説明

多層タンパク質フィルム、該フィルムの製造方法、ならびに該フィルムを使用した薬物送達装置および医用インプラント

多層タンパク質フィルムは、0.5μg/cm2を超える質量を有し、本質的にタンパク質からなる。薬物送達装置は、医薬活性剤をその上に担持させることができる多層タンパク質フィルムを含む。医用インプラントは、インプラント基材、およびインプラント基材表面の少なくとも一部に多層タンパク質フィルムを含む。0.5μg/cm2を超える質量を有する多層タンパク質フィルムを製造する方法は、基材を約30℃〜約95℃の温度でタンパク質溶液と接触させるステップを含み、ここでは0.5μg/cm2を超える質量を有する多層タンパク質フィルムが該基材上に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層タンパク質フィルムおよび多層タンパク質を製造する方法を対象とする。本発明はまた、医薬活性剤を担持した多層タンパク質フィルムを含む薬物送達装置、およびインプラント基材と、インプラント基材表面の少なくとも一部上の多層タンパク質フィルムとを含む医用インプラントを対象とする。
【背景技術】
【0002】
医用インプラントを改善すること、および生物、すなわち体への埋め込み時の医用インプラントの生体適合性を改善することが絶えず必要とされている。インプラント表面の特徴は、埋め込み後の表面上での初期現象に深く関連しており、これらの初期現象は、装置の適合性の決定において重要であることが知られている。生物への導入後の最初の数秒間にインプラント表面に結合するタンパク質の組成、配列、および他の特徴は、より長期の時間尺度の現象を決定し、最終的に、インプラントの生体適合性の程度に寄与すると考えられている。また、インプラント表面の特性は、表面に結合しているタンパク質の状態に影響を及ぼし、それによりその後の生物との相互作用も影響を受ける。
【0003】
典型的には、タンパク質は、タンパク質と接触した表面上に単層を形成する。例えば、Biomaterials Science、An Introduction to Materials in Medicine、第2版、B. Ratner他編、Elsevier Academic Press(2004)、245頁、表1を参照されたい。単層は、典型的には、消光型エリプソメトリー(null ellipsometry)で測定すると、2〜4nmの厚さを有する。de Feijter他、「Ellipsometry as a tool to study the adsorption of synthetic and biopolymers at the air-water interface」、Biopolymers、17:1759〜1801(1978)によると、単層の厚さは、1nm=0.12μg/cm2として質量に変換される。したがって、平面上のタンパク質単層は、典型的には、0.5μg/cm2未満であり、通常は、0.2〜0.5μg/cm2の間にある。エリプソメトリーは、通常、多層を調べるためにも同様に使用されるが、Benesch他、「The determination of thickness and surface mass density of mesothick immunoprecipitate layers by null ellipsometry and protein 125iodine labeling」、Journal of Colloid and Interface Science、249:84〜90(2002)により示されるように多層用途で使用される場合、単層の場合ほど正確ではない。また、エリプソメトリーは、平面にのみ使用することができ、インプラントによくある非平面トポグラフィーを有する表面に使用することはできない。これら2つの理由のために、本開示内の多層の寸法を特徴づけるために、表面積当たりのタンパク質質量を使用する。さらに、Xの肉眼的表面積を有する装置は、Xの10もしくは100倍の顕微鏡的表面積またはナノ表面積を有し得るので、装置上の単層の質量は、トポグラフィーおよび構造のために、表面上の単層より、見掛け上はるかに大きくなり得る。
【0004】
一般に、単層よりも厚いタンパク質の多層を表面上に形成するために、化学的リンカー(chemical linker)を使用する。例えば、Tengvall他、「Preparation of multilayer plasma protein films on silicon by EDC/NHS coupling chemistry」、Colloids and Surfaces B: Biointerfaces、28:261〜272(2003)は、フィブリノーゲン、IgG、アルブミン等の単層を重ねて連結して、多層フィルムを形成するために、エチル-ジメチル-アミノプロピルカルボジイミド/N-ヒドロキシコハク酸イミド(EDC/NHS)化合物の使用を開示している。より厚いフィルムを構築するために、ビオチンおよびストレプトアビジン、またはタンパク質および抗体などの互いに対して特異性を有する異なるタンパク質の多層も使用されてきた。EDC/NHSの使用により構築されたフィブリノーゲン多層フィルムは、骨インプラントと併用した薬物送達のため、および縫合糸に適用した場合の軟組織完全性の維持のために使用されてきた。例えば、Aspenberg他、米国特許公開第2006/0002970号および第2006/0003917号を参照されたい。FibMatフィルムと呼ばれる、Optovent AB製のSkruvcoatおよびT-Coatは、このようなフィルムを使用する市販の製品例である。化学的リンカーは、タンパク質フィルムまたはコーティングを表面、すなわちインプラント表面に結合するため、ならびにタンパク質フィルムを構成する連続層を結びつけるためにも使用されてきた。このような二重の目的のため、および多層フィルム形成に使用される他の化学的リンカーと組み合わせた基材結合のために、グルタルアルデヒド(GA)などの化学物質、およびシランカップリング剤、例えば、アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)が使用されてきた。
【0005】
しかしながら、多層タンパク質フィルムを形成するため、および/または多層タンパク質フィルムを基材に結合するための化学的リンカーの使用は、いくつかの問題を引き起こす。第1に、このような多層フィルムを製造する工程は、時間のかかる多段階手順である。例として、化学的リンカーを使用したフィブリノーゲン多層コーティングの製造は、2日間にわたり平均70段階を経ることがあり、より厚い層のためには、より多くの段階および時間が必要とされる。このような工程は、必要とされる材料および製造時間の両方の点から、このような層のコストを明らかに増加させる。第2に、化学的リンカーの使用は、埋め込み時に、追加の化学物質を生物、すなわち体の中に導入し、不適合性のリスクを増加させ、さらなる法規制調査および承認手続きを必要とする。実際、グルタルアルデヒドの供給業者であるSigma Aldrichは、グルタルアルデヒドは有毒で環境的に危険であることを示しており、一方EDCおよびAPTESは一般的に腐食性であると考えられている。さらに、化学的リンカーは、フィルムに担持された薬物と潜在的に化学的にカップリングでき、「新しい化学成分」を作り出す恐れがあるので、規制の観点から、薬物送達のための多層フィルムの使用は制限され得る。
【0006】
フィブリノーゲン、リゾチーム、およびアミロイドなどのタンパク質を物理的に操作して原線維および線維を形成しようとする試みもなされてきた。例えば、細長いタンパク質が会合してバンドを形成し、次に、それが絡み合った長いタンパク質の線維である原線維を形成する。(生体)材料表面とのタンパク質相互作用を理解しようとするために、原線維が研究されてきた。例えば、Cacciafesta他、「Human plasma fibrinogen adsorption on ultraflat titanium oxide surfaces studied with atomic force microscopy」、Langmuir、16:8167〜8175(2000)を参照されたい。より具体的には、生体材料表面の設計において、Auナノ粒子の製造のため、およびヒドロキシアパタイト成長の刺激のために、フィブリノーゲンの原線維が使用されてきた。しかしながら、このような原線維を形成する工程は、長期間かかり、および/または厳しい反応条件、例えば、約2の低pHを要する恐れがある。
【0007】
したがって、改善された多層タンパク質フィルムおよび/またはこのようなフィルムを製造する方法が所望される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許公開第2006/0002970号
【特許文献2】米国特許公開第2006/0003917号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Biomaterials Science、An Introduction to Materials in Medicine、第2版、B.Ratner他編、Elsevier Academic Press(2004)、245頁、表1
【非特許文献2】de Feijter他、「Ellipsometry as a tool to study the adsorption of synthetic and biopolymers at the air-water interface」、Biopolymers、17:1759〜1801(1978)
【非特許文献3】Benesch他、「The determination of thickness and surface mass density of mesothick immunoprecipitate layers by null ellipsometry and protein 125iodine labeling」、Journal of Colloid and Interface Science、249:84〜90(2002)
【非特許文献4】Tengvall他、「Preparation of multilayer plasma protein films on silicon by EDC/NHS coupling chemistry」、Colloids and Surfaces B: Biointerfaces、28:261〜272(2003)
【非特許文献5】Cacciafesta他、「Human plasma fibrinogen adsorption on ultraflat titanium oxide surfaces studied with atomic force microscopy」、Langmuir、16:8167〜8175(2000)
【非特許文献6】Sogawa他、Journal of Biochemistry、83(6):1783〜1787(1978)
【非特許文献7】Udenfriend、Science、178(4063):871〜872(1972)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そのため、本発明の目的は、改善された多層タンパク質フィルムおよび同フィルムを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施形態では、本発明は、0.5μg/cm2を超える質量を有し、本質的にタンパク質からなる多層タンパク質フィルムを対象とする。以下でより詳細に論じるように、本発明の多層フィルムの文脈において「本質的に〜からなる」という用語は、フィルムが、非治療性連結成分、すなわち、人体にとって異物であり、タンパク質の単層を、基質および/または互いに結合して多層フィルムを形成するため、ならびに/あるいは医薬活性剤に結合するために使用される、非治療性の化合物または物質なしで形成され、それを含んでいないことを意味する。
【0012】
別の実施形態では、本発明は、本発明による多層タンパク質フィルム、および該フィルムに担持された1つまたは複数の医薬活性剤を含む、薬物送達装置を対象とする。
【0013】
さらなる実施形態では、本発明は、インプラント基材、および該インプラント基材表面の少なくとも一部に本発明による多層タンパク質フィルムを含む、医用インプラントを対象とする。種々の材料および種々の構成のインプラント基材を使用することができる。
【0014】
本発明の追加の実施形態は、基材を、基材表面で凝集工程を開始する温度で、少なくとも所望の厚さのタンパク質フィルムに対応する容積のタンパク質溶液と接触させるステップを含み、0.5μg/cm2を超える質量を有する多層タンパク質フィルムが該基材上に形成される、0.5μg/cm2を超える質量を有する多層タンパク質フィルムを製造する方法を対象とする。凝集のための温度は、タンパク質により異なるが、典型的には30℃〜95℃の間にある。
【0015】
本発明のフィルム、装置、医用インプラント、および方法は、体への埋め込みなどのインビボ用途に望ましくない非治療化学物質を含まないフィルムを提供し、ならびに/あるいは容易に製造され、従来技術の1つもしくは複数の時間のかかるおよび/または困難な手順を避けるフィルムを提供する点で有利である。本発明の追加の利点および実施形態は、以下の詳細な説明に照らしてより十分に明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0016】
一態様では、本発明は、0.5μg/cm2を超える質量を有し、本質的にタンパク質からなる多層タンパク質フィルムを対象とする。以下でより詳細に論じるように、本発明の多層フィルムの文脈において「本質的に〜からなる」という用語は、フィルムが、非治療性連結成分、すなわち、人体にとって異物であり、タンパク質の単層を、基質および/または互いに結合して多層フィルムを形成するため、ならびに/あるいは医薬活性剤に結合するために使用される、非治療性の化合物または物質なしで形成され、それを含んでいないことを意味する。したがって、本発明による多層タンパク質フィルムは、従来使用されているEDC/NHS、APTES、およびグルタルアルデヒドリンカー物質などの連結成分を含まない。しかしながら、本質的にタンパク質からなると定義される多層タンパク質フィルムは、以下に詳細に論じるように、1つまたは複数の医薬活性剤を含み得ることを理解しなければならない。この点について、医薬活性剤をフィルム上に担持させ得ることが理解されよう。本開示中の「〜に担持される(loaded onto)」という句は、「loaded on」、「loaded into」、および「loaded in」を同様に包含している。医薬活性剤は、吸着もしくは吸収によりフィルムに担持させてもよく、ここでは該剤は多層フィルム構造の一部ではない、および/またはこのような医薬活性剤は、多層フィルム中への結合により多層フィルムに担持させてもよい。いずれの場合も、このような医薬活性剤は、治療効果のために使用され、単に連結成分として使用するのではない。したがって、医薬活性剤は、多層フィルムから分散可能もしくは送達可能であり、または多層中にまだありながら触媒的に作用している。
【0017】
医薬活性剤が多層フィルム中に結合していない一実施形態では、連結成分がその中に全く含まれない限り、したがって、フィルムが形成される基材表面に、またはフィルム中からフィルム表面まで、フィルム組成物中に連結成分が全く存在しない限り、多層フィルムは、フィルムの厚さ全体にわたって組成が均質である。
【0018】
別の実施形態では、本発明による多層タンパク質フィルムが基材表面上に設けられ、1つまたは複数の医薬活性剤が多層フィルムに担持され、かつ本発明による第2多層タンパク質が第1層の上部に設けられる。
【0019】
一実施形態では、製品は、表面上にタンパク質フィルムを有する基材、および場合により医薬活性剤(2成分系以上)を含み、一緒に販売することができるが、別々に包装してもよい。
【0020】
多層タンパク質フィルムを製造する方法は、タンパク質が表面に結合し、少なくとも所望の厚さの層に対応する容積で凝集する条件下で、タンパク質により基材の表面をインキュベートするステップを含む。一実施形態では、多層タンパク質フィルムを製造し、該フィルムに医薬活性剤を担持させる方法は、湿式化学技術、例えば、それだけに限定されないが、異なる溶液中でのインキュベーション手順、もしくはエアロゾル技術、例えば、それだけに限定されないが、エアロゾル噴霧技術、または前記技術の組合せを含む。
【0021】
本発明の多層タンパク質フィルムは、単層フィルムの厚さを超える、好ましくはエリプソメトリーにより測定した場合5nmを超える厚さ、または0.5μg/cm2を超える質量を有する。具体的な実施形態では、多層タンパク質フィルムは、質量単位で測定した場合0.5μg/cm2〜約50g/cm2の厚さを有する、または約1μg/cm2〜約50g/cm2、もしくは約1μg/cm2〜約30μg/cm2、もしくはより具体的には約1μg/cm2〜約15μg/cm2の厚さを有する。さらなる実施形態では、多層タンパク質フィルムは、約1μg/cm2〜約10μg/cm2、またはより具体的には約1.5μg/cm2〜約5μg/cm2の厚さを有する。別の実施形態では、多層タンパク質フィルムは、少なくとも約1μg/cm2、またはより具体的には少なくとも約1.2μg/cm2、または少なくとも約1.5μg/cm2の厚さを有する。
【0022】
多層タンパク質フィルムは、任意の適当なタンパク質で構成してよく、当業者は、タンパク質が、タンパク質フィルムの所望の用途に応じて選択されることを理解されよう。本明細書で論じる種々の実施形態では、タンパク質フィルムは、薬物送達装置として、および/または医用インプラント用の表面コーティングとして使用される。しかしながら、本明細書に記載のタンパク質フィルムは、本開示に照らして明らかな、他の用途も有することを理解すべきである。
【0023】
一実施形態では、タンパク質は、非免疫原性タンパク質またはヒトタンパク質を含む。ヒトタンパク質は、例えば、Human Protein Reference Database(http://www.hprd.org)に開示されている。より具体的な実施形態では、タンパク質は、ヒト血液タンパク質を含み、その例としては、それだけに限定されないが、フィブリノーゲン、アルブミン、例えば、血清アルブミン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、グロブリン、例えば、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgM)、もしくはこれらの2種以上の混合物、例えばアキレス腱の腱タンパク質、または軟骨タンパク質、例えば、コラーゲン、あるいは前記タンパク質の2種以上の混合物が挙げられる。別の実施形態では、タンパク質は、言及したタンパク質の任意の組成を含み、または実際の適用のために十分な純度を有するより具体的な任意のフィブリノーゲン組成を使用してもよい。市販のフィブリノーゲン製品、例えば、ヒトフィブリノーゲン900〜1300mg、ヒト血清アルブミン400〜700mg、およびNaCl200〜350mgからなる粉末1925〜3010mgの総量を含む、Haemocomplettan(登録商標)(CSL Behring)を使用することができる。タンパク質は、組織から精製する、または組換え技術により製造する、例えば、哺乳動物細胞、細菌、もしくはファージなどの細胞中で発現させる、または機械中で合成することができる。具体的な実施形態では、タンパク質はヒト血液タンパク質を含み、より具体的な実施形態では、タンパク質はフィブリノーゲン、より具体的にはヒトフィブリノーゲンを含む。さらなる実施形態では、タンパク質はフィブリノーゲンを含み、多層タンパク質フィルムは、約1μg/cm2〜約15μg/cm2、より具体的には約1.2μg/cm2〜約15μg/cm2の質量を有する、または少なくとも1μg/cm2、より具体的には少なくとも1.5μg/cm2の質量を有する。別の実施形態では、タンパク質の供給源は、ヒト血液、特に患者自身の血液であってよい。より具体的な実施形態では、タンパク質は、ヒト血漿および/またはヒト血清を含み、それは患者自身の血液から、または異なる患者から、またはプールから精製してもよい。獣医学的使用のための多層フィルムは、それぞれの動物のタンパク質を使用してもよいことが理解されよう。
【0024】
多層タンパク質フィルムは、薬物送達装置として使用してもよく、そこでは、送達される薬物は、例えば、フィルムの再吸収により、タンパク質自体であってもよい。具体的な実施形態では、薬物は、多層を形成するタンパク質の統合された部分または融合部分である。例えば、タンパク質は、構造的部分、および酵素的に不安定なアミノ酸配列と結合した医薬活性部分を有する融合タンパク質であってもよい。次いで、タンパク質層がインビボで分解されて、薬物が送達される。あるいは、1つまたは複数の医薬活性剤は、例えば、吸着または吸収または結合により、インビボの送達のために多層タンパク質フィルムに担持される。
【0025】
任意の多種多様な医薬活性剤を本発明の多層タンパク質フィルムに担持させてよい。具体的な実施形態では、医薬活性剤は、骨形成促進(osteoactive)薬、例えば、それだけに限定されないが、ビスホスホネートもしくはストロンチウムラネレート、増殖因子、例えば、それだけに限定されないが、骨形態形成タンパク質(BMP)、繊維芽細胞増殖因子(FGB)、インスリン様増殖因子(IGF)、上皮増殖因子(EGF)、形質転換増殖因子(TGF)、もしくは血小板由来増殖因子(PDGF)、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤(MMP-inh)、抗生物質(銀含有もしくは放出化合物などの金属化合物を含む、抗微生物化合物を含む)、またはスタチン、あるいは前記薬剤の2種以上の混合物を含む。追加の実施形態では、医薬活性剤は、1つまたは複数のテトラサイクリン、化学修飾テトラサイクリン、ヒドロキサメートサブグループのものを含む合成マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、シクロオキシゲナーゼ2特異的阻害剤を含むシクロオキシゲナーゼ阻害剤;核内因子κB阻害剤;リポキシゲナーゼ阻害剤;糖質コルチコイドを含む副腎皮質ステロイド;マクロライド系抗生物質;ヒドロキシメチルグルタリル補酵素A還元酵素阻害剤(スタチン);アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤;アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB);アプロチニン;メシル酸ガベキサート;スルファサラジン;腫瘍壊死因子αの阻害剤;および形質転換増殖因子β阻害剤を含む。
【0026】
具体的な実施形態では、医薬活性剤は、ビスホスホネートを含む。それだけに限定されないが、ゾレドロン酸、イバンドロネート、リセドロネート(risendronate)、アレンドロネート、エチドロネート、クロドロネート、チルドロネート、もしくはパミドロネート、または前記ビスホスホネートの2種以上の混合物を含む、種々のビスホスホネートが当技術分野で既知であり、本発明の多層タンパク質フィルムへの担持における使用に適している。
【0027】
本発明の一実施形態では、多層タンパク質フィルムは、基材上に形成される。上述のように、基材は、医用インプラントを構成し得るものであり、多層タンパク質フィルムは、インプラント装置の機能を改善するため、および/またはインプラントを囲む領域に薬物を送達するために使用される。医用インプラントは、例えば、整形外科、歯科、耳科、ならびに他の骨および軟組織環境で広く使用され、それだけに限定されないが、整形外科インプラント、縫合糸、カテーテル、ステント、および弁を含む心臓インプラント、人工血管、電子デバイス、脳深部刺激用電極等を含む。インプラントは、顆粒の形、例えば、骨セメント粉末に使用されるものなどの、金属またはセラミック顆粒の形であってよい。整形外科インプラントおよび歯科インプラントでは、多層タンパク質フィルムは、初期の安定性、インプラント寿命/予後、および/または機能性を改善することができる(例えば、ヒドロキシアパタイト(HA)-被覆インプラントと比較して、早い歯科インプラントの担持またはインプラントの容易な除去など)。軟組織インプラントでは、多層タンパク質フィルムは、例えば、アキレス腱などの腱では、より早く治癒させるため、または結腸吻合では潜在的に致命的な漏出を防ぐために、組織完全性を維持する、すなわち、組織崩壊を防ぐことができる。さらに、インプラントは、インビボの薬物送達にのみ適応した不活性材料であってよい。例えば、インプラントは、薬物の皮下緩効性放出として使用するための多孔性材料を含んでもよい。
【0028】
基材、例えば、医用インプラント基材は、それだけに限定されないが、金属、例えば、チタンもしくはタンタル、チタン合金、ステンレス鋼、およびCo-Cr合金などの合金、またはセラミック、高分子、ならびに高分子-金属複合材料を含む任意の適当な材料で形成してもよい。
【0029】
多層タンパク質フィルムは、所望に応じて、基材表面の全部または一部の上に設けてもよい。所望であれば、上にタンパク質フィルムを形成する前に、基材表面を処理してもよい。例えば、基材表面を、エッチング、プラズマエッチング、下塗り、サンドブラスティング、研削などに供してもよい。得られた表面は、例えば、溝、稜、隆起、毛、針などを有する、ナノ構造表面を有し得る。本発明は、基材表面トポロジーにより限定されない。表面は、粗面、多孔性、研磨されている等でもよい。一実施形態では、タンパク質フィルムを適用する前に、滑らかなインプラント表面をエッチングするまたは表面を粗くしてもよい。一実施形態では、タンパク質フィルムを形成する前に、上に無機フィルム、例えばヒドロキシアパタイトフィルムを設けることにより、基材表面はより生体適合性にされる。
【0030】
多層タンパク質フィルムを製造する工程および/または医薬活性剤を担持させる工程において、特に、タンパク質を少なくとも凝集が開始する温度に加熱し、所望の厚さまでのフィルム形成が起こるのに十分な時間、温度をそのレベル以上に維持することにより、凝集条件を様々な方法で提供してもよい。例えば、それだけに限定されないが、基材に添加する前に溶液を予熱してよく、溶液を添加する前に基材を予熱してよく、一緒に添加する前に基材および溶液の両者を予熱してよく、ならびに/あるいは基材および溶液を一緒に混合し加熱してもよい。上記例において溶液という用語は、タンパク質溶液および/または医薬活性剤溶液を指す。
【0031】
本発明の別の態様によると、0.5μg/cm2を超える質量を有する多層タンパク質フィルムを製造する方法は、基材を、基材表面でタンパク質の凝集様状態を開始する温度で、少なくとも所望の厚さのタンパク質フィルムに対応する容積のタンパク質溶液と接触させるステップを含み、0.5μg/cm2を超える質量を有する多層タンパク質フィルムが該基材上に形成される。典型的には水溶液が使用される。驚くべきことに、特定の条件下で、タンパク質溶液中で基材をインキュベートするこのステップは、多層タンパク質フィルムの形成をもたらす。理論により限定されることなく、タンパク質は、溶液の条件により粘着性となり、粘着性タンパク質は、識別不能な工程で互いにおよび表面に、結合および/または架橋すると考えられている。そのため、本方法が、従来技術の困難で時間のかかる方法を著しく改善することが明らかであろう。具体的な実施形態では、インキュベート手順によりフィルムをつける前に、標準的な洗浄手順を使用してきれいなインプラント表面を製造することができる。きれいなインプラントは、タンパク質溶液中でインキュベートされる。
【0032】
本明細書に掲げる実施例に示されるように、時間、温度、pH、イオン強度、共溶媒、およびタンパク質組成などのインキュベーションパラメータを調節することにより、所望の厚さのフィルムが製造される。したがって、基材表面で凝集工程を開始する温度および少なくとも所望の厚さのタンパク質フィルムに対応する容積、または具体的には約30℃〜約95℃、もしくはより具体的には約30℃〜約65℃の範囲で、インキュベーションが適当に行われる。温度間隔のさらなる例としては、約40℃〜約60℃(例えば、フィブリノーゲン)、約60℃〜約80℃(例えば、アルブミン)、および約65℃〜約85℃(例えば、免疫グロブリン)が挙げられる。フィルム形成は、適当な化合物の添加とともに、液体の水の温度範囲内のより低温で達成することができる。好都合には、具体的な実施形態では、インキュベーション時間は、約72時間まで、またはほぼ瞬間〜約72時間、または約5秒〜約90分、または約2分〜約50分、または約5分〜約30分、または約5分〜約15分でもよい。より具体的な実施形態では、これらの時間を使用して、約1μg/cm2を超える質量を有する多層タンパク質フィルムが形成される。
【0033】
溶液中のタンパク質濃度は変えてもよく、典型的にはより高い溶液濃度はより厚いフィルムをもたらす。しかしながら、濃度は、溶液へのタンパク質の溶解を妨げるほど高くてはならない。一実施形態では、タンパク質溶液は、約0.1mg/ml〜約300mg/ml、またはより具体的には約1mg/ml〜約100mg/ml、さらにより具体的には約1mg/ml〜約10mg/mlの量のタンパク質を含む。別の実施形態では、タンパク質溶液は、約1mg/ml〜約5mg/mlの量のタンパク質を含む。タンパク質溶液は緩衝されてよく、適当な緩衝液としては、それだけに限定されないが、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、またはリン酸緩衝液が挙げられる。より具体的な実施形態では、タンパク質溶液は、酢酸緩衝液により緩衝される。緩衝液pHは、適当には、pH4〜7の範囲、またはより具体的にはpH5〜6の範囲にある。一実施形態では、タンパク質溶液のpHは、タンパク質の等電点(pI)の付近であり、より具体的な実施形態では、タンパク質溶液のpHは、タンパク質pIのわずかに、例えば、0.1〜0.5pH単位下または上である。一実施形態では、緩衝液濃度は、典型的には、約0.1mM〜約100mM、または約1mM〜約50mM、またはより具体的には約5mM〜約30mMの範囲にあってよい。さらなる実施形態では、タンパク質溶液は、塩、例えば、それだけに限定されないが、NaClを含み、具体的な実施形態では、約0.1%w/v〜約10%w/v、またはより具体的には約0.5%w/v〜約2%w/vの濃度を有する。一実施形態では、タンパク質溶液は、生理的塩分を有する。
【0034】
好ましくは、主に有機物質を除去するために、基材表面をインキュベーション前に洗浄する。2つの洗浄方法を例示のためだけに述べるが、限定的でないことを意図している。一実施形態では、基材を超音波槽中の70%エタノール中で5分間洗浄し、MilliQ(登録商標)水中で大量にすすいだ後、水中で5分間超音波処理する。最終的に、基材を水中ですすぎ、場合により、窒素流中で乾燥させる。あるいは、基材を、2%酢酸および2%トリトンXを含む溶液中で5分間、超音波槽中でインキュベートしてもよい。基材を水中で大量にすすぎ、超音波槽中の70%エタノール中でインキュベートし、水中で大量にすすぎ、水中で5分間超音波処理する。最終的に、基材を水中ですすぎ、場合により、窒素流中で乾燥させる。
【0035】
記載の接触(インキュベーション)ステップで、エリプソメトリーにより測定すると約20〜25nmに相当する、1.2μg/cm2〜1.5μg/cm2の質量のタンパク質フィルムを容易に形成することができる。具体的な実施形態では、多層タンパク質フィルムは、少なくとも1.2μg/cm2〜少なくとも1.5μg/cm2の質量を有する。接触手順は、タンパク質溶液中で、所望の回数、繰り返してインプラント基材をインキュベートする(第1ステップで形成されるフィルムを接触させる)ことにより繰り返すことができる。一実施形態では、1〜10回のインキュベーションが行われるが、より具体的な実施形態では、1〜4回のインキュベーションが行われる。場合により、第2および/またはその後のインキュベーションステップで、新しいタンパク質溶液を使用することができる。任意の厚さの多層フィルムを調製することができ、最上多層上に多層が形成されるので、複数のインキュベーションステップから得られるフィルムを、「マルチ-多層フィルム」と呼ぶことができる。典型的には、3〜10μg/cm2の多層フィルム(または「マルチ-多層フィルム」)は、場合により、各々の接触ステップで新しいタンパク質溶液を使用して、記載の手順を3〜4回行うことにより、容易に形成することができる。このマルチ-多層フィルムの厚さは、エリプソメトリーの測定範囲外であるが、約100nmと見積もることができる。
【0036】
医薬活性剤を多層タンパク質フィルムに担持させることが望ましい場合、担持は、フィルム形成中またはその後のステップで行うことができる。フィルム形成中に活性剤を担持させるために、活性剤は、接触ステップ中タンパク質溶液中に含まれる。フィルム形成後に活性剤をフィルムに担持させる場合、上にフィルムを有する基材、すなわちインプラント基材を、例えば、フィルム形成直後、またはインプラントの使用までの任意の時点で、活性剤を含む溶液中でインキュベートする。上で詳細に論じたように、活性剤を吸着または吸収により担持させてもよく、その場合は活性剤は、非共有結合的にタンパク質フィルム上に組み込まれ、立体結合、疎水結合、水素結合、および/または静電力により保持され、あるいは活性剤を多層フィルム中に結合させてもよい。
【0037】
特定の系の具体的な特徴に応じていくらかの変動が適当であるが、医薬活性剤をタンパク質フィルムに担持させるのに適したパラメータは、一般的に以下の指針に従う。例えば、タンパク質フィルムを有する基材を、約0℃〜約95℃の温度で、少なくともほぼ瞬間、より具体的には約1分〜約72時間の間、活性剤の溶液と接触させることができる。より具体的な実施形態では、接触期間は、約1〜約60分、またはより具体的には約5〜約30分である。溶液中の活性剤の濃度は、タンパク質フィルム中の活性剤の所望の濃度に依存する。一実施形態では、溶液は、約1ng/ml〜約500mg/ml、または約0.1mg/ml〜約100mg/ml、または約0.1mg/ml〜約10mg/mlの範囲、またはより具体的には約0.1mg/ml〜約5mg/mlの範囲の活性剤濃度を有する。フィルムのタンパク質のpIならびに活性剤およびタンパク質のそれぞれの電荷を考慮して、活性剤溶液を、例えば、pH2〜10の範囲、またはより具体的にはpH2〜7の範囲、より具体的にはpH3〜5の範囲、またはpH7〜10の範囲で緩衝してもよい。適当な緩衝液としては、それだけに限定されないが、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、またはリン酸緩衝液が挙げられる。緩衝液濃度は、典型的には、約0.1mM〜約20mM、またはより具体的には約0.5mM〜約10mMの範囲にあってよい。タンパク質フィルムに担持される活性剤の量は、フィルムの厚さおよび記載の接触ステップのパラメータに依存する。
【0038】
多層中のタンパク質または活性剤の量は、様々な方法、例えば、エリプソメトリー、HPLC、質量分析法(例えば、ICP-SFMS)、同位体ラベル、またはフルオレサミン法により決定することができる。ICP-SFMSは、試料中の様々な元素および同位元素を定量化するために使用される方法である。他の成分が存在しなければ、リンの検出を使用してタンパク質フィルム中に吸収されるビスホスホネートの量を定量化することができ、硫黄を使用してタンパク質を定量化することができる。フルオレサミンは、タンパク質を標識して試料中のタンパク質の総量を定量化するために使用することができる蛍光体である。これは、ナノグラムに至るまでの少量のタンパク質量を測定することを可能にする簡単な方法である。Sogawa他、Journal of Biochemistry、83(6):1783〜1787(1978)およびUdenfriend、Science、178(4063):871〜872(1972)を参照されたい。
【0039】
本発明の一実施形態では、医薬活性剤を含むまたは含まないタンパク質フィルムを製造する方法を自動化することができる。本方法は、それだけに限定されないが、温度、濃度、pH、流速等などのパラメータを制御したフローシステムを含んでもよく、数百または数千の被覆基材を同時に製造することを可能にする。
【0040】
場合によりフィルムに担持された活性剤を含む、基材表面上のタンパク質フィルムの形成後、乾燥および包装の前に、基材をすすぎ、浸漬し、またはそのままに保ってもよい。所望に応じて、滅菌ステップを使用してもよい。本発明の一実施形態によると、被覆部分の品質管理のために、同じ工程で基準デバイスを被覆して、成分量の分析に使用する。
【0041】
本発明の種々の実施形態を以下の実施例で示す。
【実施例】
【0042】
一般的な実験手順:以下の実施例では、MilliQ(登録商標)水を、すすぎ、希釈等に使用し、これを水と呼ぶ。約16℃〜約24℃の温度範囲を有する実験室環境中で行われるインキュベーションを、室温と呼ぶ。フィブリノーゲンは、ヒトプラスミノーゲン枯渇フィブリノーゲン(Calbiochem、米国)であり、アレンドロネートは、アレンドロネート一ナトリウム三水和物(LKT Laboratories、米国)であり、14C標識アレンドロネートは、Larodan Fine Chemicals、スウェーデン製である。純チタンディスクは、ASTM B265 Grade2で、0.85cm2の表面積を有する。チタン表面は、2000Åのチタン層を有するシリコンウェハであり、これは、蒸着により調製され、エリプソメトリーにより厚さを測定する実施例で並行して使用される。
【0043】
(実施例1)
この実施例は、ビスホスホネート薬剤アレンドロネート(0.16μg/cm2)を担持したフィブリノーゲンの多層フィルム(1.5μg/cm2)を有するチタン基材の調製を示す。
【0044】
純チタンディスクを2%酢酸および2%トリトンXを含む溶液中で5分間洗浄する。基材を水中で大量にすすぎ、超音波槽中の70%エタノール中でインキュベートし、水中で大量にすすぎ、水中で5分間超音波処理する。最終的に、基材を水中ですすぎ、場合により、窒素流中で乾燥させる。
【0045】
ディスクをpH5.5で10mM酢酸緩衝液および0.9%w/v NaClに溶解した2mg/mlフィブリノーゲン溶液中でインキュベートする。インキュベーションを、50℃加熱ブロック中で10分間行った後、ディスクを水中ですすぎ、窒素流中で乾燥させる。得られるフィルム質量は、フルオレサミン法で約1.5μg/cm2、およびエリプソメトリーで約25nmと測定される。
【0046】
フィブリノーゲン多層フィルムを有するチタンディスクを、pH4で2.5mM酢酸緩衝液に溶解した0.5mg/mlアレンドロネート溶液中でインキュベートする。バイアルをロッキングテーブル上に置き、インキュベーションを室温で60分間行う。次いで、ディスクを水中ですすぎ、窒素流中で乾燥させる。14C標識アレンドロネートの使用により、フィルム中に約0.16μg/cm2のアレンドロネートが検出される。
【0047】
(実施例2)
この実施例は、ビスホスホネート薬剤ゾレドロン酸(0.18μg/cm2)を担持したフィブリノーゲンの多層フィルム(1.5μg/cm2)を有するチタン基材の調製を示す。
【0048】
純チタンディスクを実施例1のように洗浄し、フィブリノーゲンフィルムを実施例1のように調製する。フィブリノーゲン被覆チタンディスクを、pH4で2.5mM酢酸緩衝液に溶解した0.5mg/mlゾレドロン酸(LKT Laboratories、米国)溶液中でインキュベートする。インキュベーションを、傾斜下、室温で60分間行い、その後、表面を水中ですすぎ、窒素流中で乾燥させる。ICP-SFMSにより測定した場合、約0.18μg/cm2のゾレドロン酸が吸収された。
【0049】
(実施例3)
この実施例は、ビスホスホネート薬剤アレンドロネート(0.3μg/cm2)を担持した2つのフィブリノーゲンの多層フィルム(3.2μg/cm2)を有するチタン基材の調製を示す。
【0050】
純チタンディスクを実施例1に記載のように洗浄し、第1のフィブリノーゲン多層を実施例1のように調製する。実施例1に記載の多層形成工程を繰り返し、記載のように表面をすすぎ、乾燥させる。フィブリノーゲンマルチ-多層フィルムの総質量は約3.2μg/cm2である。
【0051】
マルチ-多層フィルムを有するディスクに、実施例1に記載の手順に従ってアレンドロネートを担持させると、14C標識アレンドロネートの使用により検出した場合、約0.3μg/cm2のアレンドロネートがフィルム中に吸収される。
【0052】
(実施例4)
この実施例は、4μg/cm2の多層フィブリノーゲンフィルムを有し、0.44μg/cm2のアレンドロネートを担持した、ステンレス鋼基材の調製を示す。
【0053】
0.85cm2の表面積を有するステンレス鋼(SS)ディスクを使用する。ディスクを実施例1に記載のように洗浄する。フィブリノーゲン多層を実施例1のように調製し、フルオレサミン法で約4μg/cm2のフィブリノーゲンを得る。Tiディスクと比較してSSディスク上のフィブリノーゲンの量が多いのは、表面粗さがより大きいためである。
【0054】
フィブリノーゲン被覆ステンレス鋼ディスクに、実施例1に記載の手順に従ってアレンドロネートを担持させると、14C標識アレンドロネートの使用により検出した場合、約0.44μg/cm2のアレンドロネートが得られる。
【0055】
(実施例5)
この実施例は、多層フィブリノーゲンフィルム(1.5μg/cm2)を有し、5分のインキュベーションステップを使用してアレンドロネート(0.16μg/cm2)を担持した、チタン基材の調製を示す。
【0056】
水中でのすすぎの後にディスクを乾燥させないことを除いては、実施例1に記載の手順に従って、フィブリノーゲン多層フィルムを有するチタンディスクを調製する。その後、ディスクをpH4で2.5mM酢酸緩衝液に溶解した0.5mg/mlアレンドロネート溶液中で、室温で5分間インキュベートする。ディスクを水中ですすぎ、窒素流中で乾燥させる。14C標識アレンドロネートの使用により、フィルム中に約0.16μg/cm2のアレンドロネートが検出される。
【0057】
(実施例6)
この実施例は、混合したフィブリノーゲンおよびアレンドロネートのインキュベーションで調製したアレンドロネート(0.12μg/cm2)を含むフィブリノーゲンの多層フィルムを有するチタン基材の調製を示す。
【0058】
チタンディスクを実施例1のように洗浄する。ディスクをpH4で10mM酢酸緩衝液および0.9%w/v NaClに溶解した2mg/mlフィブリノーゲンおよび0.5mg/mlアレンドロネートを含むフィブリノーゲンおよびアレンドロネート溶液中でインキュベートする。インキュベーションを、50℃加熱ブロック中で10分間行った後、表面を水中ですすぎ、窒素流中で乾燥させる。14C標識アレンドロネートの使用により、フィルム中に約0.12μg/cm2のアレンドロネートが検出される。
【0059】
(実施例7)
この実施例は、55℃のインキュベーション温度で調製したフィブリノーゲンの多層フィルムを有するチタン基材の調製を示す。
【0060】
チタン表面を実施例1のように洗浄する。表面をpH5.5で10mM酢酸緩衝液および0.9%w/v NaClに溶解した2mg/mlフィブリノーゲン溶液中でインキュベートする。インキュベーションを、55℃加熱ブロック中で10分間行った後、表面を水中ですすぎ、窒素流中で乾燥させる。得られるフィルム厚さは、エリプソメトリーで測定した場合約26nmである。
【0061】
(実施例8)
この実施例は、より高濃度のアレンドロネート(2.3μg/cm2)を担持したフィブリノーゲンの多層フィルム(1.5μg/cm2)を有するチタン基材の調製を示す。
【0062】
水中でのすすぎの後にディスクを乾燥させないことを除いては、実施例1のように、チタンディスクを洗浄し、フィブリノーゲン多層を調製する。その後、ディスクをpH4で2.5mM酢酸緩衝液に溶解した5mg/mlアレンドロネート溶液中で、室温で5分間インキュベートする。ディスクを水中ですすぎ、窒素流中で乾燥させる。14C標識アレンドロネートの使用により、フィルム中に約2.3μg/cm2のアレンドロネートが検出される。
【0063】
(実施例9)
この実施例は、ビスホスホネート薬剤アレンドロネート(0.29μg/cm2)を担持したヒト血清アルブミン(HSA)の多層フィルム(50nm)を有するチタン基材の調製を示す。
【0064】
純チタンディスクを実施例1のように洗浄する。ディスクをpH5.3で10mM酢酸緩衝液および3.0%w/v NaClに溶解した2mg/ml HSA(Sigma Aldrich、米国)溶液中でインキュベートする。インキュベーションを、70℃加熱ブロック中で10分間行った後、ディスクを水中ですすぎ、窒素流中で乾燥させる。得られるフィルム厚さは、エリプソメトリーで約50nmと測定される。
【0065】
アルブミン多層フィルムを有するチタンディスクを、pH4で2.5mM酢酸緩衝液に溶解した0.5mg/mlアレンドロネート溶液中でインキュベートする。ディスクを室温で10分間インキュベートした後、ディスクを水中ですすぎ、窒素流中で乾燥させる。14C標識アレンドロネートの使用により、フィルム中に約0.29μg/cm2のアレンドロネートが検出される。
【0066】
(実施例10)
この実施例は、ビスホスホネート薬剤アレンドロネート(0.29μg/cm2)を担持した免疫グロブリンG(IgG)の多層フィルム(40nm)を有するチタン基材の調製を示す。
【0067】
純チタンディスクを実施例1のように洗浄する。ディスクをpH4.3で10mM酢酸緩衝液および1.2%w/v NaClに溶解した2mg/ml IgG(Octapharma、スイス)溶液中でインキュベートする。インキュベーションを、75℃加熱ブロック中で10分間行った後、表面を水中ですすぎ、窒素流中で乾燥させる。得られるフィルム厚さは、エリプソメトリーで約40nmと測定される。IgG多層フィルムを有するチタンディスクを、pH4で2.5mM酢酸緩衝液に溶解した0.5mg/mlアレンドロネート溶液中でインキュベートする。ディスクを室温で10分間インキュベートした後、ディスクを水中ですすぎ、窒素流中で乾燥させる。14C標識アレンドロネートの使用により、フィルム中に約0.29μg/cm2のアレンドロネートが検出される。
【0068】
(実施例11)
この実施例は、抗生物質ゲンタマイシンを担持したフィブリノーゲンの多層フィルム(26nm)を有するチタン基材の調製を示す。
【0069】
純チタンディスクを実施例1のように洗浄する。ディスクを、pH5.3で10mM酢酸緩衝液および0.9%w/v HClに溶解した2mg/mlフィブリノーゲン溶液中でインキュベートする。インキュベーションを、50℃加熱ブロック中で10分間行った後、ディスクを水中ですすぎ、窒素流中で乾燥させる。得られるフィルム厚さは、エリプソメトリーで測定した場合約26nmである。
【0070】
フィブリノーゲン多層フィルムを有するチタンディスクを、水に溶解した10mg/mlゲンタマイシン(Sigma Aldrich、米国)溶液中、室温で60分間インキュベートする。次いで、ディスクの抗菌活性を、1ml当たり108コロニー形成単位の黄色ブドウ球菌(S.Aureus)(ATCC、米国)を含む寒天平板を使用して、拡散感受性試験で測定する。ディスクは、最初の24時間以内に約40μg/cm2〜約80μg/cm2のゲンタマイシンを放出し、阻止帯は、連続平板移送試験(serial plate transfer test)を使用して48時間まで検出可能である。
【0071】
(実施例12)
この実施例は、ビスホスホネート薬剤アレンドロネート(0.19μg/cm2)を担持したHaemocomplettan(登録商標)の多層フィルム(27nm)を有するチタン基材の調製を示す。
【0072】
純チタンディスクを実施例1のように洗浄する。ディスクを、pH5.5で10mM酢酸緩衝液および0.9%w/v NaClに溶解した2mg/ml Haemocomplettan(登録商標)(CSL Behring、米国)溶液中でインキュベートする。インキュベーションを、50℃加熱ブロック中で20分間行った後、ディスクを水中ですすぎ、窒素流中で乾燥させる。得られるフィルム厚さは、エリプソメトリーで約27nmと測定される。
【0073】
Haemocomplettan(登録商標)多層フィルムを有するチタンディスクを、pH4で2.5mM酢酸緩衝液に溶解した0.5mg/mlアレンドロネート溶液中でインキュベートする。ディスクを室温で5分間インキュベートした後、ディスクを水に浸漬し、窒素流中で乾燥させる。14C標識アレンドロネートの使用により、フィルム中に約0.19μg/cm2のアレンドロネートが検出される。
【0074】
本明細書に記載する具体的な実施例および実施形態は、本質的に単に代表的なものに過ぎず、特許請求の範囲により定義される本発明を限定することを意図していない。さらなる実施形態および実施例、ならびにそれらの利点は、本明細書に照らして当業者に明らかであろうし、本請求の発明の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本質的にタンパク質からなる、0.5μg/cm2を超える質量を有する多層タンパク質フィルム。
【請求項2】
約1μg/cm2〜約50g/cm2の質量を有する、請求項1に記載の多層タンパク質フィルム。
【請求項3】
約1μg/cm2〜約30μg/cm2の厚さを有する、請求項1に記載の多層タンパク質フィルム。
【請求項4】
前記タンパク質が、非免疫原性タンパク質またはヒトタンパク質を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の多層タンパク質フィルム。
【請求項5】
前記タンパク質が、血液タンパク質、腱タンパク質、もしくは軟骨タンパク質、またはこれらのタンパク質の2種以上の混合物を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の多層タンパク質フィルム。
【請求項6】
前記タンパク質が、フィブリノーゲン、アルブミン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、グロブリン、もしくはコラーゲン、またはこれらのタンパク質の2種以上の混合物を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の多層タンパク質フィルム。
【請求項7】
前記タンパク質が、フィブリノーゲンを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の多層タンパク質フィルム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の多層タンパク質フィルムを含む、薬物送達装置。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載の多層タンパク質フィルム、および前記フィルムに担持された医薬活性剤を含む薬物送達装置。
【請求項10】
前記医薬活性剤が、ビスホスホネート、骨形成タンパク質、抗生物質、もしくはスタチン、またはこれらの薬剤の2種以上の混合物を含む、請求項9に記載の薬物送達装置。
【請求項11】
前記医薬活性剤が、ビスホスホネートを含む、請求項10に記載の薬物送達装置。
【請求項12】
前記ビスホスホネートが、ゾレドロン酸、イバンドロネート、リセドロネート、アレンドロネート、エチドロネート、クロドロネート、チルドロネート、もしくはパミドロネート、またはこれらのビスホスホネートの2種以上の混合物を含む、請求項11に記載の薬物送達装置。
【請求項13】
インプラント基材、および前記インプラント基材表面の少なくとも一部に請求項1から6のいずれか一項に記載の多層タンパク質フィルムを含む、医用インプラント。
【請求項14】
前記インプラント基材が、チタン、チタン合金、ステンレス鋼、Co-Cr合金、タンタル、セラミック、高分子、または高分子-金属複合材料で形成される、請求項13に記載の医用インプラント。
【請求項15】
前記フィルムが、約1μg/cm2〜約30μg/cm2の質量を有する、請求項13または14に記載の医用インプラント。
【請求項16】
前記タンパク質が、血液タンパク質、腱タンパク質、もしくは軟骨タンパク質、またはこれらのタンパク質の2種以上の混合物を含む、請求項13から15のいずれか一項に記載の医用インプラント。
【請求項17】
前記タンパク質が、フィブリノーゲン、アルブミン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、グロブリン、もしくはコラーゲン、またはこれらのタンパク質の2種以上の混合物を含む、請求項13から15のいずれか一項に記載の医用インプラント。
【請求項18】
前記タンパク質が、フィブリノーゲンを含む、請求項13から15のいずれか一項に記載の医用インプラント。
【請求項19】
医薬活性剤が、前記フィルムに担持される、請求項13から18のいずれか一項に記載の医用インプラント。
【請求項20】
前記医薬活性剤が、ビスホスホネート、骨形成タンパク質、抗生物質、もしくはスタチン、またはこれらの薬剤の2種以上の混合物を含む、請求項19に記載の医用インプラント。
【請求項21】
前記医薬活性剤が、ビスホスホネートを含む、請求項19に記載の医用インプラント。
【請求項22】
インプラント基材、および前記インプラント基材表面の少なくとも一部に約1μg/cm2〜約15μg/cm2の厚さを有し、本質的にフィブリノーゲンからなる多層タンパク質フィルムを含む、医用インプラント。
【請求項23】
ビスホスホネートが、前記フィルムに担持される、請求項22に記載の医用インプラント。
【請求項24】
基材を約30℃〜約95℃の温度でタンパク質溶液と接触させるステップを含み、0.5μg/cm2を超える質量を有する多層タンパク質フィルムが前記基材上に形成される、0.5μg/cm2を超える厚さを有する多層タンパク質フィルムを製造する方法。
【請求項25】
前記基材を約30℃〜約65℃の温度で前記タンパク質溶液と接触させ、約1μg/cm2を超える厚さを有する多層タンパク質フィルムが前記基材上に形成される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記タンパク質溶液が、pH4〜7に緩衝される、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
前記タンパク質溶液が、約0.1〜10%w/vのNaCl濃度を有する、請求項24から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記多層タンパク質フィルムがその上に形成された前記基材を、約30℃〜約65℃の温度でタンパク質溶液と接触させ、前記多層タンパク質フィルムの厚さを増加させる、請求項24から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
医薬活性剤が、前記フィルムに担持される、請求項24から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記接触ステップで前記タンパク質溶液中に前記医薬活性剤を含めることにより、前記医薬活性剤が前記フィルムに担持される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記多層タンパク質フィルムがその上に形成された前記基材を、前記医薬活性剤の溶液と接触させることにより、前記医薬活性剤が前記フィルムに担持される、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記多層タンパク質フィルムがその上に形成された前記基材を、約0℃〜約95℃の温度で前記医薬活性剤の溶液と接触させる、請求項31に記載の方法。

【公表番号】特表2012−528149(P2012−528149A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513013(P2012−513013)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【国際出願番号】PCT/SE2010/050560
【国際公開番号】WO2010/138062
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(511286610)アドビオ・アーベー (1)
【Fターム(参考)】