説明

多層加飾フィルム

【課題】自動車外装向けなどの耐久性を要求される用途へ真空成形性に優れ且つ、耐湿熱性に優れた、高耐久性の加飾フィルムを提供すること。
【解決手段】ハードコート層(A)、ベースフィルム層(B)、意匠層(C)および接着層(D)からなる多層フィルムであって、接着層(D)は、40℃以上の融点を有しかつ200μm以下の粒子寸法を有する、少なくとも1種の固体表面不活性化ポリイソシアネート(D1)及び少なくとも1種のイソシアネート反応性ポリマー(D2)を有するものである事を特徴とする多層加飾フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空成形、例えば特許文献1及び非特許文献1に記載の3次元加飾工法(Three dimension Overlay Method;以下、「TOM工法」と称する。)に用いられる二次加飾用の多層加飾フィルムであり、接着性、加工性に優れ、且つ成形後の耐熱性、耐加水分解性等の二次物性に優れた多層加飾フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二次加飾成形法である真空成形に用いられる多層加飾フィルムとして、接着層が予め塗工された多層加飾フィルムが提案されている。例えば特許文献2や特許文献3に記載されているポリアクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂などの粘着系やポリオレフィン系樹脂、EVA系樹脂などの未架橋のホットメルト系や特許文献4に記載されているブロックイソシアネートを用いた潜在型ウレタン反応系などが知られている。
例えば、文献2に記載されている印刷技術を用いて意匠層を形成した後、接着層をナイフコーターで塗布後、50℃で乾燥し多層加飾フィルムを得る方法が記載されている(非特許文献2)。
【0003】
しかしながら、これらの接着層を用いた多層加飾フィルムは、内装用途のみならず、特に外装用途において成形後の製品の耐熱、耐加水分解性などの耐久性が問題視されている。また、剥離紙を必須とする粘着系接着剤等の場合が大半であった。
【0004】
これらの問題点を解決する為には、融点の高い可逆性のホットメルト系接着剤を用いる必要があった。すなわち耐熱性を上げる為には、ホットメルト樹脂自体の融点を高く設計する必要があった。しかしながら、これらの手法は、同時に成形時にホットメルト樹脂の融点を越える温度での加熱が必要となるため、温度に敏感な加飾フィルムには不適当であった。また最近では加飾フィルム表面に複雑な凹凸をつけた意匠性の高いフィルム(エンボスフィルム)が増えてきており、加飾フィルムの外観を損なわぬ様、より低温且つ短時間で加熱成形できる真空成形用加飾フィルムが求められていた。
【0005】
一方、特許文献5には、固体表面不活性化ポリイソシアネートおよび少なくとも1種のイソシアネート反応性ポリマーを含む水分散物が開示されている。この水分散物は、好ましい具体態様において貯蔵安定性、潜在的反応性接着剤系である旨の記載はあるが、多層加飾フィルムへの利用可能性の言及はなく、加えて、多層加飾フィルムに用いた場合に、上記課題を解決し得るか否かについては何の開示も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3937231号
【特許文献2】特開2000−79796号
【特許文献3】特開平10−58895号
【特許文献4】特許第4130583号
【特許文献5】特許第4099312号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】プラスチックへの加飾技術全集(技術情報協会)
【非特許文献2】プラスチック加飾技術の最新動向(シーエムシー出版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するものであり、安全・中温(70℃から150℃)での良好な真空成形性、3D形状に追従させる為に必要な高い初期接着力発現性に優れ、且つ成形後の耐久性が極めて良好な自動車外装向けなどの多層加飾フィルムを提供することにある。更には接着層に剥離紙を必要としない多層加飾フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決する為に鋭意検討を重ねた結果、下記の多層加飾フィルムを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、接着層(D)として、40℃以上の融点を有しかつ200μm以下の粒子寸法を有する、少なくとも1種の固体表面不活性化ポリイソシアネート(D1)及び少なくとも1種のイソシアネート反応性ポリマー(D2)を有することを特徴とする多層加飾フィルムを提供する。
即ち、本発明の多層加飾フィルムは、ハードコート層(A)、ベースフィルム層(B)、意匠層(C)および接着層(D)からなる多層フィルムであって、接着層(D)は、40℃以上の融点を有しかつ200μm以下の粒子寸法を有する、少なくとも1種の固体表面不活性化ポリイソシアネート(D1)及び少なくとも1種のイソシアネート反応性ポリマー(D2)を有することを特徴とする多層加飾フィルムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の多層加飾フィルムは、粘着系の接着剤を使用しないので、剥離紙を不要にする事が出来る。用いる接着剤成分は水性分散物なので、加飾フィルムへ塗工する際に有害な有機溶剤を用いる必要が無く作業環境にも優しく、当該接着層を塗工した多層加飾フィルムは、常温で6カ月間保存する事が出来る。また、真空成形時の加飾フィルムへの加熱時に高温を必要とせず(例えば70℃から90℃での加熱で充分。)、更に、成形後は室温で自己架橋する為、極めて良好な耐熱性、耐加水分解性等の耐久性を発現する。また、多くの金属、プラスチック基材へ良好な接着性を示すことから、携帯電話、パソコン躯体、エアコン、テレビ、冷蔵庫、自動車内装用途の加飾のみならず、自動車外装などの耐湿熱性などの耐久性が要求される過酷な用途へ応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の多層加飾フィルムの模式図を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の詳細を説明する。
本発明の接着層(D)は、40℃以上の融点を有しかつ200μm以下の粒子寸法を有する、少なくとも1種の固体表面不活性化ポリイソシアネート(D1)及び少なくとも1種のイソシアネート反応性ポリマー(D2)からなる粉末、又はその水分散物を接着剤として用いて形成することができる。本発明の接着層(D)は、貯蔵安定であり、且つ、潜在反応性を有する点を特徴とする。即ち、+2℃以下の温度で、長期間、保存安定性を有し、且つ、TOM工法に基づく真空成形後に、例えば120℃程度の温度に加熱成形することによって最終架橋結合が形成され得るという潜在反応性を有する。
【0014】
本発明の固体表面不活性化ポリイソシアネート(D1)とイソシアネート反応性ポリマー(D2)を有する、貯蔵安定な、且つ、潜在反応性の接着層(D)を形成する方法には、例えば特許文献5に記載されている以下の方法を使用することができる。
【0015】
一つの実施態様として、反応温度が40℃〜150℃の範囲内である、表面不活性化ポリイソシアネート(D1)を用い、接着層(D)を形成する方法において、
(a)水中に懸濁された少なくとも1種の表面不活性化ポリイソシアネート(D1)と少なくとも1種のイソシアネート反応性ポリマー(D2)の水性分散物または水溶液を混合する工程; (b)前工程(a)の分散物を基体上に堆積し、所定の厚さの層を形成する工程;および、(c)前記イソシアネートの反応温度より低い温度で、工程(b)で得られた層から水を除去し、貯蔵安定で且つ潜在反応性の実質的に乾燥した固体の層(接着層)を製造する工程、によって接着層(D)が形成され得る。
【0016】
他の実施態様としては、(a)水中に懸濁された少なくとも1種の表面不活性化ポリイソシアネート(D1)と少なくとも1種のイソシアネート反応性ポリマー(D2)の水性分散物または水溶液を混合する工程; (b’)イソシアネートの反応温度より低い温度で、工程(a)で得られた分散物から水を除去し、乾燥した固体の塊を製造する工程;および、(c’)ポリイソシアネートの反応温度より低い温度で、乾燥した固体の塊をさらに粉末にする工程、を含む方法によって得られた粉末を用いて接着層(D)を形成する方法が挙げられる。
【0017】
更に、工程(c)または(c’)の後に、ポリイソシアネート(D1)の反応温度を超える温度で、ポリイソシアネート(D1)をイソシアネート反応性ポリマー(D2)によって最終架橋し硬化する方法が挙げられる。
【0018】
また、水除去工程をポリマー(D2)の軟化温度を超える温度で行うこともでき、また、工程(b’)の乾燥工程において粉末をスプレー乾燥することもできる。
【0019】
以上の方法で形成された貯蔵安定な、潜在反応性の粉末、およびこれを含む接着層(D)は、+2℃以下の温度で貯蔵安定であり、かつ少なくとも6ヶ月の間潜在反応性である。
【0020】
また、表面不活性化ポリイソシアネートの反応温度は、30〜180℃、好ましくは40〜180℃、より好ましくは、70〜180℃の範囲であり、融点は、40〜150℃、好ましくは、50〜150℃、より好ましくは、60〜150℃或いは、ガラス転移温度は、40〜150℃、好ましくは、50〜150℃、より好ましくは、60〜150℃の範囲内であることが好ましい。
【0021】
表面不活性化ポリイソシアネートのイソシアネート基と前記イソシアネート反応性ポリマーのヒドロキシル及び/又はアミノ基との間の比が0.1〜1.5の範囲内であることが好ましい。
【0022】
前記分散物は、ヒドロキシまたはアミノ官能性の粉末状もしくは液体の、低分子〜高分子化合物、安定剤、表面活性剤、腐食防護剤、防炎剤、増粘剤、充填剤、顔料などの添加物を含むことができる。
【0023】
本発明の多層加飾フィルムとは、ハードコート層(A)、ベースフィルム層(B)、意匠層(C)および接着層(D)からなる多層加飾フィルムである。
ハードコート層(A)は、ポリカーボネートなどのベースフィルム(B)上へPMMAを共押出し或いは、ウレタンアクリレートなどUV硬化樹脂を塗工硬化或いは、PMMAを共押出しした上へ更にウレタンアクリレートなどUV硬化樹脂を塗工硬化させたものなどがある。また、必要に応じ更にその上にポリウレタン樹脂、アクリル樹脂やPETなどの保護層を付ける事も出来る。
【0024】
ベースフィルム層(B)に用いられるフィルムの材質としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート(PC)系樹脂、塩化ビニル(PVC)系樹脂、非結晶ポリエステル(PET)系樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)系樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)系樹脂等がある。また、これらの共押出しや多層塗工したフィルムも使用可能であり、中でも、耐候性、表面硬度、立体成形性、透明性に優れ、自動車、建材のような高度なスペックにも耐えられ、家電などにも転用が可能であるポリカーボネート(PC)とABS樹脂やアクリル(PMMA)樹脂を組み合わせたフィルムが好ましい。
【0025】
意匠層(C)は、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アルキド樹脂などを樹脂バインダーとして、各種顔料、染料を混入したものを用いて形成される。文字・記号柄層の形成方法としては、オフセット印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法などがある。時に、多色刷りや階調表現を行うには、オフセット印刷やグラビア印刷法が適している。また、単色の場合には、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法を使うこともできる。尚、これらの意匠層は、ベースフィルムの上側または下側に形成させ、または接着層やハードコート層と一体化させる事も出来る。
【0026】
接着層(D)は、少なくとも40℃より高い融点を有しかつ200μm以下の粒子寸法を有する、少なくとも1種の固体表面不活性化ポリイソシアネート(D1)及び少なくとも1種のイソシアネート反応性ポリマー(D2)を有するものである。
【0027】
(D1)に使用するポリイソシアネートとして、全てのジイソシアネートまたはポリイソシアネートもしくはそれらの混合物は、それらが40℃より高い融点を有し、公知の方法で200μm以下の粒子寸法の粉状にされ得る限り、適当である。それらは、脂肪族、環状脂肪族、複素環式または芳香族ポリイソシアネートであってよい。例として、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、二量体4,4’−MDI、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート(NDI)、3,3’−ジメチル−ビフェニル−ジイシシアネート(TODI)、二量体1−メチル−2,4−フェニル−4,4’−ジイソシアネート(TDI−U)、3,3’−ジイソシアネート−4,4’−ジメチル−N,N’−ジフェニルユリア(TDIH)、1−メチル−2,4−フェニレン−ジイソシアネートの2モルと1,2−エタンジオールまたは1,4−ブタンジオールの1モルとの付加生成物、MDIの2モルとジエチレングリコールの1モルとの付加生成物、イソフォロンジイソシアネートのイソシアヌレート(IPDI−T)が挙げられる。
【0028】
上述の付加生成物は、水性分散液として本発明による利点を示すのみではない。1−メチル−2,4−フェニレン−ジイソシアネートと1,4−ブタンジオールまたは1,2−エタンジオールとの付加生成物は、固体においてもまたは液体溶媒含有系もしくは溶媒不含有系において、非常に有利な性質を有する。それらは、それらの90℃より低い範囲内にある低い硬化もしくは架橋温度に関してとりわけ特徴を示す。従って、この混合物の使用は、それが主として水に基づくものであれ、ポリオールに基づくものであれ、感温性基体の被覆及び接着のために非常に有利である。
【0029】
表面不活性化、即ち、表面安定化反応は多様な方法で実施できる:
例えば、イ)不活性化剤の溶液に粉末状イソシアネートを分散させることにより、ロ)低融点ポリイソシアネートの溶融物を、非溶解性液体分散在中の不活性化剤の溶液に供給することにより、または、ハ)不活性化剤またはその溶液を、固体微粒状イソシアネートの分散のために添加することにより実施することができる。
【0030】
(D1)に使用する固体ポリイソシアネートは好ましくは、第1及び第2脂肪族アミン、ジアミンもしくはポリアミン、ヒドラジン誘導体、アミジン、グアニジン等の不活性化剤によって不活性化される。
不活性化剤は、具体的には、エチレンジアミン、1,3−プロピレン−ジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、2,5−ジメチル−ピペラジン、3,3’−ジメチル−4、4’−ジアミノ−ジシクロヘキシルメタン、メチルノナン−ジアミン、イソフォロンジアミン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、ジアミノ及びトリアミノ−ポリプロピレンエーテル、ポリアミドアミン、ならびにモノアミン、ジアミン及びトリアミンの混合物等である。
不活性化剤の濃度は全存在イソシアネート基に関して、0.2ないし25、好ましくは0.5ないし8当量%であってよい。
【0031】
粉末状のポリイソシアネートの粒子寸法は、合成の後の分散または湿式磨砕によって0.1〜200μm、好ましくは0.5〜20μmの範囲内の粒子寸法とされることが好ましい。このためには、溶解器、ロータ・ステイタ型の分散装置、攪拌ボールミル、ビード及びサンドミル、ボールミル、及びフリクション・ギャップミルが40℃以下の温度において適当である。ポリイソシアネート及び用途によって、その粉砕は不活性化剤の存在下に不活性化ポリイソシアネートに対してなされ、または水の存在下にポリイソシアネートに対してなされ、次いで不活性化がなされる。粉砕され、表面安定化されたポリイソシアネートは、粉砕分散液から分離して、乾燥させることもできる。
【0032】
表面不活性化及び架橋結合を制御するため、触媒を添加することもできる。好ましいものは、水性溶液または分散液中で加水分解安定性であり、また後に熱により活性化される反応を加速する触媒である。ウレタン触媒についての例は、有機錫、鉄、鉛、コバルト、ビスマス、アンチモン及び亜鉛化合物、あるいはそれらの混合物である。ジブチル錫のアルキルメルカプチド化合物はより高い加水分解安定性のために好ましい。
ジメチルベンジルアミン、ジアザビシクロ−ウンデセン、ならびに第3アミンに基づく非揮発性ポリウレタンフォーム触媒は、特殊な目的のために、または金属触媒と組み合わせて使用できる。
触媒の濃度は、ポリイソシアネート(D1)及び少なくとも1種のイソシアネート反応性ポリマー(D2)を含む接着剤含有反応性系に関し、0.001〜3重量%、好ましくは0.01〜1重量%の範囲になる。
【0033】
また、イソシアネート反応性ポリマー(D2)として、イソシアネート反応性官能基を有する水溶性または水分散性エマルジョンポリマーまたは分散ポリマーが考えられる。これらは、当該分野の技術状態に従って、オレフィン系不飽和モノマーを溶液、エマルジョンまたは懸濁状態で重合させることによって製造される。フィルム形成性重合物は0.2〜15重量%、好ましくは1〜8重量%の、重合で取込まれたヒドキロシル、アミノカルボキシルカーボンアミド基のようなイソシアネート反応性基をもつモノマーを含む。
【0034】
官能性モノマーの例は、アリルアルコール、ヒドロキシエチル・アクリレート(及びメタクリレート)、ヒドロキシプロピル・アクリレート(及びメタクリレート)、ブタンジオール・モノアクリレート(及びメタクリレート)、エトキシル化またはプロポキシル化アクリレート(またはメタクリレート)、N−メチロールアクリルアミド、tert−ブチルアミノ−エチル−メタクリレート、アクリル酸、メタクリ酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステルである。また、グリシジルメタクリレート及びアリルグリシジルエーテルが共重合され得る。これらはエポキシ基を含み、このエポキシ基は、さらなる工程においてアミンまたはアミンアルコールを第2アミンに導く、例えばエチルアミン、エチルヘキシルアミン、イソノニルアミン、アニリン、トルイジン、キシリジン、ベンジルアミン、エタノールアミン、3−アミノ−1−プロパノール、1−アミノ−2−プロパノール、5−アミノ−1−ペンタノール、6−アミノ−1−ヘキサノール、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、また共重合されたアセチルアセトキシエチルメタクリレート及びアクリレートは、前述の第1アミンと付加反応に参加し得る。第1アミンでの変換は、水との副反応を少なくして、イソシアネート基に関するポリマーの官能基の反応性を増加させる。
【0035】
ポリビニルアルコール、部分加水分解ポリ酢酸ビニル、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ならびに水分散性ヒドロキシ官能ポリエステル、ヒドロキシ官能スルフォポリエステル、及びポリウレタン分散液、カルボキシル、ヒドキシル、第1または第2アミノ基を有するポリアミドアミンの分散液のような水溶性ヒドロキシ官能バインダーもまた適当である。同様に、1〜100nmの粒子寸法をもつ水性コロイド分散物またはコロイド溶液は、イソシアネート反応性基をもつ熱可塑性ポリマーから出発してコロイドミルで製造できる。例えば、高分子量固体エポキシ樹脂、ポリエチレンビニルアルコール及びポリエチレン・コ−アクリル酸等である。
【0036】
殆んど水を含まない固体状態での、表面安定化された微細粒ポリイソシアネート中のイソシアネート基と、ポリマーのヒドロキシル及びアミノ基の合計との比は、0.1ないし1.5の範囲内であってよい。
【0037】
得られる高粘性ペーストまたは低粘性混合物中へ、不活性または官能性添加物を混入または分散させることができる。官能性添加物には、ポリイソシアネートと反応温度以上において反応し得るヒドロキシル官能性またはアミノ官能性の粉末状または液状の低分子量ないし高分子量化合物が属する。化学量論的比率に対応して適応されることが好ましい。低分子量化合物は、40ないし500g/モルの分子量を有する化合物と理解されるべきであり、そして高分子量化合物はその分子量が5000ないし10000/モルの間にあるものと理解されるべきである。例として、低分子量ないし高分子量液体ポリオール及び/またはポリアミン、固体多官能性ポリオール及び/または芳香族ポリアミンを引用できる。例えば、トリエタノールアミン、ブタンジオール、トリメチロールプロパン、エトキシル化ビスフェノールA、末端エトキシル化ポリプロピレングリコール、3,5−ジエチル−トルリレン−2,4及び2,6−ジアミン、ポリ−テトラメチルオキシド−ジ−(p−アミノベンゾエート)、トリス−ヒドキシルエチル−イソシアヌレート、ハイドロキノン−ビス−ヒドキシルエチルエーテル、ペンタエリスリト、4,4'−メチレン−ビス−(2,6−ジエチルアニリン)等である。
【0038】
水性分散物から出発すると、40〜150℃の範囲内の融点を有する表面不活性化ポリイソシアネートも全く問題なく使用できるという利点がある。架橋温度は35℃ないし90℃の範囲内にあり得る。このような低架橋温度では、感温性基体もこの1成分系へ熱効果により接着され得る。
【0039】
水性の懸濁物、分散物または溶液から得られる層または粉体は、何ヶ月も貯蔵できる。しかし、ポリイソシアネートについて固体フィルムの溶解性によって、室温またはわずかな昇温での貯蔵期間は異なる。本発明による系の無水及び未架橋状態における貯蔵期間は、表面不活性化されていない同じポリイソシアネートを用いた同じ混合物のそれの少なくとも3倍、通常は10倍以上である。接着層(D)は、室温において少なくとも6ヶ月貯蔵安定である。潜在的反応性は、表面不活性化ポリイソシアネート、及びイソシアネートと反応性のポリマーが実質的に未架橋の状態で存在している、実質的に水を含まない層または粉体の状態を表す。
【0040】
接着層(D)を用いた加飾フィルムの使用の更なる利点は、分散媒として水を使用することである。分散物を製造するためのエネルギー消費が少ない。有機溶剤の成分部分は非常に少なく、このことは環境のために非常に有利な処理をもたらす。
【0041】
熱可塑性加工ならびに架橋結合のための熱の供給は、好ましくは対流または輻射熱によって行われる。表面不活性化微粒状ポリイソシアネート及びイソシアネート基含有分散または水溶性ポリマーの貯蔵安定性水性懸濁液、分散液または溶液は、殊にブラッシング、吹き付け、射出、ドクターナイフ法、ペースト付着法、キャスティング、浸漬、押出し、またはローラー沈積により、あるいは印刷法により、塗布され得る。
【0042】
接着層(D)の第2の具体的形態において、表面不活性化微粒状ポリイソシアネート及びイソシアネート反応性基含有分散または水溶性ポリマーの貯蔵安定性分散液は、加飾フィルム面に接着層を形成し得る潜在的反応性の接着性フィルムや接着性テープの形にされ得る。接着性フィルムや接着性テープを製造するためは、分散液は、フィルムまたはテープ層の上に塗布され、その水が室温で、またはポリマーの軟化点までの温度で蒸発される。接着性フィルムや接着性テープは、そのままで、あるいは多層加飾フィルムとして、その使用に至るまで室温で貯蔵され得る。
【0043】
多層加飾フィルムに形成される接着層により形成された潜在的反応性の層は、好ましくは、金属、プラスチック、ガラス、木材、木材複合材、厚紙、箔、合成表面ウエブ、テキスタイルのような軟質または硬質基体のための熱的に結合可能な接着剤結合として使用される。また、アルミニウムやマグネシウムのような難接着基体の貼り合わせにも有効である。
【0044】
本発明の好ましい実施態様の一つとして、本発明の多層加飾フィルムを、接着層を介して基体(又は、基体フィルム)上に70℃以上、好ましくは100℃以上、例えば150℃で5〜120秒、好ましくは10〜90秒の加熱でオーバーレイ(あるいは、成形)した後、室温で接着層(D)が自己架橋する態様が挙げられる。
【0045】
また多層加飾フィルムに形成される接着層に用いられる反応性被覆粉体は、粉体ラッカーのための塗布方法でも処理され得る。ポリイソシアネートの選択によっては、架橋結合温度が低くなり得るので、プラスチックのような感熱性基体でも熱的損傷を受けることなく被覆され得る。
【0046】
多層加飾フィルムに形成される接着層は、被覆粉体が膠着状態の層にまでのみ焼結または溶融されるようにできる。完全な架橋結合は、本多層加飾フィルムを基体に接着させる時の熱処理によって行われ、これは適当な場合には更なる機械的または熱的加工工程の後になされる。
【0047】
また前記表面不活性化ポリイソシアネートを前記イソシアネート反応性ポリマーへ配合する際、予め界面活性剤や増粘剤などの添加剤を用いマスターバッチを作成してから配合するのが望ましい。界面活性剤としてはグリコールエーテル系、増粘剤としてはアクリル系やウレタン系が好ましいが、特に制限されるものではない。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
実施例1
厚み375μmのPMMA(ハードコート層A)を共押出ししたポリカーボネートフィルム(ベースフィルム層B)(バイエルマテリアルサイエンス社製)へスクリーン印刷技術を用いて意匠層(C)を形成した後、表1に示す配合にて調製された接着剤をドライで30μm厚となるようにナイフコーターで塗布後(接着層D)、50℃で乾燥し多層加飾フィルムを得た。
【0050】
【表1】

1)pbw: 重量部
2)特殊アミン: ポリエーテルアミン(BASF社製)
3)ポリグリコールエーテル: エマルビンW(ランクセス社製)
4)アクリル系増粘剤: ボルチゲルALA(ボーシャーズ社製)
5)IPDIトリマー: イソフォロンジイソシアネートの環状3量体イソシアヌレート
6)ディスパコールU: ポリエステルポリウレタンディスパージョン(バイエルマテリアルサイエンス社製):固形分=50重量%
【0051】
比較例1
375μm厚のPMMAを共押出ししたポリカーボネートフィルムへスクリーン印刷技術を用いて意匠層を形成した後、市販アクリル樹脂系粘着剤(感圧接着剤(PSA): MCS65)をドライで25μm厚となるようにナイフコーターで塗布後、50℃で乾燥し多層加飾フィルムを得た。
【0052】
比較例2
375μm厚のPMMAを共押出ししたポリカーボネートフィルムへスクリーン印刷技術を用いて意匠層を形成した後、アクリル系増粘剤で粘度調整したディスパコールUをドライで30μm厚となるようにナイフコーターで塗布後、50℃で乾燥し多層加飾フィルムを得た。
【0053】
<評価方法>
上記方法にて作成した多層加飾フィルムを用いNGF−0690機(布施真空社製)にてポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、及びポリアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、および電着処理鋼板へそれぞれ真空成形加飾した接着サンプルを作成し以下の評価を行った。
【0054】
<接着性:試験結果1>
接着サンプルのフィルムを25mm幅にカッティングしたものを23℃の雰囲気下にて180度剥離にて剥離強度を測定した。
【0055】
<耐熱性:試験結果2>
接着サンプルのフィルムを長さ50mm、幅25mmにカッティングしたものを所定の温度条件下にて180度、500g荷重で1時間後の剥離長さを測定した。また、1時間以内に落下したものについては落下時間を記録した。
【0056】
<耐湿熱性:試験結果3>
接着サンプルのフィルムを長さ50mm、幅25mmにカッティングしたものを80℃、98%RH条件下にて1週間放置後、23℃の雰囲気下で1日養生したサンプルを23℃の雰囲気下にて180度剥離にて剥離強度を測定し、それらの接着強度の保持率を調べた。
【0057】
<試験結果1>
実施例1により得た加飾フィルムを表2に示す各被着物へ適用した場合の接着性試験結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

1) 電着処理層の一部材料破壊
2) 加飾フィルムの材料破壊
【0059】
表2の結果より、実施例1による加飾フィルムを各被着物へ適用した場合、アクリル樹脂系粘着剤PSAを塗工した比較例1と比べ、およそ3倍から4倍の強度が得られた。
【0060】
<試験結果2>
実施例1による加飾フィルムを電着処理鋼板被着物へ適用した場合の耐熱性試験結果を表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
実施例1による加飾フィルムを下記被着物へ用いた場合、130℃においても良好な耐熱性が得られたのに対し、未架橋の系(比較例2)並びに、PSAを塗工した比較例1は、80℃で5秒程度で500gの荷重を保持出来ずに落下した。
【0063】
<試験結果3>
実施例1による加飾フィルムを表4に示す各被着物へ適用した場合の耐湿熱性試験結果を表4に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
実施例1による接着層を塗工した加飾フィルムを用いた場合、被着物がABS及び電着処理鋼板の場合ともに、加水分解性テスト後の接着強度の低下は見受けられず良好な耐湿熱性が得られたのに対し、PSAを塗工した比較例1は、試験後の接着強度が半減した。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の多層加飾フィルムは、接着性、加工性に優れ、且つ成形後の耐熱性、耐加水分解性等の二次物性に優れた多層加飾フィルムである。この多層加飾フィルムは、真空成形、例えば3次元加飾工法(Three dimension Overlay Method:「TOM工法」)により各種の基体、例えば金属、プラスチック基材等へ良好な接着性を示すことから、携帯電話、パソコン躯体、エアコン、テレビ、冷蔵庫、自動車内装用途の加飾のみならず、自動車外装などの耐湿熱性などの耐久性が要求される過酷な用途へも利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハードコート層(A)、ベースフィルム層(B)、意匠層(C)および接着層(D)からなる多層フィルムであって、接着層(D)は、40℃以上の融点を有し且つ200μm以下の粒子寸法を有する少なくとも1種の固体表面不活性化ポリイソシアネート(D1)、及び少なくとも1種のイソシアネート反応性ポリマー(D2)を有するものである事を特徴とする多層加飾フィルム。
【請求項2】
接着層(D)を介して基体上に70℃以上で10〜90秒の加熱でオーバーレイした後、室温で接着層(D)が自己架橋する事を特徴とする請求項1に記載の多層加飾フィルム。
【請求項3】
表面不活性化ポリイソシアネート(D1)の反応温度が、30℃〜180℃の範囲内の反応温度であることを特徴とする請求項1または2に記載の多層加飾フィルム。
【請求項4】
表面不活性化ポリイソシアネート(D1)の融点が40℃〜150℃の範囲内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の多層加飾フィルム。
【請求項5】
固体状態においての表面不活性化ポリイソシアネートのイソシアネート基とイソシアネート反応性ポリマーのヒドロキシル及び/又はアミノ基との間の比が0.1〜1.5の範囲内であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の多層加飾フィルム。
【請求項6】
真空成形または圧空成形における成形型の構造中で内部に空洞および真空孔を必要としない3次元加飾工法用加飾フィルムに要求される、50〜1000%の伸び率、50〜1000kg/cmの抗張力、70〜200℃の加工温度、50N/25mm以上の接着性、および80℃で98%RHの条件下で1週間以上の耐久性を併せ持つことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の多層加飾フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2012−111043(P2012−111043A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259122(P2010−259122)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000183299)住化バイエルウレタン株式会社 (33)
【出願人】(510238904)バイエル マテリアルサイエンス株式会社 (2)
【Fターム(参考)】