説明

多層キャパシタ及びその製造方法

【課題】Au,Ag,Cu等の低抵抗金属で内部電極が形成された多層キャパシタを提供すること。
【解決手段】第1の内部電極と、前記第1の内部電極に接続された第1の外部電極と、
前記第1の内部電極と交互に配置された第2の内部電極と、前記第2の内部電極に接続された第2の外部電極と、複数の第1の導体粒子を離隔する第1の誘電体膜と前記第1の導体粒子とを有する第1の絶縁層と、前記第1の絶縁層の少なくても一方の主面に配置され、前記第1の絶縁層より耐圧が高い第2の絶縁層とを有し、前記第1の内部電極と前記第2の内部電極の間に配置された誘電体層とを、具備する多層キャパシタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の誘電体層が積層された多層キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
キャパシタは、電子機器が発生する雑音を抑制するためのデカップリング・キャパシタ、電子デバイス間の直流電位の相違を解消するためのカップリング・キャパシタ、更にはフィルタの構成部品等として、電子機器に欠かせない部品である。近年の、電子機器の小型化には目覚しいものがあるが、このような電子機器の小型化に合わせてキャパシタの小型化への要求も高まっている。
【0003】
誘電体層(キャパシタの電極間に配置された絶縁層)をチタン酸バリウム等の強誘電体で形成したセラミックキャパシタは、小型化に適したキャパシタである。
【0004】
キャパシタを小型化すると、電極面積が小さくなる。従って、キャパシタの構造に変更を加えずに寸法を小型化すると、キャパシタの容量が小さくなってしまう。
【0005】
そこで、小型化されたセラミックキャパシタでは、複数の誘電体層と電極層を交互に積層して、電極の総面積が小さくならないようにしている。このようなセラミックキャパシタは、積層セラミックキャパシタと呼ばれている。
【0006】
積層セラミックキャパシタは、以下のような手順によって製造される。
【0007】
まず、セラミック材料にバインダー等を加えたスラリーを原料として、セラミックグリーンシートを作製する。
【0008】
次に、このセラミックグリーンシートの表面に、内部電極用の材料ペーストをスクリーン印刷する。
【0009】
次に、このセラミックグリーンシートを複数枚積層し圧着して、グリーンブロックを作製する。
【0010】
その後、このグリーンブロックを切断して、チップ片を形成する。
【0011】
次に、このチップ片を、約1300℃の高温で焼成する。
【0012】
次に、このチップ片における左右両端面に、外部電極を形成して積層セラミックキャパシタを完成する。
【0013】
上述したように、グリーンブロックを切断して形成したチップ片は、1300℃で焼成される。従って、チップ片内部に印刷された、内部電極用ペーストも1300℃の高温に曝される。
【0014】
この高温に耐えられるように、内部電極の材料には、融点が1300℃より高いニッケル(Ni)やパラジウム(Pd)が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2001−23853号公報
【特許文献2】特開2001−23862号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】今中佳彦、明渡純、「エアロゾルデポジッションによる高周波受動素子集積化技術」、セラミックス、39、pp.584−589(2004)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
等価直列抵抗(Equivalent Series Resistance; ESR)は、キャパシタの高周波特性を決める重要な素子定数である。キャパシタの等価回路は、真のキャパシタと、ESRと、ESL(Equivalent Series Inductance)の直列回路として表すことができる。従って、キャパシタの高周波特性を改善するためには、ESRを小さくすることが重要である。ここで、ESRは、主に電極の抵抗値によって決まる。
【0018】
ところで、積層セラミックキャパシタの電極材料として用いられるNiやPdは、抵抗率がCu等の低抵抗金属に比べ高い。従って、積層セラミックキャパシタの内部電極を、Cu等の低抵抗金属で形成することができれば、積層セラミックキャパシタのESRを小さくすることができる。
【0019】
Cuに並ぶ低抵抗金属としては、Au,Ag,Cuや、これらを主成分とする合金がある。しかし、これら低抵抗金属の融点は、1000℃前後である。このため、積層セラミックコンデンサの内部電極をこれら低抵抗金属で形成しようとすると、セラミックグリーンシートを焼成する際、内部電極が溶融し破壊されてしまう。故に、積層セラミックコンデンサの内部電極をCu等の低抵抗金属で形成して、ESRを低くすることは困難であった。
【0020】
そこで、本発明の目的は、Au,Ag,Cu等の低抵抗金属(これらを主成分とする合金も含む)で内部電極が形成された多層キャパシタ(誘電体層と内部電極が交互に積層されたキャパシタ)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の目的を達成するために、本多層キャパシタは、第1の内部電極と、上記第1の内部電極に接続された第1の外部電極と、上記第1の内部電極と交互に配置された第2の内部電極と、上記第2の内部電極に接続された第2の外部電極とを具備する。
【0022】
そして、本多層キャパシタは、複数の第1の導体粒子を離隔する第1の誘電体膜と上記第1の導体粒子とを有する第1の絶縁層と、上記第1の絶縁層の少なくても一方の主面に配置され、上記第1の絶縁層より耐圧が高い第2の絶縁層とを有し、上記第1の内部電極と上記第2の内部電極の間に配置された誘電体層とを具備する。
【発明の効果】
【0023】
本多層キャパシタ及びその製造方法によれば、多層キャパシタの内部電極を、Au,Ag,Cu等の低抵抗金属又はこれらを主成分とする低抵抗合金で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】酸化アルミニウムによって表面が覆われたAl粉末を原料粉末とし、エアロゾルデポジッション法によって形成された堆積膜の断面を透過電子顕微鏡によって観察した画像の特徴を説明する図面である。
【図2】誘電体膜で表面が覆われた、堆積前の導体粒子の断面構造を説明する模式図である。
【図3】酸化アルミニウムによって表面が覆われたAl粉末とチタン酸バリウム(BaTiO3)粒子の混合粉末を原料粉末とし、エアロゾルデポジッション法によって形成された堆積膜の断面を透過電子顕微鏡によって観察した画像の特徴を説明する図面である。
【図4】図3を参照して説明した堆積膜を誘電体層とするキャパシタの概要を説明する断面図である。
【図5】キャパシタの耐圧を説明する図である。
【図6】実施の形態の多層キャパシタの概要を説明する断面図である(その1)。
【図7】実施の形態の第1の絶縁層(キャピラリ膜)の構造を説明する断面図である。
【図8】実施の形態の多層キャパシタの概要を説明する断面図である(その2)。
【図9】実施の形態の多層キャパシタの概要を説明する断面図である(その3)。
【図10】実施例の多層キャパシタの概要を説明する断面図である。
【図11】実施例のキャピラリ膜の構造を説明する断面図である。
【図12】実施例の多層キャパシタの製造方法を説明する工程断面図である(その1)。
【図13】実施例の多層キャパシタの製造方法を説明する工程断面図である(その2)。
【図14】実施例の多層キャパシタの製造方法を説明する工程断面図である(その3)。
【図15】実施例の多層キャパシタの製造方法を説明する工程断面図である(その4)。
【図16】実施例の多層キャパシタの製造方法を説明する工程断面図である(その5)。
【図17】実施例の多層キャパシタの製造方法を説明する工程断面図である(その6)。
【図18】エアロゾルデポジション装置の構成を説明する図である。
【図19】実施の形態等に関する多層キャパシタのデータを纏めた表である。
【図20】比較例1の多層キャパシタの概要を説明する断面図である。
【図21】比較例2の多層キャパシタの概要を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。尚、図面が異なっても対応する部分には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0026】
エアロゾルデポジッション(Aerosol Deposition;ASD)は、室温に於ける誘電体の堆積を可能とする成膜方法である。(非特許文献1)。
【0027】
この方法では、原料粉末をガスと共に噴射して加速し、原料粉末を形成する微粒子を高速で基板(下地)に衝突させる。基板に衝突した微粒子は、互いに固着して強固な堆積層を形成する。このように、ASDでは、衝突時の衝撃によって微粒子が互いに固着する。従って、ASDによれば、焼成等の高温処理を経ずに、誘電体を成膜することができる。
【0028】
故に、ASDを用いて誘電体層を形成すれば、内部電極を高温に曝さずに多層キャパシタを作製することができる。従って、ASDによれば、内部電極をAu,Ag,Cu等の低抵抗金属で形成することが可能になる。
【0029】
―キャピラリ膜―
誘電体膜によって表面が覆われた導体粒子によって原料粉末を形成し、この原料粉末を用いて誘電体層を形成するとキャパシタの容量が極めて高くなる。この高容量誘電体層について、少し詳しく説明する。
【0030】
本発明者は、微粒子が集合した粉末をガスと共に噴射して基板に固着させる成膜方法(ASD)を種々研究してきた。その過程で、本発明者は、誘電体膜によって表面が覆われた導体粒子(例えば、表面が酸化されたAl粒子)を原料粉末として、ASDにより金属膜を形成して、その構造及び物性を調べた。
【0031】
ASDの成膜過程では、微粒子がガスによって音速以上に加速されて、基板に激しく衝突する。その時の衝撃で微粒子が基板に固着し、堆積膜が形成される。
【0032】
基板に固着した微粒子は、衝突時の衝撃によって、原形を止めないほど変形している。従って、導体粒子の表面を覆っていた誘電体膜が、衝突後も導体粒子の表面を覆ったままであるか或いは誘電体膜を突き破って金属微粒子同士が直接固着しているかは不明であった。
【0033】
この点に関し、ASDにかかわる研究者達は、衝撃時に、活性な新生面が粒子表面を覆う酸化膜等を突き破って出現し、粒子同士が固着すると考えてきた。
【0034】
図1は、酸化アルミニウムによって表面が覆われたAl粉末を、ASDによってアルミニウム箔上に固着させて堆積膜を形成し、その断面を透過電子顕微鏡によって観察した画像の特徴を表した図面である。
【0035】
堆積膜の形成に用いたAl粉末は、厚さ10〜100nmの酸化アルミニウムによって表面が覆われた平均粒径3μm±1μm(±の後の数字は標準偏差を表す)のAl粒子が集合したものである。ここで、成膜条件は、後述する実施例1のキャピラリ膜(第1の絶縁層40)と同じである(但し、原料粉末にチタン酸バリウム粒子は混合させない。)。また、Al粒子の平均粒径は、遠心分離沈降法によって測定したものである(以下の説明でも、同様である。)。
【0036】
図2は、堆積前の微粒子の断面構造を説明する模式図である。図2に示すように、原料粉末を形成する微粒子2は、導体粒子4(ここでは、Al粒子)の表面全体が誘電体6(ここでは、酸化アルミニウム)によって覆われている。ここで、微粒子2の形状は概ね球形である。
【0037】
しかし、微粒子2が基板に衝突して形成された堆積膜中では、図1に示すようにAl粒子8は大きく変形している。一方、個々のAl粒子8は分離しており、粒子間には酸化アルミニウム層10が介在している。すなわち、堆積膜中でも、Al粒子8(金属粒子)の表面全体は、酸化アルミニウム(誘電体)によって覆われている。
【0038】
ところで、酸化アルミニウム10は、毛細血管のように堆積膜中に張り巡らされ、Al粒子8を離隔している(但し、酸化アルミニウム10は、毛細管ではなく、導体粒子10の間に介在する絶縁層の連続体である。)。そこで、このように導体粒子を離隔する誘電体膜を、以後、キャピラリと呼ぶこととする。
【0039】
また、図1に示すような、導体粒子(例えば、Al粒子8)とキャピラリ(例えば、酸化アルミニウム10)によって形成された複合体を、以後、キャピラリ膜と呼ぶこととする。
【0040】
ところで、図1及び図2を参照して説明したキャピラリ膜の成膜メカニズムは、研究者達が考えてきたような、強い衝撃によって新生面が露出し、粒子同士が強固に密着するというものではない。キャピラリ膜の成膜メカニズムは、粒子コア部を形成する金属が、その表面に形成されている誘電体皮膜を破壊しない程度に塑性変形して、個々の粒子が一体化・固着するというものである。
【0041】
次に、本発明者は、このようなキャピラリ膜の電気的特性を調べた。個々のAl粒子8が絶縁性の酸化アルミニウム膜10によって隔離されている構造から予測されるように、キャピラリ膜は、抵抗値が極めて高く絶縁性であった。
【0042】
この様な結果に基づいて、本発明者は、キャピラリ膜の活用法の一つとして、キャピラリ膜がキャパシタの誘電体層(キャパシタの電極間に配置される絶縁層)として使用可能か検討することとした。そこで、本発明者は、酸化アルミニウム層で表面が覆われたAl微粒子を原料粉末として形成した上記キャピラリ膜を誘電体層とするキャパシタの単位面積当たりの容量(容量密度)を測定した。アルミニウム箔製の基板を下部電極とし、キャピラリ膜の上面に金属電極を形成して、測定試料を形成した。尚、堆積膜の厚さは、250μmである。
【0043】
測定の結果得られた容量密度は、従来のキャパシタの容量密度を超える、30μF/cm2という極めて高い値であった。例えば、チタン酸バリウムを誘電体層し、誘電体層の厚さを1μmと薄くしたセラミックキャパシタ(単層構造)の容量密度は、2.5μF/cmである。尚、容量密度は、キャパシタに印加する交流電圧の周波数が150kHzの時の値である(特に、断らない限り、以後の説明においても同じ。)。
【0044】
このように容量密度が高くなった理由は、隣接するAl粒子8同士が、極薄い酸化アルミニウム10を介して、容量的に結合しているためと考えられる。
【0045】
以上のような知見を得て、本発明者は、ASDで形成した堆積膜を、誘電体層とするキャパシタの検討を進めることとした。
【0046】
そこで、本発明者は、ASDで形成した堆積膜の容量密度を更に高くする成膜条件を種々検討した。その結果、導体粒子4の表面を覆う誘電体6が薄くなると、容量密度が高くなることが明らかになった。
【0047】
この事実は、誘電体膜(キャピラリ)によって隔離された導体粒子によって、微小なキャパシタが網の目状に形成され、その結果、キャピラリ膜の容量密度が小さくなることを示唆している。
【0048】
また、高誘電率材料で形成された微粒子(例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)粒子)を原料粉末に混合すると、堆積膜の容量密度が高なることも明らかなった。
【0049】
図3は、酸化アルミニウムによって表面が覆われたAl粒子とチタン酸バリウム(BaTiO3)微粒子の混合粉末を原料粉末とし、ASDによって形成されたキャピラリ膜の断層像の特徴を説明する図である。ここで、酸化アルミニウムの厚さは10〜100nmであり、Al粉末の粒径は3μm±1μmである。また、チタン酸バリウム微粒子の粒径は100nmである。そして、上記混合粉末に於けるチタン酸バリウムの割合は、体積比率で5%である(以下、5vol%のように表す)。尚、成膜条件の詳細は、後述する実施例1のキャピラリ膜(第1の絶縁層40)と同じである。
【0050】
測定の結果、この堆積膜の容量密度は、100μF/cmと非常に高いことが明らかになった。尚、この時の堆積膜の厚さは、10μmである。
【0051】
図3に示すように、原料粉末に混合されたチタン酸バリウム微粒子12は、Al粒子8の表面を覆う酸化アルミニウム10の連続体(キャピラリ)中に分散された状態で堆積膜(キャピラリ膜)に取り込まれている。
【0052】
チタン酸バリウムは、比誘電率が3000と極めて高い誘電体である。このような誘電体粒子が、導体粒子(Al粒子8)の間に介在する誘電体膜(キャピラリ)14中に分散されると、誘電体膜(キャピラリ)14の平均的な誘電率は増加する。このため、堆積膜(キャピラリ膜)の容量密度が、大きくなると考えられる。
【0053】
このように、キャピラリ膜を誘電体層としてキャパシタを形成すると、その容量が飛躍的に高くなる。しかし、このようなキャパシタには、耐圧が低いという問題がある。
【0054】
図4は、図3を参照して説明した堆積膜(キャピラリ膜)を誘電体層16とするキャパシタ18の概要を説明する断面図である。図4に示すように、キャパシタ18は、ASDで形成した誘電体層16と、この誘電体層16を上下から挟む上部電極20と下部電極22を有している。尚、図4には、チタン酸バリウム微粒子12が誘電体膜(キャピラリ)14に分散された堆積膜(キャピラリ膜)を、誘電体層16とするキャパシタが図示されている。
【0055】
尚、以下の説明は、チタン酸バリウム微粒子12等の誘電体粒子が分散されていない堆積膜(図1参照)を、誘電体層とするキャパシタにも共通する。
【0056】
図4に示すように、誘電体層16の大半は、導体粒子であるAl粒子8によって占められている。このため、キャパシタ18に電圧が印加されると、電界はAl粒子8の間に介在する誘電体膜(キャピラリ)14に印加される。従って、キャパシタ18の耐圧は、この誘電体膜14の特性によって決まる。
【0057】
図5は、キャパシタの耐圧を説明する図である。横軸は、キャパシタに印加される電圧である。縦軸は、キャパシタに流れる電流である。キャパシタに電圧を印加すると、微量のリーク電流24が流れる。しかし、電圧が増加していくと、ある電圧でブレイク・ダウンが起きて急激に電流が増加する。このように電流が急激に増加する電圧を、キャパシタの耐電圧26と呼ぶ。そして、耐電圧が高い場合、キャパシタの耐圧が高いという。一方、耐電圧が低い場合、キャパシタの耐圧が低いという。
【0058】
また、異なる材質又は(及び)構造を有する絶縁層を厚さを一定にして電極間に挟んで耐電圧を測定した場合、耐電圧の高い方の絶縁層は、耐電圧の低い方の絶縁層より、耐圧が高いという。一方、耐電圧の低い方の絶縁層は、耐電圧の高い方の絶縁層より、耐圧が低いという。
すなわち、絶縁層の耐圧とは、絶縁層の厚さを一定にした場合の耐電圧の大きさを表す用語である。
【0059】
さて、上述したようにキャパシタ18に印加された電圧は、略すべてAl粒子8間の薄い誘電体膜(キャピラリ)14に印加される。このため、図1又は図3を参照して説明したような堆積膜(キャピラリ膜)を誘電体層とするキャパシタでは、誘電体膜14が薄いために、ブレイク・ダウンが起やすくなっている。
【0060】
従って、キャピラリ膜を誘電体層とする多層キャパシタの耐圧は低く、高々数Vである。
【0061】
―本多層キャパシタ―
上述したように、誘電体層をキャピラリ膜で形成すれば、キャパシタの容量を高くすることができる。ここで、キャピラリ膜は、ASDによって室温で形成される絶縁層である。
【0062】
従って、多層キャパシタの誘電体層をASDで形成すれば、内部電極をAu,Ag,Cu等の低融点金属で形成することが可能になる。
【0063】
しかし、キャピラリ膜は、上述したようにブレイク・ダウンを起こしやすい。このため、キャピラリ膜を誘電体層としてキャパシタを形成すると、耐圧が低くなってしまう。
【0064】
そこで、本実施の形態では、耐圧の高い絶縁層(例えば、チタン酸バリウム層)をキャピラリ膜の表面に形成して、誘電体層とする。このようにすれば、上記絶縁層がブレイク・ダウンを抑制して、多層キャパシタの耐圧を高くする。
【0065】
図6は、本実施の形態の多層キャパシタ28の概要を説明する断面図である。
【0066】
図6に示すように、本多層キャパシタ28は、複数の第1の内部電極30と、第1の内部電極30に接続された第1の外部電極32を有している。
【0067】
また、本多層キャパシタ28は、第1の内部電極30の主面に垂直な方向35で、第1の内部電極30と交互に配置された、複数の第2の内部電極34を有している。
また、本多層キャパシタ28は、第2の内部電極34に接続された第2の外部電極36を有している。
【0068】
また、本多層キャパシタ28は、第1の内部電極30と第2の内部電極34の間に配置された誘電体層38を有している。
【0069】
この誘電体層38は、第1の絶縁層40と第2の絶縁層42を有している。
【0070】
図7は、第1の絶縁層40の構造を説明する断面図である。
【0071】
第1の絶縁層40は、複数の導体粒子29(例えば、Al粒子)と、この導体粒子を離隔する連続した第1の誘電体膜31(キャピラリ)とを有するキャピラリ膜である。
【0072】
一方、第2の絶縁層42は、第1の絶縁層40の少なくても一方の主面に形成され、第1の絶縁層40より耐圧が高い絶縁層である。第2の絶縁層42は、例えば、チタン酸バリウム層である。
【0073】
キャピラリ膜(第1の絶縁層40)及び絶縁層42は、ASDによって室温で形成することができる。従って、本多層キャパシタ28の製造には、高温熱処理を必要としない。故に、本実施の形態によれば、内部電極30,34を、Au,Ag,Cu等の低抵抗金属(又は、これらを主成分とする合金)で形成することができる。
【0074】
また、本多層キャパシタ28の誘電体層38は、キャピラリ膜(第1の絶縁層40)によって形成されている。従って、本多層キャパシタ28の容量を、誘電体層38を誘電体材料(例えば、チタン酸バリウム)だけで形成した場合より高くなる。
【0075】
更に、本多層キャパシタ28の誘電体層38は、キャピラリ膜(第1の絶縁層40)より、耐圧が高い第2の絶縁層42(例えば、チタン酸バリウム層)を有している。従って、本実施の形態によれば、多層キャパシタの耐圧を高くすることができる。
【0076】
ところで、図6に示した例では、キャピラリ膜(第1の絶縁層40)の下面に、第2の絶縁層42が形成されている。しかし、図8に示すように、キャピラリ膜(第1の絶縁層40)の上面に、第2の絶縁層42を形成してもよい。また、図9に示すように、キャピラリ膜(第1の絶縁層40)の上面及び下面の双方に、第2の絶縁層42を形成してもよい。
【実施例】
【0077】
(1)構 成
図10は、本実施例の多層キャパシタ44の概要を説明する断面図である。
【0078】
本多層キャパシタ44では、図6を参照して説明した多層キャパシタ28において、第1の絶縁層40(キャピラリ膜)と第1の外部電極32の間、又は第1の絶縁層40と第2の外部電極36の間に、第1の絶縁層40より耐圧が高い第3の絶縁層46が設けられている。ここで、第3の絶縁層46は、例えば、チタン酸バリウム層である。
【0079】
尚、第3の絶縁層46を、第1の絶縁層40(キャピラリ膜)と第1の外部電極32の間、及び第1の絶縁層40と第2の外部電極36の間の双方に設けてもよい。
【0080】
図11は、本実施例の第1の絶縁層40(キャピラリ膜)の構成を説明する断面図である。本実施例の第1の誘電体膜47(キャピラリ)は、導体粒子29(例えば、Al粒子)の間に存在する誘電体粒子49(例えば、チタン酸バリウム粒子)を有している(図11参照)。
【0081】
本多層キャパシタ44は、第1の外部電極32及び第2の外部電極36を外部回路に接続することにより、キャパシタとして動作する。
【0082】
本多層キャパシタ44によれば、第1の内部電極30と第2の内部電極34の間(又は、内部電極と外部電極の間)で起きるブレイク・ダウンだけでなく、第1の外部電極32と第2の外部電極36の間で起きるブレイク・ダウンも抑制できる。
【0083】
従って、本多層キャパシタ44によれば、図6乃至8を参照して説明した多層キャパシタ28より、耐圧が一層高くなる。
【0084】
また、上記実施の形態で説明したように、本多層キャパシタ44によれば、内部電極30,34を、Au,Ag,Cu等の低抵抗金属(これらを主成分とする低抵抗合金も含む)で形成することができる。
【0085】
また、下記「(4)特 性」で説明するように、本多層キャパシタ44の容量は、誘電体層全体をチタン酸バリウムで形成した多層キャパシタより、格段に高くなる。
【0086】
(2)製造方法
図12乃至15は、本多層キャパシタ44の製造方法を説明する工程断面図である。
【0087】
(i)第1層目の内部電極の形成工程(図12(a)及び(b)参照)
まず、ガラス基板48を用意する(図12(a)参照)。
【0088】
次に、ガラス基板48の上に、第1層目の内部電極の形成予定領域で開口するフォトレジスト膜(図示せず)を形成する。
【0089】
次に、このフォトレジスト膜及び露出したガラス基板48の表面全体に、スパッタリング法により厚さ1μmのCu膜を堆積する。その後、余分なCu膜を上記フォトレジスト膜と共に除去して、(内部電極30となる)第1層目の内部電極50を形成する(図12(b)参照)。
【0090】
(ii)第1層目のチタン酸バリウム層の形成工程(図12(c)参照)
次に、第1層目の内部電極50及び露出したガラス基板48の表面上に、厚さ5μmのチタン酸バリウム層52(第2の絶縁層42)を、ASDによって堆積する。原料粉末は、平均粒子径50nmのチタン酸バリウム粒子が集合した粉末である。
【0091】
尚、ASDによる堆積膜の形成は、下記「(3)ASDによる成膜方法」に従って実施される。以後の工程でも、同様である。
【0092】
(iii)第1層目のキャピラリ膜の形成工程(図13(a)参照)
次に、チタン酸バリウム層52の上に、第1層目のキャピラリ膜54(第1の絶縁層40)の形成予定領域で開口するフォトレジスト膜(図示せず)を形成する。
【0093】
次に、このフォトレジスト膜及びチタン酸バリウム層52の表面に、ASDによって、厚さ約50μmのキャピラリ膜を堆積する。原料粉末は、表面酸化処理の施されたアルミニウム粒子にチタン酸バリウム粒子を、5vol%(体積比)添加した混合粉末である。アルミニウム粒子の平均粒子径は、3μm±1μmである。チタン酸バリウム粒子の平均粒子径は50nmである。
【0094】
ここで、表面酸化処理とは、例えば、大気中でアルミニウム粒子を550℃で5時間、加熱する処理である(以下、同様。)。この表面酸化処理によって、アルミニウム粒子の表面全体に、自然酸化膜より厚い約5nmの酸化アルミニウムが形成される。
【0095】
その後、上記フォトレジスト膜と共に余分なキャピラリ膜を除去して、第1層目のキャピラリ膜54(第1の絶縁層40)を形成する(図13(a)参照)。
【0096】
(iv)第2層目の内部電極の形成工程(図13(b)参照)
次に、第1層目のキャピラリ膜54(第1の絶縁層40)の上で開口するフォトレジスト膜(図示せず)を形成する。
【0097】
このフォトレジスト膜をメッキマスクとして、無電解メッキを実施して厚さ1μmのCu膜を形成する。
【0098】
次に、上記フォトレジスト膜と共に余分なCu膜を除去して、第1層目のキャピラリ膜54の上に、第2層目の内部電極56を形成する(図13(b)参照)。
【0099】
(v)第2層目のチタン酸バリウム層の形成工程(図13(c)参照)
次に、キャピラリ膜54の脇に露出している第1層目のチタン酸バリウム層52(第2の絶縁層42)の表面及び第2層目の内部電極56の表面に、「(ii)第1層目のチタン酸バリウム層の形成工程」で説明した手順と同様の手順によって、第2層目のチタン酸バリウム層58(第2の絶縁層42)を形成する。
【0100】
従って、この第2層目のチタン酸バリウム層56の厚さも、第1層目のチタン酸バリウム層52と同様、5μmである。後述する第3層目のチタン酸バリウム層64の厚さも、同様に5μmである。
【0101】
(vi)第2層目のキャピラリ膜の形成工程(図14参照)
次に、「(iii)第1層目のキャピラリ膜の形成工程」と同様の手順によって、第2層目のチタン酸バリウム層58の上に、第2層目のキャピラリ膜60(第1の絶縁層40)を形成する。
【0102】
従って、第2層目のキャピラリ膜60の厚さも、第1層目のキャピラリ膜54と同様、50μmである。後述する第3層目のキャピラリ膜66の厚さも、同様に50μmである。
【0103】
(vii)第3層目の内部電極の形成工程(図15(a)参照)
次に、第2層目のキャピラリ膜60(第1の絶縁層40)の上に、上記「(iv)第2層目の内部電極の形成工程」と同様の手順によって、第3層目の内部電極62を形成する。
【0104】
従って、第3層目の内部電極の厚さも、第2層目の内部電極と同様1μmである。後述する第3層目の内部電極の厚さも、1μmである。
【0105】
(viii)第3層目のチタン酸バリウム層の形成工程(図15(b)参照)
次に、キャピラリ膜60の脇に露出しているチタン酸バリウム層58及び第3層目の内部電極62の上に、「(v)第2層目のチタン酸バリウム層の形成工程」で説明した手順に従って、第3層目のチタン酸バリウム層64(第2の絶縁層42)を形成する。
【0106】
(ix)第3層目のキャピラリ膜の形成工程(図16(a)参照)
次に、「(iii)第1層目のキャピラリ膜の形成工程」と同様の手順によって、第3層目のチタン酸バリウム層64の上に、第3層目のキャピラリ膜66を形成する。
【0107】
(x)第4層目の内部電極の形成工程(図16(b)参照)
次に、第3層目のキャピラリ膜66(第1の絶縁層40)の上に、上記「(iv)第2層目の内部電極の形成工程」と同様の手順によって、第4層目の内部電極68を形成する。
【0108】
(xi)樹脂層の形成工程(図17(a)参照)
次に、キャピラリ膜66の脇に露出しているチタン酸バリウム層64及び内部電極68の上に、ポリイミド等の樹脂層69を形成する。
【0109】
(xii)外部電極の形成工程(図17(b)参照)
次に、以上の工程により作製した構造体の両脇を、ダイサー等によって切除して、各内部電極50,56,62,68の側面を露出させる。
【0110】
次に、内部電極50,56,62,68の側面が露出した切除面に、導電層70,72を形成する。この導電層70,72は、例えば、無電解メッキによって形成することができる。或いは、上記切除面に銀ペーストを塗布して、形成してもよい。
【0111】
これら導電層70,72は、夫々、第1の外部電極32及び第2の外部電極36になる。この時、各内部電極の先端と外部電極の間隔は、50μmになる。すなわち、第3の絶縁層46の横方向の厚さは、50μmになる。
【0112】
そして、第1層目の内部電極50及び第3層目の内部電極62が、第1の外部電極32に接続され、第1の内部電極30になる。一方、第2層目の内部電極56及び第4層目の内部電極68が、第2の外部電極36に接続され、第2の内部電極34になる。
【0113】
以上の工程によって、本実施例の多層キャパシタ44が完成する。
【0114】
本製造方法を纏めると、以下のようになる。
【0115】
本製造方法では、第1の絶縁層40(キャピラリ膜54,60,66)を、ASDを用いて形成する。
【0116】
ここで、ASDは、原料粉末をガスと共に噴射する加速工程と、噴射された上記原料粉末に含まれる粒子を下地に衝突させ、上記粒子を上記下地に固着させる固着工程とを具備する成膜方法である。
【0117】
本製造方法では、第1の絶縁層40(キャピラリ膜)の形成には、第2の誘電体膜(酸化アルミニウム)によって表面が覆われた第2の導体粒子(Al粒子)を上記粒子(原料粉末を形成する粒子)とする原料粉末を使用する。
【0118】
尚、本実施例では、原料粉末が、第3の誘電体粒子(チタン酸バリウム粒子)を含んでいる。
【0119】
また、本製造方法では、第2の絶縁層42(チタン酸バリウム層52,58,64)を、上記成膜方法(ASD)を用い、誘電体粒子(チタン酸バリウム粒子)を上記粒子(原料粉末を形成する粒子)とする上記原料粉末によって形成する。
【0120】
以上のような工程により、第2の導体粒子(原料粉末中の導体粒子、本実施例ではAl粒子)が、第1の導体粒子29(キャピラリ膜中の導体粒子、本実施例では酸化アルミニウム)となる(図11参照)。
【0121】
また、第2の誘電体膜(第2の導体粒子の表面を覆う誘電体膜、本実施例では酸化アルミニウム)が、第1の誘電体膜47(キャピラリ)になる(図11参照)。
【0122】
また、第3の誘電体粒子(原料粉末中の誘電体粒子、本実施例ではチタン酸バリウム粒子)が、第1の誘電体粒子49(キャピラリ膜中の誘電体粒子)となる。
【0123】
更に、本製造方法では、キャピラリ膜と外部電極の間に配置される第3の絶縁層46が、第1の絶縁層(キャピラリ膜54,60,66)の側面に隣接する空所に、第2の絶縁層42(チタン酸バリウム層58,64)の一部として形成される。ここで、第1の絶縁層(キャピラリ膜54,60,66)の側面に隣接する空所とは、露出したチタン酸バリウム層52,58の表面上の空間である(図13(b)及び図15(a)参照)。
【0124】
尚、図13(c)及び図15(b)に於いて、チタン酸バリウム層58,64の内部に示された破線の下側の部分が、第3の絶縁層46となる。
【0125】
また、本製造方法では、第2の絶縁層42(チタン酸バリウム層52,58,64)も、上記成膜方法(ASD)によって、形成される。原料粉末は、第4の誘電体粒子(チタン酸バリウム粒子)を、上記粒子(原料粉末を形成する粒子)とする粉末である。
【0126】
尚、図6、図8、及び図9を参照して説明した、多層キャパシタの第1の絶縁体層40及び第2の絶縁体層42も、本実施例と同様に、上記ASDを用いて製造することができる。
【0127】
(3)ASDによる成膜方法
図18は、本発明者が使用してきた、エアロゾルデポジション装置74の構成を説明する図である。図18を参照して、キャピラリ膜54,60,66及びチタン酸バリウム層52,58,64の形成に使用する、エアロゾルデポジション(ASD)を説明する。
【0128】
エアロゾルデポジション装置74は、成膜室76と、排気装置78と、エアロゾル発生装置80と、ガス供給装置82を具備している。ここで、エアロゾル発生装置80は、エアロゾル発生容器84と振動器86を具備している。また、排気装置78は、ブースターポンプ98と真空ポンプ100を具備している。
【0129】
エアロゾルデポジション(ASD)は、このエアロゾルデポジション装置74を用いて、以下の手順に従って実施される。
【0130】
まず、基板96を基板ホルダ102に固定する。
【0131】
次に、成膜室76の内部を排気装置78によって排気する。
【0132】
次に、原料粉末を、図示されていない真空装置で約80度に加熱しながら、30分間真空脱気する。この前処理によって、粉末表面に吸着した水分を除去する。 次に、エアロゾル発生装置80のエアロゾル発生容器84に、上記前処理を施した原料粉末88を充填する。
【0133】
次に、エアロゾル発生装置80を排気する。排気は、エアロゾル発生装置80と排気装置78を接続する、配管104に設けられた第1のバルブ106を開いて行う。
【0134】
この時、ガス供給装置82をエアロゾル発生装置80に接続する、配管108に設けられた第2のバルブ110は、閉じられている。また、エアロゾル発生装置80を成膜室76に接続する配管90に設けられた第3のバルブ92も、閉じられている。排気終了後、第1のバルブ106は、閉じられる。
【0135】
次に、振動器86によって、エアロゾル発生容器84全体に振動を印加する。振動が加えられたエアロゾル発生容器84は、原料粉末88全体を振動させ攪拌する。
【0136】
次に、原料粉末88の攪拌を継続したまま、第2のバルブ110を開いて、ガス供給装置82からエアロゾル発生容器84に圧縮ガスを導入する。すると、原料粉末88を形成する微粒子が圧縮ガスと混合され、圧縮ガス中が浮遊し始める。このようにして、原料粉末88が、エアロゾル化(浮遊粉塵化)される。
【0137】
次に、配管90に設けたバルブ92を開いて、このエアロゾルを、スリット状のノズル94から成膜室76に配置した基板96に向かって噴射する。
【0138】
成膜室は、排気装置78によって減圧されている。このため、エアロゾル111を形成する微粒子は、音速程度の高速で基板96に向かって噴出する。ノズル94から噴出した微粒子は、基板96に衝突し、基板表面に固着する。
【0139】
以上の工程により、基板上に、堆積膜が形成される。
【0140】
(4)特 性
図19には、本実施例の多層キャパシタ等に関するデータ等を纏めた表1が記載されている。表1には、上記実施の形態に関する多層キャパシタのデータと、後述する比較例1及び比較例2に関するデータも記載されている。
【0141】
表1の第1列目には、各行に記載されたデータが表す多層キャパシタが何れの例(実施例等)に関するものであるかが記載されている。第2列目には、各多層キャパシタの誘電体層の構造が記載されている。多層キャパシタの構造は、夫々の誘電体層を形成する絶縁層の種類とその厚さによって表されている。
【0142】
第3列目には、各多層キャパシタの容量密度が記載されている。この容量密度は、誘電体層が3層積層されている場合の値である。尚、容量密度の測定周波数は、1MHzである。従って、表1に記載された値は、標準的な測定周波数150kHzにおける容量密度より小さくなっている。
【0143】
第4列目には、外部端子間に1Vを印加した場合のリーク電流密度が記載されている。第5列目には、各多層キャパシタの耐圧が記載されている。
【0144】
表1に示すように、誘電体層を全てキャピラリ膜で形成した多層キャパシタの耐圧は2Vと低い(「比較例2」の行、参照)。更に、この多層キャパシタのリーク電流密度は、10−4A/cmと大きい(詳しくは、後記(比較例2)参照。)。
【0145】
一方、キャピラリ膜(第1の絶縁層40)の上面又は下面にチタン酸バリウム層(第2の絶縁層42)を設けた多層キャパシタでは、リーク電流及び耐圧は、共に改善さている(「実施の形態(図6)」の行及び「実施の形態(図8)」の行、参照)。
【0146】
更に、キャピラリ膜(第1の絶縁層40)の上面及び下面の双方にチタン酸バリウム層(第2の絶縁層42)を設けた多層キャパシタでは、更に、リーク電流及び耐圧が改善されている(「実施の形態(図9)」の行、参照)。
【0147】
更に、外部電極とキャピラリ膜の間に、チタン酸バリウム層(第3の絶縁層46)が設けられた本実施例の多層キャパシタ44の耐圧は、30Vと著しく改善されている(「実施例」の行、参照)。同様に、リーク電流密度も、10−8A/cmと著しく改善されている。
【0148】
これら本実施例の多層キャパシタに関するデータは、誘電体層を全てチタン酸バリウム層で形成した多層キャパシタの耐圧(50V)及びリーク電流密度(10−9A/cm)に匹敵する(「比較例1」の行、参照)。
【0149】
このように、誘電体層を形成するキャピラリ膜(第1の絶縁層)の上面や下面に、チタン酸バリウム層(第2の絶縁層)を設けると、耐圧及びリーク電流が改善される。更に、外部電極と内部電極の間にチタン酸バリウム層(第3の絶縁層)を設けると、耐圧及びリーク電流が著しく改善される。
【0150】
一方、キャピラリ膜で誘電体層を形成した多層キャパシタ(比較例1以外の多層キャパシタ)の容量密度(3〜10μF/cm2)は、誘電体層を全てチタン酸バリウム層で形成した多層キャパシタ(比較例1)の容量密度(0.3μF/cm2)に比べ、著しく大きい。
【0151】
以上の結果から明らかなように、本実施例等の多層キャパシタによれば、誘電体層が耐圧の低いキャピラリ膜で形成されているにも拘わらず、耐圧が高くなる。しかも、本実施例等の多層キャパシタでは、誘電体層を全てチタン酸バリウム層で形成した多層キャパシタ(すなわち、積層セラミックコンデンサ)に比べ、容量密度が格段に大きくなる。
【0152】
(比較例1)
図20は、本比較例の多層キャパシタ112の概要を説明する断面図である。
【0153】
本多層キャパシタ112は、図6を参照して説明した多層キャパシタ28の誘電体層38全体をチタン酸バリウム層114で形成した多層キャパシタである。
【0154】
このチタン酸バリウム層は、実施例1のチタン酸バリウム層52,58,64と同様に、チタン酸バリウム粉体を原料粉末とするASDによって形成される。尚、各内部電極間に挟まれたチタン酸バリウム層の厚さは、2μmである。
【0155】
表1に示すように、本多層キャパシタ112の耐圧及びリーク電流は、夫々、50V及び10−9A/cmである。このように、本多層キャパシタ112は、極めて高い耐圧を有している。
【0156】
一方、本多層キャパシタ112の密度容量は、0.3μF/cmと低い。
【0157】
(比較例2)
図21は、本比較例の多層キャパシタ116の概要を説明する断面図である。
【0158】
本多層キャパシタ116は、図6を参照して説明した多層キャパシタ28の誘電体層38全体をキャピラリ膜118で形成した多層キャパシタである。
【0159】
このキャピラリ膜118は、実施例1のキャピラリ膜54,60,66と同様の工程により、ASDによって形成される。尚、各内部電極間に挟まれたキャピラリ膜118の厚さは、50μmである。
【0160】
表1に示すように、本多層キャパシタ116の耐圧及びリーク電流は、夫々、2V及び10−4A/cmである。このように、本多層キャパシタ116の耐圧は低く、リーク電流は大きい。
【0161】
一方、本多層キャパシタ116の密度容量は、10μF/cmと高い。
【0162】
(変形例)
また、以上の例では、成膜後のキャピラリ膜には、特段の処理は施されない。しかし、成膜後のキャピラリ膜にレーザ照射(例えば、出力10WのCOレーザもしくはYVO4レーザの照射)を施してもよい。このようなレーザ照射を施すとキャピラリ膜が緻密化し、容量が高くなる。
【0163】
また、以上の例では、キャピラリ膜形成用の原料粉末に含まれる導電性粒子(第2の導体粒子)は、アルミニウム粒子である。しかし、導電性粒子としては、チタン、タンタル、ジルコニウム、シリコン、及びマグネシウム等の弁金属や他の金属の粒子であってもよい。または、原料粉末に含まれる導電性粒子は、これらの弁金属(アルミニウムを含む)や他の金属をその成分とする合金製の粒子であってもよい。
【0164】
更に、これら導電体粒子を覆う誘電体膜(第2の誘電体膜)としては、酸化タンタル、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、二酸化珪素、窒化シリコン、窒化アルミニウム、窒化タンタル、酸化マグネシウム等の種々の誘電体を用いてもよい。
【0165】
尚、導電体粒子を覆う誘電体膜(第2の誘電体膜)の厚さとしては、10以上1000nm以下が好ましく、更に好ましくは、50nm以上500nm以下である。
【0166】
また、誘電体で覆われた導電体粒子(第2の導体粒子)と混合されて原料粉末となる誘電体粒子(第3の誘電体粒子)についても同じである。尚、この誘電体粒子の比誘電率は、上記導体粒子の酸化物の比誘電率より高いことが好ましい。例えば、上記誘電体粒子は、比誘電率が8以上の誘電体で形成されていることが好ましい。また、この上記誘電体粒子は、上記導体粒子(第2の導体粒子)より小さいことが好ましい。
【0167】
例えば、上記誘電体粒子の平均粒径は1μm以下であることが好ましい。
【0168】
以上の例では、多層キャパシタは個別部品として形成されている。しかし、本多層キャパシタは、多層配線基板内に形成してもよい。その場合には、例えば、第1層目の内部電極は、プリント基板上の銅箔によって、形成される。
【符号の説明】
【0169】
2・・・微粒子 4・・・導体粒子 6・・・誘電体
8・・・Al粒子 10・・・酸化アルミニウム
12・・・チタン酸バリウム微粒子
14・・・誘電体膜 16・・・(キャパシタの)誘電体層
18・・・キャパシタ 20・・・上部電極
22・・・下部電極 24・・・リーク電流
26・・・耐電圧 28・・・実施の形態の多層キャパシタ
29・・・導体粒子 30・・・第1の内部電極
31・・・第1の絶縁膜 32・・・第1の外部電極
34・・・第2の内部電極
35・・・第1の内部電極の主面に垂直な方向
36・・・第2の外部電極
38・・・誘電体層(実施の形態) 40・・・第1の絶縁層
42・・・第2の絶縁層 43・・・誘電体粒子
44・・・実施例の多層キャパシタ
46・・・第3の絶縁層 47・・・誘電体膜
48・・・ガラス基板 49・・・誘電体粒子
50・・・第1層目の内部電極 52・・・第1層目のチタン酸バリウム層
54・・・第1層目のキャピラリ膜 56・・・第2層目の内部電極
58・・・第2層目のチタン酸バリウム層
60・・・第2層目のキャピラリ膜 62・・・第3層目の内部電極
64・・・第3層目のチタン酸バリウム層
66・・・第3層目のキャピラリ膜 68・・・第4層目の内部電極
69・・・樹脂層
70,72・・・導電層 74・・・エアロゾルデポジション装置
76・・・成膜室 78・・・排気装置
80・・・エアロゾル発生装置 82・・・ガス供給装置
84・・・エアロゾル発生容器 86・・・振動器
88・・・原料粉末 90・・・配管
92・・・バルブ 94・・・ノズル
96・・・基板 98・・・ブースターポンプ
100・・・真空ポンプ 102・・・基板ホルダ
104・・・配管 106・・・第1のバルブ
108・・・配管 110・・・第2のバルブ
111・・・エアロゾル
112・・・比較例1の多層キャパシタ 114・・・チタン酸バリウム層
116・・・比較例2の多層キャパシタ 118・・・キャピラリ膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の内部電極と、
前記第1の内部電極に接続された第1の外部電極と、
前記第1の内部電極と交互に配置された第2の内部電極と、
前記第2の内部電極に接続された第2の外部電極と、
複数の第1の導体粒子を離隔する第1の誘電体膜と前記第1の導体粒子とを有する第1の絶縁層と、前記第1の絶縁層の少なくても一方の主面に配置され、前記第1の絶縁層より耐圧が高い第2の絶縁層とを有し、前記第1の内部電極と前記第2の内部電極の間に配置された誘電体層とを、
具備する多層キャパシタ。
【請求項2】
請求項1に記載の多層キャパシタにおいて、
前記第1の絶縁層と前記第1の外部電極の間、及び前記第1の絶縁層と前記第2の外部電極の間の何れか一方又は双方に、前記第1の絶縁層より耐圧が高い第3の絶縁層が設けられていることを、
特徴とする多層キャパシタ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の多層キャパシタにおいて、
前記第1の絶縁層が、前記第1の導体粒子の間に存在する第1の誘電体粒子を具備することを、
特徴とする多層キャパシタ。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の多層キャパシタにおいて、
前記第1の内部電極及び前記第2の内部電極が、Au,Ag,Cuからなる群から選ばれた何れかの金属又は前記金属を成分とする合金で形成されていることを、
特徴とする多層キャパシタ。
【請求項5】
第1の内部電極と、
前記第1の内部電極に接続された第1の外部電極と、
前記第1の内部電極と交互に配置された第2の内部電極と、
前記第2の内部電極に接続された第2の外部電極と、
複数の第1の導体粒子を離隔する第1の誘電体膜と前記第1の導体粒子とを有する第1の絶縁層と、前記第1の絶縁層の少なくても一方の主面に配置され、前記第1の絶縁層より耐圧が高い第2の絶縁層とを有し、前記第1の内部電極と前記第2の内部電極の間に配置された誘電体層とを具備する多層キャパシタの製造方法であって、
前記第1の絶縁層を、
原料粉末をガスと共に噴射する加速工程と、噴射された前記原料粉末に含まれる粒子を下地に衝突させ、前記粒子を前記下地に固着させる固着工程とを具備する成膜方法を用い、第2の誘電体膜によって表面が覆われた第2の導体粒子を前記粒子とする前記原料粉末によって形成し、
前記第2の絶縁層を、
前記成膜方法を用い、第2の誘電体粒子を前記粒子とする前記原料粉末によって形成し、
前記第2の導体粒子が前記第1の導体粒子となり、前記第2の誘電体膜が前記第1の誘電体膜になる、
多層キャパシタの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の多層キャパシタの製造方法において、
前記多層キャパシタが、
前記第1の絶縁層と前記第1の外部電極の間及び前記第1の絶縁層と前記第2の外部電極の間の何れか一方又は双方に、前記第1の絶縁層より耐圧が高い第3の絶縁層を具備し、
前記第3の絶縁層が、
前記第1の絶縁層の側面に隣接する空所に、前記第2の絶縁層の一部として形成されることを、
特徴とする多層キャパシタの製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の多層キャパシタの製造方法において、
前記第1の絶縁層が、前記第1の導体粒子の間に存在する第1の誘電体粒子を具備し、
前記第1の絶縁層の形成に用いられる前記原料粉末が、第3の誘電体粒子を含み、
前記第3の誘電体粒子が前記第1の誘電体粒子となることを、
特徴とする多層キャパシタの製造方法。
【請求項8】
請求項5乃至7の何れか1項に記載の多層キャパシタの製造方法において、
前記第2の絶縁層を、前記成膜方法を用い、第4の誘電体粒子を前記粒子とする前記原料粉末によって形成することを、
特徴とする多層キャパシタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−177630(P2010−177630A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21755(P2009−21755)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「ナノテク・先端部材実用化研究開発/ナノキャピラリー構造を有する高容量電解コンデンサの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】