説明

多層配線基板

【課題】 絶縁基体の表面に形成された電極パターンの画像認識装置による誤認識を生じさせることなく、絶縁基体の表面に隣接して配置される配線間の絶縁性が保持された多層配線基板を提供する。
【解決手段】 本発明は、Si、Mn、MgおよびMoを含むアルミナ質焼結体からなる絶縁層11a、11b、11c、11dを複数積層してなる絶縁基体11と、絶縁基体11の表面および内部に設けられた配線層12、13と、絶縁基体11の内部に設けられ、配線層12、13に接続された貫通導体14とを備えた多層配線基板において、Moがアルミナ質焼結体中に平均粒径0.1〜0.5μmで、かつ最大粒径1μm以下の粒子として含まれているとともに、Moの含有量が0.07〜0.42質量%であり、かつアルミナ質焼結体の明度が40%〜46%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色化されたアルミナ質焼結体からなる複数の絶縁層が積層された絶縁基体を有する多層配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ質焼結体を絶縁基体とし、その表面および内部にWやMoなどの高融点金属からなる配線層を形成した配線基板が知られているが、近年の半導体素子における演算速度の高速化により、半導体素子を搭載する配線基板では信号遅延の問題が生じてしまうことから、配線層をより低抵抗、低誘電損失の材質により形成することが求められていた。
【0003】
そこで、絶縁基体の形成材料として、アルミナを主成分とし、MnをMn換算で2〜15重量%、SiをSiO換算で2〜15重量%、Mg、Ca、Sr、B、Nb、Cr、Coの中から選ばれる1種以上を酸化物換算で0.1〜4重量%、さらに第4a族金属元素を酸化物換算で0.1重量%以下含有し、相対密度が95%以上であり、且つアルミナ結晶粒子の粒界相にMnAlおよびMnSiを含有してなるアルミナ質焼結体が提案されている(特許文献1を参照)。
【0004】
上記のアルミナ質焼結体を絶縁基体の形成材料とすることで、1500℃以下の焼成温度により作製することが可能となり、配線層の形成材料として、Cu、Au、Agの群から選ばれる少なくとも1種の低抵抗金属と、W、Moのうち少なくとも1種の高融点金属との複合導体を用いることができ、より低抵抗、低誘電損失の配線層を得ることができる。
【0005】
しかしながら、MnおよびSiを焼結助剤成分として含むアルミナ質焼結体は、アルミナ結晶粒子の粒界にAl、MnおよびSiのうちの少なくとも2種を含む結晶が析出し、その組成によってはシミ(斑点模様)となって絶縁基体の表面に観察されるようになる。このことは、例えば配線基板の表面に形成された電極に電子部品を実装する際の画像認識装置による電極パターン認識時に誤認識を発生させる原因となる。
【0006】
そこで、特許文献1では、W、Moなどの金属をアルミナ質焼結体の着色剤として含んでもよいことが記載されており、この着色剤を所望の割合で含有させることによって、アルミナ質焼結体を黒色化してシミを見え難くし、誤認識を発生させないようにすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−97767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述のような着色剤が絶縁基体中に多く含まれていると、配線基板の表面に形成された電極に対して電極パターン保護あるいは半田濡れ性向上のために行なうめっき工程の際に、絶縁基体の表面に存在する着色剤を起点としてめっきが広がってしまうことがあった。近年、配線の高密度化のために配線間の間隔が短くなり、めっきが広がってしまうと隣接する配線と接触することになり配線間の絶縁性が保てなくなるおそれがあった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、絶縁基体の表面に形成された電極パターンの画像認識装置による誤認識を生じさせることなく、絶縁基体の表面に隣接して配置される配線間の絶縁性が保持された多層配線基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の多層配線基板は、Si、Mn、MgおよびMoを含むアルミナ質焼結体からなる絶縁層を複数積層してなる絶縁基体と、該絶縁基体の表面および内部に設けられた配線層と、前記絶縁基体の内部に設けられ、前記配線層に接続された貫通導体とを備えた多層配線基板において、前記Moが前記アルミナ質焼結体中に平均粒径0.1〜0.5μmで、かつ最大粒径1μm以下の粒子として含まれているとともに、前記Moの含有量が0.07〜0.42質量%であり、かつ前記アルミナ質焼結体の明度が40%〜46%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、SiおよびMnを焼結助剤成分として含むアルミナ質焼結体からなる絶縁基体の表面のシミに対し、アルミナ質焼結体の明度を40〜46%として黒色化させたことから、絶縁基体の表面に形成された電極パターンの画像認識装置による誤認識を生じさせることのない多層配線基板を得ることができる。また、アルミナ質焼結体中におけるMoの含有量が0.07〜0.42質量%であり、また、Moがアルミナ質焼結体中に平均粒径0.1〜0.5μmで、かつ最大粒径1μm以下の粒子として含まれていることによって絶縁基体が黒色化していることから、アルミナ質焼結体中にMo粒子の凝集や粗大なMo粒子がほとんど存在しておらず、絶縁基体の表面へのめっきの広がりを抑制し、絶縁基体の表面に隣接して配置される配線間の絶縁性を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の多層配線基板の一実施形態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は本発明の多層配線基板の一実施形態の概略断面図である。
【0015】
図1に示す多層配線基板1は、アルミナ質焼結体からなる絶縁基体11と、絶縁基体11の表面および内部に形成された低抵抗金属および高融点金属の複合導体からなる表面配線層12および内部配線層13と、表面配線層12と内部配線層13または異なる絶縁層間に設けられた内部配線層13同士を接続するための貫通導体14とを備えている。
【0016】
絶縁基体11は複数の絶縁層11a、11b、11c、11dが積層されてなるものである。
【0017】
それぞれの絶縁層11a、11b、11c、11dは、Al(α−Al)を主結晶とするアルミナ質焼結体で形成されている。アルミナ質焼結体におけるAlの含有量は85〜96質量%であり、粒状または柱状の結晶として存在している。本発明においてAlの平均結晶粒径は特に限定されるものではないが、結晶粒径が大きくなるに従い熱伝導性が向上し、結晶粒径が小さくなるに従い強度が向上することから、高熱伝導性および高強度の両立という点から、Alの平均結晶粒径は1.0〜5.0μm、特に1.7〜2.5μmであることが望ましい。
【0018】
絶縁基体11(絶縁層11a、11b、11c、11d)を構成するアルミナ質焼結体には、SiおよびMnが含まれていることが重要であり、SiO、Mnとした酸化物換算でそれぞれ2〜7.5質量%、SiとMnとを合わせて4〜15質量%含まれているのが好ましい。SiおよびMnは、Al粉末を主成分とするセラミックグリーンシートを1500℃以下の低温で焼成して、絶縁基体11(絶縁層11a、11b、11c、11d)が得られるようにするための焼結助剤成分として機能するものである。これらの成分は、アルミナ質焼結体において、Alの結晶粒界に非晶質あるいは結晶として存在する。結晶としては、Al、MnおよびSiのうちの少なくとも2種を含む結晶、具体的にはMnAl、MnAlSi12、MnSiOなどが挙げられる。熱伝導性向上、強度向上、誘電損失低減および耐薬品性向上の点では、このような結晶が存在しているのが望ましい。
【0019】
また、絶縁基体11(絶縁層11a、11b、11c、11d)を構成するアルミナ質焼結体には、Mgが含まれていることが重要である。Mgは、後述する複合導体との同時焼結性を高める成分として機能し、かつMoとともに黒色化に寄与するものである。Mgは、酸化物換算(MgO換算)で0.1〜4.0質量%含まれているのが好ましい。
【0020】
さらに、複数の絶縁層11a、11b、11c、11dを構成するアルミナ質焼結体には、着色成分としてのMoが0.07〜0.42質量%含まれているとともに、その大部分は平均粒径0.1〜0.5μmで、かつ最大粒径1μm以下の粒子としてアルミナ質焼結体中に存在していることが重要である。
【0021】
そして、複数の絶縁層11a、11b、11c、11dを構成するアルミナ質焼結体の明度は40%〜46%であることが重要である。
【0022】
すなわち、Alの結晶粒界に存在する、MnAl、MnAlSi12、MnSiOなどの結晶は、アルミナ質焼結体の熱伝導性向上、強度向上、誘電損失低減および耐薬品性向上に寄与するものであるが、これらの結晶はシミ(斑点模様)となって絶縁基体11の表面および内部に観察されるようになり、多層配線基板1の表面に形成された電極(表面配線層12)に電子部品を実装する際の画像認識装置による電極パターン認識時に誤認識を発生させる原因となるが、アルミナ質焼結体の明度が40%〜46%であると、黒色化されていることから絶縁基体11の表面におけるシミ(斑点模様)が見え難くなり、画像認識装置による電極パターン認識時に誤認識が発生することを防止あるいは大幅に低減することができる。
【0023】
ただし、アルミナ質焼結体の明度が46%を超えると、十分に黒色化されていないために絶縁基体11の表面にシミが見えやすくなって画像認識装置による誤認識の原因となり、アルミナ質焼結体の明度が40%未満であると、画像認識装置による誤認識の問題はないが、このような明度になるにつれて、後述する製造方法においてセラミックグリーンシートに含まれる有機バインダに対して吸湿による水分子が水素結合により架橋し、セラミックグリーンシートの硬度が著しく上昇して積層密着性が失われ、デラミネーションが発生してしまうおそれがある。そのため、絶縁層11a、11b、11c、11dを構成するアルミナ質焼結体の明度は40%〜46%であることが重要である。
【0024】
ところで、アルミナ質焼結体中のMo粒子を、平均粒径が0.1〜0.5μmで、かつ最大粒径1μm以下の粒子とするのは、平均粒径が0.1μm未満であると、後述する製造方法において、セラミックグリーンシートの作製時に用いるMoO粉末の粒径を小さくする必要があり、MoO粉末のコストが高くなるとともに、製造過程において凝集しやすくなって余分な解砕工程が必要になるおそれがある。一方、Mo粒子の平均粒径が0.5μmを超えるかまたはMo粒子の最大粒径が1μmを超えると、めっき広がりが発生する可能性が高くなる。また、Mo粒子の平均粒径が0.5μmを超えるかまたはMo粒子の最大粒径が1μmを超える場合とは、後述するセラミックグリーンシートの吸湿が十分でない場合であり、アルミナ質焼結体を十分に黒色化することができないために絶縁基体11の表面にシミが見えやすくなって画像認識装置による誤認識の原因となる。
【0025】
また、アルミナ質焼結体中のMoの含有量を極めて少量の0.07〜0.42質量%とするのは、Moの含有量が0.07質量%未満であると、アルミナ質焼結体を十分に黒色化することができないために絶縁基体11の表面にシミが見えやすくなって画像認識装置による誤認識の原因となる。一方、Moの含有量が0.42質量%を超えると、Mo粒子の凝集や粗大なMo粒子の存在による絶縁基体11の表面へのめっきの広がりが発生して、絶縁基体11の表面に隣接する配線間の絶縁性を保てなくなるおそれがある。
【0026】
なお、Mo粒子は絶縁基体11中にほぼ均一に分散されているのが好ましい。ほぼ均一に分散されているとは、絶縁基体11の断面を2000倍の走査型電子顕微鏡の反射電子像で観察し、その画面を24等分したとき、おのおのの領域におけるMoの面積率の差が0.5%以内であることをいう。
【0027】
アルミナ質焼結体中におけるAlの含有量は、X線回折装置を用いてリートベルト解析により求めることができ、Moおよびその他の成分の存在およびその含有量はICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析装置を用いて測定することができる。
【0028】
絶縁基体11の表面および内部には、Cu、Au、Agの群から選ばれる少なくとも1種の低抵抗金属と、WおよびMoの少なくともいずれか一方の高融点金属との複合導体からなる表面配線層12および内部配線層13が形成されている。Cu、Au、Agの群から選ばれる少なくとも1種の低抵抗金属と、WおよびMoの少なくともいずれか一方の高融点金属との複合導体からなる配線層とすることで、低抵抗金属のみからなる配線層に比べると抵抗値は多少上がってしまうものの、後述する1200℃〜1500℃の焼成温度で、アルミナ質焼結体との同時焼成が可能となる。ただし、同時焼成可能といえども、低抵抗金属の融点を超える温度での焼成となるため、低抵抗金属の溶融を抑制して配線層の形態を保つことが必要となる。そこで、配線層の低抵抗化と保形性をともに達成する上で、低抵抗金属が30〜70体積%、高融点金属が30〜70体積%の割合からなることが望ましい。また、高融点金属は平均粒径が1〜10μmの粒子として、低抵抗金属からなるマトリックス中に分散していることが望ましい。なお、表面配線層12は、高融点金属および低抵抗金属の割合が内部配線層13と同じであっても異なっていてもよい。
【0029】
また、貫通導体14は、表面配線層12および内部配線層13と同様の組成であってもよく、異なっていてもよい。例えば、表面配線層12および内部配線層13に比べて、断面積がかなり大きなものであることから、高融点金属のみからなるものであってもよい。
【0030】
このような多層配線基板1は、表面に形成された電極パターンの誤認識を生じさせることなく、表面配線層12間の絶縁性が保持されたものとなる。
【0031】
次に、本発明の多層配線基板1の製造方法について説明する。
【0032】
まず、絶縁基体11を形成するためのセラミックグリーンシートを作製する。具体的には、Al粉末を85〜96質量%、SiO粉末を2〜7.5質量%、Mnを粉末2〜7.5質量%、MgO粉末を0.1〜4.0質量%の合計100質量部にMoO粉末を0.1〜0.6質量部の割合で添加(外添)してなる混合粉末を用意する。
【0033】
Al粉末として、平均粒径が0.5〜2.5μm、特に1.0〜2.0μmのものを用いる。これは、平均粒径を0.5μm以上とすることでシート成形性を良好なものとし、2.5μm以下とすることで1500℃以下の温度での焼成によっても緻密化を促進させるためである。
【0034】
また、SiO粉末として平均粒径が1〜3μmのものを用い、Mn粉末として平均粒径が0.7〜1.7μmのものを用いる。これらは、焼結助剤成分であって、1500℃以下の温度でセラミックグリーンシートを焼結させるためのものである。なお、SiおよびMnは、酸化物粉末以外に焼成によって酸化物を形成しうる炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩等として添加してもよい。
【0035】
MgO粉末として、平均粒径が0.5〜2.0μmのものを用いる。MgO粉末は、配線層を形成する複合導体との同時焼結性を高めるために添加されるもので、さらに着色成分としてのMoと関わってアルミナ質焼結体の黒色化に寄与するものである。Mgは酸化物(MgO)換算で0.1〜4質量%となるように、例えばMgCO粉末として添加されてもよい。
【0036】
MoO粉末として、平均粒径が0.5〜1.5μmのものを用いる。MoO粉末は、アルミナ質焼結体を黒色化するための着色成分であり、本発明においては着色成分の中でもMoO粉末を用いることが重要である。また、このMoO粉末は後述の非酸化性雰囲気下での焼成により、金属のMoとなる。Moの添加量が0.1質量部未満であると、絶縁基体11の表面にシミが見えやすくなって誤認識の原因となる。一方、Moの含有量が0.6質量部を超えると、Mo粒子の凝集や粗大なMo粒子の存在による絶縁基体11の表面へのめっきの広がりが発生して、表面配線層12間の絶縁性を保つことができなってしまうおそれがある。なお、絶縁層11a、11b、11c、11dにおけるMoの含有量は、セラミックグリーンシートにおけるMoO粉末の含有量と比較して3割程度減少する。これはMoOが焼成中に還元されるためである。また、平均粒径0.5〜1.5μmのMoO粉末は後述の反応によって焼成後に平均粒径0.1〜0.5μm、最大粒径1μm以下のMo粒子となる。
【0037】
また、セラミックグリーンシートにはその他の成分が含まれていてもよいが、例えばTiOやZrO等の周期表第4族元素の酸化物が存在すると、アルミナ質焼結体の誘電損失が増大してしまうので、これらの元素含有量は酸化物換算で0.1質量%以下、特に0.05質量%以下であることが好ましい。
【0038】
そして、この混合粉末に対して有機バインダ、溶媒を添加してスラリーを調整した後、これをプレス法、ドクターブレード法、圧延法、射出法などの成形方法によってセラミックグリーンシートを作製する。あるいは、混合粉末に有機バインダを添加し、プレス成形、圧延成形等の方法により所定の厚みのセラミックグリーンシートを作製する。
【0039】
次に、このセラミックグリーンシートを湿度85〜95%の大気雰囲気下に0.5〜5時間保管し、水分を吸湿させる。
【0040】
本発明の多層配線基板1を製造するうえで、水分を吸湿させたセラミックグリーンシートを用意することが重要である。水分を吸湿させたセラミックグリーンシートにおいては、セラミックグリーンシート中のMoの存在状態が変化する。また、水分を吸湿させたセラミックグリーンシートを用意することにより、水分を吸湿させていないセラミックグリーンシートと比較して焼成後の明度が変化する。具体的には、水分の吸湿によりMoOおよびMgOがHOと反応して溶解し、Mo6+とMg2+とになり、MgMoO・5HOが析出する。このとき、MgO粉末にMo6+がくっつき、加湿なしの状態に比べてより細かく分散すると考えられる。その後、焼成過程ではHOが離脱し、MgOは非加湿時と同様に焼結していき、MoOはより細かく分散した状態を維持したままMo粒子となり、焼成後にアルミナ質焼結体をより黒く見えるように黒色化できる。そして、水分を吸湿させたセラミックグリーンシートの焼成後の状態(絶縁層)において、明度が40〜46%となる。
【0041】
このように、アルミナ質焼結体を着色成分であるMoの少ない量で黒色化するには、セラミックグリーンシートを湿度85〜95%の大気雰囲気下に0.5〜5時間保管することが重要であり、湿度が85%未満の場合や吸湿時間が0.5時間未満の場合は、焼成後のアルミナ質焼結体の明度が46%を超えてしまう。また、湿度が95%を越える場合や、吸湿時間が5時間を超える場合は、焼成後のアルミナ質焼結体の明度が40%未満となり、このような明度になると、セラミックグリーンシートに含まれる有機バインダに対して吸湿による水分子が水素結合により架橋し、セラミックグリーンシートの硬度が著しく上昇して積層密着性が失われ、デラミネーションが発生してしまうおそれがある。
【0042】
次に、得られたセラミックグリーンシートに対して、マイクロドリル、レーザー等により直径が50〜250μmの貫通孔を形成する。
【0043】
このようにして作製されたセラミックグリーンシートの表面に対して、Cu、Au、Agの群から選ばれる少なくとも1種の低抵抗金属粉末と、W、Moのうちの少なくとも1種の高融点金属粉末とを前述した比率(低抵抗金属が40〜60体積%、高融点金属が40〜60体積%)で混合して配線層用導体ペーストを調製し、スクリーン印刷、グラビア印刷などの方法により配線パターン状に印刷塗布する。また、貫通導体用ペーストを各セラミックグリーンシートの貫通孔内に充填する。なお、これらのペースト中には、絶縁層との密着性を高めるために、上記の金属粉末以外にアルミナ粉末あるいは絶縁基体11と同一組成物の混合粉末を添加してもよく、さらにはNi等の活性金属あるいはそれらの酸化物を0.05〜2体積%の割合で添加してもよい。
【0044】
その後、配線層用導体ペーストの印刷塗布や貫通孔に貫通導体用ペーストの充填されたセラミックグリーンシートを位置合わせして複数積層圧着した後、得られたセラミックグリーンシート積層体を非酸化性雰囲気中、最高温度が1200〜1500℃、特に1250〜1400℃の温度となる条件で焼成して多層配線基板1を作製する。
【0045】
このときの焼成温度が1200℃より低いと、アルミナ質焼結体を相対密度95%以上まで緻密化させることができず、熱伝導性や強度が低いものとなってしまい、焼成温度が1500℃より高いと、WあるいはMo自体の焼結が進み、Cu等の低抵抗金属の流動により均一組織を維持できず、強いては低抵抗を維持することが困難となってしまう。また、アルミナ結晶の粒径が大きくなり異常粒成長が発生したり、Cu等の低抵抗金属がセラミックグリーンシート(絶縁層)中へ拡散するときのパスである粒界の長さが短くなるとともに拡散速度も速くなる結果、拡散距離が30μmを超えて大きくなり、微細配線化を阻害してしまう。
【0046】
また、この焼成時の非酸化性雰囲気としては、窒素雰囲気あるいは窒素と水素との混合雰囲気であることが望ましい。特に、低抵抗導体のセラミックグリーンシート(絶縁層)中への拡散を抑制する上では、水素および窒素を含み露点が+30℃以下、特に+25℃以下の非酸化性雰囲気であることが望ましい。なお、この雰囲気には所望によりアルゴンガス等の不活性ガスが混入されてもよい。焼成時の露点が+30℃より高いと、焼成中に酸化物セラミックスと雰囲気中の水分とが反応し酸化膜を形成し、この酸化膜と低抵抗導体とが反応してしまい、導体の低抵抗化の妨げとなるのみでなく、低抵抗導体の拡散を助長してしまうためである。
【0047】
その後、得られた多層配線基板1の表面配線層12に電極パターン保護あるいは半田濡れ性向上のために、無電解Ni−Auめっき、あるいは無電解Cu−Auめっき、または無電解Cu−Ni−Auめっき等のめっきを施す。
【0048】
以上述べた製造方法により作製された多層配線基板1は、表面に形成された電極パターンの誤認識を生じさせることなく、表層配線層12間の絶縁性が保持されたものとなる。
【実施例】
【0049】
純度が99%で平均粒子径が1.8μmのAl粉末、純度が99%で平均粒子径が1.0μmのSiO粉末、純度が99%で平均粒子径が1.5μmのMn粉末、純度が99.9%で平均粒子径が0.7μmのMgO粉末を表1に示すような割合で混合するとともに、Al粉末、SiO粉末、Mn粉末およびMgO粉末の合計100質量部に対して、純度が99.9%で平均粒子径が1.2μmのMoO粉末を表1に示すような割合で添加(外添)した後、さらに、有機バインダとしてアクリル系バインダと、有機溶媒としてトルエンを混合してスラリーを調製した後、ドクターブレード法にてそれぞれ焼成後の厚みが150μmとなるように、185μmの厚みを有するシート状に成形し、セラミックグリーンシートを得た。
【0050】
得られたセラミックグリーンシートのうち複数枚を温度25℃、表1に示す湿度に調整した恒温恒湿槽に入れ、表1に示す所定時間放置し、吸湿させた。
【0051】
吸湿させたセラミックグリーンシートに対してレーザー加工によって打抜き加工を施し、直径が200μmの貫通孔を形成した。
【0052】
そして、純度99.9%で平均粒子径1.2μmのMo粉末を95質量%と、純度99.9%で平均粒子径1.8μmのAl粉末を5質量%とを混合した粉末に対し、アクリル系バインダとアセトンとを溶媒として混合し、貫通導体用ペーストを調製し、この貫通導体用ペーストを上記のセラミックグリーンシートの貫通孔内に充填した。
【0053】
次に、純度99%で平均粒子径1.2μmのCu粉末を35質量%(54体積%)と、純度99.9%で平均粒子径1.2μmのW粉末を65質量%(46体積%)とを混合した粉末に対し、アクリル系バインダとアセトンとを溶媒として混合し、配線層用導体ペーストを調製した。そして、貫通孔内に貫通導体用ペーストを充填したセラミックグリーンシートに対してスクリーン印刷法によってシグナル配線パターンおよびグランド配線パターンを印刷塗布した。
【0054】
このようにして得られたセラミックグリーンシートを5層積層してセラミックグリーンシート積層体を作製した。そして、セラミックグリーンシート積層体を、露点+25℃の窒素水素混合雰囲気にて脱脂を行なった後、引き続き、1000℃から焼成温度の1350℃までを50℃/時間の昇温速度で昇温し、焼成温度にて露点+25℃の窒素水素混合雰囲気にて1時間保持した後、1000℃までを100℃/時間の降温速度で冷却した。
【0055】
その後、Pd活性を行い、アルミナ質焼結体からなる絶縁基体の表面における表面配線層に無電解Niめっきを4.5μm施した後に、無電解Auめっきを0.05μm施して、本発明実施例の多層配線基板(試料No.1〜14)を各50個作製した。
【0056】
また、比較例(試料No.15〜17)として、吸湿させていないセラミックグリーンシートを用いて作製した多層配線基板を得た。
【0057】
このようにして得られた多層配線基板を切断し、断面を走査型電子顕微鏡の反射電子像にて5視野観察した。各画像を画像処理し、それぞれのMo粒子の直径の値から平均粒径および最大粒径を算出した。その結果を表1に示す。
【0058】
また、Moの含有量はICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析装置にて測定した。その結果を表1に示す。
【0059】
また、色彩色差計(コニカミノルタ社製、CR−300)によりアルミナ質焼結体の明度を測定した。その結果を表1に示す。
【0060】
また、めっき広がりの有無を40倍の光学顕微鏡にて50個の多層配線基板について観察し、電極パターンからめっきがはみ出ているものの個数(めっき広がり発生数)を求めた。その結果を表1に示す。
【0061】
また、得られた多層配線基板を内層断面が露出するように切断し、デラミネーションの発生の有無を確認した。1個の多層配線基板につき10箇所、10個の多層配線基板について計100箇所確認を行い、デラミネーションが発生していないものを良品とした。その結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1から明らかなように、本発明の多層配線基板(試料No.2〜4、6、8〜10、12、13)では、めっき広がりの発生がなく、デラミネーションによる不良のないものであった。
【0064】
これに対し、Moの含有量が0.4質量%を超える試料No.1では、めっき広がりの発生数が50個中15個と多かった。
【0065】
また、製造条件として湿度が85%未満であり、絶縁層中のMo粒子の最大粒径が1μmを超える試料No.5および試料No.7では、めっき広がりが発生するとともに、明度が46%を超えて十分な黒色化が得られず、誤認識の可能性が高いものとなった。
【0066】
また、加湿時間が5時間を超え、明度が40%未満である試料No.11および試料No.14では、デラミネーションの判定において不良が発生した。
【0067】
加湿させていない試料No.15〜17では、Mo粒子の最大粒径が1μmをはるかに超え、めっき広がりが発生するとともに、明度が高い値となった。特に、試料No.16、17では、明度が46%を超えて十分な黒色化が得られず、誤認識の可能性が高いものとなった。
【符号の説明】
【0068】
1 :多層配線基板
11:絶縁基体
11a〜11d:絶縁層
12:表面配線層
13:内部配線層
14:貫通導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si、Mn、MgおよびMoを含むアルミナ質焼結体からなる絶縁層を複数積層してなる絶縁基体と、該絶縁基体の表面および内部に設けられた配線層と、前記絶縁基体の内部に設けられ、前記配線層に接続された貫通導体とを備えた多層配線基板において、前記Moが前記アルミナ質焼結体中に平均粒径0.1〜0.5μmで、かつ最大粒径1μm以下の粒子として含まれているとともに、前記Moの含有量が0.07〜0.42質量%であり、かつ前記アルミナ質焼結体の明度が40%〜46%であることを特徴とする多層配線基板。

【図1】
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【公開番号】特開2010−225959(P2010−225959A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73172(P2009−73172)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】