説明

多孔質金属酸化物誘電体粒子、その製造方法及びそれを含むシート状キャパシタ

【課題】比誘電率が従来よりも高い多孔質金属酸化物誘電体粒子を提供すること。
【解決手段】本発明の多孔質金属酸化物誘電体粒子は、多数の開気孔を有し、JIS R 1655の水銀圧入法に準じて測定された細孔面積が3〜35m2/gであることを特徴とする。この誘電体粒子は、平均粒子径D50が0.1〜2μmであり、最大粒子径が10μm以下である。前記金属酸化物は、結晶構造がABO3(式中、A及びBはそれぞれ独立に1種以上の金属原子を表す。)で表されるペロブスカイト構造を有するものであることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電率の高い多孔質金属酸化物誘電体粒子及びその製造方法に関する。また本発明は、該多孔質金属酸化物誘電体粒子を誘電体として用いたシート状キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板の小型化や、デバイスの省電力化を目的として、キャパシタ回路をプリント配線板の層内に内蔵形成することが知られている。この種のプリント配線板では、その内層に1以上の誘電体層を有し、その誘電体層の両面に位置する内層回路にキャパシタとしての上部電極及び下部電極が対向配置されている。
【0003】
キャパシタは、その用途にもよるが、可能な限り大きな静電容量を有することが求められる。したがってプリント配線板に内蔵されたキャパシタにも同様のことが求められる。電子デバイスの小型化に伴い、プリント配線板の面積が限られた状況のなかでキャパシタの静電容量を高めるためには、誘電体の比誘電率を高めることが有利である。
【0004】
比誘電率の高い誘電体として、強誘電体のセラミックス緻密体に気孔径1μm以下の閉気孔が多数導入された構造を持つ誘電体ナノポア材料が提案されている(特許文献1参照)。同文献の記載によれば、誘電体ナノポア材料の比誘電率は、閉気孔の気孔径に依存して変化し、気孔径が小さいほど比誘電率が高くなるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−155772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の誘電体ナノポア材料を樹脂に練り込んで得られた誘電体層を用いて、キャパシタ内蔵プリント配線板を製造すると、該ナノポア材料が有する閉気孔内の空気の存在に起因して、誘電体層の誘電率を高くすることに限界があった。
【0007】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る多孔質金属酸化物誘電体粒子及びその製造方法を提供することにある。
また本発明の課題は、高静電容量を有するシート状キャパシタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、多数の開気孔を有し、JIS R 1655の水銀圧入法に準じて測定された細孔面積が3〜35m2/gであることを特徴とする多孔質金属酸化物誘電体粒子を提供するものである。
【0009】
また本発明は、前記多孔質金属酸化物誘電体粒子及び樹脂を含む誘電体層を備え、該誘電体層においては、該多孔質金属酸化物誘電体粒子の細孔中に該樹脂が滲入した状態になっていることを特徴とするシート状キャパシタを提供するものである。
【0010】
また本発明は、前記多孔質金属酸化物誘電体粒子及び樹脂を含む誘電体層を備え、該誘電体層においては、該多孔質金属酸化物誘電体粒子の細孔中に該樹脂が滲入した状態になっているキャパシタを備えていることを特徴とするキャパシタ内蔵プリント配線板を提供するものである。
【0011】
更に本発明は、前記多孔質金属酸化物誘電体粒子の好ましい製造方法として、
前記金属酸化物誘電体粒子の前駆体を焼成する工程を含み、
前記前駆体として、その熱分解によって二酸化炭素又は水が生じる化合物を用い、
前記前駆体の焼成を、該前駆体の熱重量変化測定において該前駆体の熱重量変化が一定になった最低温度から±200℃の温度範囲に設定して行う多孔質金属酸化物誘電体粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、比誘電率が従来よりも高い多孔質金属酸化物誘電体粒子が提供される。また本発明によれば、静電容量が従来よりも高いシート状キャパシタが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の多孔質金属酸化物誘電体粒子の製造に用いられる前駆体の熱重量分析曲線の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の多孔質金属酸化物誘電体粒子(以下、単に「誘電体粒子」ともいう。)は、多数の開気孔を有している。詳細には、本発明の誘電体粒子は、該粒子の表面において開口し、かつ粒子内部に延びる細孔を複数有している。つまり、この細孔はオープンセル構造になっている。この細孔は、両末端が粒子の表面において開口していてもよく、あるいは一方の末端のみが粒子の表面において開口していてもよい。また、細孔は、粒子の内部において分岐していてもよい。更に細孔は、粒子の内部において他の細孔と交わっていてもよい。本発明の誘電体粒子は、開気孔を有している限り、開気孔のほかに閉気孔を有していることは妨げられない。
【0015】
本発明の誘電体粒子は、上述のとおり開気孔を有するものであり、その開気孔に由来する細孔面積が好ましくは3〜35m2/gであることが好ましい。細孔面積をこの範囲に設定することによって、本発明の誘電体粒子は高い比誘電率を有するものとなる。詳細には、細孔面積を3m2/g以上とすることで、気孔を有さない中実の誘電体粒子や、閉気孔を有する特許文献1に記載の誘電体粒子に比べて、比誘電率を高くすることが可能になる。一方、細孔面積を35m2/g以下とすることによって、強度の低下による破壊やそれに起因する比誘電率の低下を効果的に防止することができる。これらの観点から、本発明の誘電体粒子の細孔面積は、更に好ましくは5〜30m2/gであり、一層好ましくは5〜25m2/gである。
【0016】
細孔面積は、JIS R 1655の水銀圧入法によって測定される。詳細には、ハンドプレス機を用い、誘電体粒子をφ10mm×1mmのペレットに成形する。そのペレットを用い、細孔分布測定用水銀圧入ポロシメーター(マイクロメリティックス社製、Auto Pore IV)によって細孔面積を測定する。水銀の圧入の圧力は、開始時が0.0048MPaであり、最高圧力を255.1060MPaとする。これらの値を含む合計131点の圧力において細孔面積を測定する。各圧力は10秒間保持する。
【0017】
上述した細孔面積に関連して、本発明の誘電体粒子は、その開気孔に由来する空隙率が30〜65%であることが好ましい。空隙率をこの範囲に設定することによっても、本発明の誘電体粒子は高い比誘電率を有するものとなる。詳細には、空隙率を30%以上とすることで、気孔を有さない中実の誘電体粒子や、閉気孔を有する特許文献1に記載の誘電体粒子に比べて、比誘電率を高くすることが可能になる。一方、空隙率を65%以下とすることによって、強度の低下による破壊やそれに起因する比誘電率の低下を効果的に防止することができる。これらの観点から、本発明の誘電体粒子の空隙率は、更に好ましくは35〜60%であり、一層好ましくは35〜55%である。
【0018】
空隙率は、JIS R 1655の水銀圧入法によって測定される。詳細には、細孔面積の測定と同様の手順で成形したペレットを用い、細孔分布測定用水銀圧入ポロシメーター(マイクロメリティックス社製、Auto Pore IV)によって測定する。測定の手順は、上述した細孔面積の測定に準ずる。
【0019】
また、本発明の誘電体粒子は、その開気孔に由来する細孔容積が0.08〜0.50mL/gであることが好ましく、0.10〜0.40mL/gであることが更に好ましく、0.10〜0.35mL/gであることが一層好ましい。この理由は、本発明の誘電体粒子の細孔面積や空隙率を上述の範囲に設定した理由と同じ理由である。
【0020】
細孔容積は、JIS R 1655の水銀圧入法によって測定される。詳細には、詳細には、細孔面積の測定と同様の手順で成形したペレットを用い、細孔分布測定用水銀圧入ポロシメーター(マイクロメリティックス社製、Auto Pore IV)によって測定する。測定の手順は、上述した細孔面積の測定に準ずる。
【0021】
更に本発明の誘電体粒子は、そのBET比表面積が、1〜100m2/gであることが好ましい。BET比表面積をこの範囲に設定することによっても、本発明の誘電体粒子は高い比誘電率を有するものとなる。詳細には、BET比表面積を1m2/g以上とすることで、気孔を有さない中実の誘電体粒子や、閉気孔を有する特許文献1に記載の誘電体粒子に比べて、比誘電率を高くすることが可能にある。一方、BET比表面積を100m2/g以下とすることによって、粒子表面において立方晶が支配的になることに起因する比誘電率の低下を効果的に防止することができる。これらの観点から、本発明の誘電体粒子のBET比表面積は、更に好ましくは1〜50m2/gであり、一層好ましくは1〜30m2/gである。
【0022】
BET比表面積は、以下の方法で測定される。すなわち、吸着ガスである窒素を30容量%、及びキャリアガスであるヘリウムを70容量%含有する窒素−ヘリウム混合ガスを用いる。測定装置としては、BET比表面積測定装置((株)島津製作所製、マイクロメリィックス フローソーブII2300)を用いる。そして、JIS R 1626「ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積測定方法」の6.2流動法の(3.5)一点法にしたがってBET比表面積を測定する。
【0023】
本発明の誘電体粒子は、その平均粒径D50が0.1〜2μmであることが好ましく、0.3〜2μmであることが更に好ましく、0.5〜2μmであることが一層好ましい。平均粒径D50をこの範囲に設定することで、誘電体粒子と樹脂を用いてシート状キャパシタを作製するにあたり、誘電体層の厚みを薄くすることができ、高容量化が可能になるという有利な効果が奏される。平均粒径D50は、以下の方法で測定される。すなわち、0.1gの誘電体粒子を、純水10mLに入れて撹拌し、超音波によって分散させる。次いで、得られた分散液を一部取り出して、粒度分布測定装置((株)堀場製作所製、LA−920、相対屈折率:1.80)にて粒度分布を測定する。測定結果から平均粒径D50を求める。
【0024】
平均粒径D50に関連して、本発明の誘電体粒子は、その最大粒径Dmaxが10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることが更に好ましく、6μm以下であることが一層好ましい。最大粒径Dmaxをこれらの値以下に設定することで、誘電体粒子と樹脂を用いて作製したシート状キャパシタは、その評価においてリーク電流などの電気特性が安定し、歩留まりが向上するという有利な効果が奏される。最大粒径Dmaxは、上述した平均粒径D50と同様の方法で測定される。
【0025】
本発明の誘電体粒子は金属酸化物から構成されている。この金属酸化物としては、高い比誘電率を示すものであればその種類に特に制限はないが、特に結晶構造がABO3で表されるペロブスカイト構造を有する強誘電性のものを用いることが好ましい。式中、A及びBはそれぞれ独立に1種以上の金属元素を表す。ABO3で表されるペロブスカイト構造を有する金属酸化物としては、例えばBaTiO3、CaTiO3、MgTiO3、CaSnO3、SrTiO3、PbTiO3、PbZrO3、Pb(Zr,Ti)O3、などが挙げられる。
【0026】
また、前記の金属酸化物として、Ba1-XXTi1-ZZ3(式中、xは0以上0.5未満の数を表し、zは0以上0.5未満の数を表し、LはSr、Ca、Mg、Sc、Y又はランタノイドを表し、MはZr、Hf、Sn又はMnを表す。)で表されるものを用いることも好ましい。Lは、1種でもよく、あるいは2種以上の元素であってもよい。Mについても同様であり、Mも、1種でもよく、あるいは2種以上の元素であっても良い。
【0027】
本発明の誘電体粒子は、該誘電体粒子の前駆体を焼成することで好適に製造される。この前駆体としては、焼成時の熱分解によって二酸化炭素又は水が生じる化合物を用いることが好適である。このような化合物を前駆体として用いることによって、該前駆体の焼成時に、熱分解に起因して生じる二酸化炭素又は水が揮発して、目的とする誘電体粒子中に開気孔が首尾良く形成される。熱分解に起因して二酸化炭素又は水が生じる前駆体としては、本発明の誘電体粒子を構成する金属のシュウ酸塩、炭酸塩又は水酸化物が好適なものとして挙げられる。
【0028】
開気孔の形成には、前駆体として上述の化合物を用いることに加えて焼成時の温度をコントロールすることも有利である。詳細には、前駆体の焼成を、該前駆体の熱重量変化測定において該前駆体の熱重量変化が一定になった最低温度TLから±200℃の温度範囲に設定して行うことが好ましい。この温度範囲は、従来誘電体粒子を製造するときに採用されていた温度範囲よりも低いものである。かかる低い温度範囲で焼成を行うことで、二酸化炭素や水が揮発したときに生じた細孔が閉塞されにくくなり、目的とする開気孔を首尾良く形成することができる。この観点から、前駆体の焼成温度はTL−100℃〜TL+100℃とすることが更に好ましく、TL−50℃〜TL+50℃とすることが一層好ましい。なお、従来行われていた高温での焼成を行うと、二酸化炭素や水が揮発したときに生じた細孔が、焼き締めによって閉塞されてしまい、開気孔を形成することが困難となる。従来高温で焼成を行っていた理由は、目的とする誘電体粒子として中実のものを製造するためである。
【0029】
上述した温度TLは次のようにして決定される。目的とする誘電体粒子の前駆体3mgを試料として用いる。この試料を熱重量/示差熱分析装置(例えばブルカー・エイエックスエス(株)製のTG−DTA 2000S(商品名))を用いて熱分析を行う。熱分析の雰囲気は大気雰囲気とする。昇温速度は10℃/minとする。このようにして得られた熱重量(TG)分析の結果は例えば図1に示すとおりとなる。同図において、温度に対する熱重量変化が一定になった最低温度をTLと定義する。
【0030】
焼成時の温度条件は上述のとおりであるところ、焼成の雰囲気は例えば大気などの含酸素雰囲気、不活性雰囲気、真空雰囲気とすることができる。焼成時間は、焼成温度が上述の範囲内であることを条件として、1〜10時間、特に2〜6時間とすることが好ましい。
【0031】
誘電体粒子として、上述した平均粒径D50及び最大粒径Dmaxを有するものを得るためには、出発物質を反応させて前駆体である沈殿物を生成させるときに、その混合を、高速剪断混合装置を用いて行うことが有利である。沈殿物の生成に高速剪断混合装置を用いることで、小粒径の沈殿物が容易に生成することが本発明者らの検討結果判明した。この小粒径の沈殿物を前駆体として用いて焼成を行うことで、目的とする平均粒径D50及び最大粒径Dmaxを有する誘電体粒子を容易に製造することができる。高速剪断混合装置としては、例えばホモジナイザー、高圧式乳化分散機、高速攪拌機等を用いることが好ましい。
【0032】
上述した高速剪断混合装置を用いて得られた沈殿物である前駆体は、これを粉砕することなく、先に述べた焼成工程に付すことが有利であることが、本発明者らの検討の結果判明した。粉砕を行うと、前駆体の粒径が小さくなり、上述した温度範囲で焼成を行ったとしても、粒子の焼き締めが起こりやすい傾向にあり、誘電体粒子に開気孔を容易に形成することが困難になる場合がある。この観点から、焼成に付す前駆体の平均粒径D50は、0.01μm以上にしておくことが好ましい。
【0033】
以上の各製造条件を踏まえて、本発明の誘電体粒子の製造の具体的な方法を、BaTiO3粒子の製造を例にとり説明する。前駆体の出発物質としては、水溶性バリウム塩及び水溶性チタン塩を用いることができる。水溶性バリウム塩としては例えば塩化バリウム、酢酸バリウム、硝酸バリウム、水酸化バリウムなどを用いることができる。水溶性チタン塩としては、例えば四塩化チタンなどを用いることができる。これらの化合物を水に溶解させて水溶液を調製する。この水溶液に含まれるバリウムの濃度は、0.01〜2mol/L、特に0.05〜1mol/Lに設定することが好ましい。チタンの濃度は、0.01〜2mol/L、特に0.05〜1mol/Lに設定することが好ましい。
【0034】
この水溶液とは別に沈殿剤としての酸性水溶液を用意する。酸性水溶液としては、例えばシュウ酸水溶液を用いることが好ましい。酸性水溶液に代えて、沈殿剤として塩基性水溶液を用いることもできる。塩基性水溶液としては、アルカリ金属の水酸化物の水溶液や、アルカリ土類金属の水酸化物の水溶液などが挙げられる。酸性水溶液を用いる場合には、そのpHは0.1〜5、特に0.1〜3に設定することが好ましい。塩基性水溶液を用いる場合には、そのpHは7〜14、特に8〜13.5に設定することが好ましい。
【0035】
バリウム及びチタンが含まれている水溶液と、シュウ酸等の酸性水溶液とを同時に、かつ連続して高速剪断混合装置に供給して両液を高剪断力下に反応させる。これによってシュウ酸バリウムチタニル等のシュウ酸塩の沈殿物が生成する。沈殿物の生成は迅速に起こるので、高速剪断混合装置を用いた混合によって、小粒径の沈殿物が得られる。酸性水溶液に代えて塩基性水溶液を用いた場合には、水酸化バリウム及び酸化チタンの共沈物や、炭酸バリウム及び酸化チタンの共沈物が生成する。
【0036】
バリウム及びチタンが含まれている水溶液と、酸性水溶液又は塩基性水溶液との混合比率は、これらの水溶液中のバリウムやチタンの濃度、及びpHが上述の範囲内であることを条件として、体積比で前者:後者=2:8〜8:2とすることが好ましく、3:7〜7:3とすることが更に好ましい。
【0037】
両液の混合によって沈殿物が生じたら、この沈殿物を純水によってリパルプ洗浄し、濾過、乾燥することで誘電体粒子の前駆体となる。この前駆体を粉砕することなく、焼成工程に付す。焼成工程の条件は、先に述べたとおりである。焼成によって誘電体粒子が得られたら、必要に応じてこれを粉砕し、所望の粒径に調整する。
【0038】
このようにして得られた誘電体粒子は、キャパシタの誘電体層に用いられる誘電体材料として好適に用いられる。特にシート状キャパシタの誘電体層に用いられる誘電体材料として好適に用いられる。
【0039】
シート状キャパシタは、一対の電極と、両電極間に配置された誘電体層とを備えている。この誘電体層は、本発明の誘電体粒子及び樹脂を含むものである。誘電体層においては、本発明の誘電体粒子が開気孔を有していることに起因して、誘電体粒子の細孔中に樹脂が滲入した状態になっている。したがって、背景技術の項で述べた特許文献1に記載の閉気孔を有する誘電体粒子と異なり、誘電体層中に空気が混入しづらいので、誘電体層の比誘電率を高くすることができる。
【0040】
誘電体層に用いられる前記樹脂は例えば、熱硬化性樹脂でも熱可塑性樹脂でもよい。熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられ、それぞれ変性樹脂でも構わない。熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホン、ポリイミド、ポリアミドイミドなどが挙げられ、それぞれ変性が入っていても構わない。誘電体層における誘電体粒子と樹脂との割合は、誘電体層の比誘電率との関係で適切に決定される。一般には、誘電体粒子と樹脂との合計量に対する誘電体粒子の割合が、10〜65体積%、特に20〜55体積%となるようにすることが好ましい。
【0041】
シート状キャパシタは、例えば次に述べる方法で製造することができる。まず、樹脂を有機溶剤に溶解して樹脂ワニスを調製する。この樹脂ワニスと、本発明の誘電体粒子とを混合し、ボールミル等のメディアミルを用いて両者を混合する。混合によって、誘電体粒子の開気孔内に樹脂ワニスが滲入して、該開気孔内を満たす。このようにして得られたスラリーを、キャパシタの電極となる銅箔等の金属箔の一面に塗布し、乾燥させることで、誘電体粒子含有樹脂層付きの金属箔を得る。この金属箔を2枚作製し、2枚の金属箔の樹脂層どうしを重ね合わせ、真空下に加圧及び加熱を行う。このようにして、一対の金属箔とその間に配置された誘電体層とを備えたシート状キャパシタが得られる。また、誘電体粒子含有樹脂層付きの金属箔の樹脂層側に、別の金属箔を直接重ねて積層しても良い。あるいは、誘電体粒子含有樹脂層付きの金属箔の樹脂層上に、スパッタリングや蒸着によって金属層を形成しても良い。このシート状キャパシタは、所望により、フォトリソグラフィープロセスに付されることで余分な金属箔が除去されて、所望の大きさを有するものとなる。
【0042】
上述した誘電体粒子含有樹脂層付きの金属箔を複数枚用い、それらを適宜積層し、かつフォトリソグラフィープロセスを用いることで、キャパシタ内蔵プリント配線板を製造することもできる。そのようなキャパシタ内蔵プリント配線板の製造方法は、例えば本出願人の先の出願に係る特開2006−123232号公報に記載されている。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0044】
〔実施例1〕
(1)前駆体の製造
塩化バリウム二水和物、四塩化チタン溶液、シュウ酸、純水を用いて、以下の表1に示す組成のA液及びB液を調製した。
【0045】
【表1】

【0046】
次いで、A液及びB液をそれぞれ室温で撹拌し、両液を送液ポンプにていずれも100mL/minでフィードし、両液を接触させて反応させると同時に、高速剪断混合装置であるホモジナイザーへ通過させて、前駆体であるシュウ酸バリウムチタニルのスラリーを得た。得られたシュウ酸バリウムチタニルのスラリーを、純水を用いてリパルプ洗浄し、濾過後のケーキを120℃・6時間で乾燥し、シュウ酸バリウムチタニル粉を得た。熱重量/示差熱分析装置を用いて測定されたシュウ酸バリウムチタニル粉のTLは701℃であった。
【0047】
(2)チタン酸バリウムの製造
前項(1)で得られた10gのシュウ酸バリウムチタニル粉を粉砕することなく、大気中、700℃で4時間焼成し、多孔質のチタン酸バリウムの粉を得た。得られたチタン酸バリウム粉の物性を以下の表2に示す。
【0048】
(3)シート状キャパシタの製造
樹脂バインダーとして比誘電率3.5を有するエポキシ系樹脂を用いた。この樹脂バインダーを、硬化後に得られる樹脂バインダーの質量が13.33質量%になるようにジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させ、濃度調整して樹脂ワニスとした。
上述した多孔質チタン酸バリウム粉が30体積%、樹脂バインダーが70体積%となるように両者を秤量した。これらを、ビーズ径0.8mmのジルコニアビーズとともに混合し、ボールミルによって撹拌して、多孔質チタン酸バリウム粉が分散したスラリーを得た。
得られた多孔質チタン酸バリウム粉分散スラリーと、ジルコニアビーズとを分離した。分離された多孔質チタン酸バリウム粉分散スラリーを、厚さ18μmの銅箔上に乾燥厚さが5μmになるように塗布し、120℃で1分間乾燥させて、誘電体粒子含有樹脂層付き銅箔を得た。この誘電体粒子含有樹脂層付き銅箔を2枚作製し、樹脂層の面どうしを重ね合わせた後、真空中、圧力30kgf/cm2で押しながら、190℃で90分加熱し、厚さ18μmの銅箔に挟まれた、多孔質チタン酸バリウム粉と樹脂バインダーの複合誘電体層を得た。
次にフォトリソグラフィープロセスによって余分な銅箔を除去し、□10mmサイズの電極を有するシート状キャパシタを製造した。得られたシート状キャパシタの静電容量及び誘電体層の膜厚を以下の方法で測定し、それらの値を用いてチタン酸バリウム粒子の比誘電率を算出した。その結果を以下の表2に示す。
【0049】
〔誘電体層の静電容量〕
□10mmサイズの電極からなるシート状キャパシタを36個形成した。各シート状キャパシタについて、LCRメーター(日置電機(株)製、LCRハイテスタ3532−50)を用いて静電容量を測定した。その算術平均値を求め、その値を静電容量とした。測定条件は、測定周波数1kHz、AC1V、DC0Vとした。
【0050】
〔誘電体層の膜厚〕
誘電体層の縦断面を、クロスセクションポリッシャ(JEOL製、SM−0910)を用い、イオンミルによって微細研磨加工した。研磨加工後の縦断面を、走査型電子顕微鏡(JEOL製、JSM−7001F)を用いて観察した。8箇所の厚さ方向の測長を行い、その算術平均値を誘電体層の膜厚とした。
【0051】
〔誘電体層の比誘電率〕
上述の方法で得た静電容量及び膜厚を用いて誘電体層の比誘電率を算出した。算出は、C=εrε0×(S/d)から行った。式中、Cは静電容量(C)を表す。εrは物質(誘電体)の比誘電率、ε0は真空の誘電率(8.85×10-12F/m)、Sは電極面積、dは電極間の距離(すなわち誘電体層の厚み)を表す。
【0052】
〔チタン酸バリウム粒子の比誘電率〕
Lictheneckerの対数混合則であるlogεr=Vf・logεf×Vp・logεpから算出した。式中、εrは誘電体層の比誘電率、Vfは粒子の体積比率、εfは粒子の比誘電率、Vpは樹脂バインダーの体積比率、εpは樹脂バインダーの比誘電率である。
【0053】
〔実施例2及び3〕
実施例1で得られたシュウ酸バリウムチタニル粉10gを、大気中で4時間焼成し、多孔質のチタン酸バリウム粉を得た。焼成温度は以下の表2に示すとおりであった。得られたチタン酸バリウム粉の物性を同表に示す。また、得られたチタン酸バリウム粉を用い、実施例1と同様にしてシート状キャパシタを得た。そして実施例1と同様にして、チタン酸バリウム粒子の比誘電率を算出した。その結果を表2に示す。
【0054】
〔比較例1〕
実施例1で得られたシュウ酸バリウムチタニル粉10gを大気中、1100℃で4時間焼成し、細孔のないチタン酸バリウムの粉末を得た。得られたチタン酸バリウム粉の物性を以下の表2に示す。また、得られたチタン酸バリウム粉を用い、実施例1と同様にしてシート状キャパシタを得た。そして実施例1と同様にして、チタン酸バリウム粒子の比誘電率を算出した。その結果を表2に示す。
【0055】
〔比較例2〕
実施例1で用いたA液及びB液を室温にて撹拌し、両液を送液ポンプにてフィードし、ホモジナイザーを通さず、ビーカー中で反応させた。反応によって20μm〜500μmの粒径を有するシュウ酸バリウムチタニルのスラリーを得た。得られたシュウ酸バリウムチタニルのスラリーを、純水にてリパルプ洗浄し、濾過後のケーキを120℃、6時間で乾燥し、シュウ酸バリウムチタニル粉を得た。得られたシュウ酸バリウムチタニル粉10gを、大気中、1100℃で4時間焼成した後に解砕して、細孔のないチタン酸バリウムの粉末を得た。得られたチタン酸バリウム粉の物性を以下の表2に示す。また、得られたチタン酸バリウム粉を用い、実施例1と同様にしてシート状キャパシタを得た。そして実施例1と同様にして、チタン酸バリウム粒子の比誘電率を算出した。その結果を表2に示す。
【0056】
〔比較例3〕
実施例1で得られたシュウ酸バリウムチタニル粉10gを、大気中、1400℃で4時間焼成し、細孔のないチタン酸バリウムの粉末を得た。得られたチタン酸バリウム粉の物性を以下の表2に示す。チタン酸バリウム粒子の比誘電率は、その平均粒径が大きすぎてシートキャパシタに加工することができなかったため、測定できなかった。


【0057】
【表2】

【0058】
表2に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られたチタン酸バリウム粒子(本発明品)は、各比較例で得られたチタン酸バリウム粒子に比べて、比誘電率が非常に高いものであることが判る。なお、表には示していないが、各実施例で得られたチタン酸バリウム粒子を電子顕微鏡観察したところ、その表面において開口した細孔が多数観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の開気孔を有し、JIS R 1655の水銀圧入法に準じて測定された細孔面積が3〜35m2/gであることを特徴とする多孔質金属酸化物誘電体粒子。
【請求項2】
平均粒子径D50が0.1〜2μmであり、最大粒子径が10μm以下である請求項1に記載の多孔質金属酸化物誘電体粒子。
【請求項3】
前記金属酸化物が、結晶構造がABO3(式中、A及びBはそれぞれ独立に1種以上の金属原子を表す。)で表されるペロブスカイト構造を有するものである請求項1又は2に記載の多孔質金属酸化物誘電体粒子。
【請求項4】
前記金属酸化物が、Ba1-XXTi1-ZZ3(式中、xは0以上0.5未満の数を表し、zは0以上0.5未満の数を表し、LはSr、Ca、Mg、Sc、Y又はランタノイドのうちの1種又は2種以上を表し、MはZr、Hf、Sn又はMnのうちの1種又は2種以上を表す。)で表されるものである請求項3に記載の多孔質金属酸化物誘電体粒子。
【請求項5】
前記金属酸化物がBaTiO3である請求項4に記載の多孔質金属酸化物誘電体粒子。
【請求項6】
JIS R 1655の水銀圧入法に準じて測定された空隙率が30〜65%である請求項1ないし5のいずれか一項に記載の多孔質金属酸化物誘電体粒子。
【請求項7】
JIS R 1655の水銀圧入法に準じて測定された細孔容積が0.08〜0.5mL/gである請求項1ないし6のいずれか一項に記載の多孔質金属酸化物誘電体粒子。
【請求項8】
BET比表面積が1〜100m2/gである請求項1ないし7のいずれか一項に記載の多孔質金属酸化物誘電体粒子。
【請求項9】
請求項1に記載の多孔質金属酸化物誘電体粒子及び樹脂を含む誘電体層を備え、該誘電体層においては、該多孔質金属酸化物誘電体粒子の細孔中に該樹脂が滲入した状態になっていることを特徴とするシート状キャパシタ。
【請求項10】
請求項1に記載の多孔質金属酸化物誘電体粒子及び樹脂を含む誘電体層を備え、該誘電体層においては、該多孔質金属酸化物誘電体粒子の細孔中に該樹脂が滲入した状態になっているキャパシタを備えていることを特徴とするキャパシタ内蔵プリント配線板。
【請求項11】
請求項1に記載の多孔質金属酸化物誘電体粒子の製造方法であって、
前記製造方法は、前記金属酸化物誘電体粒子の前駆体を焼成する工程を含み、
前記前駆体として、その熱分解によって二酸化炭素又は水が生じる化合物を用い、
前記前駆体の焼成を、該前駆体の熱重量変化測定において該前駆体の熱重量変化が一定になった最低温度から±200℃の温度範囲に設定して行う多孔質金属酸化物誘電体粒子の製造方法。
【請求項12】
前記前駆体が、前記金属酸化物誘電体粒子を構成する金属のシュウ酸塩、炭酸塩又は水酸化物である請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
出発物質の水溶液と酸性水溶液又は塩基性水溶液とを混合して前記前駆体を製造するに際し、両液の混合を、高速剪断混合装置を用いて行う請求項11又は12に記載の製造方法。
【請求項14】
酸性水溶液がシュウ酸水溶液である請求項13に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−43814(P2013−43814A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183994(P2011−183994)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】