説明

多方向スイッチ部材およびそれを備える電子機器

【課題】より簡易な構造で、検出感度の高い多方向スイッチ部材およびそれを備える電子機器を提供する。
【解決手段】4つの基準方向と基準方向の内の少なくとも1組の隣り合う2方向の間にある1つの中間方向とを含む複数方向に押圧操作可能な多方向スイッチ部材であって、押圧操作できる操作板と、押圧操作されたことを検知するための印刷回路基板とを備え、操作板はその裏側の各方向に突出する1または複数の導電体を備え、印刷回路基板は4つの基準方向において基準方向用接点電極群21a等と中間方向において中間方向用接点電極群21b等とを備え、導電体と基準方向用接点電極群21a等および中間方向用接点電極群21b等との接触時に計測される複数の計測値から操作方向を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の方向に操作可能な多方向スイッチ部材およびそれを備える電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車載用機器、多機能固定電話機、携帯電話機等において、その操作パネル内のボタンを押した際にその押圧を感知して入力を認識可能な入力装置が搭載されている。当該入力装置の中には、単なるオン・オフではなく、ボタンの押圧の程度によって異なる機能を発揮させるものもある。かかる機能を発揮するための構造として、接点部を半球状の導電ゴムから成る導電体とし、当該導電体の曲面底部が印刷回路基板上の接点電極群と対向するように、その導電体を操作板の裏側に配置したものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
導電ゴム製の接点部を用いると、ボタンを押す力に応じて、その導電体と接点電極群との接触面積を変えることができ、その結果、接点電極群を構成する電極間の電気抵抗値の大きさを、ボタンを押す力に依存させることができる。したがって、ボタンを上下左右の4方向に操作可能な多方向スイッチ部材とすれば、各方向において、押圧に応じた機能を発揮させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−083819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の多方向スイッチ部材には、次のような問題がある。多方向スイッチ部材が親指の大きさ程度になると、多方向スイッチ部材の特定方向を押圧した際に、隣接する方向キーも同時に押圧してしまうことが少なくない。特に、上下左右の4方向のみならず、斜めの方向にも押圧可能な多方向スイッチ部材の場合には、例えば操作者が上方向を押圧したつもりであっても右斜め上方も同時に押圧し、あるいは右斜め上方を押圧したつもりであっても上方向および右方向を同時に押圧する可能性がある。単に、各方向キーのオン・オフを検出する電極群を各方向キーの数だけ印刷回路基板に形成しただけでは、上記のような複数の方向キーを押圧したような場合に特定の方向キーの機能を発揮させることができない。
【0006】
このような状況への対応策として、例えば、上下左右の4方向および各斜め4方向の押圧を検知する合計8個の接点電極群を印刷回路基板に形成するのみならず、当該各接点電極群に対する各接点からの押圧に依存する電気抵抗値若しくは電圧値等の計測値を比較して、最も押圧の大きな方向キーを操作したい方向キーと決定し、その方向キーの機能を発揮させる方法が考えられる。しかし、上記のように、方向キーの数が多いと、その数に相当する電極群からの検出値を比較して特定の方向キーを操作キーとして決定するためには、各電極群から引き出す端子数を多く形成し、メモリにテーブル等のデータを多く格納する必要があり、その結果、印刷回路基板上の配線構成が複雑化し、記憶容量の大きなメモリを装備する必要が生じる。すなわち、方向指示の分解能は電極群の数に依存するところ、電極群の数を増やす程、配線やテーブル数が多くなるという問題が生じる。
【0007】
加えて、次のような問題もある。それは、各方向の電極群からの検出値を比較して特定の方向キーを決定するだけでは、多方向スイッチ部材をその周方向になぞる操作をする際に、なぞる操作をしているか否かを検出する感度が低いという問題である。例えば、上記と同様、上下左右に各斜め方向を加えた合計8方向に操作可能な多方向スイッチ部材の場合、中心角45度毎に、方向キーがオンになったことが検出されるが、45度より小さな中心角では検出できない。このため、多方向スイッチ部材を周方向になぞる操作をした場合、45度以上の操作を行って初めて回転操作を行っていることが検出されることになり、10度あるいは20度という初期の操作段階で回転操作を検出することができない。
【0008】
本発明は、かかる問題を解消すべくなされたものであって、より簡易な構造で、検出感度の高い多方向スイッチ部材およびそれを備える電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の一実施形態は、互いに交差する直線の延出方向となる4つの基準方向と、当該4つの基準方向の内の少なくとも1組の隣り合う2方向の間にある1つの中間方向とを含む複数方向に、それぞれ押圧操作可能な多方向スイッチ部材であって、その裏側に向かって押圧操作できる操作板と、当該操作板の裏側に配置され、当該操作板上の所定方向における裏側への押圧を受けて、押圧操作されたことを検知するための印刷回路基板とを備え、操作板は、その裏側の複数方向の各方向に、印刷回路基板側に突出する1または複数の導電体を備え、印刷回路基板は、4つの基準方向において、互いに非接触状態で近接する1つの第一電極および1つのアース電極からなる基準方向用接点電極群と、中間方向において、互いに非接触状態で近接する2つの第二電極および1つのアース電極からなる中間方向用接点電極群とを備え、2つの第二電極は、中間方向の両側に位置する各基準方向の第一電極に隣り合うようにそれぞれ電気的に接続される多方向スイッチ部材である。
【0010】
また、本発明の別の実施形態は、特に、4つの基準方向が互いに90度間隔で形成され、中間方向が隣り合う2つの基準方向の間に1つずつ形成され、8方向に押圧操作できる多方向スイッチ部材である。
【0011】
また、本発明の別の実施形態は、特に、中間方向用接点電極群を、櫛歯形状の2つの第二電極をそれぞれ櫛歯形状の1つのアース電極と互いにかみ合わせるように配置した電極群とする多方向スイッチ部材である。
【0012】
また、本発明の別の実施形態は、特に、基準方向用接点電極群を、櫛歯形状の1つの第一電極と櫛歯形状の1つのアース電極とを互いにかみ合わせるように配置した電極群とする多方向スイッチ部材である。
【0013】
また、本発明の一実施形態は、複数の方向に押圧操作できる多方向スイッチ部材と、当該多方向スイッチ部材の内若しくは外に設けられ、スイッチの押圧操作された方向を特定する制御部とを備える電子機器であって、多方向スイッチ部材は、互いに交差する直線の延出方向となる4つの基準方向と、当該4つの基準方向の内の少なくとも1組の隣り合う2方向の間にある1つの中間方向とを含む複数方向に、それぞれ押圧操作可能であって、その裏側に向かって押圧できる操作板と、当該操作板の裏側に配置され、当該操作板上の所定方向における裏側への押圧を受けて、その押圧されたことを検知するための印刷回路基板とを備え、操作板は、その裏側の複数方向の各方向に、印刷回路基板側に突出する1または複数の導電体を備え、印刷回路基板は、4つの基準方向において、互いに非接触状態で近接する1つの第一電極および1つのアース電極からなる基準方向用接点電極群と、中間方向において、互いに非接触状態で近接する2つの第二電極および1つのアース電極からなる中間方向用接点電極群とを備え、2つの第二電極は、中間方向の両側に位置する各基準方向の第一電極に隣り合うようにそれぞれ電気的に接続され、制御部は、導電体が、基準方向にある第一電極またはこれと接続される第二電極と、それと近接配置されるアース電極とを電気的に接続する際にその接続度合いに応じて変化する電気抵抗値、電圧値若しくは電流値を計測する計測手段と、計測手段により計測された計測値若しくはその計測値に連動する数値と、各計測値若しくは数値を有する基準方向とに基づき、基準方向別にベクトルを生成するベクトル生成手段と、ベクトルを合成して合成ベクトルを生成する合成ベクトル生成手段と、合成ベクトルに基づいて、少なくとも操作方向を特定する操作方向特定手段とを備える電子機器である。
【0014】
また、本発明の別の実施形態は、特に、ベクトル生成手段により、正反対の2つの基準方向に計測値がそれぞれ存在する場合に、それらの計測値若しくは数値を差し引いて、2つの基準方向の内の一方の基準方向のベクトルを生成する電子機器である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、より簡易な構造で、検出感度の高い多方向スイッチ部材およびそれを備える電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る多方向スイッチ部材を備える携帯電話の正面図である。
【図2】図2は、図1に示す多方向スイッチ部材の表側の部分を外し、当該表側の部分を表側から透過的に見た状態を示す図である。
【図3】図3は、図2に示す多方向スイッチ部材の表側の部分のA−A線断面図である。
【図4】図4は、図1に示す多方向スイッチ部材の表側の部分である操作板の裏側に配置されるPCBの平面図である。
【図5】図5は、図4に示すPCBのB−B線断面図である。
【図6】図6は、PCB上に形成される接点電極群および配線の形態を示す平面図である。
【図7】図7は、操作板上の所定方向を押圧操作した際の各接点電極群への接触領域と、その際の操作方向の特定方法を説明するための図である。
【図8】図8は、操作板上の所定方向を押圧操作した際の各接点電極群への接触領域と、その際の操作方向の特定方法を説明するための図であり、図7に示す方向と異なる方向を押圧操作する例を示す図である。
【図9】図9は、操作板上の所定方向を押圧操作した際の各接点電極群への接触領域と、その際の操作方向の特定方法を説明するための図であり、図7および図8に示す方向と異なる方向を押圧操作する例を示す図である。
【図10】図10は、操作板上の所定方向を押圧操作した際の各接点電極群への接触領域と、その際の操作方向の特定方法を説明するための図であり、図7、図8および図9に示す方向と異なる方向を押圧操作する例を示す図である。
【図11】図11は、図1に示す電子機器の本体に備えられる制御部の例示的なハードウェアの構成図である。
【図12】図12は、多方向スイッチ部材を押圧操作した際の操作方向を特定するための処理の流れを示すフローチャートの一例である。
【図13】図13は、図12に示すフローチャートの変形例を示す図である。
【図14】図14は、図7に示す接点電極群および配線の形態の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明に係る多方向スイッチ部材およびそれを備える電子機器の好適な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。以下の実施の形態では、電子機器として携帯電話を例に説明するが、電子機器は、携帯電話以外の機器、例えば、モバイルコンピュータ、音楽再生用端末、携帯テレビ、車載用オーディオ機器、上記各機器の操作用リモートコントローラ等であっても良い。
【0018】
1.多方向スイッチ部材の構造
図1は、本発明の実施の形態に係る多方向スイッチ部材を備える携帯電話の正面図である。
【0019】
図1に示すように、この実施の形態に係る電子機器の一例である携帯電話1は、多方向に操作可能な多方向スイッチ部材2を備える。多方向スイッチ部材2は、互いに交差する直線の延出方向となる4つの基準方向と、当該4つの基準方向の隣り合う2方向の間にある1つの中間方向とを含む8方向に、それぞれ押圧操作可能である。多方向スイッチ部材2は、略円形のキーであり、そのキーの中心から8方向に押圧入力できるのみならず、中央部分を押圧入力できるものである。ただし、多方向スイッチ部材2は、その中心が押圧入力できず、中心から8方向にのみ押圧入力可能なキーであっても良い。また、多方向スイッチ部材2を、4つの基準方向と1〜3つの中間方向とを含む5〜7方向に押圧入力可能なものとしても良い。
【0020】
図2は、図1に示す多方向スイッチ部材の表側の部分を外し、当該表側の部分を表側から透過的に見た状態を示す図である。図3は、図2に示す多方向スイッチ部材の表側の部分のA−A線断面図である。
【0021】
多方向スイッチ部材2は、裏側の印刷回路基板(Printed Circuit Board: PCB)の上に配置される操作板10を備える。操作板10は、略円板形状の薄型の樹脂シート11と、その樹脂シート11上に固定される円環形状で樹脂製の第一操作板12と、樹脂シート11上であってその第一操作板12の略中央の穴部分に固定される円形で樹脂製の第二操作板13とを備える。第一操作板12と第二操作板13との間には隙間が設けられ、第一操作板12と第二操作板13とを独立して操作しやすいようにしている。
【0022】
図2に示すように、樹脂シート11の裏面には、第一操作板12の周方向に沿うように、第一操作板12の中心から45度間隔に1個ずつ合計8個の導電体の一例である接点用弾性体14a,14b,14c,14d,14e,14f,14g,14h(以後、総称する場合には、「接点用弾性体14」と称する)が固定されている。図3に示すように、接点用弾性体14は、略半球形状を有しており、その球面側先端がPCB側を向くように、樹脂シート11に固定される。また、樹脂シート11の裏面であって第二操作板13の裏側に対応する領域には、1個の略円柱形状の押圧子15が固定されている。さらに、樹脂シート11の裏面であって第一操作板12の裏側に対応する接点用弾性体14a,14c,14e,14gの径方向外側の位置にも、それぞれ、1個の略円柱形状の押圧子16a,16c,16e,16g(以後、総称する場合には、「押圧子16」と称する)が固定されている。押圧子15,16は、例えば、樹脂から構成される。押圧子15,16は、接点用弾性体14よりも多方向スイッチ部材2の表裏方向の高さが低くなるように構成されている。操作板10と対向配置されるPCB上において、接点用弾性体14が接する電極群(後述する)よりも、押圧子15,16が接するメタルドーム(後述する)の方が操作板10の方向に突出しているからである。
【0023】
接点用弾性体14は、PCB上に接触後に弾性変形できるように、柔軟性に富む材料で構成されている。また、接点用弾性体14には、導電性を付与するために、導電性材料が分散されている。導電性材料としては、カーボン、金属等を例示できるが、粒子径が小さいもの(ナノレベルの粒子)を容易に製造でき、かつその取り扱いが容易なカーボンブラックがより好ましい。また、接点用弾性体14を構成する母材としては、シリコーンゴム、ウレタン樹脂、熱可塑性エラストマー、天然ゴムを用いることができ、それらの中でも、シリコーンゴムが好ましい。導電性材料の混合量は、導電性を高めかつシリコーンゴムの弾性を維持する観点から、シリコーンゴムの材料と当該導電性材料の総重量に対して5〜50重量%であるのが好ましく、さらには、15〜35重量%がより好ましい。
【0024】
図4は、図1に示す多方向スイッチ部材の操作板の裏側に配置されるPCBの平面図である。図5は、図4に示すPCBのB−B線断面図である。なお、図5では、見易さを考慮して、PCB上に形成される配線等を実際のそれよりも厚く図示している。
【0025】
図4に示すPCB20は、操作板10の裏側に対向配置され、操作板10上の所定方向における裏側への押圧を受けて、押圧操作されたことを検知するためのものである。PCB20における各接点用弾性体14a,14b,14c,14d,14e,14f,14g,14hの裏側にそれぞれ対応する位置には、接点電極群の一例である櫛歯電極群21a,21b,21c,21d,21e,21f,21g,21h(総称する場合には、「櫛歯電極群21」と称する)が配置されている。櫛歯電極群21は、多数の歯を有する櫛形状の複数の電極を互いに接触しないように配置したものであり、4つの基準方向(ここでは、北、東、南、西の4つの方向とする)に配置される基準方向用接点電極群21a,21c,21e,21gと、当該基準方向の内の互いに隣り合う基準方向の間に位置する中間方向(ここでは、北東、南東、南西、北西の4つの方向とする)に配置される中間方向用接点電極群21b,21d,21f,21hとに分けられる。各櫛歯電極群21の上から各接点用弾性体14を押圧させて接触させると、その押圧に応じて各櫛歯電極群21と各接点用弾性体14との接触面積が大きくなり、その結果、各櫛歯電極群21を構成している電極間の電気抵抗値が小さくなる。すなわち、各接点用弾性体14は、櫛歯電極群21を構成している電極間の電気抵抗値を変えることができる可変抵抗機能を発揮する。
【0026】
図4に示すように、櫛歯電極群21aの外側と櫛歯電極群21bの外側、櫛歯電極群21bの外側と櫛歯電極群21cの外側、櫛歯電極群21cの外側と櫛歯電極群21dの外側、櫛歯電極群21dの外側と櫛歯電極群21eの外側、櫛歯電極群21eの外側と櫛歯電極群21fの外側、櫛歯電極群21fの外側と櫛歯電極群21gの外側、櫛歯電極群21gの外側と櫛歯電極群21hの外側および櫛歯電極群21hの外側と櫛歯電極群21aの外側は、それぞれ、配線22、配線23、配線24、配線25、配線26、配線27、配線28および配線29で接続されている。また、櫛歯電極群21bの内側と櫛歯電極群21cの内側、櫛歯電極群21cの内側と櫛歯電極群21dの内側、櫛歯電極群21dの内側と櫛歯電極群21eの内側、櫛歯電極群21eの内側と櫛歯電極群21fの内側、櫛歯電極群21fの内側と櫛歯電極群21gの内側、櫛歯電極群21gの内側と櫛歯電極群21hの内側および櫛歯電極群21hの内側と櫛歯電極群21aの内側は、それぞれ、配線33、配線34、配線35、配線36、配線37、配線38および配線39で接続されている。
【0027】
各櫛歯電極群21にて囲まれる領域の中央であって、押圧子15の下方に相当する位置には、1個のメタルドーム50が配置されている。図5に示すように、メタルドーム50の上面位置は、櫛歯電極群21のそれよりも高い。メタルドーム50の外周端面は、PCB20上に形成された円環状のアース用の電極61と電気的に接続されている。また、アース用の電極61の内方には、円形の電極62が、アース用の電極61およびメタルドーム50のいずれにも接触しないように配置される。第二操作板13の上から多方向スイッチ部材2を押圧すると、押圧子15が下方に押され、メタルドーム50をへこませることができ、その結果、メタルドーム50の中央部分が電極62に接触し、アース用の電極61と電極62とが電気的に接続される。櫛歯電極群21aの内側は、アース用の電極61と、配線40にて接続されている。
【0028】
また、PCB20上における櫛歯電極群21a,21c,21e,21gより外側であって、押圧子16a,16c,16e,16gの下方に相当する各位置には、それぞれ、1個のメタルドーム51,52,53,54が配置されている。メタルドーム51,52,53,54の上面位置は、先の述べたメタルドーム50と同様、櫛歯電極群21のそれよりも高い。メタルドーム51,52,53,54の各外周端面は、PCB20上に形成された円環状の電極(後述する)と電気的に接続され、その円環状の電極の内方には、円形のアース用の電極(後述する)が、円環状の電極および各メタルドーム51,52,53,54のいずれにも接触しないように配置される。押圧子16a,16c,16e,16g上方の第一操作板12から多方向スイッチ部材2を押圧すると、押圧子16a,16c,16e,16gが下方に押され、メタルドーム51,52,53,54をへこませることができ、その結果、メタルドーム51,52,53,54の各中央部分がその直下にある各アース用の電極に接触し、アース用の電極と円環状の電極とが電気的に接続される。各円環状の電極は、櫛歯電極群21a,21c,21e,21gの各外側の電極と、それぞれ、配線41,42,43,44にて接続されている。なお、メタルドーム50,51,52,53,54に代えて、樹脂製のエンボススイッチ(例えば、PET製ドーム)、タクトスイッチ等の他種のメカニカルスイッチを用いても良い。加えて、メタルドーム50,51,52,53,54のようなメカニカルスイッチを、樹脂シート11側に設けることもできる。
【0029】
図6は、PCB上に形成される接点電極群および配線の形態を示す平面図である。
【0030】
図6に示す各櫛歯電極群21の構成につき主に説明する。基準方向用接点電極群の一つである櫛歯電極群21aは、8個の櫛歯電極群21に囲まれる中心(電極62のある点)から見て外側(以後、単に「外側」と称する)にある第一電極としての櫛歯電極71と、電極62から見て内側(以後、単に「内側」と称する)にあるアース電極としての櫛歯電極91とから構成される。櫛歯電極71と櫛歯電極91は、歯を互い違いにかみ合うような配置で形成されている。中間方向用接点電極群の一つである櫛歯電極群21bは、その外側であって櫛歯電極群21aに近い側に配置される第二電極としての半櫛歯電極72と、同じく外側であって櫛歯電極群21cに近い側に配置される第二電極としての半櫛歯電極74と、半櫛歯電極72,74より内側に配置されるアース電極としての櫛歯電極92とから構成される。基準方向用接点電極群の一つである櫛歯電極群21cは、櫛歯電極群21aと同じ形態であり、外側にある第一電極としての櫛歯電極75と、内側にあるアース電極としての櫛歯電極93とから構成される。中間方向用接点電極群の一つである櫛歯電極群21dは、櫛歯電極群21bと同じ形態であり、その外側であって櫛歯電極群21cに近い側に配置される第二電極としての半櫛歯電極76と、同じく外側であって櫛歯電極群21eに近い側に配置される第二電極としての半櫛歯電極77と、半櫛歯電極76,77より内側に配置されるアース電極としての櫛歯電極94とから構成される。
【0031】
基準方向用接点電極群の一つである櫛歯電極群21eは、櫛歯電極群21aと同じ形態であり、外側にある第一電極としての櫛歯電極78と、内側にあるアース電極としての櫛歯電極95とから構成される。中間方向用接点電極群の一つである櫛歯電極群21fは、櫛歯電極群21bと同じ形態であり、その外側であって櫛歯電極群21eに近い側に配置される第二電極としての半櫛歯電極79と、同じく外側であって櫛歯電極群21gに近い側に配置される第二電極としての半櫛歯電極80と、半櫛歯電極79,80より内側に配置されるアース電極としての櫛歯電極96とから構成される。基準方向用接点電極群の一つである櫛歯電極群21gは、櫛歯電極群21aと同じ形態であり、外側にある第一電極としての櫛歯電極81と、内側にあるアース電極としての櫛歯電極97とから構成される。中間方向用接点電極群の一つである櫛歯電極群21hは、櫛歯電極群21bと同じ形態であり、その外側であって櫛歯電極群21gに近い側に配置される第二電極としての半櫛歯電極82と、同じく外側であって櫛歯電極群21aに近い側に配置される第二電極としての半櫛歯電極73と、半櫛歯電極82,73より内側に配置されるアース電極としての櫛歯電極98とから構成される。
【0032】
このように、基準方向用接点電極群である4つの櫛歯電極群21a,21c,21e,21gは、外側にある櫛歯電極と内側にある櫛歯電極とをかみ合わせた構成を有する一方、中間方向用接点電極群である4つの櫛歯電極群21b,21d,21f,21hは、外側にある2つの半櫛歯電極と、内側にある櫛歯電極とをかみ合わせた構成を有する。半櫛歯電極72,74,76,77,79,80,82,73の大きさは、櫛歯電極71,75,78,81,91,92,93,94,95,96,97,98を略半割にした大きさである。先に述べた配線22、配線23、配線24、配線25、配線26、配線27、配線28および配線29は、櫛歯電極71と半櫛歯電極72を、半櫛歯電極74と櫛歯電極75を、櫛歯電極75と半櫛歯電極76を、半櫛歯電極77と櫛歯電極78を、櫛歯電極78と半櫛歯電極79を、半櫛歯電極80と櫛歯電極81を、櫛歯電極81と半櫛歯電極82を、および半櫛歯電極73と櫛歯電極71を、それぞれ接続している。また、先に述べた配線33、配線34、配線35、配線36、配線37、配線38および配線39は、櫛歯電極92と櫛歯電極93を、櫛歯電極93と櫛歯電極94を、櫛歯電極94と櫛歯電極95を、櫛歯電極95と櫛歯電極96を、櫛歯電極96と櫛歯電極97を、櫛歯電極97と櫛歯電極98を、および櫛歯電極98と櫛歯電極91を、それぞれ接続している。
【0033】
また、櫛歯電極群21aの外側には、円環状の電極63と、その電極63に囲まれた領域内にある円形の電極64が配置されている。円環状の電極63は、配線41によって櫛歯電極71と電気的に接続されている。同様に、櫛歯電極群21c,21e,21gの各外側には、円環状の電極65,67,69と、各電極65,67,69に囲まれた領域内にある円形の電極66,68,70とがそれぞれ配置されている。円環状の電極65,67,69は、それぞれ、配線42,43,44によって櫛歯電極75,78,81と電気的に接続されている。
【0034】
半櫛歯電極73、櫛歯電極71、半櫛歯電極72および円環状の電極63は、北(N)方向の入力を検知するための電極である。半櫛歯電極74、櫛歯電極75、半櫛歯電極76および円環状の電極65は、東(E)方向の入力を検知するための電極である。半櫛歯電極77、櫛歯電極78、半櫛歯電極79および円環状の電極67は、南(S)方向の入力を検知するための電極である。半櫛歯電極80、櫛歯電極81、半櫛歯電極82および円環状の電極69は、西(W)方向の入力を検知するための電極である。すなわち、PCB20上の接点電極群21の内、中間方向用接点電極は、当該中間方向(北東、南東、南西、北西)の各方向の入力を検知するための電極ではなく、当該中間方向の両隣の基準方向の入力を検知するための電極から構成されている。円環状の電極63,65,67,69は、それぞれ、北、東、南、西の各方向の入力を検知するための電極であるが、これらと導通可能な各アース用の電極64,66,68,70がアース用の電極61と接続されていない。したがって、メタルドーム51,52,53,54が押し込まれて、円環状の電極63,65,67,69がアース用の電極64,66,68,70と電気的に接続されると、各接点電極群21を押圧した際の機能と別の機能を発揮することができる。
【0035】
2.操作方向の特定方法
図7〜図10は、操作板上の所定方向を押圧操作した際の各接点電極群への接触領域と、その際の操作方向の特定方法を説明するための図である。なお、図7〜図10では、図の煩雑さを避けるため、円環状の電極63,65,67,69、アース用の電極64,66,68,70および配線41,42,43,44は、示されていない。
【0036】
図7に示すように、第一操作板12上の北方向(図7の上方向)をPCB20に向かって押圧操作した場合、接点用弾性体14a,14b,14hが、それぞれN、NEおよびNWという3つの接触領域にてPCB20上の接点電極群に接触する。ここで、当該3つの接触領域の各面積は、ほぼ等しいものとする。接触領域Nは、櫛歯電極71と櫛歯電極91とを接続するように接触する領域である。接触領域NEは、半櫛歯電極72,74と櫛歯電極92とを接続するように接触する領域である。また、接触領域NWは、半櫛歯電極73,82と櫛歯電極98とを接続するように接触する領域である。北方向を押圧操作しているため、北方向、北東方向および北西方向以外の5つの方向では、接点用弾性体14と接点電極群21は接触していない。櫛歯電極間(若しくは半櫛歯電極と櫛歯電極間)の電気抵抗値は、接触領域の面積に反比例して小さくなる。このため、一定の電流が流れるようにすると、その櫛歯電極間(若しくは半櫛歯電極と櫛歯電極間)の電圧値は、接触領域の面積に反比例して小さくなる。電圧値が小さいほどポイント(電圧値という計測値に連動する数値に相当)を高くすると、接触領域N,NE,NWに基づく北方向の電圧値に対して20ポイントを付与した場合、接触領域NEに基づく東方向の電圧値および接触領域NWに基づく西方向の電圧値に対して、例えばそれぞれ5ポイントが付与されるものとする。なお、南方向では櫛歯電極間(若しくは半櫛歯電極と櫛歯電極間)の電気抵抗値は無限大であり、ポイントは付与されない。この結果、表101に示すように、北方向に20ポイント、東方向に5ポイント、西方向に5ポイントが付与され、互いに反対方向のポイントを差し引くと、北方向の20ポイントのみが残る。この結果、北方向の合成ベクトル102が生成され、押圧操作方向は北方向と決定される。
【0037】
同様に、図8の場合にも、第一操作板12上の東方向(図8の右方向)をPCB20に向かって押圧操作した場合、接点用弾性体14c,14d,14bが、それぞれE、SEおよびNEという3つの接触領域にてPCB20上の接点電極群に接触する。ここで、当該3つの接触領域の各面積は、ほぼ等しいものとする。接触領域Eは、櫛歯電極75と櫛歯電極93とを接続するように接触する領域である。接触領域SEは、半櫛歯電極76,77と櫛歯電極94とを接続するように接触する領域である。また、接触領域NEは、半櫛歯電極72,74と櫛歯電極92とを接続するように接触する領域である。東方向を押圧操作しているため、東方向、南東方向および北東方向以外の5つの方向では、接点用弾性体14と接点電極群21は接触していない。西方向では櫛歯電極間(若しくは半櫛歯電極と櫛歯電極間)の電気抵抗値は無限大であり、ポイントは付与されない。この結果、図7の例と同様のポイントの付与を行うと、表103に示すように、例えば、東方向に20ポイント、北方向に5ポイント、南方向に5ポイントが付与され、互いに反対方向のポイントを差し引くと、東方向の20ポイントのみが残る。この結果、東方向の合成ベクトル104が生成され、押圧操作方向は東方向と決定される。
【0038】
また、図9に示すように、第一操作板12上の北東方向(図9の右上方向)をPCB20に向かって押圧操作した場合、接点用弾性体14b,14c,14aが、それぞれNE、EおよびNという3つの接触領域にてPCB20上の接点電極群に接触する。ここで、当該3つの接触領域の各面積は、ほぼ等しいものとする。接触領域NEは、半櫛歯電極72,74と櫛歯電極92とを接続するように接触する領域である。接触領域Eは、櫛歯電極75と櫛歯電極93とを接続するように接触する領域である。また、接触領域Nは、櫛歯電極71と櫛歯電極91とを接続するように接触する領域である。北方向および東方向の各トータルの接触面積は等しいため、各電圧値も等しくなる。さらに、北東方向を押圧操作しているため、北東方向、北方向および東方向以外の5つの方向では、接点用弾性体14と接点電極群21は接触していない。西方向および南方向では櫛歯電極間(若しくは半櫛歯電極と櫛歯電極間)の電気抵抗値は無限大であり、ポイントは付与されない。この結果、表105に示すように、例えば、北方向に15ポイント、東方向に15ポイントがそれぞれ付与される。北方向に付与されたポイントと東方向に付与されたポイントは同一であり、その差が無い。この結果、北東方向の合成ベクトル108が生成され、押圧操作方向は北東方向と決定される。
【0039】
次に、図10に示すように、第一操作板12上の東方向のやや北東寄りの方向をPCB20に向かって押圧操作した場合の押圧操作方向の決定方法を説明する。接点用弾性体14b,14c,14d,14aが、それぞれNE、E、SEおよびNの4つの接触領域にてPCB20上の接点電極群に接触する。ここで、接触領域NE、E、SEおよびNの各接触面積比が、10:10:8:2であるものとする。押圧操作の方向は、東方向のやや北東寄りの方向であるため、その方向から大きく外れた位置の接触領域Nは、他の接触領域NE、EおよびSEに比べて小さい。この例において、櫛歯電極75と櫛歯電極93との間の電圧値に対して付与されるポイントを10ポイントとすると、半櫛歯電極72,74と櫛歯電極92との間の電圧値に対して付与されるポイントも10ポイントである。半櫛歯電極76,77と櫛歯電極94との間の電圧値に対して付与されるポイントは8ポイントであり、櫛歯電極71と櫛歯電極91との間の電圧値に対して付与されるポイントは2ポイントである。西方向では櫛歯電極間(若しくは半櫛歯電極と櫛歯電極間)の電気抵抗値は無限大であり、ポイントは付与されない。この結果、表109に示すように、北方向に7ポイント、東方向に19ポイント、南方向に4ポイントがそれぞれ付与される。互いに反対方向のポイントを差し引くと、東方向の19ポイントと北方向の3ポイントが残る。この結果、東方向から少し北東寄りを向く合成ベクトル112が生成され、押圧操作方向は東方向のやや北東寄りの方向と決定される。
【0040】
表109に示すような場合、北と南は互いに反対方向である。このため、北方向に付与されたポイントと南方向のポイントの差し引きが行われる。一方、東方向と西方向の場合、西方向のポイントはないが、実際の演算において、東方向のポイント(19ポイント)から西方向のポイント(ゼロポイント)を差し引くことになる。
【0041】
合成ベクトル112は、基準方向(北、東、南、西)および中間方向(北東、南東、南西、北西)のいずれの方向とも完全に一致しない方向である。上述のようなベクトルの演算処理を行うことにより、多方向スイッチ部材2において予め設定された8方向と一致しない任意の方向およびその強さを特定することができる。この利点の一つは、第一操作板12をその周方向に沿ってなぞる、いわゆる回転操作を行った際に、時々刻々と変化するベクトルの変化を細かく検知できることにある。例えば、第一操作板12を真北の位置からその周方向に沿って東に向かってなぞる操作を行うと、櫛歯電極群21aの位置から櫛歯電極群21bの位置まで操作しなくても、その間の位置でベクトルの方向の変化を検知できる。例えば、操作開始から10度、あるいは15度といった低角段階で回転操作の検知が可能となる。また、例えばマップ内でカーソルを移動する場合にも、任意の位置へとカーソルを移動可能となる。このように、合成ベクトルから任意の方向を決定できるようにすると、電極群を多数設ける場合に比べて誤作動防止にもつながる。
【0042】
一方、合成ベクトル112のように、8方向のいずれにも合致しない方向を持つベクトルが常に操作方向であると認識してしまうと、8方向のいずれかの方向のキーの機能を発揮しようとした場合に、不都合が生じる。このため、上述のような回転操作以外の場合には、合成ベクトル112が8方向のいずれの方向の範囲内にあるかを判別するようにするのが好ましい。例えば、第一操作板12を、中心角45度毎の8領域に分け、それぞれを、北、北東、東、南東、南、南西、西、北西の8方向に割り当てる。合成ベクトル112は、東方向の領域内に存在することになるので、東方向を操作方向と決定する。このように、複数の方向キーを押圧した場合に生成される合成ベクトルがどの領域に存在するかによって、操作方向を8方向のいずれかに決定すると、回転操作以外の操作を行う際に支障がなくなる。
【0043】
3.制御部の概略構成
図11は、図1に示す電子機器の本体に備えられる制御部の例示的なハードウェアの構成図である。
【0044】
制御部120は、多方向スイッチ部材2における押圧操作の方向を決定する機能を有する構成部であり、中央処理装置(Central Processing Unit: CPU)121と、読み出し専用のメモリ(Read Only Memory: ROM)122と、読み書き可能なメモリ(Random Access Memory: RAM)123と、ビデオRAM(Video Random Access Memory: VRAM)124と、電気若しくは電圧の操作でデータの消去若しくは書き換えを可能としたメモリ(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory: EEPROM)125と、インターフェイス(Interface: I/F)126とを備える。制御部120は、多方向スイッチ部材2のPCB20上あるいはPCB20以外に設けることができる。
【0045】
ROM122は、CPU121の制御用プログラム等の読み出し専用の情報を格納したメモリである。RAM123は、オペレーションシステム(Operation System: OS)、各種アプリケーションソフト、この実施の形態における押圧操作方向を決定するためのコンピュータプログラム等を格納した、読み書き可能なメモリである。VRAM124は、種々のデータを携帯電話1の表示部に表示する際に、そのデータを一時的にストックしておくメモリである。EEPROM125も、一時的にデータを書き込んでおくメモリである。インターフェイス126は、制御部120の外部からの信号を受信あるいはその外部に信号を送信する部分である。ここで、「制御部120の外部」には、「携帯電話1の外部」も含まれる。
【0046】
CPU121は、導電体である各接点用弾性体14が、それぞれの基準方向にある第一電極としての櫛歯電極71、櫛歯電極75、櫛歯電極78および櫛歯電極81またはこれと接続される第二電極としての半櫛歯電極72,74、半櫛歯電極76,77、半櫛歯電極79,80および半櫛歯電極82,73と、それと近接配置されるアース電極としての櫛歯電極91、櫛歯電極92、櫛歯電極93、櫛歯電極94、櫛歯電極95、櫛歯電極96、櫛歯電極97および櫛歯電極98とを電気的に接続する際にその接続の度合いに応じて変化する電気抵抗値、電圧値若しくは電流値を計測する計測手段と、当該計測手段により計測された計測値若しくはその計測値に連動する数値であるポイントと、各計測値若しくはポイントを有する基準方向とに基づき、基準方向別にベクトルを生成するベクトル生成手段と、ベクトルを合成して合成ベクトルを生成する合成ベクトル生成手段と、その合成ベクトルに基づいて、少なくとも操作方向を特定する操作方向特定手段とを兼ねる。操作方向特定手段は、操作方向のみならず、押圧の大きさも特定するようにしても良い。
【0047】
メモリであるROM122、RAM123およびEEPROM125の内の少なくとも1つには、各接点用弾性体14が各櫛歯電極群21と接触した際の第一電極である櫛歯電極71等とアース電極である櫛歯電極91等との間(若しくは第二電極である半櫛歯電極72等とアース電極である櫛歯電極92との間)の電気抵抗値、電圧値あるいは電流値に応じたポイントの値を記述したテーブル若しくは数式を格納することができる。ここで、「ポイント」は、電圧値等の計測値と対応する数値の他、かかる計測値そのものも含むように広義に解釈される。また、ポイントは、図7〜図10の表101,103,105,109に例示した数値以外に、どのような数値でも採用できる。
【0048】
4.押圧操作方向を特定する処理の流れ
図12は、多方向スイッチ部材を押圧操作した際の操作方向を特定するための処理の流れを示すフローチャートの一例である。
【0049】
操作者が多方向スイッチ部材2の所定方向を押圧操作すると、CPU121は、計測手段として、各接点電極群21における電圧値等を計測する(ステップST1)。次に、CPU121は、ベクトル生成手段として、当該計測値若しくはその計測値に連動する数値であるポイントと、各計測値若しくはポイントを有する基準方向(例えば、北方向、東方向)とに基づき、基準方向別にベクトルを生成する(ステップST2)。次に、CPU121は、合成ベクトル生成手段として、基準方向別のベクトルを合成して合成ベクトルを生成する(ステップST3)。次に、CPU121は、操作方向特定手段として、その合成ベクトルに基づいて、操作方向と押圧の強度とを特定する(ステップST4)。ステップST4では、操作方向のみを特定しても良い。
【0050】
図13は、多方向スイッチ部材を押圧操作した際の操作方向を特定するための処理の流れを示すフローチャートであって、図12に示すフローチャートを変形した別の例である。
【0051】
操作者が多方向スイッチ部材2の所定方向を押圧操作すると、CPU121は、計測手段として、各接点電極群21における電圧値等を計測する(ステップST11)。次に、CPU121は、ベクトル生成手段として、正反対の2つの基準方向(例えば、北と南、あるいは東と西)に計測値がそれぞれ存在する場合に、北と南(すなわち上下)間および東と西(すなわち左右)間の各計測値若しくはこれに連動するポイントを差し引いて、2つの基準方向の内の一方の基準方向のベクトルを生成する(ステップST12)。次に、CPU121は、合成ベクトル生成手段として、基準方向別のベクトルを合成して合成ベクトルを生成する(ステップST13)。次に、CPU121は、操作方向特定手段として、その合成ベクトルに基づいて、操作方向と押圧の強度とを特定する(ステップST14)。前述のステップST4と同様、ステップST14では、操作方向のみを特定しても良い。
【0052】
5.PCB上の接点電極群等の形態の変形例
図14は、図7に示す接点電極群および配線の形態の変形例を示す図である。
【0053】
図14(14A)に示すように、櫛歯電極71と櫛歯電極91、櫛歯電極75と櫛歯電極93、櫛歯電極78と櫛歯電極95、櫛歯電極81と櫛歯電極97とを、それぞれ電極62のある中心から外側と内側にそれぞれ配置するのではなく、各接点電極群21をつなぐ円の周方向に沿って隣り合う位置に配置しても良い。さらに、櫛歯電極91,92,93,94,95,96,97,98を、それぞれ配線40によって個別にアース用の電極61に接続しても良い。
【0054】
また、図14(14B)に示すように、櫛歯電極ではなく、円を略半分に分割した半円形状の電極あるいは円を略4分の1に分割した扇形状の電極を用いることもできる。具体的には、第一電極である半円形電極131とアース電極である半円形電極151とを各接点電極群21をつなぐ円の周方向に沿って隣り合う位置に配置し、北方向の基準方向用接点電極群を形成する。また、第二電極である扇形電極132および扇形電極134を周方向に沿って隣り合う位置に配置し、アース電極である半円形電極152を扇形電極132,134に対して内側に隣り合う位置に配置し、北東方向の中間方向用接点電極群を形成する。第一電極である半円形電極135とアース電極である半円形電極153とを周方向に沿って隣り合う位置に配置し、東方向の基準方向用接点電極群を形成する。また、第二電極である扇形電極136および扇形電極137を周方向に沿って隣り合う位置に配置し、アース電極である半円形電極154を扇形電極136,137に対して内側に隣り合う位置に配置し、南東方向の中間方向用接点電極群を形成する。第一電極である半円形電極138とアース電極である半円形電極155とを周方向に沿って隣り合う位置に配置し、南方向の基準方向用接点電極群を形成する。また、第二電極である扇形電極139および扇形電極140を周方向に沿って隣り合う位置に配置し、アース電極である半円形電極156を扇形電極139,140に対して内側に隣り合う位置に配置し、南西方向の中間方向用接点電極群を形成する。第一電極である半円形電極141とアース電極である半円形電極157とを周方向に沿って隣り合う位置に配置し、西方向の基準方向用接点電極群を形成する。また、第二電極である扇形電極142および扇形電極133を周方向に沿って隣り合う位置に配置し、アース電極である半円形電極158を扇形電極142,133に対して内側に隣り合う位置に配置し、北西方向の中間方向用接点電極群を形成する。また、図14(14A)に示す例と同様に、半円形電極151,152,153,154,155,156,157,158を、それぞれ配線40によって個別にアース用の電極61に接続しても良い。
【0055】
なお、図14(14B)に示す接点電極群は、図14(14A)に示す接点電極群と比べて、押圧量が小さい場合の検知感度が劣る可能性がある。例えば、北方向の接点電極群の場合、接点用弾性体14aが半円形電極131の右側に接触しても半円形電極151には接触しない。他の基準方向(東方向、南方向および西方向)の場合も同様である。このため、櫛歯電極を用いた図14(14A)の接点電極群の形態の方が比較的、好ましい。
【0056】
また、図14(14C)に示すように、4つの基準方向において、図14(14B)に示す2つの半円形電極を、電極62のある中心から外側と内側に隣り合うように配置した接点電極群を用いても良い。この形態の場合も、図14(14B)に示す形態と同様、押圧量が小さい場合の検知感度が劣る可能性がある。このため、櫛歯電極を用いた図14(14A)の接点電極群の形態の方が比較的、好ましい。
【0057】
6.その他の実施の形態
以上、本発明の多方向スイッチ部材および電子機器の好適な実施の形態について説明してきたが、本発明は、上述の実施の形態に限定されることなく、種々変形を施して実施可能である。
【0058】
例えば、互いに交差する直線の延出方向となる4つの基準方向は、北方向、東方向、南方向および西方向のような互いに直交する2直線の両端方向ではなく、90度以外の所定角度で交差する2直線の両端方向であっても良い。また、基準方向を、北東、南東、南西および北西の4方向とし、中間方向を、北、東、南、西の4方向としても良い。
【0059】
導電体は、各方向別に独立しておらず、2以上の方向に共通の1または複数の導電体であっても良い。また、導電体は、接点用弾性体14のようなゴム状弾性体に限定されず、例えば導電性を有する樹脂あるいは金属(比較的柔らかい方が好ましい)からなる成形体であっても良い。
【0060】
第一電極およびそれと電気的に接続可能なアース電極を共に櫛歯電極とし、第二電極およびそれと電気的に接続可能なアース電極を扇形電極および半円形電極とする接点電極群のパターンをPCB20に形成するようにしても良い。また、第一電極およびそれと電気的に接続可能なアース電極を半円形電極とし、第二電極およびそれと電気的に接続可能なアース電極をそれぞれ半櫛歯電極および櫛歯電極としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、各種電子機器のスイッチに利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 携帯電話(電子機器)
2 多方向スイッチ部材
10 操作板
20 印刷回路基板
14 接点用弾性体(導電体)
21 接点電極群
21a,21c,21e,21g 基準方向用接点電極群
21b,21d,21f,21h 中間方向用接点電極群
71,75,78,81 櫛歯電極(第一電極)
72,73,74,76,77,79,80,82 半櫛歯電極(第二電極)
91,92,93,94,95,96,97,98 櫛歯電極(アース電極)
120 制御部
121 CPU(計測手段、ベクトル生成手段、合成ベクトル生成手段、操作方向特定手段)
131,135,138,141 半円形電極(第一電極)
132,133,134,136,137,139,140,142 扇形電極(第二電極)
151,152,153,154,155,156,157,158,159 半円形電極(アース電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに交差する直線の延出方向となる4つの基準方向と、当該4つの基準方向の内の少なくとも1組の隣り合う2方向の間にある1つの中間方向とを含む複数方向に、それぞれ押圧操作可能な多方向スイッチ部材であって、
その裏側に向かって押圧操作できる操作板と、
当該操作板の裏側に配置され、当該操作板上の所定方向における裏側への押圧を受けて、押圧操作されたことを検知するための印刷回路基板と、
を備え、
上記操作板は、その裏側の上記複数方向の各方向にて、上記印刷回路基板側に突出する1または複数の導電体を備え、
上記印刷回路基板は、
上記4つの基準方向において、互いに非接触状態で近接する1つの第一電極および1つのアース電極からなる基準方向用接点電極群と、
上記中間方向において、互いに非接触状態で近接する2つの第二電極および1つのアース電極からなる中間方向用接点電極群と、
を備え、
2つの上記第二電極は、上記中間方向の両側に位置する各基準方向の上記第一電極に隣り合うようにそれぞれ電気的に接続されていることを特徴とする多方向スイッチ部材。
【請求項2】
前記4つの基準方向は、互いに90度間隔で形成され、
前記中間方向は、隣り合う2つの前記基準方向の間に1つずつ形成され、
8方向に押圧操作できることを特徴とする請求項1に記載の多方向スイッチ部材。
【請求項3】
前記中間方向用接点電極群は、櫛歯形状の2つの前記第二電極をそれぞれ櫛歯形状の1つの前記アース電極と互いにかみ合わせるように配置した電極群であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多方向スイッチ部材。
【請求項4】
前記基準方向用接点電極群は、櫛歯形状の1つの前記第一電極と櫛歯形状の1つの前記アース電極とを互いにかみ合わせるように配置した電極群であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の多方向スイッチ部材。
【請求項5】
複数の方向に押圧操作できる多方向スイッチ部材と、
当該多方向スイッチ部材の内若しくは外に設けられ、スイッチの押圧操作された方向を特定する制御部と、
を備える電子機器であって、
上記多方向スイッチ部材は、
互いに交差する直線の延出方向となる4つの基準方向と、当該4つの基準方向の内の少なくとも1組の隣り合う2方向の間にある1つの中間方向とを含む複数方向に、それぞれ押圧操作可能であって、
その裏側に向かって押圧できる操作板と、
当該操作板の裏側に配置され、当該操作板上の所定方向における裏側への押圧を受けて、その押圧されたことを検知するための印刷回路基板と、
を備え、
上記操作板は、その裏側の複数方向の各方向にて、上記印刷回路基板側に突出する1または複数の導電体を備え、
上記印刷回路基板は、
上記4つの基準方向において、互いに非接触状態で近接する1つの第一電極および1つのアース電極からなる基準方向用接点電極群と、
上記中間方向において、互いに非接触状態で近接する2つの第二電極および1つのアース電極からなる中間方向用接点電極群と、
を備え、
2つの上記第二電極は、上記中間方向の両側に位置する各基準方向の上記第一電極に隣り合うようにそれぞれ電気的に接続され、
上記制御部は、
上記導電体が、上記基準方向にある上記第一電極またはこれと接続される上記第二電極と、それと近接配置される上記アース電極とを電気的に接続する際にその接続の度合いに応じて変化する電気抵抗値、電圧値若しくは電流値を計測する計測手段と、
上記計測手段により計測された計測値若しくはその計測値に連動する数値と、各計測値若しくは上記数値を有する上記基準方向とに基づき、上記基準方向別にベクトルを生成するベクトル生成手段と、
上記ベクトルを合成して合成ベクトルを生成する合成ベクトル生成手段と、
上記合成ベクトルに基づいて、少なくとも操作方向を特定する操作方向特定手段と、
を備えることを特徴とする電子機器。
【請求項6】
前記ベクトル生成手段は、正反対の2つの前記基準方向に前記計測値がそれぞれ存在する場合に、それらの前記計測値若しくは前記数値を差し引いて、2つの前記基準方向の内の一方の前記基準方向のベクトルを生成することを特徴とする請求項5に記載の電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−81936(P2011−81936A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231250(P2009−231250)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】