説明

多層軸受

【課題】無鉛多層軸受を提供する。
【解決手段】本発明は支持メタル層(2)、場合によってはその上に重なる軸受メタル層(3)、さらにその上に重なる滑り層(4)及びこの上に重なる表面被覆層(5)を有する多層軸受(1)を開示する。表面被覆層(5)はビスマスまたはビスマス合金によって形成され、滑り層(4)は銅-ビスマス-または銀-ビスマス合金または銀によって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は支持メタル層、場合によっては軸受メタル層、滑り層及び表面被覆層を有する多層軸受に係わる。
【背景技術】
【0002】
多層軸受は従来技術から既に周知である。例えば、独国特許第100 54 461号明細書は支持メタル層、軸受合金層、中間メッキ層及び錫基被覆層を有し、錫基被覆層が強化用の金属及び/または無機粒子を含み、強化用の金属及び/または無機粉末の含有率は被覆層の厚さ方向に段階的または連続的に変化し、被覆層の厚さの中間領域において比較的高く、被覆層の表面領域においてゼロであるかまたは被覆層の中間領域における含有率よりも低い、多層滑り軸受を開示している。この特許明細書によれば、焼付きの原因となる摩耗に対する耐性という点ではほぼ完璧であり、鉛の添加量が極めて少ないか、または全く使用されず、しかも優れた耐摩耗性を有する多層滑り軸受けが提案されていることになる。
【0003】
裏側メタル層、裏側メタル層上に存在する滑り合金層、及び滑り合金層上に存在する被覆層を含む滑り部品が、独国特許出願公開第10 2004 015 827号明細書から公知であり、この公知例では、被覆層がビスマスまたはビスマス合金から成り、被覆層の結晶格子においてミラー指数(202)で示される面が30%を下回ることのない配向度を有し、(202)面のX線回折線強度R(202)が他の面と比較して最大値を有する。この滑り部品は優れた耐焼付き特性を有すると主張されている。
【0004】
さらに、大きいコネクティング・ロッド・アイに設けられ、複数の溶射層と、多くの場合アルミニウム-ビスマス合金で形成される最表層とから成るコネクティング・ロッドの軸受殻体が独国特許出願公開第10 2004 055 228号明細書から公知である。最表層の下には特に青銅または黄銅から成る軸受合金が設けられている。ビスマス含有率は10〜40重量%である。ほかに、3〜6重量%の錫またはアンチモン、0.1〜5.0重量%の銅、0.5重量%未満の錫及び鉛を含有することもある。この特許出願公開明細書によれば、極めて厳しい耐圧要件、耐熱要件、及び耐久強度要件を満たす軸受殻体が妥当なコストで提供される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は無鉛多層軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のこの目的は、前述の多層軸受けにおいて、表面被覆層がビスマスまたはビスマス合金によって形成され、滑り層が銅-ビスマス合金または銀-ビスマス合金または銀によって形成されていることを特徴とする多層軸受によって達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の多層軸受によって達成されるのは無鉛化だけではなく、特に、高圧・高温負荷において優れた耐久強度を有し、しかも焼付き状態になり難い多層軸受が実現される。尚、本発明において無鉛という場合、意図的に鉛を添加しないという意味であって、金属もしくは合金の製造に伴う不可避の不純物は含まれる。焼付きが起こり難いという利点は、外層として多層軸受を被覆するビスマスは脆いだけに顕著である。さらにまた、銅-ビスマス合金または銀-ビスマス合金によって滑り層にはこれらの合金に対応する硬さが付与され、その結果、特に長期に亘る優れた耐摩耗性が達成される。
【0008】
1つの実施態様として、結晶子の配向が明確なビスマスもしくはビスマス合金を表面被覆層に使用する。この結晶子における格子面(012)もしくは{012}のX線回折強度は他の格子面のX線回折強度と比較して最も大きい。これまで公知技術(例えば、独国特許出願公開第100 32 624号明細書)では、本発明のこの実施態様のように好ましい方位が少数の特定面に限定される場合にはビスマス層は好適でない、というのが定説であっただけに、意外な所見であった。
【0009】
2番目に大きいX線回折強度を有する格子面、特に、ミラー指数(024)もしくは{024}で表される格子面のX線回折強度は格子面(012)もしくは{012}のX線回折強度の10%またはそれ以下の値を有すればよい。結果として、表面被覆層における結晶子の配向度が高くなる。
【0010】
結晶子の配向度をさらに高めるため、表面被覆層における結晶子の方位を、格子面(012)もしくは{012}以外のすべての格子面のX線回折強度の総和が格子面(012)もしくは{012}のX線回折強度の25%またはそれ以下の値を有するように設定する。
【0011】
表面被覆層は1 μmを下限とし、10 μmを上限とする範囲から選択される層厚を有することが好ましい。3 μmから6 μmまでの範囲から選択された層厚を採用することが特に好ましい。このように層厚を薄くすることによって、固有の脆さを有するビスマスの摩擦適性が高められるから、脆さは最早二次的な役割を果すに過ぎない。
【0012】
滑り層の銅-ビスマス合金または銀-ビスマス合金は、それぞれ銅または銀をマトリクスとして形成され、銅または銀がそれぞれ製造起因の不可避不純物を含み、ビスマスの含有率は、銀の場合には2重量%、銅の場合には0.5重量%を下限とし、いずれの場合にも49重量%を上限とする範囲内で選択する。銀とビスマスもしくは銅とビスマスの二元合金において、ビスマスは滑り層の包み込み性能を左右する軟質相の役割を果すだけでなく、耐摩耗性の向上にも寄与する、という注目すべき所見を得た。これと同じ目的で公知技術において使用された鉛入り青銅で既に知られているのと同様の優れた特性が得られ、従って、滑り層の摩耗は軽微である。
【0013】
滑り層中に、下限を10 nmとし、上限を100 nmとする範囲から選択される粒径を有する硬質粒子が含まれているように設定することができる。このようないわゆるナノ粒子によって滑り特性が悪影響を受けることはなく、滑り層の表面には障害となるような硬い尖鋭部などは存在しない。しかも、これらの粒子を好ましくは分散状態のビスマス相中に存在させることによって、特に合金中のビスマス量が比較的多い場合にこそ、粒界における破砕のリスクが軽減される。
【0014】
これらの粒子は高い硬さがその特徴であるから、酸化物、炭化物、窒化物、例えば、酸化チタニウム、二酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、炭化タングステン、窒化ケイ素、及びダイヤモンド、及びこれらのうちの少なくとも2つの異なる材料の混合物を含むグループから選択することが好ましい。
【0015】
1つの実施態様として、硬質粒子の含有率を銀-ビスマス合金もしくは銅-ビスマス合金に対して、下限を0.05体積%とし、上限を5.0体積%とする範囲から選択する。これらの粒子の量がこの範囲なら、ビスマスの融点は低いから、粒子の少なくとも大部分がビスマス相中に分散して滑り層の構造強度を高める。硬質粒子はビスマス相と共存する。ナノ粒子の含有率を、下限を0.5体積%、上限を3体積%、もしくは下限を1体積%、上限を2.5体積%とすることが特に好ましい。例えば、含有率を0.1体積%または0.9体積%または1.5体積%または2体積%または3.5体積%または4体積%または4.5体積%とすることができる。
【0016】
滑り層と軸受メタル層の間に、銀、銅、アルミニウム、マンガン、ニッケル、鉄、クロム、コバルト、モリブデン、パラジウム、ニッケル-錫合金または銅-錫合金、例えば、Cu6Sn5、Ni2Sn3、Ni3Sn4によって形成される中間層が介在する場合もある。これによって層複合体の結合が高められる。
【0017】
支持メタル層と軸受メタル層の間に、銀または銅から成る保護層を介在させることによって、軸受メタル層の少なくとも個々の構成成分が支持メタル層に浸透するのを防止することができる。
【0018】
この場合、支持メタル層と軸受メタル層との界面領域だけでなく、支持メタル層の両側面及び両端面をも保護層で被覆することが好ましい。
【0019】
本発明の多層軸受が、例えば、軸受ブシュまたは滑り軸受半殻体として形成され、金属製の取付け具で固定されている場合に発生し易い微動に起因する腐食または摩擦摩耗を防止するには、裏側をも含めて支持メタル層全面を銀または銅で被覆すればよい。
【0020】
滑り層がビスマス濃度に勾配を持たせたいわゆる濃度勾配層として構成されている場合には、ビスマス濃度を表面被覆層に向かって漸増させることが有益である。このように設定すれば、滑り層が表面被覆層に向かって次第に柔らかくなるから、摩耗から生ずる異物粒子の包み込み効果を高めることができる。それでも、滑り層は充分な強度を有し、表面被覆層と対向する滑り層の表面領域を硬化することによる結合が充分な結合強度を可能にする。滑り層内の濃度変化は流動的、即ち、非段階的または連続的であってもよいし、段階的、即ち、非連続的であってもよい。非段階的に推移する場合、直線的であっても曲線的であってもよい。滑り層におけるビスマス濃度漸増の推移は、最上層がビスマスだけ、または、例えば、5重量%の銅または銀を含有する軟質合金から成るというように設定する限り、任意である。換言すると、滑り層内の軸受メタル層または中間層の側における銅-ビスマス合金または銀-ビスマス合金を、銅または銀を含有するビスマス合金に代えることができる。
【0021】
尚、本発明の説明において「滑り層の各層」という場合、たとえそのような構成が可能であっても、不連続で互いに区別できる層を意味するものではない。
【0022】
軸受メタル層は無鉛の銅基合金またはアルミニウム基合金で形成されていることが好ましい。即ち、これらの合金系は既に充分に試験済みであり、優れた摩擦性質とこれに裏付けられた耐摩耗性を有するからである。
【0023】
好ましい実施態様として、支持メタル層をコネクティング・ロッド、滑り軸受半殻体または軸受ブシュとして構成することができる。特にコネクティング・ロッドとして実施する場合、コネクティング・ロッド・アイを直接他の層で被覆することができるから、軸受半殻体または軸受ブシュを使用する必要がない。この直接被覆は軸受メタル層抜きで形成することができる。
【0024】
但し、基本的に本発明の多層軸受は上記の用途に限らず、凡そ滑り軸受けが登場するか、もしくは滑り軸受を必要とするすべての用途に好適である。
【0025】
本発明の詳細を図面に沿って以下に説明する。
【0026】
図面はそれぞれ簡略図である。
【0027】
図1は4層軸受の形態を呈する本発明の多層軸受の第1実施例の部分断面図である。
【0028】
図2は6層軸受の形態を呈する実施例の部分断面図である。
【0029】
まず、それぞれの実施態様に共通の部分には同じ参照符号もしくは同じ参照符号を付してあり、明細書全体を通して、意味上同じ開示内容は同じ参照符号を付した同じ部分に転用することができる。尚、明細書中で選択されている位置記述、例えば、上、下、横などは以下に述べる実施例に関連する記述であり、このことは新しい位置への位置変化の場合も同様である。また、以下に述べる種々の実施例からの個別の特徴または特徴の組み合わせはそれぞれ独立した、発明に基づく解決策を表す。
【0030】
図1は多層軸受1を示す。多層軸受は例えば、滑り軸受、特に滑り軸受半殻体、ウェアリング・リング、軸受ブシュまたは直接被覆されたコネクティング・ロッド、特にコネクティング・ロッド・アイとして構成されることがある。
【0031】
図示の4層構成の場合、多層軸受1は支持メタル層2、これに重なる軸受メタル層3、さらにこれに重なる滑り層4及び滑り層4に重なる表面被覆層5から成る。
【0032】
支持メタル層2は例えば鋼棒として形成するか、または多層軸受1に必要な形状安定性を付与する任意の材料から形成することができる。具体的な実施例としては、この支持メタル層2をコネクティング・ロッドによって形成し、残りの層を直接このコネクティング・ロッドにデポジットさせる。このような直接被覆は軸受メタル層抜きでも形成できるから、表面被覆層5の下に位置する滑り層4は支持メタル層2の直ぐ上に位置することになる。
【0033】
軸受メタル層3は無鉛の銅-またはアルミニウム合金から成る。このような合金は従来技術から既に公知である。例えば下記のような例を挙げることができる:
1.アルミニウム基軸受メタル(DIN ISO 4381もしくは4383に準拠):
AlSn6CuNi、AlSn20Cu、ALSi4Cd、AlCd3CuNi、AlSi11Cu、AlSn6Cu、
AlSn40、AlSn25CuMn、AlSi11CuMgNi;
2.銅基軸受メタル(DIN ISO 4383に準拠):
CuSn10、CuAl10Fe5Ni5、CuZn31Si1、CuPb24Sn2、CuSn8Bi10;
3.錫基軸受メタル:
SnSb8Cu4、SnSb12Cu6Pb.
滑り層4は溶融及び/またはデポジット処理に起因する異物を含む純銀から形成されている。
【0034】
最後に、表面被覆層5はビスマスまたはビスマス合金から成り、ビスマスにとっての合金パートナーとして考慮されるのは、銅、銀、錫、アンチモン及びインジウムを含むグループから選択される少なくとも1つの、含有率が最大で10重量%の元素である。この少なくとも1つの合金元素の含有率は下限を1重量%、上限を9重量%とする範囲もしくは下限を3重量%、上限を7重量%とする範囲から選択することができる。例えば、ビスマスを、2または4または6または8重量%の上記合金パートナーのうちの少なくとも1つと合金化することができる。好ましい実施態様としては、合金パートナーとなる元素の合計含有率は最大限で10重量%である。例えば、合金は3重量%のSnと2重量%のSbまたは4重量%のSnと2重量%のInを含むことができる。上記範囲の限度内ならその他の合金組成も可能であるが、結晶子の方位に関する前記の条件を満たすことができることが好ましい。
【0035】
多層軸受1は4層構成に限らず層の数をもっと多くすることも可能である。例えば、支持メタル層2と軸受メタル層3との間、及び/または軸受メタル層3と滑り層4との間に拡散防止層及び/または結合層を介在させることもできる。このような層としては、例えば、Al、Mn、Ni、Fe、Cr、Co、Cu、Ag、Mo、Pd及びNiSn-もしくはCuSn合金が考えられる。
【0036】
図2は多層軸受1の他の実施態様を示すが、この多層軸受も支持メタル層2、これに重なる軸受メタル層3、軸受メタル層3の上方に位置する滑り層4及びこれに重なる表面被覆層5を有する。
【0037】
支持メタル層2も軸受メタル層3も図1に示した実施態様の場合と同様に形成することができる。
【0038】
いわゆるビスマス・フラッシュとしての表面被覆層5も上述したように形成される。
【0039】
この実施態様の場合、滑り層4は銅-ビスマス合金または銀-ビスマス合金によって形成される。ビスマス含有率は下限を銀-ビスマス合金の場合なら2重量%、銅-ビスマス合金の場合なら0.5重量%、いずれの場合にも上限を49重量%とする範囲から選択することができる。例えば、これらの合金は表1もしくは2に示す組成を有する。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
この実施態様では、軸受メタル層3と滑り層4との間に中間層6を介在させる。この中間層6は銅-ビスマス合金の場合なら銅から、銀-ビスマス合金の場合なら銅または銀から成る。
【0043】
図2に示す多層軸受1はこの中間層のほかに、支持メタル層2の裏面8に銀または銅から成るフラッシュ7を有する。製造を簡単にするためには、中間層6にも銀が使用されるならこのフラッシュを銀で形成し、中間層6に銅が使用されるならフラッシュを銅で形成すればよい。但し、混用方式を採用することも可能である。
【0044】
支持メタル層2の裏面だけをフラッシュ7で被覆する態様のほかに、支持メタル層2の両側面及び両端面をも銀または銅で被覆する態様もしくは支持メタル層2の全体を銀メッキまたは銅メッキすることによって、上記実施態様に対する代案として、支持メタル層2と軸受メタル層3との間にこのような銀-または銅層を形成することができる。この実施態様において、フラッシュ7が不要なら、例えば、研磨加工のような機械加工によってフラッシュを取り除けばよい。
【0045】
この実施態様では表面被覆5の層厚を、下限が1 μm、上限が6 μm、好ましくは下限が3 μm、上限が6 μmの範囲から選択される。滑り層4の層厚は下限を5 μm、上限を30 μm、特に下限を8 μm、上限を20 μmとする範囲から選択することが好ましい。中間層6の層厚は下限を0.5 μm、上限を5 μm、好ましくは下限を1 μm、上限を3 μmとする範囲から選択することができる。軸受メタル層3は下限を0.1 mm、上限を1 mmとする範囲から選択される層厚を有することができる。支持メタル層2は下限を1 mm、上限を10 mmとする範囲から選択される層厚を有することができる。最後に、フラッシュ7は下限を0.1 μm、上限を5 μm、特に下限を1 μm、上限を3 μmとする範囲から選択される層厚を有することができる。
【0046】
コネクティング・ロッドを直接被覆する実施態様の場合、支持メタル層2の層厚が上記の数値と全く異なることは云うまでもない。
【0047】
上記の数値が図1に示した実施例におけるそれぞれの層にも適用されることは云うまでもない。
【0048】
中間層6を銅または銀で形成する代わりに、アルミニウムまたはマンガンまたはニッケルまたは鉄またはクロムまたはコバルトまたはモリブデンまたはパラジウムまたは例えばNi2Sn3、Ni3Sn4のようなニッケル-錫合金または例えばCu6Sn5のような銅-錫合金で形成することもできる。
【0049】
既に述べたように、滑り層4の耐摩耗度はナノ粒子を分散させることに向上させることができる。ナノ粒子は下限を10 nm、上限を1000 nm、例えば、100 nmとする範囲から選択される粒径を有することができる。滑り層4の製造はこれらの硬質粒子が、分散状態にあるビスマス相中に分散するように行うことが好ましい。このため、滑り層4自体を溶融メッキで成形し、例えば、ロール・ボンド処理によって軸受メタル層3または介在する層と結合することができる。TiO2、ZrO2、ダイヤモンドなどのグループから選択される粒子が特に好ましいことが判明した。それぞれの二元合金における名の粒子の含有率は銀もしくは銅及びビスマスを合計100重量%とするそれぞれの銀-ビスマス合金もしくは銅-ビスマス合金に対して0.05体積%、好ましくは0.5体積%から5体積%、好ましくは3体積%までの範囲である。
【0050】
1つの実施態様として、滑り層4中にビスマス濃度に関していわゆる濃度勾配を設定することができる。この場合、ビスマス濃度は軸受メタル層3もしくは中間層6と近接する面から表面被覆層5もしくはこれとの結合層に向かって漸増するように変化する。従って、この滑り層4は表面被覆層5の側においては柔らかであり、異物粒子に対する包み込み機能が高くなる。上述したように、濃度は可変である。滑り層中におけるビスマス濃度の漸増は、滑り層4のうちの最上層がビスマスだけ、または極めて微量の銅-または銀を有するビスマス合金から成り、従って、実質的には銀基合金もしくは銅基合金からビスマス基合金へと変化する。
【0051】
例えば以下に示すような濃度変化が可能である。
【0052】
【表3】

【0053】
表3に示す例は本発明を制限するものではなく、飽くまでも濃度勾配設定の可能性と理解されたい。
【0054】
滑り層4中に濃度勾配を設定することによって、ビッカース硬さは15 HV(純ビスマス)から、例えば、250 HV(例えば、合金CuBi5)まで漸増する。
【0055】
多層軸受1の製造には、溶融メッキによる製造のほか、表面被覆層5と共に、滑り層4、中間層6及びフラッシュ7のための銅-ビスマス合金もしくは銀-ビスマス合金を電気メッキまたはPVD-法(物理蒸着法)で形成することも可能であり、これらを組み合わせた方法も可能である。
【0056】
このような方法は公知であるから、当業者は関連文献を参照されたい。
【0057】
具体的な実施例では、半加工製品を滑り層4で電解被覆した。この半加工製品は支持エレメントに軸受メタル3をメッキすることによって製造した。
【0058】
層の構成成分である銀もしくは銅とビスマスとは錯形成の際の電気化学的ポテンシャルが互いに近似であるから、弱い錯体形成でも安定した電解液を調製することができる。下記の2種類の電解液はいずれも選択可能な組成例として理解されたい。
電解液1
KAg(CN2)としての銀 22g/L
BiO(NO3)・H2Oとしてのビスマス 7g/L
KOH 35g/L
KNaC4H4O6.4H2O 60g/L
界面活性剤 0.1g/L
25℃の浴温度において0.75 A/dm3の電流密度で被覆を行った。
電解液2:
メタンスルホン酸塩(MSA)の形態での銀 30g/L
メタンスルホン酸塩(MSA)の形態でのビスマス 7g/L
タンパク質アミノ酸 100g/L
界面活性剤 0.1g/L
25℃の浴温度において1 A/dm3の電流密度で被覆を行った。
【0059】
上記電解液1及び2に代えて銅塩、例えば、Cuのメタンスルホン酸塩、Cuのフルオロホウ酸塩、Cuの硫酸塩、Cuのピロリン酸塩、Cuのホスホン酸塩、などを使用することもできる。
【0060】
尚、電解被覆だけに限らず、本発明の合金で既に成形された層を軸受メタル層にロール被覆することも可能である。この方法は公知であるから、当業者は関連の文献を参照されたい。
【0061】
滑り層4を陰極スパタリングで形成することも可能である。そのためには、2つの陰極、即ち、1つは銀または銅から成る陰極、もう1つはビスマスから成る陰極を使用すればよい。この場合にも、被覆の工程中に陰極の作用出力を変化させることによって滑り層中にビスマスの濃度勾配を設定することができ、例えば、被覆工程の開始時にビスマス-陰極の出力を最低にし、ゆっくりと-段階的または連続的に最終値まで上昇させる。
【0062】
電解被覆の工程中に、供給流量を変化させるか、温度を変化させるかまたは電流密度を変化させることによって勾配層を形成することができる。
【0063】
具体的な実施例として、表面被覆層5を電解被覆によって形成したが、これらの実施例では、下記のような組成を有する浴を使用し、下記パラメータで被覆処理を実施した。
例1:電解被覆のための浴組成
メタンスルホン酸塩として50 g/LのBi
導電性を高めるための80 g/Lのメタンスルホン酸
滑剤及び少なくとも1種類の界面活性剤の添加
作業データ
室温
電流密度:5 A/dm2もしくは10 A/dm2もしくは15 A/dm2(強い流れ用に)
例2:電解被覆のための浴組成
メタンスルホン酸塩として70 g/LのBi
導電性を高めるための50 g/Lのメタンスルホン酸
濡れ性を高めるための1 g/Lの市販の界面活性剤
0.5 g/Lの層平滑化剤(“平滑化剤”)
作業データ
室温
電流密度:5 A/dm2
製造された滑り層5から、X線回折図を作成した。それぞれの回折線強度を表4に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
回折にはCuKα線を使用した。
【0066】
ビスマス相の硬さは17 UMHV 2p、BiCu10-表面被覆層5の硬さは30 UMHV 5pであった。UMHV 2pは2ポンド負荷でのウルトラマイクロ・ビッカース硬さ、UMHV 5pは5ポンド負荷でのウルトラマイクロ・ビッカース硬さを表す。
【0067】
表面被覆層5は8重量%の錫を含有し、結晶構造が(012)もしくは{012}面に際立った配向を有するビスマス合金から形成することもできる。
【0068】
銀-ビスマス合金もしくは銅-ビスマス合金から成る滑り層4の組織を変化させるため、従来技術から公知の添加剤を浴に添加することができる。
【0069】
製造プロセス起因の不純物を含む純銀を使用すると、冷間圧接が起きないという利点がある。
【0070】
本明細書に記述する数値範囲はこの範囲のうちの任意の及びあらゆる部分範囲をも含むと理解されたい。例えば、1から10までという場合、下限1から上限10までの範囲のうちのすべての部分範囲を含む。即ち、下限1以上から始まり、上限10以下に終わるすべての部分範囲、例えば、1から1.7まで、または3.2から8.1まで、または5.5から10までなどを含む。
【0071】
実施例は多層軸受1の可能な実施態様を示すものであり、本発明はここに述べた特定の実施態様そのものに限定されるものではなく、恐らくは個々の実施態様を種々の態様で組み合わせることが可能であり、これらの組み合わせ実施態様は本発明による技術的教示内容を参考にすれば、当業者が案出できるであろう。以上に説明した実施例の個々の細部を組み合わせることによって得られる実施態様もまた保護範囲に含まれる。特に、本発明は上述した4層-もしくは6層軸受に限定されるものではなく、必要に応じて少なくともさらに1層を加えることができる。
【0072】
より具体的には、本発明は特定の格子面または1群の格子面において結晶子が好ましい方位を有するビスマス層もしくはビスマス合金を優先的に使用することに限定されない。
【0073】
尚、多層軸受1の構成を理解し易くするため、多層軸受もしくはその構成部分を、部分的に縮尺を無視及び/または拡大及び/または縮小して図示した。
【0074】
本発明による個々の解決策の根底にある目的は明細書から明らかになるであろう。
【0075】
特に、図1及び2に示す個々の実施態様はそれぞれ独立の本発明による解決の対象を形成する。これらの実施態様との関係において、本発明の目的と解決は添付図面の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は4層軸受の形態を呈する本発明の多層軸受の第1実施例の部分断面図である。
【図2】図2は6層軸受の形態を呈する実施例の部分断面図である。
【符号の説明】
【0077】
1 多層軸受
2 支持メタル層
3 軸受メタル層
4 滑り層
5 表面被覆層
6 中間層
7 フラッシュ
8 裏側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持メタル層(2)、場合によってはその上に重なる軸受メタル層(3)、さらにその上に重なる滑り層(4)及びこの上に重なる表面被覆層(5)を有する多層軸受(1)であって、表面被覆層(5)がビスマスまたはビスマス合金によって形成され、滑り層(4)が銅-ビスマス合金または銀-ビスマス合金または銀によって形成されていることを特徴とする前記多層軸受(1)。
【請求項2】
表面被覆層(5)におけるビスマスまたはビスマス合金の結晶格子が格子面(012)もしくは{012}としてミラー指数で表される方位に関して優先的な方向を有し、格子面(012)もしくは{012}のX線回折強度が他の格子面のX線回折強度と比較して最大であることを特徴とする請求項1に記載の多層軸受。
【請求項3】
2番目に大きいX線回折強度を有する格子面のX線回折強度が格子面(012)もしくは{012}のX線回折強度の10%またはそれ以下の値を有することを特徴とする請求項2に記載の多層軸受。
【請求項4】
2番目に高いX線回折強度を有する格子面がミラー指数(024)もしくは{024}を有する格子面であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の多層軸受。
【請求項5】
格子面(012)もしくは{012}以外のすべての格子面のX線回折強度の総和が格子面(012)もしくは{012}のX線回折強度の25%またはそれ以下の値を有することを特徴とする請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載の多層軸受。
【請求項6】
表面被覆層(5)が1 μmを下限とし、10 μmを上限とする範囲から選択される層厚を有することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の多層軸受。
【請求項7】
滑り層(4)の銅-ビスマス合金または銀-ビスマス合金がそれぞれ銅または銀をマトリクスとして形成され、銅または銀がそれぞれ製造起因の不可避不純物を含み、ビスマスの含有率が、銀の場合には2重量%、銅の場合には0.5重量%を下限とし、いずれの場合にも49重量%を上限とする範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の多層軸受。
【請求項8】
滑り層(4)中に、下限を10 nmとし、上限を100 nmとする範囲から選択される粒径を有する硬質粒子が含まれていることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の多層軸受。
【請求項9】
硬質粒子を酸化物、炭化物、窒化物、例えば、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、炭化タングステン、窒化ケイ素、ダイヤモンド、及び少なくとも2つの異なる材料の混合物などの群から選択したことを特徴とする請求項8に記載の多層軸受。
【請求項10】
硬質粒子の含有率が、Ag/Bi-もしくはCu/Bi合金に対して、下限を0.05体積%とし、上限を5.0体積%とする範囲から選択されることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の多層軸受。
【請求項11】
滑り層(4)と軸受メタル層(3)の間に、銀、銅、アルミニウム、マンガン、ニッケル、鉄、クロム、コバルト、モリブデン、パラジウム、ニッケル-錫合金または銅-錫合金によって形成される中間層(6)を介在させたことを特徴とする請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の多層軸受。
【請求項12】
支持メタル層(2)と軸受メタル層(3)の間に、銀または銅から成る保護層を介在させたことを特徴とする請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載の多層軸受。
【請求項13】
支持メタル層(2)が、銀または銅から成る被膜を設けた側面を有することを特徴とする請求項1から請求項12までのいずれか1項に記載の多層軸受。
【請求項14】
支持メタル層(2)の全体を銀層または銅層で被覆したことを特徴とする請求項1から請求項13までのいずれか1項に記載の多層軸受。
【請求項15】
滑り層(4)を、表面被覆層に向かってビスマス濃度が漸増する濃度勾配層として形成したことを特徴とする請求項1から請求項14までのいずれか1項に記載の多層軸受。
【請求項16】
滑り層(4)内で、軸受メタル層(3)または中間層(6)または支持メタル層(2)の領域の銅-ビスマス合金または銀-ビスマス合金を、表面被覆層(5)の領域のビスマス、または銅または銀とのビスマス合金と置き換えたことを特徴とする請求項15に記載の多層軸受。
【請求項17】
軸受メタル層(3)を無鉛の銅基合金またはアルミニウム基合金によって形成したことを特徴とする請求項1から請求項16までのいずれか1項に記載の多層軸受。
【請求項18】
支持メタル層(2)をコネクティング・ロッド、滑り軸受半殻体または軸受ブシュとして形成したことを特徴とする請求項1から請求項17までのいずれか1項に記載の多層軸受。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−57769(P2008−57769A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−153173(P2007−153173)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(504101245)ミーバ グライトラガー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (16)
【出願人】(507191119)カーエス グライトラガー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【Fターム(参考)】