説明

多層弾性ベルト

【課題】本発明は、耐久性(機械的強度、耐磨耗性)、転写特性(転写効率、細線中抜け、紙の凹凸追従性)および通紙耐久性に優れる電子写真装置用多層弾性ベルトを提供する。
【解決手段】表面層、弾性層、及び基材層の少なくとも三層からなり、該弾性層が、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)と、アミノ基を2個以上有する脂肪族化合物(E)とから得られる熱硬化性ポリウレタン樹脂を含む電子写真装置用多層弾性ベルト、並びにその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル印刷機、複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真方式を用いた画像形成装置に使用される多層弾性ベルトに関する。具体的には、感光体上に形成された静電潜像上の乾式粉体あるいは湿式液体のトナー像を、紙等の記録材へ転写するために使用する中間転写ベルト、転写搬送ベルト、紙搬送ベルト等の電子写真装置用多層弾性ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置に用いられる中間転写ベルトや転写搬送ベルトとしては、高画質化に対応するために、弾性層を有する多層構成の中間転写ベルトが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。弾性層を設けた中間転写ベルトは柔軟性に優れるため、一次転写時に中間転写ベルトと接する感光体等との転写領域を容易にかつ安定して形成できると同時に、感光体等との間でトナーに加えられる圧縮応力が軽減されることにより、細線画像の中抜け不具合が改善し、印字の鮮明度も向上する。また弾性層を持たない中間転写ベルトにおいては、表面凹凸が大きい記録媒体を使用した場合に発生する、凹部での画像抜けという問題があったが、前記弾性層を有する多層構成の中間転写ベルトでは、二次転写時に記録媒体の凹凸に柔軟に追従できるため、問題改善に大きな効果がある。
【0003】
また、こうした高画質対応の中間転写ベルトは、ベルトの厚み方向にゴム弾性を付与する一方、転写ベルトに必要なトナー離型性も要求されるため、通常はゴム弾性層上に摩擦係数が低くトナー離型性に優れた樹脂製の表面層を設けている(例えば、図1を参照)。
【0004】
しかしながら、画像形成装置用の中間転写ベルトは、紙やクリーニングブレード、ロール等のベルト表面に接触する摺動部材等から外力を受けるため、その応力は薄膜の表面層に集中して、表面層に亀裂や磨耗、剥離が発生するという問題がある。表面層にこうした問題が発生すると画像品質が劣化するため、ベルトの耐久性を決定する大きな要因となる。この問題を解消するためには、外部応力を受けた時に表面層が変形しないようにすればよく、弾性層のゴムの機械的強度や耐摩耗性を向上することが有効である。こうした理由から比較的機械強度が高いウレタンゴムが採用されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
前記ウレタンゴムは一般的には注型用ポリウレタンゴムとも呼ばれ、通常A液と称される液状のウレタンプレポリマー(活性イソシアネート基を有するオリゴマー)と、通常B液と称されるアミノ基又は水酸基等の活性水素を2つ以上有する化合物とを、混合・脱泡し、金型に注入し成型機等で加熱してウレタン・ウレア化に基づく鎖伸長反応、及びアロファネート・ビュレット化反応に基づく架橋反応により得られる。B液のアミンとしては、活性イソシアネートとの反応が比較的遅いため、ポットライフが優位であることを理由に、芳香族アミンであるMBOCA(3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン)が使用されている。
【0006】
しかしながら、MBOCAは塩素を有する芳香族アミンであるため、ベンゼン環と塩素の影響で活性イソシアネートとの反応が比較的遅く、ポットライフは長いが、逆に硬化完了までに時間がかかり、硬化を完全にするために半日程度以上の加熱養生(二次加硫)を必要とすることが多い。このため弾性ベルトの製造サイクルが長くなってしまい、効率的な生産が困難であった。また、MBOCAを使用した場合は、耐久性や転写特性が良好な電子写真装置用多層弾性ベルトを得ることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−240939号公報
【特許文献2】特開2009−015006号公報
【特許文献3】特開2009−025421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、耐久性(機械的強度、耐磨耗性)、転写特性(転写効率、細線中抜け、紙の凹凸追従性)および通紙耐久性に優れる電子写真装置用多層弾性ベルトを提供することを目的とする。また、電子写真装置用多層弾性ベルトの生産効率を向上することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記の課題を解決するために、多層構造の弾性ベルトの弾性層に使用するポリウレタン樹脂に着目し、鋭意研究を行った。その結果、多層構造の弾性ベルトの弾性層に、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)と、アミノ基を2個以上有する脂肪族化合物(E)とから得られる熱硬化性ポリウレタン樹脂を用いることで、耐久性、転写特性(転写効率、細線中抜け、紙の凹凸追従性)、通紙耐久性に優れる電子写真装置用多層弾性ベルトが得られること及び電子写真装置用多層弾性ベルトの生産効率が向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は下記の弾性ベルトを提供する。
項1.表面層、弾性層、及び基材層の少なくとも三層からなる電子写真装置用多層弾性ベルトであって、
該弾性層が、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)と、アミノ基を2個以上有する脂肪族化合物(E)とから得られる熱硬化性ポリウレタン樹脂を含む、電子写真装置用多層弾性ベルト。
項2.前記イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)が、ポリオール(A)、ポリイソシアネート(B)、およびブロック化剤(C)を原料として得られることを特徴とする項1に記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
項3.前記アミノ基を2個以上有する脂肪族化合物(E)が、ポリエーテル系トリアミンを含有することを特徴とする項1又は2に記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
項4.前記弾性層の硬度が、タイプA硬度で60°以下である項1〜3のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
項5.前記表面層が、フッ素樹脂及び/又はフッ素ゴムを含む、項1〜4のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
項6.前記基材層が、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、PVdF、ポリアミド及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、項1〜5のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
項7.前記表面層及び弾性層が、円筒状金型の内側に表面層形成用組成物を塗布し、回転成型した後、形成された表面層の内面に弾性層形成用組成物を塗布し、回転成型することによって順次製膜された層である、項1〜6のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
項8.電子写真装置用多層弾性ベルトの製造方法であって、
(1)基材層形成用組成物を、回転成型又は溶融押出成形して基材層を製膜する工程、
(2)円筒状金型の内面に表面層形成用組成物を注入し、回転成型して表面層を製膜する工程、
(3)上記(2)で得られた表面層の内面に、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)と、アミノ基を2個以上有する脂肪族化合物(E)とを含む弾性層形成用組成物を注入し、回転成型して弾性層を製膜して二層膜とする工程、及び
(4)上記(1)で得られた基材層の外面と、上記(3)で得られた二層膜の弾性層の内面とを重ね合わせて加熱処理する工程、
を含む製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、多層構造の弾性ベルトの弾性層に、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)と、アミノ基を2個以上有する脂肪族化合物(E)とから得られる熱硬化性ポリウレタン樹脂を用いることで、高強度で、耐磨耗性、転写特性(転写効率、細線中抜け、紙の凹凸追従性)、通紙耐久性に優れる電子写真装置用多層弾性ベルトが得られる。また本発明は、多層構造の弾性ベルトの弾性層に、前記熱硬化性ポリウレタン樹脂を用いることで、弾性層の生産効率を向上することができ、その結果電子写真装置用多層弾性ベルトの生産効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の3層の弾性ベルトの断面模式図である。
【図2】実施例における各層の製膜に用いた装置の模式図である。
【図3】実施例・比較例におけるMIT試験での表面層割れ評価基準画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
I.電子写真装置用多層弾性ベルト
本発明の電子写真装置用多層弾性ベルトは、表面層、弾性層、及び基材層の少なくとも三層からなり、該弾性層が、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)と、アミノ基を2個以上有する脂肪族化合物(E)とから得られる熱硬化性ポリウレタン樹脂を含むことを特徴とする。
【0014】
以下、各層毎に説明する。
【0015】
表面層
本発明の多層弾性ベルトにおける表面層は、直接トナーを乗せ、重ね合わせた多色のトナーを紙へ転写、離型するための層である。
【0016】
したがって、表面層は、トナーを離型しやすくする観点から、離型性材料を含む表面層形成用組成物により形成されることが好ましく、当該離型性材料としては、フッ素樹脂やフッ素ゴムが挙げられる。
【0017】
フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフロライド共重合体(THV)、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)、ビニリデンフロライド(VdF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体(VdF−HFP共重合体)、又はそれらの混合物が挙げられる。なお、VdF−HFP共重合体のHFPの割合は、1〜15モル%程度が好ましい。
【0018】
フッ素ゴムとしては、例えば、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム(FEPM)、テトラフルオロエチレン−パープルオロビニルエーテル系ゴム(FFKM)等を挙げることができる。これらの中でも、FKMが種類も多く入手性の面からも好ましい。
【0019】
上記フッ素樹脂又はフッ素ゴムを1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、フッ素樹脂とフッ素ゴムを併用することも可能であり、その際も、それぞれ1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
フッ素樹脂単独で表面層を形成した場合、弾性層との接着が困難となる傾向がある。従って、フッ素樹脂単独で表面層を形成する場合には、弾性層と接着する前に、該弾性層との被接着面を表面処理することが好ましい。
【0021】
前記表面処理方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、金属ナトリウム溶液等による化学的な表面処理や、プラズマやコロナ放電等による物理的な表面処理を挙げることができる。
【0022】
また、フッ素樹脂単独で表面層を形成する場合、さらに弾性層との接着を容易にするために、バインダーを用いることができる。具体的には、例えば、ウレタン樹脂やアクリル樹脂等のバインダーに、フッ素樹脂をあらかじめ分散させたものを用いて、表面層を形成する方法が挙げられる。
【0023】
なお、前記フッ素樹脂のうち、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフロライド共重合体(THV)、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)、ビニリデンフロライド(VdF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体(VdF-HFP共重合体)、又はこれらの混合物は、被接着面の表面エネルギーを比較的大きくすることができるため、弾性層との接着が容易であり、バインダーなしで表面層として用いることができる。その場合、プライマーを用いるなどして接着力を向上しても良い。例えば、ウレタン系、エポキシ系、シラン系のプライマーが挙げられる。好ましくは、ウレタン樹脂を主成分とした、ウレタン系プライマーである。また、当該プライマーの効果は、プライマー中に含有されるシランカップリング剤の種類にも影響を受ける。当該シランカップリング剤の種類は官能基によって分類され、例えば、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、ポリスルフィド基、イソシアネート基などがあり、好ましくはエポキシ基、メルカプト基である。
【0024】
また、本発明の表面層は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の微粒粉体を含んでいても良い。この場合、PTFE微粒粉体は、表面層形成用組成物に直接分散しても良く、又は、あらかじめ溶剤等で希釈したPTFE微粒粉体分散液を、表面層形成用組成物に添加することもできる。
【0025】
当該PTFE微粒粉体の配合量は、表面層形成用組成物の離型性材料重量に対して20重量%以下程度であることが好ましく、10重量%以下程度であることがより好ましい。
【0026】
さらに、本発明の表面層は、層状粘土鉱物を含有してもよく、当該層状粘土鉱物としては、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、バイデライト、ステブンサイト、ノントロナイトなどのスメクタイト系層状粘土鉱物、膨潤性マイカ、バーミキュライトなどが挙げられるが、これらに限定されない。上記層状粘土鉱物を1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましくは、モンモリロナイトもしくはヘクトライトである。
【0027】
また、これら層状粘土鉱物は、天然物でも合成品でもよい。例えば、合成モンモリロナイトとしては、クニミネ工業(株)製のクニピアF等;合成ヘクトライトとしては、ラポート社のラポナイトXLG、ラポナイトRD、コープケミカル(株)製のルーセンタイトSTN等;合成サポナイトとしては、クニミネ工業(株)製のスメクトンSA等が挙げられる。これらは商業的に入手することが可能である。
【0028】
層状粘土鉱物の配合量は、表面層形成用組成物の総重量に対して、0.1〜5重量%であることが好ましく、0.5〜3重量%がより好ましい。このような割合で層状粘土鉱物を配合することによって、転写ベルトの表面層を薄膜化してもピンホールの発生が少なく、優れたラフ紙転写性能と耐久性を実現することができる。ここで、優れたラフ紙転写性能とは、ボンド紙等の凹凸のはげしい紙を用いてシアン単色のベタ印刷を行って、最深部(凹部)のトナーの乗りを目視で判断した場合に、白抜け等がなく、ムラなく転写されていることを指す。
【0029】
また、本発明の表面層には、カーボンブラック等の導電剤を配合することもできる。当該導電剤を配合することで、表面層の半導電性を制御することできる。しかし、その効果は限定的であり、均一分散が難しい等のデメリットもあるため、表面層には導電剤を含まなくても良い。かかる表面層は、環境(温度、湿度等)の変化により導電性が左右されないため、安定したトナーの一次及び二次転写が可能となり、高画質化が実現できる。
【0030】
表面層の体積抵抗率は、通常1×1012Ω・cm以上であることが好ましく、1×1012〜1×1015Ω・cmがより好ましい。ここで、表面層の体積抵抗率とは、表面層を形成する表面層形成用組成物を用いて、本発明の多層弾性ベルトにおける表面層作製条件と同一条件で作製した厚さ約10μmの表面層を用いて測定した値である。
【0031】
表面層の厚みは、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、1〜3μmがさらに好ましい。厚みが厚すぎると弾性層のゴム弾性を損なうことになるため好ましくなく、また、厚みが薄すぎると表面層に穴があきやすい等の耐久性に問題が生じる傾向がある。
【0032】
表面層のヤング率は、2,000MPa以下が好ましく、1,200MPa以下がより好ましい。ヤング率が2,000MPa以下になることで、トナーへの応力集中による細線印字時のトナー中抜けを防止することができるため好ましい。表面層のヤング率に下限値は特に限定されるものではないが、ヤング率が極端に低い場合、下地の中間層を構成するゴム硬度を柔らかくすると表面層の摩擦係数が上昇するので、二次転写効率の悪化を招く恐れがある。その場合においては、ヤング率を300MPa以上にすることで、表面層の摩擦係数上昇を抑えられ、二次転写効率の悪化を防止できるため好ましい。
【0033】
ここで、表面層のヤング率とは、表面層を形成する表面層形成用組成物を用いて、本発明の多層弾性ベルトにおける表面層作製条件と同一条件で作製した厚さ約10μmの表面層を用いて測定した値である。
【0034】
弾性層
本発明の多層弾性ベルトにおける弾性層は、一次転写時における感光体との転写領域を容易に確保したり、感光体との間でトナーに加えられる圧縮応力を軽減したり、二次転写時におけるバイアスロールによるニップ圧応力の集中を回避したり、記録媒体の凹凸への追従性を向上させたりするための層である。そのため、ゴム弾性が要求される。
【0035】
前記弾性層は、弾性ゴム材料を含む弾性層形成用組成物によって形成することができる。
【0036】
前記弾性ゴム材料としては、熱硬化性ポリウレタン樹脂が用いられる。該熱硬化性ポリウレタン樹脂は、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)と、アミノ基を2個以上有する脂肪族化合物(E)とから得られる。
【0037】
前記イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)は、例えば、ポリオール(A)、ポリイソシアネート(B)、およびブロック化剤(C)を原料として得られるものである。
【0038】
前記ポリオール(A)としては、種々の公知のポリオールを挙げることができる。特に、ポリアルキレンエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びこれらのポリオールにラクトンモノマーを開環付加重合反応させて得られるラクトン変性ポリオールが挙げられる。これらは単独又は2種以上を併用しても良い。
前記ポリアルキレンエーテルポリオールとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの1種または2種以上を、2個以上の活性水素を有する化合物に付加重合せしめた生成物が挙げられる。
【0039】
前記2個以上の活性水素を有する化合物としては、例えば、水、エチレングリコ−ル、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロ−ルプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリトリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオ−ル、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、サッカロース、エチレンジアミン、N−エチルジエチレントリアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,2−ジアミノブタン、1,3−ジアミノブタン、1,4−ジアミノブタン、ジエチレントリアミン、燐酸、酸性リン酸エステル等を使用することができる。
【0040】
さらに、前記ポリアルキレンエーテルポリオールとして、例えば、テトラヒドロフランを開環重合して得られるポリテトラメチレンエーテルグリコール、テトラヒドロフランとアルキル置換テトラヒドロフランを共重合させた変性ポリテトラメチレンエーテルグリコールや、ネオペンチルグリコールとテトラヒドロフランを共重合させた変性ポリテトラメチレンエーテルグリコールも使用可能である。
【0041】
前記ポリアルキレンエーテルジオールとしては、前記した中でも、テトラヒドロフランを開環重合して得られるポリテトラメチレンエーテルグリコールを使用することが好ましい。
【0042】
また、前記ポリエステルポリオールとしては、通常、二価アルコールと二塩基性カルボン酸との反応生成物が挙げられる。遊離ジカルボン酸の代わりに、対応の無水物又は低級アルコールのジエステル或いはその混合物もポリエステルの製造に使用することができる。
【0043】
前記二価アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、1,3−及び1,2−プロピレングリコール、1,4−及び1,3−及び2,3−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチルペンタンジオール、1,6−ヘキサングリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、1,4−ビス−(ヒドロキシメチル)−シクロヘキサン、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ジブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0044】
前記二塩基性カルボン酸としては、脂肪族、脂環族、芳香族及び/又は複素環式とすることができ、不飽和であっても或いは例えばハロゲン原子で置換されても良い。これらカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメチン酸、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水テトラヒドロイソフタル酸、無水ヘキサヒドロイソフタル酸、無水エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、ダイマー脂肪酸、例えばオレイン酸、ジメチルテレフタレート及び混合テレフタレート等が挙げられる。
【0045】
これらの中でも、前記ポリエステルポリオールとしては、特に、炭素数が2〜10のアルキル基を有するグリコールとアジピン酸から得られるポリエステルジオールが好ましい。
【0046】
また、前記ポリカーボネートポリオールとしては、通常、ジオ−ルと、ホスゲン、ジアリルカーボネート、ジアルキルカーボネートもしくは環式カーボネート(例えばエチレンカーボネート)との反応生成物が挙げられる。
【0047】
前記ジオールとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、1,3−及び1,2−プロピレングリコール、1,4−及び1,3−及び2,3−ブチレングリコール、1,6−ヘキサングリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、1,4−ビス−(ヒドロキシメチル)−シクロヘキサン、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ジブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0048】
中でも、前記ポリカーボネートポリオールとしては、炭素数が4〜10のアルキレングリコールを使用して得られるポリカーボネートジオールが好ましい。
【0049】
また、前記ラクトン変性ポリオールに用いるラクトンモノマーとしては、バレロラクトン、メチルバレロラクトン、ε−カプロラクトン、トリメチルカプロラクトン等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることが可能である。特に、ε−カプロラクトンを用いることが好ましい。ラクトン変性量については、特に限定はないが、好適には、ポリオール(A)100重量部に対し、ラクトンモノマー10〜100重量部を開環付加重合反応させるとよい。
【0050】
ラクトン変性方法としては、特に限定はないが、一般に無溶媒下、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、オクチル酸第1スズ、亜鉛アセチルアセトネート等の触媒存在下に、ポリオール(A)と前述の各種ラクトンモノマーとを、110℃〜220℃で反応させることにより得ることができる。
【0051】
本発明において使用されるポリオール(A)としては、上記したポリオールのなかでも、柔軟性及び耐久性のバランスがより良好なものとなる観点から、ポリアルキレンエーテルポリオールを使用することが好ましい。
【0052】
本発明において用いられるポリイソシアネート(B)としては、特に限定されないが、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−及び1,4−ジイソシアネート、1−イソシアナト−3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン(=イソホロンジイソシアネート)、ビス−(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン(=水添MDI)、2−及び4−イソシアナトシクロヘキシル−2′−イソシアナトシクロヘキシルメタン、1,3−及び1,4−ビス−(イソシアナトメチル)−シクロヘキサン、ビス−(4−イソシアナト−3−メチルシクロヘキシル)メタン、1,3−及び1,4−テトラメチルキシリデンジイソシアネート、2,4−及び/または2,6−ジイソシアナトトルエン、2,2′−、2,4′−及び/または4,4′−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−及びm−フェニレンジイソシアネート、ダイメリルジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニル−4,4′−ジイソシネート、カルボジイミド変性液状MDI、ポリメリックMDI等を挙げることができる。中でも、ベンゼン環にイソシアネート基のついたいわゆる芳香族イソシアネートが好ましい。
【0053】
本発明において用いられるブロック化剤(C)としては、ケトオキシム類、ラクタム類、フェノール類、ピラゾール類、活性メチレン化合物類等の、通常使用される公知のイソシアネートブロック化剤が挙げられる。中でも、ブロック化反応が容易に進行し、又、解離温度も120〜180℃と、比較的マイルドな加熱条件で脱ブロック化が可能であるという観点から、ケトオキシム類およびラクタム類が好適である。これらの中でも、液状で取り扱いがしやすく、入手も容易な観点から、メチルエチルケトンオキシムを使用することが好ましい。
【0054】
本発明におけるイソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)の製造方法は、特に限定されないが、例えば、まず、ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)とを反応させて、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを製造し、次に、当該イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーとブロック化剤(C)を反応させて、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)を得る方法が挙げられる。
【0055】
前記ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)を反応させる際、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とのNCO基/OH基のモル比率が、5.0/1.0〜1.3/1.0の範囲となるようにすることが好ましい。また、温度20〜120℃で、必要に応じ公知のウレタン化触媒や反応抑制剤を添加して、撹拌反応させ、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーとする方法が一般的である。
【0056】
また、前記イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーとブロック化剤(C)を反応させるブロック化反応条件としては、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー成分とブロック化剤(C)成分とのNCO基/OH基のモル比率が1.1/1.0〜0.8/1.0、好ましくは1.0/1.0〜0.9/1.0の範囲で、20〜120℃の温度で攪拌反応させることが好ましい。この反応により、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)が得られる。
【0057】
本発明で用いられる、アミノ基を2個以上有する脂肪族化合物(E)は、前記イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)の鎖伸長剤として使用される。
【0058】
前記アミノ基を2個以上有する脂肪族化合物(E)としては、特に限定されないが、例えば、ジアミン化合物及び/又はトリアミン化合物が挙げられる。
【0059】
前記ジアミン化合物としては、例えば、1,2−ジアミノエタン、1,2−ないしは1,3−ジアミノプロパン、1,2−ないしは1,3−ないしは1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、ピペラジン、N,N′−ビス−(2−アミノエチル)ピペラジン、1−アミノ−3−アミノメチル3,5,5−トリメチル−シクロヘキサン(=イソホロンジアミン)、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス−(4−アミノ−3−ブチルシクロヘキシル)メタン、1,2−、1,3−ないしは1,4−ジアミノシクロヘキサンまたは1,3−ジアミノプロパン、ノルボルネンジアミン、4,4′−メチレン−ビス−2−メチルシクロヘキシルアミン、ポリオキシアルキレンジアミン等のポリエーテル系ジアミン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、又は2種以上併用しても良い。
【0060】
前記トリアミン化合物としては、例えば、ジエチレントリアミン、4−アミノメチル−1,8−オクタンジアミン、2,2′ ,2′′−トリアミノトリエチルアミン、トリス−1,1,1−アミノエチルエタン、1,2,3−トリアミノプロパン、トリス−(3−アミノプロピル)−アミン、N,N,N′,N′−テトラキス−(2−アミノエチル)−エチレンジアミンやポリオキシアルキレントリアミン等のポリエーテル系トリアミン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、又は2種以上併用しても良い。
【0061】
これらの中でも、耐久性をより向上できるという点から、ポリエーテル系トリアミンを用いることがより好ましく、ポリオキシアルキレントリアミンを用いることが、特に好ましい。該ポリオキシアルキレントリアミンとしては、炭素数が2〜6のアルキレン骨格を有するものを用いることが好ましく、炭素数が2〜4のアルキレン骨格を有するものを用いることが特に好ましい。例えば、ポリオキシエチレントリアミン、ポリオキシプロピレントリアミン、ポリオキシブチレントリアミンを用いることが好ましい。
【0062】
また、前記ジアミン化合物の分子量としては、200〜3000程度のものを用いることができる。前記トリアミン化合物の分子量としては、200〜1000、好ましくは300〜800、より好ましくは400〜600、特に好ましくは400〜500程度のものを用いることができる。なお、前記分子量は分子式から計算できる場合はその計算値、それ以外の場合は数平均分子量を表す。前記数平均分子量はアミノ基を2個以上有する脂肪族化合物をアセチル化し、アセチル化当量から計算される値を表す。
【0063】
前記ジアミン化合物と前記トリアミン化合物を併用する場合は、ポリエーテル系トリアミンを含有することが、耐久性の観点から好ましく、ポリエーテル系トリアミンと4,4′−メチレン−ビス−2−メチルシクロヘキシルアミンとを併用することが、特に好ましい。
【0064】
本発明における熱硬化性ポリウレタン樹脂の製造方法は、特に限定されないが、例えば、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)と、アミノ基を2個以上有する脂肪族化合物(E)を、混合攪拌しながら溶媒に溶解させ、該混合液を110〜160℃程度で溶媒を揮発させながら反応させる方法が挙げられる。この際、上記成分(D)および(E)を一度に溶媒に溶解させてもよいし、予め上記成分(D)および(E)を、それぞれ別に、溶媒に溶解させておき、その後混合することもできる。また、弾性層に所望の半導電性を付与するために、さらに前述の導電剤を添加してもよい。この場合、すでに上記成分(D)および(E)を混合してある溶液に導電剤を添加してもよいし、予め上記成分(D)を含む溶液のみに導電剤を添加しておいてから、その後上記成分(E)を、混合してもよい。
【0065】
前記熱硬化性ポリウレタン樹脂の製造に用いる溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤やアセトン、メチルエチルケトン(MEK)などのケトン系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤が使用される。これらのうちの1種又は2種以上の混合溶媒であってもよい。特に、キシレンが好ましい。
【0066】
前記イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)と前記アミノ基を2個以上有する脂肪族化合物(E)とを反応させる際、その反応比率は、前記イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)が有するイソシアネート基と、前記アミノ基を2個以上有する脂肪族化合物(E)が有するアミノ基と、のモル比率がNCO/NH=1.35/1.0〜1.0/1.0の範囲であることが好ましく、1.20/1.0〜1.0/1.0であることが好ましい。
【0067】
本発明における熱硬化性ポリウレタン樹脂の硬度としては、その硬化物のタイプA硬さ(JIS K6253)が20〜70°であることが好ましく、35〜55°であることがより好ましい。硬さが20°未満のものでは、ラフ紙凹凸に追従しやすく出来るものの、圧縮永久歪みや引張強度が悪くなるため、転写ベルトなどの用途には不向きとなる場合がある。
【0068】
通常、熱硬化性ポリウレタン樹脂は、それ自身のイオン導電性に由来する、体積固有抵抗率1×10〜1×1010Ω・cm程度の極性を有しており、単独で弾性層に用いても、電子写真装置用ベルトに求められる半導電性が得られる。しかしながら、ポリウレタン樹脂由来のイオン導電性は、温湿度環境依存性が大きいため、温湿度環境が大きく変化することで、体積固有抵抗率も変動する恐れがある。
【0069】
このような問題があるため、弾性層に、体積固有抵抗率が1×1011Ω・cm以上の抵抗調整をしていないポリウレタン樹脂を用いる場合には、電気的特性の環境変動依存性が低い導電剤を配合し、抵抗を調整することが好ましい。
【0070】
この電気的特性の環境変動依存性が低い導電剤としては、例えば、カーボンブラック等の電子導電剤が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の導電性カーボンブラックを挙げることができる。
【0071】
カーボンブラック等の電子導電剤の配合量は、弾性層における熱硬化性ポリウレタン樹脂100重量部に対し、5〜50重量部が好ましく、10〜40重量部がより好ましく、10〜30重量部がさらに好ましい。
【0072】
このように、カーボンブラック等の電子導電剤を配合することで、弾性層に体積抵抗率1×10〜1×1013Ω・cm程度、好ましくは、1×10〜1×1012Ω・cm程度、の半導電性を付与することが可能となり、多種多様な抵抗値要求に対し、目的に合った的確な半導電性を得ることができる。また、得られるベルトの半導電性は、電子伝導性によるものであるため、温度、湿度等の外部環境にほとんど影響を受けない安定した半導電性を示すことになる。
【0073】
また、他の電気的特性の環境変動依存性が低い導電剤として、リチウムイオン塩も挙げることができる。リチウムイオン塩はイオン導電剤であるが、一般的によく用いられる、吸湿により導電性を発現するイオン導電剤とは異なり、リチウムイオンが酸素の分子運動によって移動することで導電性を発現すると考えられており、環境依存性が小さいため、転写ベルト等の弾性層に対しても好適に用いられる。
【0074】
リチウムイオン塩を用いたイオン導電剤としては、例えば、リチウムビスイミド(CFSONLi、リチウムトリスメチド(CFSOCLiが挙げられる。具体例としては、例えば、三光化学工業(株)製サンコノール等がある。
【0075】
リチウムイオン塩を添加する場合、その添加量は、弾性層における熱硬化性ポリウレタン樹脂100重量部に対して、3.0重量部程度以下であることが好ましい。また、下限値は特に限定されないが、0.1重量部以上であることが好ましい。
【0076】
弾性層の厚さは、ベルト表面の柔軟性と、使用時の画像ズレ防止を考慮して、通常、50〜400μm、好ましくは150〜350μmである。
【0077】
基材層
本発明の多層弾性ベルトにおける基材層は、駆動時にベルトにかかる応力でベルトが変形しないようにするための層である。そのため基材層には機械物性強度が要求される。
【0078】
基材層は、高強度樹脂材料を含む基材層形成用組成物により形成されることが、機械物性強度の点から好ましい。該高強度樹脂材料としては、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、PVdF、ポリアミド、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0079】
前記ポリイミドは、通常、モノマー成分としてテトラカルボン酸二無水物とジアミン又はジイソシアネートとを、公知の方法により縮重合して製造される。
【0080】
テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸、2,3,5,6−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2′,3,3′−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、アゾベンゼン−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、β,β−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、β,β−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン等の二無水物が挙げられる。好ましくは、2,2′,3,3′−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸である。
【0081】
ジアミンとしては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノクロロベンゼン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,4′−ジアミノビフェニル、ベンジジン、3,3′−ジメチルベンジジン、3,3′−ジメトキシベンジジン、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3′−ジアミノベンゾフェノン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノアゾベンゼン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、β,β−ビス(4−アミノフェニル)プロパン等が挙げられる。好ましくは、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)である。
【0082】
ジイソシアネートとしては、上記したジアミン成分におけるアミノ基がイソシアネート基に置換した化合物等が挙げられる。例えば4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートであり、好ましくは、イソホロンジイソシアネートである。
【0083】
前記ポリアミドイミドは、無水トリメリット酸とジアミン又はジイソシアネートとを、公知の方法により縮重合して製造される。この場合、ジアミン又はジイソシアネートとしては、上記のポリイミドの原料と同じものを挙げることができる。
【0084】
本発明の基材層の体積抵抗率は、ベルト基材として、電気的な制御によってトナーの受け渡しを行うという点から、通常、1×10〜1×1012.5Ω・cm程度が好ましく、1×10〜1×1012.5Ω・cm程度がより好ましい。
【0085】
同様の観点から、基材層の表面抵抗率は、通常、1×10〜1×1014Ω・cm程度が好ましく、1×1010〜1×1014Ω・cm程度がより好ましい。
【0086】
基材層には、導電性の付与のため、必要に応じて導電剤を含んでいても良い。導電剤としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト等の導電性炭素系物質;アルミニウム、銅合金等の金属または合金;更には酸化錫、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化インジウム、チタン酸カリウム、酸化アンチモン−酸化錫複合酸化物(ATO)、酸化インジウム−酸化錫複合酸化物(ITO)等の導電性金属酸化物等が挙げられ、これらの微粉末を1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも導電性炭素系物質が好ましく、カーボンブラックがさらに好ましい。
【0087】
基材層に導電剤を含む場合、その配合量は、通常、基材層を形成する樹脂100重量部に対して5〜30重量部程度であればよい。これにより基材層に、中間転写ベルトに適した抵抗率を持たせることができる。
【0088】
基材層の厚さは、駆動時にベルトにかかる応力と柔軟性を考慮して、通常、30〜120μmであり、好ましくは50〜100μmである。
【0089】
また、基材層のヤング率は、多層弾性ベルトの耐久性確保の観点から2,500MPa以上であることが好ましく、3,500MPa以上であることがより好ましい。ここで、基材層のヤング率とは、基材層を形成する基材層形成用組成物を用いて、本発明の多層弾性ベルトにおける基材層作製条件と同一条件で作製した厚さ約80μmの基材層を用いて測定した値である。
【0090】
電子写真装置用多層弾性ベルトの諸物性値
本発明の多層弾性ベルトの体積抵抗率は、電子写真装置用転写ベルトとして用いられる場合、電気的な制御によってトナーの受け渡しを行うという点から、通常、1×10〜1×1012.5Ω・cm程度が好ましく、1×10〜1×1012Ω・cm程度がより好ましい。
【0091】
同様の観点から、多層弾性ベルトの表面抵抗率は、通常、1×10〜1×1014Ω・cm程度が好ましく、1×10〜1×1014Ω・cm程度がより好ましい。
多層弾性ベルトの平均総厚みは、通常、150〜500μm程度が好ましく、200〜350μm程度がより好ましい。
【0092】
また、多層弾性ベルトの表面摩擦係数は、通常、0.1〜0.9程度が好ましく、特に、0.2〜0.8程度であるのが好ましい。
【0093】
II. 電子写真装置用多層弾性ベルトの製造
本発明の電子写真用多層弾性ベルトは、(1)基材層形成用組成物を、回転成型又は溶融押出成形して基材層を製膜し、(2)円筒状金型の内面に表面層形成用組成物を注入し、回転成型により表面層を製膜し、(3)上記(2)で得られた表面層の内面に、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)と、アミノ基を2個以上有する脂肪族化合物(E)とから得られる熱硬化性ポリウレタン樹脂を含む弾性層形成用組成物を注入し、回転成型して弾性層を製膜して二層膜とし、(4)上記(1)で得られた基材層の外面と、上記(3)で得られた二層膜の弾性層の内面とを重ね合わせて加熱処理することにより、製造することができる。
【0094】
工程(1) 基材層の形成
本発明の多層弾性ベルトにおける基材層は、例えば、次のようにして製膜することができる。基材層を形成する樹脂として、ポリイミドを用いる場合を例として、以下に説明する。
【0095】
上記したポリイミドの原料であるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを溶媒中で反応させて、一旦ポリアミック酸溶液とする。このポリアミック酸溶液の固形分濃度は、通常、10〜40重量%程度であればよい。
【0096】
溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と呼ぶ。)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の非プロトン系有機極性溶媒が使用される。これらのうちの1種又は2種以上の混合溶媒であってもよい。特に、NMPが好ましい。
【0097】
また、基材層に所望の半導電性を付与するために、前述のとおり、必要に応じ基材層を形成する樹脂100重量部に対して、5〜30重量部程度のカーボンブラック等の導電剤をポリアミック酸溶液に添加しても良い。この場合、ボールミルにて導電剤の均一分散を行ってもよい。これにより、ポリアミック酸及び必要に応じ導電剤を含む基材層形成用組成物を得る。
【0098】
得られた基材層形成用組成物について、円筒状金型(回転ドラム)等を用いた回転成型を行う。この場合の金型内面は鏡面仕上げでも良いが、弾性ゴム材料からなる弾性層との接着面積を増やす手法として、ブラスト等による凹凸を有していてもよい。
【0099】
加熱は、金型内面を徐々に昇温し、100〜190℃程度、好ましくは110〜130℃程度に到達せしめる(第1加熱段階)。昇温速度は、例えば、1〜2℃/分程度であればよい。上記の温度で20分〜3時間維持し、およそ半分以上の溶剤を揮発させて自己支持性のある無端ベルトを成型する。
【0100】
次に、第2段階加熱として、温度280〜400℃程度(好ましくは300〜380℃程度)で処理してイミド化を完結させる。この場合も、第1段階加熱温度から一挙にこの温度に到達するのではなく、徐々に昇温して、その温度に達するようにするのが良い。なお、第2段階加熱は、無端ベルトを円筒状金型の内面に付着したまま行っても良いし、第1加熱段階終了後、金型から無端ベルトを剥離し、取り出して別途イミド化のための加熱手段に供して、280〜400℃に加熱してもよい。このイミド化の所要時間は、通常約20分〜3時間程度である。
【0101】
回転成型を用いて製膜する基材層は、原料の縮み率や耐熱温度といった観点から、後述の表面層、弾性層の製膜に用いる円筒状金型とは内径寸法が異なる、基材層製膜専用金型を用いることが好ましい。
【0102】
基材層を形成する樹脂として、ポリアミドイミドを用いる場合も同様にして、ジアミン或いはジアミンから誘導されたジイソシアネートと、無水トリメリット酸とを溶媒中で反応させて直接ポリアミドイミドとし、これを回転成型して、継目のない(シームレス)ポリアミドイミドの基材層を製膜できる。ポリアミドイミドを用いる場合にも、必要に応じて、カーボンブラック等の導電剤を添加することができ、その添加量は前述のポリイミドの場合と同様である。
【0103】
また、基材層の材料として、ポリカーボネート、PVdF、ポリアミド、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を用いる場合は、これらの樹脂を溶融して押出成型することによりシームレスの基材層を製膜できる。この場合も、必要に応じて、カーボンブラック等の導電剤を添加することができ、その添加量は前述のポリイミドの場合と同様である。
【0104】
前述のように押出成型によりシームレスベルトを得る場合、基材としての性能を保持するため、ヤング率1,000MPa以上、好ましくは1,500MPa以上の材料を選択することが好ましい。
【0105】
上記のようにして、継目のない高い強度を有する基材層を得ることができる。
【0106】
工程(2) 表面層の形成
本発明の多層弾性ベルトにおける表面層は、例えば、次のようにして製膜することができる。表面層を形成する樹脂として、フッ素樹脂を用いる場合を例として、以下に説明する。
【0107】
まず、出来上がりの表面層の厚みが、目的の厚み、例えば1〜5μm程度となるようにフッ素樹脂の重量を調整する。秤量されたフッ素樹脂、及び任意で添加してもよい層状粘土鉱物を溶媒中に溶解又は膨潤させて得られる表面層形成用組成物を、円筒状金型(回転ドラム)等の内面にキャストし、回転成型する。
【0108】
用いる溶媒としては、水;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;或いはこれらの混合溶媒等を挙げることができる。該表面層形成用組成物の固形分濃度は、1〜30重量%程度であればよい。
【0109】
表面層の回転成型は、例えば、円筒状金型等を用いて次のようにして実施できる。停止している円筒状金型に、最終厚さを得るに相当する量の表面層形成用組成物を注入した後、遠心力が働く速度にまで徐々に回転速度を上げて、表面層形成用組成物を遠心力で金型内面全体に均一に流延する。
【0110】
円筒状金型はその内面が鏡面、すなわち所定の表面精度に研磨されており、具体的には表面粗さ(JIS B0601−1994 十点平均粗さ)が1μmRz以下であり、この金型の内面状態が、無端多層弾性ベルトの表面層外面にほぼ転写される。ただし、無端多層弾性ベルトの表面層の表面粗さは、ベルトの微妙なタワミやウネリを測定上拾ってしまうため、回転ドラムの内面の平均表面粗さに比べて、やや高めの値になる傾向がある。そのため、ベルト表面層の所望の表面粗さに対して、やや小さめの内面の平均表面粗さを有する回転ドラムを採用することもできる。また、ベルト表面層に所望の凹凸を持たせるよう調節する目的で、金型内面にブラスト処理を施すこともできる。
【0111】
さらに、円筒状金型内面には離型剤を塗布して、表面層形成用組成物の硬化後の膜(表面層)がきれいに金型内面から離型できるようにすることもできる。離型剤としては、フッ素系離型剤、シリコーン系離型剤、セミパーマネント系離型剤などが用いられる。
【0112】
円筒状金型は回転ローラー上に載置し、該ローラーの回転により間接的に回転が行われる。また金型の大きさは、所望する表面層の大きさ、すなわち多層弾性ベルトの外径に応じて適宜選択できる。
【0113】
加熱は、該金型の周囲に、例えば遠赤外線ヒータ等の熱源が配置され、外側からの間接加熱により行われる。通常、室温から120〜200℃程度まで徐々に昇温し、昇温後の温度で0.5〜2時間程度加熱すればよい。これにより、円筒状金型内面に注入された表面層形成用組成物は硬化し、円筒状金型内面に、継目のない(シームレス)管状の表面層が製膜できる。
【0114】
工程(3) 2層化
上記工程(2)で得られた表面層の内面に、弾性層形成用組成物を回転成型して製膜し、2層膜とする。
【0115】
具体的には、まず、上述のイソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)と、アミノ基を2個以上有する脂肪族化合物(E)とから得られる熱硬化性ポリウレタン樹脂を、溶媒に溶解させ、液状組成物とする。この際、上記成分(D)および(E)を一度に溶媒に溶解させてもよいし、予め上記成分(D)および(E)を、それぞれ別に、溶媒に溶解させておき、その後混合することもできる。当該液状組成物の固形分濃度は、通常、20〜70重量%程度であればよい。
【0116】
溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤やアセトン、メチルエチルケトン(MEK)などのケトン系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤が使用される。これらのうちの1種又は2種以上の混合溶媒であってもよい。特に、キシレンが好ましい。
【0117】
次に、弾性層に所望の半導電性を付与するために、上記液状組成物に、前述の導電剤を添加する。この場合、ボールミル、攪拌機等にて導電剤の均一分散を行ってもよい。これにより、弾性層形成用組成物を得る。また、当該弾性層形成用組成物には、必要に応じて硬化促進剤を添加する。
【0118】
この弾性層形成用組成物の粘度が回転成型をする際に高すぎた場合、上記の溶媒で適宜希釈しても良い。
【0119】
得られた弾性層形成用組成物を、表面層が形成された円筒状金型(回転ドラム)等の表面層の内面に均一に塗布し、回転成型を行う。また、回転成型を行いながら、加熱処理も行う。
【0120】
加熱は、円筒状金型の内面を、室温から徐々に加熱し、熱可塑性ポリウレタン樹脂の耐熱限界以下の温度帯である110〜160℃程度にまで到達させる。そして、その状態で0.5〜3時間程度保持し、円筒状金型内に表面層、その上に弾性層を有する2層膜を成形する。
【0121】
また、表面層と弾性層の間の接着性を向上させる目的で、予め表面層側にプライマーをスプレー等で塗っておく方法や、弾性層形成用組成物中にシランカップリング剤を添加する方法、その両方を行う方法などを採っても良い。
【0122】
工程(4) 3層化
上記工程(3)で得られた表面層及び弾性層の二層からなる第1ベルトと、上記工程(1)で得られた基材層からなる第2ベルトとを、該第1ベルトの内面(弾性層側の面)と該第2ベルトの外面とが接触するように重ね合わせる。両者の間には、必要に応じて、接着剤やプライマーを塗布してもよい。
【0123】
両者の重ね合わせ後は、両者の間が密閉状態となるようにすることが好ましい。その後、重ね合わせた積層体を加熱処理することにより、弾性層の内面と基材層の外面とが接着された無端の3層の弾性ベルトを得る。
【0124】
上記3層化工程の詳細について、具体例を挙げて説明する。
【0125】
円筒金型内面で製膜された表面層及び弾性層からなる二層膜(第1ベルト)の内面(弾性層側の面)に、プライマーを均一に塗布して風乾する。
【0126】
別の専用円筒金型で製膜した基材層の外面にも、接着剤を均一塗布して風乾した後、これを該弾性層内面に重ね合わせ、位置がずれないよう基材層内面に密着する内金型を挿入する。
【0127】
その後、円筒状金型内面を徐々に昇温し、100℃程度で20〜60分程度加熱処理することにより、円筒状金型内に表面層、弾性層および基材層を有する3層ベルトを成形する。必要に応じ、脱型後の3層ベルトを、さらに120℃程度で3〜5時間程度加熱処理することにより、アニール処理を施しても良い。こうして、本発明の多層弾性ベルトを得る。
【0128】
基材層外面に塗布する接着剤としては、例えば、ホットメルトやラミネートと呼ばれるウレタン系接着剤を使用することができる。具体的には、例えば、三井化学ポリウレタン(株)製タケラックA−969やDIC(株)製タイフォースNT−810が例示できる。なお、上記のプライマーの使用は任意であるが、接着強度向上の点から使用することが好ましい。プライマーとしては、ウレタン系、エポキシ系、シラン系などのシランカップリング剤を溶剤に溶かした接着プライマーが挙げられ、例えば、東レ・ダウコーニング(株)製のDY39−067やプライマーA等が例示される。
【0129】
前述の例においては、3層からなる本発明の多層弾性ベルトについてのみ説明したが、本発明においては、上記基材層、弾性層、表面層以外の層も含むことができる。また、基材層、弾性層、表面層を、それぞれ2層以上設けることもできる。
【0130】
本発明の多層弾性ベルトは、画像形成装置に使用される中間転写ベルト、転写搬送ベルト、紙搬送ベルト、転写定着ベルト等の電子写真装置用ベルトとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0131】
以下、比較例と共に実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
また、本発明では、特に断りのない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」である。
【0132】
本明細書に記載の下記の評価は、次のようにして行った。
【0133】
<基材層固形分濃度>
試料を金属カップ等の耐熱性容器で精秤し、この時の試料の重量をAgとする。試料を入れた耐熱性容器を電気オーブンに入れて、120℃×12分、180℃×12分、260℃×30分、及び300℃×30分で順次昇温しながら加熱、乾燥し、得られる固形分の重量(固形分重量)をBgとする。同一試料について5個のサンプルのA及びBの値を測定し(n=5)、次式(I)にあてはめて固形分濃度を求めた。その5個のサンプルの平均値を、固形分濃度として採用した。
基材層固形分濃度=B/A×100(%) (I)
【0134】
<表面層及び弾性層の固形分濃度>
原料を精秤し、この時の固形あるいは液状原料の重量をCgとする。原料を各種溶剤に溶かすために、電子天秤上で攪拌しながら該溶剤を徐々に加え、最終的な溶液重量をDgとする。固形分濃度は次式でとなる。
各層固形分濃度=C/D×100(%) (II)
【0135】
<CB濃度>
基材層または弾性層原料固形分中のCB濃度は、基材層または弾性層原料固形分重量をEとし、添加したCB重量をFとした時の次式で計算される値である。
固形分中のCB濃度=F/(E+F)×100(%) (III)
【0136】
<厚み>
厚みは、接触式膜厚測定器のフラット型プローブを用いて幅方向3点、周方向8点の合計24点測定し、その平均値として示した。
【0137】
<ヤング率>
ヤング率はJIS K7127に準拠し、(株)島津製作所製 オートグラフAG−Xを用いて測定した。
サンプル片:25×250mmの短冊状
引張速度:20mm/分
【0138】
<表面抵抗率、体積抵抗率>
表面抵抗率(Ω/□)及び体積抵抗率(Ω・cm)は、三菱化学(株)製の抵抗測定器“ハイレスタUP・URブロ−ブ”を用いて23℃、55%RH環境下で測定した。幅方向に長さ360mmにカットしたベルトをサンプルとし、該サンプルの幅方向に等ピッチで3ヶ所、縦(周)方向に4カ所の合計12ヶ所について、印加電圧100V、10秒後に表面抵抗率及び体積抵抗率をそれぞれ測定し、その平均値の常用対数値で示した。なお該測定サンプルは23℃、55%RH環境下で12時間放置してから測定した。
【0139】
<ゴム材料タイプA硬度>
JIS K6253に従い、デュロメーターAを用いて、弾性層を構成する材料で厚み6mmのバルク(塊)を作製して評価した。
【0140】
<合成例1>
イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D−1)の合成
ポリテトラメチレンエーテルグリコール500部に、2,4−ジイソシアナトトルエン74部(NCO/OH=1.7)を激しく撹絆しながら投入し、100℃で4時間反応させてウレタンプレポリマーを得た。
該ウレタンプレポリマーを60℃まで冷却し、これにブロック化剤としてメチルエチルケトンオキシムを31部(NCO/OH=0.98)投入し、70℃にて2時間攪拌、反応させ、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D−1)を得た。得られたイソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D−1)の80℃における粘度は3,800mPa・sであった。
【0141】
<合成例2>
イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D−2)の合成
液状のポリエステルジオール(3−メチルペンタンジオールとアジピン酸から得られたポリエステルジオール、分子量2000)500部に2,4−ジイソシアナトトルエン74部(NCO/OH=1.7)を激しく攪拌しながら投入し、100℃で4時間反応させてウレタンプレポリマーを得た。
該ウレタンプレポリマーを60℃まで冷却し、これにブロック化剤としてメチルエチルケトンオキシムを31部(NCO/OH=0.98)投入し、70℃にて2時間攪拌、反応させ、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D−2)を得た。得られたイソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D−2)の80℃における粘度は4,200mPa・sであった。
【0142】
<比較合成例1>
イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(D−3)の合成
ポリテトラメチレンエーテルグリコール(分子量2000) 500部に、2,4−ジイソシアナトトルエン87部(NCO/OH=2.0)を激しく攪拌しながら投入し、100℃で4時間反応させてイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを得た。
【0143】
実施例1
(1)基材層の製膜
窒素流通下、N−メチル−2−ピロリドン488gに、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)47.6gを加え、50℃に保温、撹拌して完全に溶解させた。この溶液に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)70gを除々に添加し、ポリアミック酸溶液605.6gを得た。このポリアミック酸溶液の数平均分子量は17,000、粘度は3,500mPa・s、固形分濃度は18.0%であった。
次に、このポリアミック酸溶液450gに、酸性カーボン(pH3.0)21gとN−メチル−2−ピロリドン80gを加えて、ボールミルにてカーボンブラック(CB)の均一分散を行った。このマスターバッチ溶液(基材層形成用組成物)は、固形分濃度18.5%、該固形分中のCB濃度は20.6%であった。
そして該溶液から276gを採取し、基材層成型用円筒状金型を用意し、次の条件で成形した。
基材層成型用金型:内径301.5mm、幅540mmの内面鏡面仕上げの円筒状金型であり、該金型が2本の回転ローラー上に載置され、該ローラーの回転とともに回転する状態に配置した(例えば、図2を参照)。
加熱装置:該金型の外側面に遠赤外線ヒータを配置し、該金型の内面温度が120℃に制御されるように設計した装置である。
まず、円筒状金型を回転した状態で276gの該溶液を金型内面に均一に塗布し、加熱を開始した。加熱は1℃/分で120℃まで昇温して、その温度で60分間その回転を維持しつつ加熱した。
回転、加熱が終了した後、冷却せずそのまま金型を離脱して熱風滞留式オーブン中に静置してイミド化のための加熱を開始した。この加熱も徐々に昇温しつつ320℃に達した。そして、この温度で30分間加熱した後常温に冷却して、該金型内面に形成された半導電性管状ポリイミドベルトを剥離し取り出した。なお、該ベルトは厚さ80μm、外周長944.3mm、表面抵抗率1×1011.5Ω/□、体積抵抗率1×109.2Ω・cm、ヤング率は4,180MPaであった。
【0144】
(2)表面層の製膜
ビニリデンフロライド(VdF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であるVdF−HFP共重合樹脂(カイナー#2821、アルケマ製:HFP11モル%)100gを、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)900gに溶解させ、固形分濃度10%の溶液Aを調製した。
有機変性モンモリロナイト(ルーセンタイトSTN、コープケミカル(株)製)100gを、ジメチルアセトアミド900gに加え、ボールミルにて均一分散を行って固形分濃度10%の溶液Bを調製した。
溶液Aと溶液BをA:B=99:1で調合し撹拌機で混合し、固形分濃度10%、該固形分中の有機変性モンモリロナイト濃度1%の溶液を得た。これをDMAc:酢酸ブチル=1:2の混合溶媒で希釈し、固形分濃度1.6%、該固形分中有機変性モンモリロナイト濃度1%(表面層の総重量に対するモンモリロナイトの配合割合に相当する)の表面層形成用組成物を調製した。この溶液168gを次の条件で製膜した。
回転ドラム:内径301.0mm、幅540mm、内面十点平均粗さ(Rz)=0.5μmの金属ドラムが2本の回転ローラー上に載置され、該ローラーの回転とともに回転する状態に配置した(例えば、図2参照)。
回転ドラムを回転した状態でドラム内面に均一に塗布し加熱を開始した。加熱は2℃/分で130℃まで昇温して、その温度で60分間その回転を維持しつつ加熱し、ドラム内面に表面層を形成した後ドラムを常温まで冷却した。ドラム内面に形成された表面層の厚みを渦電流式厚み計(ケット化学研究所社製)にて測定したところ3μmであった。
なお、上述の表面層形成用組成物を用いて、同一製膜条件で別途10μmの表面層を作製した。その10μmの表面層の体積抵抗率は1×1012.6Ω・cm、ヤング率は610MPaであった。
【0145】
(3)弾性層の製膜
合成例1で得られた、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D−1)100部にキシレンを125部加え希釈し、酸性カーボン(pH3.5)25部を加え、ボールミルにて均一分散を行い、固形分濃度50%、該固形分中のカーボンブラック(CB)濃度が20%のマスターバッチ溶液を作製した。このマスターバッチ溶液にポリオキシプロピレントリアミン(数平均分子量440)8.1部を加えて混合し、弾性層形成用組成物を得た。
この弾性層形成用組成物270gを計量し、先に製膜した表面層内面に金型を回転した状態で均一に塗布した後、加熱を開始した。加熱は、2℃/分で130℃まで昇温して、その温度で120分間その回転を維持しつつ加熱し、金型内面に弾性層(厚さ:250μm)を形成した。
予備試験として、この弾性層形成用組成物にて作製したウレタン硬化物の硬度を測定したところ、タイプA(JIS K6253)にて40°であった。また、体積抵抗率は、1×1010.5Ω・cmであった。
【0146】
(4)弾性層内面と基材層外面の貼り合わせ
上記(3)で製膜した弾性層内面にプライマーDY39−067(東レ・ダウコーニング(株)製)を塗布、風乾した後に、ドライラミ接着剤(三井化学ポリウレタン(株)製タケラックA−969)を薄く外面に塗布した上記(1)の基材層を挿入し、重ね合わせた。次に基材内面から圧着した状態で加熱(80〜100℃)を行い、貼り合わせを完了させた。貼り合わせた多層ベルトを金型から剥離し両端部をカットし幅360mmの多層ベルトを採取した。
該多層ベルトは厚さ335μm、外周長945.0mm、表面抵抗率1×1011.3Ω/□、体積抵抗率1×1010.4Ω・cmであった。
【0147】
実施例2
実施例1(3)において得られる弾性層形成用組成物に代えて、合成例2で得られた、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D−2)100部にキシレンを125部加え希釈し、酸性カーボン(pH3.5)25部を加え、ボールミルにて均一分散を行い、固形分濃度50%、該固形分中のカーボンブラック(CB)濃度が20%のマスターバッチ溶液を作製した。このマスターバッチ溶液にポリオキシプロピレントリアミン(数平均分子量440)8.1部と混合し、弾性層形成用組成物を得た。
予備試験として、この弾性層形成用組成物にて作製したウレタン硬化物の硬度を測定したところ、タイプA(JIS K6253)にて43°であった。また、体積抵抗率は、1×1010.7Ω・cmであった。
この弾性層形成用組成物を用いた以外は、実施例1と同様に多層ベルトを作製した。
【0148】
実施例3
実施例1(3)において得られる弾性層形成用組成物に代えて、合成例1で得られた、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D−1)100部にキシレンを125部加え希釈し、酸性カーボン(pH3.5)25部を加え、ボールミルにて均一分散を行い、固形分濃度50%、該固形分中のカーボンブラック(CB)濃度が20%のマスターバッチ溶液を作製した。このマスターバッチ溶液にポリオキシプロピレントリアミン(数平均分子量440)4.1部と4,4'−メチレン−ビス−2−メチルシクロヘキシルアミン3.1部との混合物と混合し、弾性層形成用組成物を得た。
予備試験として、この弾性層形成用組成物にて作製したウレタン硬化物の硬度を測定したところ、タイプA(JIS K6253)にて45°であった。また、体積抵抗率は、1×1010.1Ω・cmであった。
この弾性層形成用組成物を用いた以外は、実施例1と同様に多層ベルトを作製した。
【0149】
実施例4
実施例1(3)において得られる弾性層形成用組成物に代えて、合成例1で得られた、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D−1)100部にキシレンを100部加え希釈し、イオン導電剤としてサンコノールBUAC−30R(商品名、三光化学工業(株)製)を0.8部加え、撹拌機にて均一分散を行い、固形分濃度50%のマスターバッチ溶液を作製した。このマスターバッチ溶液にポリオキシプロビレントリアミン(数平均分子量440)8.1部と混合し、弾性層形成用組成物を得た。
予備試験として、この弾性層形成用組成物にて作製したウレタン硬化物の硬度を測定したところ、タイプA(JIS K6253)にて40°であった。また、体積抵抗率は、1×1010.8Ω・cmであった。
この弾性層形成用組成物を用いた以外は、実施例1と同様に多層ベルトを作製した。
なお、実施例1から4におけるウレタン硬化物硬度は配合設計で狙った範囲になっていることから、二次加硫は不要と判断した。予備試験にて作製した各実施例のウレタン硬化物を100℃雰囲気下で12時間放置し、常温に戻して硬度を再測定してみたが、二次加硫前と比較し、タイプA硬度(JIS K6253)に2ポイント以上の差は生じていなかった。
【0150】
比較例1
実施例1(3)において得られる弾性層形成用組成物に代えて、比較合成例1で得られた、イソシアネート基末端プレポリマー(D−3)100部にキシレンを125部加え希釈し、酸性カーボン(pH3.5)25部を加え、ボールミルにて均一分散を行い、固形分濃度50%、該固形分中のカーボンブラック(CB)濃度が20%のマスターバッチ溶液を作製した。このマスターバッチ溶液に、芳香族アミンであるMBOCA(3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン)を8.6部と混合し、弾性層形成用組成物を得た。
予備試験として、この弾性層形成用組成物にて作製したウレタン硬化物の硬度を測定したところ、タイプA(JIS K6253)にて57°であった。また、体積抵抗率は、1×109.4Ω・cmであった。その後、前記ウレタン硬化物を100℃雰囲気下で12時間放置し、常温に戻して硬度を再測定したところ、タイプA(JIS K6253)63°であった。
この弾性層形成用組成物を用いた以外は、実施例1と同様に多層ベルトを作製した。
【0151】
比較例2
実施例1(3)において得られる弾性層形成用組成物に代えて、比較合成例1で得られた、イソシアネート基末端プレポリマー(D−3)100部にキシレンを125部加え希釈し、酸性カーボン(pH3.5)25部を加え、ボールミルにて均一分散を行い、固形分濃度50%、該固形分中のカーボンブラック(CB)濃度が20%のマスターバッチ溶液を作製した。このマスターバッチ溶液に、4,4’−メチレン−ビス−2−メチルシクロヘキシルアミンを7.6部混合したところ、すぐにゲル化したため、多層ベルトを作製できなかった。
【0152】
比較例3
実施例1(3)において得られる弾性層形成用組成物に代えて、合成例1で得られた、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D−1)100部にキシレンを125部加え希釈し、酸性カーボン(pH3.5)25部を加え、ボールミルにて均一分散を行い、固形分濃度50%、該固形分中のカーボンブラック(CB)濃度が20%のマスターバッチ溶液を作製した。このマスターバッチ溶液に、120℃で加熱溶解した、芳香族アミンであるMBOCA(3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン)を8.5部混合し、弾性層形成用組成物を得た。
予備試験として、この弾性層形成用組成物にて作製したウレタン硬化物の硬度を測定したところ、タイプA(JIS K6253)にて58°であった。また、体積抵抗率は、1×109.3Ω・cmであった。その後、前記ウレタン硬化物を100℃雰囲気下で12時間放置し、常温に戻して硬度を再測定したところ、タイプA(JIS K6253)64°であった。
この弾性層形成用組成物を用いた以外は、実施例1と同様に多層ベルトを作製した。
上記実施例1〜4、比較例1〜3で得られた多層ベルトを、下記MIT試験および磨耗試験にかけた値と、転写ユニットに組み込んで以下の画像評価を行った結果および耐久結果を表1に示す。
【0153】
<MIT試験>
MIT試験法による耐折回数測定は、JIS P8115(1994)に準拠(JIS P8115(1994)における「紙及び板紙」を、「実施例1〜4、比較例1〜3で得られたベルト」に読みかえる)する方法であり、MIT試験機として(株)東洋精機製MIT−DAを用いて測定した。試験条件は以下のとおりである。
試験片を挟み折曲げるためのチャックの先端半径:0.38mm
荷重:2.45N(0.25kgf)
折り曲げ角度:45±2°
繰返し速度:90±10回/毎分
該条件にて繰り返し折り曲げ、表面層にストレスを与える。表面層に現れた亀裂の大きさを目視にて5段階の基準サンプルと比較し数値化した(5回測定の平均値)。
基準サンプル水準5を最良、1を最悪とし、4以上を使用可と判断し合格とした。
【0154】
<磨耗試験>
JIS K7204に従い、磨耗輪による磨耗試験により、磨耗輪によって研削された材料の重量(mg)にて比較した(8回測定の平均値)。 試験条件は以下の通りである。
磨耗量が少ないほど、表面層変形に対する弾性層の強度による防御効果は高いと判断した。
磨耗輪種類:CS−17
荷重:250g
回転回数:300回
【0155】
<転写試験>
上記実施例および比較例で得られた多層ベルトを、フルカラー転写ユニットに組み込んで、以下の画像評価を行った。
・一次及び二次転写効率
一次転写効率は、転写前及び転写後の感光体上のトナー重量を測定し下記式から求めた。また、二次転写効率は、転写前及び転写後の転写ベルト上のトナー重量を測定し下記式から求めた。
【0156】
【数1】

各転写効率は次の基準で評価した。
(一次転写効率)
○:97%より高い
△:95〜97%
×:95%未満
(二次転写効率)
○:95%より高い
△:90〜95%
×:90%未満
【0157】
・細線中抜け
細線画像の中抜けを二次転写前の転写ベルト上にて観察し評価した。細線は約0.05mmの転写ベルト進行方向と平行なY、Mの二色によるベタ画像細線をレーザ顕微鏡にて300倍の倍率で観察し、細線長さ1mm内にいくつの中抜けが発生しているかを次の基準で評価した。
○:中抜けが全くない
△:中抜けが1〜4箇所
×:中抜けが5箇所以上存在する
【0158】
<紙の凹凸追従性(ラフ紙転写性)>
凹凸の大きな紙として富士ゼロックスオフィスサプライ社の「レザック66」(表面凹凸差80μm、151g/m)を用い、シアンでベタ印刷を行って、最深部(凹部)のトナーの乗りを目視で、次の基準で評価した。
○:ムラなく転写できている
△:僅かに白抜けしている
×:トナーの乗りがなく白抜けしている
【0159】
<通紙耐久性試験>
下記の条件で通紙、通電、駆動テストを同時に実施し、10万枚相当の駆動テスト後に表面層の剥離、割れの有無を顕微鏡で観察し、次の基準で評価した。
○:表面層の剥離又は割れの発生なし
×:微小割れあり
駆動速度:ベルト外周速度300mm/秒
通電:電源(Trek 610C)によりベルト厚み方向に50μAの定電流を供給
通紙:二次転写ロール外面にコピー用紙を巻きつけ、擬似的に連続通紙した状態を作製
クリーニング機構:ウレタンゴム製クリーニングブレード(ゴム硬度 タイプA 80°)

【0160】
【表1】

【0161】
実施例においては、ゴム弾性層を設ける主目的である一次転写での細線中抜け不具合がなく、二次転写における紙の凹凸への追従性も良好であった。また、表面層の変形を弾性層の強度によって抑制する効果によって、耐久評価での割れや剥離の発生はなかった。これを裏付けるようにMIT評価、磨耗試験結果はいずれも良好であった。
【0162】
一方、比較例1、3では、細線中抜けがあり、二次転写における紙の凹凸への追従性も劣っており、一次・二次共に転写性は良好とは言えなかった。これは、弾性ベルトの弾性層硬度が高すぎたことにより、転写効率を落としたものと判断できる。また、表面層の変形を弾性層の強度によって抑制する効果が小さく、耐久評価での割れや剥離が発生した。これを裏付けるようにMIT評価、磨耗試験結果は実施例よりも劣っていた。さらに、比較例1および3の弾性層形成用組成物は二次加硫によって硬度が上がったことから、成型において硬化不足であったと推測できる。このように加工時間が長く、材料硬度の信頼性も不足していることから、弾性層形成用組成物としては不適であると言える。
【0163】
また、比較例2では、そもそも製膜することができなかった。
【0164】
以上のように、本発明の電子写真装置用多層弾性ベルトは、耐久性、転写特性、通紙耐久性が良好であり、表面層の磨耗によるワレや剥離が発生しづらく、二次加硫の要らない効率的な生産も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面層、弾性層、及び基材層の少なくとも三層からなる電子写真装置用多層弾性ベルトであって、
該弾性層が、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)と、アミノ基を2個以上有する脂肪族化合物(E)とから得られる熱硬化性ポリウレタン樹脂を含む、電子写真装置用多層弾性ベルト。
【請求項2】
前記イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)が、ポリオール(A)、ポリイソシアネート(B)、およびブロック化剤(C)を原料として得られることを特徴とする請求項1に記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【請求項3】
前記アミノ基を2個以上有する脂肪族化合物(E)が、ポリエーテル系トリアミンを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【請求項4】
前記弾性層の硬度が、タイプA硬度で60°以下である請求項1〜3のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【請求項5】
前記表面層が、フッ素樹脂及び/又はフッ素ゴムを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【請求項6】
前記基材層が、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、PVdF、ポリアミド及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【請求項7】
前記表面層及び弾性層が、円筒状金型の内側に表面層形成用組成物を塗布し、回転成型した後、形成された表面層の内面に弾性層形成用組成物を塗布し、回転成型することによって順次製膜された層である、請求項1〜6のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【請求項8】
電子写真装置用多層弾性ベルトの製造方法であって、
(1)基材層形成用組成物を、回転成型又は溶融押出成形して基材層を製膜する工程、
(2)円筒状金型の内面に表面層形成用組成物を注入し、回転成型して表面層を製膜する工程、
(3)上記(2)で得られた表面層の内面に、イソシアネート基がブロックされたウレタンプレポリマー(D)と、アミノ基を2個以上有する脂肪族化合物(E)とを含む弾性層形成用組成物を注入し、回転成型して弾性層を製膜して二層膜とする工程、及び
(4)上記(1)で得られた基材層の外面と、上記(3)で得られた二層膜の弾性層の内面とを重ね合わせて加熱処理する工程、
を含む製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−194282(P2012−194282A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57146(P2011−57146)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】