多層透明受光素子および電子機器
【課題】光応答速度が極めて速く、しかも製造が容易な多層透明受光素子およびこの多層透明受光素子を用いた高性能の電子機器を提供する。
【解決手段】電子伝達タンパク質を用いたタンパク質透明受光素子1を複数積層して多層透明受光素子を構成する。タンパク質透明受光素子1は、透明基板、透明電極、電子伝達タンパク質層、電解質層および透明対極を順次積層した構造を有する。この多層透明受光素子をカメラ、光ディスクシステムなどの受光素子として用いる。
【解決手段】電子伝達タンパク質を用いたタンパク質透明受光素子1を複数積層して多層透明受光素子を構成する。タンパク質透明受光素子1は、透明基板、透明電極、電子伝達タンパク質層、電解質層および透明対極を順次積層した構造を有する。この多層透明受光素子をカメラ、光ディスクシステムなどの受光素子として用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、多層透明受光素子および電子機器に関し、特に、タンパク質を用いた多層透明受光素子およびこの多層透明受光素子を光検出器などに用いた三次元ディスプレイ、三次元イメージセンサー、カメラなどの各種の電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、受光素子としてはもっぱらCCDやCMOSなどが用いられているが、これらはシリコン半導体技術をベースに構築されているため、受光素子自体は透明ではなかった。そのため、これらの従来の受光素子を用いて立体視を行うカメラは、人間の目と同様の機構を模した両眼視差を利用したものがほとんどである(例えば、ステレオラメラなど)。しかしながら、このような機構を用いると、二つ以上のカメラを連結させる必要があり、構造が複雑になる。また、必然的にレンズを二つ以上用意する必要があり、カメラをコンパクトにするのも難しい。また、撮像部分の焦点が一眼につき一点であるため、同時に様々な焦点に合わせた映像を取ることができなかった。また、非常に遠くに焦点が合った状態からいきなり近くを撮影するような場合、焦点が一眼につき一点しかないことから、焦点を高速に合わせるためにはレンズを大きく動かす必要が生じ、超高速で焦点を合わせるのにも限界があった。
【0003】
一方、光ディスクシステムにおいては、光ディスクの多層化が進み、多層化により記録容量を飛躍的に伸ばしてきている。しかしながら、光ディスクシステムの光検出用の受光素子を多層化することは上述の従来の受光素子ではできないことから、これが多層化光ディスクを用いる光ディスクシステムの開発のネックとなっている。
【0004】
従来、入力された画像を透過させることができる光透過型画像認識素子が提案されている(特許文献1参照。)。この光透過型画像認識素子は、表面に複数の透明画素電極が2次元配列状に形成された第1透明基板と表面に透明対向電極が形成された第2透明基板と両電極間に配された視物質類似タンパク質配向配列フィルム層および透明絶縁層とを備えている。視物質類似タンパク質配向配列フィルム層としては、バクテリオロドプシンの配向配列フィルム層が用いられる。
【0005】
なお、タンパク質を用いた光電変換素子として、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムc(ウマ心筋シトクロムcの補欠分子族ヘムの中心金属の鉄を亜鉛に置換したもの)を金電極に固定化したタンパク質固定化電極を用いたものが提案されている(特許文献2参照。)。そして、このタンパク質固定化電極から光電流が得られることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−334986号公報
【特許文献2】特開2007−220445号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】McLendon,G.and Smith,M.J.Biol.Chem.253,4004(1978)
【非特許文献2】Moza,B.and 2 others,Biochim.Biophys.Acta 1646,49(2003)
【非特許文献3】Vanderkooi,J.M.and 2 others,Eur.J.Biochem.64,381-387(1976)
【非特許文献4】Tokita,Y.and 4 others,J.Am.Chem.Soc.130,5302(2008)
【非特許文献5】Gouterman M.,Optical spectra and electronic structure of porphyrins and related rings, in "The Porphyrins" Vol.3,Dolphin,D.ed.,pp.1-156, Academic Press(1978)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1で提案された光透過型画像認識素子は、画像が第1透明基板側から視物質類似タンパク質配向配列フィルム層に投影された時に、この視物質類似タンパク質配向配列フィルム層の電気分極によって画素電極に誘導される誘導電流を検出するようにしているため、光応答速度が遅いだけでなく、視物質類似タンパク質配向配列フィルム層の作製にラングミュアブロジェット法を用いているため生産性が悪い。また、特許文献1では、視物質類似タンパク質配向配列フィルム層の電気分極により画素電極に誘導される誘導電流の検出については何ら実証されていない。
そこで、この発明が解決しようとする課題は、光応答速度が極めて速く、しかも製造が容易な多層透明受光素子およびこの多層透明受光素子を用いた高性能の電子機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は、
互いに積層された複数の、電子伝達タンパク質を用いたタンパク質透明受光素子を有する多層透明受光素子である。
また、この発明は、
互いに積層された複数の、電子伝達タンパク質を用いたタンパク質透明受光素子を有する多層透明受光素子を有する電子機器である。
【0010】
この発明において、電子伝達タンパク質としては、従来公知の電子伝達タンパク質を用いることができる。より具体的には、電子伝達タンパク質としては、金属を含む電子伝達タンパク質または金属を含まない(金属フリー)電子伝達タンパク質を用いることができる。電子伝達タンパク質に含まれる金属は、好適には、d軌道以上の高エネルギーの軌道に電子を有する遷移金属(例えば、亜鉛や鉄など)である。電子伝達タンパク質としては後述の新規な電子伝達タンパク質を用いることもできる。
【0011】
電子伝達タンパク質は、典型的には、受光しようとする光、典型的には可視光に対して透明な材料からなる透明電極に固定化される。典型的な一つの例においては、タンパク質透明受光素子は、電子伝達タンパク質が透明電極に固定化されたタンパク質固定化電極と透明対極とを有する。他の典型的な一つの例においては、タンパク質透明受光素子は、第1の透明電極と第2の透明電極との間に電子伝達タンパク質からなる固体タンパク質層を挟んだ構造を有する。透明電極の材料としては無機材料、有機材料のいずれを用いてもよく、必要に応じて選ばれる。
【0012】
電子機器は、多層透明受光素子を用いることができるものである限り各種のものであってよいが、具体例をいくつか挙げると、三次元ディスプレイ、三次元イメージセンサー、カメラ、光記録再生システムなどである。
【0013】
上述のように構成されたこの発明においては、電子伝達タンパク質はバクテリオロドプシンのような視物質類似タンパク質に比べて光応答速度が速いだけでなく、例えば電子伝達タンパク質を含む溶液を透明電極に塗布することにより容易にタンパク質固定化電極を作製することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、光応答速度が極めて速く、しかも製造が容易な多層透明受光素子を実現することができる。そして、この優れた多層透明受光素子を用いて高性能の電子機器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の第1の実施の形態による多層透明受光素子を示す略線図である。
【図2】この発明の第1の実施の形態による多層透明受光素子を構成するタンパク質透明受光素子を示す断面図である。
【図3】この発明の第1の実施の形態による多層透明受光素子を構成するタンパク質透明受光素子の使用形態の第1の例を示す略線図である。
【図4】この発明の第1の実施の形態による多層透明受光素子を構成するタンパク質透明受光素子の使用形態の第2の例を示す略線図である。
【図5】この発明の第1の実施の形態による多層透明受光素子を構成するタンパク質透明受光素子の使用形態の第3の例を示す略線図である。
【図6】この発明の第2の実施の形態による多層透明受光素子を構成するタンパク質透明受光素子において用いられるスズ置換ウマ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図7】この発明の第2の実施の形態による多層透明受光素子を構成するタンパク質透明受光素子において用いられるスズ置換ウシ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図8】亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図9】亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図10】この発明の第2の実施の形態による多層透明受光素子を構成するタンパク質透明受光素子において用いられるスズ置換ウマ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの経時変化の測定結果を示す略線図である。
【図11】この発明の第2の実施の形態による多層透明受光素子を構成するタンパク質透明受光素子において用いられるスズ置換ウシ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの経時変化の測定結果を示す略線図である。
【図12】亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの経時変化の測定結果を示す略線図である。
【図13】亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの経時変化の測定結果を示す略線図である。
【図14】この発明の第2の実施の形態による多層透明受光素子を構成するタンパク質透明受光素子において用いられるスズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcの光分解反応の二次反応式のフィッティングの一例を示す略線図である。
【図15】亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの光分解反応の二次反応式のフィッティングの一例を示す略線図である。
【図16】この発明の第2の実施の形態において金属置換シトクロムcの光電流発生実験に用いたタンパク質固定化電極を示す平面図である。
【図17】図16に示すタンパク質固定化電極の光電流アクションスペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図18】図16に示すタンパク質固定化電極のSoret帯光電流値の平均値を示す略線図である。
【図19】各種の金属置換シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図20】各種の金属置換シトクロムcの蛍光スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図21】スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの波長409nmにおける吸光度に対する積分蛍光強度を示す略線図である。
【図22】スズ置換ウシ心筋シトクロムc、亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの波長409nmにおける吸光度に対する積分蛍光強度を示す略線図である。
【図23】この発明の第4の実施の形態による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子を示す断面図である。
【図24】図23に示す非接液全固体型タンパク質透明受光素子の要部を拡大して示す断面図である。
【図25】この発明の第4の実施の形態による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子の動作を説明するための略線図である。
【図26】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子の製造方法を説明するための平面図である。
【図27】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子の製造方法を説明するための平面図である。
【図28】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子を示す断面図である。
【図29】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子の光電流アクションスペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図30】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子のバックグラウンド電流−電圧特性の測定結果を示す略線図である。
【図31】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子の電流−電圧特性の測定結果を示す略線図である。
【図32】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質透明受光素子の光電流アクションスペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図33】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質受光素子の光電流アクションスペクトルの測定結果を光電流のピーク値が1となるように規格化して示す略線図である。
【図34】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質受光素子の光劣化曲線の測定結果を示す略線図である。
【図35】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質受光素子の光劣化曲線の測定結果を照射開始時の光電流のピーク値が1となるように規格化して示す略線図である。
【図36】液系タンパク質透明受光素子の周波数応答の測定結果を示す略線図である。
【図37】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質光電変換素子の周波数応答の測定結果を示す略線図である。
【図38】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子の光電流アクションスペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図39】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子の光劣化曲線の測定結果を示す略線図である。
【図40】この発明の第5の実施の形態による多層透明受光素子を示す略線図である。
【図41】この発明の第6の実施の形態による多層透明受光素子を示す略線図である。
【図42】この発明の第7の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図43】この発明の第7の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図44】この発明の第7の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図45】この発明の第7の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図46】この発明の第7の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図47】この発明の第7の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図48】この発明の第7の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図49】この発明の第7の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図50】この発明の第7の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図51】この発明の第7の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図52】この発明の第8の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図53】この発明の第9の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図54】この発明の第10の実施の形態による光ディスクシステムを示す略線図である。
【図55】この発明の第11の実施の形態による光記録再生システムを示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」とする)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(多層透明受光素子)
2.第2の実施の形態(多層透明受光素子)
3.第3の実施の形態(多層透明受光素子)
4.第4の実施の形態(多層透明受光素子)
5.第5の実施の形態(多層透明受光素子)
6.第6の実施の形態(多層透明受光素子)
7.第7の実施の形態(立体イメージングシステム)
8.第8の実施の形態(立体イメージングシステム)
9.第9の実施の形態(立体イメージングシステム)
10.第10の実施の形態(光ディスクシステム)
11.第11の実施の形態(光記録再生システム)
【0017】
〈1.第1の実施の形態〉
[多層透明受光素子]
図1は第1の実施の形態による多層透明受光素子を示す。
図1に示すように、この多層透明受光素子は、互いに積層されたN層(Nは2以上の整数)のタンパク質透明受光素子1により構成されている。タンパク質透明受光素子1の積層数Nは、この多層透明受光素子の用途に応じて適宜選ぶことができる。また、この多層透明受光素子およびタンパク質透明受光素子1の平面形状、大きさおよび厚さも適宜選ぶことができる。タンパク質透明受光素子1の厚さは一般的には例えば10μm〜1mmであるが、これに限定されるものではない。
【0018】
図2にタンパク質透明受光素子1の構成例を示す。
図2に示すように、このタンパク質透明受光素子1においては、透明基板11上に設けられた透明電極12に電子伝達タンパク質層13が固定化され、この電子伝達タンパク質層13と電解質層14を介して対向するように透明対極15が設けられている。電子伝達タンパク質層13は電子伝達タンパク質の単分子膜または多分子膜からなる。電子伝達タンパク質層13の各電子伝達タンパク質は透明電極12に対して直接に固定化されてもよいし、自己組織化単分子膜などの中間層を介して間接的に固定化されてもよい。電解質層14は電解質溶液または固体電解質からなる。電解質層14が外部に洩れたり、空気と接触したり、乾燥したりするのを防止するために、好適には、電解質層14の周囲は封止壁(図示せず)により封止される。あるいは、タンパク質透明受光素子1の全体が透明容器に収納されることもある。
【0019】
図2においては、タンパク質透明受光素子1を構成する各層はいずれも平坦な表面形状を有するように描かれているが、各層の表面形状は任意であり、例えば凹面、凸面、凹凸面などのいずれであってよい。特に、透明電極12に表面がいずれの形状であっても容易に電子伝達タンパク質層13を固定化することが可能である。
【0020】
透明基板11の材料としては、例えば、ガラス、雲母(マイカ)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの各種の無機または有機の透明材料を用いることができる。
【0021】
透明電極12の材料としては、例えば、ITO(インジウム−スズ複合酸化物)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、ネサガラス(SnO2 ガラス)などの透明金属酸化物のほか、光の透過が可能な極薄い金属膜、例えばAu膜などを用いることができる。
【0022】
電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質としては、具体的には、例えば、シトクロム類、鉄−硫黄タンパク質類、ブルー銅タンパク質類などを用いることができる。シトクロム類としては、シトクロムc(亜鉛置換シトクロムc、金属フリーシトクロムcなど)、シトクロムb、シトクロムb5、シトクロムc1、シトクロムa、シトクロムa3、シトクロムf、シトクロムb6などが挙げられる。鉄−硫黄タンパク質類としては、ルブレドキシン、二鉄フェレドキシン、三鉄フェレドキシン、四鉄フェレドキシンなどが挙げられる。ブルー銅タンパク質類としては、プラストシアニン、アズリン、シュードアズリン、プランタシアニン、ステラシアニン、アミシアニンなどが挙げられる。電子伝達タンパク質はこれらに限定されるものではない。例えば、これらの電子伝達タンパク質の誘導体(骨格のアミノ酸残基が化学修飾されたもの)またはその変異体(骨格のアミノ酸残基の一部が他のアミノ酸残基に置換されたもの)を用いることもできる。これらの電子伝達タンパク質はいずれも水溶性タンパク質である。
【0023】
タンパク質透明受光素子1は、電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質の光電変換機能および電子伝達機能を損なわない限り、溶液(電解質溶液)中、ドライな環境中のいずれでも動作させることが可能である。言い換えると、電解質層14は電解質溶液からなるものであっても、固体電解質からなるものであってもよい。電解質層14の電解質(あるいはレドックス種)としては、電子伝達タンパク質層13が透明電極12に固定化されたタンパク質固定化電極で酸化反応が起こり、透明対極15で還元反応が起こるもの、または、上記のタンパク質固定化電極で還元反応が起こり、透明対極15で酸化反応が起こるものが用いられる。具体的には、電解質としては、例えば、K4 [Fe(CN)6 ]や[Co(NH3 )6 ]Cl3 などが用いられる。このタンパク質透明受光素子1をドライな環境中で動作させる場合には、典型的には、例えば、電子伝達タンパク質を吸着しない固体電解質、具体的には例えば寒天やポリアクリルアミドゲルなどの湿潤な固体電解質からなる電解質層14が、タンパク質固定化電極と透明対極15との間に挟み込まれ、好適にはその周囲にこの固体電解質の乾燥を防ぐための封止壁が設けられる。これらの場合においては、タンパク質固定化電極と透明対極15との自然電極電位の差に基づいた極性で、電子伝達タンパク質層13からなる受光部で光を受光したときに光電流を得ることができる。
【0024】
透明対極15の材料としては、例えば、ITO、FTO、ネサガラスなどの透明金属酸化物のほか、光の透過が可能な極薄い金属膜、例えばAu膜などを用いることができる。
【0025】
[タンパク質透明受光素子1の使用形態]
図3はこのタンパク質透明受光素子1の使用形態の第1の例を示す。
図3に示すように、この第1の例では、透明電極12上に電子伝達タンパク質層13が固定化されたタンパク質固定化電極と透明対極15とが互いに対向して設けられる。これらのタンパク質固定化電極および透明対極15は、透明容器16中に入れられた電解質溶液からなる電解質層14中に浸漬される。電解質溶液は、電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質の機能を損なわないものが用いられる。また、この電解質溶液の電解質(あるいはレドックス種)は、タンパク質固定化電極で酸化反応が起こり、透明対極15で還元反応が起こるもの、または、タンパク質固定化電極で還元反応が起こり、透明対極15で酸化反応が起こるものが用いられる。
【0026】
このタンパク質透明受光素子1により光電変換を行うには、バイアス電源17により透明参照電極18に対してタンパク質固定化電極にバイアス電圧を印加した状態で、タンパク質固定化電極の電子伝達タンパク質層13に光を照射する。この光は、電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質の光励起が可能な光の単色光またはこの光の成分を有する光である。この場合、タンパク質固定化電極に印加するバイアス電圧、照射する光の強度および照射する光の波長のうちの少なくとも一つを調節することによって、素子内部を流れる光電流の大きさおよび/または極性を変化させることができる。光電流は端子19a、19bより外部に取り出される。
【0027】
図4はこのタンパク質透明受光素子1の使用形態の第2の例を示す。
図4に示すように、この第2の例では、第1の例のようにバイアス電源17を用いてバイアス電圧を発生させるのではなく、タンパク質固定化電極および透明対極15が持つ自然電極電位の差をバイアス電圧として用いる。この場合、透明参照電極18は用いる必要がない。したがって、このタンパク質透明受光素子1は、タンパク質固定化電極および透明対極15を用いる二電極系である。第2の例の上記以外のことは第1の例と同様である。
【0028】
図5はこのタンパク質透明受光素子1の使用形態の第3の例を示す。第1および第2の例によるタンパク質透明受光素子1が溶液中で動作させるものであるのに対し、このタンパク質透明受光素子1はドライな環境中で動作させることができるものである。
図5に示すように、このタンパク質透明受光素子1においては、タンパク質固定化電極と透明対極15との間に固体電解質からなる電解質層14が挟み込まれている。さらに、この電解質層14の周囲を取り巻くように、固体電解質の乾燥を防ぐための封止壁20が設けられている。固体電解質としては、電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質の機能を損なわないものが用いられ、具体的には、電子伝達タンパク質を吸着しない寒天やポリアクリルアミドゲルなどが用いられる。このタンパク質透明受光素子1により光電変換を行うには、タンパク質固定化電極および透明対極15が持つ自然電極電位の差をバイアス電圧として用い、タンパク質固定化電極の電子伝達タンパク質層13に光を照射する。この光は、電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質の光励起が可能な単色光またはこの光の成分を有する光である。この場合、タンパク質固定化電極および透明対極15が持つ自然電極電位の差、照射する光の強度および照射する光の波長のうちの少なくとも一つを調節することによって、素子内部を流れる光電流の大きさおよび/または極性を変化させることができる。第3の例の上記以外のことは第1の例と同様である。
【0029】
[多層透明受光素子の製造方法]
この多層透明受光素子の製造方法の一例について説明する。
まず、透明基板11上に透明電極12を形成したものを電子伝達タンパク質と緩衝液とを含む溶液に浸漬し、電子伝達タンパク質を透明電極12上に固定化する。こうして、透明電極12上に電子伝達タンパク質層13が形成されたタンパク質固定化電極が形成される。
次に、このタンパク質固定化電極と透明対極15とを用いて例えば図3、図4または図5に示すタンパク質透明受光素子1を製造する。
この後、このタンパク質透明受光素子1を必要な数だけ積層し、この際、必要に応じて透明接着剤などによりタンパク質透明受光素子1同士を接着する。
【0030】
[多層透明受光素子の動作]
この多層透明受光素子の各タンパク質透明受光素子1の電子伝達タンパク質層13にこの電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質に応じた波長の単色光またはこの波長成分を含む光が入射すると、電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質から光励起により電子が発生し、電子伝達により透明電極12に電子が移動する。そして、透明電極12と透明対極15とから外部に光電流が取り出される。
【0031】
この第1の実施の形態によれば、電子伝達タンパク質を用いたタンパク質透明受光素子1が多層に積層された多層透明受光素子を実現することができる。
この多層透明受光素子は、光電変換を利用する各種の装置や機器などに用いることができ、具体的には、例えば、受光部を有する電子機器などに用いることができる。このような電子機器は、基本的にはどのようなものであってもよく、携帯型のものと据え置き型のものとの双方を含む。例えば、後述のように、一つのレンズを用いて互いに異なる位置にある複数の被写体に焦点を同時に合わせることができるカメラを実現することができる。これは一度に立体映像を再現する情報を一眼で取得することができることを示しており、よりシンプルでコンパクトなステレオカメラを実現することができる。また、この多層透明受光素子を用いることにより、一眼でのマルチフォーカス化や高速フォーカス化も可能となる。さらに、多層光ディスクを用いる光ディスクシステムやホログラフィック記録媒体を用いる光記録再生システムの受光素子としてこの多層透明受光素子を用いることにより、多層光ディスクの並列読み出し(パラレルリードアウト)やホログラフィック記録媒体の読み出し(リードアウト)を容易に行うことができる。
【0032】
〈2.第2の実施の形態〉
[多層透明受光素子]
第2の実施の形態による多層透明受光素子は、タンパク質透明受光素子1の電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質として新規な電子伝達タンパク質を用いることを除いて、第1の実施の形態による多層透明受光素子と同様な構成を有する。
この新規な電子伝達タンパク質は、哺乳類由来のシトクロムcのヘムの中心金属の鉄をスズに置換したスズ置換シトクロムc、または、哺乳類由来のシトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、スズを含むタンパク質である。ここで、哺乳類由来のシトクロムcとしては、例えば、ウマ心筋シトクロムcまたはウシ心筋シトクロムcが挙げられる。これらの新規な電子伝達タンパク質は、光照射に対する安定性が極めて高く、光電変換機能を長期にわたって維持することができる。
スズ置換シトクロムcの詳細および調製方法について説明する。
【0033】
〈スズ置換シトクロムc〉
表1にウマ心筋シトクロムc(CYC HORSEと表示)およびウシ心筋シトクロムc(CYC BOVINと表示)のアミノ酸配列(一文字記号)を示す。表1に示すように、ウシ心筋シトクロムcとウマ心筋シトクロムcとは全104アミノ酸残基中、3残基だけが異なる。ウマ心筋シトクロムcのThr48、Lys61、Thr90が、ウシ心筋シトクロムcではSer48、Gly61、Gly90にそれぞれ置換されている。
【0034】
【表1】
【0035】
ウシ心筋シトクロムcは、ウマ心筋シトクロムcに比べて、熱、変性剤(グアニジン塩酸塩)に対するタンパク質部の安定性が高いことが知られている(非特許文献1、2)。表2にウマ心筋シトクロムcおよびウシ心筋シトクロムcの変性中点温度T1/2 および変性中点濃度[Gdn−HCl]1/2 を示す。変性中点温度T1/2 は系にある全タンパク質中、変性タンパク質の占める割合が半分(1/2)になるときの温度である。また、変性中点濃度[Gdn−HCl]1/2 は系にある全タンパク質中、変性タンパク質の占める割合が半分(1/2)になるときのグアニジン塩酸塩(Gdn−HCl)の濃度である。T1/2 および[Gdn−HCl]1/2 の数値が高いほど安定である。
【0036】
【表2】
【0037】
〈スズ置換シトクロムcの調製〉
スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcを次のようにして調製した。比較実験用に亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcも調製した。
ウマ心筋シトクロムcおよびウシ心筋シトクロムcとしては、ともにSigma社製のものを使用した。
以下においては、スズ置換ウマ心筋シトクロムcの調製方法を主に説明するが、スズ置換ウシ心筋シトクロムc、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの調製方法も同様である。なお、ウマ心筋シトクロムcまたはウシ心筋シトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、スズを含むタンパク質も、ランダムミューテーション、化学修飾などの技術を適宜用いて同様に調製可能である。
【0038】
ウマ心筋シトクロムc粉末100mgに70%フッ酸/ピリジンを6mL加え、室温で10分インキュベートすることにより、ウマ心筋シトクロムcからヘムの中心金属の鉄を抜く。こうして鉄を抜いたウマ心筋シトクロムcに50mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.0)を9mL加えて、反応停止後、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー(カラム体積:150mL、樹脂:Sephadex G−50、展開溶媒:50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0))により、中心金属の抜けた金属フリーウマ心筋シトクロムcを得る。
【0039】
この金属フリーウマ心筋シトクロムc溶液を可能な限り濃縮し、これに氷酢酸を加えてpH2.5(±0.05)とする。こうして得られた溶液に塩化スズ粉末約25mgを加えて、遮光下、50℃で30分インキュベートする。この過程で塩化スズの代わりに酢酸亜鉛または塩化亜鉛を加えると亜鉛置換体が得られる。10分毎に紫外可視吸収スペクトルを測定し、タンパク質の波長280nmにおける吸収ピークとスズポルフィリン由来の波長408nmにおける吸収ピークとの比が一定になるまでインキュベーションを続ける。
【0040】
これ以降の操作は全て遮光下で行う。上記の最終的に得られた溶液に飽和二リン酸−水素ナトリウム溶液を加えてpHを中性(6.0<)にした後、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)への緩衝液交換を行う。その後、陽イオン交換カラムクロマトグラフィー(カラム体積:40mL、樹脂:SP−Sephadex Fast Flow、溶出:10〜150mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)の直線濃度勾配)により単量体の画分を回収する。こうしてスズ置換ウマ心筋シトクロムcが調製される。
【0041】
上記のようにして調製されたスズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムc、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を図6〜図9に示す。以下においては、必要に応じて、スズ置換ウマ心筋シトクロムcをSnhhc、スズ置換ウシ心筋シトクロムcをSnbvc、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcをZnhhc、亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcをZnbvcと略記する。図6〜図9に示すように、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcは波長280、346、423、550、584nmに吸収極大を持つのに対して、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcは波長280、409、540、578nmに吸収極大を持ち、δ帯(346nm付近)を持たない。
【0042】
〈金属置換シトクロムcの光照射分解実験〉
上記の4種類の金属置換シトクロムc、すなわちスズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムc、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの光照射分解実験を以下のようにして行った。
約4μMの金属置換シトクロムc(10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に溶解)1mLをキュベットに入れ、亜鉛置換体には波長420nm(強度1255μW)、スズ置換体には波長408nm(強度1132μW)の光を暗室中、室温で照射した。30分毎に波長240〜700nmの紫外可視吸収スペクトルを測定した。その結果を図10〜図13に示す。図12および図13中の矢印は、スペクトルの変化方向を示す。
【0043】
図12および図13より、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcは、時間の経過とともに急速に光分解が進むことが分かる。これに対して、図10および図11より、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcは、時間が経過した後のスペクトルは初期のスペクトルとほとんど重なっており、時間が経過しても光分解がほとんど起きていないことが分かる。図10〜図13に示す紫外可視吸収スペクトルにおけるSoret帯(亜鉛(Zn):423nm、スズ(Sn):409nm)の吸光度から、ミリモル吸光係数ε(Zn:243000M-1cm-1、Sn:267000M-1cm-1、数値は非特許文献3より引用)を用いて、濃度(M)を算出し、その逆数を時間(秒(s))に対してプロットし、その傾きから光分解速度定数kを算出した。スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcの濃度の逆数(1/C)−時間(t)プロットを図14に、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの濃度の逆数(1/C)−時間(t)プロットを図15に示す。図14および図15において、直線は二次反応式(1/C=kt+1/C0 )のフィッティング曲線である。ここで、C0 は初期濃度である。この直線の傾きが光分解速度定数kとなる。図14および図15中に記載した直線を表す一次式においてはtをx、1/Cをyで表した。
【0044】
2回の実験の平均から上記の4種類の金属置換シトクロムcの光分解速度定数kを求めた。その結果、光分解速度定数kは、スズ置換ウマ心筋シトクロムcは1.39±0.13M-1s-1、スズ置換ウシ心筋シトクロムcは0.90±0.20M-1s-1、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcは67.2±1.4M-1s-1、亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcは56.1±1.0M-1s-1であった。この結果から、スズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムcともに、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcに比べて光分解速度が50〜60倍遅く、光照射に対して極めて安定であることが分かった。また、亜鉛置換体、スズ置換体ともに、ウマ心筋シトクロムcに比べてウシ心筋シトクロムcの方が光分解速度は1.2〜1.5倍遅く、光照射に対して安定であることも分かった。特に、スズ置換ウシ心筋シトクロムcは、特許文献1において用いられた亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcに比べ、光照射に対して75倍も安定である。
【0045】
〈金属置換シトクロムcの光電流発生実験〉
光電流発生実験に用いるタンパク質固定化電極を次のようにして作製した。
図16に示すように、大きさが15.0mm×25.0mmで厚さが1mmのガラス基板21上に所定形状のITO電極22を形成した。ITO電極22の各部の寸法は図16に示す通りである。ITO電極22の厚さは100nmである。このITO電極22は作用極となる。照射領域23の大きさは4.0mm×4.0mmである。この照射領域23におけるITO電極22上に50μMの金属置換シトクロムc溶液(10mM Tris−HCl(pH8.0)に溶解)10μLでドロップを作製し、4℃、二日間放置した。こうしてタンパク質固定化電極を作製した。
【0046】
このタンパク質固定化電極を0.25mMフェロシアン化カリウムを含む10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)27mLに浸し、対極として白金メッシュ、参照極として銀/塩化銀電極を用い、特許文献2の図4に示す光電流測定装置を用いて、銀/塩化銀電極に対する電位を120mVとして波長380〜600nmの光電流アクションスペクトルを測定した。この測定に際しては、待機時間を900秒、測定時間を60秒、電流レンジを10nA、フィルターの周波数を30Hz、時間分解能を50msとした。4種類の金属置換シトクロムcのそれぞれにつき5枚、電極を作製して測定を行った。
【0047】
得られた光電流アクションスペクトルを図17に示す。光電流アクションスペクトルの極大は溶液吸収スペクトルと同様、408、540、578nmに見られた。図17より、Soret帯(408nm)とQ帯(540nm)との強度比が10:1であることから、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcの光電流発生機構は、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcと同様にホールトランスファー(hole transfer)タイプであると考えられる(非特許文献4)。Soret帯における光電流値平均値グラフ(サンプル数=5)を図18に示す。図18より、ウマ、ウシともにスズ置換シトクロムcは亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcと同様の光電流(10nA)を発生することが分かった。
【0048】
〈金属置換シトクロムcの蛍光量子収率〉
金属置換シトクロムcの異なる濃度の希薄溶液を用意し、波長380〜440nmの紫外可視吸収スペクトル、波長500〜700nmの蛍光スペクトル(励起波長409nm)を測定した。その結果を図19および図20に示す。
図21および図22に示すように、波長409nmにおける吸光度を横軸(x軸)に、波長560〜670nm間の積分蛍光強度を縦軸(y軸)にとり、各データをプロットして直線近似曲線を描いた。こうして得られた直線の傾きが蛍光量子収率となる。図20に示す蛍光スペクトルにおいて波長560〜670nm間の面積を積分蛍光強度(任意単位(a.u.))とした。亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの直線の傾き、すなわち蛍光量子収率を1.0としたときの各金属置換シトクロムcの相対蛍光量子収率Φを算出した。その結果を表3に示す。表3から分かるように、スズ置換体の蛍光強度は、亜鉛置換体の蛍光強度のおよそ1/7〜1/8である。このスズ置換体における励起電子の寿命の短さが、光照射時のラジカル発生を抑え、安定化に寄与していると考えられる。
【0049】
【表3】
【0050】
以上のように、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcとも、光照射に対する安定性が亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcに比べて極めて高い。このため、スズ置換ウマ心筋シトクロムcまたはスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いることにより、長期安定利用可能な新規なタンパク質透明受光素子1を実現することが可能となる。このタンパク質透明受光素子1は光センサーや撮像素子などに用いることができる。また、これらのスズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcとも、光の吸収極大の波長が409nmであり、これは現在、高密度記録が可能な光ディスクシステムに用いられている半導体レーザの波長405nmに近い。このため、光ディスクの代わりに、例えば、スズ置換ウマ心筋シトクロムcまたはスズ置換ウシ心筋シトクロムcを基板上に敷き詰めた媒体を用いることにより、新規なメモリを実現することが可能となる。さらに、これらのスズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcの直径は約2nmと極めて小さいため、基板の単位面積あたりに搭載できる素子数を従来に比べて飛躍的に多くすることができる。このため、高精細な光センサーや撮像素子などの実現が可能となり、あるいは、大容量のメモリの実現が可能となる。
【0051】
[多層透明受光素子の製造方法]
この多層透明受光素子の製造方法の一例について説明する。
まず、透明基板11上に透明電極12を形成したものを電子伝達タンパク質と緩衝液とを含む溶液に浸漬し、電子伝達タンパク質を透明電極12上に固定化する。こうして、透明電極12上に電子伝達タンパク質層13が形成されたタンパク質固定化電極が形成される。
次に、このタンパク質固定化電極と透明対極15とを用いて例えば図3、図4または図5に示すタンパク質透明受光素子1を製造する。
この後、このタンパク質透明受光素子1を必要な数だけ積層し、この際、必要に応じて透明接着剤などによりタンパク質透明受光素子1同士を接着する。
【0052】
[多層透明受光素子の動作]
この多層透明受光素子の各タンパク質透明受光素子1の電子伝達タンパク質層13にこの電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質に応じた波長(例えば、409nm程度)の単色光またはこの波長成分を含む光が入射すると、電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質から光励起により電子が発生し、電子伝達により透明電極12に電子が移動する。そして、透明電極12と透明対極15とから外部に光電流が取り出される。
【0053】
以上のように、この第2の実施の形態によれば、高い光照射安定性を有するスズ置換ウマ心筋シトクロムcまたはスズ置換ウシ心筋シトクロムcからなる電子伝達タンパク質層13を透明電極12上に固定化するようにしている。このため、電子伝達タンパク質層13が長時間の光照射によっても劣化することがなく、長期安定利用可能な新規なタンパク質透明受光素子1、従って多層透明受光素子を実現することができる。
【0054】
この多層透明受光素子は、第1の実施の形態による多層透明受光素子と同様に、光電変換を利用する各種の装置や機器などに用いることができ、具体的には、例えば、受光部を有する電子機器などに用いることができる。
【0055】
例えば、後述のように、一つのレンズを用いて互いに異なる位置にある複数の被写体に焦点を同時に合わせることができるカメラを実現することができる。また、この多層透明受光素子を用いることにより、一眼でのマルチフォーカス化や高速フォーカス化も可能となる。さらに、多層光ディスクを用いる光ディスクシステムやホログラフィック記録媒体を用いる光記録再生システムの受光素子としてこの多層透明受光素子を用いることにより、多層光ディスクの並列読み出しやホログラフィック記録媒体の読み出しを容易に行うことができる。
【0056】
〈3.第3の実施の形態〉
[多層透明受光素子]
第3の実施の形態による多層透明受光素子は、タンパク質透明受光素子1の電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質として新規な電子伝達タンパク質を用いることを除いて、第1の実施の形態による多層透明受光素子と同様な構成を有する。
この新規な電子伝達タンパク質は、哺乳類由来のシトクロムcのヘムの中心金属の鉄を亜鉛およびスズ以外の金属に置換し、蛍光励起寿命τが5.0×10-11 s<τ≦8.0×10-10 sである金属置換シトクロムc、または、哺乳類由来のシトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、亜鉛およびスズ以外の金属を含み、蛍光励起寿命τが5.0×10-11 s<τ≦8.0×10-10 sであるタンパク質である。ここで、哺乳類由来のシトクロムcとしては、例えば、ウマ心筋シトクロムcまたはウシ心筋シトクロムcが挙げられる。これらの新規な電子伝達タンパク質は、光照射に対する安定性が極めて高く、光電変換機能を長期にわたって維持することができる。
【0057】
〈金属置換シトクロムc〉
ウマ心筋シトクロムcおよびウシ心筋シトクロムcのヘムの中心金属の鉄をスズおよび亜鉛以外の金属に置換した金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcについて説明する。
これらの金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcに用いられる金属の例を表4に示す。この金属を中心金属として含むポルフィリンは蛍光を発することが知られている(非特許文献5)。表4において、各元素記号の下に記載されている数値は金属オクタエチルポルフィリンで測定したりん光寿命を示す。
【0058】
【表4】
【0059】
表4よりスズ(Sn)ポルフィリンのりん光寿命は30msであるが、りん光寿命がこれと同等またはこれより短い金属ポルフィリンは、光照射によりタンパク質やポルフィリン環部分にダメージを与えないと考えられる。表4よりこれらの金属は、ベリリウム(Be)、ストロンチウム(Sr)、ニオブ(Nb)、バリウム(Ba)、ルテチウム(Lu)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、トリウム(Th)、鉛(Pb)などである。
【0060】
そこで、ウマ心筋シトクロムcおよびウシ心筋シトクロムcのヘムの中心金属の鉄をこれらの金属に置換する。この置換には第2の実施の形態で述べたものと同様の方法を用いることができる。
こうして得られる金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcは光照射に対して、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcと同等に安定であり、光分解がほとんど起こらない。
【0061】
ここで、金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcに必要とされる蛍光励起寿命の範囲について説明する。
亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの分子内ホールトランスファー速度(非特許文献4)は次の通りである。分子軌道(MO)の番号として非特許文献4に準じた分子軌道番号を用いると、MO3272−MO3271間の遷移では1.5×1011s-1、MO3268−MO3270間の遷移では2.0×1010s-1である。そこで、分子内ホールトランスファー速度の下限を後者の2.0×1010s-1とする。
【0062】
スズ置換ウマ心筋シトクロムcの蛍光励起寿命(非特許文献3)は8.0×10-10 sである。亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの蛍光励起寿命は3.2×10-10 sである。
スズ置換ウマ心筋シトクロムcの電子励起1回の間の分子内ホールトランスファー回数は、MO3272−MO3271間の遷移では(1.5×1011s-1)×(8.0×10-10 s)=120回、MO3268−MO3270間の遷移では(2.0×1010s-1)×(8.0×10-10 s)=16回である。そこで、電子励起1回の間の分子内ホールトランスファー回数の下限を後者の16回とする。
この場合、ホールトランスファーを最低1回起こすのに必要な蛍光励起寿命は8.0×10-10 s/16=5.0×10-11 sである。
【0063】
以上より、光照射により、タンパク質部あるいはポルフィリンにダメージを与えず、かつホールトランスファーが起こるために必要な金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcの蛍光励起寿命(τ)の範囲は5.0×10-11 s(最低1回ホールトランスファーを起こすのに必要な蛍光励起寿命)<τ≦8.0×10-10 s(スズ置換ウマ心筋シトクロムcの蛍光励起寿命)である。
この第3の実施の形態によれば、タンパク質透明受光素子1の電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質として金属置換ウマ心筋シトクロムcまたは金属置換ウシ心筋シトクロムcを用いることにより、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いた第2の実施の形態による多層透明受光素子と同様な利点を得ることができる。
【0064】
〈4.第4の実施の形態〉
[多層透明受光素子]
第4の実施の形態による多層透明受光素子は、タンパク質透明受光素子1の電子伝達タンパク質層13として電子伝達タンパク質からなる固体タンパク質層を用いることを除いて、第1の実施の形態による多層透明受光素子と同様な構成を有する。
図23はタンパク質透明受光素子1として用いられる非接液全固体型タンパク質透明受光素子を示す。この非接液全固体型タンパク質透明受光素子においては固体タンパク質層を用いる。ここで、固体タンパク質層とは、水などの液体を含まずにタンパク質が集合して層状の固体をなすものを意味する。また、非接液全固体型タンパク質透明受光素子の「非接液」とは、タンパク質透明受光素子の内外が水などの液体と接触しない状態で使用されることを意味する。また、非接液全固体型タンパク質透明受光素子の「全固体型」とは、素子の全ての部位が水などの液体を含まないものであることを意味する。
【0065】
図23に示すように、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子は、透明電極41と透明電極42との間に、電子伝達タンパク質からなる固体タンパク質層43が挟まれた構造を有する。固体タンパク質層43は透明電極41、42に対して固定化されている。固体タンパク質層43は典型的には透明電極41、42に対して直接固定化されるが、必要に応じて、固体タンパク質層43と透明電極41、42との間に水などの液体が含まれていない中間層を設けてもよい。この固体タンパク質層43には水などの液体が含まれていない。この固体タンパク質層43はタンパク質の単分子膜または多分子膜からなる。
【0066】
この固体タンパク質層43が多分子膜からなる場合の構造の一例を図24に示す。図24に示すように、固体タンパク質層43は、例えば、スズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムc、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcなどからなる電子伝達タンパク質43aが二次元的に集合して形成された単分子膜がn層(nは2以上の整数)積層されたものからなる。図24ではn=3の場合が示されている。
【0067】
透明電極41、42の材料としては透明電極12と同様な材料を用いることができる。具体的には、これらの透明電極41、42を、この光励起に用いられる光に対して透明な導電材料、例えばITO、FTO、ネサガラスなどにより構成したり、光の透過が可能な極薄いAu膜などにより構成したりする。
【0068】
次に、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子の製造方法について説明する。
まず、透明電極41、42の一方、例えば透明電極41上に、電子伝達タンパク質43aを含む溶液、典型的には電子伝達タンパク質43aを水を含む緩衝液に溶解したタンパク質溶液を液滴下法、スピンコート法、ディップ法、スプレー法などにより付着させる。
次に、透明電極41上にタンパク質溶液を付着させたものを、室温またはより低い温度に保持することにより、付着させたタンパク質溶液中の電子伝達タンパク質43aを透明電極41に固定化させる。
【0069】
次に、こうしてタンパク質溶液中の電子伝達タンパク質43aを透明電極41に固定化させたものをこの電子伝達タンパク質43aの変性温度より低い温度に加熱して乾燥させることにより、タンパク質溶液に含まれる液を全て蒸発させて除去する。
こうして、電子伝達タンパク質43aのみが透明電極41に固定化され、固体タンパク質層43が形成される。この固体タンパク質層43の厚さは、透明電極41上に付着させるタンパク質溶液の量やタンパク質溶液の濃度などにより容易に制御することができる。
次に、この固体タンパク質層43上に透明電極42を形成する。この透明電極42は、スパッタリング法、真空蒸着法などにより導電材料を堆積させることにより形成することができる。
以上のようにして目的とする非接液全固体型タンパク質透明受光素子が製造される。
【0070】
次に、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子の動作について説明する。
非接液全固体型タンパク質透明受光素子の透明電極41と透明電極42との間に透明電極42側が低電位となるように電圧(バイアス電圧)を印加しておく。この非接液全固体型タンパク質透明受光素子の固体タンパク質層43に光が入射しないときには、この固体タンパク質層43は絶縁性であり、透明電極41と透明電極42との間に電流は流れない。この状態が非接液全固体型タンパク質透明受光素子のオフ状態である。これに対して、図25に示すように、例えば、透明電極41を透過して固体タンパク質層43に光(hν)が入射すると、この固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aが光励起され、その結果、この固体タンパク質層43が導電性となる。そして、透明電極42から電子(e)が固体タンパク質層43を通って透明電極41に流れ、透明電極41と透明電極42との間に光電流が流れる。この状態が非接液全固体型タンパク質透明受光素子のオン状態である。このように固体タンパク質層43は光導電体として振る舞い、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子への光の入射の有無によりオン/オフ動作が可能である。
【0071】
〈実施例〉
図26Aに示すように、ガラス基板51上に透明電極41として所定形状のITO電極52を形成した。ITO電極52の厚さは100nm、面積は1mm2 である。このITO電極52は作用極となる。
スズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcをそれぞれTris−HCl緩衝液(pH8.0)に高濃度に溶解したタンパク質溶液(200μM)を調製した。
【0072】
次に、図26Bに示すように、ITO電極52の一端部52aの上に、上述のようにして調製されたタンパク質溶液を10μL滴下し、タンパク質液滴53をITO電極52に付着させた。
次に、室温で2時間、あるいは4℃で一昼夜置き、タンパク質液滴53中のスズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムcまたは亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcをITO電極52に固定化させた。
【0073】
次に、この試料を30〜40℃の温度に保たれた乾燥機に入れて30〜60分乾燥させた。この乾燥によって、タンパク質液滴53に含まれる水などの液体を蒸発させて除去した。この結果、ITO電極52上にはスズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムcまたは亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcだけが残され、図27Aに示すように、固体タンパク質層43が形成される。この固体タンパク質層43の厚さは約1μmである。
【0074】
次に、図27Bに示すように、固体タンパク質層43と重なるように透明電極54を形成するとともに、ITO電極52の他端部52bと重なるように透明電極55を形成する。透明電極55は対極および作用極として用いられる。これらの透明電極54、55はAu膜またはAl膜により形成し、Au膜の厚さは20nm、Al膜の厚さは50nmである。これらの透明電極54、55は、例えば、これらの透明電極54、55を形成する領域以外の部分をマスクし、透明電極材料をスパッタリング法または真空蒸着法により堆積させることにより形成することができる。これらの透明電極54、55の平面形状は長方形または正方形とする。
こうして非接液全固体型タンパク質透明受光素子が製造される。この非接液全固体型タンパク質透明受光素子の断面構造を図28に示す。
【0075】
こうして非接液全固体型タンパク質透明受光素子を多数製造し、大気中において透明電極54、55間の抵抗を測定したところ、1kΩ〜30MΩの範囲と広範囲に分布していた。このように透明電極54、55間の抵抗が広範囲にわたっているのは、素子毎に固体タンパク質層43の厚さが異なっていたり、固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aに種類が異なるものが含まれていたりすることなどによるものである。
【0076】
この非接液全固体型タンパク質透明受光素子の光電流アクションスペクトルを測定した。固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aとしては、スズ置換ウシ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた。測定は、ポテンショスタットの作用極をITO電極52に接続された透明電極54に接続し、対極および参照極を透明電極55に接続して行った。透明電極54、55は厚さ20nmのAu膜からなる。固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aとして亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた場合の0mVおよび−800mVの電位下でのアクションスペクトルの測定結果を図29に示す。また、固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aとしてスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いた場合の0mVの電位下でのアクションスペクトルの測定結果を図38に示す。図29および図38に示すように、固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aとして亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた場合もスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いた場合もアクションスペクトルを観測することができた。特に、図29に示すように、固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aとして亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた場合には、正負両方向のアクションスペクトルを観測することができた。また、図29に示すように、−800mVという過電圧下でもアクションスペクトルを測定することができたが、これは新たな知見であり、極めて注目すべき結果である。
【0077】
図30は、固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aとして亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた非接液全固体型タンパク質透明受光素子の透明電極54、55間に電圧(バイアス電圧)を印加したときの各電圧におけるバックグラウンド電流(光オフ時に流れる電流)の測定結果を示す。図30に示すように、電圧とバックグラウンド電流との関係を示す曲線は直線であり、これは固体タンパク質層43の伝導性が半導体と似ていることを示す。この直線の傾きより、透明電極54、55間の抵抗は約50MΩであることが分かる。
【0078】
図31は固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aとして亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた非接液全固体型タンパク質透明受光素子の透明電極54、55間に電圧を印加したときの各電圧における光電流(光オン時に流れる電流)の測定結果を示す。図31に示すように、電圧と光電流との関係を示す曲線もほぼ直線であり、これは固体タンパク質層43が光導電体として機能していることを示す。
【0079】
図32は、固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aとして亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた非接液全固体型タンパク質透明受光素子と、後述の方法により作製した液系タンパク質透明受光素子との光電流アクションスペクトルの測定結果を示す。図32および以下の図33〜図35においては、上記の非接液全固体型タンパク質透明受光素子を「固体系」、液系タンパク質透明受光素子を「液系」と略記する。
液系タンパク質透明受光素子は次のようにして作製した。まず、ガラス基板上に形成されたITO膜の表面の所定部位をテープまたは樹脂でマスクする。次に、マスクされていない部分のITO膜を12M HCl(50℃)を用いて90秒ウエットエッチングすることにより除去する。次に、このガラス基板を水で洗浄した後、マスクを除去し、さらに空気流中で乾燥させる。次に、このガラス基板に対して1%Alconox(登録商標)水溶液中で30分の超音波処理を行い、引き続いてイソプロパノール中で15分の超音波処理を行い、さらに水中で15分の超音波処理を2回行う。次に、このガラス基板を0.01M NaOH中に3分間浸漬した後、空気または窒素流で乾燥させる。この後、このガラス基板に対して約60℃で15分紫外線(UV)−オゾン表面処理を行う。以上のようにしてITO電極を形成した。このITO電極は作用極となる。次に、第1の方法では、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcをTris−HCl緩衝液(pH8.0)に溶解したタンパク質溶液(50μM)により上述のようにして形成されたITO電極をリンスする。次に、こうしてタンパク質溶液によりリンスしたITO電極を4℃で一晩保持した後、水でリンスし、空気または窒素流で乾燥させる。第2の方法では、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcをTris−HCl緩衝液(pH8.0)に溶解したタンパク質溶液(50μM)により上述のようにして形成されたITO電極をリンスする。あるいは、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcをリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に溶解したタンパク質溶液(5μM)により上述のようにして形成されたITO電極をリンスする。次に、こうしてタンパク質溶液によりリンスしたITO電極を真空中で乾燥させる。この後、このITO電極を水でリンスし、空気または窒素流で乾燥させる。以上のようにしてITO電極上にタンパク質が固定化されたタンパク質固定化電極が形成される。次に、このタンパク質固定化電極のタンパク質側を対向電極として別途作製した清浄なITO電極と所定の距離離して対向させ、これらのタンパク質固定化電極およびITO電極の外周部を樹脂により封止する。対向電極としてのITO電極には、これらのタンパク質固定化電極およびITO電極の間の空間と連通するピンホールを空気の出入り口として形成しておく。次に、こうしてタンパク質固定化電極およびITO電極の外周部を樹脂により封止したものを容器中に入れられた電解質溶液中に浸漬する。電解質溶液としては、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)中に0.25mMのフェロシアン化カリウムを溶解したものを用いた。次に、この容器を真空中に保持し、タンパク質固定化電極およびITO電極の間の空間中の空気を上記のピンホールから外部に排出する。次に、この容器を大気圧に戻し、タンパク質固定化電極およびITO電極の間の空間に電解質溶液を満たす。この後、上記のピンホールを樹脂で封止する。以上により、液系タンパク質透明受光素子が作製される。
【0080】
図33は、図32に示す非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質透明受光素子のスペクトルを波長420nm付近にあるピークの光電流密度が1となるように規格化したものである。図32に示すように、両スペクトルは、光電流密度に差はあるものの、波長423nm付近のソーレー(Soret)帯および波長550nm、583nm付近のQ帯のピーク波長が同一であることから、いずれも亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcに由来する光電流が得られていることが分かる。亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcからなる固体タンパク質層43を用いた非接液全固体型タンパク質透明受光素子においてこのように亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcに由来する光電流が得られることは、本発明者らにより初めて見出されたことであり、従来の常識を覆す驚くべき結果である。
【0081】
図34は、上記の非接液全固体型タンパク質透明受光素子と、液系タンパク質透明受光素子とについての光劣化曲線(光の照射時間に対する光電流密度の減少を示す曲線)の測定結果を示す。測定は、波長405.5nmのレーザ光を0.2mW/mm2 の強度でこれらの非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質透明受光素子に照射しながら光電流密度を測定することにより行った。レーザ光の照射強度を0.2mW/mm2 と高くしたのは、光劣化速度を速くし、試験時間を短縮するためである。図35は図34に示す非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質透明受光素子の光劣化曲線を照射時間が0のときの光電流密度が1となるように規格化したものである。
【0082】
図35に示す光劣化曲線を下記の関数でフィッティングした。
f(x)=a×exp(b×x)+c×exp(d×x)
この関数f(x)の係数a、b、c、dは下記の通りである。各係数の後の括弧内の数値は95%信頼区間を示す。
【0083】
液系タンパク質透明受光素子
a=5.204×10-9(5.029×10-9,5.378×10-9)
b=−0.00412(−0.00441,−0.003831)
c=1.799×10-10 (2.062×10-11 ,3.392×10-10 )
d=−0.0004618(−0.0008978,−2.58×10-5)
【0084】
非接液全固体型タンパク質透明受光素子
a=5.067×10-11 (4.883×10-11 ,5.251×10-11 )
b=−0.0009805(−0.001036,−0.0009249)
c=4.785×10-11 (4.58×10-11 ,4.99×10-11 )
d=−0.0001298(−0.0001374,−0.0001222)
【0085】
ここで、これらの非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質透明受光素子の寿命tを
t=[a/(a+c)](−1/b)+[c/(a+c)](−1/d)
と定義する。この定義によると、液系タンパク質透明受光素子の寿命は306秒であるのに対し、非接液全固体型タンパク質透明受光素子の寿命は4266秒である。従って、非接液全固体型タンパク質透明受光素子の寿命は液系タンパク質透明受光素子の寿命の少なくとも14倍以上長いことが分かる。
【0086】
なお、図34に示す液系タンパク質透明受光素子の光劣化曲線には鋸歯状の波形が見られるが、これは電解質溶液中に発生する酸素を除去するために測定を中断しなければならなかったためであり、酸素を除去する操作後に光電流は少し上昇する。
【0087】
次に、非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質透明受光素子の周波数応答を測定した結果について説明する。
図36は液系タンパク質透明受光素子の周波数応答の測定結果、図37は非接液全固体型タンパク質透明受光素子の周波数応答の測定結果を示す。図36および図37より、液系タンパク質透明受光素子の3dB帯域幅(光電流値が最大光電流値の50%となる周波数)は30Hzより低いのに対し、非接液全固体型タンパク質透明受光素子の3dB帯域幅は400Hz以上であった。このことから、非接液全固体型タンパク質透明受光素子の応答速度は液系タンパク質透明受光素子の応答速度の少なくとも13倍以上も速いことが分かる。
【0088】
図39は、固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aとしてスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いた非接液全固体型タンパク質透明受光素子と、スズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いた液系タンパク質透明受光素子とについて光劣化曲線を測定し、これらの光劣化曲線を照射時間が0のときの光電流密度が1となるように規格化したものである。この液系タンパク質透明受光素子の作製方法は、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの代わりにスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いることを除いて、上記と同様である。非接液全固体型タンパク質透明受光素子としては、スズ置換ウシ心筋シトクロムcの単分子膜を有するものとスズ置換ウシ心筋シトクロムcの多分子膜を有するものとを作製した。測定は、波長405.5nmのレーザ光を0.2mW/mm2 の強度でこれらの非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質透明受光素子に照射しながら光電流密度を測定することにより行った。レーザ光の照射強度を0.2mW/mm2 と高くしたのは、光劣化速度を速くし、試験時間を短縮するためである。
【0089】
図39に示す光劣化曲線を下記の関数でフィッティングした。
f(x)=a×exp(b×x)+c×exp(d×x)
この関数f(x)の係数a、b、c、dは下記の通りである。
液系タンパク質透明受光素子
a=1.72×10-8
b=−0.00462
c=3.51×10-9
d=−0.000668
非接液全固体型タンパク質透明受光素子(単分子膜)
a=0.4515
b=−0.002599
c=0.3444
d=−0.0001963
非接液全固体型タンパク質透明受光素子(多分子膜)
a=0.5992
b=−0.002991
c=0.2371
d=−0.0001513
【0090】
ここで、これらの非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質透明受光素子の光劣化の平均時定数は次の通りである。
液系タンパク質透明受光素子 :2.54×102 秒
非接液全固体型タンパク質透明受光素子(単分子膜):2.71×103 秒
非接液全固体型タンパク質透明受光素子(多分子膜):2.73×103 秒
上述と同様に、これらの非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質透明受光素子の寿命tを
t=[a/(a+c)](−1/b)+[c/(a+c)](−1/d)
と定義する。この定義によると、液系タンパク質透明受光素子の寿命は434秒であるのに対し、非接液全固体型タンパク質透明受光素子(単分子膜)の寿命は2423秒、非接液全固体型タンパク質透明受光素子(多分子膜)の寿命は2113秒である。従って、非接液全固体型タンパク質透明受光素子の寿命は液系タンパク質透明受光素子の寿命の少なくとも約5倍以上長いことが分かる。
【0091】
この第4の実施の形態による多層透明受光素子によれば、次のような種々の利点を得ることができる。すなわち、この多層透明受光素子を構成するタンパク質透明受光素子1として用いられる非接液全固体型タンパク質透明受光素子は、素子の内部に水が存在せず、しかも水に接触させないでも動作が可能であるため、従来の半導体を用いた受光素子に代わる受光素子として電子機器に搭載することが可能となる。また、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子は、内部に水が存在しないため、水の存在に起因するタンパク質の熱変性、ラジカルダメージ、腐敗などを防止することができ、安定性が高く、耐久性が優れている。また、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子は、素子の内外に水が存在しないため、感電のおそれがなく、強度の確保も容易である。
【0092】
また、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子においては、固体タンパク質層43は透明電極41、42に対し、リンカー分子などを介することなく直接固定化されていることにより、リンカー分子などを介して固定化される場合に比べて大きな光電流を得ることができる。さらに、固体タンパク質層43が透明電極41、42に対して直接固定化されていることに加えて、固体タンパク質層43は極薄く形成することができるので、透明電極41と透明電極22との間の距離を極めて短くすることができる。このため、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子は薄型に構成することができ、しかも透明電極41、42を透明化することにより、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子を多層積層して使用することができる。さらに、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子においては、固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aのサイズは2nm程度と極めて小さいので、例えば固体タンパク質層43のどの位置に光が入射したかを極めて精密に検出することが可能である。このため、高精細の光センサーあるいは撮像素子を実現することができる。
【0093】
さらに、電子伝達タンパク質43aの光導電効果は「一光子−多電子発生」によるものと推測される。ところが、液系タンパク質透明受光素子においては、電極間に存在する溶液の抵抗(溶液抵抗)が高いため、この「一光子−多電子発生」が妨げられていたと考えられる。これに対し、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子では、この溶液抵抗が存在しないため、この「一光子−多電子発生」が可能となり、光電変換効率の大幅な向上を図ることができ、より大きな光電流を得ることができる。
【0094】
この非接液全固体型タンパク質透明受光素子は、光スイッチ素子、光センサー、撮像素子などを実現することができる。上述のようにこの非接液全固体型タンパク質透明受光素子は周波数応答が速いため、高速スイッチングが可能な光スイッチ素子、高速応答の光センサー、高速で動く物体の撮像が可能な撮像素子などを実現することができる。そして、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子を光スイッチ素子、光センサー、撮像素子などに用いることにより優れた電子機器を実現することができる。
例えば、後述のように、一つのレンズを用いて互いに異なる位置にある複数の被写体に焦点を同時に合わせることができるカメラを実現することができる。また、この多層透明受光素子を用いることにより、一眼でのマルチフォーカス化や高速フォーカス化も可能となる。さらに、多層光ディスクを用いる光ディスクシステムやホログラフィック記録媒体を用いる光記録再生システムの受光素子としてこの多層透明受光素子を用いることにより、多層光ディスクの並列読み出しやホログラフィック記録媒体の読み出しを高速で容易に行うことができる。
【0095】
〈5.第5の実施の形態〉
[多層透明受光素子]
第5の実施の形態による多層透明受光素子は、N層のタンパク質透明受光素子1を積層した構成を有するのは第1の実施の形態による多層透明受光素子と同じであるが、タンパク質透明受光素子1からなる画素が面内において多数集積形成されている点が第1の実施の形態と異なる。
すなわち、図40に示すように、この多層透明受光素子においては、例えばN番目の透明基板11と(N−1)番目の透明基板11との間に透明なスペーサ61が設けられており、このスペーサ61の厚さによりこれらの透明基板11の間隔が規定されている。スペーサ61とスペーサ61との間の空間にタンパク質透明受光素子1からなる画素62が設けられており、この画素62が面内に二次元マトリクス状に多数配列されている。この画素62が配列された面が受光面を構成し、この受光面が合計N段存在する。
この集積型多層透明受光素子における各画素62からの信号の取り出しや処理などには従来公知の技術を用いることができる。例えば、m行n列の二次元マトリクス状に配列された各画素62の上下の電極と接続されるように、行方向および列方向に配線を形成しておく。そして、例えば、選択された列のm個の画素62からの信号を読み出すためには、この列の画素62の一方の電極に接続された配線にだけ所定のバイアス電圧を印加し、このときm行の画素62の他方の電極に接続された配線に流れる光電流を検出する。
この第5の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。また、この集積型多層透明受光素子は、第1の実施の形態による多層透明受光素子と同様な応用が可能である。
【0096】
〈6.第6の実施の形態〉
[多層透明受光素子]
図41に示すように、この第6の実施の形態による多層透明受光素子においては、例えばN番目の透明基板11と(N−1)番目の透明基板11との間に高さが可変で透明なスペーサ61が設けられており、このスペーサ61の厚さによりこれらの透明基板11の間隔が規定されている。そして、スペーサ61とスペーサ61との間の空間にタンパク質透明受光素子1からなる画素62が設けられており、この画素62が面内に二次元マトリクス状に多数配列されている。この画素62が配列された面が受光面を構成し、この受光面が合計N段存在する。この場合、このタンパク質透明受光素子1からなる画素62の厚さはスペーサ61の厚さよりも小さく、しかもこのタンパク質透明受光素子1からなる画素62の幅はスペーサ61とスペーサ61との間の空間の幅よりも小さく、透明基板11とこの画素62との間およびスペーサ61とこの画素62との間には隙間が存在している。このように透明基板11と画素62との間およびスペーサ61と画素62との間に隙間が存在するため、この多層透明受光素子をフレキシブルに構成することができる。
この集積型多層透明受光素子における各画素62からの信号の取り出しや処理などには従来公知の技術を用いることができる。
この第6の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。また、この集積型多層透明受光素子は、第1の実施の形態による多層透明受光素子と同様な応用が可能である。
【0097】
〈7.第7の実施の形態〉
[立体イメージングシステム]
第7の実施の形態による立体イメージングシステムにおいては、光センサーとして第5または第6の実施の形態による集積型多層透明受光素子を備えたカメラを用いる。このカメラはデジタルカメラやビデオカメラなどである。
このカメラは、このカメラの撮像光学系の光軸方向が、集積型多層透明受光素子のタンパク質透明受光素子1からなる画素62の積層方向と一致するように構成されている。こうすることで、このカメラでは、集積型多層透明受光素子のN段の受光面のそれぞれを被写体を撮影する際の焦点合わせに用いることができる。このため、このカメラから異なる距離にある被写体のいずれにも焦点を合わせて撮像することができる。例えば、図42に示すように、カメラ71から距離d1 の位置に花72があり、距離d2 (d2 >d1 )の位置に山73がある場合、これらの花72および山73をカメラ71により撮影する際、集積型多層透明受光素子によりこれらの花72および山73の両方に焦点を合わせることができ、その状態で撮影することができる。そして、集積型多層透明受光素子からの信号を処理することにより三次元の画像を得ることができる。この画像では、花72および山73の両方とも鮮明に撮影されており、しかも花72は近くに、山73は遠くに見え、遠近感も十分に得ることができる。
【0098】
カメラ71により撮影された画像をディスプレイに表示する場合について説明する。
第1の例では、カメラ71により撮影されたリアルな三次元画像をディスプレイに表示する。例えば、花71が近くに位置し、山72が遠くに位置するリアルな三次元画像を表示することができる。
【0099】
第2の例では、カメラ71により撮影された三次元画像のうち特に見たい部分を強調して表示する。例えば、図42の例では、カメラ71により撮影された花72および山73を含む三次元画像のうち花72だけを見たい場合には、図43Aに示すように、ディスプレイ74に画像信号の処理により花72だけを鮮明に表示し、山73をぼかして表示することができる。逆に、図43Bに示すように、画像信号の処理により山73だけを鮮明に表示し、花72をぼかすことができる。このようにすることにより、ユーザの希望通りの画像をディスプレイ74に表示することができる。
【0100】
集積型多層透明受光素子のN段の受光面(電子伝達タンパク質層13の面)のそれぞれを被写体を撮影する際の焦点合わせに用いることができることについて改めて詳細に説明する。
図44は集積型多層透明受光素子の撮像光学系を示す。撮像光学系には一般には二つ以上のレンズが含まれるが、ここでは説明を簡単にするため一つのレンズLだけがあるとする。像面I1 〜IN は集積型多層透明受光素子のN段の受光面に対応する。いま、レンズLから互いに異なる距離にある物体O1 、O2 を考える。レンズLによる物体O1 の像は像面I2 に結像し(像点O1 ´)、物体O2 の像は像面I1 に結像する(像点O2 ´)。この場合、物体O1 、O2 の両方とも焦点を合わせることができ、それらの鮮明な像を得ることができる。
【0101】
レンズLからの被写体の距離による集積型多層透明受光素子における結像面の位置の変化、言い換えれば焦点の位置の変化について説明する。図45に示すように、焦点距離がf0 のレンズLから距離f1 にある物体の像がレンズLから距離f2 の位置に結像する。このとき、レンズ公式より、f1 =f2 f0 /(f2 −f0 )が成り立つ。一例として、f0 =5cmの場合を考えると、f1 とf2 との関係は表5のようになり、グラフに表すと図46に示すようになる。
【0102】
【表5】
【0103】
表5および図46から分かるように、レンズLからの被写体の距離f1 が1mから10000mまで変化しても、レンズLから被写体の像までの距離f2 はわずか約0.26cmしか変化しない。この場合、集積型多層透明受光素子における1段目の受光面とN段の受光面との間隔は0.3cm以下で足りることになる。
【0104】
レンズLによる被写体の像の結像面が集積型多層透明受光素子の受光面と一致していない、言い換えると受光面に焦点が合っていない場合には、各受光面で得られた信号からソフトウエアのアルゴリズムにより被写体の画像を再構成することができる。
いま、図47に示すように、レンズLにより結像された被写体の像が、集積型多層透明受光素子の受光面R1 〜R3 のうち受光面R1 と受光面R2 との間にあるとする。この場合、受光面R1 〜R3 のそれぞれにおける点像強度分布関数(point spread function)SPF1、SPF2、SPF3の関数F(SPF1、SPF2、SPF3)として被写体の結像面の点像強度分布関数SPFx を求めることができる。この計算はコンピュータにより容易に行うことができる。そして、この点像強度分布関数SPFx を用いて被写体の画像を得ることができ、この画像をディスプレイに表示することができる。
【0105】
例えば放送局においてテレビカメラにより撮影を行う場合にこの技術を用いることにより、放送局から配信される映像信号を用いて三次元テレビで画像を表示する場合、集積型多層透明受光素子の受光面からの出力信号に基づいて、表示されている画像のうちユーザーが特に見たい部分のズームインまたはズームアウトを自在に行うことができる。
【0106】
カメラ71を用いることにより、カメラ71から互いに異なる距離にある複数の物体(被写体)の鮮明な画像を同時に得ることができる。例えば、図48に示すように、1列目の人75が地面に立ち、二列目の人76が低い台77の上に立ち、三列目の人78が台77より高い台79の上に立っており、カメラ71によりこれらの人75、76、78を撮影する場合を考える。この場合、カメラ71の多層透明受光素子によりこれらの人75、76、78にそれぞれ焦点を合わせることができるので、これらの人75、76、78の鮮明な画像を同時に得ることができる。
【0107】
カメラ71を用いることにより、撮影したい被写体に高速で焦点を合わせることができる。例えば、図49に示すように、サッカーコート79で試合が行われている場合に、試合の様子をカメラ71で撮影する場合を考える。いま、サッカーコート79のA点に焦点が合った状態からB点に焦点を合わせるとする。この場合、通常のカメラを用いた場合にはカメラのレンズを大きく動かす必要があるが、カメラ71を用いた場合には、レンズLをあまり動かさないでもB点に焦点を合わせることができ、焦点合わせを高速で行うことができる。これは次のような理由による。
【0108】
すなわち、図50Aに示すように、最初、サッカーコート79のA点にある物体O1 に焦点が合っていてカメラ71の集積型多層透明受光素子の受光面R1 に像O1 ´が結像しており、B点にある物体O2 には焦点が合っておらずカメラ71の集積型多層透明受光素子の受光面R2 から少しずれた位置に像O2 ´が結像している。この状態からB点に焦点を合わせる場合、従来のカメラでは、図50Cに示すように、レンズLを像O1 ´と像O2 ´との位置の差に相当する距離Δx2 だけ移動させることにより物体O2 の像O2 ´が受光面に結像するようにする必要がある。これに対し、カメラ71を用いた場合には、図50Bに示すように、像O2 ´が受光面R1 に隣接する受光面R2 に結像するように像O2 ´と受光面R2 との間の距離Δx1 だけ動かすだけでよいので、レンズLの移動距離が小さくて済み、従ってB点への焦点合わせを高速で行うことができる。また、カメラ71をより薄型に構成することができる。
【0109】
カメラ71を用いることにより、高価なアクロマートレンズを用いることなく、色収差を補正することができる。すなわち、図51に示すように、白色光がレンズLに入射した場合、レンズLの色収差により例えば青色光、緑色光および赤色光が異なる面(レンズLからの距離がそれぞれfb 、fg 、fr )で結像しても、カメラ71の集積型多層透明受光素子の受光面R1 〜RN のいずれかの受光面でこれらの青色光、緑色光および赤色光を受光することができる。
【0110】
〈8.第8の実施の形態〉
[立体イメージングシステム]
第8の実施の形態による立体イメージングシステムにおいては、光センサーとして第6の実施の形態による集積型多層透明受光素子を備えたカメラを用いる。
図52に示すように、このカメラ71においては、光センサーとして、湾曲した形状の集積型多層透明受光素子80を用いる。そして、この集積型多層透明受光素子80の曲率中心の近傍にレンズLを配置する。こうすることで、広い角度範囲にある複数の物体(例えば、物体O1 、O2 )を同時に撮影することができる。
【0111】
〈9.第9の実施の形態〉
[立体イメージングシステム]
第9の実施の形態による立体イメージングシステムにおいては、受光素子として第6の実施の形態による集積型多層透明受光素子を備えたカメラを用いる。
図53に示すように、このカメラ71においては、受光素子として、円柱面状の集積型多層透明受光素子81を用いる。そして、この集積型多層透明受光素子81の外周にレンズLを配置する。こうすることで、360°の角度範囲にある物体O1 、O2 を同時に撮影することができ、全方位の立体イメージングシステムを得ることができる。
【0112】
〈10.第10の実施の形態〉
[光ディスクシステム]
図54に第10の実施の形態による光ディスクシステムを示す。
図54に示すように、この光ディスクシステムにおいては、N層の記録層を有する多層光ディスク91を用い、N層のタンパク質透明受光素子1を有する多層透明受光素子92を用いてこの多層光ディスク91のN層の記録層に記録されたデジタルデータを一括して読み出す。具体的には、図54に示すように、低コヒーレンスの光源93からの光94をビームスプリッタ95により二つに分け、ビームスプリッタ95を透過した光を多層光ディスク91に入射させる。多層光ディスク91に入射した光は各記録層でそれぞれ反射されて多層透明受光素子92に入射する。一方、ビームスプリッタ95で反射された光はミラー96、97で順次反射させた後、多層透明受光素子92に入射させる。こうして、ビームスプリッタ95により二つに分けられた光が多層透明受光素子92に入射すると、これらの光は干渉を起こす。その結果、図54の多層透明受光素子92の直ぐ横に示すように、多層透明受光素子92のN層の受光面における光の強度の分布が得られる。この強度分布は多層光ディスク91の各記録層に記録されたデータを反映したものとなる。この場合、例えば、しきい値強度I0 より強度のピークが高いときを「1」、低いときを「0」とすることにより、多層光ディスク91に記録されたデジタルデータを読み出すことができる。
【0113】
〈11.第11の実施の形態〉
[光記録再生システム]
図55に第11の実施の形態による光記録再生システムを示す。
図55に示すように、この光記録再生システムにおいては、ホログラフィック記録媒体101を用い、N層のタンパク質透明受光素子1を有する多層透明受光素子102を用いてこのホログラフィック記録媒体101に記録されたデータを読み出す。具体的には、図55に示すように、高コヒーレンスの光源103からの光104をビームスプリッタ105により二つに分け、ビームスプリッタ105を透過した光をホログラフィック記録媒体101に入射させる。ホログラフィック記録媒体101に入射した光は多層透明受光素子92に向かう。一方、ビームスプリッタ105で反射された光はレンズ106を通って多層透明受光素子102に入射し、ホログラフィック記録媒体101から来た光と重ね合わされる。その結果、多層透明受光素子92上に、ホログラフィック記録媒体101に記録された画像が光の強度分布として現れる。こうして、ホログラフィック記録媒体101に記録された画像を再生することができる。
【0114】
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構造、構成、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、材料などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0115】
1…タンパク質透明受光素子、11…透明基板、12…透明電極、13…電子伝達タンパク質層、14…電解質層、15…透明対極
【技術分野】
【0001】
この発明は、多層透明受光素子および電子機器に関し、特に、タンパク質を用いた多層透明受光素子およびこの多層透明受光素子を光検出器などに用いた三次元ディスプレイ、三次元イメージセンサー、カメラなどの各種の電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、受光素子としてはもっぱらCCDやCMOSなどが用いられているが、これらはシリコン半導体技術をベースに構築されているため、受光素子自体は透明ではなかった。そのため、これらの従来の受光素子を用いて立体視を行うカメラは、人間の目と同様の機構を模した両眼視差を利用したものがほとんどである(例えば、ステレオラメラなど)。しかしながら、このような機構を用いると、二つ以上のカメラを連結させる必要があり、構造が複雑になる。また、必然的にレンズを二つ以上用意する必要があり、カメラをコンパクトにするのも難しい。また、撮像部分の焦点が一眼につき一点であるため、同時に様々な焦点に合わせた映像を取ることができなかった。また、非常に遠くに焦点が合った状態からいきなり近くを撮影するような場合、焦点が一眼につき一点しかないことから、焦点を高速に合わせるためにはレンズを大きく動かす必要が生じ、超高速で焦点を合わせるのにも限界があった。
【0003】
一方、光ディスクシステムにおいては、光ディスクの多層化が進み、多層化により記録容量を飛躍的に伸ばしてきている。しかしながら、光ディスクシステムの光検出用の受光素子を多層化することは上述の従来の受光素子ではできないことから、これが多層化光ディスクを用いる光ディスクシステムの開発のネックとなっている。
【0004】
従来、入力された画像を透過させることができる光透過型画像認識素子が提案されている(特許文献1参照。)。この光透過型画像認識素子は、表面に複数の透明画素電極が2次元配列状に形成された第1透明基板と表面に透明対向電極が形成された第2透明基板と両電極間に配された視物質類似タンパク質配向配列フィルム層および透明絶縁層とを備えている。視物質類似タンパク質配向配列フィルム層としては、バクテリオロドプシンの配向配列フィルム層が用いられる。
【0005】
なお、タンパク質を用いた光電変換素子として、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムc(ウマ心筋シトクロムcの補欠分子族ヘムの中心金属の鉄を亜鉛に置換したもの)を金電極に固定化したタンパク質固定化電極を用いたものが提案されている(特許文献2参照。)。そして、このタンパク質固定化電極から光電流が得られることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−334986号公報
【特許文献2】特開2007−220445号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】McLendon,G.and Smith,M.J.Biol.Chem.253,4004(1978)
【非特許文献2】Moza,B.and 2 others,Biochim.Biophys.Acta 1646,49(2003)
【非特許文献3】Vanderkooi,J.M.and 2 others,Eur.J.Biochem.64,381-387(1976)
【非特許文献4】Tokita,Y.and 4 others,J.Am.Chem.Soc.130,5302(2008)
【非特許文献5】Gouterman M.,Optical spectra and electronic structure of porphyrins and related rings, in "The Porphyrins" Vol.3,Dolphin,D.ed.,pp.1-156, Academic Press(1978)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1で提案された光透過型画像認識素子は、画像が第1透明基板側から視物質類似タンパク質配向配列フィルム層に投影された時に、この視物質類似タンパク質配向配列フィルム層の電気分極によって画素電極に誘導される誘導電流を検出するようにしているため、光応答速度が遅いだけでなく、視物質類似タンパク質配向配列フィルム層の作製にラングミュアブロジェット法を用いているため生産性が悪い。また、特許文献1では、視物質類似タンパク質配向配列フィルム層の電気分極により画素電極に誘導される誘導電流の検出については何ら実証されていない。
そこで、この発明が解決しようとする課題は、光応答速度が極めて速く、しかも製造が容易な多層透明受光素子およびこの多層透明受光素子を用いた高性能の電子機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は、
互いに積層された複数の、電子伝達タンパク質を用いたタンパク質透明受光素子を有する多層透明受光素子である。
また、この発明は、
互いに積層された複数の、電子伝達タンパク質を用いたタンパク質透明受光素子を有する多層透明受光素子を有する電子機器である。
【0010】
この発明において、電子伝達タンパク質としては、従来公知の電子伝達タンパク質を用いることができる。より具体的には、電子伝達タンパク質としては、金属を含む電子伝達タンパク質または金属を含まない(金属フリー)電子伝達タンパク質を用いることができる。電子伝達タンパク質に含まれる金属は、好適には、d軌道以上の高エネルギーの軌道に電子を有する遷移金属(例えば、亜鉛や鉄など)である。電子伝達タンパク質としては後述の新規な電子伝達タンパク質を用いることもできる。
【0011】
電子伝達タンパク質は、典型的には、受光しようとする光、典型的には可視光に対して透明な材料からなる透明電極に固定化される。典型的な一つの例においては、タンパク質透明受光素子は、電子伝達タンパク質が透明電極に固定化されたタンパク質固定化電極と透明対極とを有する。他の典型的な一つの例においては、タンパク質透明受光素子は、第1の透明電極と第2の透明電極との間に電子伝達タンパク質からなる固体タンパク質層を挟んだ構造を有する。透明電極の材料としては無機材料、有機材料のいずれを用いてもよく、必要に応じて選ばれる。
【0012】
電子機器は、多層透明受光素子を用いることができるものである限り各種のものであってよいが、具体例をいくつか挙げると、三次元ディスプレイ、三次元イメージセンサー、カメラ、光記録再生システムなどである。
【0013】
上述のように構成されたこの発明においては、電子伝達タンパク質はバクテリオロドプシンのような視物質類似タンパク質に比べて光応答速度が速いだけでなく、例えば電子伝達タンパク質を含む溶液を透明電極に塗布することにより容易にタンパク質固定化電極を作製することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、光応答速度が極めて速く、しかも製造が容易な多層透明受光素子を実現することができる。そして、この優れた多層透明受光素子を用いて高性能の電子機器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の第1の実施の形態による多層透明受光素子を示す略線図である。
【図2】この発明の第1の実施の形態による多層透明受光素子を構成するタンパク質透明受光素子を示す断面図である。
【図3】この発明の第1の実施の形態による多層透明受光素子を構成するタンパク質透明受光素子の使用形態の第1の例を示す略線図である。
【図4】この発明の第1の実施の形態による多層透明受光素子を構成するタンパク質透明受光素子の使用形態の第2の例を示す略線図である。
【図5】この発明の第1の実施の形態による多層透明受光素子を構成するタンパク質透明受光素子の使用形態の第3の例を示す略線図である。
【図6】この発明の第2の実施の形態による多層透明受光素子を構成するタンパク質透明受光素子において用いられるスズ置換ウマ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図7】この発明の第2の実施の形態による多層透明受光素子を構成するタンパク質透明受光素子において用いられるスズ置換ウシ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図8】亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図9】亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図10】この発明の第2の実施の形態による多層透明受光素子を構成するタンパク質透明受光素子において用いられるスズ置換ウマ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの経時変化の測定結果を示す略線図である。
【図11】この発明の第2の実施の形態による多層透明受光素子を構成するタンパク質透明受光素子において用いられるスズ置換ウシ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの経時変化の測定結果を示す略線図である。
【図12】亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの経時変化の測定結果を示す略線図である。
【図13】亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの経時変化の測定結果を示す略線図である。
【図14】この発明の第2の実施の形態による多層透明受光素子を構成するタンパク質透明受光素子において用いられるスズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcの光分解反応の二次反応式のフィッティングの一例を示す略線図である。
【図15】亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの光分解反応の二次反応式のフィッティングの一例を示す略線図である。
【図16】この発明の第2の実施の形態において金属置換シトクロムcの光電流発生実験に用いたタンパク質固定化電極を示す平面図である。
【図17】図16に示すタンパク質固定化電極の光電流アクションスペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図18】図16に示すタンパク質固定化電極のSoret帯光電流値の平均値を示す略線図である。
【図19】各種の金属置換シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図20】各種の金属置換シトクロムcの蛍光スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図21】スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの波長409nmにおける吸光度に対する積分蛍光強度を示す略線図である。
【図22】スズ置換ウシ心筋シトクロムc、亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの波長409nmにおける吸光度に対する積分蛍光強度を示す略線図である。
【図23】この発明の第4の実施の形態による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子を示す断面図である。
【図24】図23に示す非接液全固体型タンパク質透明受光素子の要部を拡大して示す断面図である。
【図25】この発明の第4の実施の形態による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子の動作を説明するための略線図である。
【図26】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子の製造方法を説明するための平面図である。
【図27】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子の製造方法を説明するための平面図である。
【図28】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子を示す断面図である。
【図29】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子の光電流アクションスペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図30】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子のバックグラウンド電流−電圧特性の測定結果を示す略線図である。
【図31】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子の電流−電圧特性の測定結果を示す略線図である。
【図32】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質透明受光素子の光電流アクションスペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図33】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質受光素子の光電流アクションスペクトルの測定結果を光電流のピーク値が1となるように規格化して示す略線図である。
【図34】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質受光素子の光劣化曲線の測定結果を示す略線図である。
【図35】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質受光素子の光劣化曲線の測定結果を照射開始時の光電流のピーク値が1となるように規格化して示す略線図である。
【図36】液系タンパク質透明受光素子の周波数応答の測定結果を示す略線図である。
【図37】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質光電変換素子の周波数応答の測定結果を示す略線図である。
【図38】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子の光電流アクションスペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図39】この発明の実施例による多層透明受光素子を構成する非接液全固体型タンパク質透明受光素子の光劣化曲線の測定結果を示す略線図である。
【図40】この発明の第5の実施の形態による多層透明受光素子を示す略線図である。
【図41】この発明の第6の実施の形態による多層透明受光素子を示す略線図である。
【図42】この発明の第7の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図43】この発明の第7の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図44】この発明の第7の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図45】この発明の第7の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図46】この発明の第7の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図47】この発明の第7の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図48】この発明の第7の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図49】この発明の第7の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図50】この発明の第7の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図51】この発明の第7の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図52】この発明の第8の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図53】この発明の第9の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図54】この発明の第10の実施の形態による光ディスクシステムを示す略線図である。
【図55】この発明の第11の実施の形態による光記録再生システムを示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」とする)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(多層透明受光素子)
2.第2の実施の形態(多層透明受光素子)
3.第3の実施の形態(多層透明受光素子)
4.第4の実施の形態(多層透明受光素子)
5.第5の実施の形態(多層透明受光素子)
6.第6の実施の形態(多層透明受光素子)
7.第7の実施の形態(立体イメージングシステム)
8.第8の実施の形態(立体イメージングシステム)
9.第9の実施の形態(立体イメージングシステム)
10.第10の実施の形態(光ディスクシステム)
11.第11の実施の形態(光記録再生システム)
【0017】
〈1.第1の実施の形態〉
[多層透明受光素子]
図1は第1の実施の形態による多層透明受光素子を示す。
図1に示すように、この多層透明受光素子は、互いに積層されたN層(Nは2以上の整数)のタンパク質透明受光素子1により構成されている。タンパク質透明受光素子1の積層数Nは、この多層透明受光素子の用途に応じて適宜選ぶことができる。また、この多層透明受光素子およびタンパク質透明受光素子1の平面形状、大きさおよび厚さも適宜選ぶことができる。タンパク質透明受光素子1の厚さは一般的には例えば10μm〜1mmであるが、これに限定されるものではない。
【0018】
図2にタンパク質透明受光素子1の構成例を示す。
図2に示すように、このタンパク質透明受光素子1においては、透明基板11上に設けられた透明電極12に電子伝達タンパク質層13が固定化され、この電子伝達タンパク質層13と電解質層14を介して対向するように透明対極15が設けられている。電子伝達タンパク質層13は電子伝達タンパク質の単分子膜または多分子膜からなる。電子伝達タンパク質層13の各電子伝達タンパク質は透明電極12に対して直接に固定化されてもよいし、自己組織化単分子膜などの中間層を介して間接的に固定化されてもよい。電解質層14は電解質溶液または固体電解質からなる。電解質層14が外部に洩れたり、空気と接触したり、乾燥したりするのを防止するために、好適には、電解質層14の周囲は封止壁(図示せず)により封止される。あるいは、タンパク質透明受光素子1の全体が透明容器に収納されることもある。
【0019】
図2においては、タンパク質透明受光素子1を構成する各層はいずれも平坦な表面形状を有するように描かれているが、各層の表面形状は任意であり、例えば凹面、凸面、凹凸面などのいずれであってよい。特に、透明電極12に表面がいずれの形状であっても容易に電子伝達タンパク質層13を固定化することが可能である。
【0020】
透明基板11の材料としては、例えば、ガラス、雲母(マイカ)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの各種の無機または有機の透明材料を用いることができる。
【0021】
透明電極12の材料としては、例えば、ITO(インジウム−スズ複合酸化物)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、ネサガラス(SnO2 ガラス)などの透明金属酸化物のほか、光の透過が可能な極薄い金属膜、例えばAu膜などを用いることができる。
【0022】
電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質としては、具体的には、例えば、シトクロム類、鉄−硫黄タンパク質類、ブルー銅タンパク質類などを用いることができる。シトクロム類としては、シトクロムc(亜鉛置換シトクロムc、金属フリーシトクロムcなど)、シトクロムb、シトクロムb5、シトクロムc1、シトクロムa、シトクロムa3、シトクロムf、シトクロムb6などが挙げられる。鉄−硫黄タンパク質類としては、ルブレドキシン、二鉄フェレドキシン、三鉄フェレドキシン、四鉄フェレドキシンなどが挙げられる。ブルー銅タンパク質類としては、プラストシアニン、アズリン、シュードアズリン、プランタシアニン、ステラシアニン、アミシアニンなどが挙げられる。電子伝達タンパク質はこれらに限定されるものではない。例えば、これらの電子伝達タンパク質の誘導体(骨格のアミノ酸残基が化学修飾されたもの)またはその変異体(骨格のアミノ酸残基の一部が他のアミノ酸残基に置換されたもの)を用いることもできる。これらの電子伝達タンパク質はいずれも水溶性タンパク質である。
【0023】
タンパク質透明受光素子1は、電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質の光電変換機能および電子伝達機能を損なわない限り、溶液(電解質溶液)中、ドライな環境中のいずれでも動作させることが可能である。言い換えると、電解質層14は電解質溶液からなるものであっても、固体電解質からなるものであってもよい。電解質層14の電解質(あるいはレドックス種)としては、電子伝達タンパク質層13が透明電極12に固定化されたタンパク質固定化電極で酸化反応が起こり、透明対極15で還元反応が起こるもの、または、上記のタンパク質固定化電極で還元反応が起こり、透明対極15で酸化反応が起こるものが用いられる。具体的には、電解質としては、例えば、K4 [Fe(CN)6 ]や[Co(NH3 )6 ]Cl3 などが用いられる。このタンパク質透明受光素子1をドライな環境中で動作させる場合には、典型的には、例えば、電子伝達タンパク質を吸着しない固体電解質、具体的には例えば寒天やポリアクリルアミドゲルなどの湿潤な固体電解質からなる電解質層14が、タンパク質固定化電極と透明対極15との間に挟み込まれ、好適にはその周囲にこの固体電解質の乾燥を防ぐための封止壁が設けられる。これらの場合においては、タンパク質固定化電極と透明対極15との自然電極電位の差に基づいた極性で、電子伝達タンパク質層13からなる受光部で光を受光したときに光電流を得ることができる。
【0024】
透明対極15の材料としては、例えば、ITO、FTO、ネサガラスなどの透明金属酸化物のほか、光の透過が可能な極薄い金属膜、例えばAu膜などを用いることができる。
【0025】
[タンパク質透明受光素子1の使用形態]
図3はこのタンパク質透明受光素子1の使用形態の第1の例を示す。
図3に示すように、この第1の例では、透明電極12上に電子伝達タンパク質層13が固定化されたタンパク質固定化電極と透明対極15とが互いに対向して設けられる。これらのタンパク質固定化電極および透明対極15は、透明容器16中に入れられた電解質溶液からなる電解質層14中に浸漬される。電解質溶液は、電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質の機能を損なわないものが用いられる。また、この電解質溶液の電解質(あるいはレドックス種)は、タンパク質固定化電極で酸化反応が起こり、透明対極15で還元反応が起こるもの、または、タンパク質固定化電極で還元反応が起こり、透明対極15で酸化反応が起こるものが用いられる。
【0026】
このタンパク質透明受光素子1により光電変換を行うには、バイアス電源17により透明参照電極18に対してタンパク質固定化電極にバイアス電圧を印加した状態で、タンパク質固定化電極の電子伝達タンパク質層13に光を照射する。この光は、電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質の光励起が可能な光の単色光またはこの光の成分を有する光である。この場合、タンパク質固定化電極に印加するバイアス電圧、照射する光の強度および照射する光の波長のうちの少なくとも一つを調節することによって、素子内部を流れる光電流の大きさおよび/または極性を変化させることができる。光電流は端子19a、19bより外部に取り出される。
【0027】
図4はこのタンパク質透明受光素子1の使用形態の第2の例を示す。
図4に示すように、この第2の例では、第1の例のようにバイアス電源17を用いてバイアス電圧を発生させるのではなく、タンパク質固定化電極および透明対極15が持つ自然電極電位の差をバイアス電圧として用いる。この場合、透明参照電極18は用いる必要がない。したがって、このタンパク質透明受光素子1は、タンパク質固定化電極および透明対極15を用いる二電極系である。第2の例の上記以外のことは第1の例と同様である。
【0028】
図5はこのタンパク質透明受光素子1の使用形態の第3の例を示す。第1および第2の例によるタンパク質透明受光素子1が溶液中で動作させるものであるのに対し、このタンパク質透明受光素子1はドライな環境中で動作させることができるものである。
図5に示すように、このタンパク質透明受光素子1においては、タンパク質固定化電極と透明対極15との間に固体電解質からなる電解質層14が挟み込まれている。さらに、この電解質層14の周囲を取り巻くように、固体電解質の乾燥を防ぐための封止壁20が設けられている。固体電解質としては、電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質の機能を損なわないものが用いられ、具体的には、電子伝達タンパク質を吸着しない寒天やポリアクリルアミドゲルなどが用いられる。このタンパク質透明受光素子1により光電変換を行うには、タンパク質固定化電極および透明対極15が持つ自然電極電位の差をバイアス電圧として用い、タンパク質固定化電極の電子伝達タンパク質層13に光を照射する。この光は、電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質の光励起が可能な単色光またはこの光の成分を有する光である。この場合、タンパク質固定化電極および透明対極15が持つ自然電極電位の差、照射する光の強度および照射する光の波長のうちの少なくとも一つを調節することによって、素子内部を流れる光電流の大きさおよび/または極性を変化させることができる。第3の例の上記以外のことは第1の例と同様である。
【0029】
[多層透明受光素子の製造方法]
この多層透明受光素子の製造方法の一例について説明する。
まず、透明基板11上に透明電極12を形成したものを電子伝達タンパク質と緩衝液とを含む溶液に浸漬し、電子伝達タンパク質を透明電極12上に固定化する。こうして、透明電極12上に電子伝達タンパク質層13が形成されたタンパク質固定化電極が形成される。
次に、このタンパク質固定化電極と透明対極15とを用いて例えば図3、図4または図5に示すタンパク質透明受光素子1を製造する。
この後、このタンパク質透明受光素子1を必要な数だけ積層し、この際、必要に応じて透明接着剤などによりタンパク質透明受光素子1同士を接着する。
【0030】
[多層透明受光素子の動作]
この多層透明受光素子の各タンパク質透明受光素子1の電子伝達タンパク質層13にこの電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質に応じた波長の単色光またはこの波長成分を含む光が入射すると、電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質から光励起により電子が発生し、電子伝達により透明電極12に電子が移動する。そして、透明電極12と透明対極15とから外部に光電流が取り出される。
【0031】
この第1の実施の形態によれば、電子伝達タンパク質を用いたタンパク質透明受光素子1が多層に積層された多層透明受光素子を実現することができる。
この多層透明受光素子は、光電変換を利用する各種の装置や機器などに用いることができ、具体的には、例えば、受光部を有する電子機器などに用いることができる。このような電子機器は、基本的にはどのようなものであってもよく、携帯型のものと据え置き型のものとの双方を含む。例えば、後述のように、一つのレンズを用いて互いに異なる位置にある複数の被写体に焦点を同時に合わせることができるカメラを実現することができる。これは一度に立体映像を再現する情報を一眼で取得することができることを示しており、よりシンプルでコンパクトなステレオカメラを実現することができる。また、この多層透明受光素子を用いることにより、一眼でのマルチフォーカス化や高速フォーカス化も可能となる。さらに、多層光ディスクを用いる光ディスクシステムやホログラフィック記録媒体を用いる光記録再生システムの受光素子としてこの多層透明受光素子を用いることにより、多層光ディスクの並列読み出し(パラレルリードアウト)やホログラフィック記録媒体の読み出し(リードアウト)を容易に行うことができる。
【0032】
〈2.第2の実施の形態〉
[多層透明受光素子]
第2の実施の形態による多層透明受光素子は、タンパク質透明受光素子1の電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質として新規な電子伝達タンパク質を用いることを除いて、第1の実施の形態による多層透明受光素子と同様な構成を有する。
この新規な電子伝達タンパク質は、哺乳類由来のシトクロムcのヘムの中心金属の鉄をスズに置換したスズ置換シトクロムc、または、哺乳類由来のシトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、スズを含むタンパク質である。ここで、哺乳類由来のシトクロムcとしては、例えば、ウマ心筋シトクロムcまたはウシ心筋シトクロムcが挙げられる。これらの新規な電子伝達タンパク質は、光照射に対する安定性が極めて高く、光電変換機能を長期にわたって維持することができる。
スズ置換シトクロムcの詳細および調製方法について説明する。
【0033】
〈スズ置換シトクロムc〉
表1にウマ心筋シトクロムc(CYC HORSEと表示)およびウシ心筋シトクロムc(CYC BOVINと表示)のアミノ酸配列(一文字記号)を示す。表1に示すように、ウシ心筋シトクロムcとウマ心筋シトクロムcとは全104アミノ酸残基中、3残基だけが異なる。ウマ心筋シトクロムcのThr48、Lys61、Thr90が、ウシ心筋シトクロムcではSer48、Gly61、Gly90にそれぞれ置換されている。
【0034】
【表1】
【0035】
ウシ心筋シトクロムcは、ウマ心筋シトクロムcに比べて、熱、変性剤(グアニジン塩酸塩)に対するタンパク質部の安定性が高いことが知られている(非特許文献1、2)。表2にウマ心筋シトクロムcおよびウシ心筋シトクロムcの変性中点温度T1/2 および変性中点濃度[Gdn−HCl]1/2 を示す。変性中点温度T1/2 は系にある全タンパク質中、変性タンパク質の占める割合が半分(1/2)になるときの温度である。また、変性中点濃度[Gdn−HCl]1/2 は系にある全タンパク質中、変性タンパク質の占める割合が半分(1/2)になるときのグアニジン塩酸塩(Gdn−HCl)の濃度である。T1/2 および[Gdn−HCl]1/2 の数値が高いほど安定である。
【0036】
【表2】
【0037】
〈スズ置換シトクロムcの調製〉
スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcを次のようにして調製した。比較実験用に亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcも調製した。
ウマ心筋シトクロムcおよびウシ心筋シトクロムcとしては、ともにSigma社製のものを使用した。
以下においては、スズ置換ウマ心筋シトクロムcの調製方法を主に説明するが、スズ置換ウシ心筋シトクロムc、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの調製方法も同様である。なお、ウマ心筋シトクロムcまたはウシ心筋シトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、スズを含むタンパク質も、ランダムミューテーション、化学修飾などの技術を適宜用いて同様に調製可能である。
【0038】
ウマ心筋シトクロムc粉末100mgに70%フッ酸/ピリジンを6mL加え、室温で10分インキュベートすることにより、ウマ心筋シトクロムcからヘムの中心金属の鉄を抜く。こうして鉄を抜いたウマ心筋シトクロムcに50mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.0)を9mL加えて、反応停止後、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー(カラム体積:150mL、樹脂:Sephadex G−50、展開溶媒:50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0))により、中心金属の抜けた金属フリーウマ心筋シトクロムcを得る。
【0039】
この金属フリーウマ心筋シトクロムc溶液を可能な限り濃縮し、これに氷酢酸を加えてpH2.5(±0.05)とする。こうして得られた溶液に塩化スズ粉末約25mgを加えて、遮光下、50℃で30分インキュベートする。この過程で塩化スズの代わりに酢酸亜鉛または塩化亜鉛を加えると亜鉛置換体が得られる。10分毎に紫外可視吸収スペクトルを測定し、タンパク質の波長280nmにおける吸収ピークとスズポルフィリン由来の波長408nmにおける吸収ピークとの比が一定になるまでインキュベーションを続ける。
【0040】
これ以降の操作は全て遮光下で行う。上記の最終的に得られた溶液に飽和二リン酸−水素ナトリウム溶液を加えてpHを中性(6.0<)にした後、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)への緩衝液交換を行う。その後、陽イオン交換カラムクロマトグラフィー(カラム体積:40mL、樹脂:SP−Sephadex Fast Flow、溶出:10〜150mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)の直線濃度勾配)により単量体の画分を回収する。こうしてスズ置換ウマ心筋シトクロムcが調製される。
【0041】
上記のようにして調製されたスズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムc、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を図6〜図9に示す。以下においては、必要に応じて、スズ置換ウマ心筋シトクロムcをSnhhc、スズ置換ウシ心筋シトクロムcをSnbvc、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcをZnhhc、亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcをZnbvcと略記する。図6〜図9に示すように、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcは波長280、346、423、550、584nmに吸収極大を持つのに対して、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcは波長280、409、540、578nmに吸収極大を持ち、δ帯(346nm付近)を持たない。
【0042】
〈金属置換シトクロムcの光照射分解実験〉
上記の4種類の金属置換シトクロムc、すなわちスズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムc、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの光照射分解実験を以下のようにして行った。
約4μMの金属置換シトクロムc(10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に溶解)1mLをキュベットに入れ、亜鉛置換体には波長420nm(強度1255μW)、スズ置換体には波長408nm(強度1132μW)の光を暗室中、室温で照射した。30分毎に波長240〜700nmの紫外可視吸収スペクトルを測定した。その結果を図10〜図13に示す。図12および図13中の矢印は、スペクトルの変化方向を示す。
【0043】
図12および図13より、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcは、時間の経過とともに急速に光分解が進むことが分かる。これに対して、図10および図11より、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcは、時間が経過した後のスペクトルは初期のスペクトルとほとんど重なっており、時間が経過しても光分解がほとんど起きていないことが分かる。図10〜図13に示す紫外可視吸収スペクトルにおけるSoret帯(亜鉛(Zn):423nm、スズ(Sn):409nm)の吸光度から、ミリモル吸光係数ε(Zn:243000M-1cm-1、Sn:267000M-1cm-1、数値は非特許文献3より引用)を用いて、濃度(M)を算出し、その逆数を時間(秒(s))に対してプロットし、その傾きから光分解速度定数kを算出した。スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcの濃度の逆数(1/C)−時間(t)プロットを図14に、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの濃度の逆数(1/C)−時間(t)プロットを図15に示す。図14および図15において、直線は二次反応式(1/C=kt+1/C0 )のフィッティング曲線である。ここで、C0 は初期濃度である。この直線の傾きが光分解速度定数kとなる。図14および図15中に記載した直線を表す一次式においてはtをx、1/Cをyで表した。
【0044】
2回の実験の平均から上記の4種類の金属置換シトクロムcの光分解速度定数kを求めた。その結果、光分解速度定数kは、スズ置換ウマ心筋シトクロムcは1.39±0.13M-1s-1、スズ置換ウシ心筋シトクロムcは0.90±0.20M-1s-1、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcは67.2±1.4M-1s-1、亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcは56.1±1.0M-1s-1であった。この結果から、スズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムcともに、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcに比べて光分解速度が50〜60倍遅く、光照射に対して極めて安定であることが分かった。また、亜鉛置換体、スズ置換体ともに、ウマ心筋シトクロムcに比べてウシ心筋シトクロムcの方が光分解速度は1.2〜1.5倍遅く、光照射に対して安定であることも分かった。特に、スズ置換ウシ心筋シトクロムcは、特許文献1において用いられた亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcに比べ、光照射に対して75倍も安定である。
【0045】
〈金属置換シトクロムcの光電流発生実験〉
光電流発生実験に用いるタンパク質固定化電極を次のようにして作製した。
図16に示すように、大きさが15.0mm×25.0mmで厚さが1mmのガラス基板21上に所定形状のITO電極22を形成した。ITO電極22の各部の寸法は図16に示す通りである。ITO電極22の厚さは100nmである。このITO電極22は作用極となる。照射領域23の大きさは4.0mm×4.0mmである。この照射領域23におけるITO電極22上に50μMの金属置換シトクロムc溶液(10mM Tris−HCl(pH8.0)に溶解)10μLでドロップを作製し、4℃、二日間放置した。こうしてタンパク質固定化電極を作製した。
【0046】
このタンパク質固定化電極を0.25mMフェロシアン化カリウムを含む10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)27mLに浸し、対極として白金メッシュ、参照極として銀/塩化銀電極を用い、特許文献2の図4に示す光電流測定装置を用いて、銀/塩化銀電極に対する電位を120mVとして波長380〜600nmの光電流アクションスペクトルを測定した。この測定に際しては、待機時間を900秒、測定時間を60秒、電流レンジを10nA、フィルターの周波数を30Hz、時間分解能を50msとした。4種類の金属置換シトクロムcのそれぞれにつき5枚、電極を作製して測定を行った。
【0047】
得られた光電流アクションスペクトルを図17に示す。光電流アクションスペクトルの極大は溶液吸収スペクトルと同様、408、540、578nmに見られた。図17より、Soret帯(408nm)とQ帯(540nm)との強度比が10:1であることから、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcの光電流発生機構は、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcと同様にホールトランスファー(hole transfer)タイプであると考えられる(非特許文献4)。Soret帯における光電流値平均値グラフ(サンプル数=5)を図18に示す。図18より、ウマ、ウシともにスズ置換シトクロムcは亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcと同様の光電流(10nA)を発生することが分かった。
【0048】
〈金属置換シトクロムcの蛍光量子収率〉
金属置換シトクロムcの異なる濃度の希薄溶液を用意し、波長380〜440nmの紫外可視吸収スペクトル、波長500〜700nmの蛍光スペクトル(励起波長409nm)を測定した。その結果を図19および図20に示す。
図21および図22に示すように、波長409nmにおける吸光度を横軸(x軸)に、波長560〜670nm間の積分蛍光強度を縦軸(y軸)にとり、各データをプロットして直線近似曲線を描いた。こうして得られた直線の傾きが蛍光量子収率となる。図20に示す蛍光スペクトルにおいて波長560〜670nm間の面積を積分蛍光強度(任意単位(a.u.))とした。亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの直線の傾き、すなわち蛍光量子収率を1.0としたときの各金属置換シトクロムcの相対蛍光量子収率Φを算出した。その結果を表3に示す。表3から分かるように、スズ置換体の蛍光強度は、亜鉛置換体の蛍光強度のおよそ1/7〜1/8である。このスズ置換体における励起電子の寿命の短さが、光照射時のラジカル発生を抑え、安定化に寄与していると考えられる。
【0049】
【表3】
【0050】
以上のように、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcとも、光照射に対する安定性が亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcに比べて極めて高い。このため、スズ置換ウマ心筋シトクロムcまたはスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いることにより、長期安定利用可能な新規なタンパク質透明受光素子1を実現することが可能となる。このタンパク質透明受光素子1は光センサーや撮像素子などに用いることができる。また、これらのスズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcとも、光の吸収極大の波長が409nmであり、これは現在、高密度記録が可能な光ディスクシステムに用いられている半導体レーザの波長405nmに近い。このため、光ディスクの代わりに、例えば、スズ置換ウマ心筋シトクロムcまたはスズ置換ウシ心筋シトクロムcを基板上に敷き詰めた媒体を用いることにより、新規なメモリを実現することが可能となる。さらに、これらのスズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcの直径は約2nmと極めて小さいため、基板の単位面積あたりに搭載できる素子数を従来に比べて飛躍的に多くすることができる。このため、高精細な光センサーや撮像素子などの実現が可能となり、あるいは、大容量のメモリの実現が可能となる。
【0051】
[多層透明受光素子の製造方法]
この多層透明受光素子の製造方法の一例について説明する。
まず、透明基板11上に透明電極12を形成したものを電子伝達タンパク質と緩衝液とを含む溶液に浸漬し、電子伝達タンパク質を透明電極12上に固定化する。こうして、透明電極12上に電子伝達タンパク質層13が形成されたタンパク質固定化電極が形成される。
次に、このタンパク質固定化電極と透明対極15とを用いて例えば図3、図4または図5に示すタンパク質透明受光素子1を製造する。
この後、このタンパク質透明受光素子1を必要な数だけ積層し、この際、必要に応じて透明接着剤などによりタンパク質透明受光素子1同士を接着する。
【0052】
[多層透明受光素子の動作]
この多層透明受光素子の各タンパク質透明受光素子1の電子伝達タンパク質層13にこの電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質に応じた波長(例えば、409nm程度)の単色光またはこの波長成分を含む光が入射すると、電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質から光励起により電子が発生し、電子伝達により透明電極12に電子が移動する。そして、透明電極12と透明対極15とから外部に光電流が取り出される。
【0053】
以上のように、この第2の実施の形態によれば、高い光照射安定性を有するスズ置換ウマ心筋シトクロムcまたはスズ置換ウシ心筋シトクロムcからなる電子伝達タンパク質層13を透明電極12上に固定化するようにしている。このため、電子伝達タンパク質層13が長時間の光照射によっても劣化することがなく、長期安定利用可能な新規なタンパク質透明受光素子1、従って多層透明受光素子を実現することができる。
【0054】
この多層透明受光素子は、第1の実施の形態による多層透明受光素子と同様に、光電変換を利用する各種の装置や機器などに用いることができ、具体的には、例えば、受光部を有する電子機器などに用いることができる。
【0055】
例えば、後述のように、一つのレンズを用いて互いに異なる位置にある複数の被写体に焦点を同時に合わせることができるカメラを実現することができる。また、この多層透明受光素子を用いることにより、一眼でのマルチフォーカス化や高速フォーカス化も可能となる。さらに、多層光ディスクを用いる光ディスクシステムやホログラフィック記録媒体を用いる光記録再生システムの受光素子としてこの多層透明受光素子を用いることにより、多層光ディスクの並列読み出しやホログラフィック記録媒体の読み出しを容易に行うことができる。
【0056】
〈3.第3の実施の形態〉
[多層透明受光素子]
第3の実施の形態による多層透明受光素子は、タンパク質透明受光素子1の電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質として新規な電子伝達タンパク質を用いることを除いて、第1の実施の形態による多層透明受光素子と同様な構成を有する。
この新規な電子伝達タンパク質は、哺乳類由来のシトクロムcのヘムの中心金属の鉄を亜鉛およびスズ以外の金属に置換し、蛍光励起寿命τが5.0×10-11 s<τ≦8.0×10-10 sである金属置換シトクロムc、または、哺乳類由来のシトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、亜鉛およびスズ以外の金属を含み、蛍光励起寿命τが5.0×10-11 s<τ≦8.0×10-10 sであるタンパク質である。ここで、哺乳類由来のシトクロムcとしては、例えば、ウマ心筋シトクロムcまたはウシ心筋シトクロムcが挙げられる。これらの新規な電子伝達タンパク質は、光照射に対する安定性が極めて高く、光電変換機能を長期にわたって維持することができる。
【0057】
〈金属置換シトクロムc〉
ウマ心筋シトクロムcおよびウシ心筋シトクロムcのヘムの中心金属の鉄をスズおよび亜鉛以外の金属に置換した金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcについて説明する。
これらの金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcに用いられる金属の例を表4に示す。この金属を中心金属として含むポルフィリンは蛍光を発することが知られている(非特許文献5)。表4において、各元素記号の下に記載されている数値は金属オクタエチルポルフィリンで測定したりん光寿命を示す。
【0058】
【表4】
【0059】
表4よりスズ(Sn)ポルフィリンのりん光寿命は30msであるが、りん光寿命がこれと同等またはこれより短い金属ポルフィリンは、光照射によりタンパク質やポルフィリン環部分にダメージを与えないと考えられる。表4よりこれらの金属は、ベリリウム(Be)、ストロンチウム(Sr)、ニオブ(Nb)、バリウム(Ba)、ルテチウム(Lu)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、トリウム(Th)、鉛(Pb)などである。
【0060】
そこで、ウマ心筋シトクロムcおよびウシ心筋シトクロムcのヘムの中心金属の鉄をこれらの金属に置換する。この置換には第2の実施の形態で述べたものと同様の方法を用いることができる。
こうして得られる金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcは光照射に対して、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcと同等に安定であり、光分解がほとんど起こらない。
【0061】
ここで、金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcに必要とされる蛍光励起寿命の範囲について説明する。
亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの分子内ホールトランスファー速度(非特許文献4)は次の通りである。分子軌道(MO)の番号として非特許文献4に準じた分子軌道番号を用いると、MO3272−MO3271間の遷移では1.5×1011s-1、MO3268−MO3270間の遷移では2.0×1010s-1である。そこで、分子内ホールトランスファー速度の下限を後者の2.0×1010s-1とする。
【0062】
スズ置換ウマ心筋シトクロムcの蛍光励起寿命(非特許文献3)は8.0×10-10 sである。亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの蛍光励起寿命は3.2×10-10 sである。
スズ置換ウマ心筋シトクロムcの電子励起1回の間の分子内ホールトランスファー回数は、MO3272−MO3271間の遷移では(1.5×1011s-1)×(8.0×10-10 s)=120回、MO3268−MO3270間の遷移では(2.0×1010s-1)×(8.0×10-10 s)=16回である。そこで、電子励起1回の間の分子内ホールトランスファー回数の下限を後者の16回とする。
この場合、ホールトランスファーを最低1回起こすのに必要な蛍光励起寿命は8.0×10-10 s/16=5.0×10-11 sである。
【0063】
以上より、光照射により、タンパク質部あるいはポルフィリンにダメージを与えず、かつホールトランスファーが起こるために必要な金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcの蛍光励起寿命(τ)の範囲は5.0×10-11 s(最低1回ホールトランスファーを起こすのに必要な蛍光励起寿命)<τ≦8.0×10-10 s(スズ置換ウマ心筋シトクロムcの蛍光励起寿命)である。
この第3の実施の形態によれば、タンパク質透明受光素子1の電子伝達タンパク質層13の電子伝達タンパク質として金属置換ウマ心筋シトクロムcまたは金属置換ウシ心筋シトクロムcを用いることにより、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いた第2の実施の形態による多層透明受光素子と同様な利点を得ることができる。
【0064】
〈4.第4の実施の形態〉
[多層透明受光素子]
第4の実施の形態による多層透明受光素子は、タンパク質透明受光素子1の電子伝達タンパク質層13として電子伝達タンパク質からなる固体タンパク質層を用いることを除いて、第1の実施の形態による多層透明受光素子と同様な構成を有する。
図23はタンパク質透明受光素子1として用いられる非接液全固体型タンパク質透明受光素子を示す。この非接液全固体型タンパク質透明受光素子においては固体タンパク質層を用いる。ここで、固体タンパク質層とは、水などの液体を含まずにタンパク質が集合して層状の固体をなすものを意味する。また、非接液全固体型タンパク質透明受光素子の「非接液」とは、タンパク質透明受光素子の内外が水などの液体と接触しない状態で使用されることを意味する。また、非接液全固体型タンパク質透明受光素子の「全固体型」とは、素子の全ての部位が水などの液体を含まないものであることを意味する。
【0065】
図23に示すように、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子は、透明電極41と透明電極42との間に、電子伝達タンパク質からなる固体タンパク質層43が挟まれた構造を有する。固体タンパク質層43は透明電極41、42に対して固定化されている。固体タンパク質層43は典型的には透明電極41、42に対して直接固定化されるが、必要に応じて、固体タンパク質層43と透明電極41、42との間に水などの液体が含まれていない中間層を設けてもよい。この固体タンパク質層43には水などの液体が含まれていない。この固体タンパク質層43はタンパク質の単分子膜または多分子膜からなる。
【0066】
この固体タンパク質層43が多分子膜からなる場合の構造の一例を図24に示す。図24に示すように、固体タンパク質層43は、例えば、スズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムc、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcなどからなる電子伝達タンパク質43aが二次元的に集合して形成された単分子膜がn層(nは2以上の整数)積層されたものからなる。図24ではn=3の場合が示されている。
【0067】
透明電極41、42の材料としては透明電極12と同様な材料を用いることができる。具体的には、これらの透明電極41、42を、この光励起に用いられる光に対して透明な導電材料、例えばITO、FTO、ネサガラスなどにより構成したり、光の透過が可能な極薄いAu膜などにより構成したりする。
【0068】
次に、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子の製造方法について説明する。
まず、透明電極41、42の一方、例えば透明電極41上に、電子伝達タンパク質43aを含む溶液、典型的には電子伝達タンパク質43aを水を含む緩衝液に溶解したタンパク質溶液を液滴下法、スピンコート法、ディップ法、スプレー法などにより付着させる。
次に、透明電極41上にタンパク質溶液を付着させたものを、室温またはより低い温度に保持することにより、付着させたタンパク質溶液中の電子伝達タンパク質43aを透明電極41に固定化させる。
【0069】
次に、こうしてタンパク質溶液中の電子伝達タンパク質43aを透明電極41に固定化させたものをこの電子伝達タンパク質43aの変性温度より低い温度に加熱して乾燥させることにより、タンパク質溶液に含まれる液を全て蒸発させて除去する。
こうして、電子伝達タンパク質43aのみが透明電極41に固定化され、固体タンパク質層43が形成される。この固体タンパク質層43の厚さは、透明電極41上に付着させるタンパク質溶液の量やタンパク質溶液の濃度などにより容易に制御することができる。
次に、この固体タンパク質層43上に透明電極42を形成する。この透明電極42は、スパッタリング法、真空蒸着法などにより導電材料を堆積させることにより形成することができる。
以上のようにして目的とする非接液全固体型タンパク質透明受光素子が製造される。
【0070】
次に、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子の動作について説明する。
非接液全固体型タンパク質透明受光素子の透明電極41と透明電極42との間に透明電極42側が低電位となるように電圧(バイアス電圧)を印加しておく。この非接液全固体型タンパク質透明受光素子の固体タンパク質層43に光が入射しないときには、この固体タンパク質層43は絶縁性であり、透明電極41と透明電極42との間に電流は流れない。この状態が非接液全固体型タンパク質透明受光素子のオフ状態である。これに対して、図25に示すように、例えば、透明電極41を透過して固体タンパク質層43に光(hν)が入射すると、この固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aが光励起され、その結果、この固体タンパク質層43が導電性となる。そして、透明電極42から電子(e)が固体タンパク質層43を通って透明電極41に流れ、透明電極41と透明電極42との間に光電流が流れる。この状態が非接液全固体型タンパク質透明受光素子のオン状態である。このように固体タンパク質層43は光導電体として振る舞い、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子への光の入射の有無によりオン/オフ動作が可能である。
【0071】
〈実施例〉
図26Aに示すように、ガラス基板51上に透明電極41として所定形状のITO電極52を形成した。ITO電極52の厚さは100nm、面積は1mm2 である。このITO電極52は作用極となる。
スズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcをそれぞれTris−HCl緩衝液(pH8.0)に高濃度に溶解したタンパク質溶液(200μM)を調製した。
【0072】
次に、図26Bに示すように、ITO電極52の一端部52aの上に、上述のようにして調製されたタンパク質溶液を10μL滴下し、タンパク質液滴53をITO電極52に付着させた。
次に、室温で2時間、あるいは4℃で一昼夜置き、タンパク質液滴53中のスズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムcまたは亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcをITO電極52に固定化させた。
【0073】
次に、この試料を30〜40℃の温度に保たれた乾燥機に入れて30〜60分乾燥させた。この乾燥によって、タンパク質液滴53に含まれる水などの液体を蒸発させて除去した。この結果、ITO電極52上にはスズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムcまたは亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcだけが残され、図27Aに示すように、固体タンパク質層43が形成される。この固体タンパク質層43の厚さは約1μmである。
【0074】
次に、図27Bに示すように、固体タンパク質層43と重なるように透明電極54を形成するとともに、ITO電極52の他端部52bと重なるように透明電極55を形成する。透明電極55は対極および作用極として用いられる。これらの透明電極54、55はAu膜またはAl膜により形成し、Au膜の厚さは20nm、Al膜の厚さは50nmである。これらの透明電極54、55は、例えば、これらの透明電極54、55を形成する領域以外の部分をマスクし、透明電極材料をスパッタリング法または真空蒸着法により堆積させることにより形成することができる。これらの透明電極54、55の平面形状は長方形または正方形とする。
こうして非接液全固体型タンパク質透明受光素子が製造される。この非接液全固体型タンパク質透明受光素子の断面構造を図28に示す。
【0075】
こうして非接液全固体型タンパク質透明受光素子を多数製造し、大気中において透明電極54、55間の抵抗を測定したところ、1kΩ〜30MΩの範囲と広範囲に分布していた。このように透明電極54、55間の抵抗が広範囲にわたっているのは、素子毎に固体タンパク質層43の厚さが異なっていたり、固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aに種類が異なるものが含まれていたりすることなどによるものである。
【0076】
この非接液全固体型タンパク質透明受光素子の光電流アクションスペクトルを測定した。固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aとしては、スズ置換ウシ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた。測定は、ポテンショスタットの作用極をITO電極52に接続された透明電極54に接続し、対極および参照極を透明電極55に接続して行った。透明電極54、55は厚さ20nmのAu膜からなる。固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aとして亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた場合の0mVおよび−800mVの電位下でのアクションスペクトルの測定結果を図29に示す。また、固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aとしてスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いた場合の0mVの電位下でのアクションスペクトルの測定結果を図38に示す。図29および図38に示すように、固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aとして亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた場合もスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いた場合もアクションスペクトルを観測することができた。特に、図29に示すように、固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aとして亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた場合には、正負両方向のアクションスペクトルを観測することができた。また、図29に示すように、−800mVという過電圧下でもアクションスペクトルを測定することができたが、これは新たな知見であり、極めて注目すべき結果である。
【0077】
図30は、固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aとして亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた非接液全固体型タンパク質透明受光素子の透明電極54、55間に電圧(バイアス電圧)を印加したときの各電圧におけるバックグラウンド電流(光オフ時に流れる電流)の測定結果を示す。図30に示すように、電圧とバックグラウンド電流との関係を示す曲線は直線であり、これは固体タンパク質層43の伝導性が半導体と似ていることを示す。この直線の傾きより、透明電極54、55間の抵抗は約50MΩであることが分かる。
【0078】
図31は固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aとして亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた非接液全固体型タンパク質透明受光素子の透明電極54、55間に電圧を印加したときの各電圧における光電流(光オン時に流れる電流)の測定結果を示す。図31に示すように、電圧と光電流との関係を示す曲線もほぼ直線であり、これは固体タンパク質層43が光導電体として機能していることを示す。
【0079】
図32は、固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aとして亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcを用いた非接液全固体型タンパク質透明受光素子と、後述の方法により作製した液系タンパク質透明受光素子との光電流アクションスペクトルの測定結果を示す。図32および以下の図33〜図35においては、上記の非接液全固体型タンパク質透明受光素子を「固体系」、液系タンパク質透明受光素子を「液系」と略記する。
液系タンパク質透明受光素子は次のようにして作製した。まず、ガラス基板上に形成されたITO膜の表面の所定部位をテープまたは樹脂でマスクする。次に、マスクされていない部分のITO膜を12M HCl(50℃)を用いて90秒ウエットエッチングすることにより除去する。次に、このガラス基板を水で洗浄した後、マスクを除去し、さらに空気流中で乾燥させる。次に、このガラス基板に対して1%Alconox(登録商標)水溶液中で30分の超音波処理を行い、引き続いてイソプロパノール中で15分の超音波処理を行い、さらに水中で15分の超音波処理を2回行う。次に、このガラス基板を0.01M NaOH中に3分間浸漬した後、空気または窒素流で乾燥させる。この後、このガラス基板に対して約60℃で15分紫外線(UV)−オゾン表面処理を行う。以上のようにしてITO電極を形成した。このITO電極は作用極となる。次に、第1の方法では、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcをTris−HCl緩衝液(pH8.0)に溶解したタンパク質溶液(50μM)により上述のようにして形成されたITO電極をリンスする。次に、こうしてタンパク質溶液によりリンスしたITO電極を4℃で一晩保持した後、水でリンスし、空気または窒素流で乾燥させる。第2の方法では、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcをTris−HCl緩衝液(pH8.0)に溶解したタンパク質溶液(50μM)により上述のようにして形成されたITO電極をリンスする。あるいは、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcをリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に溶解したタンパク質溶液(5μM)により上述のようにして形成されたITO電極をリンスする。次に、こうしてタンパク質溶液によりリンスしたITO電極を真空中で乾燥させる。この後、このITO電極を水でリンスし、空気または窒素流で乾燥させる。以上のようにしてITO電極上にタンパク質が固定化されたタンパク質固定化電極が形成される。次に、このタンパク質固定化電極のタンパク質側を対向電極として別途作製した清浄なITO電極と所定の距離離して対向させ、これらのタンパク質固定化電極およびITO電極の外周部を樹脂により封止する。対向電極としてのITO電極には、これらのタンパク質固定化電極およびITO電極の間の空間と連通するピンホールを空気の出入り口として形成しておく。次に、こうしてタンパク質固定化電極およびITO電極の外周部を樹脂により封止したものを容器中に入れられた電解質溶液中に浸漬する。電解質溶液としては、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)中に0.25mMのフェロシアン化カリウムを溶解したものを用いた。次に、この容器を真空中に保持し、タンパク質固定化電極およびITO電極の間の空間中の空気を上記のピンホールから外部に排出する。次に、この容器を大気圧に戻し、タンパク質固定化電極およびITO電極の間の空間に電解質溶液を満たす。この後、上記のピンホールを樹脂で封止する。以上により、液系タンパク質透明受光素子が作製される。
【0080】
図33は、図32に示す非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質透明受光素子のスペクトルを波長420nm付近にあるピークの光電流密度が1となるように規格化したものである。図32に示すように、両スペクトルは、光電流密度に差はあるものの、波長423nm付近のソーレー(Soret)帯および波長550nm、583nm付近のQ帯のピーク波長が同一であることから、いずれも亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcに由来する光電流が得られていることが分かる。亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcからなる固体タンパク質層43を用いた非接液全固体型タンパク質透明受光素子においてこのように亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcに由来する光電流が得られることは、本発明者らにより初めて見出されたことであり、従来の常識を覆す驚くべき結果である。
【0081】
図34は、上記の非接液全固体型タンパク質透明受光素子と、液系タンパク質透明受光素子とについての光劣化曲線(光の照射時間に対する光電流密度の減少を示す曲線)の測定結果を示す。測定は、波長405.5nmのレーザ光を0.2mW/mm2 の強度でこれらの非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質透明受光素子に照射しながら光電流密度を測定することにより行った。レーザ光の照射強度を0.2mW/mm2 と高くしたのは、光劣化速度を速くし、試験時間を短縮するためである。図35は図34に示す非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質透明受光素子の光劣化曲線を照射時間が0のときの光電流密度が1となるように規格化したものである。
【0082】
図35に示す光劣化曲線を下記の関数でフィッティングした。
f(x)=a×exp(b×x)+c×exp(d×x)
この関数f(x)の係数a、b、c、dは下記の通りである。各係数の後の括弧内の数値は95%信頼区間を示す。
【0083】
液系タンパク質透明受光素子
a=5.204×10-9(5.029×10-9,5.378×10-9)
b=−0.00412(−0.00441,−0.003831)
c=1.799×10-10 (2.062×10-11 ,3.392×10-10 )
d=−0.0004618(−0.0008978,−2.58×10-5)
【0084】
非接液全固体型タンパク質透明受光素子
a=5.067×10-11 (4.883×10-11 ,5.251×10-11 )
b=−0.0009805(−0.001036,−0.0009249)
c=4.785×10-11 (4.58×10-11 ,4.99×10-11 )
d=−0.0001298(−0.0001374,−0.0001222)
【0085】
ここで、これらの非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質透明受光素子の寿命tを
t=[a/(a+c)](−1/b)+[c/(a+c)](−1/d)
と定義する。この定義によると、液系タンパク質透明受光素子の寿命は306秒であるのに対し、非接液全固体型タンパク質透明受光素子の寿命は4266秒である。従って、非接液全固体型タンパク質透明受光素子の寿命は液系タンパク質透明受光素子の寿命の少なくとも14倍以上長いことが分かる。
【0086】
なお、図34に示す液系タンパク質透明受光素子の光劣化曲線には鋸歯状の波形が見られるが、これは電解質溶液中に発生する酸素を除去するために測定を中断しなければならなかったためであり、酸素を除去する操作後に光電流は少し上昇する。
【0087】
次に、非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質透明受光素子の周波数応答を測定した結果について説明する。
図36は液系タンパク質透明受光素子の周波数応答の測定結果、図37は非接液全固体型タンパク質透明受光素子の周波数応答の測定結果を示す。図36および図37より、液系タンパク質透明受光素子の3dB帯域幅(光電流値が最大光電流値の50%となる周波数)は30Hzより低いのに対し、非接液全固体型タンパク質透明受光素子の3dB帯域幅は400Hz以上であった。このことから、非接液全固体型タンパク質透明受光素子の応答速度は液系タンパク質透明受光素子の応答速度の少なくとも13倍以上も速いことが分かる。
【0088】
図39は、固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aとしてスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いた非接液全固体型タンパク質透明受光素子と、スズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いた液系タンパク質透明受光素子とについて光劣化曲線を測定し、これらの光劣化曲線を照射時間が0のときの光電流密度が1となるように規格化したものである。この液系タンパク質透明受光素子の作製方法は、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの代わりにスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いることを除いて、上記と同様である。非接液全固体型タンパク質透明受光素子としては、スズ置換ウシ心筋シトクロムcの単分子膜を有するものとスズ置換ウシ心筋シトクロムcの多分子膜を有するものとを作製した。測定は、波長405.5nmのレーザ光を0.2mW/mm2 の強度でこれらの非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質透明受光素子に照射しながら光電流密度を測定することにより行った。レーザ光の照射強度を0.2mW/mm2 と高くしたのは、光劣化速度を速くし、試験時間を短縮するためである。
【0089】
図39に示す光劣化曲線を下記の関数でフィッティングした。
f(x)=a×exp(b×x)+c×exp(d×x)
この関数f(x)の係数a、b、c、dは下記の通りである。
液系タンパク質透明受光素子
a=1.72×10-8
b=−0.00462
c=3.51×10-9
d=−0.000668
非接液全固体型タンパク質透明受光素子(単分子膜)
a=0.4515
b=−0.002599
c=0.3444
d=−0.0001963
非接液全固体型タンパク質透明受光素子(多分子膜)
a=0.5992
b=−0.002991
c=0.2371
d=−0.0001513
【0090】
ここで、これらの非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質透明受光素子の光劣化の平均時定数は次の通りである。
液系タンパク質透明受光素子 :2.54×102 秒
非接液全固体型タンパク質透明受光素子(単分子膜):2.71×103 秒
非接液全固体型タンパク質透明受光素子(多分子膜):2.73×103 秒
上述と同様に、これらの非接液全固体型タンパク質透明受光素子および液系タンパク質透明受光素子の寿命tを
t=[a/(a+c)](−1/b)+[c/(a+c)](−1/d)
と定義する。この定義によると、液系タンパク質透明受光素子の寿命は434秒であるのに対し、非接液全固体型タンパク質透明受光素子(単分子膜)の寿命は2423秒、非接液全固体型タンパク質透明受光素子(多分子膜)の寿命は2113秒である。従って、非接液全固体型タンパク質透明受光素子の寿命は液系タンパク質透明受光素子の寿命の少なくとも約5倍以上長いことが分かる。
【0091】
この第4の実施の形態による多層透明受光素子によれば、次のような種々の利点を得ることができる。すなわち、この多層透明受光素子を構成するタンパク質透明受光素子1として用いられる非接液全固体型タンパク質透明受光素子は、素子の内部に水が存在せず、しかも水に接触させないでも動作が可能であるため、従来の半導体を用いた受光素子に代わる受光素子として電子機器に搭載することが可能となる。また、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子は、内部に水が存在しないため、水の存在に起因するタンパク質の熱変性、ラジカルダメージ、腐敗などを防止することができ、安定性が高く、耐久性が優れている。また、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子は、素子の内外に水が存在しないため、感電のおそれがなく、強度の確保も容易である。
【0092】
また、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子においては、固体タンパク質層43は透明電極41、42に対し、リンカー分子などを介することなく直接固定化されていることにより、リンカー分子などを介して固定化される場合に比べて大きな光電流を得ることができる。さらに、固体タンパク質層43が透明電極41、42に対して直接固定化されていることに加えて、固体タンパク質層43は極薄く形成することができるので、透明電極41と透明電極22との間の距離を極めて短くすることができる。このため、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子は薄型に構成することができ、しかも透明電極41、42を透明化することにより、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子を多層積層して使用することができる。さらに、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子においては、固体タンパク質層43を構成する電子伝達タンパク質43aのサイズは2nm程度と極めて小さいので、例えば固体タンパク質層43のどの位置に光が入射したかを極めて精密に検出することが可能である。このため、高精細の光センサーあるいは撮像素子を実現することができる。
【0093】
さらに、電子伝達タンパク質43aの光導電効果は「一光子−多電子発生」によるものと推測される。ところが、液系タンパク質透明受光素子においては、電極間に存在する溶液の抵抗(溶液抵抗)が高いため、この「一光子−多電子発生」が妨げられていたと考えられる。これに対し、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子では、この溶液抵抗が存在しないため、この「一光子−多電子発生」が可能となり、光電変換効率の大幅な向上を図ることができ、より大きな光電流を得ることができる。
【0094】
この非接液全固体型タンパク質透明受光素子は、光スイッチ素子、光センサー、撮像素子などを実現することができる。上述のようにこの非接液全固体型タンパク質透明受光素子は周波数応答が速いため、高速スイッチングが可能な光スイッチ素子、高速応答の光センサー、高速で動く物体の撮像が可能な撮像素子などを実現することができる。そして、この非接液全固体型タンパク質透明受光素子を光スイッチ素子、光センサー、撮像素子などに用いることにより優れた電子機器を実現することができる。
例えば、後述のように、一つのレンズを用いて互いに異なる位置にある複数の被写体に焦点を同時に合わせることができるカメラを実現することができる。また、この多層透明受光素子を用いることにより、一眼でのマルチフォーカス化や高速フォーカス化も可能となる。さらに、多層光ディスクを用いる光ディスクシステムやホログラフィック記録媒体を用いる光記録再生システムの受光素子としてこの多層透明受光素子を用いることにより、多層光ディスクの並列読み出しやホログラフィック記録媒体の読み出しを高速で容易に行うことができる。
【0095】
〈5.第5の実施の形態〉
[多層透明受光素子]
第5の実施の形態による多層透明受光素子は、N層のタンパク質透明受光素子1を積層した構成を有するのは第1の実施の形態による多層透明受光素子と同じであるが、タンパク質透明受光素子1からなる画素が面内において多数集積形成されている点が第1の実施の形態と異なる。
すなわち、図40に示すように、この多層透明受光素子においては、例えばN番目の透明基板11と(N−1)番目の透明基板11との間に透明なスペーサ61が設けられており、このスペーサ61の厚さによりこれらの透明基板11の間隔が規定されている。スペーサ61とスペーサ61との間の空間にタンパク質透明受光素子1からなる画素62が設けられており、この画素62が面内に二次元マトリクス状に多数配列されている。この画素62が配列された面が受光面を構成し、この受光面が合計N段存在する。
この集積型多層透明受光素子における各画素62からの信号の取り出しや処理などには従来公知の技術を用いることができる。例えば、m行n列の二次元マトリクス状に配列された各画素62の上下の電極と接続されるように、行方向および列方向に配線を形成しておく。そして、例えば、選択された列のm個の画素62からの信号を読み出すためには、この列の画素62の一方の電極に接続された配線にだけ所定のバイアス電圧を印加し、このときm行の画素62の他方の電極に接続された配線に流れる光電流を検出する。
この第5の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。また、この集積型多層透明受光素子は、第1の実施の形態による多層透明受光素子と同様な応用が可能である。
【0096】
〈6.第6の実施の形態〉
[多層透明受光素子]
図41に示すように、この第6の実施の形態による多層透明受光素子においては、例えばN番目の透明基板11と(N−1)番目の透明基板11との間に高さが可変で透明なスペーサ61が設けられており、このスペーサ61の厚さによりこれらの透明基板11の間隔が規定されている。そして、スペーサ61とスペーサ61との間の空間にタンパク質透明受光素子1からなる画素62が設けられており、この画素62が面内に二次元マトリクス状に多数配列されている。この画素62が配列された面が受光面を構成し、この受光面が合計N段存在する。この場合、このタンパク質透明受光素子1からなる画素62の厚さはスペーサ61の厚さよりも小さく、しかもこのタンパク質透明受光素子1からなる画素62の幅はスペーサ61とスペーサ61との間の空間の幅よりも小さく、透明基板11とこの画素62との間およびスペーサ61とこの画素62との間には隙間が存在している。このように透明基板11と画素62との間およびスペーサ61と画素62との間に隙間が存在するため、この多層透明受光素子をフレキシブルに構成することができる。
この集積型多層透明受光素子における各画素62からの信号の取り出しや処理などには従来公知の技術を用いることができる。
この第6の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。また、この集積型多層透明受光素子は、第1の実施の形態による多層透明受光素子と同様な応用が可能である。
【0097】
〈7.第7の実施の形態〉
[立体イメージングシステム]
第7の実施の形態による立体イメージングシステムにおいては、光センサーとして第5または第6の実施の形態による集積型多層透明受光素子を備えたカメラを用いる。このカメラはデジタルカメラやビデオカメラなどである。
このカメラは、このカメラの撮像光学系の光軸方向が、集積型多層透明受光素子のタンパク質透明受光素子1からなる画素62の積層方向と一致するように構成されている。こうすることで、このカメラでは、集積型多層透明受光素子のN段の受光面のそれぞれを被写体を撮影する際の焦点合わせに用いることができる。このため、このカメラから異なる距離にある被写体のいずれにも焦点を合わせて撮像することができる。例えば、図42に示すように、カメラ71から距離d1 の位置に花72があり、距離d2 (d2 >d1 )の位置に山73がある場合、これらの花72および山73をカメラ71により撮影する際、集積型多層透明受光素子によりこれらの花72および山73の両方に焦点を合わせることができ、その状態で撮影することができる。そして、集積型多層透明受光素子からの信号を処理することにより三次元の画像を得ることができる。この画像では、花72および山73の両方とも鮮明に撮影されており、しかも花72は近くに、山73は遠くに見え、遠近感も十分に得ることができる。
【0098】
カメラ71により撮影された画像をディスプレイに表示する場合について説明する。
第1の例では、カメラ71により撮影されたリアルな三次元画像をディスプレイに表示する。例えば、花71が近くに位置し、山72が遠くに位置するリアルな三次元画像を表示することができる。
【0099】
第2の例では、カメラ71により撮影された三次元画像のうち特に見たい部分を強調して表示する。例えば、図42の例では、カメラ71により撮影された花72および山73を含む三次元画像のうち花72だけを見たい場合には、図43Aに示すように、ディスプレイ74に画像信号の処理により花72だけを鮮明に表示し、山73をぼかして表示することができる。逆に、図43Bに示すように、画像信号の処理により山73だけを鮮明に表示し、花72をぼかすことができる。このようにすることにより、ユーザの希望通りの画像をディスプレイ74に表示することができる。
【0100】
集積型多層透明受光素子のN段の受光面(電子伝達タンパク質層13の面)のそれぞれを被写体を撮影する際の焦点合わせに用いることができることについて改めて詳細に説明する。
図44は集積型多層透明受光素子の撮像光学系を示す。撮像光学系には一般には二つ以上のレンズが含まれるが、ここでは説明を簡単にするため一つのレンズLだけがあるとする。像面I1 〜IN は集積型多層透明受光素子のN段の受光面に対応する。いま、レンズLから互いに異なる距離にある物体O1 、O2 を考える。レンズLによる物体O1 の像は像面I2 に結像し(像点O1 ´)、物体O2 の像は像面I1 に結像する(像点O2 ´)。この場合、物体O1 、O2 の両方とも焦点を合わせることができ、それらの鮮明な像を得ることができる。
【0101】
レンズLからの被写体の距離による集積型多層透明受光素子における結像面の位置の変化、言い換えれば焦点の位置の変化について説明する。図45に示すように、焦点距離がf0 のレンズLから距離f1 にある物体の像がレンズLから距離f2 の位置に結像する。このとき、レンズ公式より、f1 =f2 f0 /(f2 −f0 )が成り立つ。一例として、f0 =5cmの場合を考えると、f1 とf2 との関係は表5のようになり、グラフに表すと図46に示すようになる。
【0102】
【表5】
【0103】
表5および図46から分かるように、レンズLからの被写体の距離f1 が1mから10000mまで変化しても、レンズLから被写体の像までの距離f2 はわずか約0.26cmしか変化しない。この場合、集積型多層透明受光素子における1段目の受光面とN段の受光面との間隔は0.3cm以下で足りることになる。
【0104】
レンズLによる被写体の像の結像面が集積型多層透明受光素子の受光面と一致していない、言い換えると受光面に焦点が合っていない場合には、各受光面で得られた信号からソフトウエアのアルゴリズムにより被写体の画像を再構成することができる。
いま、図47に示すように、レンズLにより結像された被写体の像が、集積型多層透明受光素子の受光面R1 〜R3 のうち受光面R1 と受光面R2 との間にあるとする。この場合、受光面R1 〜R3 のそれぞれにおける点像強度分布関数(point spread function)SPF1、SPF2、SPF3の関数F(SPF1、SPF2、SPF3)として被写体の結像面の点像強度分布関数SPFx を求めることができる。この計算はコンピュータにより容易に行うことができる。そして、この点像強度分布関数SPFx を用いて被写体の画像を得ることができ、この画像をディスプレイに表示することができる。
【0105】
例えば放送局においてテレビカメラにより撮影を行う場合にこの技術を用いることにより、放送局から配信される映像信号を用いて三次元テレビで画像を表示する場合、集積型多層透明受光素子の受光面からの出力信号に基づいて、表示されている画像のうちユーザーが特に見たい部分のズームインまたはズームアウトを自在に行うことができる。
【0106】
カメラ71を用いることにより、カメラ71から互いに異なる距離にある複数の物体(被写体)の鮮明な画像を同時に得ることができる。例えば、図48に示すように、1列目の人75が地面に立ち、二列目の人76が低い台77の上に立ち、三列目の人78が台77より高い台79の上に立っており、カメラ71によりこれらの人75、76、78を撮影する場合を考える。この場合、カメラ71の多層透明受光素子によりこれらの人75、76、78にそれぞれ焦点を合わせることができるので、これらの人75、76、78の鮮明な画像を同時に得ることができる。
【0107】
カメラ71を用いることにより、撮影したい被写体に高速で焦点を合わせることができる。例えば、図49に示すように、サッカーコート79で試合が行われている場合に、試合の様子をカメラ71で撮影する場合を考える。いま、サッカーコート79のA点に焦点が合った状態からB点に焦点を合わせるとする。この場合、通常のカメラを用いた場合にはカメラのレンズを大きく動かす必要があるが、カメラ71を用いた場合には、レンズLをあまり動かさないでもB点に焦点を合わせることができ、焦点合わせを高速で行うことができる。これは次のような理由による。
【0108】
すなわち、図50Aに示すように、最初、サッカーコート79のA点にある物体O1 に焦点が合っていてカメラ71の集積型多層透明受光素子の受光面R1 に像O1 ´が結像しており、B点にある物体O2 には焦点が合っておらずカメラ71の集積型多層透明受光素子の受光面R2 から少しずれた位置に像O2 ´が結像している。この状態からB点に焦点を合わせる場合、従来のカメラでは、図50Cに示すように、レンズLを像O1 ´と像O2 ´との位置の差に相当する距離Δx2 だけ移動させることにより物体O2 の像O2 ´が受光面に結像するようにする必要がある。これに対し、カメラ71を用いた場合には、図50Bに示すように、像O2 ´が受光面R1 に隣接する受光面R2 に結像するように像O2 ´と受光面R2 との間の距離Δx1 だけ動かすだけでよいので、レンズLの移動距離が小さくて済み、従ってB点への焦点合わせを高速で行うことができる。また、カメラ71をより薄型に構成することができる。
【0109】
カメラ71を用いることにより、高価なアクロマートレンズを用いることなく、色収差を補正することができる。すなわち、図51に示すように、白色光がレンズLに入射した場合、レンズLの色収差により例えば青色光、緑色光および赤色光が異なる面(レンズLからの距離がそれぞれfb 、fg 、fr )で結像しても、カメラ71の集積型多層透明受光素子の受光面R1 〜RN のいずれかの受光面でこれらの青色光、緑色光および赤色光を受光することができる。
【0110】
〈8.第8の実施の形態〉
[立体イメージングシステム]
第8の実施の形態による立体イメージングシステムにおいては、光センサーとして第6の実施の形態による集積型多層透明受光素子を備えたカメラを用いる。
図52に示すように、このカメラ71においては、光センサーとして、湾曲した形状の集積型多層透明受光素子80を用いる。そして、この集積型多層透明受光素子80の曲率中心の近傍にレンズLを配置する。こうすることで、広い角度範囲にある複数の物体(例えば、物体O1 、O2 )を同時に撮影することができる。
【0111】
〈9.第9の実施の形態〉
[立体イメージングシステム]
第9の実施の形態による立体イメージングシステムにおいては、受光素子として第6の実施の形態による集積型多層透明受光素子を備えたカメラを用いる。
図53に示すように、このカメラ71においては、受光素子として、円柱面状の集積型多層透明受光素子81を用いる。そして、この集積型多層透明受光素子81の外周にレンズLを配置する。こうすることで、360°の角度範囲にある物体O1 、O2 を同時に撮影することができ、全方位の立体イメージングシステムを得ることができる。
【0112】
〈10.第10の実施の形態〉
[光ディスクシステム]
図54に第10の実施の形態による光ディスクシステムを示す。
図54に示すように、この光ディスクシステムにおいては、N層の記録層を有する多層光ディスク91を用い、N層のタンパク質透明受光素子1を有する多層透明受光素子92を用いてこの多層光ディスク91のN層の記録層に記録されたデジタルデータを一括して読み出す。具体的には、図54に示すように、低コヒーレンスの光源93からの光94をビームスプリッタ95により二つに分け、ビームスプリッタ95を透過した光を多層光ディスク91に入射させる。多層光ディスク91に入射した光は各記録層でそれぞれ反射されて多層透明受光素子92に入射する。一方、ビームスプリッタ95で反射された光はミラー96、97で順次反射させた後、多層透明受光素子92に入射させる。こうして、ビームスプリッタ95により二つに分けられた光が多層透明受光素子92に入射すると、これらの光は干渉を起こす。その結果、図54の多層透明受光素子92の直ぐ横に示すように、多層透明受光素子92のN層の受光面における光の強度の分布が得られる。この強度分布は多層光ディスク91の各記録層に記録されたデータを反映したものとなる。この場合、例えば、しきい値強度I0 より強度のピークが高いときを「1」、低いときを「0」とすることにより、多層光ディスク91に記録されたデジタルデータを読み出すことができる。
【0113】
〈11.第11の実施の形態〉
[光記録再生システム]
図55に第11の実施の形態による光記録再生システムを示す。
図55に示すように、この光記録再生システムにおいては、ホログラフィック記録媒体101を用い、N層のタンパク質透明受光素子1を有する多層透明受光素子102を用いてこのホログラフィック記録媒体101に記録されたデータを読み出す。具体的には、図55に示すように、高コヒーレンスの光源103からの光104をビームスプリッタ105により二つに分け、ビームスプリッタ105を透過した光をホログラフィック記録媒体101に入射させる。ホログラフィック記録媒体101に入射した光は多層透明受光素子92に向かう。一方、ビームスプリッタ105で反射された光はレンズ106を通って多層透明受光素子102に入射し、ホログラフィック記録媒体101から来た光と重ね合わされる。その結果、多層透明受光素子92上に、ホログラフィック記録媒体101に記録された画像が光の強度分布として現れる。こうして、ホログラフィック記録媒体101に記録された画像を再生することができる。
【0114】
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構造、構成、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、材料などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0115】
1…タンパク質透明受光素子、11…透明基板、12…透明電極、13…電子伝達タンパク質層、14…電解質層、15…透明対極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに積層された複数の、電子伝達タンパク質を用いたタンパク質透明受光素子を有する多層透明受光素子。
【請求項2】
上記電子伝達タンパク質は、哺乳類由来のシトクロムcのヘムの中心金属の鉄をスズに置換したスズ置換シトクロムc、または、哺乳類由来のシトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、スズを含むタンパク質である請求項1記載の多層透明受光素子。
【請求項3】
上記哺乳類由来のシトクロムcがウマ心筋シトクロムcまたはウシ心筋シトクロムcである請求項2記載の多層透明受光素子。
【請求項4】
上記電子伝達タンパク質が透明電極に固定化されている請求項1記載の多層透明受光素子。
【請求項5】
上記タンパク質透明受光素子は上記電子伝達タンパク質が上記透明電極に固定化されたタンパク質固定化電極と対極とを有する請求項4記載の多層透明受光素子。
【請求項6】
上記タンパク質透明受光素子は第1の電極と第2の電極との間に上記電子伝達タンパク質からなる固体タンパク質層を挟んだ構造を有する請求項1記載の多層透明受光素子。
【請求項7】
互いに積層された複数の、電子伝達タンパク質を用いたタンパク質透明受光素子を有する多層透明受光素子を有する電子機器。
【請求項8】
上記電子伝達タンパク質は、哺乳類由来のシトクロムcのヘムの中心金属の鉄をスズに置換したスズ置換シトクロムc、または、哺乳類由来のシトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、スズを含むタンパク質である請求項7記載の電子機器。
【請求項9】
上記哺乳類由来のシトクロムcがウマ心筋シトクロムcまたはウシ心筋シトクロムcである請求項8記載の電子機器。
【請求項10】
上記電子伝達タンパク質が透明電極に固定化されている請求項7記載の電子機器。
【請求項11】
上記タンパク質透明受光素子は上記電子伝達タンパク質が上記透明電極に固定化されたタンパク質固定化電極と対極とを有する請求項10記載の電子機器。
【請求項12】
上記タンパク質透明受光素子は第1の電極と第2の電極との間に上記電子伝達タンパク質からなる固体タンパク質層を挟んだ構造を有する請求項7記載の電子機器。
【請求項13】
上記電子機器が三次元ディスプレイ、三次元イメージセンサー、カメラまたは光記録再生システムである請求項7記載の電子機器。
【請求項1】
互いに積層された複数の、電子伝達タンパク質を用いたタンパク質透明受光素子を有する多層透明受光素子。
【請求項2】
上記電子伝達タンパク質は、哺乳類由来のシトクロムcのヘムの中心金属の鉄をスズに置換したスズ置換シトクロムc、または、哺乳類由来のシトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、スズを含むタンパク質である請求項1記載の多層透明受光素子。
【請求項3】
上記哺乳類由来のシトクロムcがウマ心筋シトクロムcまたはウシ心筋シトクロムcである請求項2記載の多層透明受光素子。
【請求項4】
上記電子伝達タンパク質が透明電極に固定化されている請求項1記載の多層透明受光素子。
【請求項5】
上記タンパク質透明受光素子は上記電子伝達タンパク質が上記透明電極に固定化されたタンパク質固定化電極と対極とを有する請求項4記載の多層透明受光素子。
【請求項6】
上記タンパク質透明受光素子は第1の電極と第2の電極との間に上記電子伝達タンパク質からなる固体タンパク質層を挟んだ構造を有する請求項1記載の多層透明受光素子。
【請求項7】
互いに積層された複数の、電子伝達タンパク質を用いたタンパク質透明受光素子を有する多層透明受光素子を有する電子機器。
【請求項8】
上記電子伝達タンパク質は、哺乳類由来のシトクロムcのヘムの中心金属の鉄をスズに置換したスズ置換シトクロムc、または、哺乳類由来のシトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、スズを含むタンパク質である請求項7記載の電子機器。
【請求項9】
上記哺乳類由来のシトクロムcがウマ心筋シトクロムcまたはウシ心筋シトクロムcである請求項8記載の電子機器。
【請求項10】
上記電子伝達タンパク質が透明電極に固定化されている請求項7記載の電子機器。
【請求項11】
上記タンパク質透明受光素子は上記電子伝達タンパク質が上記透明電極に固定化されたタンパク質固定化電極と対極とを有する請求項10記載の電子機器。
【請求項12】
上記タンパク質透明受光素子は第1の電極と第2の電極との間に上記電子伝達タンパク質からなる固体タンパク質層を挟んだ構造を有する請求項7記載の電子機器。
【請求項13】
上記電子機器が三次元ディスプレイ、三次元イメージセンサー、カメラまたは光記録再生システムである請求項7記載の電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図2】
【図3】
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【図5】
【図6】
【図7】
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【図11】
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【図31】
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【図36】
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【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【公開番号】特開2011−100759(P2011−100759A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252778(P2009−252778)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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