説明

多層フィルムおよび映像表示装置

【課題】基板に対する貼付必要領域42の位置決めを、特別な位置決め手段を形成することなく、簡易な方法で、かつ、高精度に行う。作業時のハンドリング性を良好にする。
【解決手段】貼付必要領域42の外側に貼付不要領域43が形成される。貼付不要領域43は、その全部または一部が位置決め用領域として機能する。位置決め用領域は、多層フィルム41の一部の構成そのものからなる簡素な構成であり、貼付不要領域43の形成と同時に形成することが可能で、特別な位置決め手段を別途形成する必要がなくなる。また、貼付不要領域43の存在により、貼付必要領域42に触れることなく貼合までの作業や持ち運びが可能となる。さらに、貼付必要領域42の外形に沿った第1のカットと、位置決め用領域の外形に沿った第2のカットとは同時に行われているので、貼付必要領域42と位置決め用領域との相対的な位置関係を高精度に保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後工程で剥離される不要なフィルム(例えばカバーフィルム)を含む複数のフィルムが重なってなる多層フィルムと、その多層フィルムを用いてホログラム光学素子が作製された基板を有する映像表示装置とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、多層フィルムを基板上に貼合する方法としては、例えば特許文献1に開示された方法がある。この方法は、基板幅の多層フィルムからカバーフィルムを剥離し、残りのフィルムを基板に貼付した後、切断・分離刃により基板間でフィルムを切断するものである。この方法では、フィルムを基板に貼付した後に切断するので、貼合時の基板に対するフィルムの位置決めが不要である。
【0003】
しかし、この方法は、基板全面、すなわち、基板におけるフィルムを貼合する面の基板端面までフィルムを貼付する場合しか用いることができない。なぜならば、貼合面の途中でフィルムを切断すると、基板に直接刃があたって基板に傷がつく可能性があり、好ましくないからである。
【0004】
したがって、基板上の所定領域にフィルムを貼付する場合は、フィルムを基板に貼付する前に、フィルムを所定の外形形状に予め切断しておくことが望ましい。ただし、この場合は、基板に対してフィルムを位置決めする位置決め手段が必要となる。この点、例えば特許文献2は、そのような位置決め手段を用いてフィルムを位置決めする方法を開示している。
【0005】
より具体的には、特許文献2では、多層フィルムをローラで搬送しながら、この多層フィルムに対し、貼付が必要な領域の外形に沿って切断手段で切り込みを入れ、その後、カバーフィルムを剥離し、残りのフィルムをローラにて基板に貼合するようにしている。ローラによる搬送では、厳密な位置決めが難しいので、多層フィルムに予め検出用ホログラムを位置決め手段として記録しておき、その検出用ホログラムからの検出信号を利用して貼付が必要な領域と基板とを位置決めしている。
【0006】
【特許文献1】特許第2970745号公報
【特許文献2】特開平10−109811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献2の方法では、多層フィルムに検出用ホログラムという特殊な位置決め手段を別途形成しておく必要があり、不便である。このため、それに代わる方法として、例えば特別な位置決め手段を形成せずに、貼付が必要な領域の外形に沿ってフィルムを切断した後、その貼付必要領域の外形そのものを位置決めに利用してフィルムを基板に貼付する手法が考えられる。しかし、この手法では、フィルムを切断してから最終的な貼合まで、切断したフィルム(貼付必要領域)を直接持ち運びに使用しないといけないため、ハンドリング性が悪くなるとともに、フィルムと基板とを高精度に位置決めすることが困難となる。
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、基板に対する位置決めを、特別な位置決め手段を別途形成することなく、簡易な方法で、かつ、高精度に行うことができるとともに、作業時のハンドリング性を良好にすることができる多層フィルムと、その多層フィルムを用いてホログラム光学素子が作製された基板を有する映像表示装置とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の多層フィルムは、複数のフィルムが重なってなり、後工程で不要なフィルムが剥離されて残りのフィルムが基板に貼合される多層フィルムであって、基板への貼付が必要な貼付必要領域と、貼付必要領域の外側に形成され、基板への貼付が不要な貼付不要領域とを有しており、貼付不要領域は、貼付必要領域の基板への貼付の際の位置決めに使用される位置決め用領域を有しており、貼付必要領域の外形に沿った第1のカットと、位置決め用領域の外形に沿った第2のカットとが同時に行われていることを特徴としている。
【0010】
上記の構成によれば、貼付必要領域の外側に、位置決め用領域を含む貼付不要領域が形成されているので、位置決め用領域を利用して、貼付必要領域と基板との位置決めを行うことができる。なお、位置決め用領域は、貼付不要領域の全体であってもよいし、貼付不要領域の一部の領域であってもよいし、また、その両方であってもよい。
【0011】
つまり、例えば、位置決め用領域が貼付不要領域の全体である場合には、貼付不要領域の外周の一部を、基板との位置関係が一義的に定まる位置決め部材に沿わせることにより、基板に対して貼付必要領域を位置決めすることができる。一方、例えば、位置決め用領域が貼付不要領域の一部の領域である場合には、基板との位置関係が一義的に定まる位置決めピンを位置決め用領域に突き刺すことにより、基板に対して貼付必要領域を位置決めすることができる。
【0012】
ここで、貼付必要領域も貼付不要領域(位置決め用領域を含む)も、多層フィルムの一部の構成そのものからなる簡素な構成である。特に位置決め用領域は、貼付不要領域の形成と同時に形成することが可能なものであり、従来の位置検出用ホログラムのような特別な作製方法や作製工程を要して作製されるものではない。したがって、特別な位置決め手段(位置検出用ホログラム)を別途形成することなく、簡易な方法で位置決めを行うことができる。
【0013】
また、貼付必要領域に触れることなく(貼付不要領域を持って)貼合までの作業や持ち運びが可能となるので、作業性やハンドリング性が良好となり、特に貼付必要領域の面積が小さい場合に有効となる。
【0014】
また、貼付必要領域の外形に沿った第1のカットと、位置決め用領域の外形に沿った第2のカットとが同時に行われているので、第1のカットと第2のカットとが別々に行われる場合に比べて、貼付必要領域と位置決め用領域との相対的な位置関係を高精度に保つことができる。これにより、位置決め用領域を利用して基板と貼付必要領域との位置決めを高精度に行うことができる。
【0015】
本発明の多層フィルムにおいて、上記第1のカットは、多層フィルムの一部の層をカットするハーフカットであることが望ましい。貼付必要領域の外形に沿った第1のカットをハーフカットとすると、完全にカットされていない層が残るので、多層フィルムに強度(こし)を残すことができ、多層フィルムの後工程でのハンドリングが容易となる。
【0016】
本発明の多層フィルムにおいて、上記第2のカットは、多層フィルムの全層をカットするフルカットであり、かつ、フィルム原版からの多層フィルムの切り出しを兼ねていてもよい。この場合、位置決め用領域の形成とフィルム原版からの多層フィルムの切り出しとを同時に行って、効率的に作業を行うことができる。
【0017】
本発明の多層フィルムにおいて、上記第2のカットは、多層フィルムの全層をカットするフルカットであり、かつ、貼付不要領域の一部に打ち抜き部を形成するための打ち抜きであり、上記打ち抜き部の外周の一部は、未切断の第1止め部を介して残りの貼付不要領域とつながっていてもよい。このように、打ち抜き部の外周の一部が第1止め部を介して残りの貼付不要領域とつながっていれば、打ち抜き部の形成時(位置決め用領域のフルカット時)に、フィルムの抜きカスが発生しない(打ち抜かれる部分が第1止め部を介して貼付不要領域に引っ付いたままとなる)。これにより、ゴミの発生および切断刃への抜きカスの詰まりを防止することができる。
【0018】
本発明の多層フィルムにおいて、貼付不要領域は、貼付必要領域の基板への貼付後、剥離除去されることが望ましい。このように貼付不要領域が最終的に剥離除去されれば、貼付不要領域による貼付必要領域への悪影響はない。
【0019】
本発明の多層フィルムにおいて、貼付必要領域の外形は、一辺の長さが3mm以上20mm以下の略四角形状であってもよい。この場合、貼付必要領域の面積が非常に小さいので、貼付必要領域の外側に位置する位置決め用領域を利用して位置決めすることによる上述の効果が非常に大きなものとなる。
【0020】
本発明の多層フィルムにおいて、貼付必要領域の外周の一部は、未切断の第2止め部を介して貼付不要領域とつながっていることが望ましい。このようにすることで、後工程での不要なフィルムの剥離時に、貼付不要領域および貼付必要領域の両者において、密着力の最も弱い界面以外の界面で不要なフィルムのみを剥離することが可能となる。つまり、貼付必要領域において、不要なフィルムとその下層のフィルムとの界面以外に密着力の最も弱い界面が存在していても、その密着力の最も弱い界面より上層のフィルムが第2止め部を介して貼付不要領域とつながっていることになる。これにより、貼付不要領域から貼付必要領域にまたがって不要なフィルムを剥離する際でも、貼付必要領域にて、不要なフィルムの下層のフィルムがそれに引っ張られて密着力の最も弱い界面で剥離されるのを防止することができる。
【0021】
本発明の多層フィルムは、特定の界面でのフィルムの剥離を促す剥離開始部を有しており、上記剥離開始部は、略短冊状の該多層フィルムの2つの短辺の少なくとも一方側に設けられており、一方の短辺側の剥離開始部の平面形状は、他方の短辺側の平面形状と異なっていることが望ましい。
【0022】
このように、略短冊状の多層フィルムの2つの短辺の少なくとも一方側に剥離開始部が設けられていれば、長辺側に設けられている場合に比べて、下層のフィルムにしわをよせることなく特定の界面でフィルムを剥離することが容易となる。また、一方の短辺側の剥離開始部の平面形状は、他方の短辺側の平面形状(他方の短辺側にも剥離開始部が設けられている場合も含む)と異なっているので、見た目に多層フィルムの左右(長辺方向)を容易に識別することが可能となる。さらに、多層フィルムを暗環境で扱う場合でも、多層フィルムの縁を手でなぞれば、その左右方向および表裏を識別することが可能となり、左右方向や表裏を間違えることなくフィルム(貼付必要領域)を基板に貼付することが可能となる。
【0023】
本発明の多層フィルムは、ベースフィルム、バリアフィルム、感光性フィルム、カバーフィルムがこの順で積層されてなり、上記第1のカットは、カバーフィルムのみを切断しないハーフカットである構成であってもよい。この場合、貼付必要領域の外形に沿った第1のカットにおいては、最外層のカバーフィルムが未切断であるので、不要なフィルムとしてのカバーフィルムの剥離時に、ハーフカットされた貼付必要領域の外形部分による引っ掛かりが発生しにくく、下層のフィルムにしわをよせることなくカバーフィルムを剥離することが可能となる。
【0024】
本発明の多層フィルムにおいて、上記第1のカットと上記第2のカットとは、同一基板上に形成された刃を用いて行われていることが望ましい。この場合、第1のカットと第2のカットとを同一基板上の刃で同時に行うことが確実に可能となるので、高精度の位置決めが確実に可能となる。
【0025】
本発明の多層フィルムにおいて、貼付不要領域の外周の一部は、貼付必要領域の外周の一部を兼ねていてもよい。この場合、貼付不要領域が貼付必要領域の外周を全て囲むように形成される場合に比べて、貼付不要領域の面積を減らすことができ、多層フィルムを切り出す元となるフィルム原版の有効利用を図ることができる。
【0026】
本発明の映像表示装置は、映像を表示する表示素子と、ホログラム光学素子を形成した基板とを備え、表示素子から基板内部に入射した映像光をホログラム光学素子で回折反射させて観察者の瞳に導く映像表示装置であって、上記ホログラム光学素子は、上述した本発明の多層フィルムから不要なフィルムを剥離して基板に貼付されたものにレーザ光を2光束で照射し、その干渉によって作製されたものであることを特徴としている。
【0027】
上記の構成によれば、表示素子からの映像光を観察者の瞳に導く導光部材として基板を用いているので、薄型でコンパクトな映像表示装置を実現することができる。また、基板上に形成されたホログラム光学素子は、回折効率が高く、例えば反射型にあっては回折効率ピークの半値波長幅が狭い。したがって、このようなホログラム光学素子を用い、表示素子からの映像光をホログラム光学素子にて回折反射させて観察者の瞳に導く構成とすることにより、明るく、色純度の高い映像を観察者に提供することができる。さらに、半値波長幅が狭いので、ホログラム部分での外界光の透過率が高く、高いシースルー性が得られる。
【0028】
本発明の映像表示装置において、上記多層フィルムは、3原色に対応した波長に感度を有する感光性フィルムを有しており、上記ホログラム光学素子は、上記感光性フィルムに対して3原色に対応した波長のレーザ光を2光束で照射し、その干渉によって作製されたものであってもよい。この場合、表示素子からのRGBの映像光をホログラム光学素子にて回折反射させて、観察者にカラー映像を提供することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明において、貼付必要領域の外側に位置する位置決め用領域は、多層フィルムの一部の構成そのものからなる簡素な構成であり、しかも、貼付不要領域の形成と同時に形成することが可能なものである。したがって、特別な位置決め手段を別途形成することなく、簡易な方法で位置決めを行うことができる。また、貼付不要領域の存在により、貼付必要領域に触れることなく貼合までの作業や持ち運びが可能となるので、作業性やハンドリング性が良好となる。さらに、貼付必要領域の外形に沿った第1のカットと、位置決め用領域の外形に沿った第2のカットとが同時に行われているので、貼付必要領域と位置決め用領域との相対的な位置関係を高精度に保つことができ、基板と貼付必要領域との位置決めを高精度に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
〔実施の形態1〕
本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0031】
(1.HMDについて)
図2(a)は、本実施形態に係るHMDの概略の構成を示す平面図であり、図2(b)は、HMDの側面図であり、図2(c)は、HMDの正面図である。HMDは、映像表示装置1と、それを支持する支持手段2とを有しており、全体として、一般の眼鏡から一方(例えば左目用)のレンズを取り除いたような外観となっている。
【0032】
映像表示装置1は、観察者に外界像をシースルーで観察させるとともに、映像を表示して観察者にそれを虚像として提供するものである。図2(c)で示す映像表示装置1において、眼鏡の右目用レンズに相当する部分は、後述する接眼プリズム22および偏向プリズム23(ともに図3参照)の貼り合わせによって構成されている。なお、映像表示装置1の詳細な構成については後述する。
【0033】
支持手段2は、映像表示装置1を観察者の眼前(例えば右目の前)で支持するものであり、ブリッジ3と、フレーム4と、テンプル5と、鼻当て6と、ケーブル7とを有している。なお、フレーム4、テンプル5および鼻当て6は、左右一対設けられているが、これらを左右で区別する場合は、右フレーム4R、左フレーム4L、右テンプル5R、左テンプル5L、右鼻当て6R、左鼻当て6Lのように表現するものとする。
【0034】
映像表示装置1の一端は、ブリッジ3に支持されている。このブリッジ3は、映像表示装置1のほかにも左フレーム4Lおよび鼻当て6を支持している。左フレーム4Lは、左テンプル5Lを回動可能に支持している。一方、映像表示装置1の他端は、右フレーム4Rに支持されている。右フレーム4Rにおいて映像表示装置1の支持側とは反対側端部は、右テンプル5Rを回動可能に支持している。ケーブル7は、外部信号(例えば映像信号、制御信号)や電力を映像表示装置1に供給するための配線であり、右フレーム4Rおよび右テンプル5Rに沿って設けられている。
【0035】
観察者がHMDを使用するときは、右テンプル5Rおよび左テンプル5Lを観察者の右側頭部および左側頭部に接触させるとともに、鼻当て6を観察者の鼻に当て、一般の眼鏡をかけるようにHMDを観察者の頭部に装着する。この状態で、映像表示装置1にて映像を表示すると、観察者は、映像表示装置1の映像を虚像として観察することができるとともに、この映像表示装置1を介して外界像をシースルーで観察することができる。
【0036】
上記構成のHMDにおいては、映像表示装置1が支持手段2によって観察者の眼前で支持されるので、観察者はハンズフリーとなり、外界像および映像表示装置1での表示映像を虚像として観察しながら、空いた手で所望の作業を行うことができる。また、観察者の観察方向が一方向に定まるので、観察者は暗環境でも表示映像を探しやすいという利点もある。
【0037】
なお、図2(a)(b)(c)で示したHMDは、映像表示装置1を1個だけ備えた構成であるが、左右の両眼に対応して映像表示装置1を2個備えた構成であっても勿論構わない。
【0038】
(2.映像表示装置について)
次に、上述した映像表示装置1の詳細について説明する。
図3は、映像表示装置1の概略の構成を示す断面図である。映像表示装置1は、映像表示部11と、接眼光学系21とで構成されている。映像表示部11は、光源12と、一方向拡散板13と、集光レンズ14と、LCD15とを有している。
【0039】
光源12は、中心波長が例えば465nm、520nm、635nmとなる3つの波長帯域の光を発するRGB一体型のLEDで構成されている。一方向拡散板13は、光源12からの照明光を拡散させるものであるが、その拡散度は方向によって異なっている。より詳細には、一方向拡散板13は、HMDを観察者が装着したときの左右方向に対応する方向(図3の紙面に垂直な方向)には、入射光を約40゜拡散させ、HMDを観察者が装着したときの上下方向(図3の紙面に平行な方向)には、入射光を約0.2゜拡散させる。集光レンズ14は、一方向拡散板13にて拡散された光を集光するものである。集光レンズ14は、上記拡散光が効率よく光学瞳Eを形成するように配置されている。
【0040】
LCD15は、映像信号に基づいて光源12からの光を変調することにより、映像を表示する映像表示素子である。なお、本実施形態では、LCD15は、透過型であるが、反射型で構成されていてもよい(この場合、光源12などの他の光学素子の配置位置を工夫する必要がある)。また、LCD以外の光変調素子(例えばDMD(Digital Micromirror Device;米国テキサスインスツルメント社製))を映像表示素子として用いてもよい。
【0041】
一方、接眼光学系21は、接合プリズムで構成されている。この接合プリズムは、接眼プリズム22(第1の光学プリズム)と偏向プリズム23(第2の光学プリズム)とを、光学素子24を挟んで接合してなっている。
【0042】
接眼プリズム22および偏向プリズム23は、例えばアクリル系樹脂で構成されており、これらは接着剤で接合されている。接眼プリズム22は、平行平板の下端部を楔状にし、その上端部を厚くした形状で構成されており、面22a・22b・22cを有している。面22aは、映像表示部11からの映像光が入射する入射面であり、面22b・22cは互いに対向する面である。このうち、面22bは、全反射面兼射出面となっている。
【0043】
偏向プリズム23は、平行平板の上端部を接眼プリズム22の下端部に沿った形状とすることによって、接眼プリズム22と一体となって略平行平板となるように構成されている。接眼プリズム22に偏向プリズム23を接合させない場合、外界像の光が接眼プリズム22の楔状の下端部を透過するときに屈折するので、接眼プリズム22を介して観察される外界像に歪みが生じる。しかし、接眼プリズム22に偏向プリズム23を接合させて一体的な略平行平板を形成することで、外界像の光が接眼プリズム22の楔状の下端部を透過するときの屈折を偏向プリズム23でキャンセルすることができる。その結果、シースルーで観察される外界像に歪みが生じるのを防止することができる。
【0044】
光学素子24は、特定の入射角で入射する例えば465±10nm、520±10nm、635±10nmの3つの波長帯域の光を回折させる体積位相型の反射型ホログラム光学素子(HOE)で構成されている。光学素子24は、接眼プリズム22の下端部の傾斜面に貼り付けられており、この結果、接眼プリズム22と偏向プリズム23とで挟まれている。体積位相型の反射型ホログラムは、例えば、フォトポリマーからなる感光層を含む光学フィルム(多層フィルム)を接眼プリズム22上に貼り付け、これをレーザ光で露光することによって作製される。なお、多層フィルムの詳細については後述する。
【0045】
このような映像表示装置1の構成により、映像表示部11の光源12から出射された光は、一方向拡散板13にて拡散され、集光レンズ14にて集光されてLCD15に入射する。LCD15に入射した光は、映像信号に基づいて変調され、映像光として出射される。このとき、LCD15には、その映像自体が表示される。
【0046】
LCD15からの映像光は、接眼光学系21の接眼プリズム22の内部にその上端面(面22a)から入射し、対向する2つの面22b・22cで複数回全反射されて、光学素子24に入射する。光学素子24に入射した光はそこで反射され、面22bを介して射出され、光学瞳Eに達する。光学瞳Eの位置では、観察者は、LCD15に表示された映像の拡大虚像を観察することができる。光学瞳Eから虚像までの距離は数m程度であり、また、虚像の大きさはLCD15に表示された映像の10倍以上である。
【0047】
一方、接眼プリズム22、偏向プリズム23および光学素子24は、外界からの光をほとんど全て透過させるので、観察者は外界像を観察することができる。したがって、LCD15に表示された映像の虚像は、外界像の一部に重なって観察されることになる。以上のことから、光学素子24は、映像表示部11から提供される映像(映像光)と外界像(外光)とを同時に観察者の目に導くコンバイナとして機能していると言える。
【0048】
以上のように、映像表示装置1では、LCD15から出射される映像光を、接眼プリズム22内での全反射によって光学素子24に導く構成としている。これにより、通常の眼鏡レンズと同様に接眼プリズム22および偏向プリズム23の厚さを3mm程度にすることができ、接眼光学系21ひいては映像表示装置1を小型化、軽量化することができる。また、外界像の光の透過率が高くなり、外界像を良好に観察することができる。さらに、映像表示部11を観察者の眼の直前から大きく離れた位置に配置することができ、観察者の外界に対する視野を広く確保することができる。また、光学素子24としてHOEを用いているので、LEDの発光波長とHOEの回折波長とを合わせれば、明るい映像を観察者に提供することができる。
【0049】
また、光学素子24は、上述したように特定入射角の特定波長の光のみを回折させる体積位相型の反射型ホログラム光学素子で構成されているので、LCD15からの映像光が接眼プリズム22、偏向プリズム23および光学素子24を透過する外界像の光に影響を与えることがない。それゆえ、観察者は、光学素子24を介してLCD15の表示映像の虚像を観察しながら、接眼プリズム22、偏向プリズム23および光学素子24を介して外界像を通常通り観察することができる。
【0050】
また、光学素子24は、映像光と外光とを同時に観察者の瞳に導くコンバイナであるので、観察者は、LCD15から提供される映像を接眼光学系21を介して観察することができるのと同時に、接眼光学系21を介してシースルーで外界像を観察することができる。
【0051】
また、光学素子24を構成するホログラム光学素子は、LCD15にて表示された映像を拡大する正の非軸対称な光学パワーを有しており、上記表示映像を観察者の眼に虚像として導く接眼光学系21の少なくとも一部を構成しているので、接眼光学系21を小型にできるとともに、良好に収差補正された映像を観察者に提供することができる。
【0052】
(3.フィルム原版について)
次に、接眼プリズム22上に光学素子24を形成すべく、その接眼プリズム22に貼り付ける多層フィルムについて説明する前に、その多層フィルムが切り出される元となるフィルム原版について説明する。
【0053】
図4(a)は、ロール状に巻かれたフィルム原版31の外観を示す斜視図であり、図4(b)は、図4(a)のA−A’線矢視断面図である。フィルム原版31は、複数のフィルムが重なって構成されている。より具体的には、フィルム原版31は、ベースフィルム32、バリアフィルム33、感光性フィルム34およびカバーフィルム35がこの順で重なって構成されている。ベースフィルム32、バリアフィルム33、感光性フィルム34およびカバーフィルム35の厚さは、それぞれ例えば50μm、5μm、20μm、50μmである。
【0054】
ここで、感光性フィルム34を構成する感光材料としては、フォトポリマー、銀塩材料、重クロム酸ゼラチンなどが挙げられるが、本実施形態では、光学素子24としてのHOEをドライプロセスで容易に製造可能なフォトポリマーで構成している。特に、感光性フィルム34は、R(赤)、G(緑)、B(青)の3原色に対応した波長に感度を有する単層または3層のフォトポリマーで構成されている。
【0055】
また、フィルム原版31においては、幅方向(フィルム原版31を巻き取る軸方向に対応する)の両側に剥離開始部31a・31aが形成されている。この剥離開始部31a・31aは、特定の界面でのフィルムの剥離を促す部分であり、感光性フィルム34の幅を他のフィルムよりも短くする(感光性フィルム34を他のフィルムよりも幅方向内側に位置させる)ことで構成されている。剥離開始部31a・31aが形成されていることにより、フィルム原版31から後述する略短冊状の多層フィルム41(図1参照)を切り出した後、カバーフィルム35を剥離する際に、それぞれの層間の密着力が異なっているにもかかわらず、感光性フィルム34とカバーフィルム35との界面でこれら両者の剥離を開始することが可能となる。
【0056】
つまり、ベースフィルム32とバリアフィルム33との密着力をA1とし、バリアフィルム33と感光性フィルム34との密着力をA2とし、感光性フィルム34とカバーフィルム35との密着力をA3とした場合、A2>A3>A1である。したがって、剥離開始部31a・31aがなければ、単純にカバーフィルム35だけを剥離しようとしたときに、最も密着力の弱いベースフィルム32とバリアフィルム33との界面でこれらのフィルムの剥離が開始されてしまう。
【0057】
しかし、フィルム原版31に剥離開始部31a・31aが形成されていることで、フィルム原版31から切り出した多層フィルム41において、剥離開始部31a・31aにおける感光性フィルム34の幅が狭い部分(バリアフィルム33とカバーフィルム35との間の隙間)に指を入れて、ベースフィルム32とバリアフィルム33とを一体的につまむことができる。これにより、最も密着力の弱いベースフィルム32とバリアフィルム33との界面ではなく、次に密着力の弱い感光性フィルム34とカバーフィルム35との界面で、これらのフィルムの剥離を開始することが可能となる。
【0058】
上記した剥離開始部31aは、フィルム原版31の幅方向の一方側にのみ設けられていてもよい。すなわち、剥離開始部31aは、フィルム原版31から略短冊状の多層フィルム41を切り出したときの、多層フィルム41の2つの短辺の一方側にのみ設けられていてもよい。略短冊状の多層フィルムの2つの短辺の少なくとも一方側に剥離開始部31aが設けられていれば、長辺側に剥離開始部31aが設けられている場合に比べて、下層のフィルムにしわをよせることなく特定の界面でフィルム(カバーフィルム35)を剥離することが容易となる。
【0059】
(4.多層フィルムについて)
(4−1.多層フィルムの概要について)
次に、フィルム原版31から切り出される多層フィルム41について説明する。図1は、フィルム原版31から多層フィルム41を切り出す方法を模式的に示す説明図である。多層フィルム41は、後工程で不要なフィルム(カバーフィルム35)が剥離されて残りのフィルムが接眼プリズム22に貼合されるものであり、切断刃を有するローラ51と押さえローラ61との間にフィルム原版31を通すことにより、これを略短冊状(略シート状)に切断して得られるものである。
【0060】
このように、多層フィルム41は、フィルム原版31から単純に切り出して構成されるので、その層構成は、図4(b)で示したフィルム原版31の層構成と全く同じである。つまり、多層フィルム41は、上述したベースフィルム32、バリアフィルム33、感光性フィルム34およびカバーフィルム35の4層がこの順で重なって構成されていることになる。
【0061】
このようにしてフィルム原版31から切り出される多層フィルム41は、貼付必要領域42と、貼付不要領域43とを有している。貼付必要領域42は、基板(ここでは接眼プリズム22)への貼付が必要な領域であり、本実施形態では1つの多層フィルム41に対して複数形成されている。また、貼付必要領域42の外形は、一辺の長さが3mm以上20mm以下の略四角形状となっている。特に、貼付必要領域42の長辺方向はカバーフィルム35の剥離方向に対応し、短辺方向は剥離幅方向に対応している。これにより、剥離開始部31aでのフィルムの浮きを抑制することができる。
【0062】
また、貼付必要領域42は、カバーフィルム35以外の3層のうち、少なくとも感光性フィルム34を有して構成されている。つまり、貼付必要領域42においては、ベースフィルム32およびバリアフィルム33は後工程で剥離されてもよいし、感光性フィルム34とともに残されていてもよい。
【0063】
一方、貼付不要領域43は、基板への貼付が不要な領域であり、貼付必要領域42の外側にそれを全体的に囲むように形成されている。したがって、貼付不要領域43は、貼付必要領域42の外側に位置する、カバーフィルム35以外の3層で構成される。また、本実施形態では、貼付不要領域43は、貼付必要領域42の基板への貼付の際の位置決めに使用される位置決め用領域を兼ねている。つまり、ここでは、貼付不要領域43の全体が位置決め用領域となっている。
【0064】
(4−2.多層フィルムを用いた光学素子24の作製プロセスについて)
上記構成の多層フィルム41を用いた光学素子24の作製プロセスは、以下の通りである。
【0065】
(第1工程)
まず、図1に示すように、フィルム原版31から多層フィルム41を切り出す。このとき、貼付必要領域42および位置決め用領域(貼付不要領域43)も同時にカットする。このように、接眼プリズム22への貼合前に、フィルム原版31から多層フィルム41を切り出すことにより、多層フィルム41を切断する刃が直接接眼プリズム22に触れるといったことが全くなく、接眼プリズム22や切断刃が傷つくのを回避することができる。なお、第1工程の詳細については後述する。
【0066】
(第2工程)
次に、図5(a)に示すように、多層フィルム41からカバーフィルム35を剥離する。より具体的には、カバーフィルム35を下側にし、カバーフィルム35に対して残りの3層を上方から例えば直径3mm程度のローラ(図示せず)で押し付けながら、剥離開始部31a(図4(b)参照)にてベースフィルム32とバリアフィルム33とを一体に持ち、上記3層をローラを挟んで鋭角(例えば30度程度)に折り曲げて引っ張り、カバーフィルム35を剥離する。このように、最も密着力の弱い界面を挟むベースフィルム32とバリアフィルム33とをローラで圧接しながらカバーフィルム35を剥離することにより、上記界面でフィルムが剥離されたり、上記界面でフィルムが浮いてしまうのを確実に回避することができる。
【0067】
(第3工程)
続いて、多層フィルム41を接眼プリズム22に対して位置決めした後、図5(b)に示すように、ゴムローラ71による押し付けにより、接眼プリズム22における偏向プリズム23との接合面に、カバーフィルム35が剥離された多層フィルム41を貼り付ける。このとき、多層フィルム41の感光性フィルム34側が接眼プリズム22側となるようにする。
【0068】
ここで、図6は、多層フィルム41を接眼プリズム22に対して位置決めする方法を模式的に示す説明図である。本実施形態では、貼付必要領域42の外側に形成された貼付不要領域43の全体が位置決め用領域として機能しているので、同図に示すように、貼付不要領域43の外周の一部を、接眼プリズム22の接合面との位置関係が一義的である位置決め部材81に沿わせることにより、接眼プリズム22に対して多層フィルム41(特に貼付必要領域42)を位置決めすることができる。
【0069】
なお、同図において、多層フィルム41の一方の短辺側の剥離開始部31aの平面形状は、他方の短辺側の平面形状と異なっているが、この点については、後述する第1工程の詳細説明の中で併せて説明する。
【0070】
(第4工程)
その後、図5(c)に示すように、接眼プリズム22の接合面に貼付必要領域42のみが残るように、貼付不要領域43を剥離する。このとき、カバーフィルム35を剥離した方向とは逆方向から貼付不要領域43を剥離する。また、貼付必要領域42のベースフィルム32も貼付不要領域43の剥離とともに剥離する。このように、貼付必要領域42の接眼プリズム22への貼付後、貼付不要領域43を剥離除去することで、貼付不要領域43による貼付必要領域42への悪影響は生じない。
【0071】
(第5工程)
最後に、可干渉性のレーザ光を感光性フィルム34に2光束で照射し、その2光束の干渉により、光学素子24として体積位相型の反射型ホログラム光学素子(HOE)を作製する。このとき、レーザ光としてR(赤)、G(緑)、B(青)の3色の光を射出するレーザ光源を用いることで、RGBの3色に対して機能するHOE、すなわち、RGBの光を回折反射させるHOEを作製することができる。
【0072】
(4−3.多層フィルムにおける各領域の切断方法について)
次に、上記した第1工程の詳細、すなわち、多層フィルム41における各領域の切断方法について説明する。
【0073】
本実施形態では、図1に示したように、複数の貼付必要領域42の外側に位置決め用領域として機能する貼付不要領域43が形成されるように、これらの両領域をカットしている。そして、貼付必要領域42の外形に沿った第1のカットと、位置決め用領域(ここでは貼付不要領域43と同じ)の外形に沿った第2のカットとが、ローラ51での切断によって同時に行われている。より具体的には、ローラ51は、第1のカットを行うための第1の切断刃52と、第2のカットを行うための第2の切断刃53とを同一基板上(同一外周面54上)に配置して構成されており、これによって第1のカットと第2のカットとを同時に行うことを実現している。
【0074】
ここで、図7は、フィルム原版31から切り出した多層フィルム41のカバーフィルム35側からの平面図である。また、図8(a)は、多層フィルム41のベースフィルム32側からの底面図であり、図8(b)は、ローラ51の外周面54を平面に展開したときの切断刃の断面図であり、図8(a)のB−B’断面に対応するものである。また、図9は、図8(a)のB−B’線での多層フィルム41およびローラ51の切断刃の断面図である。なお、図7および図8(a)において、太線は後述のフルカットの部分を示し、細線(実線、破線)は後述のハーフカットの部分を示す。
【0075】
ローラ51の第1の切断刃52の刃高は、例えば500μmであるのに対して、第2の切断刃53の刃高は、例えば530μmである。つまり、第2の切断刃53は、第1の切断刃52よりも刃が高い(刃が長い)。このように第1の切断刃52と第2の切断刃53とで刃高差を設けることにより、第2の切断刃53によって行われる第2のカットを、多層フィルム41の全層をカットするフルカットとしながら、第1の切断刃52によって行われる第1のカットを、多層フィルム41の一部の層(ここではベースフィルム32、バリアフィルム33および感光性フィルム34)を完全にカットし、残りの層(ここではカバーフィルム35)をカットしないハーフカットにすることができる。しかも、第1の切断刃52と第2の切断刃53とにおける刃高差は30μmであり、カバーフィルム35の層厚(50μm)よりも小さいので、第1のカットを、カバーフィルム35を厚さ方向の途中までしか切断しないハーフカットに確実にすることができる。
【0076】
また、第2の切断刃53は、フィルム原版31から多層フィルム41を切り出す(分離する)刃としても機能している。この第2の切断刃53により、多層フィルム41はその長辺方向がフィルム原版31の幅方向(ロール軸方向)となり、短辺側に剥離開始部31a・31aが位置するように、略短冊状にフィルム原版31から切り出される。このとき、図7および図8(a)に示すように、多層フィルム41の一方の短辺側の剥離開始部31aの平面形状が他方の短辺側の平面形状と異なるように、フィルム原版31から多層フィルム41が切り出される。
【0077】
以上のような切断方法により、多層フィルム41においては、貼付必要領域42の外側に位置決め用領域として機能する貼付不要領域43が形成されるので、上述した第3工程のように、貼付不要領域43を利用して、貼付必要領域42と接眼プリズム22との位置決めを行うことができる。このとき、貼付不要領域43は、フィルム原版31から単純に切り出されて構成されたもの(カバーフィルム35以外の3層)であり、フィルム原版31または多層フィルム41の一部の構成そのものである。つまり、位置決め用領域としての貼付不要領域43は、従来の位置検出用ホログラムのような特別な作製方法や作製工程を要して作製されるものではない。したがって、特別な位置決め手段(位置検出用ホログラム)を別途形成することなく、貼付不要領域43の外周の一部を位置決め部材81(図6参照)に沿わせるという簡易な方法で位置決めを行うことができる。
【0078】
また、貼付必要領域42の外側に貼付不要領域43が形成されるので、貼付必要領域42に直接触れることなく、貼付不要領域43を持って貼合までの作業や持ち運びが可能となる。これにより、作業性やハンドリング性が良好となる。なお、貼付不要領域43は最終的に不要となる部分であるので、ハンドリング時に貼付不要領域43にしわがよっても問題にはならない。
【0079】
特に、本実施形態では、貼付必要領域42の外形は、一辺の長さが3mm以上20mm以下の略四角形状であり、貼付必要領域42の面積が非常に小さいので、ただでさえ取り扱い(ハンドリング)が難しく、位置決め精度も悪くなりやすい。しかし、本実施形態のように、小さい貼付不要領域43の外側に大きな貼付不要領域43を設け、この貼付不要領域43を位置決め用領域として用いることにより、取り扱いや位置決め精度の問題を有効に解消することができる。
【0080】
また、貼付必要領域42の外形に沿った第1のカットと、位置決め用領域(本実施形態では貼付不要領域43)の外形に沿った第2のカットとが同時に行われているので、第1のカットと第2のカットとが別々に行われる場合に比べて、貼付必要領域42と位置決め用領域との相対的な位置関係を高精度に保つことができる。これにより、位置決め用領域を利用して貼付必要領域42と接眼プリズム22との位置決めを高精度に行うことができる。特に、第1の切断刃52と第2の切断刃53とが同一基板上に形成されたローラ51を用いて多層フィルム41の各領域をカットしているので、第1のカットと第2のカットとを確実に同時にすることができ、高精度の位置決めが確実に可能となる。
【0081】
また、貼付必要領域42の外側に貼付不要領域43が形成されているので、本実施形態のように貼付必要領域42の面積が小さくても、その外側の貼付不要領域43で長い基線長(多層フィルム41の長辺方向の長さであって、位置決め部材81と接触する部分の長さ)を確保することができる。したがって、位置決め部材81に対する貼付必要領域42の位置誤差(特に傾き誤差)が生じにくく、この点からも貼付必要領域42と接眼プリズム22との高精度な位置決めが可能であると言える。
【0082】
また、第1のカットをハーフカットとし、完全にカットしない層(カバーフィルム35)を残すことにより、多層フィルム41に強度(こし)を残すことができ、後工程での多層フィルム41のハンドリングが容易となる。また、第1のカットでは、4層のフィルムのうちで最外層のカバーフィルムのみを完全に切断していないので、後工程でのカバーフィルム35の剥離時に、ハーフカットされた貼付必要領域42の外形部分による引っ掛かりが発生しにくく、下層のフィルムにしわをよせることなくカバーフィルム35を剥離することが可能となる。
【0083】
また、本実施形態では、第2の切断刃53による第2のカットが、位置決め用領域の外形に沿った切り出しと、フィルム原版31からの多層フィルム41の切り出しとを両方兼ねているので、位置決め用領域(貼付不要領域43)の形成と多層フィルム41の切り出しとを同時に行って効率よく作業を行うことが可能となる。
【0084】
また、第1の切断刃52と第2の切断刃53とが曲面上に形成されたローラ51を用いて多層フィルム41を切り出すことにより、ローラ51の回転によって連続的なシート切り出しが可能となる。したがって、平面基板上に切断刃を形成したものを用いる場合に比べて作業性が良い(作業性を重視しないのであれば、平面基板上に切断刃を形成したものを用いて本実施形態の多層フィルム41を得ることも勿論可能である)。さらに、切り出した1つの多層フィルム41に対して、貼付必要領域42を複数個カットしているので、後工程での多層フィルム41の接眼プリズム22への貼合工程において、同時に複数個の貼合が可能となり、生産効率が良い。
【0085】
また、第2のカットにより、多層フィルム41の一方の短辺側の剥離開始部31aの平面形状が他方の短辺側の平面形状と異なっており、多層フィルム41は左右方向(幅方向、長辺方向)で非対称となっている。これにより、多層フィルム41の左右方向を見た目で容易に識別することが可能となる。また、感光性フィルム34を有する多層フィルム41については、暗室環境下での取り扱いが必要となるが、短辺側の両端部で平面形状が異なっていることで、多層フィルム41の左右方向および表裏を手触りだけで識別することが可能となる。したがって、暗室環境下であっても、左右方向や表裏を間違えることなく多層フィルム41を接眼プリズム22に貼付することが可能となる。
【0086】
ところで、以上では、貼付必要領域42の外側に、貼付必要領域42の外周全てを囲むように貼付不要領域43を形成した例について説明したが、貼付必要領域42の外周の一部を囲むように貼付不要領域43を形成してもよい。例えば図10は、多層フィルム41の他の構成例を示す平面図である。同図に示すように、貼付不要領域43の外周の一部が貼付必要領域42の外周の一部を兼ねるように各領域をカットすることで、貼付必要領域42の外周の一部を囲むように貼付不要領域43を形成することができる。このような構成では、貼付不要領域43が貼付必要領域42の外周全てを囲むように形成される場合に比べて、貼付不要領域43の面積を減らすことができる。その結果、多層フィルム41を切り出す元となるフィルム原版31の有効利用を図ることができる。
【0087】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施の形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、説明の便宜上、実施の形態1と同一の構成には同一の部材番号を付記し、その説明を省略する。
【0088】
図11(a)は、本実施形態の多層フィルム41の概略の構成を示す平面図であり、図11(b)は、上記多層フィルム41を用いて位置決めする方法を模式的に示す説明図である。なお、図11(a)では、説明の便宜上、多層フィルム41のカバーフィルム35を除去した状態を示している。また、図11(a)において、太線はフルカットの部分を示し、細線はハーフカットの部分を示す。また、太線および細線において、実線部分が切断部分を示し、実線と実線との間の部分が切断されていない部分を示す。
【0089】
本実施形態の多層フィルム41においては、貼付不要領域43の一部に円筒状の打ち抜き部44が形成され、その打ち抜き部44の外周の一部が未切断の止め部44a(第1止め部)を介して残りの貼付不要領域43とつながっている。
【0090】
打ち抜き部44は、貼付不要領域43の一部がフルカットで打ち抜かれた部分であり、本実施形態では、多層フィルム41の短辺近傍に2箇所設けられている。この打ち抜き部44に、接眼プリズム22との位置関係が一義的に定まる位置決めピン82を突き刺すことにより、多層フィルム41(特に貼付必要領域42)と接眼プリズム22との位置決めを行うことができる。なお、打ち抜き部44に位置決めピン82を突き刺したときには、打ち抜き部44は止め部44aにより折れ曲がる。このように、本実施形態では、貼付不要領域43の一部の領域(打ち抜き部44)が位置決め用領域として機能している。なお、打ち抜き部44のカットは、位置決め用領域の外形に沿ったカットであり、第2のカットである。
【0091】
このように、多層フィルム41に打ち抜き部44を設けることでも位置決めが可能であるが、打ち抜き部44の外周の一部が止め部44aを介して残りの貼付不要領域43とつながる構成とすることで、打ち抜き部44の形成時に、フィルムの抜きカスが発生しない。これにより、ゴミの散乱を防止することができるとともに、打ち抜き時に使用する切断刃にフィルムの抜きカスが詰まるのを防止することができる。
【0092】
また、本実施形態では、貼付必要領域42の外周の一部が止め部42a(第2止め部)を介して貼付不要領域43とつながる構成としている。特に、本実施形態では、貼付必要領域42におけるカバーフィルム35の剥離開始側(剥離方向上流側)の縁に複数の止め部42aを設けている。これにより、貼付不要領域42および貼付必要領域43の両者において、密着力の最も弱い界面以外の界面でカバーフィルム35のみを剥離することが可能となる。以下、この点について説明する。
【0093】
図12(a)は、本実施形態の多層フィルム41の、カバーフィルム35の剥離前の断面図であり、図12(b)は、止め部42aがない場合の多層フィルム41の、カバーフィルム35の剥離後の断面図であり、図12(c)は、止め部42aがある場合の多層フィルム41の、カバーフィルム35の剥離後の断面図である。なお、これらの図において、符号52aは、第1の切断刃52で切断されている部分を示す。
【0094】
上述したように、多層フィルム41における各層間の密着力は、(感光層/バリア層)>(カバー層/感光層)>(バリア層/ベース層)である。したがって、剥離開始部31aにてカバーフィルム35を剥離し始めると、貼付必要領域42に止め部42aがなければ、図12(b)に示すように、貼付必要領域42における、より密着力の低いバリア層/ベース層の界面が剥がれてしまう。すなわち、貼付必要領域42(特に感光性フィルム34およびバリアフィルム33)がカバーフィルム35と同時に剥離してしまう。
【0095】
しかし、上記の止め部42aを設けることで、貼付必要領域42における感光性フィルム34およびバリアフィルム34が貼付不要領域43と止め部42aを介してつながるため、上記のような問題は発生せず、図12(c)に示すように、目的としたカバー層/感光層の界面でカバーフィルム35のみを剥離することが可能となる。つまり、貼付不要領域43から貼付必要領域42にまたがってカバーフィルム35を剥離する場合でも、貼付必要領域42にて、カバーフィルム35の下層のフィルムがそれに引っ張られて密着力の最も弱い界面(バリア層/ベース層)で剥離されるのを防止することができる。
【0096】
なお、本実施形態では、貼付必要領域42の外形に沿った第1のカットは、実施の形態1と同様にハーフカットであってもよいが、貼付必要領域42と貼付不要領域43とを止め部42aを介してつなげるのであれば、第1のカットは多層フィルム41の全層をカットするフルカットであってもよい。
【0097】
ただし、第1のカットをフルカットとすると、貼付必要領域42と貼付不要領域43との内外が止め部42aだけを介してつながった状態であるので、多層フィルム41の強度が弱く、また、止め部42aに負荷がかかってこれが切断される可能性がある。このことを考慮すると、第1のカットはハーフカットとすることが望ましい。
【0098】
なお、各実施の形態で説明した手法や構成を適宜組み合わせて多層フィルム41や映像表示装置1ひいてはHMDを構成することも勿論可能である。また、例えば、実施の形態1の位置決めと実施の形態2の位置決めとを両方同時に行うようにしても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の多層フィルムは、映像表示装置やHMDに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の実施の一形態に係るHMDの映像表示装置を構成する接眼光学系の接眼プリズムに貼合される多層フィルムをフィルム原版から切り出す方法を模式的に示す説明図である。
【図2】(a)は、HMDの概略の構成を示す平面図であり、(b)は、HMDの側面図であり、(c)は、HMDの正面図である。
【図3】上記映像表示装置の概略の構成を示す断面図である。
【図4】(a)は、フィルム原版の外観を示す斜視図であり、(b)は、同図(a)のA−A’線矢視断面図である。
【図5】(a)は、多層フィルムからカバーフィルムを剥離する方法を模式的に示す説明図であり、(b)は、カバーフィルムが剥離された多層フィルムを接眼プリズムに貼り付ける方法を模式的に示す説明図であり、(c)は、多層フィルムを接眼プリズムに貼り付けた後、貼付不要領域を剥離する方法を模式的に示す説明図である。
【図6】多層フィルムの接眼プリズムへの貼付前に、多層フィルムを接眼プリズムに対して位置決めする方法を模式的に示す説明図である。
【図7】フィルム原版から切り出した多層フィルムのカバーフィルム側からの平面図である。
【図8】(a)は、多層フィルムのベースフィルム側からの底面図であり、(b)は、ローラの外周面を平面に展開したときの切断刃の断面図である。
【図9】図8(a)のB−B’線での多層フィルムおよびローラの切断刃の断面図である。
【図10】多層フィルムの他の構成例を示す平面図である。
【図11】(a)は、本発明の他の実施の形態の多層フィルムの概略の構成を示す平面図であり、(b)は、上記多層フィルムを用いて位置決めする方法を模式的に示す説明図である。
【図12】(a)は、上記多層フィルムのカバーフィルム剥離前の断面図であり、(b)は、貼付必要領域の外周の一部に止め部がない場合の上記多層フィルムのカバーフィルム剥離後の断面図であり、(c)は、上記止め部がある場合の上記多層フィルムのカバーフィルム剥離後の断面図である。
【符号の説明】
【0101】
1 映像表示装置
15 LCD(映像表示素子)
22 接眼プリズム(基板)
24 光学素子(ホログラム光学素子)
31 フィルム原版
31a 剥離開始部
32 ベースフィルム
33 バリアフィルム
34 感光性フィルム
35 カバーフィルム
41 多層フィルム
42 貼付必要領域
42a 止め部(第2止め部)
43 貼付不要領域(位置決め用領域)
44 打ち抜き部(位置決め用領域)
44 止め部(第1止め部)
52 第1の切断刃
53 第2の切断刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のフィルムが重なってなり、後工程で不要なフィルムが剥離されて残りのフィルムが基板に貼合される多層フィルムであって、
基板への貼付が必要な貼付必要領域と、
貼付必要領域の外側に形成され、基板への貼付が不要な貼付不要領域とを有しており、
貼付不要領域は、貼付必要領域の基板への貼付の際の位置決めに使用される位置決め用領域を有しており、
貼付必要領域の外形に沿った第1のカットと、位置決め用領域の外形に沿った第2のカットとが同時に行われていることを特徴とする多層フィルム。
【請求項2】
上記第1のカットは、多層フィルムの一部の層をカットするハーフカットであることを特徴とする請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
上記第2のカットは、多層フィルムの全層をカットするフルカットであり、かつ、フィルム原版からの多層フィルムの切り出しを兼ねていることを特徴とする請求項1または2に記載の多層フィルム。
【請求項4】
上記第2のカットは、多層フィルムの全層をカットするフルカットであり、かつ、貼付不要領域の一部に打ち抜き部を形成するための打ち抜きであり、
上記打ち抜き部の外周の一部は、未切断の第1止め部を介して残りの貼付不要領域とつながっていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項5】
貼付不要領域は、貼付必要領域の基板への貼付後、剥離除去されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項6】
貼付必要領域の外形は、一辺の長さが3mm以上20mm以下の略四角形状であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項7】
貼付必要領域の外周の一部は、未切断の第2止め部を介して貼付不要領域とつながっていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項8】
特定の界面でのフィルムの剥離を促す剥離開始部を有しており、
上記剥離開始部は、略短冊状の該多層フィルムの2つの短辺の少なくとも一方側に設けられており、
一方の短辺側の剥離開始部の平面形状は、他方の短辺側の平面形状と異なっていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項9】
該多層フィルムは、ベースフィルム、バリアフィルム、感光性フィルム、カバーフィルムがこの順で積層されてなり、
上記第1のカットは、カバーフィルムのみを切断しないハーフカットであることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項10】
上記第1のカットと上記第2のカットとは、同一基板上に形成された刃を用いて行われていることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項11】
貼付不要領域の外周の一部は、貼付必要領域の外周の一部を兼ねていることを特徴とする請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項12】
映像を表示する表示素子と、
ホログラム光学素子を形成した基板とを備え、表示素子から基板内部に入射した映像光をホログラム光学素子で回折反射させて観察者の瞳に導く映像表示装置であって、
上記ホログラム光学素子は、請求項1から11のいずれかに記載の多層フィルムから不要なフィルムを剥離して基板に貼付されたものにレーザ光を2光束で照射し、その干渉によって作製されたものであることを特徴とする映像表示装置。
【請求項13】
上記多層フィルムは、3原色に対応した波長に感度を有する感光性フィルムを有しており、
上記ホログラム光学素子は、上記感光性フィルムに対して3原色に対応した波長のレーザ光を2光束で照射し、その干渉によって作製されたものであることを特徴とする請求項12に記載の映像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−137346(P2008−137346A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−328306(P2006−328306)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】