説明

多層塗工シートおよびその製造方法

【課題】アニオン性塗液とカチオン性塗液とを多層塗工する際の乾燥工程数を減らすことができ、しかもアニオン性塗液中のアニオン性化合物とカチオン性塗液中のカチオン性化合物との凝集が防止された多層塗工シートの製造方法を提供する。
【解決手段】支持体10上に、アニオン性塗液21aおよびカチオン性塗液22aを塗工して多層塗工シートを製造する方法であって、支持体10上にアニオン性塗液21aを塗工し、この塗工したアニオン性塗液21aの上に、ノニオン性の中間層形成用塗液23aを塗工し、この塗工した中間層形成用塗液23aの上にカチオン性塗液22aを塗工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、インクジェット記録用シートなどのような、アニオン性層とカチオン性層とを有する多層塗工シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水性インクを微細なノズルから記録用シートに向かって噴出し、該シートの記録面上に画像を形成させるインクジェット記録方式は、記録時の騒音が少ないこと、フルカラー画像の形成が容易であること、高速記録が可能であること、および、他の印刷装置より記録コストが安価であることなどの理由により、端末プリンタ、ファクシミリ、プロッタ、あるいは帳票印刷等で広く利用されている。
【0003】
インクジェット記録方式に適する記録用シートとしては、インク受容層を有するインクジェット記録用シートが広く使用されている。このインクジェット記録用シートにおいては、記録の高画質化・高速化を実現するために、インク乾燥性とインク定着性とが共に優れたものが要求されている。
その要求を満たすために、例えば、特許文献1では、インクジェット記録用シートのインク受容層を、微粒子とバインダとを含有するインク吸収層、および、微粒子とバインダとインク定着剤とを含有するインク定着層とから構成することが提案されている。
【特許文献1】特開平10−71764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、インクジェット記録用シートにおけるインクはアニオン性のものであるため、インク定着層中のインク定着剤としては、カチオン性化合物が使用され、インク定着層を形成するための塗液はカチオン性であることが多かった。一方、インク吸収層中の微粒子はアニオン性である場合が多いため、インク吸収層を形成する塗液はアニオン性であることが多かった。
ところで、支持体上に複数の層が形成された多層塗工シートを製造するためには、工程の簡略化等を目的として、スライドビードコータやカーテンコータなど用いて支持体上に同時多層塗工を行うことがある。しかしながら、上記のようなインク吸収層とインク定着層とを有するインクジェット記録用シートを製造するために、アニオン性のインク吸収層形成用塗液上にカチオン性のインク定着層形成用塗液を同時多層塗工した場合には、アニオン性の微粒子とカチオン性のインク定着剤とが反応して凝集した。その結果、工程にトラブルが生じたり、得られるインクジェット記録用シートの品質が低下したりする問題があった。
また、インク受容層としてインク吸収層とインク定着層とを有するインクジェット記録用シートを製造するために、支持体上にインク吸収層形成用塗液を塗工した後、乾燥せずに、インク定着層形成用塗液を塗工するいわゆるウェット・オン・ウェット塗工法を適用した場合にも、同時多層塗工法と同様に微粒子とカチオン性化合物との凝集が見られた。
【0005】
このような理由から、インク受容層としてインク吸収層およびインク定着層を有するインクジェット記録用シートを製造する場合には、アニオン性のインク吸収層形成用塗液上にカチオン性のインク定着層形成用塗液を、乾燥せずに塗工する方法を採ることができなかった。したがって、従来では、支持体上に、インク吸収層形成用塗液を塗工後、乾燥してインク吸収層を形成した後、乾燥したインク吸収層上にインク定着層形成用塗液を塗工していた。しかしながら、この製造方法では、乾燥工程数が多くなるため、生産性が低下して、コストが高くなるという問題があった。
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、カチオン性層とアニオン性層とを有しているにもかかわらず、少ない乾燥工程数で製造でき、低コストである多層塗工シートを提供することを目的とする。また、アニオン性塗液とカチオン性塗液とを多層塗工する際の乾燥工程数を減らすことができ、しかもアニオン性塗液中のアニオン性化合物とカチオン性塗液中のカチオン性化合物との凝集が防止された多層塗工シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成を含むものである。
[1]支持体と、該支持体上に形成された塗工層とを有する多層塗工シートにおいて、
塗工層が、アニオン性層と、カチオン性層と、アニオン性層とカチオン性層との間に形成されたノニオン性の中間層とを備えることを特徴とする多層塗工シート。
[2]支持体上に、アニオン性塗液およびカチオン性塗液を塗工して多層塗工シートを製造する方法であって、
支持体上にアニオン性塗液を塗工し、この塗工したアニオン性塗液の上に、ノニオン性の中間層形成用塗液を塗工し、この塗工した中間層形成用塗液の上にカチオン性塗液を塗工することを特徴とする多層塗工シートの製造方法。
[3]支持体上に、カチオン性塗液およびアニオン性塗液を塗工して多層塗工シートを製造する方法であって、
支持体上にカチオン性塗液を塗工し、この塗工したカチオン性塗液の上に、ノニオン性の中間層形成用塗液を塗工し、この塗工した中間層形成用塗液の上にアニオン性塗液を塗工することを特徴とする多層塗工シートの製造方法。
[4]支持体上に、アニオン性塗液およびカチオン性塗液を重ねて塗工して多層塗工シートを製造する方法であって、
支持体上に、アニオン性塗液と、ノニオン性の中間層形成用塗液と、カチオン性塗液とを同時多層塗工することを特徴とする多層塗工シートの製造方法。
[5]アニオン性塗液およびカチオン性塗液が微粒子を含み、多層塗工シートがインクジェット記録用シートである[2]〜[4]のいずれかに記載の多層塗工シートの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多層塗工シートは、カチオン性層とアニオン性層とを有しているにもかかわらず、少ない乾燥工程数で製造でき、低コストである。
本発明の多層塗工シートの製造方法によれば、アニオン性塗液とカチオン性塗液とを多層塗工するにもかかわらず、乾燥工程数を減らすことができ、しかもアニオン性塗液中のアニオン性化合物とカチオン性塗液中のカチオン性化合物との凝集を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の多層塗工シートの一実施形態についてインクジェット記録用シートを例にとって説明する。ただし、本発明の多層塗工シートは、インクジェット記録用シートに限定されるものではない。
図1に、本実施形態の多層塗工シートであるインクジェット記録用シートを示す。このインクジェット記録用シート1は、支持体10と、支持体10上に形成された塗工層であるインク受容層20とを有するものである。さらに、インク受容層20は、アニオン性層21と、カチオン性層22と、アニオン性層21とカチオン性層22との間に形成されたノニオン性の中間層23とを有している。また、このインク受容層20は、アニオン性層21側の面が支持体10に接している。
【0009】
[支持体]
インクジェット記録用シート1における支持体10としては、透気性支持体、非透気性支持体のいずれでも使用できるが、非透気性支持体が好ましい。非透気性支持体を用いた場合には、印字した際に、インク中に含まれる水分等の溶媒の影響で記録用シートが伸びて波打つ、いわゆるコックリングという欠陥を抑制できるからである。ただし、非透気性支持体の場合、支持体10でインクを吸収することができないので、インク受容層20で充分な吸収力を持たせることが必要である。
また、支持体10は透明であってもよいし、不透明であってもよい。
【0010】
具体的な支持体10としては、セロハン、ポリエチレン、ポリプロピレン、軟質ポリ塩化ビニル、硬質ポリ塩化ビニル、ポリエステル等のフィルム類、上質紙、アート紙、コート紙、キャスト塗被紙、箔紙、クラフト紙、ポリオレフィン樹脂被覆紙、含浸紙、蒸着紙、水溶性紙等の紙類、金属フォイル、合成紙などのシート類が例示されるが、写真調のインクジェット記録用シートにするためには、アート紙、コート紙、バライタ紙、印画紙原紙、合成紙、ポリオレフィン樹脂被覆紙が好ましい。中でも、合成紙、ポリエチレン樹脂被覆紙がより好ましく、とりわけ、酸化チタンを練り込んだポリエチレン樹脂被覆紙、所謂RC紙からなる支持体10は、仕上がった外観が写真印画紙と同等であるため、特に好ましく用いられる。また、支持体10としてRC紙を用いた場合には、本発明の効果がとりわけ発揮される。
【0011】
ポリエチレン樹脂被覆紙では、ポリエチレン層の厚みは3〜50μmであることが好ましく、5〜30μmであることがより好ましい。ポリエチレン層の厚みが3μm未満であると、樹脂被覆時にポリエチレン樹脂の穴等の欠陥が多くなりやすく、厚みのコントロールが困難になる場合が多く、平滑性も得にくくなる。一方、50μmを超えると、コストが増加する割には、得られる効果が小さく、不経済である。
【0012】
支持体10は、必要に応じて、公知のアンカーコート処理、コロナ処理などを施すことできる。また、インク受容層20が形成される側の面に、ゲル化剤が塗工されていてもよい。ここで、ゲル化剤とは、インク受容層20中に含まれる樹脂成分を架橋するものである。具体的には、インク受容層20中のバインダがポリビニルアルコールまたは各種変性ポリビニルアルコールである場合のゲル化剤としては、グリオキザールなどのアルデヒド系架橋剤、エチレングリコールジグリシジルエーテルなどのエポキシ系架橋剤、ビスビニルスルホニルメチルエーテルなどのビニル系架橋剤、ホウ酸及びホウ砂などのホウ素含有化合物、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物、クロム化合物等が挙げられる。これらの中でも、増粘又はゲル化が速いことから、架橋剤が好ましく、ホウ素含有化合物がより好ましい。
【0013】
ここで、ホウ素含有化合物とは、ホウ素原子を中心原子とする酸素酸及びその塩のことである。具体例としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、次ホウ酸、四ホウ酸、五ホウ酸、及びそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が挙げられる。これらのなかでも、塗工液を適度に増粘させる効果がある点から、オルトホウ酸と四ホウ酸二ナトリウムが好ましく用いられる。
【0014】
[インク受容層]
インク受容層20はアニオン性層21を有している。本発明において、アニオン性層は、アニオン性を有する層であり、アニオン性塗液の塗工により形成された層である。
ここで、アニオン性塗液とは、アニオン性化合物を含む塗液であって、塗液を試料としてゼータ電位を測定した際に電位が負になるものである。なお、アニオン性塗液のゼータ電位は、−50mV以上0mV未満であることが好ましい。
アニオン性化合物としては、アニオン性微粒子、カルボン酸系化合物、スルホン酸系化合物、リン酸系化合物、エステル系化合物、またはこれらの塩などが挙げられる。
【0015】
アニオン性微粒子としては、例えば、コロイダルシリカ、無定形シリカ、酸化チタン、硫酸バリウム、カオリン、クレー、焼成クレー、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ゼオライト(天然ゼオライト、合成ゼオライト)、セピオライト、スメクタイト、合成スメクタイト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、珪藻土、ハイドロタルサイトが挙げられる。アニオン性微粒子の平均二次粒子径は、特に光沢性の観点から、0.7μm以下であることが好ましい。
【0016】
カルボン酸系化合物としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、リンゴ酸、酒石酸、シクロプロパンジカルボン酸等の脂肪族飽和ジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、カルボキシフェニル酢酸、カルボキシフェニルプロピオン酸、フェニレンジ酢酸等の芳香族ジカルボン酸、トリカルバリル酸、トリメリト酸等の3価以上のポリカルボン酸等が挙げられる。
また、カルボン酸系化合物として、例えば、アクリル酸ホモポリマー、アクリル酸−マレイン酸共重合体、α−ヒドロキシアクリル酸ホモポリマー、C5オレフィン−マレイン酸共重合体、イソブチレン−マレイン酸共重合体等、及びこれらのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、アミン塩を使用することもできる。
【0017】
スルホン酸系化合物としては、例えば、ジフェニルエーテルスルホン酸、n−ブチルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、n−アミルベンゼンスルホン酸、n−オクチルベンゼンスルホン酸、n−ドデシルベンゼンスルホン酸、n−オクタデシルベンゼンスルホン酸、n−ジブチルベンゼンスルホン酸、及びアルキルナフタレンスルホン酸、iso−プロピルナフタレンスルホン酸、ドデシルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、キナクリドンスルホン酸類などが挙げられる。また、それらのナトリウム塩、カリウム塩のような金属塩類、それらのアンモニウム塩などが挙げられる。
また、スルホン酸系化合物として、スチレンスルホン酸ポリマー及びこのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、アミン塩を使用できる。
【0018】
エステル系化合物の具体例としては、アルキル硫酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸、トリスチレン化フェノール硫酸エステル、ポリオキシアルキレンジスチレン化フェノール硫酸エステル、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル,メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル,メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ラウリル,メタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、フマル酸メチル、フマル酸エチル、フマル酸プロピル、フマル酸ブチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジブチル、マレイン酸メチル、マレイン酸エチル、マレイン酸プロピル、マレイン酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジブチル、アルキルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンリン酸エステルなどが挙げられる。また、それらのナトリウム塩、カリウム塩のような金属塩類、それらのアンモニウム塩などが挙げられる。
【0019】
本実施形態におけるアニオン性層21には、上記アニオン性化合物のうち、アニオン性微粒子が含まれることが好ましい。
また、本実施形態におけるアニオン性層21には、バインダとして機能するノニオン性のノニオン性樹脂(B)が含まれる。
【0020】
ここで、ノニオン性のノニオン性樹脂(B)としては、水溶性樹脂および/または水分散性樹脂が挙げられる。
ここで、水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、シリル変性ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白質類、澱粉、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルアクリルアミド及びポリビニルピロリドン等が挙げられる。
水分散性樹脂としては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、スチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系共重合体ラテックスなどが挙げられる。
【0021】
インク受容層20はカチオン性層22を有している。本発明において、カチオン性層は、カチオン性を有する層であり、カチオン性塗液の塗工により形成された層である。
ここで、カチオン性塗液とは、カチオン性化合物を含む塗液であって、塗液を試料としてゼータ電位を測定した際に電位が正になるものである。なお、カチオン性塗液のゼータ電位は、0mVを超え+60mV以下であることが好ましい
カチオン性化合物としては、例えば、カチオン性微粒子、カチオン性樹脂、カチオン性界面活性剤、水溶性金属化合物などが挙げられる。
【0022】
カチオン性微粒子としては、アルミナ、アルミナ水和物、アルミノシリケートなどが挙げられる。また、カチオン性微粒子として、シリカ、コロイダルシリカなどのアニオン性微粒子の表面を、カチオン性樹脂、水溶性多価金属塩、シランカップリング剤などで処理したカチオン化シリカを使用することもできる。
【0023】
カチオン性樹脂としては、例えば、1)ポリエチレンポリアミンやポリプロピレンポリアミンなどのポリアルキレンポリアミン類またはその誘導体、2)第2級アミノ基、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル重合体、3)ポリビニルアミンおよびポリビニルアミジン類、4)ジシアンジアミド・ホルマリン共重合体、5)ジシアンジアミド・ポリエチレンアミン共重合体、6)エピクロルヒドリン・ジメチルアミン共重合体、7)ジアリルジメチルアンモニウム−SO重縮合体、8)ジアリルアミン塩・SO重縮合体、9)ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体、10)ジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体、11)アリルアミン塩の共重合体、12)ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩共重合体、13)アクリルアミド・ジアリルアミン共重合体、14)5員環アミジン構造を有する重合体、15)カチオン変性ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0024】
本実施形態におけるカチオン性層22には、上記カチオン性化合物のうち、カチオン性樹脂が含まれる。
また、本実施形態におけるカチオン性層22には、バインダとして機能するノニオン性のノニオン性樹脂(C)が含まれる。カチオン性層22中のノニオン性樹脂(C)としては、ノニオン性樹脂(B)と同じものが挙げられる。
【0025】
なお、カチオン性層22には、上記アニオン性化合物が含まれていても構わない。ただし、アニオン性化合物の含有量は、カチオン性塗液のカチオン性が維持される範囲内の量である。
【0026】
インク受容層20は中間層23を有している。本発明において、中間層はノニオン性の層であり、ノニオン性塗液の塗工により形成された層である。
ここで、ノニオン性塗液とは、ノニオン性化合物を主成分として含む塗液であって、ゼータ電位がほぼ0mVの塗液であり、弱いカチオン性またはアニオン性を示してもよい。
ノニオン性化合物としては、ノニオン性微粒子、ノニオン性樹脂、などが挙げられる。
ノニオン性微粒子としては、例えば、有機顔料などが挙げられ、有機顔料の具体例としては、アクリルあるいはメタクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、スチレン−イソプレン系樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、シリコーン系樹脂、尿素樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂などの微粒子が挙げられる。
ノニオン性樹脂としては、ノニオン性樹脂(B)と同様のものが挙げられる。
【0027】
中間層23には、ノニオン性微粒子とノニオン性樹脂(A)とが含まれる。ノニオン性樹脂(A)は、凝集物発生防止の点から、アニオン性層21中のノニオン性樹脂(B)またはカチオン性層22中のノニオン性樹脂(C)と同じ単量体単位から構成されていることが好ましく、アニオン性層21中のノニオン性樹脂(B)およびカチオン性層22中のノニオン性樹脂(C)と同じ単量体単位から構成されていることがより好ましい。
【0028】
また、中間層23中のノニオン性樹脂(A)、アニオン性層21中のノニオン性樹脂(B)、カチオン性層22中のノニオン性樹脂(C)は、インクジェット記録用シート製造時にアニオン性微粒子とカチオン性化合物との凝集をより防止できることから、いずれも平均重合度3000〜7500のポリビニルアルコールであることが好ましい。なお、ポリビニルアルコールの平均重合度が3000未満では、得られるインク受容層の耐水性が不充分になる傾向にあり、7500を超えるものは、実用上、入手が困難である。
中間層23中のノニオン性樹脂(A)、アニオン性層21中のノニオン性樹脂(B)、カチオン性層22中のノニオン性樹脂(C)がポリビニルアルコールである場合には、中間層23中のポリビニルアルコールの平均重合度が、アニオン性層21中のポリビニルアルコールまたはカチオン性層22中のポリビニルアルコールの平均重合度と略同等であることが好ましく、アニオン性層21中のポリビニルアルコールおよびカチオン性層22中のポリビニルアルコールの平均重合度と略同等であることがより好ましい。
【0029】
アニオン性層21、カチオン性層22、中間層23には、必要に応じて、各種分散剤、界面活性剤、増粘剤、消泡剤、着色剤、帯電防止剤、防腐剤、紫外線吸収剤、保存性改良剤、蛍光増白剤等の各種助剤が含まれていてもよい。ただし、助剤の含有量は、アニオン性層21においてはアニオン性を維持する範囲、カチオン性層22においてはカチオン性を維持する範囲、中間層23においてはノニオン性を維持する範囲でなければならない。
【0030】
(インクジェット記録用シートの製造方法)
上記インクジェット記録用シートを製造するためには、支持体上にアニオン性塗液を塗工し、この塗工したアニオン性塗液の上に中間層形成用塗液を塗工し、この塗工した中間層形成用塗液の上にカチオン性塗液を塗工すればよい。
本実施形態におけるアニオン性塗液は、水中にアニオン性微粒子およびノニオン性樹脂(B)が分散した塗液であり、カチオン性塗液は、水中にカチオン性化合物およびノニオン性樹脂(C)が分散した塗液であり、中間層形成用塗液は、水中にノニオン性微粒子およびノニオン性樹脂(A)が分散した塗液である。
【0031】
上記アニオン性塗液、カチオン性塗液、中間層形成用塗液の塗工方法としては特に制限されないが、製造効率に優れる上に製造装置のスペースをより小さくできることから、支持体上にアニオン性塗液とカチオン性塗液と中間層形成用塗液とを同時多層塗工する方法が好ましい。ここでいう、同時多層塗工とは、支持体に2以上の塗液を同時に塗工して多層構造を形成する方法である。
同時多層塗工する際に適用される塗工装置としては、スライドビードコータ、カーテンコータなどが挙げられる。
【0032】
以下、支持体上にアニオン性塗液とカチオン性塗液と中間層形成用塗液とをスライドビードコータにより同時多層塗工する実施形態について説明する。
図2に、同時多層塗工を行うスライドビードコータを示す。このスライドビードコータ100は、支持体10を周面に巻き付けて移送するバックアップロール110と、バックアップロール110に隣接し、バックアップロール110に向けて下方に傾斜したスライド面121が形成されたスライドヘッド120とを具備するものである。
また、スライドヘッド120には、アニオン性塗液21a、中間層形成用塗液23a、カチオン性塗液22aをスライド面121に各々供給するための供給流路122a,122b,122cが形成されている。なお、スライド面121における供給流路122bの出口は供給流路122aの出口よりも高く、かつ、バックアップロール110から離れた位置にて開口しており、供給流路122cの出口は供給流路122bの出口よりも高く、かつ、バックアップロール110から離れた位置にて開口している。
【0033】
スライドビードコータ100を用いた同時多層塗工では、支持体10を回転するバックアップロール110の周面の下側に支持体10を接触させる。そして、バックアップロール110を回転させて、支持体10をバックアップロール110の周面の下側から上側にかけて巻き付けながら搬送する。
また、スライドヘッド120の供給流路122aにアニオン性塗液21aを所定量供給し、供給流路122aの出口からスライド面121に流出させる。それと共に、供給流路122bに中間層形成用塗液23aを所定量供給し、供給流路122bの出口からスライド面121に流出させ、供給流路122cにカチオン性塗液22aを所定量供給し、供給流路122cの出口からスライド面121に流出させる。その際、スライド面121上では、アニオン性塗液21aの流れの上に中間層形成用塗液23aの流れ、カチオン性塗液22aが順次重なって多層流れ20aを形成する。そして、形成した多層流れはスライド面121に沿って流下し、バックアップロール110上の支持体10に接触して付着する。ここで、支持体10はバックアップロール110の回転に伴って搬送され、多層流れ20aが付着する位置が連続的にずれていくため、多層流れ20aが支持体10上に膜状に塗工される。そして、乾燥工程を経て、支持体10上に、アニオン性層21と中間層23とカチオン性層22とが順次形成されたインクジェット記録用シート1(図1参照)を得る。
【0034】
上記スライドビードコータ100を用いた製造方法のように、同時多層塗工する場合には、アニオン性塗液、中間層形成用塗液、カチオン性塗液の粘度が重要であり、具体的には、アニオン性塗液、中間層形成用塗液、カチオン性塗液の粘度の粘度は10〜120mPa・sであることが好ましい。また、アニオン性塗液の粘度は中間層形成用塗液の粘度より5mPa・s以上大きく、中間層形成用塗液の粘度はアニオン性塗液の粘度より5mPa・s以上大きいことが好ましい。粘度がこのような範囲であれば、塗液同士の界面が乱れにくいため、安定に多層塗工できる。
なお、ここでいう粘度とは、B型粘度計(60ppm)により20℃で測定した値である。多層塗工時の温度は15〜50℃である場合が多いが、20℃で測定した粘度の傾向は、前記多層塗工時の温度範囲における粘度の傾向と同じである。
【0035】
また、多層塗工方法としては、未乾燥のまま各塗液を逐次塗工するいわゆるウェット・オン・ウェット塗工法を採用できる。すなわち、支持体上にイオン性塗液を塗工した後、乾燥せずに、その塗工したイオン性塗液上に中間層形成用塗液を塗工し、その中間層形成用塗液上に前記イオン性塗液とは反対電荷の他のイオン性塗液を塗工する方法を採ることができる。
ウェット・オン・ウェット塗工法における塗工装置としては、例えば、ブレードコータ、エアナイフコータ、ロールコータ、バーコータ、グラビアコータ、ロッドブレードコータ、リップコータ、ダイコータ、カーテンコータ、スライドビードコータ等を適用できる。
【0036】
上記インクジェット記録用シートの製造方法において、インク吸収性が高くなることから、中間層形成用塗液の乾燥塗工量は1.5g/m以下であることが好ましく、0.8g/m以下であることがより好ましく、0.3g/m以下であることが特に好ましい。また、中間層形成用塗液のウェット塗工量は、アニオン性微粒子とカチオン性化合物との凝集をより防止できることから、50g/m以下であることが好ましく、20g/m以下であることがより好ましく、10g/m以下であることが特に好ましい。
ただし、中間層形成用塗液がノニオン性微粒子を含む場合には、乾燥塗工量は2.0g/m以下であることが好ましく、1.5g/m以下であることがより好ましく、1.0g/m以下であることが特に好ましい。また、ウェット塗工量が30g/m以下であることが好ましく、20g/m以下であることがより好ましく、10g/m以下であることが特に好ましい。
【0037】
上述した実施形態では、アニオン性塗液とカチオン性塗液とを多層塗工してアニオン性層とカチオン性層とを形成する際に、アニオン性塗液とカチオン性塗液との間にノニオン性の中間層形成用塗液が介在するため、アニオン性塗液とカチオン性塗液との接触を回避できる。そのため、アニオン性塗液中のアニオン性化合物とカチオン性塗液中のカチオン性化合物との凝集を防止できる。したがって、乾燥工程数を減らしながらも、アニオン性塗液とカチオン性塗液とを多層塗工できるため、生産性が向上する上に、製造装置の設置スペースを小さくできる。そのため、得られるインクジェット記録用シートは低コストである。また、アニオン性塗液中のアニオン性化合物とカチオン性塗液中のカチオン性化合物との凝集を防止した結果、インク受容層に含まれる凝集物量を少なくでき、インクジェット記録用シートの品質を高くできる。
【0038】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、支持体上にカチオン性塗液を塗工し、その塗工したカチオン性塗液上に中間層形成用塗液を塗工し、その塗工した中間層形成用塗液上にアニオン性塗液を塗工して、支持体上にカチオン性層と中間層とアニオン性層とを順次形成してインクジェット記録用シートを製造してもよい。
例えば、カチオン性のインク受容層上に中間層を形成し、中間層上にアニオン性の光沢層を形成してもよい。この場合、光沢層には、アニオン性のコロイダルシリカを含有させることができる。
また、例えば、透明性の支持体上に、カチオン性のインク受容層、中間層、アニオン性のインク透過層を順次形成してもよい。この場合、インク透過層を透明にすれば、OHP用シートとして使用でき、不透明にすれば、支持体側より見る記録シートとして使用できる。
【0039】
上述した実施形態においては、アニオン性層21およびカチオン性層22にはバインダとしてノニオン性樹脂を使用していたが、例えば、アニオン性層21のバインダとしてアニオン性樹脂、カチオン性層22のバインダとしてカチオン性樹脂を用いても構わない。
また、上記インクジェット記録シートには、光沢層などの他の層を有していても構わない。
また、本発明は、インクジェット記録用シートの製造だけでなく、熱転写シート、感熱記録体、印刷用シートなどの多層塗工シートにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の多層塗工シートの一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の多層塗工シートの製造方法の一実施形態を説明する図である。
【符号の説明】
【0041】
1 インクジェット記録用シート(多層塗工シート)
10 支持体
20 インク受容層(塗工層)
21 アニオン性層
21a アニオン性塗液
22 カチオン性層
22a カチオン性塗液
23 中間層
23a 中間層形成用塗液
100 スライドビードコータ
110 バックアップロール
120 スライドヘッド
121 スライド面
122a,122b,122c 供給流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、該支持体上に形成された塗工層とを有する多層塗工シートにおいて、
塗工層が、アニオン性層と、カチオン性層と、アニオン性層とカチオン性層との間に形成されたノニオン性の中間層とを備えることを特徴とする多層塗工シート。
【請求項2】
支持体上に、アニオン性塗液およびカチオン性塗液を塗工して多層塗工シートを製造する方法であって、
支持体上にアニオン性塗液を塗工し、この塗工したアニオン性塗液の上に、ノニオン性の中間層形成用塗液を塗工し、この塗工した中間層形成用塗液の上にカチオン性塗液を塗工することを特徴とする多層塗工シートの製造方法。
【請求項3】
支持体上に、カチオン性塗液およびアニオン性塗液を塗工して多層塗工シートを製造する方法であって、
支持体上にカチオン性塗液を塗工し、この塗工したカチオン性塗液の上に、ノニオン性の中間層形成用塗液を塗工し、この塗工した中間層形成用塗液の上にアニオン性塗液を塗工することを特徴とする多層塗工シートの製造方法。
【請求項4】
支持体上に、アニオン性塗液およびカチオン性塗液を重ねて塗工して多層塗工シートを製造する方法であって、
支持体上に、アニオン性塗液と、ノニオン性の中間層形成用塗液と、カチオン性塗液とを同時多層塗工することを特徴とする多層塗工シートの製造方法。
【請求項5】
アニオン性塗液およびカチオン性塗液が微粒子を含み、多層塗工シートがインクジェット記録用シートである請求項2〜4のいずれかに記載の多層塗工シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−238503(P2008−238503A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80562(P2007−80562)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】