説明

多孔質SiC材料の製造方法

本発明は、配合物を作りそれを1600℃〜2400℃で焼成するのを可能にするために充分な量の溶媒、例えば水の存在下で、有機細孔形成剤及び/又は結合剤を含む有機材料と適切な割合でもって配合された細かいSiC粒子及び粗いSiC粒子の2つの粉末から出発して、特に粒子状物質含有ガスをフィルタ処理するための構造体の形をした、再結晶化SiCで作られた多孔質材料を得るための方法であって、粗い粉末粒子のパーセンタイル値d90と細かい粉末粒子のパーセンタイル値d10との差に初期配合物中の有機材料の体積を乗じ、SiC粒子の合計体積に対する百分率として表わしたものが、250〜1500であることを特徴とする方法に関する。本発明は、前記方法によって得ることのできる再結晶化SiCで作られた多孔質材料にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再結晶化した炭化ケイ素に基づく多孔質材料の分野に関する。より詳細には、本発明は、機械的強度特性が改善された、そのような多孔質材料で作られた本体又は構成部品の製造方法に関する。このような本体又は構成部品は、特にフィルタの分野、あるいは焼成用支持体又はセラミック点火装置の分野で使用することができる。
【背景技術】
【0002】
非常に高い温度での焼成によって得られる炭化ケイ素(SiC)をベースとした多孔質のセラミック又は耐火材料は、それらの高い化学的不活性と高い耐熱性のために大きな機械的応力、特に熱機械的応力に耐えることができる利用分野において、益々使用される傾向にある。重要ではあるものの非限定的な例は、典型的には、自動車の排気管路の粒子フィルタなどの利用分野である。特に、触媒ガスフィルタ処理の利用分野にとっては、細孔率を増大させて可能なかぎり大きい交換表面積を得ること、あるいは細孔の平均の大きさを増大させて圧力損失の影響を制限することが一般に望ましい。詳細には、多孔質材料の内部に触媒コーティングを被着させることが、被着の後でもなお材料が過度の圧力損失なしにガスを通過させるのに充分な細孔率を有することを理由として、考えられよう。
【0003】
しかしながら、材料の細孔率が高い場合、すなわち、その開放細孔率が40%又は45%超、更には50%である場合、そして更に一層顕著なものとして50%を超える場合、このような材料から生産された構成部品は、機械的ひいては熱機械的強度が過度に低く、この脆弱性は材料が使用中に急速に劣化する原因となる可能性がある。
【0004】
同様にして、例えば焼成用支持体として使用するように意図された材料の場合、機械的強度をなおも維持しながら細孔率を増大させて支持体の熱質量を削減すること、詳細には前記支持体上に位置している部品を焼成するために必要なエネルギー消費量を削減することが有用である。
【0005】
材料の細孔率を増大させる目的で、最も慣習的な公知の手段は、所望の部品又は本体を得るために出発組成物中において添加剤を使用するものである。詳細には、有機物由来の細孔形成剤が使用され、これらは中間の加熱工程中又は材料の焼成中に分解する。このような方法は、例えば特許文献1に記載されている。しかしながら、公知の通り、細孔形成剤又はその他の有機材料を使用すると、有毒ガスが発生することになり、更には、細孔形成剤又はその他の有機材料が完全に制御された形で除去されない場合、微小割れなどの欠陥が材料内にひき起こされることがある。この場合、このような欠陥は、使用中の多孔質体、最も具体的にはフィルタ除去工程と再生工程を逐次的に受ける排気管路内の粒子フィルタ、又は実質的な熱サイクルを複数回受けなくてはならない焼成用支持体の、特性及び強度に大きな損害をもたらしかねない。
【0006】
その上、最終製品の平均細孔径を制御して通常はそれを増大させるために、出発配合物中に存在するSiC粒子の大きさを増大させることも公知である。しかしながら、大きな粒子、すなわち典型的には20ミクロン超のメディアン径を有する粒子を用いると、機械的強度は許容不可能なほどに低下する。
【0007】
数多くの最近の刊行物が、初期配合物中のさまざまなSiC粒子粉末から、制御された細孔率をもつ炭化ケイ素構造体を得るという課題に取り組んでいる。
【0008】
例えば、特許文献2は、一方の粉末が粗いSiC粒子で構成され他方の粉末が細かいSiC粒子で構成された少なくとも2種の粉末の配合物から焼結セラミック体を製造するための方法であって、粗粉末の平均の大きさと細粉末の平均の大きさとの比率が8〜250である方法を開示している。
【0009】
特許文献3は、それぞれ5〜100μm及び0.1〜10μmの平均直径を有する2種のSiC粒子粉末の配合物から得られる焼成セラミック体について記載している。
【0010】
特許文献4は、細孔径の平均目標値を中心としたばらつきの小さなSiCフィルタの作製方法を開示している。この教示にしたがって当初使用された2つのSiC粉末は、メディアン細孔径が粗い方の粒子で構成された粉末に関しては15〜40ミクロン、細かい方の粒子で構成された粉末に関しては0.5ミクロンである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】ヨーロッパ特許出願公開第1403231号明細書
【特許文献2】ヨーロッパ特許出願公開第1686107号明細書
【特許文献3】ヨーロッパ特許出願公開第1652831号明細書
【特許文献4】ヨーロッパ特許出願公開第1839720号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、多孔質で、その細孔率特性(開放細孔容積、メディアン細孔径)とその機械的及び熱機械的強度特性の間の最良の妥協点を有する、再結晶化炭化ケイ素セラミック材料で作られた本体を作製し組立てるための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
より具体的には、本発明の対象は、細孔率特性、特に開放細孔率及び/又はメディアン細孔径と、機械的及び熱機械的強度特性の間で、これまでに知られた方法と比較して改善された妥協点を有する材料を得ることを可能にする、1600℃より高い温度で焼成されたSiCベースの多孔質セラミック又は耐火製品の製造方法である。
【0014】
本発明は、多孔質SiC材料の実質的に同等の細孔率について、前記材料を得るための方法のいくつかのパラメータが、前記材料の機械的強度特性に対して極めて重要な影響を及ぼし得るという出願人による発見に基づいている。最も詳細には、本明細書の残りの部分でその一部を報告する出願人が行った実験によって、同等の細孔率についての材料の機械的特性は、
・一方では、当該方法において最初に使用する粉末配合物中に存在するSiC粒子の大きさ及び分布、及び、
・他方では、焼成前の初期配合物中に存在する有機材料の量、
の厳格な組合せ制御によって極めて大きく改善可能であるということが分かった。
【0015】
一つの特に有利な態様によると、本発明を適用することにより、目標材料の予測される細孔率特性と比較して、そのような材料のために最高の機械的特性を得るように方法の重要な工程を変更することが可能となる。
【0016】
より正確に言うと、本発明は、再結晶化SiCで作られた多孔質材料を、特に粒子状物質含有ガスをフィルタ処理するための構造体の形でもって、得るための方法であって、
a)少なくとも2種類のSiC粒子粉末を含み、第1の粉末の粒子は5ミクロン未満のメディアン径d50を有し、第2の粉末の粒子は5〜100ミクロンのメディアン径d50を有し、第2の粉末のメディアン径d50と第1の粉末のメディアン径d50との差が5ミクロンより大きい組成物を調製する工程、
b)有機細孔形成剤及び/又は結合剤を含む有機材料と前記組成物とを、配合物を作るのに充分な量の溶媒、例えば水の存在下で、適切な割合でもって配合し、得られた配合物を成形して未焼結体を得る工程、
c)好ましくは、特に中間熱処理により及び/又はマイクロ波を使用することにより、有機材料を乾燥させ除去する工程、及び、
d)1600℃〜2400℃、好ましくは1800℃より高く、更には2000℃より高い焼結温度で、未焼結体を焼成して焼結多孔質体を得る工程、
を含む方法に関する。
【0017】
本発明による方法では、第2の粒子粉末のパーセンタイル値d90と第1の粒子粉末のパーセンタイル値d10との差に初期配合物中の有機材料の体積を乗じ、SiC粒子の合計体積に対する百分率として表わしたものが、約250〜約1500、好ましくは約300〜約1200となる。
【0018】
「有機材料の体積」という用語は、本明細書においては、配合物の「無機物」部分を構成するSiC粒子と配合された全ての有機材料の合計体積を意味するものとして理解される。この有機材料の合計体積は、配合物中で前記SiC粒子が占有する合計体積と相関するものである。
【0019】
配合物中に取込まれる有機材料は、特に言えば、細孔形成機能をもつ物質及び予備成形剤、例えば結合剤、可塑化剤、分散剤及び滑剤などであるが、ここに挙げたものが全てではない。
【0020】
好ましくは、有機材料(考えられる細孔形成剤、結合剤、可塑化剤、滑剤など)の体積は、SiC粒子の合計体積に関する百分率として、5〜150%、更には20〜110%、あるいは30〜100%である。好ましくは、細孔形成剤の体積は、SiC粒子の合計体積に関する百分率として0〜120%、又は10〜95%、更には15〜80%である。
【0021】
「粉末」という用語は、本発明においては、通常のとおり、一般にメディアン径を中心としそのまわりに分布した粒径分布(本明細書では粒度とも呼ばれる)を特徴とする粒体又は粒子の集合体を意味するものとして理解される。
【0022】
「粒体」又は「粒子」という用語は、粉末又は粉末配合物中の個別の固体物質を意味するものとして理解される。
【0023】
「粉末又は粉末配合物の粒度の累積粒度分布曲線」という表現は、本発明においては、且つ当該分野における慣行にしたがって、
・百分率p%が最大の直径又は大きさを有するp%の粒子をまとめた粉末の体積分率を表わすような、y軸にプロットされた百分率と、
・x軸にプロットされた、一般にμm単位で表わされる、粒度又は粒径dpであって、dpはx軸にプロットされた、百分率p%により表わされる粉末の体積分率において考えられる最小の粒子の大きさであるもの、
を提供する粒度分布曲線を意味するものとして理解される。
【0024】
このような粒度曲線は、特に、レーザー粒度分析装置を用いて通常のとおり得ることができる。
【0025】
本発明の意味合いにおいて、dpとは、通常のとおり、体積百分率p%に対応する粒径(上述の曲線においてx軸にプロットされる)であるという点が喚起される。
【0026】
したがって、粉末のd10は、粉末の10体積%の粒子がd10以上の大きさを有する(そしてその結果として、90体積%の粒子は完全にd10未満の大きさを有する)粒度に対応する。ここで、粉末のd90は、粉末の90体積%の粒子がd90以上の大きさを有する(そしてその結果として、10体積%の粒子は完全にd90よりも小さい大きさを有する)粒度に対応することが喚起される。
【0027】
同じ定義づけで、パーセンタイル値d50は、粉末のメディアン径と呼ばれることが多い。
【0028】
本発明による方法は、例えば、SiC粒子粉末を配合して選択された本発明による粒度の粒子配合物を得るようにし、そして次にこの配合物を成形するものであり、そして有利なことに、高温での焼成及び焼結後に、細孔率及び機械的強度の組合せ特性が改善されより容易に制御することができるSiCベースの多孔質耐火セラミック製品を得ることを可能にする。したがって、本発明による方法は、最適な機械的強度が保証される多孔質焼結体を得ることを可能にする。
【0029】
好ましくは、本発明によると、第2のSiC粒子粉末のパーセンタイル値d90と第1のSiC粒子粉末のパーセンタイル値d10との差は、1ミクロンより大きく、より好ましくは3ミクロンより大きい。この差は、本発明によると、2つの粉末の粒度分布の重複量を表わしている。
【0030】
好ましくは、本発明によると、第2のSiC粒子粉末のパーセンタイル値d90と第1のSiC粒子粉末のパーセンタイル値d10との差は、20ミクロン未満、例えば15ミクロン以下、更には10ミクロン以下である。
【0031】
有利には、第1のSiC粒子粉末の粒子メディアン径は3ミクロン未満、好ましくは1ミクロン以下である。本発明の範囲から逸脱することなく、第1のSiC粉末の粒子メディアン径は、およそ数十ナノメートル、更にはおよそ数ナノメートルであり得る。
【0032】
好ましくは、第2のSiC粒子粉末を構成する粒子のメディアン径は5〜60ミクロン、好ましくは5〜30ミクロン、更には5〜20ミクロンでよい。5ミクロン未満では、従来の方法を用いて得られた多孔質材料と比較して、有意な差は観察されなかった。60ミクロンを超えると、多孔質体の機械的強度が極めて大きく低下する。
【0033】
好ましくは、第2の粉末のSiC粒子のメディアン径は、第1の粉末のSiC粒子のメディアン径より少なくとも5倍大きく、好ましくは少なくとも10倍大きい。
【0034】
好ましくは、第2の粉末のメディアン径と第1の粉末のそれとの差は8〜30ミクロンである。
【0035】
一般には、本発明によると、第1の粉末のパーセンタイル値d10とd90との差とメディアン径d50との比率R1、すなわち、
1=(d10−d90)/d50
は、0.1〜10、好ましくは0.3〜5、そして非常に好ましくは0.5〜5である。
【0036】
同様に、本発明によると、第2の粉末のパーセンタイル値d10とd90との差とメディアン径d50との比率R2、すなわち、
2=(d10−d90)/d50
は、一般に0.1〜10、好ましくは0.3〜5、そして非常に好ましくは0.5〜5である。
【0037】
好ましくは、多孔質体は、35〜65%、更に一層好ましくは40%〜60%の開放細孔率を有する。特に粒子フィルタの利用分野においては、細孔率が過度に低いと圧力損失が過度に大きくなる。細孔率が過度に高いと、機械的強度レベルが過度に低くなる。
【0038】
本発明によると、材料の細孔率を構成する細孔の容積当たりのメディアン径d50は、5〜30ミクロン、好ましくは10〜25ミクロンである。
【0039】
一般に、粒子フィルタのフィルタ作用のある壁を構成するものとしての材料の利用分野においては、過度に小さい細孔径は過度に大きい圧力損失をもたらし、それに対して過度に大きいメディアン細孔径はフィルタ効率を低下させることが一般に認められている。
【0040】
特に、多孔質体の電気伝導度特性を増大させるため又は多孔質体の機械的強度を増大させるためには、SiC粉末を、アルミニウムなどの金属をドープされたSiCで製造することができる。
【0041】
更に、本発明による方法において使用されるSiC粉末は、好ましくは、本質的にアルファ結晶学的形態のSiCの粉末、好ましくは使用される粉末の化学的純度に応じて黒色SiC又は緑色SiCの粉末である。
【0042】
本明細書が不必要に厚くならないように、上述したとおりの本発明のさまざまな好ましい実施形態間での本発明による可能な組合せの全てが、特に上に記した本発明による粉末の特性の結果として得られる可能な組合せの全てが、報告されているわけではない。しかしながら、上述した初期の及び/又は好ましい範囲と値の考えられる全ての組合せが想定されるものであり、それらは本明細書の文脈において出願人が説明しているとおりに考慮されなくてはならないものと理解される(特に、2、3又はそれ以上の組合せ)。
【0043】
典型的には、工程b)において、細孔形成剤及び/又は結合剤、そして任意的に可塑化剤を、添加してもよい。これらの結合剤又は可塑化剤は、例えば一定範囲の多糖類及びセルロース誘導体、PVA、PEG、更にはリグノン(lignone)誘導体又は化学硬化剤、例えばリン酸又はケイ酸ナトリウムなど、から選択されるが、但しこれらは焼成方法との相性がよいことが条件となる。出願人は、このようにして得られたプラスチック配合物のレオロジーが、水を十分に添加する場合を含め、日常的な実験によって容易に制御できるものであることに気付いた。
【0044】
有利には、先行工程において、通常の造粒又は噴霧処理などのような凝集又は粒状物形成用の公知の方法を用いて、第1の粉末の粒子を第2の粉末の少なくとも一部分とともに、更には後者なしに、凝集させることができる。これらの粒状物を作るための結合剤は、例えば熱硬化性樹脂でよく、それはエポキシ、シリコーン、ポリイミド又はポリエステル樹脂、あるいは好ましくはフェノール樹脂、場合により無機又は有機−無機タイプの結合剤と組合わされたPVA、又は環境に優しいことを理由として好ましく選択されるアクリル樹脂、から選択される。結合剤の性質及びその量は、一般に、細かい出発SiC粉末の粒度分布及び凝集後に得られるSiC粒状物の所望の大きさに応じて選択される。結合剤は、何らかの結合剤除去熱処理(工程c))の前に、そしてとりわけ成形作業(工程b))中に、粒状物が分解しないように、充分な機械的一体性を提供する必要がある。
【0045】
公知の通り、粒子フィルタとして使用するのに相性のよい構造体の壁の細孔率レベル、すなわち典型的に35〜65%の細孔率レベルを得るためには、一般に、配合物中に有機の細孔形成剤を追加導入することが必要である。これらの有機細孔形成剤は、焼成中に比較的高い温度で気化する。ポリエチレン、ポリスチレン、でんぷん又は黒鉛などの細孔形成剤が、特開平8−281036号公報又はヨーロッパ特許出願公開第1541538号明細書に記載されている。
【0046】
多孔質製品を成形する作業(工程b))は、好ましくは、任意の公知技術、例えばプレス加工、押出し加工又は振動により、あるいは例えば多孔質の石こう又は樹脂の成形型で、加圧の有無に関わらず、成形又は注型することによって、さまざまな形状の部品を製造するために実施される。考えられる1つの実施形態によると、第1のSiC粉末の細かい粒子及び/又は第2の粉末を構成するSiC粒子を凝集させた結果として得られる粒状物の大きさは、所望の利用分野に必要な細孔率と機械的強度の特性と外観が確実に得られるように、関与する技術に応じて、製造すべき部品の厚みに適合させられる。更に、本発明にしたがって粒状に凝集された粉体の量を削減することにより、注型中に成形型が詰まるのを防ぐこと、又は配合物をプレス加工する場合の層間剥離の影響を低減させることが可能である、ということが分かった。
【0047】
化学的に結合していない水の含有量を1重量%未満にするのに充分な時間、熱処理によるかあるいはマイクロ波を使用して、工程c)の間に溶媒を除去してもよい。当然のことながら、本発明の範囲から逸脱することなしに、その他の同等の公知の手段を考えてもよい。
【0048】
結合剤除去作業(工程c))は、焼結前の充分な機械的一体性を保証しそしてSiCの無制御の酸化を防止するよう、空気中で、好ましくは700℃未満の温度で、実施するのが好ましい。
【0049】
焼成は、高温で、すなわち1600℃より高い、更には1800℃より高い、好ましくは2000℃より高く更に一層好ましくは2100℃より高く、ただし2400℃よりは低い温度で実施される。好ましくは、前記焼成は非酸化性雰囲気中で、例えばアルゴン雰囲気中で実施される。
【0050】
本発明はまた、上述した方法により得られる、好ましくは本質的にα型の、再結晶化SiCで作られた多孔質体と、それをディーゼル又はガソリンエンジンの排気管路の粒子フィルタ構造体として、あるいは焼成用支持体として又はセラミック点火装置として使用することにも関する。
【0051】
同じ形状であり同程度の細孔率特性を有するものの、SiC粉末の粒度分布と有機材料の量とが相互に関連づけられていない従来の方法を用いて得られた多孔質体と比較して、本発明の方法にしたがって得られた多孔質体は、より高い機械的強度特性、特により高いMORを有する。
【0052】
上述した利点を、本発明の一部の実施形態を示す以下の非限定的な例によって説明する。以下の例は、従来の方法にしたがって得られる製品との比較を可能にしている。
【実施例】
【0053】
〔例1〜3〕
本発明による例1〜3の配合物を、異なる粒度分布をもち、構成する粒子のそれぞれの大きさに関連して細粉末及び粗粉末と呼ばれる2つのSiC粉末をベースとして、下記の表2に示されている重量組成にしたがって作った。SiC粉末配合物に、メディアン径15ミクロンの粉末の形をした、ポリエチレンタイプの有機細孔形成剤と、メチルセルロースタイプの可塑化用結合剤とを添加した。配合物を、均質なペーストが得られるまで、水の存在下に10分間ミキサーで混合した。可塑性を与え、配合物の脱気を可能にするように、ペーストを30分間引き延ばすよう流下させた。
【0054】
表2において、水、細孔形成剤及び結合剤−可塑化剤の添加量は、乾燥配合物の重量に対する重量百分率として表わされている。細孔形成剤と結合剤の体積は、存在するSiC粒子の合計体積に対する体積百分率として、表2の式Yで表されている。
【0055】
下記の表1に示されている押出し後の構造体の寸法特性を得ることを可能にする適切な形状のダイを用いて、ハニカムの一体品を押出し加工した。
【0056】
【表1】

【0057】
押出し加工した製品を、従来技術の手法、例えば特許文献1、ヨーロッパ特許出願公開第816065号明細書、同第1142619号明細書、同第1455923号明細書、又は国際公開第2004/090294号パンフレットに記載されているものにより、110℃で乾燥し、空気中600℃で結合剤を除去し、そしてアルゴン中にて2200℃で焼成し6時間保持した。
【0058】
一体品の細孔率と機械的強度特性を測定した。これらを表2に示す。
【0059】
押出し加工したハニカム一体品の開放細孔率は、ISO 5017標準規格に準じた浸漬及び真空により測定した。メディアン細孔径は、水銀ポロシメトリーによって測定した。
【0060】
各例の破壊時の力を、長さ25.4cm、幅36mmの所定の製造用バッチの個々の構成部品(一体品)に対応する10個の供試体について室温で測定した。NFB41−104標準規格に準じた3点曲げの設定は、2つの下部支持体間の距離が220mm、パンチの下降速度は一定で5mm/分前後であった。
【0061】
例1〜3によるフィルタについて得られた主要な特性と結果を表2に示す。
【0062】
比較のため、上記したものと同じ工程及び同じ実験手順を用い、本発明による例1〜3のものと実質的に同等の細孔率特性を得るように、ただし今回はSIKA TECH DPF−Cという呼称でSaint−Gobain Materials社により現在販売されているα−SiC粉末から出発して、別の配合物(比較例1c)を作った。比較例1cによる方法は、粗い方の直径をもつ粒子の粉末のd90と小さい方の直径をもつ粒子の粉末のd10との差が過度に小さいことから、特性パラメータYが過度に小さいという点で、本発明の対象とするものを作るのとは異なっている。この比較例によるフィルタについて得られた主要な特性と結果も表2に示されている。
【0063】
表2は、例1〜3及び比較例1cにしたがって作製した一体品を構成する再結晶化SiC材料が、実質的に同じ細孔率特性(合計細孔容積及びメディアン細孔径)を有することを示している。しかしながら、例1〜3の本発明による構造体は、得られたそれぞれのMOR強度の値が示すように、比較例1cのものよりも実質的に高い機械的強度を特徴としている。
【0064】
【表2】

【0065】
〔例4〜6〕
同じ寸法(表1参照)をもつ一体品を得るため、上述したものと同じ工程及び実験手順を用いて別の配合物を作った。これらの例により、粗及び細SiC粉末配合物の組成と初期配合物に添加した有機材料の量を、目標多孔質材料の細孔率特性を増大させるように調整した。表3は、配合物の調製、その組成及び焼成後に最終的に得られた材料の細孔率特性の詳細を示している。
【0066】
比較として、本発明による例4〜6のものと実質的に同等の細孔率特性を得るように、上述したものと同じ工程及び同じ実験手順を用いて別の配合物(比較例2c)を作った。比較例2cによる方法は、主として粗い方の直径をもつ粒子の粉末のd90と小さい方の直径をもつ粒子の粉末のd10とが接近しているため、パラメータYが過度に小さいという点で、本発明が対象とするものを作るのとは区別されている。こうして、例2cの場合のプロセスパラメータYの値が負であることは、粉末の2つの粒度分布曲線に部分的に重複があることにより説明がつく。
【0067】
【表3】

【0068】
表3に示した実験データは、例4〜6及び比較例2cにしたがって作製した一体品を構成する再結晶化SiC材料が実質的に同じ細孔率特性(合計細孔容積及びメディアン細孔径)を有することを示している。前述のとおり、例4〜6の本発明による構造体は、得られたそれぞれのMOR強度値が示すように、比較例2cのものよりも実質的に高い機械的強度を特徴としている。
【0069】
〔例7〕
同じ寸法(表1参照)をもつ一体品を得るため、上述したものと同じ工程及び実験手順を用いて別の配合物を作った。この例によれば、粗及び細SiC粉末の配合物の組成及び初期配合物に添加された有機材料の量を、ここでもまた目標多孔質材料の細孔率特性、特に多孔質構造体の細孔径を改善するように調整した。表4は、配合物の調製、その組成及び焼成後に最終的に得られた材料の細孔率特性を詳細に示している。
【0070】
比較のため、上述したものと同じ工程及び同じ実験手順を用い、ただし本発明による実施例7のものと実質的に同等の細孔率特性を得るように、別の配合物(比較例3c)を作った。比較例3cによる方法は、まず第1に粗い方の直径をもつ粒子の粉末のd90と小さい方の直径をもつ粒子の粉末のd10との差が大きいことを理由として、そして第2に目標の細孔率パラメータを得るために必要な細孔形成剤の添加量が非常に多いことを理由として、パラメータYが過度に大きいという点で、本発明が対象とするものを作製するのと異なっている(表4参照)。
【0071】
【表4】

【0072】
表4に示した実験データは、例7及び比較例3cにしたがって作製した一体品を構成する再結晶化SiC材料が実質的に同じ細孔率特性(合計細孔容積及びメディアン細孔径)を有することを示している。しかしながら、本発明による例7の構造体は、得られたそれぞれのMOR強度値が示すように、比較例3cのものよりも実質的に高い機械的強度を特徴としている。
【0073】
以上の例は、本発明による方法を適用することにより得られ、その機械的性能レベルが非常に大きく改善された多孔質構造体の優位性を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
再結晶化SiCで作られた多孔質材料を、特に粒子状物質含有ガスをフィルタ処理するための構造体の形でもって、得るための方法であり、
a)2種類のSiC粉末粒子を含み、第1の粉末の粒子は5ミクロン未満のメディアン径d50を有し、第2の粉末の粒子は5〜100ミクロンのメディアン径d50を有し、第2の粉末のメディアン径d50と第1の粉末のメディアン径d50との差が5ミクロンより大きい組成物を調製する工程、
b)有機細孔形成剤及び/又は結合剤を含む有機材料と前記組成物とを、配合物を作るのに充分な量の溶媒、例えば水の存在下で、適切な割合でもって配合し、得られた配合物を未焼結体を得るために成形する工程、
c)好ましくは、特に中間熱処理により及び/又はマイクロ波を使用することにより、有機材料を乾燥させ除去する工程、及び、
d)1600℃〜2400℃、好ましくは1800℃より高く、更には2000℃より高い焼結温度で、未焼結体を焼成して焼結多孔質体を得る工程、
を含む方法であって、第2の粉末粒子のパーセンタイル値d90と第1の粉末粒子のパーセンタイル値d10との差に初期配合物中の有機材料の体積を乗じ、SiC粒子の合計体積に対する百分率として表わしたものが、250〜1500、好ましくは300〜1200であることを特徴とする、再結晶化SiCで作られた多孔質材料を得るための方法。
【請求項2】
第2のSiC粉末粒子のパーセンタイル値d90と第1のSiC粉末粒子のパーセンタイル値d10との差が1ミクロンより大きく、より好ましくは3ミクロンより大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2のSiC粉末粒子のパーセンタイル値d90と第1のSiC粉末粒子のパーセンタイル値d10との差が20ミクロン未満、例えば15ミクロン以下、更には10ミクロン以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第1のSiC粉末粒子のメディアン径d50が3ミクロン未満、好ましくは1ミクロン未満である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
第2のSiC粉末粒子のメディアン径が5ミクロン〜60ミクロン、好ましくは5ミクロン〜20ミクロンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
第2のSiC粉末粒子のメディアン径が第1のSiC粉末粒子のメディアン径の少なくとも5倍、好ましくは第1のSiC粉末粒子のメディアン径の少なくとも10倍である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
第2の粉末粒子のメディアン径d50と第1の粉末粒子のメディアン径d50との差が8ミクロン〜30ミクロンである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第1の粉末のパーセンタイル値d10とd90との差とメディアン径d50との比率R1、すなわち、
1=(d10−d90)/d50
が0.1〜10、好ましくは0.3〜5、そして非常に好ましくは0.5〜5である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
第2の粉末のパーセンタイル値d10とd90との差とメディアン径d50との比率R2、すなわち、
2=(d10−d90)/d50
が0.1〜10、好ましくは0.3〜5、そして非常に好ましくは0.5〜5である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程b)で使用する結合剤が、熱硬化性の樹脂、特にエポキシ、シリコーン、ポリイミド又はポリエステル樹脂、あるいは好ましくはフェノール樹脂、及び場合により無機又は有機−無機タイプの結合剤と組合わされたPVA、から選択される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
SiC粒子がα型である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記未焼結体を工程b)において、プレス加工、押出し加工又は振動により、あるいは例えば多孔質の石こう又は樹脂の成形型で、加圧の有無に関わらず、成形又は注型することによって、成形する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法によって得ることができ、合計の細孔容積が35%〜65%である、再結晶化SiCで作られた多孔質材料。
【請求項14】
ディーゼル又はガソリンエンジンの排気管路内で使用可能な粒子フィルタ構造体を製造することへの、請求項13に記載の再結晶化SiCで作られた多孔質材料の使用。
【請求項15】
焼成用支持体又はセラミック点火装置を製造することへの、請求項13に記載の再結晶化SiCで作られた多孔質材料の使用。

【公表番号】特表2012−504092(P2012−504092A)
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−528406(P2011−528406)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051845
【国際公開番号】WO2010/037963
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(310009890)サン−ゴバン サントル ドゥ ルシェルシェ エ デトゥードゥ ユーロペン (24)
【Fターム(参考)】