説明

多官能性金属キレート構造を有するグリセロリン酸エステル

【課題】 病巣選択的な造影を行うためのリポソーム造影剤に適した化合物を提供する。
【解決手段】
下記一般式(I):


[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に8〜30個の炭素原子からなる置換若しくは無置換のアルキル基又は8〜30個の炭素原子からなる置換若しくは無置換のアルケニル基を示し;Lは2価の連結基を表し(ただし、Lは炭素原子、酸素原子、窒素原子、及び水素原子からなる群から選択される原子により構成され、かつLを構成する炭素原子、酸素原子、及び窒素原子からなる群から選択される原子の総数は1〜15個である);Chは3個以上の窒素原子を含むキレート形成部を示す]で表される化合物又はその塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多官能性金属キレート構造を有するグリセロリン酸エステル誘導体に関する。この化合物はリポソームの膜構成成分として利用することができ、このリポソームは造影剤として用いることができる。
【背景技術】
【0002】
非侵襲的な動脈硬化の診断法としては、主にX線血管造影法が挙げられる。しかしながら、この方法は水溶性のヨード造影剤を用いて血液の流れを造影する方法であることから、病変組織と正常組織との区別がつけにくいという問題を有しており、狭窄が50%以上進んだ病巣しか検出することができず虚血性疾患の発作が発症する前に病巣を検出することは困難である。
【0003】
近年、動脈硬化巣プラーク中に多く動態分布される造影剤を用い、核磁気共鳴トモグラフィー(MRI)を用いて疾患を検出する方法が報告されているが、例えば、ヘマトポルフィリン誘導体(特許文献1参照)は皮膚への沈着・着色の欠点が指摘されている。また、パーフルオロ側鎖を有するガドリニウム錯体(非特許文献1参照)は脂質に富んだプラークに集積するとの報告があり、脂肪肝・腎臓上皮・筋組織の腱などの生体における脂質豊富な組織、器官への集積が危惧される。
【0004】
化合物の観点からは、フォスファチジルエタノールアミン(PE)とジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)とをアミド結合した化合物が知られており(例えば、非特許文献2)、この化合物のガドリニウム錯体のリポソームに関する報告(非特許文献3)もある。しかし、この錯体は難溶解性であるためにリポソーム化の際の操作性が悪く、また、この性質により生体内での蓄積性や毒性などの問題を引き起こす可能性が危惧される。
【特許文献1】米国特許第4577636号
【非特許文献1】サーキュレーション(Circulation), 109, 2890 (2004)
【非特許文献2】ポリメリック マテリアルズ サイエンス アンド エンジニアリング(Polymeric Materials Science and Engineering), 89, 148 (2003)
【非特許文献3】インオーガニカ キミカ アクタ(Inorganica Chimica Acta), 331, 151 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、病巣選択的な造影を行うためのリポソーム造影剤に適した化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記の課題を解決すべく研究を行った結果、下記一般式(I)で表される多官能性金属キレート構造を有するグリセリンエステル化合物がMRI造影剤としてのリポソームの構成成分として優れた性質を有していることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成された。
【0007】
すなわち、本発明は、下記一般式(I):
【化1】

[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に8〜30個の炭素原子からなる置換若しくは無置換のアルキル基又は8〜30個の炭素原子からなる置換若しくは無置換のアルケニル基を示し;Lは2価の連結基を表し(ただし、Lは炭素原子、酸素原子、窒素原子、及び水素原子からなる群から選択される原子により構成され、かつLを構成する炭素原子、酸素原子、及び窒素原子からなる群から選択される原子の総数は1〜15個である);Chは3個以上の窒素原子を含むキレート形成部を示す]で表される化合物又はその塩を提供するものである。
【0008】
上記発明の好ましい態様として、上記一般式(I)において、下記一般式(II):
【化2】

(式中、p1及びp2はそれぞれ独立に1又は2の整数を示す)で表される構造をChの部分構造として含む上記化合物又はその塩が提供される。
【0009】
上記発明のより好ましい態様によれば、下記一般式(III):
【化3】

(式中、p3及びp4はそれぞれ独立に1又は2の整数を示す)で表される構造をChの部分構造として含む上記一般式(I)で表される化合物又はその塩、及び下記一般式(IV):
【化4】

(式中、p5、p6、p7、及びp8はそれぞれ独立に1又は2の整数を示す)で表される構造をChの部分構造として含む上記一般式(I)で表される化合物又はその塩が提供される。
【0010】
上記発明の好ましい態様によれば、Lを構成する炭素原子、酸素原子、及び窒素原子の総数が4〜15個である上記一般式(I)で表される化合物又はその塩が提供され、さらに好ましくは、Lを構成する炭素原子、酸素原子、及び窒素原子の総数が4〜15個であり、かつそのうちの窒素原子の個数が0又は1個である上記一般式(I)で表される化合物又はその塩が提供される。最も好ましい態様として、Lが−X−CH2CH2 (OCH2CH2)n−(nは1〜4の整数を示し、−X−は−O−又は−NH−を示す)で表される2価の連結基又は−X−CH2CH2CH2(OCH2CH2CH2)m−(mは0〜2の整数を示し、−X−は−O−又は−NH−を示す)で表される2価の連結基である上記一般式(I)で表される化合物又はその塩が提供される。
上記発明の別の好ましい態様によれば、R1及びR2がそれぞれ独立に10〜20個の炭素原子からなるアルキル基又はアルケニル基である上記一般式(I)で表される化合物又はその塩が提供される。
【0011】
また、本発明により、上記一般式(I)で表される化合物及び金属イオンからなるキレート化合物又はその塩が提供される。この発明の好ましい態様によれば、金属イオンが原子番号21-29、31、32、37-39、42-44、49、及び57-83から選択される元素の金属イオンである上記キレート化合物又はその塩;金属イオンが原子番号21-29、42、44、及び57-71から選択される常磁性元素の金属イオンである上記キレート化合物又はその塩が提供される。
【0012】
別の観点からは、本発明により、上記の化合物又はその塩を膜構成成分として含むリポソームが提供され、その好ましい態様により、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンを膜構成成分として含む上記リポソームが提供される。
さらに別の観点からは、本発明により、上記のリポソームを含むMRI造影剤が提供される。この発明の好ましい態様によれば、血管疾患の造影に用いる上記MRI造影剤;泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる上記MRI造影剤;マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影に用いる上記のMRI造影剤;マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる上記のMRI造影剤;マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる上記のMRI造影剤が提供される。
【0013】
また、本発明により上記のリポソームを含むシンチグラフィー造影剤が提供される。この発明の好ましい態様によれば、血管疾患の造影に用いる上記シンチグラフィー造影剤;泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる上記シンチグラフィー造影剤;マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影に用いる上記のシンチグラフィー造影剤;マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる上記のシンチグラフィー造影剤;マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる上記のシンチグラフィー造影剤が提供される。
【0014】
さらに、上記MRI造影剤/シンチグラフィー造影剤の製造のための上記の化合物、キレート化合物、又はそれらいずれかの塩の使用;MRI造影/シンチグラフィー造影法であって、上記の化合物、キレート化合物、又はそれらいずれかの塩を膜構成成分として含むリポソームをヒトを含む哺乳類動物に投与した後にMRI造影/シンチグラフィー造影する工程を含む方法;血管疾患の病巣の造影方法であって、上記の化合物、キレート化合物、又はそれらいずれかの塩を膜構成成分として含むリポソームをヒトを含む哺乳類動物に投与した後にMRI造影/シンチグラフィー造影する工程を含む方法が本発明により提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の化合物、キレート化合物、及びこれらいずれかの塩は、MRI造影剤又はシンチグラフィー造影剤のためのリポソームの構成脂質として利用することができ、効率よくリポソームに取り込まれる性質を有している。本発明の化合物、キレート化合物、及びこれらいずれかの塩を含むリポソームを用いてMRI造影/シンチグラフィー造影することにより血管の病巣を選択的に造影することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本明細書において、ある官能基について「置換又は無置換」又は「置換基を有していてもよい」という場合には、その官能基が1又は2以上の置換基を有する場合があることを示しているが、特に言及しない場合には、結合する置換基の個数、置換位置、及び種類は特に限定されない。ある官能基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。本明細書において、ある官能基が置換基を有する場合、置換基の例としては、ハロゲン原子(本明細書において「ハロゲン原子」という場合にはフッ素、塩素、臭素、又はヨウ素のいずれでもよい)、アルキル基(本明細書において「アルキル基」という場合には、直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらの組み合わせのいずれでもよく、環状アルキル基にはビシクロアルキル基などの多環性アルキル基を含む。アルキル部分を含む他の置換基のアルキル部分についても同様である)、アルケニル基(シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基を含む)、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アニリノ基を含む)、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキル及びアリールスルフィニル基、アルキル及びアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール及びヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基が挙げられる。
【0017】
Chはその構造中に3個以上の窒素原子を含むキレート形成部を示す。Chは直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなる構造のいずれであってもよい。Chが示すキレート形成部としては、例えば、ジエチレントリアミン五酢酸〔DTPA〕ユニット、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸〔DOTA〕ユニット、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-四酢酸〔TETA〕ユニットなどが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0018】
Chについてさらに詳細に説明すると、下記一般式(II):
【化5】

で表される構造をChの部分構造として含む場合がより好ましい。上記一般式(II)で表される部分構造に任意の置換基が付与されてChが形成されるが、置換基の個数、種類、及び置換位置は特に規定されることはない。一般式(I)中のLは一般式(II)で表され
る部分構造のいずれかの原子に直接結合する。上記一般式(II)においてp1及びp2はそれぞれ独立に1又は2の整数を示すが、ともに1である場合がより好ましい。
【0019】
また、Chが下記一般式(III):
【化6】

で表される構造、又は下記一般式(IV):
【化7】

で表される構造をChの部分構造として含むことがさらに好ましい。
【0020】
上記一般式(III)又は(IV)で表される部分構造に任意の置換基が付与されてChが形成されるが、置換基の個数、種類、及び置換位置は特に規定されない。置換基の個数は通常20個以下であり、より好ましくは15個以下であり、10個以下であることが最も好ましい。一般式(III)又は(IV)で表される部分構造は二重結合を含んでいても良い。例えば、炭素−炭素、又は炭素−酸素間の結合は、単結合であっても二重結合であってもよい。二重結合を含む場合、二重結合の位置及び個数は特に規定されないが、通常10個以下であり、5個以下であることがより好ましい。一般式(I)中のLは上記一般式(III)又は(IV)で表される部分構造のいずれかの原子に直接結合する。上記一般式(III)においてp3及びp4はそれぞれ独立に1又は2の整数を示すが、ともに1である場合がより好ましい。上記一般式(IV)においてp5、p6、p7、及びp8はそれぞれ独立に1又は2の数字を示すが、p1〜p4が全て1である場合、及びp1とp3が1であり、かつp2とp4が2である場合がより好ましい。
【0021】
Lは、炭素原子、酸素原子、窒素原子、及び水素原子からなる群から選択される原子により構成され、かつLを構成する炭素原子、酸素原子、及び窒素原子からなる群から選択される原子の総数が1〜15個である2価の連結基を表す。Lに炭素原子、酸素原子、又は窒素原子のいずれか1種又は2種の原子が含まれない場合もあるが、その場合、Lを構成する炭素原子、酸素原子、及び窒素原子からなる群から選択される原子の総数とは、Lを構成する残りの種類の原子(例えば酸素原子がLに含まれない場合には炭素原子及び窒素原子)の総数を意味する。Lを構成する炭素原子、酸素原子、及び窒素原子からなる群から選択される原子の総数は4〜15個である場合がより好ましく、より好ましくは4〜12個であり、4〜9個である場合が最も好ましい。Lを構成する窒素原子の個数は0又は1個である場合がより好ましく、1個である場合が最も好ましい。Lは直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなる構造のいずれであってもよい。Lは飽和であっても不飽和結合を含んでいてもよい。不飽和結合を含む場合、その種類、位置、及び個数は特に限定されない。
【0022】
Lが−X−CH2CH2 (OCH2CH2)n−(nは1〜4の整数を示し、−X−は−O−又は−NH−を示す)で表される2価の連結基である場合、nは1又は2である場合がより好ましく、1である場合が最も好ましい。また、−X−が−NH−である場合がより好ましい。Lが−X−CH2CH2CH2(OCH2CH2CH2)m−(mは0〜2の整数を示し、−X−は−O−又は−NH−を示す)で表される2価の連結基である場合、mは0又は1であることがより好ましい。また、−X−は−NH−である場合がより好ましい。Lが上記のいずれかの2価連結基である場合には、LのX側でCh基と結合する。Lは任意の個数の置換基を有していてもよいが、その場合においてもLは炭素原子、酸素原子、窒素原子、及び水素原子からなる群から選択される原子により構成され、かつLを構成する炭素原子、酸素原子、及び窒素原子からなる群から選択される原子の総数が1〜15個の範囲を超えることはない。
【0023】
1及びR2はそれぞれ独立に8〜30個の炭素原子からなるアルキル基又は8〜30個の炭素原子からなるアルケニル基を表す。該アルキル基又はアルケニル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらの組み合わせのいずれでもよいが、直鎖状又は分岐鎖状である場合が好ましく、直鎖状である場合が最も好ましい。該アルキル基又はアルケニル基は任意の種類及び個数の置換基を有していてもよいが、無置換である場合が好ましい。R1及びR2を構成する炭素原子の数は8〜25個である場合がより好ましく、10〜20個である場合が最も好ましい。R1又はR2のいずれか又は両方がアルケニル基を表す場合、アルケニル基に含まれる二重結合はE又はZ配置のいずれであってもよく、両者の混合物であってもよい。アルケニル基が無置換である場合にZ配置となる二重結合(シスオレフィン)の場合がより好ましい。また、アルケニル基に含まれる二重結合の位置及び個数は特に限定されないが、通常5個以下であることが好ましく、より好ましくは3個以下である。
【0024】
本発明のキレート化合物は上述の化合物及び金属イオンからなるキレート化合物である。金属イオンの種類は特に限定されないが、MRI、X線、超音波コントラスト、又はシンチグラフィーなどの造影や放射線治療の目的に適切な金属イオンとして、常磁性金属、重金属、又は放射性金属同位体の放射性金属などの金属イオンを用いることが好ましい。より具体的には、原子番号21-29、31、32、37-39、42-44、49、及び57-83から選択される元素の金属イオンが好ましい。MRI造影剤として本発明のキレート化合物を使用する場合に適切な金属イオンとしては、原子番号21-29、42、44、及び57-71から選択される元素の金属イオンが挙げられる。正のMRI造影剤の調製に用いるためにより好ましい金属は、原子番号24(Cr)、25(Mn)、26(Fe)、63(Eu)、64(Gd)、66(Dy)、67(Ho)であり、原子番号25(Mn)、26(Fe)、64(Gd)がより好ましく、特にMn(II)、Fe(III)、Gd(III)が好ましい。負のMRI造影剤の調製に用いるためにより好ましい金属は、原子番号62(Sm)、65(Tb)、66(Dy)である。
【0025】
本発明の化合物又はキレート化合物は1以上の不斉中心を有する場合があるが、この場合、不斉中心に基づく光学活性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する。純粋な形態の任意の立体異性体、任意の立体異性体の混合物、又はラセミ体などはいずれも本発明の範囲に包含される。また、本発明の化合物はオレフィン性の二重結合を1個又は2個以上有する場合があるが、その配置はE又はZのいずれであってもよく、両者の混合物として存在していてもよい。本発明の化合物は互変異性体として存在する場合もあるが、任意の互変異性体、又はそれらの混合物は本発明の範囲に包含される。さらに、本発明の化合物は塩を形成する場合があり、遊離形態の化合物又は塩の形態の化合物が水和物又は溶媒和物を形成する場合もあるが、このような場合も本発明の範囲に包含される。塩の種類は特に限定されず、酸付加塩又は塩基付加塩のいずれであってもよい。
【0026】
以下に本発明の化合物の好ましい例を示すが、本発明の化合物はこれらの例に限定されることはない。
【化8】

【0027】
【化9】

【0028】
以下に、本発明の化合物の一般的な合成法について説明するが、本発明の化合物の合成法はこれらに限定されるものではない。本発明の化合物の部分構造である長鎖脂肪酸は、通常市販されているものを使用してもよく、あるいは用途に応じて適宜合成してもよい。合成により入手する場合には、例えばRichard C. Larock著、Comprehensive organic transformations(VCH)に記載の方法により、対応するアルコールやアルキルハライド等を原料として用いることができる。
【0029】
上記の長鎖脂肪酸をグリセリン、1,3-ジヒドロキシアセトン及びそれらの誘導体などと縮合してジアシルグリセリド誘導体へと導くことができる。この際、必要な場合には保護基を用いることもできるが、この場合の保護基とは、例えば、T. W. Green & P. G. M. Wuts著、Protecting groups in organic synthesis(John Wiley & sonc, inc.)に記載のものを適宜選択して用いることができる。
【0030】
上記のジアシルグリセリド誘導体に適宜必要な連結基を結合した後に、金属配位能を有するポリアミン誘導体と連結することにより本発明の化合物を製造することができる。例えば、Bioconjugate Chem., 10, 137 (1999)や Tetrahedron Lett., 37, 4685 (1996) 、J. Chem. Soc., Perkin Trans 2, 348 (2002) 、J. Heterocycl. Chem., 37, 387 (2000) 、Synthetic Commun., 26, 2511 (1996)、又は J. Med. Chem., 47, 3629 (2004)などに記載の手法に準じて合成することができる。しかし、これらの方法は一例であり、これに限定されるものではない。
【0031】
本発明の化合物又はその塩はリポソームの膜構成成分として用いることができる。本発明の化合物又はその塩を用いてリポソームを調整する場合、本発明の化合物又はその塩の使用量は、膜構成成分の全質量に対して5から90質量%程度、好ましくは5から80質量%である。本発明の化合物は膜構成成分として1種類を用いてもよいが、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
リポソームの他の膜構成成分としては、リポソームの製造に通常用いられている脂質化合物をいずれも用いることが可能である。例えば、Biochim. Biophys. Acta, 150(4), 44 (1982)、Adv. In Lipid. Res., 16(1), 1 (1978)、RESEARCH IN LIPOSOMES (P. Machy, L. Leserman著、John Libbey EUROTEXT社)、「リポソーム」(野島、砂本、井上編、南江堂)等に記載されている。脂質化合物としてはリン脂質が好ましく、特に好ましいのはホスファチジルコリン(PC)類である。ホスファチジルコリン類の好ましい例としては、eggPC、ジミリストイルPC(DMPC)、ジパルミトイルPC(DPPC)、ジステアロイルPC(DSPC)、ジオレイルPC(DOPC)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
本発明の好ましい態様では、リポソームの膜構成成分として、ホスファチジルコリンとホスファチジルセリン(PS)を組み合せて用いることができる。ホスファチジルセリンとしては、ホスファチジルコリンの好ましい例として挙げたリン脂質と同様の脂質部位を有する化合物が挙げられる。ホスファチジルコリンとホスファチジルセリンを組み合せて用いる場合、PCとPSの好ましい使用モル比はPC:PS=90:10から10:90の間であり、さらに好ましくは、30:70から70:30の間である。
【0033】
本発明のリポソームにおける別の好ましい態様によれば、膜構成成分として、ホスファチジルコリンとホスファチジルセリンを含み、さらにリン酸ジアルキルエステルを含むリポソームが挙げられる。リン酸ジアルキルエステルのジアルキルエステルを構成する2個のアルキル基は同一であることが好ましく、それぞれのアルキル基の炭素数は6以上であり、10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。好ましいリン酸ジアルキルエステルの例としては、ジラウリルフォスフェート、ジミリスチルフォスフェート、ジセチルフォスフェート等が挙げられるが、これに限定されることはない。この態様において、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンの合計質量に対するリン酸ジアルキルエステルの好ましい使用量は1から50質量%までであり、好ましくは1から30質量%であり、さらに好ましくは1から20質量%である。
【0034】
ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、リン酸ジアルキルエステ及び本発明の化合物を膜構成成分として含むリポソームにおいて、上記成分の好ましい質量比はPC:PS:リン酸ジアルキルエステル:本発明の化合物が5〜50質量%:5〜50質量%:1〜10質量%:1〜80質量%の間で選択することができる。
本発明のリポソームの構成成分は上記4者に限定されず、他の成分を加えることができる。その例としては、コレステロール、コレステロールエステル、スフィンゴエミリン、FEBS Lett., 223, 42 (1987); Proc. Natl. Acad. Sci., USA 85, 6949 (1988)等に記載のモノシアルガングリオキシドGM1誘導体、Chem. Lett. 2145 (1989); Biochim. Biophys. Acta, 1148, 77 (1992)等に記載のグルクロン酸誘導体、Biochim. Biophys. Acta, 1029, 91 (1990); FEBS Lett. 268, 235 (1990)等に記載のポリエチレングリコール誘導体が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0035】
本発明のリポソームは、当業者が利用可能ないかなる方法で製造してもよい。製造法の例としては、先に挙げたリポソームの総説成書類の他、Ann. Rev. Biophys. Bioeng., 9, 467 (1980)、"Liposomes" (M. J. Ostro編、MARCELL DEKKER、INC.)等に記載されている。具体例としては、超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸法、カルシウム融合法、凍結融解法、又は逆相蒸発法等が挙げられるが、これに限られるものではない。本発明のリポソームのサイズは、上記の方法で作成できるサイズのいずれであっても構わないが、通常は平均が400 nm以下であり、200 nm以下が好ましい。リポソームの構造は特に限定されず、ユニラメラ又はマルチラメラなどのいずれの形態でもよい。また、リポソームの内部に適宜の薬物や他の造影剤の1種又は2種以上を配合することも可能である。
【0036】
本発明のリポソームを造影剤として用いる場合には、好ましくは非経口的に投与することができ、より好ましくは静脈内投与することができる。例えば、注射剤や点滴剤などの形態の製剤を凍結乾燥形態の粉末状組成物として提供し、用時に水又は他の適当な媒体(例えば生理食塩水、ブドウ等輸液、又は緩衝液など)に溶解ないし再懸濁して用いることができる。本発明のリポソームを造影剤として用いる場合、投与量はリポソーム中の化合物含有量が従来の造影剤の化合物含有量と同程度になるように適宜決定することが可能である。
【0037】
いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、動脈硬化又はPTCA後の再狭窄等の血管疾患においては、血管の中膜を形成する血管平滑筋細胞が異常増殖を起こすと同時に内膜に遊走し、血流路を狭くすることが知られている。正常の血管平滑筋細胞が異常増殖を始めるトリガーはまだ完全に明らかにされていないが、マクロファージの内膜への遊走と泡沫化が重要な要因であることが知られており、その後に血管平滑筋細胞がフェノタイプ変換(収縮型から合成型)を起こすことが報告されている。
【0038】
本発明のリポソームを用いると、泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋に対して規定の造影剤となる化合物を選択的に取り込ませることができる。その結果、病巣と非疾患部位とをコントラストをつけて造影することが可能である。従って、本発明の造影剤は、特に血管疾患のMRI造影に好適に使用でき、例えば、動脈硬化巣やPTCA後の再狭窄等の造影を行うことができる。
【0039】
また、例えば J. Biol. Chem., 265, 5226 (1990)に記載されているように、リン脂質よりなるリポソーム、特にPCとPSから形成されるリポソームが、スカベンジャーレセプターを介してマクロファージに集積しやすいことが知られている。従って、本発明のリポソームを使用することにより、本発明の化合物をマクロファージが局在化している組織又は疾患部位に集積させることができる。本発明のリポソームを用いると、公知技術であるサスペンジョン又はオイルエマルジョンを用いる場合に比べて、より多くの規定の化合物をマクロファージに集積させることが可能である。
【0040】
マクロファージの局在化が認められ、本発明の方法で好適に造影可能な組織としては、例えば、血管、肝臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、腎臓上皮を挙げることができる。また、ある種の疾患においては、疾患部位にはマクロファージが集積していることが知られている。こうした疾患としては、腫瘍、動脈硬化、炎症、感染等を挙げることができる。従って、本発明のリポソームを用いることにより、これらの疾患部位を特定することができる。特に、アテローム性動脈硬化病変の初期過程において、スカベンジャーレセプターを介して変性LDLを大量に取り込んだ泡沫化マクロファージが集積していることが知られており〔Am. J. Pathol., 103, 181(1981)、Annu. Rev. Biochem., 52, 223(1983)〕、このマクロファージに本発明のリポソームを集積化させて造影をすることにより、他の手段では困難な動脈硬化初期病変の位置を特定することが可能である。
【0041】
本発明のリポソームを用いた造影方法は特に限定されないが、例えば、通常のMRI造影剤を用いた造影方法と同様にして水のT1/T2緩和時間の変化を測定することにより造影を行うことができる。また、適宜、適切な金属イオンを用いることで、シンチグラフィー造影剤、X線造影剤、光像形成剤、超音波コントラスト剤としても使用することも可能である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。なお、下記の実施例中の化合物番号は上記に示した化合物例の番号に対応している。また、実施例中の化合物の構造はNMRスペクトル、及びMassスペクトルにより確認した。
【0043】
化合物1−5の合成
1,3-ジヒドロキシアセトン(2量体)3.63 gをジクロロメタン200 mLに溶解し、パルミチン酸20.5 gとジメチルアミノピリジン0.46 g、エチルジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩19.3 gを加えて、室温で1日攪拌した。反応溶液に1規定塩酸を加え、クロロホルムで2回洗浄した後、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去した後、ヘキサンを加えて得られた結晶を濾別し、ヘキサンで洗浄後、乾燥して1,3-ジヒドロキシアセトンのジエステルを20.6 g(収率90%)得た。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ: 4.74 (2H, s) 2.41 (4H, t) 1.71-1.62 (4H, m) 1.38-1.22 (48H, m) 0.88 (6H, t).
【0044】
上記エステル20.6 gをテトラヒドロフラン500 mLに溶かし、40 mLの水を加えて0℃で撹拌した。水素化ホウ素ナトリウム2.12 gを少しずつ加え、0℃のまま3時間、撹拌を続けた。飽和塩化アンモニウム溶液を加えた後、ジクロロメタンで2回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄した。硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を留去し、ヘキサンを加えて得られた結晶を濾別し、ヘキサンで洗浄後、乾燥して1,3-ジパルミトイルグリセリドを13.7 g(収率67%)得た。
1H-NMR (300MHz, CDCl3) δ: 4.22-4.05 (5H, m) 2.34 (4H, t) 1.69-1.58 (4H, m) 1.38-1.22 (48H, m) 0.88 (6H, t).
【0045】
ethylene glycol mono-2-chloroethyl ether 11.2 gとフタルイミドカリウム塩11.1 gをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)10 mLに溶かし、120℃で2時間撹拌した。放冷後、ジクロロメタンを加え、水で4回、飽和食塩水で1回洗浄し、除媒した後、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製してフタルイミド化されたアルコールを8.80 g (62%)得た。
1H-NMR (300MHz, CDCl3) δ: 7.90-7.82 (2H, m) 7.76-7.69 (2H, m) 3.92 (2H, t) 3.76 (2H, t) 3.72-3.65 (2H, m) 3.65-3.58 (2H, m) 2.30 (1H, t).
【0046】
上記のフタルイミド化されたアルコール2.88 gをジクロロメタン20 mLに溶かし、トリエチルアミン(TEA)3.62 gを加えて0℃で撹拌した。N,N-diisopropylmethylphosphoamidic chloride 3.05 mLを加え、室温で20分間撹拌した後、氷冷した飽和飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、ジクロロメタンで2回抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、除媒した。残渣にジクロロメタン80 mLを加えて溶かし、前述の1,3-ジパルミトイルグリセリド6.13 gとテトラゾール1.01 gを加えて10分撹拌した後、31%過酸化水素水を4 mL加えて15分間撹拌を続けた。飽和食塩水を加えてジクロロメタンで2回抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥後、除媒した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、リン酸トリエステル化合物を5.89 g (62%)得た。
1H-NMR (300MHz, CDCl3) δ: 7.90-7.82 (2H, m) 7.76-7.69 (2H, m) 4.78-4.68 (1H, m) 4.34-4.25 (2H, m) 4.24-4.10 (4H, m) 3.97 (2H, t) 3.74 (3H, d) 3.70 (2H, t) 2.32 (4H, t) 1.65-1.56 (4H, m) 1.33-1.22 (48H, m) 0.88 (6H, t).
【0047】
上記リン酸トリエステル化合物5.89 gを2-ブタノン60 mLに溶かし、ヨウ化ナトリウム5.01 gを加えて、20分間加熱還流した。放冷後、1規定塩酸を加えて、クロロホルム/メタノール(5/1)の混合液で2回抽出し、得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、除媒した。残渣にアセトニトリルを加え、得られた結晶を濾別した後、アセトニトリルで洗浄し、乾燥してリン酸ジエステル化合物を5.25 g (91%)得た。
1H-NMR (300MHz, CDCl3) δ: 7.88-7.81 (2H, m) 7.75-7.68 (2H, m) 4.72-4.63 (1H, m) 4.29 (2H, dd) 4.23 (2H, dd) 4.18-4.09 (2H, m) 3.91 (2H, t) 3.74 (2H, t) 3.69 (2H, bt) 2.32 (4H, t) 1.65-1.53 (4H, m) 1.33-1.22 (48H, m) 0.88 (6H, t).
【0048】
上記リン酸ジエステル化合物5.25 gをジクロロメタン60 mLに溶かし、メタノール12 mLと40%メチルアミン水溶液1.5 mLを加え、室温で1時間撹拌した後、45℃で2時間30分撹拌した。さらに40%メチルアミン水溶液0.5 mLを加えて45℃で2時間30分撹拌を続けた。溶媒を留去し、アセトニトリルを加えて得られた結晶を濾別した。結晶をアセトニトリルで洗浄後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、リン酸ジエステル化合物のアミン体を1.38 g (31%)得た。
1H-NMR (300MHz, CDCl3) δ: 4.52-4.42 (1H, m) 4.28-4.15 (4H, m) 4.08-3.98 (2H, m) 3.77-3.69 (2H, m) 3.69-3.65 (2H, m) 3.12-3.03 (2H, bs) 2.29 (4H, t) 1.65-1.53 (4H, m) 1.33-1.22 (48H, m) 0.88 (6H, t).
【0049】
ジエチレントリアミン五酢酸 二無水物0.67 gにDMF120 mLを加え、さらにトリエチルアミン1.89 gを加えて45℃で1時間撹拌した。上記リン酸ジエステル化合物のアミン体1.38 gをクロロホルム28 mLに溶かし、20分間かけて反応溶液に滴下した。そのまま45℃で40分間、撹拌を続け、水6 mLを加えて、室温で撹拌した。溶媒を留去した後、1規定塩酸を加えて、クロロホルム/メタノール(5/1)の混合液で2回抽出し、得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、除媒した。残渣にアセトニトリルを加え、得られた結晶を濾別、再度アセトニトリルで洗浄後、乾燥して化合物1−5を0.13 g (6%)得た。
化合物1−5:
Mass(MALDI-TOFF) : m/z (α-cyano-4-hydroxycinnamic acid) 1109 (M-H)
【0050】
塩化ガドリニウム(III)32 mgを1.5 mLのメタノールに溶かし、メタノール4 mLに溶かした化合物1−5(123 mg)の溶液を滴下した。水 1.5 mLを加えた後、1規定水酸化ナトリウム水溶液でpH6に調整した。生じた結晶を濾別し、少量の水で2回、アセトニトリルで2回、メタノールで1回洗浄した後、乾燥させて化合物1−5のガドリニウム錯体67 mg (47%)を得た。
【0051】
化合物2−2 の合成
2-[2-(2-chloroetoxy)ethoxy]ethanol 11.0 gとフタルイミドカリウム塩11.2 gをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)10 mLに溶かし、120℃で3時間撹拌した。放冷後、ジクロロメタンを加え、水で4回、飽和食塩水で1回洗浄し、得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、除媒し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製してフタルイミド化されたアルコールを13.9 g (83%)得た。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ: 7.90-7.82 (2H, m) 7.76-7.69 (2H, m) 3.92 (2H, t) 3.76 (2H, t) 3.70-3.59 (6H, m) 3.55-3.52 (2H, m) 2.48 (1H, t).
【0052】
上記のフタルイミド化されたアルコール2.50 gをジクロロメタン20 mLに溶かし、トリエチルアミン(TEA)2.78 gを加えて0℃で撹拌した。N,N-diisopropylmethylphosphoamidic chloride 2.30 mLを加え、室温で10分間撹拌した後、氷冷した飽和飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、ジクロロメタンで2回抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、除媒した。残渣にジクロロメタン60 mLを加えて溶かし、前述の1,3-ジパルミトイルグリセリド4.65 gとテトラゾール0.77 gを加えて30分撹拌した後、50%過酸化水素水を2 mL加えて10分間撹拌を続けた。飽和食塩水を加えてジクロロメタンで2回抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥後、除媒した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、リン酸トリエステル化合物を4.94 g (65%)得た。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ: 7.90-7.82 (2H, m) 7.76-7.69 (2H, m) 4.78-4.70 (1H, m) 4.30 (2H, dd) 4.21 (2H, ddd) 4.17-4.09 (2H, m) 3.89 (2H, t) 3.77 (3H, d) 3.73 (2H, t) 3.68-3.59 (6H, m) 2.32 (4H, t) 1.65-1.56 (4H, m) 1.33-1.22 (48H, m) 0.88 (6H, t).
【0053】
上記リン酸トリエステル化合物1.57 gを2-ブタノン15 mLに溶かし、ヨウ化ナトリウム1.26 gを加えて、1時間加熱還流した。放冷後、1規定塩酸を加えて、クロロホルム/メタノール(5/1)の混合液で2回抽出し、得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、除媒した。残渣にアセトニトリルを加え、得られた結晶を濾別した後、アセトニトリルで洗浄し、乾燥してリン酸ジエステル化合物を1.19 g (77%)得た。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ: 7.90-7.82 (2H, m) 7.76-7.69 (2H, m) 4.72-4.64 (1H, m) 4.28 (2H, dd) 4.22 (2H, dd) 4.18-4.09 (2H, m) 3.91 (2H, t) 3.76 (2H, t) 3.70-3.60 (6H, m) 2.32 (4H, t) 1.65-1.56 (4H, m) 1.33-1.22 (48H, m) 0.88 (6H, t).
【0054】
上記リン酸ジエステル化合物2.75 gをジクロロメタン30 mLに溶かし、メタノール6 mLと40%メチルアミン水溶液0.38 mLを加え、室温で1日撹拌した後、50℃で1日撹拌を続けた。溶媒を留去し、アセトニトリルを加えて得られた結晶を濾別した。結晶をアセトニトリルで洗浄後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、リン酸ジエステル化合物のアミン体を0.91 g (39%)得た。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ: 4.55-4.46 (1H, m) 4.29-4.19 (4H, m) 4.04 (2H, bt) 3.80 (2H, bt) 3.72-3.61 (6H, m) 3.11 (2H, bt) 2.32 (4H, t) 1.65-1.56 (4H, m) 1.33-1.22 (48H, m) 0.88 (6H, t).
【0055】
ジエチレントリアミン五酢酸 二無水物189 mgにDMF 30 mLを加え、さらにトリエチルアミン 0.70 mLを加えて50℃で1時間撹拌した。上記リン酸ジエステル化合物のアミン体0.39 gをクロロホルム7.5 mLに溶かし、15分間かけて反応溶液に滴下した。そのまま50℃で1時間、撹拌を続け、水1.5 mLを加えて、室温で撹拌した。溶媒を留去した後、1規定塩酸を加えて、クロロホルム/メタノール(5/1)の混合液で2回抽出し、得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、除媒した。残渣を10 mLのメタノールに溶かし、70 mLのアセトニトリルに滴下して、得られた結晶を濾別、再度アセトニトリルで洗浄後、乾燥して化合物2−2を0.41 g (71%)得た。
化合物2−2:
Mass(MALDI-TOFF) : m/z (α-cyano-4-hydroxycinnamic acid) 1153 (M-H)
【0056】
化合物2−2 196 mgを6 mLのメタノールに溶かした溶液に、3 mLのメタノールに溶かした塩化ガドリニウム(III)47 mgを滴下した。水 2 mLを加えた後、1規定水酸化ナトリウム水溶液でpH6に調整した。生じた結晶を濾別し、少量の水で2回、アセトニトリルで2回洗浄した後、乾燥させて化合物2−2のガドリニウム錯体0.18 g (78%)を得た。
【0057】
試験例1:リポソーム形成
J. Med. Chem., 25(12), 1500 (1982) に記載の方法に従い、下記に示した割合のジ・パルミトイル PC(フナコシ社製、No.1201-41-0225)、ジ・パルミトイル PS(フナコシ社製、No.1201-42-0237)を、本発明の化合物とともにナス型フラスコ内でクロロホルムに溶解して均一溶液とした後、溶媒を減圧で留去してフラスコ底面に薄膜を形成した。この薄膜を真空で乾燥後、0.9%生理食塩水(光製薬社製、No512)を適当量加え、超音波照射(Branson社製、No.3542プローブ型発振器、0.1 mW)を氷冷下5分実施することにより、均一なリポソーム分散液を得た。得られた分散液の粒径をWBCアナライザー(日本光電社製、A-1042)で測定した結果、粒子径は85から110 nmであった。また、既知の比較化合物を加えると、下記リン脂質の組成においてリポソームを形成しなかった。このように本発明の化合物は効率よく下記組成リポソームに封入することができ、造影剤のためのリポソームの構成脂質として優れた性質を有することが明らかである。

リポソーム形成最大量
PC 50nmol + PS 50nmol + 1−5のGd錯体 5 nmol
PC 50nmol + PS 50nmol + 比較化合物 0 nmol

【化10】

【0058】
試験例2:血管平滑筋細胞におけるヨード原子の取り込み量
試験例1の方法により調製した上記リポソーム製剤を国際公開WO01/82977に記載の血管平滑筋細胞とマクロファージとの混合培養系に添加し、37℃5%CO2で24時間培養した後、血管平滑筋細胞に取り込まれたヨード化合物を定量した。下記の結果から、本発明の化合物は効率よく血管平滑筋細胞に取り込ませることができ、造影剤のためのリポソームの構成脂質として優れた性質を有することが明らかである。

取り込み量
PC 50nmol + PS 50nmol + 1−5のGd錯体 5 nmol 5.6 nmol/mg protein
PC 50nmol + PS 50nmol + 比較化合物 0 nmol 0.0 nmol/mg protein
【0059】
試験例3:マウス3日間連続投与毒性試験
ICRマウス雄6週齢(日本チャールスリバー)を購入し、1週間の検疫期間の後、クリーン動物舎内(空調:へパフィルター クラス1000、室温:20℃〜24℃ 湿度:35%〜60%)で1週間馴化した。その後、MTD値を求めるため、尾静脈よりマウス血清懸濁液を投与した。マウス血清懸濁液は、生理食塩水(光製薬社製)又はグルコース溶液(大塚製薬社製)のいずれかを溶媒として投与した。次に求められたMTD値をもとに、その1/2量を3日間、尾静脈より3日間連続で投与した(n=3匹とする)。症状観察は各投与後6時間までとし、神経毒性を観察後、剖検を行ない主要臓器について所見を取った。本発明の化合物は低毒性であり、神経毒性も示さないことが確認された。従って、本発明の化合物はMRI造影剤のためのリポソームの構成脂質として優れた性質を有することが明らかである。
化合物:MTD(mg/kg);神経毒性(「−」は神経毒性陰性、「+」は神経毒性陽性を示す)
化合物1−5のGd錯体(100mg/kg):− 化合物2−2のGd錯体(50mg/kg):−

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】

[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に8〜30個の炭素原子からなる置換若しくは無置換のアルキル基又は8〜30個の炭素原子からなる置換若しくは無置換のアルケニル基を示し;Lは2価の連結基を表し(ただし、Lは炭素原子、酸素原子、窒素原子、及び水素原子からなる群から選択される原子により構成され、かつLを構成する炭素原子、酸素原子、及び窒素原子からなる群から選択される原子の総数は1〜15個である);Chは3個以上の窒素原子を含むキレート形成部を示す]で表される化合物又はその塩。
【請求項2】
下記一般式(II):
【化2】

(式中、p1及びp2はそれぞれ独立に1又は2の整数を示す)で表される構造をChの部分構造として含む請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
下記一般式(III):
【化3】

(式中、p3及びp4はそれぞれ独立に1又は2の整数を示す)で表される構造をChの部分構造として含む請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
下記一般式(IV):
【化4】

(式中、p5、p6、p7、及びp8はそれぞれ独立に1又は2の整数を示す)で表される構造をChの部分構造として含む請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項5】
Lを構成する炭素原子、酸素原子、及び窒素原子からなる群から選ばれる原子の総数が4〜15個である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項6】
Lを構成する窒素原子の個数が0又は1個である請求項5に記載の化合物又はその塩。
【請求項7】
Lが−X−CH2CH2 (OCH2CH2)n−(nは1〜4の整数を示し、−X−は−O−又は−NH−を示す)で表される2価の連結基又は−X−CH2CH2CH2(OCH2CH2CH2)m−(mは0〜2の整数を示し、−X−は−O−又は−NH−を示す)で表される2価の連結基である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項8】
1及びR2がそれぞれ独立に10〜20個の炭素原子からなる無置換アルキル基又は10〜20個の炭素原子からなる無置換アルケニル基である請求項1ないし7のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の化合物と金属イオンとからなるキレート化合物又はその塩。
【請求項10】
金属イオンが、原子番号21ないし29、31、32、37ないし39、42ないし44、49、及び57ないし83から選択される元素の金属イオンである請求項9に記載のキレート化合物又はその塩。
【請求項11】
金属イオンが原子番号21ないし29、42、44、及び57ないし71から選択される常磁性元素の金属イオンである請求項9に記載のキレート化合物又はその塩。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載の化合物又はその塩を膜構成成分として含むリポソーム。
【請求項13】
ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンを膜構成成分として含む請求項12に記載のリポソーム。
【請求項14】
請求項12又は13に記載のリポソームを含むMRI造影剤。
【請求項15】
血管疾患の造影に用いるための請求項14に記載のMRI造影剤。
【請求項16】
泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる請求項14又は15に記載のMRI造影剤。
【請求項17】
マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影に用いる請求項14ないし16のいずれか1項に記載のMRI造影剤。
【請求項18】
マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる請求項17に記載のMRI造影剤。
【請求項19】
マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる請求項17に記載のMRI造影剤。
【請求項20】
請求項12又は13に記載のリポソームを含むシンチグラフィー造影剤。
【請求項21】
血管疾患の造影に用いるための請求項20に記載のシンチグラフィー造影剤。
【請求項22】
泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる請求項20又は21に記載のシンチグラフィー造影剤。
【請求項23】
マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影に用いる請求項20ないし22のいずれか1項に記載のシンチグラフィー造影剤。
【請求項24】
マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる請求項23に記載のシンチグラフィー造影剤。
【請求項25】
マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる請求項23に記載のシンチグラフィー造影剤。

【公開番号】特開2007−153857(P2007−153857A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−355492(P2005−355492)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】