説明

多層ポリエステル樹脂容器

【課題】 保香性及び耐寒衝撃性に優れたポリエステル樹脂製容器を提供する。
【解決手段】 複数の樹脂層からなる多層樹脂容器において、最内層として、(A)極限粘度が0.6〜1.2dl/molのポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂からなる20μm以上のポリエステル樹脂層と、最外層として、(B)ノッチ付きアイゾット衝撃強度(JIS K7110に準拠)が40〜120J/mのポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂からなる20μm以上のポリエステル樹脂層とを有することを特徴とする多層ポリエステル樹脂容器。
より好ましくは、前記最外層と前記最内層との間に位置する中間層における少なくとも1つの層として、(C)ガラス転移温度が100〜120℃のポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂からなる10μm以上のポリエステル樹脂層を有することを特徴とする多層ポリエステル樹脂容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層ポリエステル樹脂容器、特にその保香性及び耐寒衝撃性(低温時における耐衝撃性)の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す)に代表されるポリエステル樹脂製の容器は、透明性に優れ、成形が容易であり、さらに良好な機械的特性を有していることから、清涼飲料水や調味料等の飲食品用途のほか、医薬品、化粧品、洗剤等の非飲食品用途にも応用されている。
【0003】
しかしながら、通常のPET容器は耐熱性が低く、60〜100℃程度の温度で容易に変形してしまうため、殺菌のための高温充填(ホットパック)を必要とする飲食品の容器には適していない。例えば、日本酒用のカップ容器として使用する場合には、日本酒特有の火落ち菌を殺菌するために、65℃以上の温度で加熱殺菌する必要がある。加えて、日本酒用のカップ容器としては、特に内容物の保香性が重要視されるとともに、寒冷地方(−5℃程度)での使用に耐え得る程度の耐寒衝撃性が要求される場合がある。
【0004】
上述したポリエステル樹脂における耐熱性の問題に対しては、従来、様々な検討がなされているものの、耐熱性とともに、保香性及び耐寒衝撃性にも優れたポリエステル樹脂容器は未だ得られていない。例えば、グリコール成分として、エチレングリコールとともにスピログリコールを使用した共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂が耐熱性に優れていることが報告されている(例えば、特許文献1〜4参照)ものの、これらのポリエステル樹脂を用いて成形した容器は、いずれも保香性や耐寒衝撃性を十分に満足し得るものではない。
【0005】
【特許文献1】特開2002−69165号公報
【特許文献2】特開2002−173539号公報
【特許文献3】特開2004−35040号公報
【特許文献4】特開2004−35692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来技術の課題に鑑みて行われたものであり、その目的は、特に保香性及び耐寒衝撃性に優れたポリエステル樹脂製容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来技術の課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を行った結果、最内層として(A)極限粘度が0.6〜1.2dl/molのポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂からなる20μm以上のポリエステル樹脂層を用い、最外層として(B)ノッチ付きアイゾット衝撃強度が40〜120J/mのポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂からなる20μm以上のポリエステル樹脂層を用いた多層ポリエステル樹脂容器が、保香性及び耐寒衝撃性に優れていることを見出した。さらに、この最内層と最外層との間の中間層として、(C)ガラス転移温度が100〜120℃のポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂からなる10μm以上のポリエステル樹脂層を用いることで、耐熱性とともに、保香性及び耐寒衝撃性にも優れた多層ポリエステル樹脂容器が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明にかかる多層ポリエステル樹脂容器は、最内層として、(A)極限粘度(o−クロロフェノール溶媒,25℃)が0.6〜1.2dl/molのポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂からなる20μm以上のポリエステル樹脂層と、最外層として、(B)ノッチ付きアイゾット衝撃強度(JIS K7110に準拠)が40〜120J/mのポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂からなる20μm以上のポリエステル樹脂層とを有することを特徴とするものである。
【0009】
また、前記多層ポリエステル樹脂容器において、前記最内層と前記最外層との間に位置する中間層における少なくとも1つの層として、(C)ガラス転移温度が100〜120℃のポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂からなる10μm以上のポリエステル樹脂層
を有することが好適である。
【0010】
また、前記多層ポリエステル樹脂容器において、前記最内層の(A)ポリエステル樹脂層が、テレフタル酸を主たるカルボン酸成分とし、エチレングリコール90〜99モル%と、1,4−シクロヘキサンジメタノール1〜10モル%とをグリコール成分とする共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂からなり、前記最外層の(B)ポリエステル樹脂層が、テレフタル酸を主たるカルボン酸成分とし、エチレングリコール75〜50モル%と、1,4−シクロヘキサンジメタノール25〜50モル%とをグリコール成分とする共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂からなることが好適である。
【0011】
また、前記多層ポリエステル樹脂容器において、前記中間層の(C)ポリエステル樹脂層が、テレフタル酸を主たるカルボン酸成分とし、エチレングリコール80〜50モル%と、スピログリコール20〜50モル%とをグリコール成分とする共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂からなることが好適である。
【0012】
また、前記多層ポリエステル樹脂容器において、日本酒用の容器として用いることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の多層ポリエステル樹脂容器は、最内層及び最外層において、特定のポリエステル樹脂層(A)及び(B)を用いることによって、保香性及び耐寒衝撃性に優れている。さらに中間層として、特定のポリエステル樹脂層(C)を用いることによって、耐熱性とともに、保香性及び耐寒衝撃性にも優れた多層ポリエステル樹脂容器が得られる。また、このようにして得られる本発明の多層ポリエステル樹脂容器は、特に日本酒用の容器として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の構成について詳しく説明する。図1に、本発明の一実施例にかかる多層ポリエステル樹脂容器10の断面図及び拡大断面図を示す。
図1に示すように、本発明の一実施例にかかる多層ポリエステル樹脂容器10は、3層のポリエステル樹脂層により形成されているものであって、内容物と接する最内層として(A)ポリエステル樹脂層12、外部と接する最外層として(B)ポリエステル樹脂層14、前記最内層と最外層との間に位置する中間層として(C)ポリエステル樹脂層16を有している。
【0015】
最内層の(A)ポリエステル樹脂
本発明の多層ポリエステル樹脂容器10において、最内層として用いる(A)ポリエステル樹脂層12は、極限粘度が0.6〜1.2dl/molのポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂からなるものである。
なお、本発明における上記極限粘度は、o−クロロフェノール溶媒中、25℃の温度条件で測定したものを意味する。より具体的には、例えば、ポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂1.2gを、o−クロロフェノール15ml中に加熱溶解した後、これを冷却し、25℃の温度条件で溶液粘度を測定し、該樹脂の極限粘度とする。溶液粘度の測定方法は、特に限定されるものではないが、例えば、AUTO VISCOMETER(サン電子工業株式会社製)を用いて測定を行うことができる。
【0016】
上記(A)ポリエステル樹脂は、極限粘度が0.6〜1.2dl/molであり、より好ましくは1.0〜1.2dl/molである。極限粘度が0.6dl/mol未満であると、内容物の保香効果が十分に得られない。一方で、1.2dl/molを超えると、粘度が高くなりすぎ、重合工程により得られた樹脂をペレット状に切断することができなくなってしまい、製造上好ましくない。
【0017】
上記(A)ポリエステル樹脂層としては、任意のジカルボン酸成分及びジオール成分を用いて調製した0.6〜1.2dl/molの極限粘度を有するポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂を用いることができる。ここで、通常、樹脂の極限粘度は、重縮合時間に依存するため、重縮合時間等を適宜調整することによって、上記特定の範囲の極限粘度を有するポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂を調製することができる。
【0018】
上記(A)ポリエステル樹脂の製造に使用するモノマー成分は、特に限定されるものではないが、ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4−ビフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。また、ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、スピログリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルジオール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA等が挙げられる。なお、これらのジカルボン酸成分及びジオール成分は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
また、上記(A)ポリエステル樹脂は、公知の製造方法によって製造することができる。例えば、共重合ポリエチレンテレフタレートの場合、溶融重合法又はそれに引き続く固相重縮合法等が挙げられる。固相重縮合法により製造された共重合ポリエチレンテレフタレートを用いることによって、アセトアルデヒドやオリゴマーの含有量のより少ない、すなわち純度の高いポリエステル樹脂を得ることができる。この場合、最内層のポリエステル樹脂からの不純物の溶出が低減されるため、優れた保香性が得られるとともに、内容物の味等の変質も少なく抑えられる。
【0020】
あるいは市販のポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂のうち、0.6〜1.2dl/molの極限粘度を有するポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂を選択して、上記(A)ポリエステル樹脂層として用いてもよい。このようなポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂としては、例えば、FFG5H(ベルポリエステルプロダクツ製;極限粘度1.1dl/g)、TS0711601(同;極限粘度1.1dl/g)、Eastman PET CB11E(Eastman chemical製;極限粘度0.84dl/g)、Eastman PET CB12(同;極限粘度0.84dl/g)、ユニペット RT553(日本ユニペット(株)製;極限粘度0.84dl/g)、ユニペットRT163(同;極限粘度0.85dl/g)、ユニペットRD353(同;極限粘度0.85dl/g)、ユニペットRD383(同;極限粘度0.85dl/g)等が挙げられる。
【0021】
また、上記(A)ポリエステル樹脂としては、テレフタル酸を主たるカルボン酸成分とし、エチレングリコール90〜99モル%と、1,4−シクロヘキサンジメタノール1〜10モル%とをグリコール成分とする共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂を、特に好適に用いることができる。
【0022】
なお、本発明の多層ポリエステル樹脂容器において、最内層として用いる(A)ポリエステル樹脂層は、その層厚が20μm以上である必要がある。層厚が20μm未満であると、内容物の保香効果が十分に得られない。また、(A)ポリエステル樹脂層の層厚は20〜3000μmであることが好ましい。層厚が3000μmを超えると、容器が変形しやすくなる。なお、シート成形により製造する場合、各樹脂層を総合した全体の厚さ(肉厚)が50〜600μmであることが好ましく、この際には(A)ポリエステル樹脂層の層厚は20〜200μmであることが好ましい。
【0023】
最外層の(B)ポリエステル樹脂
本発明の多層ポリエステル樹脂容器において、最外層として用いる(B)ポリエステル樹脂層は、ノッチ付きアイゾット衝撃強度が40〜120J/mのポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂からなるものである。
なお、本発明における上記アイゾット衝撃強度は、JIS K7110に準拠するものを意味する。ここで、ノッチとは、衝撃試験に先立って試験片に形成される切り欠き部であり、上記JIS規格に準じて試験片上に形成される。また、試験片の寸法も上記JIS規格に準じ、通常、80.0×10.0×4.0mm程度である。アイゾット衝撃強度の測定は、市販のアイゾット衝撃試験機(上記JIS規格に準拠)を用いて行うことができ、例えば、デジタル衝撃試験機DG−IB(株式会社東洋精機製作所製)を用いて測定を行うことができる。なお、測定は、標準条件(温度23±2℃、相対湿度50±5%)で行う。
【0024】
上記(B)ポリエステル樹脂は、ノッチ付きアイゾット衝撃強度が40〜120J/mであり、より好ましくは40〜80J/mである。ノッチ付きアイゾット衝撃強度が40J/m未満であると、脆くなり、耐寒衝撃性が十分に得られない。一方で120J/mを超えると、賦形しづらくなる(形状をつくりにくくなる)ため、製造上好ましくない。
【0025】
上記(B)ポリエステル樹脂層としては、任意のジカルボン酸成分及びジオール成分を用いて調製した40〜120J/mのノッチ付きアイゾット衝撃強度を有するポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂を用いることができる。なお、上記(B)ポリエステル樹脂は、以上に列記したジカルボン酸成分及びジオール成分を用い、公知の製造方法により製造することができる。ここで、樹脂のアイゾット衝撃強度は、例えば、スピログリコールや1,4−シクロヘキサンジカルボン酸といった環状体のジオール又はジカルボン酸成分、あるいは主鎖にアルキル基、エーテル基等の柔軟性を持った構造を有するジオール又はジカルボン酸成分を用いることによって向上させることができ、このようにして上記特定の範囲のアイゾット衝撃強度を有するポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂を調製することができる。
【0026】
あるいは市販のポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂のうち、40〜120J/mのノッチ付きアイゾット衝撃強度を有するポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂を選択して、上記(B)ポリエステル樹脂層として用いてもよい。このようなポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂としては、例えば、E−02(ベルポリエステルプロダクツ製;ノッチ付きアイゾット衝撃強度46J/m)、SKYGREEN S2008(SKchemicals製;ノッチ付きアイゾット衝撃強度100J/m)が挙げられる。
【0027】
また、上記(B)ポリエステル樹脂としては、テレフタル酸を主たるカルボン酸成分とし、エチレングリコール75〜50モル%と、1,4−シクロヘキサンジメタノール25〜50モル%とをグリコール成分とする共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂を、特に好適に用いることができる。
【0028】
なお、本発明の多層ポリエステル樹脂容器において、最外層として用いる(B)ポリエステル樹脂層は、その層厚が20μm以上である必要がある。層厚が20μm未満であると、耐寒衝撃性が十分に得られない。また、(B)ポリエステル樹脂層の層厚は20〜3000μmであることが好ましい。層厚が3000μmを超えると、成形が困難になり、製造上好ましくないほか、熱により容器が変形しやすくなり、また、相対的に他の樹脂層の割合が減少し、所望の効果が得られない場合がある。なお、シート成形により製造する場合、各樹脂層を総合した全体の厚さ(肉厚)が50〜600μmであることが好ましく、この際には(B)ポリエステル樹脂層の層厚は20〜200μmであることが好ましい。
【0029】
本発明の多層ポリエステル樹脂容器10においては、上記最内層の(A)ポリエステル樹脂層12、及び上記最外層の(B)ポリエステル樹脂を必須の構成とするものである。前記最外層と前記最内層との間に位置する中間層については、特に限定されるものではないため、特に中間層を有さなくてもよく、あるいは任意の樹脂からなる中間層を1層以上有していてもよい。
なお、本発明の多層ポリエステル樹脂容器においては、前記中間層における少なくとも1つの層として、以下に説明する特定の(C)ポリエステル樹脂層を有していることが好適である。
【0030】
中間層の(C)ポリエステル樹脂
本発明の多層ポリエステル樹脂容器10において、前記最内層と前記最外層との間に位置する中間層として用いる(C)ポリエステル樹脂層16は、ガラス転移温度が100〜120℃のポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂からなるものである。
上記ガラス転移温度は、公知の方法によって測定することができ、測定方法は特に限定されるものではないが、例えば、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。より具体的には、例えば、DSC6200(SII社製)を用いて測定を行うことができる。
【0031】
上記(C)ポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が100〜120℃であり、より好ましくは110〜115℃である。ガラス転移温度が100℃未満であると、耐熱性が低くなり、内容物を高温充填した際に熱変形してしまう。一方で120℃を超えると、耐衝撃性が低くなって脆くなったり、あるいは引っ張った場合に伸びなくなってしまう等の問題がある。
【0032】
上記(C)ポリエステル樹脂層としては、任意のジカルボン酸成分及びジオール成分を用いて調製した100〜120℃のガラス転移温度を有するポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂を用いることができる。なお、上記(C)ポリエステル樹脂は、以上に列記したジカルボン酸成分及びジオール成分を用い、公知の製造方法により製造することができる。ここで、樹脂のガラス転移温度は、例えば、スピログリコールや1,4−シクロヘキサンジカルボン酸といった環状体のジオール又はジカルボン酸成分、あるいはフルオレン等の嵩高い立体構造を有するジオール又はジカルボン酸成分を用いることによって向上させることができ、このようにして上記特定の範囲のガラス転移温度を有するポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂を調製することができる。
【0033】
あるいは市販のポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂のうち、100〜120℃のガラス転移温度を有するポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂を選択して、上記(C)ポリエステル樹脂層として用いてもよい。このようなポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂としては、例えば、S−PET45(三菱瓦斯化学製;ガラス転移温度113℃)が挙げられる。
【0034】
また、上記(C)ポリエステル樹脂としては、テレフタル酸を主たるカルボン酸成分とし、エチレングリコール80〜50モル%と、スピログリコール20〜50モル%とをグリコール成分とする共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂を、特に好適に用いることができる。
【0035】
なお、本発明の多層ポリエステル樹脂容器において、中間層として用いる(C)ポリエステル樹脂層は、その層厚が10μm以上である必要がある。層厚が10μm未満であると、耐熱性が十分に得られない。また、(C)ポリエステル樹脂層の層厚は10〜4000μmであることが好ましい。層厚が4000μmを超えると、成形が困難になり、製造上好ましくないほか、相対的に他の樹脂層の割合が減少し、所望の効果が得られない場合がある。なお、シート成形により製造する場合、各樹脂層を総合した全体の厚さ(肉厚)が50〜600μmであることが好ましく、この際には(C)ポリエステル樹脂層の層厚は10〜200μmであることが好ましい。
【0036】
また、本発明の多層ポリエステル樹脂容器においては、中間層として、上記(C)ポリエステル樹脂層以外の樹脂層を有していてもよい。また、他の樹脂層は、ポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂に限定されず、これ以外の樹脂層を有していても構わない。他の樹脂層としては、ポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂のほか、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、セルロースアセテート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂等が挙げられる。なお、中間層の全層厚は、上記(C)ポリエステル樹脂層との合計で、10〜4000μmであることが好ましい。層厚が10μm未満であると、耐熱性が十分に得られず、4000μmを超えると、成形が困難になり、製造上好ましくないほか、相対的に他の樹脂層の割合が減少し、所望の効果が得られない場合がある。なお、容器に耐熱性を必要としない無菌充填包装方法により充填・密封する飲料の場合には、上記中間層において耐熱性を得る必要は無い。
【0037】
本発明にかかる多層ポリエステル樹脂容器は、公知の方法によって製造することができる。通常の場合、以上に説明した最内層、中間層、最外層のそれぞれの樹脂層を用いて、公知の方法によって溶融成形することにより、予め多層ポリエステル樹脂シートを製造する。溶融成形法としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等において一般的に用いられている押出キャスト成形、プレス成形等を用いることができる。なお、これらの溶融成形法を行う場合、最内層、中間層、最外層のそれぞれの樹脂層を個別に成形した後に貼り合わせてもよく、あるいはこれらのうち2以上の樹脂層を同時に成形してもよい。また、最内層、中間層、最外層の一部を同時に成形した後に、互いに貼り合わせてもよい。最内層、中間層、最外層を押出成形する場合、押出温度は、最内層、中間層、最外層のそれぞれについて、通常、200〜300℃、好ましくは220〜280℃とし、各層を構成する樹脂の粘度が同程度になるように適宜温度を設定する。そして、以上のようにして得られた多層ポリエステル樹脂シートを、加圧、真空、圧空、真空圧空、ブロー、圧縮成形等、公知の方法によって成形することで、カップ容器、ボトル容器、トレイ容器、チューブ容器等の種々の形態の容器とすることができる。また、射出成形によって、多層ポリエステル樹脂容器を直接成形してもよい。なお、本発明の多層ポリエステル樹脂容器において、各樹脂層を総合した容器全体の厚さ(肉厚)は、用途によっても異なるが、通常、50〜10000μm、特に80〜1000μmの範囲である。また、シート成形により製造する場合には、特に50〜600μmであることが好ましい。
【0038】
本発明にかかる多層ポリエステル樹脂容器の用途は、特に限定されるものではなく、清涼飲料水や調味料等の飲食品用途のほか、医薬品、化粧品、洗剤等の非飲食品用途にも応用することが可能であるが、特に日本酒用の容器として好適に使用することができる。すなわち、以上のようにして製造される本発明の多層ポリエステル樹脂容器は、保香性及び耐寒衝撃性に優れているため、これらの性能が高いレベルで要求される日本酒用の容器として、特に好適に用いることができる。
【実施例1】
【0039】
以下、実施例により、本発明についてさらに具体的に説明を行うが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
まず最初に、本実施例において使用した評価方法について説明する。
【0040】
(1)保香性
各試験例において製造した容積約300cmの多層ポリエステル樹脂容器(カップ)に、75℃に加温した日本酒を180ml充填し、PETフィルムとアルミ箔をラミネートした蓋材によりヒートシールした。25℃で1ヶ月間放置した後、パネラー5名により内容物の味覚及び匂いの官能評価を行い、容器に充填する前の日本酒と比較した。
○:3名以上が味覚及び匂いに変化が無いと評価した。
×:2名以下が味覚及び匂いに変化が無いと評価した。
【0041】
(2)耐寒衝撃性
各試験例において製造した容積約300cmの多層ポリエステル樹脂容器(カップ)に、75℃に加温した湯を180ml充填し、常温(25℃)になるまで放置した後、−5℃の冷蔵庫に保存し、容器・内容物ともに設定温度になったら取り出した。コンクリート製の落下面に対して100cmの高さから、容器の水平方向(容器の側面が落下面に当たるように落下)、及び鉛直方向(容器の上面(シール部)が落下面に当たるように落下)に1回ずつ落下し、それぞれで内容物の漏洩が無いかどうか確認した。なお、落下面の詳細は次の通りである。
1)落下面を構成するコンクリート製部材の質量は、試料(多層ポリエステル樹脂)の50倍である。
2)落下面のいずれの2点においても、水平差が2mm以下である。
3)落下面は、いかなる点においても、100mm当たり98Nの静荷重で0.1mm以上の変形を生じない。
4)落下面はコンクリートで構築されたもので、試料に疵が付くことのない滑らかな面である。
【0042】
(3)耐熱性
各試験例において製造した容積約300cmの多層ポリエステル樹脂容器(カップ)に、75℃に加温した湯を180ml充填し、常温になるまで自然放冷した。この後、シールを剥がし、湯を捨てて、容器の容積変化率を測定した。
○:容積変化率が3%以内であった。
×:容積変率が3%を超えていた。
【0043】
(4)外観性
各試験例において製造した容積約300cmの多層ポリエステル樹脂容器(カップ)に、75℃に加温した湯を180ml充填し、常温になるまで放置した後、パネラー5名により、内容物充填前の容器の外観(白色度合い)との比較評価を行った。
○:3名以上が外観に変化が無いと評価した。
×:2名以下が外観に変化が無いと評価した。
【0044】
つづいて、各試験例のポリエステル樹脂容器の製造方法について説明する。
試験例1〜13
以下に示すA1,B1,及びC1のそれぞれのポリエステル樹脂を、下記表1及び表2に示す順序及び組成で用い、シート押出成形機(3種3層製膜機:株式会社プラコー社製)により、厚さ600μmのポリエステル樹脂シートを作製した。つづいて、得られた各種ポリエステル樹脂シートを、真空圧空成形機(PK450V:関西自動成形機株式会社製)を用いて、直径65mm,高さ90mm,厚さ100μmの有底円筒状のポリエステル樹脂容器(容積約300cm)を作成した。
【0045】
ポリエステル樹脂A1
・極限粘度:1.1dl/mol
・ジカルボン酸成分:テレフタル酸
・ジオール成分:エチレングリコール95モル%
1,4−シクロヘキサンジメタノール5モル%
【0046】
ポリエステル樹脂B1
・ノッチ付きアイゾット衝撃強度:100J/m
・ジカルボン酸成分:テレフタル酸
・ジオール成分:エチレングリコール70モル%
1,4−シクロヘキサンジメタノール30モル%
【0047】
ポリエステル樹脂C1
・ガラス転移温度:113℃
・ジカルボン酸成分:テレフタル酸
・ジオール成分:エチレングリコール55モル%
スピログリコール45モル%
【0048】
以上のようにして製造した試験例1〜13のポリエステル樹脂容器について、上記(1)〜(4)の評価を行った。各試験例のポリエステル樹脂容器の樹脂組成(各樹脂層の層厚)と、評価結果とを、下記表1及び表2にまとめて示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
上記表1に示されるように、最内層として極限粘度1.1dl/molのポリエステル樹脂A1,及び最外層としてノッチ付きアイゾット衝撃強度100J/mのポリエステル樹脂B1をそれぞれ20μm以上、さらに中間層としてガラス転移温度113℃のポリエステル樹脂C1を10μm以上となるように積層して作製した試験例2〜7の多層ポリエステル樹脂容器においては、(1)〜(4)のいずれの評価も優れていることがわかった。
これに対して、中間層ポリエステル樹脂C1の厚さが5μmの試験例1では、(3)耐熱性が十分でなかった。また、最内層ポリエステル樹脂A1及び最外層ポリエステル樹脂B1の厚さが15μmの試験例8では、(1)保香性、(2)耐寒衝撃性がともに劣る結果となった。
【0052】
また、上記表2に示されるように、ポリエステル樹脂A1,B1及びC1をそれぞれ単独で用いた試験例9〜11のポリエステル樹脂容器においては、(1)〜(4)のいずれかの評価において劣っているものであり、全ての評価を満たしているものはなかった。
さらに、最内層をポリエステル樹脂C1,中間層をポリエステル樹脂A1として積層順を変更した試験例12では、(1)保香性が不十分であった。また、最外層をポリエステル樹脂C1,中間層をポリエステル樹脂B1とした試験例13では、(2)耐寒衝撃性、(3)耐熱性の点で満足のいく結果が得られなかった。
【0053】
つづいて、最内層ポリエステル樹脂Aにおける極限粘度の適正な範囲について検討するため、上記試験例と同様にして、極限粘度の異なる各種ポリエステル樹脂を最内層として用いた多層ポリエステル樹脂容器を製造し、上記(1)〜(4)の評価を行った。なお、最内層以外の各樹脂層の種類及び各樹脂層の層厚は上記試験例5に準じた(最内層樹脂A30μm,最外層樹脂B30μm,中間層樹脂C40μm)。評価結果を下記表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
上記表3に示されるように、最内層ポリエステル樹脂の極限粘度が0.6〜1.2dl/molの範囲である試験例5,15及び16の多層ポリエステル樹脂容器は、(1)〜(4)のいずれの評価にも優れているものであった。
これに対して、極限粘度0.5dl/molのポリエステル樹脂を用いた試験例14では、最内層樹脂からの不純物の溶出が増え、保香性が悪くなるとともに、内容物の味等の変質が生じていた。また、極限粘度1.3dl/molのポリエステル樹脂を用いた試験例17では、粘度が高くなりすぎて、得られたポリエステル樹脂をペレット状に切断することが出来なくなってなってしまい、容器を製造することができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施例にかかる多層ポリエステル樹脂容器10の断面図及び拡大断面図である。
【符号の説明】
【0057】
10 多層ポリエステル樹脂容器
12 (A)ポリエステル樹脂層(最内層)
14 (B)ポリエステル樹脂層(最外層)
16 (C)ポリエステル樹脂層(中間層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の樹脂層からなる多層樹脂容器において、
最内層として、(A)極限粘度(o−クロロフェノール溶媒,25℃)が0.6〜1.2dl/molのポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂からなる20μm以上のポリエステル樹脂層と、
最外層として、(B)ノッチ付きアイゾット衝撃強度(JIS K7110に準拠)が40〜120J/mのポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂からなる20μm以上のポリエステル樹脂層と
を有することを特徴とする多層ポリエステル樹脂容器。
【請求項2】
請求項1に記載の多層ポリエステル樹脂容器において、
前記最内層と前記最外層との間に位置する中間層における少なくとも1つの層として、(C)ガラス転移温度が100〜120℃のポリエステル又は共重合ポリエステル樹脂からなる10μm以上のポリエステル樹脂層
を有することを特徴とする多層ポリエステル樹脂容器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の多層ポリエステル樹脂容器において、前記最内層の(A)ポリエステル樹脂層が、テレフタル酸を主たるカルボン酸成分とし、エチレングリコール90〜99モル%と、1,4−シクロヘキサンジメタノール1〜10モル%とをグリコール成分とする共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂からなり、前記最外層の(B)ポリエステル樹脂層が、テレフタル酸を主たるカルボン酸成分とし、エチレングリコール75〜50モル%と、1,4−シクロヘキサンジメタノール25〜50モル%とをグリコール成分とする共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂からなることを特徴とする多層ポリエステル樹脂容器。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の多層ポリエステル樹脂容器において、前記中間層の(C)ポリエステル樹脂層が、テレフタル酸を主たるカルボン酸成分とし、エチレングリコール80〜50モル%と、スピログリコール20〜50モル%とをグリコール成分とする共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂からなることを特徴とする多層ポリエステル樹脂容器。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の多層ポリエステル樹脂容器において、日本酒用の容器として用いることを特徴とする日本酒用多層ポリエステル樹脂容器。


【図1】
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【公開番号】特開2009−249006(P2009−249006A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100197(P2008−100197)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(000208455)大和製罐株式会社 (309)
【Fターム(参考)】