無水酢酸/ピリジン)によってアセチル化し、アセチル化に消費されなかった無水酢酸量を水酸化カリウムによって滴定して求めることによって、官能基量を算出することができる。
【0031】
本発明の多孔質樹脂ビーズの製造方法は特に限定されず、例えば、
(1)第一の芳香族モノビニル化合物、ジビニル化合物、(メタ)アクリロニトリルおよび脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合し得る官能基を含有する第二の芳香族モノビニル化合物を、有機溶媒および水を用いて懸濁共重合させて、多孔質樹脂ビーズを製造する方法
が挙げられる。あるいは、
(2)懸濁共重合等によって多孔質樹脂ビーズを合成した後、第二の芳香族モノビニル化合物の構造単位に、脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合し得る官能基を導入して、多孔質樹脂ビーズを製造する方法
などが挙げられる。
【0032】
懸濁共重合の際の、第一の芳香族モノビニル化合物、ジビニル化合物、(メタ)アクリロニトリル、第二の芳香族モノビニル化合物の合計量に対する第一の芳香族モノビニル化合物の仕込み量は、31〜85mol%であり、好ましくは45〜82mol%、さらに好ましくは53〜76mol%である。
【0033】
懸濁共重合の際の、第一の芳香族モノビニル化合物、ジビニル化合物、(メタ)アクリロニトリル、第二の芳香族モノビニル化合物の合計量に対するジビニル化合物の仕込み量は、2〜10mol%であり、好ましくは2.5〜8mol%、さらに好ましくは3〜7mol%である。
【0034】
懸濁共重合の際の、第一の芳香族モノビニル化合物、ジビニル化合物、(メタ)アクリロニトリル、第二の芳香族モノビニル化合物の合計量に対する(メタ)アクリロニトリルの仕込み量は、10〜60mol%であり、好ましくは13〜40mol%、さらに好ましくは18〜30mol%である。
【0035】
懸濁共重合の際の、第一の芳香族モノビニル化合物、ジビニル化合物、(メタ)アクリロニトリル、第二の芳香族モノビニル化合物の合計量に対する第二の芳香族モノビニル化合物の仕込み量は、0.5〜15mol%であり、好ましくは1〜10mol%、さらに好ましくは2〜8mol%である。
この量は、一旦懸濁共重合等によって多孔質樹脂ビーズを合成した後、「脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合し得る官能基」を導入して製造する場合の、第二の芳香族モノビニル化合物の基となる芳香族モノビニル化合物であっても同様である。
【0036】
懸濁共重合は、上述の各化合物(以下、懸濁共重合される本発明の多孔質樹脂ビーズの構成成分(第一の芳香族モノビニル化合物、ジビニル化合物、(メタ)アクリロニトリル、第二の芳香族モノビニル化合物)のそれぞれを、「単量体」と記載する場合がある)と有機溶媒との混合物を水中で撹拌乳化することにより行われる。
【0037】
懸濁共重合する際の有機溶媒とは、懸濁共重合系における水以外の溶媒を意味し、炭化水素およびアルコールが好ましく用いられる。炭化水素として具体的には、脂肪族の飽和または不飽和炭化水素、あるいは芳香族炭化水素を用いることができ、好ましくは炭素数5〜12の脂肪族炭化水素であり、より好ましくは、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、ウンデカン、ドデカン等が挙げられる。またこの際得られるビーズの多孔質度を増すために、アルコールを共存させることが望ましい(以下、多孔質度を増す目的で用いられるアルコールを、「多孔質化剤」と記載する)。本発明におけるアルコールとしては、例えば脂肪族アルコールを挙げることができ、その炭素数は、好ましくは5〜9である。このようなアルコールとして具体的には、2−エチルヘキサノール、アミルアルコール(例、t−アミルアルコールなど)、ノニルアルコール、2−オクタノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。
【0038】
懸濁共重合に用いられる炭化水素とアルコールの重量比は、炭化水素およびアルコールの具体的な組合せによって適宜変更され、それにより得られる固相合成用担体の比表面積を大きくすることができる。炭化水素とアルコールの好ましい配合割合は、重量比で1:9〜6:4である。
【0039】
懸濁共重合の際の有機溶媒の重量は、上記各単量体の総重量に対して好ましくは0.5〜2.5倍であり、より好ましくは0.8〜2.2倍であり、さらに好ましくは1.0〜2.0倍である。この値が大小いずれの場合でも、得られる多孔質樹脂ビーズの比表面積が小さくなり、化学反応による合成反応物の量が少なくなる。
【0040】
本発明において、懸濁共重合する際の方法自体は従来公知の方法を援用してもよい。
【0041】
懸濁共重合する際の分散安定剤としては特に限定されず、従来公知のポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ゼラチン、デンプン、カルボキシルメチルセルロース等の親水性保護コロイド剤、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、りん酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、ベントナイト等の難溶性粉末等が用いられる。分散安定剤の添加量は特に限定されないが、好ましくは懸濁重合系の水の重量に対して0.01〜10重量%である。この値が少ない場合は、懸濁重合の分散安定性が損なわれて多量の凝集物が生成する。この値が多い場合は、微小ビーズが多数生成する。
【0042】
懸濁共重合する際の重合開始剤としては特に限定されず、従来公知のジベンゾイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジステアロイルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシ−2−−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカルボネート等の過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物が用いられる。重合開始剤の添加量は特に限定されず、当業者であれば適切な量を選択することが可能である。
【0043】
懸濁共重合の際の反応条件は、適宜に設定することができ、例えば60〜90℃における30分間〜48時間の撹拌が挙げられる。撹拌速度は、例えば100rpm〜1000rpm、好ましくは200rpm〜500rpmである。懸濁共重合により、第一の芳香族モノビニル化合物−ジビニル化合物−(メタ)アクリロニトリル−第二の芳香族モノビニル化合物共重合体を得ることができる。
【0044】
得られた共重合体は適宜、洗浄、乾燥、分級等の処理を施してもよい。さらに、懸濁共重合等によって多孔質樹脂ビーズを合成した後、第二の芳香族モノビニル化合物の構造単位に、脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合し得る官能基を導入してもよい。導入方法は、前記のとおりである。
【0045】
以上のような処理を経て、本発明の多孔質樹脂ビーズを得ることができる。この多孔質樹脂ビーズは、固相合成用担体として利用することができる。
【0046】
本発明の「多孔質樹脂ビーズ」は、必ずしも厳密な球状を呈する必要は無く、少なくとも粒状であれば良い。しかしながら、固相合成の反応カラムヘの充填効率を高くでき、また破損し難いという点から、本発明の多孔質樹脂ビーズ(固相合成用担体)は、好ましくは球状である。
本発明の多孔質樹脂ビーズの膨潤体積は(メタ)アクリロニトリル構造単位の量に加えて、メジアン粒子径およびメジアン細孔径によっても影響を受けうる。
【0047】
本発明の多孔質樹脂ビーズのレーザー回折散乱法により測定したメジアン粒子径は、特に限定されないが、好ましくは1〜1000μm、より好ましくは10〜500μm、さらに好ましくは20〜300μmである。本発明の多孔質樹脂ビーズのメジアン粒子径は、レーザー回折散乱法により測定される。具体的には、50v/v%エタノール水溶液を分散媒に用いて、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置LA−950(堀場製作所社製)により測定し、平均粒径を求める。
【0048】
メジアン粒子径は、懸濁重合時の重合開始前の撹拌条件、多孔質化剤の種類や量、懸濁重合する際の分散安定剤の濃度に依存する。従ってこれらを調整することで、メジアン粒子径を望ましい範囲に調整することが可能であり、結果として本発明の多孔質樹脂ビーズの膨潤体積を望ましい範囲に調整することができる。多孔質化剤としては、前述のアルコールが挙げられる。また膨潤状態におけるメジアン粒子径を大きくすることは、多孔質樹脂ビーズの膨潤率を増大化することに貢献する。
【0049】
本発明の多孔質樹脂ビーズの水銀圧入法により測定したメジアン細孔径は、特に限定されないが、好ましくは1〜1000nm、より好ましくは5〜500nm、さらに好ましくは10〜300nm、最も好ましくは20〜100nmである。
本発明の多孔質樹脂ビーズのメジアン細孔径は、水銀圧入法により測定される。具体的には、0.2gの多孔質樹脂ビーズを水銀ポロシメーターPoreMaster60−GT(QuantaChrome Co.社製)に投入し、水銀接触角140°、水銀表面張力480dyn/cmの条件における水銀圧入法により測定する。
本発明の多孔質樹脂ビーズの膨潤体積は、メスシリンダーにより測定される。具体的には、1.00gの多孔質樹脂ビーズを10mL−メスシリンダーに容れ、次に過剰量のアセトニトリルまたはトルエンを加えて室温にて24時間静置した後、その見掛けの体積を測定する。
【0050】
本発明の多孔質樹脂ビーズは、各種の化学合成反応の担体として用いることができるが、特に、核酸合成において効果的に使用することができる。
【0051】
本発明の多孔質樹脂ビーズを用いる核酸合成には、従来から知られている方法を適用することができる。例えば、本発明の多孔質樹脂ビーズ上の、脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合し得る官能基に下記のヌクレオシドスクシニルリンカー;
【0052】
【化1】

【0053】
を結合する。次にこのヌクレオシドの5’末端から所定の塩基配列となるように、ヌクレオシドホスホロアミダイトを一段ずつ結合する。この合成反応は自動合成装置を用いて行うことができる。例えば、ヌクレオシドスクシニルリンカーを結合した多孔質樹脂ビーズを充填した装置の反応カラムに、5’−OH脱保護剤溶液、ヌクレオシドホスホロアミダイト溶液、アミダイト活性化剤溶液、酸化剤溶液、キャッピング剤溶液、洗浄溶液としてのアセトニトリルなどが順次送られ、反応が繰返される。最終的には、スクシニルリンカー部分をアルカリ溶液で加水分解するなどして切断し、目的の核酸を得ることができる。リンカーは、従来公知のものが使用され、例えば、下記の構造をもつヌクレオシドリンカーを結合した多孔質樹脂ビーズなどが挙げられる。
【0054】
【化2】

【0055】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0056】
実施例1
冷却機、撹拌機、窒素導入管を付けた、500mLセパラブルフラスコを恒温水槽に設置し、ポリビニルアルコール(クラレ社製)2.5gおよび蒸留水250gを入れ、300rpmで撹拌してポリビニルアルコールを溶解した。ここにスチレン(和光純薬社製)33g、4−クロロメチルスチレン(東京化成工業社製)8g(5.4mol%)、ジビニルベンゼン(含有量55%、和光純薬社製)7g(5.1mol%)、メタクリロニトリル(和光純薬社製)12g(30.8mol%)、2−エチルヘキサノール(和光純薬社製)60g、イソオクタン(和光純薬社製)30gおよび過酸化ベンゾイル(25%含水、日本油脂社製)1gを混合して溶解した溶液を添加して、窒素気流下、室温にて撹拌(300rpm)した後、80℃に昇温して24時間、懸濁共重合を行った。
重合生成物を、蒸留水およびアセトン(和光純薬社製)を用いて濾過洗浄して、全量が約1Lになるようにアセトン中に分散させた。容器を傾けても沈澱が乱れない程度になるまで放置した後、上清のアセトンを廃棄した。この沈澱に再びアセトンを加えて全量を約1Lにして、静置、アセトン廃棄の操作を繰り返すことにより分級した。この分散液を濾過し、減圧乾燥することにより、スチレン−4−クロロメチルスチレン−ジビニルベンゼン−メタクリロニトリル共重合体からなる多孔質樹脂ビーズを得た。
次いで冷却機および撹拌機を付けた500mLフラスコ中に、上記の共重合体からなる多孔質樹脂ビーズの粉末20g、N,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬社製)100gおよびフタルイミドカリウム(和光純薬社製)5gを仕込み、撹拌しながら90℃で6時間反応させた。次いで、この反応生成物を、エタノール(和光純薬社製)を用いて濾過洗浄し、減圧濾過した。得られたビーズ全量にエタノール150gおよびヒドラジン水和物(和光純薬社製)30gを加え、還流下で6時間反応させた。反応終了後、得られた反応混合物を塩酸で中和した後、蒸留水とアセトンを用いて濾過洗浄した。この分散液を濾過し、減圧乾燥することにより、スチレン−4−アミノメチルスチレン−ジビニルベンゼン−メタクリロニトリル共重合体からなる多孔質樹脂ビーズを得た。
【0057】
実施例2
冷却機および撹拌機を付けた500mLフラスコ中に、実施例1で得られたスチレン−4−クロロメチルスチレン−ジビニルベンゼン−メタクリロニトリル共重合体からなる多孔質樹脂ビーズの粉末20g、エタノール80g、蒸留水20gおよび水酸化ナトリウム(和光純薬社製)8gを仕込み、撹拌しながら75℃で18時間反応させた。この分散液を濾過し、減圧乾燥することによりスチレン−4−ヒドロキシメチルスチレン−ジビニルベンゼン−メタクリロニトリル共重合体からなる多孔質樹脂ビーズを得た。
【0058】
実施例3
実施例1において、単量体として、ススチレン39g、4−アセトキシスチレン(アルドリッチ社製)6g(6.3mol%)、ジビニルベンゼン(含有量55%、和光純薬社製)7g(5.1mol%)、メタクリロニトリル8g(20.4mol%)を用いた以外は実施例1と同様にして、スチレン−4−アセトキシスチレン−ジビニルベンゼン−メタクリロニトリル共重合体からなる多孔質樹脂ビーズを得た。
この重合生成物を、実施例1と同様にして、濾過洗浄し、分級し、そして減圧乾燥した。次いで、冷却機、撹拌機および窒素導入管を付けた500mLフラスコに、上記の共重合体ビーズの粉末20g、エタノール80g、蒸留水50gおよび水酸化ナトリウム2gを仕込み、撹拌しながら75℃で18時間反応させた。この分散液を濾過し、減圧乾燥することによってスチレン−4−ヒドロキシスチレン−ジビニルベンゼン−メタクリロニトリル共重合体からなる多孔質樹脂ビーズを得た。
【0059】
比較例1
実施例3において、単量体として、スチレン49g、4−アセトキシスチレン4g、ジビニルベンゼン7g、(メタクリロニトリル0g)を用いるとともに、2−エチルヘキサノール52g、イソオクタン23gを用いた以外は実施例3と同様にして、スチレン−4−ヒドロキシスチレン−ジビニルベンゼン共重合体からなる多孔質樹脂ビーズを得た。
【0060】
実験例1:多孔質樹脂ビーズの物性測定
実施例1〜3および比較例1で得られた多孔質樹脂ビーズについて以下の物性測定を行った。
【0061】
(メジアン粒子径)
測定試料を50v/v%エタノール液中で超音波分散した。この分散液を、50v/v%エタノール液を分散媒に用いたレーザー回折/散乱式粒度分布装置LA−920(堀場製作所社製)により測定した。
【0062】
(メジアン細孔径)
測定試料0.2gを水銀ポロシメーターPoreMaster60−GT(QuantaChrome Co.社製)に投入し、水銀接触角140°、水銀表面張力480dyn/cmの条件における水銀圧入法により測定した。
【0063】
(水酸基量)
測定試料0.5〜2gをフラスコに量り取り、アセチル化試薬(無水酢酸25gとピリジンを加えて全量100mLにしたもの)0.5mLとピリジン4.5mLとを正確に加えた。フラスコ中の混合物を95〜100℃にして2時間経過後、室温まで放冷してから蒸留水1mLを加えた。10分間加熱してアセチル化に消費されなかった無水酢酸を分解した。フラスコの全量をビーカーに移し、蒸留水で全量150mLに希釈した後、0.5Nの水酸化カリウム水溶液で滴定した。これとは別に、測定試料を入れずに上記と同様の操作により、ブランク測定を行った。
測定試料の水酸基量は、以下の式(1)により算出した。ただし、A(mmol/g)は測定試料の水酸基量であり、B(mL)はブランク測定における水酸化カリウム水溶液の滴定量であり、C(mL)は測定試料の測定における水酸化カリウム水溶液の滴定量であり、fは水酸化カリウム水溶液のファクターであり、M(g)は量り取った測定試料の重量である。
【0064】
【数1】

【0065】
(メタクリロニトリル構造単位の含有量)
実施例1で得られたスチレン−4−クロロメチルスチレン−ジビニルベンゼン−メタクリロニトリル共重合体からなる多孔質樹脂ビーズおよび実施例3で得られたスチレン−4−ヒドロキシスチレン−ジビニルベンゼン−メタクリロニトリル共重合体からなる多孔質樹脂ビーズについて、測定試料2〜3mgを白金パンに入れてミクロ天秤で秤量したものについて、全窒素分析装置TN−110(三菱化学社製)にて測定した。得られたN濃度(重量%)から、以下の式(2)を用いてメタクリロニトリル構造単位Dの含有量を算出した。
【0066】
【数2】

【0067】
(アミノ基量)
実施例1で得られたスチレン−4−クロロメチルスチレン−ジビニルベンゼン−メタクリロニトリル共重合体からなる多孔質樹脂ビーズおよびスチレン−4−アミノメチルスチレン−ジビニルベンゼン−メタクリロニトリル共重合体からなる多孔質樹脂ビーズについて、測定試料2〜3mgを白金パンに入れてミクロ天秤で秤量したものについて、全窒素分析装置TN−110(三菱化学社製)にて測定した。
得られたN濃度(重量%)から、以下の式(3)を用いてアミノ基量を算出した。ただし、E(mmol/g)は測定試料のアミノ基量であり、F(重量%)はスチレン−4−アミノメチルスチレン−ジビニルベンゼン−メタクリロニトリル共重合体からなる多孔質樹脂ビーズのN濃度であり、G(重量%)はスチレン−4−クロロメチルスチレン−ジビニルベンゼン−メタクリロニトリル共重合体からなる多孔質樹脂ビーズのN濃度である。
【0068】
【数3】

【0069】
(アセトニトリル中での膨潤体積)
測定資料1.00gを10mL−メスシリンダーに容れ、次に過剰量のアセトニトリルを加えて室温にて24時間静置した後、その見掛けの体積を測定した。
【0070】
これらの結果を、表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
なお表1の官能基量の値について、実施例1はアミノ基量を示し、その他についてはヒドロキシル基量を示す。
【0073】
実験例2:DNAオリゴヌクレオチドの合成およびその評価
実施例1、実施例3および比較例1で得られた多孔質樹脂ビーズを用いて、以下のようにしてDNAオリゴヌクレオチドを合成し、その評価を行った。
【0074】
実施例1および実施例3で得られた多孔質樹脂ビーズの場合は、多孔質樹脂ビーズ1g、DMT−dT−3’−succinate(Beijing OM Chemicals社製)0.27g、HBTU(Novabiochem社製)0.14g、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(アルドリッチ社製)0.13ml、アセトニトリル(和光純薬社製)10mlを混合し、撹拌しながら室温で12時間反応させ、アセトニトリルを用いて濾過洗浄した後、乾燥させた。
【0075】
また比較例1で得られた多孔質樹脂ビーズの場合は、DMT−dT−3’−succinate 0.41g、HBTU 0.21g、N,N−ジイソプロピルエチルアミン0.19ml、アセトニトリル10mlを混合し、撹拌しながら室温で12時間反応させ、アセトニトリルを用いて濾過洗浄した後、乾燥させた。これらの多孔質樹脂ビーズに、CapA(20%無水酢酸/80%アセトニトリル)2.5ml、CapB(20%N−メチルイミダゾール/30%ピリジン/50%アセトニトリル)2.5ml、4−ジメチルアミノピリジン(アルドリッチ社製)0.025g、アセトニトリル5mlを混合し、撹拌しながら室温で12時間反応させ、アセトニトリルを用いて濾過洗浄した後、減圧乾燥させてDMT−dT−3’−succinateを結合した固相合成用担体を得た。DMT−dT−3’−succinateの結合量は、p−トルエンスルホン酸/アセトニトリル溶液を用いて脱保護したDMT基の吸光度測定(412nm)から求めた。
【0076】
上記で得られたDMT−dT−3’−succinateを結合した多孔質樹脂ビーズ0.8〜1.1gを合成カラム(容量6.3mL)に詰め、AKTA oligopilot plus 100(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にセットして、ヌクレオシドホスホロアミダイト濃度2eq/合成スケール、DMT−onの条件にて20mer混合配列のDNAオリゴヌクレオチドを合成した。合成後、乾燥させた多孔質樹脂ビーズを28%−アンモニア水25mLに浸漬し、55℃にて18時間反応させてDNAオリゴヌクレオチドの切り出しおよび塩基アミノ基の脱保護を行なった。フィルター濾過により多孔質樹脂ビーズを分離した濾液のUV吸光度測定(260nm)から核酸のOD収量(核酸合成量に相等)を求めた。また、濾液をHPLCで測定(ウォーターズ社製)し、Full−length%(目的の配列長をもつDNAオリゴヌクレオチドの割合)を求めた。結果を表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
表2から明らかなように、比較例に比べて本発明の多孔質樹脂ビーズを用いた場合、DNAオリゴヌクレオチドの合成量(OD収量)と合成純度(Full−Length%)が高くなることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、核酸合成の固相合成用担体として有用な多孔質樹脂ビーズを提供する。本発明の多孔質樹脂ビーズは核酸合成量および合成純度が高いので、この多孔質樹脂ビーズを使用することで、従来の多孔質樹脂ビーズを用いた場合よりも核酸合成を効率的に行うことが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の芳香族モノビニル化合物−ジビニル化合物−(メタ)アクリロニトリル−第二の芳香族モノビニル化合物系共重合体からなる多孔質樹脂ビーズであって、第二の芳香族モノビニル化合物が、脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合し得る基を含有し、かつアセトニトリル中での膨潤体積が3〜6mL/gであることを特徴とする、多孔質樹脂ビーズ。
【請求項2】
脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合し得る基が、アミノ基、アミノアルキル基、ヒドロキシル基、およびヒドロキシアルキル基から選択される基である、請求項1に記載の多孔質樹脂ビーズ。
【請求項3】
(メタ)アクリロニトリル構造単位の量が1〜6mmol/gであることを特徴とする、請求項1または2に記載の多孔質樹脂ビーズ。
【請求項4】
単量体合計量に対するジビニル化合物の仕込み量が、2〜10mol%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の多孔質樹脂ビーズ。
【請求項5】
ジビニル化合物がジビニルベンゼンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の多孔質樹脂ビーズ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の多孔質樹脂ビーズに対して開裂性のリンカーを介しヌクレオシドまたはヌクレオチドを順次結合させてオリゴヌクレオチドを得ることを特徴とする、核酸の製造方法。

【公開番号】特開2011−63729(P2011−63729A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216215(P2009−216215)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】