説明

多段拡径杭及び構造物

【課題】必要な鉛直支持力が得られるとともに施工費用を低減することができる多段拡径杭及び構造物を得る。
【解決手段】多段拡径杭20は、軟弱層22と支持層24とを含む地盤12に埋設される軸部28と、軸部28の軸方向の複数箇所に形成された拡径部30(中間拡径部32、34、及び拡底部36)と、を有し、複数の拡径部30は、各支持層24に配置されるとともに各支持層24の厚さに合わせて応力伝播範囲が各支持層24内となるように外径が決められている。これにより、多段拡径杭20として必要十分な鉛直支持力を得ることができる。さらに、必要以上に大きな各拡径部30を構築することがなくなり、従来のように各拡径部の外径を同じにしているものに比べて、施工費用を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多段拡径杭及び構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の大型化、高層化に伴い、基礎杭には高い鉛直支持性能及び引抜抵抗性能が要求されており、杭の支持力を増大させるために、鉛直方向の複数箇所で杭を拡径した多段拡径杭が用いられている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の多段拡径杭は、主として中間拡径部の外径と拡底部の外径を等しくしている。
【0003】
しかし、構造物が建設される敷地において、中間拡径部を定着する支持層厚が中間拡径部の外径の大きさに対して比較的薄い地盤構成の場合、中間拡径部の底面抵抗力は、支持層だけではなく支持層の直下に堆積する地層の力学特性(強度、変形剛性など)の影響を受けることになる。このため、特許文献1のように、中間拡径部の外径と拡底部の外径を等しくした多段拡径杭では、支持層の直下に堆積する地層の力学特性が支持層に比べて劣る場合(例えば、軟弱な粘土層などの場合)、一部の中間拡径部の外径が必要以上に大きくなることにより、中間拡径部の底面抵抗力に寄与する地盤の影響範囲が軟弱層にまで及び、中間拡径部の底面抵抗力が低下して、必要な鉛直支持力が得られないことがある。また、中間拡径部の外径が必要以上に大きくなるために、施工費用を低減することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−265321
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、必要な鉛直支持力が得られるとともに施工費用を低減することができる多段拡径杭及び構造物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る多段拡径杭は、軟弱層と軟弱層よりも硬い支持層とを含む複数の層を有する地盤に埋設される軸部と、前記軸部の軸方向の複数箇所に形成され前記軸部の外径よりも大径の拡径部と、を有する多段拡径杭であって、複数の前記拡径部は、前記支持層に配置されるとともに前記支持層の厚さに合わせて外径が決められている。
【0007】
上記構成によれば、杭頭部に荷重が作用して多段拡径杭が鉛直下方向に押し込まれると、拡径部直下の地盤内応力が増加するが、応力伝播範囲が支持層内となるように拡径部の外径が決められているので、地盤が発揮する鉛直支持力を十分に引き出すことができる。これにより、多段拡径杭として必要十分な鉛直支持力を得ることができる。さらに、支持層の厚さに合わせて拡径部の外径が決められているので、必要以上に大きな拡径部を構築することがなくなり、従来のように各拡径部の外径を同じにしているものに比べて、施工費用を低減することができる。
【0008】
本発明の請求項2に係る多段拡径杭は、前記拡径部の外径は、前記支持層の厚さが薄いところよりも厚いところの方が大きい。この構成によれば、支持層の薄いところでは拡径部の外径を小さくして小さな鉛直支持力を得て、支持層の厚いところでは拡径部の外径を大きくして大きな鉛直支持力を得る。従って、最小限の杭の材料費で地盤が発揮する鉛直支持力を最大限まで引き出すことができ、多段拡径杭として必要十分な鉛直支持力を得ることができる。
【0009】
本発明の請求項3に係る多段拡径杭は、前記拡径部は、前記軸部の下端に形成される拡底部と、前記軸部の中間に形成される中間拡径部と、で構成され、前記拡底部の外径は、前記中間拡径部が負担する鉛直支持力と一本当りの鉛直支持力との差から求められる。この構成によれば、拡底部が十分厚い支持層に設けられる場合に、支持層の応力伝播深さで拡底部の外径を決めないので、拡底部を必要以上に大きくすることがなくなる。これにより、費用削減及び工期短縮が可能となる。
【0010】
本発明の請求項4に係る多段拡径杭は、前記軸部の外径は、上下方向で等しい。この構成によれば、拡径部のみ地盤の層構成に合わせて外径を決定し、軸部の外径は変化させないので、施工が容易となる。
【0011】
本発明の請求項5に係る多段拡径杭は、少なくとも前記拡径部の下面が前記支持層に根入している。この構成によれば、支持に必要な部分だけ支持層へ根入しているので、多段拡径杭として効率的に鉛直支持力を得ることができる。
【0012】
本発明の請求項6に係る構造物は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の多段拡径杭と、前記軸部の上に構築された躯体と、を有する。この構成によれば、多段拡径杭の鉛直支持力を上げることができる。さらに、支持層の厚さに合わせて拡径部の外径が決められているので、必要以上に大きな拡径部を構築することがなくなり、従来のように各拡径部の外径を同じにしているものに比べて、施工費用を低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上記構成としたので、必要な鉛直支持力が得られるとともに施工費用を低減することができる多段拡径杭及び構造物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る建物全体の構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る多段拡径杭の施工状態を示す説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係る中間拡径部の模式図である。
【図4】本発明の実施形態に係る中間拡径部の応力伝播状態を示す模式図(平面図及び断面図)である。
【図5】本発明の実施形態に係る中間拡径部の鉛直支持力を試算するための模式図である。
【図6】本発明の実施形態に係る中間拡径部の根入れ状態を示す模式図である。
【図7】(a)従来例の多段拡径杭の模式図である。(b)本実施形態の多段拡径杭の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の多段拡径杭及び構造物の実施形態を図面に基づき説明する。図1には、構造物の一例としての建物10が示されている。建物10は、水平方向(矢印X方向)に間隔をあけて地盤12に埋設された複数の多段拡径杭20(20A、20B、20C、20D)と、多段拡径杭20上(地盤12上)に構築された躯体の一例としての複数の柱14及び梁16とで構成されている。
【0016】
地盤12は、一例として、複数の軟弱層22(22A、22B、22C)と、軟弱層22よりも硬い複数の支持層24(24A、24B、24C)とが交互に積層された構成となっている。ここで、支持層24であることの判定方法としては、標準貫入試験方法(JIS A 1219)で得られるN値が50以上の層が5.0m以上確認できれば、そこを支持層とする規定(日本建築学会による)が用いられる。なお、多段拡径杭20A、20B、20C、20Dは同様の構成であるため、以後は多段拡径杭20Aについて説明し、多段拡径杭20B、20C、20Dの説明は省略する。
【0017】
多段拡径杭20Aは、上下方向(矢印Z方向)を軸方向とする円柱状の軸部28と、軸部28の外周面から径方向外側へ拡径された拡径部30とで構成されている。軸部28は、軟弱層22Aに形成された軸部28Aと、支持層24A及び軟弱層22Bに形成された軸部28Bと、支持層24B及び軟弱層22Cに形成された軸部28Cとで構成されており、本実施形態では、軸部28Aの外径、軸部28Bの外径、軸部28Cの外径が同じ大きさとなっている。なお、軸部28A、28B、28Cの外径が同じとは、設計上同じであることを意味しており、軸部28A、28B、28Cの外径に施工により生じる設計中心値からの誤差分の違いがあっても同じものとみなす。
【0018】
一方、拡径部30は、支持層24Aの上部に形成された中間拡径部32と、支持層24Bの上部に形成され最外径が中間拡径部32の最外径よりも大きい中間拡径部34と、支持層24Cの上部に形成され最外径が中間拡径部32の最外径よりも小さい拡底部36とで構成されている。なお、中間拡径部32、中間拡径部34、及び拡底部36の最外径の決定方法については後述する。また、各拡径部30の数は、本実施形態に限定されるものではなく、2つ以上の複数で適宜選択されるものである。
【0019】
次に、多段拡径杭20を掘削するための掘削機40について説明する。
【0020】
図2に示すように、多段拡径杭20(図1参照)の施工には、一例として掘削機40を用いる。掘削機40は、クレーン42と、旋回装置44と、位置決めアーム46とにより構成されている。クレーン42は、予め、他の掘削手段を用いて地盤12を下方向(矢印DOWN方向)に掘削して形成された杭孔52内にケリーバ48を吊り下げており、ケリーバ48を矢印UP、DOWN方向に昇降させるようになっている。
【0021】
また、クレーン42から張り出した位置決めアーム46の先端には旋回装置44が取付けられている。旋回装置44は、ケリーバ48を矢印R方向に旋回させるようになっており、ケリーバ48の下端部48Aには、径方向に拡径して杭孔52の掘削を行う拡径バケット50の上端部がピン(図示省略)で連結されている。なお、杭孔52内にはベントナイト等の安定液が図示しない補給管から注入されており、孔壁の倒壊を防止している。
【0022】
拡径バケット50は、杭孔52の中央に配置され回転中心となる中心軸54を有しており、中心軸54の周囲にはリンク機構56が設けられている。リンク機構56は、油圧シリンダ(図示省略)の伸縮動作によって杭孔52の外径方向に拡縮される複数のアーム部材58を有しており、アーム部材58における中心軸54とは反対側の端部に拡翼部60が溶接されている。
【0023】
拡翼部60は、平断面が円弧状に形成されており、中心軸54を中心として4方向(90°おき)に配置されている。また、拡翼部60には、掘削用のビット(図示省略)が複数設けられている。このような構成により、拡径バケット50は、旋回装置44がケリーバ48を旋回させると、中心軸54と一体に旋回して径方向の拡径量に応じて杭孔52の内周壁を掘削するようになっている。なお、拡径バケット50の上部には、ケリーバ48及び中心軸54の中心が杭孔52の中心から大きくずれないように、杭孔52の内壁と接触するスタビライザ62が設けられている。
【0024】
次に、多段拡径杭20の施工手順について説明する。
【0025】
図2の地盤12において、予め、他の掘削手段を用いて上下方向に軸部28を掘削する。軸部28には、前述のようにベントナイト等の安定液Lが補給されており、孔壁の倒壊を防止している。そして、クレーン42がケリーバ48を矢印down方向へ降下させ、縮径した状態の拡径バケット50を軸部28の底部に降下させる。
【0026】
続いて、旋回装置44が駆動され、ケリーバ48が矢印R方向に旋回する。ここで、油圧シリンダ(図示省略)を動作させることでリンク機構56のアーム部材58が水平方向に移動して、拡翼部60の拡径が行われる。そして、拡翼部60は旋回しながら拡径し、掘削ビット(図示省略)によって軸部28の内壁が掘削され、拡径部30が形成される。このようにして、1箇所の拡径部30が形成される。
【0027】
なお、多段拡径杭20を構築するときは、予め設定された最深部まで他の掘削手段により軸部28を掘削した後、拡径部30の設定箇所で拡翼部60を旋回しながら拡径して掘削し、拡翼部60を一旦縮径して、次の拡径部30の設置箇所に移動する一連の工程を繰り返すことにより、複数の拡径部30(中間拡径部32、34、及び拡底部36)を形成する。そして、各拡径部30の掘削後、縮径された拡径バケット50が引き上げられ、杭孔52の内部に鉄筋かご(図示省略)が配置されて、トレミー管(図示省略)を介して杭孔52内にコンクリートが打設される。これにより、多段拡径杭20が完成する。
【0028】
次に、拡径部30の外径の決定方法について説明する。ここでは、まず、地盤12内の応力の伝播範囲について説明する。
【0029】
図3には、中間拡径部34の直下地盤(図1の地盤12)の応力の伝播状態が模式図で示されている。多段拡径杭20の杭頭部(軸部28A及び中間拡径部32の図示は省略している)に荷重Rが作用し、多段拡径杭20が鉛直下方向に押込まれると、中間拡径部34直下の地盤内の応力が増加する。そこで、地盤12を弾性体と仮定して、中間拡径部34直下の地盤内の応力の伝播範囲について検討する。なお、中間拡径部32も同様の手順で外径を求められるため、中間拡径部32についての説明は省略する。
【0030】
図3(右側)に示すように、中間拡径部34における押込み荷重を円形等分布荷重pと仮定する。また、中間拡径部34直下の地盤内応力増分をσZ1、中間拡径部34の外径をD、軸部28Cの外径をdとする。ここで、σZ1/pについてコンター線(等値線)を求めると、図4に示すような地盤内の応力の伝播範囲(応力球根)が得られる。
【0031】
図4には、σZ1/p=0.1、0.2、0.3、0.5、0.7、0.9の等値線が太い実線で示されている。σZ1/pの値は、小さくなるほど中間拡径部34における押込み荷重が地盤内の応力分布に及ぼす影響が小さくなることを示している。例えば、中間拡径部34の立上り部下端(点E1、E2)から鉛直下方向へ中間拡径部34の外径Dの約1倍以上離れた地盤範囲においては、σZ1/pの値は0.2(円形等分布荷重pの20%)より小さくなっており、中間拡径部34が押込まれることによる地盤内の応力の伝播による影響が小さいことが分かる。地盤内の応力の伝播による影響が小さいということは、必要以上に中間拡径部34の外径Dを大きくしても無駄があることを意味している。
【0032】
ここで、後述する従来例の多段拡径杭200(図7(a)参照)のように、中間拡径部を定着する支持層の厚さが中間拡径部の外径に対して比較的薄い地盤構成の場合、中間拡径部の底面抵抗力は、支持層だけではなく支持層の直下に堆積する地層の力学特性(強度、変形剛性など)の影響を受けることになる。そして、支持層直下に堆積する地層の力学特性が支持層に比べ劣る場合(例えば、軟弱な粘土層など)は、中間拡径部の外径を大きくすると、中間拡径部の底面抵抗力に寄与する地盤内応力の伝播範囲が軟弱層にまで及ぶため、中間拡径部の底面抵抗力が低下してしまうことになる。
【0033】
次に、中間拡径部34の底面抵抗力に寄与する地盤内の応力の伝播範囲Sについて説明する。
【0034】
図5には、中間拡径部34の模式図が示されている。ここで、支持層24Bを砂礫層、軟弱層22Cを粘性土層として、中間拡径部34を砂礫層に定着する場合を想定し、砂礫層直下の粘性土層も考慮した中間拡径部34の鉛直支持力を試算する。中間拡径部34の外径をD1、軸部28Cの外径をd、支持層24Bの層厚をH、軟弱層22への半外径の拡大量を2/Hとすると、軟弱層22C上端における地盤内応力の分散面積Acは、(1)式で表される。(1)式において、一例としてD=4.0m、d=1.8m、H=3.0mとすると、分散面積Ac=35.9mとなる。
【0035】
【数1】


軟弱層22C上端における地盤12の鉛直応力増分△σzは、中間拡径部34の極限底面抵抗力度をqとして、(2)式で表される。ここで、支持層24Bの厚さが十分に厚い場合の多段拡径杭20先端部における極限先端支持力度に相当する値を7500kN/mと仮定すると、(1)式の結果と(2)式とから、軟弱層22C上端における地盤12の鉛直応力増分△σz=2089kN/mと求められる。
【0036】
【数2】


一方、多段拡径杭20の形状係数をα、β、支持力係数をN、Nγ、N、地盤12の粘着力をc、多段拡径杭20の幅をB(=D)、根入れ深さをD、地盤12の水中単位体積重量をγ、根入れ部分の土の水中単位体積重量をγとすると、軟弱層22C上端における極限鉛直支持力度qは(3)式で表せる(建築基礎構造設計指針 日本建築学会 pp.116−117、2001)。
【0037】
【数3】


多段拡径杭20が円形であるとすると、形状係数α=1.2、β=0.3となる。また、せん断抵抗角φ=0°の場合、支持力係数N=5.14、Nγ=0.0、N=1.0となる。ここで、地盤12の粘着力c=200kN/m、多段拡径杭20の幅B=D=4.0m、根入れ深さD=13.0m(図5より)、根入れ部分の土の水中単位体積重量をγ=8kN/mと仮定すると、(3)式により、極限鉛直支持力度q=1338kN/mと求められる。
【0038】
(1)式〜(3)式を用いた算出結果から△σz<qとなり、△σzは中間拡径部34の極限底面抵抗力度qから得られるため、中間拡径部34の極限底面抵抗力は、軟弱層22Cの極限鉛直支持力に依存することがわかる。なお、中間拡径部34の面積Aは(4)式により求められ、中間拡径部34の極限底面抵抗力度qは、極限鉛直支持力度qu、分散面積Ac、及び中間拡径部34の面積Aを用いて(5)式により求められる。
【0039】
【数4】

【0040】
【数5】


ここで、上記演算により得られた極限鉛直支持力度q=1338kN/m、(4)式、及び(5)式を用いて、中間拡径部34の極限底面抵抗力度qを逆算すると、q=4800kN/mとなり、支持層24Bの厚さが十分に厚い場合の中間拡径部34の極限底面抵抗力度q=7500kN/m(仮定した値)と比較して、小さい値となっていることが分かる。これらの演算結果から、中間拡径部34を定着する支持層24Bの厚さが中間拡径部34の外径に対して比較的薄い地盤構成の場合、中間拡径部34の底面抵抗力は、支持層24Bだけではなく支持層24Bの直下に堆積する軟弱層22Cの力学特性の影響を受け、中間拡径部34の外径を大きくすると、中間拡径部34の底面抵抗力が低下してしまうことが確認できた。
【0041】
以上の検討結果をふまえ、図6に示すように、本実施形態の多段拡径杭20では、中間拡径部34直下の地盤12内の応力の伝播範囲S(図4のσZ1/pに相当)を支持層24B内に留めるため、中間拡径部34の外径をD、中間拡径部34の支持層24Bへの根入れ深さをt、中間拡径部34を定着する支持層24Bの厚さをHとして、D≦(H−t)の関係を満足するように中間拡径部34の設置深度及び外径を設定している。そして、少なくとも中間拡径部34の下面34Aが支持層24Bに根入れしている。なお、設置深度及び外径は、中間拡径部32及び拡底部36においても同様に設定されるが、拡底部36の外径は、中間拡径部32、34が負担する鉛直支持力と、多段拡径杭20の一本当りで必要とされる鉛直支持力との差から求められる。
【0042】
次に、本発明の実施形態の作用について説明する。
【0043】
図7(a)には、本実施形態との比較対象として、従来例の多段拡径杭200が模式的に示されている。多段拡径杭200は、図示の上下方向を軸方向とする円柱状の軸部202と、軸部202の外周面から径方向外側へ拡径された拡径部210とで構成されている。軸部202は、軟弱層22Aに形成された軸部202Aと、支持層24A及び軟弱層22Bに形成された軸部202Bと、支持層24B及び軟弱層22Cに形成された軸部202Cとで構成されており、軸部202Aの外径、軸部202Bの外径、軸部202Cの外径が同じ大きさ(外径d)となっている。また、拡径部210は、支持層24Aの上部に形成された中間拡径部204と、支持層24Bの上部に形成された中間拡径部206と、支持層24Cの上部に形成された拡底部208とで構成されている。なお、中間拡径部204の外径をD、中間拡径部206の外径をD、拡底部208の外径をDとすると、D=D=Dとなっている。
【0044】
一方、図7(b)には、本実施形態の多段拡径杭20が模式的に示されている。多段拡径杭20は、前述のように、図示の上下方向を軸方向とする円柱状の軸部28(28A、28B、28C)と、軸部28の外周面から径方向外側へ拡径された拡径部30(中間拡径部32、34、及び拡底部36)とで構成されている。各軸部28の外径は同じ大きさ(外径d)となっている。なお、中間拡径部32の外径をD、中間拡径部34の外径をD、拡底部36の外径をDとすると、D<D及びD>D3となっている。
【0045】
ここで、従来例の多段拡径杭200と本実施形態の多段拡径杭20との比較を行うために試算した結果の一例を表1に示す。表1には、各拡径部の外径D、各軸部の外径d、各支持層の層厚H、根入れ深さD、土の単位体積重量γ、土の粘着力c、各拡径部の面積A、及び分散面積Acの各パラメータと、これらのパラメータを(1)式、(3)式、(4)式、(5)式に代入して得られる極限鉛直支持力度q、極限底面抵抗力度qとが示されている。なお、極限鉛直支持力Qは、(6)式に示すように、拡径部の面積Aと極限鉛直支持力度qとの積で求められる。また、各支持層において、拡径部の支持層への根入れ深さ(図6のtに相当)は、0.5mに設定している。
【0046】
【数6】

【0047】
【表1】


表1より、本実施形態の多段拡径杭20(図7(b)参照)は、従来例の多段拡径杭200(図7(a)参照)に比べて、極限底面抵抗力度qが等しいか大きくなっており、さらに、全体の体積ΣVが65%まで縮減されていることが分かる。ここで、多段拡径杭全体の鉛直支持力ΣQmを全体の体積ΣVで除した支持力効率ΣQm/ΣV(多段拡径杭の単位体積当たりの支持力)を求めると、表2に示すように本実施形態の多段拡径杭20が従来例の多段拡径杭200に比べて、支持力効率が25%向上していることがわかる。
【0048】
【表2】


図7(a)、(b)に示すように、本実施形態の多段拡径杭20の地盤内応力の伝播範囲Sを上から順にS1、S2、S3とし、従来例の多段拡径杭200の地盤内応力の伝播範囲Sを上から順にS4、S5、S6とする。ここで、本実施形態の多段拡径杭20の支持力効率が、従来例の多段拡径杭200の支持力効率に比べて大きくなるのは、従来例の多段拡径杭200における伝播範囲S4が、支持層24Aの領域を超えて軟弱層22Bまで広がっているのに対し、本実施形態の多段拡径杭20における伝播範囲S1、S2、S3がいずれも支持層24A、24B、24C内となっているためと考えられる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態の多段拡径杭20によれば、杭頭部に荷重が作用して鉛直下方向に押し込まれたときの地盤内応力の伝播範囲Sが各支持層24(24A、24B、24C)内となるように、各拡径部30(中間拡径部32、34、及び拡底部36)の外径が決められており、即ち、各支持層24のうち薄いところでは拡径部30の外径を小さくして小さな鉛直支持力を得て、支持層24の厚いところでは拡径部30の外径を大きくして大きな鉛直支持力を得ているので、地盤12が発揮する鉛直支持力Qを十分に引き出すことができる。これにより、多段拡径杭20として必要十分な鉛直支持力Qを得ることができる。
【0050】
また、本実施形態の多段拡径杭20は、各支持層24(24A、24B、24C)の厚さに合わせて各拡径部30(中間拡径部32、34、及び拡底部36)の外径が決められているので、必要以上に大きな拡径部を構築することがなくなり、従来例のように各拡径部の外径を同じにしているものに比べて杭体積が縮減される。これにより、多段拡径杭の施工費用が削減できるとともに、工期短縮及び建設副産物(杭施工時の発生汚泥など)の削減が可能となり、環境負荷低減を図ることが可能となる。
【0051】
さらに、拡底部36の外径は、中間拡径部32、34が負担する鉛直支持力と多段拡径杭20一本当りの鉛直支持力との差から求められるので、拡底部36が十分厚い支持層24Cに設けられる場合に、支持層24Cの応力伝播深さで拡底部36の外径を決めないので、拡底部36を必要以上に大きくすることがなくなる。これにより、費用削減及び工期短縮が可能となる。
【0052】
また、多段拡径杭20は、軸部28(28A、28B、28C)の外径が上下方向で等しくなっており、拡径部30のみ地盤12の層構成に合わせて外径を決定し、軸部28の外径は変化させないので、施工が容易となる。さらに、多段拡径杭20は、支持に必要な部分(少なくとも拡径部30の下面)だけ支持層24へ根入しているので、多段拡径杭20として効率的に鉛直支持力を得ることができる。
【0053】
また、建物10としては、多段拡径杭20の鉛直支持力が上がるだけでなく、支持層24の厚さに合わせて拡径部30の外径が決められているので、必要以上に大きな拡径部30を構築することがなくなり、従来例の多段拡径杭200(図7(a)参照)のように各拡径部210の外径を同じにしているものに比べて、施工費用を低減することができる。
【0054】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されない。
【0055】
多段拡径杭20の本数は、4本だけでなく2本以上の複数本であってもよい。また、中間拡径部の数は、実施形態に記載した2箇所だけでなく3箇所以上の複数箇所であってもよい。さらに、支持層24及び軟弱層22の層数は、2層以上の複数層あってもよい。
【0056】
また、支持層24の厚さによっては、中間拡径杭32の外径が中間拡径杭34の外径よりも大径であってもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 建物(構造物)
14 柱(躯体)
16 梁(躯体)
20 多段拡径杭
28 軸部
30 拡径部
32 中間拡径部(拡径部)
34 中間拡径部(拡径部)
34A 拡径部の下面
36 拡底部(拡径部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟弱層と軟弱層よりも硬い支持層とを含む複数の層を有する地盤に埋設される軸部と、前記軸部の軸方向の複数箇所に形成され前記軸部の外径よりも大径の拡径部と、を有する多段拡径杭であって、
複数の前記拡径部は、前記支持層に配置されるとともに前記支持層の厚さに合わせて外径が決められている多段拡径杭。
【請求項2】
前記拡径部の外径は、前記支持層の厚さが薄いところよりも厚いところの方が大きい請求項1に記載の多段拡径杭。
【請求項3】
前記拡径部は、前記軸部の下端に形成される拡底部と、前記軸部の中間に形成される中間拡径部と、で構成され、
前記拡底部の外径は、前記中間拡径部が負担する鉛直支持力と一本当りの鉛直支持力との差から求められる請求項1に記載の多段拡形杭。
【請求項4】
前記軸部の外径は、上下方向で等しい請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の多段拡径杭。
【請求項5】
少なくとも前記拡径部の下面が前記支持層に根入している請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の多段拡径杭。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の多段拡径杭と、
前記軸部の上に構築された躯体と、
を有する構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−174252(P2011−174252A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37739(P2010−37739)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】