説明

多孔質焼成体及びその製造方法

【課題】Si−SiCよりも単位体積当たりの熱容量が大きく、DPF等のフィルタの基材として使用した場合に、フィルタ特性(フィルタの有効面積、圧力損失等)に悪影響を与えるような高熱容量化手段を講じなくても、フィルタ再生処理時の熱を効果的に吸収して局所的な異常昇温を抑制できるような多孔質焼成体を提供する。
【解決手段】骨材が結合材により結合された構造を有する多孔質焼成体であって、前記骨材としてSiC粒子とSiCよりも単位体積当たりの熱容量が大きい酸化物の粒子とを含み、前記結合材として金属Siを含み、前記多孔質焼成体全体に占める前記金属Siの体積割合が8〜43体積%であり、前記骨材全体に占める前記酸化物の粒子の体積割合が14〜55体積%であり、前記SiC粒子と前記酸化物の粒子とがそれぞれ1以上の粒子群から構成され、各粒子群の平均粒径が、5〜100μmの範囲にある多孔質焼成体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨材が結合材により結合された構造を有する多孔質焼成体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Si結合SiC(Si−SiC)は、SiC粒子を骨材とし、これを金属Siからなる結合材で結合させた構造を有する多孔質焼成体であり、骨材となるSiC粒子の耐熱性や高熱伝導性を生かし、例えばディーゼルエンジンからの排ガスに含まれているスート等の粒子状物質を捕捉するためのディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)の基材として広く使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般に、DPFは、図3及び図4に示すように、流体の入口側となる入口側端面3と流体の出口側となる出口側端面5とを有し、この2つの端面の間に、流体の流路となる複数のセル(貫通孔)9が多孔質の隔壁7によって区画形成されたハニカム構造のフィルタ(ハニカムフィルタ)であり、通常は、所定のセル9aの開口部を入口側端面3で目封止するとともに、残余のセル9bの開口部を出口側端面5で目封止する目封止部11を配設した状態で使用される。
【0004】
このように目封止が施されたハニカムフィルタ1の入口側端面3よりスートを含む流体を通気させると、流体は、入口側端面3において開口部が目封止さていないセル9bよりフィルタ内部に流入し、濾過能を有する多孔質の隔壁7を通過して、出口側端面5側が目封止されていない他のセル9aに入る。そして、この隔壁7を通過する際に流体中のスートが隔壁7に補足され、スートが除去された浄化後の流体が出口側端面5より排出される。
【0005】
ところで、DPFを長期間継続して使用するためには、定期的にフィルタに再生処理を施す必要がある。すなわち、フィルタ内部に経時的に堆積したスートにより増大した圧力損失を低減させてフィルタ性能を初期状態に戻すため、フィルタ内部に堆積したスートを燃焼させて除去する必要がある。この再生処理時(スート燃焼時)においては、熱の逃げにくい断面中央部が温度上昇しやすく、局所的な異常昇温が生じる場合があるが、基材がSi−SiCで構成されたDPFは、結合材に低熱容量の金属Siが用いられていることから基材全体としての熱容量が低いため、前記のような異常昇温に起因して、熱応力によるクラックが発生しやすく、また、スートの燃焼を促進するためにDPFに触媒を担持させているような場合には、その触媒が熱により失活する恐れもある。
【0006】
このような異常昇温を抑制する対策として、例えば、特許文献2には、フィルタの一部の隔壁を厚くしたり、一部のセル密度を高めたりすることにより、熱容量を部分的に高めたハニカムフィルタが開示されている。また、特許文献3には、複数に分割された基材(ハニカムセグメント)を接合一体化したハニカム構造体において、ハニカムセグメントの一部の隔壁や接合材層の厚さを厚くすることにより、熱容量を部分的に高めたハニカムフィルタが開示されている。
【0007】
しかしながら、このようにフィルタの一部の隔壁や接合材層の厚さを厚くしたり、セル密度を高めたりした場合には、熱容量が増大して再生処理時の局所的な異常昇温が緩和される一方で、フィルタの有効面積が減少し、圧力損失が上昇するという問題が生じる。
【特許文献1】特開2002−201082号公報
【特許文献2】特開2003−10616号公報
【特許文献3】特開2003−254034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、従来使用されてきたSi−SiCよりも単位体積当たりの熱容量が大きく、DPF等のフィルタの基材として使用した場合に、フィルタ特性(フィルタの有効面積、圧力損失等)に悪影響を与えるような高熱容量化手段を講じなくても、フィルタ再生処理時の熱を効果的に吸収して局所的な異常昇温を抑制できるような多孔質焼成体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下の多孔質焼成体及び多孔質焼成体の製造方法が提供される。
【0010】
[1] 骨材が結合材により結合された構造を有する多孔質焼成体であって、前記骨材としてSiC粒子とSiCよりも単位体積当たりの熱容量が大きい酸化物の粒子とを含み、前記結合材として金属Siを含み、前記多孔質焼成体全体に占める前記金属Siの体積割合が8〜43体積%であり、前記骨材全体に占める前記酸化物の粒子の体積割合が14〜55体積%であり、前記SiC粒子と前記酸化物の粒子とがそれぞれ1以上の粒子群から構成され、各粒子群の平均粒径が、5〜100μmの範囲にある多孔質焼成体。
【0011】
[2] 前記酸化物が、Al及びMgAlよりなる群から選ばれる1種以上の酸化物である[1]に記載の多孔質焼成体。
【0012】
[3] 開気孔率が、30〜75%である[1]又は[2]に記載の多孔質焼成体。
【0013】
[4] 平均細孔径が、5〜50μmである[1]〜[3]の何れかに記載の多孔質焼成体。
【0014】
[5] ハニカム形状を有する[1]〜[4]の何れかに記載の多孔質焼成体。
【0015】
[6] 骨材が結合材により結合された構造を有する多孔質焼成体の製造方法であって、前記骨材となる、1以上の粒子群から構成され、各粒子群の平均粒径が5〜100μmの範囲にあるSiC粒子と、同じく前記骨材となる、1以上の粒子群から構成され、各粒子群の平均粒径が5〜100μmの範囲にあるSiCよりも単位体積当たりの熱容量が大きい酸化物の粒子と、前記結合材となる金属Siとを、最終的に得られる多孔質焼成体全体に占める前記金属Siの体積割合が8〜43体積%となり、前記骨材全体に占める前記酸化物の粒子の体積割合が14〜55体積%となるように配合した原料を用いて成形用坏土を作製し、当該成形用坏土を所定形状に成形した後、焼成する多孔質焼成体の製造方法。
【0016】
[7] 前記焼成の際の最高温度が、1300〜1800℃である[6]に記載の多孔質焼成体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の多孔質焼成体は、従来、DPFの基材等に使用されてきたSi−SiCよりも単位体積当たりの熱容量が大きい。したがって、この多孔質焼成体を、例えばDPFの基材に用いた場合には、基材自体の熱容量が高いため、隔壁の厚みやセル密度を増す等のフィルタ特性に悪影響を与えるような高熱容量化手段を講じなくても、フィルタ全体の高熱容量化を図ることができ、その結果、フィルタ再生処理時の局所的な異常昇温を抑制して、熱応力によるクラックの発生や、DPFに担持された触媒の熱による失活を防ぐことが可能になる。また、本発明の製造方法によれば、このような高熱容量の多孔質焼成体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を具体的な実施形態に基づき説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるもではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0019】
本発明の多孔質焼成体は、骨材が結合材により結合された構造を有する多孔質焼成体であって、前記骨材としてSiC粒子とSiCよりも単位体積当たりの熱容量が大きい酸化物の粒子(以下、単に「酸化物粒子」と呼ぶ。)とを含み、前記結合材として金属Siを含む。すなわち、本発明の多孔質焼成体は、Si−SiCの骨材であるSiC粒子の一部を、酸化物粒子で置換したものということができ、この置換により、Si−SiCよりも単位体積当たりの熱容量が高いという特性を有する多孔質焼成体となっている。
【0020】
なお、ここで言う「単位体積当たりの熱容量」は、対象物の比熱と真密度を測定し、それらの測定値から下式により算出された値である。なお、比熱の測定はDSC法により行い、600℃での測定値を採用した。
単位体積当りの熱容量(J/cm・K)=比熱(J/kg・K)×真密度(g/cm)/10
【0021】
本発明の多孔質焼成体において、多孔質焼成体全体に占める金属Siの体積割合は8〜43体積%であり、10〜40体積%であるとより好ましく、12〜38体積%であると更に好ましい。多孔質焼成体全体に占める金属Siの体積割合が8体積%未満では、骨材同士を十分に結合させることができないため、多孔質焼成体の強度が低下し、一方、43体積%を超えると多孔質焼成体の熱容量が小さくなる。
【0022】
また、本発明の多孔質焼成体において、骨材全体に占める酸化物粒子の体積割合は14〜55体積%であり、17〜50体積%であるとより好ましく、20〜45体積%であると更に好ましい。骨材全体に占める酸化物粒子の体積割合が14体積%未満では、多孔質焼成体の熱容量が十分に高くならず、一方、55体積%を超えると多孔質焼成体の熱拡散率が低下し過ぎ、昇温しやすくなる。なお、熱伝導率は、熱拡散率、嵩密度及び比熱容量の積から求められ、単位体積当たりの熱容量は、真密度及び比熱の積から求められるが、多孔質焼成体の温度上昇には、単位体積当たりの熱容量が熱拡散率、熱伝導率よりも影響が大きいことが経験的に知られている。
【0023】
酸化物粒子の材質は、SiCよりも単位体積当たりの熱容量が大きい酸化物である限り特に制限はされず、例えば、Al、MgAl、ムライト(3Al・2SiO)といった各種酸化物の粒子を使用できるが、これらの内でも、Al及び/又はMgAlの粒子を使用することが、熱容量、高温安定性、Siとの濡れ性といった観点から好ましい。なお、図1は酸化物粒子としてAl粒子を使用した本発明の多孔質焼成体の微構造を示す顕微鏡写真であり、図2は酸化物粒子としてMgAl粒子を使用した本発明の多孔質焼成体の微構造を示す顕微鏡写真である。
【0024】
骨材であるSiC粒子と酸化物粒子とは、それぞれ1以上の粒子群から構成されており、各粒子群の平均粒径は5〜100μmの範囲にあり、10〜85μmの範囲にあることがより好ましい。これら粒子群の平均粒径が5μm未満では、多孔質焼成体の細孔径が小さくなり過ぎ、一方、100μmを超えると、骨材間にできる多孔質焼成体の細孔径が大きくなり過ぎ、また気孔率が小さくなり過ぎる。なお、ここで言う「平均粒径」は、JIS R 1629に準拠して、レーザー回折式分布測定装置にて測定した値である。
【0025】
本発明の多孔質焼成体は、その開気孔率が30〜75%であることが好ましく、40〜65%であることがより好ましい。開気孔率が30%未満では、圧力損失が上昇し過ぎる場合があり、一方、75%を超えると、強度及び熱伝導率が低下し過ぎる場合がある。なお、ここで言う「開気孔率」は、多孔質焼成体から所定形状の試料を切り出し、アルキメデス法により算出した値である。
【0026】
本発明の多孔質焼成体は、その平均細孔径が、5〜50μmであることが好ましく、7〜35μmであることがより好ましい。平均細孔径が5μm未満では、粒子状物質(PM)により目詰まりを起こしやすく、一方、50μmを超えると、粒子状物質(PM)がフィルタに捕集されずに通過することがある。なお、ここで言う「平均細孔径」は、多孔質焼成体から所定形状の試料を切り出し、水銀ポロシメーターにより測定した値である。
【0027】
本発明の多孔質焼成体の全体的な形状・構造は、その用途により任意に選択できるが、例えばDPFの基材として使用する場合には、図3及び図4に示すように、流体の入口側となる入口側端面3と流体の出口側となる出口側端面5とを有し、この2つの端面の間に、流体の流路となる複数のセル(貫通孔)9が多孔質の隔壁7によって区画形成されたハニカム形状の構造体とするのが好ましく、通常は、両端面が相補的な市松模様を呈するように、所定のセル9aの開口部を入口側端面3で目封止するとともに、残余のセル9bの開口部を出口側端面5で目封止する目封止部11を配設した状態で使用される。
【0028】
本発明の多孔質焼成体を製造する方法としては、先ず、骨材となる、1以上の粒子群から構成され、各粒子群の平均粒径が5〜100μmの範囲にあるSiC粒子と、同じく骨材となる、1以上の粒子群から構成され、各粒子群の平均粒径が5〜100μmの範囲にある酸化物粒子と、結合材となる金属Siとを、最終的に得られる多孔質焼成体全体に占める金属Siの体積割合が8〜43体積%となり、骨材全体に占める前記酸化物粒子の体積割合が14〜55体積%となるように配合して原料とし、この原料を用いて成形用坏土を作製する。なお、成形用坏土の作製に当たっては、通常、前記原料に、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の有機バインダーと水とが加えられ、更に必要に応じて造孔材、界面活性剤等が添加された後、土練機等で混練され、可塑性の成形用坏土となる。
【0029】
次いで、この成形用坏土を所定形状に成形する。例えばハニカム形状に成形する場合には、従来公知の押出成形法等により成形することができる。こうして成形により得られた成形体は、必要に応じて乾燥や脱脂等の処理を施された後、Ar雰囲気等の不活性雰囲気下で焼成され、この焼成により、骨材であるSiC粒子と酸化物粒子が結合材である金属Siにより結合された構造を有する多孔質焼成体となる。なお、焼成の際の最高温度は、1300〜1800℃であることが好ましく、1410〜1600℃であることがより好ましい。焼成の際の最高温度が1300℃未満では、金属Siにより骨材を十分に結合できない恐れがあり、一方、1800℃を超えると、金属Siの蒸発が進行し、結合が困難になるためである。
【0030】
ハニカム形状の多孔質焼成体を作製する場合において、セルに目封止部を形成しようとするときは、前記焼成を、セルに目封止部を形成する前に行っても良いし、セルに目封止部を形成した後で、目封止部の焼成と一緒に行うようにしても良い。セルに目封止部を形成する方法にも、従来公知の方法を用いることができる。具体的な方法の一例としては、ハニカム形状の成形体又は焼成体の端面にシートを貼り付けた後、当該シートの目封止しようとするセルに対応した位置に穴を開け、このシートを貼り付けたままの状態で、目封止部の構成材料をスラリー化した目封止用スラリーに、成形体又は焼成体の端面を浸漬し、シートに開けた孔を通じて、目封止しようとするセルの開口端部内に目封止用スラリーを充填し、それを乾燥及び/又は焼成して硬化させる。目封止部の構成材料は、ハニカム本体との熱膨張差を小さくするため、ハニカム本体と同じ材料を用いることが好ましい。
【0031】
また、ハニカム形状の多孔質焼成体を作製する場合において、フィルタ再生時のスートの燃焼を促進させたり、排ガス中の有害物質を浄化したりする目的で、当該焼成体に貴金属等の触媒成分を担持させようとするときは、例えば、触媒成分を含む溶液を、アルミナ粉末のような高比表面積の耐熱性無機酸化物からなる粉末に含浸させた後、乾燥、焼成して、触媒成分を含有する粉末を得、この粉末にアルミナゾルや水などを加えて触媒担持用スラリーを調製し、これに焼成体を浸漬させて、スラリーをコートしてから、乾燥、焼成することにより触媒成分を焼成体に固定化するといった方法を用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
[実施例1〜5及び比較例4〜9]
SiC粉末、Al粉末及び金属Si粉末を、最終的に得られる多孔質焼成体の組成(体積比)が表1に示す値となるように混合し、この混合粉末100質量部に対し、造孔材として澱粉及び発泡樹脂を合計10質量部、有機バインダーとしてメチルセルロースを6質量部、界面活性剤を2.5質量部、水を24質量部添加して、可塑性の坏土を得た。なお、SiC粉末、Al粉末は、それぞれ表1に示す平均粒径を有する粒子群から構成されたものである。この坏土を押出成形し、乾燥して、幅50mm、厚さ4mm、長さ20cmのプレート状成形体と、隔壁の厚さが310μm、セル形状が正方形、セル密度が約46.5セル/cm(300セル/平方インチ)、断面が一辺35mmの正方形、軸方向の長さが152mmの四角柱状のハニカム状成形体を得た。これら成形体のうち、プレート状成形体は、乾燥させた後、大気雰囲気中、約400℃で脱脂し、更に、Ar不活性雰囲気において約1450℃で焼成して、骨材であるSiC粒子及びAl粒子が結合材である金属Siにより結合された多孔質焼成体からなるプレートを得た。また、ハニカム状成形体は、端面が市松模様状を呈するように、セルの端部を目封止した。すなわち、隣接するセルが、互いに反対側の端部で封じられるように目封止を行った。目封止材としては、ハニカム状成形体と同じ材料を用いた。こうしてセルの端部を目封止し、乾燥させた後、大気雰囲気中、約400℃で脱脂し、更に、Ar不活性雰囲気において約1450℃で焼成して、骨材であるSiC粒子及びAl粒子が結合材である金属Siにより結合された多孔質焼成体からなるハニカムフィルタセグメントを得た。ただし、比較例4及び9は、プレート、ハニカムフィルタセグメントの何れについても焼成時に崩壊が生じた。
【0034】
[実施例6〜10]
SiC粉末、MgAl粉末及び金属Si粉末を、最終的に得られる多孔質焼成体の組成(体積比)が表1に示す値となるように混合し、この混合粉末100質量部に対し、造孔材として澱粉及び発泡樹脂を合計10質量部、有機バインダーとしてメチルセルロースを6質量部、界面活性剤を2.5質量部、水を24質量部添加して、可塑性の坏土を得た。なお、SiC粉末、MgAl粉末は、それぞれ表1に示す平均粒径を有する粒子群から構成されたものである。この坏土を用い、前記実施例1〜5及び比較例4〜9と同様の条件で成形、乾燥、脱脂、焼成等を行い、骨材であるSiC粒子及びMgAl粒子が結合材である金属Siにより結合された多孔質焼成体からなるプレートとハニカムフィルタセグメントを得た。
【0035】
[実施例11]
平均粒径が100μmの粒子群から構成されたSiC粉末を22質量部、平均粒径が35μmの粒子群から構成されたSiC粉末を25質量部、平均粒径が10μmの粒子群から構成されたSiC粉末を8質量部、平均粒径が100μmの粒子群から構成されたAl粉末を8質量部、平均粒径が35μmの粒子群から構成されたAl粉末を9質量部、平均粒径が10μmの粒子群から構成されたAl粉末を3質量部、及び金属Si粉末を、最終的に得られる多孔質焼成体の組成(体積比)が表1に示す値となるように混合し、この混合粉末100質量部に対し、有機バインダーとしてメチルセルロースを6質量部、界面活性剤を2.5質量部、水を24質量部添加して、可塑性の坏土を得た。この坏土を用い、前記実施例1〜5及び比較例4〜9と同様の条件で成形、乾燥、脱脂、焼成等を行い、骨材であるSiC粒子及びAl粒子が結合材である金属Siにより結合された多孔質焼成体からなるプレートとハニカムフィルタセグメントを得た。
【0036】
[実施例12]
平均粒径が35μmの粒子群から構成されたSiC粉末を11質量部、平均粒径が10μmの粒子群から構成されたSiC粉末を38.5質量部、平均粒径が5μmの粒子群から構成されたSiC粉末を5.5質量部、平均粒径が35μmの粒子群から構成されたAl粉末を4質量部、平均粒径が10μmの粒子群から構成されたAl粉末を14質量部、平均粒径が5μmの粒子群から構成されたAl粉末を2質量部、及び金属Si粉末を、最終的に得られる多孔質焼成体の組成(体積比)が表1に示す値となるように混合し、この粉末100質量部に対し、造孔材として澱粉及び発泡樹脂を25質量部、有機バインダーとしてメチルセルロースを6質量部、界面活性剤を2.5質量部、水を24質量部添加して、可塑性の坏土を得た。この坏土を用い、前記実施例1〜5及び比較例4〜9と同様の条件で成形、乾燥、脱脂、焼成等を行い、骨材であるSiC粒子及びAl粒子が結合材である金属Siにより結合された多孔質焼成体からなるプレートとハニカムフィルタセグメントを得た。
【0037】
[実施例13]
平均粒径が35μmの粒子群から構成されたSiC粉末を14質量部、平均粒径が10μmの粒子群から構成されたSiC粉末を33質量部、平均粒径が5μmの粒子群から構成されたSiC粉末を8質量部、平均粒径が35μmの粒子群から構成されたAl粉末を5質量部、平均粒径が10μmの粒子群から構成されたAl粉末を12質量部、平均粒径が5μmの粒子群から構成されたAl粉末を3質量部、及び金属Si粉末を、最終的に得られる多孔質焼成体の組成(体積比)が表1に示す値となるように混合し、この混合粉末100質量部に対し、有機バインダーとしてメチルセルロースを6質量部、界面活性剤を2.5質量部、水を24質量部添加して、可塑性の坏土を得た。この坏土を用い、前記実施例1〜5及び比較例4〜9と同様の条件で成形、乾燥、脱脂、焼成等を行い、骨材であるSiC粒子及びAl粒子が結合材である金属Siにより結合された多孔質焼成体からなるプレートとハニカムフィルタセグメントを得た。
【0038】
[実施例14]
平均粒径が100μmの粒子群から構成されたSiC粉末を49.5質量部、平均粒径が35μmの粒子群から構成されたSiC粉末を5.5質量部、平均粒径が100μmの粒子群から構成されたAl粉末を18質量部、平均粒径が35μmの粒子群から構成されたAl粉末を2質量部、及び金属Si粉末を、最終的に得られる多孔質焼成体の組成(体積比)が表1に示す値となるように混合し、この混合粉末100質量部に対し、造孔材として澱粉及び発泡樹脂を合計20質量部、有機バインダーとしてメチルセルロースを6質量部、界面活性剤を2.5質量部、水を24質量部添加して、可塑性の坏土を得た。この坏土を用い、前記実施例1〜5及び比較例4〜9と同様の条件で成形、乾燥、脱脂、焼成等を行い、骨材であるSiC粒子及びAl粒子が結合材である金属Siにより結合された多孔質焼成体からなるプレートとハニカムフィルタセグメントを得た。
【0039】
[比較例1〜3]
SiC粉末及び金属Si粉末を、最終的に得られる多孔質焼成体の組成(体積比)が表1に示す値となるように混合し、この混合粉末100質量部に対し、造孔材として澱粉及び発泡樹脂を合計10質量部、有機バインダーとしてメチルセルロースを6質量部、界面活性剤を2.5質量部、水を24質量部添加して、可塑性の坏土を得た。なお、SiC粉末は、表1に示す平均粒径を有する粒子群から構成されたものである。この坏土を用い、前記実施例1〜5及び比較例4〜9と同様の条件で成形、乾燥、脱脂、焼成等を行い、骨材であるSiC粒子が結合材である金属Siにより結合された多孔質焼成体からなるプレートとハニカムフィルタセグメントを得た。
【0040】
[多孔質焼成体の特性と評価]
前記実施例及び比較例にて得られた多孔質焼成体(プレート、ハニカムフィルタセグメント)について、その作製に骨材として用いたSiC粉末と酸化物粉末(Al粉末、MgAl粉末)の平均粒径及び単位体積当たりの熱容量を測定するとともに、多孔質焼成体の開気孔率、平均細孔径及び単位体積当たりの熱容量を測定し、更にフィルタ再生試験による評価を行い、その結果を表1に示した。なお、比較例4及び9は、前記のとおり焼成時に崩壊したため、多孔質焼成体に関する測定とフィルタ再生試験から除外した。測定及び試験の方法は下記のとおりである。
【0041】
(平均粒径)
JIS R 1629に準拠して、レーザー回折式分布測定装置((株)島津製作所製:SALD−2000(商品名))にて測定した。
【0042】
(骨材の単位体積当たりの熱容量)
骨材に用いた各粉末について、DSC法により比熱を測定するとともに、乾式自動密度計((株)島津製作所製:Accupyc 1330(商品名))で真密度を測定し、これらの測定値から下式により算出した。
単位体積当りの熱容量(J/cm・K)=比熱(J/kg・K)×真密度(g/cm)/10
【0043】
(焼成体の単位体積当りの熱容量)
プレートからφ6mm×1mmの試料を切り出して、DSC法により比熱を測定するとともに、プレートを粉砕して乾式自動密度計((株)島津製作所製:Accupyc 1330(商品名))で真密度を測定し、これらの測定値から下式により算出した。
単位体積当りの熱容量(J/cm・K)=比熱(J/kg・K)×真密度(g/cm)/10
【0044】
(開気孔率)
プレートから10mm×10mm×1mmの試料を切り出し、アルキメデス法により算出した。
【0045】
(平均細孔径)
プレートから5mm×5mm×15mmの試料を切り出し、水銀ポロシメーター(Quantachrome社製:PoreMaster60GT(商品名))により測定した。
【0046】
(フィルタ再生試験)
ハニカムフィルタセグメントと同じ材料を用い、坏土よりも粘性を低下させて得た接合材を使用して複数のハニカムフィルタセグメントを接合し、熱風乾燥機を用いて150℃で2時間乾燥した後、窒素雰囲気中にて700℃で1時間熱処理し、その後、外周部を円柱状に加工することで、直径144mm×高さ153mmの円柱状ハニカムフィルタを得た。このハニカムフィルタの外周部に把持材としてセラミック製無膨張マットを巻き、SUS409製のキャニング用缶体に押し込んでキャニング構造体とした後、ディーゼル燃料軽油の燃焼により発生させたスートを含む燃焼ガスを、ハニカムフィルタの一方の端面(入口側端面)より流入させ、反対側の端面(出口側端面)より流出させることにより、スートをハニカム内に捕集した。その後、一旦室温まで放冷してから、ハニカムフィルタの入口側端面より700℃で一定割合の酸素を含む燃焼ガスを流入させることによりスートを燃焼させ、出口側端面の中心部の最高温度を熱電対により測定した。酸化物粒子を骨材の一部として含む実施例1〜14及び比較例5〜8のハニカムフィルタにおける測定結果と、酸化物粒子を骨材に含まない比較例1〜3における測定結果とを、骨材と結合材との体積比が同一のもの同士で比較し、酸化物粒子を含ませたことによるフィルタ再生時の最高温度低減効果の有無を調べた。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示すとおり、骨材としてSiC粒子の他、SiCよりも単位体積当たりの熱容量が大きい酸化物粒子を含み、多孔質焼成体全体に占める金属Siの体積割合と、骨材全体に占める酸化物粒子の体積割合と、SiC粒子と酸化物粒子を構成する粒子群の平均粒径とが、何れも本発明の規定範囲内にある実施例1〜14は、酸化物粒子を骨材に含まない比較例1〜3に対し、フィルタ再生時の最高温度低減効果が認められた。一方、多孔質焼成体全体に占める金属Siの体積割合が本発明の規定範囲を超える比較例5、骨材全体に占める酸化物粒子の体積割合が本発明の規定範囲に満たない比較例6、及び骨材全体に占める酸化物粒子の体積割合が本発明の規定範囲を超える比較例7は、酸化物粒子を骨材に含まない比較例1に対し、フィルタ再生時の最高温度低減効果が認められず、また、SiC粒子と酸化物粒子を構成する粒子群の平均粒径が本発明の規定範囲を超える比較例8は、前記フィルタ再生試験でスート洩れが起こりフィルタとして十分に機能しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、DPFの基材等に適した多孔質焼成体及びその製造方法として好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】酸化物粒子としてAl粒子を使用した本発明の多孔質焼成体の微構造を示す顕微鏡写真である。
【図2】酸化物粒子としてMgAl粒子を使用した本発明の多孔質焼成体の微構造を示す顕微鏡写真である。
【図3】ハニカムフィルタの端面を示す概略平面図である。
【図4】ハニカムフィルタの軸方向に平行な断面を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1:ハニカムフィルタ、3:入口側端面、5:出口側端面、7:隔壁、9:セル、11:目封止部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材が結合材により結合された構造を有する多孔質焼成体であって、
前記骨材としてSiC粒子とSiCよりも単位体積当たりの熱容量が大きい酸化物の粒子とを含み、前記結合材として金属Siを含み、前記多孔質焼成体全体に占める前記金属Siの体積割合が8〜43体積%であり、前記骨材全体に占める前記酸化物の粒子の体積割合が14〜55体積%であり、前記SiC粒子と前記酸化物の粒子とがそれぞれ1以上の粒子群から構成され、各粒子群の平均粒径が、5〜100μmの範囲にある多孔質焼成体。
【請求項2】
前記酸化物が、Al及びMgAlよりなる群から選ばれる1種以上の酸化物である請求項1に記載の多孔質焼成体。
【請求項3】
開気孔率が、30〜75%である請求項1又は2に記載の多孔質焼成体。
【請求項4】
平均細孔径が、5〜50μmである請求項1〜3の何れか一項に記載の多孔質焼成体。
【請求項5】
ハニカム形状を有する請求項1〜4の何れか一項に記載の多孔質焼成体。
【請求項6】
骨材が結合材により結合された構造を有する多孔質焼成体の製造方法であって、
前記骨材となる、1以上の粒子群から構成され、各粒子群の平均粒径が5〜100μmの範囲にあるSiC粒子と、同じく前記骨材となる、1以上の粒子群から構成され、各粒子群の平均粒径が5〜100μmの範囲にあるSiCよりも単位体積当たりの熱容量が大きい酸化物の粒子と、前記結合材となる金属Siとを、最終的に得られる多孔質焼成体全体に占める前記金属Siの体積割合が8〜43体積%となり、前記骨材全体に占める前記酸化物の粒子の体積割合が14〜55体積%となるように配合した原料を用いて成形用坏土を作製し、当該成形用坏土を所定形状に成形した後、焼成する多孔質焼成体の製造方法。
【請求項7】
前記焼成の際の最高温度が、1300〜1800℃である請求項6に記載の多孔質焼成体の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−155156(P2009−155156A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334761(P2007−334761)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】