説明

多層回路基板、その製造方法、およびそれを備えるモータ

【課題】多層回路基板、その製造方法、およびそれを備えるモータにおいて、小型化を図ることができ、かつ製造が容易となるようにする。
【解決手段】基板2上に配線が多重に積層された多層回路基板1であって、金属インクによって基板2上に描画された第1巻線部4Aと、絶縁インクによって描画され、第1巻線部4Aの少なくとも一部を幅方向に覆って第1巻線部4Aを上方から絶縁する絶縁膜4Bと、絶縁膜4B上で、金属インクによって描画され、第1巻線部4Aの上方を覆う第2巻線部4Cとを備えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層回路基板、その製造方法、およびそれを備えるモータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス製品の軽量化、小型化に伴い、電子部品の薄型化が求められている。そこで、従来、多層基板技術や、これを用いた平面コイルなどの技術が用いられている。
このような電子部品の薄型化のための多層回路基板として、例えば、特許文献1には、多層プリント基板の各層に渦巻き状パターンが形成され、これらの渦巻き状パターンをブラインドバイアホール、インナーバイアホールもしくはスルーホールによって接続することで、多層プリント基板内に平面型コイルを形成したプリント回路基板が記載されている。
【特許文献1】特開平5−183274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来の多層回路基板には、以下のような問題があった。
特許文献1に記載の技術では、多層プリント基板の各層に渦巻き状パターンを形成して、多層コイルを実現するため、1層からなるコイルパターンを基板上に形成する場合に比べてインダクタンスが大きいコイルを形成することができるものの、より大きなインダクタンスを得るためには、多層プリント基板の層数を増す必要があり、層数が増えれば増えるほど、製造プロセスが複雑となって、製造コストが増大してしまうという問題がある。例えば、小型化のため、回路パターンを微細化すると、各層の回路パターンを高精度に重ね合わせる必要があるので、製造に手間がかかってしまう。
また、層数を低減しようとすれば、1層当たりの巻き数を増大する必要があり、コイルの面積が大きくなってしまうという問題がある。
【0004】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、小型化を図ることができ、かつ製造が容易となる多層回路基板、その製造方法、およびそれを備えるモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、基板上に配線が多重に積層された多層回路基板であって、金属インクによって前記基板上に描画された配線部と、絶縁インクによって描画され、前記配線部の少なくとも一部を幅方向に覆って前記配線部を上方から絶縁する絶縁膜と、該絶縁膜上で、前記金属インクによって描画され、前記配線部の上方を覆う積層配線部とを備える構成とする。
この発明によれば、配線部が金属インクによって描画され、絶縁インクを描画して配線部の少なくとも一部を幅方向に覆って上方を絶縁し、この絶縁膜上に金属インクによって描画された薄層の積層配線部を設けられているため、基板上に適宜形状の回路パターンを適宜の層数だけ重ねた多層回路基板を構成することができる。その際、絶縁膜を、配線部および積層配線部と同様に描画して形成するので、配線部と積層配線部とが重なる範囲のみに薄層の絶縁膜を形成することができる。
そのため、配線が複雑化したり、高密度化したりしても、薄型かつ小型の多層回路を容易に製造することができる。例えば、多層プリント基板などに比べて、絶縁膜を格段に薄層化することができるため、層数に比べて薄型の多層回路基板を構成できる。
【0006】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の多層回路基板において、前記絶縁膜は、前記配線部の側方に、傾斜部または段状部を有し、該傾斜部または段状部の上面に前記金属インクによって描画され、前記積層配線部に接続された傾斜配線部が設けられた構成とする。
この発明によれば、絶縁膜に傾斜部または段状部を設け、その上面に金属インクを描画して傾斜配線部を設けることにより、積層配線部と段差のある基板上部分とを接続することができるので、金属インクによる描画のみで、配線部と積層配線との導通させることができる。
【0007】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の多層回路基板において、前記配線部および前記積層配線部は、互いに導通されて多層コイルが形成された構成とする。
この発明によれば、配線部および積層配線部を互いに導通して多層コイルを形成するので、小型であってもインダクタンスの大きなコイルを構成することができる。
【0008】
請求項4に記載の発明では、請求項1〜3のいずれかに記載の多層回路基板において、前記積層配線部は、前記配線部に交差して設けられた構成とする。
この発明によれば、積層配線部を配線部に交差して設けることができるので、高密度の回路配線が容易となる。
【0009】
請求項5に記載の発明では、請求項1〜4のいずれかに記載の多層回路基板において、前記絶縁膜および前記積層配線部は、多重に積層された構成とする。
この発明によれば、絶縁膜および積層配線部を多重に積層することにより、基板上に、より複雑な多層回路を形成することができる。
【0010】
請求項6に記載の発明では、請求項1〜5のいずれかに記載の多層回路基板において、前記絶縁膜は、前記絶縁インクが前記配線部の幅長さ以上に形成された構成とする。
この発明によれば、前記絶縁膜を前記配線部の幅長さ以上に絶縁インクを描画して絶縁膜を形成することにより、前記配線部の基板との密着力が向上し、かつ、マイグレーションによる電気的短絡を防止できる。
【0011】
請求項7に記載の発明では、モータにおいて、請求項1〜6に記載のいずれかに記載の多層回路基板からなるコイル基板を備える構成とする。
この発明によれば、請求項1〜6に記載のいずれかに記載の多層回路基板からなるコイル基板を備えるので、請求項1〜6に記載のいずれかに記載の発明と同様の作用効果を備える。
【0012】
請求項8に記載の発明では、多層回路基板の製造方法において、基板上に金属インクによって配線パターンを描画して配線部を形成する配線部形成工程と、該配線部形成工程で形成された前記配線部の少なくとも一部を幅方向に覆うように、絶縁インクを描画して絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程と、該絶縁膜形成工程で形成された絶縁膜上に、前記金属インクによって描画して前記配線部の上方を覆う積層配線部を形成する積層配線部形成工程とを備える方法とする。
この発明によれば、請求項1に記載の多層回路基板を製造する方法となっているので、請求項1に記載の発明と同様の作用効果を備える。
【0013】
請求項9に記載の発明では、請求項8に記載の多層回路基板の製造方法において、前記絶縁膜形成工程は、前記配線部形成工程で形成された前記配線部の側方に、前記絶縁インクを描画して傾斜部または段状部を形成し、前記積層配線工程では、前記絶縁膜形成工程で形成された前記傾斜部または段状部の上面に前記金属インクを描画することによって前記積層配線部に接続された傾斜配線部を形成する方法とする。
この発明によれば、請求項2に記載の多層回路基板を製造する方法となっているので、請求項2に記載の発明と同様の作用効果を備える。
【0014】
請求項10に記載の発明では、請求項8または9のいずれかに記載の多層回路基板の製造方法において、前記絶縁膜形成工程では、前記絶縁インクを前記配線部の幅長さ以上に描画して絶縁膜を形成する方法とする。
この発明によれば、請求項6に記載の多層回路基板を製造する方法となっているので、請求項6に記載の発明と同様の作用効果を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明の多層回路基板、その製造方法、およびそれを備えるモータによれば、配線部、絶縁膜、積層配線部を金属インクまたは絶縁インクによって描画することにより多層回路を形成するので、小型化を図ることができ、かつ製造が容易となるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0017】
[第1の実施形態]
まず、本発明の第1の実施形態に係る多層回路基板について説明する。
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る多層回路基板の概略構成を示す模式的な部分平面図である。図1(b)、(c)は、それぞれ図1(a)のA−A断面図およびB−B断面図である。図2(a)、(b)は、それぞれ本発明の第1の実施形態に係る多層回路基板の絶縁膜の傾斜部、段状部について説明するための模式的な断面図である。なお、これらの図面は模式図のため、寸法や形状は誇張されている(以下の図面も同様)。
【0018】
本実施形態の多層回路基板1の概略構成について、図1(a)、(b)、(c)に示すようなコイル部4(多層コイル)を備える場合の例で説明する。
多層回路基板1は、少なくとも回路形成面が絶縁で構成された基板2上に、配線が多層に積層された多層回路の一例であるコイル部4が形成されたものである。
基板2の材質は、後述する金属インクを塗布後、焼成することができる耐熱特性を有していれば、特に限定されない。ただし、少なくとも金属インクおよび後述する絶縁インクを塗布する部分では、これらのインクにより良好な形状、層厚に塗布することができ、かつ良好に定着できる表面特性を備えるか、または、適宜の表面処理によって表面性を改善したものを採用する。
例えば、ガラスエポキシプリント基板や、ポリイミドフィルムからなるフレキシブル基板、あるいはこれらの基板表面に対して、例えば、フッ素系などの表面処理剤によってプライマー処理したものなど、あるいは、金属板の表面に絶縁加工を施し、必要に応じて同様のプライマー処理したものなどを採用することができる。
【0019】
コイル部4は、第1巻線部4A(配線部)および第2巻線部4C(積層配線部)が、厚さ方向に絶縁膜4Bを介して略同位置に積層され、第1巻線部4Aと第2巻線部4Cの間が、巻線接続部4c(傾斜配線部)によって電気的に接続され、基板2の厚さ方向に2巻きされた空芯コイルである。
なお、基板2において、コイル部4の内周側の空芯部5には、例えば、ヨークを配置できるように貫通孔を設けてもよい。
【0020】
基板2上の第1層では、第1巻線部4Aが、周方向の端部が隙間6を空けて近接された略C字状に形成され、第1巻線部4Aの周方向の一端部には、第1巻線部4Aの径方向外側に、第1巻線部4Aと同幅で他の回路部(図示略)まで延ばされたリード線部3A(配線部)が形成されている。他の回路部としては、例えば、電流供給を受ける接続端子部や他のコイル部などが挙げられる。
第1巻線部4Aは、揮発性の溶媒内に、例えば銀のナノ粒子などの金属微粒子を分散させた金属インクで描画して塗布した後、乾燥、焼成された導電性パターンからなる。図1(b)、(c)は、模式図のため、第1巻線部4Aを描画時の着弾単位ごとに斜線丸印で表しているが、実際には、着弾後にある程度平面的な広がりが発生するため、図2(a)、(b)に模式的に示すように、それぞれの着弾単位は互いに当接し合い、基板2に略平行な層状の断面が形成される。
【0021】
第1巻線部4Aの厚さは、電気抵抗や、導通の信頼性などの必要に応じて適宜厚さに設定することができるが、例えば、2μmから10μmの範囲に設定することが好ましい。また、乾燥時間をより短縮して製造効率を向上するには、第1巻線部4Aの厚さを3μmから4μmの範囲に設定することがより好ましい。
第1巻線部4Aの線幅は、本実施形態では、100μmとしている。
【0022】
絶縁膜4Bは、適宜の溶媒中に溶解または分散された絶縁インクを描画して塗布した後、乾燥、硬化されたものである。そして、本実施形態では、第1巻線部4Aの一端部から他端部の近傍までの上面と、隙間6とを覆う略C字状の範囲に形成されている。すなわち、絶縁膜4Bの周方向の両端部には、絶縁膜離間部4bが設けられ、絶縁膜離間部4bの間に第1巻線部4Aの他端部がわずかに突出するようになっている。
また、絶縁膜4Bは、第1巻線部4Aより幅広く形成することも出来る。この場合、第一巻線部の外周の外側と内周の内側のいずれかまたは双方において、絶縁膜4Bは基板2上に直接形成されている。
本実施形態では、絶縁膜4Bを描画する絶縁インクは、一例として、エポキシ系の紫外線(UV)硬化樹脂からなる絶縁インクを用いている。なお、図1(b)、(c)に図示する絶縁膜4Bの無地および水玉の丸印の意味は、第1巻線部4Aの斜線の丸印と同様である。
絶縁膜4Bの断面形状は、図1(b)に示すように、隙間6から第1巻線部4Aの一端部側にかけて、基板2の上面から第1巻線部4Aの上面に至るまでの間で、基板2からの高さが斜めにあるいは階段状に増加する絶縁膜傾斜部4a(傾斜部または段状部)が形成されている。
【0023】
ここで、絶縁膜傾斜部4aが傾斜部を形成するか、段状部を形成するかは、第1巻線部4Aおよび絶縁膜4Bの高さや、絶縁インクの吐出量、絶縁インクの粘性、基板2、第1巻線部4Aに対する絶縁インクの表面張力などによって変化する。
例えば、絶縁インクの粘性が小さい場合や、基板2、第1巻線部4Aに対する絶縁インクの表面張力が小さい場合には、着弾後に絶縁インクが広がりやすく、傾斜方向に流動してだれるため、絶縁膜傾斜部4aは、図2(a)に模式的に示すような傾斜部が形成されやすい。
一方、絶縁インクの粘性が大きい場合や、基板2、第1巻線部4Aに対する絶縁インクの表面張力が大きい場合には、着弾後に絶縁インクの広がりが少なく、端部でもだれにくいため、絶縁膜傾斜部4aは、図2(b)に模式的に示すような段状部が形成されやすい。
このため、絶縁膜傾斜部4aの現実的な断面形状は、図2(a)、(b)に示すような理想的な傾斜部および段状部の形状を両極端として、これらの中間的な断面形状、すなわち、凹凸のある傾斜部、あるいは角が丸みを帯びた段状部となる場合が多い。
【0024】
絶縁膜傾斜部4aの平均的な傾斜角は、絶縁膜傾斜部4a上に適切な層厚の第2巻線部4Cを形成しやすくするために、基板2から測って10°〜70°とすることが好ましく、また、配線の実装密度を向上するためには、ある程度大きな角度とすることが好ましいため、60°±10°とすることがより好ましい。
また、絶縁膜傾斜部4aの傾斜形状または段形状を良好に形成するためには、絶縁膜傾斜部4aを構成する際の絶縁膜4Bの膜厚を、第1巻線部4Aの厚さの10%から70%の範囲に設定することが好ましい。
【0025】
絶縁膜4Bの第1巻線部4A上の厚さは、使用条件下で絶縁破壊を起こさない範囲においてできるだけ薄層とすることが好ましく、例えば、2μmから20μmの範囲に設定することが好ましい。
また、絶縁膜4Bは、コイル部4の機能上は、必ずしも第1巻線部4Aの側部を覆っていなくてもよいが、本実施形態では、絶縁膜4Bの幅を第1巻線部4Aの幅よりも広くして、第1巻線部4Aの側面が絶縁膜4Bで覆われるようにしている。第1巻線部4Aの側方における絶縁膜4Bは、図1(c)に示すように、絶縁膜傾斜部4aと同様の傾斜部または段状部として形成された絶縁膜傾斜部4dからなる。
これにより、第2巻線部4Cを第1巻線部4Aと同幅にして、例えば、第2巻線部4Cが側方にはみ出て形成されるといった製造誤差などがあっても、第2巻線部4Cと第1巻線部4Aとの間がショートすることがないようになっている。
【0026】
第2巻線部4Cは、その一端部が、絶縁膜離間部4bに露出した第1巻線部4Aの他端部から、絶縁膜傾斜部4aの上面に沿って、傾斜してあるいは段状に延ばされた巻線接続部4cを介して、第1巻線部4Aの他端と電気的に接続されている。そして、この巻線接続部4cから、第1巻線部4Aを略覆う範囲の絶縁膜4B上に、第1巻線部4Aと略同幅で設けられている。また、第2巻線部4Cの他端は、第1巻線部4Aの他端のやや手前側で終端されている。
なお、図1(a)における第1巻線部4Aの輪郭線(図示破線)と第2巻線部4Cの輪郭線(図示実線)とは、見易さのため位置をずらして描いており、第2巻線部4Cは、第1巻線部4Aと同幅またはわずかに広幅であってもよい。
そして、第2巻線部4Cの他端部は、図1(a)、(c)に示すように、絶縁膜傾斜部4dの上面に沿って形成されたリード線接続部4e(傾斜配線部)を介して、基板2上で径方向外側に延ばされたリード線部3B(配線部)と電気的に接続されている。
これら巻線接続部4c、第2巻線部4C、リード線接続部4e、およびリード線部3Bは、いずれも、第1巻線部4Aと同様な金属インクにより同様な工程によって形成されている。
【0027】
次に、本実施形態の多層回路基板1の製造方法について説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態に係る多層回路基板の製造装置の概略構成を示す模式的な正面図である。図4は、本発明の第1の実施形態に係る多層回路基板の製造方法における工程フローを示すフローチャートである。図5(a)は、本発明の第1の実施形態に係る多層回路基板の製造工程を説明する平面視の模式的な工程説明図である。図5(b)は、図5(a)におけるC−C断面図である。図6(a)、(b)は、図5(a)に続く製造工程の模式的な工程説明図およびそのD−D断面図である。図7は、図6(a)に続く製造工程における図6(b)と同様の断面における工程説明図である。
【0028】
まず、多層回路基板1を製造するために用いる多層回路製造装置10の概略構成について図3を参照して説明する。以下では、便宜上、図3の紙面手前方向をY軸方向、Y軸方向に直交する水平方向(図3の左右方向)をX軸方向、X軸方向およびY軸方向に直交する鉛直方向をZ軸方向と称する。
多層回路製造装置10は、描画パターンに対応する画像データに基づいて、金属インクおよび絶縁インクを吐出して基板に描画するインクジェットプリンタであり、その概略構成は、Y軸移動ステージ13、X軸移動機構14、Z軸移動機構15、ヘッド保持部18、インクジェットヘッド16、インクジェット交換ステージ19、および制御部20からなる。
【0029】
Y軸移動ステージ13は、ベース11上に設けられ、基板2を加熱した状態で水平に保持しY軸方向に移動させるものである。
X軸移動機構14は、ベース11に立設された複数の支柱12によって、Y軸移動ステージ13の上方のX軸方向に架設され、Z軸移動機構15をX軸方向に移動可能に保持するものである。
Z軸移動機構15は、X軸移動機構14上によってX軸方向に移動可能に保持され、Z軸方向に沿ってヘッド保持部18を移動可能に保持するものである。
【0030】
ヘッド保持部18は、Z軸移動機構15によって、Z軸方向に移動可能に保持され、金属インクまたは絶縁インクからなるインクIn(n=1,…,N,Nは3以上の整数)を
図示下方に向けて吐出するインクジェットヘッド16を交換自在に保持するものである。
インクジェットヘッド16は、一定の微少量のインクInを基板2に向かう一定方向に吐出できるものであれば、適宜機構のインクジェットヘッドを採用することができる。例えば、インクInを貯留するインク室に、ピエゾ素子の変形により容積が可変される吐出チャネルが複数接続され、吐出チャネルの容積変化に応じて、吐出チャネルの端部に設けられたノズルプレートから、それぞれインクInが微少量吐出されるような構成を採用することができる。
本実施形態では、ノズルプレートの吐出口が図3のY軸方向に複数配列された構成を採用している。
ヘッド保持部18の側部には、インクジェットヘッド16から吐出されるインクInの吐出範囲に紫外線(UV)を照射するUV光源17が設けられている。
【0031】
インクジェット交換ステージ19は、複数のインクジェットヘッド16を交換可能に保持するもので、ベース11上のY軸移動ステージ13の側方に配置されている。また、特に図示しないが、インクジェット交換ステージ19には、インクジェットヘッド16を必要に応じてクリーニングするヘッドクリーニング部が設けられている。
【0032】
制御部20は、これらY軸移動ステージ13、X軸移動機構14、Z軸移動機構15の移動動作、ヘッド保持部18におけるインクジェットヘッド16の交換動作、UV光源17の照射動作、およびインクジェットヘッド16の吐出動作など、装置全体を制御するためのものである。
制御部20の装置構成は、それぞれの制御機能を適宜のハードウェアによって実現してもよいが、例えば、CPU、メモリ、適宜の入出力インターフェースなどを備えたコンピュータによって、各制御機能を実行するプログラムを実行させることで各制御機能を実現してもよい。
【0033】
次に、このような構成の多層回路製造装置10を用いて、多層回路基板1を製造する方法について、図4のフローチャートを参照して説明する。
本実施形態の多層回路基板1の製造方法は、基板2上に、第1巻線部4A等を形成する配線部形成工程と、第1巻線部4A上に絶縁膜4Bを形成する絶縁膜形成工程と、絶縁膜4B上に第2巻線部4Cを形成する積層配線部形成工程とを備える。
【0034】
まず、ステップS1では、Y軸移動ステージ13上に基板2をセットする。
基板2の多層回路形成面は、金属インクが適切なドット径、層厚で形成されるように、必要に応じて予め表面性を改善するプライマー処理を施しておく。
Y軸移動ステージ13は、制御部20によって、基板2を加熱するために適宜の加熱温度に温度制御される。これにより、基板2上に金属インクが吐出された際に、金属インクの乾燥を促進することができる。
加熱温度は、例えば、30℃〜150℃程度の範囲に加熱することが好ましく、乾燥時間を短縮するために、できるだけ高温に設定することが好ましい。本実施形態では、加熱温度を80℃に設定している。
【0035】
次にステップS2では、制御部20が、以下のステップで基板2上に順次積層して描画する描画パターンの各層の画像データと、これらの積層数Nとを設定する。本実施形態では、N=3とする。
次にステップS3では、カウンタnを0にリセットする。
【0036】
次に、ステップS4〜S8は、カウンタnの値に応じて、配線部形成工程、絶縁膜形成工程、積層配線部形成工程を行う工程である。本実施形態では、n=1、2、3に応じて、配線部形成工程、絶縁膜形成工程、積層配線部形成工程を行う。
【0037】
ステップS4では、カウンタnの値を更新する。 ステップS5では、カウンタnに応じて、第n層を形成する描画材質を選択する。例えば、配線部形成工程を構成するn=1の場合では、制御部20は、第1巻線部4Aを描画するため、インクI1として、第1巻線部4Aを形成する金属インクを選択する。そして、Z軸移動機構15に装着されたインクジェットヘッド16のインク種類を判別し、金属インクが充填されたものでない場合、制御部20は、X軸移動機構14、Z軸移動機構15を駆動して、ヘッド保持部18をインクジェット交換ステージ19に移動し、インクジェットヘッド16を交換する。
【0038】
ステップS6では、制御部20は、X軸移動機構14、Z軸移動機構15を駆動して、ヘッド保持部18に保持されたインクジェットヘッド16を描画開始位置に移動させる。そして、X軸移動機構14をX軸方向に駆動して、n=1の画像データに基づいて、ノズルプレートの吐出口から、一定量の滴上のインクI1を順次吐出し、基板2上に描画、塗布する。
基板2は、本実施形態では、80℃に加熱されているため、基板2に着弾したインクI1ごとに、乾燥が始まり、例えば、4μmの層厚では、およそ60秒以内には十分乾燥される。ただし、ヘッド保持部18の移動速度に同期したインクI1の吐出サイクルは、60秒の間隔が開くように着弾順序をプログラミングすることにより、乾燥時間に比べて十分長い時間となる。このため、互いに隣接して着弾するインクI1は、互いに未乾燥な状態で連接して着弾することはない。
X軸方向の描画が終了すると、Y軸移動ステージ13を所定量駆動して、吐出ノズル数に応じた描画幅分だけY軸方向に移動して、次の描画を行う。これらを繰り返すことで、基板2上には、インクI1により、2次元にパターニングされたインク層が塗布される。
【0039】
例えば、本実施形態では、n=1の画像データに基づいて、図5(a)、(b)に示すように、リード線部3A、第1巻線部4Aを形成する。
リード線部3A、第1巻線部4Aの厚さは、一例としてそれぞれ3μmに形成する。例えば、インクI1の粘性などにより、図5(b)に示すような一層の塗布では所望の層厚が得られない場合には、必要に応じて、同じパターンの全部あるいは一部を重ねて描画してもよい。
【0040】
ステップS7では、ステップS6で塗布されたインク層を乾燥または硬化させる。
n=1では、リード線部3A、第1巻線部4Aの内部に金属のバルクが生成されるまで乾燥させる。Y軸移動ステージ13による基板2の加熱のみでは、乾燥時間がかかりすぎる場合には、例えば、スポット高熱エアーブロー吹き付け、電子ビーム照射、キセノンランプ照射、またはレーザー照射などの適宜の乾燥手段を併用することが好ましい。このような乾燥手段によれば、5秒以内の高速で乾燥させることも可能となる。
乾燥終了後、ステップS8に移行する。
【0041】
ステップS8では、カウンタnが、層数Nより小さいかどうか判定して、層数Nより小さい場合には、ステップS4に移行する。
カウンタnが層数N以上となった場合には、ステップS9に移行する。
【0042】
次に、絶縁膜形成工程を構成するn=2の場合のステップS5〜S7について説明する。
本ステップS5では、ヘッド保持部18に保持されたインクジェットヘッド16をインクジェット交換ステージ19において、絶縁インクからなるインクI2が充填されたイン
クジェットヘッド16に交換する。
本ステップS6では、n=2の画像データに基づいて、図6(a)、(b)に示すように、基板2および第1巻線部4A上に、略C字状の絶縁膜4Bを描画、塗布する。
絶縁膜4Bの周方向の隙間である絶縁膜離間部4bでは、第1巻線部4Aの他端部を上方側に露出させておく。絶縁膜4Bの膜厚は、一例として、2μmとする。
このとき、隙間6から第1巻線部4Aの一端部にかけては、第1巻線部4Aの層厚に対応して3μmの段差があるため、基板2から第1巻線部4Aの上面に向けて絶縁膜傾斜部4aが形成されるように描画する。例えば、まず、隙間6内にインクI2を1層塗布し、
第1巻線部4Aの一端部近傍では、インクI2を重ねて描画することにより、絶縁膜傾斜部4aを形成することができる。
また、第1巻線部4Aの内周部および外周部の近傍にも同様にして絶縁膜傾斜部4dを形成して第1巻線部4Aを覆う。特に、絶縁膜傾斜部4aに対向する端部の径方向の外側の絶縁膜傾斜部4d上には、リード線接続部4eを形成するため、絶縁膜傾斜部4dの傾斜や段形状は絶縁膜傾斜部4aと同様な条件を満たすように形成する。
また、絶縁膜4Bは、第1巻線部4Aより幅広く形成することも出来る。この場合、第一巻線部の外周の外側と内周の内側のいずれかまたは双方において、絶縁膜4Bは基板2上に直接形成されている。
【0043】
本ステップS7では、UV光源17から紫外線を照射することで、絶縁膜4Bを硬化させる。本実施形態では、インクI2として、UV硬化樹脂を用いているため、約30秒以内と、例えば、熱硬化性樹脂に比べて短時間で硬化させることができる。
なお、本ステップS7は、本ステップS6と同時並行して行ってもよい。
【0044】
次に、積層配線部形成工程を構成するn=3の場合のステップS5〜S7について説明する。
本ステップS5では、ヘッド保持部18に保持されたインクジェットヘッド16をインクジェット交換ステージ19において、インクI3が充填されたインクジェットヘッド16に交換する。本実施形態では、インクI3は、インクI1と同様な金属インクである。
本ステップS6では、図1(a)、(b)に示すように、絶縁膜離間部4bにおける第1巻線部4A、絶縁膜4B、および基板2上に、略C字状の第2巻線部4Cおよびリード線部3Bを描画、塗布する。第2巻線部4Cの膜厚は、第1巻線部4Aと同厚とする。
ここで、絶縁膜離間部4bにおける巻線接続部4cは、絶縁膜離間部4bに露出する第1巻線部4Aの他端部の上面から、絶縁膜傾斜部4aに沿って傾斜した、もしくは段状をなす形状に塗布される。
巻線接続部4cが段状部からなる場合には、図7に示すように、必要に応じてインクI3を重ねて描画することで、巻線接続部4cに電気抵抗が良好となる層厚を確保することができる。
また、基板2上のリード線部3Bと第2巻線部4Cとの間は、第1巻線部4Aと絶縁膜4Bとによる5μmの段差があるが、絶縁膜4Bを形成する際、絶縁膜傾斜部4dを形成しているため、巻線接続部4cと同様にリード線接続部4eを描画することで、リード線部3Bと第2巻線部4Cとを電気抵抗が良好となる層厚で導通させることができる(図1(c)参照)。
【0045】
次に本ステップS7では、n=1の場合のステップS7と同様にして、第2巻線部4Cおよびリード線部3Bを乾燥させる。
以上で、基板2上にコイル部4が形成される。
本ステップS7終了後、ステップS8は、n=Nとなっているため、ステップS9に移行する。
【0046】
ステップS9では、コイル部4が形成された基板2をY軸移動ステージ13から外し、例えば、60℃〜800℃程度の範囲に温度設定された加熱炉に搬入して、所定時間かけて金属インクを焼成する。焼成時間としては、銀ナノ粒子を用いた場合、例えば、0.1時間から5時間が好ましい。
このようにして、多層回路基板1を製造することができる。
【0047】
本実施形態の多層回路基板1によれば、基板2上のコイル部4の導電部のパターンをインクI1、I3で、絶縁膜のパターンをインクI2で描画し、それらを交替に積層させて多層回路を形成するので、制御部20によって、描画パターンを設定する画像データを切り替えることで、適宜形状の回路パターンを適宜の層数だけ重ねた多層回路基板1を構成することができる。
これにより、コイル配線を基板上に形成するため、従来必要であったサブトラクティブ法によるコイル基板のエッチング及び多層配線で必要なスルーホールの銅メッキと基板間の接着などが不要となり、製造コストを低減することができる。
また、パソコンなどを用いて机上で描画配線し、その画像データに基づいてオンデマンド方式で多層回路基板を製造することができるので、長大な設備投資をすることなく低コストで多品種に対応可能である。
また、第1巻線部4A、絶縁膜4B、第2巻線部4C、リード線部3A、3Bは、それぞれインクジェットヘッド16のインクを切り替えて描画するので、配線部形成工程、絶縁膜形成工程、積層配線部形成工程を1台の多層回路製造装置10によって、順次行うことができる。その結果、装置間の移送や、位置合わせなどの工程を省略できるので、生産性を向上することができる。
また、絶縁膜4Bは、インクジェットヘッド16によって吐出して形成されるので、厚さ2μm程度と、例えば、多層プリント基板の絶縁層に比べて薄厚に形成することができる。そのため、多層回路基板1の厚さを薄型化することができる。
またインクジェットヘッド16は、各吐出ノズルから微少量のインクを吐出するので、100μm以下の微細な配線ピッチにも容易に対応することができるため、高密度の配線を行うことができる。
【0048】
また、本実施形態では、基板2上の高さが異なるリード線部3Bと第2巻線部4Cなどの間に、絶縁膜4Bによって絶縁膜傾斜部4a、4dなどの傾斜部または段状部上に形成された傾斜配線部である巻線接続部4c、リード線接続部4eを形成して、立体配線を行うことができるので、配線の形成と配線間の接続とが多層回路製造装置10によって同時並行的に行うことができるので、各層間の配線を効率的かつ容易に行うことができる。
【0049】
次に、本実施形態の第1変形例について説明する。
図8は、本発明の第1の実施形態の第1変形例に係る多層回路基板の概略構成を示す模式的な部分平面図である。図9(a)、(b)は、それぞれ図8のE−E断面図およびF−F断面図である。
【0050】
本変形例の多層回路基板1Aは、上記第1の実施形態の厚さ方向に2巻きされたコイル部4に代えて、巻き数を3巻きとしたコイル部40(多層コイル)を備える。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に簡単に説明する。
【0051】
コイル部40は、図8、9に示すように、上記第1の実施形態のコイル部4において、第2巻線部4Cの端部に設けられたリード線接続部4eを削除し、第2巻線部4Cの上層に、絶縁膜4D、第3巻線部4E(積層配線部)を順次積層させて形成し、第3巻線部4Eの端部とリード線部3Bとが、リード線接続部4i(傾斜配線部)によって接続されたものである。
このため、図9(a)に示すように、絶縁膜4Dによって、第2巻線部4Cおよび巻線接続部4cが覆われて、絶縁膜傾斜部4f(傾斜部または段状部)が形成され、第2巻線部4Cと第3巻線部4Eとは、絶縁膜傾斜部4fの上面に沿って形成された巻線接続部4g(傾斜配線部)によって電気的に接続されている。
また、リード線接続部4iは、図8、9(b)に示すように、絶縁膜傾斜部4d上に、絶縁膜4Dの他端部からリード線部3Bの幅よりわずかに広い幅で径方向外側に延ばして形成された絶縁膜傾斜部4h(傾斜部または段状部)の上面に沿って、斜めに形成されている。
絶縁膜傾斜部4hは、上面にリード線接続部4iが良好な層厚で形成されるように、絶縁インクを適宜重ね合わせて描画して、絶縁膜傾斜部4dと同様な傾斜角を有する傾斜部、または、各段の高さが10μmを超えないような段数を有する段状部に形成することが好ましい。
【0052】
このようなコイル部40を製造するには、図4に示す上記第1の実施形態の製造方法において、ステップS2では、N=5に設定する。
n=1、2の場合のステップS5〜S7は、上記第1の実施形態と同様に行う。
そして、n=3の場合のステップS5〜S7において、画像データからリード線部3B、巻線接続部4cのデータを削除した画像データにより描画を行って、第2巻線部4Cを形成する。
【0053】
そして、第2の絶縁膜形成工程であるn=4の場合のステップS5〜S7において、上記第1の実施形態の絶縁膜4Bと同様にして、絶縁膜傾斜部4fを含む絶縁膜4Dを形成する。ここでインクI4は、インクI2と同じ絶縁インクを用いる。
そして、第2の積層配線部形成工程であるn=5の場合のステップS5〜S7において、リード線接続部4iを形成するために画像データを変更し、上記第1の実施形態の第2巻線部4Cと同様にして、巻線接続部4g、リード線接続部4iとともに第3巻線部4Eを形成する。ここでインクI5は、インクI1と同じ絶縁インクを用いる。
このようにして、コイル部40を有する多層回路基板1Aを製造することができる。
本変形例は、配線工程の後に、絶縁膜形成工程と積層配線部形成工程とを複数回行うことにより、導電部が3層以上にわたって積層もしくは交差された多層回路基板およびその製造方法の例となっている。
同様にして、層数Nが7以上の場合も同様にして多層コイルを形成することができる。
本変形例によれば、コイル部の巻き数を厚さ方向に増やせるため、インダクタンスの大きな薄型のコイルを構成することができる。
【0054】
次に、本実施形態の第2変形例について説明する。
図10(a)は、本発明の第1の実施形態の第2変形例に係る多層回路基板の概略構成を示す模式的な部分平面図である。図10(b)は、図10(a)のG−G断面図である。
【0055】
本変形例の多層回路基板1Bは、上記第1の実施形態の厚さ方向に2巻きされたコイル部4に代えて、基板2上で、径方向に2巻きされたコイル部30を備える。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に簡単に説明する。
【0056】
本変形例のコイル部30は、図10(a)、(b)に示すように、上記第1の実施形態の絶縁膜4B、第2巻線部4C、巻線接続部4cに代えて、それぞれ絶縁膜30B、第2巻線部30C、巻線接続部30c(積層配線部)を備える。
絶縁膜30Bは、絶縁膜4Bと略同様の平面視C字状とされており、第1巻線部4Aの一端部とリード線部3Aとの接続部において、リード線部3A側にわずかに延ばされた凸部30aが形成されている点が異なる。絶縁膜30Bは、絶縁膜4Bと同様に、多層回路製造装置10を用いてインクI2により描画されて形成される。
絶縁膜30BのC字状の内周部および外周部には、上記第1の実施形態の絶縁膜傾斜部4dと同様、基板2との間で第1巻線部4Aの側方を覆う絶縁膜傾斜部30e(傾斜部または段状部)が形成されている。
また、絶縁膜傾斜部4aの隙間6およびリード線部3Aの側方における凸部30aでは、それぞれ、絶縁膜傾斜部4aと同様な絶縁膜傾斜部30d(傾斜部または段状部)が形成されている。
このため、絶縁膜30Bの周方向の両端部には、絶縁膜離間部4bが設けられ、絶縁膜離間部4bの間に第1巻線部4Aがわずかに突出するようになっている。
【0057】
第2巻線部30Cは、基板2上に、絶縁膜30Bの外周に近接して形成された平面視略C字状の配線であり、第1巻線部4Aおよび第2巻線部4Cと同様に、多層回路製造装置10を用いて、インクI1またはインクI3により描画されて形成される。
また、第2巻線部30Cの一端側は、絶縁膜30B上において第1巻線部4A、リード線部3Aの幅方向に交差して積層された巻線接続部30c(積層配線部)を介して、絶縁膜離間部4bにわずかに突出する第1巻線部4Aと電気的に接続されている。
【0058】
このような多層回路基板1Bは、上記第1の実施形態の多層回路基板1と同様、層数をN=3とした場合の、図4に示すようなフローによって製造することができる。
ただし、本変形例では、第2巻線部30C、リード線部3Bが、基板2上に形成されているため、第2巻線部30C、リード線部3Bは、n=1の配線部形成工程において、リード線部3A、第1巻線部4Aとともに形成してもよいし、n=3の積層配線部形成工程において、積層配線部である巻線接続部30cとともに形成してもよい。
【0059】
本変形例は、積層配線部が、配線部の一部に対して幅方向に交差して積層されることで、多層回路を形成している場合の例となっている。またこのような積層配線部を用いて、同一の層において径方向に多重に巻線が設けられた多重巻きの平面コイルを形成する場合の例となっている。
本変形例によれば、コイル部の巻き数を径方向に増やせるため、インダクタンスの大きな薄型のコイルを構成することができる。
【0060】
なお、配線部に交差して積層配線部を設ける場合、本変形例のように、必ずしもコイル巻線同士の接続には限定されない。
例えば、互いに導通しない2本の配線を上下に交差させる場合にも適用するように変形してもよい。この場合、配線を多重に交差させる多層回路を構成することができるので、交差を回避する回路パターンに比べて回路面積を低減して小型化を図ることができる。
例えば、コイル内の空芯部5にホール素子を配置する場合のホール素子に対する配線をコイルと交差させてコイル外部に導く場合などにも適用することができる。
【0061】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る、多層回路基板を備えたモータについて説明する。
図11(a)は、本発明の第2の実施形態に係る、多層回路基板を備えたモータの概略構成を示す模式的な軸方向断面図である。図11(b)は、図11(a)のH−H断面図である。
【0062】
本実施形態のモータ100は、図11(a)、(b)に示すように、コイル基板101(多層回路基板)の中心にシャフト104が立設され、軸受108を介して、ロータ105が回転支持されてなる面対向型のDCブラシレスモータである。
コイル基板101は、回路形成面が絶縁処理された金属製の基板102上に、複数の空芯コイルであるコイル部103が放射状に形成されている。基板102は、コイル部103の支持部材であるとともに、モータのヨーク部材を兼ねている。
各コイル部103からは、基板102上に形成された複数のリード線部110(配線部)によって、適宜結線されている。基板102の端部には、コイル電流を供給するための複数のランド部111(配線部)が設けられ、リード線部110によって各コイル部103と電気的に接続されている。
コイル基板101のコイル部103は、上記第1の実施形態に説明した多層回路基板の製造方法を用いて、基板102上に多層回路を形成することで構成されている。また、リード線部110、ランド部111は、基板102と同様に金属インクを描画して形成された配線である。
コイル部103の配線の厚さ方向の積層数、および径方向の巻き数は、良好のインダクタンスが得られるように、必要に応じて適宜設定することができる。したがって、上記第1の実施形態のコイル部4、40、30などと同様な構成、あるいは、コイル部30において、さらに厚さ方向の層数を複数にしたような構成はすべて採用することができる。
【0063】
このようなモータ100によれば、コイル基板101として、上記第1の実施形態で説明した多層回路基板の製造方法によって製造された多層回路基板を用いるので、例えば、多層プリント基板で構成された平面コイルなどに比べて厚さを薄くすることができる。このため、モータ100の高さを薄型化し、小型のモータを構成することができる。
【0064】
なお、上記の説明では、配線部、絶縁膜、および積層配線部をそれぞれインクジェットプリンタによって描画する例で説明したが、描画手段としては、インクジェットプリンタに限定されるものではない。例えば、平面状に線状のパターンを描画するディスペンサを用いてもよい。
【0065】
また、上記の第1の実施形態の説明では、多層回路製造装置10として、描画するインクの種類によって、複数のインクジェットヘッド16を交換する場合の例で説明したが、予めヘッド保持部18に複数種類のインクを吐出する複数のインクジェットヘッドを備え、制御部20の制御信号に応じて、吐出するインク種類を選択的に切り替えて描画を行うようにしてもよい。
【0066】
また、上記の第1の実施形態の説明では、配線を描画する基板表面が絶縁体もしくは絶縁加工された場合の例で説明したが、基板として、予め金属による配線が形成され、端子部やランド部などの導電部が表面に露出されたプリント基板を採用し、このプリント基板上の導電部から金属インクによる配線を描画してもよい。
例えば、上記第2の実施形態のコイル基板101において、コイル基板101を予め導体部としてランド部111が形成されたプリント基板を用い、この上にコイル部103、リード線部110を描画してもよい。
【0067】
また、上記の第1の実施形態の第2変形例の説明では、絶縁膜30Bを第1巻線部4Aの全体およびリード線部3Aの一部の上面に形成した例で説明したが、絶縁膜は、積層配線部と配線部とが積層する範囲に設けられていればよい。そのため、絶縁膜30Bは、巻線接続部30cの下方のみに設けるようにしてもよい。
【0068】
また、上記の第1の実施形態の説明では、図4のステップS7の描画された第n層を乾燥または硬化させる工程を多層回路製造装置10上に基板2を載置した状態で行う場合の例で説明したが、第n層が描画された基板2を、乾燥または硬化させるため、例えば、オーブン炉や還元炉などの装置に投入して行ってもよい。
【0069】
また、上記の説明では、配線部、積層配線部の一部が、表面に露出する場合の例で説明したが、必要に応じて、これらの上面に、絶縁膜を形成してもよい。この絶縁膜は、絶縁インクを描画して必要部分のみに形成してもよいし、コーティングなどによって、全面的に形成してもよい。
【0070】
また、上記に説明したすべての構成要素は、技術的に可能であれば、本発明の技術的思想の範囲で適宜組み合わせて実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る多層回路基板の概略構成を示す模式的な部分平面図、そのA−A断面図およびB−B断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る多層回路基板の絶縁膜の傾斜部、段状部について説明するための模式的な断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る多層回路基板の製造装置の概略構成を示す模式的な正面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る多層回路基板の製造方法における工程フローを示すフローチャートである。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る多層回路基板の製造工程を説明する平面視の模式的な工程説明図、およびそのC−C断面図である。
【図6】図5に続く製造工程の模式的な工程説明図およびそのD−D断面図である。
【図7】図6に続く製造工程における工程説明図である。
【図8】本発明の第1の実施形態の第1変形例に係る多層回路基板の概略構成を示す模式的な部分平面図である。
【図9】図8のE−E断面図およびF−F断面図である。
【図10】本発明の第1の実施形態の第2変形例に係る多層回路基板の概略構成を示す模式的な部分平面図、およびそのG−G断面図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る、多層回路基板を備えたモータの概略構成を示す模式的な軸方向断面図、およびそのH−H断面図である。
【符号の説明】
【0072】
1、1A、1B 多層回路基板
2、102 基板
3A、3B リード線部(配線部)
4 コイル部(多層コイル)
4A、30A 第1巻線部(配線部)
4B、4D、30B 絶縁膜
4C 第2巻線部(積層配線部)
4E 第3巻線部(積層配線部)
4a、4d、4f、4h、30d、30e 絶縁膜傾斜部(傾斜部または段状部)
4b 絶縁膜離間部
4c、4g 巻線接続部(傾斜配線部)
4e、4i リード線接続部(傾斜配線部)
10 多層回路製造装置
16 インクジェットヘッド
17 UV光源
20 制御部
30C 第2巻線部(配線部)
30c 巻線接続部(積層配線部)
100 モータ
101 コイル基板
103 コイル部
110 リード線部
111 ランド部
1、I3、I5 インク(金属インク)
2、I4 インク(絶縁インク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に配線が多重に積層された多層回路基板であって、
金属インクによって前記基板上に描画された配線部と、
絶縁インクによって描画され、前記配線部の少なくとも一部を幅方向に覆って前記配線部を上方から絶縁する絶縁膜と、
該絶縁膜上で、前記金属インクによって描画され、前記配線部の上方を覆う積層配線部とを備えることを特徴とする多層回路基板。
【請求項2】
前記絶縁膜は、前記配線部の側方に、傾斜部または段状部を有し、
該傾斜部または段状部の上面に前記金属インクによって描画され、前記積層配線部に接続された傾斜配線部が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の多層回路基板。
【請求項3】
前記配線部および前記積層配線部は、互いに導通されて多層コイルが形成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の多層回路基板。
【請求項4】
前記積層配線部は、前記配線部に交差して設けられたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の多層回路基板。
【請求項5】
前記絶縁膜および前記積層配線部は、多重に積層されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多層回路基板。
【請求項6】
前記絶縁膜は、前記絶縁インクが前記配線部の幅長さ以上に形成されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の多層回路基板。
【請求項7】
請求項1〜6に記載のいずれかに記載の多層回路基板からなるコイル基板を備えるモータ。
【請求項8】
基板上に金属インクによって配線パターンを描画して配線部を形成する配線部形成工程と、
該配線部形成工程で形成された前記配線部の少なくとも一部を幅方向に覆うように、絶縁インクを描画して絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程と、
該絶縁膜形成工程で形成された絶縁膜上に、前記金属インクによって描画して前記配線部の上方を覆う積層配線部を形成する積層配線部形成工程とを備えることを特徴とする多層回路基板の製造方法。
【請求項9】
前記絶縁膜形成工程は、前記配線部形成工程で形成された前記配線部の側方に、前記絶縁インクを描画して傾斜部または段状部を形成し、
前記積層配線工程では、前記絶縁膜形成工程で形成された前記傾斜部または段状部の上面に前記金属インクを描画することによって前記積層配線部に接続された傾斜配線部を形成することを特徴とする請求項8に記載の多層回路基板の製造方法。
【請求項10】
前記絶縁膜形成工程では、前記絶縁インクを前記配線部の幅長さ以上に描画して絶縁膜を形成することを特徴とする請求項8または9のいずれかに記載の多層回路基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−76880(P2009−76880A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207627(P2008−207627)
【出願日】平成20年8月12日(2008.8.12)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】