説明

多層多孔膜

【課題】良好な耐熱性と良好なイオン透過性とを両立する多層多孔膜を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン樹脂多孔膜の少なくとも片面に無機フィラーと樹脂製バインダとを含む多孔層を備え、ポリオレフィン樹脂多孔膜の膜厚が0.1μm以上15μm以下、平均孔径が0.04μm以上0.1μm以下であり、多孔層のR値が0.01g/m以上0.6g/m以下である多層多孔膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層多孔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂多孔膜は優れた電気絶縁性、イオン透過性を示すことから電池やコンデンサー等におけるセパレータとして広く利用されている。特に近年では携帯機器の多機能化、軽量化に伴いその電源として高出力密度、高容量密度のリチウムイオン二次電池が使用されており、このような電池用セパレータにも主としてポリオレフィン樹脂多孔膜が用いられている。
近年、リチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどの小型機器用電源として用いられている。この電池に用いられるセパレータには、イオン透過性に優れることが要求される。また、電池の安全性を確保するために、電池が130〜150℃程度まで過熱された際にシャットダウンできることもセパレータに要求される。ここで、「シャットダウン」とは、電池内の温度が上昇した際に、多孔膜を構成するポリマーの溶融によってその連通孔が閉塞し、膜の電気抵抗が増大してリチウムイオンの流れが遮断される現象である。
【0003】
そして、これらの要求を満足するために、セパレータとしてはポリオレフィンを主成分とする多孔膜が主に採用されている。
一方、リチウムイオン二次電池は高い出力密度、容量密度を持つ反面、電解液に有機溶媒を用いているために短絡や過充電などの異常事態に伴う発熱によって電解液が分解し、最悪の場合には発火に至ることがある。高いエネルギーを有する電池においては熱暴走時の発熱量が大きく、シャットダウン温度を超えても温度が上昇し続けた場合、セパレータの破膜(「ショート」と表記することがある)により両極が短絡し、さらなる発熱を引き起こす危険性がある。
【0004】
このような問題を解決するために、セパレータと電極の間に絶縁性無機フィラーを主成分とする層を形成する方法等が提案されている(特許文献1〜7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3756815号公報
【特許文献2】特許第3752913号公報
【特許文献3】特開2005−276503号公報
【特許文献4】特開2004−227972号公報
【特許文献5】特開2000−40499号公報
【特許文献6】特開平11−80395号公報
【特許文献7】特開平9−237622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、良好な耐熱性(耐ショート性)と良好なイオン透過性とを両立するセパレータを実現する観点からは、なお改良の余地があった。
本発明は、良好な耐熱性と良好なイオン透過性とを両立する多層多孔膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は下記の通りである。
[1]ポリオレフィン樹脂多孔膜の少なくとも片面に無機フィラーと樹脂製バインダとを含む多孔層を備え、前記ポリオレフィン樹脂多孔膜の膜厚が0.1μm以上15μm以下、平均孔径が0.04μm以上0.1μm以下であり、前記多孔層のR値が0.01g/m2以上0.6g/m2以下である多層多孔膜。
[2]前記多層多孔膜の150℃での熱収縮率が長さ方向(MD)、幅方向(TD)共に15%以下である[1]に記載の多層多孔膜。
[3]前記ポリオレフィン樹脂多孔膜の熱収縮応力の最大値が、MD、TD共に8g以下である[1]又は[2]のいずれかに記載の多層多孔膜。
[4]前記ポリオレフィン樹脂多孔膜のMD熱収縮最大応力と、TD熱収縮最大応力との比が0.5以上3.0以下である[1]〜[3]のいずれかに記載の多層多孔膜
[5]前記無機フィラーがアルミニウム酸化物である[1]〜[4]のいずれかに記載の多層多孔膜。
[6]前記無機フィラーが層状ケイ酸塩鉱物である[1]〜[4]のいずれかに記載の多層多孔膜。
[7]前記無機フィラーの平均粒径が0.1μm以上1.5μm以下である[1]〜[6]のいずれかに記載の多層多孔膜。
[8]多孔層の層厚が、多層多孔膜の膜厚に占める割合が70%以下である[1]〜[7]のいずれかに記載の多層多孔膜。
[9][1]〜[8]のいずれかに記載の多層多孔膜を用いた捲回体。
[10][1]〜[8]いずれかに記載の多層多孔膜を用いた非水電解液電池用セパレータ。
[11][10]に記載の電池用セパレータを用いた非水電解液電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、良好な耐熱性と良好なイオン透過性とを両立する多層多孔膜が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、「実施形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施形態の多層多孔膜は、ポリオレフィン樹脂多孔膜の少なくとも片面に無機フィラーと樹脂製バインダとを含む多孔層を備え、前記ポリオレフィン樹脂多孔膜の膜厚が0.1μm以上15μm以下、平均孔径が0.04μm以上0.1μm以下であり、前記多孔層のR値が0.01g/m以上0.6g/m以下であることを特徴とする。
なお、「R値」とは、後述する方法で測定された、単位面積当たりに積層された多孔層重量(いわゆる「目付け」)の最大値と最小値の差である。
【0010】
[ポリオレフィン樹脂多孔膜]
前記ポリオレフィン樹脂多孔膜は、電池用セパレータとして用いた場合のシャットダウン性能などの観点から、ポリオレフィン樹脂を50質量%以上、好ましくは70〜100質量%含むポリオレフィン樹脂組成物にて形成される。なお本実施形態においては、ポリオレフィン樹脂が100質量%である場合にも便宜上、ポリオレフィン樹脂組成物と記載する。
【0011】
ポリオレフィン樹脂とは、通常の押出、射出、インフレーション、及びブロー成形等に使用するポリオレフィン樹脂をいい、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1−ヘキセン、及び1-オクテン等のホモ重合体及び共重合体、多段重合体等を使用することができる。また、これらのホモ重合体及び共重合体、多段重合体の群から選んだポリオレフィンを単独、もしくは混合して使用することもできる。前記重合体の代表例としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられる。
【0012】
ポリオレフィン樹脂には耐熱性向上の観点からポリプロピレンを含有させることが好ましい。ポリプロピレン含有量が大きいほど多孔膜の耐熱性は高まる傾向にあるが、ポロプロピレン含有量が数質量%程度でも十分な耐熱性向上効果がある。一方、本実施形態の多層多孔膜を電池用セパレータとして使用する場合、シャットダウン温度において膜が熱溶融して多孔が閉塞することが求められる。ポリプロピレンは比較的高い融点を有するが、ポリプロピレン含有量を一定量以下とすることは、シャットダウンを適切に生じさせること、又は、より低い温度でシャットダウンを生じさせる観点から好ましい。
したがって、耐熱性と良好なシャットダウン機能の両立の観点から、ポリオレフィン樹脂中の総ポリオレフィンに対するポリプロピレンの割合は、1〜35質量%であることが好ましく、より好ましくは3〜20質量%、さらに好ましくは4〜10質量%である。
【0013】
ポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量(Mv)としては、5万〜300万であることが好ましい。このMvは、得られる多孔膜の機械的強度を高める観点から5万以上であることが好ましく、生産時の成形性を良好にする観点から300万以下であることが好ましい。同様の観点から、Mvは10万〜100万であるとより好ましく、20万〜80万であると更に好ましい。また、多孔膜の機械的強度を制御するために、Mvの異なるポリオレフィンを2種以上混合したものを用いてもよい。さらに、Mvが100万未満であれば、電池用セパレータとして使用した場合に、温度上昇時に孔を閉塞しやすく良好なシャットダウン機能が得られやすいので好ましい。
【0014】
なお、前記ポリオレフィン樹脂組成物には、本実施形態の利点を損なわない範囲で必要に応じて、フェノール系やリン系やイオウ系等の酸化防止剤、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等の添加剤を混合して使用できる。
前記ポリオレフィン樹脂多孔膜の膜厚としては、0.1μm以上15μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以上14μm以下、さらに好ましくは3μm以上13μm以下、最も好ましくは5μm以上13μm以下である。得られる多層多孔膜の機械的強度の観点から0.1μm以上が好ましく、後述の無機フィラー含有樹脂溶液塗布量のばらつき抑制及び電池の高容量化の観点から15μm以下が好ましい。15μm以下の膜厚のポリオレフィン樹脂多孔膜を用いることは、無機フィラー含有樹脂溶液塗布時の張力を低減でき、塗布量のばらつき及び得られる多層多孔膜の反りを抑制できる観点から好ましい。
【0015】
ポリオレフィン樹脂多孔膜の孔径としては、0.04μm以上0.1μm以下が好ましく、より好ましくは0.05μm以上0.09μm以下、さらに好ましくは0.06μm以上0.09μm以下、最も好ましくは0.07μm以上0.09μm以下である。後述の無機フィラー含有樹脂溶液塗布後の透気度上昇抑制、及び塗布量のばらつき抑制の観点から0.04μm以上0.1μm以下が好ましい。
ポリオレフィン樹脂多孔膜の気孔率としては、好ましくは25%以上60%以下、より好ましく30%以上55%以下、更に好ましくは35%以上50%以下である。後述の無機フィラー含有樹脂溶液塗布後の透気度上昇抑制の観点から25%以上が好ましく、塗布量のばらつき抑制の観点から60%以下が好ましい。
【0016】
ポリオレフィン樹脂多孔膜の熱収縮応力の最大値としては、MD、TD共に8g以下であることが好ましく、より好ましくは6g以下、更に好ましくは4g以下、最も好ましくは3g以下である。8g以下のポリオレフィン樹脂多孔膜を採用することは、優れた耐熱性と透過性を同時に達成する観点から好ましい。
ポリオレフィン樹脂多孔膜の熱収縮応力のMDとTDの比としては、0.5以上3.0以下であることが好ましく、より好ましくは0.6以上2.5以下、更に好ましくは0.7以上2.0以下である。0.5以上3.0以下のポリオレフィン樹脂多孔膜を採用することは、MD方向、TD方向共に熱収縮率の小さい多層多孔膜を得る観点から好ましい。
なお、ポリオレフィン樹脂多孔膜の膜厚、孔径、気孔率、熱収縮応力の最大値、熱収縮応力のMDとTDの比については、延伸時の倍率や温度で調整する方法、熱固定時の倍率や温度で調整する方法、等により調整可能である。
【0017】
[多孔層]
前記多孔層は無機フィラーと樹脂製バインダとを含み、樹脂製バインダにより無機フィラーとポリオレフィン樹脂多孔膜及び/又は無機フィラー同士が結着された多孔構造である。
前記多孔層に含まれる無機フィラーとしては、200℃以上の融点をもち、電気絶縁性が高く、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であるものが好ましい。例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄などの酸化物系セラミックス、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス、ガラス繊維などが挙げられ、これらを単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0018】
無機フィラーとしては、中でも、多層多孔膜の耐熱性、透過性の観点から、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、タルクなどの層状ケイ酸塩鉱物、アルミナなどのアルミニウム酸化物が好ましい。また、カオリナイト等のカオリン鉱物で主に構成されているカオリンには焼成カオリン、湿式カオリンがあるが、いずれも好ましく用いることができる。
前記無機フィラーの平均粒径としては、より薄い多孔層での耐熱性発現の観点から、好ましくは0.1μm以上1.5μm以下、より好ましくは0.2μm以上1.5μm、更に好ましくは0.2μm以上1.2μm以下である。
【0019】
前記多孔層に含まれる樹脂製バインダとしては、無機フィラーを結着でき、リチウムイオン二次電池の電解液に対して不溶であり、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であることが好ましい。
より具体的には、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレンなどの含フッ素樹脂、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体やエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体などの含フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体及びその水素化物、メタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルなどのゴム類、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステルなどの融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂が挙げられる。
【0020】
なお、樹脂製バインダに使用するポリオレフィンの粘度平均分子量は、1000以上1200万未満が好ましく、より好ましくは2000以上200万未満、さらに好ましくは5000以上100万未満である。
前記樹脂製バインダが、前記無機フィラーと前記樹脂製バインダとの総量に占める割合としては、両者の結着性の点から、体積分率で好ましくは0.5%以上、より好ましくは0.7%以上、更に好ましくは1.2%以上であり、特に好ましくは1.5%以上であり、最も好ましくは1.7%以上であり、上限として好ましくは8%以下である。当該比率を0.5%以上とすることは、無機フィラーを十分に結着させ、剥離、欠落等が生じにくくする観点(良好な取り扱い性を十分に確保する観点)から好適である。一方、当該比率を8%以下とすることは、セパレータの良好なイオン透過性を実現する観点から好適である。
【0021】
前記多孔層の層厚は、耐熱性向上の点から0.5μm以上が好ましく、透過性や電池の高容量化の点から10μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以上9μm以下、更に好ましくは1.5μm以上8μm以下、最も好ましくは2μm以上7μm以下である。
また、前記無機フィラーが前記多孔層中に占める質量分率は、耐熱性の点から50%以上100%未満であることが好ましく、55%以上99.99%以下であることがより好ましく、60%以上99.9%以下であることがさらに好ましく、65%以上99%以下であることが特に好ましい。
更に、前記多孔層の層厚が、多層多孔膜の膜厚に占める割合としては、多層多孔膜の反り防止の観点から、好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下であり、耐熱性発現の観点から、下限として好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上である。
【0022】
[多層多孔膜]
本実施形態の多層多孔膜は、ポリオレフィン樹脂多孔膜の少なくとも片面に無機フィラーと樹脂製バインダとを含む多孔層を備える多層構造を有する。
多孔層のR値としては、0.01g/m以上0.6g/mであり、より好ましくは0.01g/m以上0.55g/mである。多層多孔膜の耐熱性、透過性のばらつき抑制の観点、多層多孔膜の反りや弛みの発生抑制の観点から、0.6g/m以下が好ましい。なお、R値は前記無機フィラー種や粒径、多孔層の厚みによって異なるが、ポリオレフィン樹脂多孔膜の膜厚や孔径により制御することが可能である。
多層多孔膜の透気度は、自己放電性の点から10秒/100cc以上が好ましく、充放電特性の点から650秒/100cc以下が好ましい。より好ましくは20秒/100cc以上500秒/100cc以下、更に好ましくは30秒/100cc以上450秒/100cc以下、特に好ましくは50秒/100cc以上400秒/100cc以下の範囲である。
【0023】
なお、基材であるポリオレフィン樹脂多孔膜の透気度に対して、多孔層を形成した後の多層多孔膜の透気度の増加率としては、100%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、50%以下であることが特に好ましい。本実施形態の多層多孔膜を電池用セパレータとして使用する場合、透気度の増加によりイオン透過性が減少することから、100%以下であることが好ましい。
多層多孔膜の最終的な膜厚は、機械強度の点から2μm以上が好ましく、電池の高容量化の点から20μm以下の範囲が好ましい。より好ましくは5μm以上19μm以下、さらに好ましくは8μm以上18μm以下、最も好ましくは10μm以上17μm以下の範囲である。
【0024】
多層多孔膜の150℃での熱収縮率は、MD、TD共に0%以上15%以下であることが好ましく、0%以上10%以下であることがより好ましく、0%以上5%以下であることが特に好ましい。MD方向、TD方向共に15%以下であると電池の異常発熱時においてもセパレータの破膜を防ぐことが出来るので、正負極間の接触を抑制し得るため、より良好な安全性能が得られる傾向があるので好ましい。
多層多孔膜のシャットダウン温度は、120℃以上160℃以下が好ましく、より好ましくは120℃以上150℃以下の範囲である。160℃以下であると、電池が発熱した場合などにおいても、電流遮断を速やかに促進し、より良好な安全性能が得られる傾向にあるので好ましい。一方、120℃以上であると例えば100℃前後での高温化の使用、熱処理等を実施できるので好ましい。
多層多孔膜のショート温度は、180℃以上が好ましく、190℃以上がより好ましく、最も好ましくは200℃以上である。180℃以上であると電池異常発熱においても放熱するまで正負極間の接触を抑制し得るため、より良好な安全性能が得られる傾向があるので好ましい。
【0025】
[多層多孔膜の製造方法]
本実施形態の多層多孔膜の製造方法については特に制限されないが、ポリオレフィン樹脂多孔膜を製造した後、その少なくとも片面に、無機フィラーと樹脂製バインダとを含有する分散液を塗布することによって製造することができる。
ポリオレフィン樹脂多孔膜の製造方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂と可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、可塑剤を抽出することで多孔化させる方法、ポリオレフィン樹脂を溶融混練して高ドロー比で押出した後、熱処理と延伸によってポリオレフィン結晶界面を剥離させることで多孔化させる方法、ポリオレフィン樹脂と無機充填材とを溶融混練してシート上に成形後、延伸によってポリオレフィン樹脂と無機充填材との界面を剥離させることで多孔化させる方法、ポリオレフィン樹脂を溶解後、ポリオレフィン樹脂に対する貧溶媒に浸漬させポリオレフィン樹脂を凝固させると同時に溶剤を除去することで多孔化させる方法など、公知の方法が挙げられる。
【0026】
前記分散液は、前記無機フィラーと樹脂製バインダを溶媒に溶解又は分散させて形成される。
このような溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドンやN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、ヘキサンなどを挙げることができる。
また、無機フィラー含有樹脂溶液を安定化させるため、あるいはポリオレフィン樹脂多孔膜への塗工性を向上させるために、界面活性剤等の分散剤、増粘剤、湿潤剤、消泡剤、酸やアルカリを含めたPH調製剤等の各種添加剤を加えてもよい。これらの添加剤は、溶媒除去や可塑剤抽出の際に除去できるものが好ましいが、リチウムイオン二次電池の使用範囲において電気化学的に安定で、電池反応を阻害しないものであれば、電池内に残存してもよい。
【0027】
なお、無機フィラーと樹脂製バインダとを溶媒に溶解又は分散させる方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、撹拌羽根等による機械撹拌等が挙げられる。
このような分散液を前記ポリオレフィン樹脂多孔膜に塗布する方法については、必要とする層厚や塗布面積を実現できる方法であれば特に限定しない。例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコータ−法、ナイフコータ−法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法等が挙げられる。また、用途に応じて無機フィラー含有樹脂溶液をポリオレフィン樹脂多孔膜の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。
【0028】
なお、塗布に先立ち、ポリオレフィン樹脂多孔膜表面を積極的に表面処理すると、無機フィラー含有樹脂溶液がより均一に塗布し易くなる上に、塗布後の無機フィラー含有樹脂層とポリオレフィン樹脂多孔膜表面との接着性が向上するため、より好ましい。
表面処理の方法は、ポリオレフィン樹脂多孔膜の多孔質構造が著しく損なわれなければ特に限定しないが、例えばコロナ放電処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法などが挙げられる。
前記分散液を塗布後、溶媒を除去することが好ましい。溶媒を除去する方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂多孔膜を固定しながらその融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法、樹脂製バインダに対する貧溶媒に浸漬して樹脂製バインダを凝固させると同時に溶媒を抽出する方法、などが挙げられる。
【0029】
本実施形態の多層多孔膜は、良好な耐熱性、イオン透過性(透気度)を両立し得る。このような多層多孔膜を非水電解液電池用セパレータとして用いた場合、安全性能や出力特性等に優れた非水電解液電池を実現し得る。
なお、上述した各種パラメータについては、特に断りの無い限り、後述する実施例における測定法に準じて測定される値である。
【実施例】
【0030】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。
(1)粘度平均分子量Mv
ASTM−D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η](dl/g)を求める。ポリエチレンのMvは次式により算出した。
[η]=6.77×10−4Mv0.67
ポリプロピレンについては、次式によりMvを算出した。
【0031】
[η]=1.10×10−4Mv0.80
【0032】
(2)膜厚、層厚(μm)
ダイヤルゲージ(尾崎製作所社製、商品名「PEACOCK No.25」)にて測定した。MD方向100mm×TD方向100mmの寸法を有するサンプルを切り出し、格子状に9箇所(3点×3点)の局所膜厚を測定した。得られた9箇所の局所膜厚の相加平均値を膜厚とした。なお多孔層の層厚は、多層多孔膜の膜厚とポリオレフィン樹脂多孔膜の膜厚(多孔層を剥離して測定)との差から算出した。
【0033】
(3)透気度(秒/100cc)、透気度増加率(%)
JIS P−8117準拠のガーレー式透気度計(東洋精機製G−B2(商標))を用いた。内筒重量は567gで、直径28.6mm、645mmの面積を空気100mlが通過する時間を測定し、透気度を測定した。
一方、透気度増加率は、以下の式にて算出した。
透気度増加率(%)=100×(多層多孔膜の透気度−ポリオレフィン樹脂多孔膜の
透気度)/ポリオレフィン樹脂多孔膜の透気度
【0034】
(4)気孔率(%)
10cm×10cm角の試料をポリオレフィン樹脂多孔膜から切り取り、その体積(cm)と質量(g)を求め、膜密度を0.95(g/cm)として次式を用いて計算した。
気孔率=(1−質量/体積/0.95)×100
【0035】
(5)平均孔径(μm)
孔径d(μm)は、空気の透過速度定数Rgas(m/(m・sec・Pa))、水の透過速度定数Rliq(m/(m・sec・Pa))、空気の分子速度ν(m/sec)、水の粘度η(Pa・sec)、標準圧力P(=101325Pa)から次式を用いて算出した。
d=2ν×(Rliq/Rgas)×(16η/3Ps)×10
gasは透気度から次式を用いて求めた。
gas=0.0001/(透気度×(6.424×10−4)×(0.01276×
101325))
また、Rliqは透水度(cm/(cm・sec・Pa))から次式を用いて求めた。
liq=透水度/100
なお、透水度は次のように求めた。直径41mmのステンレス製の透液セルに、あらかじめアルコールに浸しておいたポリオレフィン樹脂多孔膜をセットし、該膜のアルコールを水で洗浄した後、約50000Paの差圧で水を透過させ、120sec間経過した際の透水量(cm)より、単位時間・単位圧力・単位面積当たりの透水量を計算し、これを透水度とした。
【0036】
(6)MD(TD)熱収縮最大応力(g)
島津製作所製TMA50(商標)を用いて測定した。MD(TD)方向の値を測定する場合は、TD(MD)方向に幅3mmに切り出したサンプルを、チャック間距離が10mmとなるようにチャックに固定し、専用プローブにセットする。初期荷重を1.0gとし、30℃から200℃まで10℃/minの昇温速度で加熱し、その時発生する荷重(g)を測定し、その最大値をMD(TD)最大熱収縮応力(g)とした。
【0037】
(7)MD/TD熱収縮応力比
(6)で測定したMD方向及びTD方向の最大熱収縮応力を用いて以下の式より算出した。
MD/TD熱収縮応力比=MD最大熱収縮応力/TD最大熱収縮応力
【0038】
(8)平均粒径
無機フィラーの平均粒径は、レーザー式粒度分布測定装置(日機装(株)製マイクロトラックMT3300EX)を用いて粒径分布を測定し、累積頻度が50%となる粒径を平均粒径とした。
【0039】
(9)MD(TD)150℃熱収縮率
多層多孔膜をMD方向に100mm、TD方向に100mmに切り取り、150℃のオーブン中に1時間静置する。このとき、サンプルを2枚の紙にはさむことで、温風が直接サンプルにあたらないようにした。サンプルをオーブンから取り出し冷却した後、長さ(mm)を測定し、以下の式にてMD及びTDの熱収縮率を算出した。
MD熱収縮率(%)=(100―加熱後のMDの長さ)/100×100
TD熱収縮率(%)=(100―加熱後のTDの長さ)/100×100
【0040】
(10)シャットダウン温度、ショート温度
a.正極の作製
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)を92.2質量%、導電材としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量%、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2質量%をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗布し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形する。この時、正極の活物質塗布量は250g/m、活物質かさ密度は3.00g/cmになるようにした。
【0041】
b.負極の作製
負極活物質として人造グラファイト96.6質量%、バインダとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%とスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量%を精製水中に分散させてスラリーを調製する。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。この時、負極の活物質塗布量は106g/m、活物質かさ密度は1.35g/cmになるようにした。
【0042】
c.非水電解液
プロピレンカーボネート:エチレンカーボネート:γ−ブチルラクトン=1:1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiBFを濃度1.0mol/Lとなるように溶解させて調製した。
【0043】
d.評価
熱電対を繋いだセラミックスプレート上に、65mm×20mmに切り出し非水電解液に1分以上浸漬した負極を載せ、この上に中央部に直径16mmの穴をあけた50mm×50mmに切り出した厚さ9μmのアラミドフィルムを載せ、この上に40mm×40mmに切り出し非水電解液に1時間以上浸漬した試料の多孔膜をアラミドフィルムの穴部を覆うように載せ、この上に65mm×20mmに切り出し非水電解液に1分以上浸漬した正極を負極に接触しないように載せ、その上にカプトンフィルム、更に厚さ約4mmのシリコンゴムを載せた。
これをホットプレート上にセットした後、油圧プレス機にて4.1MPaの圧力をかけた状態で、15℃/minの速度で昇温し、この際の正負極間のインピーダンス変化を交流1V、1kHzの条件下で200℃まで測定した。この測定において、インピーダンスが1000Ωに達した時点の温度をシャットダウン温度とし、孔閉塞状態に達した後、再びインピーダンスが1000Ωを下回った時点の温度をショート温度とした。
【0044】
(11)R値
作製した多層多孔膜から1000mmの寸法を有するサンプルを10箇所切り出し、10箇所の多孔層の単位面積当たりの重量(W)の最大値(WMAX)と最小値(WMIN)を用いて、以下の式よりR値を算出した。
R値=WMAX―WMIN
Wは多層多孔膜の重量を測定した後、多孔層を除去したポリオレフィン樹脂多孔膜の重量を測定し、以下の式より算出した。
W(g/m2)=(多層多孔膜重量―ポリオレフィン樹脂多孔膜重量)×1000
【0045】
[実施例1]
Mvが70万のポリエチレンを47質量部、Mv30万のポリエチレンを46質量部、Mv40万のポリプロピレンを7質量部とを、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドした。得られた純ポリマー混合物99質量部に酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量部添加し、再度タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、ポリマー等混合物を得た。得られたポリマー等混合物は窒素で置換を行った後に、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10−5/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
【0046】
溶融混練し、押し出される全混合物中に占める流動パラフィン量比が65質量部となるように、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度200℃であり、スクリュー回転数240rpm、吐出量12kg/hで行った。
続いて、溶融混練物を、T−ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、厚み1600μmのゲルシートを得た。
次に、同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行った。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率7.0倍、設定温度125℃である。
次に、メチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去した。
【0047】
次に、TDテンターに導き、熱固定を行った。熱固定時の延伸温度・倍率は128℃・2.0倍で行い、その後の緩和時の温度・緩和率を133℃、0.80とした。
ポリオレフィン樹脂多孔膜の表面に、コロナ放電処理(放電量50W)を実施した後、当該処理面側に、アルミナ粒子(平均粒径0.7μm))98.2重量部、ポリビニルアルコール(平均重合度1700、ケン化度99%以上)1.8重量部を150重量部の水にそれぞれ均一に分散させた水溶液を、上記ポリオレフィン樹脂多孔膜の表面にグラビアコーターを用いて塗布した後、60℃にて乾燥して水を除去し、多孔膜上に厚さ4μmの多孔層が形成した、総膜厚16μmの多層多孔膜を得た。結果を表1に併記する。
【0048】
[実施例2〜6]
表1に示す条件以外は実施例1の方法に準じて多層多孔膜を得た。結果を表1に併記する。
【0049】
[実施例7]
溶融混練物のキャストまでは実施例1に準じ、厚み1000μmのゲルシートを得た。
次に、同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行った。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率7.0倍、設定温度120℃である。
次に、メチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去した。
次に、TDテンターに導き、熱固定を行った。熱固定時の延伸温度・倍率は115℃・1.4倍で行い、その後の緩和時の温度・緩和率を125℃、0.75とした。
その後、実施例1に準じて多層多孔膜を得た。
【0050】
[実施例8〜12]
表1に示す条件以外は実施例6の方法に準じて多層多孔膜を得た。結果を表1に併記する。
【0051】
[実施例13]
溶融混練物のキャストまでは実施例1に準じ、厚み1200μmのゲルシートを得た。
次に、同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行った。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率7.0倍、設定温度125℃である。
次に、メチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去した。
次に、TDテンターに導き、熱固定を行った。熱固定時の延伸温度・倍率は125℃・1.6倍で行い、その後の緩和時の温度・緩和率を130℃、0.70とした。
その後、実施例1に準じて多層多孔膜を得た。
【0052】
[実施例14]
溶融混練物のキャストまでは実施例1に準じ、厚み900μmのゲルシートを得た。
次に、同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行った。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率7.0倍、設定温度120℃である。
次に、メチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去した。
次に、TDテンターに導き、熱固定を行った。熱固定時の延伸温度・倍率は116℃・1.3倍で行い、その後の緩和時の温度・緩和率を126℃、0.75とした。
その後、実施例1に準じて多層多孔膜を得た。
【0053】
[実施例15]
溶融混練物のキャストまでは実施例1に準じ、厚み1100μmのゲルシートを得た。
次に、同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行った。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率7.0倍、設定温度128℃である。
次に、メチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去した。
次に、TDテンターに導き、熱固定を行った。熱固定時の延伸温度・倍率は130℃・1.6倍で行い、その後の緩和時の温度・緩和率を130℃、0.80とした。
その後、実施例1に準じて多層多孔膜を得た。
【0054】
[実施例16]
Mvが70万のポリエチレンを50質量部、Mv30万のポリエチレンを50質量部とを、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドし、その後、実施例1に準じて多層多孔膜を得た。
【0055】
[比較例1]
実施例1で基材に用いたポリオレフィン樹脂多孔膜について評価した。結果を表1に併記する。
【0056】
[比較例2]
実施例7で基材に用いたポリオレフィン樹脂多孔膜について評価した。結果を表1に併記する。
【0057】
[比較例3]
厚み2000μmのゲルシートを経る以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン樹脂多孔膜を得た。結果を表1に併記する。
その後、実施例1に準じて多層多孔膜を得た。
【0058】
[比較例4,5]
無機フィラーを表1記載の無機フィラーに変更する以外は、比較例3と同様にして比較例4の多層多孔膜を作製した。結果を表1に併記する。
【0059】
[比較例6]
粘度平均分子量(Mv)200万の超高分子量ポリエチレン12質量部とMv28万の高密度ポリエチレン12質量部とMv15万の直鎖状低密度ポリエチレン16質量部とシリカ(平均粒径8.3μm)17.6質量部と、可塑剤としてフタル酸ジオクチル(DOP)を42.4質量部を混合造粒した後、Tダイを装着した二軸押出機にて混練・押出し、厚さ90μmのシート状に成形した。該成形物から塩化メチレンにてDOPを、水酸化ナトリウムにてシリカを抽出除去し多孔膜とした。該多孔膜を118℃に加熱のもと、縦方向に5.3倍延伸した後、横方向に1.8倍延伸した。
【0060】
ポリオレフィン樹脂多孔膜の表面に、コロナ放電処理(放電量50W)を実施した後、当該処理面側に、アルミナ粒子(平均粒径0.7μm))98.2重量部、ポリビニルアルコール(平均重合度1700、ケン化度99%以上)1.8重量部を150重量部の水にそれぞれ均一に分散させた水溶液を、上記ポリオレフィン樹脂多孔膜の表面にグラビアコーターを用いて塗布した後、60℃にて乾燥して水を除去し、多孔膜上に厚さ5μmの多孔層が形成した、総膜厚16μmの多層多孔膜を得た。結果を表1に併記する。
【0061】
[比較例7,8]
表1に示す条件以外は比較例7の方法に準じて多層多孔膜を得た。結果を表1に併記する。
【0062】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の多層多孔膜は良好な耐熱性と良好なイオン透過性とを両立する。当該多層多孔膜は、非水電解液二次電池や電機二重層キャパシタ等の蓄電池用セパレータとして特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂多孔膜の少なくとも片面に無機フィラーと樹脂製バインダとを含む多孔層を備え、
前記ポリオレフィン樹脂多孔膜の膜厚が0.1μm以上15μm以下、平均孔径が0.04μm以上0.1μm以下であり、
前記多孔層のR値が0.01g/m以上0.6g/m以下
である多層多孔膜。
【請求項2】
前記多層多孔膜の150℃での熱収縮率が長さ方向(MD)、幅方向(TD)共に15%以下である請求項1に記載の多層多孔膜。
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂多孔膜の熱収縮応力の最大値が、MD、TD共に8g以下である請求項1又は2に記載の多層多孔膜。
【請求項4】
前記ポリオレフィン樹脂多孔膜のMD熱収縮最大応力と、TD熱収縮最大応力との比が0.5以上3.0以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層多孔膜
【請求項5】
前記無機フィラーがアルミニウム酸化物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の多層多孔膜。
【請求項6】
前記無機フィラーが層状ケイ酸塩鉱物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の多層多孔膜。
【請求項7】
前記無機フィラーの平均粒径が0.1μm以上1.5μm以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の多層多孔膜。
【請求項8】
前記多孔層の層厚が、多層多孔膜の膜厚に占める割合が70%以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載の多層多孔膜。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の多層多孔膜を用いた捲回体。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の多層多孔膜を用いた非水電解液電池用セパレータ。
【請求項11】
請求項10に記載の電池用セパレータと、正極と、負極と、電解液とを用いた非水電解液電池。

【公開番号】特開2010−240936(P2010−240936A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90754(P2009−90754)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】