説明

多層プリント配線板

【課題】基板厚を変えずに信号配線層を増加させることが可能な極めて実用性に秀れた多層プリント配線板の提供。
【解決手段】複数の信号配線層と、この信号配線層と対向する1つの電圧リファレンス層若しくは複数の前記信号配線層を挟むように設けられる2つの電圧リファレンス層とが夫々絶縁体を介して略平行に配設される多層プリント配線板の複数の前記信号配線層同士の距離を、前記信号配線層と前記電圧リファレンス層との距離に比し十分小さく設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板、特に信号配線層、グラウンド層、電源層を複数有する多層プリント配線板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIなどの電子部品の多ピン化により、これを実装するプリント基板でも配線の収容性を向上するために高密度化と多層化が求められている。また、高速信号を伝送するプリント基板では反射ノイズによる信号波形の歪みを抑制するために信号配線のインピーダンスコントロールが行われるのが一般的である(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このインピーダンスコントロールを行うには、1つの対象信号配線に対して1つ若しくは2つの電圧リファレンス層を設ける必要があるため、一般に多層プリント配線板には、複数の信号配線層に応じて多数の電圧リファレンス層としての電源若しくはグラウンドのベタ層が設けられている。
【0004】
また、多層プリント配線板で複数の信号配線層を接続するスルーホール部のインピーダンス不整合が波形品質の劣化に影響を与えており、スルーホールの影響を最小限に抑えるために、送信、受信部品の配線引き出し部のみに限定してスルーホールを設けるなど、極力信号配線の途中でのスルーホール追加を避けるなどの対策もなされている。
【0005】
【特許文献1】特許第3206561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来はインピーダンスコントロールを行う信号配線層の増加に伴い電圧リファレンス層も同時に増やす必要があり、一般に板厚の制約があるプリント配線板では追加出来る信号配線層数に制限を受けるという課題がある。
【0007】
また、配線収容性を向上させるために信号配線経路途中で層間移動するためのブラインドスルーホールを設ける必要が生じており、この箇所の電気特性の確保が課題となっている。
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、信号配線層同士の間隔を十分小さくすることで電圧リファレンス層の共有化を実現して基板厚を変えずに信号配線層を増加させることが可能となり、しかも、例えば信号配線の幅と同じかより小径のブラインドスルーホールを用いて複数の信号配線層同士を接続することでインピーダンスの変化を可及的に小さくすることも可能な極めて実用性に秀れた多層プリント配線板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0010】
複数の信号配線層と、この信号配線層と対向する1つの電圧リファレンス層若しくは複数の前記信号配線層を挟むように設けられる2つの電圧リファレンス層とが夫々絶縁体を介して略平行に配設される多層プリント配線板であって、前記信号配線層と前記電圧リファレンス層との距離に比し、複数の前記信号配線層同士の距離を十分小さく設定したことを特徴とする多層プリント配線板に係るものである。
【0011】
また、前記電圧リファレンス層とこの電圧リファレンス層から最も近い前記信号配線層との距離に比し、複数の前記信号配線層同士の距離を十分小さく設定して、1つ若しくは2つの前記電圧リファレンス層により複数の前記信号配線層のインピーダンスコントロールを行えるようにしたことを特徴とする請求項1記載の多層プリント配線板に係るものである。
【0012】
また、前記信号配線層同士の距離は、前記電圧リファレンス層と前記信号配線層との距離の25%以下に設定したことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の多層プリント配線板に係るものである。
【0013】
また、複数の前記信号配線層同士を、この信号配線層を構成する信号配線の幅と同じか若しくはこの信号配線の幅より小径のブラインドスルーホールにより接続したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層プリント配線板に係るものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上述のように構成したから、基板厚を変えずに信号配線層を増加させることが可能となり、しかも、例えば信号配線の幅と略同じかより小径のブラインドスルーホールを用いて複数の信号配線層同士を接続することでインピーダンスの変化を可及的に小さくすることも可能な極めて実用性に秀れた多層プリント配線板となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
好適と考える本発明の実施形態(発明をどのように実施するか)を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0016】
前記信号配線層と前記電圧リファレンス層との距離に比し、複数の前記信号配線層同士の距離を充分小さく設定することで、電圧リファレンス層を共有化して1つの電圧リファレンス層により複数の信号配線層のインピーダンスコントロールが可能となる。
【0017】
即ち、プリント配線板の更なる高密度化・多層化を図るに際し、従来に比して信号配線層の増加量に比し電圧リファレンス層の増加量を少なくでき、基板厚を変えることなく追加できる信号配線層数を増加させることが可能となる。
【0018】
また、例えば、複数の前記信号配線層同士を、この信号配線の幅と略同じか若しくはこの信号配線の幅より小径のブラインドスルーホールにより接続することで、インピーダンスの変化を可及的に小さくすることができ、インピーダンスを均一化して一層良好な特性を得ることが可能となる。
【実施例】
【0019】
本発明の具体的な実施例について図1〜5に基づいて説明する。
【0020】
本実施例は、複数の信号配線層と、この複数の前記信号配線層を挟むように設けられる2つの電圧リファレンス層とが夫々絶縁体を介して略平行に配設される多層プリント配線板であって、前記信号配線層と前記電圧リファレンス層との距離(平行間隔)に比し、複数の前記信号配線層同士の距離を十分小さく設定したものである。
【0021】
具体的には、従来同様、電圧リファレンス層及び信号配線層は銅箔などの適宜な導体で形成され、また、絶縁体としてはガラスクロス等の基材にエポキシ樹脂等の樹脂を含浸させて成る繊維強化樹脂などが採用される。即ち、本実施例は、従来の多層プリント配線板の層構造を改良したものである。
【0022】
各部を具体的に説明する。
【0023】
本実施例は、電圧リファレンス層とこの電圧リファレンス層から最も近い信号配線層との平行間隔に比し、複数の信号配線層同士の平行間隔を十分小さく設定して、1つの電圧リファレンス層により2つ以上の信号配線層のインピーダンスコントロールを行えるようにしている。
【0024】
インピーダンスコントロールは、信号配線層に含まれる信号配線の幅及び厚さ、絶縁体の比誘電率及び電圧リファレンス層(電源若しくはグラウンドいずれか一方のベタ層または双方のベタ層)から信号配線層までの距離を適宜設定調整して行う。
【0025】
この点、本実施例においては、複数の信号配線層間の距離(面方向に対する垂直方向距離)を十分小さくすることで、これらを同一の信号配線層とみなして上記2つの電圧リファレンス層によってまとめてインピーダンスコントロールを行うことが可能となり、従来に比して信号配線層の増加量に比し電圧リファレンス層の増加量を少なくでき、基板厚を変えることなく追加できる信号配線層数を増加させることが可能となる。
【0026】
具体的には、図1,2において、001、002は電圧リファレンス層(ベタ層)、003、004、005は信号配線(信号配線層)、009は絶縁体(図2においては図示省略)である。信号配線003と対向する電圧リファレンス層001との距離H1及び信号配線005と対向する電圧リファレンス層002との距離H1に対して、信号配線003、004間の距離H2、および信号配線004、005間の距離H3を十分小さくすることで、1組の電圧リファレンス層001、002により複数の信号配線のインピーダンスコントロールを行うことが可能となる。尚、本実施例においては信号配線003と電圧リファレンス層001との距離及び信号配線005と電圧リファレンス層002との距離は同一としているが、異なる場合であっても同様であり、この場合、短い方の距離を基準に信号配線同士の距離を十分小さく設定する。
【0027】
本実施例においては、信号配線層同士の距離は、電圧リファレンス層と信号配線層との距離の25%以下に設定している。これは、特に多層プリント配線板において25%を超えると同一の信号配線層とみなすことができず、別個の電圧リファレンス層を用いてインピーダンスコントロールを行う必要が生じるからである。好ましくは12〜20%程度であり、本実施例においては、13%程度に設定している。
【0028】
また、各部の寸法は、電圧リファレンス層の厚さは10〜35μm程度、各信号配線層の厚さは10〜35μm程度、上記距離H1は100〜500μm程度、上記距離H2及び上記距離H3は20〜60μm程度に設定する。本実施例においては、電圧リファレンス層の厚さは35μm程度、各信号配線層の厚さは30μm程度、上記距離H1が400μm程度、上記距離H2及び距離H3は50μm程度に設定している。
【0029】
図3は、従来例(信号配線層同士の間隔を電圧リファレンス層と信号配線層との間隔の70%とした例)と本実施例の配線収容性を比較した図である。これより信号配線層同士の間隔を小さくしてリファレンス層を共有化する事により、基板厚を変えることなく信号配線層を1.8倍に増加させる事が可能となり収容性が向上することが確認できた。
【0030】
また、本実施例においては、複数の信号配線層同士を、この信号配線層を構成する信号配線の幅と略同じ径のブラインドスルーホール(内面に銅メッキが施される配線板表面に表れない孔)により接続している。
【0031】
具体的には、図1及び図2における006が、信号配線004、005同士を接続するようにこの信号配線間の絶縁体に穿設される小径ブラインドスルーホールである。007、008はスルーホール端に設けられるスルーホールランドである。図2に示すようにスルーホールランド007、008のランド径を信号配線003、004の幅相当となる小径ブラインドスルーホールを用いる事でスルーホール部のインピーダンス不整合の低減が可能となる。尚、信号配線の幅より小径のブラインドスルーホールを用いた場合も同様である。
【0032】
図4は、従来例(信号配線の幅より径の大きなブラインドスルーホールを用いた例)と本実施例のブラインドスルーホール部におけるインピーダンスを比較した図である。これよりスルーホールランドを信号配線幅相当にする事によりインピーダンスの変化を±5%以内にする事が可能となり、信号品質の向上が可能となることが確認できた。
【0033】
尚、本実施例は上述のように複数の前記信号配線層を挟むように設けられる2つの電圧リファレンス層を設けた構成としているが、例えば図5に図示した別例のように、信号配線層と対向する1つの電圧リファレンス層を設けた構成としても良い。図5において、011はリファレンス層、012、013は信号配線、014は絶縁体である。信号配線013と対向するリファレンス層011間の距離H4に対して、信号配線層012、013間の距離H5を十分小さくすることで、1つのリファレンス層011により複数の信号配線のインピーダンスコントロールを行うことが可能となる。
【0034】
また、本実施例においては、前記各層間に配置される絶縁体としてガラスクロス等の基材にエポキシ樹脂等の樹脂を含浸させて成る繊維強化樹脂を採用しているが、ガラスクロス等の繊維が含まれない樹脂を採用しても良い。例えば信号配線層間の間隔を50μm以下とする場合には、この信号配線層間に配置される絶縁体としてガラスクロス等の繊維が含まれない絶縁体(エポキシ樹脂等の樹脂)を設ける構成としても良い。
【0035】
本実施例は上述のように構成したから、前記信号配線層と前記電圧リファレンス層との距離に比し、複数の前記信号配線層同士の距離を充分小さく設定することで、電圧リファレンス層を共有化して1つの電圧リファレンス層により複数の信号配線層のインピーダンスコントロールが可能となる。
【0036】
即ち、プリント配線板の更なる高密度化・多層化を図るに際し、従来に比して信号配線層の増加量に比し電圧リファレンス層の増加量を少なくでき、基板厚を変えることなく追加できる信号配線層数を増加させることが可能となる。
【0037】
また、複数の前記信号配線層同士を、この信号配線層を構成する信号配線の幅より小径のブラインドスルーホールにより接続することで、インピーダンスの変化を可及的に小さくすることができ、インピーダンスを均一化して一層良好な特性を得ることが可能となる。
【0038】
よって、本実施例は、基板厚を変えずに信号配線層を増加させることが可能となり、しかも、インピーダンスの変化を可及的に小さくすることも可能な極めて実用性に秀れたものとなる。
【0039】
本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。例えば、リファレンス層に対向させる信号配線層数は限定されず、2つ以上の任意層数でも対応可能であることは言うまでもない。また、本実施例の小径ブラインドスルーホール加工はレーザー、または小径ドリルなどにより実現されるものであり、加工方法を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本実施例の概略説明断面図である。
【図2】本実施例の概略説明斜視図である。
【図3】従来例と本実施例の配線収容性を比較した図である。
【図4】従来例と本実施例の小径ブラインドスルーホール部のインピーダンスを比較した図である。
【図5】別例の概略説明断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の信号配線層と、この信号配線層と対向する1つの電圧リファレンス層若しくは複数の前記信号配線層を挟むように設けられる2つの電圧リファレンス層とが夫々絶縁体を介して略平行に配設される多層プリント配線板であって、前記信号配線層と前記電圧リファレンス層との距離に比し、複数の前記信号配線層同士の距離を十分小さく設定したことを特徴とする多層プリント配線板。
【請求項2】
前記電圧リファレンス層とこの電圧リファレンス層から最も近い前記信号配線層との距離に比し、複数の前記信号配線層同士の距離を十分小さく設定して、1つ若しくは2つの前記電圧リファレンス層により複数の前記信号配線層のインピーダンスコントロールを行えるようにしたことを特徴とする請求項1記載の多層プリント配線板。
【請求項3】
前記信号配線層同士の距離は、前記電圧リファレンス層と前記信号配線層との距離の25%以下に設定したことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の多層プリント配線板。
【請求項4】
複数の前記信号配線層同士を、この信号配線層を構成する信号配線の幅と同じか若しくはこの信号配線の幅より小径のブラインドスルーホールにより接続したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層プリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−212116(P2009−212116A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50500(P2008−50500)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(592258937)沖プリンテッドサーキット株式会社 (18)
【Fターム(参考)】